IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポールの特許一覧

特表2022-548826広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス
<>
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図1
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図2
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図3
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図4
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図5
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図6
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図7
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図8
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図9
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図10
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図11
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図12
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図13
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図14
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図15
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図16
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図17
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図18
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図19
  • 特表-広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】広範囲のガスおよび蒸気検出のためのAI感知デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20221115BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
G01N27/04 E
G01N27/12 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022514701
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-05-02
(86)【国際出願番号】 SG2020050528
(87)【国際公開番号】W WO2021061046
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】10201908809U
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(31)【優先権主張番号】10202001608T
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン、ウィー チョン
(72)【発明者】
【氏名】アン、カー-ウィー
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046BA09
2G046DC18
2G046FE27
2G046FE37
2G046FE43
2G060AA01
2G060AB02
2G060AB09
2G060AB10
2G060AB15
2G060AB21
2G060AE19
2G060AF07
2G060BB08
2G060HC10
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するための方法およびセンサデバイス、ならびにセンサデバイスを訓練するコンピュータ化された方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するコンピュータ化された方法であって、前記方法が、
同一の化学的および物理的な物理的特性を有する1つまたは複数の感知素子を前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物に曝露する段階と、
前記曝露の間の前記1つまたは複数の感知素子の電気的時系列データを測定する段階と、
人工知能(AI)システムによって、前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報を分析する段階と、
前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報の前記分析に基づいて、前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および/または濃度を決定する段階と
を備える、方法。
【請求項2】
前記人工知能(AI)システムによって周囲温度を分析する段階と、前記周囲温度の前記分析にさらに基づいて、前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および/または濃度を決定する段階と、をさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ローレンツ型雑音情報が、最大パワースペクトル密度を有する特有のローレンツピーク、それらのそれぞれのパワースペクトル密度、特有のローレンツ脱離時間、ローレンツ雑音スペクトルの尖度(Kurt)、歪度(Skew)および中央値、特有のローレンツ周波数の前記ローレンツ雑音スペクトルの前記中央値に対するパワースペクトル密度比、前記ローレンツ雑音スペクトルの中に見られるローレンツピークの数、前記ローレンツピークの中央値、前記ローレンツピークに関連付けられる周波数、前記特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅からなる群から選択される特徴を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記AIシステムが、分類もしくは回帰モデルAIシステムまたは強化学習AIシステムである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各センサ素子が2次元感知材料を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記2次元感知材料がケミレジスタとして構成され、前記電気的時系列データが抵抗時系列データを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記2次元感知材料が、黒リン(bP)、テルレン(Tellurene)、還元グラフェンオキシド、グラフェン、および遷移金属ジカルコゲナイドのうちの1つもしくはこれらから成る群、または、低電力動作について黒リンに匹敵するキャリア移動度を有する様々な元素もしくは化合物の任意の2次元同素体を含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定することができるセンサデバイスであって、
実質的に同一の感知材料から作られた1つまたは複数の感知素子と、
人工知能(AI)システムと、を備え、
前記AIシステムが、前記1つまたは複数の感知素子の電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報を分析し、かつ、前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データの前記ローレンツ型雑音情報の前記分析に基づいて、前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および濃度を決定するように構成されている、
センサデバイス。
【請求項9】
前記AIシステムがさらに、周囲温度を分析し、かつ、前記周囲温度の前記分析にさらに基づいて、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および/または濃度を決定するように構成されている、
請求項8に記載のセンサデバイス。
【請求項10】
前記ローレンツ型雑音情報が、最大パワースペクトル密度を有する特有のローレンツピーク、それらのそれぞれのパワースペクトル密度、特有のローレンツ脱離時間、ローレンツ雑音スペクトルの尖度(Kurt)、歪度(Skew)および中央値、特有のローレンツ周波数の前記ローレンツ雑音スペクトルの前記中央値に対するパワースペクトル密度比、前記ローレンツ雑音スペクトルの中に見られるローレンツピークの数、前記ローレンツピークの中央値、前記ローレンツピークに関連付けられる周波数、前記特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅からなる群から選択される特徴を有する、請求項8または9に記載のセンサデバイス。
【請求項11】
前記AIシステムが、分類もしくは回帰モデルAIシステムまたは強化学習AIシステムである、請求項8から10のいずれか一項に記載のセンサデバイス。
【請求項12】
各感知素子が2次元感知材料を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載のセンサデバイス。
【請求項13】
前記2次元感知材料がケミレジスタとして構成され、前記電気的時系列データが抵抗時系列データを含む、請求項12に記載のセンサデバイス。
【請求項14】
前記2次元感知材料が、黒リン(bP)、テルレン(Tellurene)、還元グラフェンオキシド、グラフェン、および遷移金属ジカルコゲナイドのうちの1つ若しくはこれらから成る群、または、低電力動作について黒リンに匹敵するキャリア移動度を有する様々な元素もしくは化合物の任意の2次元同素体を含む、請求項12または13に記載のセンサデバイス。
【請求項15】
複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度を決定することができるように、請求項8から14のいずれか一項に記載のセンサデバイスを訓練する方法。
【請求項16】
i)制御環境において前記1つまたは複数の感知素子を、所望の数およびタイプのガスおよび/または揮発性有機化合物に曝露し、前記電気的時系列データの第1のデータセットを測定する段階と、
ii)前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの1つの濃度を変化させて、前記電気的時系列データの第2のデータセットを測定する段階と、
iii)所望の濃度範囲にわたって段階ii)を繰り返す段階と
を含むデータ収集段階を備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
iv)前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの2つのそれぞれの濃度を変化させて、前記電気的時系列データのさらなるデータセットを測定する段階と、
v)前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの前記2つのそれぞれの濃度の所望の範囲の組み合わせにわたって段階iv)を繰り返す段階と
を含むデータ収集段階をさらに備える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
vi)段階iv)およびv)を繰り返す段階であって、各繰り返しにおいて、前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの追加の1つが段階iv)に追加される、繰り返す段階
を含むデータ収集段階をさらに備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記データ収集段階で収集された前記データセットに対して機械訓練を実行する段階をさらに備える、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記機械訓練を実行する段階が、分類モデルを訓練して、ガスおよび/または揮発性有機化合物の数およびタイプを予測する段階と、回帰モデルを訓練して、前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの濃度を予測する段階とを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するためのコンピュータ化された方法およびセンサデバイス、ならびにセンサデバイスを訓練する方法に幅広く関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書にわたる従来技術への任意の言及および/または説明は、この従来技術が周知されている、または当該技術分野における一般常識の一部を形成していることを認めるものとしていかなる方法でも見なされるべきではない。
【0003】
現代の電子鼻(eNose)と呼ばれる場合がある、ガスおよび蒸気の感知デバイスに対する人工知能(AI)とも呼ばれる機械学習技法の使用について数々の文献がある。例えば、doi.org/10.3390/s131014214で見られるTowards a Chemiresistive Sensor-Integrated Electronic Nose:A Reviewという論説は、2013年に見られた全ての市販のeNoseデバイスのリストを提供している。
【0004】
既存の研究/デバイスは、特定のタイプのガス/揮発性有機化合物(VOC)にのみ反応する高度に選択的な材料のいずれかを使用する、または化学修飾を実行する。これにより、そのようなセンサの複雑さおよびコストが高くなる。
【0005】
また、既存の研究/製品では、分析物に曝露されると、各々の感度、交差感度、および特異性が異なるように作られている個々の感知素子から取得された電気的反応の組み合わせによりセンサアレイ内に形成される固有のアレイ状パターンから各ガスまたはVOCの化学的指紋が得られる。例えば、化学的指紋は、3列×3行の形式に配置された9個のセンサからなるアレイからの平均電流における固有の組み合わせの変形例であり得、アレイにおいて、特定のタイプの分析物に曝露されると右上の角の3つのセルは左下の角のより低い3つのセルよりも常に高くなるが他の分析物では高くならない。これにより、また、そのようなセンサの複雑さおよびコストが高くなる。
【0006】
["Selective Gas Sensing with a Single Pristine Graphene Transistor,Sergey Rumyantsev,Guanxiong Liu,Michael S.Shur,Radislav A.Potyrailo and Alexander A.Balandin",Nano Lett.2012,12,5,2294-2298 Publication Date: April 16, 2012]に開示される方法は、ガス/蒸気の複数のソースを測定するために単一の2DM系ケミレジスタを使用することを可能にする一方、2つ以上のガス/VOCタイプが同一環境内に同時に存在するときには使用することができない(すなわち、2つ以上のガス/蒸気タイプの同時変動)。これは、この場合には、特定のガス/蒸気タイプの各々を表す複数の特有のローレンツ周波数が生成されるためであり、著書の著者によって定義されているように、特有のローレンツ周波数は、周波数に対する、雑音スペクトル密度に周波数を乗算した結果のプロット(すなわち、ローレンツ雑音スペクトル)において見られる最大パワースペクトル密度を有する周波数であるため、ユーザはそれらの全てをその著書に使用されるFFTスペクトル分析器から特定することができない。このように、この複数のガス/VOC測定から1つのみの特有の周波数が抽出され、ユーザ(人間)は、収集データに依然として隠されている残りの情報を解読することができない。
【0007】
さらに、上述の論文に開示される方法は、依然として、濃度レベルの測定のために、環境において複数のガス/VOCの曝露下にあるときのケミレジスタの導電性における全体的な増分変化に依存している。したがって、ケミレジスタの導電性において検出された全体的な増分変化に対して各個別のガス/VOCが寄与した変化の割合を識別することもできない。
【0008】
さらに、既存の研究/デバイスにおける機械学習に使用される入力特徴は、近接して位置付けられ、同一の分析物に曝露された、それぞれの複数のセンサからの個々の電気的応答を含まない。これにより、そのようなセンサの複雑さが増す。
【0009】
本発明の実施形態は、上述の必要性のうちの1つまたは複数に対処しようとしている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するコンピュータ化された方法が提供され、前記方法は、同一の化学的および物理的な物理的特性を有する1つまたは複数の感知素子を前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物に曝露する段階と、前記曝露の間の前記1つまたは複数の感知素子の電気的時系列データを測定する段階と、人工知能(AI)システムによって、前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報を分析する段階と、前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報の前記分析に基づいて、前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および/または濃度を決定する段階とを備える。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定することができるセンサデバイスが提供アされ、前記センサデバイスは、実質的に同一の感知材料から作られた1つまたは複数の感知素子と、人工知能(AI)システムと、を備え、前記AIシステムが、前記1つまたは複数の感知素子の電気的時系列データ、および前記電気的時系列データのローレンツ型雑音情報を分析し、かつ、前記電気的時系列データ、および前記電気的時系列データの前記ローレンツ型雑音情報の前記分析に基づいて、前記複数のガスおよび/または揮発性有機化合物の前記それぞれの存在および/または濃度を決定するように構成されている。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度を決定することができるように、第2の態様のセンサデバイスを訓練する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、非限定的な例および添付図面と併せて検討したときに詳細な説明を参照することによってより良く理解されるであろう。
【0014】
図1】例示的な実施形態による、2次元材料(2DM)のケミレジスタである黒リン(bP)の製造プロセスを例示する図を示す。
【0015】
図2】例示的な実施形態によるケミレジスタの出力特性(ドレイン電流I対ドレイン電圧V)を示す。
【0016】
図3】例示的な実施形態による、相対湿度(RH)測定のための例示的な実施形態による、無線オールインワンガスセンサノード300の実験的なセットアップを示す。
【0017】
図4】例示的な実施形態によるセンサノードのブロック図を示す。
【0018】
図5】同一の環境に存在する複数の種類のガス/蒸気を分類および定量化するように単一の2DMベースケミレジスタを訓練するときの好ましい実施形態によるデータ収集プロセスを例示するフロー図を示す。
【0019】
図6】例示的な実施形態による、最初の4日間に収集した、68のサンプルの統計情報(すなわち、平均、中央値、および標準偏差)を示す。
【0020】
図7】例示的な実施形態による、同様のRHにおける測定された電流の変動を示す。
【0021】
図8】CO、NO、およびRHについて、例示的な実施形態による、オールインワンガスセンサの訓練および試験のための実験的なセットアップを示す。
【0022】
図9】植物なし、VOC排出のない植物、およびVOC排出のある植物について、例示的な実施形態によるオールインワンガスセンサの訓練および試験のための実験的なセットアップを示す。
【0023】
図10】例示的な実施形態による、同一の環境に同時に存在するガス/VOCの複数のソースを分類および定量化するために、機械学習(ML)を介して単一の2DM系ケミレジスタを訓練するプロセスを例示する。
【0024】
図11】例示的な実施形態による、複数のガス/VOCの感知の予測を例示する信号フロー図を示す。
【0025】
図12】健康状態を追跡するためのスタンドアロン型消費者向け製品における空気質センサとして、または、工場もしくは産業安全性の用途における製造管理のための無線センサネットワークにおける気候監視感知ノードとしての、例示的な実施形態によるオールインワンガスセンサのシステム実装ブロック図を簡潔に説明する。
【0026】
図13】3つの異なる周囲環境から抽出された特有のローレンツ周波数を示し、これは、例示的な実施形態による、特有のローレンツ周波数を使用して単一の2DM系ケミレジスタから複数のガスを区別する原理の第1の証明として見ることができる。
【0027】
図14】例示的な実施形態による、容器内に植物がない別の周囲タイプ0、VOCを一切排出しないことが知られている植物が容器内にある別の周囲タイプ1、および最後に、強いVOCを排出することが知られている植物が容器内にある最後の別の周囲タイプ2の3つの他の異なる周囲環境から抽出された特有のローレンツ周波数を示す。
【0028】
図15】RHに対する、例示的な実施形態によるオールインワンセンサの予測精度を示す。
【0029】
図16】COガスに対する、例示的な実施形態によるオールインワンセンサの予測精度を示す。
【0030】
図17】NOガスに対する、例示的な実施形態によるオールインワンセンサの予測精度を示す。
【0031】
図18】例示的な実施形態による、2つの異なる2DM系センサから得られた分類および回帰結果を要約する。
【0032】
図19】例示的な実施形態による、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するコンピュータ化された方法を例示するフローチャートを示す。
【0033】
図20】例示的な実施形態による、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定することができるセンサデバイスを例示する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態は、単一の物理センサ、または同一の化学的および物理的特性を有するセンサのアレイのみを無線で使用して、同時に、複数のタイプのガスおよびVOCの存在を検出してそれらの濃度を定量化することができるオールインワンのスマートセンサデバイスを提供する。オールインワンセンサデバイスは、多様なガス/VOCに対して高度に感受性である2次元層材料を使用し、実環境設定で網羅的な機械学習(ML)によって開発されたそれぞれのAIモデル(すなわち、AIエンジン)を通じて異なるガスまたはVOCに対するその選択性を機能化させる。例示的な実施形態によるセンサデバイスの選択性に対してソフトウェア制御を行うことにより、物理的ハードウェアへのいかなる変化を伴わずに、リアルタイムで新たな感知機能がオンデマンドで追加され得、これはあらゆる従来のセンサシステムにおいては現在利用できない。
【0035】
一般に、例示的な実施形態による無線オールインワンスマートセンサスマートセンサは、健康状態、製品、および製造の品質の追跡において、モノのインターネット(IoT)プラットフォームで使用され得る。本発明の実施形態は、環境監視および排出制御、個人的および軍事的安全性、農業、製造業および医療用診断薬における製造管理において広範な用途を有する。本発明の実施形態はまた、加空調のより良い制御によってエネルギー消費を低減するために、加熱、換気、および空調、例えば加熱、換気、および空調(HVAC)に採用され得る。
【0036】
例示的な実施形態により使用される感知材料は、物理的性質により、広範なガスおよびVOCに対して高度に感受性である(すなわち、非選択的である)2次元層無機材料(2DM)を含み、一方、既存の研究/デバイスは、特定のタイプのガス/VOCにのみ反応する高度に選択的な材料を使用するか、または、特定の分析物に対する特異性を生み出すために感知材料に対して化学修飾もしくは官能化を実施するかのいずれかである。
【0037】
例示的な実施形態による選択性:既存の研究/デバイスにおけるように感知材料を化学または物理的に機能化させる代わりに、機械学習(ML)技術を使用してガス/VOCタイプの区別が実現される。
【0038】
例示的な実施形態による様々なガスまたはVOCの化学的指紋は、ML訓練および配置方法論を介して単一のケミレジスタタイプの低周波雑音スペクトルから収集された情報に対して機械学習アルゴリズムを使用して検出されたユニークなパターンから導出される。
【0039】
本発明の実施形態は有利には、既存の研究/デバイスで使用されるFFTスペクトル分析器から以前はアクセスできなかった情報を、ML訓練および配置方法論を介して抽出する。
【0040】
本発明の実施形態は、蒸気への曝露の結果としての分子の吸着および脱着の動力学に関連するローレンツ周波数を使用し、これは、既存の研究/デバイスにおけるような蒸気への曝露の結果として作り出される電荷トラップに関連するローレンツ周波数と比較してはるかにより低い特有の周波数に対応する。
【0041】
例示的な実施形態による機械学習に使用される入力特徴は、近接して位置付けられ、同一の分析物に曝露された、それぞれの複数のセンサからの個々の電気的応答を含まない。代わりに、例示的な実施形態により使用される入力特徴は、
単一のタイプの2DM系ケミレジスタからの時間依存性の電気的応答(すなわち、チャネル抵抗)、
周波数に対する、雑音スペクトル密度に周波数を乗算した結果のプロット(すなわち、ローレンツ雑音スペクトル)からの、特有のローレンツ周波数(すなわち、最大パワースペクトル密度を有するピーク)などのその導出物およびそれらのそれぞれのパワースペクトル密度、
特有のローレンツ脱離時間(すなわち、ローレンツ型の特有の周波数の逆数)、
ローレンツ雑音スペクトルの尖度(Kurt)、歪度(Skew)、中央値、
特有のローレンツ周波数対ローレンツ雑音スペクトルの中央値のパワースペクトル密度比、
ローレンツ雑音スペクトルにおいて見られるローレンツピークの数、これらのピークの中央値、およびこれらのピークに関連付けられる周波数、
特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅(すなわち、最大パワースペクトル密度を有するピーク)、ならびに、
周囲温度
などの情報を含む。
【0042】
ランタイムなどの他の動作条件が異なる実施形態において使用され得ることに留意されたい。また、周囲温度などの動作条件は、いくつかの例示的な実施形態では、例えば、センサデバイスが、室温などの特定の動作条件下においてのみ使用されるように構成されている場合に、入力特徴として使用されない場合があることに留意されたい。
【0043】
例示的な実施形態による、単一の2D材料のみをケミレジスタとして使用する選択的ガス感知の一般的な物理的メカニズムは、固有の特徴を有するローレンツ構成要素を導入することによって、他のガスが雑音スペクトルを改変させる一方で、いくつかのガスが、それらの低周波雑音スペクトルを変化させることなく、2DM、例えばグラフェンのデバイスの電気的抵抗を変化させるという系統的研究からもたらされる認識に基づいている["Selective Gas Sensing with a Single Pristine Graphene Transistor,Sergey Rumyantsev,Guanxiong Liu,Michael S.Shur,Radislav A.Potyrailo and Alexander A.Balandin",Nano Lett.2012,12,5,2294-2298 Publication Date:April 16,2012]。その研究によれば、ガス曝露下でのグラフェンにおけるローレンツ雑音の出現には2つの理由がある。第1に、ガス分子は、グラフェンにおいて特定のトラップおよび散乱中心を生み出し得、これは、トラップ占有率の揺らぎに起因するキャリアの数の揺らぎ、または散乱断面積の揺らぎに起因する移動度の揺らぎのいずれかにつながる。第2に、曝露による分子の吸着および脱着の動力学も雑音に寄与し得る。蒸気の吸着および脱着の特有の時間スケールは数百秒であることが報告されている。その研究に開示されている方法は、ガス/VOCの複数のソースを測定するために単一のケミレジスタを使用することを可能にし得るが、同一の環境下で同時に2つ以上のガス/VOCタイプが存在している場合(例えば、同一の環境下でのNO、CO、および相対湿度の同時変動)には定量分析のために使用することができない。例えば、ある環境にエタノールのみを導入し、次に、FFTスペクトルを分析して399Hzにてローレンツ周波数fを観測することによってエタノールを判定することができ、dR/R(R=マルチメータから測定されたチャネル抵抗であり、dRは、曝露の前後の大きさの変化である)を計算することによってエタノールの濃度を得ることができる。しかしながら、エタノールおよびメタノールの両方が環境下に存在する場合、測定されたdR/Rからそれらのそれぞれの濃度レベルを判定することはできない。
【0044】
代わりに、本発明の実施形態は、有利には、存在するガス/蒸気種のタイプだけでなく、それらのそれぞれの濃度レベルも判定するように構成された単一の感知材料を使用するマルチガス/蒸気センサを提供する。
【0045】
例示的な実施形態によるセンサデバイス用のケミレジスタの製造
【0046】
図1は例示的な実施形態による、相対湿度を感知するための、2次元材料(2DM)である黒リン(bP)のケミレジスタの製造プロセスを例示する図を示す。フォトレジスト層100が基板(ここではガラス基板102)の上に堆積され、金属112の堆積の後に標準的なリフトオフプロセスを使用することによって、2つの電気端子108、110(ここではAu/Ni(30nm/1nm))のためのパターン104、106を提供する。この実施形態では、金属112の堆積物のためにAJA ATC-2200 UHV Sputterを使用し、フォトレジスト層100のパターニングのためにレーザーライターLW405Bを使用した。端末108、110を基板102上に残して金属112のリフトオフを行った後、ケミレジスタ116の電気チャネル(ここでは剥片化されたbP片114)は次に、この例示的な実施形態では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を使用した乾式転写技法によって2つの端末108、110にわたって堆積される。非限定的な例ではケミレジスタのチャネル長および幅は約1mm×0.25mmであり、そのラマンスペクトル118は、363cm-1、440cm-1、および467cm-1の黒リンという典型的なシグネチャを示す。
【0047】
ケミレジスタ116の出力特性(ドレイン電流I対ドレイン電圧V)が図2に示される。ダブル電圧掃引測定において測定された電流に顕著なヒステレシスループがないため、ケミレジスタ116の電流を阻害するかなりの数の隠れたトラップはなく、これにより、例示的な実施形態によるbPケミレジスタ116が低電圧範囲で動作することが可能となる。大規模動作の場合、様々な例示的な実施形態によるケミレジスタを用意するために、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を使用する乾式転写技法の代わりに、好ましくは商業的な印刷プロセスが使用されることに留意されたい。
【0048】
例示的な実施形態による無線センサの機能的説明
【0049】
図3は、相対湿度(RH)測定のための例示的な実施形態による、無線オールインワンガスセンサノード300の実験的なセットアップを示す。この例示的な実施形態では、センサノード300は、PCB305上のBluetooth(登録商標)低エネルギーマイクロコントローラユニット(TI CC2541)からケミレジスタ304にわたる測定された電圧を無線で受信するためのBluetooth(登録商標)利用可能なタブレット302を含む。相対湿度は、シリカゲルで満たされた乾燥器306によって制御され、参照RHセンサ308は、例示的な実施形態による機械学習で使用される参照データを提供する。アナログフロントエンドユニット(AFE)、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)、マイクロコントローラユニット(MCU)、およびバッテリブースター(ここではTI TPS61220&LM4120)を含む、PCB305上の詳細な機能回路については図4に示されるブロック図を参照して説明する。
【0050】
図4の図から見られるように、ケミレジスタ400は、AFE402(ここではTI LM91000)の制御電極(CE)と作用電極(WE)との端末にわたって接続されている。ケミレジスタ400に対するこのバイアス電圧は、3Vコイン型バッテリ404(ここではCR-2032)によって供給され、25mVの最小値に事前設定されている。バッテリブースターユニット406はこのバッテリ電源を調節し、マイクロコントローラユニットおよび無線周波数システムオンチップ(ここではMCU+RF SoC CC2541)412の内部に見られる制御増幅器(A1)407、トランスインピーダンス増幅器(TIA)409、およびアナログ/デジタルコンバータ(ADC)に2.5Vの安定した基準電圧を提供する。CEおよびWEにわたって一定の25mVが常に保持されることを確実にするために、AFE402の基準電極(RE)端末はCEに短絡される。この構成の下で、AFE402は定電位電解装置のように動作し、ケミレジスタ400の抵抗における任意の変化は、端末408、410を流れる電流に反映され、TIA409によって電圧に変換される。MCU412内のADCは、次に、このアナログ電圧をデジタル信号に変換し、Bluetooth(登録商標)送信器414は、例えば0.3秒の事前設定された間隔(注:利用可能な最小の事前設定された間隔=10ミリ秒)で周期的にこのデジタル情報を受信器(図3のBluetooth(登録商標)利用可能タブレット302)に伝送する。デジタル電圧信号がタブレット302(図3)によって受信されると、デジタル電圧信号は、タブレット302(図3)におけるソフトウェアアプリケーションによって、MCU412およびTIA409内のADCにおける設定に基づいてその元のアナログ電流値に戻される。
【0051】
例示的な実施形態による機械学習のためのデータ収集
【0052】
図5は、同一の環境に存在する複数の種類のガス/蒸気を分類および定量化するように単一の2DMベースケミレジスタを訓練するときの好ましい実施形態によるデータ収集プロセスを例示するフロー図を示す。ステップ1として示されるように、閉鎖環境において、制御された方式で単一の2DM系ケミレジスタを所望の数Nおよびタイプのガス/VOCに曝露し、どのガス/VOCを測定するか、および調節する濃度レベルの範囲を決定する。ステップ2として示されるように、1つのガス/VOCの濃度を体系的に変化させ、ケミレジスタの対応するチャネル抵抗を測定する。好ましくは、決められた調整範囲内で測定点が等しく分散していることを確実にしながら、異なる濃度レベルにおける測定値のデータセットを収集する。このデータセットは、周囲タイプ0として分類される(それぞれの異なるガス/VOCについて新しいデータセットごとにこの数を1だけインクリメントする)。
【0053】
ステップ3aに示されるように、ステップ1から繰り返し、全てのガス/VOCの濃度が変化するまで、別のガス/VOCタイプを選択する。
【0054】
ステップ3bとして示されるように、ステップ1から繰り返し、全ての2つのガス/VOCの組み合わせの濃度が変化するまで、濃度の同時変動のための2つのガス/VOCタイプを選択する。
【0055】
ステップ3cとして示されるように、ステップ1から繰り返し、全ての可能なN個のガス/VOCの組み合わせの濃度が変化するまで、毎回、同時に変化させるガス/VOCタイプ(すなわち、3つのガス/VOCの組み合わせ、4つのガス/VOCの組み合わせなど)の数を増やす。次に、データ収集が完了し、機械訓練が開始される。
【0056】
異なる実施形態では、周囲タイプの名前は、図5を参照して上で説明したように、訓練中にどれだけ多くのパラメータが変化したかに基づく必要はないことに留意されたい。例えば、周囲タイプの名前は、時系列の様式でいつ訓練が実行されるかに基づいてもよい。一般に、ガスの全ての関連する組み合わせが例示的な実施形態によるセンサでテストおよび訓練される限りにおいて、訓練されたモデルは、様々な例示的な実施形態による使用に適している。
【0057】
例示的な実施形態による、N=3[HO/RH、CO、およびNO]の機械学習のためのデータ収集
【0058】
周囲タイプ0:相対湿度、RH、およびCOのみの変動。図3に示される乾燥器306は、最初に、バッテリ駆動の無線bPセンサ304を用いて、有孔プレート下で新たに焼成されたシリカゲルで満たされる。次に、乾燥器306内でシリカゲルがRHを還元することができるように乾燥器306を閉じる。参照RHセンサ308がひとたび安定すると、bPケミレジスタ304にわたって流れる電流を、0.3秒の間隔で3分間、無線でタブレット300上に記録することを可能することによってデータ収集が開始される。したがって、この非限定的な例では、RH値の各サンプル読出しは、測定された、この3分間の期間の間にbPケミレジスタ304にわたって流れる電流を表す600個のデータ点からなることになる。3分間の記録時間内にRH値に何らかの変化を有するデータセットは破棄されることになる。5カ月にわたって実験を実施し、乾燥器306の環境が中断されたのは、(バッテリのエネルギーを節約するために)毎日の始めと終わりに無線センサの電源をオンにしたりオフにしたりしたときのみであった。RHのために収集したサンプルファイルの数は945であり(すなわち、サンプルサイズ=945)、各サンプルは600個の測定点を含む。NOの周囲濃度は、この周囲タイプ0については変化しないものと仮定されるが、乾燥器内の周囲CO濃度は、この周囲タイプ0の全ての実験を通じて、拡散によって低下することが見られる。
【0059】
図6は、最初の4日間に収集された68個(注:明確性の目的のために図においては34個のみが示されている)のサンプルの統計情報(すなわち、平均、中央値、および標準偏差)を示す。この図から、RHとは無関係に、時間と共に、各サンプルの平均電流の漸次的な減少を見ることができる。これは、bPケミレジスタがその表面上の残留蒸気吸着の影響を受けていることの兆候である。これはさらに図7において例示されており、すなわち、異なる3日で取られた同じRHの平均電流が異なっているため、bPケミレジスタはその元の状態に回復していない。それにもかかわらず、これらの悪影響は、例示的な実施形態による機械訓練されたガス感知システムのテストスコアに対して関係を有しないことが後で示される。
【0060】
周囲タイプ1:COのみに変動。相対湿度およびCO測定について、無線2DM系ガス感知システムを機械訓練するための実験的なセットアップの写真は図8に示されるとおりである(NO参照センサ803は使用されないことに留意されたい、すなわち、酸素および窒素のように、NOは、存在する周囲空気の一部であるが、それらの濃度レベルは約0.00003%と非常に低い)。このセットアップでは、CO濃度レベルは、5秒間~60秒間の範囲に及ぶ固定期間にわたって、5SCCMの固定速度で質量流量コントローラ801を通してCOガス(純度=99.999%)をチャンバ802に流すことにより制御される。ひとたび準備が整うと、ガス入口の弁が閉じられ、COは、セットアップにおけるドアの縁部を通じて徐々に拡散し得る。その後、この時間の間にbPケミレジスタに流れる電流が測定され、3分間にわたって0.3秒の間隔でタブレット上に無線で記録される。測定された電流に加えて、3分間の電流測定の開始時に一度、次に、3分間の測定の終了時に再び、参照COおよびRHセンサ804、806からそれぞれ、周囲温度および濃度レベルも記録される。次に、濃度レベル、周囲温度、および測定された電流の変動は、訓練のために機械学習アルゴリズムにパスされる。広範なCO濃度レベル(例えば、544ppm~1909ppm)にわたる周囲条件においてデータの複数のセットが収集される。2カ月にわたって実験を実施し、COおよび相対湿度のために収集したサンプルファイルの数は642個であり(すなわち、サンプルサイズ=642)、各サンプルは600個の測定点を含む。
【0061】
センサは、周囲条件下でこの例示的な実施形態により訓練されることに留意されたく、周囲とは、RHが環境に存在することを意味する。HO/RHは、センサが測定するように訓練されているガスの1つであるので、その相対的に一定の濃度レベルは、COのみが変化している場合およびRHが変化している場合の状況間での導電性の違いを見つけるようにモデルを訓練するために記録されている。RHおよびCOは各々、ケミレジスタの導電性を変化させることができる。一度に1つの構成要素のみを変化させ、他の構成要素は存在するものの一定に保つことによって、複数のガス/VOCの濃度予測を行うよう例示的な実施形態によるセンサを訓練することができる。これは、有利には、ガス/VOCの複数のソースに曝露されたときに、ケミレジスタの導電性における単一の全体的な増分変化から複数のガスを予測する困難性を克服する。
【0062】
周囲タイプ2:COおよびNOの変動。実験的なセットアップは図8に示されるとおりである。この場合、(NO参照ガス測定センサ803から取得される)NO濃度は、5秒間~60秒間の範囲に及ぶ固定期間にわたって、5SCCMの固定速度で質量流量コントローラ801を通してNOガス(純度=99.999%)をチャンバ802に流すことにより制御される。ひとたび準備が整うと、ガス入口の弁が閉じられ、COは、セットアップにおけるドアの縁部を通じて徐々に拡散することが可能となる。その後、この時間の間にbPケミレジスタに流れる電流が測定され、3分間にわたって0.3秒の間隔でタブレット上に無線で記録される。測定された電流に加えて、3分間の電流測定の開始時に一度、次に、3分間の測定の終了時に再び、参照NO、COおよびRH計量器からそれぞれ、周囲温度および濃度レベルも記録される。COセンサ804およびRHセンサ803上(NOセンサ803は周囲温度の読出しを有しない)での濃度レベル、周囲温度の変動と、測定された電流とは、次に、訓練のために機械学習アルゴリズムにパスされる。広範なCO濃度レベル(例えば、27ppm~874ppm)およびNO濃度レベル(例えば、19ppm~945ppm)にわたる周囲条件においてデータの複数のセットが収集される。2カ月にわたって実験を実施し、COおよびNOのために収集したサンプルファイルの数は586個であり(すなわち、サンプルサイズ=586)、各サンプルは600個の測定点を含む。
【0063】
例示的な実施形態による、機械学習を介したVOC検出のためのデータ収集 N=2:COおよびRH(例えば、周囲タイプ0=植物なしの空の容器、タイプ1=非芳香植物のみ、およびタイプ2=VOCを排出する芳香植物)。
【0064】
図9は、植物により排出されるVOCを分類するための実験的なセットアップを示す。芳香植物はバジル植物であり、以下のVOCを排出することが文献において知られている。
【0065】
1.α‐ピネン
【0066】
2.β‐ピネン
【0067】
3.ユーカリプトール
【0068】
4.酢酸リナリル、フェニルプロペン
【0069】
5.オイゲノールおよびセスキテルペン
【0070】
6.α‐ベルマゴテン(bermagotene)
【0071】
7.ゲルマクレン‐D
【0072】
8.γ‐ムウロレン
【0073】
9.β‐コパエン
【0074】
この例示的な実施形態による実験において変化について能動的に監視されたガスは、COおよびRHのみであった。周囲タイプ、すなわち排出されたVOCの存在のみを分類するだけでなく、バジル植物によって排出された各個別のVOCの濃度レベルを予測することが所望される場合、回帰訓練のために各VOCの参照濃度値をさらに取得し得ることに留意されたい。しかしながら、このVOC検出の例示的な実施形態では、本発明の例示的な実施形態もVOCに対して感受性であり得るという概念の証明を提供することを意図している。
【0075】
各個別のVOCの濃度レベルが予測される実施形態におけるデータ収集および訓練の方法論は、マルチガス環境について本明細書において図5および10を参照して説明したものと同一である。一方は本質的に有機的であるのに対し、他方は無機的である(すなわち、CO)ことを除いて、例えばCOまたはRHと同様にVOCも気体状態の分子からなる。例示的な実施形態がこのタイプの蒸気に反応することを示した上で、同一のML手法を適用することができ、当業者によって理解されるように、同様の予測精度が期待され得る。
【0076】
例示的な実施形態による機械学習を介したマルチガス感知のための無線ケミレジスタの訓練
【0077】
データ収集の間に収集されたデータファイルにおいて、ケミレジスタにわたって測定された電流、参照センサから取られたそれぞれの濃度レベルおよび周囲温度、収集日時、ならびにガスのタイプが時系列で利用可能である。この情報を使用することで、コンピュータプログラム(例えば、パイソン言語ベースの)が記述して、各ガス/VOCタイプ用のAIモデルを作成し、予測のためにそれらを使用することができる。図10は、例示的な実施形態による、同一の環境に同時に存在するガス/VOCの複数のソースを分類および定量化するために、機械学習(ML)を介して単一の2DM系ケミレジスタを訓練するプロセスを例示する。
【0078】
具体的には、ステップ1として示されるように、図5を参照して上で説明したように訓練および試験用のデータ収集を実行する。ステップ2として示されるように、曝露の低周波雑音プロファイルを取得し、それに関連付けられたローレンツ構成要素を特定するために、2DM系ケミレジスタの様々な収集された時間ドメイン/時系列の電気的応答にフーリエ変換を適用する。雑音プロファイルから、全ての必要な入力特徴を計算する。本明細書に記載の例示的な実施形態に従い、合わせて15個の特徴を使用した。
【0079】
1.Rch(オーム)
【0080】
2.ランタイム(秒)
【0081】
3.周囲温度(℃)
【0082】
4.RchSignatureFreq(Hz)
【0083】
5.RchMaxLorentzPSD(1/Hz)
【0084】
6.RchSignatureDesorption(秒)
【0085】
7.RchKurtpLorentzPSD
【0086】
8.RchSkewpLorentzPSD
【0087】
9.RchMaxLorentzPSDmedian(1/Hz)
【0088】
10.RchMaxLorentzPSDratio
【0089】
11.nLorentzPSDPeaks
【0090】
12.MedianPSDPeaks(1/Hz)
【0091】
13.MedianfreqPeaks(Hz)
【0092】
14.FWHMmaxHz(Hz)
【0093】
15.FWFMmaxHz(Hz)
【0094】
当業者には理解されるように、上記の特徴は以下のような情報を含む。
【0095】
単一の2DM系ケミレジスタからの時間依存性電気的応答(すなわち、チャネル抵抗)、すなわち、上記の特徴1。
【0096】
周囲温度およびランタイムなどの動作条件、すなわち、上記の特徴2および3。
【0097】
周波数に対する、雑音スペクトル密度に周波数を乗算した結果のプロット(すなわち、ローレンツ雑音スペクトル)からの、特有のローレンツ周波数(すなわち、最大パワースペクトル密度を有するピーク)およびそれらのそれぞれのパワースペクトル密度(すなわち、ローレンツ雑音スペクトル)などのその導出物、すなわち、特徴4および5。
【0098】
特有のローレンツ脱離時間(すなわち、特有のローレンツ周波数の逆数)、すなわち、特徴6。
【0099】
ローレンツ雑音スペクトルの尖度、歪度、中央値、すなわち、特徴7、8および9。
【0100】
ローレンツ雑音スペクトルの中央値に対する特有のローレンツ周波数のパワースペクトル密度比、すなわち、特徴10。
【0101】
ローレンツ雑音スペクトルに見られるローレンツピークの数、それらのピークの中央値、およびそれらのピークに関連付けられる周波数、すなわち、特徴11、12および13。
【0102】
特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅(すなわち、最大パワースペクトル密度を有するピーク)、すなわち、特徴14および15。
【0103】
ステップ3aとして示されるように、測定した時系列のチャネル抵抗、それらのローレンツ導出物、および動作条件を入力特徴として、ならびに全ての関連付けられるタイプの周囲環境をターゲットラベルとして使用して、入力特徴から周囲環境のタイプを予測するよう任意の確立されたMLアルゴリズム(例えば、サイキットラーン(scikit-learn)から)で分類モデルを訓練する。精度が不十分である場合にはステップ1を繰り返す。
【0104】
ステップ3bとして示されるように、ひとたび分類モデル化が完了すると、それらの分類ラベル(すなわち、周囲タイプ)に従って入力特徴の各セットをカテゴリー化する。次に、同じ周囲タイプを有する特徴セットを入力として、およびそれらの関連付けられた濃度レベルをターゲット値として使用して、任意の確立されたMLアルゴリズムで周囲タイプごとに回帰モデルを訓練する。訓練された回帰モデルの数は、周囲タイプの数に等しくなるはずである。精度が不十分である場合にはステップ1を繰り返す。
【0105】
上記の具体的な例示的な実施形態におけるデータ収集は、図5を参照して上で説明した好ましい実施形態により指定される全ての周囲条件の完全なスペクトルを含まないものの、当業者によって理解されるように、全ての指定された周囲条件から得られた結果から(不完全であるが)、全ての所望の動作条件を網羅する好ましい実施形態による3ガスセンサの場合、上で図5を参照して説明したように訓練することが好ましいことを演繹することができることに留意されたい。
【0106】
同様に、本発明の実施形態が、本明細書の特定の実施形態で説明したもののように、同一の一般的な特性を共有する様々な2D材料の場合に一般的に作用することを演繹するために、様々な異なる2D材料を使用する例示的な実施形態によるセンサを示すことが必要ではないことが当業者により理解されるであろう。
【0107】
本発明の例示的な実施形態による訓練の方法論は、センサがどのように使用されるかによるため非常に用途が広い。例えば、動作条件が1つのガス/VOC、例えばRHにおいていかなる変化も経ないことをユーザが確実に知っている場合、訓練ループにおけるRHのための変動サイクルを除いて、依然としてセンサを使用することができる。すなわち、訓練されている関連付けられた周囲条件と共に予測の精度が検討されることになる。例えば、図16に示されるように、COが変化しているがRHおよびNOは一定であると仮定される周囲条件について、特定の予測精度が有効となり得、これは、以下でより詳細に説明される。
【0108】
ユーザがそのような動作条件に満足しない場合、それが1、2、または3ガスが同時に変化している場合であれ、好ましい実施形態による全ての動作条件下で動作し得る3ガスセンサを得るために、図5を参照して説明される訓練ループが継続/完了され得る。
【0109】
例示的な実施形態による複数のガス/VOC感知のための訓練された分類および回帰モデルの配置
【0110】
図11は、例示的な実施形態による複数のガス/VOC感知のための予測を例示する信号フロー図を示す。符号1200において示されるように、2DMケミレジスタは、ガス/VOCの複数のソースを有する環境に曝露される。符号1202において示されるように、3分間にわたってチャネル抵抗が0.3秒の間隔で記録され、必要な入力特徴を作成するために、測定された時系列データが使用される(図10を参照して上で説明した分類モデル化と比較されたい)。符号1204において示されるように、入力特徴から対応する周囲タイプを決定し、どのタイプのガス/VOCが存在するかを明らかにするために、訓練された分類モデルが適用される。符号1206において示されるように、次に、決定された周囲タイプについて、各ガス/VOCタイプの濃度レベルがそれぞれの訓練された回帰モデルによって予測される(図10を参照して上で説明した回帰モデル化と比較されたい)。
【0111】
例示的な実施形態によるガスセンサまたはガス感知ノードのシステム実装
【0112】
図12は、健康状態を追跡するためのスタンドアロン型消費者向け製品における空気質センサとして、または、工場もしくは産業安全性の用途における製造管理のための無線センサネットワークにおける気候監視感知ノードとしての、例示的な実施形態によるオールインワンガスセンサ900のシステム実装ブロック図を簡潔に説明する。(ブロック902において示される)出力の計算は、より一層の自動化および複雑なデータ分析計算のために、モバイルデバイス上で、またはクラウドを介してのいずれかで行われ得る。具体的には、ブロック904は、ガスが電子を奪う/供与し、転じて、ブロック906として示されるように、抵抗における変化をもたらすことを示す。例示的な実施形態では、ブロック902として示されるように、抵抗における変化を表すデータは、モバイルデバイス/クラウドに無線で伝送される。計算された統計情報および他の変化率を表すデータ(ブロック908において示される)は、ブロック912において示されるように、ガスタイプおよび濃度レベルの予測を行うために、オールインワンガスセンサ900のAIモデルブロック910に伝送(例えば、無線で)される。
【0113】
例示的な実施形態による結果および分析
【0114】
図13における結果は、3つの異なる周囲環境(すなわち、例示的な実施形態について上で説明したタイプ0、1および2)から抽出された特有のローレンツ周波数および関連付けられる統計情報(図10を参照して上で説明した特徴リストも比較されたい)を示しており、これは、特有のローレンツ周波数を使用して、例示的な実施形態による単一の2DM系ケミレジスタから複数のガス、この場合、RH、CO、およびNOを区別する原理の第1の証明として見ることができる。同様に、図14は、例示的な実施形態による、容器内に植物がない別の周囲タイプ0、VOCを一切排出しないことが知られている植物が容器内にある別の周囲タイプ1、および最後に、強いVOCを排出することが知られている植物が容器内にある最後の別の周囲タイプ2の3つの他の異なる周囲環境(図9および対応する上の説明を比較されたい)から抽出された特有のローレンツ周波数および関連付けられる統計情報(図10を参照して上で説明した特徴リストも比較されたい)を示す。この結果は、特有のローレンツ周波数を使用して、それらのVOC排出量に基づいて、影響を受けている植物を区別するための原理の第1の証明として見ることができる。
【0115】
図15図16、および図17における結果は、RH(テストスコア=0.998935)、CO(テストスコア=0.999999)、およびNO(テストスコア=0.999998)のガスについて、例示的な実施形態によるオールインワンセンサの予測精度を示している。当技術分野において理解されているように、テストスコアは全て、サポートベクターマシン回帰(SVR)および決定木分類アルゴリズム(テストスコア=0.999243)に基づいている。結果は、有利に、例示的な実施形態による同一の物理センサを同時に使用して、制御環境内で、3つのタイプのガス、すなわちRH、CO、およびNOガス、ならびにそれらの濃度レベルを動的な様式(すなわち、ガスは安定した濃度状態にある必要はない)で検出することができることを示している。具体的には、図15において、応答時間=1.5分での、サポートベクターマシン回帰により予測されるRH(データ点)対実際のRH(曲線)が示されている。COガスの濃度が減少している間に同時に、RHの訓練および試験を実施した。センサは、O、N、およびNOの存在も含む周囲条件下で訓練されたことに留意されたい。O、N、およびNOのソースは導入されなかったため、実験条件(制御環境である)下では一定であると仮定される。図16において、サポートベクターマシン回帰により予測されるCO(例えばデータ点)対実際のCO(曲線)が示されている。COよりは遅い速度であるがNOガスの濃度が減少している間に同時に、相対的に一定のRHで、COの訓練および試験を実施した。応答時間=1.5分。図17において、サポートベクターマシン回帰により予測されるNO(例えばデータ点)対実際のNO(曲線)が示されている。NOよりは速い速度であるがCOガスの濃度が低下している間に同時に、相対的に一定のRHで、NOの訓練および試験を実施した。応答時間=1.5分。
【0116】
相対湿度(RH)、二酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NO)のための2DMに基づく全てのオールインワンセンサは、例示的な実施形態に従って提供されている。例示的な実施形態によるMLの訓練は、全ての3つのガスについて99.8%を上回るテストスコアを、1.5分の応答時間で実現する。これは、従属変数における変動の少なくとも99.8%が、全ての専用AIエンジンによって説明されていることを示唆している。例示的な実施形態によれば、広範囲のガスに感受性である単一の物理センサを、機械学習を介してRH、CO、およびNOを選択的に検出するように機能化させることができるだけでなく、2次元材料の使用により、低電力消費(25mVおよび<10uA)、長い貯蔵寿命、および小さい物理的サイズも有利に実現することができる。他のガスおよび蒸気でさらなる訓練を行うことにより、相対湿度、酸素、および窒素濃度に加えて、例えば、空気中の揮発性ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、花粉、または毒素の形態で空気質を検出するための、様々な実施形態によるオールインワンポータブルセンサが提供され得る。モバイルデバイスまたは固定端末にインストールされたソフトウェアアプリケーション内に、様々な実施形態によりユーザがアクションを取るためのより高度な知的レベルのアクション可能なフィードと共に、データが表示され得る。異なるガスおよび蒸気のために異なるAIエンジンを製造することによって、様々な実施形態によるオールインワンセンサに、オンデマンドかつリアルタイムで、ハードウェアへの変化はもたらさずに、新たな感知能力も追加することができる。様々な実施形態において、強化学習(別のタイプの機械学習技法)により、センサの較正を排除する、またはその頻度を減らすことのいずれかができる。
【0117】
図18は、例示的な実施形態による2つの異なる2DM系センサから得られた分類および回帰の結果を要約しており、一方は黒リン(bP)、Dev11-bPに基づき、他方はテルレン(Te)、Dev01-Teに基づいている。bP系センサは、3つのガス、すなわちRH、CO、およびNOを含む3つの異なる周囲環境を分類し、かつまた、環境内のそれらのそれぞれの濃度レベルを定量化することが可能であることが示された一方、Te系センサは、1つが内部に植物を含まないが、ドアの隙間を通じた正常拡散によりCO2が上昇しRHが減少しており、1つが非芳香植物を含むが、COが595~615ppmに留まり、RHが72~74%に留まり、最後の1つが芳香植物を含み、約605~615ppmを留まるCO濃度と、65%から最大76%に上昇した後に72~73%に戻って落ち着くRHとを有する、3つの異なる周囲環境を分類することができることが可能であることが示された。
【0118】
図19は、例示的な実施形態による、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定するコンピュータ化された方法を例示するフローチャート1900を示す。ステップ1902において、同一の化学的および物理的特性を有する1つまたは複数の感知素子が複数のガスおよび/または揮発性有機化合物に曝露される。ステップ1904において、曝露の間に、1つまたは複数の感知素子の電気的時系列データが測定される。ステップ1906において、電気的時系列データと電気的時系列データのローレンツ型雑音情報とが人工知能(AI)システムにより分析される。ステップ1908において、電気的時系列データと、電気的時系列データのローレンツ型雑音情報との分析に基づいて、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度が決定される。
【0119】
本方法はさらに、人工知能(AI)システムによって周囲温度を分析する段階と、周囲温度の分析にさらに基づいて、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度を決定する段階とを含む。
【0120】
ローレンツ型雑音情報は、最大パワースペクトル密度を有する特有のローレンツピーク、それらのそれぞれのパワースペクトル密度、特有のローレンツ脱離時間、ローレンツ雑音スペクトルの尖度(Kurt)、歪度(Skew)、中央値、特有のローレンツ周波数のローレンツ雑音スペクトルの中央値に対するパワースペクトル密度比、ローレンツ雑音スペクトルの中に見られるローレンツピークの数、ローレンツピークの中央値、ローレンツピークに関連付けられる周波数、特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅からなる群から選択される特徴を含み得る。
【0121】
AIシステムは、分類もしくは回帰モデルAIシステムまたは強化学習AIシステムであり得る。各感知素子は2次元感知材料を含み得る。2次元感知材料はケミレジスタとして構成され得、電気的時系列データは抵抗時系列データを含み得る。2次元感知材料は、黒リン(bP)、テルレン(Tellurene)、還元グラフェンオキシド、グラフェン、および遷移金属ジカルコゲナイドのうちの1つまたはこれらから成る群、または、低電力動作について黒リンに匹敵するキャリア移動度を有する様々な元素もしくは化合物の任意の2次元同素体を含む。
【0122】
図20は、例示的な実施形態による、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定することができるセンサデバイス2000を例示する概略図を示す。センサデバイス2000は、同一の化学的および物理的特性を有する1つまたは複数の感知素子2002と、人工知能(AI)システム2004とを含み、AIシステム2004は、電気的時系列データおよび電気的時系列データのローレンツ型雑音情報を分析し、電気的時系列データおよび電気的時系列データのローレンツ型雑音情報の分析に基づいて、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度を決定するように構成されている。
【0123】
AIシステム2004はさらに、周囲温度を分析し、かつ、周囲温度の分析にさらに基づいて、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および/または濃度を決定するように構成され得る。
【0124】
ローレンツ型雑音情報は、最大パワースペクトル密度を有する特有のローレンツピーク、それらのそれぞれのパワースペクトル密度、特有のローレンツ脱離時間、ローレンツ雑音スペクトルの尖度(Kurt)、歪度(Skew)、中央値、特有のローレンツ周波数のローレンツ雑音スペクトルの中央値に対するパワースペクトル密度比、ローレンツ雑音スペクトルの中に見られるローレンツピークの数、ローレンツピークの中央値、ローレンツピークに関連付けられる周波数、特有のローレンツピークの半値全幅および全値全幅からなる群から選択される特徴を含み得る。
【0125】
AIシステム2004は、分類もしくは回帰モデルAIシステムまたは強化学習AIシステムであり得る。各感知素子は2次元感知材料を含み得る。2次元感知材料はケミレジスタとして構成され得、電気的時系列データは抵抗時系列データを含み得る。2次元感知材料は、黒リン(bP)、テルレン(Tellurene)、還元グラフェンオキシド、グラフェン、および遷移金属ジカルコゲナイドのうちの1つもしくはこれらから成る群、または、低電力動作について黒リンに匹敵するキャリア移動度を有する様々な元素もしくは化合物の任意の2次元同素体を含む。
【0126】
一実施形態では、複数のガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの存在および濃度を決定することができるように、図20を参照して上で説明した実施形態のセンサデバイスを訓練する方法が提供される。
【0127】
方法は、i)制御環境において1つまたは複数の感知素子を所望の数およびタイプのガスおよび/または揮発性有機化合物に曝露し、電気的時系列データの第1のデータセットを測定する段階と、ii)ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの1つの濃度を変化させて、電気的時系列データの第2のデータセットを測定する段階と、iii)所望の範囲の濃度にわたって段階ii)を繰り返す段階とを含むデータ収集段階を含み得る。
【0128】
方法はさらに、iv)前記ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの2つのそれぞれの濃度を変化させて、電気的時系列データのさらなるデータセットを測定する段階と、v)ガスおよび/または揮発性有機化合物の2つのそれぞれの濃度の所望の範囲の組み合わせにわたって段階iv)を繰り返す段階とを含むデータ収集段階を含み得る。
【0129】
方法はさらに、vi)段階iv)およびv)を繰り返す段階であって、各繰り返しにおいて、ガスおよび/または揮発性有機化合物のうちの追加の1つが段階iv)に追加される、繰り返す段階を含むデータ収集段階を含み得る。
【0130】
方法はさらに、データ収集段階で収集されたデータセットに対して機械訓練を実行する段階を含み得る。機械学習を実行する段階は、分類モデルを訓練して、ガスおよび/または揮発性有機化合物の数およびタイプを予測する段階と、回帰モデルを訓練して、ガスおよび/または揮発性有機化合物のそれぞれの濃度を予測する段階とを含み得る。
【0131】
本発明の実施形態は、以下の特徴および関連付けられる利点/長所のうちの1つまたは複数を有し得る。
【表1】
【0132】
本発明の実施形態は、ガスセンサ、例えば、健康状態を追跡するためのスタンドアロン型消費者向け製品における空気質センサとして、または、工場もしくは産業安全性の用途における製造管理のための無線センサネットワークにおける気候監視感知ノードとしての用途を有し得る。ガスセンサは、水蒸気(水分)、有機蒸気、および有害ガスなどの、大気中の特定のガスの存在を検出し、その濃度を定量化することができるデバイスである。それらは、環境監視および排出制御、個人的および軍事的安全性、農業、産業および医療用診断薬における製造管理において広く用いられている。
【0133】
しかしながら、従来のガスセンサは、単一のタイプのガスまたはだけ蒸気のみを検出するように設計されている。そのため、複数のガスまたは蒸気を監視する必要がある無線センサネットワークにおいて、回路内に複数のユニークなガスセンサが必要とされるため、従来のセンサで構築された感知ノードはかさばり、複数のユニークな読出し回路および較正が感知ノードに要求されるため、高い電力消費および維持コストがかかる。
【0134】
本発明の実施形態は1つの物理センサのみを使用して全てのガスのフットプリントを取得するため、無線センサノードは小さく(すなわち、親指サイズ)であり、3Vのボタン型リチウムバッテリ上で例えば12カ月よりも長く持つことができる。例示的な実施形態によるセンサのために開発されたAIモデルはまた、例えば、強化学習を使用することによって、物理的な較正要件を排除する、または較正の頻度を減らすために使用され得る。
【0135】
本明細書で開示される様々な機能または処理は、それらの挙動、レジスタ転送、論理コンポーネント、トランジスタ、レイアウトジオメトリ、および/または他の特性の点から、様々なコンピュータ可読媒体において具現化されるデータおよび/または命令として説明され得る。そのような形式化されたデータおよび/または命令が具現化され得るコンピュータ可読媒体は、様々な形態の不揮発性記憶媒体(例えば、光、磁気、または半導体記憶媒体)、ならびに、無線、光、または有線の信号伝達媒体、またはそれらの任意の組み合わせを通じてそのような形式化されたデータおよび/または命令を転送するのに使用され得る搬送波を含むがこれらに限定されない。搬送波によってそのような形式化されたデータおよび/または命令の転送の例は、1つまたは複数のデータ転送プロトコル(例えば、HTTP、FTP、SMTPなど)を介したインターネットおよび/または他のコンピュータネットワーク上での転送(アップロード、ダウンロード、電子メールなど)を含むがこれらに限定されない。1つまたは複数のコンピュータ可読媒体を介してコンピュータシステム内で受信されると、説明されるシステム下でのコンポーネントおよび/またはプロセスのそのようなデータおよび/または命令に基づく表現は、1つまたは複数の他のコンピュータプログラムの実行と併せて、コンピュータシステム内の処理エンティティ(例えば、1つまたは複数のプロセッサ)によって処理され得る。
【0136】
データ収集、機械学習、およびAIセンサ出力生成などの、本明細書に記載のシステムおよび方法の態様は、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルアレイロジック(PAL)デバイス、電気的にプログラム可能なロジックおよびメモリデバイス、ならびに標準的なセルベースのデバイス、ならびに特定用途向け集積回路(ASIC)を含む様々な回路のいずれかにプログラム化された機能として実装され得る。システムの態様を実装するためのいくつかの他の可能性は、メモリを有するマイクロコントローラ(例えば、電子的に消去可能なプログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、埋め込みマイクロプロセッサ、ファームウェア、ソフトウェアなどを含む。さらに、システムの態様は、ソフトウェアベースの回路エミュレーション、離散論理(順序および組み合わせ)、カスタムデバイス、ファジー(ニューラル)論理、量子デバイス、および上記のデバイスタイプのいずれかのハイブリッドを有するマイクロプロセッサにおいて具現化され得る。もちろん、根底にあるデバイス技術、例えば、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)のような金属酸化半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)技術、エミッタ結合型論理(ECL)のようなバイポーラ技術、ポリマー技術(例えば、シリコン共役ポリマーおよび金属共役ポリマー金属構造)、アナログおよびデジタルの混合などが、様々なコンポーネントタイプで提供され得る。
【0137】
システムおよび方法の例示される実施形態の上の説明は、網羅的であること、またはシステムおよび方法を開示されている正確な形式に限定することは意図されていない。本明細書においては、システムコンポーネントおよび方法に係る特定の実施形態および例が、説明の目的で記載されている一方で、当業者が認識するであろうような様々な均等の修正が、当該システム、コンポーネント、および方法の範囲内で可能である。本明細書に提供されたシステムおよび方法の教示は、上述のシステムおよび方法のみでなく、他の処理システムおよび方法に適用可能であってよい。
【0138】
上で説明した様々な実施形態の要素および動作は、さらなる実施形態を提供するために組み合わされ得る。上記の詳細な説明に照らし、システムおよび方法に対しこれらの変更点および他の変更点がなされてよい。
【0139】
例えば、本明細書に記載の例示的な実施形態においてbPを使用したが、異なる実施形態では、テルレン、還元グラフェンオキシド、グラフェン、および遷移金属ジカルコゲナイドを含むがこれらに限定されない他の材料が使用され得る。好ましくは、材料は、低電力動作について黒リンに匹敵するキャリア移動度を有する様々な元素もしくは化合物の任意の2次元同素体などの、高いキャリア移動度および大きい表面積対体積比を有する2次元材料である。
【0140】
一般に、以下の特許請求の範囲では、使用される用語は、明細書および特許請求の範囲で開示される特定の実施形態にシステムおよび方法を限定するように解釈されるべきではなく、特許請求の範囲の下で動作する全ての処理システムを含むように解釈されるべきである。したがって、システムおよび方法は開示内容によって限定されることはなく、代わりに、システムおよび方法の範囲は、特許請求の範囲によって専ら決定される。
【0141】
別途文脈により明確に必要とされない限り、明細書および特許請求の範囲にわたって、「備える(comprise,comprising)」などの単語は、排他的または網羅的な意味とは反する包含的な意味で、すなわち、「含むがこれらに限定されない(including,but not limited to)」の意味で解釈されるべきである。単数形または複数形を使用する単語も、複数形および単数形をそれぞれ含む。また、"本明細書において「herein(ここで)」、「hereunder(以下)」、「above(上)」、「below(下)」という単語および同様の意味の単語は、本願を全体として言及しており、本願の具体的な部分を言及していない。2つ以上の項目のリストに関連して「または(or)」という単語が使用される場合、その単語は、単語の以下の解釈の全てを網羅している:リスト内の項目のいずれか、リスト内の項目の全て、リスト内の項目の任意の組み合わせ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【国際調査報告】