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特表2022-548686グラフェン材料で被覆された鉄系粒子を有する複合粉末
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  • 特表-グラフェン材料で被覆された鉄系粒子を有する複合粉末 図1
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  • 特表-グラフェン材料で被覆された鉄系粒子を有する複合粉末 図7a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】グラフェン材料で被覆された鉄系粒子を有する複合粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20221114BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20221114BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20221114BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20221114BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20221114BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20221114BHJP
【FI】
B22F1/16
B22F10/34
B22F1/052
C23C26/00 C
C01B32/194
C01B32/198
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517361
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(85)【翻訳文提出日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 SE2020050870
(87)【国際公開番号】W WO2021054887
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】1951052-8
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520088638
【氏名又は名称】グラフマテック・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ヤンソン,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ティーデン,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ターエル,マモウン
(72)【発明者】
【氏名】ディアス,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】レモネン,トミ
【テーマコード(参考)】
4G146
4K018
4K044
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146CB10
4G146CB17
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA13
4K018BA17
4K018BB04
4K018BC28
4K018BC29
4K018BD10
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K044AA02
4K044AA03
4K044AB01
4K044BA18
4K044BB01
4K044BC01
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、グラフェン被覆鉄系粒子およびそれを製造する方法に関する。粉末冶金プロセスおよび付加製造プロセスに好適であり、グラフェン系材料のコーティングを有する鉄系材料の粒子を含み、グラフェン系材料の濃度が0.1wt%~1.0wt%の間である、複合粉末が提供される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末冶金プロセスおよび付加製造プロセスに好適な複合粉末であって、鉄系材料のコアおよびグラフェン系材料のコーティングを有する粒子を含み、グラフェン系材料の濃度が0.1wt%~1.0wt%の間であることを特徴とする、複合粉末。
【請求項2】
グラフェン系材料の濃度が、0.1wt%~0.95wt%の間、さらにより好ましくは0.1wt%~0.5wt%の間である、請求項1に記載の複合粉末。
【請求項3】
粒子の鉄系材料が純鉄である、請求項1に記載の複合粉末。
【請求項4】
粒子の鉄系粒子材料がステンレス鋼である、請求項1に記載の複合粉末。
【請求項5】
鉄系材料のコアが、粒子の過半数が1~100μmの範囲にある粒度分布を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項6】
鉄系材料のコアが、粒子の過半数は1~50μmの範囲にある粒度分布を有する、請求項5に記載の複合粉末。
【請求項7】
コーティングのグラフェン系材料がグラフェン酸化物(GO)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項8】
コーティングのグラフェン系材料が還元グラフェン酸化物(rGO)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項9】
コーティングのグラフェン系材料が、グラフェン酸化物(GO)と還元グラフェン酸化物(rGO)の混合物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の複合粉末。
【請求項10】
粉末冶金プロセスおよび付加製造プロセスに好適な複合粉末を製造する方法であって、複合粉末がグラフェン系材料のコーティングを有する鉄系材料の粒子を含み、方法が、
- 既知の粒度分布を有する鉄系金属粉末を用意するステップと、
- 分散しているグラフェン系材料を用意するステップと、
- 溶液中のグラフェン系材料の濃度を記録しながら、グラフェン系材料を希釈し、塩基性物質の添加によりpHを調節するステップであり、pHが3~9に調節される、ステップと、
- グラフェン材料のグラフェン凝集体を、超音波処理または撹拌によって分離するステップと、
- 鉄系金属粉末を脱イオン水に分散させて、所定の鉄系金属と水の重量比を有するスラリーを作り出すステップと、
- グラフェン材料分散物を鉄系金属粉末スラリーに間隔をおいてまたは所定の速度で添加し、所定時間完全に混合するステップと、
- 複合物粉末を乾燥させるステップと
を含み、乾燥複合粉末中のグラフェン材料の濃度が0.1wt%~1.0wt%の間となるように、添加するグラフェン材料分散物の量を調節する、
方法。
【請求項11】
添加するグラフェン材料分散物の量が、グラフェン材料の濃度が0.1wt%~0.95wt%の間となるように選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
添加するグラフェン材料分散物の量が、グラフェン材料の濃度が0.1wt%~0.5wt%の間となるように選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
粒子の鉄系材料が純鉄を含み、希釈およびpHを調節するステップにおいて、pHは4~8以内、好ましくは5~7以内に調節される、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
鉄系材料がステンレス鋼であり、希釈およびpHを調節するステップにおいて、pHは3~8以内、好ましくは4~7以内に調節される、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
粒子の鉄系材料が純鉄を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
粒子の鉄系粒子材料がステンレス鋼である、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
グラフェン系材料がグラフェン酸化物(GO)を含む、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
グラフェン系材料が還元グラフェン酸化物(rGO)を含む、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェン被覆鉄系粒子およびこれを製造する方法に関し、特に、付加製造プロセス用の粒子を最適化するための、グラフェンまたはグラフェン系材料で被覆されたステンレス鋼粒子および鉄粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(AM)、または3D印刷は、コンピュータ制御下で複雑な3D物体の形成を可能にする製造技術である。それは、プラスチック部品および金属部品の迅速なプロトタイピングならびに製造を可能にする。付加製造は、他の技術の中で、例えば、選択的レーザー焼結(SLS)、選択的レーザー溶融(SLM)、電子ビーム溶解(EBM)、熱溶解積層法(FDM)および光造形法(SLA)などの幾つかの技術を含む、包括的用語である。
【0003】
金属粉末ベースの技術が、金属製品を製造するためのAMの領域において優位に立っている。複雑な幾何学的形状ならびに強度および硬度などの調整された特性を有する最終製品は、粉末ベースのAMによって製造することができる。部品は金属粉末を層ごとに溶融することによって製造され、溶融はレーザーまたは電子線で加熱することによって実行される。典型的には、層は一般に粉末床法(powder bed method)と呼ばれる方法によって形成される。粉末床法においては、機械は3D CADモデルからデータを読み取り、粉末金属の連続層を下へ敷く。これらの層は、コンピュータ制御された電子線またはレーザー光線を利用して一緒に溶融する。このように、最終部品が構築される。プロセスは真空下(電子線)または制御された雰囲気下(レーザー光線)で行われ、これにより、酸素と高い親和性を有する反応性材料、例えば、チタンおよび鉄での部品製造が適するようになる。
【0004】
金属粉末の分布は、製造プロセスにおいて極めて重要である。金属粉末は、典型的には、構築プラットフォームに、または第1の層の後に、形成中の部品の上面にノズルを介して提供される。供給された金属粉末を上表面にわたって平らにするために、精密レーキがしばしば使用される。代わりに、粉末を延ばして、粉末床を形成してもよい。厚さおよび密度(充填密度)を床にわたって所与の許容差内で一定に維持することが、金属粉末を利用する全ての技術における主な関心事である。粒子の大きさおよび形状、表面粗さ、ならびに周囲の物質と反応する傾向などの表面化学を含む、多数の物理的および化学的特性が、粉末床を形成する際に金属粉末がどのように「挙動する」かに影響する。これらの特性は、充填密度またはタッピング密度などの密度の指標、および金属粉末がどう流れるかまたは「流動性」に関係する指標にしばしば要約される。構築プロセスおよび材料特性をよりよく制御するために、技術がより薄い層の方へ展開するにつれて、充填密度および流動性を制御する必要性が増加した。また、AMに使用される溶融技術は、出発粉末に異なる要求を課し、流動性特性に様々に敏感である可能性がある。例えば、レーザー焼結/溶融を利用するAM法は、典型的には電子線に基づく方法より小さい金属粒度を必要とする。一般に小さい粒度ほど、流動性の問題を目立たせる。
【0005】
充填および流動性は、AMコミュニティー内の問題領域と認識されている。この問題は、例えば環境を制御する(特に湿気を制御する)こと、コーティングを導入して粒子を不活性にすること、および粉末へ潤滑剤、例えばグラファイト含有潤滑剤を添加することによって対処されてきた。しかしながら最終製品を形成する合金、例えばステンレス鋼合金は、しばしば不純物に敏感である。例えば、炭素含有量は、ステンレス鋼の特性に著しく影響を及ぼし、ほんのわずかな変動が問題になる恐れがある。このため、いかなる添加剤または複合物も最終製品の特性に影響を及ぼすべきではない、または、影響が制御可能であり、再現可能であり、かつ悪化させない方式で、制御できるべきである。
【0006】
充填および流動性をより良好に制御することは、AM以外の技術、例えば、いわゆるグリーンボディの製造を含む古典的な粉末冶金PM、ならびに熱間静水圧技術HIPおよび液状結合剤技術(wet binder technique)などの先進焼結技術にとっても重要である。
【0007】
国際公開第2018/189146号は、滑り接触がAgおよびグラフェン酸化物の複合材料から形成され、Ag+GO複合粉末が中間生成物として形成されることを開示している。最終製品の摩擦、滑り接触を著しく低減するために、約0.01wt%のGO含有量が好適であることが見出された。
【0008】
米国特許第10,150,874号は、腐食抑制のための鋼および/または亜鉛のコーティングを開示しており、ここで、コーティングはグラフェンを含有している。
米国特許出願公開第2011/0256014号は、「卑金属粉末」のグラフェンコーティングを開示している。グラフェンは、金属粒子間の薄い層として挿入されている。グラフェン層は、グラフェン酸化物の還元を介して形成される。
【0009】
国際公開第2019/054931号は、基材、例えば、金属基材上に提供することができる多層グラフェン材料を開示している。多層グラフェン材料はグラフェン系材料の層を含み、グラフェン系層の間には、グラフェン系材料を含む層とπ-πスタッキング相互作用を形成することができる、少なくとも2つの環状、平面基を含むイオンを有する塩を含む、第3の中間層が存在する。
【0010】
従来技術においては、粉末冶金および付加製造用に最適化された流動性特性を有する複合金属粉末の必要性が、依然として存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、付加製造および粉末冶金に好適な複合粉末、特に鉄系コアおよびグラフェン系コーティングを有する粒子を含む複合粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これは、請求項1において定義される複合粉末および請求項10において定義される方法によって達成される。
本発明による複合粉末は、粉末冶金プロセスおよび付加製造プロセスに好適であり、グラフェン系材料のコーティングを有する鉄系材料の粒子を含み、グラフェン系材料の濃度は0.1wt%~1.0wt%の間である。
【0013】
本発明の態様によれば、グラフェン系材料の濃度は、0.1wt%~0.95wt%の間、さらにより好ましくは0.1wt%~0.5wt%の間である。
本発明の一態様によれば、粒子の鉄系材料は、不可避不純物を有する純鉄を含む。
【0014】
本発明の一態様によれば、粒子の鉄系粒子材料は、不可避不純物を有するステンレス鋼である。
本発明の一態様によれば、鉄系材料の粒子は、粒子の過半数が1~500μmの範囲、好ましくは1~100μmの範囲、より好ましくは1~50μmの範囲にある粒度分布を有する。
【0015】
本発明の一態様によれば、コーティングのグラフェン系材料は、グラフェン酸化物(GO)である。
本発明の一態様によれば、コーティングのグラフェン系材料は、還元グラフェン酸化物(rGO)である。
【0016】
本発明の一態様によれば、コーティングのグラフェン系材料は、グラフェン酸化物(GO)と還元グラフェン酸化物(rGO)の混合物である。
本発明による方法は、
- 既知の粒度分布を有する鉄系金属粉末を用意するステップと、
- 分散しているグラフェン系材料を用意するステップと、
- 溶液中のグラフェン系材料の濃度を記録しながら、グラフェン系材料を希釈し、塩基性物質の添加によりpHを調節するステップであり、pHが3~9に調節される、ステップと、
- グラフェン材料のグラフェン凝集体を、超音波処理または撹拌によって分離するステップと、
- 鉄系金属粉末を脱イオン水または水/アルコール混合物中に分散させて、所定の鉄系金属と水の重量比を有するスラリーを作り出すステップと、
- グラフェン材料分散物を鉄系金属粉末スラリーに間隔をおいてまたは所定の速度で添加し、所定時間完全に混合するステップと、
- 複合粉末を乾燥させるステップと
を含み、乾燥複合粉末中のグラフェン材料の濃度が0.1wt%~1.0wt%の間となるように、添加するグラフェン材料分散物の量を調節するものである。
【0017】
本発明の一態様によれば、添加するグラフェン材料分散物の量は、グラフェン材料の濃度が0.1wt%~0.95wt%の間、好ましくは0.1wt%~0.5wt%の間となるように選択される。
【0018】
本発明の一態様によれば、粒子の鉄系材料は純鉄を含み、希釈およびpHを調節するステップにおいて、pHは4~8以内、好ましくは5~7以内に調節される。
本発明の一態様によれば、鉄系材料はステンレス鋼であり、希釈およびpHを調節するステップにおいて、pHは3~8以内、好ましくは4~7以内に調節される。
【0019】
本発明の一態様によれば、グラフェン系材料はグラフェン酸化物(GO)である。
本発明の一態様によれば、グラフェン系材料は還元グラフェン酸化物(rGO)、または還元グラフェン酸化物とグラフェン酸化物の混合物である。
【0020】
本発明のおかげで、改良された流動性およびフラクタル表面を有する複合粉末が提供され、AMおよび他のPMベースの技術における粉末のハンドリングを大きく改良する。
1つの利点は、グラフェン材料コーティングがFe系材料粒子の酸化を低減させることである。
【0021】
以下において、本発明は、実施例を介し、本発明の非限定的な実施形態に関して、付随する図を参照しながらより詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の方法の概略図である。
図2図2aは従来技術の金属粒子の概略図である。図2bは、本発明によるグラフェン材料で被覆された金属粒子の概略図である。
図3】様々な使用pHに由来する、GOコーティングを有するおよび有さない様々な粉末の回折図である。
図4図4a~bは、ステンレス鋼粒子を含む本発明の実施形態のSEM画像を示す図である。図4cは、ステンレス鋼粒子を含み、望まない凝集を表示するSEM画像を示す図である。
図5図5a~bは、純鉄粒子を含む本発明の実施形態のSEM画像を示す図である。
図6図6a~dは、純鉄の金属粒子、ならびにa)0.05wt%、b)0.1wt%、c)0.2wt%およびd)0.5wt%の含有量のグラフェン酸化物含有量を含む複合粉末のSEM画像を示す図である。図6bは純鉄粒子を含む本発明の実施形態を示す。
図7a図7aは、本発明の実施形態のグラフェン材料の濃度を増加させた、なだれ角(avalanche angle)、破壊エネルギー(break energy)およびなだれエネルギーを示すグラフである。図7aはステンレス鋼粒子を含む。
図7b図7bは、本発明の実施形態のグラフェン材料の濃度を増加させた、なだれ角(avalanche angle)、破壊エネルギー(break energy)およびなだれエネルギーを示すグラフである。図7bは純鉄粒子を含む。
図8図8a~bは、本発明の実施形態のグラフェン材料の濃度を増加させた、表面フラクタルを示すグラフである。図8aは、ステンレス鋼粒子、図8bは純鉄粒子を含む。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の用語は、明細書および特許請求の範囲全体を通して定義され使用される。
at%は、原子パーセント、すなわち原子の全数に対する1種類の原子の数の短縮形である。
【0024】
wt%は、重量パーセント、すなわち混合物または複合物中の全ての化合物の全重量に対する1つの化合物の重量の短縮形である。
グラフェンは、六方格子構造に配置された炭素原子の、1原子厚さの平面シートである。
【0025】
グラフェン系材料は、少なくとも30at%の炭素を含み、一般にグラフェンクラスの材料に帰される特性を有する層状材料である。グラフェン系材料は、どんなタイプのグラフェン、例えば、単層グラフェン、数層のグラフェン、多層グラフェン、グラフェン酸化物(GO)、還元グラフェン酸化物(rGO)およびグラフェンナノプレートレット(GNP)であってもよい。
【0026】
鉄系粉末材料は、鉄が主な構成要素である材料、例えば、限定されるものではないが、純鉄およびステンレス鋼である。ステンレス鋼は、例えばオーステナイト鋼等級316または等価物であってもよい。AMおよびPMに好適な粉末材料の典型的な粒度は、使用するAM/PM法に依存し、1~500μmの範囲にある。レーザー溶融/焼結を利用するAM法に対しては、1~100μmの範囲の粒度が最も好適であり、従来のPMに対しても同様である。包括的なレビューは、「Powders for powder bed fusion:a review」,Silvia Vockら,Progress in Additive Manufacturing https://doi.org/10.1007/s40964-019-00078-6であり、これは参照により本明細書に組み込まれる。本発明による方法のための出発原料である鉄系粉末材料は、広範囲の組成、粒度分布および品質で市販されている。出発原料は、例えばガス噴霧法または水噴霧法によって製造することができる。
【0027】
流動性または粉末流動性は、特定の一連の条件下で粉末が流れる容易さと定義される。これらの条件の幾つかとしては、粉末に対する圧力、粉末のまわりの空気の湿度、および粉末がそこを通ってまたはそこから流れる装置が挙げられる。流動性は、分析した粉末材料の流れ特性を特徴づける一連のパラメーターを与える、回転粉末分析(revolution powder analysis)(RPA)を用いて測定することができる。特性としては、なだれ角[°]、破壊エネルギー[KJ/Kg]、なだれエネルギー[KJ/Kg]および表面フラクタルが挙げられる。
【0028】
なだれエネルギー[kJ/kg]-なだれによって放出されるエネルギー。計算:なだれ後の粉末のエネルギーレベル、引く、なだれ前のエネルギーレベル。RPAは、全ての粉末のなだれに対して、平均なだれエネルギーを報告する。
【0029】
破壊エネルギー[kJ/kg]-計算:なだれが始まる前の試料粉末の最大エネルギーレベル、引く、(平らで均一な表面の)粉末に対するあり得る最低エネルギーレベル。それは、粉末の体積および質量に基づく。この値は、各なだれを始動させるのに必要なエネルギー量を表す。
【0030】
なだれ角[°]-粉末がなだれを開始する前の、最大粉末での粉末角度。測定値は、全なだれ角に対する平均値である。それは、粉末エッジ上の中心点からその頂点まで計算される。この角度は、粉末の流れを開始させて維持するために必要な平均角度である。
【0031】
表面フラクタル-表面フラクタルは粉末の表面のフラクタル次元であり、表面がどれだけ粗いかの指標を与える。測定は各なだれの後に行われ、粉末がどのように自身を再編成するかを決定する。粉末が平滑で均一な表面を形成する場合、表面フラクタルは約2となる。粗くぎざぎざの表面は、5を超える表面フラクタルを与える。AMなど、粉末の均一な分布を必要とする用途に対しては、表面フラクタルが2に近いほど、粉末はより良好に機能するであろう。
【0032】
鉄系粒子を含む、AMに好適な金属粉末を製造する方法は、図1を参照して記述され、次の主なステップを含む。
- 既知の粒度分布を有する、鉄系金属粉末を用意するステップ(図示せず)。
【0033】
- 分散しているグラフェン系材料を用意するステップ(図示せず)。
- (a)蒸留水または他の希釈剤でグラフェン系材料を希釈およびpH調節し、塩基性物質、例えばNaOH(水溶液)をpHが所定の範囲になるまで添加してpHを調節するステップ。溶液中のグラフェン系材料の濃度は、記録して、グラフェン材料と鉄系材料の間の最終比率を制御できるようにする。
【0034】
- (b)グラフェン材料のグラフェン凝集体を、例えば、超音波処理または大規模な撹拌によって分離するステップ。
- (c)鉄系金属粉末を脱イオン水または他の液体中に分散させて、鉄系金属と水の所定の重量比率を有するスラリーを作り出すステップ。
【0035】
- (d)グラフェン材料分散物を鉄系金属粉末分散物に、間隔をおいて、または混合が効果的になるように選択された所定の緩やかな速度で、添加するステップ。グラフェン材料を鉄系金属粉末と少なくとも2時間完全に混合する。添加するグラフェン材料分散物の量は、グラフェン材料の濃度が、最終乾燥複合粉末中で0.1wt%~1.3wt%の間となるように調節する。
【0036】
- (e)複合粉末を乾燥させるステップ。
この方法は、乾燥させるステップの前に行う、
- (e2)複合粉末をろ過するステップ
- (e3)さらに、ろ過ケーク(ろ過された複合粉末)を溶媒で洗浄し、例えば遊離したグラフェンまたは塩などの任意の不純物を除去するステップ
の1つまたは両方のステップを、任意選択で含んでもよい。
【0037】
ろ過するステップは、非限定的な例と見なすべきである。当業者によって認識されるように、ろ過または分離は、異なる公知のろ過技術または篩分け技術を使用する様々な方法で実行することができる。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、グラフェン材料は、高濃度(約2.5wt%)グラフェン酸化物ペーストまたは溶液の形態にあるグラフェン酸化物(GO)である。鉄系材料は、1~100μmの範囲内の粒度分布を有する純鉄またはステンレス鋼、例えば、オーステナイト鋼等級316または等価な鋼である。実施形態によれば、この方法は、次のステップを含む。
【0039】
(A)グラフェン酸化物ペーストを、希釈およびpH調節するステップ。
1.有効質量によって指定された量のGOペーストを、容器へ移す。
2.DI水を添加する。
【0040】
3.希釈GO溶液のpHをチェックする。注:溶液の最初のpHはしばしばおよそpH2である。
4.溶液のpHを、NaOH 1M溶液(pH14)または等価物を添加することによって、5~8の範囲内のpHに調節する。所望のpHへの調節を、NaOH 0.1M溶液または等価物を添加することによって完結させる。ステンレス鋼材料に対しては、3~8の範囲にあるpHが好適である。純鉄材料に対しては、より低いpHでは酸化が増加するため、4~8の範囲にあるpHが好適である。
【0041】
5.溶液の質量を計量し、最終濃度を計算する。
(B)GO溶液を少なくとも1時間超音波処理することによって、グラフェン凝集体を分離するステップ。
【0042】
(C~D)金属粒子を被覆するステップ。
1.金属粉末の所望量を計量する。
2.所望の濃度に基づいて、粒子を被覆するのに必要なGO溶液の量を計算する。
【0043】
3.適切な容器へGO溶液を移し、1:1の比率の脱イオン化水(DI)を添加する。
4.室温で溶液を1時間超音波処理する。
【0044】
5.金属粉末をロータリーエバポレーターなどのロータリー混合装置へ移し、粉末が完全に覆われるまでDI水を添加する。
6.金属粉末をロータリー混合装置中、90r.p.m.で15分間で混合する。
【0045】
7.用意したGO溶液をロータリー混合装置の中へ添加する。
8.粉末をGO溶液と、ロータリー混合装置中、90r.p.m.で2時間混合する。
【0046】
9.溶媒を乾燥させるために、ロータリーエバポレーターの真空ポンプ、冷却機および温水槽を始動させる。代わりに、混合物を別のロータリー乾燥容器へ移す。
a.水槽の温度:88℃
b.速度:90r.p.m
c.真空度200ミリバール~100ミリバール
d.冷却機温度:3℃~10℃
10.粉末が完全に乾燥したら、ロータリーエバポレーターを切り、容器/バルーンから材料を取り出す。
【0047】
11.凝集のない微粉へ、材料を粉砕する。
12.真空炉において、高真空中、88℃で24時間~35時間粉末を乾燥させる。
この方法の実施形態は、乾燥させるステップ(ステップ9)の前に行う、次のステップの一つまたはステップの組み合わせ:
- 被覆粉末をろ過して、吸引を使用するブフナー漏斗においてほとんどの水を除去するステップ
- ブフナー漏斗中のろ過ケークをDI水(またはエタノール)で洗浄し、遊離したグラフェンおよび/または塩を除去するステップ
- 乾燥させるために、少なくとも12時間ろ過された粉末を60℃の炉に入れ(または、粉末をフラスコに入れてステップ9を続け)、次いで、ステップ11を続けるステップ
を任意選択で含んでもよい。
【0048】
上記例では、水をプロセス液体として使用する。他の水混和性溶媒、例えば、エタノールなどのアルコールまたはアルコールの混合物を使用することもできる。水と1種または複数のアルコールとの混合物、例えば水/エタノール混合物も、この方法の実施形態である。
【0049】
GOを使用する実施形態において与えられる実験のパラメーター、詳細な時間、圧力、溶媒および温度は、目安と見なすべきである。正確なパラメーターは、使用する装置、使用する材料の量、および例えば温度に関連する処理時間に関する個々の選択または好みに依存するであろう。しかしながら、これらの指標となるパラメーターから、当業者は特定の装置および他の条件に対する必要な調節を行うことができるであろう。
【0050】
一般的方法のステップ(a)および上記実施形態のステップ3~4に記述したように、pHの制御および調節は、コーティング形成を制御する1つの方法である。より低いpH(1~2)では、GOとFe粒子の間に引力のある静電気力が存在するが、GOシート間に不十分な斥力が存在し、均一な被覆を達成しようと努める場合に好ましくない凝集体をもたらす。ほとんどは、代わりに混在が起こる。低いpH(1~2)では、Fe粒子の激しい酸化も存在する。pHが増加すると(3~4)、GO凝集体形成がより少なくなり、幾つかの用途に対して許容できるFe粒子の腐食が起こる。ある時点では、(処理ステップ/時間中に)酸化があまり起こらず、凝集体はほとんど存在しないが、GOシートとFe粒子の間に静電引力が依然として存在する。これは、pH5~9(10)の領域に存在する。
【0051】
pHを増加させると、GOシートのベーサル面上により負に帯電した集団も作り出され、これは良好な被覆を達成するのに好ましいであろう。しかしながら、pHが高すぎると、Fe粒子の正味表面電荷も負になり、これがGOシートとFe粒子の間に静電斥力を作り出す。これは、10を超えるpH値で明確に見られるが、7を超えるpH値からコーティングの品質に影響を及ぼす恐れがある。鉄系材料が良好な耐腐食性を独力で有する場合、例えば等級316のようなステンレス鋼の等級は、粒子の表面酸化の危険を伴わずに、より低いpHを選択することができる。pHの影響を、表1に要約する。
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の一実施形態によれば、pHは3~9以内、好ましくは3~7以内に調節される。
本発明の一実施形態によれば、pHは5~8以内に調節される。
【0054】
一実施形態によれば、鉄系材料は純鉄であり、pHは4~8以内、好ましくは5~7以内に調節される。
一実施形態によれば、鉄系材料はステンレス鋼であり、pHは3~8以内、好ましくは4~7以内に調節される。
【0055】
図3は、使用した様々なpHに由来する、GOコーティングを有するおよび有さない、様々な粉末の回折図である。ここで、pH3の鉄のわずかな酸化を観察することができる(磁鉄鉱Feピークが見られる)が、幾つかの用途にはまだ許容できるものである。他のpHについては、この酸化は見られない。あらかじめ被覆した粉末でも、回折図にGO凝集体が現れる領域にピークは存在しない。これは、(低い値では)粒子のまわりに遊離し凝集したGOが存在しないことを示している。これは、遊離したGOの凝集がほとんど見られないSEMによっても確認される。
【0056】
本発明の一実施形態では、グラフェン材料は還元グラフェン酸化物(rGO)、部分的に還元されたグラフェン酸化物、またはグラフェン酸化物と還元グラフェン酸化物の混合物である。
【0057】
グラフェン酸化物は、方法によって影響を受ける可能性があることに留意すべきである。例えば、出発原料がグラフェン酸化物(GO)である場合、ある特定のステップ、特に最終の乾燥させるステップが、グラフェン酸化物の還元を誘発する可能性があり、そのために、最終の複合粉末が還元グラフェン酸化物(rGO)も含む可能性がある。GOの還元機構およびそれらを制御する方法は、当業者に周知である。
【0058】
一実施形態によれば、金属粒子は純鉄である。
本発明による方法は、グラフェンコーティングを有するFe系金属粒子を含む複合物粉末を生成する。この方法は、プロセスにおけるグラフェン材料の濃度を変え、それによって最終的な複合粉末中の濃度も変えることによって、被覆の程度を微調整し、複合粉末の流動性を最適化することを可能にする。
【0059】
図2は、a)従来技術による金属粉末の2つの未被覆鉄系粒子20、およびb)本発明による複合粉末を形成するグラフェン材料22で被覆された2つの鉄系粒子21を、模式的に示している。従来技術の金属粉末の金属-金属の接触は、本発明による複合粉末のグラフェン-グラフェンの接触より、通常はかなり高い摩擦をもたらす。これは図2の拡大した断面図によって説明される。グラフェン材料によって部分的にしか覆われない粒子の状況においてさえ、それでも金属-グラフェンの接触は、金属-金属の接触よりかなり低い摩擦を示すであろう。
【0060】
図4a~cのSEM画像は、複合粉末のグラフェン酸化物のコーティングを有するステンレス鋼粒子を示している。図4aは、グラフェン酸化物の含有量が0.2wt%である複合粉末のグラフェン酸化物のコーティングを有するステンレス鋼粒子を示し、本発明による方法が、被覆された鉄系金属粒子を生成できることを検証している。これは、モフォロジー検査およびEDS分析によって検証される。
【0061】
図4bのSEM画像は、グラフェン酸化物の含有量が0.5wt%の複合粉末を示し、複合粉末が十分分散していることを説明している。これは、モフォロジー検査、およびEDS分析によって検証される。
【0062】
グラフェン材料の濃度を1.3wt%またはそれを超えて増加させることは、図4cのSEM画像によって説明されるように、粒子の幾つかの凝集を複合粉末中に引き起こすであろう。
【0063】
図5aおよび5bのSEM画像は、グラフェン酸化物含有量が0.1wt%であるグラフェン酸化物のコーティングを有する複合粉末の純鉄粒子を示している。
図6a~dは、純鉄ならびにa)0.05wt%、b)0.1wt%、c)0.2wt%およびd)0.5wt%のグラフェン酸化物含有量の金属粒子を含む、複合物粉末のSEM画像である。ステンレス鋼粒子を含む複合粉末と同様に、グラフェン酸化物濃度(0.05wt%および0.1wt%)がより低いと、粒子表面は部分的にグラフェン酸化物で覆われる。0.2wt%のグラフェン酸化物濃度は、完全にグラフェン酸化物によって覆われた粒子表面をもたらす。グラフェン酸化物濃度をさらに増加させる(0.5wt%)と、完全に覆われた鉄粒子から分離された、過剰のグラフェンシートの凝集がもたらされる。
【0064】
流動性特性を回転粉末分析(RPA)を用いて測定し、パラメーターであるなだれ角[°]、破壊エネルギー[KJ/kg]、なだれエネルギー[KJ/kg]および表面フラクタルを、ステンレス鋼試料について表2a(ステンレス鋼)および表2b(純鉄)に示し、図7a(ステンレス鋼)および7b(純鉄)のグラフにおいて、参照試料(未被覆)および試料(濃度を増加)について、左から右に、なだれ角、破壊エネルギー、なだれエネルギーを説明し、図8a(ステンレス鋼)および8b(純鉄)のグラフにおいて、表面フラクタルを説明した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
流動性測定から明らかなように、流動性および表面フラクタルに関係するパラメーターのかなりの低減は、純Feの粒子でも明白である。
本発明による複合粉末は、グラフェン系材料のコーティングを有する鉄系材料のコアを有する粒子を含み、グラフェン系材料の濃度は、0.1wt%~1.0wt%、好ましくは0.1wt%~0.5wt%の間、さらにより好ましくは0.1wt%~0.3wt%の間の範囲にある。当業者には明白なように、鉄系粒子のパラメーター、例えば鉄系粒子の粒度分布に応じて、最適濃度範囲を調節することができ、それは表面積が粒子の質量とは異なるスケールである(scale)ことを説明することができる。最適範囲が存在するという情報、基本的幾何学的関係および本明細書で提示したデータがあれば、こうした調節は当業者にとって過度の負担にはならない。上に記述した方法は、本発明による複合粉末を製造する好ましい方法を表している。
【0068】
流動性データ(表1aおよび1b/図7~8)ならびにSEM画像を比較すると、流動性に関するプラスの効果は、必ずしも完全に被覆された金属粒子をもたらすグラフェン材料の濃度ではなく、例えば0.1wt%において起こり始めることに気付くことができる。プラスの流動性効果は、完全に被覆された金属粒子をもたらすおよそ0.2wt%において、完全に発達するように見える。当業者によって理解されるように、金属粒子の被覆の程度を記述する用語は、統計的意味において解釈されるべきである。複合粉末は、全ての濃度に対して、完全に被覆された粒子と部分的に被覆された粒子の混合物を含み、「完全に被覆された金属粒子」および「部分的に被覆された金属粒子」は、異なる濃度に対する代表的な複合粒子の記述である。
【0069】
一実施形態によれば、コーティングのグラフェン系材料はグラフェン酸化物を含む。製造方法の結果としてまたはさらなる処理によって、グラフェン酸化物は少なくとも部分的に還元されている可能性があり、そのためコーティングは、グラフェン酸化物(GO)および還元グラフェン酸化物(rGO)の混合物を含む。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、複合粉末の鉄系コアは、1~100μmの範囲内の粒度分布、すなわちレーザー焼結/溶融および従来のPMにとって好適であると知られた粒度範囲を有する。一実施形態によれば、複合粉末の鉄系コアは、1~100μmの範囲内の粒度分布を有する。
【0071】
鉄系材料およびグラフェン系材料はいずれも、それぞれの材料に関連する不可避不純物を含み得る。
実験の詳細
pHの影響:
被覆プロセスにおけるpHの影響を調べるために、pH1~13の範囲の実験シリーズを行った。pH6を超える試料に関してはNaOH、またはpH6未満の試料に関してはHClを、脱イオン水に添加することによって、pH1~13の溶液を調製した。各試料のpHは、較正されたVWR pHenomenal 1100H pHメーターを用いて制御した。pH6試料に関しては、大気中の二酸化炭素(CO2)の溶解に起因して、脱イオン水が弱酸性であるので、脱イオン水のみを使用した。グラフェン酸化物(GO)の表面電荷が変化するのを回避するために、塩濃度を意図的にさらに増加させなかったので、各試料における塩濃度は変化した。各試料に関して、所望のpHの8mlの溶液に0.010gのGOを希釈し、1時間超音波にかけた。その後、1gのFe粉末を添加し、続いて1分間混合した。Feを添加する前、混合の1分後、および混合の1時間後に試料の目視検査を行った。これに加えて、混合の1分後、1時間後および20時間後に、若干の粉末を取り出し、室温で放置して乾燥させた。純Fe粉末もpH3、5または8に4時間混合し、腐食の影響を分析した。
【0072】
GOを脱イオン水およびNaOH溶液に希釈し、pH3.0、5.4および8.0において等しいGO濃度を有する3つの分散物を生成させた。続いて分散物を60分間超音波にかけ、全ての目視可能な沈殿物を溶解させた。金属粉末(5g)および10gの脱イオン水をビーカーに添加して、スラリーを作り出した。超音波にかけたGOの分散物を撹拌下でゆっくり金属粉末スラリーに添加し、その後ロータリーエバポレーター(Buchi R-300)中、90rpm(300mbar圧力)で2.5時間さらに混合した。複合粉末をろ過し、脱イオン水ですすぎ、50℃で乾燥した。
ステンレス鋼の組成:
ステンレス鋼は、C 0.03%、Cr 17.0%、Ni 12.0%、Mo 2.5%、Si 0.7%、Mn 1.5%、S 0.03%、P 0.04%および残りFe の組成を有する、オーステナイトステンレス鋼である。
金属粒子の粒度分布:
ステンレス鋼粒子の典型的な粒度分布を表2に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
純鉄粒子は、Alfa Aesar 99,5% Ironを含み、およそ10μmの粒度分布を有する。
鉄系材料を含む複合粉末を用いて実地試験を実行し、AM(SLM)および焼結を用いてオブジェクトを製造した。AM装置において複合粉末はうまく扱われ、印刷パラメーターの調節は熟練したオペレーターにとって問題ないと考えられた。製造されたオブジェクトは、未被覆出発粉末材料から製造したオブジェクトと比較して、予想される材料特性を有している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
【国際調査報告】