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▶ マブウェル (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッドの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】抗α溶血素抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20221115BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221115BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20221115BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221115BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221115BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/12
C07K19/00
A61K39/395 N
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517737
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-09
(86)【国際出願番号】 CN2020116184
(87)【国際公開番号】W WO2021052461
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】201910889697.5
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519187241
【氏名又は名称】マブウェル (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アン マオマオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン リチュン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ パン
(72)【発明者】
【氏名】リン チアン
(72)【発明者】
【氏名】チアン ユアンイン
(72)【発明者】
【氏名】シェン フイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン シミン
(72)【発明者】
【氏名】グオ シユ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ウェイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085CC02
4C085CC23
4C085GG02
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
黄色ブドウ球菌α溶血素に結合する抗体またはその断片、および黄色ブドウ球菌感染症を予防または処置するための抗体またはその断片の使用を提供する。該抗体はα溶血素の弱毒化免疫および病原性スクリーニングの戦略によるスクリーニングを通じて得られ、該抗体はα溶血素に対して高い親和性を有し、α溶血素の溶血効果を効果的に遮断することができ、α溶血素敗血症モデル、MRSA菌血症モデルおよびMRSA肺感染症モデルにおいて有意な保護効果または治療効果を証明しており、抗生物質との相乗効果を有し、これは黄色ブドウ球菌に向けた既存の抗生物質療法に対する有益な補完となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法:
(1) 弱毒化α溶血素または病原性のないα溶血素で動物を免疫する段階;
(2) 脾細胞を採取し、ハイブリドーマを調製する段階;
(3) それを用いて、病原性α溶血素または野生型α溶血素に対して高い親和性を有する抗体をスクリーニングする段階;
(4) 赤血球溶解阻害アッセイ法を通じて、病原性α溶血素または野生型α溶血素により引き起こされる赤血球溶解を阻害する活性を有する抗体を選択する段階。
【請求項2】
病原性α溶血素または野生型α溶血素が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)α溶血素であり、好ましくは、SEQ ID NO: 78に示されるアミノ酸配列を有し; かつ
弱毒化α溶血素または病原性のないα溶血素が、H35Lを有するα溶血素であり、好ましくは、SEQ ID NO: 80に示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1記載の抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法。
【請求項3】
病原性α溶血素または野生型α溶血素、弱毒化α溶血素、または病原性のないα溶血素が、精製タグ、担体タンパク質、および/またはアジュバント分子に独立して連結され; かつ
該連結が、カップリング、架橋、コンジュゲーション、および/または融合を含む、
請求項1記載の抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法。
【請求項4】
α溶血素の溶血効果の遮断、α溶血素の肺上皮細胞に対する損傷の遮断、MRSA感染肺組織における細菌負荷の低減、MRSA菌血症に苦しむ患者の生存時間の延長、およびα溶血素によって引き起こされる敗血症の予防または緩和からなる群より選択される少なくとも1つの活性を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の方法によって調製された抗α溶血素モノクローナル抗体。
【請求項5】
SEQ ID NO: 1、2、3、12、13、14、22、23、24、34、35、および36からなる群より選択されるVH-CDR1;
SEQ ID NO: 4、5、6、15、16、17、25、26、27、28、37、38、および39からなる群より選択されるVH-CDR2;
SEQ ID NO: 7、18、29、および40からなる群より選択されるVH-CDR3;
SEQ ID NO: 8、19、30、31、および41からなる群より選択されるVL-CDR1;
SEQ ID NO: 9、11、20、32、および42からなる群より選択されるVL-CDR2; ならびに
SEQ ID NO: 10、21、33、および43からなる群より選択されるVL-CDR3
を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の方法によって調製された抗α溶血素モノクローナル抗体。
【請求項6】
以下からなる群より選択されるCDRの組み合わせ(VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3; およびVL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む、抗体またはその断片:
(1) SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 4に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(2) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(3) SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(4) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(5) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 11に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(6) SEQ ID NO: 12に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 15に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(7) SEQ ID NO: 13に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 16に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(8) SEQ ID NO: 14に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 17に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(9) SEQ ID NO: 13に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 17に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(10) SEQ ID NO: 22に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 25に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(11) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 26に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(12) SEQ ID NO: 24に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 27に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(13) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 27に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(14) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 28に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 31に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(15) SEQ ID NO: 34に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 37に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3;
(16) SEQ ID NO: 35に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 38に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3;
(17) SEQ ID NO: 36に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 39に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3; ならびに
(18) SEQ ID NO: 35に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 39に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3。
【請求項7】
重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 44、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 52、SEQ ID NO: 56、SEQ ID NO: 60、SEQ ID NO: 64、SEQ ID NO: 68およびSEQ ID NO: 72のいずれか1つに示されるアミノ酸配列または示された該アミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含み; ならびに/あるいは
軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 50、SEQ ID NO: 54、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 66、SEQ ID NO: 70、SEQ ID NO: 74およびSEQ ID NO: 76のいずれか1つに示されるアミノ酸配列または示された該アミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項4~6のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
以下の組み合わせからなる群より選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、請求項4~7のいずれか一項記載の抗体またはその断片:
(1) SEQ ID NO: 44に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 44に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 46に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 46に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(2) SEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 50に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 50に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(3) SEQ ID NO: 52に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 52に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 54に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 54に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(4) SEQ ID NO: 56に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 56に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 58に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 58に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(5) SEQ ID NO: 60に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 60に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 62に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 62に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(6) SEQ ID NO: 64に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 64に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 66に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 66に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(7) SEQ ID NO: 68に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 68に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 70に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 70に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(8) SEQ ID NO: 72に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 72に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 74に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 74に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; ならびに
(9) SEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 76に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 76に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項9】
前記少なくとも75%の同一性が、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性のような、75%以上の任意のパーセント同一性であり;
好ましくは、前記抗体またはその断片が、任意の形態であり、例えば、モノクローナル抗体、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、二官能性抗体、ナノボディ、完全もしくは部分ヒト化抗体またはキメラ抗体などであり; あるいは、該抗体またはその断片は、半抗体または半抗体の抗原結合断片、例えば、scFv、BsFv、dsFv、(dsFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2、またはFvであり;
あるいは、該抗体が、IgA、IgD、IgE、IgGもしくはIgM、より好ましくはIgG1であり; または、該抗体の断片が、該抗体のscFv、Fab、F(ab')2およびFv断片からなる群より選択される、
請求項4~8のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項10】
前記抗体またはその断片が、ヒトまたはマウスの軽鎖定常領域(CL)および/または重鎖定常領域(CH)をさらに含み; 好ましくは、該抗体またはその断片が、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEからなる群より選択される重鎖定常領域ならびに/またはカッパ型もしくはラムダ型軽鎖定常領域を含み; より好ましくは、該重鎖定常領域が、IgG1またはIgG4サブタイプの重鎖定常領域であり、該軽鎖定常領域が、カッパ型の軽鎖定常領域である、請求項4~9のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項11】
請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列、または、
該抗体もしくはその断片に含まれる重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖をコードするヌクレオチド配列
を含む、核酸分子。
【請求項12】
請求項11記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項13】
請求項11記載の核酸分子および/もしくは請求項12記載のベクターを含む、または
請求項11記載の核酸分子および/もしくは請求項12記載のベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされた、
宿主細胞。
【請求項14】
請求項4~10のいずれか一項記載の抗体またはその断片を含む、コンジュゲートまたは融合タンパク質。
【請求項15】
前記抗体またはその断片に直接的または間接的に連結された、さらなる部分、例えば、細胞表面受容体、小分子化合物、小分子重合体、活性タンパク質またはポリペプチドを含む、請求項14記載のコンジュゲートまたは融合タンパク質。
【請求項16】
請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、
請求項11記載の核酸分子、
請求項12記載のベクター、
請求項13記載の宿主細胞、および/または
請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、ならびに
任意で、薬学的に許容される賦形剤
を含む、薬学的組成物。
【請求項17】
請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、
請求項11記載の核酸分子、
請求項12記載のベクター、
請求項13記載の宿主細胞、
請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、および/または
請求項16記載の薬学的組成物
を含む、キット。
【請求項18】
α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための医薬の製造における、請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項11記載の核酸分子、請求項12記載のベクター、請求項13記載の宿主細胞、請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、および/または請求項16記載の薬学的組成物の使用。
【請求項19】
α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための医薬の製造における、別の抗菌剤または抗α溶血素抗体との組み合わせでの請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項11記載の核酸分子、請求項12記載のベクター、請求項13記載の宿主細胞、請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、および/または請求項16記載の薬学的組成物の使用。
【請求項20】
微生物が黄色ブドウ球菌であり; 好ましくは、黄色ブドウ球菌がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含み;
好ましくは、感染症が、上気道感染症、肺炎、重症肺炎、腹部感染症、皮下および軟部組織感染症、菌血症、ならびにさまざまな臓器における感染症を含み;
好ましくは、合併症が、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、敗血症、および体内の炎症性因子の上昇を含み;
好ましくは、別の抗菌剤が、黄色ブドウ球菌、例えばメチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされる感染症の処置および予防に有用な薬剤(化学薬剤、生物学的薬剤および漢方薬を含む)であり、好ましくはβ-ラクタム系抗生物質などの抗生物質、より好ましくはバンコマイシン、ノルバンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシン、セファピプラゾール、フシジン酸、またはセフタロリンである、
請求項18または19記載の使用。
【請求項21】
以下の段階を含む、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための方法:
それを必要とする対象に、請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項11記載の核酸分子、請求項12記載のベクター、請求項13記載の宿主細胞、請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、および/または請求項16記載の薬学的組成物、ならびに任意で抗菌剤を投与する段階。
【請求項22】
以下の段階を含む、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症を診断するための方法:
請求項4~10のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項11記載の核酸分子、請求項12記載のベクター、請求項13記載の宿主細胞、請求項14もしくは15記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、および/または請求項16記載の薬学的組成物を対象からのサンプルと接触させる段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年9月20日付で出願された中国特許出願第CN201910889697.5号の優先権の恩典を主張するものであり、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗体薬の分野に関し、特に抗α溶血素抗体およびその薬学的用途に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
ブドウ球菌(Staphylococcus)に属する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、重要なグラム陽性病原性細菌であり、ヒトにおいて最も重要なG+病原性細菌である。黄色ブドウ球菌は、化膿性感染症、肺炎、偽膜性腸炎、心膜炎などのような、局所感染症、および腐敗症、敗血症などのような、全身感染症を引き起こしうる。中国抗菌監視ネットワークで利用可能なデータから、黄色ブドウ球菌は病院で検出される病原性細菌の中で4位、および病院で検出されるG+細菌の中で1位にランク付けされることが示された。
【0004】
黄色ブドウ球菌は、ヒトの体の感染過程で組織細胞を破壊するために大量の毒素を放出し、体内の免疫細胞が病原体を排除するのを阻害する。現在、β-ラクタム系抗生物質は主に、黄色ブドウ球菌感染症を処置するために臨床的に採用されている。しかしながら、抗生物質は細菌を阻害または死滅化するだけで、細菌により放出される毒素には何もしない。それどころか、細菌は抗生物質の圧力下でより多くの毒素を放出し、抗生物質によって死滅化された細菌も溶解時に毒素を放出する。大量の毒素が血液に入ると、宿主の免疫系が過剰に活性化されて過剰な炎症性因子を放出し、それによって敗血症を生じる。
【0005】
さらに、黄色ブドウ球菌はヒトと戦う過程で、β-ラクタム系抗生物質に対する感受性がますます低くなり、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は現在ますます分離されている。中国抗菌監視ネットワークで利用可能なデータから、2016年のMRSAの分離率は38.9%にもなることが示された。MRSAの場合、治療薬は臨床的には限られた数のもの、例えば、バンコマイシンおよびリネゾリドを主に含むが、これらは、ヒトに感染する「超耐性」細菌を引き起こす可能性のある薬物の典型的な代表である。それゆえ、臨床的MRSA感染はますます深刻になり、抗菌剤の選択は非常に限られており、その両方が患者での臨床処置の失敗および患者の高い死亡率につながる。近年、バンコマイシン耐性VRSA (バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)によって引き起こされる感染症も臨床的に出現しており、ヒトは治療法のない状況に直面しようとしている。
【0006】
研究から、黄色ブドウ球菌によって放出される病原性因子には、溶血素、ロイコシジン、腸毒素、コアグラーゼなどが含まれることが見出された。溶血素は、黄色ブドウ球菌によって分泌される主要な病原性因子の1つであり、α溶血素、β溶血素、γ溶血素およびδ溶血素の4つのタイプに分類することができる。α溶血素(Hla)は、ほぼ全ての菌株において発現される、黄色ブドウ球菌のHLA遺伝子によってコードされる分泌型毒素タンパク質である。他のタイプの溶血素と比較して、α溶血素は黄色ブドウ球菌の病原性に影響を与えるより重要な病原性因子であり、研究によって、α溶血素を発現するHLA遺伝子を欠失させた黄色ブドウ球菌では、感染動物における毒性が大幅に低減されることが示された。α溶血素タンパク質は、全長319アミノ酸および相対分子量33 kDを有し、単量体の形態で分泌される。孔形成毒素ファミリーのメンバーの1つとして、α溶血素の最も明確に定義された生物学的特性は、宿主内の赤血球および他の組織細胞を迅速に溶解する能力である。α溶血素は宿主細胞上のコレステロールおよびスフィンゴミエリンに結合し、その後、それらは共に凝集して、約232 kDの相対分子量を有する七量体を形成し、これが今度は折り畳まれて、直径約1.5 nmを有するβバレル膜貫通構造を形成し、細胞内の水、イオンおよび他の小分子を漏出させ、それによって標的細胞の溶血または死滅を引き起こす。さらに、α溶血素は、毛細血管の平滑筋の収縮および攣縮を引き起こし、それによって毛細血管の閉塞を引き起こし、虚血および組織壊死を引き起こすこともある。したがって、α溶血素は、黄色ブドウ球菌が敗血症、肺炎、乳腺感染症、角膜感染症、重篤な皮膚感染症などのような疾患を引き起こすプロセスにおいて重要な役割を果たす。同時に、α溶血素はまた、宿主の感染組織中の白血球を破壊し、感染した黄色ブドウ球菌を宿主が除去するのを阻止する。宿主免疫系および抗生物質の圧力下で、感染部位の黄色ブドウ球菌は大量のα溶血素を放出し、放出されたα溶血素が血液に入ると、宿主免疫系が活性化されて過剰な炎症性因子を放出し、それによって敗血症を生じる。
【0007】
超細菌の継続的な出現に備えて、抗体薬はポスト抗生物質時代の強力なツールになっている。抗体は適応免疫系によって産生される天然タンパク質の一種であり、抗体薬は受動免疫によりヒトの体に投与されて、抗体は病原性因子を中和することができるだけでなく、病原体に対する宿主の免疫応答能力を強化することができ、感染した病原体の排除を加速することができる。α溶血素は、以下の理由で黄色ブドウ球菌感染症の処置のための抗感染症抗体薬の標的としてのその可能性を示す。
【0008】
α溶血素は黄色ブドウ球菌株間で高度に保存されており、ほぼ全ての黄色ブドウ球菌株において発現される; α溶血素は明確な生物学的機能を有し、黄色ブドウ球菌による宿主感染の形成と敗血症の発症の過程で重要な役割を果たす; 哺乳動物細胞にはα溶血素の相同タンパク質が存在しないため、α溶血素をターゲティングすることにより、低い潜在的オフターゲットの可能性ならびに低い毒作用および副作用を有する抗体薬をデザインすることができる。
【0009】
それゆえ、α溶血素は黄色ブドウ球菌感染症に対する抗体薬の理想的な標的であり、α溶血素の効果的な中和は、ヒト体内での黄色ブドウ球菌感染症の遮断、重篤な感染後の敗血症の発生の回避および臨床的に感染した患者の予後の改善に有益である。現在、Aridis Pharmaceuticals, Inc.社により開発された、α溶血素をターゲティングする完全ヒト抗体R-301 (サルベシン(登録商標))が第III相臨床試験に入っており、主な適応症は黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む)によって引き起こされる重度の肺炎である; Astrazeneca Pharmaceuticals Inc.社により開発された、α溶血素をターゲティングするヒト化抗体MEDI4893は、第II相臨床試験中であり、黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む)肺炎の予防および処置に主に用いられている。
【0010】
現在、バンコマイシンなどのような抗生物質は、依然として黄色ブドウ球菌感染症を処置するための第一選択薬であるが、薬剤耐性の継続的な増加および新しい抗生物質の開発の遅れを考慮すると、毒素を直接中和することによる黄色ブドウ球菌に対する新規かつ非常に効果的な抗体薬を開発することが当技術分野において依然として必要とされている。黄色ブドウ球菌α溶血素の溶血活性のために、対応するモノクローナル抗体の調製戦略は、α溶血素に基づくトキソイドを免疫原として用いハイブリドーマ技術によりモノクローナル抗体を調製すること; α溶血素を標的タンパク質として用いることによりインビトロ抗体ライブラリをスクリーニングすることなどを主に含む。これらの方法は、病原性α溶血素に対して高い親和性および高い生物学的活性を有する抗α溶血素抗体を得るのが困難である。Regeneron Pharmaceuticals Inc.社は、免疫原として弱毒化α溶血素を採用し、表面プラズモン共鳴により陽性クローンの親和性を検出したが、これはスクリーニング効率が低く、高い生物学的活性を有する抗体を効率的に得ることができなかった。
【発明の概要】
【0011】
本発明の概要
本発明が解決しようとする技術的課題は、抗α溶血素抗体分子の従来の調製方法を改善することであり、本発明では以下の戦略が利用されている: 弱毒化毒性免疫により動物におけるα溶血素の病原性の課題を解決し、強毒性スクリーニングにより野生型病原性α溶血素に対する抗体の高い親和性を確実にし、赤血球溶解阻害アッセイ法によりモノクローナル抗体の生物学的活性を初めから確実にし、それによって抗α溶血素治療用モノクローナル抗体のスクリーニング効率を改善することである。さらに、本発明が解決しようとする技術的課題は、黄色ブドウ球菌α溶血素に結合し、溶血素が血液細胞を溶解し組織細胞に損傷を与えるのを阻害する能力を有し、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症または感染症関連疾患の処置のために単独でまたは既存の抗菌剤との組み合わせで使用できる、抗α溶血素抗体分子、特にヒト化された抗α溶血素モノクローナル抗体を提供することである。
【0012】
上記の課題を考慮して、本発明は、抗体またはその機能的断片を提供すること、および抗体またはその機能的断片に基づくそれらの使用に関する。
【0013】
本発明の技術的解決策は以下の通りである。
【0014】
1つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法を提供する:
(1) 弱毒化α溶血素または病原性のないα溶血素で動物を免疫する段階;
(2) 脾細胞を採取し、ハイブリドーマを調製する段階;
(3) それを用いて、病原性α溶血素または野生型α溶血素に対して高い親和性を有する抗体をスクリーニングする段階;
(4) 赤血球溶解阻害アッセイ法を通じて、病原性α溶血素または野生型α溶血素により引き起こされる赤血球溶解を阻害する活性を有する抗体を選択する段階。
【0015】
赤血球溶解阻害アッセイ法は、希釈された抗体(またはハイブリドーマ上清)を等量のα溶血素と混合し、インキュベーションのために赤血球を添加し、遠心分離して上清を取得し、およびα溶血素による赤血球溶解に対する抗体の阻害活性をOD450により検出することを含む。
【0016】
好ましくは、本発明による抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法において、病原性α溶血素または野生型α溶血素は、黄色ブドウ球菌α溶血素であり、好ましくは、SEQ ID NO: 78に示されるアミノ酸配列を有し; かつ、弱毒化α溶血素または病原性のないα溶血素は、H35Lを有するα溶血素であり、好ましくは、SEQ ID NO: 80に示されるアミノ酸配列を有する。
【0017】
好ましくは、本発明による抗α溶血素モノクローナル抗体を調製するための方法において、病原性α溶血素または野生型α溶血素、弱毒化α溶血素、または病原性のないα溶血素は、精製タグ、担体タンパク質、および/またはアジュバント分子に独立して連結され; かつ、該連結は、カップリング、架橋、コンジュゲーション、および/または融合を含む。
【0018】
別の局面において、本発明は同様に、前述の方法のいずれか1つによって調製された抗α溶血素モノクローナル抗体であって、α溶血素の溶血効果の遮断、α溶血素の肺上皮細胞に対する損傷の遮断、MRSA感染肺組織における細菌負荷の低減、MRSA菌血症に苦しむ患者の生存時間の延長、およびα溶血素によって引き起こされる敗血症の予防または緩和からなる群より選択される少なくとも1つの活性を有する該抗体を提供する。
【0019】
本発明による前述の方法のいずれか1つによって調製される抗α溶血素モノクローナル抗体は、以下の構造を有する:
SEQ ID NO: 1、2、3、12、13、14、22、23、24、34、35、および36からなる群より選択されるVH-CDR1;
SEQ ID NO: 4、5、6、15、16、17、25、26、27、28、37、38、および39からなる群より選択されるVH-CDR2;
SEQ ID NO: 7、18、29、および40からなる群より選択されるVH-CDR3;
SEQ ID NO: 8、19、30、31、および41からなる群より選択されるVL-CDR1;
SEQ ID NO: 9、11、20、32、および42からなる群より選択されるVL-CDR2; ならびに
SEQ ID NO: 10、21、33、および43からなる群より選択されるVL-CDR3。
【0020】
さらなる局面において、本発明は、以下からなる群より選択されるCDRの組み合わせ(VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3; およびVL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3)を含む重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む抗体またはその断片を提供する:
(1) SEQ ID NO: 1に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 4に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(2) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 5に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(3) SEQ ID NO: 3に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(4) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 9に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(5) SEQ ID NO: 2に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 6に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 7に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 8に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 11に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 10に示されるVL-CDR3;
(6) SEQ ID NO: 12に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 15に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(7) SEQ ID NO: 13に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 16に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(8) SEQ ID NO: 14に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 17に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(9) SEQ ID NO: 13に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 17に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 18に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 19に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 20に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 21に示されるVL-CDR3;
(10) SEQ ID NO: 22に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 25に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(11) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 26に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(12) SEQ ID NO: 24に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 27に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(13) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 27に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 30に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(14) SEQ ID NO: 23に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 28に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 29に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 31に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 32に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 33に示されるVL-CDR3;
(15) SEQ ID NO: 34に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 37に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3;
(16) SEQ ID NO: 35に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 38に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3;
(17) SEQ ID NO: 36に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 39に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3; ならびに
(18) SEQ ID NO: 35に示されるVH-CDR1、SEQ ID NO: 39に示されるVH-CDR2、およびSEQ ID NO: 40に示されるVH-CDR3; ならびにSEQ ID NO: 41に示されるVL-CDR1、SEQ ID NO: 42に示されるVL-CDR2、およびSEQ ID NO: 43に示されるVL-CDR3。
【0021】
好ましくは、本発明によって提供される抗体またはその断片において、重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 44、SEQ ID NO: 48、SEQ ID NO: 52、SEQ ID NO: 56、SEQ ID NO: 60、SEQ ID NO: 64、SEQ ID NO: 68およびSEQ ID NO: 72のいずれか1つに示されるアミノ酸配列または示された該アミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含み; ならびに/あるいは
軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 46、SEQ ID NO: 50、SEQ ID NO: 54、SEQ ID NO: 58、SEQ ID NO: 62、SEQ ID NO: 66、SEQ ID NO: 70、SEQ ID NO: 74およびSEQ ID NO: 76のいずれか1つに示されるアミノ酸配列または示された該アミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明の特定の態様によれば、抗体またはその断片は、以下の組み合わせからなる群より選択される重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む:
(1) SEQ ID NO: 44に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 44に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 46に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 46に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(2) SEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 50に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 50に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(3) SEQ ID NO: 52に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 52に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 54に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 54に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(4) SEQ ID NO: 56に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 56に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 58に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 58に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(5) SEQ ID NO: 60に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 60に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 62に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 62に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(6) SEQ ID NO: 64に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 64に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 66に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 66に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(7) SEQ ID NO: 68に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 68に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 70に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 70に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列;
(8) SEQ ID NO: 72に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 72に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 74に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 74に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; ならびに
(9) SEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 48に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列; および、SEQ ID NO: 76に示されるアミノ酸配列またはSEQ ID NO: 76に示されるアミノ酸配列と少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0023】
上記の少なくとも75%の同一性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性のような、75%以上の任意のパーセント同一性である。
【0024】
本発明によって提供される抗体またはその断片は、任意の形態であり得、例えば、モノクローナル抗体、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、二官能性抗体、ナノボディ、完全もしくは部分ヒト化抗体またはキメラ抗体などであり得; あるいは、抗体またはその断片は、半抗体または半抗体の抗原結合断片、例えば、単鎖可変断片(scFv)、二価単鎖可変断片(BsFv)、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(ジスルフィド安定化Fv断片)2 (dsFv)2、抗原結合断片(Fab)、Fab'断片、F(ab')2断片、または可変断片(Fv)であり; 本発明によって提供される抗体の断片に関して、好ましくは、断片は、抗原である黄色ブドウ球菌α溶血素に特異的に結合することができる抗体の任意の断片である。
【0025】
あるいは、本発明による抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM、より好ましくはIgG1である。抗体の断片は、抗体のscFv、Fab、F(ab')2およびFv断片からなる群より選択される。
【0026】
好ましくは、抗体またはその断片は、ヒトまたはマウスの定常領域、好ましくはヒトまたはマウスの軽鎖定常領域(CL)および/または重鎖定常領域(CH)をさらに含み; より好ましくは、抗体またはその断片は、IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgEからなる群より選択される重鎖定常領域ならびに/またはカッパ型もしくはラムダ型軽鎖定常領域を含む。本発明の特定の態様によれば、抗体はモノクローナル抗体、好ましくはマウス由来、キメラまたはヒト化モノクローナル抗体であり; より好ましくは、モノクローナル抗体の重鎖定常領域はIgG1またはIgG4サブタイプの重鎖定常領域であり、モノクローナル抗体の軽鎖定常領域はカッパ型の軽鎖定常領域である。
【0027】
好ましくは、本発明によって提供される抗体またはその断片は、SEQ ID NO: 86に示される重鎖定常領域および/もしくはSEQ ID NO: 87に示される軽鎖定常領域または示された該重鎖定常領域もしくは軽鎖定常領域のいずれかと少なくとも75%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0028】
さらなる局面において、本発明は、本発明の任意の抗体もしくはその断片をコードするヌクレオチド配列、または、該抗体もしくはその断片に含まれる重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子を提供する。
【0029】
本発明の特定の態様によれば、核酸分子は、本発明による抗体またはその断片の重鎖可変領域または軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む。例えば、核酸分子は、SEQ ID NO: 45、SEQ ID NO: 47、SEQ ID NO: 49、SEQ ID NO: 51、SEQ ID NO: 53、SEQ ID NO: 55、SEQ ID NO: 57、SEQ ID NO: 59、SEQ ID NO: 61、SEQ ID NO: 63、SEQ ID NO: 65、SEQ ID NO: 67、SEQ ID NO: 69、SEQ ID NO: 71、SEQ ID NO: 73、SEQ ID NO: 75、およびSEQ ID NO: 77のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含む。
【0030】
さらに別の局面において、本発明は、本発明による核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターは、真核生物発現ベクター、原核生物発現ベクター、人工染色体、ファージベクターなどとすることができる。
【0031】
本発明のベクターまたは核酸分子は、抗体の保存または発現などのために、宿主細胞を形質転換もしくはトランスフェクトするために、または何らかの方法で宿主細胞に入り込むために用いられうる。したがって、さらなる局面において、本発明は、本発明による核酸分子および/もしくはベクターを含む宿主細胞、または本発明による核酸分子および/もしくはベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。宿主細胞は、細菌細胞または昆虫細胞、真菌細胞、植物細胞または動物細胞のような、任意の原核細胞または真核細胞でありうる。
【0032】
本発明の開示によれば、本発明によって提供される抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、および/または宿主細胞は、当技術分野において公知の任意の従来技法を用いて得ることができる。例えば、抗体に関しては、抗体の重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域、または抗体の重鎖および/もしくは軽鎖は、本発明によって提供される核酸分子から得られてもよく、その後、抗体は、それらを抗体の任意の他のドメインとアセンブルすることによって得られる; あるいは、本発明によって提供される宿主細胞は、宿主細胞が、抗体の重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域、または抗体の重鎖および/もしくは軽鎖を発現させ、それらを抗体へアセンブルさせることを可能にする条件の下で培養される。任意で、本方法は、産生された抗体を回収する段階をさらに含んでもよい。
【0033】
本発明によって提供される抗体またはその断片は同様に、他の部分、例えば、細胞表面受容体、アミノ酸および糖質などの小分子化合物、小分子重合体、または本発明の抗体を修飾する任意の他の部分、あるいは抗菌ペプチドもしくは抗生物質などの活性タンパク質もしくはポリペプチドと組み合わされうる。したがって、別の局面において、本発明は、本発明によって提供される抗体またはその断片を含むコンジュゲートまたは融合タンパク質を提供する。例えば、コンジュゲートまたは融合タンパク質は、本発明による抗体またはその断片を含む二重特異性抗体とすることができる。
【0034】
本発明によって提供される抗体またはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲートまたは融合タンパク質は、実際に必要とされるさまざまな目的で用いられるために、薬学的組成物、より具体的には、薬学的調製物に含有されうる。したがって、さらなる局面において、本発明は同様に、本発明による抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲートおよび/または融合タンパク質、ならびに任意で、薬学的に許容される賦形剤を含む、薬学的組成物を提供する。
【0035】
任意の使用目的のために、本発明は同様に、本発明の抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物を含む、キットを提供する。
【0036】
本発明による抗体またはその断片は、α溶血素に結合して該溶血素が血液細胞を溶かして組織細胞を傷つけることを阻害する能力に基づいて、単独でまたは他の任意の抗菌剤との組み合わせで、α溶血素もしくはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症、またはその感染症から生じる他の疾患もしくは状態を処置または改善するために用いることができる。したがって、本発明は同様に、上述の主題の関連用途を提供する。
【0037】
特に、さらなる局面において、本発明は、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための医薬の製造における、本発明による抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物の使用を提供する。
【0038】
さらに、本発明は、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための医薬の製造における、別の抗菌剤または抗α溶血素抗体との組み合わせでの抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物の使用を提供する。
【0039】
さらに、本発明は、以下の段階を含む、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症および合併症を予防または処置するための方法を提供する: それを必要とする対象に、抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物、ならびに任意で抗菌剤を投与する段階。任意の抗菌剤は、本発明の抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物と共投与される薬剤でありうる。これら2つの共投与は、同時、順次または間隔を置いてなど、どのような方法であってもよい。
【0040】
本発明において、α溶血素産生微生物は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を含む黄色ブドウ球菌であることが好ましい。
【0041】
本発明において、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症は、上気道感染症、肺炎、重症肺炎、腹部感染症、皮下および軟部組織感染症、菌血症、ならびにさまざまな臓器における感染症からなる群より選択される1つまたは複数であってもよく; 合併症は急性呼吸促迫症候群(ARDS)、敗血症、および体内の炎症性因子の上昇からなる群より選択される1つまたは複数であってもよい。
【0042】
本発明において、別の抗菌剤は、黄色ブドウ球菌、例えばメチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされる感染症の処置および予防に有用な薬剤(化学薬剤、生物学的薬剤および漢方薬を含む)であり、好ましくはβ-ラクタム系抗生物質などの抗生物質である。抗生物質は、米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America; IDSA)または中国医学会(Chinese Medical Association)が発行するガイドライン/処置戦略に記載されている薬物、好ましくはバンコマイシン、ノルバンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシン、セファピプラゾール、フシジン酸、またはセフタロリンでありうる。
【0043】
本発明は同様に、以下の段階を含む、α溶血素またはα溶血素産生微生物によって引き起こされる感染症を診断するための方法を提供する: 抗体もしくはその断片、核酸分子、ベクター、宿主細胞、コンジュゲート、融合タンパク質および/または薬学的組成物を対象からのサンプルと接触させる段階。
【0044】
本発明において、「対象」は、霊長類またはげっ歯類などの哺乳類、より好ましくはヒトでありうる。
【0045】
本発明において、「α溶血素」および「α溶血素毒素」という用語は、宿主細胞膜内で七量体構造にオリゴマー化して孔を形成し、細胞溶解、炎症、および組織損傷を引き起こす、黄色ブドウ球菌が分泌する33 kDaの単量体タンパク質を互換的にいう。野生型α溶血素のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 78に示されている通りである。修飾α溶血素(H35L変異体)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 80に示されている通りである。別段の指示がない限り、α溶血素への言及は、野生型をいう。Hla-H35Lは、35位のヒスチジンがロイシンに変えられたα溶血素である。これにより、毒素は宿主細胞膜上でプレ孔が形成されるまでアセンブルすることが可能になるが、完全に機能する孔は形成されない。このため、α溶血素は無毒となる。
【0046】
本発明において、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合により相互に連結された2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン分子(すなわち「完全抗体分子」)、およびその多量体(例えばIgM)またはその抗原結合断片をいうように意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「VH」)および重鎖定常領域(ドメインCH1、CH2およびCH3を含む)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVR」または「VL」)および軽鎖定常領域(CL)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が組み入れられた、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分化することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配列されている: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明のある種の態様において、抗体(またはその抗原結合断片)のFRは、ヒト生殖細胞系列の配列と同一でありうるか、または天然もしくは人為的に修飾されうる。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれ以上のCDRの並列分析に基づいて定義されうる。
【0047】
1つもしくは複数のCDR残基の置換または1つもしくは複数のCDRの省略も可能である。抗体は、結合のために1つまたは2つのCDRが省かれうることが科学的文献に記述されている。Padlanら(1995 FASEB J. 9: 133-139)は、公開された結晶構造に基づいて、抗体とその抗原との間の接触領域を分析し、CDR残基の約5分の1から3分の1だけが実際に抗原に接触すると結論付けた。また、Padlanは、1つまたは2つのCDRが抗原と接触しているアミノ酸を持たない多くの抗体を発見した(Vajdos et al. 2002 J Mol Biol 320: 415-428も参照のこと)。抗原と接触しないCDR残基は、以前の研究に基づき(例えばCDRH2における残基番号H60~H65は必要とされないことが多い)、Chothia CDRの外側にあるKabat CDRの領域から、分子モデリングによりおよび/または経験的に同定することができる。CDRまたはその残基が省略される場合、それは通常、別のヒト抗体配列またはそのような配列のコンセンサスにおいて対応する位置を占めるアミノ酸と置換される。CDR内の置換のための位置および置換するアミノ酸も、経験的に選択することができる。経験的置換は、保存的置換または非保存的置換とすることができる。
【0048】
「特異的に結合する」または「に特異的に結合する」などという用語は、抗体またはその抗原結合断片が、生理的条件の下で比較的安定な抗原と複合体を形成することを意味する。特異的結合は、少なくとも約1×10-6 Mまたはそれ以下の平衡解離定数によって特徴付けることができる(例えば、KDが小さいほど、結合が密であることを示す)。2つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は、当技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。本明細書において記述されるように、抗体は表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)により、α溶血素に特異的に結合することが同定されている。さらに、α溶血素中の1つのドメインおよび1つもしくは複数の追加の抗原に結合する多重特異性抗体、またはα溶血素の2つの異なる領域に結合する二重特異性抗体は、それでもなお、本明細書において用いられる場合、「特異的に結合する」抗体とみなされる。
【0049】
用語「高親和性」抗体は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)または溶液親和性ELISAによって測定された場合、KDとして表現される、少なくとも10-7 M、好ましくは10-8 M、より好ましくは10-9 M、さらにより好ましくは10-10 M、さらにより好ましくは10-11 Mのα溶血素に対する結合親和性を有するmAbをいう。
【0050】
「遅いオフ速度」、「K解離」および「kd」という用語は、表面プラズモン共鳴、例えばBIACORE(商標)によって決定された場合、1×10-3 s-1またはそれ以下、好ましくは1×10-4 s-1またはそれ以下の速度定数でα溶血素から解離する抗体をいうように意図される。
【0051】
本明細書において用いられる、抗体の「抗原結合部分」、「抗原結合断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成によるまたは遺伝子操作されているポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。本明細書において用いられる、抗体の「抗原結合断片」または「抗体断片」という用語は、α溶血素に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数の断片をいう。
【0052】
特定の態様において、本発明の抗体または抗体断片は、治療用部分、例えば抗生物質、第2の抗α溶血素抗体またはIL-1、IL-6もしくはTGF-βなどのサイトカインに対する抗体、あるいは黄色ブドウ球菌感染症、皮膚および軟部組織感染症(膿瘍を含む)、手術部位感染症、人工関節感染症、菌血症、敗血症、敗血症性関節炎、髄膜炎、骨髄炎、心内膜炎、肺炎、中毒性ショック症候群、乳腺炎および癰、ならびに癰(おでき)を含む疾患または状態の処置において用いるのに適した任意の他の治療用部分にコンジュゲートされうる(「免疫コンジュゲート」)。
【0053】
本明細書において用いられる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体(Ab)を実質的に含まない抗体をいうように意図される(例えば、α溶血素に特異的に結合する単離された抗体、またはその断片は、α溶血素以外の抗原に特異的に結合するAbを実質的に含まない)。
【0054】
本明細書において用いられる「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数をいうように意図される。
【0055】
本発明では、先行技術と比較して、黄色ブドウ球菌α溶血素(α毒素)および毒性を持たない黄色ブドウ球菌α溶血素変異体タンパク質(α毒素H35L)が大腸菌(Escherichia coli)での原核発現により得られた。マウスにα毒素H35Lを免疫し、脾臓細胞を採取し、ハイブリドーマ技術を用いて抗体ライブラリを樹立することに成功した。α溶血素(α毒素)に対する高い親和性および生物学的活性を有する抗α溶血素モノクローナル抗体をライブラリスクリーニングによって取得し、抗α溶血素モノクローナル抗体をさらにヒト化した後に(IgG1サブタイプの)リード抗体分子を取得した。
【0056】
具体的には、本発明では、マウスにα毒素H35Lを免疫し、脾臓細胞を採取し、ハイブリドーマ技術を用いて抗体ライブラリを樹立することに成功した; α溶血素(α毒素)に対する高い親和性および生物学的活性を有する抗α溶血素モノクローナル抗体をライブラリスクリーニングによって取得し、α溶血素に対する高い親和性を有するだけでなく、α溶血素によって引き起こされる溶血を遮断する活性も有する計16個のリード抗体分子を取得した。特に、本発明では、抗原選択および抗体スクリーニングに関して、弱毒化免疫および強毒性スクリーニングが採用された。
【0057】
ヒト-マウスキメラ抗体およびヒト化抗体をマウス由来リード抗体分子に基づいて組換え発現させ、最終的にマウス由来抗体のものと同様の生物学的活性を有するヒト化抗体分子を得た。
【0058】
インビトロでの薬力学的研究は、本発明のヒト化抗体が用量依存的に、ウサギ赤血球に及ぼすα溶血素の溶血効果および肺上皮細胞に及ぼすα溶血素の損傷効果を遮断できることを示した。さらに、本発明において、マウスで樹立されたα溶血素誘発敗血症モデル、MRSA菌血症モデルおよびMRSA肺感染症モデルを利用して、リード抗体分子に対する薬力学的評価を動物において実行した。研究結果から、本発明のヒト化抗体がα溶血素誘発敗血症モデルにおいてマウスに顕著な保護効果を及ぼす; MRSA菌血症モデルにおいてマウスの生存時間を著しく引き延ばすことができる; MRSA肺感染症モデルにおいてマウスでの組織の細菌負荷を明らかに低減することができることが示された。さらに、本出願のヒト化抗体と、バンコマイシンおよびリネゾリドなどのような従来の抗菌剤との併用適用から、マウスで樹立されたα溶血素誘発敗血症モデル、MRSA菌血症モデルおよびMRSA肺感染症モデルにおいて顕著な相乗効果が示された。
【0059】
さらに、本発明の抗体の単回用量の薬物動態研究が20 mg/kgの投与量でカニクイザル(N = 3)において実施され、その結果から、基本的な薬物動態パラメータが創薬可能性基準を満たしていることが示された(表1): インビボ排出半減期(T1/2)は137 ± 36.9時間、血漿クリアランス(CL)は0.501 ± 0.222 ml/h/kgであった。さらに、本発明の抗体の急性毒性試験研究をマウス(N = 10)で実行し、その結果から、24時間で最大125 mg/kgの投与量を投与した場合、マウスは死亡せず、14日間の継続的な観察中に動物は不快感を示さない; 殺処理した動物の組織学的観察のために採取された主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳)に異常は見られない; カニクイザルに投与量10 mg/kgの本発明の抗体を1回投与した場合、動物の死亡は起きず、28日間の連続観察でも動物に不快感は見られないことが示された。急性毒性試験研究から、本発明の抗体が良好な安全性を有することが示された。
【0060】
本発明による抗体は、毒素を効果的に中和し、患者の組織細胞への毒素の損傷を遮断し、患者の免疫を向上させることができるため、臨床的な黄色ブドウ球菌感染症による組織損傷を緩和し、患者の体内の感染細菌をより迅速に除去することを促進し、敗血症を予防または緩和することができる。この抗体の作用により、患者は静脈内注入処置から経口処置へより迅速に移行することができ、処置期間を短縮することができる; 一方、本発明による抗体は、より良好な臨床治癒効果および耐性を有し、既存の抗生物質治療の好ましい補完となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
本発明の態様は、以下の添付の図面を参照して下記に詳細に説明される。
【0062】
図1】Hisタグ融合黄色ブドウ球菌α溶血素(α毒素)タンパク質の組換え発現プラスミドの構築を示す。
図2】Hisタグ融合黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)タンパク質の組換え発現プラスミドの構築を示す。
図3】組換え発現された黄色ブドウ球菌α溶血素およびその変異体(H35Lα毒素)のSDS-PAGE電気泳動(10%ゲル)の結果を示し、図中でパネル3Aはα毒素を示し、パネル3BはH35Lα毒素を示し、負荷量は10μgである。
図4】ヒツジ血液寒天プレートに及ぼす黄色ブドウ球菌α溶血素およびその変異体(H35Lα毒素)の溶血効果を示す。
図5】ウサギ血液に及ぼす黄色ブドウ球菌α溶血素およびその変異体(H35Lα毒素)の溶血効果を示し、図中でパネル5Aはα毒素を示し、パネル5BはH35Lα毒素を示す。
図6A図6は、ハイブリドーマ細胞株のスクリーニング中に得られた検出結果を示し、図中でそれぞれ、パネル6Aは異なる細胞株の上清中の抗体のα溶血素への結合のELISA検出結果を示し、パネル6Bはα溶血素に及ぼす異なる細胞株の上清中の抗体の阻害結果を示す。
図6B図6Aの説明を参照のこと。
図7】本発明の抗体のα溶血素への結合のELISA検出結果を示し、図中でパネル7Aから7Dは、それぞれ、スクリーニングされた抗体78D4、16H4、78F4および98G9のα溶血素への結合を示す。
図8A図8は、本発明の抗体およびα溶血素のOctctによって検出された会合および解離の曲線を示し、図中でパネル8Aから8Dは、それぞれ、スクリーニングされたヒト化バージョンの抗体78D4、16H4、78F4および98G9のα溶血素への結合を示す。
図8B図8Aの説明を参照のこと。
図8C図8Aの説明を参照のこと。
図8D図8Aの説明を参照のこと。
図9】α溶血素の溶血活性に及ぼす本発明の抗体の効果を示し、図中でパネル9Aから9Cは、それぞれ、異なる抗体量での結果を示す。
図10】α溶血素誘発敗血症の動物モデルにおける本発明の抗体の治療効果を示す。
図11】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌誘発菌血症の動物モデルにおける本発明の抗体の治療効果を示す。
図12】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎の動物モデルにおける本発明の抗体の治療効果を示す。
図13】カニクイザルにおける単回投与後の本発明の抗体の薬物動態研究の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
好ましい態様の詳細な説明
本発明を、具体的な実施例に関して以下に例示する。これらの実施例は、本発明の単なる例示であり、いかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではないことが当業者によって理解されるであろう。
【0064】
以下の実施例における実験手順は、特に明記されていない限り、全て従来の手順である。以下の実施例における原材料および試薬は、特に明記されていない限り、全て市販の製品である。
【0065】
以下のような既知の抗体が、対照として本明細書において用いられる。
【0066】
重鎖可変領域がSEQ ID NO: 82に示される通りであり、軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 83に示される通りである、Aridis Pharmaceuticals, Inc.社の、完全ヒト抗体R-301 (サルベシン(登録商標))、略称AR (US9249215B2参照)。
【0067】
重鎖可変領域がSEQ ID NO: 84に示される通りであり、軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 85に示される通りである、Astrazeneca Pharmaceuticals Inc.社の、ヒト化抗体MEDI4893、略称AZ (US20140072577A1参照)。
【0068】
以下のように本発明によって提供される抗体は、SEQ ID NO: 86に示される重鎖定常領域およびSEQ ID NO: 87に示される軽鎖定常領域を有する。
【実施例
【0069】
実施例1 Hisタグ融合黄色ブドウ球菌α溶血素(α毒素)の組換え発現
標的配列として用いられた黄色ブドウ球菌α溶血素のアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列を人工的に合成し、制限酵素NdeIおよびXhoIの部位を利用するHisタグを含んだプラスミドpET-21aにクローニングした。黄色ブドウ球菌α溶血素のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 78に示される通りであり、対応するヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 79に示される通りであり、組換えプラスミドの構築は図1に示されている。
【0070】
得られた組換えプラスミドをコンピテントBL21(DE3) pLysS細胞に形質転換し、単一コロニーを翌日採取し、100μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地に接種した後に、終夜37℃での振とう培養を行った。終夜培養物を、100μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地に体積比1:100で接種し、約0.6~0.8のOD600まで200 rpmにて37℃で振とう培養を実施した。IPTGを培養物に添加して終濃度を0.1 mMに到達させ、16℃で16~18時間誘導を実施した。誘導後、細菌培養物を採取し、8,000 rpmで3分間遠心分離し、細菌細胞を収集し、-80℃で保存した。
【0071】
実施例2 Hisタグ融合黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)の組換え発現
黄色ブドウ球菌α溶血素のアミノ酸配列に基づいて、35位のヒスチジン(His)をロイシン(Leu)に変異させることにより、変異アミノ酸配列を得た。変異アミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列を人工的に合成し、制限酵素NdeIおよびXhoIの部位を利用するHisタグを含んだプラスミドPet-21aにクローニングした。黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)のアミノ酸配列はSEQ ID NO: 80に示される通りであり(H35Lはその配列中36位にある)、対応するヌクレオチド配列はSEQ ID NO: 81に示される通りであり、組換えプラスミドの構築は図2に示されている。
【0072】
得られた組換えプラスミドをコンピテントBL21(DE3) pLysS細胞に形質転換し、単一コロニーを翌日採取し、100μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地に接種した後に、終夜37℃での振とう培養を行った。終夜培養物を、100μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地に体積比1:100で接種し、約0.6~0.8のOD600まで200 rpmにて37℃で振とう培養を実施した。IPTGを培養物に添加して終濃度を0.25 mMに到達させ、25℃で4.5時間誘導を実施した。誘導後、細菌培養物を採取し、8,000 rpmで3分間遠心分離し、細菌細胞を収集し、-80℃で保存した。
【0073】
実施例3 黄色ブドウ球菌α溶血素(α毒素)およびその変異体(H35Lα毒素)の精製
黄色ブドウ球菌α溶血素およびその変異体が誘導的に発現されている大腸菌細胞をそれぞれ、180 Wの超音波システムにより、動作モード3秒間、および休止モード3秒間で、計7~9分、超音波処理した。13,000 rpmで30分間の遠心分離の後、上清を収集し、0.22μmフィルタを通じたろ過により滅菌した。
【0074】
Niカラムに充填材を詰め、その後、ろ過した上清とロータリ式混合機で室温にて1時間混合した。Niカラムを、発色溶液の色が変化しなくなるまで5カラム体積の緩衝液1 (30 mMの濃度のイミダゾールを含有する)で最初に溶出させて、カラムに非特異的に結合したタンパク質を除去し、その後、5カラム体積の緩衝液2 (300 mMの濃度のイミダゾールを含有する)で溶出させて、標的タンパク質を得た。その後、標的タンパク質を含有する溶出液を濃縮し、10 KD濃縮器を用い溶媒としてPBS中に置き換えた。得られたタンパク質の電気泳動結果を図3に示す。
【0075】
実施例4 黄色ブドウ球菌α溶血素(α毒素)およびその変異体(H35Lα毒素)の生物学的活性の検出(インビトロ溶血アッセイ法およびマウスにおけるインビボ毒性アッセイ法)
それぞれ、異なる濃度(5μg/mL、0.5μg/mLおよび0.05μg/mL)の黄色ブドウ球菌α溶血素およびその変異体の各々10μLをヒツジ血液寒天プレート(Shanghai Comagal Microbial Technology CO., LTD)の表面に滴下し、プレートをインキュベーションのために24時間、37℃のインキュベータに入れた。次に、滴下したα溶血素の周囲に溶血リングが明らかに見え、滴下したα溶血素の濃度に関連する直径を有していた; その一方で、滴下したα溶血素変異体の周囲に溶血リングは見られなかった。アッセイ法の結果を図4に示す。
【0076】
75μLの5%ウサギ赤血球(Bio-channel Biotechnology)および異なる量の黄色ブドウ球菌α溶血素またはその変異体を96ウェルプレートのウェルに添加し、PBSを添加して終体積150μLを得た。96ウェルプレートを37℃のインキュベータ内で1時間インキュベートした後、3000 rpmで3分間遠心分離した。マイクロプレートリーダーを用いて測定した405 nm (OD405)での吸光度により、各ウェルの上清100μLを溶血活性について評価した。この結果から、α溶血素がウサギ赤血球に対して用量依存的な溶血活性を有していたのに対し、α溶血素変異体は溶血活性を有していなかったことが示された。アッセイ法の結果を図5に示す。
【0077】
実施例1、2および3に記述した方法によって組換え発現された黄色ブドウ球菌α溶血素またはその変異体の異なる投与量を、尾静脈注射によりC57マウスに投与した。C57マウスにおける黄色ブドウ球菌α溶血素の最低致死量は3μg/マウスであり; その一方で、最高用量200μg/マウスのα溶血素変異体を投与したマウスでは何の不快感も見られないことが分かった。
【0078】
実施例5 黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)によるC57マウスの免疫
α溶血素またはα溶血素変異体をPBSでさまざまな濃度に希釈し、尾静脈を介してC57マウスに注射した。C57マウスに及ぼすそれら2つの毒性効果を比較して、動物のその後の免疫に適した免疫原およびその投与量を選択した。結果を表1に示す。
【0079】
(表1)マウスに及ぼすα溶血素およびα溶血素変異体の異なる投与量の毒性効果
【0080】
実施例6 黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)によるBalb/cマウスの免疫
Antibodies a Laboratory Manual, Second Edition (Edward A. Greenfield 2012)を参照して、8週齢Balb/cマウスを、14日間隔で計42日の手順を用いて免疫した。
【0081】
黄色ブドウ球菌α溶血素変異体を完全または不完全フロイントアジュバントに乳化し、各マウスの首筋、尾根および鼠径部の皮下組織および腹腔に、片側に注射した。免疫35日目に、尾静脈血を採取し、ELISAで抗体価を検出し、免疫したマウスの脾臓細胞を採取し、骨髄腫細胞と融合させた。
【0082】
実施例7 ハイブリドーマ細胞株のスクリーニングおよび同定ならびに抗体の配列決定
黄色ブドウ球菌α溶血素変異体(H35Lα毒素)で免疫したBalb/cマウスの脾臓細胞を採取し、PEGまたは電気融合法を用いて骨髄腫細胞P3X63Ag8.653と融合させた。融合したハイブリドーマ細胞を30枚の384ウェルプレートに接種し、24時間後、HAT含有培地およびHT含有培地を添加してハイブリドーマ細胞を選択した。384ウェルプレート中で10~14日間培養した後、細胞培養物の上清を採取し、α毒素を用いたELISAアッセイ法に供して、α溶血素に特異的に結合する抗体を分泌できるハイブリドーマクローンをスクリーニングした(パネル6A参照)。その後、ELISAにより検出されたウェルからのOD値を最も高いものから最も低いものの順に並べて、1プレート当たり上位94位までの値を有するウェルを選択し、その中の細胞を培養のために96ウェルプレートに移動させた(384ウェルプレートのうち、プレート番号30はELISA検出の陽性度が低かったため、このプレートのウェルは、移動用には選択しなかった); 計29枚の96ウェルプレートを移動させた。
【0083】
生理学的条件下では、α溶血素の存在は赤血球の溶解を引き起こし、溶解物の放出は上清の色の変化をもたらす。細胞によって分泌される上清中の抗α溶血素抗体は、α溶血素が赤血球を溶解するのを阻害することができる。上清の吸光度の検出により、α溶血素によって引き起こされる細胞の溶解の程度およびα溶血素に及ぼす抗体の阻害を検出することができる。
【0084】
溶血の検出は、プレート移動後の96ウェルプレートの培養上清に対して実施し、以下の段階を含んだ: WTα毒素を希釈して5μg/mLの濃度を有する原液を得た; この原液25μLを採取し、等量の細胞培養上清と混合し、この混合物を、1ウェル当たり5%のウサギ赤血球(PBS中で75μLに希釈した)を含有する96ウェルプレートに添加した; 96ウェルプレートをインキュベーションのために1時間、37℃のインキュベータに入れた。その後、96ウェルプレートを遠心分離機中3000 rpmで3分間遠心分離した。上清75μLを新しい96ウェルプレートに添加し、マイクロプレートリーダーを用いてOD405およびOD450を測定した。結果の一部をパネル6Bに示す。
【0085】
抗α溶血素抗体を分泌するスクリーニングされたハイブリドーマクローンを、限界希釈によりフィーダー細胞でプレーティングされた96ウェルプレートに添加した。モノクローナル細胞を、2~3日後に顕微鏡下で観察およびマークし、抗α溶血素モノクローナル抗体を分泌することができるモノクローナルハイブリドーマ細胞を、7日後にELISAアッセイ法によってスクリーニングした。
【0086】
抗α溶血素モノクローナル抗体を分泌するモノクローナルハイブリドーマ細胞を拡張培養に供し、キットの説明書に記述された段階に従いRNAfast200 Kit (Shanghai Flytech Biotechnology Co., Ltd.)を用いて細胞の全RNAを抽出し; 得られたハイブリドーマ細胞の全RNAを、5×PrimeScript RT Master Mix (Takara)を用いてcDNAに逆転写し; 抗体軽鎖可変領域IgVL (κ)および重鎖可変領域VHの配列を、縮重プライマー(Anke Krebber., 1997)およびExtaq PCR試薬(Takara)を用いて増幅させた。PCR増幅産物を、PCR Clean-up Gel Extraction Kit (Macherey-Nagel GmbH & Co.)を用いて精製し; キットの説明書に従いpClone007 Simple Vector Kit (Tsingke Biotechnology Co., Ltd.)を用いてT-ベクターに連結し、コンピテント大腸菌細胞に形質転換した。モノクローナル抗体の可変領域配列を、株増幅およびプラスミド抽出後のDNA配列決定によって得た。
【0087】
得られたマウス抗体の可変領域配列は以下のように分析された:
>マウス抗体98G9
重鎖可変領域:
軽鎖可変領域:
【0088】
重鎖および軽鎖CDRを、さまざまな定義ツールを用いてマウス抗体98G9に対して定義し、表2に示す。
【0089】
(表2)マウス抗体98G9のCDR配列
【0090】
>マウス抗体78F4
重鎖可変領域:
軽鎖可変領域:
【0091】
重鎖および軽鎖CDRを、さまざまな定義ツールを用いてマウス抗体78F4に対して定義し、表3に示す。
【0092】
(表3)マウス抗体78F4のCDR配列
【0093】
>マウス抗体78D4
重鎖可変領域:
軽鎖可変領域:
【0094】
重鎖および軽鎖CDRを、さまざまな定義ツールを用いてマウス抗体78D4に対して定義し、表4に示す。
【0095】
(表4)マウス抗体78D4のCDR配列
【0096】
>マウス抗体16H4
重鎖可変領域:
軽鎖可変領域:
【0097】
重鎖および軽鎖CDRを、さまざまな定義ツールを用いてマウス抗体16H4に対して定義し、表5に示す。
【0098】
(表5)マウス抗体16H4のCDR配列
【0099】
実施例8 α溶血素(α毒素)に対する本発明の抗体の結合親和性
α溶血素をPBSで1μg/mLに希釈し、次いで1ウェル当たり100μLを96ウェルプレート(Microwell 96F 167008, Thermo)に添加し、コーティングのために4℃で終夜インキュベートした。翌日、96ウェルプレートをPBST (0.5% PBSを含有する)で洗浄し、その際にはウェルを毎回1分間PBSTに浸し、その後、残留水を徹底的にスピンオフした。5% BSAを含有するPBST 200μLをそれぞれプレートのウェルに添加し、これを次にブロッキングのために37℃で1時間インキュベートし; その後、プレートをPBSTで洗浄し、次いでウェル内の残留水を徹底的にスピンオフした。
【0100】
連続希釈によって得られた異なる濃度の組換え発現された抗α溶血素モノクローナル抗体の各々100μL (抗体濃度については図7中の横座標を参照のこと)を1ウェルごとに96ウェルプレートに添加し、これを次に4℃で終夜インキュベートした。次に、96ウェルプレートをPBSTで洗浄した後、抗マウスIgG二次抗体(IH-0031, Beijing Dingguo Changsheng Biotechnology CO. LTD.) 100μLを各ウェルに添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。PBSTで5回洗浄し、プレートに1ウェル当たり100μLの基質溶液(Invitrogen)を添加し、37℃で10分間インキュベートした。1ウェル当たり50μLの2 N硫酸の添加により反応を停止させ、マイクロプレートリーダー(Multiskcin FC, Thermo)中で波長450 nmの吸光度を測定した。
【0101】
結果を図7に示す。
【0102】
実施例9 本発明のキメラ抗体およびヒト化抗体の取得
最初に、マウス抗体の完全な軽鎖可変領域および重鎖可変領域をヒト軽鎖定常領域および重鎖定常領域と組み合わせて、対照としてキメラ抗体を得た。得られた各キメラ抗体を「マウス抗体略語-xi」の形式にしたがって命名した。
【0103】
各マウス抗体の重鎖配列の包括的な分析により、抗原に結合する抗体の相補性決定領域(CDR)、および保存された抗体3次元立体構造を支持するフレームワーク領域(FR)が決定された。既知のヒト抗体の配列を検索および分析し、IGHV1-301などの、マウス抗体に最も類似し最も近いヒト抗体の重鎖配列を選択し、その中のフレームワーク領域の配列を鋳型として選択した。マウス抗体の重鎖CDRをヒト抗体のフレームワーク領域に移植して、ヒト化抗体重鎖配列(重鎖バージョン0)を作出した。その後、抗原-抗体結合に関与している可能性のあるマウスフレームワーク領域中の位置に対応する個々のアミノ酸位置の残基を、元のマウス残基に逆変異させて、ヒト化抗体重鎖配列(バージョン1、2、3、……)を作出した。ヒト化抗体軽鎖配列(バージョン0、1、2、……)を、同じ手順を適用することによって作出した。ヒト化抗体の軽鎖配列および重鎖配列をデザインし、合成し、HEK 293細胞に同時トランスフェクトし、ヒト化抗体を組換え発現させた(バージョンは次のように命名された: 例えば、H0L0は重鎖バージョン0 + 軽鎖バージョン0を共発現させることにより得られ、バージョン00とさらに省略することができた)。実験により、精製されたヒト化抗体は、それぞれマウス親抗体の活性と一致するα溶血素タンパク質に特異的に結合する活性を示すことが証明された。
【0104】
それらの最終的に得られたヒト化抗体バージョンおよびキメラ抗体xiバージョンを、Octet装置を用い抗原結合について比較した。図8は、特定の抗体の測定結果を示す。抗原への抗体の結合の会合および解離段階の曲線から、特定のヒト化抗体バージョンは、抗体-抗原の会合および解離段階において、対照抗体(本発明のキメラ抗体または抗体AZおよびARを含む)と類似またはさらに良好な特性を示す。
【0105】
スクリーニングにより、以下の配列を有するヒト化抗体を得た。
【0106】
>ヒト化抗体98G9-02(98G9-H0L2)
重鎖可変領域(H0):
軽鎖可変領域(L2):
【0107】
>ヒト化抗体98G9-03(98G9-H0L3)
重鎖可変領域(H0):
軽鎖可変領域(L3):
【0108】
>ヒト化抗体78F4-00(78F4-H0L0)
重鎖可変領域(H0):
軽鎖可変領域(L0):
【0109】
>ヒト化抗体78D4-33(78D4-H3L3)
重鎖可変領域(H3):
軽鎖可変領域(L3):
【0110】
>ヒト化抗体16H4-11(16H4-H1L1)
重鎖可変領域(H1):
軽鎖可変領域(L1):
【0111】
ヒト化抗体の重鎖CDRおよび軽鎖CDRを表6に示す。
【0112】
(表6)ヒト化抗体のCDR配列
【0113】
実施例10 α溶血素(α毒素)に対する本発明の抗体の抗溶血活性の検出
75μLの5%ウサギ赤血球(Bio-channel Biotechnology)および12.5 ngの黄色ブドウ球菌α溶血素および異なる量の抗α溶血素抗体(12.5 ng、25 ng、および50 ng)を96ウェルプレートのウェルに添加し、PBSを添加して終体積150μLを得た。96ウェルプレートを37℃のインキュベータ内で1時間インキュベートした後、3000 rpmで3分間遠心分離した。マイクロプレートリーダーを用いて測定した405 nm (OD405)での吸光度により、各ウェルの上清100μLを溶血活性について評価した。
【0114】
実験結果から、本発明のキメラ抗体およびヒト化抗体は、α溶血素に対して明らかな抗溶血活性を有し、これが用量依存的であったこと、および特定の抗体は対照抗体ARおよびAZに匹敵する活性を有していたことが示された。この結果を図9に示す。
【0115】
実施例11 α溶血素(α毒素)に対する本発明の抗体の結合動態(Kオン, Kオフ)および親和性定数KDの検出
抗体-抗原相互作用は、GE HealthcareのBIAcore S200を用いて測定された。
【0116】
GE HealthcareのHuman Antibody Capture Kit (カタログ番号BR-1008-39, Lot 10261753)のなかで提供されている説明書を参照して、まず初めに CM5センサチップの分析チャネルおよび対照サンプルチャネルを最大量の抗ヒトFc抗体で飽和およびカップリングさせ、次に7.5 ug/mlで検出される抗体を分析チャネルに流れさせ、均一に分散させ; 最後に勾配希釈した抗原サンプル(初期濃度は20 nMであり、1:3で希釈して8濃度を得、濃度0.741 nMを繰り返し設定した)を分析チャネルとサンプルチャネルの両方に流れさせ、抗原への抗体の結合時の光反応を測定した。その後、抗体の会合定数Kオンおよび解離定数Kオフならびに親和性定数KDを、機器ソフトウェア適合(1:1)分析によって最終的に得た。
【0117】
結果を表7に示す。
【0118】
(表7)抗原に対する本発明の抗体の結合動態および親和性定数
【0119】
実施例12 α溶血素誘発敗血症の動物モデルの樹立および本発明の抗体の治療効果の検出
C57BL/6Jマウスを、体重に応じてモデル対照群およびモノクローナル抗体薬物処置群に無作為に分けた。実験30分前に、処置群のマウスに、対応する抗α溶血素モノクローナル抗体(6μg/マウス)をそれぞれ尾静脈から注射し、対照群のマウスに同じ用量のPBSを注射した; 次いで全てのマウスに、尾静脈を介してα溶血素(3μg/マウス)を注射して、敗血症感染マウスモデルを樹立した。実験動物の生存時間を観察および記録し、その結果を図10に示す。
【0120】
実施例13 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌誘発菌血症の動物モデルの樹立および本発明の抗体の治療効果の検出
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌USA300株を、固体TSBプレート上で2世代にわたって活性化し、次いで終夜培養のため液体TSB培地中に植菌した。細菌細胞を、12,000 rpmで遠心分離することによって収集し、後で使用するために生理的食塩水に再懸濁した。
【0121】
C57BL/6Jマウスを尾静脈から6×107 CFU/マウス USA300に感染させ、体重に応じてモデル対照群(対照)と抗α溶血素モノクローナル抗体薬物処置群に無作為に分けた。感染2時間後、モノクローナル抗体薬物処置群のマウスに、それぞれ5 mg/kgの対応する抗体の投与量を尾静脈注射によって投与し、対照群のマウスに同じ用量のPBSを注射した。群内のマウスの生存時間を観察および記録し、その結果を図11に示す。
【0122】
実施例14 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎の動物モデルの樹立および本発明の抗体の治療効果の検出
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌USA300株を、固体TSBプレート上で2世代にわたって活性化し、次いで終夜培養のため液体TSB培地中に植菌した。細菌細胞を、12,000 rpmで遠心分離することによって収集し、後で使用するために生理的食塩水に再懸濁した。
【0123】
C57BL/6Jマウスを気管から1.8×108 CFU/マウス USA300に感染させ、体重に応じてモデル対照群、モノクローナル抗体薬物処置群、バンコマイシン処置群、およびバンコマイシン+モノクローナル抗体処置群に無作為に分けた。感染2時間後、郡内のマウスに尾静脈注射により、処置のための対応する薬物(対応するモノクローナル抗体の投与量は15 mg/kgであり、バンコマイシンの投与量は1.25 mg/kgであった)、または同量のPBSを投与した。感染24時間後に動物を殺処理し、肺組織を採取し、重量を量り、ホモジナイズし、固体TSB培地上に広げて、組織内の細菌負荷を検出した。実験結果から、本発明の抗α溶血素抗体が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌肺炎の処置におけるバンコマイシンの薬力学的効果を増強することができることが示された。
【0124】
結果を図12に示す。
【0125】
実施例15 本発明の抗体の急性毒性研究
本発明の抗体分子78D4 H3L3に関する急性毒性研究を、マウスおよびカニクイザルにおいて実施した(マウスでの実験の場合N = 10、およびカニクイザルでの実験の場合N = 3)。
【0126】
半数が雄性で半数が雌性のC57BL/6マウス(18~20 g)に、24時間以内に尾静脈を介してマウス当たり125 mg/kgの抗体分子78D4 H3L3を注射した。結果から、最大で125 mg/kgの投与量を24時間で投与した場合、マウスは死亡せず、14日間の連続観察中に動物によって不快感は示されず、殺処理した動物から組織学的検査の観察のために採取された主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳)に異常は見られないことが示された。
【0127】
雄性カニクイザルに、サル1匹あたり10 mg/kgの抗体分子78D4 H3L3を、四肢に静脈内注入により単回用量で投与した。結果から、投与量10 mg/kgの抗体分子78D4 H3L3を投与した場合、動物の死亡は起こらず、28日間の連続観察中に動物によって不快感は示されないことが示された。
【0128】
急性毒性試験の研究から、抗体分子78D4 H3L3は良好な安全性を有することが示された。
【0129】
実施例16 本発明の抗体の薬物動態研究
抗体分子78D4 H3L3を、10 mg/kgの用量で、カニクイザル(N = 3)において単回用量の薬物動態研究に供した。
【0130】
雄性カニクイザルに、サル1匹あたり10 mg/kgの抗体分子78D4 H3L3を、四肢に静脈内注入により単回用量で投与した。血液を投与前0時間(投薬前、0時間)の時点で、ならびに投与を開始した後0.25時間(15分)、0.5時間(針が抜かれた時点)、4時間、24時間(D2)、48時間(D3)、96時間(D5)、168時間(D8)、336時間(D15)、504時間(D22)および672時間(D29)の時点でサンプリングした。血液サンプリング部位は、動物の四肢(投与された四肢ではない)の末梢静脈、または動物の鼠径静脈中であった。血液サンプルは約1 mLの全血/動物/時点であった。カニクイザルからの血清中の抗体濃度を、ELISAを用いて決定し、AUClast、CL、T1/2などのような薬物動態パラメータを、非コンパートメント分析法を用いてPhoenix WinNonlin (v6.4, Pharsight, Inc.)ソフトウェアにより計算した。
【0131】
カニクイザルからの血清中の抗体78D4 H3L3の濃度を、ELISAを用いて決定した。個々の動物の血清薬物レベルを図13に示しており、薬物動態パラメータを表8に要約している。薬物曝露は、投与後の各動物で見ることができる。
【0132】
(表8)抗体78D4 H3L3の薬物動態結果
【0133】
本発明の態様の上の記述は、本発明を限定することを意図するものではなく、当業者は、本発明の趣旨から逸脱することなく本発明にさまざまな変更および修正を加えることが可能であり、それらは添付の特許請求の範囲内に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2022-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022548937000001.app
【国際調査報告】