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特表2022-548558置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法
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  • 特表-置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/00 20060101AFI20221114BHJP
   C07C 255/46 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 51/36 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 61/08 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 51/353 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 61/24 20060101ALI20221114BHJP
   C07C 51/09 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C07C253/00
C07C255/46
C07C51/36
C07C61/08
C07C51/353
C07C61/24
C07C51/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022515679
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2020075483
(87)【国際公開番号】W WO2021048364
(87)【国際公開日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】19196598.7
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ローラン, カロル
(72)【発明者】
【氏名】カルリエ, フアン-テラ
(72)【発明者】
【氏名】ギュレン, サイモン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC11
4H006AC46
4H006AC54
4H006BA18
4H006BA25
4H006BA26
4H006BB23
4H006BE20
4H006BJ20
4H006BS20
4H006QN00
(57)【要約】
置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法であって、以下の工程:対応する置換シクロヘキサンカルボン酸を塩化チオニルと反応させて対応する塩化アシルを製造する工程と、同時に又はその後に、その塩化物を溶媒としてのスルホラン中でスルホンアミドと反応させて置換シクロヘキサンカルボニトリルを製造する工程と、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法であって、以下の工程:
- 対応する置換シクロヘキサンカルボン酸を塩化チオニルと反応させて対応する塩化アシルを製造する工程と;同時に又はその後に
- 前記塩化物を溶媒としてのスルホラン中でスルホンアミドと反応させて前記置換シクロヘキサンカルボニトリルを製造する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記置換シクロヘキサンカルボン酸が、対応する置換シクロヘキセンカルボン酸の1つを、例えばNi、Pd又はPtをベースとする水素化触媒の存在下に水素ガスで水素化することによって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒がPtO2であり、前記水素化は溶媒としての氷酢酸中で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記置換シクロヘキセンカルボン酸が、触媒の存在下で対応する線状酸の環化によって得られる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記線状酸がゲラン酸であり、前記触媒がトルエン中のリン酸であり、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記置換シクロヘキセンカルボン酸が、ルイス酸触媒の存在下で共役ジエンと不飽和カルボン酸との間のディールスアルダー反応によって得られる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項7】
- 前記共役ジエンが2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、前記不飽和カルボン酸がメタクリル酸であり、前記ルイス酸触媒がBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、最終的にはその1,3,3,5異性体を含む1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキシルカルボニトリル(C11B)であるか、又は
- 前記共役ジエンが2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、前記不飽和カルボン酸がクロトン酸であり、前記ルイス酸触媒がBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、最終的にはその2,3,3,5-テトラメチル異性体を含む2,2,4,6-テトラメチルシクロヘキシルカルボニトリル(C11C)であるか、又は
- 前記共役ジエンが2,3-ジメチルブタ-1,3-ジエンであり、前記不飽和カルボン酸がチグリン酸であり、前記ルイス酸触媒がBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、1,2,4,5-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11D)の立体異性体の1つであるか、又は
- 前記共役ジエンが2,3-ジメチルブタ-1,3-ジエンであり、前記不飽和カルボン酸がアンゲリカ酸であり、前記ルイス酸触媒がBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、1,2,4,5-テトラメチルシクロヘキセンカルボニトリル(C11E)の別の立体異性体であるか、又は
- 前記共役ジエンが2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、前記不飽和カルボン酸がチグリン酸であり、前記ルイス酸触媒がBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、前記結果として生じる置換シクロヘキセンカルボニトリルが、1,2,3,3,5-ペンタメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C12A)である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記置換シクロヘキサンカルボン酸が、対応する置換シクロヘキサンエステルを加水分解することによって得られ、置換シクロヘキサンエステルは、対応する置換シクロヘキセンエステルを水素化触媒の存在下に水素ガスで水素化することによって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記置換シクロヘキサンエステルが、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボン酸エチルであり、前記置換シクロヘキセンエステルが、2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルであり、前記結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルが、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11A)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルが、以下の反応工程:
- アルカリ性媒体中で1-クロロ-3-メチル-2-ブテンでの3-オキソ-2-メチルブタン酸エチル(いわゆる2-メチルアセトアセテート)への二次求核置換反応(SN2)、及び化合物3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オンを与えるためのアルファ-ケト酸のその後の脱炭酸、
- 対応するエステル3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチルを形成するためのトリエチルホスホノアセテート及び水素化ナトリウムでの前記得られた3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オンに関するホーナー・ワズワース・エモンス(HWE)反応、
- 2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルを得るためのトルエン中のルイス酸触媒での又はリン酸での3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチルの環化
によって得られる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、置換シクロヘキサンカルボニトリル。
【請求項12】
式C11A、C11B、C11C、C11D、C11E又はC12Aを有する、置換シクロヘキサンカルボニトリル。
【請求項13】
以下の工程:
- アルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノン並びに非極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合物を含む作動溶液を水素化する工程と;
- 前記水素化された作動溶液を酸化して過酸化水素を生成する工程と;
- 前記過酸化水素を単離する工程と
を含む、過酸化水素水溶液の製造方法であって、
前記極性有機溶媒が、請求項11又は12に記載の置換シクロヘキサンカルボニトリルである、方法。
【請求項14】
前記方法は、100キロトン/年以下の過酸化水素の生産能力を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は、産業エンドユーザーの敷地内に設置されたプラントにおいて運転される、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法に、具体的な置換シクロヘキサンカルボニトリルに、及び過酸化水素水溶液の製造における溶媒としてのそれらの使用に関する。
【0002】
過酸化水素は、世界的に生産されている最も重要な無機化学薬品の1つである。その工業用途には、織物、パルプ及び紙の漂白、有機合成(プロピレンオキシド)、無機化学薬品及び洗浄の製造、環境並びに他の用途が含まれる。
【0003】
過酸化水素の合成は、アントラキノンループプロセス又はAO(自動酸化)プロセスとも呼ばれる、リードル-プフライデラー(Riedl-Pfleiderer)プロセス(当初、米国特許第2,158,525号明細書及び同第2,215,883号明細書に開示された)を用いることによって主として達成される。
この周知の循環プロセスは、典型的には少なくとも1種のアルキルアントラヒドロキノン及び/又は少なくとも1種のテトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン(ほとんどの場合、2-アルキルアントラキノン)の対応するアルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノンへの自動酸化を利用し、これは、過酸化水素の生成をもたらす。
【0004】
AOプロセスの第1工程は、水素ガス及び触媒を使用する、選択されたキノン(アルキルアントラキノン又はテトラヒドロアルキルアントラキノン)の対応するヒドロキノン(アルキルアントラヒドロキノン又はテトラヒドロアルキルアントラキノン)への有機溶媒(一般に溶媒の混合物)中での還元である。次いで、有機溶媒、ヒドロキノン及びキノン種の混合物(作動溶液、WS)は、触媒から分離され、ヒドロキノンは、酸素、空気又は酸素に富む空気を使用して酸化され、このようにしてキノンを再生し、それと同時に過酸化水素を形成する。最適な有機溶媒は、典型的には2種の溶媒の混合物であり、一方はキノン誘導体の良溶媒(一般的に非極性溶媒、例えば、芳香族化合物の混合物)であり、他方はヒドロキノン誘導体の良溶媒(一般的に極性溶媒、例えば、長鎖アルコール又はエステル)である。次いで、過酸化水素は、典型的には水で抽出され、粗過酸化水素水溶液の形態で回収され、キノンは、水素化装置に戻されて、ループを完成する。
【0005】
極性溶媒としてのジ-イソブチル-カルビノール(DIBC)の使用は、すなわち、本出願人の名義で欧州特許出願第529723号明細書、欧州特許出願第965562号明細書及び欧州特許出願第3052439号明細書に記載されている。非極性溶媒としてのブランドSolvesso(登録商標)-150(CAS番号64742-94-5)で販売される芳香族化合物の市販混合物の使用も、前記特許出願に記載されている。芳香族化合物のこの混合物は、供給業者に応じて、Caromax、Shellsol、A150、Hydrosol、Indusol、Solvantar、Solvarex等としても公知である。それは有利には、極性溶媒としてsextate(シクロヘキシル酢酸メチル)と組み合わせて使用することができる(すなわち米国特許第3,617,219号明細書を参照されたい)。
【0006】
AOプロセスのほとんどは、2-アミルアントラキノン(AQ)、2-ブチルアントラキノン(BQ)又は2-エチルアントラキノン(EQ)のいずれかを使用する。特にEQの場合、作動溶液の生産性は、ETQの還元形態(ETQH)の溶解性が無いことによって制限される。すなわち、このプロセスにおいてEQは、大部分が及び比較的迅速に、ETQ(対応するテトラヒドロアントラキノン)に変換される。事実上、ETQはETQHに水素化され、酸化後にH2O2をもたらす。生成したEQHの量は、ETQHに関して取るに足りない。それは、プロセスの生産性が、製造されるETQHの量に正比例することを意味する。EQの代わりにAQ又はBQを使用して実施するプロセスについても、理論は同じである。
【0007】
水素化キノンの溶解性問題は、先行技術から公知であり、それを解決するためにいくつかの試みが行われた。すなわち本出願人に対する同時係属中のPCT出願EP2019/056761号明細書には、極性溶媒として混合物中での非芳香族環状ニトリル型溶媒の使用、より具体的にはシクロヘキサンカルボニトリル、特に置換されたもの(ここでニトリル官能基は化学崩壊から保護される)の使用が開示されている。
【0008】
そのような溶媒の合成は、文献に報告されている。例えば、2,2,6-トリメチル-シクロヘキサンカルボニトリルは、ゲラン酸から出発してShiveら(JACS,1942,vol.64,pp.385-389)によって合成され、ゲラン酸は、先ず、ギ酸を使用して環化され(1);次いで、対応する飽和酸(2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボン酸)へと水素化され(2)、それは、次いで、塩化チオニルを使用して対応する塩化アシルに変換され(3)、次いで、アンモニアを使用して対応するアミドに変換され(4)、最後に、五酸化リンを使用する脱水によって対応するカルボニトリルに変換される(5)。
【0009】
この合成方法は、したがって、5つの反応工程を含む。本発明の背景にあるアイデアは、すなわち、塩化チオニル及びスルホラン中のスルホンアミドを使用して対応するカルボン酸から出発してシクロヘキサンカルボニトリルを直接合成することによって、工程の数を減らすことである。
【0010】
それ故、第1態様において、本発明は、置換シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法であって、以下の工程:
- 対応する置換シクロヘキサンカルボン酸を塩化チオニルと反応させて対応する塩化アシルを製造する工程と、同時に又はその後に、
- 塩化物を、溶媒としてのスルホラン中でスルホンアミドと反応させて置換シクロヘキサンカルボニトリルを製造する工程と
を含む、方法に関する。
【0011】
本発明によるシクロヘキサンカルボニトリルの炭素骨格上の置換基は、好ましくは、アルキル基、好ましくはメチル及び/又はエチル基である。好ましくは、ニトリルを保護するために、置換基として少なくとも2個のメチル基、より好ましくは少なくとも3個、最も好ましくは少なくとも4個のメチル基が存在する。別の代替案は、少なくとも1個のプロピル、ジエチル、メチルイソプロピル、ブチル、t-ブチルを使用することであり、後者が好ましい。炭化水素環に結合した置換基は、好ましくは、ニトリル官能基を保護するためにニトリル官能基に近い、典型的には1位、2位及び/又は6位にある。
【0012】
置換シクロヘキサンカルボン酸は、好ましくは、例えばNi,Pd又はPtをベースとする水素化触媒の存在下に水素ガスで対応する置換シクロヘキセンカルボン酸のものを水素化することによって得られる。これらの金属触媒のそれぞれは、好ましくは、特別の方法で及び/又は所与の形態で調製される:
- ニッケルは、「ラネーニッケル」と呼ばれる微粉化された形態で通常使用され、それは、Ni-Al合金をNaOHと反応させることによって調製され;
- パラジウムは、チャコールなどの、不活性物質上に「担持されて」(すなわち、Pd/C触媒のように)商業的に一般に入手され、エタノールがこの場合に溶媒として一般に選択され;
- 白金は、それが触媒である実際には白金金属であるが、アダムス触媒とも呼ばれる、PtO2として一般に使用され;炭素-炭素二重結合に付加するために使用される水素は、また、酸化白金(IV)を還元して微粉化された白金金属にする。エタノール又は酢酸が、この触媒で溶媒として一般に使用される。
【0013】
良好な結果は、触媒としてPtO2(すなわち、アダムス触媒)及び溶媒として酢酸(好ましくは氷酢酸)を使って本発明の枠組みで得られる。水素化は、好ましくは、周囲~100℃、好ましくは30~80℃、より好ましくは40~60℃の温度で行われ、実際には約50℃の温度が良好な結果を与える。水素化は、好ましくは、大気圧~20バールの圧力で行われ、置換度が高ければ高いほど、圧力は高くなる。用いられる濃度(重量単位での)は、溶媒中の好ましくは10~50%の有機化合物、より好ましくは溶媒中の20~30%の有機化合物であり、良好な結果は、溶媒中の25%の有機化合物で得られる。
【0014】
本発明の第1実施形態において、出発置換シクロヘキセンカルボン酸は、最終的にはトルエン中のリン酸、又はBF3-エーテラートのような触媒の存在下で、対応する線状酸の環化によって得られる。触媒がトルエン中のリン酸である場合、良好な結果は、5~100モル%濃度のリン酸、より好ましくは10~50モル濃度のリン酸で得られ、約20モル%濃度が実際には良好な結果を与える。この反応は、好ましくは、大気圧でトルエンの還流温度(110℃)で行われる。
【0015】
良好な結果は、この実施形態について、線状酸がゲラン酸であり、触媒がトルエン中のリン酸である場合に得られ、結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A)である。
【0016】
第2実施形態において、出発置換シクロヘキセンカルボン酸は、好ましくはTHFのような溶媒中で、ZnCl2、BF3、BCl3、BoB(Ac)4(テトラアセチルジボレート)、SnCl4、AlCl3、TiCl4、TiCl2-イソプロポキシド及びイッテルビウムトリクロリド、トリフレート又はトリフラミドのような希土類誘導体などのルイス酸触媒の存在下での共役ジエンと不飽和カルボン酸との間のディールスアルダー(Diels-Alder)反応によって得られる。ディールスアルダー反応は、単に熱活性化によって起こり得るが、ルイス酸触媒は、より短い反応時間で及び異なる位置選択性で、低温で、すなわち、いかなる熱活性化もなしに、それらが進行するのを可能にする。
【0017】
第1サブ実施形態において、共役ジエンは2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、不飽和カルボン酸はメタクリル酸であり、ルイス酸触媒はBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、所要の結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11B)である。実際には、異性体の混合物を得ることができ、これ故に、1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリルに加えて、1,3,3,5異性体を含む。
【0018】
第2サブ実施形態において、共役ジエンは2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、不飽和カルボン酸はクロトン酸であり、ルイス酸触媒はBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、所望の結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、2,2,4,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11C)である。実際には、異性体の混合物を得ることができ、これ故に、2,2,4,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリルに加えて、2,3,3,5異性体を含む。
【0019】
第3サブ実施形態において、共役ジエンは2,3-ジメチルブタ-1,3-ジエン、不飽和カルボン酸はチグリン酸であり、ルイス酸触媒はBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、1,2,4,5-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11D)の立体異性体の1つである。
【0020】
第4サブ実施形態において、共役ジエンは2,3-ジメチルブタ-1,3-ジエンであり、不飽和カルボン酸はアンゲリカ酸であり、ルイス酸触媒はBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、1,2,4,5-テトラメチルシクロヘキセンカルボニトリル(C11E)の別の立体異性体である。
【0021】
第5サブ実施形態において、共役ジエンは2,4-ジメチルペンタ-1,3-ジエンであり、不飽和カルボン酸はチグリン酸であり、ルイス酸はBoB(Ac)4であり、THFが溶媒として使用され、結果として生じる置換シクロヘキセンカルボニトリルは、1,2,3,3,5-ペンタメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C12A)である。
【0022】
反応は、好ましくは、20℃~100℃、より好ましくは40℃~60℃、約50℃で実施され、約50℃の温度が、実際には良好な結果を与える。使用される触媒は、好ましくは、1~50モル%濃度、より好ましくは5~15モル%濃度にあり、約10モル%濃度が、実際には良好な結果を与える。使用される溶媒による希釈は、好ましくは5~50重量%、より好ましくは10~30重量%であり、約20重量%が、実際には良好な結果を与える。
【0023】
置換シクロヘキサンカルボン酸は、また、対応する置換シクロヘキサンエステルを加水分解することによって得ることができ、シクロヘキサンエステルは、例えば、対応するシクロヘキセンエステルを、好ましくは上で記載されたような水素化触媒の存在下に水素ガスで水素化することによって得ることができる。
【0024】
一実施形態において、置換シクロヘキサンエステルは、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボン酸エチルであり、置換クロヘキセンエステルは、2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルであり、結果として生じる置換シクロヘキサンカルボニトリルは、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11A)である。2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルを得るための可能な反応工程は、下記である:
- 二次求核置換反応(SN2)が、アルカリ性媒体中で1-クロロ-3-メチル-2-ブテンで3-オキソ-2-メチルブタン酸エチル(いわゆる2-メチルアセトアセテート)に関して実施される。そのような条件において、鹸化が起こり、β-ケト酸のその後の脱炭酸は、化合物3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オンを提供する。
- ホーナー・ワズワース・エモンス(Horner-Wadsworth-Emmons)(HWE)反応が、対応するエステル3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチルを形成するためにトリエチルホスホノアセテート及び水素化ナトリウムを使って3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オンに関して実施される
- 2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エンカルボン酸エチルを得るための(上で記載されたような)トルエン中のルイス酸触媒での又はリン酸での3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチルの環化。
【0025】
本発明はまた、上に記載されたプロセスによって得ることができる具体的な置換シクロヘキサンカルボニトリル、すなわち、上で記載されたような化合物C11A、C11B、C11C、C11D、C11E及びC12Aに関する。これらの化合物の合成は未だ文献に報告されておらず、それらのC10同族体(それらは公知であり、本出願人に対する上述の同時係属PCT出願を参照されたい)と比較され、それらは、水素化キノン溶解性の観点からより良好な結果を与え、水によってはほとんど抽出不可能であり、これ故に、最終過酸化水素溶液中により少ないTOCをもたらす。
【0026】
最後に、本発明はまた、過酸化水素水溶液の製造方法における、極性有機溶媒としてのこれらの新規化合物の使用にも関する。より具体的には、以下の工程:
- アルキルアントラキノン及び/又はテトラヒドロアルキルアントラキノン並びに非極性有機溶媒と極性有機溶媒との混合物を含む作動溶液を水素化する工程と;
- 水素化された作動溶液を酸化して過酸化水素を生成する工程と;
- 過酸化水素を単離する工程と
を含み、
極性有機溶媒が、上で記載されたようなプロセスによって得られる及び/又は上で記載されたような式C11A、C11B、C11C、C11D、C11E若しくはC12Aを有する、
方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】シクロヘキサンカルボニトリル誘導体の試験結果。
【0028】
用語「アルキルアントラキノン」は、少なくとも1個の炭素原子を含む線状若しくは分岐脂肪族型の少なくとも1個のアルキル側鎖で1、2又は3位において置換された9,10-アントラキノンを意味することを意図する。通常、これらのアルキル鎖は、9個未満の炭素原子、好ましくは7個未満の炭素原子を含む。そのようなアルキルアントラキノン類の例は、2-エチルアントラキノン(EQ)のようなエチルアントラキノン、2-プロピルアントラキノン、2-sec-及び2-tert-ブチルアントラキノン(BQ)、1,3-、2,3-、1,4-及び2,7-ジメチルアトラキノン、2-イソ-アミル及び2-tert-アミルアントラキノンのようなアミルアントラキノン(AQ)並びにこれらのキノンの混合物である。
【0029】
用語「テトラヒドロアルキルアントラヒドロキノン」は、上で明記された9,10-アルキルアントラキノン類に対応する9,10-テトラヒドロヒドロキノン類を意味することを意図する。これ故に、EQ及びAQに関して、それらはそれぞれETQ及びATQで表され、還元形態(テトラヒドロアルキルアントラキノン)はそれぞれ、ETQH及びATQHである。
【0030】
好ましくは、AQ又はEQが使用され、後者が好ましい。
【0031】
キノンも可溶化することができるように、溶媒混合物の極性は、好ましくは高すぎない。これ故に、有機溶媒混合物中に好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも40重量%の非極性溶媒が存在する。一般に、80重量%以下のこの非極性溶媒、好ましくは60重量%以下のそれが有機溶媒混合物中に存在する。
【0032】
非極性溶媒は、好ましくは、芳香族溶媒又は芳香族溶媒の混合物である。芳香族溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、tert-ブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ナフタレン、ポリアルキル化ベンゼンのメチルナフタレン混合物、及びそれらの混合物から選択される。Solvesso(登録商標)シリーズからのタイプ150(又は他の供給業者からの同等品)の市販の芳香族炭化水素溶媒が良好な結果を与える。S-150(Solvesso(登録商標)-150;CAS番号64742-94-5)は、多くの工業用途における、特にプロセス流体としての使用のためにそれらを優れたものにする、高い溶解力及び制御された蒸発特性を提供する高芳香性の芳香族溶媒として公知である。Solvesso(登録商標)芳香族炭化水素は、様々な揮発性の、例えば165~181℃の、182~207℃又は232-295℃の蒸留範囲の3つの沸騰範囲で入手可能である。それらは、また、還元されたナフタレン又は超低ナフタレングレードとして入手され得る。Solvesso(登録商標)150(S-150)は、以下の通り特徴付けられる:182~207℃の蒸留範囲;64℃の引火点点;99重量%超の芳香族含量;15℃のアニリン点;15℃で0.900の密度;及び5.3の蒸発速度(nButAc=100)。
【0033】
上で説明されたように、水素化反応は、触媒(例えば本出願人名義の国際公開第2015/049327号パンフレットの一物体のような)の存在下で、及び例えば、また本出願人名義の国際公開第2010/139728号パンフレットに記載されているように行われる(両参考文の内容は、本出願に参照により援用される)。典型的には、水素化は、少なくとも45℃、好ましくは120℃以下、より好ましくは95℃以下の温度で、又はわずか80℃以下の温度でも行われる。また典型的には、水素化は、0.2~5バールの圧力で行われる。水素は、典型的には、生成する過酸化水素の1トン当たり650~750ノルマルm3の割合で容器へ供給される。
【0034】
酸化工程は、AOプロセスに関して公知であるような従来方式で行われ得る。アントラキノン循環プロセスのために公知の典型的な酸化反応器を、酸化に用いることができる。酸素含有ガス及び作動溶液が並流で又は対向流で通過する気泡反応器が頻繁に用いられる。気泡反応器は、内部デバイスを含まないか又は好ましくはパッキン若しくは篩板の形態での内部デバイスを含有することができる。酸化は、30~70℃の範囲の温度で、好ましくは40~60℃で行うことができる。酸化は、普通は過剰の酸素を使って行われ、その結果、好ましくは90%超、特に95%超の、ヒドロキノン形態で作動溶液中に含有されるアルキルアントラヒドロキノンは、キノン形態に変換される。
【0035】
酸化の後、精製工程中に、形成された過酸化水素は、例えば水を使用する、抽出工程によって一般に、作動溶液から分離され、その過酸化水素は、粗過酸化水素水溶液の形態で回収される。抽出工程から出る作動溶液は、次いで、最終的には処理された/再生された後に、過酸化水素生産サイクルを再開するために水素化工程へリサイクルされる。
【0036】
好ましい実施形態において、その抽出後に、粗過酸化水素水溶液は、所望のレベルで不純物の含量を低減するために必要に応じて数回、すなわち、少なくとも2回引き続いて又は更により多くの回数洗浄される。
【0037】
用語「洗浄」は、過酸化水素水溶液中の不純物の含量を低減することを意図する有機溶媒での粗過酸化水素水溶液の、(例えば、英国特許第841323A号明細書、1956(Laporte)に開示されているように)化学工業において周知である、任意の処理を意味することを意図する。この洗浄は、例えば、遠心抽出器又は例えば向流式で動作する、液/液抽出カラムなどの装置において有機溶媒を用いて、粗過酸化水素水溶液中の不純物を抽出することに存することができる。液/液抽出カラムが、好ましい。液/液抽出カラムの中で、ランダム若しくは構造化パッキン(例えばPallリングのような)又は有孔プレートを持ったカラムが好ましい。前者がとりわけ好ましい。
【0038】
好ましい実施形態において、所与の金属の含量を低減するために、キレート剤を洗浄溶媒に添加することができる。例えば、有機リンキレート剤を、本出願人名義の上記表題の特許出願欧州特許出願第3052439号明細書に記載されているような有機溶媒に添加することができ、その特許出願の内容は、本出願に参照により援用される。
【0039】
表現「粗過酸化水素水溶液」は、過酸化水素合成工程から若しくは過酸化水素抽出工程から又は貯蔵ユニットから直接に得られる溶液を意味することを意図する。粗過酸化水素水溶液は、本発明のプロセスによる洗浄操作の前に1回以上の処理を受けて不純物を分離除去することができる。それは、典型的には、30~50重量%の範囲内のH2O2濃度を有する。
【0040】
本発明の溶媒は、より高い溶解性を達成することを可能にし、こうして、より高い分配係数を達成するために必要とされる極性溶媒はより少なくなる。このより高い分配係数で、抽出セクターに必要とされる資本支出(capex)(資本支出(capital expenditure))を減らすことが可能である。
【0041】
本発明の溶媒は、AO-プロセスによる過酸化水素の製造に特に好適であり、ここで、前記プロセスは、100キロトン/年(ktpa)以下の過酸化水素の生産能力を有する。好ましくは、前記プロセスは、50キロトン/年(ktpa)以下の過酸化水素の生産能力で、より好ましくは35キロトン/年(ktpa)以下の過酸化水素の生産能力で、特に20キロトン/年(ktpa)以下の過酸化水素の生産能力で運転される小~中規模AOプロセスである。大きさktpa(1年につきキロトン)は、メートルトンに関係する。
【0042】
そのような小~中規模AOプロセスの特定の利点は、任意の、遠く離れていても、産業エンドユーザーの敷地内に設置され得るプラントにおいて過酸化水素を製造できることであり、本発明の溶媒は、それ故とりわけ好適である。それは、すなわち、それらの分配係数がより有利であるので、先行技術から公知の溶媒が使用される場合と比較して少ないエマルションがプロセスにおいて観察され、より純粋な(すなわち、より少ないTOCを含有する)H2O2溶液を得ることができ、これがより長い期間であるように、である。
【0043】
本発明の好ましいサブ実施形態において、作動溶液は、品質管理の結果に基づいて、連続的にか又は断続的にかのどちらかで再生され、再生は、エポキシ又はアントロン誘導体のような、ある種の分解物を有用なキノンに変換して戻すことを意味する。ここでまた、本発明の溶媒は、H2O2溶液の品質が、より長い期間規格内にすなわちTOCの観点から維持できるので有利である。
【0044】
以下の実施例は、本発明のいくつかの好ましい実施形態を例示する。
【0045】
実施例1:2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A)の合成
工程1
機械撹拌、窒素到着(nitrogen arrival)に連結された冷却器、温度プローブ及び添加漏斗を備えた6Lの二重外套付き反応器に、トルエン(3L、3容積)、ゲラン酸(1Kg、1030mL、5.05モル、1当量)及び更なるトルエン(1L、1容積)を添加した。黄色溶液を110℃に加熱し、次いでH3PO4(85%純度、103.7mL、174.7g、1.52モル、0.3当量)を添加した。次いで、橙褐色溶液を110℃で6h撹拌した(NMRモニタリング)。反応混合物を20℃に冷却し、ブライン溶液(376gのNaClを含有する2L)で中和した。中和及びデカンテーション後に、有機相を水(1L)で洗浄し、減圧下で濃縮して最終生成物を白色固体として得た。いくつかのケースで、余りにも多くの出発原料が残っている場合には、rt(室温)でのヘキサン(2容積)中のスラリー、これに続く濾過は、純粋な所望の生成物を白色固体として与えた。
【0046】
74%のNMR純度(内部標準物質としてのα,α,α-トリフルオロトルエン)のシクロヘキセンカルボン酸中間体に対応する832gの白色固体が得られた。
【0047】
工程2
H2及びN2入口、機械撹拌及び冷却器を備えた1Lの二重外套付き反応器に、シクロヘキセンカルボン酸中間体(230g、1.35モル、1当量)、PtO2(3.11g、0.014モル、0.01当量)及び酢酸(604g、575mL、2.5容積)を添加した。反応混合物をrtで撹拌し、連続的なH2流れ(1バール)を1h反応器に送った。次いで、混合物をあと1時間50℃に加熱した。次いで、反応混合物を20℃に冷却し、真空下で濃縮して所望の生成物を無色油として得、それは、時間と共に白色固体へと結晶化した。
【0048】
88.8%のNMR純度(内部標準物質としてのトリフルオロトルエン)のシクロヘキサンカルボン酸中間体に対応する、時間と共に白色固体へと結晶化した240gの無色油が得られた。
【0049】
工程3
機械撹拌、導入ポンプ、及びNaOH 15%で満たされたスクラバーに連結された冷却器を備えた3Lの二重外套付き反応器に、シクロヘキサンカルボン酸中間体(500.60g、2.94モル、1当量)を添加した。生成物を50℃に加熱し、次いでSOCl2(371g、227mL、3.08モル、1.05当量)を、1時間にわたってポンプによって滴加し、その間HClが脱ガスし、スクラバーによって捕捉された。反応混合物を80℃で1時間撹拌し、次いで130℃に加熱し、その間にスルホラン(568g、450mL、0.9容積)を混合物に添加した。並行して、別の1Lの二重外套付き反応器において、スルホラン(1388g、1100mL、2.2容積)中のスルホンアミド溶液(342g、3.52モル、1.2当量)を調製し、50℃で加熱した。次いで、この溶液を、130℃で1時間にわたって反応混合物に添加ポンプによって滴加した。混合物を130℃で2h撹拌し、次いで20℃に冷却し、NaOH 20%溶液(764g、3.82モル、1.3当量)でクエンチした。6Lの反応器中で、混合物を水(750g)で希釈し、混合物ヘキサン/MTBE 3/2で3回(3*1000mL)抽出した。組み合わせた有機相を水で3回洗浄し(3*1400g)、真空下で濃縮して暗橙色液体(388g、83.9%収率)を得た。3つのシアン化回分の粗生成物を一緒に真空蒸留(90℃、10ミリバール)によって精製して純粋な所望の生成物を得た。
【0050】
その異性体と共に99%超のGC純度(面積)のC10A溶媒(2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A))に対応する830gの無色液体が得られた。
【0051】
実施例2:2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボニトリル(C11A)の合成
工程1
10Lの反応器中で、2-メチルアセトアセテート(3.2モル:455g)を無水エタノール(3.5L)に希釈し、その後ナトリウムエタノレート(1.05当量:224g)を不活性雰囲気下で30分の期間にわたって添加する。次いで、反応媒体を25℃で1h機械的に撹拌し、その後-10℃に冷却する。1Lの無水エタノールに希釈された1-クロロ-3-メチル-2-ブテン(1.05当量:104.5g)の溶液を添加する。反応媒体を周囲温度にし、一晩攪拌する。セライトを通して反応媒体を濾過し、減圧下で濃縮し、黄色油の形態で単離された、2-アセチル-2,5-ジメチルヘキサ-4-エン酸エチルをもたらす(収量:定量的)。
【0052】
工程2
10Lの反応器中で、47%の水酸化カリウム水溶液(2L)を水(2L)及びエタノール(2L)で希釈する。2-アセチル-2,5-ジメチルヘキサ-4-エン酸エチル(2.8モル:600g)を添加し、反応混合物を6h還流する。冷却後に、反応媒体をシクロヘキサン(2L)で希釈し、18%の塩化ナトリウム溶液(2L)を添加する。水相をシクロヘキサン(2L)で抽出し、組み合わせた有機相を、引き続いて、18%のNaCl(2L)、7のpHに達するまで3.5%のHClの溶液(500mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。粗反応生成物を、最後に、減圧下での蒸留(15バール、65℃)によって精製し、無色油の形態での単離された3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オンをもたらす(2工程にわたっての収率:60%)。
【0053】
工程3
10Lの反応器中で、トリエチルホスフィノアセテート(1.1当量:423g)をTHF(3.5L)に希釈する。溶液を-10℃に冷却し、その後油に希釈された60%NaH(1.2当量:83g)を30分の期間にわたって添加する。THF(300mL)に希釈された3,6-ジメチルヘプタ-5-エン-2-オン 1(1.7モル:240g)の溶液を添加し、反応媒体を室温にし、一晩機械的に撹拌する。18%のNaClの溶液(2L)及びシクロヘキサン(2L)を反応媒体に添加する。水相をシクロヘキサン(1L)で抽出し、組み合わせた有機相を、引き続いて、18%のNaCl溶液で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。粗反応媒体を、最後に、シリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィー(溶離液:シクロヘキサン/MTBE 100%→93-7%)によって精製して、減圧下での蒸発後に、黄色油として単離される(Z/E)3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチルを生成し(収率:84%);この生成物は、プロトンNMRによって特徴決定した。
【0054】
工程4
10L反応器中で、三フッ化ホウ素エーテラート(1.27当量:416g)をトルエン(3L)に希釈する。トルエン(1L)に希釈された(Z/E)3,4,7-トリメチルオクタ-2,6-ジエン酸エチル(2.3モル:486g)の溶液を添加する。反応媒体を50℃で2h加熱し、その後別の10L反応器において氷水でクエンチする。第1反応器をきれいにするために使用されたトルエン(500ml)を反応媒体に添加する。18%のNaClの溶液(500mL)及びMTBE(500mL)、並びにトルエン(500mL)を添加して反応媒体を濁りのより少ないものにする。水相を分離し、有機相を18%のNaCl溶液(1.5L)で洗浄する。組み合わせた水相をMTBE(500mL)で抽出し、組み合わせた有機相を、引き続いて、26%のNaCl溶液(3L)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮する。粗反応生成物を、最後に、減圧下での蒸留(3ミリバール、75~77℃)によって精製し、無色油の形態で単離された2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エン-1-カルボン酸エチルをもたらし(収率:91%);この生成物は、プロトンNMR及び質量分析法によって特徴決定した。
【0055】
工程5
1Lオートクレーブ中で、二酸化白金(0.04当量:5g)を、酢酸(500mL)に希釈された2,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサ-2-エン-1-カルボン酸エチル(0.52モル:110g)に添加する。反応媒体を11バールの一定圧力のH2下に8h置き、濾過し、減圧下で濃縮する。次いで、溶液をMTBE(150mL)に希釈し、引き続いて、水(50mL)、26%のNaCl溶液(2×50mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮して、無色油として単離された2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸エチルをもたらし(収率:93%);生成物は、プロトンNMRによって特徴決定した。
【0056】
工程6
1Lのオートクレーブ中で、水酸化カリウム(5.2当量:185.5g)を、メタノール(400mL)に希釈された2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸エチル(0.64モル:135g)の溶液に添加する。反応媒体を175℃(約14バール)に加熱し、6h30分間撹拌する。反応混合物を減圧下で濃縮し、その後水酸化ナトリウムを水(75ml)に溶解させる。氷水を媒体に添加し、36%のHClを添加することによって酸性化する。水相を酢酸エチル(2×250mL)で抽出し、組み合わせた有機相を、引き続いて、26%のNaCl溶液(100mL)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮し、黄色油として単離された2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸をもたらし(収率:97%);生成物は、プロトンIR分光法及び質量分析法によって特徴決定した。
【0057】
工程7
1Lのフラスコ中で、塩化チオニル(1.24当量:187.6g)を、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボン酸(1.27モル:234g)に添加する。)。スクラバーを備えた、反応媒体を1時間撹拌し、その後もう1時間還流する。冷却後に、反応媒体を減圧下で濃縮して過剰の塩化チオニルを蒸発させる。粗反応媒体を、最後に、減圧下での蒸留(145ミリバール、163℃)によって精製し、無色油の形態で単離された2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルバモイルクロリドをもたらし(収率:90%);生成物は、プロトンNMR及び質量分析法によって特徴決定した。
【0058】
工程8
1Lのフラスコ中で、スルホンアミド(1.2当量:85.5g)を、不活性雰囲気下で、スルホラン(400mL)に希釈された2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボニルクロリド(0.74モル:150g)に添加する。反応媒体を3h機械撹拌しながら180℃で加熱し、その後0.7Mの水酸化ナトリウム(3.5L)でクエンチし、ブライン(26%の塩化ナトリウム溶液)(300ml)を添加する。水相をヘキサン-MTBE(3:2)(5×500ml)で抽出し、組み合わせた有機相を、引き続いて、水(4×1L)で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮する。粗反応生成物を、最後に、減圧下での蒸留(7ミリバール、86~87℃)によって精製し、無色油の形態での単離された2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボニトリルC11Aをもたらす(収率:87程度%)。生成物は、プロトンNMR及び質量分析法によって特徴決定した。
【0059】
実施例3:2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11A)の合成
工程1~6は、実施例2のそれらに同一であるが、工程7及び8は、以下のように単一のワンポット合成に再編成した:
1Lのフラスコ中で、塩化チオニル(1.24当量:187.6g)を2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸(1.27モル:234g)に添加する。)。スクラバーを備えた、反応媒体を1時間攪拌し、その後加熱する。
【0060】
次いで、スルホランでの希釈(実施例2におけるのと同じ濃度)、スルファミドの導入(実施例2におけるのと同じ量)、及び全ての反応工程を実施例2におけるように正確に行う。反応媒体の濃縮後に、84モル%の物質収支での液体が得られ、その構造は、NMR分析によって確認した。
【0061】
実施例4:1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11B)の合成
工程1:ディールスアルダー反応
機械撹拌機及び冷却器を備えた3口フラスコに、50gのBoB(Ac)4(182ミリモル)及び147gのメタクリル酸(1.7モル)を導入した。
溶解後に、媒体を600mlの乾燥THFで希釈し、150gの2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン(1.56モル)を添加した。全体を16hの間ずっと60℃で加熱し、次いで、溶媒を真空下で蒸発させた。
500mlの水を添加して触媒(BoB(Ac)4)を加水分解し、次いで水相を酢酸エチル(4×200ml)で抽出した。
有機相を20mlのNaCl溶液(26%)で洗浄し、次いで硫酸マグネシウム上で乾燥させ、真空下で濃縮した。
240gの固体が得られた。
この固体を1Lの石油エーテルに溶解させ/懸濁させ、還流した。
次いで、それを室温まで放冷し、一晩5℃で置いて結晶化を終えた。
次いで、それを濾過して、NMR分析によって証明されるように170gの1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサ-3-エンカルボン酸及びその1,3,3,5異性体(比率3/1で)を得た。
【0062】
工程2:水素化
2Lの外套付き反応器に、165gの1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサ-3-エンカルボン酸(0.9モル)を導入し、次いで、800mlの氷酢酸で希釈した。
10gの酸化白金を添加し、窒素を循環させて雰囲気をパージした。
次いで、1500RPMで撹拌し、及び質量流量計でH2消費をモニターしながら、わずかな過圧(100ミリバール)のH2を適用した。
1.5h後に、水素消費がもはや観察されず、したがって反応器を15分間窒素でパージした。
次いで、反応媒体を濾過し、溶媒を蒸発させ、フィルター残渣を750mlの酢酸エチルに溶解させ、有機相を250mlの水及び2×250mlの26%のNaClで洗浄した。
乾燥後に、158gの油が得られ、それは、NMR分析によって1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキシルカルボン酸及びその1,3,3,5異性体(比率3/1での)であることが分かった(精製は必要なし)。
【0063】
工程3:塩素化
熱電対、冷却器を備えた及び不活性雰囲気下の3口の1Lフラスコに、150gの1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサンカルボン酸を導入し、1.2当量(1.03モル)の塩化チオニルを添加した。(143g)。
冷却器の出口に、窒素下の保護容器、続いてトラップ(15%のNaOH)を配置して、撹拌しながら放出されるHClを捕捉した。
2、3分後に、著しい脱ガスと共に、(媒体5℃での)吸熱が観察された。
次いで、媒体を1時間わずかな還流まで約75℃(塩化チオニルの還流)で加熱した。
得られた生成物を先ず大気圧で蒸留して残った塩化チオニルを除去し、次いで塩化物を141℃/60ミリバールで単離した。
151gのわずかに黄色の液体が得られた(収率86% 1,2,2,4-及び1,3,3,5-テトラメチルシクロヘキサンカルボニルクロリドで)。
【0064】
工程4:シアン化
機械撹拌付きの及び不活性雰囲気下の2口の2Lフラスコに、125gのスルホンアミド(1.3モル)を導入した。
次いで、それを、前もって40℃で融解させた1Lのスルホランで希釈した。
200gの1,2,2,4-及び1,3,3,5-テトラメチルシクロヘキサンカルボニルクロリド(約1モル)を30分間で撹拌しながら添加した。
次いで、それを4h140℃で加熱した(転化をGCによって追跡した)。
媒体を冷却し、次いでNaOH 100g/5Lの水の溶液に注ぎ込んだ。
有機相を4×lのシクロヘキサン/MTBE混合物(2/1)に抽出した。
有機相を組み合わせ、3×500mlの水及び500mlの26%のNaClで洗浄した。
粗反応媒体を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、その後濃縮して蒸留前の油(170g)を得た。
77~79℃/5ミリバールでの蒸留は、160gの1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11B)及びその1,3,3,5異性体を与えた。
【0065】
実施例5:異なる溶媒混合物中での水素化キノンの溶解度試験
QH溶解度の測定は、合成EQ/ETQ作動溶液に関して行った。試験溶媒中に混合されたこれらのキノン類を固定レベルまで水素化し、引き続いて、測定の前に3つの異なる温度に冷却した(各測定間にシステムを安定させるために最低3時間)。これらの試験のために適用された条件は、以下のとおりであった:
・ EQ濃度 100g/kg
・ ETQ濃度 140g/kg
・ 極性溶媒 可変(*)
・ 水素化のレベル 10.8Nl H2/kg WS(WSの1kg当たり約116gのQH又はWSの1kg当たり16.3gのH2O2のTL(試験レベル)(=全QHが溶解した場合にTLの最大理論値))
・ 水素化の温度 75℃
・ 沈澱の温度 QHが測定される温度として表1に示される
(*)試験された極性溶媒は、sextate、デカンニトリル、2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A)、2,2,5,6-テトラメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C11A)及び1,2,2,4-テトラメチルシクロヘキシルカルボニトリル(C11B)であった。それらは、得られた結果をも示す、添付の表1、表1-2、表2及び図1に示される比率でのS-150との混合物で使用された。この図において、Kbは、水と作動溶液(キノン類及び有機溶媒の混合物)との間の過酸化水素の重量分配係数を表す。それは、次式:
Kb=(g H2O2/kg水相)/(g H2O2/kg有機相)
を用いて計算される。
【0066】
表及び図1は、デカンニトリルのような線状ニトリルと対比してシクロヘキサンカルボニトリル構造物の、とりわけ、それぞれ77%及び70%の比率で使用される場合に、60℃でQHの完全溶解性を(及びこれ故に、上で計算されるような16.3のTLを)もたらしさえする溶媒C11A及びC11Bの非常に高い可能性を実証する。
【0067】
溶媒混合物への水素化キノン(QH)の最大溶解度は、作動溶液の生産性に直接相関している。QH溶解度が高ければ高いほど、WSの1kg当たり達成可能な過酸化水素の理論量(生産性)はより高くなるであろう。表1において用語「…で測定された試験レベル(gH2O2/WSのkg)」で表される、これらの理論値は、以下の通り計算した。
【0068】
WSの1kg当たり1モル(240g)のETQH(実際は我々の実施例ではQHである)は、WSの1kg当たり1モル(34g)のH2O2を生成するであろう。これ故に、我々の実施例での試験レベルは、34*QH/240に等しい。
【0069】
再び、2,2,6-トリメチルシクロヘキサンカルボニトリル(C10A)で得られた値は、sextate又はデカンニトリルのような線状ニトリルで、及び溶媒C11Aでよりもはるかに高く(実際にはほとんど2倍)、それらは実に、最大理論値に達する。
【0070】
添付の表2は、また、溶媒C11A及びC11Bが、溶媒C10AよりもH2O2に少なく溶け(得られたH2O2中のTOCのより低いレベルで示されるように)、これ故に、H2O2のより高い純度レベルに達することを可能にすることを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
図1
【国際調査報告】