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特表2022-548705多結晶セラミック固体、該固体による誘電体電極、該電極を備える装置及び製造方法
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  • 特表-多結晶セラミック固体、該固体による誘電体電極、該電極を備える装置及び製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】多結晶セラミック固体、該固体による誘電体電極、該電極を備える装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20221114BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C04B35/468
H01B3/12 335
H01B3/12 338
A61P35/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517425
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020077394
(87)【国際公開番号】W WO2021064036
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】102019126346.8
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518379278
【氏名又は名称】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェインツゲール,マンフレッド
(72)【発明者】
【氏名】ペンチャー-シュターニ,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5G303
【Fターム(参考)】
5G303AA01
5G303AA10
5G303AB05
5G303BA02
5G303CA01
5G303CB03
5G303CB35
5G303CB39
(57)【要約】
多結晶誘電固体は、一般式Ba0.995(Ti0.85Zr0.15)Oの母相を有し、マンガンと希土類元素が同時ドープ(co-dotiert)されている。固体は、交流電場で腫瘍を処理する方法の誘電電極として使用されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶セラミック固体であって、
ABOペロブスカイト構造及びBa(TiZr)Oの一般式の組成を有する、焼結によって獲得可能な母相と、
MnREの組成のドーパントと、を含有し、
REは1つ以上の希土類元素を表し、
係数は、
m=0.95から1.05まで
n=0.8から0.9まで
p=0.1から0.2まで
x=0.0005から0.01まで
z=0.001から0.050まで
であり、
m<(n+p)
であり、
したがって、ABO格子のB成分が過剰になる、
固体。
【請求項2】
REは、Pr、Dy、Ce、Y及びそれらの組合せのうちから選択される、
請求項1記載の固体。
【請求項3】
ドーパントのMnとREとの成分割合の比は、1:2から1:10までの範囲内で調節される、
請求項1又は2記載の固体。
【請求項4】
前記母相は、粒子内部で均一な配向を有する粒子の形態であり、
前記粒子は、静止画像分析による数的中央値として測定された、10μmから30μmまでの平均粒サイズd50を有する、
請求項1乃至3いずれか1項記載の固体。
【請求項5】
少なくとも成分REに富む第1副相とTiに富む第2副相が存在し、
これらは主に又は完全に前記母相の前記粒子間の粒子ボイド内に配置される、
請求項1乃至4いずれか1項記載の固体。
【請求項6】
0.1体積%と1.1体積%との間の閉鎖孔を含む、
請求項1乃至5いずれか1項記載の固体。
【請求項7】
前記固体を通る各断面において、前記固体を通る任意の断面積に関するすべての副相の面積割合は、1%以下、好ましくは0.3%未満である、
請求項1乃至6いずれか1項記載の固体。
【請求項8】
35℃において、40000を超える誘電係数を有する、
請求項1乃至7いずれか1項記載の固体。
【請求項9】
1400℃から1500℃までの温度における焼結を介して得られる、
請求項1乃至8いずれか1項記載の固体。
【請求項10】
空気下での焼結によって得られる、
請求項1乃至9いずれか1項記載の固体。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれか1項記載の固体を含む誘電体電極であって、
コンタクトとして作用する金属コーティングを有するセラミックディスクとして形成されている、
誘電体電極。
【請求項12】
人間又は動物の体に交流電界を印加するための装置であって、
少なくとも1つの請求項11記載の電極を備える、
装置。
【請求項13】
請求項1乃至10いずれか1項記載のセラミック固体を製造するための方法であって、
成分Ba、Ti、Zr、Mn及びREを含む出発材料を前記母相の前記組成及びドーパントに対応する割合で使用し、
前記出発材料を粉砕して混合し、
前記出発材料からグリーンボディを製造し、
前記グリーンボディを前記セラミック固体に焼結する、
方法。
【請求項14】
請求項11記載の電極を製造するための方法であって、
請求項13記載の多結晶セラミック固体を製造する方法と、
電気コンタクトを有する前記固体を提供するための後続のステップと、を含む、
方法。
【請求項15】
前記電気コンタクトはペーストを適用し焼成することによって実施され、
前記焼成は、好ましくは680℃から760℃までの温度において行われる、
請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記電気コンタクトは薄膜プロセスを用いて適用される、
請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記グリーンボディは空気下で、1400℃と1500℃との間の焼結温度において前記固体に焼結される、
請求項13乃至16いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間又は動物の体に交流電界を印加するための電極材料として好適な多結晶セラミック固体に関するものである。本発明はさらに、セラミック固体を有する電極及び前記電極を有する装置に関し、装置は、人間又は動物の体に交流電界を印加するのに適している。結局、本発明は、セラミック固体の製造方法、及び、該固体を含む電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界を印加することによって組織内の細胞分裂を阻害する方法は、先行技術から知られている。この原理は、腫瘍細胞(Tumorzellen)の急速で制御されていない細胞分裂が高周波交流電界によって妨げられるという点で、多くの種類の腫瘍の治療に使用できる。相応の方法は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された。腫瘍細胞と戦うために使用される高周波交流電界は、「腫瘍治療電界」(TTF)とも称される。それらは、腫瘍の影響を受ける体の領域の周りに配置されたセラミック電極を使用して患者に伝達される。適切な周波数を選択することにより、さまざまな細胞タイプの選択性を実現できる。これは、セラピーの副作用を軽減する。制御されていない分裂細胞を破壊するための方法及び装置の例は、US2003/0150372A1及びUS7,016,725B2に見出すことができる。
【0003】
セラミック電極は、記載された方法において特別な役割を果たし、その助けを借りて、高周波交流電界が処理されるべき組織(Organismus)に伝達される。それに適した新規素材が求められている。
【0004】
オーストリアの実用新案GM50248/2016から、かかる用途のために、以下の一般式の母相を有する、鉛含有の多結晶セラミック固体が知られている:
(1-y)Pb(MgNb)O3-e+yPbTi
【発明の概要】
【0005】
本発明の課題は、人間又は動物の体に高周波交流電界を効率的に伝達するための電極として使用できる新規材料を提供することにある。特に、仕様に対応する適切な特性を有する鉛フリー材料が求められている。
【0006】
この課題は、請求項1に記載の材料によって解決される。
【0007】
ペロブスカイト構造及び一般式Ba1-a(Ti1-bZr)Oを有する母相を含み、マンガン及び希土類元素を同時ドープ(co-dotiert)した多結晶誘電固体を提案する。ここで、a及びbは1より小さく、0より大きい。好ましいドーピングは、最大0.1at%の濃度に達する。
【0008】
第1実施形態によれば、本発明は、一般式Ba(TiZr)Oの組成のABOペロブスカイト構造を有する母相を含み:
さらに、一般式MnREのドーパントを含む多結晶セラミック固体に関し:
REは1つ以上の希土類元素を表し、
係数は、
m=0.95から1.05まで
n=0.8から0.9まで
p=0.1から0.2まで
x=0.0005から0.01まで
z=0.001から0.050まで
であり、
m<(n+p)
であり、したがって、ABO格子のB成分が過剰になる。
【0009】
特に、ドーパントのMnとREとの成分割合の比x/zは、1:2から1:10までの範囲内で調節される。
【0010】
多結晶性固体は、以下では粒子又は粒(Partikel oder Koerner)と称される結晶子(Kristallite)を有する結晶性固体であると理解される。結晶子は粒界によって互いに分離されている。つまり、固体は、母相の材料を含むか又は母相の材料からなる粒を含む。特に固体は焼結されている。特に、粒子は、数μmの範囲の直径を有する。
【0011】
主相の他に、提案された鉛フリー固体は副相を含むことができる。固体は、主相を有する粒子内で副相が検出可能でないように製造されることができる。副相は、主相とは異なる別の構造と別の組成とを有するか、又は未定義の構造を有する、母相の中に含まれる単独の又は複数の成分を備える。
【0012】
特に、提案する鉛フリー固体は、少なくとも、成分REに富む第1副相とTiに富む第2副相を有し、これらは主に又は完全に前記母相の前記粒子間の粒子ボイド内に配置されている。
【0013】
副相は母相と元素組成が異なるため、元素分布画像により固体を通る断面積に対する副相の面積割合を定量化することが可能である。かかる元素分布画像は、SEM-EDX測定によって得ることができる(SEMは走査型電子顕微鏡、EDXはエネルギー分散型X線分光器の略)。
【0014】
低い割合の副相しか有さないことが、本発明の固体の中心的な特徴であるが、ゼロと仮定してはならない。副相も固体の特に有利な特性に寄与しているからである。したがって、固体を通る任意の断面において、固体を通る断面積に関して、合計されたすべての副相の面積割合は、1%以下、好ましくは0.3%未満である。
【0015】
固体は、所望の適用の仕様に相応する特性を有する。特に、35℃において測定した誘電率は40,000を超える非常に高い値である。固体の誘電率は、30℃と42°Cとの間の温度範囲において最大値を有することが示される。この範囲の高い誘電率は、患者の体におけるセラミック電極への使用に特に適している。体温において特に高い静電容量を達成できるからである。
【0016】
最大容量は、例えばA成分に対するB成分(Ti、Zr)の割合で調節することができる。
【0017】
この固体は容量が大きいので、冒頭で述べた、電極によって電界をかけることで組織の細胞分裂を抑制することができる方法のための電極として非常に適している。腫瘍細胞と戦うために使われるこの高周波交流電界は、「腫瘍治療電界(TTF:Tumor-Treating-Fields)」とも称される。
【0018】
Pr、Dy、Ce及びYから選択されるか又はそれらの組合せを含む、少なくとも1つのドーピングに使用される希土類元素REを有する固体は、良好な特性を有する。
【0019】
母相は、粒子内部で均一な配向を有する粒子の形態であり、粒子は、静止画像分析による数的中央値として測定された、10μmから30μmまでの平均粒サイズd50を有する、固体が有利である。粒径を決定し又は分布するための測定方法に、固体の切断面上にSEM/EBSD(EBSD=電子後方散乱回折)コントラストを私用することができる。
【0020】
副相の他に、固体は多孔性(Porositaet)を有することもできる。おそらく、純粋で均一な母相を有する粒の割合が高い結果、多孔性は開放孔(offenporig)として生じず、つまり、細孔の大部分は完全に固体に埋め込まれており、媒体(雰囲気又はゲルなどの用途に関連する媒体)とは接触していない。相応に、最大吸湿量も少ない。
【0021】
固体は、0.1体積%と1.1体積%との間、多くは0.5%未満の閉多孔性(geschlossene Porositaet)を有することができる。
【0022】
この多結晶セラミック固体は、高い機械的安定性を特徴とする。この材料から形成された電極などの部品は堅牢で長寿命である。
【0023】
また、固体に提案された材料は、高い耐圧を有する。それは、患者への電極材料として安全に適用するために重要である。身体を流れる大電流とそれによる損傷から患者を保護するのに役立つからである。
【0024】
この固体は、TTFセラピーのための装置の誘電体電極として適用することが好ましい。そのため、固体は、比較的薄いディスク状に形成され、電気コンタクトとして作用する金属コーティングが施されている。
【0025】
TTFで動物又は人間の体を処理するための装置は、好ましくは、少なくとも2つのかかる電極を備え、用途に応じて、0.2cmから2.5cmまでの直径を有することができる。このような電極を、処理すべき変性細胞又は膠芽腫(entarteten Zellen oder Glioblastome)の領域の体表面に直接載置し、ゲルなどの媒介媒体を介して身体に結合させ、そこに固定する。
【0026】
処理は、数週間から数カ月にわたることができ、その間に、電極に百キロヘルツ以上の周波数の交流電界を印加することができる。この場合、多結晶固体は十分に高い絶縁耐力を有し、したがって、フラッシュオーバーは起こらず、そのため、処理された身体又は身体部位に損傷を与えない。また、通常の環境条件下では、高い絶縁耐力を連続稼働においても維持することができる。したがって、一実施形態では、本発明による電極は、0.9%生理食塩水溶液(Kochsalzloesung)内に24時間保持した後でも4.8kVの耐圧を示し、これは装置の動作に使用する電圧よりかなり高いことが示された。また、電極の固体は、24時間の食塩水保持後も、典型的な層厚約1mmで、例えば6GOhmの絶縁抵抗を有する。
【0027】
本発明によるセラミック固体の製造方法では、母相の組成内に、ドーパントに対応する割合でBa、Ti、Zr、Mn及びRE成分を含有する出発物質が挙げられる。それ自体が知られているステップでは、出発物質は粉砕され、均一に混合され、空気中でか焼され(calciniert)、そして必要に応じてさらなるステップの後、グリーンボディに変換される。好ましくは、か焼体(Calcinat)は乾燥されグリーンボディに圧縮される(zu dem Gruenkoerper verpresst)。その後、グリーンボディは酸化性雰囲気下、例えば空気下で、1400℃と1500℃との間の焼結温度で焼結され、固体になる。焼結温度は、固体の電気的特性に大きな影響を与えるため、できるだけ正確に保つ必要がある。
【0028】
電極を製造するために、多結晶セラミック固体は、後続のステップで、例えば、1μmと25μmとの間の厚さの金属層が設けられる。
【0029】
電気的コンタクトは、焼結体上にペーストを塗布し、その後焼成することで実現することができ、焼成は、好ましくは680℃から760℃までの温度で行われることができる。
【0030】
ただし、コンタクトを、薄膜プロセス又はその他の適切なプロセスによって適用することも可能である。
【0031】
以下では、例示的な実施形態及び関連する図を用いて、本発明をより詳細に説明する。
測定結果でない限り、図は模式的なものであり、理解を深めるために縮尺通りでない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、固体の多孔性を求めるためのEBSD像を示す図である。
図2図2は、粒径分布を求めるための実施形態による固体のSEM/EBSDコントラストを示す図である。
図3図3は、固体の粒径分布をヒストグラムで示す図である。
図4図4は、固体状態のXRD図を示す図である。
図5図5は、固体の静電容量の温度依存性を従来の(鉛を含む)溶液と比較して示す図である。
図6図6は、固体の誘電損失の一例として、散逸係数の温度依存性を示す図である。
図7図7は、固体のSEM画像である。
図8図8は、固体のSEM画像をBSEコントラストで示す図である。
図9図9は、図8のSEM像の選択された領域の局所的組成を表で示す図である。
図10図10は、固体のさらなるSEM画像をBSEコントラストで示す図である。
図11図11は、固体の図10のSEM像の選択された領域の局所的組成を表で示す図である。
図12図12は、固体中のZr含有量に対する、静電容量が最大となる温度Tmの依存性を示す図である。
図13図13は、選択された組成を有する2つの固体について、温度に対する静電容量及び誘電損失係数の依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上記の特性を有する多結晶性固体の、特有の第1実施例は、以下の組成を有する:
Ba0.995(Ti0.850Zr0.150)O+0.002at%Mn及び+0.01at%Y
【0034】
上記組成を有する固体の出発成分は、配合に応じた割合で使用され、粉砕(Mahlen)、か焼、噴霧乾燥(Spruehtrocknen)、プレスなどの一般的なセラミックプロセスにより原料体に加工される。その後、原料体を約1400℃から1500℃まで、例えば1450℃の温度で焼結する。
【0035】
多孔性5%未満の多結晶性固体が得られる。有利には、固体は、約1Vol%以下の多孔性を有することもできる。
【0036】
本実施形態の多孔性は、EBSDを用いたSEM解析により固体の研磨断面(eines Querschliffs)に基づいて決定される。EBSDとは、「電子後方散乱検出」の略である。これは電子回折の検出である。検査表面上の各点について回折パターンを検査し、そこから、その点での結晶方位に関する情報を抽出する。
【0037】
粒子内部では、セラミックの多結晶又は微小結晶構造の場合のように、各点が同じ結晶配向を有する。直接隣接する粒子は、高い統計的確率で異なる結晶配向を有する。そのため、この方法で粒界を観察し又は求めることができる。
【0038】
画像解析により、粒径分布(Korngroessenverteilung )の定量的な解析を行うことができるようになる。この方法では、母相に割り当てられた結晶領域(粉砕粒子(angeschliffen Koerner))は、この方法で識別される。EBSDによって検出された母相Ba0.995(Ti0.850Zr0.150)Oに対応しない表面の部分は、細孔として評価される。副相の割合が非常に低いので、前述の方法の検出限界を下回っているため、この方法では副相も検出されない。したがって、母相に相当しない面積割合(ゼロ溶液(Null-Loesung))を多孔性として評価することができる。
【0039】
図1は、第1実施形態による固体の研磨断面のEBSD像である。暗点は細孔に相当し、横切断表面上で約3%の面積割合を占めている。細孔は、固体の研磨断面の光学的分析を指す限り、以下ではゼロ溶液とも称される。実施形態では、カウント結果によって求められる相分布は以下の通りである:
【表1】
【0040】
この固体は5.6g/cmから5.8g/cmまでの密度を有する。
【0041】
SEM/EBSDコントラストで求められる粒径は、通常20μmである。図2は、実施形態による固体のSEM/EBSDコントラストを示す図である。画像では、コントラストイメージングにより、異なる粒子を良好に認識し、評価することができる。実施形態では、21.9μm+/-8.4μmというより正確な値が得られる。
【0042】
図3は、図2の画像から求めた固体の粒径分布をヒストグラムで示したものである。多数の粒径は10μmと30μmとの間にあることがわかる。ヒストグラムから、この固体は比較的狭い粒径分布を有することがわかる。
【0043】
さらに、X線回折分析又はエネルギー分散型X線分光分析により、相組成又はその結晶構造が求められる。そのため、固体を樹脂に埋め込み、研削し、シリカゲルで研磨する。帯電を避けるため、試料は薄い導電性カーボン層で蒸着されている。
【0044】
X線回折分析において、100%正方晶であり、1.001-1.003のc/a比を有する結晶構造が求められた。副相の割合は0.5%未満であり、したがってXRD分析法の検出限界以下である。副相を検出することができないことから、本実施形態では相純度が99.5%以上でなければならない。
【0045】
図7は、二次電子によって解像された、固体のSEM画像であり、固体の研磨断面の検査表面のトポグラフィーコントラストを示すものである。
【0046】
図8は、BSEコントラスト(BSE=後方散乱電子)によって解像された固体のSEM像である。散乱電子のエネルギーから、核電荷数(Kernladungszahl)によって元素を識別・解像することができる。
【0047】
高核電荷数を有する元素は、画像上で、高輝度で認識される。この画像から、割り当て可能な母相の他に、他の副相又は二次相も固体中に存在していることがわかる。画像に見られる二次相の分布は、これらが主相を有する粒子の粒界において又は粒子ボイド内でのみ発生又は形成されることを示している。
【0048】
研磨断面の表面領域は、その正確な組成について検査されている。図8では、これらの領域はフレームで強調表示され、符号が付されている。後方散乱電子のエネルギーを解像することで、元素分布画像を作成し、検査表面領域の正確な元素含有量を求めることができる。
【0049】
図9の表は、検査表面領域がどの元素含有量を有するかを示したものである。領域2及び4はYに富んでおり、Y分離相(Y-Seggregationsphase)に割り当てられることがわかる。他の元素も検出されるが、これは本質的に、電子ビームがこの相の広がりに対応するよりも大きな体積を検査することによる。これは、本質的にYからなる。領域3は元素Baに富む相を備え、二次相に割り当てることができる。
【0050】
図10は、BSEコントラストによって解像された固体のSEM画像も示す。検査表面の別のセクションを示す。ここでも、異なる表面領域はフレームで強調表示され、符号が付されている。図11の表は、検査表面領域の元素含有量を示すものである。
【0051】
ここで、領域16、17及び19は、本質的にBaTiを含む、Ba元素に富む相を有することが示されている。領域15及び18には元素Yが豊富な相を有するが、領域15ではBa(Ti/Zr)Oを含む相が重なっており(ueberlagert)、領域18では母相が重なっている。
【0052】
検査した研磨断面総面積は、114μm×86μm=98042μmである。Yリッチ相及びTリッチ相の測定面積は、それぞれ平均2μmである。検査セクションでは、約8μmの総面積に対応するYリッチ相の4つの領域と、約16μmに対応するTiリッチ相の8つの領域が見出された。
【0053】
この結果、主に二次相及び副相を有するおおよその面積割合は次のようになる:
Yリッチ相:-0.08%(Y
Tiリッチ相:-0.16%(BaTi
【0054】
これは、
Yリッチ相:0.0023体積%(Y
Tiリッチ相:0.0659体積%(BaTi
の体積割合に相当する。
【0055】
発見された二次相には、固体の有利な性質をまとめて説明する次のような効果があると考えられる。BaTiは1.320℃の融点を有し、母相の使用焼結温度を下回る。このように、BaTi相は固体の焼結プロセスにおいて本質的な焼結助剤を形成しているようである。
【0056】
粒界におけるYO濃縮は、ドナードーピングとして機能し、絶縁抵抗にプラスの影響を与えることができる。このようにして、電荷雲は、ドープされた固体内で主相に局所的に安定して結合することができ、その後、最早移動性がなくなり、移動性の電荷雲が固体の導電率を不所望に増加させないようにする。
【0057】
出発成分の類似した組成を有する固体は、他の用途で既に知られているが、これらは、例えばUS5,014,158Aから知られる積層コンデンサのようなセラミック多層素子である。これらの素子は、金属の内部電極を備え、最高焼結温度は内部電極の金属の融点に制限される。例えば、Ni内部電極を有するセラミック体は、Ni内部電極にダメージを与えないよう、これまで1500℃を大きく下回る還元条件下で焼結されてきた。
【0058】
一方、本発明による固体は、内部電極を有さず、著しく高い温度で、空気下、すなわち酸化性雰囲気下で焼結される。本発明によれば、(すべての実施形態で使用されるように)より高い焼結温度でのみ起こり、固体の電気的特性に影響を与える上記の凝集プロセスのために、改善された電気的特性を有する固体が得られる。これらの特性は、これまで使用されている低い焼結温度や、還元性焼結雰囲気が必須であることから、前述の多層コンデンサなどの既知の部品では観察することができなかった。
【0059】
新規固体の電気的特性を求めるために、TTFセラピー用途の電極として使用するために必要な、あるいは特に適した形状で固体が製造される。具体的には、外径約19mm、内径約3mm、厚さ1約mmを有する穴付きディスク(Lochscheiben)である。このディスクには、厚さ約10μmの、例えばAgなどの金属化が施されている。特に、静電容量の温度依存性、比誘電率、誘電損失係数、約1%の生理食塩水で24時間保存した後の耐圧、同じく生理食塩水で保存した後の絶縁抵抗が求められる。
【0060】
静電容量測定は、周波数200kHzの交流電圧を印加して行う。
【0061】
生理食塩水中での保管は、TTF方法のために、固体から製造された電極が、電極近傍における患者の皮膚と長時間接触した後に優勢になる可能性のある状態をシミュレートすることを目的としている。したがって、このテストに合格すると、直接的に人体表面にある(direkt am menschlichen Koerper)対応する電極の耐用年数が長くなる可能性がある。穴付きディスクにおいて決定された絶縁破壊電圧も約4.8kVと十分に高く、1%生理食塩水溶液内での保管後の1mm厚の固体層の絶縁抵抗は依然として6GOhmに達する。
【0062】
図5は、第1実施形態のディスクにおいて求めた静電容量の温度依存性を上部に示した図である。静電容量は、約35の温度Tmにおいて約78nFの最大値を有することがわかる。これは、TTF用途に大容量が所望され、これが人間の体温の範囲で正確に達成される限り、特に有利となる。
【0063】
図の下部には、これまでTTF方法に使用されてきた既知の鉛含有セラミックスの静電容量の温度依存性を比較のために示した。鉛含有セラミックスも約35℃で最大値を示すが、この容量値は最大でも新規多結晶固体の約半分にしか達しない。
【0064】
誘電損失は温度の上昇とともに減少し、35℃では約6%と十分に低い値に達している。図6は、本発明による固体の誘電損失の温度依存性を示す図である。
【0065】
同じ交流電圧、35℃の温度で、40,000を超える誘電率が求められた。これは、既知の鉛含有TTF電極材料の約25,000を上回るものである。高いεは、固体の誘電体電極材料としての用途のために有利である。全体として、Mnと希土類元素との提案された同時ドーピング(Co-Dotierung)で達成できる新規素材の優位性、特に優れた特性は明らかである。
【0066】
さらなる試行では、第1実施形態と同様の方法で、さらなる誘電体固体を製造した。組成はZr/Ti比のみ変化させ、すべての試行でZr/Ti比は規定範囲内であった。このようにして得られた様々な固体について、静電容量の最大値の温度依存性を求めた。
【0067】
その結果、Zr割合が減少するのに伴って、最大容量がより低い温度で得られることがわかった。
【0068】
以下の表は、異なるZr割合に対する最大容量の温度Tmの経過を示したものである:
【表2】
【0069】
図12は、静電容量が最大となる温度Tmが固体中のZr割合にほぼ線形の依存性を有することを示している。
【0070】
この強い依存性は、かかる高容量の誘電体固体を異なる適用温度に対して最適化するために使用されることができる。
【0071】
図13は、選択された組成を有する2つの固体について、静電容量Cap及び誘電損失係数(散逸(Dissipation))の温度依存性を示すものである。
【0072】
曲線1は、0.150:0.850のZr:Tiの比の第1実施形態による組成を有する固体の静電容量プロファイルを示し、曲線2は、この固体の損失係数の温度にわたるプロファイルを示す。
【0073】
曲線3は、0.162:0.838のZr:チタンの比のさらなる実施形態による固体の静電容量プロファイルを示し、曲線4は、この固体の損失係数の温度にわたるプロファイルを示す。
【0074】
両方の固体は、異なるZr:Ti比を除いて、完全に同一の組成を有する。曲線3によると、第2(のさらなる)固体の最大容量は、曲線1による第1固体の最大容量よりも大幅に低い温度で発生する。ここでの差異は約10°である。
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【国際調査報告】