(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】がんにおけるフェロトーシス誘導剤としての高密度リポタンパク質様ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 33/242 20190101AFI20221115BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221115BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221115BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20221115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221115BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20221115BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20221115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221115BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20221115BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P35/00
A61K38/16
A61K31/575
A61K45/00
A61K47/24
A61K9/51
A61P43/00 121
A61K47/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517197
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 US2020051549
(87)【国際公開番号】W WO2021055788
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500041019
【氏名又は名称】ノースウェスタン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】タックストン, シー. シャド
(72)【発明者】
【氏名】リンク, ジョナサン エス.
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン, レオ アイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076CC27
4C076CC41
4C076DD63H
4C076EE59
4C076FF70
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA03
4C084BA22
4C084BA36
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA19
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA38
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
がんおよび他のフェロトーシス障害を有する被験体を、フェロトーシスを誘導する高密度リポタンパク質様ナノ粒子で処置するための組成物および方法が本明細書において開示される。したがって、本開示の一態様は、被験体に、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を投与することによって、がんを有する被験体を処置する方法であって、シェルがリン脂質を含み、被験体ががん細胞を有し、合成ナノ構造体が、がん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与される、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有する被験体を処置する方法であって、
フェロトーシス感受性悪性疾患を有する被験体を特定することと、
前記被験体に、
ナノ構造体コア、前記ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を投与することであって、前記シェルがリン脂質を含む、投与することと
を含み、
前記被験体ががん細胞を有し、前記合成ナノ構造体が、前記がん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与される、方法。
【請求項2】
細胞集団において、がん細胞の数を低減する方法であって、
前記がん細胞を、
ナノ構造体コア、前記ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体と接触させることであって、前記シェルがリン脂質を含む、接触させることとを含み、
前記合成ナノ構造体が、前記がん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で存在する、方法。
【請求項3】
前記ナノ構造体コアが金である、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記合成ナノ構造体が、アポリポタンパク質をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-II、またはアポリポタンパク質Eである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記合成ナノ構造体が、コレステロールをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
リン脂質シェルが、脂質単層を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
リン脂質シェルが、脂質二重層を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脂質二重層の少なくとも一部が、前記ナノ構造体コアに共有結合している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノ構造体コアが、約500ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ナノ構造体コアが、約250ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ構造体コアが、約100ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ構造体コアが、約75ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ構造体コアが、約50ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ構造体コアが、約30ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノ構造体コアが、約15ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノ構造体コアが、約10ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ナノ構造体コアが、約5ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ナノ構造体コアが、約3ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ナノ構造体コアが、約1:1より大きいアスペクト比を有する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ナノ構造体コアが、3:1より大きいアスペクト比を有する、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノ構造体コアが、5:1より大きいアスペクト比を有する、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記リン脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:0 PE)、スフィンゴミエリン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、またはこれらの組合せを含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記被験体が、がんを有すると診断されている、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記被験体が、フェロトーシス感受性悪性疾患またはコレステロール栄養要求性悪性疾患を有すると診断されている、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記がんが、B細胞リンパ腫、腎細胞癌、T細胞リンパ腫、胃がん、卵巣癌、および子宮内膜腺癌から選択される、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記がんが、肉腫、リンパ腫、胃がん、未分化大細胞型リンパ腫、腎明細胞癌(ccRCC)、卵巣がん、白金抵抗性卵巣がん、および明細胞卵巣がん、B細胞リンパ腫およびT細胞リンパ腫から選択される、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記合成ナノ構造体が、1回より多く、前記被験体に投与されるか、または前記細胞と接触させられる、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記合成ナノ構造体が、1カ月当たり少なくとも1回、前記被験体に投与されるか、または前記細胞と接触させられる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記合成ナノ構造体が、1週間当たり少なくとも1回、前記被験体に投与されるか、または前記細胞と接触させられる、請求項28から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記合成ナノ構造体が、1日当たり少なくとも1回、前記被験体に投与されるか、または前記細胞と接触させられる、請求項28から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記合成ナノ構造体が、1日当たり2回、前記被験体に投与されるか、または前記細胞と接触させられる、請求項28から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記被験体が哺乳動物である、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記被験体がヒトである、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記被験体に、フェロトーシス誘導剤化合物を投与することをさらに含む、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記がんがフェロトーシスに対して感受性であるかどうかを決定することをさらに含む、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
フェロトーシス感受性障害を有する被験体を処置する方法であって、
フェロトーシス感受性障害を有する被験体を特定することと、
前記被験体に、
ナノ構造体コア、前記ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を、前記被験体の罹患細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与することであって、前記シェルがリン脂質を含む、投与することと
を含む、方法。
【請求項38】
ナノ構造体コア、前記ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を含む組成物であって、前記シェルがリン脂質およびフェロトーシス誘導剤化合物を含む、組成物。
【請求項39】
細胞においてフェロトーシスを誘導するための方法であって、
細胞がフェロトーシス感受性細胞であると特定することと、前記細胞を、ナノ構造体コア、前記ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルと、前記細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で接触させることであって、前記シェルがリン脂質を含む、接触させることとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. § 119(e)の下で、2019年9月18日に出願された米国特許出願番号第62/902,342号の出願日の利益を主張する。上記出願の内容は、これにより参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
がんは、米国および世界的に2番目に多い死亡原因である。複数の悪性疾患にわたり有効性を有する標的化された治療薬を発見することは、患者の転帰を改善することにおいても経済的見地からも、驚くべき潜在的価値をもたらす。リンパ腫を有する一部の患者で観察された長期寛解にもかかわらず、最も一般的なサブタイプであるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する患者の3分の1より多くは、一次処置に対して難治性である疾患を再発または有することになる(1~3)。これは、特に、分子および臨床予後因子によって特定された高リスク群の患者でそうである(4、5)。免疫療法および細胞ベースの治療を含むこれらの患者に対する実験的治療は、わずかな成功率、高コスト、および毒性を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の概要
本開示は、悪性細胞を標的とし、フェロトーシスを誘導する高密度リポタンパク質ナノ粒子(HDL-NP)を投与することによって、がんを有する被験体を処置するための組成物、キット、および方法に少なくとも部分的に基づく。
【0004】
したがって、本開示の一態様は、被験体に、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を投与することによって、がんを有する被験体を処置する方法であって、シェルがリン脂質を含み、被験体ががん細胞を有し、合成ナノ構造体が、がん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与される、方法を提供する。
【0005】
本開示の別の態様は、細胞集団において、がん細胞の数を低減する方法であって、がん細胞を、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体と接触させることであって、シェルがリン脂質を含む、接触させることを含み、合成ナノ構造体が、がん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で存在する、方法を提供する。
【0006】
本開示の一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、Ag、Au、Pt、Fe、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、および他の遷移金属、半導体(例えば、ケイ素、ケイ素化合物および合金、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、ヒ化インジウム、およびリン化インジウム)、または絶縁体(例えば、酸化ケイ素などのセラミックス)である。
【0007】
一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、アポリポタンパク質をさらに含む。一部の実施形態では、アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-II、またはアポリポタンパク質Eである。
【0008】
一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、コレステロールをさらに含む。
【0009】
一部の実施形態では、リン脂質シェルは、脂質単層を含む。
【0010】
一部の実施形態では、リン脂質シェルは、脂質二重層を含む。一部の実施形態では、脂質二重層の少なくとも一部は、ナノ構造体コアに共有結合している。
【0011】
一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約500ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約250ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約100ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約75ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約50ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約30ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約15ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約10ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約5ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約3ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する。
【0012】
一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、約1:1より大きいアスペクト比を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、3:1より大きいアスペクト比を有する。一部の実施形態では、ナノ構造体コアは、5:1より大きいアスペクト比を有する。
【0013】
一部の実施形態では、リン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:0 PE)、スフィンゴミエリン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、またはこれらの組合せを含む。
【0014】
一部の実施形態では、被験体は、がんを有すると診断されている。一部の実施形態では、被験体は、フェロトーシス感受性悪性疾患またはコレステロール栄養要求性悪性疾患を有すると診断されている。一部の実施形態では、がんは、B細胞リンパ腫、腎細胞癌、T細胞リンパ腫、胃がん、卵巣がん、子宮内膜腺癌 肉腫、未分化大細胞型リンパ腫、腎明細胞癌(clear cell renal cell carcinoma)(ccRCC)、白金抵抗性卵巣がん、および明細胞卵巣がん(clear cell ovarian cancer)から選択される。
【0015】
一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、1回より多く、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる。一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、1カ月当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる。一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、1週間当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる。一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、1日当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる。一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、1日当たり2回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる。
【0016】
一部の実施形態では、本開示の方法のいずれかは、被験体に、フェロトーシス誘導剤化合物を投与することをさらに含む。
【0017】
一部の実施形態では、本開示の方法のいずれかは、がんがフェロトーシスに対して感受性であるかどうかを決定することをさらに含む。
【0018】
一部の態様では、本開示は、フェロトーシス感受性障害を有する被験体を処置する方法であって、フェロトーシス感受性障害を有する被験体を特定することと、被験体に、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を、被験体の罹患細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与することであって、シェルがリン脂質を含む、投与することとを含む、方法に関する。
【0019】
一部の態様では、本開示は、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を含む組成物であって、シェルが、リン脂質およびフェロトーシス誘導剤化合物を含む、組成物に関する。
【0020】
一部の態様では、本開示は、細胞においてフェロトーシスを誘導するための方法であって、細胞がフェロトーシス感受性細胞であると特定することと、細胞を、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルと接触させることであって、シェルが、細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量でリン脂質を含む、接触させることとを含む、方法に関する。
【0021】
一部の実施形態では、本開示の方法のいずれかの被験体は、哺乳動物である。一部の実施形態では、本開示の方法のいずれかの被験体は、ヒトである。
【0022】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、以下の説明に示される。本発明の他の要件または利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明、また添付の特許請求の範囲からも明らかであろう。
【0023】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある特定の態様をさらに実証するために含まれ、本開示は、これらの図面の1つまたは複数を本明細書に提示される具体的実施形態の詳細な説明と併せて参照することによって、より十分に理解され得る。明確化のために、すべての図面において、すべての構成成分を標識することができるわけではない。図面において例示されたデータは、本開示の範囲を決して限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、HDL NPが、Ramos細胞とSUDHL4細胞の両方において、GPX4を下方調節する(0nmに対して20nMと50nMの投薬量で
*p<0.05)ことを示す棒グラフを含む。
【
図2】
図2は、HDL NPが、SUDHL4(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)細胞において、フェロトーシスを誘導する(対照(PBS)に対して
*p<0.05)ことを示す棒グラフを含む。
【
図3】
図3は、HDL NPが、Ramos(バーキットリンパ腫)細胞において、フェロトーシスを誘導する(対照(PBS)に対して
*p<0.05)ことを示す棒グラフを含む。
【
図4】
図4A~4Bは、HDL NPが、SUDHL4細胞において、過酸化脂質の蓄積を誘導する(0時間に対して
*p<0.05)ことを示すプロットを含む。
【
図5A】
図5A~5Bは、HDL NPが、Ramos細胞において、過酸化脂質の蓄積を誘導する(0時間に対して
*p<0.05)ことを示すプロットを含む。
【
図5B】
図5A~5Bは、HDL NPが、Ramos細胞において、過酸化脂質の蓄積を誘導する(0時間に対して
*p<0.05)ことを示すプロットを含む。
【
図6A】
図6A~6Bは、コレステロール栄養要求性細胞系におけるSR-B1発現およびHDL NP有効性(PBSに対して
*p<0.05)を示すプロットを含む。SNU-1:胃がん。SUDHL1:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。SR:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。U937:組織球性リンパ腫。HEC-1B:子宮内膜腺癌。U266B1:骨髄腫。Ramos:バーキットリンパ腫(陽性対照)。Jurkat:T細胞リンパ腫(陰性対照)。
【
図6B】
図6A~6Bは、コレステロール栄養要求性細胞系におけるSR-B1発現およびHDL NP有効性(PBSに対して
*p<0.05)を示すプロットを含む。SNU-1:胃がん。SUDHL1:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。SR:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。U937:組織球性リンパ腫。HEC-1B:子宮内膜腺癌。U266B1:骨髄腫。Ramos:バーキットリンパ腫(陽性対照)。Jurkat:T細胞リンパ腫(陰性対照)。
【
図7A】
図7A~7Bは、腫瘍体積、重量およびin vivoでのGPX4発現(
*p=0.0339および
**p=0.0238)のSUDHL1腫瘍異種移植モデルを示すプロットを含む。
【
図7B】
図7A~7Bは、腫瘍体積、重量およびin vivoでのGPX4発現(
*p=0.0339および
**p=0.0238)のSUDHL1腫瘍異種移植モデルを示すプロットを含む。
【
図8】
図8は、SUDHL1 in vivoフェロトーシスアッセイ(PBSに関してn=9、HDL NPに関して10、
*p=0.0006)を示すプロットを含む。
【
図9】
図9は、HDL NPが、786-O(腎細胞癌-明細胞)細胞において、フェロトーシスを誘導する(HDL NP+フェロスタチン-1およびHDL NP+DFOに対して
*p<0.05)ことを示す棒グラフを含む。
【
図10】
図10は、HDL NPが、Caki-2(腎細胞癌-乳頭状)細胞において、フェロトーシスを誘導する(HDL NP+フェロスタチン-1およびHDL NP+DFOに対して
*p<0.05)ことを示す棒グラフを含む。
【
図11】
図11A~11Bは、HDL NPが、786-O細胞およびCaki-2細胞において、過酸化脂質の蓄積を誘導する(
*p=0.0096および
**p=0.0011)ことを示すプロットを含む。
【
図12A-B】
図12A~12Gは、腎細胞癌細胞系である786-O細胞系において得られた結果を示す。
図12Aは、SR-B1のsiRNAノックダウンが、GPX4発現を下方調節することを示す。96時間および120時間(時間)のデータが示される。25μgのタンパク質、SR-B1抗体Abcam(ab52629、1:2000)、GPX4 Abcam(ab41787、1:20,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Bは、SR-B1のsiRNAノックダウンによる下方調節が細胞死を誘導することを示す。
図12Cは、様々な濃度のHDL NPでの、様々な時間経過に対するGPX4およびSR-B1のウエスタンブロットを示す。図から分かるように、HDL NPは、SR-B1受容体発現を直接的に調節しないが、しかし、HDL NPは、時間および用量(例えば、HDL NP濃度)に依存して、GPX4発現を大幅に下方調節する。
図12Dは、HDL NPが、Sutentの存在下で、GPX4発現を大幅に下方調節することを例証するウエスタンブロットを示す。8μgのタンパク質、GPX4 Abcam(ab41787、1:5,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Eは、HDL NPが、酸化脂質の発現を増加させることを示す。
図12Fは、MTS Rescue Assayを示し、HDL NPによって誘導される細胞死は、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされる。
図12Gは、HDL NPの5回の処置後に、HDL NPが786-O腫瘍負荷を低減すること(左上のパネル)、HDL NPが生存を増加させること(右上のパネル)、およびHDL NPが腫瘍における酸化脂質を増加させること(下の真中のパネル)のin vivoデータを示す。
【
図12C-D】
図12A~12Gは、腎細胞癌細胞系である786-O細胞系において得られた結果を示す。
図12Aは、SR-B1のsiRNAノックダウンが、GPX4発現を下方調節することを示す。96時間および120時間(時間)のデータが示される。25μgのタンパク質、SR-B1抗体Abcam(ab52629、1:2000)、GPX4 Abcam(ab41787、1:20,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Bは、SR-B1のsiRNAノックダウンによる下方調節が細胞死を誘導することを示す。
図12Cは、様々な濃度のHDL NPでの、様々な時間経過に対するGPX4およびSR-B1のウエスタンブロットを示す。図から分かるように、HDL NPは、SR-B1受容体発現を直接的に調節しないが、しかし、HDL NPは、時間および用量(例えば、HDL NP濃度)に依存して、GPX4発現を大幅に下方調節する。
図12Dは、HDL NPが、Sutentの存在下で、GPX4発現を大幅に下方調節することを例証するウエスタンブロットを示す。8μgのタンパク質、GPX4 Abcam(ab41787、1:5,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Eは、HDL NPが、酸化脂質の発現を増加させることを示す。
図12Fは、MTS Rescue Assayを示し、HDL NPによって誘導される細胞死は、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされる。
図12Gは、HDL NPの5回の処置後に、HDL NPが786-O腫瘍負荷を低減すること(左上のパネル)、HDL NPが生存を増加させること(右上のパネル)、およびHDL NPが腫瘍における酸化脂質を増加させること(下の真中のパネル)のin vivoデータを示す。
【
図12E-F】
図12A~12Gは、腎細胞癌細胞系である786-O細胞系において得られた結果を示す。
図12Aは、SR-B1のsiRNAノックダウンが、GPX4発現を下方調節することを示す。96時間および120時間(時間)のデータが示される。25μgのタンパク質、SR-B1抗体Abcam(ab52629、1:2000)、GPX4 Abcam(ab41787、1:20,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Bは、SR-B1のsiRNAノックダウンによる下方調節が細胞死を誘導することを示す。
図12Cは、様々な濃度のHDL NPでの、様々な時間経過に対するGPX4およびSR-B1のウエスタンブロットを示す。図から分かるように、HDL NPは、SR-B1受容体発現を直接的に調節しないが、しかし、HDL NPは、時間および用量(例えば、HDL NP濃度)に依存して、GPX4発現を大幅に下方調節する。
図12Dは、HDL NPが、Sutentの存在下で、GPX4発現を大幅に下方調節することを例証するウエスタンブロットを示す。8μgのタンパク質、GPX4 Abcam(ab41787、1:5,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Eは、HDL NPが、酸化脂質の発現を増加させることを示す。
図12Fは、MTS Rescue Assayを示し、HDL NPによって誘導される細胞死は、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされる。
図12Gは、HDL NPの5回の処置後に、HDL NPが786-O腫瘍負荷を低減すること(左上のパネル)、HDL NPが生存を増加させること(右上のパネル)、およびHDL NPが腫瘍における酸化脂質を増加させること(下の真中のパネル)のin vivoデータを示す。
【
図12G】
図12A~12Gは、腎細胞癌細胞系である786-O細胞系において得られた結果を示す。
図12Aは、SR-B1のsiRNAノックダウンが、GPX4発現を下方調節することを示す。96時間および120時間(時間)のデータが示される。25μgのタンパク質、SR-B1抗体Abcam(ab52629、1:2000)、GPX4 Abcam(ab41787、1:20,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Bは、SR-B1のsiRNAノックダウンによる下方調節が細胞死を誘導することを示す。
図12Cは、様々な濃度のHDL NPでの、様々な時間経過に対するGPX4およびSR-B1のウエスタンブロットを示す。図から分かるように、HDL NPは、SR-B1受容体発現を直接的に調節しないが、しかし、HDL NPは、時間および用量(例えば、HDL NP濃度)に依存して、GPX4発現を大幅に下方調節する。
図12Dは、HDL NPが、Sutentの存在下で、GPX4発現を大幅に下方調節することを例証するウエスタンブロットを示す。8μgのタンパク質、GPX4 Abcam(ab41787、1:5,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)。
図12Eは、HDL NPが、酸化脂質の発現を増加させることを示す。
図12Fは、MTS Rescue Assayを示し、HDL NPによって誘導される細胞死は、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされる。
図12Gは、HDL NPの5回の処置後に、HDL NPが786-O腫瘍負荷を低減すること(左上のパネル)、HDL NPが生存を増加させること(右上のパネル)、およびHDL NPが腫瘍における酸化脂質を増加させること(下の真中のパネル)のin vivoデータを示す。
【
図13A】
図13A~13Bは、腎明細胞癌細胞系である769-Pにおいて、HDL NPから得られた結果を示す。
図13Aは、GPX4およびそのHDL NPによる下方調節のウエスタンブロットを示す。
図13Bは、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSデータを示す。
【
図13B】
図13A~13Bは、腎明細胞癌細胞系である769-Pにおいて、HDL NPから得られた結果を示す。
図13Aは、GPX4およびそのHDL NPによる下方調節のウエスタンブロットを示す。
図13Bは、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSデータを示す。
【
図14A】
図14A~14Dは、白金感受性卵巣がん細胞系であるOVCAR5細胞系において、HDL NPから得られた結果を示す。
図14Aは、HDL NPがGPX4発現を下方調節することを例証するGPX4のウエスタンブロットを示す。
図14Bは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを例証するC11-BODIPY Flow Dataを示す。
図14Cは、HDL NPによって誘導される細胞死がフェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSアッセイを示す。
図14Dは、SR-B1およびGPX4のウエスタンブロット、ならびにSR-B1のsiRNAノックダウンがGPX4発現を下方調節することを示す。
【
図14B-C】
図14A~14Dは、白金感受性卵巣がん細胞系であるOVCAR5細胞系において、HDL NPから得られた結果を示す。
図14Aは、HDL NPがGPX4発現を下方調節することを例証するGPX4のウエスタンブロットを示す。
図14Bは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを例証するC11-BODIPY Flow Dataを示す。
図14Cは、HDL NPによって誘導される細胞死がフェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSアッセイを示す。
図14Dは、SR-B1およびGPX4のウエスタンブロット、ならびにSR-B1のsiRNAノックダウンがGPX4発現を下方調節することを示す。
【
図14D】
図14A~14Dは、白金感受性卵巣がん細胞系であるOVCAR5細胞系において、HDL NPから得られた結果を示す。
図14Aは、HDL NPがGPX4発現を下方調節することを例証するGPX4のウエスタンブロットを示す。
図14Bは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを例証するC11-BODIPY Flow Dataを示す。
図14Cは、HDL NPによって誘導される細胞死がフェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSアッセイを示す。
図14Dは、SR-B1およびGPX4のウエスタンブロット、ならびにSR-B1のsiRNAノックダウンがGPX4発現を下方調節することを示す。
【
図15A】
図15A~15Cは、白金抵抗性卵巣がん細胞系であるOVCAR5 CP Resistant Cell Lineにおいて、HDL NPから得られた結果を示す。
図15Aは、GPX4のウエスタンブロットおよびHDL NPがGPX4発現を下方調節することを示す。
図15Bは、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることのMTSアッセイを示す。
図15Cは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを示す。
【
図15B-C】
図15A~15Cは、白金抵抗性卵巣がん細胞系であるOVCAR5 CP Resistant Cell Lineにおいて、HDL NPから得られた結果を示す。
図15Aは、GPX4のウエスタンブロットおよびHDL NPがGPX4発現を下方調節することを示す。
図15Bは、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることのMTSアッセイを示す。
図15Cは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを示す。
【
図16】
図16は、明細胞卵巣癌細胞系であるES2細胞系において、HDL NPから得られた結果を示す。GPX4の、およびHDL NPがGPX4発現を下方調節することのウエスタンブロットが示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、がんおよび他の障害を有する被験体を処置するのに有用である高密度リポタンパク質様ナノ粒子(HDL NP)を含む薬物に関する。この薬物は、がん性悪性細胞を標的とし、標的化された細胞死を引き起こす。
【0026】
代謝の変化はがんの特徴であり、悪性細胞は、コレステロールおよびコレステリルエステルを含む様々な栄養素の量の増加を必要とする。この代謝状態の変化は、細胞増殖を促進する一方で、細胞を、フェロトーシスと呼ばれるプログラム細胞死の鉄および酸素依存性ネクロトーシス形態に感作させることもできる。本開示は、天然のHDLのサイズ、表面組成、および形状を模倣する生体模倣高密度リポタンパク質様ナノ粒子(HDL NP;合成ナノ構造体またはコレステロールの少ない高密度リポタンパク質(HDL)様ナノ粒子とも称される)を使用する組成物および方法を提供する。
【0027】
本発明のHDL NPは、成熟HDLに対する受容体、すなわち、SCARB1とも称されるスカベンジャー受容体タイプB1(SR-B1)(これらは本明細書で交換可能に使用される)(コレステロールに富む高密度リポタンパク質(HDL)に対する高親和性受容体)に結合し、天然のHDLからのコレステリルエステルの内部移行を妨げ、細胞から遊離コレステロールを流出させることによって、悪性細胞からコレステロールを欠乏させる。HDL NPが、感受性細胞においてフェロトーシスを効果的に誘導することができること、例えば、SCARB1を標的とするHDL NP療法が、GPX4およびフェロトーシスに関与する機構によってリンパ腫の細胞死を誘導したことが発見された。最初に、データ(本出願において提示される)は、HDL NPが、GPX4発現の低下を伴って、de novoコレステロール生合成遺伝子の細胞での発現を強制することを明らかにした。GPX4発現の低下が、細胞系、in vivo異種移植モデル、およびB細胞リンパ腫を有する患者から得られた一次試料において、フェロトーシスと一致した機構によって、膜酸化脂質および細胞死の増加をもたらすことがさらに示された。
【0028】
フェロトーシスは、脂質ヒドロペルオキシダーゼグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)の標的化阻害により生じる細胞膜脂質およびコレステロール過酸化物の蓄積によって特徴付けられる、酸素および鉄依存性形態のネクロトーシスである。細胞はGPX4阻害後にフェロトーシスを受けやすくなる。これは、この酵素が、過酸化脂質(L-OOH)を対応する脂質アルコール(L-OH)に変換することによって、過酸化脂質を還元し、解毒するためである。酸化ストレス下の悪性細胞は、より高レベルの活性酸素種、および毒性L-OOHの蓄積を軽減する上でのGPX4活性への依存性が原因で、フェロトーシスに対して有意により感受性である。GPX4の低分子阻害剤が開発され、試験されたが、これらは毒性であり、特異性を欠いており、このことがin vivoでの使用および臨床的関連性を制限する。
【0029】
コレステロールの少ないHDL NPは、コレステロール取り込みに依存するリンパ腫細胞および他の感受性細胞におけるSCARB1を標的とする。SCARB1へのHDL NPの結合は、コレステロール取り込みおよびGPX4の高発現へのベースライン依存性から、de novoコレステロール生合成に有利なものへの切り替えをもたらし、これにはGPX4発現の低下が伴う。GPX4は、膜過酸化脂質の負荷を低減するためにがん細胞によって絶対的に必要とされるため、この代謝の切り替えは、がん細胞を特に脆弱にする。したがって、酸化された膜脂質の蓄積が増加することにより、フェロトーシス機構による細胞死がもたらされる。
【0030】
本明細書に開示される方法は、一部の態様では、フェロトーシス感受性細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有用である。最近の研究によって、フェロトーシスが、腫瘍、神経系疾患、虚血-再灌流傷害、腎臓傷害、および血液疾患などの多くの疾患の病態生理プロセスに密接に関連することが示されている。フェロトーシス感受性細胞は、鉄依存性を有し、プログラム細胞死を受ける可能性のある細胞であり、過酸化脂質の蓄積および細胞死をもたらす。一部の実施形態では、フェロトーシス細胞は、膵臓がん、肝細胞癌(HCC)、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、肺がん、腎明細胞癌(ccRCC)、副腎皮質癌、卵巣がん、頭頚部がん、および黒色腫などの腫瘍細胞である。
【0031】
がんに加えて、HDL NPは、外傷性脳傷害などの神経性疾患、卒中、ハンチントン病、パーキンソン病、ALS、およびフリートライヒ運動失調などの神経変性障害、急性腎臓疾患または傷害においてフェロトーシスを阻害するのに有用である。
【0032】
フェロトーシスに対する感受性を決定するための方法は公知である。例えば、様々な経路におけるNAD(P)Hの役割についての知識を使用して、フェロトーシスに対する感受性を予測することができる。さらに、FSPの発現レベルは、細胞におけるフェロトーシス抵抗性と正の相関を有し、これを使用して、特にがん細胞における感受性を検出することができる。FSP1の発現は、がんにおけるフェロトーシスを誘導する薬物の有効性を予測するために、および潜在的なフェロトーシス誘導剤を特定するために使用されている。
【0033】
本発明者らは、HDL NPが、フェロトーシス感受性悪性疾患(B細胞リンパ腫、腎細胞癌)およびコレステロール栄養要求性悪性疾患(T細胞リンパ腫、胃がん、子宮内膜腺癌)を含む広範囲の悪性疾患において、フェロトーシスを強力に誘導することを見出した。DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)は、フェロトーシスによる細胞死に対して特に感受性のがんの種類である。本発明の一部の実施形態では、HDL NPは、金ナノ粒子コア(必要に応じて、5nm)を、HDLを規定するアポリポタンパク質A1(ApoA1)およびリン脂質二重層で表面を機能化することによって合成される。一旦構築されると、これらのナノ粒子は、成熟した、コレステリルエステルの豊富なHDLの表面組成、サイズ、および形状を模倣するが、しかしながら、典型的にはコレステリルエステルのために確保されている空間(例えば、HDL NPにおける位置および体積)を占める金ナノ粒子コアの存在を考慮すると、これらはコレステロールの乏しい供給源である。成熟HDLに対する受容体に結合し、コレステリルエステル取り込みを妨げることによって、HDL NPは、コレステロール枯渇の状態を誘導し、B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫)、T細胞リンパ腫(未分化大細胞型リンパ腫)、腎細胞癌(明細胞および乳頭状)、胃がんおよび子宮内膜腺癌においてフェロトーシスの誘導をもたらす。
【0034】
本発明のHDL NPは、悪性細胞の代謝状態を利用する。これらは、正常な、健康な細胞と比較して、悪性細胞に対して優先的な標的化および高い有効性を呈する。悪性細胞に対する有効性は、細胞の起源よりも細胞の代謝プロファイルによって決定される。HDL NPは、がん細胞の生存度を効果的に低下させ、悪性疾患を縮小し、悪性細胞に対して宿主免疫細胞を活性化する。これにより、様々な起源の細胞の標的化、および広範ながんの処置が可能になる。さらに、本発明の組成物は、他のフェロトーシス誘導剤(例えば、低分子阻害剤)よりも良好な生体分布および薬物動態を呈する。
【0035】
がん
一部の実施形態では、本発明の組成物を使用して、がんを処置または防止することができる。一部の実施形態では、がんは、スカベンジャー受容体クラスBタイプ1(SR-B1)を発現する細胞によって特徴付けられる。
【0036】
がんの非限定的な例には、膀胱がん、乳がん、結腸および直腸のがん、子宮内膜がん、腎臓または腎細胞のがん、白血病、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、卵巣がん、胃がん、消耗性疾患、ならびに甲状腺がんが含まれる。がんのさらなる非限定的な例には、心臓:肉腫(血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫および奇形腫;肺:気管支原性肺癌(扁平細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌)、肺胞性(細気管支)癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫(chondromatous hanlartoma)、中皮腫;胃腸管系:食道(扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃(癌腫、リンパ腫、平滑筋肉腫)、膵臓(管腺癌、インスリノーマ(insulinorna)、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫);泌尿生殖路:腎臓(腺癌、ウィルムス腫瘍[腎芽腫]、リンパ腫、白血病)、膀胱および尿道(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌)、前立腺(腺癌、肉腫)、精巣(精上皮腫、奇形腫、胚性癌腫、奇形癌、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、線維腫、線維腺腫、類腺腫瘍、脂肪腫);肝臓:ヘパトーム(肝細胞癌)、胆管細胞癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫;骨:骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、軟組織ユーイング肉腫、軟組織肉腫、滑膜肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫(reticulum cell sarcoma))、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫瘍脊索腫(malignant giant cell tumor chordoma)、デスモイド型線維腫症、線維芽細胞肉腫、消化管間質腫瘍、後腹膜肉腫(retroperitoneal sarcoma)、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨症(osteocartilaginous exostoses))、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫(chondromyxofibroma)、類骨骨腫および巨細胞腫瘍;神経系:頭蓋(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫(meningiosarcoma)、神経膠腫症)、脳(星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫[松果体腫]、多形神経膠芽腫、乏突起神経膠腫、シュワン腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄(神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫);婦人科肉腫、カポジ肉腫、末梢神経鞘腫瘍(peripheral never sheath tumor)、婦人科:子宮(子宮内膜癌)、子宮頸部(子宮頸癌、前腫瘍性子宮頸部異形成)、卵巣(卵巣癌[漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、分類不能癌]、顆粒層-被膜細胞腫(granulosa-thecal cell tumor)、セルトリーライデッヒ細胞腫瘍、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰部(扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、線維肉腫、黒色腫)、腟(明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫[胎児性横紋筋肉腫]、卵管[癌腫]);血液学的:血液(骨髄性白血病[急性および慢性]、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫[悪性リンパ腫];皮膚:悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、母斑、異形成性母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、乾癬;ならびに副腎:神経芽細胞腫が含まれる。よって、用語「がん性細胞」は、本明細書で提供される場合、上記特定された状態のいずれか1つに罹患した細胞を含む。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語「疾患」および「障害」は、本発明の組成物による処置(例えば、本明細書に記載される組成物または方法のいずれか)から利益を得る任意の状態を指す。これは、哺乳動物を問題の障害に罹らせるこれらの病理学的状態を含む慢性および急性の障害または疾患を含む。
【0038】
合成ナノ構造体
本開示の一部の実施形態では、がんを有する被験体は、本明細書に記載される合成ナノ構造体を投与することによって処置される。合成ナノ構造体は、ナノ構造体コア、シェルを含み、シェルは、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質層を含む。一部の実施形態では、合成ナノ構造体は、シェルに会合したタンパク質をさらに含む。本発明の目的に有用な合成ナノ構造体の例を以下に記載する。
【0039】
本方法において使用することができる合成ナノ構造体の例が本明細書において記載される。構造体(例えば、合成ナノ構造体、HDL NP)は、コアおよびコアを包囲するシェルを有する。コアがナノ構造体である実施形態では、コアは、1つまたは複数の構成成分が必要に応じて結合され得る表面を含む。例えば、一部の場合には、コアはシェルに包囲されたナノ構造体であり、このシェルは内面および外面を含む。シェルは、必要に応じて互いにおよび/またはコアの表面と会合し得る、複数の脂質などの1つまたは複数の構成成分から少なくとも部分的に形成されてもよい。例えば、構成成分は、コアに共有結合されるか、物理吸着される(physiosorbe)か、化学吸着される(chemisorbe)か、またはイオン相互作用、疎水性および/もしくは親水性相互作用、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、またはそれらの組合せによってコアに結合されることによって、コアと会合していてもよい。特定の一実施形態では、コアは、金ナノ構造体を含み、シェルは、金-チオール結合によってコアに結合している。
【0040】
必要に応じて、構成成分は互いに架橋されていてもよい。シェルの構成成分の架橋は、例えば、種のシェルへの輸送制御、またはシェルの外側領域とシェルの内側領域の間の輸送制御を可能にする。例えば、架橋の量が比較的多いと、ある特定の小さい分子はシェル中に入るかまたはシェルを通過することが可能になるが大きい分子はそうすることが可能ではなく、一方、架橋が比較的少ないかまたは存在しないと、より大きな分子がシェル中に入るかまたはシェルを通過することが可能になる。さらに、シェルを形成する構成成分は、分子の輸送または隔離を容易にするかまたは妨げることも可能である、単層の形態であっても多層の形態であってもよい。例示的な一実施形態では、シェルは、本明細書に記載されるように、コレステロールを隔離する、および/または細胞からのコレステロール流出を制御するように配置された脂質二重層を含む。
【0041】
コアを包囲するシェルがコアを完全に包囲する必要はないが、このような実施形態が可能であり得ることが理解されるべきである。例えば、シェルは、コアの表面積の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも99%を包囲し得る。一部の場合には、シェルはコアを実質的に包囲する。他の場合には、シェルはコアを完全に包囲する。シェルの構成成分は、一部の場合には、コアの表面にわたり均一に分布されてもよく、他の場合には不均一であってもよい。例えば、シェルは、一部の場合には、いずれの物質も含まない部分(例えば、孔)を含んでもよい。所望の場合、シェルは、ある特定の分子および構成成分のシェル中への、またはシェルからの貫通および/または輸送を可能にするように設計されてもよいが、他の分子および構成成分のシェル中への、またはシェルからの貫通および/または輸送を妨げてもよい。シェル中におよび/またはシェルを横切って貫通するおよび/または輸送されるある特定の分子の能力は、例えば、シェルを形成する構成成分の充填密度ならびにシェルを形成する構成成分の化学的および物理的特性に依存し得る。本明細書に記載されるように、シェルは、材料の1つの層、または一部の実施形態では、材料の多層を含んでもよい。
【0042】
ある特定の実施形態では、合成ナノ構造体は、治療剤または診断剤などの1つまたは複数の薬剤をさらに含んでもよい。薬剤は、診断剤(イメージング剤としても公知である場合がある)、治療剤、または診断剤と治療剤の両方であってもよい。ある特定の実施形態では、診断剤はトレーサー脂質である。トレーサー脂質は、発色団、ビオチンサブユニット、または発色団とビオチンサブユニットの両方を含んでもよい。合成ナノ構造体(例えば、HDL NP)は、核酸などの他の種類のカーゴで機能化されてもよい。ある特定の実施形態では、治療剤は、核酸、抗ウイルス剤、抗神経剤(antineurological agent)、または抗リウマチ剤(antirheumatologic agent)であってもよい。
【0043】
1つまたは複数の薬剤は、コア、シェル、またはその両方と会合していてもよく、例えば、これらは、コアの表面、シェルの内面、シェルの外面と会合していてもよい、および/またはシェルに埋め込まれていてもよい。例えば、1つまたは複数の薬剤は、共有結合、物理吸着、化学吸着によって、コア、シェル、またはその両方と会合していてもよく、またはイオン相互作用、疎水性および/もしくは親水性相互作用、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、もしくはそれらの組合せによって結合されてもよい。
【0044】
一部の場合には、合成ナノ構造体は、コレステロールに対する結合定数Kdを有する合成コレステロール結合ナノ構造体である。一部の実施形態では、Kdは、約100μMより小さいかもしくはそれに等しい、約10μMより小さいかもしくはそれに等しい、約1μMより小さいかもしくはそれに等しい、約0.1μMより小さいかもしくはそれに等しい、約10nMより小さいかもしくはそれに等しい、約7nMより小さいかもしくはそれに等しい、約5nMより小さいかもしくはそれに等しい、約2nMより小さいかもしくはそれに等しい、約1nMより小さいかもしくはそれに等しい、約0.1nMより小さいかもしくはそれに等しい、約10pMより小さいかもしくはそれに等しい、約1pMより小さいかもしくはそれに等しい、約0.1pMより小さいかもしくはそれに等しい、約10fMより小さいかもしくはそれに等しい、または約1fMより小さいかもしくはそれに等しい。隔離されたコレステロール量および結合定数を決定するための方法は当技術分野で公知である。
【0045】
ナノ構造体のコアは、任意の好適な形状および/またはサイズを有してもよい。例えば、コアは、実質的に球形、非球形、楕円形、桿状、錐体、立方体状、円盤状、線状、または不規則な形状であってもよい。本発明の好ましい実施形態では、コアは、直径約5nmより小さいかまたはそれに等しい。コア(例えば、ナノ構造体コアまたは中空コア)は、例えば、約500nmより小さいかもしくはそれに等しい、約250nmより小さいかもしくはそれに等しい、約100nmより小さいかもしくはそれに等しい、約75nmより小さいかもしくはそれに等しい、約50nmより小さいかもしくはそれに等しい、約40nmより小さいかもしくはそれに等しい、約35nmより小さいかもしくはそれに等しい、約30nmより小さいかもしくはそれに等しい、約25nmより小さいかもしくはそれに等しい、約20nmより小さいかもしくはそれに等しい、約15nmより小さいかもしくはそれに等しい、約10nmより小さいかもしくはそれに等しい、約5nmより小さいかもしくはそれに等しい、約4nmより小さいかもしくはそれに等しい、約3nmより小さいかもしくはそれに等しい、約2nmより小さいかもしくはそれに等しい、または約1nmより小さいかもしくはそれに等しい最大断面寸法(または、時には、最小断面寸法もしくは直径)を有してもよい。一部の場合には、コアは、約1:1より大きいか、3:1より大きいか、または5:1より大きいアスペクト比を有する。本明細書で使用される場合、「アスペクト比」は、幅に対する長さの比を指し、ここで、長さと幅は互いに垂直に測定され、長さは直線的に測定された最大寸法を指す。
【0046】
コアがナノ構造体コアを含む実施形態では、ナノ構造体コアは、任意の好適な物質から形成されてもよい。好ましい実施形態では、コアは、金から形成される(例えば、金(Au)製)。一部の実施形態では、コアは、合成物質(例えば、天然に存在しないか、または体内で天然に存在する物質)から形成される。一実施形態では、ナノ構造体コアは、無機物を含むか、またはそれから形成される。無機物は、例えば、金属(例えば、Ag、Au、Pt、Fe、Cr、Co、Ni、Cu、Zn、および他の遷移金属)、半導体(例えば、ケイ素、ケイ素化合物および合金、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、ヒ化インジウム、およびリン化インジウム)、または絶縁体(酸化ケイ素などのセラミックス)を含んでもよい。無機物は、任意の好適な量、例えば、少なくとも1wt%、5wt%、10wt%、25wt%、50wt%、75wt%、90wt%、または99wt%でコア中に存在してもよい。一実施形態では、コアは、100wt%の無機物から形成される。ナノ構造体コアは、一部の場合には、量子ドット、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー、またはカーボンナノロッドの形態であってもよい。一部の場合には、ナノ構造体コアは、生体起源のものではない物質を含むか、またはそれから形成される。一部の実施形態では、ナノ構造体は、合成ポリマーおよび/または天然ポリマーなどの1つまたは複数の有機物を含むか、またはそれから形成されてもよい。合成ポリマーの例としては、ポリメタクリレートなどの非分解性ポリマーならびにポリ酪酸、ポリグリコール酸およびそれらのコポリマーなどの分解性ポリマーが挙げられる。天然ポリマーの例としては、ヒアルロン酸、キトサン、およびコラーゲンが挙げられる。
【0047】
さらに、構造体のシェルは、任意の好適な厚さを有してもよい。例えば、シェルの厚さは、少なくとも10オングストローム、少なくとも0.1nm、少なくとも1nm、少なくとも2nm、少なくとも5nm、少なくとも7nm、少なくとも10nm、少なくとも15nm、少なくとも20nm、少なくとも30nm、少なくとも50nm、少なくとも100nm、または少なくとも200nm(例えば、シェルの内面から外面まで)であってもよい。一部の場合には、シェルの厚さは、200nmより小さいか、100nmより小さいか、50nmより小さいか、30nmより小さいか、20nmより小さいか、15nmより小さいか、10nmより小さいか、7nmより小さいか、5nmより小さいか、3nmより小さいか、2nmより小さいか、または1nmより小さい(例えば、シェルの内面から外面まで)。このような厚さは、本明細書に記載されるように、分子の隔離前に決定されても、隔離後に決定されてもよい。
【0048】
当業者は、構造体および粒子のサイズを決定するための技法に精通している。好適な技法の例としては、動的光散乱(DLS)(例えば、Malvern Zetasizer機器を使用する)、透過型電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、電子抵抗カウント(electroresistance counting)およびレーザー回折が挙げられる。他の好適な技法は当業者に公知である。ナノ構造体のサイズを決定するための多くの方法が公知であるが、本明細書に記載のサイズ(例えば、最大または最小断面寸法、厚さ)は、動的光散乱によって測定されたものを指す。
【0049】
本明細書に記載の構造体のシェルは、疎水性物質、親水性物質、および/または両親媒性物質などの任意の好適な物質を含んでもよい。シェルは、ナノ構造体コアに関して上記に列挙したものなどの1つまたは複数の無機物を含んでもよいが、多くの実施形態では、シェルは、脂質またはある特定のポリマーなどの有機物を含む。シェルの構成成分は、一部の実施形態では、コレステロールまたは他の分子の隔離を容易にするために選択されてもよい。例えば、コレステロール(または他の隔離された分子)は、シェルの表面に結合するか、もしくはほかの方法でそれと会合していてもよく、またはシェルは、コレステロールを構造体によって内部移行させる構成成分を含んでもよい。コレステロール(または他の隔離された分子)は、シェル内、シェルを形成する層内またはシェルを形成する2層の間に埋め込まれてもよい。
【0050】
シェルの構成成分は、例えば、構造体の表面に電荷を付与するために荷電されてもよく、または荷電されなくてもよい。一部の実施形態では、シェルの表面は、約-75mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-60mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-50mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-40mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-30mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-20mVより大きいかもしくはそれに等しい、約-10mVより大きいかもしくはそれに等しい、約0mVより大きいかもしくはそれに等しい、約10mVより大きいかもしくはそれに等しい、約20mVより大きいかもしくはそれに等しい、約30mVより大きいかもしくはそれに等しい、約40mVより大きいかもしくはそれに等しい、約50mVより大きいかもしくはそれに等しい、約60mVより大きいかもしくはそれに等しい、または約75mVより大きいかもしくはそれに等しいゼータ電位を有してもよい。シェルの表面は、約75mVより小さいかもしくはそれに等しい、約60mVより小さいかもしくはそれに等しい、約50mVより小さいかもしくはそれに等しい、約40mVより小さいかもしくはそれに等しい、約30mVより小さいかもしくはそれに等しい、約20mVより小さいかもしくはそれに等しい、約10mVより小さいかもしくはそれに等しい、約0mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-10mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-20mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-30mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-40mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-50mVより小さいかもしくはそれに等しい、約-60mVより小さいかもしくはそれに等しい、または約-75mVより小さいかもしくはそれに等しいゼータ電位を有してもよい。他の範囲も可能である。上記範囲の組合せも可能である(約-60mVより大きいかまたはそれに等しく、かつ約-20mVより小さいかまたはそれに等しいなど)。本明細書に記載されるように、シェルの表面電荷は、シェルの表面化学および構成成分を変更することによって調整してもよい。
【0051】
実施形態の一設定では、本明細書に記載の構造体またはその一部(構造体のシェルなど)は、1種または複数の天然または合成の脂質または脂質アナログ(すなわち、親油性分子)を含む。1種または複数の脂質および/または脂質アナログは、構造体の単層または多層(例えば、二重層)を形成し得る。多層が形成される一部の事例では、天然または合成の脂質または脂質アナログは嵌合する(例えば、異なる層間で)。天然または合成の脂質または脂質アナログの非限定的な例には、脂肪酸アシル、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質(saccharolipid)およびポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する);ならびにステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)が含まれる。
【0052】
実施形態の特定の一設定では、本明細書に記載の構造体は、1つまたは複数のリン脂質を含む。1つまたは複数のリン脂質は、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、レシチン、β,γ-ジパルミトイル-α-レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、N-(2,3-ジ(9-(Z)-オクタデセニルオキシ))-プロパ-1-イル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、セファリン、カルジオリピン、セレブロシド、ジセチルホスフェート、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、パルミトイル-オレオイル-ホスファチジルコリン、ジ-ステアロイル-ホスファチジルコリン、ステアロイル-パルミトイル-ホスファチジルコリン、ジ-パルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジ-ステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジ-ミリストイル-ホスファチジルセリン、ジ-オレイル-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホチオエタノール、およびこれらの組合せを含んでもよい。一部の場合には、構造体のシェル(例えば、二重層)は、50~200の天然または合成の脂質または脂質アナログ(例えば、リン脂質)を含む。例えば、シェルは、例えば、構造体のサイズに応じて、約500より少ないか、約400より少ないか、約300より少ないか、約200より少ないか、または約100より少ない天然または合成の脂質または脂質アナログ(例えば、リン脂質)を含んでもよい。
【0053】
ステアリルアミン、ドデシルアミン(docecylamine)、アセチルパルミテート、および脂肪酸アミドなどのリンを含有しない脂質を使用してもよい。他の実施形態では、脂肪、油、ワックス、コレステロール、ステロール、脂溶性ビタミン(例えば、ビタミンA、D、EおよびK)、グリセリド(例えば、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド)などの他の脂質を使用して、本明細書に記載の構造体の部分を形成することができる。
【0054】
ナノ構造体のシェルまたは表面などの本明細書に記載の構造体の一部は、1つまたは複数のアルキル基、例えば、構造体に対して疎水性を必要に応じて付与するアルカン、アルケン、またはアルキン含有種を必要に応じて含んでもよい。「アルキル」基は、直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む飽和脂肪族基を指す。アルキル基は、C2からC40の間の様々な炭素数を有してもよく、一部の実施形態では、C5、C10、C15、C20、C25、C30、またはC35より大きくてもよい。一部の実施形態では、直鎖または分岐鎖アルキルは、その骨格に、30個またはそれより少ない炭素原子、一部の場合には、20個またはそれより少ない炭素原子を有してもよい。一部の実施形態では、直鎖または分岐鎖アルキルは、その骨格に、12個もしくはそれより少ない炭素原子(例えば、直鎖ではC1~C12、分岐鎖ではC3~C12)、6個もしくはそれより少ないか、または4個もしくはそれより少ない炭素原子を有してもよい。同様に、シクロアルキルは、それらの環構造中に3~10個の炭素原子、またはそれらの環構造中に5、6もしくは7個の炭素を有してもよい。アルキル基の例としては、以下に限定されないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、シクロブチル、ヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。
【0055】
アルキル基は、任意の好適な末端基、例えば、チオール基、アミノ基(例えば、非置換または置換アミン)、アミド基、イミン基、カルボキシル基、または硫酸基を含んでもよく、これらは、例えば、リガンドのナノ構造体コアへの直接的またはリンカーを介した結合を可能にし得る。例えば、不活性金属を使用してナノ構造体コアを形成する場合、アルキル種は、金属-チオール結合を形成するためにチオール基を含んでもよい。一部の事例では、アルキル種は、少なくとも第2の末端基を含む。例えば、これらの種は、ポリエチレングリコールなどの親水性部分に結合されてもよい。他の実施形態では、第2の末端基は、別の官能基に共有結合し得る反応性基であってもよい。一部の事例では、第2の末端基は、リガンド/受容体相互作用(例えば、ビオチン/ストレプトアビジン)に関与し得る。
【0056】
一部の実施形態では、シェルはポリマーを含む。例えば、両親媒性ポリマーが使用されてもよい。ポリマーは、例えば、1つのブロックが疎水性ポリマーであり、別のブロックが親水性ポリマーであるジブロックコポリマー、トリブロックコポリマーなどであってもよい。例えば、ポリマーは、α-ヒドロキシ酸(例えば、酪酸)とポリエチレングリコールのコポリマーであってもよい。一部の場合には、シェルは、ある特定のアクリル、アミドおよびイミド、カーボネート、ジエン、エステル、エーテル、フルオロカーボン、オレフィン、スチレン、ビニルアセタール、ビニルおよびビニリデンクロリド、ビニルエステル、ビニルエーテルおよびケトン、ならびにビニルピリジンおよびビニルピロリドンのポリマーを含み得るポリマーなどの疎水性ポリマーを含む。他の場合には、シェルは、ある特定のアクリル、アミン、エーテル、スチレン、ビニル酸、およびビニルアルコールを含むポリマーなどの親水性ポリマーを含む。ポリマーは、荷電されていても荷電されていなくてもよい。本明細書で留意されるように、シェルの特定の構成成分を選択して、構造体にある特定の機能性を付与することができる。
【0057】
シェルが両親媒性物質を含む場合、物質は、ナノ構造体コアに関して、および/または互いに、任意の好適な方式で配置され得る。例えば、両親媒性物質はコアに向かう親水性基とコアから遠ざかって延びる疎水性基を含んでもよく、または両親媒性物質はコアに向かう疎水性基とコアから遠ざかって延びる親水性基を含んでもよい。各々の構成の二重層が形成されてもよい。
【0058】
本明細書に記載の構造体と会合し得る好適なタンパク質の例は、アポリポタンパク質A(例えば、apo A-I、apo A-II、apo A-IV、およびapo A-V)、アポリポタンパク質B(例えば、apo B48およびapo B100)、アポリポタンパク質C(例えば、apo C-I、apo C-II、apo C-III、およびapo C-IV)、ならびにアポリポタンパク質D、E、およびHなどのアポリポタンパク質である。具体的には、apo A1、apo A2、およびapo Eは、代謝のためのコレステロールおよびコレステリルエステルの肝臓への移入を促進し、本明細書に記載の構造体に含まれるのが有用である場合がある。さらにまたはあるいは、本明細書に記載の構造体は、上記のものなどのアポリポタンパク質の1つまたは複数のペプチドアナログを含んでもよい。構造体は、任意の好適な数の、例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、または10個のアポリポタンパク質またはそのアナログを含んでもよい。ある特定の実施形態では、構造体は、天然に存在するHDL粒子と類似する1~6個のアポリポタンパク質を含む。当然ながら、他のタンパク質(例えば、非アポリポタンパク質)が本明細書に記載の構造体に含まれてもよい。
【0059】
脂質、リン脂質、アルキル基、ポリマー、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、酵素、生物活性剤、核酸、および上記標的化のための種(必要に応じて存在し得る)などの本明細書に記載の構成成分が、任意の好適な方式で、構造体と、および構造体の任意の好適な部分、例えば、コア、シェル、またはその両方と会合していてもよいことが理解されるべきである。例えば、1つまたは複数のこのような構成成分は、コアの表面、コアの内側、シェルの内面、シェルの外面と会合していてもよい、および/またはシェルに埋め込まれてもよい。さらに、一部の実施形態では、このような構成成分を使用して、被験体の1つもしくは複数の構成成分(例えば、細胞、組織、器官、粒子、体液(例えば、血液)、およびその部分)から本明細書に記載の構造体への、および/または構造体から被験体の1つまたは複数の構成成分への、物質(例えば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、栄養素)の隔離、交換および/または輸送を容易にすることができる。一部の場合には、構成成分は、被験体由来の1つまたは複数の物質との好ましい相互作用(例えば、結合、吸着、輸送)を可能にする化学的および/または物理的特性を有する。
【0060】
組合せ
一部の実施形態では、本明細書に開示されるHDL NPは、フェロトーシス誘導剤と同時に製剤化されるか、またはそれと併せて投与される。フェロトーシス誘導剤は、本明細書で使用される場合、フェロトーシスのプロセスを開始するか、促進するか、またはそれを支持する際に役割を果たす化合物である。HDL NPは、化合物がともに被験体に送達される任意の方式で、化合物と併せて投与される。例えば、HDL NPと化合物は、同時に一緒に同時投与されても、異なる時間に投与されてもよい。2つの化合物は、同じ投与経路または異なる投与経路を使用して、同じ部位または異なる部位に投与されてもよい。一部の実施形態では、HDL NPは、例えば、約5分、10分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、24時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10週、または1カ月、3カ月もしくは6カ月前など、化合物の前に投与されてもよい。他の実施形態では、HDL NPは、例えば、約5分、10分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、24時間、1、2、3、4、5、6、もしくは7日、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10週、または1カ月、3カ月もしくは6カ月後など、化合物の後に投与されてもよい。HDL NPおよび化合物は、様々な投与サイクルで複数回投与されてもよい。フェロトーシス誘導剤化合物は、例えば、鉄キレート化(すなわち、鉄キレート剤)を阻害する化合物、細胞の抗酸化能およびROSの蓄積を低減する化合物、ミトコンドリアVDACモジュレーター、硫黄転移経路のモジュレーター、ならびにアラキドン酸(AA)またはその誘導体アドレナリンを含有するホスファチジルエタノールアミン(PE)などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)に関連する化合物を含む。
【0061】
フェロトーシスの具体的な阻害剤としては、例えば、フェロスタチン-1(Fer-1)、リプロキシスタチン-1、ビタミンE、および鉄キレート剤が挙げられる。これらの物質は、典型的には、過酸化脂質の形成を阻害することによって、フェロトーシスを阻害する。Fer-1は、ハンチントン病(HD)、脳室周囲白質(PVL)、および腎不全などの疾患のいくつかのin vitroモデルにおいて、細胞死を阻害することが判明した。RSL3、DPI7およびDPI10は、GPX4の活性に直接的に作用し、それを阻害する、またGPX4に直接的に作用し、フェロトーシスを誘導するフェロトーシス誘導剤である。
【0062】
医薬組成物
本明細書に記載されるように、合成ナノ構造体は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、添加剤、および/または希釈剤と一緒に製剤化される、本明細書に記載の構造体の1つまたは複数の治療有効量を含む、「医薬組成物」または「薬学的に許容される」組成物(薬物とも称される)において使用することができる。本明細書に記載の医薬組成物は、がんまたは他の状態を処置するのに有用であり得る。本明細書に記載の任意の好適な構造体が、図面と併せて記載されるものを含めて、このような医薬組成物中で使用され得ることが理解されるべきである。一部の場合には、医薬組成物中の構造体は、無機物を含むナノ構造体コア、およびナノ構造体コアを実質的に包囲し、それに結合するシェルを有する。
【0063】
医薬組成物は、具体的には、以下のように適合されたものを含め、固体または液体の形態での投与のために製剤化することができる:経口投与、例えば、水薬(水性もしくは非水性溶液または懸濁物)、錠剤、例えば、頬側、および舌下を標的とする錠剤、ボーラス、散剤、顆粒剤、舌に適用するためのペースト剤;滅菌溶液もしくは懸濁物、または持続放出製剤として;口腔に適用されるスプレー剤;例えば、クリーム剤またはフォーム剤として。
【0064】
語句「薬学的に許容される」は、本明細書において、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴うことなく、ヒトおよび動物の組織と接触して使用されるのに好適な、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、構造体、物質、組成物、および/または剤形を指すために用いられる。
【0065】
語句「薬学的に許容される担体」は、本明細書で使用される場合、1つの器官または体の部分から、別の器官または体の部分に主題の化合物を運ぶまたは輸送するのに関与する、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、または溶媒被包材料を意味する。各担体は、製剤の他の成分に適合し、患者に有害でないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体としての役割を果たすことができる材料のいくつかの例としては:糖、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン;セルロース、およびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス;油、例えば、ラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;グリコール、例えば、プロピレングリコール;ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝化剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質不含水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;pH緩衝溶液;ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ酸無水物;医薬製剤に用いられる他の非毒性の適合性物質が挙げられる。
【0066】
湿潤剤、乳化剤および滑沢剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、放出剤(release agent)、コーティング剤、甘味剤、矯味矯臭剤および芳香剤、防腐剤および抗酸化剤が組成物中に存在してもよい。
【0067】
薬学的に許容される抗酸化剤の例としては:水溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど;油溶性抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど;および金属キレート剤、例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などが挙げられる。
【0068】
本明細書に記載の医薬組成物は、経口投与に好適なものを含む。製剤は、単位剤形で便利に提示され得、薬学の技術分野で周知の任意の方法によって調製することができる。単一の剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、処置される宿主、および特定の投与方式に応じて変わることになる。単一の剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生じる化合物の量であろう。一般に、この量は、約1%~約99%の有効成分、約5%~約70%、または約10%~約30%の範囲に及ぶ。
【0069】
経口投与に好適な本発明の組成物は、各々が有効成分として所定量の本明細書に記載の構造体を含有する、カプセル剤、サシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(風味付けした基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカントを使用する)、散剤、顆粒剤の形態で、または水性もしくは非水性の液体中の液剤もしくは懸濁剤として、または水中油もしくは油中水液体エマルションとして、またはエリキシル剤もしくはシロップ剤として、またはトローチ剤(不活性基剤、例えば、ゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシアを使用する)として、および/または口腔洗浄薬などとして存在してもよい。本発明の構造体は、ボーラス、舐剤またはペースト剤としても投与され得る。
【0070】
経口投与用の本発明の固体剤形(カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤など)において、有効成分は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、例えば、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウム、および/または以下のいずれかと混合される:充填剤または増量剤、例えば、デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸;結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアカシアなど;保水剤、例えば、グリセロール;崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある特定のシリケート、および炭酸ナトリウム;溶解遅延剤、例えば、パラフィン;吸収加速剤、例えば、第四級アンモニウム化合物;湿潤剤、例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール、および非イオン性界面活性剤など;吸収剤、例えば、カオリンおよびベントナイト粘土;滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物;ならびに着色剤。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合には、医薬組成物は、緩衝化剤を含んでもよい。同様の種類の固体組成物は、ラクトースまたは乳糖などの賦形剤、および高分子量ポリエチレングリコールなどを使用するソフトおよびハードシェルを有する充填ゼラチンカプセル剤において、充填剤として用いることもできる。
【0071】
錠剤は、圧縮または成形によって、必要に応じて1種または複数の補助成分を用いて、作製することができる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウムまたは架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤または分散剤を使用して調製することができる。成形錠剤は、好適な機械(その中では、粉末化された構造体の混合物が不活性液状希釈剤で湿らされている)中で作製することができる。
【0072】
錠剤、ならびに糖衣錠、カプセル剤、丸剤および顆粒剤などの本発明の医薬組成物の他の固体剤形は、腸溶コーティングおよび医薬製剤化の技術分野で周知の他のコーティングなどのコーティングおよびシェルを用いて、必要に応じてスコア化または調製されてもよい。これらは、例えば、所望の放出プロファイルを与えるために様々な比率でヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはミクロスフェアを使用して、その中の有効成分の遅延放出または制御放出をもたらすように製剤化されてもよい。これらは、迅速放出のために製剤化されてもよく、例えば、凍結乾燥されてもよい。これらは、例えば、細菌保持フィルターを介する濾過によって、または使用前に滅菌水、もしくはいくつかの他の注入可能な滅菌媒体に溶解させることができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことによって滅菌することができる。これらの組成物は、必要に応じて、不透明化剤を含有してもよく、有効成分のみを、または必要に応じて、遅延方式で、胃腸管のある特定の部分において有効成分のみを放出する組成物であってもよい。使用することができる埋め込み組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられる。有効成分は、適宜、上記賦形剤の1つまたは複数と共に、マイクロカプセル化形態中に存在してもよい。
【0073】
本明細書に記載の構造体の経口投与用液体剤形としては、薬学的に許容されるエマルション、マイクロエマルション、液剤、分散剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤が挙げられる。本発明の構造体に加えて、液体剤形は、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤など、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ソルビタンのポリエチレングリコールおよび脂肪酸エステル、ならびにこれらの混合物などの当技術分野で通常使用される不活性希釈剤を含有してもよい。
【0074】
不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味剤、矯味矯臭剤、着色剤、芳香剤および防腐剤などの佐剤を含んでもよい。
【0075】
活性化合物に加えて、懸濁剤は、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンエステル、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天およびトラガカント、ならびにこれらの混合物を含有してもよい。
【0076】
本明細書に記載の医薬組成物の製剤(例えば、直腸または膣投与用)は、坐剤として存在してもよく、これは、本発明の1つまたは複数の化合物を、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックスまたはサリチレートを含む1つまたは複数の好適な非刺激賦形剤または担体と混合することによって調製することができ、室温では固体であるが、体温では液体であり、したがって、体内で融解し、構造体を放出することになる。
【0077】
活性化合物は、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体と、および必要とされ得る任意の防腐剤、緩衝液、または噴霧体と混合されてもよい。
【0078】
ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤は、本発明の構造体に加えて、賦形剤、例えば、動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはこれらの混合物を含有してもよい。
【0079】
散剤およびスプレー剤は、本明細書に記載の構造体に加えて、賦形剤、例えば、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物を含有してもよい。スプレー剤は、クロロフルオロ炭化水素および揮発性非置換炭化水素、例えば、ブタンおよびプロパンなどの通例の噴霧体をさらに含有してもよい。
【0080】
本明細書に記載の医薬組成物中で用いることができる好適な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物性油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用によって、分散剤の場合には必要とされる粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。
【0081】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの佐剤を含有してもよい。本発明の構造体への微生物の作用の防止は、様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などの包含によって容易となり得る。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含むことが望ましい場合もある。さらに、注射可能な医薬形態の吸収の延長は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる作用剤の包含によってもたらされてもよい。
【0082】
治療有効量
語句「治療有効量」は、本明細書で使用される場合、任意の医学的処置に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で、被験体においていくつかの所望の治療効果を生じるのに有効である本発明の構造体を含む物質または組成物の量を意味する。したがって、治療有効量は、例えば、疾患または身体状態に関連する疾患進行を防止、最少化、または逆転することができる。疾患進行は、当業者にとって明らかな臨床観察、実験室調査およびイメージング調査によってモニターすることができる。治療有効量は、単回用量で有効な量、または複数回投与治療の一部として有効な量、例えば、2回もしくはそれより多い用量で投与される量、または慢性的に投与される量であってもよい。
【0083】
有効量は、処置される特定の状態に依存し得る。有効量は、当然のことながら、処置される状態の重症度;年齢、健康状態、サイズおよび体重を含む個々の患者のパラメーター;同時処置;処置頻度;または投与方式などの要因に依存することになる。これらの要因は、当業者にとって周知であり、日常的な実験を超えない範囲で対処することができる。一部の場合には、最大用量、すなわち、正当な医学的判断によって最高の安全用量が使用される。
【0084】
本明細書に記載の医薬組成物中の有効成分の実際の投薬レベルは、患者に対して毒性を伴わずに、特定の患者、組成物、および投与方式に対して所望の治療応答を達成するのに有効である有効成分の量を得るために変更されてもよい。
【0085】
当技術分野において通常の技術の有する医師または獣医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定および処方することができる。例えば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルで、医薬組成物中で用いられる本明細書に記載の構造体の用量を開始し、次いで、所望の効果が達成されるまで、投薬量を徐々に増加させることもできる。
【0086】
被験体
本明細書で使用される場合、「被験体」または「患者」は、任意の哺乳動物(例えば、ヒト)、例えば、本明細書に開示される二次的疾患または状態などの疾患または身体状態に感受性であり得る哺乳動物を指す。被験体または患者の例としては、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはマウス、ラット、ハムスター、もしくはモルモットなどの齧歯類が挙げられる。一般に、本発明は、ヒトでの使用を対象とする。被験体は、ある特定の疾患もしくは身体状態を有すると診断されたか、またはそうでなければ、疾患もしくは身体状態を有することが既知の被験体であり得る。一部の実施形態では、被験体は、疾患もしくは身体状態を発症するリスクを有すると診断されたか、またはそうであることが既知であり得る。一部の実施形態では、被験体は、本明細書に記載されるように、異常な脂質レベルに関連する疾患もしくは身体状態を有すると診断されたか、またはそうでなければそれを有することが既知であり得る。ある特定の実施形態では、被験体は、被験体における既知の疾患または身体状態に基づいて、処置のために選択され得る。一部の実施形態では、被験体は、被験体における疑われる疾患または身体状態に基づいて、処置のために選択され得る。一部の実施形態では、組成物は、疾患または身体状態の発症を防止するために投与され得る。しかし、一部の実施形態では、既存の疾患または身体状態の存在は、疑われるが、未だ特定されていなくてもよく、本発明の組成物は、疾患または身体状態のさらなる発症を診断または防止するために投与されてもよい。
【0087】
さらに詳述することなく、当業者は、上記記載に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の具体的実施形態は、単に例示と解釈されるべきであって、決して本開示の残りの部分の限定として解釈されるべきではない。本明細書で引用されるすべての刊行物は、本明細書で言及される目的または主題に関して参照により組み込まれる。
【0088】
方法
一部の実施形態では、被験体はがんを有する。一部の実施形態では、本開示の組成物(例えば、合成ナノ構造体)は、in vitroまたはex vivoで、がん細胞に送達され得る(例えば、細胞は接触させられ得る)。被験体は、過去にがんを有したことがあってもよく、現在は寛解している。被験体は、現在、活動性のがんの診断を有していてもよい(例えば、寛解状態ではない)。被験体は、がんを有しているという状態を受容するために、当技術分野で公知の任意の手段で診断されていてもよい。
【0089】
一部の実施形態では、被験体は、本明細書に記載の組成物(例えば、合成ナノ構造体)のいずれかを投与されるか、または細胞は、それと接触させられる。本明細書に開示される組成物は、当技術分野で公知の任意の投与経路で投与されてもよい。例えば、一部の実施形態では、当業者は、従来の経路によって組成物を投与することができ、例えば、経口的に、非経口的に、吸入スプレー剤によって、局所的に、直腸に、鼻に、口腔に、膣に、または埋め込まれたリザーバーによって投与することができる。
【0090】
一部の実施形態では、被験体は、少なくとも1回、組成物(例えば、合成ナノ構造体)を投与されるか、または細胞は、少なくとも1回、組成物に接触させられる。一部の実施形態では、被験体は、複数回の投与を受けるか、または細胞は、複数回接触させられる。例えば、限定されないが、被験体は、少なくとも2回の投与を受けてもよく、または細胞は、少なくとも2回接触させられてもよい(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50回、またはそれより多い回数)。一部の実施形態では、投与または接触は、不規則に間隔を空けられる(例えば、投与間または接触間は等しい期間ではない)。一部の実施形態では、投与または接触は等しい間隔を空けられる(例えば、投与間または接触間は等しい期間である)。一部の実施形態では、被験体は、1カ月当たり少なくとも1回の投与を受けるか、または細胞は、1カ月当たり少なくとも1回の投与に接触させられる。一部の実施形態では、被験体は、1週間当たり少なくとも1回の投与を受けるか、または細胞は、1週間当たり少なくとも1回の投与に接触させられる。一部の実施形態では、被験体は、1日当たり少なくとも1回の投与を受けるか、または細胞は、1日当たり少なくとも1回の投与に接触させられる。一部の実施形態では、被験体は、1日当たり少なくとも2回の投与を受けるか、または細胞は、1日当たり少なくとも2回の投与に接触させられる。一部の実施形態では、2回以上の投与または接触がある場合、投与または接触は同じ経路のものである。一部の実施形態では、2回以上の投与または接触がある場合、投与または接触は異なる経路のものである。
【実施例】
【0091】
以下の実施例において提示されるデータは、GPX4の遺伝子およびタンパク質の発現が、HDL NP曝露後に下方調節され、これが、おそらく、コレステロールに富む高密度リポタンパク質に対する高親和性受容体であるSCARB1を介して媒介されることを実証する。RT-qPCRデータは、HDL NPが、転写を低減することによって、GPX4レベルの低下を媒介することを支持する。本発明者らは、リンパ腫細胞のコレステロール枯渇によって、SREBP-1aの活性化が増加し、これにより、de novoコレステロール生合成が増加することを示した。SREBP-1aは、GPX4発現の負の制御因子として報告されている。ウエスタンブロットのデータは、GPX4の顕著な低減を示し、これは、GPX4をさらに低減する翻訳後の機構を示唆する。スタチンを使用してde novoコレステロール生合成を阻害しても、GPX4の発現が低減されることもフェロトーシスが誘導されることもなかったが、これは、de novoコレステロール生合成の操作が、HDL NP処置の効果を再現することができないことを示唆する。
【0092】
ALK+ALCL(SR-786、SUDHL1)およびU937細胞系に関して、それぞれ、過剰メチル化または変異によって誘導される酵素的遮断に起因する、それらが共通してコレステロール合成が不能であることに起因して、コレステロール生合成経路の中間体が関与する経路は興味深いものである。本明細書で示されるデータは、HDL NP処置が、de novoコレステロール合成遺伝子の発現を増加させ、GPX4の発現を低下させたことを示す。理論上は、これは、コレステロール生合成経路において、中間体をさらにより大幅に増加させるための役割を果たし得る。これは、抗酸化剤の機能を果たし得るが、GPX4の存在下でフェロトーシスを妨げるのに限り有効である。
【0093】
データは、これらの細胞が、LDLRに結合するLDLによってコレステロールを取り込むことができるという事実にもかかわらず、コレステロール栄養要求性細胞系におけるHDL NPを調査する根拠となることを示唆する。SCARB1発現は、調査された3つの栄養要求性細胞系において測定され、これは、LDLRとSCARB1の両方が、細胞へのコレステロールの供給において役割を果たすことを示唆する。HDL NPによる処置後のGPX4の有効な低減およびフェロトーシスの観察に関する可能な説明は以下のものを含む:a)HDL NPによるLDLRを介するコレステロール取り込みの低減;b)十分なコレステロール取り込みに関するLDLRとSCARB1の両方への依存;またはc)LDLRを介するLDL(粒子の内部移行)に対するSCARB1を介するHDL(細胞膜結合)によるコレステロール取り込みに関する異なる細胞機構。LDL/LDLRと対照的に、SCARB1へのHDLの結合は、生存促進性PI3K/AKT経路を含む細胞内シグナル伝達経路に関連している。近年の報告は、GPX4発現の低下がAKTのリン酸化の減少と相関することを示唆する。HDL NPのSCARB1への会合は、単にコレステロールの流入を防止するだけではなく、最終的にGPX4発現に影響を及ぼし得る膜に固定された生存促進性シグナル伝達経路を破壊し得る。それにもかかわらず、不活性コアに基づいて構築された合成ナノ粒子によるコレステロール取り込みの標的化された阻害は、ある特定のコレステロール栄養要求性またはコレステロール取り込みに依存するがんにおいて重要な標的であるようである。
【0094】
興味深いことに、HDL NPは、フェロトーシス感受性がん細胞に対して強力な毒性を示すが、in vitroまたはin vivoで、正常細胞についての毒性は観察されていない。本明細書に提示されるがん細胞に関するデータに基づいて、正常細胞は、がん細胞と同じ酸化的負荷を有さず、正常細胞は、コレステロール代謝に関して柔軟性を維持することができると考えられる。
【0095】
方法
細胞系
Ramos(RRID:CVCL_0597)、SUDHL4(CVCL_0539)、Raji(CVCL_0511)、Daudi(CVCL_0008)、SUDHL6(CVCL_2206)、Namalwa(CVCL_0067)、Jurkat(CVCL_0367)、SUDHL1(CVCL_0538)、SR-786(CVCL_1711)、およびU937(CVCL_0007)ヒト細胞系は、ATCCから入手し、受領および/または蘇生の3カ月以内に使用した。ATCCは、輸送前にそれらの細胞系を認証するために、ショートタンデムリピート(STR)プロファイリングを使用する。SUDHL4細胞に関して、Charles River Laboratoriesは、動物実験において使用する前に、マイコプラズマの夾雑について試験するために契約を結んだ。すべての細胞系は、10%のウシ胎仔血清(FBS)および1%のペニシリン/ストレプトマイシンを追加補充したRPMI 1640中で、37℃にて、加湿した5%CO2インキュベーター中で培養した。
【0096】
HDL NPの合成
HDL NPを、以前に記載されたように(36)合成および定量した。5nmの直径のクエン酸で安定化された金ナノ粒子(AuNP)をアポリポタンパク質A-Iで表面機能化し、続いて、リン脂質、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート](PDP PE)および1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)を添加した。HDL NPを、50kDaのカットオフのPESモジュールを有するKrosFlo TFF(Tangential Flow Filtration)システムを使用して精製した。HDL NPの濃度をUV-Vis分光法およびベールの法則を使用して計算した。
【0097】
蛍光標識したHDL NPを合成するために、挿入色素DiI(過塩素酸1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドカルボシアニン)を、リン脂質添加ステップ中に、1μMの最終濃度で添加した。蛍光標識したHDL NPの精製および定量を上記のように行った。
【0098】
SCARB1へのHDL NP結合アッセイ
SCARB1ブロッキング抗体(Novus Biologicals;1:100;RRID:AB_1291690)、および/またはウサギIgGアイソタイプ対照抗体(Novus Biologicals;1:100)の存在下または非存在下で、Ramos、SUDHL4、およびJurkat細胞を、標準培養培地中、37℃で2時間、DiI HDL NP(10nM)と共にインキュベートした。細胞を1mLの氷冷したFACS緩衝液(PBS、1%のウシ血清アルブミン、0.1%のアジ化ナトリウム)で1回洗浄し、フローサイトメトリー(BD LSR II Fortessa)分析の前に500μlの氷冷したFACS緩衝液中に再懸濁させた。FCS Expressソフトウエアを使用してデータを分析した。
【0099】
ウエスタンブロット解析
以前に記載されたように、ウエスタンブロットを行った。Azure 3000イメージャーを使用してブロットをイメージングした。SCARB1抗体(Abcam、RRID:AB_882458;1:1,000)、GPX4抗体(Abcam、AB_941790;1:5,000)、β-アクチン抗体(Cell Signaling Technologies、AB_2223172;1:3,000)および二次抗体(ヤギ抗ウサギHRP、Bio-Rad、AB_11125142;1:2,000)をこれらの実験において使用した。
【0100】
RT-qPCR分析
Ramos、SUDHL4、SUDHL1、SR-786およびU937細胞を、HDL NP(20nM、50nM)、ヒトHDL(hHDL;50nM)またはPBSで最大72時間処置し、RNeasy Miniキット(Qiagen)を使用してRNAを単離した。すべての場合に、タンパク質濃度に基づいて、hHDLを等モル濃度でHDL NPに添加した。RNA試料(500ngのRNA/30μlの反応)をTaqMan Reverse Transcriptionキットを使用して逆転写し、BioRad CFX-Connect iCycler上でTaqman Gene Expression Assays(Life Technologies)を使用して、qPCRを実施した。試料をβ-アクチンに対して標準化し、ΔΔCt法を使用して相対的発現を計算した。各条件について、生物学的三連で試行を行った。
【0101】
脂質過酸化に関するC11-BODIPYアッセイ
Ramos、SUDHL4、SUDHL1、SR-786およびU937細胞(1ml当たり2.5×105個の細胞)をHDL NP(50nM)またはPBSで、24、48または72時間処置した。処置後に、C11-BODIPY(1μMの最終濃度;Thermo Fisher Scientific)を各ウェルに添加し、細胞を37℃、5% CO2で30分間インキュベートした。次いで、1×PBSで細胞を2回洗浄し、氷冷したFACS緩衝液中に再懸濁させ、FITCチャネルにおけるC11-BODIPY蛍光をBD LSR II Fortessaフローサイトメーターを使用して定量した。FCS Expressソフトウエアを使用してデータを分析した。
【0102】
細胞死(MTS)アッセイ
以前に記載されたように、MTSアッセイ(CellTiter;Promega)を行った。Ramos、SUDHL4、Raji、Daudi、Namalwa、SUDHL6およびJurkat細胞を1mL当たり2×105個の細胞の密度でプレーティングし、アッセイの前に72時間培養した。SUDHL1、SR-786、およびU937細胞を1mL当たり5×104個の細胞の密度でプレーティングし、MTSアッセイの前に5日間培養した。SCARB1ブロッキング抗体およびアイソタイプ対照抗体を1:1000~1:250の希釈で添加した。フェロスタチン-1およびデフェロキサミン(DFO)をSigma Aldrichから入手し、1μMの最終濃度で添加した。MTS値をPBS対照に対して標準化した。
【0103】
腫瘍異種移植モデル
SCID-ベージュマウス(4~6週齢;Charles River)をSUDHL4腫瘍異種移植研究に使用した。側腹の腫瘍をマウス1匹当たり1×107個のSUDHL4細胞を使用して開始した。HDL NP処置が始まる前に、腫瘍を約100mm3に到達させた。それらの初期腫瘍体積に基づき、マウスを2つの群、PBS(100μL)およびHDL NP(1μMのNP100μL)に無作為に分けた。処置(静脈内)を1週間当たり3回、1週間にわたり投与した。次いで、腫瘍を回収し、腫瘍を機械的に解離させ、細胞を70ミクロンのフィルターに通過させることによって、単一細胞懸濁物を生成した。C11-BODIPY(1μMの最終濃度)を得られた細胞懸濁物(1×106個の細胞)の画分に添加し、上記したようにフロー分析を行った。細胞の残りの部分からRNAを単離し、上記したように、RT-qPCRによってGPX4発現を定量した。
【0104】
ヒト組織分析
大細胞型B細胞リンパ腫および濾胞性リンパ腫を有する患者由来の、記録保管され、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織切片を分析した。すべての試料を、最終診断以外のすべての情報について匿名化した。合計104個の濾胞性リンパ腫および49個のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の記録保管試料を入手し、SCARB1発現に関して染色した。切片の免疫組織化学染色を、ノースウエスタン大学(Northwestern University)のRobert H. Lurie Comprehensive Cancer CenterのPathology Coreで、モノクローナルSCARB1抗体(Abcam、AB_882458;1:100希釈)を使用して実施した。肝臓および胸腺の標本を、それぞれ、陽性対照および陰性対照として利用した。明視野のイメージを10×および40×の倍率で捉えた。
【0105】
結果
HDL NPはGPX4を下方調節する
研究を実施して、HDL NPがde novoコレステロール合成遺伝子の発現を増加させ、GPX4の発現を低下させるかどうかを決定した。データを
図1に示す。RamosおよびSUDHL4細胞は、それぞれ、バーキットリンパ腫(BL)および胚中心DLBCL(GC DLBCL)の十分に研究されたモデルである。HDL NPは、細胞のコレステロール枯渇ならびにSUDHL4およびRamos細胞の顕著なin vitroおよびin vivo細胞死をもたらす。RT-qPCR分析を実施し、0nM(対照)、20nM、または50nMのHDL NPで24または48時間処置したRamos細胞(左のパネル)およびSUDHL4細胞(右のパネル)におけるGPX4発現を評価した。ウエスタンブロット解析および従来のRT-qPCRを使用して、GPX4発現の低下を確認した。HDL NP処置が、タンパク質(示さず)とmRNAレベル(
図1)の両方で、PBS対照(0nM)に対して、両細胞系におけるGPX4の発現を顕著に低下させたことが観察された。対照的に、等モル濃度のコレステロールに富むHDLによる処置は、GPX4タンパク質または遺伝子の発現を変更しなかった(示さず)。
【0106】
HDL NPはB細胞リンパ腫細胞系におけるフェロトーシスを誘導する
フェロトーシスをアポトーシスおよび他の形態の細胞死から識別するために、少なくとも2つの測定基準が提案されている:1)細胞死は、酸化された場合に固有のスペクトルシグネチャーを有し、脂質過酸化を測定するために使用される親油性蛍光色素であるC11-BODIPY、およびフローサイトメトリーを使用して定量した酸化された膜脂質の増加と相関する;および2)細胞死は、親油性抗酸化剤(例えば、フェロスタチン-1)または鉄キレート剤、例えばデフェロキサミン(DFO)の添加によって低減され得る。これらの測定基準を使用して、HDL NPが、Ramos細胞およびSUDHL4細胞においてフェロトーシスを誘導したかどうかを評価した。両細胞系において、HDL NP処置は、経時的に、C11-BODIPYシグナルの用量依存的増加をもたらした。HDL NPが、SUDHL4細胞における過酸化脂質の蓄積を誘導するかどうかを評価し、
図4A~4Bにデータを示す。同様に、HDL NPが、Ramos細胞において過酸化脂質の蓄積を誘導するかどうかを評価し、
図5A~5Bにデータを示す。両細胞系における過酸化脂質の蓄積の用量依存的増加が確認された。
【0107】
次いで、Ramos細胞とSUDHL4細胞を、フェロスタチン-1またはDFOのいずれかの存在下で、HDL NPと共に培養し、細胞生存度についてアッセイした。フェロスタチン-1とDFOの添加は、SUDHL4細胞(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、
図2)およびRamos細胞(バーキットリンパ腫、
図3)において、HDL NPによって誘導される細胞死を有意に阻害した。これらのデータは、HDL NPがRamos細胞とSUDHL4細胞においてフェロトーシスを誘導することを実証する。
【0108】
HDL NPはコレステロール栄養要求性リンパ腫細胞系においてフェロトーシスを誘導する
とりわけ、細胞系SR-786(ALK+ALCL)、SUDHL1(ALK+ALCL)、およびU937(組織球性リンパ腫から単離されるが、骨髄系統である)を含むいくつかの細胞系は、コレステロールに関して栄養要求性である。ALK+ALCL細胞は、リポタンパク質を欠損した血清中で培養された場合に低下した生存度に基づいて特定され、細胞死の表現型は、コレステロールに富む低密度リポタンパク質(LDL)または遊離コレステロールの添加によってレスキューされた。HDL NPは、SUDHL4細胞およびRamos細胞においてSCARB1を標的とし、細胞のコレステロール枯渇ならびに顕著なin vitroおよびin vivo細胞死をもたらす。抗SCARB1ブロッキング抗体および蛍光標識したHDL NPを使用する、これらのリンパ腫細胞におけるHDL NPの標的としてのSCARB1の要件を検証した(データは示さず)。ALK+ALCL細胞およびU937細胞におけるSCARB1の発現を調査した。データは、SR-786細胞、SUDHL1細胞およびU937細胞におけるSCARB1発現を明らかにする(
図6A)。細胞系のそれぞれのHDL NPによる処置は、細胞死を強力に誘導した(
図6B)。
図6におけるデータは、コレステロール栄養要求性細胞系におけるSR-B1発現の効果およびHDL NP有効性を示す。試験した細胞は、以下を含む;SNU-1:胃がん。SUDHL1:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。SR:ALK+未分化大細胞型T細胞リンパ腫。U937:組織球性リンパ腫。HEC-1B:子宮内膜腺癌。U266B1:黒色腫。RamosおよびJurkatは、それぞれ、SCARB1発現に関する陽性対照および陰性対照を表す。β-アクチンをローディング対照として使用した。細胞をHDL NPで120時間処置した。
【0109】
HDL NPはin vivoでフェロトーシスを誘導する
SUDHL4細胞およびRamos細胞において示されたように、HDL NPは、異種移植モデルにおいて腫瘍負荷を特異的に標的とし、有意に低減する。全身的なHDL NP処置がGPX4発現を低下させ、in vivoで腫瘍細胞における過酸化脂質の蓄積を増加させるかどうかを決定するために、SUDHL4腫瘍異種移植片(体積で約100mm
3)をSCID-ベージュマウスにおいて確立した。次いで、PBSまたはHDL NPでマウスを処置した(1μMのHDL NP 100μl、1週間当たり3回を1週間にわたりi.v.)。処置後に、腫瘍を切除し、GPX4発現および過酸化脂質の蓄積を、それぞれ、RT-qPCRおよびC11-BODIPY染色によって定量した。HDL NP処置は、PBS対照と比較して、RT-qPCRによって測定した場合、GPX4の下方調節をもたらし(
図7B)、これは、膜での過酸化脂質の蓄積の増加と相関した。腫瘍体積の変化を
図7Aに示す。HDL NPの全身投与後に、有害な副作用は観察されなかった。これらのデータは、HDL NPが、リンパ腫のSUDHL4側腹腫瘍異種移植モデルにおいて、フェロトーシスと一致した分子変化を誘導することを示す。in vivoフェロトーシスアッセイでのSUDHL1細胞における脂質の蓄積を
図8のプロットに示す。
【0110】
これらの知見を腎細胞癌に拡大する研究を
図9~11に示す。
図9は、HDL NPが786-O(腎細胞癌-明細胞)細胞においてフェロトーシスを誘導することを示す棒グラフである(HDL NP+フェロスタチン-1およびHDL NP+DFO)。フェロスタチン-1は、特に高濃度で、HDL NP機能への劇的な効果を有した。
図10のデータは、HDL NPが、Caki-2(腎細胞癌-乳頭状)細胞においてもフェロトーシスを誘導することを示す。同様に、HDL NPは、786-O細胞およびCaki-2細胞において過酸化脂質の蓄積を誘導する(
図11A~11B)。
【0111】
腎細胞癌および卵巣がんの細胞系においてHDL NPに応答したGPX4およびSR-B1の発現
GPX4発現におけるSR-B1の役割を、siRNAを使用して分析した。siRNAを使用するSR-B1の特異的ノックダウンは、GPX4発現を下方調節することを示した。96時間と120時間(時間)におけるSR-B1 siRNA、siRNA対照(siCtrl)またはPBSによる処置後に、タンパク質を単離し、ウエスタンブロット(25μgのタンパク質、SR-B1抗体Abcam(ab52629、1:2,000)、GPX4 Abcam(ab41787、1:20,000))によって調査した。ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)はタンパク質対照としての役割を果たした。SR-B1ノックダウンによるタンパク質発現の完全な喪失を実証するデータを
図12Aに示す。
図12Bのデータは、SR-B1下方調節のsiRNAノックダウンが細胞死を誘導することを示す。
【0112】
腎細胞癌細胞系をHDL NPでさらに処置し、SR-B1およびGPX4の発現に対するHDL NPの影響を評価した。HDL NPの濃度を変化させた、様々な時間経過にわたるGPX4およびSR-B1のウエスタンブロット解析を実施した。データは
図12Cに示される。データは、HDL NPがSR-B1受容体発現を直接的に調節しないが、HDL NPが、時間および用量(例えば、HDL NP濃度)に依存してGPX4発現を大幅に下方調節することを実証する。
【0113】
標的化された受容体タンパク質-チロシンキナーゼ阻害剤療法であるSutentの存在下で、GPX4発現に影響を及ぼすHDL NPの能力も調査した。HDL NPがSutentの存在下でGPX4発現を大幅に下方調節することを例示する結果を
図12Dに示す。8μgのタンパク質、GPX4 Abcam(ab41787、1:5,000)、ベータアクチンCell Signaling(13E5、1:2,000)を使用した。HDL NPは、酸化された脂質の発現も増加させることが示された(
図12E)。MTS Rescue Assayを使用して、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることが判明した(
図12F)。
図12Gは、HDL NPの5回の処置後に、HDL NPが786-O腫瘍負荷を低減する(左上のパネル);HDL NPが生存を増大させる(右上のパネル);およびHDL NPが腫瘍における酸化脂質を増加させること(下の真中のパネル)のin vivoデータを示す。
【0114】
別の腎細胞癌細胞系である769-PにおけるHDL NPの影響をさらに調査した。
図13A~13Bに示される結果は、HDL NPが、これらの細胞においてGPX4発現も下方調節し(
図13A、ウエスタンブロット解析)、細胞死を誘導し、この細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされる(
図13BのMTSデータ)ことを示す。
【0115】
同様の実験を卵巣がん細胞において行い、これらは、
図14~16に示される整合的なデータをもたらした。
図14A~14Dは、白金感受性卵巣がん細胞系であるOVCAR5細胞系において、HDL NPから得られた結果を示す。HDL NPがGPX4発現を下方調節することを示すGPX4のウエスタンブロットを
図14Aに示す。HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを示すC11-BODIPY Flow Dataを
図14Bに示す。HDL NPによって誘導される細胞死がフェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることを示すMTSアッセイの結果を
図14Cに表す。
図14Dは、SR-B1およびGPX4のウエスタンブロット、ならびにSR-B1のsiRNAノックダウンがGPX4発現を下方調節することを示す。
【0116】
白金抵抗性卵巣がん細胞系であるOVCAR5 CP Resistant Cell Lineを使用して、同様のデータを得て、これを
図15A~15Cに表す。
図15Aは、GPX4のウエスタンブロット、およびHDL NPがGPX4発現を下方調節することを示す。
図15Bは、HDL NPによって誘導される細胞死が、フェロスタチン-1およびデフェロキサミンによってレスキューされることのMTSアッセイを示す。
図15Cは、HDL NPが酸化脂質の発現を増加させることを示す。
【0117】
同様に、明細胞卵巣癌細胞系であるES2細胞系を使用して、同様のデータを得て、結果を
図16に示す。GPX4についてのウエスタンブロットおよびHDL NPがGPX4発現を下方調節することが示される。
【0118】
他の実施形態
実施形態1. がんを有するか、がんを有することが疑われるか、またはがんを有するリスクのある被験体を処置する方法であって、被験体に、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を投与することであって、シェルがリン脂質を含む、投与することを含み、被験体ががん細胞を有し、合成ナノ構造体ががん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与される、方法。
実施形態2. 細胞集団において、がん細胞の数を低減する方法であって、がん細胞を、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体と接触させることであって、シェルがリン脂質を含む、接触させることを含み、合成ナノ構造体ががん細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で存在する、方法。
実施形態3. ナノ構造体コアが金である、実施形態1から2のいずれか1つに記載の方法。
実施形態4. 合成ナノ構造体が、アポリポタンパク質をさらに含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
実施形態5. アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-II、またはアポリポタンパク質Eである、実施形態1から4に記載の方法。
実施形態6. 合成ナノ構造体が、コレステロールをさらに含む、実施形態1から5のいずれか1つに記載の方法。
実施形態7. リン脂質シェルが、脂質単層を含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態8. リン脂質シェルが、脂質二重層を含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態9. 脂質二重層の少なくとも一部が、ナノ構造体コアに共有結合している、実施形態8に記載の方法。
実施形態10. ナノ構造体コアが、約500ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から9のいずれか1つに記載の方法。
実施形態11. ナノ構造体コアが、約250ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から10のいずれか1つに記載の方法。
実施形態12. ナノ構造体コアが、約100ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から11のいずれか1つに記載の方法。
実施形態13. ナノ構造体コアが、約75ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から12のいずれか1つに記載の方法。
実施形態14. ナノ構造体コアが、約50ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から13のいずれか1つに記載の方法。
実施形態15. ナノ構造体コアが、約30ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から14のいずれか1つに記載の方法。
実施形態16. ナノ構造体コアが、約15ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から15のいずれか1つに記載の方法。
実施形態17. ナノ構造体コアが、約10ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から16のいずれか1つに記載の方法。
実施形態18. ナノ構造体コアが、約5ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から17のいずれか1つに記載の方法。
実施形態19. ナノ構造体コアが、約3ナノメートル(nm)より小さいかまたはそれに等しい最大断面寸法を有する、実施形態1から18のいずれか1つに記載の方法。
実施形態20. ナノ構造体コアが、約1:1より大きいアスペクト比を有する、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法。
実施形態21. ナノ構造体コアが、3:1より大きいアスペクト比を有する、実施形態1から20のいずれか1つに記載の方法。
実施形態22. ナノ構造体コアが、5:1より大きいアスペクト比を有する、実施形態1から21のいずれか1つに記載の方法。
実施形態23. リン脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:0 PE)、スフィンゴミエリン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、またはこれらの組合せを含む、実施形態1から22のいずれか1つに記載の方法。
実施形態24. 被験体が、がんを有すると診断されている、実施形態1から23に記載の方法。
実施形態25. 被験体が、フェロトーシス感受性悪性疾患またはコレステロール栄養要求性悪性疾患を有すると診断されている、実施形態1から24のいずれか1つに記載の方法。
実施形態26. がんが、B細胞リンパ腫、腎細胞癌、T細胞リンパ腫、胃がん、卵巣癌、および子宮内膜腺癌から選択される、実施形態1から25のいずれか1つに記載の方法。
実施形態27. がんが、肉腫、リンパ腫、胃がん、未分化大細胞型リンパ腫、腎明細胞癌(ccRCC)、卵巣がん、白金抵抗性卵巣がん、および明細胞卵巣がんから選択される、実施形態1から26のいずれか1つに記載の方法。
実施形態28. 合成ナノ構造体が、1回より多く、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる、実施形態1から27のいずれか1つに記載の方法。
実施形態29. 合成ナノ構造体が、1カ月当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる、実施形態28に記載の方法。
実施形態30. 合成ナノ構造体が、1週間当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる、実施形態28から29のいずれか1つに記載の方法。
実施形態31. 合成ナノ構造体が、1日当たり少なくとも1回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる、実施形態28から30のいずれか1つに記載の方法。
実施形態32. 合成ナノ構造体が、1日当たり2回、被験体に投与されるか、または細胞と接触させられる、実施形態28から31のいずれか1つに記載の方法。
実施形態33. 被験体が哺乳動物である、1から32のいずれか1つに記載の方法。
実施形態34. 被験体がヒトである、実施形態1から33のいずれか1つに記載の方法。
実施形態35. 被験体に、フェロトーシス誘導剤化合物を投与することをさらに含む、実施形態1から33のいずれか1つに記載の方法。
実施形態36. がんがフェロトーシスに対して感受性であるかどうかを決定することをさらに含む、実施形態1から33のいずれか1つに記載の方法。
実施形態37. フェロトーシス感受性障害を有する被験体を処置する方法であって、フェロトーシス感受性障害を有する被験体を特定することと、被験体に、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を、被験体の罹患細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で投与することであって、シェルがリン脂質を含む、投与することとを含む、方法。
実施形態38. ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルを含む合成ナノ構造体を含む組成物であって、シェルがリン脂質およびフェロトーシス誘導剤化合物を含む、組成物。
実施形態39. 細胞においてフェロトーシスを誘導するための方法であって、細胞がフェロトーシス感受性細胞であると特定することと、細胞を、ナノ構造体コア、ナノ構造体コアを包囲し、それに結合した脂質を含むシェルと、細胞においてフェロトーシスを誘導するのに有効な量で接触させることであって、シェルがリン脂質を含む、接触させることとを含む、方法。
【0119】
この明細書に開示される要件のすべては、任意の組合せで組み合わされてもよい。この明細書に開示される各要件は、同じか、均等か、または類似する目的を果たす代替の要件で置き換えられてもよい。よって、別段に明示的に述べられていなければ、開示される各要件は、一般的な一連の均等な、または類似する要件の例に過ぎない。
【0120】
上記記載から、当業者は、本発明の本質的特徴を容易に確認することができ、その趣旨および範囲を逸脱することなく、本発明を様々な利用および条件に適用するために、本発明の様々な変更および修正をすることができる。よって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
【0121】
均等物
いくつかの発明の実施形態が本明細書において記載および例示されているが、当業者は、本明細書に記載の機能を実施する、ならびに/または本明細書に記載の結果および/もしくは利点の1つもしくは複数を得るために、種々の他の手段および/または構造に容易に想到することになり、このような変更および/または修正のそれぞれは、本明細書に記載の本発明の実施形態の範囲内にあると考えられる。より一般には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメーター、寸法、材料、および形状は例示であることを意味し、実際のパラメーター、寸法、材料、および/または形状は、本発明の教示が使用される特定の適用(1つまたは複数)に応じて変わることを容易に認識するであろう。当業者は、日常的な実験を超えるものを使用せずに、本明細書に記載の特定の発明の実施形態と均等な多くのものを認識し、確認することができるであろう。したがって、前記実施形態は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびそれに均等な範囲内で、本発明の実施形態は、具体的に記載および請求された以外にも実施され得ることが理解されるべきである。本開示の発明の実施形態は、本明細書に記載のそれぞれ個々の要件、システム、物品、材料、キット、および/または方法を対象とする。さらに、2つまたはそれより多くのこのような要件、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組合せは、このような要件、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に不一致でなければ、本開示の本発明の範囲内に含まれる。
【0122】
本明細書で定義および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書の定義、および/または定義された用語の通常の意味を支配することが理解されるべきである。
【0123】
本明細書に開示されるすべての参照文献、特許および特許出願は、それぞれが引用される主題に関して参照により組み込まれ、一部の場合には、文書の全体を包含し得る。
不定冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書で使用される場合、本明細書および特許請求の範囲において、逆のことが明確に示されていなければ、「少なくとも1つ(at least one)」を意味することが理解されるべきである。
【0124】
語句「および/または(and/or)」は、本明細書で使用される場合、本明細書および特許請求の範囲において、このように結合された要素、すなわち、一部の場合には結合的に存在し、他の場合には非結合的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味することが理解されるべきである。「および/または(and/or)」と共に列挙された複数の要素、すなわち、このように結合された要素の「1つまたは複数(one or more)」は、同じ様式で解釈されるべきである。他の要素は、「および/または(and/or)」の節によって具体的に特定された要素(これらの具体的に特定された要素に関連してもしなくても)以外にも必要に応じて存在してもよい。よって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB(A and/or B)」への言及は、「含む(comprising)」などのオープンエンドの言語と併せて使用される場合、一実施形態ではAのみ(必要に応じてB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみ(必要に応じてA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態では、AとBの両方(必要に応じて他の要素を含む)などを指し得る。
【0125】
本明細書で使用される場合、本明細書および特許請求の範囲において、「または(or)」は、上記で定義した「および/または(and/or)」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分ける場合、「または(or)」または「および/または(and/or)」は包括的であると解釈されるべきである(すなわち、いくつかの要素または要素のリストうちの少なくとも1つを含むが、さらに、その1つよりも多くと、必要に応じて列挙されていない追加項目とを含む)。明確な逆の指示がない用語、例えば「の1つのみ(only one of)」もしくは「の正確に1つ(exactly one of)」、または特許請求の範囲で使用される場合には、「からなる(consisting of)」のみが、いくつかの要素または要素のリストうちの正確に1つの要素を含むことを指す。一般に、用語「または(or)」は、本明細書で使用される場合、「いずれか(either)」、「の1つ(one of)」、「の1つのみ(only one of)」、または「の正確に1つ(exactly one of)」などの排他的な用語が先行する場合には、排他的な選択肢(すなわち、「両方ではなく一方または他方(one or the other but not both)」)を示すものとしてのみ解釈されるものとする。「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲で使用される場合、特許法の分野で使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0126】
本明細書で使用される場合、本明細書および特許請求の範囲において、1つまたは複数の要素のリストに関する語句「少なくとも1つ(at least one)」は、要素のリスト中の要素のいずれか1つまたは複数から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素のリスト内で具体的に列挙されているそれぞれの要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、要素のリスト中の要素の任意の組合せを除外しないと理解されるべきである。この定義はまた、語句「少なくとも1つ(at least one)」が指す要素のリスト内で具体的に特定される要素以外にも、具体的に特定される要素との関連または非関連にかかわらず、要素が必要に応じて存在し得ることを可能にする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ(at least one of A and B)」(または同等に「AまたはBの少なくとも1つ(at least one of A or B)」または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ(at least one of A and/or B)」)は、一実施形態では、必要に応じて2つ以上のAを含み、Bが存在しない(および必要に応じてB以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ;別の実施形態では、必要に応じて2つ以上のBを含み、Aが存在しない(および必要に応じてA以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ;さらに別の実施形態では、必要に応じて2つ以上のAを含む少なくとも1つ、および必要に応じて2つ以上のBを含む少なくとも1つ(および必要に応じて他の要素を含む)などを指すことができる。
【0127】
明確な逆の指示がない限り、2つ以上のステップまたは動作を含む本明細書で請求された任意の方法において、方法のステップまたは動作の順序は、方法のステップまたは動作が記載されている順序に必ずしも限定されないことも理解されるべきである。
【国際調査報告】