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特表2022-548752安定化細胞を含有体液サンプルのマルチモード解析
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】安定化細胞を含有体液サンプルのマルチモード解析
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20221114BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20221114BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20221114BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20221114BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALN20221114BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20221114BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N5/073
C12N5/09
C12N5/074
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517916
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2020076801
(87)【国際公開番号】W WO2021058692
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】19199283.3
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509138394
【氏名又は名称】キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ババヤン アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ウリウス アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】グレルツ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター カル
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS08
4B063QS24
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065CA60
(57)【要約】
細胞含有体液に含まれる複数の生物学的標的を安定化して単離する方法であって、(A)細胞含有体液を、以下の安定化因子のうちの1つ以上:(a)少なくとも1つの一級、二級もしくは三級アミド、(b)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/又は(c)少なくとも1つのアポトーシス阻害剤を含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルを提供すること、(B)安定化期間の間、前記安定化細胞含有体液サンプルを維持すること、(C)細胞亜集団、細胞外核酸、細胞外小胞、及び細胞内核酸からなる群から選択される3以上の生物学的標的を安定化細胞含有体液から富裕化するために安定化細胞含有体液サンプルを処理することを含む。本方法は単一の安定化細胞含有体液サンプルからの異なる生物学的標的のマルチモード解析を可能にする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞含有体液に含まれる複数の生物学的標的を安定化して富裕化する方法であって、
(A) 細胞含有体液を、以下の安定化因子のうちの1つ以上を含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルを提供すること:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤;、
(B) 安定化期間の間、前記安定化細胞含有体液サンプルを維持すること;
(C)
-少なくとも1つの細胞亜集団、
-細胞外核酸、
-細胞外小胞、及び
-細胞内核酸
からなる群から選択される3つ以上の生物学的標的を前記安定化細胞含有体液から富裕化するために、前記安定化細胞含有体液サンプルを処理すること、
とを含む、前記方法。
【請求項2】
富裕化細胞亜集団が標的希少細胞を含み、任意に、前記標的希少細胞が、腫瘍細胞、特に循環腫瘍細胞(CTC)、胎児細胞、幹細胞、ウイルスまたは寄生生物により感染した細胞、循環内皮細胞(CEC)、及び循環内皮前駆細胞(EPC)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(C)が、少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を、安定化体液から得ることを含み、(C)における処理が、
態様Aによると、
(aa) 安定化細胞含有体液サンプルを、少なくとも1つの細胞含有画分と、少なくとも1つの細胞枯渇画分とに分離することと、
(bb) 前記細胞含有画分をさらに処理することであって、前記細胞含有画分をさらに処理することが、
(i)好ましくは標的希少細胞を含む細胞亜集団を、前記細胞含有画分から富裕化すること、及び/又は
(ii) 前記細胞含有画分から、ゲノムDNAであってよい細胞内核酸を富裕化すること、
を含み、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/又は
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、
を含む、または、
態様Bによると、
(aa)前記安定化細胞含有体液サンプルから、好ましくは標的希少細胞を含む細胞亜集団を富裕化することと、
(bb) 前記標的細胞亜集団が取り除かれた前記安定化細胞含有体液サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/又は
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、
を含み、および、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化すること、
を含む、または、
態様Cによると、
(aa) 前記安定化細胞含有体液サンプルを少なくとも2つのアリコートに分割し、好ましくは希少細胞を含む細胞亜集団を、前記提供したアリコートのうちの少なくとも1つから富裕化することと、
(bb) 少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を提供することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/又は
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、
を含み、および、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化すること、
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(D)富裕化した3つ以上の生物学的標的を解析のために処理することをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
以下の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項4に記載の方法:
(i)工程(C)が、標的希少細胞を富裕化することを含み、後続の工程(D)が、細胞レベルで前記富裕化した標的希少細胞を解析すること、及び/又は、細胞内核酸を前記富裕化した標的希少細胞から単離して、1つ以上の標的分子を前記単離した細胞内核酸内で検出することによって前記標的富裕化した希少細胞を解析すること、を含み、任意に、前記細胞内核酸がmRNAを含む;
(ii)工程(C)が、細胞枯渇画分を前記安定化細胞含有体液サンプルから得て、細胞外核酸を前記得られた細胞枯渇画分から単離することを含み、任意に、前記細胞外核酸が細胞外DNAを含むか、もしくは細胞外DNAから本質的になり、後続の工程(D)が、1つ以上の標的分子を前記単離した細胞外核酸内で検出することを含む;
(iii)工程(C)が、細胞外小胞を、前記安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞枯渇画分から富裕化することを含み、後続の工程(D)が、RNAを前記富裕化した細胞外小胞から単離することと、1つ以上の標的分子を前記単離したRNA内で検出することと、を含む;及び/又は
(iv)工程(C)が、少なくとも(i)循環腫瘍細胞、(ii)ゲノムDNA、及び(iii)循環無細胞DNAを、生物学的標的として単離することを含み、工程(D)が、(i)RNAを前記循環腫瘍細胞から単離し、バイオマーカーRNA分子を前記単離したRNA内で検出すること;(ii)ゲノムDNAを検出、例えば増幅及び/又は配列決定すること、ならびに、(iii)バイオマーカー分子を前記単離した循環無細胞DNA内で検出すること、を含む。
【請求項6】
標的希少細胞及び/または細胞外小胞を親和性捕捉により富裕化することを含む、請求項1~5のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項7】
細胞含有体液が、以下の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項1~6のうちの1項以上に記載の方法:
- 循環体液である;
- 血液、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、リンパ液、液(脳脊髄液)、汗、腹水、母乳、気管支洗浄、腹膜浸出液及び胸膜滲出液、骨髄吸引物及び乳頭吸引物、精液/精漿、体分泌物または体排泄物から選択される;
- 血液及び尿から選択される;及び/又は
- 血液である。
【請求項8】
安定化組成物が、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドを含み、前記安定化組成物が、式1に従った少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドを含み、任意に、式1に従った少なくとも1つの化合物が、一級、二級、または三級カルボン酸アミド、任意に、N,N-ジメチルプロパンアミド及び/またはブタンアミドなどのN,N-ジアルキルプロパンアミドである、請求項1~7のうちの1項以上に記載の方法:
【化1】
[式中、R1は水素またはアルキル基、好ましくはC1~C5アルキル基、C1~C4アルキル基、またはC1~C3アルキル基、より好ましくはC1~C2アルキル基であり、R2及びR3は同一または異なっており、水素及び炭化水素基、好ましくは、直鎖または分岐鎖様式で配置される1~20個の炭素鎖の長さを有するアルキル基から選択され、R4は酸素、硫黄、またはセレン基であり、好ましくはR4は酸素である]。
【請求項9】
安定化組成物が少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記ポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールであってよい、請求項1~8のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項10】
安定化組成物が以下の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項9に記載の方法:
a) 含まれるポリ(オキシエチレン)ポリマーが非置換ポリエチレングリコールである;
b) 前記組成物が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む;
c) 前記組成物が、1500未満の分子量を有する少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、任意に、前記ポリマーの分子量は100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にある;
d) 前記組成物が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む;及び/又は
e) 前記組成物が、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、1500~50000、2000~40000、3000~30000、3000~25000、3000~20000、及び4000~15000から選択される範囲にある分子量を有し、かつ/または、前記低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にある分子量を有する。
【請求項11】
安定化組成物が、アポトーシス阻害剤として少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤を含み、任意に、前記カスパーゼ阻害剤が以下の特徴の1つ以上を有する、請求項1~10のうちの1項以上に記載の方法:
a) 前記カスパーゼ阻害剤が汎カスパーゼ阻害剤である;
b) 前記カスパーゼ阻害剤がカスパーゼ特異的ペプチドを含む;
c) 前記カスパーゼ阻害剤が、好ましくはカルボキシル末端において、O-フェノキシ(OPh)基で修飾された、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む;
d) 前記カスパーゼ阻害剤が、好ましくはN末端において、グルタミン(Q)基で修飾された、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む;
e) 前記カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPh、Boc-D-(OMe)-FMK、及びZ-Val-Ala-Asp(OMe)-FMKからなる群から選択される;
f) 前記カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPh及びZ-Val-Ala-Asp(OMe)-FMKからなる群から選択される;及び/又は
g) 前記カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPhである。
【請求項12】
安定化組成物が、
(a) (好ましくは請求項8に規定した)少なくとも1つの一級、二級、または三級アミド、
(b) (好ましくは請求項9または10に規定した)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
(c) (好ましくは請求項11に規定した)少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;ならびに
(d) 任意に、EDTAなどのキレート剤を含む、請求項1~11のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項13】
細胞含有体液が血液であり、前記血液を、
a) 式1に従った1つ以上の化合物;
b) 3000~30000、または3500~25000の範囲などの、3000~40000の範囲にある分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、100~800、200~800、または200~500の範囲などの、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤、任意にQ-VD-OPh;ならびに
d) 任意にEDTAなどのキレート剤であってよい、抗凝血物質、
と接触させ、
前記血液サンプルが前記添加剤、及び任意にさらに安定化のための添加剤、と接触した後で、得られる混合物/安定化血液サンプルが、
- 0.3~4%、例えば0.5~3%、0.5~2%、または0.75~1.5%の範囲にある濃度で前記式1に従った1つ以上の化合物、
- 0.2%~1.5%(w/v)、例えば0.25%~1.25%(w/v)、0.3%~1%(w/v)、または0.4%~0.75%(w/v)の範囲にある濃度で、前記高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、
- 1.5%~10%、例えば2%~6%の範囲にある濃度で、前記低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
- 1μM~10μM、例えば3μM~7.5μMの範囲にある濃度で、前記カスパーゼ阻害剤を含む、請求項1~12のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項14】
以下の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項1~13のうちの1項以上に記載の方法:
(i) 細胞含有体液サンプルの前記安定化が、有核細胞の溶解を誘発または促進する濃度の添加剤を使用することを伴わない;
(ii) 安定化が、タンパク質-核酸もしくはタンパク質-タンパク質架橋を誘発しない;
(iii) 安定化が、タンパク質-核酸及び/又はタンパク質-タンパク質架橋を誘発する架橋剤、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、もしくはホルムアルデヒド放出剤の使用を伴わない;
(iv) 安定化が毒性因子の使用を伴わない;及び/又は
(v) 安定化因子が、水を含む安定化組成物に含有される。
【請求項15】
工程(A)で使用する安定化が、安定化サンプルにおけるタンパク質-核酸またはタンパク質-タンパク質架橋を誘発せず、任意に、工程(C)が、細胞外小胞を、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞枯渇画分から富裕化することを含み、後続の工程(D)が、RNAを前記富裕化した細胞外小胞から単離することと、1つ以上の標的分子を単離したRNA内で検出することと、を含む、請求項1~14のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項16】
細胞含有体液、好ましくは血液を、
a) 式1に従った1つ以上の化合物;
b) 少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び任意に、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;ならびに
d) 任意にキレート剤、好ましくはEDTA、
と接触させる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
工程(C)が、
-希少細胞、好ましくは循環腫瘍細胞、
-細胞外核酸、
-細胞外小胞、及び
-細胞内核酸
からなる群から選択される3つ以上の生物学的標的を安定化細胞含有体液から富裕化するために、前記安定化細胞含有体液サンプルを処理することを含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(C)が、安定化体液サンプルから、少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を得ることを含み、工程(C)が、安定化細胞含有体液サンプルから得られた前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化することをさらに含み、後続の工程(D)が、前記富裕化細胞外小胞からRNAを単離することを含む、請求項14~17のうちの1項以上に記載の方法。
【請求項19】
工程(D)が、1つ以上の標的分子を単離したRNA内で検出することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ゲノムDNAを前記細胞含有画分から単離することを含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
処理工程(C)が、安定化細胞含有体液サンプル、または、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞含有画分を密度勾配遠心分離工程に供することを含み、任意に、前記細胞含有体液サンプルが血液である、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
安定化血液サンプル、または前記安定化血液サンプルから得られた細胞含有画分を、前記密度勾配遠心分離工程を行う前に希釈溶液で希釈する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
希釈溶液が以下の特徴の1つ以上を有し、密度勾配遠心分離の後で、異なる層が形成され、前記形成された層がPBMC層を含む、請求項22に記載の方法:
(a)低張性溶液もしくは等張性溶液である;
(b)張性調節剤を含む;
(c)ポリオール、任意に糖もしくは糖アルコール、を含む;
(d)糖、任意にグルコース、を含む;
(e)糖アルコール、任意にグリセロール、を含む;及び/または
(f)塩、任意にアルカリ金属塩、任意に塩化物塩、を含む。
【請求項24】
(a)希釈溶液が、グルコースであってもよい還元糖を、2~10%、3~7%、または4~6%(w/v)の範囲の濃度で含む、
(b)希釈溶液が糖アルコール及び塩を含み、任意に、前記希釈溶液が最大0.5Mのグリセロール、及び最大2%の塩化ナトリウムを含む、
(c)希釈溶液が0.7~1.2%の塩化ナトリウム、及び0.075~0.15Mのグリセロールを含む、及び/又は、
(d)希釈溶液が、
(i)5%(w/v)のグルコース、
(ii)0.9%のNaCl+0.1Mのグリセロール、及び
(iii)少なくとも1つの張性調節剤を含み、(i)もしくは(ii)で定義した希釈溶液の質量オスモル濃度に一致する質量オスモル濃度を有する希釈溶液、または、質量オスモル濃度が(i)もしくは(ii)で定義する前記溶液の質量オスモル濃度の±20%、±15%、または±10%の範囲内にある、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
希釈溶液がDMSOを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
安定化血液サンプルまたはその細胞含有画分を処理するための、請求項22~25のいずれか1項に記載の希釈溶液の使用であって、前記血液サンプルが、(a)少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、(b)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または少なくとも1つのアポトーシス阻害剤を含む安定化組成物、任意に、請求項8~13、または14のいずれか1項に記載される安定化組成物で安定化される、前記使用。
【請求項27】
含まれる単核細胞の密度を回復するための、好ましくは、勾配密度遠心分離のための、請求項26に記載の使用であって、希釈溶液を前記勾配密度培地と接触させる前に、希釈液を安定化血液サンプルまたはその細胞含有画分と接触させる、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
単一の安定化細胞含有体液サンプルから、注目する異なる生物学的標的を解析するための、リキッドバイオプシーベースの方法及びワークフローを提供する。
【背景技術】
【0002】
ヒト体液(特に血液、尿、唾液、液など)における、生物学的標的(例えば細胞、タンパク質、核酸)の解析としてのリキッドバイオプシー(LB)は、臨床実践におけるコンパニオン診断のための強力なツールである。生物学的標的とも本明細書では呼ばれる重要なリキッドバイオプシー検体としては、希少細胞、細胞外核酸、細胞外小胞、細胞内核酸、加えて特定の細胞亜集団が挙げられる。がん及び出生前試験におけるリキッドバイオプシーは最も関心が高まっており、現在存在する試験のいくつかは既に日常患者診療に導入されている。
【0003】
固形腫瘍及び血液学的悪性腫瘍は、生体物質を全身循環内に排出することが知られている。これら生体物質としては、細胞(CTCとも呼ばれる、循環腫瘍細胞)、ならびに、エクソソーム及び他の種類のサブ細胞膜小胞などの、細胞外小胞(EVとも呼ばれる)が挙げられる。無細胞循環核酸は、例えば変異について、がんに関する情報を含有することもまた知られている。これらの生体物質は、末梢全血、腹膜または胸膜滲出液などの、容易に入手可能な体液に存在し、タンパク質、核酸、及び脂質を含む分子情報を運搬する。これらの循環生体物質によりもたらされる分子情報は、例えば予後、治療応答、再発、または治療耐性メカニズムと相関し得る。先行技術において、最小限の侵襲性試験のためのこれらの生物学的標的に対して高い関心がもたれている。これらの標的は、バイオプシーの課題を回避する著しい利点を呈し、容易かつ繰り返して入手して、最小限の侵襲による腫瘍分子情報の反映を提供することができる。細胞外核酸、細胞外小胞、または循環腫瘍細胞は、貴重な診断、予後、予測、及び監視情報を提供することができることが、当該技術分野において理解されている。この情報は、例えば、その中に含まれるバイオマーカーを解析することで利用することができる。バイオマーカーは、解析される生体サンプルで測定可能な生物学的分子であり、単独で、または他のバイオマーカーと組み合わせてのいずれかで、いくつかの臨床的に重要な病状の指標となることができる。バイオマーカーは例えば、診断用、代理用、予後用、及び/または予測用であることができる。バイオマーカーは例えば、核酸(例えば、DNAもしくはRNA分子)、またはタンパク質であってよい。
血液は、リキッドバイオプシー用の、最も優れた材料源である。細胞ベースのリキッドバイオプシー試験は多くの場合、がんにおけるCTCといった、標的細胞集団の解析に依存する(さらなる例としては、がん、糖尿病、心血管または急性腎臓病における内皮細胞、出生前試験における胎児細胞、移植組織学における器官特異的な細胞がある)(例えば、Pantel et al,Nat Rev Clin Oncol,Feb 2019;Neumann et al.,Comput Struct Biotechnol J,2018,Vol.16: 190-195;Lehmann-Werman et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2016 Mar 29,Vol.113(13):E1826-34;Snyder et al.,Proc Natl Acad Sci U S A,2011 Apr 12,Vol.108(15):6229-34を参照されたい)。
【0004】
CTCは、がん患者の原発性または転移性腫瘍から剥離し、血液中に発見することができる。これらの細胞は、希少な細胞集団の典型である:1~10個のCTCを106~108個の血液細胞のバックグラウンド中に発見することができ、循環中の半減期時間は2.5時間に制限される。CTCは、遠隔転移の種となる。がん患者の末梢血中に、CTCの存在が導入され、これは全体的かつ疾患を有しない生残のためのサロゲートマーカーとして確認されており、予後、予測、及び治療法案内バイオマーカーとして使用することができる。計数に加えて、CTCについて表現型、遺伝子型、及び転写特徴を検査することにより、治療及びアウトカムに関連する情報がもたらされる。しかし、CTC解析は、1)高バックグラウンドの白血球(WBC)中でCTCの量が少ないこと、及び、2)循環系におけるCTCの短い半減期時間、により妨げられる。その希少性故に、CTCは検出/分析前に富裕化される必要がある。複数の既存の富裕化方法は基本的に、標識依存性アプローチ、及び標識非依存性アプローチに分けることができる(Joosse et al.,EMBO Mol Med,2015 Jan,Vol.7(1):1-11)。標識依存法は、細胞表面の特異的抗原の発現といった、生物学的特徴に基づく標的細胞集団の単離に依存する一方で、標識非依存法は、サイズ、密度、変形性、及び他の特徴といった、腫瘍細胞の物理的性質を利用する。CTCの検出は、細胞レベル(標的タンパク質の抗原特異的染色に基づく)、及び、例えば、腫瘍関連転写物、ゲノム、またはエピゲノム異常の検出に基づき、分子レベルで可能である。
【0005】
別の優れたリキッドバイオプシー検体は、循環無細胞DNA(ccfDNA)などの細胞外核酸である。ccfDNAの主たる源は、アポトーシス及びネクローシス細胞に由来するモノヌクレオソームDNA断片である。さらに、細胞外DNAは、小胞結合アポトーシス小体、微小粒子、マイクロ小胞、エクソソームまたはヒストン/DNA複合体、ヌクレオソーム、及びビロソームとしても存在する。加えて、細胞外RNAは、エクソソーム及び他の細胞外小胞(EV)の内側に存在する。がん患者において、特定の割合のccfDNAは、腫瘍細胞由来の循環腫瘍DNA(ctDNA)である。ゲノム及びエピゲノムレベルでの腫瘍特異的異常を考慮すると、ctDNAは高いバックグラウンドの野生型ccfDNAの中で効率的に検出することができる。現代技術(デジタル液滴PCR、BEAMing、次世代配列決定など)により、ccfDNAベースのリキッドバイオプシー試験を開発して臨床実践に素早く実装することが可能となる(例えば、cobas EGFR Mutation Test v2、Therascreen KRAS試験)。同様の着想が、移植組織学における、非侵襲性の出生前試験及び器官拒絶(それぞれ、母性のccfDNAのバックグラウンドにおける希少な胎児DNA断片の検出、及び、自原性野生型ccfDNAのバックグラウンドにおける器官特異的な同種異系(allogenous)DNAの検出に依存する)で実装される。
【0006】
CTC及びccfDNAなどの、十分に確立された生物学的標的の他に、mRNA及びmiRNA内容物、循環非コードRNA(miRNA及び他のもの)、ならびに栓球(血小板)を含む、細胞外小胞(EV)などのさらなる標的検体をリキッドバイオプシーとの関連において解析することができる(Anfossi et al.,Nat Rev Clin Oncol,2018 Sep,Vol.15(9):541-563;In’t Veld,Wurdinger,Blood,2019 Mar 4,pii: blood-2018-12-852830を参照されたい)。
さらに、末梢性単核血液細胞(PMBC)などの細胞含有体液サンプルに含まれる細胞亜集団のゲノム及びエピゲノムプロファイリングは、がん患者における初期診断及びイムノサーベイランスの監視のための有用なバイオマーカーとなり得る(Shen et al.,Nature,2018 Nov,Vol.563(7732):579-583;Abu Ali Ibn Sina et al.,Nature Communications,2018,Vol.9,Article number: 4915 and Nichita et al.,Aliment Pharmacol Ther,2014 Mar,Vol.39(5):507-17を参照されたい)。
血液などの体液サンプルに含まれるこれらの生物学的標的の十分に認識された臨床的可能性にもかかわらず、これらの利用は依然として困難なままである。がんに関連する情報を得るための、無細胞循環核酸、EV、またはCTCに含まれる分子バイオマーカーの解析に基づく既存の方法は多くの場合、感度、及び/または堅牢性に関する欠点を有する。個別化医療におけるコンパニオン診断としてのリキッドバイオプシーの役割を考慮すると、リキッドバイオプシー解析のための、完全かつ標準化されたワークフローが必要とされる。解析前条件が解析試験の影響に著しく影響を及ぼす可能性がある。試験が採血後3~4時間より後に行われる場合、全てのリキッドバイオプシー検体に安定化が必要である。注目する生物学的標的の安定化は十分かつ信用できるものでなければならない。現在、CTC解析(例えば、CellSave、Transfix)、またはctDNA解析(Streck BCT、PAXgene Blood ccfDNAチューブ)のいずれかに対して利用可能な血液安定化チューブ(BCT)が存在する。Streck BCTなど、これらのチューブのいくつかはCTC解析との適合性を主張するが、このような主張は基本的に、一つの特定のCTC富裕化及び検出技術に限定されている。さらに、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出物質(例えば、Streck BCTで利用される)を用いることは、核酸分子間、または、タンパク質と核酸との間に架橋を誘発することにより細胞外核酸単離の有効性、及び、下流の解析の有効性を損なうので難点がある。
【0007】
先行技術の少なくとも1つの欠点を克服し、リキッドバイオプシーベースの改善された分析法を提供することが本発明の目的である。具体的には、単一細胞含有体液サンプルから、複数の生物学的標的の信頼できる富裕化及び分析を可能にする方法を提供することが、本開示の目的である。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、例えば、同一の細胞含有体液サンプルからの、標的細胞(例えばCTC)などの細胞亜集団、及び、細胞外DNAなどの細胞外核酸の同時安定化、富裕化、及び検出、加えて、このような安定化サンプル由来の細胞外小胞(EV)などの他の生物学的標的の同時安定化、富裕化、及び解析のための方法、及びそのようなワークフローを提供する。さらに、ゲノムDNA(gDNA)などの質の高い細胞内核酸を、安定化細胞含有体液サンプルの細胞画分から単離することができる。特に、本開示に従った安定化技術により収集及び安定化された単一細胞含有体液サンプル由来の、細胞外DNA、CTC、EV、及びgDNAの並行リキッドバイオプシー解析のためのワークフローを提供する。
【0009】
第1の態様に従うと、細胞含有体液に含まれる複数の生物学的標的を安定化し、富裕化することを含む方法であって、
(A) 細胞含有体液を、以下の安定化因子のうちの1つ以上:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤
を含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルを提供することと、
(B) 安定化期間の間、前記安定化細胞含有体液サンプルを維持することと、
(C) 前記安定化細胞含有体液から、希少細胞、細胞外核酸、細胞外小胞、及び細胞内核酸からなる群から選択される、3つ以上の生物学的標的を単離するために、前記安定化細胞含有体液サンプルを処理することと、を含む、前記方法が提供される。
本方法は、
(D) 前記富裕化した3つ以上の生物学的標的を解析すること
をさらに含むことができる。
【0010】
本出願の他の目的、特徴、利点、及び態様が、以下の記載及び添付の特許請求の範囲から、当業者には明らかとなろう。しかし、以下の記載、添付の特許請求の範囲、及び具体的な実施例は、本出願の好ましい実施態様を示しているが、例示としてのみ与えられることが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ヒト汎サイトケラチン(緑)及び細胞核(青)に対する、MCF7乳癌細胞株細胞の免疫細胞化学染色。上のパネルは、未処理のMCF7細胞における染色を示す。下のパネルは、本開示の安定化溶液中で30分間安定化したMCF7細胞を染色することを表す。
図2】Ficoll-Paque密度勾配媒体を用いた遠心分離後の血液サンプル。EDTA含有BCT内に収集し、PBSで希釈した血液サンプルを参照として使用する。層(上から下に向かって)は、血小板豊富な血漿、PBMC環、フィコール、赤血球富裕化画分である。PBSで希釈した安定化サンプルにおいて、上述の画分は観察することができず、これらの画分は5%グルコースまたは0.9%NaCl+0.1Mグリセロール含有溶液を添加した後でのみ存在する。これにより、種々の画分を得るために正しい層形成を復元することができる。
図3】スパイクから3、24、30、及び48時間後の実験時点における、収集してPAXgene Blood ccfDNA チューブに保管した血液からの、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7によるスパイクした腫瘍細胞の検出。材料:PAXgene Blood ccfDNA チューブに収集し、20個のLNCaP95細胞/5mL血液、または20μLのPBS/5mL血液でスパイクし、2~8℃で保管した血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7。図3Aは20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクしたサンプルの結果を示す。図3BはPBSのみでスパイクしたサンプル(非スパイク対照サンプル)の結果を示す。
図4】スパイクから3、24、48、及び72時間後の実験時点における、収集してPAXgene Blood ccfDNA チューブ(図4A;n=11)、及び、Streck Cell-Free DNA BCT(図4B;n=8)に保管した血液について、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7によるスパイクした腫瘍細胞の検出。材料:PAXgene Blood ccfDNA チューブ及びCell-Free DNA BCT(Streck)に収集し、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクし、2~8℃(PAX)及びRT(Streck)で保管した血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ProstateCancer Panel AR-V7。図4C及び4Dは、3、24、48、または72時間、2~8℃、または室温のいずれかで保管した、20個のLNCaP95/5mL血液でスパイクした、PAXgene Blood ccfDNA安定化血液に対するAdnaTest ProstateCancer Panel AR-V7の性能を示す。材料:PAXgene Blood ccfDNA チューブに収集し、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクした血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7。
図5】EDTA安定化血液、または、本開示に従った安定化技術を用いて安定化した血液を処理した場合の、Parsortix細胞富裕化ワークフローを用いた細胞捕捉効率を示す。PAXgene Blood ccfDNAチューブで収集した血液は室温における3日間の保管と適合性があり、室温で3日間保管した後でも処理することができる。
図6】精製したEVから得られたRNAのRT-qPCRによる解析。Ct値が低いほど、より良い結果を示す。
図7】後続のccfDNA及びgDNA単離のためのCTC富裕化後のCTC枯渇血液を収集するためのオプションを伴う、AdnaTestSelect及び-Detect手順の略図(図11もまた参照されたい)。
図8】保管時間にわたる、CTC富裕化後のサンプル(CTC枯渇血液)、及び対照サンプル(即ち、CTC富裕化なしのサンプル)中の、ヒト18S rDNA遺伝子(それぞれ、左及び右パネル)の66及び500bp断片の発現における絶対差の評価。箱プロットは、メジアン(水平線)、ならびに25~75%四分位数間領域(箱)、ならびに、データ範囲(ひげ)及びアウトライナー(ひげの外の点)の最小値及び最大値を示す。P値は、対応のない両側t検定に対応する。
図9】スパイクの3時間後、及び、全ての時点(3~72h、n=11ドナー、12個のサンプルはCTC富裕化なしで、32個はCTC枯渇サンプル)における、200μLの、全血(即ち、CTC富裕化なしのサンプル、n=3ドナー)由来の細胞画分及びCTC富裕化後のサンプル(n=8ドナー)からの、gDNA収率の評価。データは全て、ボックスプロットで示し、メジアン及び四分位数が、ボックス、及び10/90百分位数内に両側として含まれる。個別のデータポイントは、円として重ねた。P値は、対応のない両側t検定に対応する。
図10】本発明の方法に従ったPAXgene Blood ccfDNAチューブと適合性がある、リキッドバイオプシーベースの解析のための、種々のオプションについての概要。
図11】単一の安定化血液サンプルから複数の標的を解析するための、例示的な液体バイオプシーベースのワークフロー。本明細書にて開示するように、本発明に従った安定化技術を用いることにより、工程(D)に従った安定化血液サンプルを処理する前に、安定化した血液サンプルを室温で長期間保管することが可能となる。
図12】左パネル:Ficoll-Paqueによる遠心分離の後で、EDTA及びPAXgene Blood ccfDNAチューブ(それぞれ、左及び右)に収集した血液サンプル。層(上から下に向かって)は、血小板豊富な血漿、PBMC環、赤血球富裕化画分である。PBSで希釈したPAXサンプルにおいては、上述の画分は明瞭には分離されない。右パネル:EDTAサンプル(参照として採取、n=8)と比較した、PAX安定化サンプルで観察された、MNC回収の相対差。
図13】スパイクから3、24、30、48、72、120、及び144時間後の実験時点における、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からの、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7による検出。材料:PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集し、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクし、2~8℃で保管した血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7。図13は、PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集した血液にスパイクされた腫瘍細胞を検出するための、AdnaTest ProstateCancer Panel AR-V7試験の性能を示す。
図14】保管温度に関する試験性能。室温で保管したスパイクの3、24、及び72時間後の実験時点における(図14A)、または、2~8℃で保管したスパイクの3、24、30、48、72、120、及び144時間後における(図14B)、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7によるCTC富裕化及び検出。材料:PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集し、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクした血液。
図15】検出限界(LOD)を評価するための、スパイクした腫瘍細胞の数に関する試験性能。スパイクから3、24、48、72、120、及び144時間後の実験時点における、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からの、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7による検出。材料:PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集し、5個のLNCaP95細胞/5mL(図15A)または20個のLNCaP95細胞/5mL血液(図15B)のいずれかでスパイクし、2~8℃で保管した血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7。
図16】血漿作製レジメンに依存した試験の性能。血液サンプルをCTC富裕化のために使用し、CTC枯渇血液を血漿作製のために使用した(図16A)。あるいは、血漿をまず作製し(1900gで15分間)、次いで、細胞画分をPBSにより初期容量まで再構成し、CTC富裕化のために使用した(図16B)。血漿作製の両方法は、スパイクから3、24、48、及び72時間後の実験時点における、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からの、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7による検出を可能にすることにより、同様に十分機能した。
図17】血漿作製レジメンに依存した、EZ1における試験の性能。図16におけるような、同一の2つの血漿作製法を、まず、CTCを富裕化し、次いで、血漿を作製することにより(図17A)、または、まず血漿を作製し、次いでCTCを富裕化することにより(図17B)行った。図16で実施したものと同一の実験を、EZ1に適合したAdnaTestを用いてEZ1機器(自動ソリューション)で行ったときに、同様の十分な結果が観察された。スパイクから3、24、48、72、及び144時間後の実験時点において、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からスパイクした腫瘍細胞をAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7により検出した。
図18】スパイクから3、24、48、及び72時間後の実験時点における、AdnaTest Prostate Cancer(「ProstateDirect」とも呼ばれる;図18B、18D、18F、及び18H)と比較しての、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からの、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7による検出(図18A、18C、18E、及び18G)。材料:PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集し、LNCaP95細胞/5mL血液でスパイクした血液。図18A及び18Bは、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクし、2~8℃で保管することによる試験の性能を示す。図18C及び18Dは、20個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクし、室温で保管することによる試験の性能を示す。図18E及び18Fは、5個のLNCaP95細胞/5mL血液でスパイクし、2~8℃で保管することによる試験の性能を示す。図18G及び18Hは、血漿がまず作製され、細胞画分をCTC富裕化のために使用した、代替の血漿作製技術を用いた試験の性能を示す。
図19】AdnaTest ColonCancerの性能。収集し、PAXgene Blood ccfDNAチューブ(図19A)、及びACD-A BCT(図19B)に保管した血液における、スパイクから3、24、48、及び72時間後の実験時点における、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ColonCancerによる検出。材料:PAXgene Blood ccfDNAチューブ及びACD-A BCTに収集し、20個のT48細胞/5mL血液でスパイクし、2~8℃で保管した血液。CTC富裕化及び検出:AdnaTest ColonCancer。図19A及び19Bは、PAXgene Blood ccfDNAチューブがAdnaTest ColonCancerと適合性があり、72時間以内のサンプル保管した場合に腫瘍細胞の検出を可能にする(100%感度)ことを示す。
図20】収集後(図20A)及びカセット内染色(図20B)における、スパイクした腫瘍細胞(50個のMCF7)の検出率。「T」は、室温における保管日数(0、1、2、3日)を意味する。
図21】Parsortix富裕化後に、腫瘍細胞の染色があるか否か。蛍光緑-抗汎角質化抗体染色(腫瘍細胞に対して特異的);蛍光青-DAPI(核染色)。0(T0)または2(T2)日間の保管。
図22】AdnaTest ProstateCancer(「ProstateDirect」とも呼ばれる;図22B)と比較した、PAXgene Blood ccfDNAチューブに保管したParsortixベースの富裕化後の、スパイクした腫瘍細胞のAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7の検出部分を用いることによる検出(図22A)。図22は、PAX ccfDNA収集血液サンプルにスパイクし、最大3日保管した細胞が、EDTA収集サンプルにスパイクしたかのように、効率的に検出可能であることを示す。
図23】実施例7で使用する、ccfRNA、ccfDNA、及びgDNAの解析のためのマルチモードワークフロー。
図24a】血液収集後に直接作製され(試験時点=TTP0)、示されたキットを用いて抽出した、PAXgene及びEDTA血漿における、miR150、let7a及びmiR451マイクロRNAs、ACTB mRNA及び18S rDNA(ccfDNA)のqPCR解析のCT値。
図24b】全血保管の1、3、または6日後に作製した、PAXgene及びEDTA血漿中の、miR150、let7a、miR451マイクロRNAs及びACTB mRNAのqPCR解析の、(TTP0に対する)計算倍率変化。示されたキットを用いて、RNAを抽出した。
図25a】血液収集後に直接作製され(TTP0)、示されたキットを用いて抽出した、PAXgene、Streck cfDNA、Streck RNA及びBiomatrica血漿における、miR150、let7a、及びmiR451マイクロRNAのqPCR解析のCT値。
図25b】保管の3日後(T3d)に作製した、PAXgene、Streck cfDNA、Streck RNA及びBiomatrica血漿における、miR150、let7a、miR451マイクロRNA、及び18S rDNAのqPCR解析の、(TTP0に対する)計算倍率変化。示されたキットを用いて、RNAを抽出した。
図26】PAXgene Blood ccfDNAチューブ、Streck cfDNA、Streck RNA、及びBiomatricaチューブにおける全血から抽出したgDNAの濃度及びDNA完全性指標(DIN)評価。QIAamp Blood DNAキットを用いて、最初の血漿遠心分離工程の後で細胞画分からDNAを抽出し、TapeStation SystemのAgilent Genomic DNA ScreenTape(登録商標)により解析した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、細胞含有体液に含まれる複数の生物学的標的を安定化し、富裕化するための有利な方法であって、
(A) 細胞含有体液を、以下の安定化因子のうちの1つ以上:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、
を含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルを提供することと、
(B) 安定化期間の間、前記安定化細胞含有体液サンプルを維持することと、
(C) 前記安定化細胞含有体液から、少なくとも1つの細胞亜集団、細胞外核酸、細胞外小胞、及び細胞内核酸からなる群から選択される、3つ以上の生物学的標的を富裕化するために、前記安定化細胞含有体液サンプルを処理することと、を含む、前記方法を提供する。
本方法は、
(D) 前記富裕化した3つ以上の生物学的標的を解析のために、さらに処理すること
をさらに含むことができる。
当該方法の、各個別の工程、加えて、本方法の好適かつ好ましい実施態様を、この後で詳細に説明する。
【0013】
工程(A)
工程(A)において、細胞含有体液を、以下の安定化因子:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤
の1つ以上、2つ以上、または3つ全てを含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルがもたらされる。安定化組成物は、収集容器、例えば収集管に含まれる、例えば予充填されることができる。細胞含有生体サンプルを、収集容器に導入してよい。細胞含有生物学的体液を安定化組成物と接触させる工程は、エクスビボで行う。
【0014】
細胞含有体液サンプルの安定化における、個別の作用因子の有利な安定効果、及び、これらの作用因子の組み合わせを含む有利な安定化組成物は、例えば、WO2013/045457、WO2013/045458、WO2014/146780、WO2014/146781、WO2014/146782、WO2014/049022、WO2015/140218、及びWO2017/085321に開示され、本明細書に参照により組み込まれる。安定化因子(a)~(c)の組み合わせを含む有利な安定化組成物もまた、本明細書の他の箇所に記載し、本開示と呼ばれる。
後続の実施例で示され、上述の文書により支持されるように、細胞含有体液に含まれる、注目する異なる生物学的標的の並行処理及び解析が可能である。本方法で用いる安定化技術は、細胞含有体液との接触の際に、希少細胞(例えば、循環腫瘍細胞など)、細胞外核酸(例えば、細胞外DNA及びRNAなど)、細胞外小胞、ならびに細胞内核酸(ゲノムDNAなど)を含む、注目する多数の生物学的標的を有利に安定させる。後続の実施例で示すように、注目する複数の生物学的標的を安定化細胞含有体液サンプルから回収して古典的な解析及び検出法に供することができる。これにより、単一安定化細胞含有体液から非常に関心のある種々の生物学的標的のマルチモード解析が可能となる。
【0015】
工程(B)
(B)において、安定化細胞含有体液サンプルを、意図する安定化期間の間維持する。
安定化細胞含有体液サンプルは例えば、安定化直後、もしくは安定化の後速やか(例えば、3時間以内)に処理することができ、または、より長い保存期間、維持することができる。安定化細胞含有体液サンプルを長い保存期間の間保存できることは特に有利である。安定化サンプルに含まれる生物学的標的も長い保存期間の間保存される。
【0016】
複数の実施態様では、(B)は、処理工程(C)の前に安定化細胞含有体液サンプルを保管することを含む。保管は例えば、さらなる処理のために、安定化細胞含有体液サンプルを、収集及び安定化した場所から異なる場所に移動することを含み得る。
安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)の前に最大12時間、または最大24時間保管することができる。実施例で示すように、安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)の前に最大30時間、最大36時間、または最大48時間維持することができる。複数の実施態様では、安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)の前に最大50時間、または最大72時間維持される。
意図する安定化期間の間、安定化細胞含有体液サンプルを維持するときに、安定化サンプルが凍結工程に供されないとしたら有利である。凍結工程はサンプルに含まれる細胞を損傷する可能性がある。したがって、凍結工程を避けることは細胞含有体液サンプルの保存を支持するので有利である。
【0017】
複数の実施態様では、安定化細胞含有体液サンプルを、意図する安定化期間の間、室温(例えば、15~25℃)で維持する。他の実施態様ではサンプルは冷却され、例えば、1~14℃、例えば1~12℃、または2~10℃、または2~8℃などの温度で、例えば維持される。複数の実施態様では、血液などの安定化細胞含有体液サンプルは、2~8℃で最大72時間維持することができる。
複数の実施態様では、安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)を行う前に、少なくとも4時間、または少なくとも6時間維持される。複数の実施態様では、安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)を行う前に、少なくとも8時間、または少なくとも12時間維持される。複数の実施態様では、安定化細胞含有体液サンプルは、処理工程(C)を行う前に、少なくとも24時間、少なくとも30時間、または少なくとも48時間~72時間(またはそれ以上)維持される。
【0018】
工程(C)
安定化期間の後、少なくとも1つの細胞亜集団、細胞外核酸、細胞外小胞、及び細胞内核酸からなる群から選択される3つ以上の生物学的標的を安定化細胞含有体液から富裕化するために、安定化細胞含有体液サンプルは処理される。
本明細書にて開示するように、注目する複数の異なる生物学的標的が細胞含有体液内で安定化され、その後、及び、さらに長い安定化期間の後であっても、同一の安定化サンプルから回収可能であることが非常に有利である。これにより、効率的なワークフローにおいて、単一の安定化細胞を含有する体液から得られた複数の異なる生物学的標的の並行/同時回収及び解析が可能となる。
【0019】
本明細書にて開示するように、一実施態様では、富裕化された少なくとも1つの細胞集団は、標的希少細胞を含むか、または希少細胞から本質的になる。複数の実施態様では、標的希少細胞は、循環腫瘍細胞(CTC)などの腫瘍細胞である。発明の背景で論じたように、CTCなどの腫瘍細胞は、特に注目する生物学的標的を代表する。
本明細書にて記載するように、安定化細胞含有体液サンプルを、少なくとも1つの細胞枯渇画分と少なくとも1つの細胞含有画分とに分離することが有利である。これにより、細胞含有体液サンプルに含まれる細胞は提供される細胞含有画分内で富裕化することができる。少なくとも1つの細胞含有画分は有核細胞を含んでよい。複数の実施態様では、少なくとも1つの細胞含有画分は有核細胞から本質的になる。
工程(C)における安定化細胞含有体液の処理のための好ましい態様、および生物学的標的を以下で説明する。
【0020】
実施態様A
実施態様Aに従うと、(C)における処理は、
(aa) 安定化細胞含有体液サンプルを、少なくとも1つの細胞含有画分と少なくとも1つの細胞枯渇画分とに分離することと、
(bb) 前記細胞含有画分をさらに処理することであって、前記細胞含有画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞含有画分から、例えば、標的希少細胞を含む少なくとも1つの細胞亜集団を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞含有画分から、細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を富裕化、例えば精製することを含む、さらなる処理と、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外核酸(例えば、細胞外DNA)を富裕化、例えば精製すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化することを含む、さらなる処理、を含む。
【0021】
本実施態様では、安定化細胞含有体液サンプル(例えば血液)は、(aa)において少なくとも1つの(例えば、有核血液細胞及びCTCを含む)細胞含有画分と細胞枯渇画分(例えば血漿)とに分離される。好適な分離法は当技術分野において既知であり(例えば、遠心分離及び/または濾過を伴う)、本明細書の他の箇所に記載する。例えば、遠心分離ベースの分離法を用いる工程(aa)に従い、(血液凝固抑止された)安定化血液サンプルを処理する場合、安定化血液サンプルを、細胞枯渇画分(血漿)と細胞含有画分(白血球、及び存在する場合はCTC、及び任意に血小板を含んでもよいバフィーコート)と、赤血球画分と、に分離することができる。バフィーコートは工程(bb)において、細胞含有画分としてさらに処理することができ、血漿画分は、(cc)において、細胞枯渇画分としてさらに処理することができる。
【0022】
注目する得られた細胞含有画分を次に、(bb)においてさらに処理する。標的希少細胞(例えばCTC)などの、少なくとも1つの細胞亜集団を、得られた細胞含有画分から富裕化することができる((i)を参照されたい)。さらに、細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を富裕化し、そのようにして細胞含有画分から精製することができる((ii)を参照されたい)。複数の実施態様では、例えば、希少細胞(例えばCTC)及び細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を含む少なくとも1つの細胞亜集団を共に、細胞含有画分から注目する生物学的標的として富裕化する。例えば、まず、希少細胞(例えばCTC)を含む注目する細胞亜集団を、(ii)で標的細胞亜集団(例えば、希少細胞)が取り除かれた/枯渇された残りの細胞含有画分から細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を精製する前に、(i)の細胞含有画分から単離することができる。有利には、本実施態様により、一実施態様では希少細胞(CTCなど)を含む標的細胞亜集団を単離するために、全体積の細胞含有画分を用いることが可能となる。他の実施態様では、細胞含有画分は少なくとも2つのアリコートに分離され、少なくとも1つのアリコートを(例えば、希少細胞を含む)注目する細胞亜集団を富裕化するために使用し、少なくとも1つのアリコートをゲノムDNAなどの細胞内核酸を富裕化するために使用する。他の実施態様では、細胞含有画分は少なくとも2つのアリコートに小分けされ、少なくとも1つのアリコートを(例えば、希少細胞を含む)注目する細胞亜集団を富裕化するために使用し、少なくとも1つのアリコートをゲノムDNAなどの細胞内核酸を富裕化するために使用する。
細胞枯渇画分(例えば血漿)から細胞外核酸を単離し、及び/または、細胞外小胞を富裕化するため、得られた細胞枯渇画分を(cc)においてさらに処理する。本明細書にて開示するように、有利な実施態様において、細胞外DNAを細胞枯渇画分(例えば血漿)から精製する。さらに、実施例で示すように、細胞外小胞を細胞枯渇画分から富裕化することができる。細胞外小胞を富裕化するための例示的な好適かつ好ましい方法もまた、以下で説明する。複数の実施態様では、細胞外小胞及び細胞外核酸、好ましくは細胞外DNAが共に細胞枯渇画分から富裕化される。例えば、まず細胞枯渇画分から細胞外小胞を単離し、細胞外小胞が前もって取り除かれた残存する細胞枯渇画分から細胞外DNAを富裕化することができる。さらなる実施態様では、細胞枯渇画分は少なくとも2つのアリコートに分割され、少なくとも1つのアリコートは細胞外小胞を富裕化するために使用され、少なくとも1つのアリコートは当該アリコートから細胞外DNAなどの細胞外核酸を精製するために使用する。
【0023】
実施態様B
実施態様Bに従うと、(C)における処理は、
(aa) 前記安定化細胞含有体液サンプルから、例えば、標的希少細胞を含む、少なくとも1つの細胞亜集団を富裕化することと、
(bb) (例えば、標的希少細胞を含む)細胞亜集団が富裕化され、したがって取り除かれた安定化細胞含有体液サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、(細胞外DNAであってもよい)細胞外核酸を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、
を含むさらなる処理と、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化すること、とを含む。
【0024】
工程(aa)において、例えば、標的希少細胞(例えばCTC)を含む少なくとも1つの細胞亜集団を安定化細胞含有体液サンプルから富裕化する。安定化サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離する前にまず、例えば希少細胞を含む注目する標的細胞亜集団を生体サンプルから単離することにより、細胞亜集団の全体的な取扱い時間が短縮される。細胞亜集団が希少な細胞を含むまたは希少細胞から本質的になる場合、これら希少で貴重な細胞への損傷を防止するために、これは特に有利である。一実施態様では、希少細胞(CTCなど)は、安定化細胞含有体液サンプル全体から富裕化される。有利には、これにより、収集したサンプル体積全部を希少細胞(CTCなど)を単離するために用いることが可能となる。このことは、CTCなどの特定の細胞が多くの場合希少であり、含まれる希少細胞(CTCなど)を確実に富裕化及び検出可能にするためには、より多くのサンプル体積を処理することが望ましいことを考慮すると有利である。
工程(bb)において、標的希少細胞(または、注目する他の細胞亜集団)が取り除かれた安定化細胞含有体液サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離する。したがって、完全な収集体積の安定化細胞含有体液サンプルを工程(aa)において希少細胞を富裕化するために使用した場合において、希少細胞、または所望する場合、その一部が取り除かれた安定化細胞含有体液サンプル全体を処理し、細胞含有画分及び細胞枯渇画分を提供する。
工程(cc)において、細胞枯渇画分をさらに処理する。詳細は、前記実施態様Aと組み合わせて記載されており、ここでも適用されるそれぞれの開示も参照される。
さらに、工程(dd)においてゲノムDNAなどの細胞内核酸を細胞含有画分から富裕化することができる。
【0025】
実施態様C
実施態様Cに従うと、(C)における処理は、
(aa) 前記安定化細胞含有体液サンプルを少なくとも2つのアリコートに小分けし、例えば希少細胞を含む、注目する少なくとも1つの細胞集団を、前記提供したアリコートのうちの少なくとも1つから富裕化することと、
(bb) 少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を提供することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、(細胞外DNAであてよもい)細胞外核酸を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、を含む、さらなる処理と、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化することと、を含む。
【0026】
工程(aa)において、安定化細胞含有体液サンプルは少なくとも2つのアリコートに分割される。少なくとも1つのアリコートを、注目する少なくとも1つの細胞集団を富裕化するために使用し、これは例えば、標的希少細胞(例えばCTC)を含むか、または希少細胞から本質的になることができる。これにより、希少細胞が取り除かれた安定化細胞含有体液サンプルの少なくとも1つのアリコートが提供される。注目する別の細胞亜集団が富裕化される場合にも、同じことを適用する。少なくとも1つのさらなるアリコートは、希少細胞(または、注目する他の細胞集団)を取りださなかった元の安定化細胞含有体液に対応する。
工程(bb)において、少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を提供する。工程(bb)は、(例えば、CTCなどの希少細胞を含むか、もしくは希少細胞から本質的になる)標的細胞集団が富裕化された安定化細胞含有体液サンプル、及び/または、工程(aa)において標的細胞集団を富裕化するために使用しなかった任意の残りの安定化細胞含有体液サンプル(アリコート)を、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離することを含むことができる。安定化細胞含有体液サンプルを少なくとも2つのアリコートに分割した場合において、細胞含有画分及び細胞枯渇画分を提供するために、標的細胞を取り除かなかったアリコートのみを処理することが可能である。あるいは、標的細胞を取り除いた少なくとも1つのアリコートを、標的細胞を取り出さなかった元の安定化体液サンプルのさらなるアリコートと再統合することができる。このようにプールすることにより、得られた細胞枯渇画分及び細胞含有画分の体積が有利に増加し、これは、これらの画分のさらなる処理及び解析に有益である。
工程(cc)、及び任意的工程(dd)は実施態様Bに対応し、前記開示を参照する。
【0027】
サンプルを少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分に分離する例示的な好適かつ好ましい方法もまた、以下に記載する。このような方法を、特に、実施態様A~Cにおける工程(C)において使用することができる。
特に、実施態様A~Cにおける工程(C)で使用可能な、CTCなどの希少細胞、及び、他の標的細胞亜集団を富裕化する例示的な好適かつ好ましい方法を以下で説明する。本明細書にて開示するように、例えば、細胞内核酸(例えばRNA)を単離して、続いて検出するために、希少細胞などの取り出された標的細胞を工程(D)でさらに処理することができる。
特に、実施態様A~Cにおける工程(C)で使用可能な、エクソソームなどの細胞外小胞を富裕化する例示的な好適かつ好ましい方法もまた、以下に記載する。本明細書にて開示するように、例えば、核酸(例えばRNA)を単離して検出を続けるために、回収した細胞外小胞を工程(D)でさらに処理することができる。
【0028】
細胞含有体液サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離する方法
細胞含有体液を、少なくとも1つの細胞含有画分と少なくとも1つの細胞枯渇画分とに分離する方法は当該技術分野において周知であるので、詳述する必要はない。一般的な方法としては、遠心分離、濾過、及び密度勾配遠心分離が挙げられるが、これらに限定されない。異なる方法を組み合わせることもできる。そのような一般的な方法を、本開示に従って、安定化技術と組み合わせて有利に使用することができ、これにより、有利なことに安定化のために架橋剤を使用することを避けることが可能になり、それにより、一般的な確立された方法を使用することができる。サンプルに含まれる細胞の完全性を維持するためにこの方法を実施する。分離中に細胞が破壊されることで、例えば、細胞枯渇画分に含まれる細胞外核酸が破壊された細胞から放出される細胞核酸で汚染されるために、このことは有利である。
【0029】
一実施態様に従うと、細胞含有画分を細胞枯渇画分から分離するために、少なくとも1つの遠心分離工程を行う。複数の実施態様では、遠心分離を、例えば800~3000xg、例えば1000~2500xg、または1500~2000xgの範囲で行うことができる。遠心分離の期間は、例えば5~20分、例えば10~15分の範囲であってよい。好適な条件は、当業者により選択可能である。細胞枯渇画分は上清として回収することができる。残存するあらゆる細胞、及び微粒子物質(例えば、細胞デブリ)が確実に細胞枯渇画分から取り除かれていることを保証するために、細胞枯渇画分を、得られた細胞画分(複数可)から取り出し、(任意に高速で行ってもよい)第2の遠心分離工程に供することができる。これは、後で細胞外DNAなどの細胞外核酸を細胞枯渇画分から精製するために有利であり得る。細胞枯渇画分を提供するために濾過工程を実施することもまた、本開示の範囲内である。このような方法は当該技術分野において周知であり、例えば、細胞外DNAなどの細胞外核酸を後で精製するために血漿を血液サンプルから得るために使用する (例えば、Chiu et al,2001 Clinical Chemistry 47:9 1607-1613;Sorber et al,Cancers 2019,11,458を参照されたい)。注目する生物学的標的(複数可)として、エクソソーム及び/または血小板を細胞枯渇画分から回収するのが望ましい場合において、エクソソーム及び/または血小板を細胞枯渇画分に残し、そこからの回収のために利用可能となるように、分離手順(複数可)が選択される。例えば、第1の遠心分離工程後に得られる細胞画分を細胞含有画分として使用し、(例えば、ゲノムDNAなどの細胞内核酸を単離し、かつ/または、そこから標的細胞(例えばCTC)を富裕化するために)本明細書に記載するようにさらに処理することができる。
【0030】
好適な遠心分離、及び/または濾過に基づく分離法は、以下を含むことができるが、これらに限定されない:
- 1900xg(15分)で遠心分離し、細胞枯渇画分を細胞画分(複数可)から分離し、細胞枯渇画分を1900xg(10分)で遠心分離すること。
- 1600xg(10分)で遠心分離し、細胞枯渇画分を細胞画分(複数可)から分離し、細胞枯渇画分を16000xg(10分)で遠心分離すること。
- 1600xg(10分)で遠心分離し、細胞枯渇画分を細胞画分(複数可)から分離して、その後、例えば、0.2μm~0.8μmのフィルターを用いて、細胞枯渇画分を濾過すること。
- 1600xg(10分)及び16000g(10分)で遠心分離し、その後、例えば、0.2μm~0.8μmのフィルターを用いて、濾過すること。
- 1000rpm(10分)及び3000rpm(10分)で遠心分離すること。
さらなる組み合わせ及びバリエーションもまた、可能である。
【0031】
例えば、含まれる生物学的標的(例えば、細胞外核酸または細胞外小胞)の、細胞成分による汚染を避けるために、提供される細胞枯渇画分は実質的に細胞非含有の実施態様におけるものである。このような細胞非含有画分は、上述の、遠心分離及び/または分離ベースの方法を使用して得ることができる。得られた細胞枯渇/細胞非含有画分を新しい容器に移してよい。当該画分は、例えば、細胞外核酸及び/又は細胞外小胞をそこから精製するために直接処理することもでき、または使用するまで保管(例えば冷却もしくは凍結)することができる。さらに処理される、得られた細胞含有画分は、有核細胞をさらに含むことができ、標的細胞(例えば希少細胞など)、及び/または細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を当該画分から単離することができる。
【0032】
核となる一実施態様に従うと、細胞含有体液は血液である。血液サンプルは、診断目的で幅広く使用されるため、非常に重要である。細胞含有体液が血液である場合、安定化組成物が抗凝血物質、例えば、EDTAなどのキレート化剤を含むのが好ましい。細胞枯渇血漿画分及び細胞含有細胞画分(バフィーコートなど)を提供するために、安定化血液サンプルを処理してよく、次いでこれらはさらに処理される。血漿の作製方法は当該技術分野において周知であり、遠心分離及び濾過、ならびに、このような方法の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
細胞の亜集団、及びこのような亜集団の富裕化、特に、循環腫瘍細胞などの希少細胞の富裕化
一実施態様に従うと、工程(C)は、細胞亜集団を安定化細胞含有体液サンプルから富裕化することを含む。標的細胞亜集団は、安定化細胞含有体液から直接富裕化することができるか、または、細胞含有、したがって、(安定化細胞含有体液サンプルを細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離することにより得られ得る)安定化細胞含有体液の細胞画分から富裕化することができる。細胞の富裕化亜集団を処理し、本明細書に記載するように、さらに(例えば、得られた細胞を解析し、かつ/または、当該集団から細胞内核酸を単離することにより)解析することができる。
所望の細胞亜集団は、当該技術分野において既知の方法を使用して富裕化することができる。好適な方法を、希少細胞の富裕化と組み合わせて以下に開示し、同様の方法を、他の細胞集団に対しても使用することができる。例えば、特定の細胞を、親和性捕捉ベースの方法を用いて細胞表面の特性に基づき富裕化することができる。さらに、細胞を、その密度に基づき分離、したがって富裕化することができる。例えば、密度勾配遠心分離により、特定の層内でPBMC及び他の細胞型を富裕化することが可能となる。特定の細胞、即ち、それぞれの細胞集団もまた、ソート技術、例えばFACSソーティングにより、富裕化することができる。
【0034】
一実施態様に従うと、工程(C)は、希少細胞を富裕化することを含む。したがって、一実施態様に従うと、富裕化細胞亜集団は標的希少細胞を含む。富裕化細胞亜集団はまた、標的希少細胞から本質的になることもできる。これは、使用する富裕化法に左右される。
希少細胞は、バックグラウンド細胞の大きな集団の中で少量の細胞である。希少細胞は典型的には、105個の細胞内で1未満の濃度で発見される。したがって、希少細胞の検出、定量化、及び富裕化は困難である。希少細胞は、多くのがんの診断及び予後、出生前診断、ならびに、ウイルス感染症の診断といった、様々な用途に非常に重要である。典型的な希少細胞は、循環腫瘍細胞(CTC)、(例えば、母体血液を循環する)循環胎児細胞、幹細胞、及び、ウイルスまたは寄生生物により感染した細胞である。このような希少細胞は例えば、血液サンプル及び他の体液で発見され、これらから富裕化することができる。富裕化可能なさらなる希少細胞の種類は、循環内皮細胞(CEC)、及び循環内皮前駆細胞(EPC)である。がん、糖尿病、心血管、または急性腎臓病における内皮機能不全の潜在的バイオマーカーである循環成熟内皮細胞(CEC)は、106~108個の白血球において、10~100個のCECの頻度で観察されている。これと比較して、推定されるCTCの頻度はさらに低く、106~108個の白血球中で1~10個のCTCの範囲である。
【0035】
CTCなどの希少細胞を富裕化する種々の方法が知られており、当該技術分野において記述されており、既知の方法を、本発明と組み合わせて使用することができる(例えば、Neumann et al.,Comput Struct Biotechnol J,2018,Vol.16: 190-195;Haber et al,Cancer Discov.2014 June;4(6): 650-661、及びChen,Lab Chip: 2014 February 21;14(4): 625-645を参照されたい)。希少細胞の富裕化、分離、または定量化は、例えば、細胞サイズ、密度、変形性、形状、電気分極性、及び磁化率などの物理的性質、及び/又は、表面特性(例えば、細胞表面でのマーカー遺伝子発現)などの、細胞の生物学的性質に基づき、様々な方法により行うことができる。勾配に基づく遠心分離(例えば、フィコール勾配を用いる)は、ある密度を有する特定の細胞型を富裕化するための、一般に使用される一方法である。濾過により、細胞サイズに基づく希少細胞の富裕化が可能となる。別のCTC富裕化原理はマイクロ流体を用いる。濾過法と比較して、マイクロ流体システムにより、単一細胞単離のための免疫蛍光標識といった下流解析のためにCTC富裕化細胞懸濁液を収集することが可能となる。CTC、及び、他の希少細胞も、その電荷の差に基づいて分離することもできる。概して、腫瘍細胞の物理的性質、固有の細胞表面マーカーの発現、または、豊富な細胞(例えば、正常な白血球)を枯渇させてタグ付けされていないCTCを富裕化することに依存するか否かに応じて、CTC富裕化法は異なるクラスに広範に収まる。CTCの富裕化のために、例えば、抗体が媒介するがん細胞の捕捉に基づく免疫磁気法も使用することができる。
【0036】
一実施態様に従うと、標的希少細胞は、細胞含有体液サンプルに含まれる腫瘍細胞である。好ましくは、循環腫瘍細胞(CTC)は、安定化血液サンプルなどの安定化体液サンプル由来の標的希少細胞として得られる。発明の背景で開示するように、循環腫瘍細胞は当該技術分野において周知である。一般に、CTCは、原発腫瘍から血管系またはリンパに排出され、循環中に体内を巡って運ばれる細胞である。CTCは、積極的に、または非積極的に排出されることがある。これらは、単一細胞として、またはアグリゲート(いわゆる、循環腫瘍微小塞栓)として、血液及びリンパ系を循環し得る。したがって、CTCは原発腫瘍が起源であり、離れた生命器官における、さらなる腫瘍(転移)のその後の増殖のための生きた種を構成することができる。これらは、がん転移に密接に関連しており、これが、がんの死亡率の主たる原因であると考えられる。CTCは、転移を起源とすることもまた可能である。CTCは多くの異なるがんで明らかにされており、末梢血で発見されるCTCは固形腫瘍由来であり、固形腫瘍の、離れた部位への血行性転移拡大に関与することが幅広く受け入れられている。本明細書で使用する場合、用語「CTC」は特に、あらゆる種類の腫瘍、特に固形腫瘍、特には転移性固形腫瘍に由来する循環細胞を含む。本明細書で使用する場合、用語「CTC」とはとりわけ、(i)サイトケラチンまたは上皮マーカー分子(EpCamなど)を発現する、インタクトの生きた核を有し、CD45が存在しないがん細胞であると確認されたCTC;(ii)がん幹細胞、又は、サイトケラチン若しくはEpCam及びCD45などの上皮マーカーの発現を欠き得る上皮間葉転換(EMT)を受けている細胞である、サイトケラチン陰性(CK-)CTC;(iii)アポトーシス(細胞死)を受けた伝統的なCTCであるアポトーシス性CTC;(iv)通常、サイトケラチン陽性及びCD45陰性であるが、サイズ及び形状が白血球に類似している、小型CTC、(v)休眠CTC、加えて、例えば、上述の種類のCTCのいずれかの2つ以上の個別のCTCのCTCクラスター、または、互いに結合した前記種類のCTCの混合物を含むが、これらに限定されない。CTCクラスターは例えば、従来の小型及び/またはCK- CTCを含有することができる。
【0037】
CTCは一般に、体液中の非常に希少な細胞である。CTCに関する情報を提供するために、腫瘍細胞の富裕化、または、血液中の他の有核細胞の除去が必要である。任意の方法を、安定化細胞含有体液サンプル、または、その得られた細胞含有画分からCTCを富裕化するのに好適な本方法と組み合わせて使用することができる。CTCは多くの場合希少なので、一般的なCTC富裕化手順はほとんどの場合、富裕化CTCが正常細胞のバックグラウンド中で一定の程度含まれるようにするため、他の細胞型を所望のCTCと併せて同時に単離する。にもかかわらず、このような方法は、CTCを富裕化し、したがって解析のためにCTCを富裕化するのに有用な方法である。様々な生体サンプルからCTCを富裕化する方法は当該技術分野において周知であり、上記で要約した。例示的な好適な方法を以下に簡潔に記載する。
CTCは、様々な物理的、及び/または親和性捕捉に基づく方法を用いて富裕化することができる。CTCは、CTC細胞の正の選択を含む方法により、例えば、CTCを直接標的にする方法により、または、例えば、非CTC細胞(例えば、血液の場合は白血球)を枯渇させることによる、ネガティブ選択を含む方法により富裕化することができる。例えば、濾過に基づく方法、変形性または密度または他の物理的方法を用いて、CTCをサイズにより富裕化する方法もまた適している。さらに、上述の方法の組み合わせを使用することができる。
【0038】
好ましい実施態様に従うと、CTCは親和性捕捉により富裕化される。このような親和性に基づく捕捉法は、CTCを表面(例えばビーズ、膜、または他の表面)に特異的に結合させる。CTCに対する特異性は、CTC上に存在する構造物、例えばエピトープまたは抗原に結合する1つ以上の結合因子(例えば抗体)を用いることにより達成される。複数の実施態様では、前記1つ以上の結合因子は、CTC上に存在する腫瘍関連マーカーに結合する。例えば、CTCは、CTC細胞を捕捉可能な抗体でコーティングされた固相(例えば磁気ビーズ)を使用して富裕化することができる。CTC捕捉のために、所望のCTC細胞上のエピトープまたは抗原に対して高い特異性及び親和性で結合する2つ以上の抗体の組み合わせを使用することができる。結合因子は、腫瘍の種類に応じて、CTC上に存在する標的エピトープまたは抗原を標的にして選択することもできる。例えば、原発腫瘍の種類に応じて、潜在的なEMTまたは腫瘍幹細胞表現型の変化も考慮に入れて、結合因子(例えば抗体)により標的化可能な種々の構造物、例えば、エピトープまたは抗原がCTC上に存在し得る。例えば、上皮間葉転換(EMT)の過程において表現型の変化を受ける、または、腫瘍幹細胞性を示すCTCをもまた、富裕化することができるため、そのような結合因子(例えば抗体)に基づく捕捉プラットフォームを用いることは有利である。好ましい実施態様に従うと、結合因子により標的化されるエピトープは、例えばEpCAM、EGFR、及びHER2などの、上皮及び/または腫瘍関連抗原である。循環腫瘍細胞を富裕化するための、市販されているシステムは、AdnaTest(QIAGEN)である。
正の選択に基づき、CTCを得るための好適なCTC富裕化法を提示する別の方法は、上皮細胞細胞表面マーカーであるEpCAMを標的にする抗体磁気ナノ粒子コンジュゲートにより血液から分離される上皮細胞の計数、ならびに、サイトケラチン(CK8、18、19)、及び蛍光核染色に対して蛍光標識した抗体によるCTCのその後の同定に基づく。適切な方法を、CellSearch(Menarini/Veridex LLC)の市販されているシステムで用いる。CTC富裕化、したがって、CTCを単離するのための他の既知の方法としては、Epic sciences社の方法、ISET試験、マイクロ流体細胞ソーターの使用(変化した堰き止め式物理的バリアを用いて、サイズの違いに基づき、例えば未処理全血からCTCを分離して捕捉する、μFCS)、ScreenCell(例えば、ヒト全血からの、感度が高く特異的な、CTCの単離を可能にする、濾過ベースのデバイス)、Clearbridge、Parsortix、及びIsoFluxが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
一実施態様に従うと、安定化サンプルは血液サンプルであり、工程(C)は、密度勾配遠心分離に基づく富裕化法を任意に用いて、PBMCを安定化したサンプルから富裕化することを含む。好適な方法を後述する。発明の背景で開示するように、末梢単核血液細胞(PMBC)の、ゲノム及び/またはエピゲノムプロファイリングは、がん患者におけるイムノサーベイランスの初期診断及び監視のための、注目するバイオマーカーを提示する。さらにこれを、例えば、RNAなどの細胞内核酸を単離してCTC特異的標的核酸分子を検出することにより、含まれるCTCを解析するために使用することができる。さらに、CTCのような特定の細胞型をさらに富裕化して精製するため、富裕化PBMC画分を使用することができる。
【0040】
一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルは血液であり、工程(C)は、標的リンパ球を細胞亜集団として安定化サンプルから富裕化することを含む。一実施態様に従うと、リンパ球はT4及び/またはT8リンパ球から選択される。一実施態様に従うと、安定化血液サンプルは免疫欠損を有する患者から得た。このようなサンプルにおけるT4及びT8リンパ球の解析に特に診断上の価値がある。
【0041】
一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルは血液であり、工程(C)は、血小板を細胞亜集団として安定化サンプルから富裕化することを含み、任意に、工程(D)が実施され、RNAを富裕化血小板から単離することを含む。血小板を血液サンプルから富裕化する方法は当技術分野において既知であり、本発明と組み合わせて使用することができる。複数の実施態様では、血小板豊富な血漿(PRP)が、遠心分離により安定化(血液凝固阻止)血液サンプルから得られる。血小板豊富な血漿を得るのに好適な方法は当該技術分野において記載されており(Sorber et al,2019もまた参照されたい)、本開示に使用する、及び/または適合させることができる。血小板豊富な血漿は他の白血球及び赤血球は枯渇している。血小板は次いで、得られた血小板豊富な血漿から、そのそれぞれの部分から、当該技術分野において既知の方法を使用して単離することができる。複数の実施態様では、血小板を単離するために使用しなかった残りの血漿部分を、細胞外核酸(例えばccfDNA)、及び/またはエクソソームをそこから単離するために、さらに処理することができる。複数の実施態様では、得られた上清から細胞外核酸及び/またはエクソソームを単離する前に、残りの細胞または細胞デブリから取り除くために残りの血漿部分を再び遠心分離にかける、及び/または濾過する。
【0042】
一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルは血液であり、工程(C)は、芽細胞を標的細胞亜集団として、安定化サンプルから富裕化することを含む。芽細胞は、任意に磁性粒子を用いることで、親和性捕捉により富裕化される。芽細胞は例えば、細胞表面マーカー(CD34及び/またはCD117であってよい)を標的にすることにより富裕化することができる。芽細胞の解析は、例えば、安定化血液サンプルが急性骨髄性白血病を有する患者から入手されたときに有用である。
上記のとおり、安定化細胞含有体液サンプルから富裕化可能なさらなる希少細胞の種類は、循環内皮細胞(CEC)、及び循環内皮前駆細胞(EPC)である。このような標的細胞は、CD31、CD34、CD105、CD133、及びCD146を含むがこれらに限定されない特異的マーカーに基づいて同定及び富裕化することができる。
【0043】
密度勾配遠心分離工程
一実施態様に従うと、処理工程(C)は、安定化血液サンプルまたはその細胞画分を、密度勾配遠心分離工程に供することを含む。密度勾配遠心分離工程を行うことにより、安定化細胞含有体液サンプルを、細胞枯渇血漿画分(または、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞画分を入力材料として処理する場合には、細胞枯渇液体)と、種々の細胞含有画分とに分離することが可能となる。複数の実施態様では、細胞含有画分及び細胞枯渇画分を得るために、安定化細胞含有体液サンプルをまず工程(C)で処理する。上述の方法(例えば、遠心分離及び/または濾過)が、本目的のために使用することができる。例えば、安定化血液サンプルを血漿画分と細胞画分とに分離することができる。次に、得られた血漿画分を、他の箇所で記載したように、(i)細胞外核酸、及び/または(ii)細胞外小胞、の富裕化のために使用することができる。得られた細胞画分を次に、密度勾配遠心分離にかけることができる。この目的のために、希釈溶液を用いて細胞画分を希釈することができる。希釈した細胞画分を次に密度勾配遠心分離にかける。密度勾配遠心分離手順を次に、細胞含有体液、例えば血液などに対して知られており記載されているとおりに実施することができる。
密度勾配遠心分離の実施態様は、安定化血液サンプルを用いる実施例で以下に記載されている。しかし、他の種類の安定化細胞含有体液サンプルもまた適宜処理することができる。
【0044】
安定化血液サンプル(または、その細胞画分)を密度勾配媒体と接触させる。好適な密度勾配媒体は市販されており、Ficoll(登録商標)、Ficoll(登録商標)-Paque、及びLymphopureが挙げられるが、これらに限定されない。密度勾配遠心分離技術(Ficoll(登録商標)Paque、OncoQuick(登録商標)など)を使用して、異なる細胞密度に基づき、末梢血単核球細胞を、赤血球及び多形核細胞(例えば顆粒球)を含む全血の他の構成成分から分離することができる。安定化血液サンプル(またはその細胞画分)を、密度勾配遠心分離工程を行う前、好ましくは、安定化血液サンプル(またはその細胞画分)を密度勾配媒体と接触させる前に、希釈溶液により希釈する。希釈は、少なくとも1:1の比率であってよい。希釈した安定化血液サンプル(または、希釈したその細胞画分)を、密度勾配媒体の上部(好ましい)、またはその下に上層することができ、遠心分離して、別個の細胞集団を血漿から分離させ、通常は、赤血球及び顆粒球をチューブの底にペレット化させ、単核細胞(CTCなどの希少細胞を含む)を、その低い密度により、勾配媒体層の上の、収集及び解析のためにアクセス可能な界面層に残す。しかし、本明細書に記載し、当該技術分野において公知であるように、細胞集団の密度を人工的に変化させ、異なる細胞含有層内に定まるようにすることができる。例えば、RosetteSep(商標)CTC富裕化カクテル(StemCell technologies)をFicoll(登録商標)分離と組み合わせることにより、CD45を発現する白血球を赤血球に架橋させる四量体抗体複合体を利用して、標識された白血球の密度を人工的に変化させ、底にペレット化させることにより、CTCについて界面層を富裕化させてCTC富裕化が可能となる。
【0045】
実施例に示すように、血液サンプルを安定させるために本開示に従って使用する安定化組成物は、安定化因子(a)~(c)を組み合わせて使用する実施態様において、変化した層パターンが密度勾配遠心分離の後で提供されるという結果をもたらし得る。取扱いエラーを避けるために、安定化血液サンプル(またはその細胞画分)を予め処理し、安定化血液サンプル(またはその細胞画分)が、密度勾配遠心分離の際に一般的なEDTA安定化血液サンプル(またはその細胞画分)の層パターンに似た層パターンをもたらすことを確実にするのが有利である。安定化血液サンプル(または、その細胞画分)を、一般的に用いられるPBSとは異なる希釈溶液で希釈した場合に、このことが達成可能であることが発見された。使用する希釈溶液は、本明細書に記載する低張性溶液または等張性溶液であってよい。希釈は、少なくとも1:1の比率で行ってよい。
【0046】
一実施態様では、前記希釈溶液は張性調節剤を含む。張性調節剤は、当技術分野において既知であり、塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、乳酸ナトリウム)などの化合物、ならびに、糖類(例えばグルコース、デキストラン、デキストロース、ラクトース、トレハロース)及び糖アルコール(例えばグリセロール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール)などのポリオールが挙げられる。希釈溶液はポリオールを含んでよい。本明細書で使用する場合、用語「ポリオール」とは、複数のヒドロキシル基を有する物質を意味し、糖類(還元糖及び非還元糖)、ならびに糖アルコールが挙げられる。ポリオールは、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つのヒドロキシル基を含んでよい。特定の実施態様では、ポリオールは、≦600Daである分子量(例えば、120~400Daの範囲)を有する。「還元糖」とは、遊離アルデヒドまたはケトン基を含有し、金属イオンを還元することができるか、または、タンパク質中のリジン及び他のアミノ基と共有反応することができる糖である。「非還元糖」とは、遊離アルデヒドまたはケトン基を欠き、フェーリング液またはベネジクト液などの穏やかな酸化剤により酸化されない糖である。還元糖及び非還元糖の例は、当業者に知られている。複数の実施態様では、含まれる化合物(張性調節剤/ポリオール)は、細胞膜に浸透することができる。
【0047】
複数の実施態様では、張性調節剤として含まれる作用可能なポリオールは、糖または糖アルコールである。糖及び/または糖アルコールの組み合わせもまた、使用することができる。糖は、還元糖または非還元糖であってよい。複数の実施態様では、糖は還元糖である。複数の実施態様では、希釈溶液はグルコースを含む。一実施態様では、希釈溶液は、還元糖(グルコースであってもよい)を、2~10%、3~7%、または4~6%(w/v)の範囲の濃度で含む。さらなる実施態様では、希釈溶液は(グリセロールであってもよい)糖アルコールを含む。複数の実施態様では、希釈溶液は塩を含む。塩は張性調節剤として作用することができる。塩はアルカリ金属塩、任意に、塩化ナトリウムなどの塩化物塩であってよい。複数の実施態様では、希釈溶液は、糖アルコール(グリセロールなど)及び塩(アルカリ金属塩(塩化ナトリウムなど)であってもよい)を含む。一実施態様では、希釈溶液は、最大0.5Mのグリセロール、及び最大2%の塩化ナトリウムを含み、任意に、希釈溶液は0.7~1.2%の塩化ナトリウム、及び0.075~0.15Mのグリセロールを含んでもよい。複数の実施態様では、希釈溶液は、(i)5%(w/v)のグルコース、(ii)0.9%のNaCl+0.1Mのグリセロール、及び、(iii)少なくとも1つの張性調節剤を含み、(i)もしくは(ii)で定義した希釈溶液の質量オスモル濃度に一致する質量オスモル濃度を有する希釈溶液、または、質量オスモル濃度が(i)もしくは(ii)で定義する溶液の質量オスモル濃度の±20%、±15%、または±10%の範囲内にある希釈液、から選択される。
【0048】
一実施態様に従うと、希釈溶液はDMSOを含む。希釈溶液は、1%~10%(v/v)、例えば1%~5%(v/v)の濃度でDMSOを含んでよい。
【0049】
複数の実施態様では、安定化血液サンプルは希釈溶液中で、10分以内、5分以内、または3分以内でインキュベートされ、その後、希釈した安定化血液サンプル(またはその細胞画分)を密度勾配媒体と接触させる。希釈した安定化血液サンプル(またはその細胞画分)は希釈後に直接処理され、密度勾配媒体と接触するのが好ましい。
実施例で示すように、このような希釈溶液を用いることで、安定化血液細胞の密度が有利に回復されることにより、密度勾配遠心分離の後で、EDTA-安定化血液サンプルにおいて形成される層と本質的に同じ種類の層が形成され得ることを保証する。密度勾配遠心分離の後で種々の層が形成され、明確なPBMC層が形成される。形成された層は(上から下に向かって)最上層(例えば、安定化血液サンプルの場合には血漿を含み、または、安定化血液サンプルの細胞画分を処理する場合には、希釈溶液を主に含む)、PBMC層(安定化サンプル中に存在する場合はCTCもまた含む)、密度勾配媒体層、またさらに、顆粒球及び赤血球を含むことができる。さらなる層が顆粒球/赤血球層の下に形成されることがある。PBMC層が明瞭に形成されることが重要であるが、これは、この層が、例えばCTC解析のために細胞亜集団としてさらに処理され得るためである。一実施態様では、この方法は、形成したPBMC層を収集することにより、PBMC画分を提供することを含む。収集したPBMC画分を洗浄することができる。緩衝液(PBS緩衝液または他の好適な溶液であってよい)を使用して、洗浄を行うことができる。収集したPBMC層をさらに処理、及び/または解析することができる。発明の背景で開示するように、末梢単核血液細胞(PMBC)のゲノム及び/またはエピゲノムプロファイリングは、がん患者におけるイムノサーベイランスの初期診断及び監視のための注目するバイオマーカーを提示する。さらに、当該層を、当該層から特定の細胞型、例えばCTC、を富裕化するために使用してよい。安定化血液サンプルを密度勾配遠心分離にかける場合に、PBMC層の上で形成し得る血漿画分はまた、さらに処理することもでき、廃棄してもよい。血漿を処理する実施態様を、本明細書の他の箇所に記載する。
【0050】
一実施態様では、本方法は、循環腫瘍細胞を富裕化または検出するために、収集したPBMC画分を用いることを含む。
このように富裕化した生物学的標的を、工程(D)でさらに処理し、解析することができる。例えば、ゲノムDNAを収集した(任意に、循環腫瘍細胞を予め枯渇させた)PBMC画分から精製してよい。さらに、少なくともPBMC細胞の画分を、白血球計数または他の解析に供してよい。さらに、特定の細胞型を収集したPBMC画分から富裕化してよい。
【0051】
細胞外核酸及び富裕化細胞外核酸
一実施態様に従うと、工程(C)は、細胞枯渇画分を安定化細胞含有体液サンプルから得ることと、細胞外核酸を得られた細胞枯渇画分から富裕化、特に精製することと、を含む。
【0052】
本明細書で使用する場合、「細胞外核酸(extracellular nucleic acids/extracellular nucleic acid)」とは特に、細胞内に含有されないが細胞含有体液サンプルの細胞外画分には含まれる核酸を意味する。それぞれの細胞外核酸はまた、多くの場合、細胞非含有核酸とも呼ばれる。これらの用語は本明細書では、同義語として用いられる。循環体液(血液など)から得られる細胞非含有核酸はまた、循環細胞非含有核酸、例えばccfDNAまたはccfRNAとも呼ばれる。細胞外核酸は、細胞含有体液(例えば、血漿または血清、好ましくは血漿)から入手可能な細胞枯渇画分から富裕化することができる。用語「細胞外核酸」とは例えば、細胞外RNA、加えて、細胞外DNAを指す。体液の細胞非含有画分で発見される、典型的な細胞外核酸の例としては、例えば細胞外腫瘍関連または腫瘍由来のDNA及び/またはRNA、他の細胞外疾患に関連するDNA及び/またはRNA、エピジェネティック組み換えされたDNA、胎児DNA、及び/またはRNA、例えばmiRNA及びsiRNAなどの低分子干渉RNAといった哺乳動物細胞外核酸、ならびに、例えばウイルス性核酸、例えば原核生物(例えば細菌)、ウイルス、真核細胞寄生生物または真菌由来の、細胞外核酸集団に放出された病原体核酸などの非哺乳動物細胞外核酸が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外核酸集団は通常、損傷した、または死にかけている細胞から放出された、ある量の細胞内核酸を含む。例えば、血液中に存在する細胞外核酸集団は通常、損傷した、または死にかけている細胞から放出された細胞内グロビンmRNAを含む。これは、インビボで生じる自然のプロセスである。細胞外核酸集団に存在する、このような細胞内核酸は、その後の核酸検出法において、対照の目的をも果たすことができる。本明細書に記載する安定化法は特に、サンプルのエクスビボでの取扱いにより、細胞含有体液が収集された後で、細胞外核酸集団に含まれるゲノムDNAなどの細胞内核酸の量が著しく増加するというリスクを低下させる。したがって、エクスビボでの取り扱いによる細胞外核酸集団の変化は、本開示に従った安定化技術により著しく低下するか、または防止されることさえあり得る。
富裕化した、好ましくは精製した細胞外核酸は、細胞外DNAを含むか、または細胞外DNAから本質的になるのが好ましい場合がある。循環体液から得られる、ccfDNA(循環無細胞DNA)などの細胞外DNAは診断用途のための貴重なツールであり、したがって、診断及び予後目的のため、当該技術分野において幅広く用いられる。
【0053】
一実施態様では、単離した細胞外核酸は、細胞外RNAを含むか、または細胞外RNAから本質的になる。細胞含有体液サンプル(安定化血液サンプルの場合は血漿など)から得られる細胞枯渇画分は細胞外RNAを含むことが、当該技術分野においては周知であり記述されている。
QIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN)、QIAsymphony DSP循環DNAキット、Chemagic 循環NAキット(Chemagen)、NucleoSpin血漿XSキット(Macherey-Nagel)、血漿/血清循環DNA精製キット(Norgen Biotek)、血漿/血清循環RNA精製キット(Norgen Biotek)、高純度ウイルス性核酸大型容積キット(Roche)、及び、細胞外核酸を抽出して精製するのに好適な、市販されている他のキットなどの、細胞外核酸を精製するのに好適な方法及びキットは、当技術分野において既知であり、市販もされている。WO 2013/045432及びWO2016/198571で開示されている方法も参照する。記載する方法は、細胞外DNAなどの細胞外核酸を、本明細書に記載する安定化法を用いて安定化した血液サンプルから得られた血漿から精製するのに特に好適である。
【0054】
一実施態様では、血液の場合、細胞外核酸は、予め富裕化した細胞外小胞からではなく、血漿または血清(好ましくは血漿)などの細胞枯渇画分から単離される。
一実施態様では、後続の工程(D)が実施され、これは、1つ以上の標的分子を、工程(C)で精製した細胞外核酸の中で検出することを含む。
【0055】
細胞外小胞、及び細胞外小胞の富裕化
一実施態様に従うと、工程(C)は、細胞外小胞を、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞枯渇画分から富裕化することを含む。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「細胞外小胞(EV)」は、特に、細胞起源の、任意の種類の分泌小胞を意味する。EVは、エクソソーム、微小小胞体(MV)、及びアポトーシス小体に幅広く分類することができる。エクソソーム及び微小小胞体などのEVが、細胞により分泌される小さな小胞である。EVは、血液及び尿を含む、多くの異なる体液を介して循環することが発見されており、これにより、EVが容易に入手可能となる。EVの組成は親細胞と似ているために、循環EVは、バイオマーカーのための貴重な供給源である。循環EVは、エクソソームとMVとの混合物で構成される可能性が高い。循環EVは、脂質二分子膜により分解から保護されている核酸(例えば、mRNA、miRNA、他の小RNA)、DNA及びタンパク質を含有する。内容物は適宜、具体的にパッケージ化され、局所、及び離れた細胞通信のメカニズムを示す。EVは、細胞間でRNAを輸送することができる。エクソソームなどのEVは循環バイオマーカーの豊富で多様な供給源である。供給源の細胞は健常な細胞、またはがん細胞であってよい。エクソソームなどのEVは多くの場合、がん細胞、特に分裂するがん細胞により、活発に分泌される。腫瘍微小環境の一部として、エクソソームなどのEVは、線維芽細胞の増殖、線維形成性反応、そしてまた、上皮間葉転換(EMT)及びSCの開始、加えて、療法耐性の確立、ならびに、転移及び療法耐性の開始において、重要な役割を果たすようである。エクソソームはCTCよりも小さく、バイオマーカー1つにつき、より少数のコピーを含む。CTCと比較して、EVは、体液中に非常に大量に、例えば、血漿1mL当たりで約109~1012個の小胞で存在するため、容易に得ることができる。
【0057】
上述のように、本方法は一実施態様では、細胞外小胞の富裕化を含む。任意の方法を、細胞外小胞を安定化細胞含有体液サンプルから単離、したがって富裕化するのに好適な本方法と組み合わせて使用することができる。本明細書にて開示するように、細胞枯渇画分、例えば安定化血液サンプルの場合は血漿、を提供するために、安定化細胞含有体液サンプルをまず処理することができる。細胞枯渇画分を提供するための異なる選択肢を本明細書で開示する。次いで、血漿などの細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化することができる。用語「富裕化」は再び、広い意味で用いられ、細胞外小胞の濃縮または精製をカバーする。細胞外小胞は、細胞成分を回収した後に、事実上任意の体液から富裕化することができる。エクソソームなどの細胞外小胞を富裕化する好適な方法は当技術分野において既知であるので、本明細書で詳述する必要はない。細胞外小胞を富裕化するための例示的な好適な方法を簡潔に本明細書に記載する。
エクソソームを含む細胞外小胞は、例えば血漿または血清などの、安定化体液の細胞枯渇画分から富裕化することができる。例えば、細胞外小胞は、超遠心分離、限外濾過、勾配及び親和性捕捉、または、適当な方法の組み合わせにより富裕化することができる。多数の手順及び商用製品が例えば、細胞外小胞/エクソソーム単離のために利用可能であり、当業者に知られている。例示的な非限定的単離法を、以下に記載する。
細胞外小胞、及び特にエクソソームは、例えば、超遠心分離を伴う方法により富裕化することができる。例示的な超遠心分離単離法は、Thery et al.(Isolation and Characterization of Exosomes from Cell Culture Supernatants and Biological Fluids.Unit 3.22,Subcellular Fractionation and Isolation of Organelles,in Current Protocols in Cell Biology,John Wiley and Sons Inc.,2006)により記載されている。このように、一実施態様に従うと、細胞外小胞は超遠心分離により富裕化される。
富裕化した細胞外小胞の純度を高めるために、細胞及び細胞断片、及び任意に、所望する場合はアポトーシス小体を、例えば遠心分離または濾過により、細胞外小胞を富裕化する前に取り除くことができる。例えば、≧0.8μm、≧0.7μm、または≧0.6μmの粒子を除外する濾過法を使用することができる。
【0058】
一実施態様に従うと、細胞外小胞は、固相への親和性捕捉により富裕化することができる。一実施態様に従うと、エクソソームなどの細胞外小胞は、細胞外小胞、例えばエクソソーム膜上に露出したタンパク質に対する抗体でコーティングした磁気ビーズを使用する免疫磁気捕捉により富裕化される。
一実施態様に従うと、細胞外小胞は、細胞枯渇サンプルを小胞捕捉物質を通過させることで捕捉される。結合した細胞外小胞を洗浄し、その後溶出することができる。exoEasy Kit(QIAGEN)などの親和性捕捉に基づく商用システムは、細胞外小胞精製のために利用可能であり、本発明と組み合わせて使用することができる。
PEGなどの体積排除ポリマーの使用に基づく方法も、EVの単離のために記述されている。この中で、ポリマーは水分子と結びついて、細胞外小胞などの可溶性の低い構成成分を溶液外に押しやることで作用し、短時間の低速遠心分離により収集することが可能となる。この原理を用いる商用製品は、ExoQuick(System Biosciences, Mountain View, USA)、及びTotal Exosome Isolation Reagent(Life Technologies, Carlsbad, USA)である。このように、一実施態様に従うと、細胞外小胞は、体積排除ポリマーによる沈殿により富裕化される。また、エクソソームなどの細胞外小胞は、例えば、サンプルを不連続なスクロース勾配またはイオジキサノール勾配に上層し、高速遠心分離に供することにより、その密度に基づいて富裕化することができる。このように、一実施態様に従うと、エクソソームなどの細胞外小胞は、密度勾配遠心分離により富裕化される。
【0059】
一実施態様に従うと、細胞外小胞は、エクソソーム及び/または微小小胞体を含む、または主にこれらからなる。したがって、一実施態様では、富裕化生物学的標的は、エクソソームから本質的になる。したがって、ある実施態様では、富裕化された生物学的標的は、本質的にエクソソームからなる。
【0060】
本明細書にて開示するように、回収した細胞外小胞を、例えば、RNAなどの核酸を、当該細胞外小胞から単離するために工程(D)でさらに処理することができる。したがって、RNAを、富裕化細胞外小胞、特に、富裕化エクソソームなどから精製することができる。したがって、エクソソームなどの細胞外小胞に存在するRNA分子を解析することで関係する分子情報を入手することができる。EVは、miRNA、piRNA、tRNA(及びその断片)、ヴォールトRNA、Y RNA、rRNAの断片、加えて、長い非コードRNA、また加えてmRNAを含む、様々な小さなRNA種を含有することが示されている。
例示的かつ好ましいRNA単離法を、本明細書に記載する。
【0061】
細胞内核酸、及び細胞内核酸の富裕化
一実施態様に従うと、工程(C)は、安定化細胞含有体液サンプルから細胞内核酸を生物学的標的として富裕化する、例えば精製することを含む。細胞内核酸は、安定化細胞含有生体サンプルのアリコートから精製することができるか、または、安定化細胞含有生体サンプルを細胞含有画分と細胞枯渇画分のアリコート/部分とにそれぞれ分離し、細胞内核酸を前記細胞含有画分から精製することができる。任意に、例えば、希少細胞を含むか、または希少細胞から本質的になる標的細胞集団を予め取り除くことができ、したがって、例えば、希少標的細胞を枯渇させた安定化細胞含有体液、及び/または、その高濃度細胞含有画分から細胞内核酸を富裕化することができる。
さらに、安定化細胞含有体液から細胞の亜集団をまず富裕化することができ、次いで、細胞内核酸をその亜集団から富裕化することができる。好適な実施態様を本明細書に記載する。
本明細書にて開示するように、細胞含有画分内で細胞を富裕化、したがって濃縮することができる。細胞内核酸はRNA及びゲノムDNAから選択することができる。一実施態様に従うと、ゲノムDNAは生物学的標的として富裕化される。したがって、一実施態様に従うと、本方法は、細胞画分を安定化細胞含有体液サンプルから得ることと、ゲノムDNAを細胞画分から富裕化することと、を含み、細胞画分は、ゲノムDNA単離の前に保管することができ、凍結してもよい。
RNA及びゲノムDNAなどの細胞内核酸を精製するのに好適な方法は当該技術分野において周知であり、本明細書においても簡潔に記載される。
一実施態様に従うと、工程(C)は、少なくとも循環腫瘍細胞、ゲノムDNA、及び循環無細胞DNAを、生物学的標的として富裕化することを含む。
【0062】
工程(D)
工程(D)は、富裕化した3つ以上の生物学的標的を解析のために処理することを含む。特に、解析は、1つ以上のバイオマーカー分子を検出することを含むことができる。
【0063】
一実施態様に従うと、工程(C)は、例えば、希少細胞(例えばCTC)を含むか、または希少細胞から本質的になる細胞亜集団を富裕化することを含み、後続の工程(D)は、富裕化細胞亜集団を解析することを含む。細胞の解析は、細胞の基礎研究、創薬、診断、及び予後のために重要であり得る。解析は、分子レベル(DNA、RNA、タンパク質、分泌分子など)で、または、細胞レベル(細胞代謝、細胞モルホロジー、細胞-細胞相互作用など)で行うことができる。したがって、後続の工程(D)は、細胞レベルで、(例えば、CTCなどの希少細胞を含むか、もしくはこれらから本質的になる)富裕化細胞亜集団を解析すること、及び/または、細胞内核酸、例えばRNAを、富裕化細胞亜集団から富裕化することを含むことができる。本明細書にて開示するように、富裕化希少細胞は循環腫瘍細胞であるのが好ましい。
工程(D)は適宜、後続の精製のために細胞内核酸を放出させるために、(例えば、希少細胞を含むか、または希少細胞から本質的になる)富裕化細胞亜集団を溶解することを含んでよい。ゲノムDNA、加えてRNAを精製するのに好適な方法は当該技術分野において公知であり、詳述する必要はない。
【0064】
一実施態様に従うと、工程(D)は、工程(C)で富裕化した細胞外核酸内で、1つ以上の標的分子を検出することを含む。
一実施態様に従うと、工程(C)は、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化することを含み、後続の工程(D)は、前記富裕化細胞外小胞からRNAを富裕化することを含む。本明細書にて開示するように、細胞外小胞はエクソソームを含む、またはエクソソームから本質的になることができる。
一実施態様に従うと、工程(D)は、RNAを細胞、好ましくは富裕化希少細胞、及び/または富裕化細胞外小胞から富裕化することを含む。富裕化RNAは、mRNA、及び/または非コードRNAを含む、またはこれからなることができる。複数の実施態様では、精製RNAは、miRNAを含むか、または、350nt以下の長さ、300nt以下の長さ、もしくは250nt以下の長さの、miRNAを含む小RNAから本質的になる。
【0065】
一実施態様に従うと、工程(C)は、生物学的標的として、少なくとも循環腫瘍細胞、ならびに、循環無細胞DNA、ならびにさらに、ゲノムDNA及び/または細胞外小胞を富裕化することを含み、工程(D)は、
- 富裕化循環腫瘍細胞を解析することであって、RNAを富裕化希少細胞から富裕化すること、及び、1つ以上の標的核酸分子を富裕化RNA内で検出すること(これにより、例えば、富裕化循環腫瘍細胞を検出、及び/または特性決定することが可能となる)を含む、前記解析と、
- 1つ以上の標的核酸分子を、上記循環無細胞DNA内で検出することと、を含む。
さらに、ゲノムDNAがさらに富裕化される場合において、1つ以上の標的核酸分子をゲノムDNA内で検出することができる。細胞外小胞がさらに富裕化された場合において、RNAなどの核酸を細胞外小胞から富裕化することができ、1つ以上の標的核酸分子を富裕化核酸内で検出することができる。
血小板が工程(C)で富裕化される場合において、工程(D)において、RNAなどの核酸を血小板から富裕化することができ、1つ以上の標的核酸分子を、精製核酸内で検出することができる。
【0066】
したがって、好ましい実施態様に従うと、工程(D)は、1つ以上の標的核酸分子を、単離された核酸内で検出することを含む。工程(D)は、単離RNAを逆転写してcDNAを提供することを含んでよい。工程(D)は、少なくとも1つの増幅工程(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、等温増幅、全ゲノム増幅など)を行うことをさらに含んでよい。一実施態様に従うと、工程(D)は、定性的または定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行うことを含む。一実施態様に従うと、工程(D)は配列決定反応を行うことを含む。一実施態様に従うと、工程(D)は1つ以上のインタクトな細胞を解析することを含み、当該細胞は循環腫瘍細胞であってよい。
【0067】
一実施態様に従うと、工程(D)で検出される少なくとも1つの標的核酸分子は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
- がん関連腫瘍マーカーである;
- 診断、予後、及び/又は予測バイオマーカーである;
- 予後もしくは予測バイオマーカーである;
- 固形がん(転移性がんであり得る)と関連している;
- 乳癌もしくは前立腺癌、特に、転移性乳癌及び転移性前立腺癌と関連している;
- 陽性もしくは陰性応答マーカーである;及び/又は
- 治療マーカーである。
【0068】
一実施態様に従うと、少なくとも1つの標的核酸分子は、標的核酸分子のパネルの一部を形成する。したがって、工程(D)は、標的核酸分子のパネルを検出することを含むことができる。パネルは、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、または少なくとも50個の、標的核酸分子を含むことができる。標的核酸分子のパネルを(例えば、対応するプライマーのパネルを用いて、及びプローブを用いてもよい)検出することが、例えば、富裕化CTCを特性決定するために有利である。
一実施態様に従うと、工程(D)は、RNAを循環腫瘍細胞から単離することと、バイオマーカーRNA分子を、単離した前記RNA内で検出することと、を含む。
複数の実施態様では、工程(D)は、富裕化細胞を、免疫蛍光染色することを含む。富裕化細胞は、標的細胞、例えば標的希少細胞であることができる。複数の実施態様では、CTCは、免疫蛍光染色により解析される。例えば、染色すべき注目する標的細胞に特異的なマーカーに対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いて染色を行ってよい。例えば、CTCの場合、細胞はサイトケラチン、Epcam、EGFR、E-カドヘリン、HER2、PSA、PSMA、及び/または他のCTCマーカーに対して染色されてよい。さらに、染色は、排除マーカーを染色して、骨髄起源細胞を排除することを伴うことができる。このようなマーカーとしては、CD45及び/またはCD14を挙げることができる。
【0069】
RNAの富裕化
複数の実施態様では、本方法は、RNAを細胞、例えば希少細胞(例えばCTC)から富裕化、例えば精製することを含む。この方法は、RNAを細胞外小胞から単離することもまた含むことができる。用語「富裕化」とは再び、広い意味で用いられ、例えば、RNAの単離及び精製を包含する。好適なRNA単離法は当業者に既知であるので、本明細書で詳述する必要はない。例示的な実施態様を以下に、簡潔に記載する。
例えば、RNA単離のためにフェノール及び/またはカオトロピック塩の使用に基づく方法を使用することができる。好適な方法の例としては、抽出、固相抽出、多ケイ酸に基づく精製、磁性粒子に基づく精製、フェノール-クロロホルム抽出、アニオン交換クロマトグラフィー(アニオン交換表面を用いる)、電気泳動、沈殿、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。適切な方法が当該技術分野において周知である。DNAがRNAと共に富裕化される場合、DNAは、例えばDNase分解により取り除くことができる。DNA汚染が実質的に存在しないRNAを特異的に単離する方法もまた、当該技術分野において公知である。論ずるように、残りのDNAをさらにDNase分解により取り除くことができ、かつ/または、バイオマーカーRNA分子の発現が増幅により検出される場合、イントロンを挟むプライマーを使用することができる。
RNAを単離するための、フェノール/クロロホルムに基づく有機抽出法の例は、Chomczynski法(Chomczynski and Sacchi,1987: Single-step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction.Anal.Biochem.(162): 156-159)、及びその変形形態である。フェノール/クロロホルムに基づく商業製品の例は、miRNeasyミニキット(QIAGEN)である。当該キットは、様々な異なる生体サンプルから高品質及び高収率の小RNAを含む総RNAを提供する。
【0070】
一実施態様に従うと、RNA単離は、RNAを固相に結合することと、RNAを固相から溶出させることと、を含む。RNAは、溶出前に洗浄してよい。RNAを固相に結合させる好適な固相及び適合性のある化学作用は当業者に既知であり、シリカ固相、及び、アニオン交換部分を備える固相が挙げられるが、これらに限定されない。
一実施態様に従うと、RNA単離は、RNAを固相、特にシリカ固相などに結合させることを含み、少なくとも1つのカオトロピック剤(例えばグアニジウム塩)、及び/または少なくとも1種のアルコール(例えば、イソプロパノールもしくはエタノール)を、RNA結合のために用いる。カオトロピック剤及びアルコール濃度の態様は、当業者に既知である。結合したRNAを任意に洗浄してもよく、RNAが溶出される。
【0071】
一実施態様に従うと、RNA単離は、RNAを、アニオン交換部分を備える固相に結合することと、RNAを固相から溶出させることと、を含む。特に、電荷切り替え原理に基づく単離法を使用してよい。アニオン交換部分を備える好適な固相の例は、アニオン交換基で官能化された粒子材料またはカラムなどの材料を含むが、これらに限定されない。アニオン交換部分の例は、モノアミン、ジアミン、ポリアミン、及び窒素含有芳香族または脂肪属複素環基である。RNAは、RNAのアニオン交換部分への結合を可能にする結合条件で固相に結合する。その目的のために、当業者に知られている、好適なpH及び/または塩状態を使用することができる。結合したRNAを任意に、洗浄してもよい。任意の好適な溶出法を使用することができ、好適な実施態様が当業者に知られている。溶出は、例えば、pH値を変化させることを含むことがある。したがって、溶出は例えば、結合pHよりも高い溶出pHにて生じることができる。同様に、イオン強度も、溶出を補助する、または溶出させるために利用することができる。溶出もまた、加熱及び/または振盪により補助されることができる。
細胞(例えば、富裕化CTC)及び/または富裕化細胞外小胞を溶解/分解して、RNAを細胞または細胞外小胞からRNA単離のために遊離させることができる。好適な溶解法が先行技術において周知である。細胞及び/または細胞外小胞を、破壊、それぞれ溶解のために、1つ以上の溶解剤と接触させることができる。これらは、溶解緩衝液などの破壊試薬に含めることができる。RNAは、溶解中に、ヌクレアーゼによる分解から保護されなければならない。一般に、溶解手順は、サンプル上での機械的、化学的、物理的、及び/または酵素的作用を含むことができるが、これらに限定されない。さらに、β-メルカプトエタノールまたはDTTなどの還元剤を溶解のために加え、例えばヌクレアーゼの変性を補助することができる。一実施態様に従うと、少なくとも1つのカオトロピック剤、好ましくは、少なくとも1つのカオトロピック塩などを、溶解、及び破壊のために使用する。好適なカオトロピック剤、及び特に、好適なカオトロピック塩が、当業者に既知である。
【0072】
一実施態様に従うと、工程(D)で富裕化したRNA画分は、mRNAを含むか、またはこれからなる。工程(D)は、(他のRNA種の中でも)mRNAを含むRNAを精製すること、加えて、mRNAを選択的に精製することを包含する。本質的に純粋なmRNAは、例えば、mRNA(ただし、他のRNA種ではない)を、分解したサンプルから選択的に単離するRNA単離法を用いることにより得ることができる。精製mRNAは例えば、まず全RNAを富裕化し、続いて、mRNAを、単離した全RNAから選択的に富裕化することにより、連続して単離することもまた可能である。選択的なmRNA単離に好適な方法は当業者に既知であるので、詳述を必要としない。十分に確立された方法は、固相(例えばカラムまたは磁気ビーズ)へのオリゴ(dT)捕捉に基づき、これにより、そのポリ(A)テールを介してmRNAを特異的に単離することが可能となる。一実施態様に従うと、mRNAは、得られた細胞可溶化物、例えば細胞可溶化物(CTC溶解物など)から単離される。一実施態様に従うと、mRNAは、得られた細胞可溶化物、例えばCTC溶解物から直接単離され、これは、実施例でもまた示される。mRNAは、オリゴd(T)部分(例えば、オリゴd(T)25部分)を含む固相(例えば、磁気ビーズまたはカラム)を用いて溶解物から捕捉することができる。さらなる実施態様に従うと、例えば、オリゴd(T)捕捉または他の好適な方法により、全RNAをまず単離し、次に、mRNAを全RNAから単離する。一実施態様に従うと、全RNAは、得られた細胞外小胞溶解物/分解物から単離される。一実施態様に従うと、mRNAを次に、例えばオリゴd(T)捕捉または他の好適な方法により、全小胞RNAから単離する。
【0073】
一実施態様に従うと、工程(D)で単離したRNAは、miRNAを含むか、または、350nt以下の長さ、250nt以下の長さ、もしくは200nt以下の長さの、miRNAを含む小RNAから本質的になる。したがって工程(D)は、(他のRNA種の中でも)miRNAを含むRNAを精製すること、加えて、miRNAを含むが、(例えば、400nt以上の長さを有する)大きなRNA分子が枯渇した小RNA分子を、特異的に精製することを包含することができる。大きなRNA分子とは分離して小RNA分子を特異的に富裕化するのに好適な方法は先行技術において周知であるので、本明細書で記載する必要はない。
本明細書にて開示するように、単離RNA(mRNAなど)を逆転写してcDNAにし、続けて増幅させることができる。増幅により、試験される1つ以上の標的核酸分子に対応するアンプリコンがもたらされる。増幅に適したプライマーは、当業者が決定することができる。一実施態様に従うと、得られたcDNAを鋳型として用いる多重PCRを行うことにより、2つ以上の標的核酸分子(例えば、バイオマーカーRNA)の発現を並行して測定する。増幅に適したプライマーは、当業者が決定することができる。さらに、逆転写は、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応を行うことによる増幅工程と組み合わせることができる。一実施態様に従うと、単離したRNAの中で、少なくとも1つのバイオマーカーRNA分子の発現を測定することは、定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行うことを含む。一実施態様では、半定量的PCRを行う。別の実施態様では、方法は半定量的ではない。バイオマーカーRNA分子が例えば、CTC及び/またはEVで過剰発現しているか否かの測定が可能となるため、定量的PCR(qPCR)を行うことが有利である。定量的PCRを行うのに好適な方法は当業者に周知であるので、本明細書で詳述する必要はない。解析した、個別の1つ以上のマーカーRNA分子に対する定量的PCRにおいて得られたCt値を次に記録して、発現プロファイルを提供するために使用することができる。一実施態様に従うと、事前増幅工程は、逆転写工程の後、かつ、定量的PCR反応を行う前に行う。このような事前増幅工程は、感度を改善することができる。これは、CTCが多くの場合希少であることを考慮すると都合が良い。解析した標的核酸分子(複数可)(例えば、1つ以上のバイオマーカーRNA分子)に対応するcDNA分子を事前増幅することにより、より多くのDNA物質が、好ましくはqPCRである後の増幅工程のために提供される。これにより、結果を改善することができる。
【0074】
細胞含有体液サンプル
有利には、細胞含有体液サンプルは、リキッドバイオプシーサンプルであってよい。一実施態様では、細胞含有体液は循環体液である。細胞含有体液は、血液、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、リンパ液、液(脳脊髄液)、汗、腹水、母乳、気管支洗浄、腹膜浸出液及び胸膜滲出液、骨髄吸引物及び乳頭吸引物、精液/精漿、体分泌物または体排泄物から選択することができる。細胞含有体液は、診断用白血球除去血輸血の産物であってもよい。一実施態様では、細胞含有体液は血液及び尿から選択される。一実施態様では、細胞含有体液は血液である。一実施態様では、血液は末梢血である。
【0075】
本発明の方法は、対象、例えばがん患者などのヒト対象から入手された生体サンプルを用いるインビトロ法として行うことができる。少なくとも1つの生物学的標的が希少細胞(例えば、CTCなどの腫瘍細胞)である一実施態様では、細胞含有体液は、このような希少細胞を含むか、または、このような希少細胞を含むことが疑われる。
実施例により示されるように、循環腫瘍細胞、細胞外核酸(ccfDNAなど)、エクソソームなどの細胞外小胞、及び細胞画分の細胞内核酸といった希少細胞、または、これらの特定の亜集団を、同一の安定化サンプル(例えば血液サンプル)から富裕化し、本方法で解析することができる。記載のワークフローにより、同じ安定化細胞含有体液から富裕化可能な複数の異なる生物学的標的の並行した解析が可能となる。
【0076】
本開示に従って用いる安定化技術
上で開示したように、工程(A)は、細胞含有体液を、以下の安定化因子:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、
の1つ以上、2つ以上、または好ましくは、3つ全てを含む安定化組成物と接触させることを含む。
これにより、安定化細胞含有体液サンプルがもたらされる。
安定化因子(a)~(c)の好適な実施態様及び濃度、加えて、安定化組成物の有利な実施態様は、例えばWO2015/140218に開示されており、本明細書に参照により組み込まれる。好適な実施態様もまた、以下で簡潔に記載する。
【0077】
少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド
一実施態様に従うと、安定化組成物は、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドを含む。本明細書にて開示するように、このアミドは、カルボン酸アミド、チオアミド、またはセレノアミドであってよい。アミドはカルボン酸アミドであるのが好ましい。
【0078】
一実施態様に従うと、組成物は適宜、式1に従った1つ以上の化合物を含む:
【化1】
[式中、R1は水素またはアルキル基、好ましくはC1-C5アルキル基、C1-C4アルキル基、またはC1-C3アルキル基、より好ましくはC1-2アルキル基であり、R2及びR3は同一または異なっており、水素及び炭化水素基、好ましくは、直鎖または分岐鎖様式で配置される1~20個の炭素鎖の長さを有するアルキル基から選択され、R4は酸素、硫黄、またはセレン基であり、好ましくはR4は酸素である。]
式1に従った1つ以上の化合物の組み合わせもまた、使用することができる。R1がアルキル基である実施態様では、1または2の鎖長が、R1については好ましい。式1に従った化合物のR2及び/またはR3は、同一または異なっており、水素及び炭化水素基から選択され、アルキル基が好ましい。一実施態様に従うと、R2及びR3は共に水素である。一実施態様に従うと、R2及びR3のうちの一方は水素であり、他方は炭化水素基である。一実施態様に従うと、R2及びR3は同一の、または異なる炭化水素基である。炭化水素基R2及び/またはR3は互いに、短鎖アルキル及び長鎖アルキを含むアルキル、アルケニル、アルコキシ、長鎖アルコキシ、シクロアルキル、アリール、ハロアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アルキレン、アルケンジイル、アリーレン、カルボキシレート、ならびにカルボニルを含む基から独立して選択することができる(これらの基に関しては、例えば、本明細書に参照により組み込まれるWO 2013/045457の20~21ページを参照されたい)。R2及び/またはR3の鎖長nは特に、値1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、及び20を有することができる。一実施態様に従うと、R2及びR3は、1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~2の、炭素鎖の長さを有する。一実施態様に従うと、R2及び/またはR3はアルキル基、好ましくはC1~C5アルキル基である。好ましくは、式1に従った化合物はカルボン酸アミドであり、したがってR4は酸素である。カルボン酸アミドは一級、二級、または三級カルボン酸アミドであることができる。
【0079】
一実施態様に従うと、式1に従った化合物は、N,N-ジアルキル-カルボン酸アミドである。好ましいR1、R2、R3及びR4基は上述している。一実施態様に従うと、式1に従った化合物は、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジエチルホルムアミドからなる群から選択される。R4として、酸素の代わりに硫黄を含む、対応するチオ類似体もまた好適である。GHS分類に従うと毒性因子でない、式1に従った少なくとも1つの化合物を使用するのが好ましい。一実施態様に従うと、式1に従った化合物は、N,N-ジメチルプロパンアミドなどのN,N-ジアルキルプロパンアミドである。
【0080】
安定化組成物は、式1’に従った1つ以上の化合物を含むことができる:
【化2】
[式中、R1は水素またはアルキル基、好ましくはC1~C5アルキル基、より好ましくはメチル基であり、R2及びR3は、直鎖または分岐鎖様式で配置される1~20個の炭素鎖の長さを有する、同一または異なる炭化水素基であり、R4は酸素、硫黄、またはセレン基である。]式1’は、上述の式1により包含され、R2及びR3が同一かまたは異なる炭化水素基(水素ではない)という点において限定されて、式1と比較される。あるいは、基R1~R4は、式1で上述したものに対応し、上記開示はここでもまた適用される。
組成物は、ブタンアミド及び/またはN,N-ジアルキルプロパンアミド、より好ましくは、N,N-ジメチルプロパンアミドを含むのが好ましい。
【0081】
一実施態様に従うと、安定化組成物は、0.4%~38.3%、0.8%~23.0%、2.3%~11.5%、3.8%~9.2%、5%~15%、及び7.5%~12.5%から選択される濃度で、1つ以上の一級、二級、または三級アミドを含む。上述の濃度は、一級、二級、または三級アミドが液体であるか否かに応じて、(w/v)または(v/v)を指す。少なくとも1つの一級、二級、または三級カルボン酸アミドを用いるのが好ましい。一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルを、1つ以上の一級、二級、または三級アミド(及び任意的に、安定化に用いるさらなる添加剤)を含む安定化組成物と接触させると、得られる混合物/安定化細胞含有体液サンプルは、0.25%~5%、例えば0.3%~4%、0.4%~3%、0.5%~2%、または0.75%~1.5%の範囲となる濃度範囲で、前記アミド(またはアミドの濃度)を含む。
【0082】
少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー
一実施態様に従うと、安定化組成物は、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。参照されるWO2015/140218に詳述されているように、ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、有利な安定化特性を示す。したがって、安定化組成物がポリ(オキシエチレン)ポリマーを含むのが有利である。
ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、ポリエチレングリコールであるのが好ましい。非置換ポリエチレングリコールを使用してよい。一般に、ポリ(オキシエチレン)ポリマーに関して本出願で記載する全ての開示は、明示的に記載されていない場合であっても、好ましい実施態様のポリエチレングリコールに適用され、特に参照する。ポリ(オキシエチレン)ポリマーは、様々な分子量で使用することができる。ポリエチレングリコールは、式HO-(CH2CH2O)n-H[式中、nは整数全体であり、分子量に依存する。]であってよい。
ポリ(オキシエチレン)ポリマーの安定化効果とその分子量との間には、相関が見られた。高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーよりもより効果的な安定化因子であることが分かった。低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーによる効率的な安定化を達成するためには、一般に、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーと比較して、より高い濃度が推奨される。しかし、いくつかの用途に対しては、安定化のために使用する添加剤の量を低いまま維持するのが好ましい。したがって、複数の実施態様では、細胞含有体液、及び、その中に含まれる注目する生物学的標的における、強力な安定化効果を達成しながら、より低濃度のポリ(オキシエチレン)ポリマーの使用を可能にするため、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを安定化因子として使用する。
【0083】
一実施態様に従うと、安定化組成物は、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。含まれる高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1500~50000、1500~40000、2000~30000、2500~25000、3000~20000、3500~15000、及び4000~12500から選択される範囲の分子量を有することができる。あるいは、またはさらに、安定化組成物は、1500未満の分子量を有する少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。一実施態様では、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーの分子量は、100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にある。
【0084】
一実施態様に従うと、工程(A)で細胞含有体液と接触させる安定化組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.4%~35%(w/v)、例えば0.8%~25%(w/v)、1.5%~20%(w/v)、2.5%~17.5%(w/v)、3%~15%(w/v)、4%~10%(w/v)、または3%~5%(w/v)から選択される濃度で含む。好適な濃度は、当業者により測定可能であり、とりわけ、高分子量のポリ(オキシエチレン)グリコールが、単独で使用されるか、または、低ポリ(オキシエチレン)ポリマーなどのさらなるポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用されるか否か、及び、ある量の細胞含有体液サンプルを安定化させるために使用する、安定化組成物の量、例えば体積に左右され得る。高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは単独で、2.2%~33.0%(w/v)の濃度で使用することができる。好適な濃度範囲は、4.4%~22.0(w/v)%、6.6%~16.5%(w/v)、及び8.8%~13.2%(w/v)から選択することができる。高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーと組み合わせて使用する場合、濃度は、0.4%~30.7%(w/v)の範囲であってよい。好適な濃度範囲は、0.8%~15.3%(w/v)、1%~10%(w/v)、1.5%~7.7%(w/v)、2.5%~6%(w/v)、3.1%~5.4%(w/v)、及び3%~4%(w/v)から選択することができる。
【0085】
一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルを、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー(及び任意的に、安定化に用いるさらなる添加剤)を含む安定化組成物と接触させると、得られる混合物/安定化細胞含有体液サンプルは、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.05%~4%(w/v)、例えば0.1%~3%(w/v)、0.2%~2.5%(w/v)、0.25%~2%(w/v)、0.3%~1.75%(w/v)、及び0.35%~1.5%(w/v)の範囲の濃度で含む。安定化細胞含有体液サンプル中での、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度は、0.25%~1.5%(w/v)の範囲、例えば、0.3%~1.25%(w/v)、0.35%~1%(w/v)、または0.4%~0.75%(w/v)の範囲であってよい。
一実施態様に従うと、安定化組成物は、好ましくはポリエチレングリコールである、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.8%~92.0%、例えば3.8%~76.7%、11.5%~53.7%、19.2%~38.3%、20%~30%、または20%~27.5%の範囲内の濃度で含む。一実施態様に従うと、濃度は11.5%~30%である。上述の濃度は、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが液体であるか否かに応じて、(w/v)または(v/v)を指す。
一実施態様に従うと、細胞含有体液サンプルを、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー(及び任意的に、安定化に用いるさらなる添加剤)を含む安定化組成物と接触させると、得られる混合物/安定化細胞含有体液サンプルは、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを、0.5%~10%の範囲の濃度で含む。安定化細胞含有体液サンプル中での、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーの濃度は、1.5%~9%、例えば2%~8%、2~7%、2.5%~7%、及び3%~6%の範囲であることができる。
【0086】
一実施態様では、安定化組成物は、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む。一実施態様では、安定化組成物は、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、1500~50000、2000~40000、3000~30000、3000~25000、3000~20000、及び4000~15000から選択される範囲にある分子量を有し、前記低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーは、100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にある分子量を有する。好適な濃度を上述した。
【0087】
少なくとも1つのアポトーシス阻害剤
一実施態様に従うと、安定化組成物は、少なくとも1つのアポトーシス阻害剤を含む。アポトーシス阻害剤はカスパーゼ阻害剤であるのが好ましい。好適なアポトーシス阻害剤及びカスパーゼ阻害剤は、WO 2013/045457 A1、及びWO 2013/045458 A1に記載されている。当該明細書に開示されているカスパーゼ阻害剤は、参照により本明細書に組み込まれている。本開示の方法で使用可能な1つ以上のカスパーゼ阻害剤を含む有利な安定化組成物は、WO 2014/146780 A1、WO 2014/146782 A1、WO 2014/049022 A1、WO 2014/146781 A1、WO2015/140218、及びWO 2017/085321にもまた開示されている。
カスパーゼ阻害剤は細胞l透過性であるのが好ましい。カスパーゼ遺伝子ファミリーのメンバーは、アポトーシスにおいて重要な役割を果たす。個別のカスパーゼの基質の優先性または特異性は、カスパーゼ結合と成功裡に競合するペプチドを開発するために、利用されてきた。カスパーゼ特異的ペプチドを、例えばアルデヒド、ニトリル、またはケトン化合物に結合させることにより、カスパーゼ活性化の可逆的、または不可逆的阻害剤を作製することが可能である。例えば、Z-VAD-FMKなどの、フルオロメチルケトン(FMK)由来のペプチドは細胞毒性効果が追加されることなく、効果的な不可逆的阻害剤として機能する。N末端にベンジルオキシカルボニル基(BOC)、および及びO-メチル側鎖を備える合成された阻害剤は細胞透過性の増加を示す。さらに、、C末端にフェノキシ基を有する好適なカスパーゼ阻害剤を合成する。一例はQ-VD-OPhであり、これは、アポトーシスを防止し、したがって、カスパーゼ阻害剤のZ-VAD-FMKよりも安定化を支持することにおいてさらに一層効果的な、細胞透過性の不可逆的広域スペクトルカスパーゼ阻害剤である。
【0088】
一実施態様に従うと、カスパーゼ阻害剤は、汎カスパーゼ阻害剤であり、したがって広域スペクトルカスパーゼ阻害剤である。カスパーゼ阻害剤は、ペプチドまたはタンパク質を含むか、またはこれからなる。一実施態様に従うと、カスパーゼ阻害剤は、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む。前記カスパーゼ特異的ペプチドは、アルデヒド、ニトリル、またはケトン化合物により改変されるのが好ましい。一実施態様に従うと、カスパーゼ特異的ペプチドは、好ましくはカルボキシル末端で、O-フェノキシ(OPh)、またはフルオロメチルケトン(FMK)基で修飾される。タンパク質またはペプチドを含む、またはこれからなる好適なカスパーゼ阻害剤、及び、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含むカスパーゼ阻害剤は、WO 2013/045457の表1に開示されており、参照により本明細書に組み込まれている。表は、カスパーゼ阻害剤の例を示す。一実施態様では、カスパーゼ阻害剤は、(好ましくはカルボキシル末端において)O-フェノキシ(OPh)基で修飾された、及び/または、(好ましくはN末端において)グルタミン(Q)基で修飾された、ペプチドカスパーゼ阻害剤である。一実施態様では、含まれるカスパーゼ阻害剤は、Q-VD-OPhである。
【0089】
一実施態様に従うと、カスパーゼ阻害剤は、Q-VD-OPh、Z-VAD(OMe)-FMK、及びBoc-D-(OMe)-FMKからなる群から選択される。一実施態様に従うと、カスパーゼ阻害剤は、Q-VD-OPh及びZ-VAD(OMe)-FMKからなる群から選択される。好ましい実施態様では、カスパーゼに対する広域スペクトル阻害剤であるQ-VD-OPhが安定化のために使用される。Q-VD-OPhは細胞透過性であり、アポトーシスによる細胞死を阻害する。Q-VD-OPhは、極めて高濃度においてさえも細胞に対して毒性ではなく、アミノ酸のバリン及びアスパラギン酸にコンジュゲートしたカルボキシ末端フェノキシ基を含む。これは、3つの主要なアポトーシス経路である、カスパーゼ-9及びカスパーゼ-3、カスパーゼ-8及びカスパーゼ-10、及びカスパーゼ-12により媒介されるアポトーシスの防止においても、等しく効果的である(Caserta et al.,2003)。
工程(A)で使用される安定化組成物は、1つ以上のカスパーゼ阻害剤、特に、生体サンプルに含有される細胞外核酸集団において安定化効果を得るのに十分な量で、Q-VD-OPhなどの改変カスパーゼ特異的ペプチドを含むカスパーゼ阻害剤を含むことができる。一実施態様に従うと、安定化組成物は、安定化組成物が、意図する体積の細胞含有生物学的体液と接触して安定化した後で、0.1μM~25μM、0.5μM~20μM、1μM~17μM、2μM~16μM、より好ましくは3μM~15μMの終濃度のカスパーゼ阻害剤を得る濃度で、カスパーゼ阻害剤を含む。5μM~15μMの範囲の終濃度が、例えば血液サンプルの安定化のために十分好適である。
【0090】
一実施態様に従うと、安定化組成物、及び、したがって、安定化試薬は、0.35μg/mL~70μg/mL、0.7μg/mL~63μg/mL、1.74μg/mL~59μg/mL、10.5μg/mL~56μg/mL、or 15μg/mL~50μg/mL、20μg/mL~45μg/mL、25μg/mL~40μg/mL、及び30μg/mL~38μg/mLから選択される濃度で、カスパーゼ阻害剤を含む。濃度は、0.7μg/mL~45μg/mL、及び1.74μg/mL~40μg/mLから選択することができる。一実施態様に従うと、安定化組成物、及び、したがって安定化試薬は、0.68μM~136μM、1.36μM~122.5μM、3.38μM~114.72μM、20.4μM~109μM、or29.2μM~97.2μM、38.9μM~87.5μM、48.6μM~77.8μM、及び58.3μM~74μMから選択される濃度でカスパーゼ阻害剤を含む。濃度は、20.4μM~97.2μM、及び29.2μM~87.5μMから選択することができる。
安定化組成物(試薬)及び安定化される細胞含有体液を含む混合物中の上述したカスパーゼ阻害剤の濃度は、単一のカスパーゼ阻害剤の使用、およびカスパーゼ阻害剤の組み合わせの使用に適用される。上述の濃度は、汎カスパーゼ阻害剤、特に、Q-VD-OPh及び/またはZ-VAD(OMe)-FMKなどの改変カスパーゼ特異的ペプチドを使用する際に特に好適である。改変カスパーゼ特異的ペプチドのさらなる例は、Boc-D-(OMe)-FMKである。上述した濃度は例えば、血液サンプルの安定化に好適である。個別のカスパーゼ阻害剤、及び/または、他の細胞含有生体サンプルに好適な濃度範囲は、当業者により、例えば、実施例で記載する試験アッセイにおいて、種々の濃度の対応するカスパーゼ阻害剤を試験することにより、測定することができる。
【0091】
安定化組成物のさらなる構成成分
細胞含有体液は、安定化組成物に含まれるのが好ましいさらなる添加剤ともまた接触させることができる。
一実施態様に従うと、さらなる添加剤はキレート剤である。キレート剤は、有機化合物の2つ以上の原子で金属との配位結合を形成できる有機化合物である。キレート剤としては、エチレンジニトリロ四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、及び、N,N-ビス(カルボキシメチル)グリシン(NTA)、ならびにさらに、クエン酸塩またはシュウ酸塩などのカルボン酸の塩が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施態様に従うと、EDTAはキレート剤として使用される。本明細書で使用する場合、用語「EDTA」はとりわけ、例えば、K2EDTA、K3EDTA、またはNa2EDTAなどの、EDTA化合物のEDTA部分を示す。EDTAなどのキレート剤を用いることは、DNase及びRNaseなどのヌクレアーゼが阻害されることにより、例えば、ヌクレアーゼによる細胞外核酸の分解を防止するという有利な効果もまた有する。高濃度で使用/添加されるEDTAは、安定化効果を支持する。
細胞含有体液サンプルが血液である場合、抗凝血物質をさらなる添加剤として使用する。抗凝血物質としては、ヘパリン、キレート剤、及び、クエン酸塩またはシュウ酸塩などの、カルボン酸の塩が挙げられるが、これらに限定されない。有利な実施態様では、抗凝血物質はEDTAなどのキレート剤である。例えば、K2EDTAを使用することができる。本実施態様は特に、安定化される体液が血液である場合に有用である。
【0092】
一実施態様に従うと、さらなる添加剤は、N-アセチル-システインまたはグルタチオンであるチオアルコール、水溶性ビタミン、及び、水溶性ビタミンE誘導体から選択される少なくとも1つの化合物である。WO 2017/085321に開示されているように、これは、安定化組成物がさらにカスパーゼ阻害剤を含み、滅菌形態で提供される場合に有利であることができる。
【0093】
一実施態様に従うと、使用する安定化技術は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
(i) 細胞含有体液サンプルの安定化が、有核細胞の溶解を誘発または促進する濃度の添加剤を使用することを伴わない;
(ii) 安定化が、タンパク質-核酸またはタンパク質-タンパク質架橋を誘発しない;
(iii) 安定化が、タンパク質-核酸及び/又はタンパク質-タンパク質架橋を誘発する架橋剤、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、もしくはホルムアルデヒド放出剤の使用を伴わない;
(iv) 安定化が毒性因子の使用を伴わない;及び/又は
(v) 安定化因子が、水を含む安定化組成物に含有される。
特に、安定化細胞含有体液サンプルを提供するために使用する安定化組成物が、タンパク質-DNA及び/またはタンパク質-タンパク質架橋を誘発する架橋剤を含まないことが好ましい。タンパク質-DNA及び/またはタンパク質-タンパク質架橋を誘発する架橋剤は例えば、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒド放出剤である。架橋試薬は、核酸分子間、または、核酸とタンパク質との間での、分子間または分子内共有結合を引き起こす。この効果は、複雑な生体サンプルからの精製または抽出後に、このように安定化されて部分架橋した核酸の回収の減少をもたらし得る。例えば、全血サンプル中での循環核酸の濃度は既にかなり低く、このような核酸の収率をさらに低下させるどのような手段も回避されなければならない。これは、悪性腫瘍、または、妊娠の最初のトリメスター中の成長中の胎児に由来する、非常に希少な核酸分子を検出し分析する際に特に重要であり得る。したがって、ホルムアルデヒド放出剤が滅菌安定化組成物に含まれず、安定化のために追加的に使用されないことが好ましい。したがって、一実施態様に従うと、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド放出剤などの架橋剤は安定化組成物に含まれず、それぞれ、安定化のために使用されない。さらに、記載したように、安定化組成物は、例えばカオトロピック塩などの、一般に有核細胞または細胞の溶解を誘発する任意の添加剤を含まないのが好ましい。実施例で示すように、これは、安定化細胞含有体液サンプルから、注目する生物学的標的(例えばCTC、細胞外核酸、細胞亜集団、及び細胞内核酸)を効率的に回収することを可能にするため、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド放出剤などの架橋試薬の使用を伴う既知の技術水準の安定化試薬及び方法を越える重要な利点である。
アルデヒドを放出可能な構成成分を含有しない安定化組成物を使用するのが有利である。これにより、後続する安定化サンプルからの核酸の単離における障害を回避することができる。
【0094】
本安定化組成物における、安定化因子の有利な組み合わせ
一実施態様に従うと、使用する安定化組成物は、
(a) 少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドと、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは高分子量のポリエチレングリコール及び低分子量のポリエチレングリコールと、
(c) 任意に少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤と、を含む。
【0095】
一実施態様に従うと、使用する安定化組成物は、
(a) 少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドと、
(b) 任意に少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと、
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤と、を含む。
一実施態様に従うと、使用する安定化組成物は、
(a) 任意に少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドと、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと、
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤と、を含む。
【0096】
一実施態様に従うと、使用する安定化組成物は、
(a) 少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドと、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーと、
(c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤と、を含む。
個別の安定化因子(a)~(c)の好適かつ好ましい実施態様、加えて、好適かつ好ましい濃度は、上述している。
【0097】
一実施態様に従うと、好ましくは血液である細胞含有体液を、
a) 上記式1に従った1つ以上の化合物;
b) 少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び任意に、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;ならびに
d) 任意にキレート剤、好ましくはEDTA
と接触させる。
【0098】
一実施態様に従うと、血液を、
a) 上記式1に従った1つ以上の化合物;
b) 3000~30000、または3500~25000の範囲などの、3000~40000の範囲にある分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、100~800、200~800、または200~500の範囲などの、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤、任意にQ-VD-OPh;ならびに
d) 好ましくはキレート剤である抗凝血物質、好ましくはEDTA
と接触させ、血液サンプルが前記添加剤、及び任意にさらに安定化のための添加剤、と接触した後で、得られる混合物/安定化血液サンプルは、
- 0.3~4%、例えば0.5~3%、0.5~2%、または0.75~1.5%の範囲にある濃度で、式1に従った1つ以上の化合物、
- 0.2%~1.5%(w/v)、例えば0.25%~1.25%(w/v)、0.3%~1%(w/v)、または0.4%~0.75%(w/v)の範囲にある濃度で、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、
- 1.5%~10%、例えば2%~6%の範囲にある濃度で、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
- 1μM~10μM、例えば3μM~7.5μMの範囲にある濃度で、カスパーゼ阻害剤
を含む。
【0099】
安定化組成物は液体であることができる。示した濃度が、血液サンプルの安定化のために特に好ましい。例えば、0.5mL~2.5mL、0.5mL~2mL、好ましくは1mL~2mLまたは1mL~1.5mLの液体安定化組成物を使用することができる。以下に示す濃度で安定化因子を含むこのような安定化組成物を、例えば、10mLの血液を安定化させるために使用することができる。
【0100】
具体的な実施態様
本発明のさらなる実施態様を、以下に再び記載する。本発明は具体的には、以下の項目もまた提供する:
【0101】
実施態様1.
細胞含有体液に含まれる複数の生物学的標的を安定化して富裕化する方法であって、
(A) 細胞含有体液を、以下の安定化因子のうちの1つ以上:
(a) 少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、
(b) 少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤
を含む安定化組成物と接触させることにより、安定化細胞含有体液サンプルを提供することと、
(B) 安定化期間の間、前記安定化細胞含有体液サンプルを維持することと、
(C)
-少なくとも1つの細胞亜集団、
-細胞外核酸、
-細胞外小胞、及び
-細胞内核酸
からなる群から選択される3つ以上の生物学的標的を前記安定化細胞含有体液から富裕化するために安定化細胞含有体液サンプルを処理することと、を含む、前記方法。
【0102】
実施態様2.
富裕化した細胞亜集団が標的希少細胞を含む、実施態様1に記載の方法。
【0103】
実施態様3.
細胞亜集団が標的希少細胞から本質的になる、実施態様1または2に記載の方法。
【0104】
実施態様4.
標的希少細胞が、腫瘍細胞、特に循環腫瘍細胞(CTC)、胎児細胞、幹細胞、ウイルスまたは寄生生物により感染した細胞、循環内皮細胞(CEC)、及び循環内皮前駆細胞(EPC)からなる群から選択される、実施態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0105】
実施態様5.
標的希少細胞が循環腫瘍細胞である、実施態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
実施態様6.
ゲノムDNAであってもよい細胞内核酸が、安定化体液サンプルまたはその細胞含有画分から単離される、実施態様1~5のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0107】
実施態様7.
工程(C)が、
-希少細胞、好ましくは循環腫瘍細胞、
-細胞外核酸、
-細胞外小胞、及び
-細胞内核酸
からなる群から選択される3つ以上の生物学的標的を安定化細胞含有体液から富裕化するために安定化細胞含有体液サンプルを処理することを含む、実施態様1~6のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0108】
実施態様8.
工程(C)が、安定化体液サンプルから、少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を得ることを含み、任意に、細胞枯渇画分が、遠心分離及び/または濾過を伴う分離法により少なくとも1つの細胞画分から分離されてもよい、実施態様1~7のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0109】
実施態様9.
(C)における処理が、
(aa) 安定化細胞含有体液サンプルを、少なくとも1つの細胞含有画分と少なくとも1つの細胞枯渇画分とに分離することと、
(bb) 前記細胞含有画分をさらに処理することであって、前記細胞含有画分をさらに処理することが、
(i)好ましくは標的希少細胞を含む細胞亜集団を、前記細胞含有画分から富裕化すること、及び/または
(ii)前記細胞含有画分から、細胞内核酸(例えばゲノムDNA)を富裕化することを含み、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってもよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、
とを含む、実施態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
実施態様10.
(C)における処理が、
(aa) 前記安定化細胞含有体液サンプルから、好ましくは標的希少細胞を含む細胞亜集団を富裕化することと、
(bb) 前記標的細胞亜集団が取り除かれた安定化細胞含有体液サンプルを、細胞含有画分と細胞枯渇画分とに分離することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってもよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、を含み、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化することと、を含む、実施態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0111】
実施態様11.
(C)における処理が、
(aa) 前記安定化細胞含有体液サンプルを少なくとも2つのアリコートに分割し、好ましくは希少細胞を含む細胞亜集団を、前記提供されたアリコートのうちの少なくとも1つから富裕化することと、
(bb) 少なくとも1つの細胞含有画分及び少なくとも1つの細胞枯渇画分を提供することと、
(cc) 前記細胞枯渇画分をさらに処理することであって、前記細胞枯渇画分をさらに処理することが、
(i) 前記細胞枯渇画分から、細胞外DNAであってもよい細胞外核酸を富裕化すること、及び/または
(ii) 前記細胞枯渇画分から細胞外小胞を富裕化すること、を含む、さらなる処理と、
(dd) 任意に、前記細胞含有画分から細胞内核酸、好ましくはゲノムDNAを富裕化することと、
を含む、実施態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0112】
実施態様12.
(D) 富裕化した3つ以上の生物学的標的を解析のために処理することをさらに含む、実施態様1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0113】
実施態様13.
工程(C)が標的希少細胞を富裕化することを含み、後続の工程(D)は、前記富裕化した希少細胞を解析することを含み、任意に、前記富裕化した希少細胞を解析することが、前記富裕化した希少細胞を細胞レベルで解析すること、及び/または、細胞内核酸、好ましくはRNAを、前記富裕化した希少細胞から富裕化することを含む、実施態様12に記載の方法。
【0114】
実施態様14.
工程(D)が、富裕化した細胞内核酸を検出することを含み、前記検出が増幅及び/または配列決定を含んでもよい、実施態様13に記載の方法。
【0115】
実施態様15.
細胞内核酸がmRNAを含む、実施態様13または14に記載の方法。
【0116】
実施態様16.
工程(C)が、細胞枯渇画分を安定化細胞含有体液サンプルから得ることと、細胞外核酸を、前記得られた細胞枯渇画分から富裕化することとを含む、実施態様1~15のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0117】
実施態様17.
細胞外核酸が細胞外DNAを含むか、または細胞外DNAから本質的になる、実施態様16に記載の方法。
【0118】
実施態様18.
細胞外核酸が細胞外RNAを含むか、または細胞外RNAから本質的になる、実施態様16または17に記載の方法。
【0119】
実施態様19.
工程(D)が、工程(C)で得られた細胞外核酸内で、1つ以上の標的分子を検出することを含む、実施態様12~18のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0120】
実施態様20.
工程(C)が、細胞外小胞を、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞枯渇画分から富裕化することを含み、後続の工程(D)が、RNAを前記単離した細胞外小胞から富裕化することを含む、実施態様6~19のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0121】
実施態様21.
細胞外小胞が、エクソソームを含む、またはエクソソームから本質的になる、実施態様1~20のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0122】
実施態様22.
RNAを富裕化する、好ましくは精製することを含み、任意に、前記RNA富裕化が、RNAを固相に結合することと、前記結合したRNAを前記固相から溶出することと、を含んでもよい、実施態様1~21のうちの1つ以上に記載の方法。
【0123】
実施態様23.
工程(D)が、細胞、好ましくは、富裕化した標的希少細胞、及び/または富裕化細胞外小胞からRNAを富裕化する、好ましくは精製することを含む、実施態様12~22のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0124】
実施態様24.
以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様22または23に記載の方法:
(i) 富裕化RNAがmRNAを含むか、またはmRNAから本質的になる。
(ii) 富裕化RNAが、miRNAを含むか、または、350nt以下の長さ、300nt以下の長さ、もしくは250nt以下の長さの、miRNAを含む小RNAから本質的になる。
【0125】
実施態様25.
工程(D)が、富裕化核酸、好ましくは精製核酸の中で、1つ以上の標的核酸分子を検出することを含む、実施態様12~24のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0126】
実施態様26.
少なくとも1つの標的核酸分子が、以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様25に記載の方法:
- がん関連腫瘍マーカーである;
- 診断、予後、及び/又は予測バイオマーカーである;
- 予後もしくは予測バイオマーカーである;
- 転移性がんであってもよい固形がんと関連している;
- 乳癌もしくは前立腺癌、特に転移性乳癌及び転移性前立腺癌と関連している;
- 陽性もしくは陰性応答マーカーである;
- 治療マーカーである;及び/又は
- 標的核酸分子のパネルの一部を形成し、任意に、前記パネルが、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、または少なくとも50個の標的核酸分子を含む。
【0127】
実施態様27.
工程(D)が、以下のうちの1つ以上を含む、実施態様12~26のうちの1つ以上に記載の方法:
(i)精製RNAを逆転写してcDNAを提供する;
(ii)少なくとも1つの増幅工程を行う;
(iii)定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行う;及び/または
(iv)インタクトな細胞を分析することを含み、前記細胞は循環腫瘍細胞であってもよい。
【0128】
実施態様28.
標的希少細胞及び/または細胞外小胞を親和性捕捉により富裕化することを含む、実施態様1~27のうちの1つ以上に記載の方法。
【0129】
実施態様29.
細胞含有体液が、以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様1~28のうちの1つ以上に記載の方法:
- 循環体液である;
- 血液、尿、唾液、滑液、羊水、涙液、リンパ液、分泌液、脳脊髄液、汗、腹水、母乳、気管支洗浄物、腹膜浸出液及び胸膜滲出液、骨髄吸引物及び乳頭吸引物、精液/精漿、体分泌物もしくは体排泄物から選択される;
- 血液及び尿から選択される;及び/又は
- 血液である。
【0130】
実施態様30.
安定化組成物が、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドを含む、実施態様1~21のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0131】
実施態様31.
安定化組成物が、式1に従った少なくとも1つの一級、二級、または三級アミドを含む、実施態様30に記載の方法:
【化3】
[式中、R1は水素またはアルキル基、好ましくはC1~C5アルキル基、C1~C4アルキル基、またはC1~C3アルキル基、より好ましくはC1~C2アルキル基であり、R2及びR3は同一または異なっており、水素及び炭化水素基、好ましくは、直鎖または分岐鎖様式で配置される1~20個の炭素鎖の長さを有するアルキル基から選択され、R4は酸素、硫黄、またはセレン基であり、好ましくはR4は酸素である。]
【0132】
実施態様32.
式1に従った少なくとも1つの化合物が一級、二級、または三級カルボン酸アミドである、実施態様31に記載の方法。
【0133】
実施態様33.
安定化組成物がN,N-ジアルキルプロパンアミド、好ましくはN,N-ジメチルプロパンアミド、及び/またはブタンアミドを含む、実施態様30または31に記載の方法。
【0134】
実施態様34.
安定化組成物が、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む、実施態様1~33のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0135】
実施態様35.
ポリ(オキシエチレン)ポリマーがポリエチレングリコールである、実施態様34に記載の方法。
【0136】
実施態様36.
安定化組成物が以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様34または35に記載の方法:
a) 含まれるポリ(オキシエチレン)ポリマーが非置換ポリエチレングリコールである;
b) 組成物が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む;
c) 組成物が、1500未満の分子量を有する少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、好ましくは、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、任意に、分子量は100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にあってよい;
d) 組成物が、少なくとも1500の分子量を有する高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーである、ポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーを含む;及び/又は
e) 組成物が、高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーであるポリ(オキシエチレン)ポリマーを含み、前記高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、1500~50000、2000~40000、3000~30000、3000~25000、3000~20000、及び4000~15000から選択される範囲にある分子量を有し、かつ/または、前記低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマーが、100~1000、200~800、200~600、及び200~500から選択される範囲にある分子量を有する。
【0137】
実施態様37.
安定化組成物が少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくはカスパーゼ阻害剤を含む、実施態様1~36のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0138】
実施態様38.
アポトーシス阻害剤、カスパーゼ阻害剤が以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様37に記載の方法:
a) カスパーゼ阻害剤が汎カスパーゼ阻害剤である;
b) カスパーゼ阻害剤がカスパーゼ特異的ペプチドを含む;
c) カスパーゼ阻害剤が、好ましくはカルボキシル末端においてO-フェノキシ(OPh)基で修飾された、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む;
d) カスパーゼ阻害剤が、(好ましくはN末端において)グルタミン(Q)基で修飾された、改変カスパーゼ特異的ペプチドを含む;
e) カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPh、Boc-D-(OMe)-FMK、及びZ-Val-Ala-Asp(OMe)-FMKからなる群から選択される;
f) カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPh及びZ-Val-Ala-Asp(OMe)-FMKからなる群から選択される;及び/または
g) 前記カスパーゼ阻害剤がQ-VD-OPhである。
【0139】
実施態様39.
安定化組成物が、
態様Aによると、
(a) 好ましくは、実施態様31~33のいずれか1つで規定されている、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミド、及び
(b) 好ましくは、実施態様35または36で規定されている、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
(c) 任意に少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくは、実施態様38で規定されているカスパーゼ阻害剤;
態様Bによると、
(a) 好ましくは、実施態様31~33のいずれか1つで規定されている、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミド、
(b) 任意に、好ましくは、実施態様35または36で規定されている、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくは、実施態様38で規定されているカスパーゼ阻害剤;
態様Cによると、
(a) 任意に、好ましくは、実施態様31~33のいずれか1つで規定されている、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミド、
(b) 好ましくは、実施態様35または36で規定されている、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくは、実施態様38で規定されているカスパーゼ阻害剤、
を含む、実施態様1~38のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0140】
実施態様40.
安定化組成物が、
(a) 好ましくは、実施態様31~33のいずれか1つで規定されている、少なくとも1つの一級、二級、または三級アミド、
(b) 好ましくは、実施態様35または36で規定されている、少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
(c) 少なくとも1つのアポトーシス阻害剤、好ましくは、実施態様38で規定されているカスパーゼ阻害剤、
を含む、実施態様39に記載の方法。
【0141】
実施態様41.
以下の特徴のうちの1つ以上を有する、実施態様1~40のうちの1つ以上に記載の方法:
(i) 細胞含有体液サンプルの安定化が、有核細胞の溶解を誘発または促進する濃度の添加剤を使用することを伴なわない;
(ii) 安定化が、タンパク質-核酸もしくはタンパク質-タンパク質架橋を誘発しない;
(iii) 安定化が、タンパク質-核酸及び/又はタンパク質-タンパク質架橋を誘発する架橋剤、例えばホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、もしくはホルムアルデヒド放出剤の使用を伴わない;
(iv) 安定化が毒性因子の使用を伴わない;及び/又は
(v) 安定化因子が、水を含む安定化組成物に含有される。
【0142】
実施態様42.
安定化組成物が、EDTAであってよいキレート剤を含む、実施態様1~41のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0143】
実施態様43.
細胞含有体液が血液であり、安定化組成物が抗凝血物質、好ましくはキレート剤を含む、実施態様1~42のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0144】
実施態様44.
好ましくは血液である細胞含有体液を、
a) 式1に従った1つ以上の化合物;
b) 少なくとも3000の分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び任意に、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤;ならびに
d) 任意にキレート剤、好ましくはEDTA、
と接触させる、実施態様1~43のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0145】
実施態様45.
細胞含有体液が血液であり、前記血液を
a) 式1に従った1つ以上の化合物;
b) 3000~30000、または3500~25000の範囲などの、3000~40000の範囲にある分子量を有する少なくとも1つの高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び、100~800、200~800、または200~500の範囲などの、1000以下の分子量を有する低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー;
c) 少なくとも1つのカスパーゼ阻害剤、好ましくは汎カスパーゼ阻害剤、任意にQ-VD-OPh;ならびに
d) 好ましくはキレート剤、好ましくはEDTAである抗凝血物質
と接触させ、前記血液サンプルが前記添加剤、及び任意に、安定化のためのさらなる添加剤と接触した後で、得られる混合物/安定化血液サンプルが、
- 0.3~4%、例えば0.5~3%、0.5~2%、または0.75~1.5%の範囲にある濃度で、式1に従った1つ以上の化合物、
- 0.2%~1.5%(w/v)、例えば0.25%~1.25%(w/v)、0.3%~1%(w/v)、または0.4%~0.75%(w/v)の範囲にある濃度で、前記高分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、
- 1.5%~10%、例えば2%~6%の範囲にある濃度で、低分子量のポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び
- 1μM~10μM、例えば3μM~7.5μMの範囲にある濃度で、カスパーゼ阻害剤、
を含む、実施態様1~44のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0146】
実施態様46.
処理工程(C)が、安定化細胞含有体液サンプル、または、安定化細胞含有体液サンプルから得られた細胞含有画分を密度勾配遠心分離工程に供することを含み、任意に、前記細胞含有体液サンプルは血液であってよい、実施態様1~45のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
実施態様47.
安定化血液サンプル、または、安定化血液サンプルから得られた細胞含有画分を、密度勾配媒体と接触させる、実施態様46に記載の方法。
【0148】
実施態様48.
安定化血液サンプル、または、安定化血液サンプルから得られた細胞含有画分を、密度勾配遠心分離工程を行う前に、好ましくは、希釈したサンプルを密度勾配媒体と接触させる前に、希釈溶液で希釈する、実施態様46または47に記載の方法。
【0149】
実施態様49.
安定化血液サンプル、または、安定化血液サンプルから得られた細胞含有画分を、以下の特徴のうちの1つ以上を有する希釈溶液を使用して希釈する、実施態様48に記載の方法:
(a)低張性溶液もしくは等張性溶液である;
(b)張性調節剤を含む;
(c)ポリオール、任意に糖もしくは糖アルコール、を含む;
(d)糖、任意にグルコース、を含む;
(e)糖アルコール、任意にグリセロール、を含む;及び/または
(f)塩、任意にアルカリ金属塩、任意に塩化物塩、を含む。
【0150】
実施態様50.
希釈溶液が、グルコースであってよい還元糖を、2~10%、3~7%、または4~6%(w/v)の範囲の濃度で含む、実施態様48または49に記載の方法。
【0151】
実施態様51.
希釈溶液がグリセロールであってよい糖アルコール、及び塩、任意にアルカリ金属塩を含む、実施態様48~50のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
実施態様52.
希釈溶液が、最大0.5Mのグリセロール、及び最大2%の塩化ナトリウムを含み、任意に、希釈溶液が0.7~1.2%の塩化ナトリウム、及び0.075~0.15Mのグリセロールを含んでよい、実施態様51に記載の方法。
【0153】
実施態様53.
希釈溶液が、密度勾配遠心分離後に、EDTA安定化血液サンプルと比較して、少なくとも60%、または少なくとも70%の白血球を前記安定化サンプルから回収することができることを達成する、実施態様48~52のいずれか1つに記載の方法。
【0154】
実施態様54.
希釈溶液が、
(i)5%(w/v)のグルコース、
(ii)0.9%のNaCl+0.1Mのグリセロール、及び
(iii)少なくとも1つの張性調節剤
を含み、(i)もしくは(ii)で定義した希釈溶液の質量オスモル濃度に一致する質量オスモル濃度を有する希釈溶液、または、質量オスモル濃度が(i)もしくは(ii)で定義する溶液の質量オスモル濃度の±20%、±15%、または±10%の範囲内にある希釈液、
から選択される、実施態様48~53のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
実施態様55.
安定化血液サンプル、または、安定化血液サンプルから得られた細胞含有画分を、希釈サンプルを密度勾配媒体と接触させる前に、希釈溶液中で、10分以内、5分以内、または3分以内でインキュベートする、好ましくは、希釈サンプルが、希釈の後に前記希釈サンプルを前記密度勾配媒体と接触させることにより直接処理される、実施態様48~54のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0156】
実施態様56.
密度勾配遠心分離後に種々の層が形成され、前記形成された層がPBMC層を含む、実施態様46~55のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0157】
実施態様57.
形成されたPBMC層を収集することにより、PBMC画分を提供することを含む、実施態様56に記載の方法。
【0158】
実施態様58.
循環腫瘍細胞を収集したPBMC画分から単離することを含む、実施態様56または57に記載の方法。
【0159】
実施態様59.
ゲノムDNAを、(循環腫瘍細胞が前もって除去されていてもよい)収集したPBMC画分から単離することを含む、実施態様46~58のいずれか1つに記載の方法。
【0160】
実施態様60.
収集したPBMC画分を、PBS緩衝液でもよい緩衝液を使用して洗浄することを含む、実施態様46~59のいずれか1つに記載の方法。
【0161】
実施態様61.
PBMC細胞の少なくとも一部分を白血球計数に供する、実施態様46~59のいずれか1つに記載の方法。
【0162】
実施態様62.
細胞画分を安定化細胞含有体液サンプルから得ることと、ゲノムDNAを前記細胞画分から単離することとを含み、前記細胞画分が、ゲノムDNA単離前に保管され、任意に凍結されてもよい、実施態様1~61のいずれか1つに記載の方法。
【0163】
実施態様63.
細胞集団または個別の細胞を、細胞選別を使用して富裕化することを含む、先行実施態様のいずれか1つに記載の方法。
【0164】
実施態様64.
細胞含有体液サンプルが血液であり、工程(C)が、標的リンパ球を細胞亜集団として安定化サンプルから富裕化することを含む、先行する実施態様のいずれか1つに記載の方法。
【0165】
実施態様65.
リンパ球がT4及び/またはT8リンパ球から選択される、実施態様64に記載の方法。
【0166】
実施態様66.
安定化血液サンプルが、免疫欠損を有する患者から入手される、実施態様64または65に記載の方法。
【0167】
実施態様67.
細胞含有体液サンプルが血液であり、工程(C)が、血小板を細胞亜集団として安定化サンプルから富裕化することを含み、任意に、工程(D)が実施されてRNAを前記富裕化血小板から単離することを含んでもよい、先行実施態様のいずれか1つに記載の方法。
【0168】
実施態様68.
細胞含有体液サンプルが血液であり、工程(C)が、芽細胞を細胞亜集団として安定化サンプルから富裕化することを含む、先行実施態様のいずれか1つに記載の方法。
【0169】
実施態様69.
芽細胞が親和性捕捉により、任意的に磁性粒子を用いて、富裕化される、実施態様68に記載の方法。
【0170】
実施態様70.
芽細胞が、CD34及び/またはCD117であってもよい細胞表面マーカーを標的にすることにより富裕化される、実施態様68または69に記載の方法。
【0171】
実施態様71.
安定化血液サンプルが、急性骨髄性白血病を有する患者から入手された、実施態様68~70のいずれか1つに記載の方法。
【0172】
実施態様72.
工程(B)が、(C)の前に安定化細胞含有体液サンプルを輸送及び/または保管することを含む、実施態様1~71のいずれか1つに記載の方法。
【0173】
実施態様73.
保管することが、安定化細胞含有体液サンプルを収集及び安定化の場所から異なる場所に、処理のために移動することを含む、実施態様72に記載の方法。
【0174】
実施態様74.
安定化細胞含有体液サンプルが、処理工程(C)の前に最大12時間、または最大24時間維持される、実施態様1~73のいずれか1つに記載の方法。
【0175】
実施態様75.
安定化細胞含有体液サンプルが、処理工程(C)の前に最大36時間、または最大48時間維持される、実施態様1~74のいずれか1つに記載の方法。
【0176】
実施態様76.
安定化細胞含有体液サンプルが、処理工程(C)の前に最大60時間、または最大72時間維持される、実施態様1~75のいずれか1つに記載の方法。
【0177】
実施態様77.
安定化細胞含有体液サンプルを、処理工程(C)の前に少なくとも6時間、少なくとも8時間、または少なくとも12時間維持することを含む、実施態様1~76のいずれか1つに記載の方法。
【0178】
実施態様78.
安定化細胞含有体液サンプルを、処理工程(C)の前に少なくとも16時間、少なくとも24時間、または少なくとも48時間維持することを含む、実施態様1~77のいずれか1つに記載の方法。
【0179】
実施態様79.
工程(C)が、少なくとも循環腫瘍細胞、ゲノムDNA、及び循環無細胞DNAを、生物学的標的として単離することを含む、実施態様1~79のいずれか1つ以上に記載の方法。
【0180】
実施態様80.
工程(D)が行われ、RNAを循環腫瘍細胞から単離することと、バイオマーカーRNA分子を前記単離したRNA内で検出することと、を含む、実施態様79に記載の方法。
【0181】
実施態様81.
単離RNAがmRNAである、実施態様81に記載の方法。
【0182】
実施態様82.
安定化血液サンプルまたはその細胞含有画分を処理するための、実施態様49~54のいずれか1つで規定される希釈溶液の使用であって、血液サンプルが、(a)少なくとも1つの一級、二級、もしくは三級アミド、(b)少なくとも1つのポリ(オキシエチレン)ポリマー、及び/または少なくとも1つのアポトーシス阻害剤を含む安定化組成物、任意に、実施態様30~44のいずれか1つで規定される安定化組成物、で安定化される、前記使用。
【0183】
実施態様83.
含まれる単核細胞の密度を回復するための、好ましくは、勾配密度遠心分離のための、実施態様83に記載の使用。
【0184】
実施態様84.
希釈溶液を、勾配密度培地と接触させる前に、安定化血液サンプルまたはその細胞含有画分と接触させる、実施態様82または83に記載の実施態様。
【0185】
本発明は、本明細書で開示する例示的な方法及び材料により限定されず、本明細書に記載するものに類似する、または等価な、任意の方法及び材料を、本発明の実施態様の実践または試験において使用可能である。数値範囲は、その範囲を規定する数を含むものとする。本明細書において提供する見出しは、明細書全体を参照することにより読解することができる本発明の種々の態様または実施態様の限定ではない。
主題となる明細書や特許請求の範囲において使用される際、単数形「a」、「an」及び「the」は、別段文脈が明確に規定しない限り、複数の態様を含む。用語「含む(include)」、「有する」、「含む(comprise)」、及びこれらの変形は同じ意味で用いられ、非限定的なものして解釈されなければならない。組成物が、構成成分または材料を含むものとして記載される明細書を通して、複数の実施態様における組成物は、別様に記載されない限り、引用した構成成分または材料の任意の組み合わせからもまた、本質的になるか、またはそれらからなると想到される。「本開示」及び「本発明」などへの言及は、本明細書で教示される単独または複数の態様などを含む。本明細書で教示される態様は、用語「発明」により包含される。
本明細書に記載する好ましい実施態様を選択する、及び組み合わせることが好ましく、好ましい実施態様のそれぞれの組み合わせにより生じる具体的な主題もまた、本開示に属する。
用語「富裕化すること」、「富裕化」、及び類似の用語は、本明細書で広い意味で使用され、例えば、特に、標的(例えば、サンプルに由来する、DNA及び/またはRNAなどの核酸、循環腫瘍細胞などの希少細胞、細胞外小胞)の単離及び精製といった、任意の形態の富裕化を包含する。
【実施例
【0186】
以下の実施例は、本開示に従った方法は重要な利点を有し、それにより、本開示に従った安定化技術を使用して収集及び安定化した単一細胞を含有する体液サンプルに基づくマルチモード解析を実施できることを示す。
1) 本開示の安定化技術を用いて安定化したサンプルに含まれる細胞の抗原構成が保存される。
2) 本開示の安定化技術を、異なる希少細胞富裕化技術(例えば、密度勾配遠心分離、Parsortix装置、AdnaTest technology、CellSearch)と組み合わせて使用することができる。
3) 本開示の安定化技術を、細胞性トランスクリプトーム(例えば、希少細胞及び/または豊富な細胞などの、サンプルに含まれる細胞のRNA含有量)の解析のために使用することができる。
4) 本開示の安定化技術を、循環トランスクリプトーム(例えば、細胞外小胞由来のRNA)の解析のために使用することができる。
5) 本開示の安定化技術により、マルチモード試験(例えば、CTC、単一の安定化血液サンプルのゲノムDNA(gDNA)に由来するccfDNA及び白血球の解析)が可能となる。
【0187】
以下の実施例は、本方法で使用する安定化技術は、スパイクした腫瘍細胞の安定化を有利に達成し、さらに、そのコア表面構造、トランスクリプトーム、及びゲノムを保存することを示す。PAXgene Blood ccfDNA溶液(本発明に従った安定化組成物)で安定化したMCF7腫瘍細胞株細胞の免疫細胞化学染色は、安定化していないMCF7に匹敵する結果を示し、このことは、細胞抗原構成及びモルホロジーが保存されていることを示している。さらに、細胞密度は、特定の溶液を血液サンプルなどの安定化サンプルに添加することにより回復することができ、これにより、勾配密度遠心分離を使用する細胞分離が可能となる。本アプローチにより、例えば、PBMC及びCTCを1つの層で富裕化(enrich)、したがって濃縮(concentrate)するために、古典的な密度に基づく血液画分の分離が可能となる。
種々のCTC解析ワークフローのためのフロントエンド溶液としての本開示の安定化技術を用いて安定化した収集血液の適合性が、ラベル非依存富裕化及び細胞読み出し(Parsortix、ANGLE plc)、ならびに、分子読み出しによるラベル依存性富裕化(AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7、QIAGEN GmbH)に基づいて示される。結果は、両方のアプローチが、高レベルのCTC安定化及び回収を伴う本開示に従った安定化技術と適合性があることを示している。さらに、富裕化CTCはRNAベースの解析に使用するのに有利であり得る。これらのデータは、本開示に従った安定化組成物を含む収集管に収集された細胞の、十分なトランスクリプトーム安定化の証拠を提供する。以下の実施例はさらに、細胞RNAだけでなく、(細胞外小胞、EVにパッケージされた)循環RNAも解析のために利用可能であることを示す。本開示に従った安定化技術により安定化した細胞含有体液サンプルは、血液などの細胞含有体液サンプルに含まれる種々の生物学的標的のマルチモード試験に好適である。AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7試験に基づき確立したワークフローに基づき、例示的に示すように、単一の安定化血液サンプルをCTC、ccfDNA、及び白血球由来のゲノムDNAの解析に使用することができる。
実施した実施例を、以下説明する:
【0188】
1.実施例1:本開示に従った安定化技術を使用して安定化した細胞における、抗原構成維持の評価。未処理及び安定化MCF7がん細胞株細胞の、免疫細胞化学染色
MCF7サイトスピンの調製
ヒト乳癌細胞株細胞(MCF7)を、抗原保存性及びアクセス可能性に対する、PAXgene Blood ccfDNA安定化溶液(PAXccfDNA)の影響を評価するためのCTCモデルとして使用した。PAXgene Blood ccfDNA安定化溶液は、安定化因子(a)~(c)及び抗凝血物質を含む、本発明に従った、市販されている安定化組成物である。当該溶液は、市販されているPAXgene Blood ccfDNAチューブ(PreAnalytiX)に含まれている(1.5mL)。
培養したMCF7細胞をトリプシン処理し、PBS中で洗浄し、PBSまたはPAXccfDNA溶液のいずれかで30分間、室温でインキュベートした。その後、サイトスピンを調製し、室温で一晩乾燥させ、+4℃で、染色するまで保管した。
【0189】
免疫細胞化学染色
サイトスピン上の細胞を固定し、透過処理し、抗体の非特異的結合に対抗する処理をし(ブロッキング工程)、1時間室温で、ヒト汎サイトケラチンに対する蛍光標識抗体及び核染色のためにDAPIで染色した。その後、サイトスピンを洗浄し、カバーし、1週間以内に蛍光顕微鏡により解析した。
【0190】
結果
非安定化及び(安定化溶液中で)安定化したがん細胞上の蛍光標識した抗ヒト汎サイトケラチン抗体からの特異的シグナルの存在は、PAXgene Blood ccfDNAチューブ内で安定化した細胞における抗原構成評価の実行可能性を明らかにする(図1)。
汎サイトケラチンは、安定化サンプル中の細胞表面で良好に検出された。このことは、細胞表面抗原が保存されていることを示している。核染色により、サイトケラチンの細胞質染色及び染色された細胞の保存された核(即ち、モルホロジー)が確認された。
【0191】
2.実施例2:CTC富裕化及び解析のための本安定化技術の使用
2.1.CTC富裕化のための、本安定化技術とフィコール密度遠心分離との組み合わせ
フィコール密度遠心分離は、血液画分、したがって細胞集団を、その密度に基づいて画分に分離するために一般的に使用される方法である。有核血液細胞は、約1.062g/mLの密度を有し、フィコール層(1.077g/mL)、または同様の密度勾配媒体で遠心分離すると、赤血球(1.092g/mL)及び血小板(1.030g/mL)から効率的に分離することができる。得られる界面層は、CTC及び他の希少な有核細胞を含む、PBMC画分を含有する。
PAXgene Blood ccfDNA安定化溶液で安定化した血液は、一般的なPBS緩衝液で希釈した場合に、EDTAで保存された血液(参照として採取)で典型的に観察されるような血漿/PBMC/赤血球層を形成しないことが観察された(図2を参照されたい)。
これらの観察に基づいて、とりわけ、わずかに低張性及び等張性である種々の希釈溶液を、PAXccfDNA安定化血液細胞の密度を回復するために試験した。等張性の0.9% NaClを参照とした。次に、細胞膜を浸透可能な物質を含有する等浸透圧溶液(例えばグリセロール)を試験のための希釈溶液に含めた。目的は、特にマルチモード解析のために、注目する種々の密度ベースの画分を得るのに好適な、典型的な層形成を得ることであった。フィコール密度遠心分離の後での、回収した白血球(WBC)の数として有効性を測定した。
【0192】
血液サンプルの処理
EDTAチューブ(BD)またはPAXgene Blood ccfDNAチューブ(PreAnalytiX)に収集した全血を使用した。EDTA安定化血液を得るためにBDバキュテイナーを使用した(安定化血液中のEDTA濃度は約1.8mg/mLである)。
4mLの全血を採取し、示した時間(以下を参照)の間、4mLのそれぞれの希釈溶液で希釈し、4mLのFicoll-Paque PLUS(GE Healthcare、密度は1.077g/mL)に重層した。サンプルをただちに、400xgで40分間、加速及び減速なしで遠心分離にかけた。遠心分離後、上層の血漿画分を廃棄し、PBMC環のみを新しい15mLチューブに移し、PBSを満たして300xgで10分間遠心分離にかけた(最大値で加速及び減速)。上清を取り除いた後、ペレットを200μLのPBSに再懸濁し、WBC計数(Beckman Coulter)のために使用した。全血1mL当たりのWBCの量をPAXccfDNAチューブに対して1.15の希釈因数を考慮して計算した。
【0193】
試験設定
種々の張性調節剤及び濃度を含む以下の希釈溶液を試験した(表1):
【表1】
【0194】
結果
インキュベーションなしでPBSで希釈したEDTA血液をWBC計数のために参照として採取した。
EDTA安定化血液に本質的に一致する古典的な勾配密度遠心分離層パターンを得るための全血に対する最も効果的な希釈溶液の中に、5%グルコース(グルコースは血液細胞に取り込まれる)及び0.9%NaCl+0.1Mグリセロールがある。0.9%NaCl+0.1Mグリセロールを含む希釈溶液は、グリセロールによる細胞膜の浸透があるので、萎縮細胞において正常化効果も有するようである。最終の実験では、長時間のインキュベーション無しに添加した5%グルコース及び0.9%NaCl+0.1Mグリセロールについて、WBCの回収に関して非常に良好かつ匹敵する結果が得られた(それぞれ、参照から79%及び80%)(表2、図2を参照されたい)。少なくとも1つの張性調節剤を含み、本実験で明らかにされたリード希釈溶液と同様の質量オスモル濃度(例えば、±20%、±15%、または±10%)を有する種々の希釈溶液もまた使用可能であり、所望の層パターン、ならびに、少なくとも50%、少なくとも60%、及び好ましくは少なくとも65%のWBC回収率を達成するそれらの肯定的な効果を定型的な実験により測定することができる。
【表2】
【0195】
2.2 CTC検出のための、本安定化技術とAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7との組み合わせ。
AdnaTest CTC富裕化は、細胞表面での標的タンパク質の発現に基づき捕捉される細胞の免疫磁気分離に依存しする。富裕化細胞の検出は、腫瘍細胞特異的転写物の検出に左右される。メーカーの推奨に従い、新たに採取したEDTA血液(採血後4時間以内)またはACD-Aチューブに採取して+4℃で最大30分間保管した血液を使用することができる。
【0196】
(a)材料及び方法
細胞培養
LNCaP95細胞を、37℃及び5%CO2にて、10%活性炭処理血清及び10%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む、フェノールレッド非含有RPMI1640中で単一層として培養した。
採血及びサンプル調製
所与の署名したインフォームドコンセントの後に、21名の健常な志願者からの全血を、肘脈への静脈穿刺によりPAXgene Blood ccfDNAチューブ(PreAnalytiX、Switzerland)に収集し、メーカーの指示に従い、採血直後にチューブを8回反転させた。
比較研究(以下の(c)を参照)のために、健常なドナーから採血し、メーカーの指示に従ってPAXgene Blood ccfDNAチューブ及びProvider StreckのBCTに収集した。
ドナー及び採血チューブ(BCT)当たりで血液サンプルをプールし、採血の30分以内に5mLを15mLの円錐チューブに小分けして、直ちにスパイクした。サンプル当たり20個のLNCaP95細胞または20μLのPBSで手動スパイクした後、血液サンプルを2~8℃または室温で、試験設計に従い処理されるまで保管した。
【0197】
AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7を使用する腫瘍細胞の富裕化及び検出
AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7は、AdnaTest ProstateCancerSelect手順によりカバーされるCTC富裕化工程を利用する。CTC検出のために、CTC富裕化画分からcDNAを作製する。
AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7は、前立腺特異的PSA、PSMA、AR及びAR-V7転写物、ハウスキーパーとしてのGAPDH、ならびに、白血球マーカーとしてのCD45を検出するためのリアルタイムPCRに基づく読み出しに依存する。がん特異的転写物の少なくとも1つが検出された場合、試験を陽性とみなした。
AR-V7アッセイは非特異的cDNA事前増幅工程を含み、アッセイの感度を高めることを含む。事前増幅工程(18サイクル)により、増幅はもはや直線的でなく、標的遺伝子の発現の定量は実行できない。AR-V7試験はメーカーの推奨に従って行った。
【0198】
データの評価
LNCaP95細胞は、PSMA、AR、及びAR-V7について陽性であることが知られており、PSAの不安定な発現を有することが知られている。したがって、全ての試験はPSMA、AR、及びAR-V7の検出に基づいて評価したが、PSAは解析から除外した。
ccfDNAの収率、及びgDNAの収率の統計的評価を、対応のない両側T検定(ggplot2及びggpubrパッケージを用いたR-statisticsバージョン3.5.1)を用いて行った。
【0199】
(b)本開示に従った安定化組成物とCTC検出との適合性
第1のセットの実験において、スパイクした腫瘍細胞を検出するために、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7と本開示に従った安定化技術により収集及び安定化した血液の適合性を評価した。本開示に従った安定化組成物を含むチューブに収集した10人のドナーに由来する全血サンプルを各ドナーについてプールし、5mLのサンプルとして15mLの円錐チューブに小分けした。血液サンプルを、それぞれ20個のLNCaP95細胞または非スパイク対照として20μLのPBSで、手動でスパイクした。このセットアップにより、収集した安定化血液でCTCが検出可能であるか否か、及び、安定化試薬そのものが試験性能(それぞれ、スパイクサンプル及び非スパイク対照)に何らかの影響を有するか否かを評価することが可能となった。スパイク後、3時間、24時間、30時間、及び48時間後に処理するまで、全てのサンプルを2~8℃で保管した。
データは、全ての実験時点(スパイク後3時間、24時間、30時間、及び48時間)において、腫瘍細胞をスパイクしたサンプルの試験における陽性を示す(図3Aを参照)一方で、全ての非スパイク対照試験は陰性であった(図3Bを参照)。したがって、この確立されたワークフローは、本開示に従った安定化組成物を含むPAXgene Blood ccfDNAチューブの、CTCの単離及び検出のためのAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7との適合性を示す。本開示に従った安定化溶液そのものは、いかなる非特異的偽陽性結果をも引き起こさない。
現在、市販されているAdnaTestは、血液が2~8℃(14)で保管される場合、EDTAまたはACD-A収集血液のいずれかと共にそれぞれ採血後4及び30時間以内に用いることが推奨されている。アッセイの感度は、90%と報告されている。本明細書で提示するデータは、本開示に従った安定化組成物を含むチューブに収集した血液においては、30時間以内に100%の感度、及び2~8℃で48時間保管した後に90%の感度を示す。
【0200】
(c)CTC保存及び検出について、本開示の安定化技術と、他の市販されている安定化技術との比較
次に、最大72時間保管し、本開示に従った安定化組成物を含むチューブ(PAXgene Blood ccfDNAチューブ)に採集したサンプル、及び、Supplier Streck(CTC保存のためにも意図されている)のCell-Free DNA BCTに採集したサンプルからのCTC検出の効率を評価した。
以前の実験と同様に、5mLの血液当たり20個のLNCaP95細胞をCTCモデルとして使用した。PAXgene Blood ccfDNA安定化サンプル(n=11)は2~8℃で保管し、Cell-Free DNA BCT(n=8)に(メーカーの推奨に従い)室温で収集したサンプルをその後、上述のとおり、スパイクの3時間、24時間、48時間、及び72時間後に、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7により処理した。
保管の72時間後に、事例の91%において、PAXgene Blood ccfDNA安定化サンプルにおいてスパイクした腫瘍細胞を効率的に検出することができた(図4Aを参照されたい)。対照的に、Supplier StreckのBCTに収集された血液においては、スパイクした腫瘍細胞の検出は保管3時間以内の血液においてのみ陽性であった(図4Bを参照されたい)。PAXgene Blood ccfDNAチューブの非架橋血液安定化の化学とは対照的に、supplier StreckのCell-Free DNA BCTは架橋剤ベースの細胞保存に依存する。したがって、RNA検出が妨げられる。得られたデータは、他者によるこれらのBCTでなされた観察に一致する(CTC-mRNA(AR-V7) Analysis from Blood Samples-Impact of Blood Collection Tube and Storage Time.Luk et al,Int J Mol Sci.2017 May 12;18(5)を参照されたい)。
さらなる実験により、室温で保管した後にCTCも富裕化可能であることがさらに示された(図4C及び4Dを参照されたい)。
【0201】
2.3 オールフロムワン(all-from-one)溶液との関係における、CTC富裕化のための、PAXgene Blood ccfDNAチューブとParsortix装置との適合性。
研究設計
PAXgene ccfDNA安定化血液の、Parsortix (Angle plc、Guildford、UK)富裕化機器との一般的な適合性、及び、(非)安定化血液由来のスパイク細胞の捕捉効率を本実験で試験した。Parsortix技術は、細胞を顕微鏡サイズの使い捨てカセットに捕捉することにより、血液細胞成分から、大きく変形し得る細胞、及び、さほど変形しない細胞(例えばCTC)を富裕化する。細胞をカセット内で染色及び計数することができ、逆流システムを使用して回収することができる。
本実験では、CTC富裕化のためのモデルシステムアプローチを使用した。1名の健常ドナーから、血液をEDTAチューブ及びPAXgene Blood ccfDNAチューブ中に採取した。血液をまず、5mL(EDTA)または6mL(PAXgene)サンプルに小分けし、PAXgene ccfDNAチューブ中のさらなる液体(チューブに含まれる安定化溶液)を検討した。次に、サンプルを全て、緑色蛍光タンパク質を安定して発現する2000個の細胞(MCF7-GFP細胞として購入)でスパイクした。本細胞株の利点は、捕捉した細胞を、さらに染色または処理することなく富裕化カセット内で蛍光顕微鏡の下で検出及び計数可能であることである。
【0202】
EDTA血液サンプル及びPAXgene安定化血液サンプルを、収集日(TTP0)にParsortix装置で処理し、カセットに捕捉されたGFP細胞の数を計数した。保存していないEDTA血液からCTCを捕捉することは機器の供給元により推奨されているワークフローであり、依然として臨床研究で用いられる主たるサンプル品質であるため、EDTA血液は参照としての役割を果たす。
室温で3日間血液保存した後で、細胞をPAXgene安定化全血(PAXgene)から富裕化するか、または全血を一度に遠心分離にかけ(15分、1900xg)、血漿を廃棄して、血液を3mLのPBSで再構成して粘度を回復させた(PAXgene再構成物)後でParsortix処理を行った。カセットに捕捉されたGFP細胞の数を再び蛍光顕微鏡を使用して計数した。
【0203】
結果
収集日において、捕捉されて計数した細胞の数は、PAXgene ccfDNAチューブ内で収集した血液においてEDTA対照(PAXgeneに対して103%)と比較して同様であった。血液処理の前の遠心分離工程に関係なく、保存の3日後に、匹敵するがわずかに多くの数の細胞をカセット中に捕捉して計数することができた(図5を参照されたい)。
結論
PAXgene Blood ccfDNAチューブで収集した血液は、Parsortix細胞富裕化ワークフローと適合性があり、室温で3日間保管した後であっても、及び血漿分離した後であっても処理することができる。
したがって、本開示に従った安定化技術を使用して収集及び安定化した血液サンプルから、オールフロムワン溶液は、ccfDNA、加えてCTCを得るための両方に有利に適している。
【0204】
3.実施例3:細胞トランスクリプトーム(細胞のRNA内容物)を解析するために、PAXgene Blood ccfDNAチューブを使用することができる
CTC富裕化及びRNA解析のための、原理証明実験を章2.2に示す。AdnaTestは、RT-PCRを用いるRNAベースのCTC検出に依存する。章2.2で上述したスパイク腫瘍細胞の検出が成功したことは、血液がPAXgene Blood ccfDNAチューブに収集された場合に、個別の細胞のRNA含有量が少なくとも72時間保存されることを示す。
【0205】
4.実施例4:循環トランスクリプトーム(細胞外小胞からのRNA)の解析のためにPAXgene Blood ccfDNAチューブを使用することができる
研究設計
本開示の安定化技術で安定した血液の、その後のEV解析との適合性を、以下の研究で示した。PAXgene Blood ccfDNAチューブを再び血液安定化のために使用した。
4名の健常なドナーからの全血を、10mLのK2-スプレー乾燥EDTAチューブ(BDバキュテイナー)、10mLのStreck cfDNA BCT、及び、10mLのPAXgene Blood ccfDNAチューブの、3つの異なる血液収集管にそれぞれ収集した。
収集後、各チューブから5mLの血液を処理した。二重遠心分離により血漿を作製し、0.8μmフィルターで濾過した。exoRNeasy Serum/Plasma Maxiキット(QIAGEN)に従いRNAを単離し、20μLの水で溶出した。
精製したRNAを、294bp断片の増幅についてRT-qPCR βアクチンアッセイにより解析した。解析は、Quantitect Primer/Probe RT PCR Master Mix及び2μLの溶出液を用いて実施した。
【0206】
βアクチンのコピーにおける相対差を測定するための定量的リアルタイムPCRアッセイ
ccfDNAの量を測定するために、RGQ(QIAGEN)リアルタイムPCRアッセイを、Rotor-Gene Q機器上で2μLの溶出液を用いて行った(表3)。QuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN GmbH)を用いて、20μLのアッセイ体積においてヒトβアクチン遺伝子の294bpの断片を増幅する。
【表3】
【0207】
結果
細胞外小胞(EV)は、本開示に従った安定化組成物を含有する血液収集管に収集した全血から作製した血漿から富裕化することができる。精製EVから得られたRNAを、阻害されることなくRT-qPCRにより解析することができた(図6を参照されたい)。
対照的に、Streck cfDNA BCTに収集した全血由来のEVから単離したRNAを解析すると、Ct値の増加、したがって、不利な結果がもたらされたが、おそらく最も高い可能性としては、ホルムアルデヒド放出剤ベースの安定化技術により誘発されたRNA分子上での架橋によるRT-qPCRの阻害のためであろう。
【0208】
5.実施例5:PAXgene Blood ccfDNAチューブで安定化したサンプルをマルチモード試験のために使用することができる
本実施例は、本開示に従った安定化技術で収集及び安定化した単一の血液サンプルから得られた、(1)CTC、(2)ccfDNA、及び(3)白血球由来のゲノムDNA(gDNA)、の解析のための、3分岐型(3 from 1)ワークフローを用いる例により後でさらに示されるように、安定化体液に含まれる異なる生物学的標的のマルチモード試験が実行可能であることを示す。
AdnaTest Select手順により、ビーズ結合CTC(CTC枯渇血液)回収後の、全血残留物の収集が可能となる(図7を参照のこと)。したがって、収集した血液におけるマルチモード試験の実行可能性を示すために、上述した全ての実験からのCTC枯渇細胞をPAXgene Blood ccfDNAチューブに収集した。PAXgene Blood ccfDNAチューブにより、ccfDNA及び白血球gDNAの同時解析が可能となる。章2.2に列挙する実験からのCTC枯渇細胞をccfDNA単離のために使用可能であり、収率は有利なことにCTC枯渇により影響を受けなかったことが、続いて明らかにされた。それぞれのドナーから並行して収集して5mLサンプルに小分けし、20個のLNCaP95細胞でスパイクし、同じ時間2~8℃で保管したがCTC富裕化のために使用しなかった対照サンプルを、ccfDNA及びgDNA収率の参照として使用した。
【0209】
それぞれの対照サンプルと共に、CTC枯渇細胞サンプルを、1900xgで15分間遠心分離にかけた。得られた血液画分(血漿及び細胞画分)を、それぞれccfDNA抽出(1900xgにおける10分間の、2回目の遠心分離後)、及びgDNA単離のために使用した。
CTC枯渇血液サンプル及び血漿作製のみに使用した血液からのccfDNAの収率を、表4に示す。統計分析は、アーム間でも、同一実験のアーム内の最初と最後の試験時点においても、ccfDNA収率のいかなる有意差をも明らかにしなかった(図8を参照されたい)。したがって、CTC枯渇は、収率、及びin situ安定性の観点において、ccfDNAの収率に著しい影響を有しなかった。
【表4】
【0210】
同様に、CTC枯渇細胞サンプル(n=8)の遠心分離後に得られた細胞画分から抽出したgDNAの収率は、PAXgene ccfDNAチューブで安定化した血液に関して報告した値の範囲内にあった。200μL細胞画分から、CTC枯渇のないサンプルからの9.43μgのDNA(7.66~11.23μgの範囲)と比較して、CTC枯渇サンプルから平均で10.3μgのgDNAを単離することができた(5.31~21.97μgの範囲)。スパイク及び処理後3時間においても、全体においても(全時点、3~72時間)、CTC枯渇から抽出したgDNAの収率と、血漿作製のみに使用した血液との間に、統計的有意差はなかった(図9を参照されたい)。抽出gDNAの純度は、CTC枯渇及び対照サンプル(即ち、全血から作製)に対してそれぞれ(全時点の平均)、1.86±0.05及び1.85±0.06であり、これらは予想した値の範囲内である(1.7~1.9)。
【0211】
材料及び方法
血漿及び細胞画分の作製
PAXgene Blood ccfDNAチューブからの血漿を、メーカーの指示に従い作製した。簡潔に述べると、細胞を1900xgで15分間遠心分離にかけた。細胞画分及び血漿画分を分離した。血漿含有画分を、1900xgで10分間さらに遠心分離にかけ、それぞれのペレットを乱さずに血漿を収集し、-20℃で保管した。gDNA抽出のために処理するまで、最初のスピン後に得られた細胞画分をすぐに-20℃で凍結した。
【0212】
ccfDNAワークフロー
QIAsymphonyでのccfDNAの自動精製
1.6~2.0mLのPAXgene血漿から、ccfDNAを、QIAsymphony機器(QIAGEN)にてQIAsymphony PAXgene Blood ccfDNAキット(共にPreAnalytiX)を使用して、磁気ビーズベースの抽出手順により単離した。
18S リボソームDNAコピーについての絶対差を測定するための定量的リアルタイムPCRアッセイ
66及び500bp断片のヒト18S rDNA遺伝子の絶対的定量化を、CTC枯渇及び非スパイク血液サンプル由来のccfDNAサンプルについて検量線を用いて行った(図8、及び、図11に示すワークフローを参照されたい)。ABI 7900HT Fast Real-Time PCR-System(ThermoFisher)上でQuantiTect Multiplex PCR Kit試薬(QIAGEN)を用いて、20μLのアッセイ体積にて8μLの溶出液でリアルタイムPCRアッセイを行った。計算した66bp及び500bpの断片の量を、使用した血漿の体積に対して正規化した。
【0213】
gDNAワークフロー
QIAsymphonyでのgDNAの自動精製
血漿分離後に得られた、200μLの分離した細胞画分からのゲノムDNAを、QIAsymphony機器(QIAGEN)上でQIASymphony DSP DNA Mini Kitを用いる磁気ビーズベースの抽出手順により単離した。溶出体積は、サンプル当たり200μLであった。
gDNAの定量化、及びgDNA純度の評価
gDNAの吸光度をNanoDrop8000(Thermo Scientific)で測定した。吸光度を260nm、280nm、及び320nmで測定した。gDNA(μg/mL)の濃度を、「50×(A260-A320)」として計算し、総量をサンプルの体積を乗じた濃度として計算した。抽出gDNAの純度を、280nmにおける補正吸光度に対する、260nmにおける補正吸光度の比率、即ち(A260-A320)/(A280-A320)として計算した。純粋なDNAは、1.7~1.9のA260/A280配給量を特徴とする。
【0214】
全体の結論-実施例1~5
CTC及び他の希少細胞を含む細胞は、非安定化血液において急速に分解する。本開示の方法で使用する安定化技術(ここでは、PAXgene Blood ccfDNAチューブに基づいて示した)により、ccfDNAレベル、CTC、及び細胞外小胞の効果的な安定化及び解析が可能となり、これにより、安定化サンプルから富裕化可能な、複数の異なる生物学的標的の並行解析が可能となる。本明細書で実証されるとおり、本開示に従った安定化技術により、細胞抗原構成、ゲノム、及びトランスクリプトームレベルの安定化、加えて、血液循環トランスクリプトームの安定化が可能となる。
このように、本発明に従ったワークフローは、本発明に従った安定化組成物を含む単一の収集管に収集した、個別のリキッドバイオプシー検体(CTC、及び他の希少細胞、ccfDNA、ctDNA、EV、白血球由来のgDNA、細胞亜集団など)、ならびに、同一の血液サンプル由来のこのような検体の組み合わせの解析に好適である(図10を参照されたい)。例示的なワークフローを図11にも示す。
【0215】
一実施態様に従うと、本開示に従った血液サンプルベースのワークフローは、
- 本開示に従った安定化組成物を含む収集管(例えば、PAXgene Blood ccfDNAチューブ、例えば少なくとも5mL、例えば10mLの採血体積;安定化溶液を含む体積、例えば11.5mL)への血液収集、実験室への移動を含む。
- 安定化した血液の一部をCTC富裕化のために使用する(例えば5mL)。未処理血液(例えば、6.5mL)、及び、CTC富裕化後の残留血液(約4.5mL)を血漿作製のために使用してよい(細胞枯渇画分)。血漿作製は、2段階の遠心分離手順を使用して実施することができる。
○ 例えば最初の遠心分離後に得られた細胞画分を、PBMCからの全gDNA抽出のために、または、標的PBMC亜集団からのDNA抽出のためのFACS選別のために使用する。
○ 作製した血漿をさらに2回目の遠心分離工程で遠心分離にかける。得られた血漿をさらに、ccfDNA及び/またはEV単離のために小分けすることができる。
- 富裕化CTCをさらに処理することができる。例えば、解析(例えば、CTC転写物の検出)のために、富裕化CTCを溶解して細胞内核酸(例えばRNA、特にmRNA)を単離することができる。さらに、富裕化CTCから得られた細胞内核酸を配列決定することができる。
【0216】
一実施態様に従うと、本開示に従った血液サンプルベースのワークフローは、
- 本開示に従った安定化組成物を含む収集管(例えば、PAXgene Blood ccfDNAチューブ、例えば少なくとも5mL、例えば10mLの採血体積;安定化溶液を含む体積、例えば11.5mL)への血液収集、実験室への移動、
- 安定化血液サンプルを、遠心分離により(例えば、2段階の遠心分離手順を使用して)血漿と細胞画分に分離すること、を含む。
○ 得られた血漿のアリコートを、ccfDNAの直接精製のために使用する。血漿のさらなるアリコートを、EVの富裕化、及び、その後の、EVからのRNAの単離のために使用する。
- 細胞画分の1つのアリコートをgDNAの単離のために使用することができる。あるいは、またはさらに、CTCを捕捉し、CTCを枯渇させた残留PBMCからの、その後のgDNA単離のために、細胞画分のアリコート(好ましくは、その大部分)を使用する。
- 再び、富裕化CTCを上述のとおりにさらに処理することができる。
【0217】
6.実施例6:本発明に従ったCTC富裕化及び解析のための、安定化技術のさらなる使用
6.1.CTC富裕化のための、安定化技術とフィコール密度遠心分離との組み合わせに関するさらなる実験
フィコール密度遠心分離は、実施例2と併せて上述しており、簡潔さのために当該実施例を参照する。前述したものと同一の方法論を用いて、収集してPAXgene Blood ccfDNAチューブに保管した血液からの単核球(MNC)富裕化の最適化を目的とするさらなる実験を行った。得られる界面層は、CTC及び他の希少な有核細胞を含むPBMC画分を含有する。
実施例2では、PAXccfDNA安定化血液では、EDTA保存血液(参照として採取)について典型的に観察されるような血漿/PBMC/赤血球層が形成されないことが観察された。したがって、EDTAサンプルに対するMNC回収の相対的比較において、PAX保存血液サンプルは多くの場合、EDTAサンプルについて達成可能なMNC回収の75%しか示さない(図12)。
本発明の技術により安定化したサンプルを処理する場合にMNC回収を改善するために、細胞密度の回復を目的とする、さらなる、また種々の溶媒を評価した。
【0218】
結果
実施例2に加えて、さらなる濃度を他の補助液と同様に試験した。PBSのみで希釈したPAXサンプルとの比較を行った。結果を下表5に示す。
【表5】
【0219】
これらの観察に基づき、種々の低張性及び等張性溶液を、PAXccfDNA安定化血液細胞の密度を回復するために試験した。試験した溶液について十分かつ優れた回収率が観察され、このことは、アプローチの成功を示した。
表5で規定したリード希釈溶液と同様の質量オスモル濃度(例えば、±20%、±15%、または±10%)を有する異なる希釈溶液も使用可能であり、所望の層パターンの達成、ならびに、少なくとも50%、少なくとも60%、及び好ましくは少なくとも65%のWBC回収率を達成する明白な効果を、慣例的な実験により明らかにすることができる。
【0220】
6.2.CTC検出のための、PAXgene Blood ccfDNAチューブと、AdnaTest ProstateCancerPanelの組み合わせに関するさらなる実験
AdnaTest CTC富裕化、ならびに、関連する材料及び方法は実施例2と併せて上述されており、ここでは、簡潔さのために当該実施例を参照する。富裕化細胞の検出は腫瘍細胞特異的転写物の検出に左右される。メーカーの推奨に従い、新たに収集したEDTA血液(採血後4時間以内)、およびACD-Aチューブに収集して+4℃で最大30時間保管した血液を使用することができる。
複数の実験において、PAXgene Blood ccfDNAチューブに収集され保管された血液が、3つの異なるAdnaTestと適合性があるか否か、及び、血液保管の時間、保管条件(室温、RT vs 2~8C)のどの程度まで適合性があるか、ならびに、どのLOD(20個の腫瘍細胞/5mL血液vs5個の細胞/5mL血液)まで適合性があるかを評価した。
【0221】
A.PACgene Blood ccfDNAとAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7の組み合わせ
本セットの実験では、スパイクした腫瘍細胞を検出するための、本開示に従った安定化技術を用いて収集及び安定化した血液とAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7との、発見された上述の適合性をさらに評価し、確認した。したがって、Adnatest ProstateCancerPanel AR-V7を用いる複数の実験において、モックサンプル(20個のLNCaP95細胞/5mL血液)における腫瘍細胞検出率は、2~8℃での30時間以内の保管で100%であり、72時間後に93%にまで低下したことが示された(図13を参照されたい)。120時間後であっても、67%が依然として検出された。ここでも、これにより、本開示に従った安定化溶液そのものは、いかなる非特異的な偽陽性結果をも引き起こさないことが確認され、したがって、本明細書に記載するワークフローに上手く組み込むことができる。
保存条件(室温vs2~8℃)に関して試験性能を評価したところ、試験性能のわずかな低下が観察された(室温保管したサンプルにおいては75%の試験陽性vs2~8℃で保管したサンプルにおいては84%)(図14A及び14Bを参照されたい)。しかし、室温で保管した後でもCTC全体を富裕化することができた。
【0222】
次に、試験の検出限界(LOD)を評価した。PAX ccfDNAチューブに収集したサンプルを、5または20個の細胞/5mL血液のいずれかでスパイクした。結果は、20個の細胞/5mL血液でスパイクしたサンプル(図15Bを参照されたい)がよりよく検出され、5個の細胞/5mL血液(図15Aを参照されたい)は、より短い保管時間においてのみ十分であることを示している。より多くの数の細胞、例えば20個の細胞/5mLを使用してワークフロー全体における高感度(>90%)を達成するのが好ましい(図15A及び15Bを参照されたい)。
最後に、血漿作製の種々のレジメンを試験した。本発明の実施例を通して使用したワークフローにおいて、血液サンプルをまずCTC富裕化のために使用し、CTC枯渇血液を、さらなるマルチモード試験用の血漿作製のために使用した(図16Aを参照されたい)。代替の血漿作製法において、第1の工程として血漿を作製し(1900gで15分間)、次いで、細胞画分をPBSにより初期容量まで再構成し、CTC富裕化のために使用した(図16Bを参照されたい)。検出した腫瘍細胞の結果を図16に示す。具体的には、両方の血漿作製法において、最大72時間の保管時点で、スパイクした腫瘍細胞の100%が検出された。このことは、本発明に従った方法により安定化したサンプルを、CTC富裕化及び検出に負の影響を及ぼすことなく、両方の種類の血漿作製法に使用することができることを示している。
これと一致して、血漿作製法の比較に関する同一の実験を、EZ1に対するプロトタイプのAdnaTestにより、EZ1機器(自動ソリューション)で行ったときに、同様の結果が観察された(図17A及び17Bを参照されたい)。
血漿作製のいずれの方法(即ち、マルチモード利用)も適用可能であることを、本実施例の結果は示す。
【0223】
B.PAXgene Blood ccfDNAチューブとAdnaTest ProstateCancerの組み合わせ
本実施例では、AdnaTest ProstateCancer(「ProstateDirect」とも呼ばれる)を、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7と比較する。AdnaTest ProstateCancerは、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7よりも感度が低く、エンドポイントPCR評価に依存する(一方で、AR-V7試験はRT-PCR試験である)。
この比較において、上述の実験で使用したサンプルを、AdnaTest ProstateCancer評価にも使用した。それ故、簡潔さのため、前記対応する章を参照する。
【0224】
比較結果を図18に示し、AdnaTest ProstateCancer Panel AR-V7によりなされた発見を確認する。具体的には、以下の結果が得られた:
- モックサンプル(20個のLNCaP95細胞/5mL血液)における腫瘍細胞検出率は、2~8℃での30時間以内の保管で100%であり、72時間後に93%にまで低下したことが示された(AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7については図18Aを、AdnaTest ProstateCancerについては図18Bを参照されたい)。
- 保存条件(室温vs2~8℃)に関して試験性能を評価したところ、試験性能の僅かな低下が観察された(AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7:室温保管サンプルに対しては75%の試験陽性vs2~8℃で保管したサンプルに対しては84%;AdnaTest ProstateCancer:室温保管サンプルに対しては50%の試験陽性vs2~8℃で保管したサンプルに関しては80%;それぞれ、図18C及び18Dを参照されたい)。ここでもまた、室温で保管した後でもCTC全体を富裕化することができた。
- 上記のように、5個の細胞/5mL血液のいずれかでスパイクし、AdnaTest ProstateCancerPanel(図18Eを参照)またはAdnaTest ProstateCancer(図18Fを参照)で試験することにより、検出限界(LOD)を評価した。20個の細胞/5mL血液(上を参照)でスパイクしたサンプルにより、よりよい検出がもたらされたことを結果は確認し、このことは、5個の細胞/5mL血液は、非常に短い保管時間においてのみ十分であることを示している。好ましくは、より多くの細胞数、例えば20個の細胞/5mLが両方の試験で検出される。
- 最後に、異なる血漿作製法を試験した。具体的には、血漿を第1の工程として作製し、細胞画分をCTC富裕化のために使用する代替の血漿作製法を使用した。富裕化CTC画分を、AdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7(図18Gを参照)、またはAdnaTest ProstateCancer(図18Hを参照)のために使用した。代替の血漿作製法により、最大48時間の保管について、スパイクした腫瘍細胞の100%の検出が可能となり、このことは、本発明に従った方法により安定化したサンプルを、CTC富裕化及び検出に負の影響を及ぼすことなく、両方の種類の血漿作製法に使用することができることを示している。したがって、有利なワークフローを提供することができる。
【0225】
6.3.PAXgene Blood ccfDNAチューブとAdnaTest ColonCancerの組み合わせ
AdnaTest ColonCancerの性能を、AdnaTest ProstateCancer及びAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7と併せて、上述のとおりの同様のスパイクインシステムで試験した。具体的には、5mLの健常なドナー血液当たり20個のT84細胞をスパイクした。PAXgene Blood ccfDNAチューブを使用してサンプルを2~8℃で保管して、ACD-A BCTに収集して同様にスパイクしたサンプルを用いた試験性能と比較した。性能を、スパイク後3時間、24時間、48時間、及び72時間の時点で試験した。
結果は、本明細書に記載するワークフローで使用するのが好ましいPAXgene Blood ccfDNAチューブは、AdnaTest ColonCancerと適合性があり、サンプルの72時間以内の保管の際に腫瘍細胞の検出が可能である(100%感度)ことを示す(図19Aを参照されたい)。さらに、3時間及び24時間におけるACD-A BCTに匹敵する結果が得られた(図19Bを参照されたい)。
【0226】
7.実施例7:オールフロムワン(all-from-one)溶液との関係における、PAXgene Blood ccfDNAチューブの、CTC富裕化のためのParsortix装置との適合性。
実施例2で既に試験した、ParsortixベースのCTC(スパイクインモデルとしての、スパイクした腫瘍細胞)検出において、以下の選択肢をさらに評価した:
A.腫瘍細胞の免疫蛍光検出に基づく腫瘍細胞の検出-上皮腫瘍特異的抗原の染色。
B.トランスクリプトームシグネチャーに基づく、スパイクした腫瘍細胞の検出(AdnaTest AR-V7パネルによるRT-PCR)。
Parsonix装置、ならびに、関連する材料及び方法についてのさらなる情報に関しては、簡潔さのために実施例2を参照する。
【0227】
A.腫瘍細胞の免疫蛍光(IF)検出に基づく腫瘍細胞の検出-上皮腫瘍特異的抗原の染色
Parsortix機器(Angle PLC)は、腫瘍細胞の定量的(IFベースの)検出のための2つのモードを提供する。CTC富裕化プログラムの完了後、CTC富裕化画分を収集し、約100μLの濃縮物として供給する。この濃縮物を、さらなるIF染色及び顕微鏡調査のために顕微鏡スライドに配置する。あるいは、抗体染色を分離カセットで直接行うことができる。後者のアプローチは、回収、遠心分離、及び染色工程によるCTCの潜在的なロスが減少するため、より効率的である。スパイクした腫瘍細胞(50個のMCF7細胞)は、CTC富裕化画分の回収後、またはカセット内染色のいずれかにおいて、汎サイトケラチンの免疫蛍光染色により検出した(それぞれ、図20A及び20Bを参照されたい)。スパイクした血液の保管は(カセット内染色においても、回収した細胞においても)細胞の染色性に影響を及ぼさない。スパイクした腫瘍細胞は、あらゆる制限なく染色可能のようである(図21を参照されたい)。したがって、細胞は容易に富裕化及び染色可能であり、それ故、本明細書に記載するマルチモードワークフローに有用である。
【0228】
B.トランスクリプトームシグネチャーに基づく、スパイクした腫瘍細胞の検出(AdnaTest AR-V7パネルによるRT-PCR)
IF染色の代替として、富裕化腫瘍細胞は、そのトランスクリプトームシグネチャーに基づき検出することができる。したがって、富裕化CTCは、Parsortixの実行後に回収され、本明細書で参照される、上述したAdnaTest ProstateCancerPanel AR-V7(検出パーツのみ)を使用して検出した。図22に示すように、PAX ccfDNA収集血液サンプルにスパイクし、最大3日(TTPは日数を示す)保管した細胞が、EDTA収集サンプルにスパイクしたかのように効率的に検出可能である。これらのデータは、PAXgene Blood ccfDNAチューブと、IF染色またはRT-PCRベースアッセイのいずれかによるCTCの富裕化のためのParsortix機器との適合性を強調する。
【0229】
8.実施例8:PAXgene Blood ccfDNAチューブで収集した血液サンプルに由来する、循環無細胞RNA(ccfRNA)、循環無細胞DNA(ccfDNA)、及びゲノムDNA(gDNA)のマルチモード解析
血液由来の循環無細胞DNA(ccfDNA)の他に、循環無細胞RNA(ccfRNA)もまた、バイオマーカー研究のために重要性が高まっている。両方の分析物からの知見を組みあわせると、背景にある分子プロセスの理解が深まると見込まれる。実施例8は、PAXgene(登録商標)blood ccfDNAチューブを用いて収集した1つの血液サンプルからの、ccfRNA、ccfDNA、及びgDNAのマルチモード抽出及び解析を示し、これにより、本発明に従った有利な安定化組成物がもたらされる。
健常な同意済ドナーからの全血サンプルを、PAXgene blood ccfDNAチューブ(PreAnalytiX)、BDバキュテイナー(登録商標)K2EDTAチューブ(BD)、無細胞DNA BCT(登録商標)(Streck(登録商標))、RNA Complete BCT(商標)(Streck)、及び、LBgard(登録商標)血液チューブ(Biomatrica)に収集した。血漿は、採血直後、または、最大3日間の保管後に、二重遠心分離により作製した。図23に示すように、無細胞核酸を抽出した。
【0230】
結果
EDTA及びPAXgene blood ccfDNAチューブ中での血液保管後の、血漿からのccfRNA収率を、図24A(TTP0における比較)、及び図24B(全血保管時の相対倍率変化)に示す。定量的PCR解析により、PAXgene blood ccfDNAチューブ及びEDTAチューブに収集した血液の血漿に由来するmiRNA、mRNA、及びccfDNA標的の、同等の収率が明らかとなった。PAXgene blood ccfDNAチューブにおける最大3日間の血液保管後、RNA標的(それぞれ、exoRNeasy及びmiRNeasyで抽出した、小胞間及び小胞外の両方)は依然として検出可能でありETDAよりも安定化が改善された。
安定化チューブ中の血液保管後の、血漿におけるmiRNA収率を図25A(TTP0における比較)、及び図25B(全血保管時の相対倍率変化)に示す。保管の3日後におけるTTP0(0日目)における高いCT値及び低いRNA安定化効率により示されるように、RNAの抽出及び検出感度はホルムアルデヒド放出配合物(Streck及びBiomatrica)を含有する血液収集管により影響を受けた。
ゲノムDNAの収率及び完全性を図26に示す。さらに、PAXgene Blood ccfDNAチューブにより、全血保管3日後の血漿分離後の血液細胞から効率的にgDNAを抽出することが可能となり、安定したDNA完全性指標により示されるようにDNAはインタクトであった。対照的に、gDNAの収率及び完全性はStreck RNA及びBiomatricaチューブでの収集及び保管により低下した。
【0231】
実施例8のマルチモード解析によって提供される結果は、本発明の安定化組成物の非架橋技術は非常に有利であり、単一のサンプルからの、無細胞miRNA、mRNA、ccfDNA、及びさらに、ゲノム細胞gDNAの単離及び解析を可能にすることをさらに示す。加えて、及び、他の実施例により示されるように、CTCなどの、さらなる希少細胞集団を富裕化及び検出することができる。本発明は、リキッドバイオプシー調査で非常に有用な、有利なマルチモードワークフローを提供することを、データ全体は示す。
【0232】
他の安定化技術は、本明細書に含まれる複数の実施例により示されるように、注目する試験標的の全血保管後に、解析効率が損なわれたことを示した。
図1
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図4-1】
図4-2】
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【配列表】
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【国際調査報告】