(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-21
(54)【発明の名称】STRジェノタイピングのためのプローブおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221114BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20221114BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221114BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20221114BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518187
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2020076410
(87)【国際公開番号】W WO2021058470
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514185611
【氏名又は名称】ユニベルシテイト ゲント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT GENT
【住所又は居所原語表記】Sint-Pietersnieuwstraat 25, B-9000 Gent, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】タイトガット,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ニエーヴェルブルグ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ディフォース,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス,セッネ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA17
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR82
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、例として法医学の場における、DNA型鑑定の分野に関する。より具体的にいうと、本発明は、グアニンの蛍光クエンチング特性を頼りに、多型性のショートタンデムリピートをジェノタイプするためのプローブおよび方法を開示する。そのためには、増幅されたDNA試料と特異的に設計されたプローブとの間の相補性の程度は、ハイブリダイゼーションまたは融解時にプローブに付着したフルオロフォアの蛍光強度を測定することによって評価することができる。本発明のプローブおよび方法は、携帯可能で安価なDNA分析装置での使用に適しており、また、食品偽装、診断およびその他諸々のような、法医学以外の分野でも適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集団内のある短いタンデムリピート遺伝子座のアレルの可変性(variability)を表す複数のプローブであって、各プローブは5’から3’へまたは3’から5’へ以下からなる:1)ヌクレオチドを含み、関心対象の特定のDNA配列のすぐ隣の領域とアニーリングし、および第2の隣接領域よりも多くのヌクレオチドを含有する、第1の隣接領域、2)少なくとも1のショートタンデムリピートを含み、および試料内でそのショートタンデムリピート領域とアニーリングする、関心対象の特定のDNA配列、および3)少なくとも1のヌクレオチドを含み、少なくとも1のフルオロフォアを含む、第2の隣接領域、ここで該フルオロフォアは、該試料の効率的なやり方で該フルオロフォアをクエンチング可能である特定のヌクレオチドに直に相補的な位置で該第2の隣接領域の残基に付着しているか、または、試料内で該第2の隣接領域のハイブリダイゼーション時にそれが該試料の効率的なやり方で該フルオロフォアをクエンチング可能である1以上の特定のヌクレオチドの近傍に持ってこられるように該位置に対して上流もしくは下流のいずれかの隣のヌクレオチドに連結しているかまたは該位置に対して上流もしくは下流のいずれかに2個分の位置離れたヌクレオチドに連結している、からなる、前記複数のプローブ。
【請求項2】
フルオロフォアが、第2の隣接領域のシトシン残基に付着しており、および、該フルオロフォアをクエンチング可能である特定のヌクレオチドがグアノシンである、請求項1に記載の複数のプローブ。
【請求項3】
ヌクレオチドが、核酸類似体である、請求項1または2に記載の複数のプローブ。
【請求項4】
フルオロフォアが、フルオレセイン(FAM)、ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(TET)、2,7-ジメトキシ-4,5-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)または6-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)を含むリストから選ばれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の複数のプローブ。
【請求項5】
サポート上に固定されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の複数のプローブ。
【請求項6】
試料内のショートタンデムリピートをジェノタイプするための方法であって、以下のステップ:
DNAを含む試料を提供すること、
増幅されたDNA配列を得るために、関心対象の特定のDNA配列を含む該試料内でDNAを増幅させること、
該増幅されたDNA配列に請求項1~5のいずれか一項に記載された複数のプローブを添加することで該プローブにアニーリングされた一本鎖DNA配列の二重鎖を得ること、および
該二重鎖を変性させ、これに続いて、該プローブのフルオロフォアの蛍光を継続的に測定しながら該変性された二重鎖をゆっくりと冷却するかまたは該プローブのフルオロフォアの蛍光を継続的に測定しながら該二重鎖をゆっくりと加熱すること、ここで、蛍光強度の減少または蛍光強度の増大は、それぞれ、特定の完全に相補的なショートタンデムリピートが該試料中に存在するか否かについての情報を提供する、を含む、前記方法。
【請求項7】
試料内でDNAを増幅させることが、増幅された一本鎖DNA配列を得るために非対称PCRによって行われる、請求項7に記載のジェノタイプするための方法。
【請求項8】
試料内でDNAを増幅させることが、増幅された一本鎖DNA配列を得るために、ビオチン標識されたプライマーまたはその後のラムダエクソヌクレアーゼ消化を使用しての対称PCRによって行われる、請求項7に記載のジェノタイプするための方法。
【請求項9】
プローブが、溶液において添加されるか、またはサポート上に固定される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野
本発明は、例として法医学の場における、DNA型鑑定(DNA-fingerprinting)の分野に関する。より具体的にいうと、本発明は、いくつかの特定のフルオロフォア上のいくつかのヌクレオチドの蛍光クエンチング特性を頼りに、多型性のショートタンデムリピートをジェノタイプするためのプローブおよび方法を開示する。そのためには、増幅されたDNA試料と特異的に設計されたプローブとの間の相補性の程度は、ハイブリダイゼーションまたは融解時にプローブに付着したフルオロフォアの蛍光強度を測定することによって評価することができる。本発明のプローブおよび方法は、携帯可能で安価なDNA分析装置での使用に適しており、また、食品偽装、診断およびその他諸々のような、法医学以外の分野でも適用することができる。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
DNA型鑑定とよばれるプロセスで、DNAの証拠に基づいて個体を同定するためには、DNA多型、例として一塩基多型(SNP)またはショートタンデムリピート(STR)、を分析しなければならない。個体とはヒトを表すこともできるが、動物や他のDNAを含有する種も表すことができる。
【0003】
ゲノムにおける多型は、膨大な量の情報を含有する。遺伝子多型の最も一般的なタイプは、SNPとして分類される。ゲノム中のある位置でのSNPの存在は、ある集団内で、この集団のすべての個体においてこの特定の位置で同じヌクレオチドが生じないことを意味する。SNPは、ある集団内のこの位置で2つの可能なヌクレオチドが生じることを意味する、バイアレルのもの(bi-allelic)であり得る。最近、バイアレルのSNPよりも識別力のあるトリアレルまたはテトラアレルの(tri- or tetra-allelic)SNPの存在に、ますます注目が集まっている[1]。ゲノム中のある位置での1のヌクレオチドの挿入または欠失によって引き起こされる変異は、ときどきSNPとしても表されるが、インデル(「挿入/欠失(insertion/deletion)」の略)としてもまた知られている。
【0004】
法医学的DNAジェノタイピングは、今日では、殆ど専らSTRを調べることによって行われる。これらは、数回リピートされる短い配列(少数のヌクレオチド、典型的には4)の領域である。STR領域は、リピートの数に関して多型性であり、ひいては、あるSTR領域のあり得るアレル(allele)を定義する[2]。
ヒトゲノムにおいて、この特定のタイプの多型を含有する多数の領域が同定される。法医学の目的のためのヒトゲノムの非コード領域に主に位置する、数多くのSTR遺伝子座を分析することによって、統計的に一意のプロファイルが得られる。欧州では、典型的には、欧州標準セット(European Standard Set)(ESS)と呼ばれる12のSTRのパネルを調べていた。このパネルは、今は5の追加の遺伝子座を伴って拡張されている[3]。合衆国では、13のコア遺伝子座および7の追加の遺伝子座を含有する統合DNAインデックス・システム(Combined DNA Index System)(CODIS)が使用される[4]。
【0005】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅後に、リピートの数を、アンプリコンの長さから推定することができる。この情報は、現在、殆ど専ら、周知のDNA分離技術であるキャピラリー電気泳動によって得られる。アンプリコンが中を移動するゲルで満たされたキャピラリーを横切って高い電位を印加することによって、アンプリコンのサイズ分離が達成される。電気泳動移動度の違いは、より短いアンプリコンのより速い移動を結果としてもたらす。これらの蛍光標識されたDNAフラグメントは、レーザー誘起蛍光法により検出される[2]。
【0006】
CEのために使用されるツール(例としてRapidHITシステム)[5]の携帯可能な変形物を創り出すために、またはこの技術をチップ(例としてガラス)上で小型化させることにより[6]、努力がなされているものの、CEは依然としてかなりかさばる機器を必要とする。法医学的DNAジェノタイピングの分野におけるラボオンチップ(Lab-on-a-Chip)(LoC)を実装することへの関心は確かに急速に高まっており、これはより短い分析時間や試薬消費量の減少などの無数の利点のため、また高度な並列化と柔軟性のためでもある。さらには、機器の生産コストが減少し、またユーザーにとっての使いやすさが劇的に増大する。別のメジャーな長所は、とりわけ法医学の分野において、コンタミネーションのリスクの減少である。LoCは、数種の機能を単一のデバイスへと組み合わせて高レベルの統合を示し、1のデバイスから別のデバイスへ試料を輸送する必要を無くす。DNA分析を携帯可能にすることで、認定された研究所への輸送は不必要になり、このこともまた汚染のリスクを最小限に抑え、およびより速い所要時間を可能にする。かかる調査の最初の時間は一般に「ゴールデンアワー」と呼ばれるため、犯罪の解決を任された者にとって即座の結果は重要である。
【0007】
主にハイブリダイゼーションに基づく、新しいアッセイを開発するために、すでに多大な努力がなされている。このことは、合成で製造されたオリゴヌクレオチド、主に蛍光標識されたものが、STRジェノタイピングのために使用されるということを暗示する。これらの技術は、CEとの比較においていくつかの利点を示し、例えば、高電圧を印加しなくともよい。CEに関連する他の問題、つまり、PCRアーティファクトの検出は、システムに加えられたプローブとこれらのアーティファクトがハイブリダイズしないため省かれる。
【0008】
STRジェノタイピングのためのハイブリダイゼーションに基づく方法の周知の一例は、EP3011053A2[7]に記載されているとおり、融解曲線分析のためのHyBeacon(商標)プローブの使用である。この技術では、遺伝子座につき1のみの蛍光標識されたプローブが使用され、および、リピートの数は、当該プローブの融解温度から推定される[8]。この方法の欠点は多数ある:i)ブロッカーとして機能する第2のオリゴヌクレオチドの必要性、ii)多数の内部に位置づけられるフルオロフォアの存在、それによってプローブのコストが増大する、およびiii)完全なDNAプロファイルに必要な全部の遺伝子座をジェノタイピング可能であるシステムを設計することを不可能にする、プローブ設計上の制限。
【0009】
大半の代替のハイブリダイゼーションに基づく技術は、クエンチャー部分と組み合わせられた1以上のフルオロフォアの使用を頼りにし、それにより、プローブのコストおよびシステムの複雑さを増大させる。例は、TaqManプローブ(米国特許第5,210,015号)[9]およびモレキュラービーコン(米国特許第6150097A号)[10]である。他のシステムは多数のフルオロフォアを使用し、これもまたプローブのコストおよびシステムの複雑さを増大させる。これらのシステムの例は、Scorpionプローブ[11]およびECHOプローブ[12]である。これらのプローブの大半はSTRジェノタイピングのために設計されてはいないということに留意されるべきである。
【0010】
ドナー部分とアクセプター部分との間の蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescent Resonant Energy Transfer)(FRET)の原理が、しばしば、DNA-プローブに基づく方法でしばしば利用される。大半の場合において、両方の部分は、システムが存在するオリゴヌクレオチド(の1つ)に付着する。Halpern et al.は、インターカレーティング色素(intercalating dye)と蛍光標識されたオリゴヌクレオチドとを組み合わせることによって、FRETに頼った融解曲線ジェノタイピングアッセイを開発した。融解時に、インターカレーティング色素とオリゴヌクレオチドとの間のFRETが消えて、蛍光シグナルの減少を観察することができる。ミスマッチは完全マッチと比較してより低いTmを結果としてもたらすので、該システムにおける実際のSTRアレル呼び出しはTm検出に基づく[13]、US12/276849([14])。
【0011】
ミスマッチの事象においてプローブのレポーター領域はアンプリコンをハイブリダイズすることが予想されないが、この領域中にインターカレーティング色素が存在しないことを暗示し、むしろ高く鋭い融解曲線がこれらのミスマッチプローブについて、より低い温度ではあるが、観察される。これはおそらく、二重鎖の残りの領域中におけるインターカレーティング色素の存在、および一本鎖DNAの付近におけるインターカレーティング色素の存在に起因する。ミスマッチ融解曲線が低温で生じるのみならず、別の形状(例としてより低いピーク高さ、より高いピーク幅)をもまた有するとすれば有益である。これは、プローブの隣接領域に位置するSNPの存在にもかかわらず正しいSTRジェノタイピングを可能にする。STR領域でのマッチと組み合わせられたSNP位置でのミスマッチは、正常マッチプローブに類似したピーク形状を有する融解曲線を、しかしより低温で、結果としてもたらすことになる。
【0012】
インターカレーティング色素の使用には、いくつかの不利な点、例としてPCRの阻害と、切り離せない結びつきがある。法医学的試料はしばしば、ごく少量のみのDNAを含有するので、PCRは好ましくは理想的な状況で実行しなければならない。PCR阻害は、インターカレーティング色素がしばしば亜飽和濃度で添加される理由であり、それにより色素ジャンピング(dye jumping)のリスクを増大させる。この現象は、融解時に二重鎖から放出されるが未だ融解していない別の二重鎖中に組み込まれるインターカレーティング色素に関連し、融解ピークの幅広化を結果としてもたらす。さらには、インターカレーティング色素は、多くのグアニンおよびシトシンを含有する領域(いわゆる「GCリッチな領域」)へ優先的に結合する。これは潜在的にそれらの遺伝子座についてのより顕著なシグナルを結果としてもたらす。最後に、インターカレーティング色素の濃度は、二重鎖の融解温度にかなり顕著に影響を及ぼし、それによって融解温度の可変性の新たな原因を導入し、これは融解曲線ジェノタイピングアッセイを行うときにどうしても有害である。[15]これらの技術的な限界を別にしても、インターカレーティング色素の使用に関連する人体へのリスクを考慮しなければならない。
【0013】
これら全部の例は、一方ではより単純かつロバストであり、容易に携帯可能デバイスにおける統合を可能にする、および他方では融解温度単独のみよりも多くの情報を結果としてもたらす、ハイブリダイゼーションに基づくジェノタイピングアッセイの必要性を示唆する。我々の見解では、可能な最も単純なプローブは、1のみのフルオロフォアを含有し、および、シグナルを、単に試料との相互作用のみに基づいて、あらゆる他の修飾(例としてクエンチャー)、他の分子(例としてインターカレーティング色素)またはさらには他のプローブ(例としてブロッカー)の使用なしに生成する。
【0014】
単に天然のヌクレオチドのクエンチング特性のみに関連するプローブは、EP2927238A1においてWittwer et al.によって記載されているとおり[16]、他の応用、例として種同定、qPCRおよびSNPジェノタイピングにおいてそれらの実用性を既に実証している。当該文献には、SNPジェノタイピングのためのいわゆるQ-プローブが記載されている。これらのプローブは、プローブがSNP位置でアンプリコンにマッチするか否かの事実を問わず、蛍光標識されたヌクレオチドが常に標的配列へハイブリダイズするように設計されている。そうすることによって、調べる試料の表現型を問わず、ハイブリダイゼーション時にクエンチングが出現する。プローブと試料との間のミスマッチが二重鎖の融解温度を低下させるため、ジェノタイピングは標準融解曲線分析によって行われる。蛍光上の試料のクエンチング効果は、プローブとアンプリコンとが完全にマッチしているかいないかの事実には関連しておらず、バリアント呼び出しは、融解温度という1の要因に基づく。これは、SNP呼び出しのために十分に情報性があることが証明されており、一方それに対して、STRジェノタイピングに対しては、調査されたすべての遺伝子座に対してむしろ幅広い範囲のアレルが可能であり、これがWittwer et alによって記載されているとおりのプローブまたは上記HyBeaconプローブの利用を役立たなくさせる。STR遺伝子座は、可能なアレルが配列のみよりもむしろ長さにおいて異なるので、SNP遺伝子座と比較すると他の構造的特性を有する。したがって、すべての遺伝子座について、プローブが試料に完全に相補的であるか否かを評価する方法とともに、異なる長さのプローブのアレイが開発されなければならず、これは、ある遺伝子座に対して1のみのプローブが設計されるというWittwer et al.によって記載されたプローブとは際立って対照的である。
【0015】
よって、いくつかの構造要素(例としてアンカー領域およびセンサー領域)が不可欠であるため、STRジェノタイピングのために有用な単純なプローブを設計する必要が未だにある。
【発明の概要】
【0016】
本発明の概要
本発明は、集団内のある短いタンデムリピート遺伝子座のアレルの可変性(variability)を表す複数のプローブであって、各プローブは、5’から3’へまたは3’から5’へ、以下:1)ヌクレオチドを含み、関心対象の特定のDNA配列のすぐ隣の領域とアニーリングし、試料とプローブとの適切なアニーリングを確実なものにする、およびしたがって第2の隣接領域よりも多くのヌクレオチドを含有する、第1の隣接領域、2)少なくとも1のショートタンデムリピートを含み、および試料内でそのショートタンデムリピート領域とアニーリングする、関心対象の特定のDNA配列、および3)少なくとも1のヌクレオチドを含み、少なくとも1のフルオロフォアを含む、第2の隣接領域、ここで該フルオロフォアは、該試料の効率的なやり方で該フルオロフォアをクエンチング可能である特定のヌクレオチドに直に相補的な位置で該第2の隣接領域の残基に付着しているか、または、試料との該第2の隣接領域のハイブリダイゼーション時にそれが該試料の効率的なやり方で該フルオロフォアをクエンチング可能である1以上の特定のヌクレオチドの近傍に持ってこられるように該位置に対して上流もしくは下流のいずれかの隣のヌクレオチドに連結しているかまたは該位置に対して上流もしくは下流のいずれかに2個分の位置離れたヌクレオチドに連結している、からなる、前記複数のプローブに関する。
【0017】
本発明はさらに、該ヌクレオチドが核酸類似体、例としてLNAである、上記の複数のプローブに関する。
より具体的には、本発明は、該フルオロフォアが、フルオレセイン(FAM)、ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、テトラクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(TET)、2,7-ジメトキシ-4,5-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)または6-カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)を含むリストから選ばれる、上記の複数のプローブに関する。上にリストされたフルオロフォアの1つをクエンチング可能である特定のヌクレオチドは、グアニンである。
【0018】
より具体的には、本発明は、該フルオロフォアが該第2の隣接領域のシトシン残基に付着している、上記の複数のプローブに関する。
本発明はまた、サポート上に固定されている、上記の複数のプローブにも関する。
【0019】
本発明はまた、試料内のショートタンデムリピートをジェノタイプするための方法であって、以下のステップ:
- DNAを含む試料を提供すること、
- 増幅されたDNA配列を得るために、関心対象の特定のDNA配列を含む該試料内でDNAを増幅させること、
- 該増幅されたDNA配列に上記の複数のプローブを添加することで該プローブにアニーリングされた一本鎖DNA配列の二重鎖を得ること、および
- 該二重鎖を変性させ、これに続いて、該プローブのフルオロフォアの蛍光を継続的に測定しながら該変性された二重鎖をゆっくりと冷却するかまたは該プローブのフルオロフォアの蛍光を継続的に測定しながら該二重鎖をゆっくりと加熱すること、ここで、蛍光強度の減少または蛍光強度の増大は、それぞれ、特定の完全に相補的なショートタンデムリピートが該試料中に存在するか否かについての情報を提供する、を含む、前記方法にも関する。
【0020】
本発明はさらに、試料内での該増幅が、増幅された一本鎖DNA配列を得るために非対称PCRによって行われる、上記のジェノタイプするための方法に関する。
本発明はさらに、試料内での該増幅が、増幅された一本鎖DNA配列を得るために、ビオチン標識されたプライマーまたはその後のラムダエクソヌクレアーゼ消化を使用しての対称PCRによって行われる、上記のジェノタイプするための方法に関する。
本発明はまた、上記の方法であって、該プローブが溶液において添加されるか、またはサポート上に固定される、前記方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1:D16S539遺伝子座についてのSTRジェノタイピング例。プローブ(上)とSTR-アンプリコン(下)との、3つの二重鎖が示されている。各アンプリコンは、12のSTRリピートを含有し、一方、描かれたプローブは、11、12または13のリピートを含有する。プローブは、5’から3’へ、FL1領域(黒)、特定の数のリピート(濃い灰色)、および1以上のフルオロフォアを含有するFL2領域(薄い灰色)、からなる。アンプリコンがプローブとちょうど等しい数のリピートを含有するとき、FL2領域はハイブリダイズした状態で生じ、フルオロフォア(単数または複数)のクエンチングを結果としてもたらす。
【
図2】
図2:融解実験の典型例。融解前、蛍光は直線的に減少し、また、プローブはアンプリコンへハイブリダイズし、その帰結としてフルオロフォアのクエンチングを伴う。融解時に、グアニンのクエンチング効果の喪失に起因して蛍光の急激な増大が観察される。融解後、蛍光は再び直線的に減少し、また、プローブは一本鎖である。
【0022】
【
図3】
図3:D8S1179遺伝子座についてのミスマッチプローブの融解曲線。
【
図4】
図4:D16S539実験のための温度プロファイル。
【
図5】
図5:ヘテロ接合性の試料(9:12)とのハイブリダイゼーション後のD16S539遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【
図6】
図6:ヘテロ接合性の試料(9:9)とのハイブリダイゼーション後のD16S539遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【
図7】
図7:ヘテロ接合性の試料(11:13)とのハイブリダイゼーション後のD16S539遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【0023】
【
図8】
図8:ヘテロ接合性の試料(9.3:10)とのハイブリダイゼーション後のTH01遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【
図9】
図9:ヘテロ接合性の試料(9.3:9.3)とのハイブリダイゼーション後のTH01遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【
図10】
図10:ヘテロ接合性の試料(13:13’)とのハイブリダイゼーション後のD8S1179遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【
図11】
図11:ヘテロ接合性の試料(14:15)とのハイブリダイゼーション後のD8S1179遺伝子座に対して設計されたプローブの融解曲線。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の説明
本発明の一側面は、あるフルオロフォアに対する特定のヌクレオチドの天然のクエンチング特性を頼りに機能するプローブに関する。最も一般的な例は、グアニンのフルオレセインクエンチング効果である[17、18]。別の例は、チミジンヌクレオチドによるピレン酪酸のクエンチングである。
【0025】
プローブは、合成で製造されたオリゴヌクレオチドであって、一部のヌクレオチドは修飾されたものであり得るものとして本明細書中で定義される。修飾の例は、例として、蛍光部分の存在、付着目的のための分子、等々である。プローブは、一般的に、調査する分子とそれらが相互作用し、この相互作用時にプローブの応答が観察され、当該調査する分子の情報を取得するために使用されるように設計される。
【0026】
本発明において記載されるSTRジェノタイピングプローブは、
図1に示されているとおり、3の異なる領域からなる:隣接領域1(FL1)、特定のSTR領域、および隣接領域2(FL2)。
- FL1は、特定のDNA配列のすぐ隣の領域であり、および、アンカーとして作用し、滑りを防止して試料とプローブとの適切なアニーリングを確実なものにする。このことは、FL1が実質的にFL2よりも長くなければならないということを暗示し、これは他のSTRジェノタイピングプローブについて文献中で議論されている要件でもある[13]。もしもFL1がFL2と同じだけの長さであるかそれよりさらに短いとすれば、ミスマッチの場合にFL1は一本鎖になり、およびFL2は試料とハイブリダイズし、それにより、マッチした二重鎖によって生成されるシグナルと同等のシグナルを結果としてもたらすことになる。
- STR領域は、ある遺伝子座に対するプローブの間で異なる多型性の一部分である。プローブは、調べる遺伝子座の可能なすべてのアレルに対して設計される。
- FL2は、実質的にFL1よりも短く、および、フルオロフォア、例としてFAMで末端が標識されている。この標識は、5’または3’末端のいずれかにすることができる。FL2は、センサとして作用し、およびプローブと試料との間の相補性の程度についての示唆を与える。
【0027】
プローブは、相補的なアンプリコンとのハイブリダイゼーション時にフルオロフォアが、該フルオロフォアをクエンチング可能である1以上のヌクレオチドの近くに持ってこられるように、設計される。この発明のより具体的な態様において、該フルオロフォアはFAMであり、これはグアニン残基の存在によりクエンチされる。これらのグアニン残基はまた、HEX、TET、JOEおよびTAMRAのような他のフルオロフォアに対してもクエンチング効果を奏する[19]。当業者は、これが非限定的なリストであることを認識するであろう。フルオロフォアとヌクレオチドとのその他の組み合わせもまた、この目的のために適用可能であるということに留意されるべきである。FAMフルオロフォアの効率的なクエンチングを達成するために、該フルオロフォアは、グアニン残基に直に相補的な位置でヌクレオチド(主にシトシン)に連結しているか、または、該位置の隣(上流もしくは下流のいずれか)のヌクレオチドに連結しているかまたは該位置から(上流もしくは下流のいずれかに)から2個分の位置離れたヌクレオチドに連結している。
【0028】
本明細書に記載の方法においては、あるSTR遺伝子座についての全部の可能なアレルを表す一連のプローブが設計される。増幅された試料とプローブとの完全な相補性と部分的な相補性との違いは、ハイブリダイゼーションまたは融解時にプローブに付着したフルオロフォアの蛍光強度を測定することによって評価することができる。結果としてもたらされる時間の関数としての蛍光のグラフは、3つのパートに分割できる(
図2を参照):直線的なパートではその間に蛍光が減少し(温度依存的な現象)およびプローブ(の大半)がアンプリコンへハイブリダイズして帰結としてフルオロフォアのクエンチングを伴う、融解パートではその間に蛍光が増大する、および第2の直線フェーズではプローブが一本鎖になる。これらのグラフの一次導関数を温度の関数として計算することで、データの解釈に使用される融解ピークが提供される。
【0029】
増幅後、プローブおよびアンプリコンは加熱により変性し、およびその後は制御された方式でゆっくりと冷却され、プローブの滑りを回避することで正しいハイブリダイゼーションを確実なものにする。プローブ・アンプリコン二重鎖は、その後融解され、その間に蛍光が常に測定される。融解時に、フルオロフォアとクエンチンググアニン残基との間の距離が増大し、蛍光強度が増大する。この蛍光強度の増大は、より高温で起こり、それは、PCR産物中に存在するアンプリコンとプローブとが同じリピート数を共通に持つとき、プローブとアンプリコンとのミスマッチな組み合わせと比較して、より顕著である。ミスマッチの状況が起こると、ヘテロ二重鎖の形成に起因して、融解時にいくらかの脱クエンチングが依然として観察され得る。これらの二重鎖は、リピート領域中におけるミスマッチを含有し、膨らんだループの形成を結果としてもたらす。しかしながら、これらの二重鎖の融解温度は、完全な相補性と比較してより低く、およびハイブリダイゼーション効率が顕著により低く:大半のプローブについて、センサ領域は一本鎖のままになる。
【0030】
本明細書に記載のプローブは、プローブと試料との間の相補性の程度についての情報を提供する。プローブと試料とが同じリピートの数を有するか否かを推測する傍ら、試料とプローブとの間で異なるリピートの数についての情報を、ミスマッチの場合に得ることができる。リピート数の違いが大きければ大きいほど、得られるシグナルは低くなる。一例が、
図4において、D8S1179遺伝子座について与えられている。アレル14および15を有する、参照試料2800とのインキュベーション後の、4のプローブの融解曲線が表示されている。全部の示されている融解曲線は、ミスマッチプローブを起源としている。プローブ13が最も強いシグナルを、プローブ10がより弱いシグナルを示していることがはっきりと見られる。シグナルの強度は、この例においては、融解ピークの高さおよび融解温度によって定義することができる。
【0031】
この発明の固有の特徴は、これらの融解曲線の多数のパラメータ(Tm、ピーク形状、…)から取得できるかなりの量の情報である。融解曲線は、相補性の程度の示唆を結果としてもたらし、一方それに対して、大半のシステムは、単に二値的な答え(マッチまたはミスマッチ)を与える。後者のシステムは、1のパラメータ、例として融解温度または蛍光強度のみを見る。フルオロフォアの固有の位置取りは、プローブのその他の構造的要素との組み合わせで、それらのSTR-プローブを高度に情報性のあるものにする。フルオロフォアは、第2の隣接領域中に位置づけられ、それによってセンサとして作用する:プローブが試料にマッチするとき、FL2は当該試料へハイブリダイズする。一方それに対して、プローブが試料にマッチしないとき、FL2は主に一本鎖のままであるか、またはより低い温度で融解し、および、融解時の脱クエンチング(dequenching)は、それほど急激でなく生じる。クエンチング部分を持つアンプリコンとフルオロフォアとの間の距離が大きければ大きいほど、シグナルは強度が弱くなる。したがって、我々の知る限り、本明細書において議論されるSTRジェノタイピングプローブは、これまでに説明された中で最も初歩的で情報性のあるSTRジェノタイピングプローブであり、それは融解温度と蛍光強度とが両方ともに情報性があるためである。
【0032】
この得られた情報は、最終的には、人工知能の手段によって自動化されたやり方で分析されることができる。高分解能融解分析のための同様のアルゴリズムは、すでに説明されている。大量のデータに基づき、アレル呼び出しのためのカスタムアルゴリズムが将来開発されると考えられる。この目的のために、該アルゴリズムは、既知のアレルを伴う試料の曲線に基づいて、正しいアレルを呼び出すための訓練を要する。
【0033】
ハイブリダイゼーションに基づくジェノタイピング法のための重要な側面は、プローブに相補的なアンプリコンの過剰量という要件である。もしもこの要件が満たされなければ、両方のアンプリコン鎖は互いに対して優先的にハイブリダイズし、プローブは一本鎖のまま取り残される。1のアンプリコン鎖の過剰量は、増幅ステップを適合させることによって得ることができる。試料調製後、STR遺伝子座を増幅させるために、増幅ステップが行われるべきである。これは、典型的には、当業者に周知の技術であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の手段によってなされる。増幅される領域(単数または複数)は、使用されるプライマーによって決定される。これらは、調べる種のゲノム中の配列に相補的な短いオリゴヌクレオチドである。DNAポリメラーゼは、プライマーの3’末端で増幅を開始させる。
【0034】
対称PCRでは、両方のプライマーが等しい濃度で添加され、二本鎖のアンプリコンを結果としてもたらす。非対称PCRが行われるとき、1のプライマーが過剰量で添加される。最初のサイクル(cycli)では、両方のプライマーが存在し、PCRは対称的に起こる。ある時点で、1のプライマーが枯渇し、2の鎖のうちの1のみの増幅を結果としてもたらす。この時点から先は、増幅は指数関数的には起こらず、直線的になる。
【0035】
非対称PCRが、1の特定の鎖の過剰量を得るための唯一のやり方というわけではない。両方のプライマーのうちの一方がビオチンで標識されている対称PCRを行った後、このプライマーが組み込まれている鎖をストレプトアビジンビーズの手段によって捕捉することができる。別の選択肢は、ラムダエクソヌクレアーゼ酵素の仕様であり、これはリン酸化されたDNA鎖を選択的に分解する。この修飾を、2のプライマーのうちの1に導入することができる。[20]
上記のプローブはまた、核酸類似体、例としてLNAを含有することもできる。前者は、天然の核酸に構造的に似ている非天然の構成成分である。その他多くの例の中でもとりわけ、修飾された塩基を持つ核酸、または、糖成分における修飾がある。
【0036】
例
1. 例1: STRジェノタイピング頬スワブ(D16S539遺伝子座)
3の頬スワブを、200μLの滅菌HPLC水に浸した。30”のボルテックスステップの後、スワブを取り去り、および、PCRのためのインプットとして水を使用した。30μLのインプット試料でシングルプレックス非対称PCRを行った。プライマー濃度は、0.1μMのフォワードプライマーおよび1.5μMリバースプライマーであった。The volume of the PCR混合物の体積は50μLであり、MgCl2+を0.5mMの濃度で、dNTPを各200μM、1X Qiagen PCRバッファーおよび1.3U HotStarTaq酵素を含有した。ポリメラーゼの活性化は、PCRミックスを95℃で15分間加熱することによって行い、これに続いて95℃で1分間、59℃で1分間および72℃で80秒間の60サイクルを行った。プライマー配列は、表1に見出すことができる。
【0037】
非対称PCRの後、8.5μLの増幅産物のアリコートを96ウェルプレート中に分けた。別々の各ウェルに、1.5μLの、一の特定のプローブを、1μMの開始濃度で添加した。これらの混合物を、95℃で10分間変性させ、これに続いて、LightCycler(Roche)を使用して蛍光を継続的に測定しながら0.04℃/sのランプ速度でゆっくりと冷却した。同じことをゆっくりとした加熱時に行っており、この過程の間に二重鎖が融解する。プローブ配列は、表1に見出すことができる。
【0038】
【表1】
表1:D16S539実験のために使用したオリゴヌクレオチドの配列。「n」は、リピートの数を表し、9~13の間で可変である。
【0039】
融解曲線の一次導関数が計算され、融解ピークが結果としてもたらされる。プローブの長さの違いに起因する融解温度の違いを、このやり方で調べることができる。調べた全試料はまた、参照として、慣用的なCE分析でもジェノタイプした。
【0040】
2. 例2: STRジェノタイピング頬スワブ(TH01遺伝子座)
部分的リピートによって引き起こされる、アンプリコンの長さにおけるやや微妙な違いを検出するこのシステムの能力を評価するために、TH01遺伝子座に対して設計されたプローブを使用した融解曲線実験を実施した。この遺伝子座についてのごく一般的なアレルは、9.3アレルであり、これは、4番目のリピートがT欠失を有する10リピート(CATT)の存在によって特徴付けられる。その帰結として、アレル9.3と10とは、長さではたった1ヌクレオチドが違うのみであり、これはCEについてさえも挑戦であることが証明されている。2の頬スワブを抽出し、D16S539遺伝子座についての実験と同じやり方で増幅させおよび分析した。後者の遺伝子座についての増幅とは対照的に、フォワードプライマーを0.1μMの濃度で添加し、およびリバースプライマーを1.5μMの濃度で添加した。使用したプライマーおよびプローブの配列は、表2に見出すことができる。試料Aはアレル9.3および10を有し;試料Bはホモ接合性(9.3:9.3)である。
【0041】
【表2】
表2:TH01実験のために使用したオリゴヌクレオチドの配列。「n」は、リピートの数を表し、6~10の間で可変である。
【0042】
3. 例3: STRジェノタイピング参照試料(D8S1179遺伝子座)
リピート中のSNPによって引き起こされるイソアレル(iso-alleles)を検出するこのシステムの能力を評価するために、D8S1179遺伝子座に対して設計されたプローブを使用した融解曲線実験を実施した。参照試料9947aは、遺伝子座D8S1179についてホモ接合性(13:13)であるが、しかし、13:13’として大規模並列シーケンスの手段によってジェノタイプされる。アレル13および13’に対応する配列は、表3に見出すことができる。参照試料2800は、遺伝子座D8S1179についてヘテロ接合性(14:15)である。両方の参照試料を、D16S539遺伝子座についての実験と同じやり方で増幅させおよび分析した。後者の遺伝子座についての増幅とは対照的に、フォワードプライマーを0.1μMの濃度で添加し、およびリバースプライマーを1.5μMの濃度で添加した。使用したプライマーおよびプローブの配列は、表3に見出すことができる。
【0043】
【表3-1】
【表3-2】
表3:D8S1179実験のために使用したオリゴヌクレオチドの配列。
【0044】
結果
1. 例1: STRジェノタイピング頬スワブ(D16S5339遺伝子座)
得られた融解曲線の一次導関数を計算したところ、結果としてもたらされた融解ピークは
図5~7に示されている。
図5は、アレル9および12を伴う試料7から得られた融解ピークを表示し、アレル12プローブ(P12)は、アレル9プローブ(P9)と比較して高温で融解する。
図5に見られるとおり、すべてのプローブが、ある種の融解ピークを示す。それでもなお、P9およびP12は、はるかにより高いピーク高さおよびより狭いピーク幅を表示する。P11は、ミスマッチプローブのうちもっとも強い融解ピークを示し、これはマッチするプローブ12の隣接アレルであるためそれに後追いするような形であるが、それでもなお、P11とP12との間のTmの違いはあまりにも大きく、これはP11の非特異的アニーリングを示唆する。
【0045】
図6は、ホモ接合性の試料(アレル9:9)の融解曲線を表示している。マッチするプローブの融解ピークは、ヘテロ接合性の試料と比較するとより顕著である。
図7は、ヘテロ接合性の試料(アレル11および13)の融解曲線を表示している。12リピートを伴うプローブは、両方のマッチするプローブの隣接プローブであるが、しかし、マッチとミスマッチとの間には未だ明確な区別を付けることができる。
要するに、ジェノタイピングのための十分な情報は、ハイブリダイゼーションまたは融解実験から推定することができる。融解実験を実施するときには、プローブの特異的なアニーリングを保証するために遅いハイブリダイゼーションプロセスが先行しなければならない、ということに留意されるべきである。
【0046】
2. 例2: STRジェノタイピング頬スワブ(TH01遺伝子座)
調べた遺伝子座の大半について、マッチするプローブは2のピークを見せるが、一方それに対してミスマッチプローブでは1のみであることに留意されるべきである。これは、おそらくは、別のアレル(ヘテロ接合性の試料)、スタッターピークおよび非特異的PCR産物の存在に起因する。これらの融解曲線の評価は、その帰結として、それほど複雑ではない。しかしながら、D16S539遺伝子座については、マッチするアレルは1のみのピークを示し、これは、おそらくは、それらのプローブのより短いFL1に関連している。
【0047】
試料Aについては、2のプローブが、より高温で融解ピークを見せ、およびこれに加えて、これらのピークは、いわゆる「ショルダー」によって特徴付けられ、これは上で議論されたとおり実は第2のピークである。2のプローブは、正しいアレルに対応する。ホモ接合性の試料Bについては、ただ1のプローブがより高温で融解ピークを示し、それはアレル9.3に対応する。プローブ10は、より高い融解ピークを表示するものの、それはより低い温度で起こり、ショルダーピークは不在である。それによって、アレル10は調べた試料中に存在しないと結論付けることができる。その傍ら、記載されたプローブおよびシステムはアレル9.3と10とを区別することが可能であると結論付けることができる。
【0048】
3. 例3: STRジェノタイピング参照試料(D8S1179遺伝子座)
試料9947aについては、プローブ13および13’の両方が、より高いピークで融解ピークを表示する。その傍ら、両方の融解ピークは、TH01プローブと同様に、いわゆるショルダーを示す。したがって、プローブ13および13’の両方に対する相補的なアンプリコンが試料9947a中に存在すると結論付けることができる。試料2800については、プローブ14および15が、ショルダーを伴って、より高温で融解ピークを示す。プローブ14’は、しかしながら、ショルダーを示さず、およびより低温で起こる。高いピーク高さは、アレル14(これは同じ長さを有する)および15(これは近隣にある)の両方の存在によって説明することができる。この方法はイソアレルを区別可能であり、それによってキャピラリー電気泳動よりも情報性があるものであると結論付けることができる。
【0049】
【配列表】
【国際調査報告】