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特表2022-548725腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用
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  • 特表-腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用 図1
  • 特表-腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用 図2
  • 特表-腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用 図3A
  • 特表-腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用 図3B
  • 特表-腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20221114BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20221114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/5375 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/415 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20221114BHJP
   A61K 31/4192 20060101ALI20221114BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/192
A61P13/12
A61P43/00 111
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K31/5375
A61K31/415
A61K31/4164
A61K31/4439
A61K31/426
A61K31/454
A61K31/4192
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517754
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 US2020051458
(87)【国際公開番号】W WO2021055725
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/903,539
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522107393
【氏名又は名称】レネオ ファーマシューティカルズ,インク.
(71)【出願人】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】オ’キャロル,コリン
(72)【発明者】
【氏名】オ’ドネル,ネイル
(72)【発明者】
【氏名】マイナー,ジェフリー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA812
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086BC36
4C086BC38
4C086BC60
4C086BC73
4C086BC82
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA30
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA43
4C206MA55
4C206MA57
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
【解決手段】本明細書に記載されているのは、腎臓病の治療におけるPPARデルタアゴニストの使用であり、腎臓病は、アルポート症候群、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎、X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)、常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)または常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の腎臓病を治療するための方法であって、該方法は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストを前記哺乳動物に投与する工程を含み、ここで、前記哺乳動物は、コラーゲンIVのα3、α4、またはα5鎖をコードする遺伝子に1つ以上の変異を有する、方法。
【請求項2】
PPARδアゴニストは、細胞のPPARδに結合してこれを活性化し、細胞のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)およびガンマ(PPARγ)を実質的に活性化しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腎臓病は、アルポート症候群、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記腎臓病は、X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)、常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)または常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
PPARδアゴニストは、腎臓組織の脂肪酸酸化(FAO)を上昇させるか、腎臓組織のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)レベルを上昇させるか、腎臓組織の過剰なコラーゲン沈着を弱めるか、腎臓組織のミトコンドリア機能を上昇させるか、腎臓組織の酸化ストレスを弱めるか、腎臓組織の炎症を減少させるか、あるいはそれらの組み合わせである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は、タンパク尿を減少させる工程、血中尿素窒素(BUN)の増加を抑制する工程、糸球体内圧を低下させる工程、糸球体損傷を改善する工程、細胞外マトリックス沈着を改善する工程、腎線維症を減少させる工程、推算糸球体濾過量(eGFR)の減少を抑える工程、eGFRを増加させる工程、末期腎不全(ESRD)の発症を遅延させる工程、あるいはそれらの組み合わせを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、ベースライン値が約1.0mg/mgを超える場合に、約0.5mg/mg未満の尿タンパク質:クレアチニン比を達成する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、ベースライン値が約0.2を超えるが約1.0未満の場合に、約50%の尿タンパク質:クレアチニン比の減少を達成する工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシアルキルカルボン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物、フェノキシプロパン酸化合物、フェノキシブタン酸化合物、フェノキシペンタン酸化合物、フェノキシヘキサン酸化合物、フェノキシオクタン酸化合物、フェノキシノナン酸化合物、もしくはフェノキシデカン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物もしくはフェノキシヘキサン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
PPARδアゴニスト化合物は、アリルオキシフェノキシエタン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
PPARδアゴニスト化合物は、
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、もしくは
{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
PPARδアゴニストは、
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、
(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、
2-{4-[({2-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)スルファニル]-2-メチルフェノキシ}-2-メチルプロパン酸(ソデルグリタザル;GW677954)、
2-[2-メチル-4-[[3-メチル-4-[[4-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]フェニル]チオ]フェノキシ]-酢酸、
2-[2-メチル-4-[[[4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-チアゾリル]メチル]チオ]フェノキシ]-酢酸(GW-501516)、
[4-[[[2-[3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-5-チアゾリル]メチル]チオ]-2-メチルフェノキシ]酢酸(GW610742としても知られているGW0742)、
2-[2,6 ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-1(E)-プロペニル]フェノキシル]-2-メチルプロパン酸(エラフィブラノル;GFT-505)、
{2-メチル-4-[5-メチル-2-(4-トリフルオロメチル-フェニル)-2H-[1,2,3]トリアゾール-4-イルメチルスルファニル]-フェノキシ}-酢酸、
[4-({(2R)-2-エトキシ-3-[4-(トリフルオロメチル)フェノキシ]プロピル}スルファニル)-2-メチルフェノキシ]酢酸(セラデルパル;MBX-8025)、
(S)-4-[シス-2,6-ジメチル-4-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)ピペラジン-1-スルホニル]-インダン-2-カルボン酸もしくはそのトシル酸塩(KD-3010)、
(2s)-2-{4-ブトキシ-3-[({[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]カルボニル}アミノ)メチル]ベンジル}ブタン酸(TIPP-204)、
[4-[3-(4-アセチル-3-ヒドロキシ-2-プロピルフェノキシ)プロポキシ]フェノキシ]酢酸(L-165,0411)、
2-(4-{2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]エチル}フェノキシ)-2-メチルプロパン酸(ベザフィブラート)、
2-(2-メチル-4-(((2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル)チオ)フェノキシ)酢酸、または
(R)-2-(4-((2-エトキシ-3-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)プロピル)チオ)フェノキシ)酢酸、
あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩であり、約10mg~約500mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩であり、約50mg~約200mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩であり、約75mg~約125mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
PPARδアゴニストは、前記哺乳動物に全身投与される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
PPARδアゴニストは、前記哺乳動物に経口的に、注射によってまたは静脈内に投与される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
PPARδアゴニストは、経口溶液、経口懸濁液、粉末、丸剤、錠剤またはカプセルの形態で前記哺乳動物に投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの別の治療剤を前記哺乳動物に投与する工程をさらに含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)経路モジュレーターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)モジュレーター、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒドデカルボキシラーゼ(ACMSD)モジュレーターまたはN’-ニコチンアミドメチルトランスフェラーゼ(NNMT)モジュレーターである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害剤である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)、アルドステロン阻害剤、カルシニューリン阻害剤、TGF-β1阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、バソペプチダーゼA阻害剤またはHMG-CoA還元酵素阻害剤、ケモカイン受容体1拮抗剤である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤は、ベナゼプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリノプリル、ラマプリル、キナプリル、またはトランドラプリルであり、
前記アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)は、カンデサルタン、エプレサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、またはバルサルタンであり、
前記アルドステロン阻害剤は、スピロノラクトンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
腎臓病を患った哺乳動物の腎臓において脂肪酸酸化(FAO)を上昇させるか、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)レベルを上昇させるか、過剰なコラーゲン沈着を弱めるか、ミトコンドリア機能を上昇させるか、ミトコンドリア生合成を増加させるか、酸化ストレスを弱めるか、炎症を減少させるか、あるいはそれらの組み合わせのための方法であって、該方法は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストを前記哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
PPARδアゴニストは、細胞のPPARδに結合してこれを活性化し、細胞のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)およびガンマ(PPARγ)を実質的に活性化しない、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物は、コラーゲンIVのα3、α4、またはα5鎖をコードする遺伝子に1つ以上の変異を有する、請求項29または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記腎臓病は、アルポート症候群、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎である、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記腎臓病は、X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)、常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)または常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシアルキルカルボン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物、フェノキシプロパン酸化合物、フェノキシブタン酸化合物、フェノキシペンタン酸化合物、フェノキシヘキサン酸化合物、フェノキシオクタン酸化合物、フェノキシノナン酸化合物、もしくはフェノキシデカン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物もしくはフェノキシヘキサン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
PPARδアゴニスト化合物は、アリルオキシフェノキシエタン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
PPARδアゴニスト化合物は、
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、もしくは
{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
またはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
PPARδアゴニストは、
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸、
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、
(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、
(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、
2-{4-[({2-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)スルファニル]-2-メチルフェノキシ}-2-メチルプロパン酸(ソデルグリタザル;GW677954)、
2-[2-メチル-4-[[3-メチル-4-[[4-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]フェニル]チオ]フェノキシ]-酢酸、
2-[2-メチル-4-[[[4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-チアゾリル]メチル]チオ]フェノキシ]-酢酸(GW-501516)、
[4-[[[2-[3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-5-チアゾリル]メチル]チオ]-2-メチルフェノキシ]酢酸(GW610742としても知られているGW0742)、
2-[2,6 ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-1(E)-プロペニル]フェノキシル]-2-メチルプロパン酸(エラフィブラノル;GFT-505)、
{2-メチル-4-[5-メチル-2-(4-トリフルオロメチル-フェニル)-2H-[1,2,3]トリアゾール-4-イルメチルスルファニル]-フェノキシ}-酢酸、
[4-({(2R)-2-エトキシ-3-[4-(トリフルオロメチル)フェノキシ]プロピル}スルファニル)-2-メチルフェノキシ]酢酸(セラデルパル;MBX-8025)、
(S)-4-[シス-2,6-ジメチル-4-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)ピペラジン-1-スルホニル]-インダン-2-カルボン酸もしくはそのトシル酸塩(KD-3010)、
(2s)-2-{4-ブトキシ-3-[({[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]カルボニル}アミノ)メチル]ベンジル}ブタン酸(TIPP-204)、
[4-[3-(4-アセチル-3-ヒドロキシ-2-プロピルフェノキシ)プロポキシ]フェノキシ]酢酸(L-165,0411)、
2-(4-{2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]エチル}フェノキシ)-2-メチルプロパン酸(ベザフィブラート)、
2-(2-メチル-4-(((2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル)チオ)フェノキシ)酢酸、または
(R)-2-(4-((2-エトキシ-3-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)プロピル)チオ)フェノキシ)酢酸、
あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩である、請求項29~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
哺乳動物の腎臓病を治療するための方法であって、該方法は、(E)-[4―[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4―[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩を前記哺乳動物に投与する工程を含み、ここで、前記腎臓病は、多発性嚢胞腎(PKD)、IgA腎症(ベルガー病)、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、ファブリー病、アルポート症候群、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎、慢性腎臓病(CKD)または急性腎障害である、方法。
【請求項42】
哺乳動物の腎臓の線維症を治療するための方法であって、該方法は、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩を前記哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
【請求項43】
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩は、約10mg~約500mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項40~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩は、約50mg~約200mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項40~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩は、約75mg~約125mgの投与量で前記哺乳動物に投与される、請求項40~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記方法は、タンパク尿を減少させる工程、血中尿素窒素(BUN)の増加を抑制する工程、糸球体内圧を低下させる工程、糸球体損傷を改善する工程、細胞外マトリックス沈着を改善する工程、腎線維症を減少させる工程、推算糸球体濾過量(eGFR)の減少を抑える工程、eGFRを増加させる工程、末期腎不全(ESRD)の発症を遅延させる工程、あるいはそれらの組み合わせを含む、請求項40~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記方法は、ベースライン値が約1.0mg/mgを超える場合に、約0.5mg/mg未満の尿タンパク質:クレアチニン比を達成する工程を含む、請求項40~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記方法は、ベースライン値が約0.2を超えるが約1.0未満の場合に、約50%の尿タンパク質:クレアチニン比の減少を達成する工程を含む、請求項40~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
PPARδアゴニストは、前記哺乳動物に全身投与される、請求項40~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
PPARδアゴニストは、前記哺乳動物に経口的に、注射によってまたは静脈内に投与される、請求項40~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
PPARδアゴニストは、経口溶液、経口懸濁液、粉末、丸剤、錠剤またはカプセルの形態で前記哺乳動物に投与される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの別の治療剤を前記哺乳動物に投与する工程をさらに含む、請求項40~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)経路モジュレーターである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)モジュレーター、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒドデカルボキシラーゼ(ACMSD)モジュレーターまたはN’-ニコチンアミドメチルトランスフェラーゼ(NNMT)モジュレーターである、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害剤である、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記少なくとも1つの別の治療剤は、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)、アルドステロン阻害剤、カルシニューリン阻害剤、TGF-β1阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、バソペプチダーゼA阻害剤またはHMG-CoA還元酵素阻害剤、ケモカイン受容体1拮抗剤である、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤は、ベナゼプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリノプリル、ラマプリル、キナプリル、またはトランドラプリルであり、
前記アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)は、カンデサルタン、エプレサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、またはバルサルタンであり、
前記アルドステロン阻害剤は、スピロノラクトンである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項40~57のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2019年9月20日に出願された米国仮特許出願第62/903,539号の利益を主張するものであり、当該出願の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に記載されているのは、腎臓病または腎臓障害の治療または予防においてペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストを使用する方法である。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリア生合成およびそれに付随するプロセスは、脂肪酸酸化(FAO)などの代謝経路を増強させ、老化、組織低酸素、およびグルコースもしくは脂肪酸の過負荷からの損傷を改善する抗酸化防御機構を強化するが、これらはすべて、急性および慢性腎臓病の病因に寄与している。PPARδは、リガンド活性化転写調節因子の核内調節スーパーファミリーのメンバーであり、腎臓を含む全身で発現する。PPARδアゴニストは、脂肪酸酸化およびミトコンドリア生合成に関連する遺伝子を誘導する。また、PPARδは、抗炎症特性も有する。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、本明細書に記載されているのは、哺乳動物の腎臓病を治療するための方法であって、上記方法は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストを哺乳動物に投与する工程を含み、ここで、哺乳動物は、コラーゲンIVのα3、α4、またはα5鎖をコードする遺伝子に1つ以上の変異を有する。
【0005】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、細胞のPPARδに結合してこれを活性化し、細胞のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)およびガンマ(PPARγ)を実質的に活性化しない。
【0006】
いくつかの実施形態では、腎臓病は、アルポート症候群、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎である。
【0007】
いくつかの実施形態では、腎臓病は、X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)、常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)または常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)である。
【0008】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓組織の脂肪酸酸化(FAO)を上昇させるか、腎臓組織のカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)レベルを上昇させるか、腎臓組織の過剰なコラーゲン沈着を弱めるか、腎臓組織のミトコンドリア機能を上昇させるか、腎臓組織の酸化ストレスを弱めるか、腎臓組織の炎症を減少させるか、あるいはそれらの組み合わせである。
【0009】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシアルキルカルボン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物、フェノキシプロパン酸化合物、フェノキシブタン酸化合物、フェノキシペンタン酸化合物、フェノキシヘキサン酸化合物、フェノキシオクタン酸化合物、フェノキシノナン酸化合物、もしくはフェノキシデカン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物もしくはフェノキシヘキサン酸化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、アリルオキシフェノキシエタン酸化合物、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0010】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、以下の構造を有する(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸(化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0011】
【化1】
【0012】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩であり、約10mg~約500mg、約50mg~約200mg、または約75mg~約125mgの投与量で哺乳動物に投与される。
【0013】
別の態様では、本明細書に記載されているのは、腎臓病を患った哺乳動物の腎臓において脂肪酸酸化(FAO)を上昇させるか、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)レベルを上昇させるか、過剰なコラーゲン沈着を弱めるか、ミトコンドリア機能を上昇させるか、ミトコンドリア生合成を増加させるか、酸化ストレスを弱めるか、炎症を減少させるか、あるいはそれらの組み合わせのための方法であって、上記方法は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストを哺乳動物に投与する工程を含む。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、細胞のPPARδに結合してこれを活性化し、細胞のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)およびガンマ(PPARγ)を実質的に活性化しない。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、コラーゲンIVのα3、α4、またはα5鎖をコードする遺伝子に1つ以上の変異を有する。いくつかの実施形態では、腎臓病は、アルポート症候群、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎である。いくつかの実施形態では、腎臓病は、X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)、常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)または常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0014】
別の態様では、本明細書に記載されているのは、哺乳動物の腎臓病を治療するための方法であって、上記方法は、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩を哺乳動物に投与する工程を含み、ここで、腎臓病は、多発性嚢胞腎(PKD)、IgA腎症(ベルガー病)、糖尿病性腎症、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、ファブリー病、アルポート症候群、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、菲薄基底膜腎症(TBMN)、ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、良性の家族性血尿(BFH)、移植後の抗GBM(糸球体基底膜)腎炎、慢性腎臓病(CKD)または急性腎障害である。
【0015】
別の態様では、本明細書に記載されているのは、哺乳動物の腎臓の線維症を治療するための方法であって、上記方法は、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩を哺乳動物に投与する工程を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩は、約10mg~約500mg、約50mg~約200mg、または約75mg~約125mgの投与量で哺乳動物に投与される。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記方法は、尿タンパク質レベルを下げる工程、タンパク尿を減少させる工程、糸球体内圧を低下させる工程、糸球体損傷を改善する工程、細胞外マトリックス沈着を改善する工程、腎線維症を減少させる工程、推算糸球体濾過量(eGFR)の減少を抑える工程、eGFRを増加させる工程、末期腎不全(ESRD)の発症を遅延させる工程、あるいはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、上記方法は、ベースライン値が約1.0mg/mgを超える場合に、約0.5mg/mg未満の尿タンパク質:クレアチニン比を達成する工程を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、上記方法は、ベースライン値が約0.2を超えるが約1.0未満の場合に、約50%の尿タンパク質:クレアチニン比の減少を達成する工程を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、腎臓病を患った哺乳動物に全身投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、哺乳動物に経口的に、注射によってまたは静脈内に投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、経口溶液、経口懸濁液、粉末、丸剤、錠剤またはカプセルの形態で哺乳動物に投与される。
【0021】
一態様では、本明細書に記載されているのは、PPARδアゴニストおよび少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、経口投与、吸入、経鼻投与、経皮投与、または経眼投与による哺乳動物への投与のために製剤化される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、または経口投与による哺乳動物への投与のために製剤化される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、経口投与による哺乳動物への投与のために製剤化される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、錠剤、丸剤、カプセル、液体、懸濁液、ゲル、分散液、溶液、エマルジョン、軟膏、またはローションの形態である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、錠剤、丸剤、またはカプセルの形態である。
【0022】
一態様では、本明細書に記載されているのは、本明細書に記載されている腎臓病または腎臓疾病のうちのいずれか1つを治療または予防する方法であって、上記方法は、治療上有効な量のPPARδアゴニストを、必要としている哺乳動物に投与する工程を含む。
【0023】
前述の態様のうちのいずれにおいても、有効な量のPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)が(a)哺乳動物に全身投与されるか、および/または、(b)哺乳動物に経口投与されるか、および/または、(c)哺乳動物に静脈内投与されるか、および/または、(d)哺乳動物に注射により投与されるか、および/または、(e)哺乳動物に非全身もしくは局所投与されるさらなる実施形態がある。
【0024】
前述の態様のうちのいずれにおいても、有効な量のPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)を単回投与することを含むさらなる実施形態があり、これには、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に可能な塩)が哺乳動物に1日1回投与されるか、あるいは哺乳動物に1日のスパンで複数回投与されるさらなる実施形態が含まれる。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、連続的な投薬計画で投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、連続的な毎日の投薬計画で投与される。
【0025】
疾患または疾病の治療に関する前述の態様のうちのいずれにおいても、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の投与に加えて、少なくとも1つの別の薬剤を投与する工程を含むさらなる実施形態がある。様々な実施形態では、各薬剤は、任意の順で投与され、これには、同時が含まれる。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの別の治療剤は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)経路モジュレーターである。
【0027】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの別の治療剤は、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)モジュレーター、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒドデカルボキシラーゼ(ACMSD)モジュレーターまたはN’-ニコチンアミドメチルトランスフェラーゼ(NNMT)モジュレーターである。
【0028】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの別の治療剤は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害剤である。
【0029】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの別の治療剤は、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)、アルドステロン阻害剤、カルシニューリン阻害剤、TGF-β1阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、バソペプチダーゼA阻害剤またはHMG-CoA還元酵素阻害剤、ケモカイン受容体1拮抗剤である。いくつかの実施形態では、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤は、ベナゼプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリノプリル(Perinopril)、ラマプリル(Ramapril)、キナプリル、またはトランドラプリルである。いくつかの実施形態では、ARBは、カンデサルタン、エプレサルタン(Epresartan)、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、またはバルサルタンである。いくつかの実施形態では、アルドステロン阻害剤は、スピロノラクトンである。
【0030】
本明細書に開示されている実施形態のうちのいずれにおいても、哺乳動物は、ヒトである。
【0031】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、ヒトに投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、経口投与される。
【0032】
包装材料と、包装材料内の本明細書に記載されている化合物、またはその薬学的に許容可能な塩と、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)がPPARδの活性を調節するために使用されること、あるいはPPARδの活性の調節の利益を享受するであろう腎臓病または腎臓疾病のうちの1つ以上の症状の治療、予防、または改善のために使用されることを示すラベルと、を含む製品が提供される。
【0033】
本明細書に記載されている化合物、方法および組成物の他の目標、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなる。しかし、この詳細な説明から本開示の精神および範囲内での様々な変更および改変が当業者には明らかになるため、詳細な説明および特定の実施例が、特定の実施形態を示しているが、例示としてのみ提供されることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】B6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスへの化合物1の投与によって、腎臓病末期の17週齢で、タンパク尿が大幅に減少したことを示す。
図2】B6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスへの化合物1の投与によって、12および17週齢で、血中尿素窒素(BUN)の増加が抑制されたことを示す。
図3A】化合物1を用いることによって、B6129SハイブリッドCol4a3-/-マウスの腎臓の組織構造が改善したことを示す。ビヒクルで治療したマウスと比較して、化合物1で治療したB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて皮質の壊死領域が減少した。
図3B】化合物1を用いることによって、B6129SハイブリッドCol4a3-/-マウスの腎臓の組織構造が改善したことを示す。ビヒクルで治療したマウスと比較して、化合物1で治療したB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて線維症の程度が低下した。
図4】試験1における腎臓全体の炎症および線維症に関連した分子の発現に対する化合物1の治療効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
正常な細胞活動には、健康なミトコンドリアが必要不可欠である。ミトコンドリア機能不全は、急性疾患および慢性疾患を含む多種多様な内科的疾患の病因を引き起こす。ミトコンドリア機能の様々な側面、例えば、生体エネルギー、動態、および細胞内シグナル伝達は、十分に説明されており、これらの活性の障害が、疾患の病因に寄与する可能性が高い。いくつかの実施形態では、ミトコンドリア機能、例えば、生体エネルギー、動態、および細胞内シグナル伝達の障害は、腎臓病の病因に寄与する。
【0036】
ミトコンドリアは、細胞のホメオスタシスで無数の役割を果たしており、ミトコンドリア機能の欠陥は、広い疾患スペクトラムに結びつく可能性がある。これらの機能の欠陥は、腎臓などのエネルギー需要の高い組織において明白である。いくつかの実施形態では、疾患は、腎臓病として現れるミトコンドリア機能不全と関連する。
【0037】
腎臓病の治療において、腎臓のミトコンドリア機能を改善する治療が有用である。
【0038】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストを用いる治療などのミトコンドリアを対象とした治療法は、複数の分子の異常を同時に対処する能力を有し、単離タンパク質を標的とした化合物よりも効果があることを証明する。
【0039】
タンパク質の必要量を管理するために細胞が使用する機構のうちの1つは、遺伝子調節である。
【0040】
ミトコンドリアの健康は、正常状態およびストレス状態下で細胞が機能するのを補助するいくつかの複雑なプロセスに依存する。ミトコンドリア機能不全は、ミトコンドリアの浄化(マイトファジー)または細胞死(アポトーシス)に結びつく可能性がある。ミトコンドリアは、動的な細胞小器官であって、融合または分裂を経てその形態を変化させることができるものである。例えば腎臓病が挙げられるがこれに限定されない多くの疾患がミトコンドリアにストレスをかけ、正常な動的プロセスを妨害する可能性がある。
【0041】
微視的な損傷によって生じた内臓の瘢痕化は、線維症として知られている。これは、不適当な場所におけるマトリックスおよび基底膜の構造タンパク質の調節されていない沈着を特徴としており、これは、臓器の機能部位間の仮想空間(virtual space)である場合が多い。臓器線維症、慢性または逐次組織損傷の最後の共通経路は、不適当な創傷治癒反応であり、頻繁に、炎症(炎症細胞)、臓器機能喪失、および組織虚血に関連し、これは、異常な血管新生に起因するものである。線維症は、臓器死に直接的と間接的との両方で寄与するものであり、筋線維芽細胞として知られている、マトリックスを構築する細胞が、繊維化プロセスを永続させる。臓器線維症は、多くの一般的な疾患および希少な疾患で見られ、これには、糖尿病、虚血性心疾患、高血圧症、ならびに、肺、肝臓、腎臓、腸、心臓および脳の慢性疾患が含まれる。腎臓は、線維症に特になりやすく、これは恐らく、血管床が他とは非常に異なり、血流不全になりやすいからである。
【0042】
「線維症」は、本明細書で使用される場合、外傷、炎症、組織修復、免疫反応、細胞過形成、および腫瘍形成の後に生じる細胞外マトリックス構成の蓄積を指す。
【0043】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているのは、組織(例えば、腎臓組織)の線維症を減少させる方法であって、上記方法は、線維症の細胞または組織を、線維症を減少させるか、あるいは阻害するのに十分な量の本明細書に開示されている化合物に接触させる工程を含む。いくつかの実施形態では、線維症は、線維化疾病を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、線維症の減少、あるいは線維化疾病の治療は、細胞外マトリックスタンパク質の形成または沈着、線維化促進性の細胞型の数(例えば、線維芽細胞または免疫細胞の数)、線維性病変の細胞内コラーゲンまたはヒドロキシプロリンの含有量、線維形成タンパク質の発現または活性のうちの1つ以上を減少すること、あるいは阻害すること、あるいは炎症反応に関連する線維症を減少することを含む。
【0045】
腎臓の線維症は、毛細血管網の喪失、原繊維コラーゲンの蓄積、筋線維芽細胞および炎症細胞の活性化を特徴とする。線維症では、尿細管上皮細胞は細胞死により喪失し、残りの細胞は脱分化し、特徴的な上皮マーカーの発現の減少および間充織マーカーの発現の増加に結びつく。尿細管上皮細胞は筋線維芽細胞の直接の前駆体ではない場合もあるが、異なるサイトカインを分泌するなど、複数の機構によって線維症を調整(orchestrating)するのに重要な役割を果たす。
【0046】
燃料源の優先度(グルコース、脂肪酸またはケトン)の変化を含む細胞内代謝の変動は、細胞分化の重要な機構である。尿細管上皮細胞は、ベースラインエネルギー消費量のレベルが高く、ミトコンドリアの豊富な供給源である。脂肪酸酸化(FAO)は、グルコース酸化よりも多くのATPを生成するので、代謝性の高い細胞に対して好ましいエネルギー源である。脂肪酸の代謝において、脂肪酸はミトコンドリアに輸送される必要があり、これはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)によって媒介され、この酵素が脂肪酸とカルニチンを抱合する。CPT1は、FAOの律速酵素であると考えられている。
【0047】
腎臓の繊維症において、細胞内代謝の変動が観察され、慢性腎臓病を患ったヒト対象の腎臓において、そして腎臓の線維症のマウスモデルにおいて、FAOの酵素および調節因子が減少している。PPARδは、脂肪酸の取り込みおよび酸化に関わるタンパク質の発現を調節する重要な転写因子である。健康な腎臓の尿細管上皮細胞は、そのエネルギー源として主にFAOに依存している。いくつかの実施形態では、尿細管上皮細胞によるFAOの減少は、尿細管間質性線維症の発達に寄与する。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓の繊維症のFAOを繊維症前のレベルに回復させる。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓の繊維症のFAOを増加させる。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、CPT1レベルを上昇させ、FAOを増加させる。
【0048】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓の線維症の治療において使用される。腎臓の線維症は、腎臓の様々な疾患や損傷に起因している可能性がある。このような疾患および損傷の例には、慢性腎臓病、メタボリックシンドローム、膀胱尿管逆流、尿細管間質性腎線維症、IgA腎症、糖尿病(糖尿病性腎症を含む)、アルポート症候群、およびその結果生じる糸球体腎炎(GN)が含まれ、これには、巣状分節性糸球体硬化症および膜性糸球体腎炎、メサンギウム増殖性GNが含まれるがこれらに限定されない。
【0049】
糸球体腎炎は、糸球体で炎症を起こし、末期腎不全の一般的な原因となっている。重症かつ長期の炎症は、糸球体を損傷し、腎臓の線維症に結びつく可能性がある。結合組織成長因子(CTGF)は、4つのドメインからなるCCNマトリセルラータンパク質ファミリーのメンバーであり、他の成長因子のシグナル伝達を調節し、腎臓の線維症を促進する。いくつかの実施形態では、腎臓病の治療のための本明細書に開示されている方法のいずれにおいても企図されているPPARδアゴニストは、CTGFを誘導しない。いくつかの実施形態では、腎臓組織の過剰なコラーゲン沈着は、PPARδアゴニストを用いて弱められる。
【0050】
メタボリックシンドロームは、インスリン抵抗性ならびに中心性肥満もしくは内臓肥満および高血圧症などの糖尿病の特徴を含む、一まとまりの異常として認識されるようになってきた。ほぼすべての場合で、グルコースの調節異常によって、サイトカイン放出の刺激や細胞外マトリックス沈着の上方調節をもたらす。慢性腎臓病、糖尿病、メタボリックシンドローム、および糸球体腎炎に寄与する別の要因には、高脂血症、高血圧症、およびタンパク尿が含まれるが、これらはすべて、腎臓にさらなる損傷をもたらし、細胞外マトリックス沈着をさらに刺激する。したがって、根本的な原因にかかわらず、腎臓に対する損傷は、腎臓の線維症と同時に腎機能の喪失をもたらす場合がある。(Schena, F. and Gesualdo, L., Pathogenic Mechanisms of Diabetic Nephropathy, J. Am. Soc. Nephrol., 16: S30-33 (2005); Whaley-Connell, A., and Sower, J.R., Chronic Kidney Disease and the Cardiometabolic Syndrome, J. Clin. Hypert., 8(8): 546-48 (2006))。
【0051】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓病の治療において使用される。いくつかの実施形態では、腎臓病は、腎臓の線維症である。いくつかの実施形態では、腎臓病は、アルポート腎臓病である。いくつかの実施形態では、腎臓病は、慢性腎臓病である。
【0052】
アルポート症候群
アルポート症候群は、腎臓病、難聴、および眼異常を特徴とする遺伝子疾患である。アルポート症候群を患った個体は、腎機能の進行性喪失を発症する。罹患した個体のほぼすべてが、尿に血液をきたし(血尿症)、腎臓の異常機能を示し、また、アルポート症候群を患った個体の多くは、尿に高いレベルのタンパク質をきたす(タンパク尿)。この疾病の進行に伴い、腎臓は、以前より機能できなくなり、末期腎不全(ESRD)をもたらす。
【0053】
アルポート症候群を患った人は、頻繁に、小児期後期や青年期早期に、内耳の異常によって引き起こされる感音難聴を発達させる。また、罹患した個体は、眼のレンズ(前部円錐水晶体)に奇形をきたしたり、眼の後ろ側の感光組織(網膜)に色素異常をきたしたりする場合がある。これらの眼異常は、視覚喪失に結びつくことはめったにない。
【0054】
重度の難聴、眼異常、および進行性の腎臓病は、罹患した女性よりもアルポート症候群を患った男性においてより一般的である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、男性ヒトのアルポート症候群の治療において使用される。
【0055】
COL4A3、COL4A4、およびCOL4A5遺伝子の変異は、アルポート症候群を引き起こす。これらの遺伝子はそれぞれ、IV型コラーゲンと呼ばれるタンパク質の成分の1つを作るための指示をもたらす。このタンパク質は、腎臓、特に糸球体と呼ばれる構造において重要な役割を果たす。糸球体は、血液から水や老廃物を除去し、尿を生成する特殊な血管集団である。これらの遺伝子の変異は、糸球体においてIV型コラーゲンに異常をもたらし、腎臓が適切に血液を濾過するのを妨げ、尿に血液やタンパク質が流入してしまう。その結果、糸球体の濾過障壁の完全性が損なわれ、初期の糸球体血行動態の変化や、その後は、重症度の炎症を伴う進行性の糸球体や尿細管間質性線維症をもたらす。アルポート症候群を患った人の多くにおいて、腎臓の段階的な瘢痕化が生じ、最終的には腎不全に結びつく。
【0056】
また、IV型コラーゲンは、脳のために音波を神経インパルスに変換する内耳の構造、特にコルチ器官の重要な成分である。IV型コラーゲンの変動によって、内耳の機能異常がもたらされる場合が多く、これが、難聴に結びつく可能性がある。このタンパク質は、眼では、レンズの形状および網膜の正常色素を維持するために重要である。IV型コラーゲンを妨害する変異は、レンズの奇形や網膜の色素異常をもたらす可能性がある。
【0057】
アルポート症候群は、異なる遺伝パターンを呈する可能性がある。症例の約80パーセントは、COL4A5遺伝子の変異によって引き起こされ、X連鎖パターンで遺伝する。この遺伝子は、2つの性染色体のうちの1つであるX染色体に位置する。男性(X染色体を1つしか有さない)においては、各細胞内のCOL4A5遺伝子の1つのコピーが変わるだけで、腎不全やその障害の他の重症度の症状を引き起こすのに十分である。女性(2つのX染色体を有する)においては、COL4A5遺伝子の1つのコピーの変異は通常、血尿しかもたらさないが、一部の女性は、より重症度の症状を発症する。X染色体連鎖遺伝の特性は、父親から息子にX連鎖形質が引き継がれることができないということである。
【0058】
症例のおよそ15パーセントについては、アルポート症候群は、COL4A3またはCOL4A4遺伝子の両方のコピーの変異に起因し、常染色体劣性パターンで遺伝する。常染色体劣性形態のこの疾病を有する個体の親はそれぞれ、変異した遺伝子の1つのコピーを有しており、保因者と呼ばれる。一部の保因者は、影響を受けないが、他の保因者は、血尿を特徴とする菲薄基底膜腎症と呼ばれる重症度の低い疾病を発達させる者もいる。
【0059】
症例の約5パーセントについては、アルポート症候群は、常染色体優性遺伝を有する。この形態のアルポート症候群を患った人は、各細胞内にCOL4A3またはCOL4A4遺伝子のいずれかに1つの変異を有する。なぜCOL4A3またはCOL4A4遺伝子に1つの変異を有する一部の個体は、常染色体優性型アルポート症候群を有し、他の個体は、菲薄基底膜腎症を有する者もいるのかは、依然として不明である。
【0060】
アルポート症候群は、先天性遺伝性血尿、血尿-腎症-難聴症候群、血尿遺伝性腎炎、出血性家族性腎炎、出血性遺伝性腎炎、遺伝性家族性先天性出血性腎炎、遺伝性血尿症候群、遺伝性間質性腎盂腎炎および遺伝性腎炎としても知られている。
【0061】
アルポート症候群の3つの遺伝子型は、XLAS(X染色体連鎖型アルポート症候群)、ARAS(常染色体劣性型アルポート症候群)およびADAS(常染色体優性型アルポート症候群)である。XLASは、IV型コラーゲンアルファ5鎖(遺伝子COL4A5)の変異に起因する。ARASは、アルファ3鎖またはアルファ4鎖(遺伝子COL4A3またはCOL4A4)の変異によって引き起こされる。ADASは、アルファ3鎖またはアルファ4鎖(遺伝子COL4A3またはCOL4A4)の変異によって引き起こされる。
【0062】
X染色体連鎖型アルポート症候群(XLAS)
男性は1つのX染色体と1つのY染色体を有し、女性は2つのX染色体を有する。X染色体連鎖型アルポート症候群は、X染色体に存在するCOL4A5遺伝子の変異によって引き起こされる。X連鎖障害は、罹患した女性よりも罹患した男性においてより重症度の症状を引き起こすが、これは、男性が1つのX染色体しか有していないからである。
【0063】
XLASを患った男性は重度に罹患し、必ず生涯のいずれかの時点で腎不全を発達させるが、これは、男性が変異遺伝子の影響を緩衝するための正常な遺伝子のコピーを有していないからである。女性は、2つのX染色体を有しており、COL4A5遺伝子の2つのコピーを有している。XLASを患った女児において、遺伝子の一方のコピーは変異を持っているが、他方のコピーは正常である。遺伝子の正常なコピーは、変異の影響に対抗するので、XLASを患った女児は通常、男児よりも軽症度の症状を有している。しかし、X染色体連鎖型アルポート症候群を患った女児も腎不全を発達させる可能性があり、XLASの保因者に過ぎないとみなすべきでない。
【0064】
XLASを患った男性から娘全員に、罹患したX染色体遺伝子が引き継がれて、娘はXLASを有することになる。男性から息子には、X連鎖遺伝子が引き継がれないが、これは、必ず(X染色体ではなく)Y染色体が男系子孫に引き継がれるからである。XLASを患った女性は、各妊娠で小児が罹患する可能性が50%である。
【0065】
常染色体劣性型アルポート症候群(ARAS)
遺伝子の両方のコピーに欠陥がある場合、常染色体劣性障害が生じる。典型的には、劣性疾病を患った小児の親のそれぞれから罹患した小児に変異遺伝子が引き継がれる。遺伝子COL4A3およびCOL4A4は、染色体2に位置する。人はそれぞれ、この染色体の2つのコピーと、COL4A3およびCOL4A4遺伝子の両方の2つのコピーを有する。親は、染色体のうちの一方に1つの変異のみを有しているので、症状を有さないか、あるいは血尿(尿に血液)を有する可能性がある。しかし、疾患が進行することはない。
【0066】
X染色体連鎖型アルポート症候群とは異なり、常染色体劣性型は、男性と全く同様に女性にも重度に罹患する。
【0067】
常染色体優性型アルポート症候群(ADAS)
アルポート症候群を患った人の約5%は、ADASを有する。これらの人は、COL4A3またはCOL4A4遺伝子の1つの変異体コピーを有する。COL4A3またはCOL4A4の1つのコピーの変異によって進行性の腎臓病や難聴を引き起こす可能性がある。ADASを患った人は、XLASを患った人に似ているが、いくつかの違いがあり、これには、腎不全が比較的晩年(40歳以降)に生じること、眼の変化は非常に稀であること、そして、男性と女性において疾患の重症度に差異がないことが挙げられる。ADASを患った人は通常、進行性の腎臓病や難聴に陽性である家族歴を有する。また、COL4A3またはCOL4A4の1つのコピーの変異は、菲薄基底膜腎症(TBMN)を引き起こす可能性があり、これは、進行性の腎臓病や難聴が非常に稀であるADASとは異なる。TBMNを患った人は通常、進行性の腎臓病や難聴に陰性である家族歴を有する。研究者らは未だに、なぜこれらの変異を有した人の一部がADASを有し、他の人がTBMNを有するのかを理解しようと試みている。
【0068】
COL4A3遺伝子
COL4A3遺伝子は、柔軟性のあるタンパク質であるIV型コラーゲンの成分の1つを作るための指示をもたらす。COL4A3遺伝子は、IV型コラーゲンアルファ3(IV)鎖を作る。この鎖は、2つの他のタイプのアルファ(IV)鎖(アルファ4鎖とアルファ5鎖)と結合して、完全なIV型コラーゲン分子を作る。IV型コラーゲン分子は、互いに付着して、複雑なタンパク質ネットワークを形成する。これらのネットワークは、多くの組織の細胞を分離して支持する薄いシート状の構造である基底膜の大部分を占める。IV型コラーゲンのアルファ3-4-5ネットワークは、腎臓、内耳および眼の基底膜において特に重要な役割を果たす。
【0069】
COL4A3遺伝子の40を超える変異がアルポート症候群を引き起こすことがわかっている。これらの変異のほとんどは、コラーゲンアルファ3(IV)鎖が他のIV型コラーゲン鎖と結合する領域で単一タンパク質形成ブロック(アミノ酸)を変化させる。COL4A3遺伝子の他の変異は、アルファ3(IV)鎖の産生を大幅に減少させるか、あるいは妨げる。その結果、腎臓、内耳および眼の基底膜においてIV型コラーゲンアルファ3-4-5ネットワークの深刻な不足が見られる。腎臓では、他のタイプのコラーゲンが基底膜に蓄積し、最終的には、腎臓の瘢痕化や腎不全に結びつく。また、この遺伝子の変異は、内耳の機能異常に結びつき、難聴をもたらす可能性がある。
【0070】
COL4A3遺伝子の変異は菲薄基底膜腎症を引き起こすことがわかっている。この疾病によって、典型的には、人は、尿に血液(血尿)が混じるようになるが、腎臓病の他の兆候や症状を有さない。過去に、この疾病は、良性の家族性血尿と呼ばれることが多かった。菲薄基底膜腎症は、腎不全に進行することはほとんどない。
【0071】
グッドパスチャー症候群は、抗体によってコラーゲンアルファ3(IV)鎖に引き起こされる、肺や腎臓の重症度の疾患である。抗体は通常、細菌またはウイルスなどの異物を攻撃する免疫系タンパク質であるが、グッドパスチャー症候群では、コラーゲンアルファ3(IV)鎖を標的とする。なぜ一部の人では、抗体がコラーゲン鎖を標的とするのかは不明なままである。抗体は、肺の空気腔(肺胞)や腎臓の濾過装置(糸球体)の血管の基底膜に付着(結合)すると、炎症を引き起こす。その結果、グッドパスチャー症候群を患った人は、腎不全や肺出血を発達させて、吐血を引き起こす。一部の人では、抗体は、腎臓のみを攻撃する。これらの人は、抗球体基底膜腎炎を有すると言われている。
【0072】
COL4A4遺伝子
COL4A4遺伝子は、柔軟性のあるタンパク質であるIV型コラーゲンの成分の1つを作るための指示をもたらす。具体的には、この遺伝子は、IV型コラーゲンアルファ4(IV)鎖を作る。この鎖は、2つの他のタイプのアルファ(IV)鎖(アルファ3鎖とアルファ5鎖)と結合して、完全なIV型コラーゲン分子を作る。IV型コラーゲン分子は、互いに付着して、複雑なタンパク質ネットワークを形成する。これらのネットワークは、多くの組織の細胞を分離して支持する薄いシート状の構造である基底膜の大部分を占める。IV型コラーゲンのアルファ3-4-5ネットワークは、腎臓、内耳および眼の基底膜において特に重要な役割を果たす。
【0073】
COL4A4遺伝子の20を超える変異がアルポート症候群を引き起こすことがわかっている。これらの変異のほとんどは、コラーゲンアルファ4(IV)鎖が他のIV型コラーゲン鎖と結合する領域で単一タンパク質形成ブロック(アミノ酸)を変化させる。COL4A4遺伝子の他の変異は、アルファ4(IV)鎖の産生を大幅に減少させるか、あるいは妨げる。その結果、腎臓、内耳および眼の基底膜においてIV型コラーゲンアルファ3-4-5ネットワークの深刻な不足が見られる。腎臓では、他のタイプのコラーゲンが基底膜に蓄積し、最終的には、腎臓の瘢痕化や腎不全に結びつく。また、この遺伝子の変異は、内耳の機能異常に結びつき、難聴をもたらす可能性がある。
【0074】
COL4A4遺伝子の変異は菲薄基底膜腎症を引き起こすことがわかっている。この疾病によって、典型的には、人は、尿に血液(血尿)が混じるようになるが、腎臓病の他の兆候や症状を有さない。過去に、この疾病は、良性の家族性血尿と呼ばれることが多かった。菲薄基底膜腎症は、腎不全に進行することはほとんどない。
【0075】
COL4A5遺伝子
COL4A5遺伝子は、柔軟性のあるタンパク質であるIV型コラーゲンの成分の1つを作るための指示をもたらす。具体的には、この遺伝子は、IV型コラーゲンアルファ5(IV)鎖を作る。この鎖は、2つの他のタイプのアルファ(IV)鎖(アルファ3鎖とアルファ4鎖)と結合して、完全なIV型コラーゲン分子を作る。IV型コラーゲン分子は、互いに付着して、複雑なタンパク質ネットワークを形成する。これらのネットワークは、多くの組織の細胞を分離して支持する薄いシート状の構造である基底膜の大部分を占める。IV型コラーゲンのアルファ3-4-5ネットワークは、腎臓、内耳および眼の基底膜において特に重要な役割を果たす。
【0076】
COL4A5遺伝子の400を超える変異がアルポート症候群を引き起こすことがわかっている。これらの変異のほとんどは、コラーゲンアルファ5(IV)鎖が他のIV型コラーゲン鎖と結合する領域で単一タンパク質形成ブロック(アミノ酸)を変化させる。COL4A5遺伝子の他の変異は、アルファ5(IV)鎖の産生を大幅に減少させるか、あるいは妨げる。その結果、腎臓、内耳および眼の基底膜においてIV型コラーゲンアルファ3-4-5ネットワークの深刻な不足が見られる。腎臓では、他のタイプのコラーゲンが基底膜に蓄積し、最終的には、腎臓の瘢痕化や腎不全に結びつく。また、この遺伝子の変異は、内耳の機能異常に結びつき、難聴をもたらす可能性がある。
【0077】
耳の線維症
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、耳の線維症、あるいは耳の線維症に関連する疾患または疾病の治療において使用される。腎臓の線維症と同様に、耳の線維症は耳の様々な疾患や損傷に起因している可能性がある。線維症は内耳でも中耳でも生じる可能性がある。中耳の炎症は中耳管の線維症をもたらす可能性があり、これは骨外耳道の線維症組織の形成を特徴とする(Ishii, Fluid and Fibrosis in the Human Middle Ear, Am. J. Otolaryngol, 1985: 6: 196-199)。内耳の線維症は、膜肥厚に起因する線条体(strial)機能不全が見られる障害を含む。これらの疾患には、アルポート症候群、狼瘡、および糖尿病が含まれる。IV型コラーゲン障害(アルポート症候群患者で見られるように)は、内耳の結合組織とマイクロメカニクスの構造変化を伴う感音難聴に関連する。基底膜形態の詳細な評価は、血管条の基底膜の明らかな肥大を示すアルポート症候群のマウスモデルで測定された(Cosgrove, Ultrastructural, physiological, and molecular defects in the inner ear of a gene-knockout mouse model for autosomal Alport syndrome. Hear Res 1998; 121:84-98)。
【0078】
虚血性急性腎障害(AKI)
虚血性急性腎傷害(AKI)は、持続的な近位尿細管ミトコンドリア機能不全を特徴とする。近位尿細管細胞は、その高度に酸化的な代謝により、脂肪酸を利用して、特定の機能に必要なエネルギーを生成する。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供されているのは、PPARδアゴニストを用いて哺乳動物における脂肪酸酸化を増強する方法である。いくつかの実施形態では、脂肪酸酸化を増強することで、ミトコンドリア機能を回復させ、AKIに対する治療的処置の可能性を提供する。
【0080】
クリッピングされた腎臓における虚血性腎障害を特徴とする2腎1クリップ(2K1C)Goldblatt型腎血管性高血圧ラット動物モデルにおいて、化合物1について評価された(Fedorova et al., 2013)。未治療のラットからクリッピングされた腎臓は、尿細管や糸球体の壊死、ならびに、塊状の間質性線維症、糸球体周囲線維症および血管周囲線維症を発達させた。化合物1で治療した腎臓は、壊死について組織化学的特徴を何ら示すことはなく、血管周囲領域でのみ、繊維性病変が存在していた。未治療のクリッピングされた腎臓では、壊死は、特に細管の細胞死促進タンパク質BNIP3の酸化ストレスの増加、上方調節およびミトコンドリア転座と関連していた。未治療の動物と比較すると、化合物1で治療したラットの腎臓では、酸化ストレスが弱まり、ミトコンドリア画分のBNIP3タンパク質が顕著に減少した。未治療のクリッピングされた腎臓では、MCAD、COXIV、TFAM、およびパーキンタンパク質およびAMPK活性のレベルの摂動によって明らかなとおり、ミトコンドリアは機能不全であったが、化合物1で治療したラットでは、これらのタンパク質は、生理的レベルのままであった。治療した腎臓では、酸化ストレス応答性タンパク質、NRF1およびNRF2の核量は、生理的レベルより低かった。PGC1-aの減少や、オートファジーに必須なタンパク質LC3-IIおよびATG5の不足によって示されているように、治療した2K1C腎臓と未治療の2K1C腎臓の両方において同様に、ミトコンドリア生合成およびオートファジーが阻害される。
【0081】
酸化ストレスの拡大は、細胞の正常機能の妨げになる。酸化ストレスレベルを調節するために、細胞は、酸化促進系および抗酸化系の平衡を保たなければならない。腎臓の生理機能に関して、適切なレドックス制御の主な原理は、電解質と生理学的緩衝系のバランスを維持し、腎機能を保つことである。さらに、腎臓は、通常であれば、生物に蓄積してレドックス恒常性の不均衡を引き起こすであろう毒素や老廃代謝物全般を除去する。さらに、酸化ストレスは、多種多様な腎臓病に寄与し、悪化させる。
【0082】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓病を患った哺乳動物の腎臓において酸化ストレスを弱めるために使用される。
【0083】
代謝異常、ATPレベルの低下、ROS産生の増加、および、慢性的な炎症性シグナル伝達は、腎臓病の一般的な特徴である。未解決のままであると、これらの病的プロセスは、異常な細胞増殖、組織線維症、リモデリング、および腎臓障害に結びつく可能性がある。いくつかの実施形態では、ミトコンドリア機能不全、酸化ストレス、および炎症は、腎臓病の特徴である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓病を患った哺乳動物の腎臓においてミトコンドリア機能を上昇させ、酸化ストレスを弱め、炎症を減少させるために使用される。
【0084】
本明細書に記載されているのは、哺乳動物の腎臓病の治療におけるPPARδアゴニストの使用である。いくつかの実施形態では、腎臓病は、慢性腎臓病(CKD)である。いくつかの実施形態では、哺乳動物は、コラーゲンIVのα3鎖に変異を有する。
【0085】
急性腎臓病と慢性腎臓病の両方が、開始原因(感染、糖尿病、高血圧症、自己免疫)にかかわらず、共通して炎症と免疫活性化を有する。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、腎臓病に関与するこれらの一般的な炎症経路を標的とする。
【0086】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、ミトコンドリア機能を回復させ、脂肪酸酸化を上昇させ、酸化ストレスを低下させ、炎症進行性シグナル伝達を阻害することによって、炎症の消散を促進する分子経路を活性化する。
【0087】
腎臓では、血液濾過工程の第1の段階が糸球体でなされ、内皮細胞を含む毛細管の小さい毛胞からなり、小さい毛胞の間に大きな孔と、毛細管の間に修飾平滑筋細胞であるメサンギウム細胞がある。適切な濾過には、これらの細胞型の間の綿密な協調が必要である。内皮細胞間の孔によって、体液、血漿溶質、およびタンパク質を含まない濾過が可能である。酸化ストレスあるいは他の理由により内皮細胞が機能不全になった場合は、孔はより透過性になり、タンパク質の漏出が増加する可能性があり、これは、さらに炎症性シグナル伝達や酸化ストレスを引き起こす可能性がある。メサンギウム細胞は、その収縮活性によって血流を調節し、細胞が収縮することで、血液を濾過するための表面積を減少させる。また、メサンギウム細胞は、タンパク質や、糸球体基底膜、すなわち濾過障壁の中に閉じ込められた他の分子を除去する。
【0088】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているPPARδアゴニストは、内皮機能障害や、慢性の疾患関連のメサンギウム細胞の収縮を回復させ、糸球体の表面積の増加やGFRの増加をもたらす。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、構造的なリモデリングや糸球体硬化症に結びつく炎症経路や線維化促進経路の活性化を阻害する。
【0089】
以上に記載されているように、アルポート症候群は、腎臓の糸球体基底膜(GBM)の主要な構造成分であるIV型コラーゲン(α3、α4、α5)をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる。濾過障壁の進行性の喪失によって、過剰なタンパク尿が出て、これが、最終的には、末期腎臓病(ESKD)に結びつく。アルポート症候群を患った患者は通常、小児期から成人期早期に疾患と診断され、糸球体濾過量(GFR)の平均減少は、1年当たり4.0mL/分/1.73mである。アルポート症候群の患者におけるGFRの進行性の減少は、腎不全や末期腎不全(ESRD)に結びつく。アルポート症候群のうちで最も蔓延しているサブタイプを患った男性のうちの50パーセントは、25歳までに透析または腎移植を必要とする。これらの患者における腎不全の発生率は、40歳までに90%まで、そして60歳までにほぼ100%まで増加する。他の形態のCKDを患った患者と同様に、透析を受けたアルポート症候群の患者は、これらの患者において最も多い死因である心血管疾患や感染症のリスクが増加する。現在、アルポート症候群の治療に関して承認されている療法は存在しない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているPPARδアゴニストは、推算GFR(eGFR)によって測定されるように、アルポート症候群の患者において腎機能を上昇させるために使用される。
【0090】
別の実施形態では、本明細書に記載されているのは、対照に比べて、対象の1つ以上の腎臓組織におけるミトコンドリア生合成の減少率を減少させる方法であって、ここで、ミトコンドリア生合成の減少率は、対象のミトコンドリア生合成の1つ以上の測定値と、同対象のミトコンドリア生合成のベースライン測定値の比較を含む。別の実施形態では、対象のミトコンドリア生合成の減少率を減少させることは、対照よりも早く、対象のミトコンドリア生合成のベースライン測定値に戻すことを含む。さらなる実施形態では、対象のミトコンドリア生合成の減少率を減少させることは、廃用期間後に、対照のベースラインに戻るまでの時間の95%未満、または90%未満、または85%未満、または80%未満、または75%未満、または70%未満、または65%未満、または60%未満、または55%未満、または50%未満の時間で、対象のミトコンドリア生合成のベースライン測定値に戻すことを含む。別の実施形態では、対象のミトコンドリア生合成の減少は、対照に比べてミトコンドリア生合成の減少よりも小さい。さらなる実施形態では、対象のミトコンドリア生合成の減少は、廃用期間前の対象のミトコンドリア生合成のベースライン測定値に比べて、ミトコンドリア生合成の50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、または0%の減少を含む。
【0091】
ミトコンドリア生合成は、Life TechnologiesのAnti-OxPhox Complex Vdサブユニット抗体などの酸化的リン酸化複合体に特異的な蛍光標識抗体を用いて、あるいはLife TechnologiesのMito-trackerプローブなどの生細胞染色においてミトコンドリアに特異的な色素を用いて、組織切片染色を介してミトコンドリアの質量および体積によって測定される。ミトコンドリア生合成は、QPCRなどの技術を用いて、PGC1a、NRF1、またはNRF2などの1つ以上のミトコンドリア生合成関連転写因子の遺伝子発現をモニタリングすることによっても測定されることができる。
【0092】
本発明のいくつかの態様では、PPARδアゴニストは、治療上有効な量で対象(例えば、ヒト)に投与される。本明細書で使用される場合、「有効な量」または「治療上有効な量」という用語は、所望の生物学的または薬理学的な応答、例えば、治療されている疾病の症状の軽減または緩和を誘発する活性成分の量を指す。本発明のいくつかの実施形態では、投与されるPPARδアゴニストの量は、様々な要因に応じて変動する可能性があり、これには、対象の体重、対象の疾病の性質および/または程度などが含まれるがこれらに限定されない。
【0093】
化合物
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPARδ)アゴニストは、脂肪酸、脂質、タンパク質、ペプチド、低分子、または他の化学物質であり、細胞のPPARδに結合して、下流応答、すなわち、レチノイン酸などの内因性リガンドに匹敵するか、あるいはカルバサイクリンなどの標準基準PPARδアゴニストに匹敵する、天然の遺伝子転写またはレポーター構築物遺伝子転写のいずれかの遺伝子転写を誘発する。
【0094】
一実施形態では、PPARδアゴニストは選択的なアゴニストである。本明細書で使用される場合、選択的なPPARδアゴニストは、細胞のPPARδに結合してこれを活性化し、細胞のペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARα)およびガンマ(PPARγ)を実質的に活性化しない化学物質と見なされる。本明細書で使用される場合、選択的なPPARδアゴニストは、PPARαおよびPPARγのいずれかまたは両方に比べて、PPARδの活性化に対して100倍を超える効力を有し、(内因性受容体リガンドと比較して)少なくとも10倍の最大活性化を有する化学物質である。さらなる実施形態では、選択的なPPARδアゴニストは、細胞のヒトPPARδに結合してこれを活性化し、ヒトPPARαおよびPPARγのいずれかまたは両方を実質的に活性化しない化学物質である。さらなる実施形態では、選択的なPPARδアゴニストは、PPARαおよびPPARγのいずれかまたは両方に比べて、PPARδの活性化に対して少なくとも10倍、または20倍、または30倍、または40倍、または50倍、または100倍の効力を有する化学物質である。
【0095】
本明細書において「活性化」とは、上述の下流応答として定義され、PPARの場合、これは遺伝子転写である。遺伝子転写は、試験中の特定のPPARサブタイプの活性化を反映したタンパク質の下流産生として間接的に測定されてもよい。代わりに、人工レポーター構築物は、細胞で発現した個々のPPARの活性化を試験するために採用されてもよい。研究対象となる特定の受容体のリガンド結合ドメインは、転写因子のDNA結合ドメインに融合されてもよく、これが酵母GAL4転写因子DNA結合ドメインなどの、実験室で便利な読み取り値を生成する。この融合タンパク質は、ルシフェラーゼタンパク質の発現に影響を与えるGal4エンハンサーとともに実験室の細胞株にトランスフェクトされてもよい。このような系が実験室の細胞株にトランスフェクトされると、受容体アゴニストが融合タンパク質に結合して、発光を生じさせる。
【0096】
選択的なPPARδアゴニストは、PPARδを選択的に発現する細胞では上記の遺伝子転写プロファイルを例示し、PPARγまたはPPARαを選択的に発現する細胞では例示しない場合がある。一実施形態では、細胞は、ヒトPPARδ、PPARγ、およびPPARαをそれぞれ発現する場合がある。
【0097】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、以下に記載されているPPAR一過性トランス活性化アッセイによって決定された場合、5μm未満のEC50値である場合がある。一実施形態では、EC50値は、1μm未満である。別の実施形態では、EC50値は、500nM未満である。別の実施形態では、EC50値は、100nM未満である。別の実施形態では、EC50値は、50nM未満である。
【0098】
PPAR一過性トランス活性化アッセイは、キメラ試験タンパク質およびレポータータンパク質をそれぞれコードする2つのプラスミドをヒトHEK293細胞に一過性トランスフェクションすることに基づいたものであってもよい。キメラ試験タンパク質は、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)と、ヒトPPARタンパク質のリガンド結合ドメイン(LBD)を融合したものであってもよい。リガンド結合ポケットに加えて含まれるPPAR-LBD部分は、天然の活性化ドメインも有しており、融合タンパク質は、PPARリガンド依存性の転写因子として機能することができる。GAL4 DBDは、このキメラタンパク質にGal4エンハンサー(HEK293細胞には存在しない)にのみ結合するように指示する。レポータープラスミドは、ホタルルシフェラーゼタンパク質の発現を引き起こすGal4エンハンサーを含んでいた。トランスフェクション後、HEK293細胞は、GAL4-DBD-PPAR-LBD融合タンパク質を発現した。融合タンパク質は、次に、ルシフェラーゼの発現を制御するGal4エンハンサーに結合し、リガンドがない状態では何もしない。PPARリガンドを細胞に添加すると、PPARタンパク質の活性化に対応する量のルシフェラーゼタンパク質が産生される。ルシフェラーゼタンパク質の量は、適切な基質を添加した後の発光によって測定される。
【0099】
細胞培養およびトランスフェクション:HEK293細胞は、DMEM+10%FCSで増殖させられてもよい。細胞は、トランスフェクション時の細胞密度が50~80%になるように、トランスフェクションの前日に96ウェルプレートに播種されてもよい。製造業者の説明書に従って、FuGeneのトランスフェクション試薬を用いて、1ウェル当たり0.64mgのpM1a/gLBD、0.1mgのpCMVbGal、0.08mgのpGL2(Gal4)5、および0.02mgのpADVANTAGEを含む合計0.8mgのDNAがトランスフェクトされてもよい。細胞は、48時間タンパク質を発現させられ、その後、化合物が添加されてもよい。
【0100】
プラスミド:ヒトPPARδは、ヒトの肝臓、脂肪組織、および胎盤のそれぞれのmRNAを逆転写することによって合成されたcDNAを用いてPCR増幅によって得られてもよい。増幅されたcDNAは、pCR2.1にクローニングされ、配列決定される場合がある。各PPARアイソフォームのリガンド結合ドメイン(LBD)は、PCRで生成され(PPARδ:aa128-C末端)、フレーム内の断片をベクターpM1にサブクローニングすることにより、酵母転写因子GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)と融合されて(Sadowski et al.(1992),Gene 118,137)、プラスミドpM1αLBD、pM1γLBD、およびpM1δが生成されてもよい。確実に融合されるように、配列決定によって確認されてもよい。レポーターは、GAL4認識配列の5つの反復をコードするオリゴヌクレオチド(Webster et al(1988)、Nucleic Acids Res.16、8192)をベクターpGL2プロモーター(Promega)に挿入することによって構築されて、プラスミドpGL2(GAL4)が生成されてもよい。PCMVbGalは、Clontechから購入されてもよく、pADVANTAGEは、Promegaから購入されてもよい。
【0101】
化合物:化合物は、DMSOで溶解し、細胞に添加する際に1:1000に希釈されてもよい。化合物は、0.001~300μMの範囲の濃度で4つの部分で試験されてもよい。細胞は、化合物で24時間処置された後、ルシフェラーゼアッセイが行われてもよい。化合物はそれぞれ、少なくとも2つの別個の実験で試験されてもよい。
【0102】
ルシフェラーゼアッセイ:試験化合物を含む培地は、吸引されてもよく、それぞれのウェルには、1mMのMg++およびCa++を含む100μlのPBSが添加されてもよい。ルシフェラーゼアッセイは、製造業者の説明書(Packard Instruments)に従って、LucLiteキットを使用して実施されてもよい。発光は、Packard LumiCounterで計量することによって定量されてもよい。β-ガラクトシダーゼ活性を測定するために、各トランスフェクションライセートの25mlの上清を、新しいマイクロプレートに移されてもよい。β-ガラクトシダーゼアッセイは、Promegaのキットを使用してマイクロウェルプレートで実施され、LabsystemsのAscent Multiscanリーダーで読み取られてもよい。β-ガラクトシダーゼのデータを使用して、ルシフェラーゼのデータが正規化(トランスフェクション効率、細胞増殖など)されてもよい。
【0103】
統計方法:化合物の活性は、未処理の試料と比較した相対発現量(fold induction)として計算されてもよい。各化合物に関して、PPARαに対するWy14,643、PPARγに対するロシグリタゾン、およびPPARδに対するカルバサイクリンと比較して、相対活性として有効性(最大活性)を出してもよい。EC50は、観察された最大活性の50%をもたらす濃度である。EC50値は、GraphPad PRISM 3.02(GraphPad Software,San Diego,CA)を使用して非線形回帰によって計算されてもよい。
【0104】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、1000g/mol未満の分子量、または950g/mol未満の分子量、または900g/mol未満の分子量、または850g/mol未満の分子量、または800g/mol未満の分子量、または750g/mol未満の分子量、または700g/mol未満の分子量、または650g/mol未満の分子量、または600g/mol未満の分子量、または550g/mol未満の分子量、または500g/mol未満の分子量、または450g/mol未満の分子量、または400g/mol未満の分子量、または350g/mol未満の分子量、または300g/mol未満の分子量、または250g/mol未満の分子量を有する。別の実施形態では、PPARδアゴニストは、200g/molを越える分子量、または250g/molを越える分子量、または250g/molを越える分子量、または300g/molを越える分子量、または350g/molを越える分子量、または400g/molを越える分子量、または450g/molを越える分子量、または500g/molを越える分子量、または550g/molを越える分子量、または600g/molを越える分子量、または650g/molを越える分子量、または700g/molを越える分子量、または750g/molを越える分子量、または800g/molを越える分子量、または850g/molを越える分子量、または900g/molを越える分子量、または950g/molを越える分子量、または1000g/molを越える分子量を有する。この段落の以上に記載されている上限と下限のいずれかが組み合わされてもよい。
【0105】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、以下の公開特許出願のいずれかで開示されているPPARδアゴニスト化合物であるが、これには、WO97/027847、WO97/027857、WO97/028115、WO97/028137、WO97/028149、WO98/027974、WO99/004815、WO2001/000603、WO2001/025181、WO2001/025226、WO2001/034200、WO2001/060807、WO2001/079197、WO2002/014291、WO2002/028434、WO2002/046154、WO2002/050048、WO2002/059098、WO2002/062774、WO2002/070011、WO2002/076957、WO2003/016291、WO2003/024395、WO2003/033493、WO2003/035603、WO2003/072100、WO2003/074050、WO2003/074051、WO2003/074052、WO2003/074495、WO2003/084916、WO2003/097607、WO2004/000315、WO2004/000762、WO2004/005253、WO2004/037776、WO2004/060871、WO2004/063165、WO2004/063166、WO2004/073606、WO2004/080943、WO2004/080947、WO2004/092117、WO2004/092130、WO2004/093879、WO2005/060958、WO2005/097098、WO2005/097762、WO2005/097763、WO2005/115383、WO2006/055187、WO2007/003581、およびWO2007/071766が挙げられる(当該文献のそれぞれは、このようなPPARδアゴニスト化合物に関して組み込まれる)。
【0106】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、以下の公開特許出願のいずれかで開示されているPPARδアゴニスト化合物であるが、これには、WO2014/165827、WO2016/057660、WO2016/057658、WO2017/180818、WO2017/062468、およびWO/2018/067860が挙げられる(当該文献のそれぞれは、このようなPPARδアゴニスト化合物に関して組み込まれる)。
【0107】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、以下の公開特許出願のいずれかで開示されているPPARδアゴニスト化合物であるが、これには、米国特許出願公開第20160023991号、第20170226154号、第20170304255号、および第20170305894号が挙げられる(当該文献のそれぞれは、このようなPPARδアゴニスト化合物に関して組み込まれる)。
【0108】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシアルキルカルボン酸化合物である。いくつかの実施形態では、フェノキシアルキルカルボン酸化合物は、2-メチルフェノキシアルキルカルボン酸化合物である。
【0109】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物、フェノキシプロパン酸化合物、フェノキシプロペン酸化合物、フェノキシブタン酸化合物、フェノキシブテン酸化合物、フェノキシペンタン酸化合物、フェノキシペンテン酸化合物、フェノキシヘキサン酸化合物、フェノキシヘキセン酸化合物、フェノキシオクタン酸化合物、フェノキシオクテン酸化合物、フェノキシノナン酸化合物、フェノキシノネン酸化合物、フェノキシデカン酸化合物、またはフェノキシデセン酸化合物である、フェノキシアルキルカルボン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物またはフェノキシヘキサン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物である。いくつかの実施形態では、フェノキシエタン酸化合物は、2-メチルフェノキシエタン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシヘキサン酸化合物である。
【0110】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、フェノキシエタン酸化合物、((ベンズアミドメチル)フェノキシ)ヘキサン酸化合物、((ヘテロアリールメチル)フェノキシ)ヘキサン酸化合物、メチルチオフェノキシエタン酸化合物、またはアリルオキシフェノキシエタン酸化合物である。
【0111】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、((ベンズアミドメチル)フェノキシ)ヘキサン酸化合物である。
【0112】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、((ヘテロアリールメチル)フェノキシ)ヘキサン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、((イミダゾリルメチル)フェノキシ)ヘキサン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、イミダゾール-1-イルメチルフェノキシヘキサン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、6-(2-((2-フェニル-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸である。
【0113】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、アリルオキシフェノキシエタン酸化合物である。いくつかの実施形態では、アリルオキシフェノキシエタン酸化合物は、4-アリルオキシ-2-メチルフェノキシ)エタン酸化合物である。
【0114】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、メチルチオフェノキシエタン酸化合物である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、4-(メチルチオ)フェノキシ)エタン酸化合物である。
【0115】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト化合物は、(Z)-[2-メチル-4―[3-(4-メチルフェニル)-3-[4―[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、(E)-[2-メチル-4―[3-[4―[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸(化合物1)、(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、および{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸(化合物1)、2-{4-[({2-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)スルファニル]-2-メチルフェノキシ}-2-メチルプロパン酸(ソデルグリタザル;GW677954)、2-[2-メチル-4-[[3-メチル-4-[[4-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]フェニル]チオ]フェノキシ]-酢酸、2-[2-メチル-4-[[[4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-チアゾリル]メチル]チオ]フェノキシ]-酢酸(GW-501516)、[4-[[[2-[3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-5-チアゾリル]メチル]チオ]-2-メチルフェノキシ]酢酸(GW610742としても知られているGW0742)、2-[2,6 ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-1(E)-プロペニル]フェノキシル]-2-メチルプロパン酸(エラフィブラノル、GFT-505)、{2-メチル-4-[5-メチル-2-(4-トリフルオロメチル-フェニル)-2H-[1,2,3]トリアゾール-4-イルメチルスルファニル]-フェノキシ}-酢酸、および[4-({(2R)-2-エトキシ-3-[4-(トリフルオロメチル)フェノキシ]プロピル}スルファニル)-2-メチルフェノキシ]酢酸(セラデルパル;MBX-8025)、(S)-4-[シス-2,6-ジメチル-4-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)ピペラジン-1-スルフォニル]-インダン-2-カルボン酸もしくはそのトシル酸塩(KD-3010)、(2s)-2-{4-ブトキシ-3-[({[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]カルボニル}アミノ)メチル]ベンジル}ブタン酸(TIPP-204)、[4-[3-(4-アセチル-3-ヒドロキシ-2-プロピルフェノキシ)プロポキシ]フェノキシ]酢酸(L-165,0411)、2-(4-{2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]エチル}フェノキシ)-2-メチルプロパン酸(ベザフィブラート)、またはそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選択されるフェノキシアルキルカルボン酸化合物である。
【0116】
別の実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸(化合物1)、2-{4-[({2-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-1,3-チアゾール-5-イル}メチル)スルファニル]-2-メチルフェノキシ}-2-メチルプロパン酸(ソデルグリタザル;GW677954)、2-[2-メチル-4-[[3-メチル-4-[[4-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]フェニル]チオ]フェノキシ]-酢酸、2-[2-メチル-4-[[[4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-チアゾリル]メチル]チオ]フェノキシ]-酢酸(GW-501516)、[4-[[[2-[3-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-メチル-5-チアゾリル]メチル]チオ]-2-メチルフェノキシ]酢酸(GW610742としても知られているGW0742)、2-[2,6 ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-1(E)-プロペニル]フェノキシル]-2-メチルプロパン酸(エラフィブラノル;GFT-505)、{2-メチル-4-[5-メチル-2-(4-トリフルオロメチル-フェニル)-2H-[1,2,3]トリアゾール-4-イルメチルスルファニル]-フェノキシ}-酢酸、および[4-({(2R)-2-エトキシ-3-[4-(トリフルオロメチル)フェノキシ]プロピル}スルファニル)-2-メチルフェノキシ]酢酸(セラデルパル;MBX-8025)からなる群から選択される2-メチルフェノキシアルキルカルボン酸化合物である。
【0117】
別の実施形態では、PPARδアゴニストは、(S)-4-[シス-2,6-ジメチル-4―(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)ピペラジン-1-スルフォニル]-インダン-2-カルボン酸またはそのトシル酸塩(KD-3010)、(2s)-2-{4-ブトキシ-3-[({[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]カルボニル}アミノ)メチル]ベンジル}ブタン酸(TIPP-204)、[4-[3-(4-アセチル-3-ヒドロキシ-2-プロピルフェノキシ)プロポキシ]フェノキシ]酢酸(L-165,0411)、および2-(4-{2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]エチル}フェノキシ)-2-メチルプロパン酸(ベザフィブラート)からなる群から選択される化合物である。
【0118】
別の実施形態では、PPARδアゴニストは、ソデルグリタザル、ロベグリタゾン、ネトグリタゾン、およびイサグリタゾン、2-[2-メチル-4-[[3-メチル-4-[[4-(トリフルオロメチル)フェニル]メトキシ]フェニル]チオ]フェノキシ]-酢酸(WO2003/024395を参照)、(S)-4-[シス-2,6-ジメチル-4-(4-トリフルオロメトキシ-フェニル)ピペラジン-1-スルフォニル]-インダン-2-カルボン酸もしくはそのトシル酸塩(KD-3010)、4-ブトキシ-a-エチル-3-[[[2-フルオロ4-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]アミノ]メチル]-ベンゼンプロパン酸(TIPP-204)、2-[2-メチル-4-[[[4-メチル-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-5-チアゾリル]メチル]チオ]フェノキシ]-酢酸(GW-501516)、2-[2,6 ジメチル-4-[3-[4-(メチルチオ)フェニル]-3-オキソ-1(E)-プロペニル]フェノキシル]-2-メチルプロパン酸(GFT-505)、および{2-メチル-4-[5-メチル-2-(4-トリフルオロメチル-フェニル)-2H-[1,2,3]トリアゾール-4-イルメチルスルファニル]-フェノキシ}-酢酸からなる群から選択される化合物である。
【0119】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸(化合物1)である:
【0120】
【化2】
【0121】
(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸の化学合成の例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例10で見出されるものであってもよい。
【0122】
化合物1は、hPPARα、hPPARγ、およびhPPARδの3つのヒトPPARサブタイプ(hPPAR)すべてに対して、インビトロアッセイで試験し、このような活性に関して試験した。化合物1は、PPARαおよびPPARγよりも、PPARδに対して大幅に大きな選択性を発揮した(それぞれ、少なくとも約100倍および少なくとも約400倍)。場合によっては、化合物1は、PPARδの完全なアゴニストとして作用し、PPARαおよびPPARγの両方に対しては部分的なアゴニストとしてのみ作用する。場合によっては、化合物1は、このような活性を試験する転写活性化アッセイで、PPARαおよび/またはPPARγにおいてごくわずかの活性を示す。
【0123】
いくつかの実施形態では、化合物1は、PPARδの完全アゴニストとしてのヒトレチノイドX受容体(hRXR)における活性、あるいは核内受容体FXR、LXRαまたはLXRβにおける活性を一切示さず、PPARαおよびPPARγの両方の部分アゴニストとしてのみであった。
【0124】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸である:
【0125】
【化3】
【0126】
(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸の化学合成の例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例3で見出されるものであってもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸である:
【0128】
【化4】
【0129】
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例4で見出されるものであってもよい。
【0130】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸である:
【0131】
【化5】
【0132】
(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例20で見出されるものであってもよい。
【0133】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸である:
【0134】
【化6】
【0135】
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例46で見出されるものであってもよい。
【0136】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸である:
【0137】
【化7】
【0138】
(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/071766の実施例63で見出されるものであってもよい。
【0139】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸である:
【0140】
【化8】
【0141】
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/003581の実施例9で見出されるものであってもよい。
【0142】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸である:
【0143】
【化9】
【0144】
{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2007/003581の実施例35で見出されるものであってもよい。
【0145】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸である:
【0146】
【化10】
【0147】
{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸の化学合成の一例は、PCT出願公開番号WO2004/037776の実施例10で見出されるものであってもよい。
【0148】
したがって、一実施形態では、PPARδアゴニストは、(Z)-[2-メチル-4-[3-(4-メチルフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(ピラゾール-1-イル)プロプ-1-イニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)-アリルオキシ]フェノキシ]酢酸)、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、(E)-[2-メチル-4-[3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)アリルオキシ]-フェノキシ]酢酸、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸、(E)-[4-[3-(4-クロロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチルフェニル]-プロピオン酸、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-ベンジルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、{4-[3-イソブトキシ-5-(3-モルホリン-4-イル-プロプ-1-イニル)-フェニルスルファニル]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、および{4-[3,3-ビス-(4-ブロモ-フェニル)-アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ}-酢酸、またはそれらの薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される化合物である。
【0149】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸またはその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(E)-[4-[3-(4-フルオロフェニル)-3-[4-[3-(モルホリン-4-イル)プロピニル]フェニル]アリルオキシ]-2-メチル-フェノキシ]酢酸ナトリウム塩である。
【0150】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、Wu et al. Proc Natl Acad Sci USA、2017年3月28日、114 (13) E2563-E2570に開示されている化合物1、化合物2、化合物3、化合物4、化合物5、化合物6、化合物7、化合物8、化合物9、化合物10、化合物11、化合物12、化合物13、化合物14、化合物15、または化合物16である。
【0151】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、もしくは(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。
【0152】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、またはその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸のヘミ硫酸塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸のメグルミン塩である。
【0153】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸、またはその薬学的に許容可能な塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸のヘミ硫酸塩である。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-3-メチル-6-(2-((5-メチル-2-(6-(トリフルオロメチル)ピリジン-3-イル)-1H-イミダゾール-1-イル)メチル)フェノキシ)ヘキサン酸のメグルミン塩である。
【0154】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、2-(2-メチル-4-(((2-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-2H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メチル)チオ)フェノキシ)酢酸、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0155】
さらなる実施形態では、PPARδアゴニストは、(R)-2-(4-((2-エトキシ-3-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)プロピル)チオ)フェノキシ)酢酸、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0156】
PPARδアゴニストに関連する「薬学的に許容可能な塩」という用語は、投与される哺乳動物に対して著しい刺激作用を引き起こさず、化合物の生物学的活性および特性を実質的には抑制しない、PPARδアゴニストの塩を指す。Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use. International Union of Pure and Applied Chemistry, Wiley-VCH 2002. S.M. Berge, L.D. Bighley, D.C. Monkhouse, J. Pharm. Sci. 1977, 66, 1-19. P. H. Stahl and C. G. Wermuth, editors, Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection and Use, Weinheim/Zurich:Wiley-VCH/VHCA, 2002。いくつかの実施形態では、薬学的な塩は、典型的には、非イオン種よりも溶けやすく、胃液および腸液中で急速に溶けやすく、ゆえに、固体剤形に有用である。さらに、その溶解度がpHの関数である場合が多く、そのため、消化管の1つまたは別の部分における選択的な溶解が可能であり、こうした能力は、遅延放出および徐放の挙動の1つの態様として操作可能である。また、塩成形分子が中性の形態と平衡状態にある可能性があるので、生体膜の通過を調整することができる。
【0157】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容可能な塩は、一般的には、遊離塩基を適切な有機酸または無機酸と反応させることによって、あるいは酸を適切な有機塩基または無機塩基と反応させることによって調製される。この用語は、本発明の化合物のいずれに関しても使用されてもよい。代表的な塩には、以下の塩が含まれるが、これには、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、エデト酸カルシウム、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストル酸塩(Estolate)、エシル酸塩(Esylate)、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩(Glycollylarsanilate)、ヘキシルレゾルシン酸塩(Hexylresorcinate)、ヒドラバミン(Hydrabamine)、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、マレイン酸一カリウム、ムチン酸塩(mucate)、ナプシル酸塩、硝酸塩、n-メチルグルカミン、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボネート)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、カリウム、サリチル酸塩、ナトリウム、ステアリン酸塩、亜酢酸塩、コハク酸塩、タン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩(Teoclate)、トシル酸塩、トリエチオダイド、トリメチルアンモニウム、および吉草酸塩が挙げられる。-COHなどの酸性置換基が存在する場合、剤形として使用されるアンモニウム、モルホリニウム、ナトリウム、カリウム、バリウム、カルシウム塩などが形成される可能性がある。アミノなどの塩基性基、またはピリジルなどの塩基性ヘテロアリールラジカルが存在する場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、ピルビン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、シンナム酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ピクリン酸塩などの酸性塩が形成される可能性があり、これには、Stephen M. Berge, et al., Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol. 66(1), pp. 1-19 (1977)に列挙されている薬学的に許容可能な塩に関連する酸が含まれる。
【0158】
特定の用語
特段の定めのない限り、本出願で使用される以下の用語は、以下の定義を有する。「含むこと(including)」という用語、ならびに、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含まれる(included)」などの他の形態の使用は、限定的なものではない。本明細書に使用される段落の見出しは、構成上の目的のために過ぎず、記載される主題を制限すると解釈されてはならない。
【0159】
本明細書で使用される場合、製剤、組成物または成分に関する「許容可能な」という用語は、治療される対象の一般的な健康状態に対して持続的な有害効果がないことを意味する。
【0160】
本明細書で使用される場合、「調節する(modulate)」という用語は、ほんの一例として、標的の活性を増強すること、標的の活性を阻害すること、標的の活性を制限すること、あるいは標的の活性を拡大することを含む、標的の活性を変動するように直接的または間接的のいずれかで標的と相互作用することを意味する。
【0161】
本明細書で使用される場合、「モジュレーター」という用語は、直接的または間接的のいずれかで標的と相互作用する分子を指す。相互作用には、アゴニスト、部分アゴニスト、インバースアゴニスト、アンタゴニスト、分解剤(degrader)、またはそれらの組み合わせの相互作用が含まれるがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、モジュレーターは、アンタゴニストである。いくつかの実施形態では、モジュレーターは、分解剤である。
【0162】
本明細書で使用される場合、「投与する(administer)」、「投与すること(administering)」、「投与(administration)」などの用語は、生物学的作用が望まれる部位への化合物または組成物の送達を可能にするために使用され得る方法を指す。これらの方法には、経口経路、十二指腸内経路、非経口注入(静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、血管内、または点滴を含む)、局所投与および直腸投与が含まれるがこれらに限定されない。当業者は、本明細書に記載されている化合物および方法を用いて採用され得る投与技術に精通している。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている化合物および組成物は、経口投与される。
【0163】
「同時投与」などの用語は、本明細書で使用される場合、1人の患者に対する選択された治療剤の投与を包含することを意味しており、同じあるいは異なる投与経路によって、または同じあるいは異なる時間に、薬剤が投与される治療レジメンを含むことを意図している。
【0164】
「有効な量」または「治療上有効な量」という用語は、本明細書で使用される場合、治療される疾患または疾病の1つ以上の症状をある程度まで抑える、投与される薬剤または化合物の十分な量を指す。結果は、疾患の徴候、症状、または原因の軽減および/または緩和、あるいは生体系の任意の他の所望の変動を含む。例えば、治療用途のための「有効な量」は、疾患の症状を臨床的に大幅に軽減するために必要とされる、本明細書に開示されるような化合物を含む組成物の量である。個々の場合の適切な「有効な」量は、用量漸増試験などの技術を使用して随意に決定される。
【0165】
「増強する(enhance)」または「増強すること(enhancing)」という用語は、本明細書で使用される場合、効力または持続時間のいずれかにおいて所望の効果を増加または延長させることを意味する。したがって、治療剤の効果を増強することに関して、「増強する」という用語は、効力または持続時間のいずれかにおいて、系に対する他の治療剤の効果を増加または延長させる能力を指す。本明細書で使用される場合、「増強有効量」は、所望の系において別の治療剤の効果を増強するのに十分な量を指す。
【0166】
本明細書で使用される場合、「薬学的な組み合わせ(pharmaceutical combination)」という用語は、1つを超える有効成分の混合または併用に起因し、かつ、有効成分の固定されたおよび固定されていない組み合わせを含む生成物を意味する。「固定された組み合わせ」という用語は、有効成分、例えば、本明細書に記載されている化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、および助剤が、単一の物質または剤形の形態で同時に患者に両方とも投与されることを意味する。「固定されていない組み合わせ」という用語は、有効成分、例えば、本明細書に記載されている化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、および助剤が、特定の介入時間の制限なく、同時に、平行して、または順次に別個の物質として患者に投与されることを意味し、こうした投与によって、患者の身体に有効なレベルの2つの化合物を提供する。後者は、カクテル療法、例えば、3つ以上の有効成分の投与にも当てはまる。
【0167】
「キット」および「製品」という用語は同義語として使用される。
【0168】
「対象」または「患者」という用語は、哺乳動物を包含する。哺乳動物の例には、ヒト、チンパンジーなどのヒト以外の霊長類、および他の類人猿ならびにサル種、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜、ウサギ、イヌ、およびネコなどの飼育動物、ラット、マウス、およびモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物など、哺乳動物のクラスの任意のメンバーが含まれるがこれらに限定されない。一態様では、哺乳動物はヒトである。
【0169】
「治療する」、「治療すること」、または「治療」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患または疾病の少なくとも1つの症状を緩和するか、軽減(abating)するか、あるいは改善すること、別の症状を防止すること、疾患または疾病を阻害すること、例えば、疾患または疾病の発達を抑えること、疾患または疾病を軽減すること、疾患または疾病の退行を引き起こすこと、疾患または疾病によって引き起こされた状態を軽減すること、あるいは疾患または疾病の症状を予防的におよび/または治療的に阻止することを含む。
【0170】
医薬組成物
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている化合物は、医薬組成物に製剤化される。医薬組成物は、活性化合物の処理を促進する1つ以上の薬学的に許容可能な不活性成分を使用して、従来の方法で、薬学的に使用される調製物に製剤化される。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。本明細書に記載されている医薬組成物の概要は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Nineteenth Ed (Easton, Pa.: Mack Publishing Company, 1995)、Hoover, John E., Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pennsylvania 1975、Liberman, H.A. and Lachman, L., Eds., Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Decker, New York, N.Y., 1980、および、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, Seventh Ed. (Lippincott Williams & Wilkins1999)に見出され、当該文献は、このような開示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0171】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されている化合物は、単独で、あるいは薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて、医薬組成物で投与される。本明細書に記載されている化合物および組成物の投与は、作用部位への化合物の送達を可能にする任意の方法によって達成されることができる。これらの方法には、腸内経路(経口、胃、または十二指腸の栄養管、肛門坐剤、および直腸の浣腸を含む)、非経口経路(動脈内、心臓内、皮内、十二指腸内、髄内、筋肉内、骨内、腹腔内、鞘内、血管内、静脈内、硝子体内、硬膜外、および皮下を含む、注射または注入)、吸入、経皮、経粘膜、舌下、頬側、および局所(上皮、真皮、浣腸、点眼、点耳、鼻腔内、膣を含む)の投与を介した送達が含まれるがこれに限定されず、最も適切な経路は、例えば、レシピエントの疾病または障害に依存する場合がある。ほんの一例として、本明細書に記載されている化合物は、例えば、手術中の局所注入、クリーム剤または軟膏剤などの局所適用、注射、カテーテル、または移植によって、治療を必要としている領域に局所投与されることができる。投与は、病変組織または臓器の部位での直接注射によるものであることもできる。
【0172】
本発明のいくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、医薬組成物内に含まれる。本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、薬学的活性成分(例えば、PPARδアゴニスト)および少なくとも担体を含む液体または固体の組成物、好ましくは固体(例えば、顆粒状の粉末)を指し、成分のいずれもが、投与された量では一般的に生物学的に望ましくないものではない。
【0173】
PPARδアゴニストを組み込む医薬組成物は、薬学的に許容可能な任意の物理的形態をとる場合がある。経口投与のための医薬組成物が、特に好ましい。このような医薬組成物の一実施形態では、有効な量のPPARδアゴニストが組み込まれている。
【0174】
本発明の医薬組成物の製剤の不活性成分および様式は、従来のものである。薬学で使用されている既知の製剤化方法に従ってもよい。通常のタイプの組成物のすべてが企図されており、これには、錠剤、咀嚼錠、カプセル、および溶液が含まれるがこれらに限定されない。しかしながら、PPARδアゴニストの量は、有効な量、すなわち、このような治療を必要とする対象に所望の用量を提供するPPARδアゴニストの量として最もよく定義される。PPARδアゴニストの活性は、組成物の性質に依存しないため、組成物は、利便性と経済性によってのみ選択され製剤化される。本明細書に記載されているようなPPARδアゴニストのいずれもが、任意の所望の組成物の形態で製剤化されてもよい。
【0175】
カプセルは、PPARδアゴニストを適切な希釈剤と混合し、その混合物の適量をカプセルに充填することによって調製されてもよい。通常の希釈剤には、多くの異なる種類のデンプン、粉末セルロース、特に結晶セルロースおよび微結晶セルロース、フルクトース、マンニトールおよびスクロースなどの糖類、穀物粉ならびに同様の食用粉末などの不活性粉末物質を含む。
【0176】
錠剤は、直接圧縮によって、湿式造粒によって、または乾式造粒によって調製されてもよい。それらの製剤は通常、PPARδアゴニストと同様に、希釈剤、結合剤、潤滑剤、および崩壊剤を組み込む。一般的な希釈剤としては、例えば、様々なタイプのデンプン、ラクトース、マンニトール、カオリン、リン酸カルシウムまたは硫酸カルシウム、塩化ナトリウムなどの無機塩、および粉糖などが含まれる。粉末セルロース誘導体も有用である。一般的な錠剤の結合剤は、デンプン、ゼラチン、および、ラクトース、フルクトース、グルコースなどの糖類などの物質である。天然ガムおよび合成ガムも便利であり、これには、アカシア、アルギネート、メチルセルロース、ポリビニルピロリジンなどが含まれる。ポリエチレングリコール、エチルセルロース、およびワックスも、結合剤としての機能を果たす。
【0177】
錠剤製剤中の潤滑剤は、錠剤やパンチが金型内で固着するのを防ぐのに役立つ場合がある。潤滑剤は、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ならびに水添植物油などの固体から選択されることができる。
【0178】
錠剤崩壊剤は、水に濡れると膨潤し、錠剤を崩壊して化合物を放出する物質である。それらには、デンプン、粘土、セルロース、アライン(align)、およびガムが含まれる。より具体的には、例えば、コーンスターチおよびポテトスターチ、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、木材セルロース、粉末天然スポンジ、陽イオン交換樹脂、アルギン酸、グアーガム、シトラスパルプ、およびカルボキシメチルセルロース、ならびに、ラウリル硫酸ナトリウムが使用されてもよい。
【0179】
腸溶製剤は、有効成分を強酸性の胃の内容物から保護するために使用される場合が多い。このような製剤は、酸性環境では不溶性であり、塩基性環境では可溶性であるポリマーのフィルムで固体剤形をコーティングすることによって作られる。 例示的なフィルムは酢酸塩フタル酸塩、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである。
【0180】
錠剤は、香料およびシーラントとして糖でコーティングされる場合が多い。また、PPARδアゴニストは、今では十分に確立されているように、製剤においてマンニトールなどの香味物質を大量に使用することによって咀嚼錠として製剤化することができる。
【0181】
経皮パッチが使用されてもよい。典型的には、パッチは、活性化合物が溶解するか、または部分的に溶解する樹脂性組成物を含み、組成物を保護するフィルムによって皮膚に接触して保持される。他の、より複雑なパッチ組成物も使用されており、特に、薬剤が浸透作用によって汲み上げられる際に通る無数の孔が穿たれた膜を有するものがある。
【0182】
PPARδアゴニストが医薬組成物に含まれる実施形態のいずれにおいても、このような医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性の懸濁液、分散可能な粉末または顆粒、エマルジョン、ハードカプセルまたはソフトカプセル、あるいはシロップまたはエリキシルとして、経口使用に適した形態であってもよい。経口使用を意図した組成物は、既知の方法に従って調製されてもよく、このような組成物は、薬学的に洗練された口当たりの良い調製物を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤および保存剤からなる群から選択される1つ以上の薬剤を含んでもよい。錠剤は、錠剤の製造に適した、無毒な薬学的に許容可能な賦形剤と混合した活性成分を含んでもよい。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤、顆粒剤および崩壊剤、例えば、トウモロコシデンプンまたはアルギン酸、結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン、またはアカシア、および、潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクであってもよい。錠剤は、コーティングされていなくてもよく、あるいは消化管での崩壊および吸収を遅らせ、それによってより長い期間にわたって持続的な作用を提供するために、既知の技術によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延物質が採用されてもよい。
【0183】
投与方法および治療レジメン
一実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、腎臓病または疾病の治療のための薬剤の調製において使用される。このような治療を必要とする哺乳動物において、本明細書に記載されている疾患または疾病のいずれかを治療するための方法は、治療上有効な量のPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)、活性代謝物、プロドラッグを含む医薬組成物を上記哺乳動物に投与する工程を含む。
【0184】
特定の実施形態では、本明細書に記載されている化合物を含む組成物は、予防的および/または治療的処置のために投与される。特定の治療用途では、組成物は、疾患または疾病の症状の少なくとも1つを治癒するか、または少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で、疾患または疾病に既に苦しんでいる患者に投与される。この使用に有効な量は、疾患または疾病の重症度および経過、以前の治療法、患者の健康状態、体重、および薬物に対する反応、ならびに治療する医師の判断に依存する。治療上有効な量は、限定されないが、用量漸増および/または用量範囲臨床試験(dose ranging clinical trial)を含む方法によって随意に決定される。
【0185】
予防的用途では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)を含む組成物は、特定の疾患、障害または疾病になりやすい、またはそうでなければそのリスクのある患者に投与される。このような量は、「予防に有効な量または用量」であると定義される。また、この使用では、正確な量は、患者の健康状態、体重などに依存する。患者に使用される場合、この使用のための有効な量は、疾患、障害または疾病の重症度および経過、以前の治療法、患者の健康状態および薬物に対する反応、ならびに治療する医師の判断に依存する。一態様では、予防的治療は、疾患または疾病の症状の再発を防ぐために、治療されている疾患の少なくとも1つの症状を以前に発症し、現在寛解状態である哺乳動物に、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)を含む医薬組成物を投与する工程を含む。
【0186】
患者の疾病が改善しない特定の実施形態では、医師の裁量で、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の投与は、患者の疾患または疾病の症状を改善するか、あるいは制御または制限するために、慢性的に、すなわち、患者の生涯の期間全体を含む長期間にわたって投与される。
【0187】
患者の状態が改善する特定の実施形態では、投与される薬物の投与量は、一時的に減少されるか、あるいは一定の期間にわたって一時的に中断される(すなわち「休薬期間」)。特定の実施形態では、休薬期間の長さは、ほんの一例として、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、12日、15日、20日、28日、または28日を超えるなどを含む、2日~1年の間である。休薬期間中の用量の減少は、ほんの一例として、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、および100%を含む、ほんの一例として、10%~100%である。
【0188】
いったん患者の疾病が改善すると、必要に応じて維持用量が投与される。続いて、特定の実施形態では、投与の用量または頻度、あるいはその両方は、症状に応じて、改善された疾患、障害または疾病が保持されるレベルまで減少される。しかし、特定の実施形態では、患者は、症状が再発すると、長期間にわたって断続的な治療を必要とする。
【0189】
一態様では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)による治療を必要とするヒトに毎日投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日1回投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日2回投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日3回投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日おきに投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1週間に2回投与される。
【0190】
一般的に、ヒトにおいて、本明細書に記載されている疾患または疾病を治療するために採用されるPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の投与量は、通常、1回の投与あたり体重の約0.1mg~約10mg/kgの範囲である。一実施形態では、所望の投与量は、単回投与で、または、同時に(または、短時間にわたって)、あるいは適切な間隔を空けて、例えば、1日当たり2回、3回、または4回以上の副用量(sub-dose)として投与される分割投与で、都合よく提示される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日1回、同時に(または短時間にわたって)投与される分割用量で都合よく提示される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1日2回均等な分量で投与される分割用量で都合よく提示される。
【0191】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、1回の投与当たりの体重の約0.1mg~約10mg/kgの投与量でヒトに経口投与される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)は、連続的な毎日の投薬計画でヒトに投与される。
【0192】
「連続的な投薬計画」という用語は、規則的な間隔での特定の治療剤の投与を指す。いくつかの実施形態では、連続的な投薬計画は、特定の治療剤からの休薬期間を含まない、規則的な間隔を置いた特定の治療剤の投与を指す。いくつかの他の実施形態では、連続的な投薬計画は、サイクルにおける特定の治療剤の投与を指す。いくつかの他の実施形態では、連続的な投薬計画は、薬物投与のサイクルにおける特定の治療剤の投与と、その後の特定の治療剤からの休薬期間(例えば、ウオッシュアウト期間、または薬物が投与されていない他のそのような期間)を指す。例えば、いくつかの実施形態では、治療剤は、1日1回、1日2回、1日3回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、1週間に7回、1日おき、2日おき、3日おき、1週間毎日投与された後に1週間治療剤は投与されず、2週間毎日投与された後に1または2週間治療剤は投与されず、3週間毎日投与された後に1、2または3週間治療剤は投与されず、4週間毎日投与された後に1、2、3または4週間治療剤は投与されず、治療剤は毎週投与された後に1週間治療剤は投与されず、あるいは、治療剤は隔週投与された後に2週間治療剤は投与されない。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日1回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日2回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日3回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日3回よりも多い。
【0193】
「連続的な毎日の投薬計画」という用語は、各日ほぼ同じ時間での毎日の特定の治療剤の投与を指す。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日1回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日2回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日3回である。いくつかの実施形態では、毎日の投与は、1日3回よりも多い。
【0194】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の量は、1日1回投与される。いくつかの他の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の量は、1日2回投与される。いくつかの他の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の量は、1日3回投与される。
【0195】
ヒトの疾患または疾病の状態の改善が観察されない特定の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の1日の投与量は増加される。いくつかの実施形態では、1日1回の投薬計画は、1日2回の投薬計画に変更される。いくつかの実施形態では、1日3回の投薬計画を採用し、投与されるPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の量は増加される。いくつかの実施形態では、吸入による投与の頻度は、より定期的に高いCmaxレベルを繰り返し提供するために増加される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)への維持されたまたはより定期的な曝露を行うために、投与の頻度は増加される。いくつかの実施形態では、より定期的に高いCmaxレベルを繰り返し提供し、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)への維持されたまたはより定期的な曝露を行うために、投与の頻度は増加される。
【0196】
前述のいずれの態様のうちのいずれにおいても、有効な量のPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の単回投与を含むさらなる実施形態があり、これには、PPARδアゴニストが、(i)1日1回、または(ii)1日のスパンで複数回投与される、さらなる実施形態が含まれる。
【0197】
前述の態様のうちのいずれにおいても、有効な量のPPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)の複数回投与を含むさらなる実施形態があり、これには、(i)PPARδアゴニストが連続的または間欠的に単回投与されるか、(ii)複数回投与の間隔が6時間ごとであるか、(iii)PPARδアゴニストが8時間ごとに哺乳動物に投与されるか、(iv)PPARδアゴニストが12時間ごとに哺乳動物に投与されるか、(v)PPARδアゴニストが24時間ごとに哺乳動物に投与される、さらなる実施形態が含まれる。さらなるまたは代わりの実施形態では、方法は、休薬期間を含み、ここで、PPARδアゴニストの投与は、一時的に中断されるか、あるいは投与されるPPARδアゴニストの投与量は、一時的に減少され、休薬期間の終わりに、PPARδアゴニストの投与が再開される。一実施形態では、休薬期間の長さは、2日~1年までで変動する。
【0198】
一般的には、ヒトに投与するためのPPARδアゴニスト、またはその薬学的に許容可能な塩の適切な投与量は、1日当たり約0.1mg/kg~1日当たり約25mg/kg(例えば、1日当たり0.2mg/kg、1日当たり0.3mg/kg、1日当たり0.4mg/kg、1日当たり0.5mg/kg、1日当たり0.6mg/kg、1日当たり0.7mg/kg、1日当たり0.8mg/kg、1日当たり0.9mg/kg、1日当たり約1mg/kg、1日当たり約2mg/kg、1日当たり約3mg/kg、1日当たり約4mg/kg、1日当たり約5mg/kg、1日当たり約6mg/kg、1日当たり約7mg/kg、1日当たり約8mg/kg、1日当たり約9mg/kg、1日当たり約10mg/kg、1日当たり約15mg/kg、1日当たり約20mg/kg、または1日当たり約25mg/kg)の範囲内である。代わりに、ヒトに投与するためのPPARδアゴニスト、またはその薬学的に許容可能な塩の適切な投与量は、約0.1mg/日~約1000mg/日、約1mg/日~約400mg/日、または約1mg/日~約300mg/日である。他の実施形態では、ヒトに投与するためのPPARδアゴニスト、またはその薬学的に許容可能な塩の適切な投与量は、約1mg/日、約2mg/日、約3mg/日、約4mg/日、約5mg/日、約6mg/日、約7mg/日、約8mg/日、約9mg/日、約10mg/日、約15mg/日、約20mg/日、約25mg/日、約30mg/日、約35mg/日、約40mg/日、約45mg/日、約50mg/日、約55mg/日、約60mg/日、約65mg/日、約70mg/日、約75mg/日、約80mg/日、約85mg/日、約90mg/日、約95mg/日、約100mg/日、約125mg/日、約150mg/日、約175mg/日、約200mg/日、約225mg/日、約250mg/日、約275mg/日、約300mg/日、約325mg/日、約350mg/日、約375mg/日、約400mg/日、約425mg/日、約450mg/日、約475mg/日、または約500mg/日である。投与量は、1日1回を超えて(例えば、1日に2回、3回、4回、またはそれ以上)投与されてもよい。一実施形態では、ヒトに投与するためのPPARδアゴニスト、またはその薬学的に許容可能な塩の適切な投与量は、1日2回約100mg(すなわち、合計約200mg/日)である。別の実施形態では、ヒトに投与するためのPPARδアゴニスト、またはその薬学的に許容可能な塩の適切な投与量は、1日2回約50mg(すなわち、合計約100mg/日)である。
【0199】
いくつかの実施形態では、毎日の投与量または剤形中の有効成分の量は、個々の治療レジメンに関する多くの変数に基づいて、本明細書で示されている範囲より少なくなるか、または多くなる。様々な実施形態では、毎日および単位投与量は、限定されないが、治療されるべき疾患または疾病、投与様式、個々の対象の要件、治療される疾患または疾病の重症度、ヒトの識別(例えば、体重)、および投与される特定の別の治療剤(該当する場合)、および施術者の判断を含む多くの変数に応じて変動する。
【0200】
こうした治療レジメンの毒性および治療有効性は、限定されないが、LD50およびED50の決定を含む、細胞培養または実験動物における標準的な製薬手順によって決定される。毒性と治療効果の間の用量比が治療指数であり、これは、LD50とED50の間の比率として表される。特定の実施形態では、細胞培養アッセイと動物研究から得られたデータは、ヒトを含む哺乳動物で使用される治療上有効な毎日の投与量範囲および/または治療上有効な単位用量を製剤化する際に使用される。いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストの毎日の投与量は、最小限の毒性を有するED50を含む血中濃度の範囲内にある。ある実施形態では、毎日の投与量範囲および/または単位用量は、採用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動する。
【0201】
いくつかの実施形態では、対象への治療上有効な量のPPARδアゴニストの投与後に、無毒性量(NOAEL)は、体重1キログラム当たりPPARδアゴニストの少なくとも1、10、20、50、100、500または1000ミリグラム(mpk)である。いくつかの例では、PPARδアゴニストを投与されたラットにおける7日間のNOAELは、少なくとも約200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500または2000mpkである。いくつかの例では、PPARδアゴニストを投与されたイヌにおける7日間のNOAELは、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、500mpkである。
【0202】
併用療法
特定の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩)を、1つ以上の他の治療剤と組み合わせて投与することが適切である。
【0203】
一実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の治療効果は、アジュバントの投与によって増強される(すなわち、それ自体でアジュバントは最小の治療的有用性を有するが、別の治療剤と組み合わせることによって、患者に対する全体的な治療的有用性が増強される)。あるいは、いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、同じく治療的有用性を有する別の薬剤(これには治療レジメンも含まれる)と一緒に投与することによって、患者が経験する利益が増加する。
【0204】
1つの特定の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物I)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、第2の治療剤と同時投与され、ここで、PPARδアゴニスト(例えば、化合物I)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、および第2の治療剤は、治療される疾患、障害または疾病の様々な態様を調節し、それによって、一方の治療剤単独の投与よりも大きな全体的な利益を提供する。
【0205】
いずれの場合でも、治療される疾患、障害または疾病にかかわらず、患者が経験する全体的な利益は単に2つの治療剤の相加的なものであるか、あるいは患者は相乗的な効果を経験する。
【0206】
特定の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物が、治療上有効な別の薬物、アジュバントなどの1つ以上の別の薬剤と組み合わせて投与される場合、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の異なる治療上有効な量は、医薬組成物の製剤化および/または治療レジメンにおいて利用される。併用療法レジメンで使用される薬物および他の薬剤の治療上有効な量は、随意に、有効成分自体に対して上に明記された手段と類似した手段によって決定される。さらに、本明細書に記載される予防/治療方法は、規則正しい(metronomic)投薬の使用を包含し、すなわち、毒性の副作用を最小限に抑えるために、より頻繁に、より少ない投与量を提供する。いくつかの実施形態では、併用療法レジメンは、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の投与が、本明細書に記載されている第2の薬剤による治療の前、その間、またはその後に始められ、第2の薬剤による治療の間または第2の薬剤による治療の終了後の任意の時点まで継続する、治療レジメンを包含する。これには、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、および併用して使用されている第2の薬剤が、治療期間中に、同時に、または様々な時点で、および/または減少するまたは増加する間隔で投与される治療も含まれる。併用療法はさらに、患者の臨床管理を援助するために様々な時点で開始および停止される定期的な治療も含む。
【0207】
緩和が求められている疾病を治療、予防、または改善するための投与レジメンは、様々な要因(例えば、対象が苦しんでいる疾患、障害、または疾病、対象の年齢、体重、性別、食事、および病状)に合わせて改変されることを理解されたい。したがって、いくつかの例では、実際に採用される投与レジメンは変動し、いくつかの実施形態では、本明細書に明記されている投与レジメンから逸脱する。
【0208】
本明細書に記載されている併用療法に関して、同時投与される化合物の投与量は、採用される特定の共薬のタイプ、採用される特定の薬物、治療される疾患または疾病などに応じて変動する。別の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、1つ以上の他の治療剤と同時投与される場合、1つ以上の他の治療剤と同時、または順次のいずれかで投与される。
【0209】
併用療法では、複数の治療剤(そのうちの1つはPPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物)は、任意の順序で、または同時でも投与される。投与が同時である場合、複数の治療剤は、ほんの一例として、単一の統一した形態で、または複数の形態で(例えば、単一の丸剤、または2つの別個の丸剤として)提供される。
【0210】
PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、ならびに併用療法は、疾患または疾病の発生前、発生中または発生後に投与され、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含む組成物を投与するタイミングは様々である。したがって、一実施形態では、化合物I、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、疾患または疾病の発生を予防するために、予防薬として使用され、疾患または疾病を発達させる傾向のある対象に継続的に投与される。別の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、症状の発症中または発症後、可能な限り早く対象に投与される。具体的な実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、疾患または疾病の発症が検出された後または疑われた後、実行可能な限り早く、および、疾患の治療に必要な期間にわたって投与される。いくつかの実施形態では、治療に必要な期間は様々であり、治療期間は各対象の具体的なニーズに合わせて調整される。例えば、特定の実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、あるいは、化合物I、またはその薬学的に可能な塩もしくは溶媒和物を含む製剤は、少なくとも2週間、約1ヶ月から約5年間投与される。
【0211】
併用療法で使用される典型的な薬剤
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1、または薬学的に許容可能な塩)は、カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の阻害剤、利尿薬、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)、TGF-β1の阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ、バソペプチダーゼAもしくはHMG-CoA還元酵素、ケモカイン受容体1拮抗剤、BMP-7、幹細胞、NAD+モジュレーター、放射線照射、あるいはそれらの組み合わせと組み合わせて投与される。
【0212】
特定の実施形態では、少なくとも1つの別の治療法は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と同時に投与される。特定の実施形態では、少なくとも1つの別の治療法は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物よりも少ない頻度で投与される。特定の実施形態では、少なくとも1つの別の治療法は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物よりも多い頻度で投与される。特定の実施形態では、少なくとも1つの別の治療法は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の投与の前に投与される。特定の実施形態では、少なくとも1つの別の治療法は、PPARδアゴニスト(例えば、化合物1)、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物の投与の後に投与される。
【0213】
カルシニューリン阻害剤には、シクロスポリンおよびタクロリムスが含まれるがこれらに限定されない。
【0214】
コルチコステロイドには、ベタメタゾン、プレドニゾン、アルクロメタゾン、アルドステロン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコール、デオキシコルチコステロン、デソニド、デソキシメタゾン、デスオキシコルトン(desoxycortone)、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、フルクロロロン、フルドロコルチゾン、フルドロキシコルチド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチン、フルオコルトロン、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニデン、フルチカゾン、ホルモコルタール(formocortal)、ハルシノニド、ハロメタゾン、ヒドロコルチゾン/コルチゾール、ヒドロコルチゾンアセポネート、ヒドロコルチゾンブテプレート、ヒドロコルチゾンブチラート、ロテプレドノール、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンアセポネート、モメタゾンフロエート、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾン/プレドニゾロン、リメキソロン(rimexolone)、チキソコルトール、トリアムシノロン、およびウロベタゾールが含まれるがこれらに限定されない。
【0215】
RAASを妨げる薬剤には、アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)、アルドステロン阻害剤が含まれる。
【0216】
ACE阻害剤には、ベナゼプリル、シラザプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリノプリル、ラマプリル、キナプリル、およびトランドラプリルが含まれるがこれらに限定されない。
【0217】
ARBには、カンデサルタン、エプレサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、およびバルサルタンが含まれるがこれらに限定されない。
【0218】
アルドステロン阻害剤には、スピロノラクトンが含まれるがこれらに限定されない。
【0219】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)経路モジュレーターと組み合わせて投与される。NAD+は、ADPからATPを生成する酸化的リン酸化において酸化剤として機能するなど、細胞内で多くの重要な役割を果たす。NAD+の細胞内濃度が上昇すると、ミトコンドリア内の酸化能力が増強され、それによって栄養素の酸化が増加し、ミトコンドリアの主な役割であるエネルギー供給が促進される。いくつかの実施形態では、NAD+モジュレーターは、ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒドデカルボキシラーゼ(ACMSD)およびN’-ニコチンアミドメチルトランスフェラーゼ(NNMT)を標的とする。
【0220】
用語「放射線照射」または「放射線療法」または「イオン化放射線」は、α線、β線、およびγ線ならびに紫外線を含むがこれらに限定されない、すべての形態の放射線を含む。
【0221】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、タンパク尿を標的とした治療と組み合わせて投与される。タンパク尿を標的とした治療には、カルシニューリン阻害剤およびレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の拮抗剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0222】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、炎症および線維症を標的とした治療と組み合わせて投与される。炎症および線維症を標的とした治療には、補体抑制、ケモカイン受容体アンタゴニスト、骨形成タンパク質7(BMP-7)、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0223】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、アルポート症候群のGBM病態を標的とした治療と組み合わせて投与される。アルポート症候群のGBM病態を標的とした治療には、ディスコイディンドメイン受容体1およびインテグリンx2131アンタゴニズムが含まれるがこれらに限定されない。
【0224】
いくつかの実施形態では、PPARδアゴニストは、エンドセリン受容体アンタゴニスト(抗タンパク尿効果)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA(HMG-CoA)還元酵素阻害剤(抗高血圧効果および抗タンパク尿効果)、バソペプチダーゼ阻害剤(抗タンパク尿効果および糸球体血行動態効果)、ペントキシフィリン(TNF-αを下方調節するメチルキサンチン誘導体)およびビタミンD(抗タンパク尿効果、抗炎症効果および免疫調節効果)と組み合わせて投与される。
【実施例
【0225】
以下の実施例は、例示目的のためのみに提供され、本明細書で提供されている請求項の範囲を制限するものではない。
【0226】
実施例1:腎臓の線維症のマウスのアルポートモデル
糸球体基底膜コラーゲンのIV型コラーゲン遺伝子であるIV型コラーゲンα3/α4/α5のうちの1つに変異を有するマウスは、腎臓の線維症の発症を伴う糸球体機能の欠陥がある。これらのマウスは、腎機能不全を発症させ、変異が存在する系統のバックグラウンドに依存した特異的なタイミングで、腎不全により早期に死亡する。
【0227】
材料および方法:
Col4a3-/-マウスの産生は、Miner, J.H., and Sanes, J.R. (1996), J. Cell Biol. 135:1403-1413に記載されているとおりであった。2つの異なる系統のバックグラウンドのマウスを使用して、腎臓の線維症のアルポートモデルにおいて化合物1の有効性に関する試験を行った。試験1では、通常、約17から19週齢で末期腎不全(ESRD)に達するB6129S1 F1ハイブリッドアルポートマウスを使用した。これらは、C57BL6/J(B6)と129S1/SvlmJ(129S1)アルポートマウス間の交配によって産生したものである。試験2では、通常、約11から13週齢でESRDに達する近交系129S1 Col4a3-/-マウスを使用した。
【0228】
治療:
試験1-B6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスには、6から17週齢まで1日1回、ビヒクル(PBS)または化合物1(10mg/kg)のいずれかを腹腔内注射によって投与した。群当たり12匹のマウスとした。疾患のない対照として、B6129S1ハイブリッドCol4a3+/-マウスを使用した。1週間に2回、化合物1をPBSで2mg/mLに溶解した。投与量は、体重(g)×5μLとして計算した(例えば、体重20g:20×5=100μL)。
【0229】
試験2-近交系129S1 Col4a3-/-マウスには、4から10週齢まで1日1回、ビヒクルまたは化合物1(10mg/kg)のいずれかを腹腔内注射(3または10mg/kg)によって投与した。群当たり12匹のマウスとした。1週間に2回、化合物1をPBSで0.6および2mg/mLに溶解した。投与量は、体重(g)×5μLとした(例えば、体重20g:20×5=100μL)。
【0230】
サンプルおよび分析:
B6129S1ハイブリッドCol4a3+/--/-マウスについては、12、15および17週齢の時点で、そして、近交系129S1 Col4a3-/-マウスについては、8および10週齢の時点で、尿サンプルと血液サンプルを採取した。尿タンパク質濃度は、ブラッドフォードアッセイ(Cat.5000006、Bio-Rad)と、ウシ血清アルブミン標準品を用いた比較とによって決定した。尿中クレアチニンは、QuantiChrom(商標)クレアチニンアッセイキット(Cat.DICT-500、BioAssay systems)で測定し、尿量を正規化するために使用した。血中尿素窒素(BUN)レベルは、QuantiChrom(商標)尿素アッセイキット(Cat.DUR2-100、BioAssay systems)で測定した。尿サンプルと血液サンプルは、採取後に-20C°と-80C°でそれぞれ保存し、その後分析した。
【0231】
生化学のために、15および17週齢のB6129S1ハイブリッドCol4a3+/--/-マウスと、8および10週齢の近交系129S1 Col4a3-/-マウスとから腎臓を採取した。採取した腎臓は、液体窒素によって急速冷凍し、-80°Cで保存した。腎臓は、プロテアーゼ阻害剤(Cat.786-108、G-BIOSCIENCES)を含有した冷PBS中で細切りし、遠心し、上清を取り出した。組織ペレットは、PBSを用いて洗浄して再び遠心した。組織ペレットは、プロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤を含有したRIPA緩衝液(Sigma-Aldrich、Cat.P5726)を用いて溶解した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Cat.23227、ThermoFisher)で測定した。ウェスタンブロットで、以下の抗体を使用したが、これには、抗腎障害分子1(KIM1)抗体(AF1817、R&D)、抗リポカリン2/NGAL抗体(ab70287、abcam)、抗リン酸化STAT3抗体(#9145、CST)、抗CTGF抗体(sc-365970、Santa Cruz)、抗TGFb1、2、3抗体(MAB1835、R&D)、抗フィブロネクチン抗体(F3648、Sigma)、抗α-平滑筋作用(SMA)抗体(F3777、Sigma)、抗コラーゲンI抗体(1310-01、SouthernBiotech)、抗コラーゲンIV抗体(1340-01、SouthernBiotech)、抗α-チューブリン抗体(#2144、CST)が挙げられる。
【0232】
すべての群において、分析には、血中尿素窒素と、尿中アルブミン:クレアチニン比との測定が含まれる。また、分析には、腎組織病理学(糸球体硬化症および尿細管間質性線維症)、ならびに、糸球体基底膜および有足細胞超微細構造の分析が含まれる。血漿サンプルを化合物1の濃度について分析し、効率的な標的係合のために十分な循環レベルであることを確認する。いくつかの関連組織のRNAを使用してqRT-PCRを行い、PPARδ(例えばPGC1α)の既知の転写標的の発現を調べた。
【0233】
統計:
データはすべて、平均±SEMで提示される。統計学的有意性は、3つを超える群の比較にはDunnett多重比較を、2つの群の比較にはStudent-t検定を伴う一元ANOVAによって決定した。統計学的有意性は、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005、****p<0.001で示した。
【0234】
結果:試験1
化合物1の治療によって、B6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスの腎機能不全が弱められた。化合物1の治療によって、腎臓病末期の17週齢で、タンパク尿が抑制された。(図1)また、化合物1によって、12および17週齢で、血中尿素窒素(BUN)の増加が抑制された。(図2
【0235】
結果:試験2
化合物1によって、129S1 Col4a3-/-マウスの腎機能不全は弱められなかった。マウスのアルポート症候群の重症度は、マウス系統のバックグラウンドに依存する。129S1系統は、B6系統よりも重症である(129S1およびB6 Col4a3-/-はそれぞれ、80±7.8日および114.1±14.1日(平均±SD)でESRDに至った)(Kang, J.S., et al., (2006), J Am Soc Nephrol, 17:1962-1969)。より急速に進行性のアルポート症候群モデルに対する化合物1の効果を調査するために、4から10週齢までの129S1 Col4a3-/-マウスに、ビヒクル(PBS)または化合物1(3mg/kgおよび10mg/kg)を、1日1回腹腔内注射によって投与した。治療中に、8および10週齢で、尿サンプルと血液サンプルを採取し、腎機能を評価した。試験1におけるB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスとは対照的に、近交系129S1 Col4a3-/-マウスへの化合物1を用いた治療は、タンパク尿やBUNの大幅な減少を一切もたらさなかった(データ示さず)。
【0236】
化合物1の治療によって、B6129SハイブリッドCol4a3-/-マウスの腎臓の組織構造がわずかに改善した。試験1では、疾患の末期で化合物1が保護作用を有していたので、化合物1は、炎症や線維症を弱めて、末期の腎臓病を改善させた可能性がある。組織炎症や線維症を分析するために、腎臓切片をH&EとTrichromeで染色した。顕微鏡検査によって、化合物1が炎症細胞の浸潤をわずかに減少させたことが示された。また、ビヒクルで治療したマウスと比較して、化合物1で治療したB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて皮質の壊死領域が減少した。(図3A)これらの結果によって、化合物1が腎臓炎症を抑制したことが示される。加えて、ビヒクルで治療したマウスと比較して、化合物1で治療したB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて線維症の程度がわずかに低下したように見えた。(図3B)したがって、試験1では、化合物1の治療によって、腎臓全体の炎症および線維症に関連した分子の発現が下方調節された。
【0237】
試験1では、化合物1の治療によって、腎臓全体の炎症および線維症に関連した分子の発現が下方調節された。化合物1の効果をさらに調査するために、炎症および線維症に関連した分子の発現を、ウェスタンブロットによって評価した。健康な対照Col4a3+/-マウスと比較して、未治療のB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて、腎障害分子(KIM)1およびリポカリン1/好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)を評価した。化合物1で治療したB6129S1ハイブリッドCol4a3-/-マウスにおいて、NGALタンパク質レベルが低下した。対照的に、KIM-1タンパク質レベルは、ビヒクルで治療したCol4a3-/-マウスと、化合物1で治療したものとの間で変化がなかった。ビヒクルで治療したCol4a3-/-マウスにおいて、炎症および線維症の調節因子であるリン酸化STAT3、TGFβ、および結合組織成長因子(CTGF)は、上方調節され、化合物1の治療によって、リン酸化STAT3およびCTGFの発現が弱まった。さらに、化合物1によって、活性化した線維芽細胞/筋線維芽細胞マーカーアルファSMAの発現、ならびに細胞外マトリックスタンパク質I型およびIV型コラーゲンの発現は減少したが、フィブロネクチンの発現は、化合物1の治療では変化がなかった。(図4)これらの結果は、化合物1が炎症および線維症に関連した特異的なタンパク質の発現を減少させることによって腎機能障害を改善したことを示唆している。
【0238】
実施例2:腎線維症に対する他の抗線維化剤との組み合わせ
PPARδアゴニストは、アルポート症候群を含む慢性腎臓病に対する他の薬物と組み合わせて使用することができる。アンジオテンシンII変換酵素(ACE)阻害剤およびアンギオテンシン受容体拮抗剤(ARB)は、頻繁に、腎臓病患者において使用されている。PPARδアゴニストは、2~3週齢で開始する、予防的な投薬において単体で、ならびにラミプリル(ACE阻害薬)またはカンデサルタン(ARB)と組み合わせて試験を行う。予防的な投薬の後に効果がある場合、治療的投薬のモダリティ(4~6週齢から開始)に関する併用試験を行う。線維症は、以上で記載したように組織学的に使用して測定し、腎機能は、タンパク尿および/または血清BUNを使用して測定する。また、併用療法の生存に対する効果も、以上で記載したように測定する。併用療法は、どちらか一方の薬剤を単独で使用した場合よりも有効性が高い場合、あるいはいずれかの薬物に必要とされる投与量が減少され、それによって副作用プロファイルが改善される場合に有利である。
【0239】
実施例3:アルポート症候群に対する臨床試験
ヒトにおけるアルポート症候群の臨床試験の非限定的な一例を以下に記載する。
【0240】
目的:この試験の目的は、アルポート症候群を患った患者の治療において単剤として、あるいは組み合わせで化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩の有効性を評価すること、単剤として、あるいは組み合わせで化合物が引き起こし得る何らかの副作用に関する情報を収集すること、そして、単剤として、あるいは組み合わせでの化合物の薬物動態特性を評価することである。
【0241】
介入:患者に、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、単剤として、あるいは組み合わせで、1日当たり10~200mg投与する。
【0242】
詳細な説明:患者に、化合物1、またはその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を、単剤として、あるいは組み合わせで、1日1回または2回経口で与える。各投与サイクルの前に、健康診断、血液検査および何らかの副作用の評価を行う。
【0243】
適格性:12歳~60歳(小児、成人)。
【0244】
選択基準:試験の参加に同意した、年齢12歳以上、60歳以下の男女の患者;遺伝子検査(COL4A3、COL4A4、またはCOL4A5を含む、アルポート症候群に関連した遺伝子の変異の確認)または電子顕微鏡法を使用した組織学的評価によって、アルポート症候群の診断;スクリーニング時のeGFRが30mL/分/1.73m2以上かつ90mL/分/1.73m2以下である;アルブミン対クレアチニン比(ACR)が3500mg/g以下である;アンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を受ける場合、この試験に参加する前に少なくとも6週間にわたって、これらの投薬は同じままでなければならない。医学的禁忌によりACE阻害剤および/またはARBを服用しない患者は、参加の8週間前に治療を中止していなければならない;適切な骨髄予備能および臓器機能;カプセル剤を呑み込むことが可能である;予定されている来院、治療計画、臨床検査、および他の研究手順に従う意思があり、それが可能である。
【0245】
除外基準:化合物1に以前暴露している;慢性血液透析または腹膜透析療法を進行中である;腎臓移植者;B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルが200pg/mLを超えている;制御されていない糖尿病(HbA1cが11.0%を超えている);参加前の12週間以内に、急性透析または急性腎障害;血清アルブミンが3g/dL未満である;臨床的に重大な左側心臓疾患および/または臨床的に重大な心臓病の病歴、これには、以下のうちのいずれかを含むがこれらに限定されない:座位収縮期血圧(BP)が160mm Hgを超えているか、あるいは一定期間の休息後に座位拡張期BPが100mm Hgを超えていることによって確証付けられるように、制御されていない体高血圧症;一定期間の休息後に収縮期BPが90mmHg未満である;無作為化、あるいは試験中に免疫抑制の必要性が予想される前の12週間以内に、累積して2週間を超えて全身免疫抑制;未治療または制御されていない活動性細菌感染症、真菌感染症、またはウイルス感染症;1日目の前の30日以内に他の介入治験に参加;スクリーニング中、治験薬を服用中、および治験薬の最後の投与量を摂取した後に少なくとも30日間にわたって、許容できる避妊方法を使用する意思がない患者(妊娠可能なパートナーがいる男性と妊娠可能な女性の両方);妊娠中または授乳中の女性;治験薬のいずれかの成分に対する既知の過敏症
【0246】
主要結果判定:活性薬物を受ける患者において、プラセボを受ける患者と比較した、ベースラインから12週目~48週目までのeGFR(推算糸球体濾過量)の増加を評価すること。
【0247】
副次的結果判定:化合物1で治療した患者において、4週間の休薬期間後のeGFRのベースラインからの変化を評価すること。
【0248】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は、例示的目的のためのものに過ぎず、当業者に示唆される様々な改変または変更は、本出願の精神および範囲、ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるものとする。
図1
図2
図3A
図3B
図4
【国際調査報告】