(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】分子コンジュゲート及び共役の示差的特徴付けのための材料及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221115BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20221115BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221115BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221115BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20221115BHJP
C07K 5/00 20060101ALN20221115BHJP
【FI】
G01N27/62 V
A61K47/64
A61K47/68
A61K39/395 C
A61K39/395 L
G01N33/68
C07K5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517440
(86)(22)【出願日】2020-09-19
(85)【翻訳文提出日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 US2020051686
(87)【国際公開番号】W WO2021055894
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】グナワーデナ,ハーシャ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA12
2G041GA09
2G041LA03
2G045DA37
2G045GC17
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA22
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA11
4H045BA12
4H045BA40
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
デュアルタンデム質量タグ(TMT)に関与するタンデム質量分析法を使用して薬物ポリペプチドコンジュゲートを分析する方法が記載されている。本明細書では、TMTを使用して、「三重プレイ」と呼ばれる3つの分析測定値を得る統合方法が提供され、これは、薬物占有率、複数の試料間の正規化、及びペイロードの共役部位を特定しかつ局在化させるための追加のMS/MSのトリガーを可能にする。また、現在の質量分析装置と同じ感度を維持しながら、増強されたスループット能力のためのTMTラベリングを用いた単一の実行でコンジュゲーション反応を多重化する方法も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドに共有結合した薬物を含むコンジュゲートを分析する方法であって、
(i)前記コンジュゲートを含む試料を第1のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、前記コンジュゲートの前記ポリペプチドを前記第1のTMTで標識することと、
(ii)前記第1のTMTで標識された前記コンジュゲートの前記ポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、前記第1のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第1の混合物を生成することと、
(iii)前記第1の混合物を第2のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、前記第1のTMT及び前記第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドを含む、第2の混合物を得ることであって、前記第1のTMT及び前記第2のTMTが、同じレポーターイオン質量を有しない、得ることと、
(iv)前記第2の混合物を液体クロマトグラフィー(LC)に供して、前記LCの溶出物を生成することと、
(v)前記溶出物をタンデム質量分析法に供して、前記第1のTMT及び前記第2のTMTのうちの少なくとも1つのレポーターイオンを含むペプチドの質量スペクトルを得ることと、
(vi)前記少なくとも1つのレポーターイオンに関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出し、それによって前記試料中の前記コンジュゲートを分析することと、を含む、方法。
【請求項2】
ポリペプチドに共有結合した薬物を含むコンジュゲートを分析する方法であって、
(i)前記コンジュゲートを含む試料を第1のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、前記コンジュゲートの前記ポリペプチドを前記第1のTMTで標識することと、
(ii)前記第1のTMTで標識された前記コンジュゲートの前記ポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、前記第1のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第1の混合物を生成することと、
(iii)前記第1の混合物を第2のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、前記第1のTMT及び前記第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドを含む、第2の混合物を得ることと、
(iv)前記薬物に共有結合していない前記ポリペプチドを含む対照試料を第3のTMTと接触させて、それによって、前記薬物に共有結合していない前記ポリペプチドを前記第3のTMTで標識することと、
(v)前記第3のTMTで標識された前記薬物に共有結合していない前記ポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、前記第3のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第3の混合物を生成することと、
(vi)前記第3の混合物を第4のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、前記第3のTMT及び前記第4のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドを含む、第4の混合物を得ることと、
(vii)前記第2の混合物を前記第4の混合物と組み合わせ、前記組み合わせを液体クロマトグラフィー法(LC)に供して、前記LCの溶出物を生成することと、
(viii)前記溶出物をタンデム質量分析法に供して、前記第1のTMT、前記第2のTMT、前記第3のTMT、及び前記第4のTMTのうちの少なくとも1つのレポーターイオンを含むペプチドの質量スペクトルを得ることと、
(ix)前記少なくとも1つのレポーターイオンと関連付けられた質量電荷比を検出して、それによって、前記試料中の前記コンジュゲートを分析することと、を含み、
前記第1のTMT、前記第2のTMT、前記第3のTMT、及び前記第4のTMTのうちのいずれも同じレポーターイオン質量を有さず、前記第1のTMT及び前記第3のTMTが、TMTの第1の等圧セットから選択され、前記第2のTMT及び前記第4のTMTが、TMTの第2の等圧セットから選択され、前記TMTの第1の等圧セットが、前記薬物で共有結合を形成することができる非共役アミノ酸残基に反応性であり、前記TMTの第2の等圧セットが、ペプチドのN末端でリジン又は遊離アミンに反応性である、方法。
【請求項3】
コンジュゲート中の共役部位の占有率を決定する方法であって、
1)請求項2に記載の方法を使用して、前記第1のTMT及び前記第2のTMTの両方で標識されたペプチド並びに前記第3のTMT及び前記第4のTMTの両方で標識されたペプチドに対する質量スペクトルを得ることであって、前記質量スペクトルが、前記第1のTMTのレポーターイオンと、前記第3のTMTのレポーターイオンと、前記第2のTMTのレポーターイオンと、前記第4のTMTのレポーターイオンと、を含む、得ることと、
2)前記質量スペクトルにおいて前記レポーターイオンと関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出することと、
3)前記質量スペクトルにおける前記第1のTMTの前記レポーターイオンの強度及び前記第3のTMTの前記レポーターイオンの強度、又は前記第2のTMTの前記レポーターイオンの強度及び前記第4のTMTの前記レポーターイオンの強度に基づいて、前記コンジュゲート中の共役部位の前記占有率を決定することであって、好ましくは、前記占有率が、以下の式:
(前記第3のTMTの前記レポーターイオンの強度-前記第1のTMTの前記レポーターイオンの強度)/前記第3のTMTの前記レポーターイオンの強度、又は
(前記第4のTMTの前記レポーターイオンの強度-前記第2のTMTの前記レポーターイオンの強度)/前記第4のTMTの前記レポーターイオンの強度、によって決定される、決定することと、を含む、方法。
【請求項4】
前記コンジュゲート中の前記共役部位の前記占有率が、様々な時点で決定され、追加のTMTが、異なる時点で前記ポリペプチドを標識するために使用される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
コンジュゲートを含む試料を対照試料で正規化する方法であって、
1)請求項2に記載の方法を使用して、前記第2のTMTのみで標識されたペプチド及び前記第4のTMTのみで標識されたペプチドに対する質量スペクトルを得ることであって、前記質量スペクトルが、前記第2のTMTのレポーターイオン及び前記第4のTMTのレポーターイオンを含むが、前記第1のTMT又は第3のTMTのレポーターイオンを含まない、得ることと、
2)前記レポーターイオンに関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出することと、
3)前記第2のTMTの前記レポーターイオンの強度の前記第4のTMTの前記レポーターイオンの強度に対する比によって、前記試料を前記対照試料で正規化することと、を含む、方法。
【請求項6】
コンジュゲート中の薬物共役部位を局在化させる方法であって、
1)請求項2に記載の方法を使用して、前記第2のTMTのみで標識されたペプチドの質量スペクトルを得ることであって、前記質量スペクトルが、前記第2のTMTのレポーターイオンのみを含むが、前記第1、第3、又は第4のTMTのレポーターイオンを含まない、得ることと、
2)前記第2のTMTの前記レポーターイオンのみで標識された前記ペプチドに対する第2のタンデム質量分析法の分析をトリガーして、それによって前記薬物共役部位を局在化させることと、を含む、方法。
【請求項7】
前記ペプチドが、前記薬物に完全に共役している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コンジュゲート中の薬物共役部位を局在化させる方法であって、
1)請求項2に記載の方法を使用して、前記第1及び第2のTMTのみで標識されたペプチドの質量スペクトルを得ることであって、前記質量スペクトルが、前記第1及び前記第2のTMTのレポーターイオンのみを含むが、前記第3又は第4のTMTのレポーターイオンを含まない、得ることと、
2)前記第1及び前記第2のTMTのみで標識された前記ペプチドに対する第2のタンデム質量分析法の分析をトリガーして、それによって前記薬物共役部位を局在化させることと、を含む、方法。
【請求項9】
前記ペプチドが、前記薬物に完全には共役していない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タンデム質量分析法が、高エネルギー衝突誘起解離タンデム質量分析法(HCD-MS2)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のタンデム質量分析法が、電子移動解離タンデム質量分析法(ETD-MS2)又は電子捕獲解離タンデム質量分析法(ECD-MS2)である、請求項6~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
より高いトリガー強度閾値及び/又は狭い単離ウィンドウが、前記第2のタンデム質量分析法のトリガーを改善するために使用される、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
トライブリッド技術を用いた同期前駆体選択を、前記タンデム質量分析法に適用して、前記検出及び定量化の特異性及び精度を改善する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のTMT及び前記第3のTMTの各々が、互いに共有結合している質量レポーター、質量ノーマライザー、及びシステイン反応性基を含み、前記第2のTMT及び前記第4のTMTの各々が、互いに共有結合している質量レポーター、質量ノーマライザー、及びアミン反応性基を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のTMT及び前記第3のTMTの各々が、IodoTMTsixplexの等圧セットから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2のTMT及び前記第4のTMTの各々が、TMT6plex、TMT10plex、又はTMT pro16 plexの等圧セットから選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記コンジュゲートが、抗体薬物コンジュゲート(ADC)である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
1つ又は2つ以上のコンジュゲートを含む試料のマルチプレックスが分析される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記コンジュゲート又は前記ADCが、前記ポリペプチド又は前記抗体のシステイン残基に共役した1つ又は2つ以上の薬物を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記コンジュゲート又は前記ADCが、前記ポリペプチド又は前記抗体のリジン残基に共役した1つ又は2つ以上の薬物を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のTMT、第2のTMT、第3のTMT、及び第4のTMTの各々が、互いに共有結合している質量レポーター、質量ノーマライザー、及びアミン反応性基を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のTMT、第2のTMT、第3のTMT、及び第4のTMTの各々が、TMT6plex、TMT10plex、又はTMT pro16 plexから選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記コンジュゲート中の前記薬物共役部位が、(2n+2)レポーターイオンを含む質量分析バーコードにより特徴付けられ、前記コンジュゲートが、n+1レポーターイオンを含む質量分析バーコードにより正規化され、nが、前記方法によって分析される試料の数である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法のいずれかを実施するためのシステム。
【請求項25】
第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識されたペプチドと、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドとの混合物を含む、組成物であって、前記第1のTMT及び前記第2のTMTが、同じレポーターイオン質量を有さず、前記ペプチドの混合物が、薬物に共役しており、かつ前記第1のTMT及び前記第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された、少なくとも1つのペプチドを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年9月19日に出願された米国仮出願第62/902,958号に対する優先権を主張し、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、とりわけ、共役分子を含む分子コンジュゲート、例えば、共役分子を定量化、正規化、検出、及び/又は同定することを含む分子コンジュゲートを特徴付ける、方法及び試薬に関する。本出願に教示されるように、本発明は、例えば、分子コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugate、ADC)などの薬物コンジュゲートなどを含む、様々な種類の分子と共に使用するのに有用である。
【背景技術】
【0003】
分子の共役は、有利であり得る。例えば、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)などの薬物コンジュゲートは、がんを治療するための治療法(Polakis,Pharmacological reviews 68,3-19(2016))及び免疫学的障害(McPherson.Methods in molecular biology 2078,23-36(2020))の拡大しているクラスである。ADCの一般的な構造は、切断可能な又は切断不可能なリンカーを介して薬物に接続されたモノクローナル抗体(monoclonal antibody、mAb)を含有する。例えば、ADCは、酸不安定リンカー、プロテアーゼ切断可能リンカー、又はジスルフィドリンカーなどの切断不可能な又は切断可能なリンカーを介して、細胞毒性物、ステロイド、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの生物学的に活性なペイロードに接続されたヒト化/ヒトmAbを有することができる。リンカーは、リジンカップリング、システインアルキル化、又は酵素反応を介して、共役部位でmAbに共有結合し得る。ADCは、その標的細胞表面抗原受容体に結合し、これは、標的部位への薬物の標的化送達を可能にし、健康な組織への全身毒性効果を最小限に抑え、結果として、代替化学療法又は他の第1世代mAbよりも、選択性が増加し、有効性及び安全性が改善される(例えば、Dan et al.,2018,Pharmaceuticals(Basel)11)を参照されたい)。
【0004】
完全な共役は、達成することが困難である。不完全な共役プロセスは、遊離若しくは非共役薬物、薬物リンカー、又は薬物関連不純物をもたらし得る。分解生成物が、製剤において及びインビボで経時的に発生し得る。ADCの特性評価及び定量化は、ADCの安全性、有効性、及び均一性にとって重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願は、薬物コンジュゲートなどの治療コンジュゲートを含む、分子コンジュゲートの効率的な同定及び定量化のための、改善された、例えば、より正確で、信頼性が高く、高感度であるなどの材料及び方法を提供する。本発明は、例えば、そのような改善された特性評価のための材料及び方法を教示する。
【0006】
本出願は、とりわけ、タンデム質量タグ(Tandem Mass Tag、TMT)を使用することによってポリペプチドに共有結合した薬物を含むコンジュゲートを分析する方法に関する。
【0007】
一態様では、本出願は、ポリペプチドに共有結合した薬物を含むコンジュゲートを分析する方法であって、
(i)コンジュゲートを含む試料を第1のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、コンジュゲートのポリペプチドを第1のTMTで標識することと、
(ii)第1のTMTで標識されたコンジュゲートのポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、第1のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第1の混合物を生成することと、
(iii)第1の混合物を第2のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチド含む、第2の混合物を得ることであって、第1のTMT及び第2のTMTが、同じレポーターイオン質量を有しない、得ることと、
(iv)第2の混合物を液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)に供して、LCの溶出物を生成することと、
(v)溶出物をタンデム質量分析法に供して、第1のTMT及び第2のTMTの少なくとも1つのレポーターイオンを含むペプチドの質量スペクトルを得ることと、
(vi)少なくとも1つのレポーターイオンに関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出し、それによって試料中のコンジュゲートを分析することと、を含む、方法に関する。
【0008】
別の態様では、ポリペプチドに共有結合した薬物のコンジュゲートを含む試料を、薬物に共有結合していないポリペプチドを含む対照試料と共に分析する。本方法は、
(i)コンジュゲートを含む試料を第1のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、コンジュゲートのポリペプチドを第1のTMTで標識することと、
(ii)第1のTMTで標識されたコンジュゲートのポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、第1のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第1の混合物を生成することと、
(iii)第1の混合物を第2のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチド含む、第2の混合物を得ることと、
(iv)薬物に共有結合していないポリペプチドを含む対照試料を第3のTMTと接触させて、薬物に共有結合していないポリペプチドを第3のTMTで標識することと、
(v)第3のTMTで標識された薬物に共有結合していないポリペプチドを消化して、1つ又は2つ以上の非標識ペプチドと、第3のTMTで標識された1つ又は2つ以上のペプチドと、を含む、第3の混合物を生成することと、
(vi)第3の混合物を第4のタンデム質量タグ(TMT)と接触させて、それによって、第3のTMT及び第4のTMTのうちの少なくとも1つで標識された1つ又は2つ以上のペプチド、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドを含む、第4の混合物を得ることと、
(vii)第2の混合物を第4の混合物と組み合わせ、組み合わせを液体クロマトグラフィー法(LC)に供して、LCの溶出物を生成することと、
(viii)溶出物をタンデム質量分析法に供して、第1のTMT、第2のTMT、第3のTMT、及び第4のTMTのうちの少なくとも1つのレポーターイオンを含むペプチドの質量スペクトルを得ることと、
(ix)少なくとも1つのレポーターイオンと関連付けられた質量電荷比を検出して、それによって、試料中のコンジュゲートを分析することと、を含み、
第1のTMT、第2のTMT、第3のTMT、及び第4のTMTのうちのいずれも同じレポーターイオン質量を有さず、第1のTMT及び第3のTMTが、TMTの第1の等圧セットから選択され、第2のTMT及び第4のTMTが、TMTの第2の等圧セットから選択され、TMTの第1の等圧セットが、薬物で共有結合を形成することができる非共役アミノ酸残基に反応性であり、TMTの第2の等圧セットが、ペプチドのN末端でリジン又は遊離アミンに反応性である。
【0009】
一態様では、本出願の方法は、コンジュゲート中の共役部位の占有率を決定するために使用される。例えば、コンジュゲートの個々の部位占有率は、1)本出願の方法を使用して、第1のTMT及び第2のTMTの両方で標識されたペプチド並びに第3のTMT及び第4のTMTの両方で標識されたペプチドに対する質量スペクトルを得ることであって、質量スペクトルが、第1のTMTのレポーターイオンと、第3のTMTのレポーターイオンと、第2のTMTのレポーターイオンと、第4のTMTのレポーターイオンと、を含む、得ることと、2)質量スペクトルにおいてレポーターイオンと関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出することと、3)質量スペクトルにおける第1のTMTのレポーターイオンの強度及び第3のTMTのレポーターイオンの強度、又は第2のTMTのレポーターイオンの強度及び第4のTMTのレポーターイオンの強度に基づいて、コンジュゲート中の共役部位の占有率を決定することであって、好ましくは、占有率が、以下の式:
(第3のTMTのレポーターイオンの強度-第1のTMTのレポーターイオンの強度)/第3のTMTのレポーターイオンの強度、又は
(第4のTMTのレポーターイオンの強度-第2のTMTのレポーターイオンの強度)/第4のTMTのレポーターイオンの強度、によって決定される、決定することと、によって決定され得る。
【0010】
特定の実施形態では、コンジュゲート中の共役部位の占有率が、様々な時点で決定され、追加のTMTが、異なる時点でポリペプチドを標識するために使用される。
【0011】
別の実施形態では、本出願の方法は、対照試料でコンジュゲート試料を正規化するために使用される。例えば、コンジュゲート試料は、1)請求項2に記載の方法を使用して、第2のTMTのみで標識されたペプチド及び第4のTMTのみで標識されたペプチドに対する質量スペクトルを得ることであって、質量スペクトルが、第2のTMTのレポーターイオン及び第4のTMTのレポーターイオンを含むが、第1のTMT又は第3のTMTのレポーターイオンを含まない、得ることと、2)レポーターイオンに関連付けられた質量電荷比(m/z)を検出することと、3)第2のTMTのレポーターイオンの強度の第4のTMTのレポーターイオンの強度に対する比によって、試料を対照試料で正規化することと、を含む方法によって、対照試料で正規化される。
【0012】
更に別の実施形態では、本出願の方法は、薬物共役部位、例えば、薬物が、コンジュゲート中で、ポリペプチドに共有結合する部位を局在化するために使用される。例えば、薬物共役部位は、1)本発明の方法を使用して、第2のTMTのみで標識されたペプチドの質量スペクトルを得ることであって、質量スペクトルが、第2のTMTのレポーターイオンのみを含むが、第1、第3又は第4のTMTのレポーターイオンは含まない、得ることと、2)第2のTMTのレポーターイオンのみで標識されたペプチドに対する第2のタンデム質量分析法の分析をトリガーして、それによって薬物共役部位を局在化することと、を含む方法によって、局在化され得る。特定の実施形態では、第2の混合物の消化後に得られる第2のTMTのレポーターイオンのみで標識されたペプチドは、薬物に完全に結合しており、例えば、薬物に共役することができるペプチド上の全てのアミノ酸残基は、薬物に共有結合している。ペプチドは、薬物と共有結合を形成することができる1つのアミノ酸残基(例えば、Cys又はLys)のみを含有する場合、1つの薬物のみに共役され得る。ペプチドは、薬物と共有結合を形成することができる2つ以上のアミノ酸残基(例えば、Cys又はLys)を含有する場合、2つ以上の薬物に共役され得る。
【0013】
特定の実施形態では、コンジュゲート中に薬物共役部位を局在化する方法は、1)本出願の方法を使用して、第1及び第2のTMTのみで標識されたペプチドの質量スペクトルを得ることであって、第1及び第2のTMTのレポーターイオンのみを含むが、第3又は第4のTMTのレポーターイオンを含まない、得ることと、2)第1及び第2のTMTのみで標識されたペプチドに対する第2のタンデム質量分析法の分析をトリガーして、それによって薬物共役部位を局在化することと、を含む。特定の実施形態では、第2の混合物の消化後に得られる第1及び第2のTMTでのみ標識されたペプチドは、薬物に完全に共役されておらず、例えば、薬物に共役することができる、全部ではないが、いくつかのアミノ酸残基のみが薬物に共有結合している。
【0014】
本出願の一実施形態では、コンジュゲートは、薬物抗体コンジュゲート(ADC)であり、より好ましくは、ADCは、モノクローナル抗体の1つ又は2つ以上のシステイン(cysteine、Cys)又はリジン(lysine、Lys)残基に共有結合した薬物を含む。
【0015】
当業者には理解されるように、様々な好適なタンデム質量分析法を、本開示を勘案して、本出願の方法で使用することができる。例えば、Friese et al.,MAbs 10,335-345(2018)を、タンデム質量分析法のレビューのために参照されたく、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、高エネルギー衝突誘起解離タンデム質量分析法(high energy collision-induced dissociation tandem mass spectrometry、HCD-MS2)は、第1のTMT、第2のTMT、第3のTMT、及び第4のTMTのうちの少なくとも1つのレポーターイオンを含むペプチドの質量スペクトルを得るために使用される。他の実施形態では、1つ又は2つ以上のTMTレポーターイオンがHCD-MS2分析からのペプチドから検出された後、例えば、ペプチド中の薬物共役部位を局在化するために、ペプチドの追加の特性評価のために追加の解離分析がトリガーされる。追加の解離は、第2のタンデム質量分析法の分析によって行われ得る。そのような方法に有用な第2のタンデム質量分析法の例としては、電子移動解離タンデム質量分析法(electron transfer dissociation tandem mass spectrometry、ETD-MS2)又は電子捕獲解離タンデム質量分析法(electron-capture dissociation tandem mass spectrometry、ECD-MS2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
他の実施形態では、より高いトリガー強度閾値及び/又は狭い単離ウィンドウが、第2のタンデム質量分析法のトリガーを改善するために使用される。特定の実施形態では、トライブリッド技術を用いた同期前駆体選択をタンデム質量分析法に適用して、検出及び定量化の特異性及び精度を改善する。
【0017】
本出願における本開示の観点から、任意の好適なTMTを使用することができる。例えば、TMTのレビューのために、Bachor et al.,Molecules2019,24,701を参照されたく、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本出願のいくつかの実施形態では、TMTの第1の等圧セットは、還元システインに反応性の2つ又は3つ以上のTMTを含む。好ましくは、TMTの第1の等圧セットは、還元システインに反応性の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のTMTを含む。いくつかの実施形態では、第1の等圧セットは、スルフヒドリル(-SH)基の共有結合性の不可逆的標識についてヨードアセチル活性化された2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上の等圧性異性体(例えば、同じ質量及び構造)を含む。いくつかの実施形態では、第1の等圧セットは、ThermoFisher Scientific(カタログ番号90101)から入手可能な、IodoTMTsixplex等圧標識試薬セットの2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つの等圧異性体を含む。
【0018】
特定の実施形態では、第1のTMT及び第3のTMTの各々は、質量レポーター、質量ノーマライザー、及び互いに共有結合しているシステイン反応性基を含む。したがって、第1及び第3のTMTの各々は、コンジュゲートのポリペプチド中の低減されたシステインを標識し、ポリペプチドの1つ又は2つ以上のシステイン残基に共有結合した薬物を含有するコンジュゲートの分析に使用され得る。好ましくは、第1及び第3のTMTの各々は、IodoTMTsixplexの等圧セットから選択される。
【0019】
本出願のいくつかの実施形態では、TMTの第2の等圧セットは、リジン又はペプチドのN末端の一級アミンと反応性の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のTMTを含む。本出願の一実施形態では、TMTの第2の等圧セットは、アミン反応性NHS-エステル基、スペーサーアーム及び質量レポーターを有する2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、又はそれ以上の等圧化合物を含む。例えば、第2の等圧セットは、TMT10plex(商標)(ThermoFisher、カタログ番号90110)の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上の等圧異性体、TMTsixplex(商標)(ThermoFisher、カタログ番号90061)、又はTMTpro(商標)16plex(ThermoFisher、カタログ番号A44520)標識試薬セットを含み得る。
【0020】
特定の実施形態では、第2のTMT及び第4のTMTの各々は、質量レポーター、質量ノーマライザー、及び互いに共有結合しているアミン反応性基を含む。したがって、第2及び第4のTMTの各々は、リジン又はコンジュゲートのポリペプチドのN末端を標識し、ポリペプチドの1つ又は2つ以上のシステイン残基に共有結合した薬物を含有するコンジュゲートの分析のために、第1及び第3のTMTと共に使用され得る。好ましくは、第2のTMT及び第4のTMTの各々は、TMT6plex、TMT10plex、又はTMT pro16 plexの等圧セットから選択される。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1の等圧セット及びTMTの第2の等圧セットは、各々独立して、リジン又はペプチドのN末端の一級アミンと反応性の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のTMTを含む。特定の実施形態では、第1、第2、第3、及び第4のTMTの各々は、質量レポーター、質量ノーマライザー、及び互いに共有結合しているアミン反応性基を含む。TMTは、ポリペプチドの1つ又は2つ以上のリジン残基に共有結合した薬物を含むコンジュゲートの分析に使用され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のコンジュゲートを含む試料のマルチプレックスを一緒に分析する。特定の実施形態では、コンジュゲート中の薬物共役部位は、(2n+2)レポーターイオンを含む質量分析バーコードにより特徴付けられ、コンジュゲートは、n+1レポーターイオンを含む質量分析バーコードにより正規化され、nは、この方法によって分析される試料の数である。
【0023】
本出願の他の態様は、請求項1~23に記載の方法のいずれかを実施するためのシステムに関する。
【0024】
本出願の別の態様は、第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識されたペプチドと、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドとの混合物を含む、組成物であって、第1のTMT及び第2のTMTが、同じレポーターイオン質量を有さず、ペプチドの混合物が、薬物に共役しており、かつ第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された、少なくとも1つのペプチドを含む、組成物に関する。
【0025】
本発明他の態様、特徴及び利点は、当業者によって理解されるように、例示的かつ非限定的である、発明を実施するための形態及びその好ましい実施形態及び添付の特許請求の範囲を含む、以下の開示から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
上記の概要、及び本出願の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより良く理解されるであろう。しかしながら、本出願は、図面に示される実施形態そのものに限定されないことを理解するべきである。
【0027】
本特許又は出願書類は、少なくとも1つのカラーで作成した図面を含む。カラー図面を有する本特許又は特許出願公開の複製は、申請すれば、必要な手数料を支払うことにより、特許庁によって提供されるであろう。
【0028】
特に断らない限り、本明細書の全ての図面において、IdoTMTのレポーターイオンは
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【
図1A】以下の、ポリペプチドでシステインを標識するのに有用な例示的なタンデム質量タグ(TMT)の構造を示す:
図1A-IodoTMTsixplexセット、
図1B-TMTsixplexセット、
図1C-TMT10plexセット、
図1D-TMTpro 16 plex(TMTの化学構造及び13C及び15N安定同位体位置(
*)を含む)。
【
図1B】以下の、ポリペプチドでシステインを標識するのに有用な例示的なタンデム質量タグ(TMT)の構造を示す:
図1A-IodoTMTsixplexセット、
図1B-TMTsixplexセット、
図1C-TMT10plexセット、
図1D-TMTpro 16 plex(TMTの化学構造及び13C及び15N安定同位体位置(
*)を含む)。
【
図1C】以下の、ポリペプチドでシステインを標識するのに有用な例示的なタンデム質量タグ(TMT)の構造を示す:
図1A-IodoTMTsixplexセット、
図1B-TMTsixplexセット、
図1C-TMT10plexセット、
図1D-TMTpro 16 plex(TMTの化学構造及び13C及び15N安定同位体位置(
*)を含む)。
【
図1D】以下の、ポリペプチドでシステインを標識するのに有用な例示的なタンデム質量タグ(TMT)の構造を示す:
図1A-IodoTMTsixplexセット、
図1B-TMTsixplexセット、
図1C-TMT10plexセット、
図1D-TMTpro 16 plex(TMTの化学構造及び13C及び15N安定同位体位置(
*)を含む)。
【
図2】例えば、定量化する(例えば、薬物の占有率を)、正規化する(例えば、コンジュゲートに対して模擬を正規化する)、及びタンデム質量分析法(MS
2)の分析から検出された所定のTMTレポーター(パターン)の強度及び組み合わせに基づいて試料を検出する(例えば、薬物共役部位を局在化する)ために、試料特徴付けのための本明細書の実施形態による特有のバーコードの作成を示す。
【
図3A】定量化、正規化、及び局所化することができる分析スキームを使用して、薬物(Drug、D)、例えば、薬物で共役したその抗体又は断片、及び模擬、例えば、薬物で共役していないその抗体又は断片、とのコンジュゲートの連続二重TMT標識化による三重プレイを介してMSバーコードを作成する、本出願の実施形態を示す。
【
図3B】本出願の実施形態による、トリプシン消化によって得られたペプチドに共役した1つの薬物(D)との薬物コンジュゲートを定量化するための二重TMTを使用するプロセスを示す。
【
図3C】本出願の一実施形態による、トリプシン消化によって得られたペプチドに共役した最大2つの薬物(D1及びD2)との薬物コンジュゲートを定量化するための二重TMTを使用するプロセスを示す。
【
図3D】本出願の実施形態による、トリプシン消化によって得られたペプチドに共役した最大3つの薬物(D1、D2及びD3)との薬物コンジュゲートを定量化するための二重TMTを使用することを示す。
【
図4】本発明の方法により分析されるいくつかの例示的な実験ADCシステムを示し、これは、ヨードアセトアミド(iodoacetamide、IAA)及びビオチンPEOヨードアセトアミドとの共役によって形成されたビオチン-PEOアセトアミドコンジュゲートと、NIST mAb又はN-(7-ジメチルアミノ-4-メチル-3-クマリニル)マレイド(DACM-3)と共役した1~3つのシステインを含有するHSAペプチドと、Sigma製のADC標準MSQC8(デンシルフルオロフォアLC-SMCC架橋剤)と、を含む。
【
図5A】各々、HCD-MS
2を実行することによって、NIST mAb上の部位特異的ADCを定量化するための二重TMTを使用した本出願の実施形態を示しているが、ETD-MS
2などの他のMS
2はまた、例えば、iodoTMT(io、Cys残基又はCを標識する)又はTMT(tm、Lys残基又はN末端アミンを標識する)レポーターイオン強度を使用して特定の残基に対する薬物の占有率を定量化し、かつ占有率%を計算する式を適用し得、ADCがNIST mAb-ビオチン-PEOアセトアミドである。
【
図5B】各々、HCD-MS
2を実行することによって、NIST mAb上の部位特異的ADCを定量化するための二重TMTを使用した本出願の実施形態を示しているが、ETD-MS
2などの他のMS
2はまた、例えば、iodoTMT(io、Cys残基又はCを標識する)又はTMT(tm、Lys残基又はN末端アミンを標識する)レポーターイオン強度を使用して特定の残基に対する薬物の占有率を定量化し、かつ占有率%を計算する式を適用し得、ADCがNIST mAb-ビオチン-PEOアセトアミドである。
【
図5C】HCD-MS
2によって配列決定されたペプチドの対応するMS
2スペクトル(全ての骨格生成物イオンを有する)を示す。
【
図5D】HCD-MS
2によって配列決定されたペプチドの対応するMS
2スペクトル(全ての骨格生成物イオンを有する)を示す。
【
図6A】非システインペプチドとの反応条件にわたってHCD-MS
2を実施することによってNIST mAbの混合比を正規化するためのTMTを使用した本出願の実施形態を示しているが、他のETD-MS
2などの他のMS
2も使用され、試料(試料)を含有するADC(NIST mAb-ビオチン-PEOアセトアミド)と非コンジュゲート試料(模擬)との間の混合又は消化バイアスを補正するために式に示される正規化比を使用することもできる。
【
図6B】非システインペプチドとの反応条件にわたってHCD-MS
2を実施することによってNIST mAbの混合比を正規化するためのTMTを使用した本出願の実施形態を示しているが、他のETD-MS
2などの他のMS
2も使用され、試料(試料)を含有するADC(NIST mAb-ビオチン-PEOアセトアミド)と非コンジュゲート試料(模擬)との間の混合又は消化バイアスを補正するために式に示される正規化比を使用することもできる。
【
図7】薬物からなるペプチドの骨格断片化と、本出願の実施形態による方法並びにETD-MS
2を使用した分析を使用して、ビオチンPEOアセトアミド分子の断片化に対応する断片も、含むHCD-MS
2生成物イオンスペクトルを示す:断片化により生成される複雑なスペクトルを起こしやすい小分子コンジュゲート、及び薬物由来の断片質量は、各薬物に特異的であることに留意されたい。
【
図8A】NIST三重プレイワークフローに対するTMT-130レポータートリガーを示す。
【
図8B】本出願の実施形態による方法及び観察された総イオンクロマトグラム(total ion chromatogram、TIC)を使用して、ETD-MS
2をトリガーして共役薬物を局在化するためにTMT-130シグネチャイオン(バーコード)を使用することを示す。
【
図9A】本出願の実施形態による方法を使用して、以下のTMT-130の質量トリガーを介したビオチンPEOアセトアミドの局在化を示す:HCD-MS
2からのTMT-130は、一意のトリガーであり、ADCのタイプ及び薬物の断片化なしでETD-MS
2により局在化された薬物に依存しない:D=ビオチン-PEOアセトアミド。
【
図9B】本出願の実施形態による方法を使用して、以下のTMT-130の質量トリガーを介したビオチンPEOアセトアミドの局在化を示す:HCD-MS
2からのTMT-130は、一意のトリガーであり、ADCのタイプ及び薬物の断片化なしでETD-MS
2により局在化された薬物に依存しない:D=ビオチン-PEOアセトアミド。
【
図9C】Cys-23で共役したビオチンPEOアセトアミドに対応するトリガー質量検出を示し、TMT130はビオチンPEOアセトアミドによって生成されたインモニウムイオンと比べて豊富ではない。
【
図9D】Cys-23で共役したビオチンPEOアセトアミドに対応するトリガー質量検出を示し、TMT130はビオチンPEOアセトアミドによって生成されたインモニウムイオンと比べて豊富ではない。
【
図10A】本出願の実施形態による以下のトリガーTMT-130の特異性を改善する方法を示す:ペプチドの共単離及び共断片化は、TMT-130の特異性の喪失をもたらし、より高いトリガー強度閾値又は狭い単離ウィンドウは、改善された質量トリガーをもたらした。
【
図10B】本出願の実施形態による以下のトリガーTMT-130の特異性を改善する方法を示す:ペプチドの共単離及び共断片化は、TMT-130の特異性の喪失をもたらし、より高いトリガー強度閾値又は狭い単離ウィンドウは、改善された質量トリガーをもたらした。
【
図11】試料調製ステーション(Sample Prep Station、SPS-3)がどのように本出願の実施形態による等圧標識実験に使用されるかを示し、前駆体イオンがイオンルーティング多重極(Ion Routing Multipole、IRM)からイオントラップ(Ion trap、IT)に移送され、同期前駆体選択(synchronous precursor selection、SPS)がITで行われる。
【
図12A】本出願の実施形態による同期前駆体選択を使用したTMT定量化の改善された特異性及び精度を示す。
図12Aは、同期前駆体イオン選択(上部5断片)のためのMS2 TMTレポーターを示す。
【
図12B】本出願の実施形態による同期前駆体選択を使用したTMT定量化の改善された特異性及び精度を示す。
図12Bは、干渉の同時ゾル化時に、SPS-MS3が定量化感度及び精度を改善することを示す。
【
図12C】本出願の実施形態による同期前駆体選択を使用したTMT定量化の改善された特異性及び精度を示す。
図12Cは、レポーター定量化を示し、ADCは、ダンシルフルオロフォアに共役したSigmaMAb ADC模倣物(MSQC8)-ヒトユニバーサルmAb標準であり、模擬は、薬物に共役していないヒトユニバーサルmAb標準(MSQC4、IgG1 mAb)Sigma mAbである。
【
図13A】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図13B】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図13C】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図13D】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図13E】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図13F】部位特異的共役占有率に対するMSベースのバーコードを含む、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8(mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)上の部位特異的ADC(ダンシルフルオロフォア)を定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
【
図14A】本出願の一実施形態による方法を使用するMSQC8部位全体ADC定量化は、以下の既知の方法:MSQC8軽鎖共役の三重プレイ量に基づくCys-218=60%と相関し、軽鎖SLIM-IMSの1:2のDAR0/DAR1比と相関し、かつCys-266(最大)=60%及びCys-372=15%での占有率が推定された一方で、他の全てのシステインは0%の共役を示したことを示す。
【
図14B】本出願の一実施形態による方法を使用するMSQC8部位全体ADC定量化は、以下の既知の方法:MSQC8軽鎖共役の三重プレイ量に基づくCys-218=60%と相関し、軽鎖SLIM-IMSの1:2のDAR0/DAR1比と相関し、かつCys-266(最大)=60%及びCys-372=15%での占有率が推定された一方で、他の全てのシステインは0%の共役を示したことを示す。
【
図14C】本出願の一実施形態による方法を使用するMSQC8部位全体ADC定量化は、以下の既知の方法:MSQC8軽鎖共役の三重プレイ量に基づくCys-218=60%と相関し、軽鎖SLIM-IMSの1:2のDAR0/DAR1比と相関し、かつCys-266(最大)=60%及びCys-372=15%での占有率が推定された一方で、他の全てのシステインは0%の共役を示したことを示す。
【
図15】本出願の実施形態による方法を使用したMSQC8におけるダンシルフルオロフォアの同定を示し、これは、複雑なスペクトルを生成する断片化を起こしやすい小分子コンジュゲート及び薬物由来の断片質量が各薬物に特異的であることを示した。
【
図16A】本出願の実施形態による方法を使用した反応時間経過をプロファイリングするためのTMTを使用することを示す。
【
図16B】本出願の実施形態による方法を使用した反応時間経過をプロファイリングするためのTMTを使用することを示す。
【
図16C】本出願の実施形態による多重方式で複数の薬物(D1、D2、D3、D4、及びD5)の反応を監視するために適用される三重プレイワークフローを示す。
【
図16D】各薬物分子に特異的な単一のTMTレポーターイオンを介した質量トリガーを示す。
【
図17A】TMT分析からの結果が高占有率での蛍光定量化からのそれと相関していることを示す。
【
図17B】TMT分析からの結果が高占有率での蛍光定量化からのそれと相関していることを示す。
【
図18A】本出願の一実施形態による二重TMTを使用した最大4つのADC試料の三重プレイ分析のためにTMTが様々な組み合わせでどのように使用されるかについての多重化スキームを記載する。
【
図18B】本出願の一実施形態による4つの異なる部位特異的ADC占有率を有する4つのADC試料の多重分析(TMT10plex試薬のTMTを使用した)を示す。
【
図19A】例えば、単一の実行における4つのADC試料の二重TMT定量化である、三重プレイを達成した4つのADCを分析する、高スループットで分析するための本発明の方法を使用した結果を示す。
【
図19B】例えば、単一の実行における4つのADC試料の二重TMT定量化である、三重プレイを達成した4つのADCを分析する、高スループットで分析するための本発明の方法を使用した結果を示す。
【
図19C】例えば、単一の実行における4つのADC試料の二重TMT定量化である、三重プレイを達成した4つのADCを分析する、高スループットで分析するための本発明の方法を使用した結果を示す。
【
図20A】ここで、MS2-HCD時の5つのTMT
10レポーターイオン(1つの模擬物(B)及び4つのコンジュゲート試料(1)~(4))のバーコードを有する、非システインペプチド配列の使用を示し、多重化実験における試料濃度を補正する。i番目の試料に対する正規化係数は式2によって与えられ、各ADC試料に対する補正された占有率は式3によって得ることができる。
【
図20B】単一の取得において4つの試料について得られた正規化された占有率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
特に断らない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。本明細書に引用する全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、参照によってあたかもその全体が本明細書に記載されているものと同様にして組み込まれる。
【0035】
本明細書に含まれる文書、操作、材料、装置、物品などの考察は、本発明の背景を与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0036】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0037】
特に断らない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、数値は、典型的には、記載される値の±10%を含む。例えば、約50ppm以下の量は、45ppm以下~55ppm以下を含む。本明細書で使用するとき、数値範囲の使用は、文脈上そうでない旨が明確に示されない限り、その範囲内の整数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含む。
【0038】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈上必要としない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、指定の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。本明細書で使用するとき、用語「含む」は、用語「含有する」若しくは「含む(including)」に置き換えることができるか、又は、本明細書で使用するとき、用語「有する」に置き換えることができる場合がある。
【0039】
本明細書で使用するとき、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書で使用するとき、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程は除外しない。本出願の態様又は実施形態に関連して本明細書で使用するとき、本開示の範囲を変化させるために、上述の用語「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び「有する」はいずれも、用語「からなる」又は「から本質的になる」に置き換えることができる。
【0040】
本明細書で使用するとき、複数の列挙された要素間の接続的な用語「及び/又は」は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしに第1の要素が適用可能であることを指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細書で使用するとき、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。選択肢のうちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。
【0041】
本明細書で使用するとき、「MS/MS」又は「MS2」又は「MS2」はタンデム質量分析法を指す。タンデム質量分析法は、2つ又は3つ以上の質量分析器が、追加の反応ステップを使用して一緒に結合されて試料を分析する能力を高める機器分析における技術である。反応ステップが空間内で分離される(空間内のタンデム)、及び/又は反応ステップが時間的に分離される(時間的なタンデム)質量分析のタンデム使用を行うことができる。タンデム質量分析法の一般的な使用は、タンパク質、ペプチド、有機及び無機分子、脂質、代謝産物、及びオリゴヌクレオチドなどの生体分子の分析である。
【0042】
本明細書で使用するとき、「レポーターイオン」又は「診断イオン」は、ETD質量スペクトルで観察されるN末端タグ又は標識を含む標識ペプチドの特徴的な生成物イオンを指す。通常、それは、質量スペクトルにおける最も優勢な生成物イオンであり、それは、標識されたペプチドを更に配列するためにその後のMS/MSイベントをトリガーするために使用される。
【0043】
本明細書で使用するとき、「トライブリッド技術」は、複数のタイプの質量分析器を有するハイブリッド質量分析計を使用する技術を指す。これにより、TMT試料多重化に大きな柔軟性を有するタンデム質量分析法実験の性能が可能になる。トライブリッド技術を、複雑なマトリックス中の低存在量ペプチド、インタクトなタンパク質の位置及び翻訳後アイソフォームの決定、等圧性代謝産物の分解能、並びに化学的架橋を使用したタンパク質構造の特徴付けを含む、困難な試料の特性評価に使用することができる。
【0044】
本明細書で使用するとき、「orbitrap」又は「OT」は、2つの外部電極及び中央電極からなるイオントラップ質量分析器を指す。この設定により、orbitrapは分析器及び検出器の両方として機能することができる。Orbitrapに入るイオンは、中央電極を中心として、2つの外部電極の間に捕捉され、かつ振動する。異なるイオンは異なる周波数で振動し、その結果、それらの分離が生じる。外側電極上のイオンによって誘導される振動周波数が測定され、イオンの質量スペクトルは、画像電流検出を使用して取得される。
【0045】
本明細書で使用するとき、「等圧」は、同じ公称分子量又は式量を有することを指す。好ましくは、本出願の発明に有用な等圧TMTは、同じ質量及び構造を有し、それらはまた、同位体異性体と呼ばれる。
【0046】
本明細書で使用するとき、「イオン」は、1つ又は2つ以上の電子の損失又は利得により正味電荷を有する分子を指す。イオンの例は、衝突誘起解離(collision-induced dissociation、CID)によるタンパク質の骨格に沿った開裂アミド結合の結果である、a、b、又はy型の生成物イオンであり得る。
【0047】
本明細書で使用するとき、「配列イオン」は、所与のペプチド結合で分割される特定のペプチドの生成物に対応する1つのイオン(又は複数のイオン)を指す。
【0048】
本明細書で使用するとき、「インモニウムイオン」は、-型又はy型開裂の組み合わせによって形成される単一の側鎖を有するペプチドの内部断片に対応する1つのイオン(又は複数のイオン)を指す。
【0049】
本明細書で使用するとき、「レポーターイオン」は、当該技術分野において既知の方法(例えば、MS2)によって、等圧タグ付きペプチドから開裂されるイオンを指す。
【0050】
本明細書で使用するとき、「同位体」は、少なくとも1つの原子が異なる数の中性子を有するという点で、その親分子とは異なる分子を指す。
【0051】
本明細書で使用するとき、「多極」は、真空システムを通してイオンを輸送するために金属ロッドから構成されるイオンガイドを指す。
【0052】
本明細書で使用するとき、「コンジュゲート」は、1つ又は2つ以上の異種分子に共有結合したタンパク質又はペプチドを指す。異種分子に共有結合することができるタンパク質又はペプチドの例としては、治療用ペプチド又はタンパク質、抗体又はその断片が挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質又はペプチドに共有結合することができる異種分子の例としては、1つ又は2つ以上の小分子化合物、標識などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書で使用するとき、「ペプチド」は、通常、20個の共通の天然に存在するアミノ酸のいくつかの組み合わせからなるが、また、非天然アミノ酸モノマー残基を含有するか、又は完全に構成され得るアミノ酸系ポリマーを指す。それは、直鎖アミノ酸ポリマー構成を含み得、又は環状ペプチド、若しくは分岐1つの、又は3つ全ての構成の任意の組み合わせを含み得る。ペプチドはまた、天然に存在する修飾(例えば、リン酸化若しくはグリコシル化)又は天然に存在しない修飾(例えば、カルバミドメチル化)の任意の組み合わせを有し得る。
【0054】
「抗体」は、(a)2つの重鎖及び2つの軽鎖を含み、抗原を認識する免疫グロブリン分子と、(b)ポリクローナル又はモノクローナル免疫グロブリン分子と、(c)その一価又は二価の断片と、を含むものとする。免疫グロブリン分子は、IgA、分泌IgA、IgG、IgE及びIgMを含むがこれらに限定されない、一般的に既知のクラスのいずれかに由来し得る。IgGサブクラスは、当業者に周知であり、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むが、これらに限定されない。抗体は、天然に存在する、及び非天然に存在する両方であり得る。更に、抗体は、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、完全合成抗体、単鎖抗体、及びそれらの断片などの多重特異性抗体を含む。抗体は、ヒト又は非ヒトであり得る。抗体断片には、Fab断片、Fv断片、及び他の抗原結合断片が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で使用するとき、「タンデム質量タグ」又は「TMT」は、分子の質量分析法(mass spectrometry、MS)ベースの定量化及び同定に使用することができる化学標識を指す。遊離チオール又は一級アミン又はグリカンを有する任意の分子をタグ付けすることができる。例えば、分子は、タンパク質又はペプチドであり得る。TMTタグは、典型的には、少なくとも3つの領域、例えば、質量レポーター領域、質量正規化又はバランス領域、及び反応性基を含有する。レポーター質量をインクリメントして、固有の質量を作成する一方で、試薬の総質量をオフセットするようにバランス質量を使用して、別個のレポーター質量をまだ有する同じ全体的な質量を有する一連の試薬を作製することができる。反応性基は、アミン、チオール、オキソニウム、又は他の官能基の付加反応を促進する。それは、例えば、遊離チオール又は還元システイン反応性、一級アミン若しくはリジン反応性、又はアミノキシ反応性であり得る。任意選択的に、TMTはまた、1つ又は2つ以上の開裂可能なリンカー領域を含有することができる。
【0056】
TMTの等圧セットは、タンデム質量分析法を使用して、異なる試料中のタンパク質の同時同定及び多重定量化を可能にする。n個のTMTの等圧セットは、n-1個の同位体置換を有する1つのTMT及び複数のTMTを含有し得る。TMTの等圧セット内の全てのタグの化学構造は、同一であるが、各々が、
質量レポーター及び質量正規化領域が各タグにおいて異なる分子量を有するように、様々な位置で置換された同位体を含有する一方、TMTは、クロマトグラフィー又は電気泳動分離中に、及び単一のMSモードでは、異なるタグで標識された分子が区別不能であるように、同じ総分子量(等方性)及び構造を有する。例えば、各等圧試薬は、質量レポーター領域において異なる数の重同位体を含有することができ、これにより、試料同定及び相対定量化のためにタンデムMS/MS中に固有のレポーター質量がもたらされる。MS/MSモードでの断片化時に、配列情報は、ペプチド骨格の断片化から得られ、定量化データは、タグの断片化から同時に得られ、質量レポーターイオンを生じさせる。等圧セット内の各TMTは、MS/MSスペクトルに固有のレポーター質量を生成する。
【0057】
TMT標識、例えば、市販のTMT標識は、試料を多重化することができ(例えば、6-plex、10-plex、又はそれ以上)、それぞれシステイン又はアミンに対して反応性である。重同位体の位置をレポーター基とスペーサーとの間でシフトすることにより、各タグの総質量及び化学構造を同じ(等圧)に保持することができる。例えば、システイン反応性IodoTMTsixplex試薬及びアミン反応性TMTsixplex試薬は各々、6つの同一のレポーターイオン質量を有する。しかしながら、各レポーターイオンは、質量電荷比(m/z)が固有であり、又はレポーター質量は、レポーターイオン質量とも呼ばれる。例えば、等圧性TMT6セット内の6つのTMTのノミナルレポーター質量の範囲は、126~131Da(ダルトン)である。
【0058】
「CysTMT」、「IodoTMT」、「IodoTMT6」又は「IodoTMT
6」とも呼ばれる「IodoTMTsixplex」の等圧標識試薬セットは、スルフヒドリル(-SH)基の共有結合性の不可逆的な標識化についてヨードアセチル活性化される6つのTMTの等圧セットを指し、
図1Aに示される化学構造を有する。TMTは、スペーサーアームによって反応性基に接続された13C及び/又は15N同位体(
図1A~
図1Dに
*として示される)を含有するシグネチャレポーター基を含有する。IodoTMTsixplex等圧標識試薬セットは、ThermoFisher Scientific(カタログ番号90101)から市販されている。IodoTMT試薬は、ペプチド及びタンパク質中の還元システイン(Cys)と特異的に反応する。IodoTMT試薬は、質量分析法(MS)によって分化され、異なる条件で成長又は処理された培養細胞におけるS-ニトロシル化、酸化及びジスルフィド結合などのシステイン修飾の相対存在量の定量化を可能にする。
【0059】
本明細書で「TMT6」、「TMT
6」、「TMT6plex」とも呼ばれる「TMTsixplex」の等圧標識試薬セットは、一級アミン(-NH2)基の共有結合性の不可逆的な標識化についてNHS活性化される6つのTMTの等圧セットを指し、
図1Bに示される化学構造を有する。TMTsixplex等圧標識試薬セットは、ThermoFisher Scientific(カタログ番号90061)から市販されている。この試薬は、単一のMS分析で最大6つの試料の分析のために、細胞又は組織試料から調製された全てのペプチドを標識する。ThermoFisher Scientificによれば、TMT6試薬は、Proteome Discoverer(商標)1.0以上で完全にサポートされたデータ分析を用いるQ Exactive、Orbitrap Elite(商標)及びOrbitrap Fusion(商標) Tribrid(商標) Orbitrap Lumos(商標)機器などの高分解能Thermo Scientific MS/MSプラットフォームでの使用のために最適化されている。
【0060】
本明細書で「TMT10」、「TMT
10」、又は「TMT10 plex」とも呼ばれる「TMT10plex」の等圧標識試薬セットは、各々がアミン反応性NHS-エステル基、スペーサーアーム及び質量レポーターを有する10個のTMTの等圧セットを指し、
図1Cに示される化学構造を有する。アミン反応性TMT10plexは、最大10個の別個の試料を多重化することができる(10-plex)。TMT10plex等圧標識試薬セットは、ThermoFisher Scientific(カタログ番号90110)から市販されている。10-plex試薬は尚も6つの公称質量(126~131Da)を有することに留意することが重要であるが、6つのレポーター質量(127~130Da)のうちの4つは各々、6.32mDa(ミリダルトン)だけ異なる2つの固有のレポーターイオン質量を有し、C
12、N
15原子対はC
13、N
14で置換されている。高分解能質量分析法は、これらのレポーターイオン質量及びそれらの同位体のベースライン分解能の正確な相対的定量化を可能にする。この試薬セットは、細胞又は組織から調製された最大10個の異なるペプチド試料を並行して標識し、次いで分析のために組み合わせることを可能にする。各試料について、高分解能MS/MSスペクトルの低質量領域における固有のレポーター質量(すなわち、TMT10 126-131Da)を使用して、ペプチド断片化及びタンデム質量分析法中の相対タンパク質発現レベルを測定することができる。ThermoFisher Scientificによれば、TMT10試薬は、Proteome Discoverer(商標)1.4によって完全にサポートされたデータ分析を用いるQ Exactive、Orbitrap Elite(商標)及びOrbitrap Fusion(商標) Orbitrap Elite(商標) Tribrid(商標)機器などの高分解能Thermo Scientific MS/MSプラットフォームで使用するために最適化されている。
【0061】
本明細書で「TMT16」、「TMT
16」、「TMTpro」又は「TMTpro16 plex」とも呼ばれる「TMTpro 16plex」の等圧標識試薬セットは、
図1Dに示される化学構造を有する16個のアミン反応性NHSエステル活性化試薬の等圧セットを指す。16個のTMTは各々、N末端でリジン又は一級アミンと反応する基を有する。TMTpro 16 plexは、ThermoFisher Scientific(カタログ番号A44520)から市販されている。ThermoFisher Scientificによれば、TMTpro標識試薬は、Proteome Discoverer 2.3によって完全にサポートされたデータ分析を用いるOrbitrap Eclipse Tribrid及びOrbitrap Exploris 480質量分析計を含むQ Exactive及びOrbitrap Fusion Tririd機器シリーズなどの高分解能Thermo Scientific MS/MSプラットフォームでの使用に最適化された次世代のタンデム質量タグである。
【0062】
6つのレポーター(TMT-6 plex)のセット、10個のレポーター(TMT-10 plex)のセット、11個のレポーター(TMT-11 plex)のセット、及びそのようなTMTの最大16個のレポーター(TMT-16 plex)を、本発明の方法で使用することができる。本開示を考慮して、TMTの他の例も本発明において使用することができる。特に、n>16であるTMT16-plex及び将来のn-plex試薬は、二重TMT標識化で標識され得る試料の数を増加させる。TMTは、当該技術分野で既知の方法を使用して、又はThermoFisher Scientificなどの商業的供給源から入手され得る。しかしながら、2つのTMTがタンデムで使用される場合、それらは同じレポーターイオン質量を有することができない。例えば、IodoTMT及びTMT6は同じ一連のレポーター質量を有するため、IodoTMT及びTMT6の等圧セットが二重標識化に使用される場合、選択されたIodoTMT及びTMTは、デュアル標識化に使用される場合、同じレポーター質量を有しない必要がある。同様に、試料及び模擬の分析に一緒に、又は複数の試料の分析に一緒に使用されるTMTなどの、3つ以上のTMTが同じ分析で使用される場合、分析で使用されるTMTの各々は、固有のレポーター質量を有する必要があり、同じアッセイで使用されるTMTのいずれも同じレポーター質量を有することはできない。
【0063】
ADC効率、安全性、及び選択性の重要なメトリックは、薬物抗体比(drug-antibody ratio、DAR)によって決定される。クロマトグラフィーアプローチ、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography、SEC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(hydrophobic interaction chromatography、HIC)、及び逆相液体クロマトグラフィー(reversed phase liquid chromatography、RPLC)を使用して、DAR値を得、ADCを特徴付けることができる。しかしながら、これらのアプローチは、例えば、それらが通常、長い分離及びカラム再生時間のために低いスループットを示す、重大な欠点を有する。更に、特定の必要な移動相は、質量分析(MS)へのオンライン結合を防止する。天然MSベースのアプローチは、非共有結合相互作用を保持し、結果として、可能な薬物コンジュゲート種のアレイに関する情報を得ることができる。
【0064】
別のアプローチは、質量分析法(IMS-MS)と結合されたイオン移動度分光法である。IMS-MSにより、単一のアッセイにおいて構造情報及び質量情報の両方が得られる。IMS-MSとMSとの間のDAR特性評価における一致が実証されている。したがって、IMS-MSを使用して、ADCの薬物負荷分布を研究し、mAbを特徴付けることができる。
【0065】
しかしながら、薬物コンジュゲートの定量化及び同定のための従来の方法は、任意の低感度、不十分な選択性、及び/又は相対的に長い分析時間若しくは高コストの欠点を有する。例えば、天然MS、クロマトグラフィー、及びIMS-MSアプローチは、mAbの部位特異的薬物共役、並びに抗体に結合した薬物の占有率及び位置がADCの選択性又は有効性を変化させるかどうかに関する情報はほとんどを提供しない。ペプチドの完全な薬物分子による同定は、小分子及びリンカーのサイズのために困難である。
【0066】
共役ペプチド強度を未修飾ペプチド対応物及び共役ペプチドの合計強度で正規化することによって、共役ペプチドを定量化するための比を得ることができる。このアドホックな比率は、関心部位に対する試料にわたる共役レベルの相対推定を容易にする。化学量論ベースのアプローチはまた、修飾の占有率が、修飾を化学的に除去することによって、又は安定した同位体標識合成ペプチド及び安定した同位体標識細胞株を使用することによって、間接的に決定される(例えば、Wu et al.,Nature methods 8,677-683(2011)、Lim et al.,Journal of proteome research 16,4217-4226(2017)を参照されたい)。一級アミンに特異的な等方性標識化は、等圧標識化に基づく化学量論ベースのアプローチの有用性を示すために、モデルNIST mAbの占有率を研究するために利用されている(Hill et al.,Sci Rep 8,17680(2018))。それにもかかわらず、化学量論ベースの定量化方法は、例えば、複雑で困難な試料調製、薬物コンジュゲーションに基づいて組成的な違いを得るために必要な精巧な分析スキームなどのために、定量化又はADC分析のための医薬パイプラインに統合されていない(Janin-Bussat et al.,Journal of chromatography.B,Analytical technologies in the biomedical and life sciences 981-982,9-13(2015)、Le et al.,Anal Chem 84,7479-7486 (2012))。
【0067】
TMTの等圧セットを使用して、ADCなどの薬物ポリペプチドコンジュゲートのセットを標識及び研究することができる。これらのレポーターイオン質量のベースライン分解能及びそれらの同位体置換体が、高分解能質量分析法を使用して、正確な相対定量化のために可能である。本出願の一態様では、TMTは、試料の質量分析バーコードの特徴付けのための、試料、特に薬物コンジュゲートのタンデム質量分析法(MS2)の分析において使用される。
【0068】
質量スペクトルは、質量分析計を使用して取得されたヒストグラムである。分析の質量スペクトルは、通常、強度(Y)対m/z(質量電荷)比(X)プロットとしてプロットされる。TMTに対するレポーターイオンは、質量スペクトルに対するそのm/z比によって検出され得る。Y軸は、イオンの信号強度を表す。
【0069】
機器及びソフトウェアに応じて、信号強度が測定され、かつ異なるよう表され得る。例えば、カウント検出器を使用する場合、強度は、多くの場合、秒当たりのカウント(counts per second、cps)で測定される。アナログ検出電子機器を使用する場合、強度は、典型的には、ボルトで測定される。フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法及びOrbitrapにおいて、周波数ドメイン信号(y軸)は、信号正弦波の累乗(約二乗振幅)に関連する(多くの場合、累乗rmsに低減される)。いくつかのソフトウェアは、強度ではなく、レポーター面積を計算する。本明細書で使用するとき、質量スペクトルに関して、用語「強度」は、任意の方法によって測定され、任意の形式で表現されるイオンの信号強度を包含する。例えば、レポーティングイオンの「強度」は、レポーターイオンの強度、レポーター面積、又は質量分析法の分析からのイオンの信号強度の任意の他の変形を含み得る。
【0070】
本明細書で使用するとき、試料の「質量分析バーコード」、「MSバーコード」、「レポーターイオン質量バーコード」、「バーコード」又は「質量バーコード」は、レポーターイオンのセットの情報を含有し、測定値が試料に固有である、タンデム質量分析法(MS2)の分析からの試料の測定値を指す。試料についての固有のバーコードは、タンデムMS2から検出されたTMTレポーターイオンのセットの強度及び/又は存在(パターン)若しくは不在に基づき得る。1つ又は2つ以上のバーコードが、試料の三重プレイ分析に使用され得る。
【0071】
図2は、消化前のタンパク質上又は各試料の消化後にシステインを有するサロゲートペプチド上で標識化が行われ得る6つの異なる細胞溶解物を多重化するためのIodoTMTsixplex及びTMT6を示す。6つの試料の各々は、IodoTMTセット内のTMTで標識し、LC-MS
2分析と一緒に組み合わせて対象になって、6つの試料の各々について別個のバーコードを得ることができる。バーコードは、タンデム質量スペクトル上のTMTによって生成されたレポーターイオンのm/zの強度及びパターンによって規定される。特に、標識化は、質量によって区別不能である各細胞株について同じペプチドの等圧質量を生成する。しかしながら、衝突(HCD)か、又は電子ベースの解離(ETD)のいずれかによる解離後、固有のレポーターイオンが生成される。HCDは、レポーター全体が解離する一方、ETDが第2の一連の固有のレポーターイオン質量を生成する一連の荷電断片を生成することに留意することが重要である。同様に、TMT標識化はまた、あらゆるペプチドがN末端を有し、かつTMT試薬が、N末端アミン及び/又はリジンを標識し、それによって、全てのペプチドに付着することができるため、任意のペプチドの異なる試料のレポーターの6、10、11、及び16セットを比較するために、プロテオミクスに使用することができる。
【0072】
したがって、本出願は、薬物コンジュゲートの正確で高感度かつ効率的な同定及び定量化のための改善された方法を提供する。本発明の一態様では、ADCなどの薬物ポリペプチドコンジュゲートは、Cys反応性IodoTMTなどの第1のTMTと、N末端のLys又は一級アミンと反応するTMTなどの第2のTMTとで逐次標識され、標識された薬物コンジュゲートは、タンデム質量分析法の分析の対象となる。逐次標識化スキームは、薬物コンジュゲートを調べるのに役立つ。本出願の実施形態に従って、2つの平行な試料調製アームを使用して、薬物コンジュゲート(コンジュゲート試料)及び非共役模擬(参照又は対照試料)を標識することができる。両方の標識は、試料及び模擬又は参照を区別する固有のレポーターイオンシグネチャのコード化を容易にする。参照試料は参照レポーターイオンチャネルを生成し、コンジュゲート試料は試料レポーターイオンチャネルを生成する。固有のレポーターイオンは、解離後に、HCD又はETDなどの電子ベースの解離のいずれかを介して生成される。TMTに関連する特異性を実施するレポーターイオン領域のチャネルの数、それらの比及び/又は他の質量分析を使用して、薬物コンジュゲートを特徴付けるための固有のバーコードを作成することができる。例えば、バーコードは、別個のセットのレポーターイオン及び/又は質量バーコードを含み得る。
【0073】
図3Aに示すように、本出願の方法を使用して、例えば、コンジュゲート中のCys含有ペプチドのより低いm/z領域レポーターイオン強度の質量スペクトルを、薬物に共役していないポリペプチドを含有する模擬対象の質量スペクトルと比較することによって、コンジュゲート中の薬物の占有率を定量化することができる。この方法を使用して、模擬対照及びコンジュゲートを正規化することもできる。
【0074】
本出願の別の態様は、例えば、追加の解離ステップをトリガーするように1つ又は2つのTMTレポーターイオンを使用して、薬物に共有結合したペプチドを更に特徴付けることによって、ポリペプチドにおける共役部位を局在化する方法に関する。本出願の一実施形態では、1つ又は2つのTMTレポーターイオンは、HCD分析などの第1のタンデム質量分析法の分析を使用して生成される。次いで、ペプチドのETDスキャンをトリガーするようにレポーターイオンを使用して、ETDスペクトルを得る。ETDスペクトルは、ETDが薬物コンジュゲートでの残基の局在化を支援する配列イオンを提供するように、コンジュゲートを特徴付けるためのHCDスペクトルを補完する。あるいは、次いで、ECDスキャンをトリガーするようにレポーターイオンを使用して、ペプチドの更なる分析のためにETDスペクトルを得る。
【0075】
図3A~
図3Cは、mAb及びそれらの薬物コンジュゲートを標識するためにIodoTMT6及びTMT6を使用する二重TMTワークフローを示す。特に、IodoTMT6は、6つの異なる試料(例えば、細胞溶解物)を多重化するために使用される。この場合、標識化は、消化前のタンパク質において、又は各試料の消化後のシステインを有するサロゲートペプチドにおいて実施され得る。iodoTMT6及びTMT6試薬の両方は、同じ公称質量を有するレポーターを有する。等圧標識ペプチドは、質量が非重複である試薬の選択のために生成される。先ず、逐次標識がmAbのiodoTMT6で実施され、続いて、トリプシン処理及びTMT6標識を有するトリプシン消化によって得られたペプチドの標識化が実施される。コンジュゲート試料及び模擬由来のペプチドを、等モル比で混合し、LC-MSの対象とする。本明細書に記載の逐次標識化スキームは、ペプチドを調べるための新規の方法論であり、これは、本出願の実施形態による質量分析バーコードの作成を容易にする。
【0076】
特定の実施形態では、例示されるワークフローは、薬物コンジュゲート及び非共役模擬のための2つの並行試料調製アームを有する。例えば、IodoTMT6及びTMT6標識の両方が、試料及び模擬又は参照を区別する、例えば、参照試料が参照レポーターイオンチャネルを生成し、コンジュゲート試料が試料レポーターイオンチャネルを生成する、固有のレポーターイオンシグネチャのコード化を容易にする。また、レポーターイオン領域におけるチャネルの数及びそれらの比は、得ることができる占有率及び実験測定値のタイプをコードし、各実験測定値は、レポーターイオン又は質量バーコードの異なるセットを有する。
【0077】
したがって、本出願の態様は、第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識されたペプチドと、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドとの混合物を含む、組成物であって、第1のTMT及び第2のTMTが同じレポーターイオン質量を有さず、ペプチドの混合物が、薬物に共役しており、かつ第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識された少なくとも1つのペプチドを含む、組成物に関する。例えば、本出願の組成物は、第1のTMT及び第2のTMTのうちの少なくとも1つで標識されたコンジュゲート試料に由来するペプチドと、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドとの混合物を含み得る。組成物はまた、本明細書に記載のコンジュゲート試料に由来するペプチドの混合物と、第3のTMT及び第4のTMTのうちの少なくとも1つで標識された模擬に由来するペプチドと、任意選択で1つ又は2つ以上の非標識ペプチドとの混合物を含み得る。
【0078】
図3Aは、消化前に、iodoTMT標識が、非共役である画分上のmAbの遊離チオールで行われる、サロゲートトリプシンペプチドに見られる単一のシステインでの薬物共役を示す。試料調製及びLC-MSは、共役部位の数に関係なく同じままであり得る。データ依存性MS
2又はデータ依存性SPS-MS
3(同期前駆体選択及び三重ステージ質量分析法)並びにTMTレポーターイオントリガーETD-MSは、質量分析バーコードを生成するために使用される機器ソフトウェアの完全な制御下でシームレスな方法で行われ得る。この新規の自動化3ステップ方法は、本明細書では「三重プレイ」と称され、特定のレポーターイオンの組み合わせが、薬物ポリペプチドコンジュゲートを定量化し、正規化し、かつ検出するために使用される。本出願のいくつかの実施形態では、三重プレイは、二重TMTレポーターを用いて実施されて、薬物占有率を定量化し、複数の試料中の薬物コンジュゲートを正規化し、コンジュゲート部位を(例えば、追加のMS2をトリガーすることによって)検出又は局在化する。好ましくは、薬物ポリペプチドコンジュゲートは、ADCである。
【0079】
図3A~
図3Bを参照すると、図に示されるワークフローに続いて、iodoTMT標識化セットで標識された単一のシステイン共役部位を担持する全てのペプチドは、4つのレポーターイオン(すなわち、IodoTMT-126及びIodoTMT-127及びTMT-129及びTMT-130)を生成し、一方、全ての非システイン標識ペプチドは、2つのレポーターイオンTMT-129及びTMT-130を生成し、これを使用して、試料混合及び正規化の違いを補正することができる。薬物共役ペプチドに一意に見られる単一レポーターTMT-130を使用して、部位局在化のための追加のETD-MS
2スキャンをトリガーすることができる(例えば、
図3Bを参照されたい)。TMT-130レポーターイオンは、ペプチドに共役され、かつ薬物の断片に依存しない薬物に依存しない。結果として、トリガーされたMS
2は、任意の種類の薬物コンジュゲートのために、又は薬物を容易に同定及び局在化するために固有のレポーターイオンを有する薬物のライブラリをスクリーニングするために使用され得る。
【0080】
単一のシステインを有するペプチドとは異なり、複数のシステイン残基を有するペプチドは、システイン残基のうちの1つ又は2つ以上に共有結合した薬物を有し得る。例えば、IgG1及びIgG4 mAbの2つのヒンジシステインは、任意の単一のシステインの二重占有及び単一の占有の可能性を有する。IgG2上の4つのヒンジシステイン(IgG2-A、IgG2-B及びIgG2-A/Bアイソフォームを有する)は、更に可能性のある組み合わせ共役の可能性を増加させる(Liu et al.,MAbs 4,17-23 (2012))。
【0081】
本出願の実施形態による方法は、ポリペプチドに共役した1つ又は2つ以上の薬物(抗体など)との薬物コンジュゲートを研究するために使用され得る。1つ又は2つ以上の薬物は、単一の消化されたペプチド内にあり得る。薬物分子は、同じ種類又は異なる種類のものであり得る。
図3B~
図3Dは、1つ、2つ、又は3つの薬物を単一の消化されたペプチドに含有する薬物コンジュゲートの研究を例示し、D1、D2、及びD3は、同一又は一意であり得る。定量化及び正規化のためのバーコードの数は、利用可能なコンジュゲート部位の数、及びそれらが完全に又は部分的に共役されているかどうかに関係なく、変化しない。そのような例における占有率は、全ての位置アイソフォームの総薬物占有率であり、正規化のためのバーコードの数は、2つのレポーターのままである。更に、単一ペプチド内の共役部位の数がペプチドあたり2より大きい場合、部分的な共役は、2つのレポーター、例えば、TMT-127及びTMT-130イオンを生成し、完全な共役は、共役薬物を適切なアミノ酸残基に局在化させるために占有研究のためのETD-MS2スキャンをトリガーするために、単一のレポーター、例えば、TMT-130イオンを作成する。本明細書で使用するとき、薬物への「完全な共役」を有する又は薬物に「完全に共役した」ペプチドは、薬物に共役することができる全てのアミノ酸残基において薬物に共有結合するペプチドを指す。本明細書で使用するとき、「完全な共役」を有する又は「薬物に完全に共役していない」ペプチドは、薬物に共役することができる全てのアミノ酸残基ではなく、一部のみでの薬物に共有結合するペプチドを指す。薬物に完全に結合したペプチドは、それに共役した1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の薬物を有し得る。
【0082】
試料調製ワークフローは、このような共役反応を分析するために同じままであるが、TMTトリガーのための質量分析パラメータには、完全な多重の共役又は部分的に多重の共役の局在化のためのトリガー設定に含まれる2つのレポーターのうちの1つか又は2つのレポーターのうちの2つのいずれかが必要である。同様の方法/スキームを使用して、本開示を考慮して、本出願の方法を使用して4つ以上の薬物を含有する薬物コンジュゲートを研究することができる。
【0083】
図4は、本発明の方法によって分析されるいくつかの例示的な実験ADCシステムを示す。例えば、NIST mAb-ビオチンPEOアセトアミドADCは、mAbに共役したビオチンPEOアセトアミド及び共役薬物を含まない抗体のみを含有するその模擬対照を有する。抗体又はその断片に加えて、他のポリペプチドとの薬物コンジュゲートも、本出願の方法によって特徴付けられ得る。ヒト血清アルブミン(HSA)ペプチドを一例として使用する。2つのシステインを有する1つのペプチドのみを有するNISTとは異なり、HSAペプチドは、同じペプチド上に複数のシステインを有する。それを使用して、蛍光アッセイ及びIodoTMT標識化などの、本出願の実施形態による方法で試験した。
【0084】
図4に示される代表的な構造において、2つのビオチンPEOアセトアミドは、NIST mAb、軽鎖中の1つ、及びNIST mAbの重鎖中の1つに共役される。しかしながら、NIST mAb-ビオチンPEOアセトアミドADCは、ビオチンPEOアセトアミドが存在し、異なるレベル又は占有率を有するNIST抗体内の異なるシステイン残基に結合している占有率の異なる組み合わせを有するいくつかの異なるアイソフォームを有し得る。同様に、
図4に示されるMSQC8の代表的な構造は、mAbに共役した1つのダンシルフルオロフォアのみを有するが(MSQC4)、1つ又は2つ以上の他の部位でmAbに共役したダンシルフルオロフォアと異なるアイソフォームを有することができる。
【0085】
図4に示されるADCのいずれかを含むがこれに限定されない任意のADC、及びその模擬対照は、Cys反応性IodoTMTのTMTなどの二重TMT、及びN末端のLys又は一級アミンに反応するTMTを有する本出願の実施形態によるタンデム質量分析法の分析に供され得る。この分析から得られた質量スペクトルの例、並びに分析からの結果は、例えば、
図5A、
図5B、
図5C、
図5D、
図6A、
図6B、
図7、
図9A~
図9Dなどに示されている。
【0086】
別の実施形態では、3つの異なる種類のレポーターバーコードを使用して、各システイン残基における薬物占有率を計算する。
図5Aは、NIST mAb軽鎖の二重TMT標識等圧ペプチドのHCD-MS
2スペクトルを示す。ペプチドは、iodoTMT(io)で標識された非占有システイン残基及びTMT(tm)で標識されたN末端及び末端リジン残基を有する。HCDスペクトル(左側面パネル)は、対応するTMT標識で標識部位を局在化する一連の特徴b及びy型骨格生成物イオンからなる。より低い質量範囲は、4つのレポーターイオンを示し、これは、各二重TMTチャネルのレポーターイオン質量、すなわち、模擬チャネルを表すiodoTMT-129及びTMT-128対、並びにコンジュゲート試料チャネルを表すiodoTMT-126及びTMT-130対を含む、拡大された右側パネルにより明確に示されている。占有率は、模擬(A2)及びコンジュゲート(A1)のIodoTMT強度か、又は模擬(B2)及びコンジュゲート(B1)のTMT強度を使用することのいずれかによって導出され得る。HCDスペクトルは、配列イオン及びスペクトル比の両方を提供して、約50%の占有率で、軽鎖Cys-193での部位共役をビオチンPEOアセトアミドで同定する。同様に、コンジュゲート生成のための所与の反応条件について、占有率が得られ得る。例えば、
図5Bは、2つの追加の部位のレポーターイオン領域:約65%のビオチンPEOアセトアミド占有率を有する軽鎖Cys-63及び約100%のビオチンPEOアセトアミド占有率を有する重鎖Cys-147を示し、
図5C及び
図5Dは、HCD-MS
2によって配列決定されたペプチドの対応するMS
2スペクトル(全ての骨格生成物イオンを有する)を示す。
【0087】
二重TMTワークフローは、コンジュゲート試料と模擬試料との間の正規化係数を使用して、占有率推定値の偏差を補正する。例えば、
図6A及び
図6Bは、NIST mAb重鎖の二重TMT標識等圧ペプチドのHCD-MS
2スペクトルを示す。ペプチドのN末端及びC末端リジンは、TMTで標識される。HCDスペクトル(
図6A)は、TMT標識部位を局在化する一連の特徴的なb及びy型骨格生成物イオンからなる。より低い質量範囲は、2つのレポーターイオンを示し、レポーターイオンTMT-128、TMT-130対(
図6B)は、それぞれ、模擬及びコンジュゲート試料チャネルを表す。システイン残基を欠くペプチドは、レポーターイオンの強度が模擬及びコンジュゲート試料の濃度を表す2つのレポーターイオンのそのような特徴的な質量バーコードを示す。典型的には、完全に標識されているそのような非システインペプチドについて、1の比が観察される。
【0088】
別の実施形態では、対応する薬物断片の配列イオン及びインモニウムイオンは、共役ペプチドの占有部位を決定するのに役立つ(例えば、
図7を参照されたい)。複数の潜在的な共役部位が同じペプチド上に存在する場合、従来の方法を使用して部位局在を決定することは困難である。部位に特異的な配列イオンは、存在しないことが多く、ペプチドの局在は、ペプチド配列の質量電荷比が区別できないときを決定することが困難である。結果として、共役部位の正確な局在を決定することは、当該技術分野で知られている追加の相補的解離方法によって得られる部位特異的配列イオンを必要とすることが多い。例えば、ETD-MS2は、HCD-MS2に相補的である。部位を識別可能にし得るか、又は換言すれば、修飾された残基を局在化させ得る、配列イオンを生成するための2つの方法を使用することができる。例えば、薬物共役システインは、非結合システインから局在され得る。本出願の実施形態に従う方法は、相補的解離法を使用せずに、複数の共役部位を有するものを含む共役ペプチドの占有部位を決定することを可能にする。例えば、解離は、ペイロードを同定及び局在化するために行うことができる。
【0089】
本出願の方法は、本開示を考慮して当該技術分野で知られている方法を使用して、質量トリガー、定量化感度、及び精度を改善するためのステップを更に含み得る。例えば、HCD-MS
2は、イオンルーティング多重極中のTMT標識ペプチドコンジュゲートの質量選択された前駆体イオンに対して実行され得る(例えば、
図8A及び
図8Bを参照されたい)。生成されたイオンスペクトルは、TMTレポーターイオンが検出されるOrbitrapで取得される。レポーターイオン質量(
図8Aにおける130.14Da)は、同じ前駆体イオンのトリガー質量選択及びイオントラップへの移動として使用され得る。続いて、ETD-MS
2は、イオントラップ内で実行され、得られた生成物イオンは、Orbitrapで質量分析される。例えば、
図8Bは、NIST軽鎖cys-193ビオチンPEOアセトアミドコンジュゲートペプチドのMS、MS
2、及びトリガーMS
2から順次発生するデータ依存性スキャンについてのTIC及び対応する質量スペクトルを示す。1で標識されたTICは、Orbitrapで収集された全MSスキャンである。2で標識されたTICは、2つの連続するスキャンにおいてOrbitrapで取得された質量選択前駆体イオンのHCD-MS
2であり、3で標識されたTICは、Orbitrapで分析された同じスキャン周期及び質量内で得られるTMT-130トリガーETD-MS
2スペクトルである。両方のMS
2生成物イオンスペクトルに対する高分解能Orbitrap質量分析配列について生じる時間ペナルティは、薬物コンジュゲートペプチドの比較的小さなサブセットに影響を与えない可能性が高い。
【0090】
レポーターイオンTMT-130などのHCD-MS2によって生成された電荷損失イオンを使用して、ETD-MS2をトリガーし、ETDスペクトルを生成することができる。
図9A及び
図9Bは、それぞれCys-193ビオチンPEOアセトアミドコンジュゲートペプチドについての注釈付きHCD及びETDスペクトルを示す。薬物からの高選択的なTMT130イオン及びインモニウムイオンがスペクトルで容易に観察されることに注意することが重要である。加えて、レポーターの特徴的なニュートラルロス及びタグ全体が、
図9B及び
図9Dにアスタリスク付きで示されているETDスペクトルで観察された。ETD及びHCDの両方からの骨格断片は、相補的であり、かつCys-193上のビオチンPEOアセトアミドを局在化する。TMT130は、最も豊富なインモニウムイオンではないにもかかわらず、有用なインモニウムイオンであることが示されている。例えば、
図9C及び
図9Dは、Cys-23で共役したペプチド対応ビオチンPEOアセトアミドのトリガー質量検出を示し、TMT130は、ビオチンPEOアセトアミドによって生成された免疫イオンと比較してより豊富ではなかった。TMT130質量トリガーを生成する特異性はまた、前駆体イオンの質量選択ウィンドウを低減させることによってペプチドを妨害するために制御され得る。
【0091】
例えば、ペプチドの共単離及び共断片化は、ポリペプチド上の共役部位を局在化するためのADC-ペプチド上のETD-MS
2分析をトリガーするのに役立つTMT-130のレポートイオンの特異性の喪失をもたらし得る。より高いトリガー強度閾値又は狭い分離ウィンドウ(例えば、0.4Da)を使用して、質量トリガーを改善することができる(例えば、
図10A及び
図10Bを参照されたい)。様々なレポーターイオンは、トリガーのためにバーコードの種類に影響を与える可能性があり、特に、共単離及び共断片化は、同じ単離ウィンドウサイズ(例えば、2Da)で共溶出するペプチドに起因して起こる(
図10B)。
【0092】
別の実施形態では、SPS-MS
3を使用して、検出及び定量化の特異性及び精度を更に改善することができる(例えば、
図11を参照されたい)。前駆体イオンは、イオントラップ内の衝突誘起解離(CID)によって解離され、いくつかの生成物イオン質量は、イオントラップに適用されるノッチ波形態を使用して同期して単離される。単離された生成物イオンは、HCD-MS
3断片化が実行されるイオンルーティング多重極に移送される。SPSにより、標準的なHCD中の共断片化によるいかなる妨害も軽減され、これにより、妨害が少ないかないレポーターイオンがもたらされる。
【0093】
例えば、同期前駆体選択は、
図4に示される構造を有するMSQC8、及び本出願の実施形態による方法を使用して共役薬物を含まない抗体であるその模擬対照MSQC4のADCに対しての研究のレポーター定量化に使用された。
図12A~
図12Cに示されるように、同期前駆体選択の適用により、正確なTMTレポートが許可され、これにより、定量化感度及び精度が改善された。正確なレポーターイオン比が、SPS-MS
3後に、MSQC8を表すiodoTMT-128、TMT-129レポーターイオン対、及びMSQC4(模擬)を表すiodoTMT-130、TMT-131レポーターイオン対を有するN=5イオンを使用して観察された。MSQC8のレポーターイオン比:MSQC4は1であり、システイン残基が非共役であったことを示した。
【0094】
図13A、
図13B、及び
図14は、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8上の部位特異的ADCを定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
図13A及び
図13Bに示されるように、ADCの標識化が完了していない場合、例えば、コンジュゲートは、Lys反応性TMTではなく、Cys反応性TMTでのみ標識されており、検出された占有率(%ADC)は、完全な標識化を有するものに比べてわずかに低かった。興味深いことに、不完全な標識化でペプチドを見つけるにもかかわらず、同様の部位占有率55~60%が観察され、これは、本出願の方法の堅牢性を示すものである。
【0095】
好ましくは、コンジュゲートは、両方のTMTで完全に標識される。標識化の完了は、質量スペクトル上のTMTに対するレポートイオンの強度によって測定され得る。
図13C~
図13Fに示される結果は、MSQC8において、薬物がCys-266及びCys-372で抗体に共役されることを示す。Cys-218は、部位占有率60%を有する軽鎖上のダンシルカダベリン-SMCCの唯一の共役部位であり、SLIM-IMSによって観察された平均1のDAR(Nagy et al.,Anal Chem 92,5004-5012 (2020))、並びにMSQC8の質量分析の低減(データは示さず)と密接に一致していることも観察された。60%のCys-266(最大)での及び15%のCys-372での占有率が推定されたが、他の全てのシステインは、0%の共役を示した(例えば、
図14A~
図14Cを参照されたい)。そのような結果は、既存の方法、例えば、軽鎖のイオン移動度分光法と組み合わせた無損失イオン操作のための構造(structure for lossless ion manipulation combined with ion mobility spectrometry、SLIM-IMS)から得られた1:2のDAR0/DAR1比と一致している。更に、2つの試料(すなわち、MSQC8 ADC試料とMSQC4模擬との)間の混合の違いを正規化するために多数のペプチドを使用することにより、各共役部位について占有率推定値が正確であることが確実になる。
【0096】
本出願の実施形態による方法を使用して、ポリペプチドに共役した薬物の構造を特徴付けるか、又は同定することもできる。
図15に示すように、小分子コンジュゲートは、複雑なスペクトルを生成する断片化を起こしやすい。薬物からの断片質量は、薬物ごとに特異的であり、薬物の同定に使用され得る。
図15は、ビオチンPEOアセトアミドのインモニウムイオンとは大きく異なるSigmMAbダンシル-カダベリン-SMCCコンジュゲートの一連のインモニウムイオンを示す。
図8A及び
図8Bの結果と同様に、ETDをトリガーするために特定のレポーターイオンm/zを使用することによって、本発明の方法は、断片を生成する傾向がある小分子薬物の構造に依存しないETD-MS
2を使用して不明確な部位の局在を可能にする。言い換えれば、TMTレポーターm/zは特異的であるが、m/zを変える薬物からのレポーターは分子の構造に依存する。
【0097】
本出願の他の実施形態によれば、本発明による二重TMT質量分析は、共役反応の反応時間経過をプロファイリングするためにも使用することができる(例えば、
図16A~
図16B、
図17A及び
図17Bを参照されたい)。
図16A及び
図16Bの二重TMT実験スキームでは、単一のTMTを、TMTを蛍光と組み合わせた多重反応時間経過実験のための異なる数のシステイン残基を有する合成ペプチド標準(HSAペプチドなど)に使用した。
【0098】
本出願の更なる実施形態では、本発明による二重TMT質量分析を、薬物ポリペプチドコンジュゲートの多重定量化に使用して、スループットを増加させ、かつコストを低減することができる。
図18Aは、追加の薬物コンジュゲート試料が元のワークフローに追加される多重フォーマットを示す。多重化により、複数の反応条件を単一の分析で監視することができ、これは、各試料について別個のワークフローよりも有利である。非重複レポーターイオン質量を有するTMT試薬の注意深い選択により、更により高次の試料多重化が可能である。多重化はまた、バーコード内のレポーターの数が試料数nに対して(2n+2)である占有のためにレポーターイオンシグネチャを変更する。
図18Aの例では、第2の試料の添加は、合計6つのレポーターをもたらす。また、これらのレポーターは、等しい数のIodoTMT試薬及びTMT試薬由来である。正規化のためのバーコード内のレポーターイオンの数は、占有のためのバーコードとしての数の半分であり、(2n+2)/2である。これは常に、アミン反応性TMTレポーターイオンのみを使用して試料全体での正規化を実行する二重TMT戦略である。ペプチド薬物コンジュゲートの質量トリガーのためのバーコードにおけるレポーターイオンの数は試料の数に依存しないことに留意することが重要である。むしろ、質量トリガーのためのレポーターの数は、可能な共役部位の数mに依存する。典型的には、m=1の場合、単一のレポーターが観察され、m>1の場合、薬物は全ての部位で共役されていず、2つのレポーターイオンが観察される。
【0099】
本出願の特定の実施形態では、多重化された三重プレイ分析を使用して、2つ以上の共役部位を有するコンジュゲートを含有する複数の試料を分析することができる。例えば、蛍光分子DCAM-3と共役した1~3つのシステイン残基を有する合成ペプチドは、本出願の方法を使用して分析される。
図16Bは、未反応システインをブロックするIAAと組み合わせたiodoTMT
6を使用して反応の時点を監視するための本出願の方法を使用することを示す。この方法では、IodoTMT
6は、多重化の上限がアッセイ条件下では4であるため、TMT
10との共役における二重標識化アプローチとして使用されなかった。現在、TMT
16(16-plex)及びn>16である将来のn-plex試薬の利用可能性は、二重TMTアプローチの試料の数によって大幅に促進される。蛍光ベースの定量化を標準として使用し、TMTベースの占有推定と比較した。
図16Cは、複数の薬物:多重化様式にあるD1~D5の反応の監視に適用される本出願の三重プレイワークフローを示す。このスキームは、二重標識化を達成するためのIAA又はiodoTMTでのTMT標識化を表す。占有率は、反応性D5>D3>D1及び占有率がゼロであるD2、D4の不合格反応についてのランク順序を示すレポーター強度を使用して、各薬物について推定され得る。
図16Dは、各薬物分子、すなわち、D1についてのTMT127、D2についてのTMT129、及びD3についてのTMT130に特異的な単一のTMTレポーターイオンを介した質量トリガーを示す。
【0100】
図17A及び
図17Bは、反応時点が、ペプチド-DACM-3共役パーセント比0、20、40、60、及び80を混合することによってシミュレートされた多重化実験の結果を示す。非共役ペプチド対応物を最初に低減させ、全ての遊離チオールをIAAでブロックするように、各ペプチド混合物を別々に調製した。共役ペプチド混合物及び各ペプチド配列の非共役対応物を2つの並行実験に使用した。先ず、DACM共役及び混合を確実にするために、蛍光定量的測定を実行した。1~3つのシスチン残基を有する全てのペプチドの蛍光強度は、共役なし(模擬)から80%の共役までの線形応答を示す。次に、0、20、40、60、80の5つのペプチド-DACMコンジュゲート比及び模擬及び各試料を、それぞれiodoTMT126、127、128、129、130及び131で標識し、等モル量をレポーターイオンの定量化のために混合した。HCD-MS2レポーターイオンは、反応が進行するにつれて反応物が枯渇し、プラトーに達する反応のための一意のバーコードを反映する。その模擬に対するペプチド混合物のレポーター強度は、予想どおりに、共役の増加に伴って減少する。観察された共役レベルの予想の又は理論的な共役レベルとの相関は、TMTレポーターイオンに基づいて得られた。TMTレポーターイオン強度は共役レベルに反比例することに留意することが重要である。特に、低強度レポーターイオンに対するTMT比の動的圧縮が、高薬物コンジュゲートに最も影響を与える。
【0101】
Savisky et al.によって報告されたものなどのアルゴリズムを使用して、比率圧縮を補正することができ(Savisky et al.,2013,Journal of proteome research 12,3586-3598)、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。電流計装で利用可能なSPS-MS3ルーチンはまた、比率圧縮を改善することができる(McAlister,et al.,Anal Chem 86,7150-7158(2014)。それにもかかわらず、いかなる補正も伴わない本出願の方法は、TMT応答が共役の線形関数である低レベルの共役の正確な推定を提供し得る。コンジュゲートの低化学量論の検出は、ほとんどのオフターゲットの共役が望ましくなく、より正確に監視することができるために、有益である。多重TMT比及び/又は逆TMT比(部位占有率)を蛍光ベースの収率推定値と比較した。蛍光ベースの測定のための線形ダイナミックレンジは、比率圧縮によるTMTレポーターの占有のためのダイナミックレンジと比較して高い。しかしながら、高強度を有するTMTレポーターはまた、より少ない比率の圧縮効果及び欠落値で測定することができる低レベルの共役を有するチャネルである(Lim et al.,Journal of proteome research 16,4217-4226(2017))。
【0102】
別の実施形態では、本出願の方法は、ロボットシステムを使用することを含む。例えば、本出願の三重プレイワークフローは、TMT試薬を用いた二重標識化及び試料多重化がTMTベースの定量化の正確度及び精度を高めることができるAsayMap Bravo液体処理ロボットシステムに実装され得る。
図18Aは、自動化が、合成点での反応の堅牢な監視に特に利益を与えることができるスキーム全体を示す。複数の薬物共役反応の同時分析は、反応条件を迅速に最適化する必要がある場合に有用であり得る。また、全体的な収率を最適化するために、最終生成物に加えて、中間ステップの薬物占有率の推定が、連続的な共役反応には必要である。任意の自動化プラットフォームが多重化を提供する速度及び再現性が、試料取り扱い中に人間による誤差を低減するために必要である。
【0103】
一実施形態では、本出願の試料多重化スキームは、二重の2つの異なる濃度で、MSQC8などの試料の二重TMT標識化を使用して最大4つのADC試料を分析することができる。
図18Bは、全ての質量が一意であるようなTMT
10由来の二重TMTレポーター及びIodoTMT
6試薬の選択を示す。TMT
10(10-plex)試薬は、標識された同位体置換体、又はC
12、N
15原子対がC
13、N
14で置換されている6.32mDa(ミリダルトン)だけ異なるTMT
10xN又はTMT
10xCとして標識されている10個の同位体のうちの6つを有する。TMT
10xC同位体置換体質量は、iodoTMT試薬と同一の質量であり、同時に使用され得ない。試料がレポーターイオンの適切な組み合わせと多重化されると、高分解能質量分析法により、レポーターイオン質量及びそれらの同位体置換体のベースライン分離が可能になる。4つの異なるADC試料及び模擬又は非共役試料は、スキームに示されるように標識された二重TMTであり、それにより、トリプシンペプチドを含有するシステインは、5つのTMTレポーター及び5つのiodoTMTレポーターの等圧混合物である。MS2時に、バーコードは10個のレポーターイオンからなる。
【0104】
4つのMSQC8薬物コンジュゲート模倣物を以下の2つの濃度で調製した:元の試料、及びMSQC4とMSQC8とで希釈することによる半分の濃度の別の試料。これらの試料の各々は、二重TMT標識化で複製された試料であった。
図19は、HCD-MS2後のCys-218ペプチドのレポーターイオンを示す。模擬(MSQC4)のレポーターは、TMT
10-126及びIodoTMT
6-130対で二重標識され、一方、4つの試料をTMT
10xN、IodTMT
6xで標識し、式中、xは127~130の範囲である。MSQC8の複製1を二重試薬x=127で標識し、MSQC8の複製を二重試薬x=130で標識した。同様に、MSQC8及びMSQC4標識試薬の等モル混合物についての2つの複製物は、x=128及び129である。i番目の試料の場合のCys-218での部位占有率は、式1で与えられる。
図20Aは、ここでMS2-HCD時に5つのTMT
10レポーターイオン(1つの模擬及び4つの試料)のバーコードを有して、多重化実験で試料濃度を補正する非システインペプチド配列の使用を示す。i番目の試料についての正規化係数は、式2で与えられる。各ADC試料についての補正された占有率は、式3によって得られ得る。
図20Bは、単一の取得において4つの試料について得られた正規化占有率を示す。原理的にこれらの多重実験を使用して、トリガー質量を使用して薬物コンジュゲートを同定することもできる。
【0105】
本出願の一実施形態では、反応が中間ステップを介して進行する場合、又は参照材料が利用できない場合に、任意の2つの反応ステップ間の相対的な占有率が決定され得る(例えば、
図20A及び
図20Bを参照されたい)。
図16A及び
図16Bに示されるように、2つのステップ抗体共役反応を介して、フルオロフォア薬物模倣物、DACM-3に共役したペプチドについて、占有率が推定され得る。2ステップ抗体共役反応の例は、トランスグルタミナーゼ反応、それに続く細胞傷害性ペイロードのクリック付加である。例えば、Huggins,et.al.,Molecules.2019 Sep;24(18):3287も参照されたく、その内容はその全体が本明細書に組み込まれる。2ステップ抗体共役反応によって調製されるADCのいずれも、本出願の方法によって分析することができる。
【0106】
ここで、本発明について、以下の特定の非限定的な実施例を参照して更に詳細に説明する。以下の実施例に開示される技術が、本発明の実施において十分に機能する発明者によって発見された技術を表し、したがって、その実施のための好ましいモードを構成すると見なすことができることを、当業者は理解されたい。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態において多くの変更を行い、本発明の範囲から逸脱することなく、同様又は類似の結果を依然として得ることができると理解するであろう。
【実施例】
【0107】
実施例1:二重TMT標識化及び非共役mAbの共役
還元及び薬物共役されたNISTモノクローナル抗体((mAb)、Sigma Aldrich、カタログ番号8671)(試料#1)から非還元及びIodoTMT(商標)タグ付きNIST mAb(試料#2)の4つの異なる比(1:1、1:9、9:1、及び1:3)を調製した。NIST mAbが、ヨードアセトアミド(iodoacetamide、IAA)(Sigma Aldrich、カタログ番号16125)か又はビオチンPEOヨードアセトアミド(Sigma Aldrich、カタログ番号B2059)のいずれかを使用して共役された。試料#1について、100μgのNIST(50μlの2mg/mlのNIST)の2つのアリコートを、10μlのストック(10mg/ml)を8Mの塩酸グアニジン(GuHCl)(Sigma Aldrich、カタログ番号G3272)、及び4mMのエチレンジアミンエトラ四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid、EDTA)(Sigma Aldrich、カタログ番号03620)を含む40μlの溶液と組み合わせることによって調製した。次いで、NISTアリコートを10μlの1M DTT(Sigma Aldrich、カタログ番号1019777001)の添加によって還元し、37℃で1時間インキュベートした。あるいは、TCEPは、DTTの代わりに還元剤としても使用され得る。DTTは、通常、中性~塩基性pH条件で活性であるが、TCEPは、広いpH範囲及びより強い還元剤を有する。
【0108】
NISTを1MのIAAと共役させた。1MのIAAを、300μlのトリメチルアンモニウムバイオレート(trimethyl ammonium bicarbonate、TEAB)(ThermoFisher、TMT標識キットのパート)をエッペンドルフチューブに添加することによって調製し、これをボルテックスし、20分間超音波処理して、使用前にTMT試薬を室温に平衡化させた。次いで、24μlの1MのIAAを還元NIST試料に添加し、これを暗所において室温で1時間インキュベートした。インキュベーション期間に続いて、15μlの1MのDTTを試料に添加して、共役反応をクエンチした。試料を緩衝液交換溶液(8M GuHCl+4M EDTA)と組み合わせ、7kDa(ThermoFisher、カタログ番号89882)の分子量カットオフを有するZebra(商標)スピン脱塩カラムを通して配置した。
【0109】
還元NIST試料をビオチンPEOヨードアセトアミドと共役させるために、試料を、約7.5のpHでスルフヒドリルを含まないPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に緩衝液交換した。使用直前に、ビオチンPEOヨードアセトアミドの20mMの原液を調製した(190μlのPBSをエッペンドルフチューブ中の2mgのビオチンPEOヨードアセトアミドに添加した)。PBS中の還元NIST試料を、5μlの20mMのビオチンPEOヨードアセトアミドと組み合わせて、混合した。反応物を、氷上又は室温で2時間インキュベートした。インキュベーション期間に続いて、試料を脱塩した。試料は、緩衝液交換溶液(8M GuHCl+4M EDTA)中に配置され、7kDaの分子量カットオフを有するZebra(商標)スピン脱塩カラムを通された。
【0110】
試料#2(IodoTMT(商標)タグ付き非還元NIST試料)を、NISTの3つのアリコート(10μlのストック(10mg/ml)と組み合わせた50μlの2mg/mlのNIST)を生成し、40μlの溶液(8MのGuHCl+4mMのEDTA)に添加することによって調製した。各アリコートを、8MのGuHCl及び4mMのEDTAを含有する50ulの溶液と組み合わせて、その体積をオフセットした。その後のiodoTMT標識化のための試料を還元させるために、10μlのDTTを各アリコートに添加し、試料を37℃で1時間インキュベートした。試料#1及び試料#2の以下の4つの比率を調製した:1)1:9の比(10μlの還元NIST:90μlの非還元NIST)、2)1:3の比(25μlの還元NIST:75μlの非還元NIST)、3)1:1の比(50μlの還元NIST:50μlの非還元NIST)、及び4)9:1の比(90μlの還元NIST:10μlの非還元NIST)。100μgのNIST及び2μlのIodoTMT(商標)-LabelA1(10μlのメタノールを200μgのIodoTMT(商標)に添加した)を含有する各混合試料を、全ての試料に添加した。次いで、試料を暗所において37℃で1時間インキュベートした。標識化反応をクエンチするために、4μlの0.5MのDTTを各試料に添加し、暗所において37℃で更に15分間インキュベートした。試料は、TEABと交換されたそれらの緩衝液を有し、IodoTMT(商標)標識タンパク質を、4μlのトリプシン(1mg/ml)で4時間から一晩中、37℃で消化した。トリプシンを2μlの98%のギ酸でクエンチし、2μlのTMT-LabelB1(40μlの無水アセトニトリルに溶解した800μg)を4つの試料の各々に添加した。試料を暗所において37℃で1時間インキュベートし、室温で15分間、8μlの5%のヒドロキシルアミンを添加することによって反応をクエンチした。
【0111】
試料#1及び試料#2に加えて、試料#3と呼ばれる参照又は模擬試料を調製し、IodoTMT(商標)タグでタグ付けした。試料#3は、3つの試料に代えて4つの試料を生成したことを除いて、試料#2に使用されるプロトコルと同様に調製された。試料#3を別々にトリプシン処理し、TMT-LabelB2で標識した。試料#1及び試料#2各々を、132μlの試料#3と1:1の体積比で混合し、これにより、質量分析法のために4つの多重化された試料を形成する固有の等圧レポーターイオン質量を有するTMT標識タンパク質を得た。最大4つの反応混合物は、IodoTMT(商標)及びアミン反応性TMT10plex(商標)試薬(ThermoFisher、カタログ番号90110)からの5つの固有のレポーター質量での二重標識化により多重化され得る。二重標識された4つの共役試料及び単一の模擬/参照対照試料を、1:1:1:1:1の体積比で組み合わせ、これにより、液体クロマトグラフィー-質量分析用の単一の多重化試料が生成された。
【0112】
図13A、
図13B、及び
図14は、本出願の実施形態による方法を使用して、MSQC8上の部位特異的ADCを定量化するための二重TMTを使用する実験及び結果を示す。
図13Aに示されるように、ADCの標識化が完了していない場合、例えば、コンジュゲートが、それぞれMSQC-4及びMSQC-8の各々について、Cys反応性TMT、例えば、IodoTMT128及びIodoTMT130のみで、しかし、Lys反応性TMT、例えば、TMT129及びIodoTMT131ではなく、標識された場合、単一の標識化における検出された部位占有率(例えば、55~60%ADC)は、二重標識化によるものに比べてわずかに少なかった。MSQC-4のための二重標識、例えば、IodoTMT128及びTMT129を有する非共役ペプチド、並びにMSQC-8のIodoTMT130及びTMT131は、60%のより正確な推定値(1つに代えて2つのレポーターからの測定推定値)を提供する。標識化の完了は、質量スペクトルに対するTMTについてのレポートイオンの強度によって測定された。MSQC8はいくつかの共役部位を有したことが知られていた。
図13Bに示される結果は、MSQC8において、薬物がCys-266及びCys-372で抗体に共役したことを示す。Cys-218は、部位占有率60%を有する軽鎖上のダンシル-カダベリン-SMCCの唯一の共役部位であり、SLIM-IMSによって観察された平均1のDAR(例えば、抗体の両方の鎖に結合した薬物を見出した、Nagy,G.et al.Anal Chem 92,5004-5012(2020))と密接に一致していた。更に、60%のCys-266(最大)及び15%のCys-372でのMSQC8占有率の質量分析の低減が推定された一方、他の全てのシステインは、0%の共役を示した(例えば、
図14を参照されたい)。そのような結果は、既存の方法、例えば、軽鎖のイオン移動度分光法と組み合わせた無損失イオン操作のための構造(SLIM-IMS)から得られた1:2のDAR0/DAR1比と一致している。2つの試料(すなわち、MSQC8 ADC試料及びMSQC4模擬)間の混合の違いを正規化するために多数のペプチドを使用することは、各コンジュゲーション部位の占有推定値が正確であることを確実にすることに留意することが重要である。
【0113】
実施例2:共役mAbの二重TMT標識化
共役mAbを、二重TMT標識プロトコルで標識した。MSQC8(Sigma Aldrich mAb抗体-薬物コンジュゲート模倣物)及びMSQC4(Sigma Aldrich mAb標準)を、それぞれ共役試料及び参照又は模擬試料として使用した。試料を、NIST mABをタグ付けし、かつ別々にトリプシン処理してペプチドを生成するために記載されたように使用した試料プロトコルに従って、別個のIodoTMT(商標)タグでタグ付けした。MSQC8及びMSQC4から得られたペプチド混合物を、NIST mAbをTMT又はIodoTMT(商標)で標識するために使用される同じプロトコルに従って、別個のアミン反応性TMTタグで別々に標識した。TMT二重標識化後、試料を1:1の体積比で混合し、これにより、質量分析のために多重化された単一試料が生成された。
【0114】
実施例3:AssayMap BravoにおけるTMT標識化の自動化
二重TMT標識化プロトコルは、LC-MSで分析する前にタンパク質試料の調製を自動化するAssayMAP Bravo(Agilent)ロボットシステムに実装された。非共役NIST mAbの共役の二重TMT標識化を、前述のように実行した。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、製造業者の指示に従った、溶液内消化単一プレートプロトコルを使用した(ワールドワイドウェブ:agilent.com/cs/library/applications/application-protease-digestion-in-solution-assaymap-5994-1682en-agilent.pdfを参照されたい)。自動化試料調製が、最小体積5μlを分注するようにプログラムされ、試料を、当該技術分野で知られているRP-Wカートリッジ適用を使用して、逆相タンパク質クリーンアップにより脱塩した。異なる試料比(例えば、1:1、1:9、9:1、及び1:3)を、AssayMAP Bravoロボットシステムの再フォーマットユーティリティを用いて実行した。
【0115】
実施例4:共役ペプチドの多重TMT標識化
1~3つのシステイン残基を有する合成mAbを、別々に、タンパク質標識化のための適合された製造業者のプロトコルを介して、N-(7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)マレイミド(DACM-3;ThermoFisher、カタログ番号D10251)と共役させた。16.76mMのDACM-3の原液を調製した。1mgの各ペプチドを、100mMのPBS、0.1MのNaCl、10mMのEDTA(pH8.0)及び50μlの16.76mMのDACM-3を含む1mLの溶液に溶解した。ペプチドを軽質保護カバーで密封し、周囲温度で約5分間インキュベートした。質量分析を使用して、ペプチドが完全に共役したことを確認した。N-アセチル-L-システイン(NISTモノクローナル抗体由来のシステインペプチド標準物質を、Biomatik Corporationによって純度99.99%に合成した)の試料及び標準曲線の試料の相対蛍光(相対蛍光単位又はRFU)を測定した(励起=385nm、放出=465nm、455nmカットオフ)、蛍光プレートリーダー(Spectramax M5、Molecular Devices使用)。各ペプチドについての遊離チオール又は共役チオールの相対濃度を、内部N-アセチル-システイン曲線の回帰分析から計算した。N-アセチル-L-システインは、DACM-3と実質的に100%反応すると決定された。
【0116】
ペプチドのDACM-3共役に続いて、ペプチドをTMTで標識した。各DACM-3共役ペプチドを非標識ペプチド対応物と混合して、様々な化学量論比(0、0.2、0.4、0.6、及び0.8)で5つの混合物を生成した。非標識ペプチドは対照として供された。試料は、DACM-3標識がTMT標識化の前に適切に機能したことを確実にするために、本開示を考慮して当該技術分野で既知の蛍光アッセイで評価された。アミン反応性6-plex TMT標識化を、トリプシンペプチドのTMT標識化について前述した各試料に対して実行した。最後に、標識された5つの混合物及び対照を各々、1:1の体積比で組み合わせ、本開示を考慮して当該技術分野で知られている方法を使用してLC-MSで分析した。
【0117】
実施例5:LC-MS2(LC-MS/MS)分析
LC-MS2で分析した試料を、65℃でAdvanceBio Peptide Mappingカラム(Agilent、カタログ番号864600-911)を用いてAgilent Infinity 12900 UHPLCで分離した。移動相Aとしての0.1%のギ酸及び移動相Bとしてのアセトニトリルを含むLC-MSグレードの水を使用した50分液体クロマトグラフィー(LC)勾配プログラムを、以下のプロトコルに従って行った:0分、2%B;35分、30%B;40分、80%B;45分、85%B;45.5分、2%B;及び5分、2%Bでの続く再平衡化。流量を0.2mL/分に設定し、注入量を2μlに設定した。質量分析計を、当該技術分野で既知のデータ依存性(data dependent、dd)MS2 HCD(MS/MS-HCD)及び電子移動解離(ETD)方法を用いて正イオン化モードで動作させた。以下の界面条件を使用した:エミッタ電圧、+2600V;気化器温度、325℃;イオントランスファーチューブ、325℃;シースガス、55(任意単位);補助ガス、10(任意単位);及びスイープガス、1(任意単位)。
【0118】
以下の内部質量分析計の設定を、以下のMSスキャンについて使用した:RF(無線周波数)レンズ、60%;AGC(自動利得対照)標的、1e6;最大注入時間、50ms;Orbitrap(Orbitrap、OT)質量分析計における70K解像度のプロファイルモードで1μscan。この方法は、当該技術分野で既知の任意のMS2 HCDイベントの前に一連のフィルタを順次含んでいた。モノアイソトピックピーク選択フィルタが含まれ、全ての方法に対してペプチドとして設定され、1e5の強度フィルタを使用した。いくつかの方法は、任意の電荷状態フィルタを使用して、前駆体電荷状態2~6を選択する。更に、特定の方法は、任意選択的な動的排除(dynamic exclusion、DE)フィルタを使用して、12秒か又は3秒の排除ウィンドウのいずれかを有する試料中のペプチドをより効率的に同定し、以下の共通パラメータを示した:n=1時間を除く;+/-3ppm;同位体を除く;及び前駆体あたり単独の電荷状態。一方法は、Apex検出を含み、これは、以下のパラメータを使用した:予想ピーク幅、6秒;所望のapexウィンドウ、30%。
【0119】
5ddMS2 OT-HCD(データ依存MS/MS-Orbitrap検出-高エネルギー衝突解離)スキャンは、以下の設定で実行された:四重極単離、1.6m/z単離ウィンドウ;検出器タイプ、Orbitrap、自動m/z通常スキャン範囲、70K分解能、100m/z第1の質量;AGC標的、2e5は、利用可能な全ての並列化可能な時間、50msの最大注入時間でイオンを注入する;1μscan、プロファイル。ddMS2 OT-HCDに従って、標的質量トリガー(TMT)を実施し、これは、システムがユーザ定義のリストから生成物イオンを検出する場合にのみトリガーされるスキャンである。標的イオン質量は、レポーター質量のリスト(例えば、126~131Da)からペイロードを検出することに特異的なTMTレポーターイオンを含んでおり、最上位10以内の最も強い質量対電荷比のイオンのみを、全ての質量トリガーに対して使用した。以下の条件をddMS2 OT-ETD(データ依存MS/MS-Orbitrap検出-電子移動解離)には使用した:MSnレベル、2;四重極単離、1.6m/z単離ウィンドウ;50msのETD反応時間;検出器タイプ、Orbitrap、自動m/z正常走査範囲、30K分解能;AGC標的、5e4、利用可能な全ての並列化可能な時間、22msの最大注入時間でイオンを注入する;1μscan、プロファイル。ddMS2 OT-HCDとddMS2 OT-ETDとの間の依存スキャンの数を1に設定した。
【0120】
様々な質量分析法の分析からのデータを、Xcalibur(商標)データ取得及び解釈ソフトウェア(ThermoFisher、カタログ番号OPTON-3096 7、MaxQuant及びPerseusソースプロテオミクスデータ分析ソフトウェア(MaxPlanck Institute)、及びR 3.6統計プログラミングソフトウェア(R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria)で処理した。部位占有率は、IodoTMTレポーターイオンピーク面積を用いた式1によって推定され、式中、A2は非コンジュゲート試料の面積であり、A1は共役試料の面積である。正規化係数は、TMTレポーターイオンを使用する式2によって計算され、式中、B1は共役試料のピーク面積であり、B2は非共役試料のピーク面積である。
【0121】
【0122】
本明細書に記載された実施例及び実施形態は、例示のみを目的としたものであり、上述の実施形態に対する変更は、その広範な発明概念から逸脱することなくなされ得ることが理解される。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に制限されず、添付の特許請求の範囲によって定義されるような本発明の趣旨及び範囲内の修正をも包含することを意図するものと理解される。
【国際調査報告】