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特表2022-548723低減されたヒステレシスを有する帯電防止性または導電性ポリマー組成物
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  • 特表-低減されたヒステレシスを有する帯電防止性または導電性ポリマー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】低減されたヒステレシスを有する帯電防止性または導電性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221114BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221114BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20221114BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08L21/00
C09K3/16 101B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517721
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(85)【翻訳文提出日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2020074084
(87)【国際公開番号】W WO2021052736
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】19198639.7
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521399892
【氏名又は名称】オリオン エンジニアード カーボンズ アイピー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェシュテンベルク ハウケ
(72)【発明者】
【氏名】フォーグラー コニー
(72)【発明者】
【氏名】ニーダーマイアー ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ディール フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】フォアライター ダニエル
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002AA011
4J002AA021
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB031
4J002BB061
4J002BB081
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB241
4J002BB271
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD071
4J002BD121
4J002BG041
4J002BN151
4J002CF001
4J002CG001
4J002CH041
4J002CH091
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002CP031
4J002CP081
4J002DA036
4J002DA037
4J002FD010
4J002FD106
4J002FD107
4J002FD116
4J002FD117
4J002GJ02
4J002GM00
4J002GM01
4J002GN01
4J002GQ01
(57)【要約】
本発明は、バランスのとれた電気的および機械的特性を有しかつ低減されたヒステリシスを示すポリマー組成物を提供する。ポリマー組成物は、電気絶縁性ポリマー材料と、統計的厚さ表面積(STSA)が70m2/g未満であり、吸油量(OAN)が70~150mL/100gである第1のカーボンブラック材料と、統計的厚さ表面積(STSA)が少なくとも100m2/gであり、吸油量(OAN)が少なくとも150mL/100gである第2のカーボンブラック材料とを含む。両方のカーボンブラック材料はそれぞれの浸透閾値濃度未満の量で含まれ、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料の総量はポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分である。ポリマー組成物は、バランスのとれた電気的および機械的特性ならびに減少したヒステリシスを示す。本開示はまた、そのような帯電防止性または導電性ポリマー組成物を調製するための方法、およびそのような組成物から作製された物品に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分を含む帯電防止性または導電性ポリマー組成物:
(a)電気絶縁性ポリマー材料、
(b)ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が70m2/g未満であり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が70~150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第1のカーボンブラック材料、および
(c)ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が少なくとも100m2/gであり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が少なくとも150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第2のカーボンブラック材料、
ここで、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料の総量は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分である。
【請求項2】
電気絶縁ポリマー材料がエラストマー、好ましくはゴムを含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
第1のカーボンブラック材料が、その浸透閾値濃度の50~100%未満、好ましくはその浸透閾値濃度の60~90%、より好ましくはその浸透閾値濃度の65~85%の量で組成物中に存在する、および/または第2のカーボンブラック材料が、その浸透閾値濃度の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下の量で組成物中に存在する、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
組成物中の第1のカーボンブラック材料対第2のカーボンブラック材料の重量比が少なくとも5:1である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
第1のカーボンブラック材料が、第2のカーボンブラック材料の浸透閾値濃度よりも高い浸透閾値濃度を示し、好ましくは、第1のカーボンブラック材料の浸透閾値濃度が、第2のカーボンブラック材料の浸透閾値濃度の少なくとも150%、例えば少なくとも300%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
第1のカーボンブラック材料がランプブラックおよびファーネスブラックの少なくとも1種を含む、および/または第2のカーボンブラック材料がファーネスブラックを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
第1のカーボンブラック材料において、ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が、60m2/g以下、例えば50m2/g以下、40m2/g以下、30m2/g以下、または20m2/g以下であり、および/またはASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が、80~145mL/100g、例えば100~140mL/100gの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
第2のカーボンブラック材料において、ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が、少なくとも150m2/g、例えば少なくとも200m2/gまたは少なくとも300m2/gまたは少なくとも500m2/gであり、および/またはASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が、少なくとも170mL/100g、例えば少なくとも200mL/gまたは少なくとも250mL/gである、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
硬化性ゴム組成物である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記ゴム組成物が硬化時に、少なくとも5MPa、例えば少なくとも8MPaの弾性率M300%、および/または少なくとも10MPa、例えば少なくとも15MPaまたは少なくとも20MPaの引張強度、および/または0.06未満、例えば0.056以下の損失係数tanδ(60℃で)を示す、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の帯電防止性または導電性ポリマー組成物から作製された物品。
【請求項12】
タイヤ、タイヤ部品、ケーブルシース、チューブ、駆動ベルト、コンベヤベルト、ロールカバー、靴底、シール部材、プロファイルまたは湿し要素である、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のポリマー組成物のような帯電防止性または導電性ポリマー組成物を調製するための方法であって、
下記成分を電気絶縁性ポリマー材料に添加することを含む方法:
(a)ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が70m2/g未満であり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が70~150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第1のカーボンブラック材料、および
(b)ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が少なくとも100m2/gであり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が少なくとも150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第2のカーボンブラック材料、
ここで、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分な総量で使用される。
【請求項14】
撹拌、粉砕、混練またはそれらの組み合わせなどによって、帯電防止性または導電性ポリマー組成物を均質化することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が70m2/g未満であり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が70~150mL/100gである第1のカーボンブラック材料と、ASTM D6556-17に従って測定された統計的厚さ表面積(STSA)が少なくとも100m2/gであり、ASTM D2414-18に従って測定された吸油量(OAN)が少なくとも150mL/100gである第2のカーボンブラック材料との組合せの、導電性フィラーまたは帯電防止剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランスのとれた電気的および機械的性質と低減されたヒステリシスとを有する静電散逸性および導電性ポリマー組成物に関する。より具体的には、本発明は、2つのタイプのカーボンブラック材料の特徴的な組み合わせを含有するポリマー組成物に関し、最初のものは、低比表面積で中程度の構造を有し、2番目のものは、高比表面積で高度の構造を有し、それぞれ浸透閾値(percolation threshold)濃度未満の濃度で使用される。本発明はさらに、そのような帯電防止性または導電性ポリマー組成物を調製するための方法、およびそれから製造される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物のようなポリマー組成物は、トランスミッションおよびコンベヤベルト、タイヤまたは履物のような多数の工業製品を製造するために広く適用されている。ポリマー材料は、典型的には電気絶縁性である。しかしながら、多くの用途は、例えば安全上の理由から静電気帯電を防止するために、組成物が導電性または帯電防止性であることを必要とする。
【0003】
導電性は、カーボンブラック、カーボンファイバまたは金属ファイバのような高い固有導電性の微粒子フィラーを追加することによって、ポリマー組成物に付与することができる。カーボンブラック材料はそのグラファイト基礎構造のために本質的に導電性であり、したがって、導電性フィラーまたは帯電防止剤として本来絶縁性のポリマー組成物に組み込むことができる。ポリマー組成物の電気的性質に対するそれらの影響は、とりわけカーボンブラックの形態および構造に依存する。多数の従来のカーボンブラック、例えばASTMグレードのカーボンブラックが市販されており、ポリマー組成物用の導電性フィラーまたは帯電防止剤として当技術分野で使用されている。それにもかかわらず、電気散逸性または導電性を付与するために、このような従来のカーボンブラックは、典型的には比較的高い濃度で適用されなければならない。しかしながら、この手段は、多量の資源を消費するばかりでなく、剛性、硬さ、またはヒステリシス特性のような機械的性質などのポリマー組成物の他の性質に悪影響を及ぼすこともある。特に、それは一般に、組成物のヒステリシス、すなわち動的変形時のエネルギー損失の実質的な増加を引き起こす。しかしながら、着実に増大する性能要件および導入された世界的なCO2規制を考慮すると、タイヤ産業など、少なくとも幾つかの用途において、例えば、低い転がり抵抗を有する省燃費タイヤの製造のために、電気的および機械的特性の点で依然として要件を満たしかつヒステリシスを低減したポリマー組成物を提供することが望ましいと思われる。
【0004】
特別に開発された高導電性カーボンブラック(超伝導性カーボンブラックとも呼ばれる)は、より低い濃度でポリマー組成物に帯電防止特性または導電特性を付与することができる。しかしながら、これらの特殊カーボンブラックは、比較的高価であり、大量に入手するには限界があり、時にはポリマー材料中で適切に加工および/または分散させることが困難である。さらに、それらは典型的には、少なくとも低い充填レベルでは、多くの用途に充分な程度までポリマー組成物を硬化および強化しない。
【0005】
異なる導電性フィラーの混合物または組み合わせの使用もまた、当該技術分野において以前から考慮されてきた。
【0006】
かくして、DE4024268号A1は、浸透閾値以上の濃度でポリマーマトリックス中に均質に分散されたカーボンブラックおよび/または粉状グラファイトと、それぞれの浸透閾値より非常に低い濃度で種類の異なる第2の導電性フィラーとを含む導電性ポリマー化合物を開示している。この文献には、カーボンブラックと、カーボンファイバもしくはグラファイトファイバおよび/または金属もしくは金属化カーボンファイバとの混合物が具体的に記載されている。導電性フィラーのこのような組み合わせの使用は、ポリマー組成物の化学的または機械的性質または加工性に悪影響を及ぼすことなく、化合物の望ましい、例えば強化された導電性を広範囲にわたって調整することを可能にすると考えられる。ヒステリシスが低減された帯電防止性または導電性ポリマー組成物を提供するための2種以上の異種のカーボンブラックの組合せまたはそのための手段は、そこに開示されていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、上記の欠陥および限定の少なくともいくつかを克服または軽減する帯電防止性または導電性ポリマー組成物を提供することである。したがって、本発明は特に、例えばタイヤおよび機械的ゴム製品の製造に適した、ヒステリシスが低減され、良好な機械的特性を有する帯電防止性または導電性ポリマー組成物を提供することを目的とする。ポリマー組成物はさらに、良好に加工可能であり、容易に入手可能な材料から低コストで効率的に達成可能であるべきである。
【発明の概要】
【0008】
この目的は驚くべきことに、添付の独立請求項1に規定されるような帯電防止性または導電性ポリマー組成物を提供することによって達成された。その組成物は下記の成分を含む:
(a)電気絶縁性ポリマー材料、
(b)統計的厚さ表面積(STSA)が70m2/g未満であり、吸油量(OAN)が70~150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第1のカーボンブラック材料、および
(c)STSAが少なくとも100m2/gであり、OANが少なくとも150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第2のカーボンブラック材料、
ここで、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料の総量は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分なものである。第1のカーボンブラック材料は特に、ランプブラックを含むことができ、またはランプブラックであることができる。
【0009】
本発明はまた、そのような帯電防止性または導電性ポリマー組成物を調製するための方法にも関する。この方法は、下記成分を電気絶縁性ポリマー材料に添加することを含む:
(a)STSAが70m2/g未満であり、OANが70~150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第1のカーボンブラック材料、および
(b)STSAが少なくとも100m2/gであり、OANが少なくとも150mL/100gである、浸透閾値濃度未満の量の第2のカーボンブラック材料、
ここで、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分な総量で使用される。
【0010】
本発明はさらに、上記の帯電防止性または導電性ポリマー組成物から製造された物品に関する。
【0011】
さらに、本発明は一般に、下記成分の組み合わせの導電性フィラーまたは帯電防止剤としての使用に関する:
(a)STSAが70m2/g未満であり、OANが70~150mL/100gである第1のカーボンブラック材料、および
(b)STSAが少なくとも100m2/gであり、OANが少なくとも150mL/100gである第2のカーボンブラック材料。
【0012】
本発明による特徴的なカーボンブラックフィラーの組み合わせは、ヒステリシスの減少を示すバランスのとれた電気的および機械的性質を有する帯電防止性または導電性ポリマー組成物を提供することを可能にし、これは例えば、省燃費タイヤの製造に有益であり、効率的かつ良好に制御可能な手法である。この組成物は、高レベルの剛性および引張強さにおいて、意図された帯電防止性挙動または導電性挙動と相まって、低いヒステリシスを有する。ポリマー組成物はさらに、加工性がよく、押出成形に適するとともに、手頃な価格である。本発明による帯電防止性または導電性ポリマー組成物は、良好な加工性を示し、典型的には、カーボンブラックフィラーおよび/または高価な特殊カーボンブラックの総量を減少させることが可能で、その結果、それらを比較的低いコストおよび資源消費で提供することができる。いかなる理論にも拘束されることを意図するものではないが、本発明者らは、低比表面積で中程度の構造を有するカーボンブラック材料(70m2/g未満のSTSAかつ70~150mL/100gのOAN)および高比表面積で高度の構造を有するカーボンブラック材料(少なくとも100m2/gのSTSAかつ少なくとも150mL/100gのOAN)が互いを補完して、比較的低い総カーボンブラック充填量で、ポリマーマトリクス中に可撓性フィラーネットワークを形成することを可能にし、これは電荷を効率的に伝導し、材料中の多くのエネルギー散逸を伴わずに外部機械的応力に可逆的に適応し得ると考える。
【0013】
本発明のこれらおよび他の任意の特徴および利点は、添付の図を参照して以下の説明においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、参照例1~4によるSMR10天然ゴムマトリックス中の異なるカーボンブラック材料についての体積抵抗率-濃度プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書中で使用される場合、用語「含む」は、非限定的に理解され、記載されていないまたは列挙されていない追加の要素、材料、成分または方法ステップなどの存在を排除しないと理解される。用語「包含する」、「含有する」および同様の用語は、「含む」と同義であると理解される。本明細書中で使用される場合、用語「からなる」は、任意の特定されていない要素、成分または方法ステップなどの存在を除外すると理解される。
【0016】
本明細書で使用されるように、「a」、「an」および「the」の単数形は文脈が明らかにそわないことを示さない限り、複数の指示対象を包含する。
【0017】
特に断りのない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載された数値パラメータおよび範囲は概算値である。本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは概算値であるが、具体的な実施例で示された数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は、それらのそれぞれの測定における標準偏差から必然的に生じる誤差を含む。
【0018】
また、本明細書に列挙される任意の数値範囲は、その中に属するすべてのサブ範囲を包含することが意図されていることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10との間およびそれらを包含する任意のすべてのサブ範囲、すなわち、1以上の最小値で始まり10以下の最大値で終わるすべてのサブ範囲、および、例えば、1~6.3、または5.5~10、または2.7~6.1の間のすべてのサブ範囲を包含することが意図される。
【0019】
上述のように、本発明は、ポリマー組成物に関する。ポリマー組成物は、電気絶縁性ポリマー材料と、比較的低い比表面積および中程度の構造を有する第1のカーボンブラック材料と、比較的高い比表面積および高度の構造を有する第2のカーボンブラック材料とを含む。第1および第2のカーボンブラック材料は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にする総量で使用される。
【0020】
用語「組成物」は、本明細書中で使用される場合、複数の構成化学種または成分から構成される材料を指す。用語「ポリマー組成物」は、少なくとも1つのポリマー材料を含む組成物を指す。したがって、「ポリマー組成物」は、単一種のポリマー材料または2つ以上の種類の異なるポリマー材料を含むことができる。「ポリマー材料」は、本質的にポリマーからなる材料として理解される。用語「ポリマー」は、当技術分野におけるその一般的な意味で本明細書で使用され、高分子化合物、すなわち、その構造が比較的低い分子量の化学種から実際にまたは概念的に誘導された複数の繰り返し単位(「マー(mers)」とも呼ばれる)を含む、比較的高い分子量(例えば500da以上)を有する化合物を指す。
【0021】
本発明による組成物は、電気絶縁性ポリマー材料を含む。本明細書で使用される「電気絶縁性」とは、109Ω・cmを超える固有体積抵抗率を示す材料を指す。したがって、109Ω・cmより大きい体積抵抗率を示すいかなる種類のポリマー材料も、本実施において使用することができる。最も知られているポリマー材料は、1014Ω・cm程度の体積抵抗率を有する絶縁体である。ポリマー材料の体積抵抗率は、DIN EN62631-3-2:2016に従って測定することができる。ポリマー材料は有機または無機であることができ、典型的には、有機である。熱可塑性さらにはデュロプラスチック(duroplastic)もしくは熱硬化性ポリマーまたはポリマー混合物を使用することができる。例えば、本発明の組成物中で有用な絶縁性ポリマー材料は、これらに限定されないが、エポキシまたはウレタンなどの熱硬化性樹脂、ならびに、熱可塑性樹脂、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルスルホンなどのポリエーテル、および低密度、中密度および高密度ポリエチレンおよびエチレン-プロピレンコポリマーなどのランダムまたはブロック構成を有するポリオレフィン、ポリプロピレンマレイン酸無水物、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー、ポリアクリレート、エチレンビニルアセテート、エチレン-アクリル酸コポリマー、塩化ビニル-ポリプロピレンコポリマー、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、および架橋ポリエチレン(化学的、熱的、UVまたはEビーム(EB)架橋)、およびポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリールスルホン、およびポリプロピレンオキシド変性ポリエーテルスルホンを含む。
【0022】
本発明の実施のためのポリマー材料として特に有用なのは、ゴム材料のようなエラストマーである。組成物は例えば、加硫性ポリマー組成物の場合のように、オレフィン性不飽和を含有する1つ以上のゴムまたはエラストマー、すなわちジエン系ゴムまたはエラストマーを含むことができる。しかしながら、ポリマー成分はまた、そのような不飽和を含まない他のポリマーまたはゴム材料、例えば、熱可塑性または熱硬化性ポリマーを含んでもよい。本発明による組成物において電気絶縁性ポリマー材料として使用することができる適切な例示的なゴム材料には、スチレン-ブタジエンコポリマー、エマルジョン-スチレン-ブタジエンゴム、溶液-スチレン-ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム、およびブタジエン、イソプレン、ピペリレンおよびイソモノオレフィンとスチレンまたはメチルスチレンとのポリマーおよびコポリマー、およびハロゲン化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンおよびクロロスルホン化ポリエチレンなどハロゲン化ゴム製品、エチレン-ビニルアセテートゴム、エチレン-アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フルオロカーボンゴム、ならびにこれらのいずれかの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。ポリマー材料は、1つのポリマーのみ、または例えば天然ゴムと合成ゴムの混合物などの2つ以上の異なるポリマーの混合物を含むことができる。ポリマー材料は、任意の形態で供給することができるが、典型的にはベール、チップ、ペレットまたは粉末として供給することができる。本発明の実施に使用することができる非限定的な特定ゴム材料は例えば、ウェーバ&シェア社から市販されているSMR10ゴム、デュポン社から市販されているVamac(登録商標)UltraHT、ユニマテック社から市販されているNoxtite RE461(登録商標)、バーサリス社から市販されているEuroprene(登録商標)1500、またはアランキソ社から市販されているKeltan(登録商標)4455ゴムを含む。
【0023】
ポリマー材料は、典型的には本発明によるポリマー組成物の主成分を構成し、すなわち、組成物の全固形分重量の50重量%以上を含む。例えば、ポリマー材料は、組成物の全固形分重量に基づいて、組成物の60重量%以上、または70重量%以上を構成することができる。ポリマー材料は例えば、組成物の全固形分重量に基づいて、組成物の最大90重量%、例えば最大80重量%を構成することができる。
【0024】
上記のように、本発明による組成物は、第1のカーボンブラック材料と第2のカーボンブラック材料との特徴的な組み合わせをさらに含む。
【0025】
本発明で使用される第1のカーボンブラック材料は、70m2/g未満の統計的厚さ表面積(STSA)および70~150mL/100gの吸油量(OAN)を有する任意のカーボンブラック材料であってよい。例えば、第1のカーボンブラック材料は、60m2/g以下、好ましくは50m2/g以下、例えば40m2/g以下、30m2/g以下、または20m2/g以下のSTSAを有することができる。第1のカーボンブラック材料のSTSAは、例えば1~70m2/g未満、例えば5~50m2/gであることができる。第1のカーボンブラック材料は例えば、80~145mL/100g、例えば90~145mL/100g、または100~140mL/100g、または110~130mL/100gの範囲のOANを有することができる。列挙された限界値のいずれかの間のSTSAおよびOANの範囲も同様に本発明の範囲内である。統計的厚さ表面積(STSA)は、ASTM D6556-17に従って決定することができる。吸油量(OAN)は、カーボンブラックの構造の尺度を表し、ASTM D2414-18に従って測定することができる。
【0026】
さらに、第1のカーボンブラック材料は、ASTM D3493-18に従って測定された、100mL/100g未満、例えば75mL/100g未満の圧縮吸油量(COAN)を有することができる。
【0027】
第1のカーボンブラック材料は、凝集体粒度分布(ASD)において最も頻繁な直径であるモード直径Dmode(「モード」とも呼ばれる)が100nmより大きい、例えば120nmより大きい、150nmより大きい、または200nmより大きい、または250nmより大きい、または300nmより大きい、または500nmより大きいことを特徴とするASDを有することができる。粒度分布の幅は、その半値全幅(FWHM)で表すことができ、ΔD50とも呼ばれる。DIN ISO15825によれば、ΔD50は、モードの半最大点で測定された分布の幅を表す。第1のカーボンブラック材料の凝集体粒度分布は、少なくとも40nm、例えば少なくとも60nm、または少なくとも100nm、または少なくとも150nm、または少なくとも200nm、または少なくとも300nm、または少なくとも500nmのΔD50を有することができる。カーボンブラック材料の凝集体粒度分布は、米国特許出願公開第2019/0062522A1号明細書に記載されているように、ブルックヘブンBI-DCPディスク遠心機を用いた光散乱によって測定することができる。
【0028】
本発明で使用される第2のカーボンブラック材料は、少なくとも100m2/gの統計的厚さ表面積(STSA)および少なくとも150mL/100gの吸油量(OAN)を有する任意のカーボンブラック材料であり得る。例えば、第2のカーボンブラック材料は、少なくとも100m2/g、例えば少なくとも120m2/g、少なくとも150m2/g、少なくとも200m2/g、少なくとも300m2/g、少なくとも500m2/g、または少なくとも1000m2/gのSTSAを有することができる。第2のカーボンブラック材料は、少なくとも150mL/100g、少なくとも170mL/100g、少なくとも200mL/gまたは少なくとも250mL/100gのOANを有し得る。STSAおよびOANは、第1のカーボンブラック材料について上述したように測定することができる。
【0029】
第2のカーボンブラック材料は、ASTM D3493-18に従って測定したCOANが100mL/100gを超える、例えば120mL/100gを超えることができる。
【0030】
さらに、第2のカーボンブラック材料は、100nm未満、例えば90nm未満、または80nm未満、または70nm未満、または60nm未満、または50nm未満などのモード径Dmodeを特徴とする凝集体粒度分布(ASD)を有することができる。第2のカーボンブラック材料の凝集体粒度分布はさらに、100nm未満、例えば80nm未満もしくは60nm未満、または50nm未満、または40nm未満の半値全幅(ΔD50)を有することができる。
【0031】
本発明の実施において、第1または第2のカーボンブラック材料としてそれぞれ使用することができる、前述の物理的特性を有するカーボンブラック材料は、ファーネスプロセス、ガスブラックプロセス、アセチレンブラックプロセス、サーマルブラックプロセスまたはランプブラックプロセスなどの確立された工業的方法に従って、炭化水素前駆体から制御された部分熱分解によって製造することができる。カーボンブラックの製造はそれ自体当技術分野で周知であり、例えばJ.-B.ドネット他、「カーボンブラック:サイエンス・アンド・テクノロジー」、第2版に概説されているため、ここではこれ以上詳細には説明しない。したがって、本発明の実施に使用される第1および第2のカーボンブラック材料は、それぞれの特性を有する市販のカーボンブラックグレードから選択することができる。
【0032】
第1のカーボンブラック材料として有用なカーボンブラックは、典型的にはランプブラックおよび/またはファーネスブラックを含む。第1のカーボンブラック材料として好適なファーネスブラックとしては、例えば、ECORAX(登録商標)S204、ECORAX(登録商標)S470、PUREX(登録商標)HS45、PUREX(登録商標)HS25、CORAX(登録商標)N6600、CORAX(登録商標)N650、またはCORAX(登録商標)N550が挙げられ、これらは全てオリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている。好適なランプブラック材料は、同様にオリオン・エンジニアド・カーボンズ社から入手可能なDUREX(登録商標)0またはLampblack101によって例示することができる。ランプブラックを第1のカーボン材料として使用した場合、ポリマー組成物の驚くほど高い導電率および/または減少したヒステリシスの点で特に好ましい特性が達成された。いかなる理論にも束縛されるものではないが、本発明者らはこれが、他の技術によって製造されるカーボンブラックに対するランプブラックの比較的広い粒度分布および/または比較的高い純度に関連し得ると考える。
【0033】
本発明に従って使用される第2のカーボンブラック材料は典型的にはファーネスブラックを含むが、これに限定されるものではない。本発明による第2のカーボンブラック材料として特に有用なカーボンブラックは、高導電性カーボンブラック(超伝導性カーボンブラックとも呼ばれる)、すなわち、低浸透閾値濃度を有するカーボンブラック、例えば、PRINTEX(登録商標)XE2B、XPB538またはXPB545であり、これらは全てオリオン・エンジニアド・カーボンズ社から入手可能である。
【0034】
第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料はそれぞれ、それぞれの浸透閾値濃度未満の量で、本発明によるポリマー組成物中に含まれる。周知であり、かつ例えばJ.-B.ドネット他、「カーボンブラック:サイエンス・アンド・テクノロジー」、第2版に記載されているように、ポリマーマトリックスに添加される粒子状導電性フィラーの量が増加すると、ポリマーマトリックス中に分散した導電性粒子が導電性フィラーネットワークを形成し始め、いわゆる浸透領域(percolation zone)を経由して絶縁領域(insulating zone)から導電性領域(conductive zone)へ移行し、一般にポリマー材料の体積抵抗率は減少する。浸透閾値濃度は一般に、体積抵抗率の最大の変化が観察されるフィラー濃度(すなわち、体積抵抗率-フィラー濃度プロットの最大勾配に対応する濃度)を指す。より具体的には、本明細書で使用される「浸透閾値濃度」は、105Ω・cmの臨界体積抵抗率を達成するために必要とされる、所与の絶縁ポリマー材料中のカーボンブラック材料の濃度を意味し得る。浸透閾値濃度は、実施例に概説するように決定することができる。
【0035】
当業者には理解されるように、浸透閾値濃度は、導電性フィラー、例えばカーボンブラック、およびポリマーホスト材料の種類に依存する。したがって、浸透閾値濃度は一般に、図1にも示すように、所与のポリマー材料ごと、別個のカーボンブラック材料ごとに異なる。第1のカーボンブラックの浸透閾値濃度は、典型的には本発明の実施において、第2のカーボンブラックの浸透閾値濃度よりも高い。第1のカーボンブラック材料の浸透閾値濃度は例えば、第2のカーボンブラック材料の浸透閾値濃度の少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも300%、または少なくとも400%であり得る。
【0036】
第1および第2のカーボンブラック材料はそれぞれ、それぞれの浸透閾値濃度未満の量で本発明に従って使用されるが、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料の総量は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分である。本明細書で使用される「帯電防止性」または「静電散逸性」は、109~104Ω・cmの体積抵抗率を有する材料を指す。本明細書で使用される場合、「導電性」は、各材料が104Ω・cm未満の体積抵抗率を有することを意味する。
【0037】
本発明によれば、第1のカーボンブラック材料は、ポリマー組成物中の第2のカーボンブラック材料よりも多量に使用されることが好ましい。例えば、第1のカーボンブラック材料は、その浸透閾値濃度の50~100%未満、好ましくは60~90%、より好ましくは65~85%の量でポリマー組成物中に存在することができる。第2のカーボンブラック材料は例えば、その浸透閾値濃度の50%以下、好ましくは40%以下、例えば35%以下の量で組成物中に存在することができる。組成物中の第1のカーボンブラック材料対第2のカーボンブラック材料の重量比は、例えば、少なくとも5:1、好ましくは少なくとも6:1、さらにより好ましくは少なくとも8:1であり得る。
【0038】
本発明によるポリマー組成物は、任意で、例えば、上述の第1および第2のカーボンブラック材料とは異なるさらなるカーボンブラック材料、カーボンファイバ、金属被覆カーボンファイバ、カーボンナノチューブ、グラファイト、金属ファイバなどのさらなる導電性フィラーを含むことができる。しかし、典型的には、本発明による組成物は、第1および第2のカーボンブラック材料に加えて、さらなる導電性フィラーを含まない。
【0039】
本発明による帯電防止性または導電性組成物は、任意で、製剤の技術分野で一般に使用される1つまたは複数の添加剤をさらに含むことができる。そのような添加剤の例は例えば、油およびワックス;二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、クレー、ケイ酸カルシウム、硫化亜鉛、含水アルミナおよび焼成マグネシアのようなフィラー、顔料、染料、加工助剤、レオロジー調整剤、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、活性剤、硫黄硬化剤、老化防止剤および酸化防止剤;熱安定剤または光安定剤;可塑剤などである。当業者は、ポリマー組成物の所望の特性および/または用途に従って、そのような任意の添加剤およびそれらのそれぞれの量を選択するであろう。
【0040】
本発明によるポリマー組成物は特に、例えば、硬化性ゴム組成物などの硬化性組成物であり得る。硬化は、光、湿気、熱および/または架橋剤の付加などの当技術分野で知られている任意の手段によって誘発することができる。硬化反応は例えば、加硫であり得る。ポリマー組成物に含まれる適切な硬化剤は例えば、硫黄、過酸化水素、金属酸化物などを含むことができる。
【0041】
本発明によれば、ポリマー組成物は例えば硬化時に、少なくとも5MPa、例えば少なくとも8MPa、少なくとも9MPa、または少なくとも10MPaの弾性率300%を示すことができる。さらに、ポリマー組成物は例えば硬化時に、10MPa以上、例えば15MPa以上、または20MPa以上の引張強度を有することができる。ポリマー組成物は例えば硬化時に、0.060以下、好ましくは0.058以下、さらにより好ましくは0.056以下の損失係数tanδによって反映される低いヒステリシスを有することができる。損失係数tanδは、DIN53 513に従って、60℃、16Hzの周波数で、円筒形試験片(高さ10mm、直径10mm)上で、歪み制御モード(1±0.5mm)で測定することができる。
【0042】
理解されるように、本発明による組成物は、帯電防止性または導電性、機械的強度および/または剛性および/または低いヒステリシスを有するポリマー系材料を必要とする様々な技術的用途に利用することができる。したがって、本発明はまた、上記の帯電防止性または導電性ポリマー組成物から製造されるか、またはそれを含む物品に関する。そのような物品の非限定的な例は例えば、タイヤ、タイヤ部品、ケーブルシース、チューブ、駆動ベルト、コンベヤベルト、ロールカバー、靴底、シール部材、プロファイルまたは湿し要素(dampening elements)である。本発明による組成物は、適切な電気的および機械的特性と組み合わせて達成可能な極めて低いヒステリシスにより、転がり抵抗および熱蓄積を低減した省燃費タイヤの製造に特に興味深いものである。
【0043】
本発明による帯電防止性または導電性ポリマー組成物は、下記成分を電気絶縁性ポリマー材料に添加することによって製造することができる:
70m2/g未満の統計的厚さ表面積(STSA)および70~150mL/100gの吸油量(OAN)を有し、浸透閾値濃度未満の量の第1のカーボンブラック材料、および
少なくとも100m2/gの統計的厚さ表面積(STSA)および吸油量(OAN)を有し、浸透閾値濃度未満の量の第2のカーボンブラック材料、
ここで、第1のカーボンブラック材料および第2のカーボンブラック材料は、ポリマー組成物を帯電防止性または導電性にするのに充分な総量で使用される。本方法は、撹拌、粉砕、混練、またはそれらの組み合わせなどによって、帯電防止性または導電性ポリマー組成物を均質化することをさらに含んでもよい。
【0044】
したがって、カーボンブラック材料は、電気絶縁性ポリマー材料中に微細に分散させることができる。分散は、混合、撹拌、粉砕、混練、超音波、溶解機、シェーカーミキサー、ロータ撹拌分散アセンブリ、または高圧ホモジナイザー、またはそれらの組み合わせによるような、当技術分野で公知の任意の手段によって達成することができる。例えば、かみ合いロータ形状を有するラボミキサーを使用することができる。分散は、例えば、カーボンブラック材料がポリマー組成物中に均質に分散し、ASTM D2663-88試験方法Bによる分類で95%以上、好ましくは97以上、または99%以上の分散指数となるまで行うことができる。
【0045】
本発明によれば、組成物の調製は例えば、以下の2つのステップで行うことができる:第1に、第1のカーボンブラック材料の後に第2のカーボンブラック材料をまたは第2のカーボンブラック材料の後に第1のカーボンブラック材料を電気絶縁性ポリマー材料に添加するなどして、第1のカーボンブラック材料、第2のカーボンブラック材料、および、任意に非硬化性添加剤(使用される場合)を同時にまたは連続的に電気絶縁性ポリマー材料に添加する。次いで、ポリマー材料、カーボンブラック材料、および存在する場合には任意の添加剤を、160℃未満などの高温で、10分未満、好ましくは約6分の合計混合時間にわたって混合してもよい。次の第2のステップでは、第1のステップから得られた混合物を、1つ以上の硬化性添加剤を含む硬化組成物と、115℃未満の温度で5分未満、典型的には3分未満、好ましくは約2.5分間ブレンドする。
【0046】
この方法は、製品を押出成形しまたは室温に冷却し、それをさらなる加工のために貯蔵するなどのさらなるステップを含むことができる。本方法は、例えば組成物を熱硬化条件、例えば120~200℃の温度に5~30分間かけることによって実施することができる硬化ステップをさらに含むことができる。
【0047】
以上、本発明を概説したが、以下の具体例を参照することにより、さらなる理解を得ることができる。これらの実施例は単に説明の目的で本明細書に提供され、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明はむしろ、その任意の等価物を含む添付の特許請求の範囲の全範囲を与えられるべきである。
【実施例
【0048】
本明細書中で言及される全ての部および割合は、別段の指示がない限り、重量を指す。
カーボンブラック材料
以下のカーボンブラック材料を導電性フィラーとして使用して、静電散逸性または導電性ポリマー化合物を調製した。
DUREX(登録商標)0:
オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている、約17m2/gのSTSAおよび約135mL/100gのOANを有するランプブラック。
CORAX(登録商標)N550:
オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている、約39m2/gのSTSAおよび約121mL/100gのOANを有するファーネスブラック。
CORAX(登録商標)N772:
オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている、約30m2/gのSTSAおよび約65mL/100gのOANを有するファーネスブラック。
PRINTEX(登録商標)XE2B:
オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている、約950m2/gのSTSAおよび約420mL/100gのOANを有する高導電性カーボンブラック。
XPB538:
オリオン・エンジニアド・カーボンズ社から市販されている、約550m2/gのSTSAおよび約280mL/100gのOANを有する高導電性カーボンブラック。
【0049】
カーボンブラックの統計的厚さ表面積(STSA)は、ASTM D6556-17に従って決定した。
【0050】
カーボンブラックの吸油量(OAN)は、ASTM D2414-18aに従って測定した。
【0051】
浸透閾値濃度を決定するための、系統的に変化させた単一タイプのカーボンブラックフィラーを有する参照ゴム化合物の調製
系統的に変化させた量の単一タイプの前述のカーボンブラックフィラーを有するゴム化合物を、表1に示す配合に従って以下のように調製した。
【0052】
【表1】
1:ウェーバ&シェア社から入手可能な天然ゴム。
2:ハンセン&ローゼンタール社から入手可能な鉱油。
3:ランクセス社から入手可能な酸化防止剤。
4:パラメルト社から入手可能な微結晶性ワックス。
5:イーストマンケミカル社から入手可能な炭化水素樹脂。
6:ランクセス社から入手可能な加硫促進剤。
【0053】
ポリマー成分を、ハールブルク・フロイデンベルガー製のかみ合いPES5ロータ形状を有するラボミキサーGK1.5Eに導入し、40℃のチャンバ温度および60rpmのロータ速度で30秒間粉砕した。続いて、カーボンブラック、Vivatec500、ZnO、ステアリン酸、Vulkanox4020/LG、Protektor G3108およびKristalex F85を示された量で、撹拌しながら添加した。使用したカーボンブラックのそれぞれの量を下記表2に示す。さらに90秒後、ラムを持ち上げ、洗浄し、バッチを再び90秒間混合した。合計4分後、バッチをオープンミル上に落下させて冷却し、さらに分配混合した。バッチ温度は、第1の混合ステップにおいて160℃を超えなかった。次に、第2の混合ステップにおいて、硫黄および促進剤(Vulkacit CZ/EG-Z)を示された量で、第1の混合ステップから得られたマスターバッチに添加した。得られた混合物をGK1.5Eミキサー中で40℃のチャンバ温度で2分間粉砕した。ロータ速度は40rpmで、バッチ温度は105℃を超えないように確保した。続いて、混合物をオープンミルで再び処理した。
【0054】
得られた加硫性ゴム組成物(緑色の化合物)を150℃の温度で約20分間硬化させた。
【0055】
次に、このようにして得られた硬化組成物の体積抵抗率を、DIN EN62631-3-2:2016に従って測定した。結果を下記表2にまとめる。
【0056】
【表2】
【0057】
図1は、参照例1~4のカーボンブラック濃度の関数としての体積抵抗率のプロットを示す。各カーボンブラックグレードについて、分離領域(isolation region)から導電性領域への移行は、カーボンブラック濃度が増加することにつれて起こる。この移行はカーボンブラック積載で起こり、XPB538<N550<Durex0<N772の順に増加する。図1の横線の破線は105Ω・cmの体積抵抗率を示している。浸透閾値濃度、すなわち、ゴム化合物が分離領域から導電性領域へ通過し、105Ω・cmの体積抵抗率に到達するフィラー濃度は、それぞれの体積抵抗率-濃度曲線と破線の水平線との交点におけるX軸の値として決定される。したがって、所与のゴム材料について、次のように浸透閾値濃度が決定された:XPB538については約12phr、N550については約44phr、Durex0については約52phr、およびN772については約68phr。PRINTEX(登録商標)XE2B(図示せず)は、XPB538に類似した高導電性カーボンブラックとして、所与のゴム材料において約10phrの臨界カーボンブラック濃度を示した。Durex0は、その比表面積がN772の場合よりも著しく小さいことを考慮すると、驚くほど低い浸透閾値濃度を示した。
【0058】
単一タイプのカーボンブラックフィラー対それらの組み合わせを使用する導電性ゴム化合物の調製
104Ω・cm程度の比較可能な体積抵抗率を有するゴム化合物を、表1の製剤および参照例1~4の文脈で上記した方法に従って、単独で(比較例6~9)、または組み合わせて(比較例10および実施例11~13)、下記表3に示す量で、様々な種類のカーボンブラックを使用して調製した。さらに、カーボンブラックを含有しない未充填ゴム化合物を参考として調製した(比較例5)。
【0059】
加硫ポリマー組成物の特性分析
このようにして調製した実施例5~13のゴム化合物を、下記方法に従って、それらの物理的特性について分析した。
【0060】
体積抵抗率は、DIN EN62631-3-2:2016に従って測定した。
【0061】
引張強度、破断伸びおよび弾性率300%は、DIN53 504に従って測定した。
【0062】
剪断A硬度は、DIN53 505に従って測定した。
【0063】
損失係数tanδは、DIN53 513に従って、60℃、16Hzの周波数で、円筒形試験片(高さ10mm、直径10mm)上で、歪み制御モード(1±0.5mm)で測定した。
【0064】
フィラー分散の尺度について、分散係数は、A.ウェーメイアー、「トポグラフィー測定によるフィラー分散解析」、テクニカルレポートTR820、デグサ社、およびA.ウェーメイアー、「表面形状が中程度のゴム化合物におけるフィラー分散状態の特性評価法の開発」、論文、1998、ミュンスター応用科学大学、ならびにDE19917975C2に記載の手順に従って、メダリア(Medalia)補正を含む表面トポグラフィーにより測定した。この方法によって得られる分散係数は一般に、ASTM D2663-88、試験方法Bに従って決定されるような光学的方法によって決定される分散係数とよく相関する(例えば、決定係数>0.95)。下記表3において、分散係数の代わりに、表面トポグラフィーに基づく方法において同様に記載されるピーク面積(%)が、フィラー分散の尺度として報告される。分散が良好であればあるほど、ピーク面積は小さくなる。
【0065】
結果を下記表3にまとめる。表3から分かるように、充填されていないゴム化合物(比較例5)は電気絶縁性であり、比較的劣った機械的性質を有する。例えばDUREX(登録商標)0、CORAX(登録商標)N550またはCORAX(登録商標)N772型の粗い粒子状カーボンブラックを加えることによって、ゴム化合物を導電性にすることができ、材料を硬化させかつ強固にすることができる。しかしながら、それらの浸透閾値濃度が比較的高いので、かなりの量のそのようなフィラーが必要とされる。したがって、これらの充填ゴム化合物は、高い損失係数tanδを示す(比較例6~8参照)。より低いヒステリシスは、導電性のないカーボンブラックグレード(XPB538)を使用することによって達成することができるが、この場合、硬度、弾性率および引張強さは著しく劣る(比較例9参照)。さらに、比較的高いピーク面積は、このような超伝導性カーボンブラック材料を微細に分散させる際の課題を示している。他方、実施例10~13の組成物は、参照例1~4から分かるように、粗粒状カーボンブラックと導電性カーボンブラック材料との混合物を、それぞれその浸透閾値濃度未満の量で含んでいた。なお、カーボンブラック材料の総量は、目標体積抵抗率を提供するのに充分であった。表3のデータから分かるように、これらのゴム組成物は、それぞれの粗粒状カーボンブラック単独の使用と比較して、低減された総カーボンブラック消費量でバランスのとれた電気的および機械的特性を示す。しかしながら、本発明によるカーボンブラックの組み合わせを使用した場合にのみ、超伝導性カーボンブラック単独の使用によって達成可能なレベルを超えるヒステリシスの減少が観察される(実施例11~13対比較例10参照)。したがって、本発明によるゴム化合物(実施例11~13)は、高レベルの剛性および引張強度において、目標とする導電性挙動および充分に小さなピーク面積によって反映される許容可能な加工性/分散度と組み合わされて、低減された低ヒステリシスを示す。それぞれの粗粒状カーボンブラックのみを含有する対応する化合物と比較して、カーボンブラックフィラーの総量が減少し、比較的少量の余分な導電性カーボンブラック材料のために、本発明によるゴム組成物は、比較的低いコストおよび資源消費で提供することができる。
【0066】
【表3】
【0067】
本発明による単一タイプのカーボンブラックフィラーまたはカーボンブラックの組合せを使用する帯電防止性ゴム化合物の調製
106Ω・cm程度の比較可能な体積抵抗率を有する静電散逸性ゴム化合物を、N550カーボンブラック単独(比較例14)またはXPB538(実施例15)との組合せのいずれかを用いて、表1の製剤および参照例1~4の文脈で上記した方法に従って、表4に示す量で調製した。得られた充填ゴム化合物の特性を上記のように分析し、表4に報告した。
【0068】
【表4】
【0069】
表4から分かるように、本発明によるカーボンブラックの組み合わせの使用することにより、N550のみを含有する対応するゴム化合物と比較して、さらに低い総カーボンブラック消費量で、さらに低い体積抵抗率および同等の機械的性質で、有意に減少したヒステリシスを有する帯電防止性ゴム化合物を得ることができる。
【0070】
したがって、上記の実施例によって例示されるように、本発明は電気的および機械的性質のバランスのとれたプロファイルおよび低減されたヒステリシスを有する帯電防止性または導電性ポリマー材料を提供することを可能にし、これは、例えば、省燃費タイヤの製造に有益である。
図1
【国際調査報告】