(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】DNAメチル化異常を用いた免疫抗癌治療反応性予測方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20221115BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518340
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2020012487
(87)【国際公開番号】W WO2021054713
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0114977
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514291196
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】522110164
【氏名又は名称】ペンタメディックス・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PENTAMEDIX CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】517HO, 516, 42, CHANGEOP‐RO, SUJEONG‐GU, SEONGNAM‐SI GYEONGGI‐DO 13449, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジュン・ギュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ヒュン・チュル
(72)【発明者】
【氏名】チョ,デ・ヨン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
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4B063QA01
4B063QA18
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4B063QQ42
4B063QR55
(57)【要約】
本発明は、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、及び前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、及び、
前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項2】
前記グローバルDNAメチル化レベルは、複数のLINE-1(Long Interspersed Nuclear Element-1)因子で発生するメチル化の平均値として測定されるものである請求項1に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項3】
前記LINE-1因子は、L1HSまたはL1PAである請求項2に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項4】
前記癌治療に対する反応性を評価する工程は、前記グローバルDNAメチル化レベルが低い場合、癌治療に対する抵抗性が高いものと判断する請求項1に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項5】
前記癌治療は、免疫療法である請求項1に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項6】
前記試料は、組織、全血、血清、唾液、喀痰、脳脊髄液または尿である請求項1に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項7】
前記癌は、黒色腫、膀胱癌、食道癌、神経膠腫、副腎癌、肉腫、甲状腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、尿路上皮癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、精巣癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、脳癌、乳癌、腎臓癌または肺癌である請求項1に記載の癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項8】
癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、
前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得する工程、及び、
前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報及び腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項9】
癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、
前記試料から腫瘍突然変異負荷mutation burdenに関する情報を取得する工程、
前記試料から染色体異数性情報を取得する工程、及び、
前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報、前記腫瘍突然変異負荷に関する情報及び前記染色体異数性情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法。
【請求項10】
癌治療反応性予測装置において、
プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、
前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、
前記グローバルDNAメチル化レベルが低い場合、癌治療に対する抵抗性が高いものと判断する請求項10に記載の癌治療反応性予測装置。
【請求項12】
前記癌治療は、免疫療法である請求項10に記載の癌治療反応性予測装置。
【請求項13】
前記試料は、組織、全血、血清、唾液、喀痰、脳脊髄液または尿である請求項10に記載の癌治療反応性予測装置。
【請求項14】
前記癌は、黒色腫、膀胱癌、食道癌、神経膠腫、副腎癌、肉腫、甲状腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、尿路上皮癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、精巣癌、 卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、脳癌、乳癌、腎臓癌または肺癌である請求項10に記載の癌治療反応性予測装置。
【請求項15】
癌治療反応性予測装置において、
プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、
前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、
前記グローバルDNAメチル化レベル及び前記腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置。
【請求項16】
癌治療反応性予測装置において、
プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、
前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、
前記試料から染色体異数性に関する情報を取得し、
前記グローバルDNAメチル化レベル、前記腫瘍突然変異負荷及び前記染色体異数性に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAメチル化異常を用いた癌治療反応性を予測するための情報提供方法、並びに予測装置に関する。より具体的には、LINE-1因子(長鎖散在性反復配列-1(Long Interspersed Nuclear Element-1))ベースで測定されるグローバルDNAメチル化レベルの情報を用いた癌患者の免疫療法に対する反応性を予測するための情報提供方法、並びに予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、世界で最も高い死因の一つであり、早期診断の可否が完治率を決定することが多く、健康診断などを通じての癌の早期診断が重要視されている。一般に、健康診断の際によく利用される癌検査は、血液中のタンパク質腫瘍マーカー(marker)検査であり、その他に内視鏡、組織検査などを通じて癌発生の有無を確認することができる。
【0003】
癌を引き起こすゲノム異常変異には3種類があることが知られており、染色体の一部が丸ごと変わったり、塩基配列が1~2箇所変わる染色体の順番や塩基配列の変化に加えて、クロマチン修飾(chromatin modification)であるエピジェネティク修飾がその原因であるといえる(Sticker T,Catenacci DV,Seiwert TY.Molecular profiling of cancer-the future of personalized cancer medicine:a primer on cancer biology and the tools necessary to bring molecular testing to the clinic.Semin Oncol 2011 38(2):173-85)。一般に、染色体の一部または数箇所が変化する変異は、遺伝的(genetic)なものがその原因とも考えられ、放射線などの突然変異の誘発要因により体細胞において局所的に起こり得る。エピジェネティックゲノム修飾の中でも最も代表とされる癌細胞におけるDNAメチル化の変化は、正確な原因が明らかにされていないが、食生活や環境的要因がその原因であると考えられている。特にこのようなエピジェネティックゲノム修飾は、癌が発生した組織のゲノムに多く見られており、これを用いた診断法の開発など、臨床適用への関心が高まっている。
【0004】
DNAメチル化(DNA methylation)は、シトシンのピリミジン環の5番目の炭素にメチル基(-CH3)が共有結合で添加される現象であって、DNAメチル化は、正常な個体の発生においてもゲノム刷り込み、X染色体不活性化など様々な生命現象で重要な役割を果たしている。
【0005】
癌組織では、正常細胞とは異なる2種のDNAメチル化現象が現れるが、それは、ゲノム全体にわたるグローバルな低メチル化(hypomethylation)現象と、遺伝子発現の調節部位に位置するCpGアイランドの高メチル化(hypermethylation)現象である。低メチル化現象は、主に遺伝子と遺伝子間領域(intergenic region)に現れ、これは染色体を不安定にし、細胞分裂過程で染色体の組換え、転移、欠失、再配列などを引き起こすと推測されている。特にLINE-1のようなトランスポゾン(transposon)が通常はメチル化により発現が抑制されるが、癌での低メチル化現象により発現され、ゲノムのあちこちに転移され、染色体不安定性の一因となることが知られている。ここで、癌組織におけるDNAメチル化の変化は、エピジェネティック(epigenetic)であると考えられており、このようなエピジェネティック修飾は、細胞分裂後も維持されるので、低メチル化及び高メチル化は、トランスポゾン及びCpGアイランド周辺に位置する遺伝子の発現に持続的な影響を与えることになる。実際、癌抑制遺伝子(tumor suppressor)、細胞周期調節遺伝子、DNA修復関連遺伝子、細胞接着関連遺伝子などは、癌組織において、DNAメチル化によって発現が抑制されることにより、これらの遺伝子が崩壊したことと同様の効果を奏することが知られている(McCabe MT,Brandes JC, Vertino PM.Cancer DNA methylation:molecular mechanisms and clinical implications.Clin Cancer Res.2009 15(12):3927-37)。これら遺伝子の発現が抑制されることによって細胞は異常に増殖し、遺伝的安定性を維持することができなくなり、さらなる突然変異を誘発し、癌を進行させるのに重要な役割をすることになる。
【0006】
一方、CTLA-4、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害剤などの免疫抗癌剤は、癌細胞または癌関連遺伝子を標的として作用する既存の抗癌剤とは異なり、体内免疫系を活性化して、免疫細胞が癌細胞を攻撃するように助ける。免疫抗癌剤は、高価格の割に完治に近い効果を示す患者は少数に過ぎず、免疫療法に適した患者グループを選別することが重要であるが、治療反応性を予測する因子に関する知識は非常に制限的であり、免疫療法反応性とDNAメチル化異常の相関関係に対する研究は、皆無であるのが実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sticker T,Catenacci DV,Seiwert TY.Molecular profiling of cancer-the future of personalized cancer medicine:a primer on cancer biology and the tools necessary to bring molecular testing to the clinic.Semin Oncol 2011 38(2):173-85
【非特許文献2】McCabe MT,Brandes JC, Vertino PM.Cancer DNA methylation:molecular mechanisms and clinical implications.Clin Cancer Res.2009 15(12):3927-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、患者の試料から得られたLINE-1トランスポゾンから測定されたグローバルDNAメチル化データに基づいて癌治療反応を予測するための情報提供方法を提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、患者の試料から得られたLINE-1トランスポゾンから測定されたグローバルDNAメチル化データに基づく癌治療反応性予測装置を提供することである。
【0010】
ただし、本発明が解決しようとする課題は、上述した課題に限定されず、言及されなかった他の課題は、以下の記載により当該技術分野における通常の知識を有する者に明確に理解されるはずであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、及び前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0012】
一態様によれば、前記グローバルDNAメチル化レベルは、多数のLINE-1因子に生じるメチル化の平均値を用いて測定されてもよい。
【0013】
一態様によれば、前記LINE-1因子は、L1HSまたはL1PAであってもよい。
【0014】
一態様によれば、前記LINE-1因子は、進化的新生LINE-1ファミリーに該当し、進化的新生LINE-1ファミリーを選別する基準としては、RepeatMaskerデータベース(http://www.repeatmasker.org)で提供されるDNA配列を使用することができる。
【0015】
一態様によれば、癌治療に対する反応性を評価する工程は、前記グローバルDNAメチル化レベルが低い場合、癌治療に対する抵抗性が高いものと判断することができる。
【0016】
一態様によれば、癌治療は、免疫療法であってもよい。
【0017】
一態様によれば、前記試料は、癌組織、全血、血清、唾液、喀痰、脳脊髄液または尿であってもよい。
【0018】
一態様によれば、前記癌は、黒色腫、膀胱癌、食道癌、神経膠腫、副腎癌、肉腫、甲状腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、尿路上皮癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、精巣癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、脳癌、乳癌、腎臓癌または肺癌であってもよい。
【0019】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得する工程、及び、前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報及び前記腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0020】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得する工程、前記試料から染色体異数性情報を取得する工程、及び、前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報、前記腫瘍突然変異負荷に関する情報、及び、前記染色体異数性情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0021】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【0022】
本発明のさらにもう一つの一実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベル及び腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【0023】
本発明のさらにもう一つの一実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、前記試料から染色体異数性に関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベル、前記腫瘍突然変異負荷及び前記染色体異数性に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明による癌治療反応性を予測するための情報提供方法及び予測装置は、癌患者のグローバルDNAメチル化情報、腫瘍突然変異負荷情報、染色体異数性情報、または、これらの組み合わせに基づいて患者の癌治療に対する抵抗性を予測することができ、高い信頼性でもって迅速かつ簡便に癌治療反応性に関する情報を提供することができる。
【0025】
したがって、本発明の癌治療反応性を予測するための情報提供方法及び予測装置を用いる場合、癌治療、特に免疫療法を進める際に先立って治療効果及び良好な予後が予測される患者グループを選別するのに効果的である。
【0026】
ただし、本発明の効果は、前記の効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能な全ての効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】21種の癌に対する細胞増殖マーカー(a)、腫瘍突然変異負荷(b)、染色体異数性レベル(c)及び腫瘍浸潤CD8+T細胞マーカー(d)とグローバルDNAメチル化レベルの相関関係を示すものである。
【
図2a】グローバル低メチル化が腫瘍突然変異負荷や染色体異数性との関連性とは無関係に癌の免疫性低下に関連していることを示すものであり、
図2aは、グローバルメチル化レベルが癌組織に浸潤している多様な免疫細胞の活性と、正の相関関係(赤色ヒートマップ)を示すことを表し、
図2bは、グローバルメチル化レベルが癌細胞内で発現される免疫遺伝子(hallmark immune gene set)とは正の相関関係(赤色ヒートマップ)、細胞分裂遺伝子(hallmark proliferation gene set)とは負の相関関係(青色ヒートマップ)があることを示す。
【
図2b】グローバル低メチル化が腫瘍突然変異負荷や染色体異数性との関連性とは無関係に癌の免疫性低下に関連していることを示すものであり、
図2aは、グローバルメチル化レベルが癌組織に浸潤している多様な免疫細胞の活性と、正の相関関係(赤色ヒートマップ)を示すことを表し、
図2bは、グローバルメチル化レベルが癌細胞内で発現される免疫遺伝子(hallmark immune gene set)とは正の相関関係(赤色ヒートマップ)、細胞分裂遺伝子(hallmark proliferation gene set)とは負の相関関係(青色ヒートマップ)があることを示す。
【
図3a】DNA複製時期が遅い領域(late-replicating region)における遺伝子の発現量が、グローバルメチル化の高い患者の試料と低い患者の試料の間でどのような差異を見せるかを、各癌腫別に示すものであり、各癌腫において、グローバルメチル化が低い患者から遺伝子の発現が低いことが確認できた。
【
図3b】DNA複製時期が遅い領域にある遺伝子のプロモーターに存在するCpGアイランド中、正常細胞に比べて高メチル化(hypermethylation)されたものの個数をグローバルメチル化の高い患者の試料と低い患者の試料の間で各癌腫別に比較したものであって、各癌腫においてグローバルメチル化が低い患者からCpGアイランド高メチル化がより多く起こることが確認できた。
【
図3c】細胞分裂に対応する遺伝子は複製時期が早い領域(early replication)により密集しており、逆に免疫応答に関連する遺伝子は複製時期が遅い領域に密集していることを統計学的に示している。
【
図4a】肺癌コホート試料(n=141)のグローバルメチル化レベルによるDNAメチル化態様をCpGアイランド(CGI)、ショア、シェルフ、及びオープンシー部位に分けて見たものである。
【
図4b】前記試料において、グローバルメチル化レベルに応じて、CGI及びオープンシー領域におけるメチル化、腫瘍突然変異負荷、染色体異数性レベルがそれぞれ定量的にどのように変化するかを示す。
【
図5a】肺癌コホート試料において、Cox比例ハザードモデルを用いて解析したグローバルメチル化レベルによる生存率として2つのコホートを合わせた場合(combined cohort)、IDIBELLコホート、SMCコホートそれぞれについての結果を示す。
【
図5b】肺癌コホート試料において、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した腫瘍突然変異負荷による生存率として2つのコホートを合わせた場合(combined cohort)、IDIBELLコホート、SMCコホートそれぞれに対する結果を示す。
【
図6】黒色腫コホート試料において、Cox比例ハザードモデルを用いて解析したグローバルメチル化レベルと腫瘍突然変異負荷による生存率とを比較して示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の実施のための最善の形態)
本発明は、DNAメチル化異常を用いた免疫抗癌治療反応性予測方法に関するものであって、より具体的には、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程及び前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法またはグローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置に関するものであってもよい。
【0029】
(発明を実施するための形態)
以下、添付された図面を参照にして実施形態を詳細に説明する。しかし、実施形態に様々な変更を加えることができるので、特許出願の権利範囲はこれらの実施形態によって制限または限定されるものではない。これらの実施形態の全ての変更、均等物ないし代替物が権利範囲に含まれることが理解されるべきである。
【0030】
実施形態で使用した用語は、単に説明のために用いたものであって、限定する意図として解釈されるべきではない。単数の表現は、文脈上明らかに別段の意味がない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」または「有する」等の用語は、明細書に記載された特徴、数字、工程、動作、構成要素、部品、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定することを意図したものであり、1つ以上の他の特徴、数字、工程、動作、構成要素、部品、またはそれらの組み合わせの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されるべきである。
【0031】
特に断りがない限り、技術的または科学的用語を含む本明細書で使用される全ての用語は、実施形態が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されているような用語は、関連技術の文脈上の意味と一致する意味を有することと解釈されるべきであり、本出願で明白に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されるべきではない。
【0032】
なお、添付図面を参照して説明することにあたり、図面符号にかかわらず同じ構成要素は同じ参照符号を付与し、これに対する重複する説明は省略する。実施形態の説明において、関連する公知技術の具体的な説明が実施形態の要旨を不明確にする恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0033】
本発明は、グローバルDNAメチル化が変異した腫瘍の免疫回避反応及び免疫療法に対する抵抗性と関連することを見出して完成に至ったものであり、癌治療反応性及び予後を予測するのに活用できる新たなマーカーであって、グローバルDNAメチル化の使用を提供するものである。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、及び前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0035】
本発明において、「癌治療反応性予測をするための情報提供方法」という用語は、診断のための予備的な工程であって、癌の診断に必要な客観的な基礎情報を提供するものであり、医師の臨床的判断または所見は除外される。
【0036】
本発明において、「メチル化(methylation)」という用語は、DNAを構成するシトシンのピリミジン環の5番目の炭素にメチル基(-CH3)が共有結合で付加する現象を意味する。より具体的には、本発明の「グローバルDNAメチル化」は、LINE-1 CpG部位のシトシンで起こるメチル化を意味する。メチル化が起こる場合、それに応じて転写因子の結合が妨げられて特定遺伝子発現が抑制され、逆に脱メチル化(demethylation)または低メチル化(hypomethylation)が起こる場合には、特定遺伝子発現が増加することができる。
【0037】
本発明において、前記グローバルDNAメチル化レベルは、複数のLINE-1因子で発生するメチル化の平均値として測定されることを意味し、前記LINE-1因子は進化的新生LINE-1ファミリーに該当するL1HSまたはL1PAであってもよい。
【0038】
一方、前記メチル化の平均値は、マイクロアレイ、メチル化特異的PCR(methylation-specific polymerase chain reaction、MSP)、リアルタイムメチル化特異的PCR(real time methylation-specific polymerase chain reaction)、メチル化DNA特異的結合タンパク質を用いたPCR、パイロシークエンシング、MS-HRM(Methylation-Sensitive High-Resolution Melting Analysis)、メチル化特異-高解像度溶融曲線分析とメチル化感受性制限酵素を用いたメチル化の有無を測定、DNAチップ及びバイサルファイトシーケンシングのような自動塩基解析などの方法で測定することができるが、これに限定されるものではない。
【0039】
なお、メチル化部位はCGIを基準にして離れた距離に応じてシェルフ、ショア、オープンシーに分類できるが、CGIから2kb以内に位置している場合をショア、ショアから2kbまでをシェルフ、CGIから4kb以上離れた地域をオープンシーと示す。
【0040】
本発明において、前記癌治療に対する反応性を評価する工程は、前記グローバルDNAメチル化レベルが低い場合、癌治療に対する対抗性が高いものと判断することができる。具体的には、低いグローバルDNAメチル化レベルを有するほど癌組織に浸潤した免疫細胞の活性が阻害されており、癌細胞内で発現される免疫反応遺伝子の発現量が減少するからである。また、以下の実施形態に示すように、この免疫療法コホート癌患者の生存率が統計学的に有意に減少しており、これは腫瘍突然変異負荷及び染色体異数性情報とは独立して作用する変数として現れ、実際に多く使用されている予測因子である腫瘍突然変異負荷よりも高い精度がいくつかのコホートから一貫して見られることが確認できるところ、本発明の方法により、非常に効果的に癌治療に対する反応性を予測することができる。
【0041】
前記癌治療は免疫療法として、免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor)、免疫細胞治療剤(immune cell therapy)、治療用抗体(therapeutic antibody)等を含むことができる。免疫チェックポイント阻害剤は、T細胞阻害に関与する免疫チェックポイントタンパク質の活性化を遮断し、T細胞を活性化させて癌細胞を攻撃する薬剤であり、CTLA-4、PD-1、PD-L1阻害剤などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
一態様によれば、前記試料は、癌組織、全血、血清、唾液、喀痰、脳脊髄液または尿であってもよい。
【0043】
一態様によれば、前記癌は、黒色腫、膀胱癌、食道癌、神経膠腫、副腎癌、肉腫、甲状腺癌、結腸直腸癌、前立腺癌、頭頸部癌、尿路上皮癌、胃癌、膵臓癌、肝癌、精巣癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、脳癌、乳癌、腎臓癌または肺癌であってもよい。
【0044】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得する工程、及び、前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報及び前記腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0045】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得する工程、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得する工程、前記試料から染色体異数性情報を取得する工程、及び前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報、前記腫瘍突然変異負荷に関する情報、及び、前記染色体異数性情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する工程、を含む、癌治療反応性を予測するための情報提供方法が提供される。
【0046】
前記の情報提供方法において、グローバルDNAメチル化レベルの測定、LINE-1因子、癌治療、試料及び癌腫についての説明は、前述の通りである。
【0047】
なお、本発明において、用語「腫瘍突然変異負荷(Tumor Mutation Burden、TMB)」とは、突然変異の個数を定量的に表現する数値であって、癌組織のシークエンシング結果から百万塩基(mega base)当たり観察される突然変異の個数を意味する。
【0048】
本発明において、用語「染色体異数性(Aneuploidy)」は、細胞、個体または系統において、1つの細胞当たりの染色体数が基本数の整数倍にならず、整数倍に対して1~数個が多いもしくは少ない状態、すなわち不完全な構成をしたゲノムを含む状態を意味する。本発明において、染色体異数性数値は、CNV(コピー数多型(Copy number variations))から導き出すことができるが、これは閾値±0.2(LUAD及びLUSCの平均値)をlog2比率(腫瘍対正常)に適用して染色体の腕部の少なくとも10%または染色体の5%に影響を及ぼす重複/欠失を検出することによって絶対セグメントlog2比の総和で求めた。
【0049】
本発明のもう一つの実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベルに関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【0050】
本発明のさらにもう一つの一実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベル及び前記腫瘍突然変異負荷に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【0051】
本発明のさらにもう一つの一実施形態によれば、癌治療反応性予測装置において、プロセッサを含み、前記プロセッサは、患者の試料から検出されたグローバルDNAメチル化レベルに関する情報を取得し、前記試料から腫瘍突然変異負荷(mutation burden)に関する情報を取得し、前記試料から染色体異数性に関する情報を取得し、前記グローバルDNAメチル化レベル、前記腫瘍突然変異負荷及び前記染色体異数性に関する情報に基づいて癌治療に対する反応性を評価する癌治療反応性予測装置が提供される。
【0052】
前記癌治療反応性予測装置において、グローバルDNAメチル化レベルの測定、LINE-1因子、癌治療、試料及び癌腫についての説明は、上述した通りである。
【0053】
以下、本発明の理解を手助けするために好ましい実施形態を提示する。ただし、以下の実施形態は、本発明をより容易に理解するために提供されるものにすぎず、実施形態によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施形態1.グローバルDNAメチル化と免疫回避の相関関係の導出
1-1.対象データの選定
解析のために、The Cancer Genome Atlas(TCGA)で産生されたDNAメチル化(Infinium Methylation 450k technologyに基づく)、mRNA発現及び遺伝子突然変異データをダウンロードした(https://gdc.cancer.gov/about-data/publications/pancanatlas)。すべての分子データと年齢情報が含まれた100以上の患者の試料がある癌腫として、膀胱癌(BLCA)、乳房腺癌(BRCA)、子宮頸癌、扁平上皮細胞癌、子宮頸部腺癌(CESC)、結腸直腸癌(CRC)、食道癌(ESCA)、頭頸部扁平上皮癌(HNSC)、淡明細胞型腎細胞癌(KIRC)、乳頭状腎細胞癌(KIRP)、低悪性度神経膠腫(LGG)、肝細胞癌(LIHC)、肺腺癌(LUAD)、肺扁平上皮癌(LUSC)、膵臓癌(PAAD)、副腎癌(PCPG)、前立腺癌(PRAD)、肉腫(SARC)、皮膚黒色腫(SKCM)、胃腺癌(STAD)、精巣癌(TGCT)、甲状腺癌(THCA)、及び子宮内膜癌(UCEC)の21種の癌を選定し、これは6968個の試料が含まれた。染色体異数性レベルは、Taylor et al.((Cancer Cell 33,676-689.e3(2018))の図表から得た。
【0055】
1-2.グローバルメチル化レベルの測定
グローバルメチル化レベルを測定するために、Infinium Methylation 450k microarrayの各プローブ(probe)配列の90%(45bp)以上がRepeatMaskerデータベース(www.repeatmasker.org)が提供するyoung LINE-1サブファミリ(L1HS及びL1PA)にマッピングされるプローブを選定した。各腫瘍の試料から選択されたプローブの平均β値を平均化し、グローバルメチル化レベルの推定値として使用した。
【0056】
実施形態2.グローバルDNAメチル化レベル相関関係の導出
前記実施形態1で得られた値を用いて、21種の癌についてグローバルDNAメチル化レベルと細胞増殖マーカー、腫瘍突然変異負荷、染色体異数性及び腫瘍浸潤CD8+ T細胞マーカーの相関関係を導き出し、その結果を
図1に示す。細胞増殖マーカーとは、細胞分裂及び細胞周期に関与する遺伝子を意味し、CD8+ T細胞マーカーとは、CD8+ T細胞にて特異的に発現される遺伝子を意味し、所与の癌組織転写物データにおいて、これらの遺伝子の発現量をマーカーの活性として使用した。各マーカーの定義は、既存の文献(Immunity 48,812-830.e14(2018))に従った。癌腫別にそれぞれの中央値を求め、統計学的有意性は、スピアマンの相関(Separman´s correlation)を用いて検証された。
【0057】
図1に見られるように、DNAメチル化レベルが増加するにつれて、細胞増殖マーカーの発現、腫瘍突然変異負荷及び染色体異数性は、減少する傾向、腫瘍浸潤CD8+ T細胞マーカー発現は増加する傾向を示した。これにより、細胞分裂が起こるにつれて漸進的にDNAメチル化レベルが減少し(脱メチル化またはメチル化損失)、腫瘍突然変異負荷と染色体異数性など、DNA上の変異も増加する正の相関関係が存在するという既存の事実を確認することができた。しかし、本発明で確認された新しい事実は、これらの指標と免疫応答間に相関関係が存在するということである。
【0058】
前記絡み合った相関関係を解くために、癌腫別に各遺伝子に対するmRNA発現レベルを反応変数として用い、グローバルメチル化、腫瘍突然変異負荷、染色体異数性、腫瘍純度、年齢、及び腫瘍ステージを予測変数として線形回帰モデルを適用した。
【0059】
次の公式を用いた回帰モデルは、Rのlm関数を用いて作成された。
遺伝子YのmRNA発現~β1*グローバルメチル化レベル+β2*腫瘍突然変異負荷+β3*染色体異数性レベル+β4*腫瘍純度+β5*年齢+β6*腫瘍ステージ
【0060】
癌腫別に3つの予測変数(グローバルメチル化レベル、腫瘍突然変異負荷、及び染色体異性)について有意な回帰係数を有する遺伝子(Benjamini and Hochberg FDR <0.05)の機能を把握するために、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA;Subramanian,A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.102,15545-15550(2005))を行い、有意なNES(Normalized Enrichment Scores)(FER<0.25)を有する細胞は、色調を調整してGSEA NESsヒートマップを
図2a、2bに示した。
【0061】
その結果、
図2a及び
図2bに示すように、グローバルメチル化レベルが低いほど、腫瘍突然変異負荷と染色体異数性とは無関係に、独立して癌組織に浸潤している多様な免疫細胞の活性も劣っており、癌細胞内で発現される免疫遺伝子の発現量も低くなっていることが確認できた。
【0062】
実施形態3.グローバルDNAメチル化と免疫遺伝子の発現関係
前記実施形態2に示すように、細胞分裂が起こるにつれて漸進的にDNAメチル化レベルが減少し、それにより癌細胞内で発現される免疫遺伝子の発現量が低くなるが、細胞分裂によるメチルの減少は、主にDNA複製時期が遅い領域(late-replicating region)で起こることが知られている。実際には、グローバルメチル化が高い患者の試料と低い患者の試料の間でDNA複製時期が遅い領域の遺伝子発現量にどのような差があるか、癌腫別に比較した。その結果、
図3aに示すように、種々の癌腫からグローバルメチル化が低い患者の遺伝子発現が低いことが確認できた。
【0063】
また、癌の全体的なメチル化の変化は、LINEのようなトランスポゾンでは低メチル化が起こるのに対し、遺伝子プロモーターに存在するCpGアイランドでは、逆に高メチル化が伴うことが知られている。実際、グローバルなメチル化の高い患者の試料と低い患者の試料の間でDNA複製時期が遅い領域にある遺伝子のプロモーターに存在するCpGアイランドの高メチル化の程度を癌腫別に比較した。その結果、
図3bに示すように、種々の癌腫において、グローバルメチル化が低い患者からCpGアイランドと高メチル化がより多く起こることが確認できた。
【0064】
前記実施形態2の結果に示すグローバルメチル化の減少による免疫遺伝子の発現量の減少は、複製時期が遅い領域における前記変化と一致すべきであることを推論することができるが、実際に
図3cに示すように、細胞分裂に関与する遺伝子は 複製時期が早い領域により密集していたのに対し、免疫反応に関連する遺伝子は複製時期が遅い領域に密集していることを統計学的に確認することができた。
【0065】
実施形態4.グローバルDNAメチル化と免疫療法反応性の相関関係
4-1.肺癌チェックポイント阻害剤に対する患者コホート
Samsung Medical Center(SMC)で、2014年から2017年まで抗PD-1/PD-L1で治療を受けた60名の進行性非小細胞性肺癌患者を対象に本研究に登録した。
【0066】
【0067】
臨床反応は、Solid Tumors(RECIST)バージョン1.1の応答評価基準に基づいて少なくとも6ヶ月間の追跡観察によって評価された。免疫療法に対する反応は、持続的臨床的有用性(durable clinical benefit)(DCB,応答者(responder))または 非持続的臨床的有用性(non-durable benefit)(NDB,非応答者(non-responder))に分類された。部分寛解(PR)または6ヶ月以上持続した不変(SD)は、DCB/応答者とみなされた。進行(PD)または6ヶ月未満持続したSDは、NDB/非応答者と見なされた。無増悪生存率(PFS)は、治療開始日から進行日または死亡日のうち早い日まで計算して求めた。患者が癌が進行せず生存している場合は、PFSに対する最後の追跡観察日に検閲された。IDIBELLコホートと名付けられた、同種類の肺癌試料81個のメチル化データは、以下の文献で提供されるものを使用した。Davalos,V.et al.Epigenetic prediction of response to anti-PD-1 treatment in non-small-cell lung cancer:a multicentre,retrospective analysis.Lancet Respir.Med.6,771-781(2018)。
【0068】
4-2.SMC試料に対するメチル化及び腫瘍突然変異負荷の解析
腫瘍試料は、抗PD1/PD-L1治療前に得て、ホルマリン固定後にパラフィンに埋め込んだり、または新鮮な状態で保存された。全エクソームシーケンスのためのライブラリーを調製するために、AllPrep DNA/RNA Mini Kit(Qiagen、80204),AllPrep DNA/RNA Micro Kit(Qiagen、80284)またはQlAamp DNA FFPE Tissue Kit(Qiagen,56404)を用いてDNAを調製した。ライブラリーの調製は、指針に従ってSureSelectXT Human All Exon V5(Agilent,5190-6209)を使用して行った。連結したDNAは、SureSelectXT Human All Exon V5のwhole exome baitsを用いてハイブリダイズした後、ライブラリーをQubit及び2200 Tapestationによって定量し、2X100 bpの対になった端部をIllumina HiSeq 2500プラットフォームでシーケンスした。
【0069】
正常試料の対象範囲は、50×、腫瘍試料は100×とし、体細胞変異体を導出するためにStrelka2 54を使用し、腫瘍において少なくとも10及び5回の読み取りによってカバーされる単一ヌクレオチド変異体(SNV)及びインデルをそれぞれ選択した。また、dbSNP 150に存在する一般的な生殖細胞変異体をさらにフィルタリングし、ANNOVARを使用して体細胞変異体に注釈を付けた。
【0070】
次いで、メチル化解析は、Infinium Methylation EPlC BeadChIP Kit(Illumina、WG-317-1002)の指針に従って行った。未加工メチル化値は、ベータ値で前処理した後、前記実施形態1-2の「グローバルメチル化レベルの測定」にて説明通りに処理した。
【0071】
4-3.グローバルDNAメチル化レベルのチェックポイント阻害剤への影響評価
前記のような過程を通じて測定されたグローバルDNAメチル化レベルの中央値に基づいて、高いグループと低いグループに分けてチェックポイント阻害剤に対する影響を評価した。
【0072】
その結果、低いグループにおいて、主にオープンシー領域に低メチル化が示されるのに対し、CpGアイランド及びその周辺領域では、高メチル化現象があらわれることが分かり(
図4a及び4b)、前記TCGA実施形態の
図1にて観察したように、低いグループにおいて腫瘍突然変異負荷と染色体異数性も同様に増加していることが確認できた。
【0073】
重要なのは、チェックポイント治療後の生存率が変異グループにおいてより低いことが分かった。
図5のa、bから確認できるように、腫瘍突然変異負荷は生存率に有意な相関関係を示さなかったが、グローバルDNAメチル化を予測変数として用いる場合には、低いグループにおいて生存率が有意に減少することが確認できた。
【0074】
以上の結果は癌患者の免疫療法に対する反応性、さらには予後予測にグローバルDNAメチル化レベルが有意なマーカーとして用いることができ、従来知られている腫瘍突然変異負荷よりも癌治療反応性の予測因子としての精度がより高いことを示唆する。
【0075】
実施形態5.グローバルDNAメチル化と黒色腫に対する免疫療法反応性の相関関係
さらに、免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ(lpilimumab)、ヤーボイ(Yervoy)、または、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab))を投与された黒色腫患者15名の無無増悪生存データをOck et.al(Nat.Commun.8,1050(2017))から得た。さらに、他の種類の免疫療法を受けた25名の患者のデータをGDC legacy archive(https://portal.gdc.cancer.gov/legacy-archive)から取得した。それらのメチル化及び突然変異データは、前記実施形態1-1と同様にTCGAから得た。前記実施形態3の記載と同様の方法でグローバルDNAメチル化と患者の生存間の相関関係を評価した。
【0076】
その結果、
図6に示すように、グローバルDNAメチル化レベルが低い場合、無増悪生存率が減少する様相を呈したが、腫瘍突然変異負荷の場合、無増悪生存率に対する有意な相関関係が確認されなかった。
【0077】
以上のように実施形態が限定された図面によって説明されたが、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、前記に基づいて様々な技術的修正及び変形を適用することができる。例えば、記載された技術が記載された方法とは異なる順序で実行したり、及び/または記載された構成要素が記載された方法とは異なる形態で結合または組み合わせたり、他の構成要素または均等物によって置換または置換されたりしても、適切な結果に至ることができる。
【0078】
したがって、他の具現例、もう一つの実施形態、及び特許請求の範囲と均等なものも添付された特許請求の範囲に属する。
【国際調査報告】