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特表2022-549015母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-22
(54)【発明の名称】母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20221115BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20221115BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20221115BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A23C9/123
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519786
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(85)【翻訳文提出日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 CN2020095771
(87)【国際公開番号】W WO2021248440
(87)【国際公開日】2021-12-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522123382
【氏名又は名称】ベイジン サンユアン フーズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】チェン リージュン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ルー
(72)【発明者】
【氏名】イン チュンメイ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ビン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ウェイミン
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B065
【Fターム(参考)】
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC05
4B018LB07
4B018LB10
4B018MD86
4B018ME08
4B018ME09
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF13
4B065AA30X
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA42
(57)【要約】
本発明は母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途を提供する。この母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、ラクトバチルス・プランタルムに分類命名され、受託番号がCGMCC NO.19748である。当該母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、健康な母乳から篩別して得られたものであり、付着能力が極めて強い。そして8種類のよく見られる病原性細菌に対して、いずれも抑制効果がある。かつ8種類の抗生物質に対して感受性であり、さらに、耐酸と耐胆汁酸塩能力を有する。
【選択図】図1(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタルムに分類命名され、受託番号がCGMCC NO.19748である、ことを特徴とする母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項2】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムの腸管細胞への付着率は、≧140%である、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項3】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムのヒト結腸癌細胞への付着率は、≧140%である、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項4】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、グラム陽性菌とグラム陰性菌に対して抑制効果があり、好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、リステリア・モノサイトゲネス、黄色ぶどう球菌、セレウス菌、大腸菌、シゲラ・ソンネイ、チフス菌、エンテロバクター・サカザキ、サルモネラ・エンテリティデスに対して抑制効果があり、さらに好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、大腸菌に対して抑制効果がある、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項5】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、マクロライド系抗生物質、ペニシリン系、アミノグリコシド系、リンコサミド系、セファロスポリン系、キノロン系、クロロマイセチン系に対して感受性であり、好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、エリスロマイシン、アジスロマイシン、アンピシリン、アミカシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、シプロフロキサシン、クロラムフェニコールに対して感受性であり、さらに好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、アジスロマイシン、クリンダマイシン、セフトリアキソンに対して感受性である、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項6】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH2.5条件下で3h生存した後の生存率が≧107%であり、6h生存した後の生存率が≧115%であり、12h生存した後の生存率が≧74%であり、
及び/又は前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH3.5条件下で3h生存した後の生存率が≧105%であり、6h生存した後の生存率が≧129%であり、12h生存した後の生存率が≧117%であり、24h生存した後の生存率が≧145%であり、
及び/又は前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH4.5条件下で3h生存した後の生存率が≧132%であり、6h生存した後の生存率が≧174%であり、12h生存した後の生存率が≧107%であり、24h生存した後の生存率が≧68%であり、
及び/又は前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH3.0条件下で1h生存した後の生存率が≧145%である、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項7】
前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.3%胆汁酸塩条件下で1h生存した後の生存率が≧225%であり、
及び/又は前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.3%胆汁酸塩条件下で3h生存した後の生存率が≧42%であり、0.3%胆汁酸塩条件下で6h生存した後の生存率が≧19%であり、
及び/又は前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.15%胆汁酸塩条件下で3h生存した後の生存率が≧66%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で6h生存した後の生存率が≧60%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で12h生存した後の生存率が≧40%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で24h生存した後の生存率が≧14%である、ことを特徴とする請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルム。
【請求項8】
保健用食品の製造における請求項1に記載の母乳由来ラクトバチルス・プランタルムの用途。
【請求項9】
前記保健用食品は、乳幼児用調製食品又は酸乳を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の用途。
【請求項10】
前記保健用食品の保健作用は、免疫力増強又は便秘治療を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物分野に関し、具体的には、母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
母乳は、乳児の成長初期上欠くことのできない栄養供給源として、乳児の成長発育に重要な役割を果たしている。現在では、大量の研究により、母乳中に乳酸菌の存在が証明され、既に乳酸菌の重要な源の1つになり、潜在的なプロバイオティクス発掘の潜在性を持っている。現在、母乳由来のプロバイオティクスは比較的に少なく、ラクトバシラス・ガゼリCECT5714、ラクトバチルスファーメンタムCECT5716、ラクトバチラスサリバリウスCECT5713などがあり、これらの菌株は、いずれも一定のプロバイオティクス機能を示した。母乳からプロバイオティクスを発掘し続けることは重要な意義がある。
【0003】
ラクトバチルス・プランタルムは、乳酸菌の一種であり、肉類、乳、野菜及び発酵製品に広く分布しており、ヒトと動物の消化管においても存在が認められ、人体腸管内の有益菌である。
【0004】
本背景技術部分で開示された情報は、本発明の背景全体に対する理解を深めることを意図するものにすぎず、この情報構成が当業者でよく知っている関連技術として認識されているか、又は任意の形態で示唆されていると考えるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術的課題を解決するために、本発明の目的は、母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途を提供することである。本発明の実施例で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、健康な母乳から篩別して得られたものであるので、付着能力が極めて強く、良好なプロバイオティクス潜在性を有する。そして8種類のよく見られる病原性細菌に対して、いずれも抑制効果があり、抗菌性能が良く、かつ8種類の抗生物質に対して感受性であるので、食品産業に開発し応用されることが期待されている。なお、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、さらに、比較的強い耐酸および耐胆汁酸塩の能力を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するために、本発明の実施例は、ラクトバチルス・プランタルムに分類命名され、受託番号がCGMCC NO.19748である母乳由来ラクトバチルス・プランタルムを提供する。
【0007】
上記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6は、既に2020年4月27日に中国普通微生物菌種保存管理センターに寄託され、寄託機関住所が中国北京市朝陽区北辰西路1号院3号中国科学院微生物研究所であり、受託番号がCGMCC NO.19748である。
【0008】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムの腸管細胞への付着率は、≧140%であり、好ましくは、前記細胞は、ヒト結腸癌細胞(HT-29)である。
【0009】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、グラム陽性菌とグラム陰性菌に対して抑制効果があり、選択的に、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、リステリア・モノサイトゲネス、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)、セレウス菌、大腸菌、シゲラ・ソンネイ(Shigella sonnei )、チフス菌、エンテロバクター・サカザキ、サルモネラ・エンテリティデスに対して抑制効果があり、阻止円(inhibition zone)直径が≧20mmであり、さらに好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、大腸菌に対して抑制効果があり、阻止円直径が≧28.5mmである。
【0010】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、マクロライド系抗生物質、ペニシリン系、アミノグリコシド系、リンコサミド系、セファロスポリン系、キノロン系、クロロマイセチン系に対して感受性であり、好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、エリスロマイシン、アジスロマイシン、アンピシリン、アミカシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、シプロフロキサシン、クロラムフェニコールに対して感受性であり、さらに好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、エリスロマイシン、アジスロマイシン、アンピシリン、アミカシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、シプロフロキサシンに対して感受性であり、よりさらに好ましくは、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、アジスロマイシン、クリンダマイシン、セフトリアキソンに対して感受性である。
【0011】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH2.5条件下で3h生存した後の生存率が≧107%であり、6h生存した後の生存率が≧115%であり、12h生存した後の生存率が≧74%である。
【0012】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH3.5条件下で3h生存した後の生存率が≧105%であり、6h生存した後の生存率が≧129%であり、12h生存した後の生存率が≧117%であり、24h生存した後の生存率が≧145%である。
【0013】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH4.5条件下で3h生存した後の生存率が≧132%であり、6h生存した後の生存率が≧174%であり、12h生存した後の生存率が≧107%であり、24h生存した後の生存率が≧68%である。
【0014】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、pH3.0条件下で1h生存した後の生存率が≧145%である。
【0015】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.3%胆汁酸塩条件下で1h生存した後の生存率が≧225%である。
【0016】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.3%胆汁酸塩条件下で3h生存した後の生存率が≧42%であり、0.3%胆汁酸塩条件下で6h生存した後の生存率が≧19%である。
【0017】
1つの可能な実施形態では、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、0.15%胆汁酸塩条件下で3h生存した後の生存率が≧66%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で6h生存した後の生存率が≧60%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で12h生存した後の生存率が≧40%であり、0.15%胆汁酸塩条件下で24h生存した後の生存率が≧14%である。
【0018】
本発明の実施例は、上記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムの製造方法をさらに提供する。前記製造方法は、
新鮮な母乳検体を選択し、滅菌したPBSによる勾配希釈を行った後、1%CaCOを含むMRS培地に塗布し、37℃嫌気性培養箱にて48h培養し、顕著な透明環を有する白色又は乳白色を呈し、成長良好な単一コロニーをピックアップしてグラム染色顕微鏡検査を行い、桿状かつグラム陽性菌である菌株を選択し、37℃嫌気性培養箱にて富化培養を行い、菌液と滅菌した30%グリセロールとを1:1の割合で混合した後に-80℃の冷蔵庫に保管して使用に備え、ラクトバチルスは他の種類の乳酸菌に比べて、プロバイオティクス特性が相対的に優れ、そのため、本発明では篩別目標を乳酸菌中のラクトバチルスに定める、ステップと、
選別した菌株に対して耐酸、耐胆汁酸塩及び付着性試験を行い、付着性が最も優れ、かつ耐酸、耐胆汁酸塩が比較的良いラクトバチルス・プランタルムを1株選別するステップと、を含む。
【0019】
本発明の実施例は、保健用食品の製造における上記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムの用途をさらに提供する。
【0020】
1つの可能な実施形態では、上記用途の前記保健用食品は、乳幼児用調製食品又は酸乳を含む。
【0021】
1つの可能な実施形態では、上記用途の前記保健用食品の保健作用は、免疫力増強又は便秘の治療を含む。
【発明の効果】
【0022】
(1)本発明の実施例で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、健康な母乳から篩別して得られた付着能力が極めて強い(最高140%)ラクトバチルス・プランタルムであり、良好なプロバイオティクス潜在性を有する。腸管に付着し、定植することは乳酸菌がその生態効果と生理機能とを発揮する重要な前提であり、そのプロバイオティクス潜在性を評価する重要な根拠の1つである。乳酸菌の上皮細胞への付着は、そのプロバイオティクス機能を発揮する主な基礎であり、付着した乳酸菌は、腸管内に存在することにより、病原性細菌の侵入を抵抗することができ、抗菌ペプチドなどの代謝生成物を産生することによって、病原性細菌を効果的に殺すことを助け、腸管が病原性細菌の感染を避けるなどの機能を達成し、生体の免疫能力を向上させる。
(2)微生物の汚染及び生長繁殖は、食物腐敗変質を引き起こす主な原因であり、プロバイオティクスの抗菌性能は、食品に利用できるかどうかの安全指標の1つである。
抗生物質の医薬業界における過剰使用は、病原性細菌株の耐薬剤性能の増強を招き、人体腸管における菌群の不調、不均衡が出現しやすいため、抗生物質に対する感受性もプロバイオティクスを食品に応用する場合に安全かどうかの重要な指標の1つである。
本発明の実施例で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、8種類のよく見られる病原性細菌に対して、いずれも抑制効果があり、抗菌性能が良く、そして8種類の抗生物質に対して感受性であり、食品産業に開発応用されることが期待されている。
(3)本発明の実施例で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、さらに、比較的に強い耐酸(pH3.0条件下で1h生存した後の生存率は145%であった)と耐胆汁酸塩(0.3%胆汁酸塩条件下で1h生存した後の生存率は225%であった)能力を有する。乳酸菌がそのプロバイオティクス作用を発揮できる前提は、人体胃液の酸性条件(正常な人体胃液pHは1.5-4.5の間である)と小腸の高胆汁酸塩環境(胆汁酸塩濃度は0.03%-0.3%である)に耐えることができることである。これにより、菌株は、この条件下で正常に成長と代謝することができるので、胃腸管に定植し、その作用を発揮することができる。
【0023】
1つ又は複数の実施例は、それに対応する添付図面における図面によって例示的に説明されており、これらの例示的な説明は、実施例に対する限定を構成しない。本明細書で専用の用語「例示的」は、「例、実施例、又は例証として機能している」を意味する。「例示的」として本明細書に記載される任意の実施例は、必ずしも他の実施例よりも好ましいか又は有利であるものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1(1)】本発明の実施例1の耐酸実験結果である。
図1(2)】本発明の実施例1の耐胆汁酸塩実験結果である。
図1(3)】本発明の実施例1の付着性実験結果である。
図2】本発明の実施例2におけるNRデータベース注釈結果である。
図3(1)】本発明の実施例3における母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6成長曲線である。
図3(2)】本発明の実施例3における母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6体外耐酸能力結果である。
図3(3)】本発明の実施例3における母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6体外耐胆汁酸塩能力結果である。
図3(4)】本発明の実施例3における母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6抗菌力結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6は、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)に分類命名され、寄託日が2020年4月27日であり、寄託機関が中国普通微生物菌種保存管理センターであり、寄託機関住所が中国北京市朝陽区北辰西路1号院3号中国科学院微生物研究所であり、受託番号がCGMCC NO.19748である。
【0026】
本発明の実施例の目的、技術案及び利点をより明瞭にするために、以下、本発明の実施例における技術案を明瞭且つ完全に記述し、明らかに、記述された実施例は、ただ本発明の一部の実施例にすぎず、全ての実施例ではない。本発明における実施例に基づき、当業者が創造的な労力を払わない前提で得られた全ての他の実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属する。特に別段の記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲全体において、用語「含む」又はその変換「包含」又は「有する」などは、記載された要素又は構成要素を含むものとして理解されるべきであるが、他の要素又は他の構成要素は除外されない。
【0027】
また、本発明をより良く説明するために、以下の具体的な実施形態では、多くの具体的な詳細について述べる。しかし、当業者にとっては、本発明がこれら特定の詳細がなくても実施可能であることを理解する。いくつかの実施例では、本発明の趣旨の強調を容易にするために、当業者に知られている原料、要素、方法、手段などの詳細については説明を省略する。
【0028】
以下の実施例では、
MRS固体培地は、北京陸橋技術股フン有限公司から市販されている商品番号がCM188であるものであり、
MRSブロス培地は、北京陸橋技術股フン有限公司から市販されている商品番号がCM187であるものであり、
栄養寒天は、北京陸橋技術股フン有限公司から市販されている商品番号がCM107であるものであり、
MH固体培地は、北京陸橋技術股フン有限公司から市販されている商品番号がCM902であるものである。
【0029】
実施例1
1、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の分離
新鮮な母乳検体を選択し、滅菌したPBS緩衝液(広州潔特生物過濾股フン有限公司から購入されているもの)による勾配希釈を行った後、1%CaCOを含むMRS固体培地に塗布し、37℃嫌気性培養箱にて48h培養し、顕著な透明環を有する白色又は乳白色を呈する単一コロニーをピックアップしてグラム染色顕微鏡検査を行い、桿状かつグラム陽性菌である菌株を選択し、多くの菌株から成長良好な菌株P3-P13を選択し、37℃嫌気性培養箱にてエンリッチ培養した。菌液と滅菌した30%グリセロールを1:1の割合に従って混合した後に-80℃の冷蔵庫に保管して使用に備えた。
【0030】
2.菌株篩別
上記P3-P13菌株を無菌条件下で、グリセロール保存後の菌株をMRSブロス培地に接種し、37℃で24h嫌気培養し、連続的に三世代活性化し、菌液を遠心した後に、培地を滅菌後のPBSで2-3回洗浄した。
P3-P13菌株及び対照菌株R2とR9に対して、耐酸、耐胆汁酸塩及び付着性試験を行った。
【0031】
そのうち、R2とR9は、当社がこの前に篩別して得られた2株の効果が比較的優れた母乳由来ラクトバチルス・プランタルムであった。具体的に、尹春媚、李貞、姜鉄民らの文献<ヒト母乳由来乳酸菌の篩別、同定及び血圧降下能力の初歩測定[J].食品技術2019(8):18-22>を参照されたい。
【0032】
耐酸、耐胆汁酸塩及び付着性の試験手順は、具体的には以下のとおりである。
【0033】
(1)耐酸試験
洗浄後の培地をpHが3.0であるMRSブロス培地に再懸濁し、37℃で嫌気培養し、それぞれ、0h、1hでサンプリングして勾配希釈を行い、MRS固体培地プレートに塗布し、37℃で48h嫌気培養した後に計数した。
菌株生存率(%)=N/N*100、
ここで、Nは、0hの生菌数(cfu/mL)であり、Nは、菌株の耐酸1h後の生菌数(cfu/mL)である。
図1(1)に実験結果を示す。
【0034】
(2)耐胆汁酸塩試験
洗浄後の培地を、0.3%の胆汁酸塩を含むMRSブロス培地に再懸濁して培養し、37℃で嫌気培養し、それぞれ、0h、1hでサンプリングして勾配希釈を行い、MRS固体培地プレートに塗布し、37℃で48h嫌気培養した後に計数した。
菌株生存率(%)=N/N*100、
ここで、Nは、0hの生菌数(cfu/mL)であり、Nは、菌株の耐胆汁酸塩1h後の生菌数(cfu/mL)である。
図1(2)に実験結果を示す。
【0035】
(3)付着性試験
HT-29細胞(ヒト結腸癌細胞)を蘇生させた後に、細胞培養フラスコに接種し、新鮮なDMEM完全培地(DMEM培地は、その中に1%のペニシリンとストレプトマイシン、1%グルタミン、10%新生ウシ血清を加えたThermo Fisher Scientificから購入されているものであった)を加え、37℃で、5%COの培養箱にて培養し、2日ごとに細胞培養液を交換し、細胞付着(Cell Adherent)増殖融合状態が70%-80%前後に達すると、0.25%トリプシン-EDTA(Biological Industriesから購入されているもの)で消化液に混合して継代し、最後1回の培地は、DMEM不完全培地(DMEM培地に1%グルタミンを加えたもの)を用いた。
【0036】
培養済みのHT-29細胞用細胞血球計数板は、細胞濃度を5×10個/mLに調整し、1mL/孔ごとに6孔の組織培養プレートに入れ、37℃で、5%COの培養箱に置いて細胞が単層に成長するまでインキュベートした。組織培養プレート中のDMEM培養液を捨て、無菌PBSで2-3回洗浄し、そのうちの1つの孔は、細胞計数に用いられ、残りの孔は、上記調製した菌体懸濁液1mLを加え、37℃恒温培養箱にて2hインキュベートし、各検体は、いずれも3組平行とした。インキュベート完了後、培地を捨て、未付着ラクトバチルス・プランタルムを除去するために、無菌PBS緩衝液で3-5回洗浄し、0.7mLの0.25%トリプシン-EDTAで細胞を消化した後、細胞が完全に脱落するまで、0.3mLのDMEM完全培養液を加えて、消化を終了させ、培養液を収集してプレート計数を行った。
【0037】
付着率(%)=付着細菌数(CFU/孔)/HT-29細胞(個/孔)*100%、
CFU(コロニー形成単位):単位体積あたりの細菌コロニー総数、生菌培養計数時に単一の菌体又は凝集した複数の菌体が固体培地上で成長繁殖して形成されたコロニーであり、コロニー形成単位とも呼ばれ、その生菌数を表す。
図1(3)に実験結果を示す。
【0038】
図1(1)、1(2)及び1(3)の結果から、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の付着能力は最高140%、他の母乳由来ラクトバチルス・プランタルムよりもはるかに高く、そして耐酸と耐胆汁酸塩条件下で1h生存した後、生存率はそれぞれ145%と225%に達し、耐酸と耐胆汁酸塩が比較的良いことが分かった。
【0039】
実施例2
母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の同定:
篩別したP6に対して全遺伝子シーケンシング分析を行い、Pacbio(10Kb SMRT Bellライブラリー)とIllumina PE150(350bp小セグメントライブラリー)配列決定プラットフォームを用いて全ゲノムシーケンシングを行った。
シークエンシング結果に対してNR(Non-Redundant Protein Database)データベース注釈(種情報同定用、種分類用とすることができる)を行った。図2にその結果を示す。
【0040】
図2の結果から、86.81%の遺伝子がラクトバチルス・プランタルムに適合することが分かるため、P6の形態特徴を結合して、P6をラクトバチルス・プランタルムに同定した。
【0041】
実施例3
母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6のプロバイオティクス特性測定
1、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の成長曲線測定
培養済みのP6菌液を三世代活性化し、MRSブロス培地に接種し、37℃培養箱に置いて、嫌気培養し、それぞれ、0、2、4、6、8、10、12、14、16、20、24、28、32、36、40及び48hに各細菌の生菌数を測定した。
母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の成長曲線をプロットし、図3(1)に結果を示す。
【0042】
2、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の体外耐酸耐胆汁酸塩能力測定
培養済みのP6菌液を三世代活性化し、それぞれ、pHが2.5、3.5、4.5と胆汁酸塩濃度が0.15%、0.3%、0.45%であるMRSブロス培地に接種し、37℃培養箱に置いて、嫌気培養し、それぞれ、0、3、6、12、24hでサンプリングしてプレート計数を行った。
図3(2)及び図3(3)に実験結果をそれぞれ示す。図3(2)から、この菌はpH6.0、pH4.5、pH3.5の環境で0-24h培養した場合、菌体成長が安定し、生菌数はいずれも10cfu/mL以上であり、pH2.5の環境下で24h培養した場合にのみ菌株の生菌数は低下しているが、依然として10cfu/mL以上であり、耐酸能力が強いことが分かった。表1に各時間点の菌の生存率データを示す。
【0043】
【表1】
【0044】
図3(3)から、この菌は、0.15%胆汁酸塩濃度の培地にて相対的に安定して成長し、胆汁酸塩含有量が0.3%と0.45%である培地にて6h培養した後、生菌数がそれぞれ0.71と1.6個対数低減し、0.45%の胆汁酸塩を含む培地にて24h培養した後、生菌数は、10cfu/mLまで著しく低下し、耐胆汁酸塩能力が強いことが分かった。表2に各時間点の菌の生存率データを示す。
【0045】
【表2】
【0046】
3、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の抗菌力測定
食品には大量の栄養が含まれており、日常生活において食品は、腐敗及び変質を伴い、人体の健康に悪影響を与えることに加えて経済的損失を招く。微生物の汚染及び生長繁殖は、食物腐敗変質を引き起こす主な原因であるため、P6の抗菌性能は、食品に利用できるかどうかの安全指標の1つである。
【0047】
大腸菌、リステリア・モノサイトゲネス、黄色ぶどう球菌、シゲラ・ソンネイ、セレウス菌、チフス菌、エンテロバクター・サカザキ、サルモネラ・エンテリティデスの8株のよく見られる食品媒介病原菌を指標菌とし、指標菌を三世代活性化した後、栄養寒天に塗布し、二重寒天拡散方法を用いて抗菌活性の初歩測定を行った。
【0048】
鑷子でオックスフォードカップ(直径8mm)をプレートに置いて、45℃前後の栄養寒天を入れてオックスフォードカップを固定し、凝固した後、オックスフォードカップを取り出し、それぞれ150μLのラクトバチルス・プランタルムP6の発酵液と上清み液を吸引し、それぞれ孔に加え、プレートを4℃の冷蔵庫に入れて3h前後拡散させ、37℃で24h恒温培養し、阻止円直径を観察し、そして大きさを記録し、各組の試験は、3回平行であった。結果は、x±sで表される。
【0049】
実験結果を図3(4)に示すように、図3(4)から、この菌は、グラム陽性菌(リステリア・モノサイトゲネス、黄色ぶどう球菌、セレウス菌)とグラム陰性菌(大腸菌、シゲラ・ソンネイ、チフス菌、エンテロバクター・サカザキ、サルモネラ・エンテリティデス)に対して非常に強い抑制効果があり、阻止円直径は、いずれも20mm以上であることが分かった。そのうち、大腸菌に対する抗菌作用が最も強く、発酵液と上清み液の阻止円直径は、それぞれ30.17±1.58mm、29.30±0.72mmであった。
【0050】
4、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の耐薬能力測定
抗生物質の医薬業界における過剰使用は、病原性細菌株の耐薬剤性能の増強を招き、人体腸管における菌群の不調、不均衡が出現しやすいため、抗生物質に対する感受性である乳酸菌を獲得するのは、食品の用途において、安全かどうかの重要な指標の1つである。
【0051】
培養済みのP6菌液を三世代活性化し、MRS固体培地プレートに線引き、37℃培養箱にて24h嫌気培養した後、単一コロニーをピックアップして生理塩水に溶解させ、0.5マクファーランド濃度に相当する懸濁液を配合し、MH固体培地に塗布した。乾燥後、10種類のE-test検査ストリップをMH固体培地に貼り付け、37℃で24-48h培養し、阻止円の大きさに基づいてMIC値(最低抗菌濃度値)を判断した。大腸菌ATCC25922と黄色ぶどう球菌ATCC25923を品質制御菌株として用い、各ロットの試験は、いずれも品質制御菌株を対照として用い、そして品質制御菌株のMICがCLSI(臨床・検査標準協会)の規定範囲内にあることを要求した。空白対照は、抗生物質を添加しないMH固体プレートを用いた。
【0052】
結果は、表3に示されるように、表3から、ラクトバチルス・プランタルムP6は、エリスロマイシンとアジスロマイシン(マクロライド系抗生物質)、アンピシリン(ペニシリン系)、アミカシン(アミノグリコシド系)、クリンダマイシン(リンコサミド系)、セフトリアキソン(セファロスポリン系)、シプロフロキサシン(キノロン系)に対して極度に感受性であり、クロラムフェニコール(クロロマイセチン系)に対して中度感受性であり、ペニシリンG(ペニシリン系)、テトラサイクリン(テトラサイクリン系)に対して耐性があることが分かった。
【0053】
【表3】
【0054】
以上のようにして、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6の生長特性は、良好で、比較的強い耐酸と耐胆汁酸塩能力、及び極めて強い付着能力を有し、そして8種類のよく見られる病原性細菌に対して、いずれも抑制効果があり、抗菌性能が良く、かつ8種類の抗生物質に対して感受性である。上記結果から、母乳由来ラクトバチルス・プランタルムP6が優れたプロバイオティクス潜在性を有し、食品産業に開発応用されることが期待できることが示唆される。
【0055】
なお、上記の実施例は、本発明の技術案を説明するためにのみ使用され、本発明の保護範囲を限定するものではなく、前述の実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、依然として前述の各実施例に記載された技術案を変更するか、又はその技術的特徴の一部を等価的に置換することができるが、そのような変更又は置換は、対応する技術案の本質を本発明の各実施例の技術案の精神及び範囲から逸脱させるものではないことを理解するであろう。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の実施例で提供される母乳由来ラクトバチルス・プランタルム及びその用途によれば、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、ラクトバチルス・プランタルムに分類命名され、受託番号がCGMCC NO.19748であり、健康な母乳から篩別して得られたものであり、付着能力が極めて強く、良好なプロバイオティクス潜在性を有する。そして8種類のよく見られる病原性細菌に対して、いずれも抑制効果があり、抗菌性能が良く、かつ8種類の抗生物質に対して感受性であり、食品産業に開発応用されることが期待されている。なお、前記母乳由来ラクトバチルス・プランタルムは、さらに、比較的強い耐酸と耐胆汁酸塩能力を有する。
図1(1)】
図1(2)】
図1(3)】
図2
図3(1)】
図3(2)】
図3(3)】
図3(4)】
【国際調査報告】