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  • 特表-脈管原性線維芽細胞 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】脈管原性線維芽細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20221114BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20221114BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20221114BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221114BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20221114BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/36 ZNA
A61P17/02
C12N5/071
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517791
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 US2020051603
(87)【国際公開番号】W WO2021055830
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/903,130
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/906,140
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520477485
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・インディアナ・ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】セン,チャンダン・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】シン,カンハイヤ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,サシュワティ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーダー,マービン・シー
(72)【発明者】
【氏名】タバサム,サバ
(72)【発明者】
【氏名】アブー-ハシェム,アフメッド・サフワト
(72)【発明者】
【氏名】ゴトク,サブハディップ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB48
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
in vivoで脈管形成を刺激する能力を含めた脈管原性特性を呈するように皮膚線維芽細胞を再プログラムするための組成物および方法が提供される。一実施形態によれば、そのような組成物は、糖尿病患者を含めた慢性創傷に対する使用のための標準的な処置と組み合わせて使用される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元の線維芽細胞と比較して1つまたは複数の脈管原性特性を呈するようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムする方法であって、再プログラムされた細胞が:
内皮細胞(EC)様の形態的形状変化;
細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節;
血小板内皮細胞接着分子1(CD31)の上方調節された発現;
内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)の上方調節;
カドヘリン5(CDH5)の上方調節、および
アセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みの増強
のうちの少なくとも1つの特性を呈し、
線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する一方で、前記細胞中の機能的miR-200bの濃度を低下させる工程を含む、方法。
【請求項2】
miR-200b濃度が、干渉RNAを細胞にトランスフェクトすることによって低下される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗miR-200bオリゴヌクレオチドが、ヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに送達される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抗miR-200bオリゴヌクレオチドが、in vivoでヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに送達される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
細胞内送達が、組織ナノトランスフェクションによる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法によって作製される脈管原性線維芽細胞であって、
線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)、ならびに
血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、脈管原性線維芽細胞。
【請求項7】
患者組織において新生血管形成を刺激する方法であって、in vivoで皮膚線維芽細胞を再プログラムして脈管原性にする工程を含み、
抗miRNA-200bオリゴヌクレオチドの細胞取り込みを増強する条件下で抗miRNA-200bオリゴヌクレオチドと皮膚線維芽細胞とを接触させる工程
を含む、方法。
【請求項8】
抗miR-200bオリゴヌクレオチドが、ヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに送達される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)、ならびに
血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質
を発現する、脈管原性線維芽細胞。
【請求項10】
miRNA-200bを標的とする干渉RNAをさらに含む、請求項9に記載の脈管原性線維芽細胞。
【請求項11】
内皮細胞(EC)様の形態的形状も呈し、天然の皮膚線維芽細胞と比較してアセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みが増強されている、請求項9又は10に記載の脈管原性線維芽細胞。
【請求項12】
前記血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)のそれぞれを発現する、請求項9~11のいずれか1項に記載の脈管原性線維芽細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は:2019年9月20日に出願の米国特許仮出願第62/903130号および2019年9月26日に出願の米国特許仮出願第62/906140号の優先権を主張し、その開示を本明細書に明示的に組み込む。
米国政府支援についての記載
本発明は、国立衛生研究所から授与されたGM108014の下で政府支援により行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
電子的に提出された資料の参照による組み込み
その全体が参照により組み込まれるのは、本出願と共に同時に提出され、以下の通りに特定されるコンピュータ読み込み可能なヌクレオチド/アミノ酸配列表である:2020年9月18日に作成された「322025_ST25.txt」と命名された1キロバイトのACII(テキスト)ファイル。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞は、動物における結合組織の最も一般的な細胞である。身体構造の内側を覆う上皮細胞とは異なり、線維芽細胞は平らな単層を形成せず、一方の基底層への分極した付着による制限を受けない。線維芽細胞の主要な機能は、細胞外マトリックスの前駆体を恒常的に分泌することによって結合組織の構造的完全性を維持することである。線維芽細胞は、細胞外基質の全ての成分、主に基質および様々な線維の前駆体を分泌する。
【0003】
ヒトおよびマウス組織における線維芽細胞の著しい異質性について近年記載されている。これは、組織の発達およびホメオスタシスを理解するには線維芽細胞の挙動の状態変化がいかに必要であるかの更なる理解と組み合わせて、組織再生および不適当なまたは望ましくない線維芽細胞の活性に関連する疾患状態を解決するための新たな戦略を提供する。
【0004】
発達の間にまたは傷害に応答して特定の挙動の状態変化を示す線維芽細胞の固有の亜集団の説明が、現在、ようやく明らかになってきている。本明細書に開示した通り、出願人は、単一細胞RNA配列決定と線維芽細胞の詳細な系統特異的機能および分子分析とを組み合わせて、急性傷害に続いて生理的、後成的に調節される新規の線維芽細胞亜集団の状態変化を同定した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態によれば、ヒト皮膚線維芽細胞を脈管原性にするように再プログラムするための組成物および方法であって、再プログラムされた皮膚線維芽細胞が血管形成を誘導する能力を有する、組成物および方法が提供される。本方法は、皮膚線維芽細胞に対してin vivoまたはin vitroで行われ得る。一実施形態において、本方法は、線維芽細胞内のmiR-200bの存在量を減少させて、例えば線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)の存在を含めた線維芽細胞の特徴を保持しながら例えば培養および/またはin vivoで管腔化した毛細管様構造を形成する能力を含めた脈管原性特性も呈する細胞を作製する工程を含む。一実施形態において、抗miR-200bオリゴヌクレオチド(例えば干渉RNA)を、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現しているヒト皮膚線維芽細胞(HADF)にトランスフェクトして、HADFを改変し、それにより脈管原性特性を呈する脈管原性線維芽細胞を作製する。一実施形態において脈管原性特性は:
内皮細胞(EC)様の形態的形状変化;
細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節;
血小板内皮細胞接着分子1(PECAM-1)、別名分化抗原群31(CD31)の上方調節された発現;
内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)の上方調節;
カドヘリン5(CDH5)の上方調節、および
アセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みの増強
のうちの特性の1つまたは複数を含む。加えて、本明細書で開示される脈管原性線維芽細胞は、Matrigel上に蒔くと管状構造を、および/もしくは3次元(D)1型コラーゲンゲル内では管腔化した構造を形成する能力を呈し、ならびに/または臍帯血内皮コロニー形成細胞との3Dゲル共培養においてはキメラ管腔化した毛細管様構造を形成した。一実施形態において1つまたは複数のタンパク質が、本出願に記載されるように再プログラムされていない天然の皮膚線維芽細胞と比較して図2Bに示される通り上方調節または下方調節されている脈管原性線維芽細胞が提供される。
【0006】
一実施形態において、細胞が、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)と血管内皮成長因子受容体-2(VEGFR2)の両方を発現する、脈管原性線維芽細胞が提供される。任意選択で、細胞は、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)からなる群から選択される内皮細胞の追加のマーカーを発現してもよい。本明細書に開示される脈管原性線維芽細胞を誘導して、患者の所望の部位で脈管化の刺激を助けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1A及び1B:抗miR-200bオリゴヌクレオチドによる皮膚線維芽細胞の脈管原性状態への直接再プログラムを示す図である。ホスホロチオエート修飾を持つ、miR-200bを標的とするロック核酸(LNA):5’-catcattaccaggcatatt-3’(配列番号1)を使用した。この19merのASOの送達の成功を、特別注文のプライマーを使用してRT-qPCRによって検証した。NCBIおよびmiRBaseデータベース中の任意の生物の任意の配列に対して>70%の相同性ヒットがない類似の19merオリゴヌクレオチドを、模擬対照として使用した。対照またはmiR-200b阻害剤をトランスフェクトしたヒト成人皮膚線維芽細胞(HADF)のFSP-1/CD-31共局在化の免疫細胞化学を観察した。細胞をDAPIで対比染色した(n=3;結果を示さない);図1Aは、7日目の対照またはmiR-200b阻害剤をトランスフェクトしたHADF細胞におけるFSP1およびCD31の定量化を示す図である。図1Bは、miR-200b阻害7日後における三重陽性FSP1+VEGFR2+CDH5+線維芽細胞の画像を観察し、算出したAPC強度のグラフを提供する図である。
図1B】同上。
図2図2A及び2B:単一細胞RNA-seq分析が、新規の線維芽細胞亜集団の状態変化を同定することを示す図である。12880個のFSP+VEGFR2-線維芽細胞および11333個のFSP+VEGFR2+線維芽細胞の単一細胞トランスクリプトームを示すUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)プロットを、10×Genomicsプラットフォームを使用して分析した。教師なしクラスタリングは、13個の集団を同定した。図2Aは、線維芽細胞(FSP+VEGFR2-)および脈管原性線維芽細胞(FSP+VEGFR2+)の各集団における細胞数を示す棒グラフを提供する図である。単一細胞分析から、miR-200b阻害後の脈管原性線維芽細胞の特定のクラスターにおいて血管新生の特徴の獲得が明らかになった。高レベルのプロ血管新生マーカー、CITED2、GLUL、RRASおよびPDGFRBならびに低レベルの抗血管新生マーカー、SERPINE1、PGK1、PDCD10およびITGB1BP1が、FSP+VEGFR2+線維芽細胞において検出された。miR-200b阻害後に日毎に増大した他の署名遺伝子は:VEGFB、VEGFC、NRP1、NRP2、FLT1、VEGFR1、VEGFR2、MAP2K1、MAP2K2、RAF1、KRAS、NOS3およびPTENであった。脈管原性線維芽細胞の分子的特徴を、図2Bに提供する。
図3図3A及び3B:miR-200b阻害による虚血性組織灌流の増大を示す図である。図3Aは、C57BL/6マウスにおける虚血14日後の模擬処置(左パネル)およびmiR-200b処置(右パネル)した後肢虚血組織のレーザースペックル画像化(LSI)灌流データ(上段)、超音波(中段)ならびに血流速度(下段)の写真である。図3Bは、LSI灌流データの定量化を示すグラフであり、点線はLNA対照を表し、実線はLNA miRNA-200bを表す図である。結果は、抗miRNA-200b処置マウスにおける灌流の増大を実証するLAN抗miRNA-200b処置マウス[平均±SEM、(n=11)]を表す。
図4図4A及び4B:miR-200b阻害による糖尿病性創傷組織の灌流の増大を示す図である。図4Aは、LNA対照またはmiR-200b阻害剤のいずれかで処置したdB/dBマウスの0日目から10日目までの創傷端組織の皮膚血液灌流の定量化(n=4)を示す図である。図4Bは、対照阻害剤(点線)と比較してmiR-200b阻害後(実線)の糖尿病性創傷組織における8日目および10日目における創傷の一層の縮小を示すデジタル創傷面積測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
本発明の説明および請求において、以下の用語は以下に述べる定義に従って使用されることになる。
【0009】
本明細書では、用語「約」は、記載される値もしくは値の範囲の10パーセントまで大きいまたは小さいことを意味するが、いかなる値もしくは値の範囲も、このより広い定義のみに限定することを意図するものではない。用語「約」の後の各値または値の範囲は、記載される絶対値または値の範囲の実施形態を包含することも意図する。
【0010】
本明細書では、用語「精製した」および同義語は、生来または天然の環境において分子もしくは化合物に通常付随する汚染物質を実質的に含まない形態の分子もしくは化合物の単離に関する。本明細書では、用語「精製した」は、絶対的な純度を必要とせず;むしろ相対的な定義を意図する。用語「精製したポリペプチド」は、核酸分子、脂質および炭水化物を含むがこれに限定されない他の化合物から分離されたポリペプチドを記載するために本明細書において使用される。
【0011】
用語「単離した」は、参照される材料が元の環境(例えば、天然に存在している場合、天然の環境)から取り出されることを必要とする。例えば、生きた動物に存在する天然に存在するポリヌクレオチドは単離されていないが、天然系において共存する材料の一部または全部から分離された同じポリヌクレオチドは、単離されている。
【0012】
組織ナノトランスフェクション(TNT)は、ナノスケールで細胞の細胞質ゾルに核酸配列およびタンパク質を送達することができるエレクトロポレーションに基づく技術である。特に、TNTは、整列したナノチャネルによって非常に強く、集中的な電界を使用し、並置している組織細胞メンバーを穏やかにナノ穿孔し、細胞内へカーゴ(例えば、核酸またはタンパク質)を電気泳動的に送り込む。
【0013】
本明細書では、「制御エレメント」または「調節配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域を含めた機能的遺伝子の非翻訳領域であり、宿主細胞性タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実施する。そのようなエレメントは、その強度および特異性が変わる場合がある。「真核生物調節配列」は、エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域を含めて機能的な遺伝子の非翻訳領域であり、真核生物細胞の宿主細胞性タンパク質と相互作用して哺乳動物細胞を含めた真核生物細胞において転写および翻訳を実施する。
【0014】
本明細書では、「プロモーター」は、遺伝子の転写開始部位に関して相対的に固定された場所にある場合に機能するDNAの配列(単数)または配列(複数)である。「プロモーター」は、RNAポリメラーゼと転写因子の基本的な相互作用に必要とされるコアエレメントを含有し、上流エレメントおよび応答エレメントを含有し得る。
【0015】
本明細書では、「エンハンサー」は、転写開始部位からの距離に関係なく機能するDNAの配列であり、転写単位の5’または3’側のいずれにもあり得る。さらに、エンハンサーは、イントロンの中およびコード配列自体の中にある場合もある。それらは、通常長さ10~300bpであり、シスで機能する。エンハンサーは、近傍のプロモーターからの転写を増大させるように機能する。プロモーターのようなエンハンサーは、転写の調節を媒介する応答エレメントもしばしば含有する。エンハンサーは、発現の調節をしばしば決定する。
【0016】
「内因性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム内の所与の遺伝子と天然に連結されているものである。「外因性」または「異種性」エンハンサー/プロモーターとは、遺伝子の転写が、連結されるエンハンサー/プロモーターによって指令されるように遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技術)によって遺伝子に並列して配置されるものである。本明細書では、細胞に関して外因性配列とは、細胞の外部供給源から細胞内に導入された配列である。
【0017】
本明細書では、用語「非コード(非標準)アミノ酸」とは、次の20種のアミノ酸:Ala、Cys、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、TyrのうちいずれのL異性体でもない任意のアミノ酸を包含する。
【0018】
本明細書では用語「同一性」は、2つ以上の配列の間の類似性に関する。同一性は、同一残基の数を残基の総数で除算し、その結果を100で乗算してパーセンテージを得ることによって測定される。したがって、2コピーの全く同じ配列は、100%の同一性を有するが、互いに比較してアミノ酸の欠失、付加または置換が有る2つの配列は、より低い程度の同一性を有する。当業者には、BLAST[Basic Local Alignment Search Tool、Altschulら(1993年)J.Mol.Biol.215:403~410頁]のようなアルゴリズムを利用するプログラムなどいくつかのコンピュータプログラムが、配列同一性を決定するために利用可能であることが明らかであろう。
【0019】
本明細書では用語「厳しいハイブリダイゼーション条件」とは、プローブと標的配列の間に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の配列同一性がある場合にハイブリダイゼーションが一般に起こることになることを意味する。厳しいハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、およびサケ精液DNAなどの変性させ、剪断した担体DNA 20μg/mLを含む溶液中で終夜インキュベーションし、その後にハイブリダイゼーション支持体を0.1×SSC中で、およそ65℃で洗浄することである。他のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は周知であり、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989年)、特に第11章に例示されている。
【0020】
本明細書では、用語「薬学的に許容可能な担体」には、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水または水/油乳濁液のような乳濁液および様々な型の湿潤剤など標準的な医薬用担体のいずれかが挙げられる。本用語は、ヒトを含めた動物に使用するために米国連邦政府の監督機関によって承認されているまたは米国薬局方に挙げられている薬剤のいずれも包含する。
【0021】
本明細書では、用語「リン酸緩衝食塩水」または「PBS」とは、塩化ナトリウムおよびリン酸ナトリウムを含む水溶液のことを指す。PBSの異なる処方は当業技術者に公知であるが、本発明の目的のためには語句「標準的なPBS」とは、終濃度137mM NaCl、10mMリン酸、2.7mM KClおよびpH7.2~7.4を有する溶液のことを指す。
【0022】
本明細書では、用語「処置」は、特定の障害もしくは状態の予防もしくは特定の障害もしくは状態と関連する症状の緩和および/または前記症状の防止もしくは除去を含む。
本明細書では、薬物の「有効な」量または「治療上有効な量」とは、毒性はないが、所望の効果を発揮するのに十分な薬物のことを指す。「有効」である量は、個体の年齢および全身状態、投与様式、等に応じて対象間でまたは対象内でも時間経過とともに変動することになる。したがって、正確な「有効量」を指定することは必ずしも可能ではない。しかしながら、任意の個々の場合に適切な「有効な」量は、慣例的な実験を使用して当業者によって決定され得る。
【0023】
本明細書では、アミノ酸「置換」とは、1つのアミノ酸残基の異なるアミノ酸残基による置き換えのことを指す。
本明細書では、用語「保存的アミノ酸置換」は、以下の5つの群:
I.小さい脂肪族、無極性またはわずかに極性のある残基:
Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;
II.極性のある負に荷電した残基およびそのアミド:
Asp、Asn、Glu、Gln;
III.極性のある正に荷電した残基:
His、Arg、Lys、オルニチン(Orn);
IV.大きい、脂肪族の無極性残基:
Met、Leu、Ile、Val、Cys、ノルロイシン(Nle)、ホモシステイン(hCys)
V.大きい芳香族残基:
Phe、Tyr、Trp、アセチルフェニルアラニン、ナフチルアラニン(Nal)
のうちの1つの中での交換と本明細書において定義される。
【0024】
本明細書では、更なる指定のない用語「患者」は、任意の温血脊椎動物の家畜(例えば、それだけには限らないが、家畜類、ウマ、ネコ、イヌおよび他のペットを含める)およびヒトを包含することを意図する。
【0025】
用語「担体」は、化合物もしくは組成物と組み合わせた場合に、意図する使用もしくは目的のために化合物もしくは組成物の調製、貯蔵、投与、送達、有効性、選択性もしくは他の任意の特徴を補助または促進する化合物、組成物、物質もしくは構造を意味する。例えば、担体は、活性成分のあらゆる分解を最小化し、対象におけるあらゆる副作用を最小化するように選択され得る。
【0026】
用語「阻害する」とは、活性、応答、状態、疾患または他の生物学的パラメータの低下のことを指す。これは、活性、応答、状態または疾患の完全な除去を含むが、これに限定され得ない。これはまた、例えば、天然もしくは対照レベルと比較して活性、応答、状態または疾患の10%の減少も含み得る。したがって、減少は、天然もしくは対照レベルと比較して10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、またはその間の任意の量の減少であり得る。
【0027】
用語「ポリペプチド」とは、ペプチド結合または修飾ペプチド結合、例えば、ペプチドイソスター等によって相互に接続されているアミノ酸のことを指し、遺伝子にコードされる20種のアミノ酸以外の修飾アミノ酸を含有してもよい。ポリペプチドは、翻訳後プロセシングなどの天然の過程または当業者に周知の化学的修飾技術のいずれかによって修飾され得る。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシ末端を含めた、ポリペプチド内のどこでも起こり得る。
【0028】
用語「アミノ酸配列」とは、ペプチド結合によって共に連結された2つ以上のアミノ酸の列のことを指し、アミノ酸連結の順序は、アミノ酸残基を表す略語、文字、記号または単語の一覧によって指定される。本明細書に使用されるアミノ酸の略語は、アミノ酸に対する従来通りの1文字コードであり、以下の通りに表される:A、アラニン;B、アスパラギンまたはアスパラギン酸;C、システイン;D、アスパラギン酸;E、グルタメート、グルタミン酸;F、フェニルアラニン;G、グリシン;H、ヒスチジン;I、イソロイシン;K、リジン;L、ロイシン;M、メチオニン;N、アスパラギン;P、プロリン;Q、グルタミン;R、アルギニン;S、セリン;T、トレオニン;V、バリン;W、トリプトファン;Y、チロシン;Z、グルタミンまたはグルタミン酸。
【0029】
本明細書では句「核酸」とは、DNAもしくはRNAまたはDNA-RNAハイブリッド、一本鎖もしくは二本鎖、センスもしくはアンチセンスに関わらず、天然に存在するもしくは合成のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドのことを指し、ワトソン-クリック塩基対合によって相補的な核酸にハイブリダイゼーションする能力がある。核酸は、ヌクレオチド類似体(例えば、BrdU)および非リン酸ジエステルヌクレオシド間連結(例えば、ペプチド核酸(PNA)またはチオジエステル連結)を含むこともできる。特に、核酸は、限定されるものではないが、DNA、RNA、cDNA、gDNA、ssDNA、dsDNAまたはその任意の組合せを挙げることができる。
【0030】
本明細書では「ヌクレオチド」とは、塩基部分、糖部分およびリン酸部分を含有する分子である。ヌクレオチドは、ヌクレオシド間連結を創出するリン酸部分および糖部分によって共に連結され得る。用語「オリゴヌクレオチド」は、共に連結された2つ以上のヌクレオチドを含有する分子のことを指すために時々使用される。ヌクレオチドの塩基部分は、アデニン-9-イル(A)、シトシン-1-イル(C)、グアニン-9-イル(G)、ウラシル-1-イル(U)およびチミン-1-イル(T)であり得る。ヌクレオチドの糖部分は、リボースまたはデオキシリボースである。ヌクレオチドのリン酸部分は、五価のリン酸である。ヌクレオチドの非限定的な例は、3’-AMP(3’-アデノシン一リン酸)または5’-GMP(5’-グアノシン一リン酸)である。ヌクレオチド類似体とは、塩基、糖および/またはリン酸部分にいくつかの型の修飾を含有するヌクレオチドである。ヌクレオチドに対する修飾は当業者に周知であり、例えば、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチンおよび2-アミノアデニンならびに糖またはリン酸部分における修飾を含むことになる。
【0031】
ヌクレオチド置換体とは、ペプチド核酸(PNA)など、ヌクレオチドと類似の機能特性を有するが、リン酸部分を含有しない分子である。ヌクレオチド置換体は、ワトソン-クリックまたはフーグスティーン様式で核酸を認識することになるが、リン酸部分以外の部分によって共に連結される分子である。ヌクレオチド置換体は、適当な標的核酸と相互作用する場合に二重らせん型構造に適合することができる。
【0032】
用語「ベクター」または「構築物」とは、ベクター配列が連結されている別の核酸を細胞内へ輸送する能力がある核酸配列を示す。用語「発現ベクター」は、細胞による発現に適切な形態で遺伝子構築物を含有する(例えば、転写制御エレメントに連結されている)任意のベクター(例えば、プラスミド、コスミドまたはファージ染色体)を含む。プラスミドは、ベクターの一般的に使用される形態なので、「プラスミド」と「ベクター」は互換的に使用される。さらに、本発明は、同等の機能を果たす他のベクターを含むことを意図している。
【0033】
用語「作動的に連結される」とは、核酸と別の核酸配列との機能的関係のことを指す。プロモーター、エンハンサー、転写および翻訳停止部位ならびに他のシグナル配列は、他の配列に作動的に連結され得る核酸配列の例である。例えば、転写制御エレメントへのDNAの作動的な連結とは、そのようなDNAの転写が、DNAを特異的に認識し、結合し、転写するRNAポリメラーゼによってプロモーターから開始されるようなDNAとプロモーターの間の物理的および機能的関係のことを指す。
【0034】
本明細書では「干渉RNA」は、転写後遺伝子サイレンシングに関係する任意のRNAであり、その定義は、二本鎖RNA(dsRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)ならびにセンスおよびアンチセンス鎖から構成されるマイクロRNA(miRNA)が挙げられるが、これに限定されない。
【0035】
本明細書では「ロック核酸」(LNA)は、リボース部分が2’酸素と4’炭素を接続する追加の架橋で修飾されている修飾RNAヌクレオチドである。例えば、ロック核酸配列は、構造:
【0036】
【化1】
【0037】
のヌクレオチドを含む。
本明細書では、用語「脈管形成」は、前駆細胞(血管芽細胞)の内皮細胞への分化および原始脈管ネットワークのde novo形成と定義される。
実施形態
本開示は、in vivoで脈管形成を誘導する能力がある脈管原性線維芽細胞を目的とする。本明細書に開示される脈管原性線維芽細胞は、血管の形成を誘導する能力を有するように操作された線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する検証済みのヒト皮膚線維芽細胞(HADF)から得られる。そのような再プログラムされた線維芽細胞は、細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節(および他の内皮細胞結合タンパク質、ならびに内皮細胞の他の分子署名を呈する)、および線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)の連続的な発現を呈する。これらFSP-1+/VEGFR2+細胞は、驚くべきことにHADF細胞と同程度に効率的にコラーゲンゲルを再形成し、収縮させ続け;対照ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)はそのような活性を全く示さなかった。したがって、本開示は、脈管原性特性を有するように誘導された線維芽細胞を目的とする。
【0038】
出願人は、miR-200b存在量が、全層表皮傷害後の最初の7日間に一過性に下落し、本明細書に開示されるように、この消失が、創傷端に存在する皮膚線維芽細胞に制限されており、隣接するケラチン生成細胞または組織マクロファージにはないことを観察した。この発見の生物学的意義を評価するために、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する検証済みのヒト皮膚線維芽細胞(HADF)に(ASO)をin vitro適用すると、ASOをトランスフェクトした細胞の>25%が刺激されて、内皮細胞(EC)様の形態的形状変化および細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節を受けた。FSP-1+/VEGFR2+細胞は、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、カドヘリン5(CDH5)の発現も上方調節され、アセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みが増強される;これは内皮細胞(EC)の正常な特徴であるが、正常線維芽細胞には見られない。FSP-1+/VEGFR2+細胞はまた、Matrigel上に蒔くと管状構造を、3次元(D)1型コラーゲンゲル内では管腔化した構造を形成し、臍帯血内皮コロニー形成細胞との3Dゲル共培養においてはキメラ管腔化した毛細管様構造を形成した;これは全てEC様の挙動である。
【0039】
一実施形態によれば、元の線維芽細胞と比較して1つまたは複数の脈管原性特性を呈するようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムする方法であって、前記細胞において機能的miR-200bの濃度を低下させる工程を含む、方法が提供される。本明細書では、機能的miRNA-200bの濃度を低下させるとは、細胞内miRNA-200b濃度の実際の低下、および/または遺伝子発現の調節など天然のmiRNA-200b機能を遂行する能力がある細胞内に存在するmiRNA-200bのパーセンテージの低下を含む。一実施形態において、本方法は、標的とした皮膚線維芽細胞における検出可能なmiR-200bの実際の減少を含む。一実施形態において、再プログラムされた線維芽細胞は、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現し続け:内皮細胞(EC)様の形態的形状変化;細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節;血小板内皮細胞接着分子1(CD31)の上方調節された発現;内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)の上方調節;カドヘリン5(CDH5)の上方調節、およびアセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みの増強のうちの少なくとも1つの特性を呈する。
【0040】
一実施形態によれば、元の線維芽細胞と比較して1つまたは複数の脈管原性特性を呈するようにヒト皮膚線維芽細胞を再プログラムする方法であって、ETV2、FOXC2およびFLI1からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質、もしくはETV2、FOXC2およびFLI1タンパク質からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを線維芽細胞へ細胞内送達する工程;またはETV2、FOXC2およびFLI1からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質、もしくはETV2、FOXC2およびFLI1タンパク質からなる群から選択される1つまたは複数のタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを含有もしくは発現する細胞から作製される細胞外小胞に線維芽細胞を曝露する工程を含む、方法が提供される。
【0041】
一実施形態において、線維芽細胞を再プログラムする方法は、細胞内miR-200b濃度を低下させる工程を含み、miR-200b濃度は、干渉オリゴヌクレオチドを細胞にトランスフェクトすることによって低下される。トランスフェクションは、in vivoまたはin vitroで行うことができる。一実施形態において、抗miR-200bオリゴヌクレオチドは、ヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに送達され、任意選択で抗miR-200bオリゴヌクレオチドは、in vivoでヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに送達される。一実施形態において、抗miR-200bオリゴヌクレオチドは、配列番号1またはそのRNAの相対物の配列を含む。
【0042】
本発明によれば、核酸および/またはタンパク質が皮膚線維芽細胞の細胞質ゾルに導入されて、標的細胞の再プログラムが誘導される。細胞内に巨大分子を導入する任意の標準的な技術が、本発明において使用され得る。公知の送達方法は、2つの型に大まかに分類され得る。第1の型では、機械的、熱的または電気的手段を含めた膜破壊に基づく方法を使用して、透過化処理の増強により細胞膜の連続性を破壊し、それにより所望の巨大分子を直接侵入させることができる。第2の型では、様々なウイルス、エクソソーム、小胞およびナノ粒子カプセルを使用する担体方法により、細胞のエンドサイトーシスおよび融合過程により担体を取り込んで、担体ペイロードを送達することが可能になる。
【0043】
一実施形態において、細胞内送達は、ウイルスベクター、または細胞膜と相互作用して内容物を細胞内に送達することができる他の送達媒体による。一実施形態において、細胞内送達は、3次元ナノチャネルエレクトロポレーション、組織ナノトランスフェクションデバイスによる送達または深部局所組織ナノエレクトロインジェクションデバイスによる送達である。一実施形態において、再プログラム組成物は、シリコン中空針アレイを使用する組織ナノトランスフェクション(TNT)によってin vivoで線維芽細胞の細胞質ゾルに送達される。
【0044】
透過化処理に基づく破壊送達の方法の中でも、エレクトロポレーションは汎用ツールとしてすでに確立されている。電界分布の慎重な制御により最小限の細胞毒性で高効率の送達が達成され得る。一実施形態によれば、核酸配列は、組織ナノトランスフェクション(TNT)の使用によって体細胞の細胞質ゾルに送達される。組織ナノトランスフェクション(TNT)は、生組織にプラスミド、RNAおよびオリゴヌクレオチドを送達し、いかなる実験手順も必要とせずに免疫監視の下にin vivoで組織機能の直接転換をもたらす電動遺伝子導入技術である。in vivoでの組織再プログラムに一般的に使用されるウイルス遺伝子導入とは異なり、TNTは、ウイルスベクターの必要性を取り除き、したがってゲノム組み込みまたは細胞トランスフォーメーションの危険性を最小化する。
【0045】
in vivoで再プログラムする現在の方法は、in vivoまたはin vitroで細胞をトランスフェクトしその後移植するという工程を含み得る。本発明の一実施形態は、細胞をin vitroで再プログラムし、その後移植する工程を伴うが、細胞移植片は、しばしば生存率が低く、組織の一体化が悪い。加えて、in vitroで細胞をトランスフェクトすることは、更なる規制および実験室での困難を伴う。
【0046】
一実施形態によれば、皮膚線維芽細胞は、本明細書に開示される再プログラム組成物をin vivoでトランスフェクトされる。in vivo大量トランスフェクションの一般的な方法は、ウイルスベクターの送達またはエレクトロポレーションである。皮膚線維芽細胞へ再プログラム組成物を送達するのに本開示に従ってウイルスベクターを使用することができるが、ウイルスベクターは、望ましくない免疫反応を潜在的に惹起するという欠点に悩まされる。加えて、多くのウイルスベクターは遺伝子を長期間発現し、そのことは遺伝子治療の一部の適用には役立つが、持続的な遺伝子発現が不要なまたは望ましくさえない適用に対しては、一過性トランスフェクションが現実的な選択肢である。ウイルスベクターは、望ましくない副作用を有し得る挿入突然変異生成およびゲノム組み込みも伴う。しかしながら、一実施形態によれば、リポソームまたはエクソソームのような特定の非ウイルス担体を使用して、体細胞にin vivoで再プログラムカクテルを送達することができる。
【0047】
TNTは、いかなる実験手順も必要とせずに免疫監視の下にin vivoで組織機能の直接転換をもたらす限局的な遺伝子送達の方法を提供する。プラスミドとTNTを使用することによって、遺伝子の過剰発現を一時的および空間的に制御するまたは標的遺伝子の発現を阻害することが可能になる。TNTによる空間的制御により、他の組織をトランスフェクトすることなく表皮組織の一部などの標的領域をトランスフェクトすることが可能になる。TNTデバイスに関する詳細は、米国特許第20190329014号および第20200115425号に記載されており、その開示を、参照により明示的に組み込む。組織ナノトランスフェクションにより、整列したナノチャネルによって非常に強く、集中的な電界を印加することにより細胞内へカーゴ(例えば、再プログラム因子)を直接細胞質ゾル送達することが可能になり、組織ナノトランスフェクションは、並置している組織細胞メンバーを穏やかにナノ穿孔し、細胞内へカーゴを電気泳動的に送り込む。
【0048】
一実施形態によれば、本明細書に開示される方法のいずれか1つによって作製される脈管原性線維芽細胞が提供され、脈管原性線維芽細胞は、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)、ならびに血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する。一実施形態において、脈管原性線維芽細胞は、CITED2、GLUL、RRAS、PDGFRB、VEGF、VEGFR、MAP2K、RAF1、KRASのうち1つまたは複数の発現の上昇、任意選択でCITED2、GLUL、RRAS、PDGFRB、VEGF、VEGFR、MAP2K、RAF1、KRASの全ての発現の上昇によってならびに/またはCOL1A1、MMP1、SERPINE1、PGK1、PDCD10、ITGB1BP1およびCOL1A2のうち1つまたは複数の低発現、任意選択でCOL1A1、MMP1、SERPINE1、PGK1、PDCD10、ITGB1BP1およびCOL1A2の全ての低発現によって特徴付けられる。
【0049】
一実施形態において、線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)、ならびに血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、脈管原性線維芽細胞が提供される。任意選択で、本開示の脈管原性線維芽細胞は、miRNA-200bを標的とする干渉RNA、ならびに/またはETV2、FOXC2およびFLI1のうち1つまたは複数をコードしている外因的に導入された核酸をさらに含む。一実施形態において、脈管原性線維芽細胞は、単離または精製された状態である。一実施形態において、脈管原性線維芽細胞は、内皮細胞(EC)様の形態的形状も呈し、天然の皮膚線維芽細胞と比較してアセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みが増強されている。一実施形態において、脈管原性線維芽細胞は、前記血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)およびカドヘリン5(CDH5)のそれぞれを発現する。
【0050】
本発明によれば、本明細書に開示される脈管原性線維芽細胞のいずれかを使用して、患者組織において新生血管形成を刺激することができ、前記方法は、in vivoで皮膚線維芽細胞を再プログラムして脈管原性にする工程、または脈管原性になるようにin vitroで再プログラムした脈管原性線維芽細胞を導入する工程を含む。一実施形態において、皮膚線維芽細胞は、前記核酸配列の細胞取り込みを増強する条件下で前記皮膚線維芽細胞を抗miRNA-200bオリゴヌクレオチドならびに/またはETV2、FOXC2および/もしくはFLI1をコードしている核酸配列と接触させることによって再プログラムされている。一実施形態において、再プログラムは、ヒト皮膚線維芽細胞の細胞質ゾル内への抗miR-200bオリゴヌクレオチドの送達を含む。
【0051】
一実施形態において、糖尿病患者において創傷の修復を増強する方法が提供され、方法は、前記創傷に近い組織に脈管原性線維芽細胞を導入するまたは線維芽細胞を再プログラムして脈管原性にする工程を含む。一実施形態において、本方法は、miR-200bの阻害剤で皮膚線維芽細胞をトランスフェクトする、およびまたは皮膚線維芽細胞においてFLI1の発現を増強する工程を含む。
【実施例
【0052】
実施例1
脈管原性線維芽細胞の状態の同定
線維芽細胞特異的タンパク質-1(Fsp-1)を発現する検証済みのヒト皮膚線維芽細胞(HADF)に抗miR-200bオリゴヌクレオチド(ASO)をin vitroで適用すると、ASOをトランスフェクトした細胞の>25%が刺激されて、内皮細胞(EC)様の形態的形状変化および細胞表面血管内皮成長因子受容体2(VEGFR2)発現の上方調節を受けることが決定された。FSP-1+/VEGFR2+細胞は、血小板内皮細胞接着分子1(CD31)、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)、カドヘリン5(CDH5)の発現も上方調節し、アセチル化低密度リポタンパク質(Ac-LDL)の取り込みを増強した;これはECの正常な特徴であるが、正常線維芽細胞には見られない。FSP-1+/VEGFR2+細胞はまた、Matrigel上に蒔くと管状構造を、3次元(D)1型コラーゲンゲル内では管腔化した構造を形成し、臍帯血内皮コロニー形成細胞との3Dゲル共培養においてはキメラ管腔化した毛細管様構造を形成した;これは全てEC様の挙動である。しかしながらFSP-1+/VEGFR2+細胞は、驚くべきことにHADF細胞と同程度に効率的にコラーゲンゲルを再形成し、収縮させ続け;対照ヒト微小血管内皮細胞(HMEC)はそのような活性を全く示さなかった。
【0053】
したがって、HADFのASO処置は、miR-200b存在量を下落させ、一部のEC挙動の増大と関連するが、古典的なHADF機能の保持と関連する;これは線維芽細胞の新規の状態変化である。ASO誘導されたHADFの転写変化を調べるために、単一細胞RNA配列決定を、FSP-1+/VEGFR2+およびFSP-1+/VEGFR2-細胞において実行した。Seuratパッケージを使用する教師なしクラスタリングは、13個の細胞クラスターを同定した。FSP-1+/VEGFR2+細胞は、プロ血管新生遺伝子が高発現しているクラスター0および4への局在化の増強ならびに多数の線維芽細胞および抗血管新生遺伝子が高度に発現しているクラスター5、6および8への局在化の下落を示した。10個のメンバーの遺伝子署名は、クラスター0および4内にFSP-1+/VEGFR2+細胞を同定し、これらの増強されたプロ血管新生細胞の再プログラムの軌跡を、擬時間分析を使用して別々の枝として同定した。これらの結果は、miR-200b存在量の消失を引き起こすHADFのASO処置が、線維芽細胞の部分母集団の有意な状態変化をもたらし、HADFがEC様機能の獲得と共に脈管原性線維芽細胞(VF)になったことを示す。
【0054】
このVF状態変化の分子調節を同定するために、in silico分析を実行して、潜在的に関連するmiR-200b標的遺伝子を同定した。3’非翻訳領域(3’-UTR)内にmiR-200b結合部位を持つ候補として、内皮分化および多数の血管新生応答に重要であることが公知のフレンド白血病統合1(Fli1)転写因子を同定した。miR-200b模倣体を送達すると、Fli1-3’-UTRレポータのルシフェラーゼ活性は有意に抑制されたが、この効果は、突然変異したFli1-3’-UTRを持つ細胞において無効化された。HADFにおいてmiR-200bがFli1を標的とするという概念の直接の支持は、miR-200b模倣体(FLI1存在量の下落)または阻害剤(FLI1存在量の増大)のいずれかを使用する研究から得られた。最終的に、Fli1転写産物の存在量を阻害すると、VFにおいてmiR-200b阻害がFLI1を上方調節する能力、およびその後のMatrigel(商標)管形成の機能における脈管原性の獲得が著しく弱められた。これらの観察は、HADFにおけるin vitroでのmiR-200bの阻害が、内皮分化および血管形成に共通の分子経路を利用してFLI1依存的なVF状態変更を誘導することを確立した。
【0055】
完全なマウス表皮においてmiR-200b阻害の効果を評価するために、LNA抗miR-200bを局所的に適用し、皮膚潅流の一過性の増大しか起こらず;それ以外、よく潅流されている正常酸素圧の完全な表皮において、miR-200b阻害単独では持続的な血管新生の転帰が起こらないことが実証された。しかしながら、創出した創傷など、皮膚脈管系が破壊された条件下では、創傷端組織におけるmiR-200b阻害は、治癒カスケードの成分として生理学的応答を構成し、9日目に創傷端でピークに達するFLI1存在量の増大をもたらす。線維芽細胞特異的Fli1転写産物の存在量は、線維芽細胞特異的Fsp1-Cre:R26RtdTomatoトランスジェニックレポータマウスにおけるloxPに隣接するFli1 shRNA発現カセットのレンチウイルス粒子注射によってマウス表皮において下落し、創傷端皮膚線維芽細胞におけるFli1ノックダウンは、創傷潅流を有意に遅延させ、創傷閉鎖が損なわれた。FLI1の線維芽細胞を標的としたノックダウンの条件下でのmiR-200bの阻害は、VF細胞の状態遷移を引き起こすことができなかった。
【0056】
それに対し、Fsp1-Cre:R26RtdTomatoマウスを辿る線維芽細胞系統において皮膚創傷を発症させ、LNA抗miR-200bをトランスフェクトした場合、創傷端組織は、VFの特徴を示す線維芽細胞系統の印がある細胞の著しい存在量を示した。したがって、加傷後に起こるmiR-200b阻害および創傷端におけるFLI1発現の増大は生理的応答であり、VFの状態変化を受ける創傷端皮膚線維芽細胞に限局され得る。
【0057】
miR-200b阻害の治療的意義を試験するために、C57BL6マウスの虚血性後肢を研究した。miR-200bの組織ナノトランスフェクション(TNT)に基づくASO阻害は、虚血性後肢において潅流および代謝を救済した。マイクロCT画像法により、miR-200b阻害後の皮膚微小脈管系の出芽が明らかになった。興味深いことに、傷害部位における脈管原性細胞は、主に線維芽細胞に由来し、ケラチノサイトおよびマクロファージのような他の非内皮局所細胞には由来しなかった。miR-200b-429fl/fl-Col1a2CreER WTおよびタモキシフェン(TAM)処置したマウスに対する虚血性後肢研究も実行して、表皮線維芽細胞におけるmiR-200bの有意性を特に試験した。線維芽細胞におけるmiR-200bのタモキシフェン処置した条件つきノックアウトは、虚血性肢において潅流を増強し、CD31を発現しているVFの存在量の増大と関連した。
【0058】
皮膚創傷治癒において同定されたmiR-200bおよびFli1軸が糖尿病の対象に存在するかどうか評価するために、ヒト患者において創傷端組織を調べ、糖尿病でない対象と比較して糖尿病患者においてmiR-200b存在量の持続的な上昇およびFLI1転写産物の下落を観察した。創傷部位におけるmiR-200bの持続的上昇がVF状態および関連する創傷治癒の誘導を改変するという仮説を試験するために、線維芽細胞特異的レポータFsp1-Cre:R26RtdTomatoマウスを、ストレプトゾトシン投与を使用して糖尿病化した。これらの糖尿病マウスにおいて、VF状態への、線維芽細胞の傷害誘導およびmiR-200b依存的な生理的転換が損なわれた。
【0059】
db/dbマウス、2型糖尿病の別の確立されたマウスモデルにおいて、ヒト糖尿病対象と類似して、皮膚加傷は、創傷端においてmiR-200b発現を抑制することができなかった。db/dbマウスの創傷端におけるASO依存的に強制されたmiR-200b阻害は、創傷端組織においてFLI1の存在量を増大させ、続いて線維芽細胞のVF細胞への状態変化の存在量を増大させ、創傷潅流および治癒の有意な改善と関連した。
【0060】
したがって、プロ血管新生VFの機能的状態の獲得へと線維芽細胞における細胞状態変化を生じさせる創傷治癒の間に皮膚線維芽細胞Fli1発現を調節するためのmiR-200bの生理的役割を同定した。この経路は、糖尿病のヒトおよびマウス対象において破壊されているが、糖尿病マウスにおけるASOのTNT送達の使用によって修復されて、傷害を受けた表皮における異常な、持続的に高いmiR-200bレベルをFLI1の発現が上方調節され、VF状態が誘導され、創傷潅流および治癒が回復され得る点まで低下させる。
【0061】
表皮において生理的に起こることが現在公知であり、糖尿病において弱められた経路を救済するために単一ASOを皮膚TNT送達することによって局所的に補強され得る線維芽細胞の挙動の状態変化を誘導するこの実験例は、再生療法を考えるための新たな範例を示唆する。
【0062】
置き換えタンパク質、細胞もしくは複合組織の注射または移植の手法を考えるのではなく、公知の後成的経路を補強する局所的な手法の使用が、試験可能な選択肢となり得る。
図1A
図1B
図2
図3
図4
【配列表】
2022548731000001.app
【国際調査報告】