(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】レンチウイルスベクターの製造の増強
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20221116BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221116BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20221116BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221116BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221116BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221116BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N15/12
C12N15/13
A61K48/00
A61P43/00 111
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507556
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 GB2020051760
(87)【国際公開番号】W WO2021014157
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】306034996
【氏名又は名称】オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ファーリー,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ライト,ジョーダン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA20
4C084ZC021
4C084ZC022
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA52
4C087MA55
4C087NA20
4C087ZC02
(57)【要約】
レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように修飾されている修飾U1 snRNA。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように修飾されている修飾U1 snRNA。
【請求項2】
該修飾U1 snRNAが、該ヌクレオチド配列に相補的である異種配列を導入するように修飾されている、請求項1記載の修飾U1 snRNA。
【請求項3】
該修飾U1 snRNAが、3位~11位の9個のヌクレオチド内に該異種配列を導入するように、5’末端において修飾されている、請求項1または請求項2記載の修飾U1 snRNA。
【請求項4】
該修飾U1 snRNAが、天然スプライスドナーアニーリング配列内に該異種配列を導入するように、5’末端において修飾されている、請求項1~3のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項5】
該天然スプライスドナーアニーリング配列の1~9個の核酸が該異種配列により置換されている、請求項4記載の修飾U1 snRNA。
【請求項6】
該修飾U1 snRNAが、天然スプライスドナーアニーリング配列を含む配列を、該ヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換するように、5’末端において修飾されている、請求項1~5のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項7】
該異種配列が、該ヌクレオチド配列に相補的な少なくとも9ヌクレオチドを含む、請求項2~6のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項8】
該異種配列が、該ヌクレオチド配列に相補的な15ヌクレオチドを含む、請求項2~7のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項9】
レンチウイルスベクターゲノム配列の該パッケージング領域が、5’U5ドメインの開始部から、gag遺伝子由来配列の終結部までである、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項10】
該ヌクレオチド配列が5’U5ドメイン、PBSエレメント、SL1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメント、および/またはgag遺伝子由来配列内に位置する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項11】
該ヌクレオチド配列がSL1、SL2および/またはSL3ψエレメント内に位置する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項12】
該ヌクレオチド配列がSL1および/またはSL2エレメント内に位置する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項13】
該ヌクレオチド配列がSL1エレメント内に位置する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項14】
該修飾U1 snRNAが修飾U1A snRNAまたは修飾U1A snRNA変異体である、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項15】
修飾U1 snRNAの5’末端の最初の2つのヌクレオチドがAUではない、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項16】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項17】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2またはEIAVに由来する、前記請求項のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項18】
該レンチウイルスベクターがSIVに由来する、請求項1~17のいずれか1項記載の修飾U1 snRNA。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現カセット。
【請求項20】
レンチウイルスベクターのgag、env、revおよびRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含むレンチウイルスベクターを製造するための細胞。
【請求項21】
請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAを含む細胞。
【請求項22】
該細胞が、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を更に含む、請求項21記載の細胞。
【請求項23】
該細胞が、関心のあるヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を更に含む、請求項21または請求項22記載の細胞。
【請求項24】
関心のある該ヌクレオチドが治療効果をもたらす、請求項23記載の細胞。
【請求項25】
関心のある該ヌクレオチドが、酵素、補因子、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、キメラ抗原受容体、標的タンパク質のトランスドメイン陰性突然変異体、毒素、条件付き(conditional)毒素、抗原、転写因子、構造タンパク質、レポータータンパク質、細胞内局在シグナル、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、膜タンパク質、受容体、血管作用性タンパク質もしくはペプチド、抗ウイルスタンパク質もしくはリボザイム、またはそれらの誘導体、またはマイクロRNAをコードする、請求項24記載の細胞。
【請求項26】
関心のある該ヌクレオチドが、以下のもの、すなわち、
(i)以下のものに応答する障害:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制物質または免疫刺激物質の活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスの感染を含む免疫不全の治療、リンパ球増殖の調節、癌および多数の自己免疫疾患の治療、ならびに移植片拒絶の予防または腫瘍免疫の誘導のためのもの);造血の調節(例えば、骨髄またはリンパ系疾患の治療);骨、軟骨、腱、靭帯および神経組織の成長の促進(例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の治療のためのもの);卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(繁殖性の調節);走化性/ケモキネシス活性(例えば、損傷または感染部位に特定の細胞型を動員するためのもの);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および脳卒中の治療のためのもの);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックまたはクローン病の治療のためのもの);マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、したがって、抗炎症活性;抗免疫活性(すなわち、炎症に関連しない応答を含む、細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害効果);マクロファージおよびT細胞が細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着する能力の阻害、ならびにT細胞におけるアップレギュレーションされたfas受容体発現;
(ii)悪性障害、例えば、癌、白血病、良性および悪性腫瘍の増殖、浸潤および拡大、血管新生、転移、腹水および悪性胸水貯留;
(iii)自己免疫疾患、例えば、関節炎、例えば関節リウマチ、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病および他の疾患;
(iv)血管疾患、例えば、動脈硬化、アテローム性動脈硬化性心疾患、再灌流障害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心血管作用、末梢血管疾患、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症、脳卒中、脳虚血、虚血性心疾患または他の疾患;
(v)消化管の疾患、例えば、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病および他の疾患;
(vi)肝疾患、例えば、肝線維症、肝硬変;
(vii)遺伝性代謝障害、例えば、フェニルケトン尿症PKU、ウィルソン病、有機酸血症、尿素回路障害、胆汁うっ滞および他の疾患;
(viii)腎臓および泌尿器疾患、例えば、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の疾患;
(ix)耳、鼻および咽喉の障害、例えば、耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患;
(x)歯科および口腔障害、例えば、歯周病、歯周炎、歯肉炎または他の歯科/口腔疾患;
(xi)精巣疾患、例えば、精巣炎または精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷または他の精巣疾患;
(xii)婦人科疾患、例えば、胎盤機能不全、胎盤不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症および他の婦人科疾患;
(xiii)眼科的障害、例えば、レーバー先天性黒内障(LCA)、例えばLCA10、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、緑内障、例えば開放角緑内障および若年性先天性緑内障、眼内炎症、例えば網膜炎または嚢胞性黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、色素性網膜炎、黄斑変性、例えば加齢性黄斑変性(AMD)および若年性黄斑変性、例えばベスト病、ベスト卵黄様黄斑変性、シュタルガルト病、アッシャー症候群、ドイン蜂巣状網膜ジストロフィー、ソルビー黄斑ジストロフィー、若年性網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、アディ症候群、小口病、変性眼底疾患、眼外傷、感染により引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過剰瘢痕、例えば緑内障濾過手術後のもの、眼インプラントに対する反応、角膜移植移植片拒絶、および他の眼科疾患、例えば糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、RLBP1関連網膜ジストロフィー、脈絡膜欠如および色覚異常;
(xiv)神経障害および神経変性障害、例えば、パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症および/または副作用、エイズ関連認知症症候群、HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病および他の変性疾患、CNSの病態または障害、脳卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ファブリー病、ゴーチャー病、シスチン症、ポンペ病、異染性白質ジストロフィー、ウィスコット-アルドリッチ症候群、副腎白質ジストロフィー、ベータサラセミア、鎌状赤血球症、ギランバレー症候群、シデナム舞踏病、重力筋無力症、偽性脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNSの感染症、筋萎縮および筋ジストロフィー、中枢神経系および末梢神経系の疾患、病態または障害、運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、脊髄および剥離損傷;ならびに
(xv)嚢胞性線維症、ムコ多糖症、例えばサンフィリポ症候群A、サンフィリポ症候群B、サンフィリポ症候群C、サンフィリポ症候群D、ハンター症候群、ハーラー-シャイエ症候群、モルキオ症候群、ADA-SCID、X連鎖SCID、X連鎖慢性肉芽腫性疾患、ポルフィリン症、血友病A、血友病B、外傷後炎症、出血、凝固および急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、敗血症性ショック、感染症、糖尿病、手術の合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、遺伝子治療の合併症および副作用、例えばウイルス性担体の感染またはエイズによるもの、天然または人工の細胞、組織および器官、例えば角膜、骨髄、臓器、レンズ、ペースメーカー、天然または人工皮膚組織の移植の場合の移植片拒絶の予防および/または治療のための体液性および/または細胞性免疫応答を抑制または阻害するためのもの
から選択される障害の治療に有用な分子をコードする、請求項25記載の細胞。
【請求項27】
請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを製造するための安定または一過性生産細胞。
【請求項28】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する、請求項21~27のいずれか1項記載の細胞。
【請求項29】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2またはEIAVに由来する、請求項28記載の細胞。
【請求項30】
該レンチウイルスベクターがSIVに由来する、請求項28記載の細胞。
【請求項31】
a.レンチウイルスベクターのgag、env、revおよびRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、請求項1~15のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程、
b.所望により、ベクター成分および少なくとも1つの修飾U1 snRNAをコードする該ヌクレオチド配列を含む細胞を選択する工程、
c.該ベクター成分が該修飾U1 snRNAと共発現され、レンチウイルスベクターが産生される条件下で細胞を培養する工程
を含む、レンチウイルスベクターの製造方法。
【請求項32】
請求項37~53のいずれか1項記載の製造方法により製造されるレンチウイルスベクター。
【請求項33】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する、請求項32記載のレンチウイルスベクター。
【請求項34】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2またはEIAVに由来する、請求項33記載のレンチウイルスベクター。
【請求項35】
該レンチウイルスベクターがSIVに由来する、請求項33記載のレンチウイルスベクター。
【請求項36】
レンチウイルスベクターの製造のための、請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAまたは請求項14記載の発現カセットの使用。
【請求項37】
該レンチウイルスベクターがレンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける不活性化主要スプライスドナー部位を含む、請求項36記載の使用。
【請求項38】
該レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する、請求項36または請求項37記載の使用。
【請求項39】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されている、請求項20、22~26もしくは28~30のいずれか1項記載の細胞、請求項27~30のいずれか1項記載の安定もしくは一過性生産細胞または請求項31記載の製造方法。
【請求項40】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位および主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されている、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項41】
該レンチウイルスベクターが第3世代レンチウイルスベクターである、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項42】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列がtat非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項43】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列がtatの非存在下で産生される、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項44】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列がtatに非依存的に転写されている、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項45】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列がU3非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項46】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列がU3プロモーターに非依存的に転写されている、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項47】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位が不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位が不活性化されており、該ヌクレオチド配列が異種プロモーターにより転写されている、請求項39記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項37もしくは請求項38記載の使用。
【請求項48】
潜在的スプライスドナー部位が主要スプライスドナー部位の3’側の最初の潜在的スプライスドナー部位である、請求項40~47のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞、製造方法または使用。
【請求項49】
該潜在的スプライスドナー部位が主要スプライスドナー部位から6ヌクレオチド以内にある、請求項40~48のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞、製造方法または使用。
【請求項50】
主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位が突然変異または欠失している、請求項39~49のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~49のいずれか1項記載の使用。
【請求項51】
スプライス部位の不活性化前の、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が、配列番号1、3、4、9、10および/または13のいずれかに記載されている配列を含む、請求項39~50のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~50のいずれか1項記載の使用。
【請求項52】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が、配列番号1、3、4、9、10および/または13のいずれかに記載されている配列と比較して突然変異または欠失を含有する配列を含む、請求項39~51のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~51のいずれか1項記載の使用。
【請求項53】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が不活性化主要スプライスドナー部位を含み、該部位が、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド13および14に対応するヌクレオチドの間に切断部位を有するものである、請求項39~52のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~52のいずれか1項記載の使用。
【請求項54】
不活性化前の主要スプライスドナー部位のヌクレオチド配列が、配列番号4に記載されている配列を含む、請求項39~53のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは40~46のいずれか1項記載の使用。
【請求項55】
不活性化前の潜在的スプライスドナー部位のヌクレオチド配列が、配列番号10に記載されている配列を含む、請求項40~54のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞、製造方法または使用。
【請求項56】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が不活性化潜在的スプライスドナー部位を含み、該部位が、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド17および18に対応するヌクレオチドの間に切断部位を有するものである、請求項40~55のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞、製造方法または使用。
【請求項57】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が、配列番号2、5、6、7、8、11、12および/または14のいずれかに記載されている配列を含む、請求項39~56のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~56のいずれか1項記載の使用。
【請求項58】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が、配列番号9に記載されている配列を含まない、請求項39~57のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~57のいずれか1項記載の使用。
【請求項59】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位からのスプライシング活性が抑制または除去されている、請求項39~58のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~58のいずれか1項記載の使用。
【請求項60】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位からのスプライシング活性がトランスフェクト化細胞または形質導入細胞において抑制または除去されている、請求項39~59のいずれか1項記載の細胞、安定もしくは一過性生産細胞または製造方法、または請求項38もしくは47~59のいずれか1項記載の使用。
【請求項61】
レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列が、修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結されている、請求項20、22~26、28~30もしくは39~60のいずれか1項記載の細胞、請求項27もしくは39~60のいずれか1項記載の安定もしくは一過性生産細胞、請求項28もしくは39~60のいずれか1項記載の製造方法、または請求項38もしくは40~60のいずれか1項記載の使用。
【請求項62】
レンチウイルスベクターがレンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける不活性化主要スプライスドナー部位を含む、請求項1~18のいずれか1項記載の修飾U1 snRNAの存在下で製造されるレンチウイルスベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真核細胞におけるレンチウイルスベクターの製造に関する。より詳細には、本発明は、産出(output)力価を増加させるための、修飾U1 snRNAの設計、およびレンチウイルスベクターの製造中の修飾U1 snRNAの共発現に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年にわたるワクチンおよびヒト遺伝子治療に向けたウイルスベクターの開発および製造は科学文献および特許に十分に記載されている。治療効果を得るために導入遺伝子を送達するための操作されたウイルスの使用は広範囲にわたる。γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスのようなRNAウイルス(Muhlebach,M.D.ら,2010,Retroviruses:Molecular Biology,Genomics and Pathogenesis,13:347-370;Antoniou,M.N.,Skipper,K.A. & Anakok,O.,2013,Hum.Gene Ther.,24:363-374)、ならびにアデノウイルス(Capasso,C.ら,2014,Viruses,6:832-855)およびアデノ随伴ウイルス(AAV)(Kotterman,M.A.& Schaffer,D.V.,2014,Nat.Rev.Genet.,15:445-451)のようなDNAウイルスに基づく現代の遺伝子治療ベクターは益々多数のヒト疾患適応における有望さを示している。これらには、血液学的病態に対する患者細胞のエクスビボ(ex vivo)修飾(Morgan,R.A.& Kakarla,S.,2014,Cancer J.,20:145-150;Touzot,F.ら,2014,Expert Opin.Biol.Ther.,14:789-798)、ならびに眼科疾患(Balaggan,K.S.& Ali,R.R.,2012,Gene Ther.,19:145-153)、心血管疾患(Katz,M.G.ら,2013,Hum.Gene Ther.,24:914-927)、神経変性疾患(Coune,P.G.,Schneider,B.L.& Aebischer,P.,2012,Cold Spring Harb.Perspect.Med.,4:a009431)および腫瘍治療(Pazarentzos,E.& Mazarakis,N.D.,2014,Adv.Exp.Med Biol.,818:255-280)のインビボ治療が含まれる。臨床試験におけるこれらのアプローチの成功が規制当局の承認および商業化に向けて確立し始めるにつれて、医薬品製造品質管理基準(GMP)グレードのベクター物質の大量製造における新たな障害に注目が集まっている(Van der Loo JCM,Wright JF.,2016,Human Molecular Genetics,25(R1):R42-R52)。
【0003】
この難題を克服する手段は、ウイルスベクター製造中の力価を最大化するための新規方法を見出すことである。したがって、GMPグレードのベクター物質の大量製造に関連する公知課題に対処するのを助ける、ウイルスベクターを製造する代替方法を得ることが、当技術分野で必要とされている。
【0004】
ウイルスベクター製造の一般的方法は、初代細胞または哺乳類/昆虫細胞株をベクターDNA成分でトランスフェクトし、ついで、限られたインキュベーション期間の後、培地および/または細胞から粗製ベクターを回収することを含む(Merten,O-W.,Schweizer,M.,Chahal,P.,& Kamen,A.A.,2014,Pharmaceutical Bioprocessing,2:183-203)。他の場合には、トランスフェクション非依存的アプローチにおいてプロデューサー細胞株(PrCL;ここで、必要なベクター成分発現カセットの全てがプロデューサー細胞DNA内に安定に組み込まれている)が使用され、これは大規模製造において有利である。レンチウイルスベクター製造の効率は、典型的には、以下のものを含む、「上流段階」における幾つかの要因による影響を受ける:[1]使用されるウイルス血清型/偽型、[2]トランスジェニック配列の組成およびサイズ、[3]培地組成/ガス処理/pH、[4]トランスフェクション試薬/プロセス、[5]化学的誘導およびベクター採取のタイミング、[6]細胞の脆弱性/生存性、[7]バイオリアクターのせん断力、ならびに[8]不純物。明らかに、「下流」の精製/濃縮段階において考慮すべき他の要因が存在する(Merten,O-W.ら,2014,Pharmaceutical Bioprocessing,2:237-251)。
【0005】
最適化の重要な側面の1つは製造の上流段階におけるレンチウイルスベクター成分[GagPol、エンベロープ、revおよびベクターゲノムRNA(vRNA)]の相対的存在量である。これらの成分をコードするプラスミドDNAの一過性トランスフェクションを要するアプローチの場合、通常、最適化中に、これらのプラスミドの最適な「質量」比が特定される。最適な比は、宿主DNA内に安定に組込まれた成分の全てを含有する多数のPrCLをスクリーニングすることによっても有効に得られる。最大の産出を示すPrCLは、最適な成分比またはそれに近い成分比で各個の成分の発現をもたらす遺伝子座に発現カセットを含有するクローンである。本発明者らは、ゲノムvRNA成分が、しばしば、PrCLにおける制限要因になりうることに注目している。これは、PrCLクローンによる高力価産出がベクターゲノムカセットの高コピー数と相関するという報告によって裏付けられている(Sheridan,P.L.ら,2000,Mol.Ther,2(3):262-275)。典型的には、プラスミドのサイズを考慮した場合でも、一過性トランスフェクション中の成分プラスミドの最適比率におけるプラスミドDNAの最大割合が近づく。これは、レンチウイルスベクター製造中のゲノムvRNAの産生が、効率的なレンチウイルスベクター製造アプローチを行う際の重要な要因であることを示している。
【0006】
スプライシングおよびポリアデニル化は、ほとんどのタンパク質コード化転写産物が複数イントロンを含む高等真核生物においては特に、mRNA成熟のための重要なプロセスである。スプライシングに必要な、mRNA内のエレメントには、5’スプライスドナーシグナル、分岐点を包囲する配列および3’スプライスアクセプターシグナルが含まれる。これらの3つのエレメントと相互作用するのはスプライセオソームであり、これは、U1 snRNAを含む5つの核内低分子RNA(snRNA)と関連核タンパク質(snRNP)とにより形成される。U1 snRNAはポリメラーゼIIプロモーターにより発現され、ほとんどの真核細胞に存在する(Lundら,1984,J.Biol.Chem.,259:2013-2021)。ヒトU1 snRNA(核内低分子RNA)は164 ntの長さを有し、4つのステムループからなる明らかな構造を有する(West,S.,2012,Biochemical Society Transactions,40:846-849)。U1 snRNAは、その5’末端に、エクソン-イントロン接合部における5’スプライスドナー部位に対して広く相補的な短い配列を含有する。U1 snRNAは、5’スプライスドナー部位との塩基対形成により、スプライス部位選択およびスプライセオソーム構築に関与する。スプライシング以外のU1 snRNAの公知機能の1つは3’末端mRNAプロセシングの調節にある。それは早期ポリAシグナル(特にイントロン内)における早期ポリアデニル化(ポリA)を抑制する。
【0007】
内因性U1 snRNAのリクルートメントによる細胞遺伝子におけるイントロン配列内のポリA部位の抑制は十分に特徴づけられている(Kaida,D.ら,2010,Nature,468:664-8)。他の研究者はまた、HIV-1複製中の5’LTRにおける早期ポリアデニル化の抑制のメカニズムを分析するための研究手段として、修飾U1 snRNAを使用している(Ashe,M.P.,Pearson,L.H.& Proudfoot N.J.,1997,EMBO J.,16:5752-63;Ashe,M.P.,Furger,A.& Proudfoot,N.J.,2000,RNA,6:170-7;Furger,A.,Monks,J.& Proudfoot,N.J.,2001,J.Virol.,75:11735-46)。
【0008】
HIV-1は、5’LTRおよび3’LTRの両方のR領域内で、同一ポリAシグナルをコードしており、3’LTR ポリAは活性であり、全てのプレmRNA転写事象を終結するために利用される。5’LTRにおけるポリA部位における早期終結(つまり、転写開始直後の終結)を回避するために、主要(major;メジャー)スプライスドナー(約200塩基下流)への内因性U1 snRNAの結合はこのポリA部位の活性を抑制して、プロウイルスカセットの最後まで転写が継続することを可能にする。主要スプライスドナーの突然変異は5’LTRにおけるポリA部位を活性化するが、修飾U1 snRNA(主要スプライスドナーに隣接する配列を標的とする)が共発現された場合には、その抑制が回復しうることが示された。しかし、ポリA部位の抑制は、U1 snRNAがポリA部位に近接していることに依存しており、実施された研究の多くは、野生型HIV-1に見られる又はHIV-1に基づくレンチウイルスベクターに見られる多数の他のRNA配列を欠く人工「ミニ遺伝子」発現カセットにおいて行われた。
【0009】
U1 snRNAの操作および使用は「U1干渉」または「U1i」として当技術分野で公知であり、遺伝子発現を抑制するアプローチを開発するために用いられている(Beckley,S.A.ら,2001,Mol.Cell Biol.,21:2815-25;Fortes,P.ら,2003,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,100:8264-9)。U1iが機能するメカニズムは、プレmRNAのポリアデニル化の正しい配置およびプロセシングを阻害することによるものであり、その結果、不安定なmRNAが産生され、タンパク質レベルの低下が生じる。ポリアデニル化の阻害は標的転写産物の3’末端エクソンへの修飾U1 snRNP粒子の局在化を要する。標的遺伝子のスプライシングを開始するためにU1 snRNAが使用する5’スプライスドナー部位配列ではなく、選択された配列にU1 snRNAが結合するように、U1 snRNA遺伝子の核酸配列は修飾される。ポリアデニル化の阻害は、会合RNP複合体における修飾U1 snRNAの5’末端を標的プレmRNAにおける選択された相補的領域と塩基対形成させることにより達成される。それは、HIV-1(Sajic,R.ら,2007,Nucleic Acids Res.,35:247-55;Knoepfel,S.A.ら,2012,Antiviral Res.,94:208-16)を含む抗ウイルスアプローチ(Blaquez,L.& Fortes,P.,2015,Adv.Exp.Med.Biol.,848:51-69)として使用されている。
【0010】
他の研究者は、HIV-1のコンセンサスまたは非コンセンサス5’スプライス部位への内因性U1 snRNAまたは修飾U1 snRNAの結合がウイルスRNAの安定性を変化させうることを示している(Lutzelberger,M.ら,2006,J.Biol.Chem.,281:18644-51)。しかし、該報告は、この効果が、HIV-1のpol領域内に見出される短い新規イントロンに特異的であることを示唆しており、そのような配列は、HIV-1レンチウイルスベクターに基づくベクターゲノム配列には全く存在しない。
【0011】
レンチウイルスベクター製造中にレンチウイルスベクターの力価を増加させるためのU1 snRNAの操作および使用は本出願の出願日において公知でなかった。
【発明の概要】
【0012】
発明の概括
本発明者らは、驚くべきことに、内因性配列(スプライスドナー部位)をもはや標的化せずに今やvRNA分子内の配列を標的化するように修飾されたU1 snRNAに基づく非コードRNAを共発現させることにより、レンチウイルスベクターの産出(output)力価が増加しうることを、本発明において見出した。本発明は、そのような修飾U1 snRNA、およびレンチウイルスベクターの産生力価を増加させるための新規方法に関する。このアプローチは、修飾U1 snRNAと、その他のベクター成分との、ベクター製造中の共発現からなる。コンセンサススプライスドナー部位をベクターゲノムvRNA内の標的配列に相補的な異種配列により置換することによりコンセンサススプライスドナー部位への結合が除去されるように、修飾U1 snRNAを設計する。本発明は、標的配列および相補性の長さ、設計ならびに発現様態を含む、修飾U1 snRNAの最適な特徴および適用の種々の様態を記載する。
【0013】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように修飾されている修飾U1 snRNAを提供する。
【0014】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的であるように修飾されている修飾U1 snRNAを提供する。
【0015】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、該ヌクレオチド配列に相補的である異種配列を導入するように修飾されている。
【0016】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、3位~11位の9個のヌクレオチド内に該異種配列を導入するように、5’末端において修飾されている。
【0017】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、天然スプライスドナーアニーリング配列内に該異種配列を導入するように、5’末端において修飾されている。
【0018】
幾つかの実施形態においては、該天然スプライスドナーアニーリング配列の1~9個の核酸が該異種配列により置換されている。1つの態様においては、天然スプライスドナーアニーリング配列を含むヌクレオチド1~11が、該ヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換されている。
【0019】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、天然スプライスドナーアニーリング配列を含む配列を、該ヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換するように、5’末端において修飾されている。
【0020】
幾つかの実施形態においては、異種配列は、該ヌクレオチド配列に相補的な少なくとも9ヌクレオチドを含む。
【0021】
幾つかの実施形態においては、異種配列は、該ヌクレオチド配列に相補的な15ヌクレオチドを含む。
【0022】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域は、5’U5ドメインの開始部から、gag遺伝子由来配列の終結部までである。
【0023】
幾つかの実施形態においては、該ヌクレオチド配列は5’U5ドメイン、PBSエレメント、SL1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメント、および/またはgag遺伝子由来配列内に位置する。
【0024】
幾つかの実施形態においては、該ヌクレオチド配列はSL1、SL2および/またはSL3ψエレメント内に位置する。
【0025】
幾つかの実施形態においては、該ヌクレオチド配列はSL1および/またはSL2エレメント内に位置する。
【0026】
幾つかの実施形態においては、該ヌクレオチド配列はSL1エレメント内に位置する。
【0027】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは修飾U1A snRNAまたは修飾U1A snRNA変異体である。
【0028】
幾つかの実施実施形態においては、修飾U1 snRNAの5’末端の最初の2つのヌクレオチドはAUではない。
【0029】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する。
【0030】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2またはEIAVに由来する。
【0031】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1に由来する。
【0032】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはSIVに由来する。
【0033】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現カセットを提供する。
【0034】
もう1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのgag、env、revおよびRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含むレンチウイルスベクターを製造するための細胞を提供する。
【0035】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明による修飾U1 snRNAを含む細胞を提供する。
【0036】
幾つかの実施形態においては、該細胞は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を更に含む。
【0037】
幾つかの実施形態においては、該細胞は、関心のあるヌクレオチドをコードするヌクレオチド配列を更に含む。
【0038】
幾つかの実施形態においては、関心のある該ヌクレオチドは治療効果をもたらす。
【0039】
幾つかの実施形態においては、関心のある該ヌクレオチドは、酵素、補因子、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、キメラ抗原受容体、標的タンパク質のトランスドメイン陰性突然変異体、毒素、条件付き(conditional)毒素、抗原、転写因子、構造タンパク質、レポータータンパク質、細胞内局在シグナル、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、膜タンパク質、受容体、血管作用性タンパク質またはペプチド、抗ウイルスタンパク質またはリボザイム、あるいはそれらの誘導体、あるいはマイクロRNAをコードする。
【0040】
幾つかの実施形態においては、関心のある該ヌクレオチドは、以下のものから選択される障害の治療に有用な分子をコードする:
(i)以下のものに応答する障害:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制物質または免疫刺激物質の活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスの感染を含む免疫不全の治療、リンパ球増殖の調節、がん(以下において、がんは癌と表記される)および多数の自己免疫疾患の治療、ならびに移植片拒絶の予防または腫瘍免疫の誘導のためのもの);造血の調節(例えば、骨髄またはリンパ系疾患の治療);骨、軟骨、腱、靭帯および神経組織の成長の促進(例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の治療のためのもの);卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(繁殖性の調節);走化性/ケモキネシス活性(例えば、損傷または感染部位に特定の細胞型を動員するためのもの);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および脳卒中の治療のためのもの);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックまたはクローン病の治療のためのもの);マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、したがって、抗炎症活性;抗免疫活性(すなわち、炎症に関連しない応答を含む、細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害効果);マクロファージおよびT細胞が細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着する能力の阻害、ならびにT細胞におけるアップレギュレーションされたfas受容体発現;
(ii)悪性障害、例えば、癌、白血病、良性および悪性腫瘍の増殖、浸潤および拡大、血管新生、転移、腹水および悪性胸水貯留;
(iii)自己免疫疾患、例えば、関節炎、例えば関節リウマチ、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病および他の疾患;
(iv)血管疾患、例えば、動脈硬化、アテローム性動脈硬化性心疾患、再灌流障害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心血管作用、末梢血管疾患、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症、脳卒中、脳虚血、虚血性心疾患または他の疾患;
(v)消化管の疾患、例えば、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病および他の疾患;
(vi)肝疾患、例えば、肝線維症、肝硬変;
(vii)遺伝性代謝障害、例えば、フェニルケトン尿症PKU、ウィルソン病、有機酸血症、尿素回路障害、胆汁うっ滞および他の疾患;
(viii)腎臓および泌尿器疾患、例えば、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の疾患;
(ix)耳、鼻および咽喉の障害、例えば、耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患;
(x)歯科および口腔障害、例えば、歯周病、歯周炎、歯肉炎または他の歯科/口腔疾患;
(xi)精巣疾患、例えば、精巣炎または精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷または他の精巣疾患;
(xii)婦人科疾患、例えば、胎盤機能不全、胎盤不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症および他の婦人科疾患;
(xiii)眼科的障害、例えば、レーバー先天性黒内障(LCA)、例えばLCA10、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、緑内障、例えば開放角緑内障および若年性先天性緑内障、眼内炎症、例えば網膜炎または嚢胞性黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、色素性網膜炎、黄斑変性、例えば加齢性黄斑変性(AMD)および若年性黄斑変性、例えばベスト病、ベスト卵黄様黄斑変性、シュタルガルト病、アッシャー症候群、ドイン蜂巣状網膜ジストロフィー、ソルビー黄斑ジストロフィー、若年性網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、アディ症候群、小口病、変性眼底疾患、眼外傷、感染により引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過剰瘢痕、例えば緑内障濾過手術後のもの、眼インプラントに対する反応、角膜移植移植片拒絶、および他の眼科疾患、例えば糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、RLBP1関連網膜ジストロフィー、脈絡膜欠如および色覚異常;
(xiv)神経障害および神経変性障害、例えば、パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症および/または副作用、エイズ関連認知症症候群、HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病および他の変性疾患、CNSの病態または障害、脳卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ファブリー病、ゴーチャー病、シスチン症、ポンペ病、異染性白質ジストロフィー、ウィスコット-アルドリッチ症候群、副腎白質ジストロフィー、ベータサラセミア、鎌状赤血球症、ギランバレー症候群、シデナム舞踏病、重力筋無力症、偽性脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNSの感染症、筋萎縮および筋ジストロフィー、中枢神経系および末梢神経系の疾患、病態または障害、運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、脊髄および剥離損傷;ならびに
(xv)嚢胞性線維症、ムコ多糖症、例えばサンフィリポ症候群A、サンフィリポ症候群B、サンフィリポ症候群C、サンフィリポ症候群D、ハンター症候群、ハーラー-シャイエ症候群、モルキオ症候群、ADA-SCID、X連鎖SCID、X連鎖慢性肉芽腫性疾患、ポルフィリン症、血友病A、血友病B、外傷後炎症、出血、凝固および急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、敗血症性ショック、感染症、糖尿病、手術の合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、遺伝子治療の合併症および副作用、例えばウイルス性担体の感染またはエイズによるもの、天然または人工の細胞、組織および器官、例えば角膜、骨髄、臓器、レンズ、ペースメーカー、天然または人工皮膚組織の移植の場合の移植片拒絶の予防および/または治療のための体液性および/または細胞性免疫応答を抑制または阻害するためのもの。
【0041】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを製造するための安定または一過性生産細胞を提供する。
【0042】
もう1つの態様においては、
a.レンチウイルスベクターのgag、env、revおよびRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程、
b.所望により、ベクター成分および少なくとも1つの修飾U1 snRNAをコードする該ヌクレオチド配列を含む細胞を選択する工程、
c.該ベクター成分が該修飾U1 snRNAと共発現され、レンチウイルスベクターが産生される条件下で細胞を培養する工程
を含む、本明細書に記載されているレンチウイルスベクターの製造方法を提供する。
【0043】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の製造方法により製造されるレンチウイルスベクターを提供する。
【0044】
もう1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターの製造のための、本発明の修飾U1 snRNAまたは本発明の発現カセットの使用を提供する。
【0045】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAの存在下で製造されるレンチウイルスベクターを提供し、ここで、レンチウイルスベクターは、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける不活性化された主要スプライスドナー部位を含む。
【0046】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する。
【0047】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2またはEIAVに由来する。
【0048】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはHIV-1に由来する。
【0049】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターはSIVに由来する。
【0050】
本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されている。
【0051】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位および主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的(cryptic)スプライスドナー部位は不活性化されている。
【0052】
幾つかの実施形態においては、該レンチウイルスベクターは第3世代レンチウイルスベクターである。
【0053】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はtat非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである。
【0054】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はtatの非存在下で産生される。
【0055】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はtatに非依存的に転写されている。
【0056】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はU3非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである。
【0057】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はU3プロモーターに非依存的に転写されている。
【0058】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列は異種プロモーターにより転写されている。
【0059】
幾つかの実施形態においては、潜在的スプライスドナー部位は主要スプライスドナー部位の3’側の最初の潜在的スプライスドナー部位である。
【0060】
幾つかの実施形態においては、該潜在的スプライスドナー部位は主要スプライスドナー部位から6ヌクレオチド以内にある。
【0061】
幾つかの実施形態においては、主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位は突然変異または欠失している。
【0062】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、スプライス部位の不活性化前のヌクレオチド配列は、配列番号1、3、4、9、10および/または13のいずれかに記載されている配列を含む。該ヌクレオチド配列は、配列番号1、3、4、9、10および/または13のいずれかに記載されている配列と比較して突然変異または欠失を含有する配列を含みうる。1つの態様においては、該配列は配列番号13を含む。
【0063】
1つの態様においては、該ヌクレオチド配列は不活性化主要スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、主要スプライスドナー領域のヌクレオチド1(配列番号13)の直上流に切断部位を有するものである。
【0064】
1つの態様においては、該ヌクレオチド配列は不活性化主要スプライスドナー部位および不活性化潜在的スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、ヌクレオチド1の直上流に、および主要スプライスドナー領域のヌクレオチド(配列番号13)に対応するヌクレオチド4と5との間に、切断部位を有するものである。
【0065】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列は不活性化主要スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド13および14に対応するヌクレオチドの間に切断部位を有するものである。
【0066】
幾つかの実施形態においては、不活性化前の主要スプライスドナー部位のヌクレオチド配列は、配列番号4に記載されている配列を含む。
【0067】
幾つかの実施形態においては、不活性化前の潜在的スプライスドナー部位のヌクレオチド配列は、配列番号10に記載されている配列を含む。
【0068】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列は不活性化潜在的スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド17および18に対応するヌクレオチド間に切断部位を有するものである。
【0069】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2、5、6、7、8、11、12および/または14のいずれかに記載されている配列を含む。
【0070】
好ましい態様においては、ヌクレオチド配列は、配列番号14に記載されている配列を含む。
【0071】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列は、配列番号9に記載されている配列を含まない。
【0072】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位からのスプライシング活性は抑制または除去されている。
【0073】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムの主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位からのスプライシング活性はトランスフェクト化細胞または形質導入細胞において抑制または除去されている。
【0074】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列は、修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結されている。
【0075】
1つの態様においては、修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列とは異なるヌクレオチド配列、例えば異なるプラスミド上に存在する。
【0076】
1つの態様においては、本発明によるヌクレオチド配列は、tat非依存的レンチウイルスベクター系における使用のためのものである。1つの態様においては、レンチウイルスベクター系は第3世代レンチウイルスベクター系でありうる。
【0077】
1つの態様においては、ヌクレオチド配列は、ベクターの製造のためのtat非依存的系におけるレンチウイルスベクターにおける使用に好適でありうる。本明細書に記載されているとおり、第3世代レンチウイルスベクターはtat非依存的であり、本発明によるヌクレオチド配列は、第3世代レンチウイルスベクターの状況(コンテキスト)において使用されうる。明瞭にするために説明すると、「tat非依存的」なる語は、ベクターゲノムカセットの転写を駆動するために使用されるHIV-1 U3プロモーターが異種プロモーターにより置換されていることを意味すると理解される。本発明の1つの態様においては、tatはレンチウイルスベクター製造系においては供与されない。例えば、tatはトランスでは提供されない。1つの態様においては、本明細書に記載されている細胞またはベクターまたはベクター製造系はtatタンパク質を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】U1 snRNA分子の概略図、および本発明で使用する標的化配列をどのようにして修飾するかの一例。内因性非コードRNAであるU1 snRNAは、イントロンスプライシングの初期段階で、5’-(AC)UUACCUG-3’(灰色で強調表示されている)天然スプライスドナー標的化配列を介してコンセンサススプライスドナー部位(5’-MAGGURR-3’)に結合する。ステムループIは、ポリA抑制に重要であることが示されているU1A-70Kタンパク質に結合する。ステムループIIはU1Aタンパク質に結合し、5’-AUUUGUGG-3’配列はSmタンパク質に結合し、これは、ステムループIVと共に、U1 snRNAプロセシングに重要である。本発明において、修飾U1 snRNAは、天然スプライスドナー標的化配列の部位において、ベクターゲノムvRNA分子内の標的配列に相補的な異種配列を導入するように修飾されている。この図では、示されている例は、修飾U1 snRNAを標準的HIV-1レンチウイルスベクターゲノム(パッケージングシグナルの場合にはSL1ループ内に位置する)の15ヌクレオチド(ベクターゲノム分子256U1の最初のヌクレオチドに基づけば256~270)に向けている。
【
図2】修飾U1 snRNAによりもたらされるレンチウイルスベクター力価の増加はベクターゲノムの5’LTRにおけるポリA部位抑制に非依存的である。[A]HIV-1ポリA部位の転写リードスルーに対する2つのポリAシグナル突然変異体(pAM1=AAUAAA>AACAAA;pAKO=AAUAAAの欠失)および野生型ポリAシグナル(wt pA=AAUAAA)の影響を評価するために、GFP-ポリA-Gルシフェラーゼレポーターカセットを設計した。HIV-1ポリAシグナルのリードスルーは、GFP発現により正規化されたルシフェラーゼ活性により測定可能であった。[B]標準的なレンチウイルスベクターゲノム(STD-LV)と、異なる5’LTR ポリAシグナル突然変異体(Δ5’pA-LVpAM1またはpAM2)を含有する2つのレンチウイルスベクターゲノムとを使用して、修飾U1 snRNA(256_U1;製造中に並行して供給)の非存在下(NegCtrl)または存在下でベクター粒子を作製し、ついで力価測定した。
【
図3】修飾U1 snRNAによりもたらされるレンチウイルスベクター力価の増加は機能的U1A-70KまたはU1Aタンパク質結合ループを必要としない。[A]LVゲノムの256~270の領域またはlacZ配列における2つの部位(陰性対照)を標的化するように、U1 snRNAを修飾した。U1A-70Kタンパク質、U1Aタンパク質またはsmタンパク質結合を破壊することが公知である突然変異を含有するように修飾U1A snRNAを作製した(配列が示されている)。修飾U1A5、U1A6およびU1A7 snRNA変異体も作製した。[B]製造中にトランスで供給された種々の修飾U1 snRNAによるLV-GFP力価への影響。
【
図4】修飾U1 snRNAに関する長さおよび標的化配列の変化の効果。15ヌクレオチド(濃灰色のバー)または9ヌクレオチド(淡灰色のバー)の標的化長の相補性を含むベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った部位に対する標的化配列を有する修飾U1 snRNAの非存在下(黒色のバー)または存在下、GFPをコードする標準的レンチウイルスベクターを製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている。各修飾U1 snRNAのデータバーは、ベクターゲノムvRNAの5’末端における各既知機能的配列のおおよその表示位置の下に配置されている(縮尺どおりではない)。
【
図5】15ヌクレオチド(濃灰色のバー)の標的化長の相補性を含むベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った部位に対する標的化配列を有する修飾U1 snRNAの非存在下(黒色のバー)または存在下、GFPをコードする標準的レンチウイルスベクターを製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている。各修飾U1 snRNAのデータバーは、ベクターゲノムvRNAの5’末端における各既知機能的配列のおおよその表示位置の下に配置されている(縮尺どおりではない)。
【
図6】修飾U1 snRNAを使用することによる種々の導入遺伝子をコードするレンチウイルスベクターの力価の増加。GFPをコードする標準的レンチウイルスベクター(pHIV-EF1a-GFP)またはCD19に対するキメラ抗原受容体をコードする標準的レンチウイルスベクター(pHIV-EF1a-CD19)を、レンチウイルスベクターパッケージング領域内のいずれかの部位を標的化する修飾U1 snRNA(256U1または305U1)またはLacZ対照を標的化する修飾U1 snRNA(LacZU1)の非存在下(-)または存在下で製造した。修飾U1 snRNAは、レンチウイルスベクターパッケージング領域内の標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている。該修飾U1 snRNA発現構築物を、2つの異なる用量、すなわち、1倍または4倍の用量で供給した。
【
図7】HIV-1に基づくレンチウイルスベクター内の主要スプライスドナー部位(MSD)からの異常スプライシングの影響。A.パッケージングシグナルのステムループ(SL2)内に埋め込まれた機能的主要スプライスドナーを含有する第3世代(自己不活性化(SIN))レンチウイルスベクター発現カセットの典型的な構成、およびレンチウイルスベクター製造中に産生されるmRNAのタイプを示す概略図。「標準的」レンチウイルスベクター(LV)DNAカセットから産生されるmRNA、および(a)MSDからの無差別的(promiscuous)活性を抑制または除去する、MSD領域内の機能的突然変異を含有するレンチウイルスベクターDNAカセット(「MSD-KO LV DNAカセット」)から産生されるmRNAのタイプが示されている。どちらのカセットに関しても、完全長(「未スプライス化」)ベクターRNA(vRNA)はrevの共発現から生じ、これはrev応答エレメント(RRE)に結合し、MSDからスプライスアクセプター7(sa7)(RRE配列と共に含まれるもの)までのスプライシングを抑制すると一般に考えられている。標準的レンチウイルスベクターDNAカセットの場合、revの非存在下、全てのイントロンのスプライシングによる切り出しが効率的に生じると一般に考えられている(「スプライス化」)。しかし、レンチウイルスベクター製造中に「異常」スプライス産物が生じうる。この場合、MSDはスプライスアクセプター部位または潜在的スプライスアクセプター部位へと非常に効率的にスプライシングされて(「異常」スプライス化」)、典型的にはRRE含有イントロンを「見過ごし」、その結果、revはMSDのこの活性に最小限の影響しか及ぼさない。レンチウイルスベクター製造は、MSD突然変異レンチウイルスベクターDNAカセットのパッケージング領域に再指向化(redirected)された修飾U1 snRNAの共発現によっても行われうる。(凡例:Pro,プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd,主要スプライスドナー;cppt,中央ポリプリントラクト;Int,イントロン;sd/sa,スプライスドナー/アクセプター;GOI,関心のある遺伝子;灰色の矢印は、第3世代レンチウイルスベクター製造中に産生される未スプライス化vRNAの割合を評価するためのフォワードプライマー{f}およびリバースプライマー{r}の位置を示す。転写後調節エレメント{PRE}は明瞭化のために示されていない)。B.標準的な第3世代レンチウイルスベクターの製造を、HEK293T細胞において、revの存在下または非存在下(+/- rev)で行い、製造後の細胞から全RNAを抽出した。全RNAを、2つのプライマーセット(Aと表示されている位置)(f+rTは、レンチウイルスベクター発現カセットから産生された全転写産物を増幅した;f+rUSは、未スプライス化転写産物を増幅した)を使用するqPCR(SYBRグリーン)に付した。したがって、全vRNA転写産物に対する未スプライス化vRNA転写産物の比率を計算し、プロットした。データは、標準的な第3世代レンチウイルスベクターの製造中の全vRNAに対する未スプライス化vRNAの比率が適度であり、内部導入遺伝子カセット(この場合には種々のプロモーターおよびGFP遺伝子を含有する)によって様々であることを示している。更に、この比率はrevの作用によって最小限しか増加しない。
【
図8】3つの異なるプロモーター-GFP発現カセット(EF1a、EFSおよびCMV)を含有するHIV-1レンチウイルスベクターゲノムを修飾して、MSDを機能的に突然変異させて、「MSD-2KO」レンチウイルスベクターゲノムまたはバックボーンを得た(突然変異の説明に関しては
図15Aを参照されたい)。ベクターを標準的なプロトコルによりHEK293T細胞において製造し、力価測定した。データは、MSDの機能的突然変異(「MSD-2KO」)がレンチウイルスベクター力価における最大100倍の減少をもたらすことを示している。
【
図9】EF1a-GFP内部発現カセットをコードする標準的またはMSD突然変異レンチウイルスベクター発現カセットの構成、およびレンチウイルスベクター製造中に産生されるmRNAのタイプを示す概略図。(凡例:Pro,プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd,主要スプライスドナー;cppt,中央ポリプリントラクト;Int,イントロン;sd/sa,スプライスドナー/アクセプター;GOI,関心のある遺伝子;灰色の矢印は、第3世代レンチウイルスベクター製造中に産生される未スプライス化vRNAの割合を評価するためのフォワードプライマー{f}およびリバースプライマー{r}の位置を示す。転写後調節エレメント{PRE}は明瞭化のために示されていない)。B i.標準的レンチウイルスベクターまたはMSD-2KOレンチウイルスベクターを、HEK293T細胞において、tatまたは179U1または305U1の存在下または非存在下で製造し、力価測定した。ii.全細胞質mRNAを製造後の細胞から抽出し、SL2スプライシング領域からEF1aスプライスアクセプターまでの主要「異常」スプライス産物を検出しうるプライマー(f+rG)を使用するRT-PCR/ゲル電気泳動により分析した。データは、MSD-2KOレンチウイルスベクターゲノム(vRNA)の5’パッケージング領域に再指向化された修飾U1 snRNAが、tatと同様の様態で標準的レンチウイルスベクターおよびMSD-2KOレンチウイルスベクターの両方の力価を増加させることが可能であったことを示している。MSD-2KO突然変異は、SL2スプライシング領域からEF1aスプライスアクセプターまでの「異常」スプライス産物の検出を阻止した(
図9Aを参照されたい)。重要なことに、修飾U1 snRNAによる力価の増加は、tatの使用の場合とは対照的に、実質的に検出不可能な「異常」スプライス化産物の維持を伴っていた。
【
図10】EF1a、EFSまたはCMVプロモーターにより駆動されるGFP内部カセットをコードする標準的レンチウイルスベクターまたはMSD突然変異レンチウイルスベクターを、256U1の存在下または非存在下、HEK293T細胞において製造し、力価測定した。5’パッケージング領域に再指向化された修飾U1 snRNAの使用によるレンチウイルスベクター力価の増加は、導入遺伝子カセット内で使用されたプロモーターに非依存的である。データが示すところによると、MSD-2KO突然変異の弱毒化表現型は、大部分において、修飾U1 snRNAの共発現によりレスキューされ、したがって、これは、標準的レンチウイルスベクターゲノムと比較して、不相応に、MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムの力価を驚くほど増加させる。
【
図11】5’パッケージング領域に再指向化された修飾U1 snRNAの使用によるMSD突然変異レンチウイルスベクター力価の増加は5’LTR内の5’ポリAシグナルの潜在的活性の抑制に関連していない。以前の報告が示すところによると、MSDの突然変異は、転写の早期終結を招くHIV-1プロウイルスおよび「ミニ-レポーター」カセットの5’LTRの5’R配列内のポリAシグナルを活性化し、内因性U1 snRNAおよび更には再指向化U1 snRNAの結合はこのポリA活性を遮断しうる。A.HIV-1ポリA部位の転写リードスルーに対する2つのポリAシグナル突然変異体(pAM1=AAUAAA>AACAAA;pAKO=AAUAAAの欠失)および野生型ポリAシグナル(wt pA=AAUAAA)の影響を評価するために、GFP-ポリA-Gルシフェラーゼレポーターカセットを設計した。HIV-1ポリAシグナルのリードスルーは、GFP発現により正規化されたルシフェラーゼ活性により測定可能であった。B.修飾U1 snRNAが同様に作用するかどうかを試験するために、5’ポリAシグナルにおける機能的ポリA突然変異(pAm1)を、EF1a-GFPまたはCMV-GFP発現カセットを含有するMSD突然変異レンチウイルスベクターゲノム内に導入した。EF1a-GFPまたはCMV-GFP発現カセットを含有する標準的レンチウイルスベクターゲノムおよびMSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムも使用した。レンチウイルスベクターを、305U1の存在下または非存在下、HEK293T細胞において製造し、力価測定した。データが示すところによると、5’ポリAシグナルの機能的除去はレンチウイルスベクター力価のごく僅かな増加をもたらしたに過ぎず、したがって、修飾U1 snRNA、特にMSD-2KO/ポリA突然変異レンチウイルスベクターゲノムによりもたらされたレンチウイルスベクター力価の観察された増加は5’ポリA活性の抑制に起因するものではなかった可能性がある。
【
図12】305U1および256U1修飾U1 snRNA内に幾つかの突然変異を導入した。これらは、ベクターゲノムのSL1に結合するU1-70Kタンパク質、SL2に結合するU1Aタンパク質、またはSL4に若しくはその近傍に結合するSmタンパク質を除去することが公知である。EF1a-GFP内部カセットをコードする標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターを、これらの突然変異修飾U1 snRNAの存在下で製造し、力価測定し、力価の値を、修飾U1 snRNAの非存在下で製造された標準的レンチウイルスベクターに対して正規化した。データが示すところによると、修飾U1 snRNAによるMSD-2KOレンチウイルスベクター力価の増加はU1-70Kタンパク質またはU1Aタンパク質結合に依存的ではなく、Smタンパク質結合部位に依存的である。したがって、5’パッケージング領域に再指向化された修飾U1 snRNAの使用によるMSD-2KOレンチウイルスベクター力価の増加はU1 snRNAのいずれの既知機能にも関連していない。
【
図13】種々の長さの標的化配列を含有する修飾U1 snRNAの使用によるMSD突然変異レンチウイルスベクター力価の増加。EF1a-GFPカセットを含有するMSD-2KOレンチウイルスベクターを、「305」領域を標的化する修飾U1 snRNAの存在下、HEK293T細胞において製造した。この場合、各修飾U1 snRNAは種々の長さの相補性の再標的化配列を含んでいた。7~15ヌクレオチドの相補性長を含有する修飾U1 snRNAを使用した場合に力価の増加が観察され、最大の効果は10ヌクレオチド以上で観察された。
【
図14】修飾U1 snRNAをベクターゲノムRNAのパッケージング領域に標的化させた場合に、MSD突然変異レンチウイルスベクターの最大力価の回復/増強が観察される。15ヌクレオチド(または示されている場合には9ヌクレオチド)の長さの相補性を含むベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った部位への標的化配列を有する修飾U1 snRNAの存在下、EF1-GFPカセットを含有するMSD-2KOレンチウイルスベクターを製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている。各修飾U1 snRNAのデータバーは、ベクターゲノムvRNAの5’末端における各既知機能的配列のおおよその表示位置の下に配置されている(縮尺どおりではない)。
【
図15】機能的主要スプライスドナー突然変異、レンチウイルスベクター力価に対するそれらの影響および修飾U1 snRNAによる回復の説明。A.「野生型」HIV-1(NL4-3;本レンチウイルスベクターゲノム内の「標準的」配列)のステムループ2(SL2)領域の配列が上部に示されている。この配列は、主要スプライスドナー部位(MSD:コンセンサス=CTGGT)、および潜在的スプライスドナー部位[MSD部位が単独で突然変異している場合に利用される(crSD:コンセンサス=TGAGT)]を含む。スプライスドナー部位が使用される場合のスプライシングの位置のヌクレオチドが太字および矢印で示されている。MSDおよびcrSD部位スプライシング活性の両方を除去する以下の4つの機能的MSD突然変異が記載されている:MSD部位およびcrSD部位からの2つの「GT」モチーフを突然変異させる(およびほとんどの実施例において広く使用される)MSD-2KO;MSD部位とcrSD部位との両方を除去する突然変異をも含むMSD-2KOv2;スプライスドナー部位を欠く全く新たなステムループ構造を導入するMSD-2KOm5;ならびにSL2配列を完全に欠失させるΔSL2。MSD-2KO、MSD-2KOv2およびMSD-2KOm5突然変異においてSL2配列に導入された置換は小文字イタリック体で示されている。B.機能的MSD突然変異(
図15Aに記載されているもの)を含む4つのレンチウイルスベクターゲノム変異体をEFS-GFP内部カセットでクローニングし、更に、MSD-2KOまたはMSD-2KOm5変異体をEF1a-、CMV-またはhuPGK-GFP内部カセットでクローニングした。標準的LVおよびMSD突然変異LVを、256U1の存在下または非存在下、HEK293T細胞において製造し、力価測定した。データは、レンチウイルスベクター力価の減衰の度合が特定の突然変異によって変動しうること、およびMSD-2KOm5変異体が、一般に、より低い減衰表現型を産生したことを示している。修飾U1 snRNAは、製造中に共発現された場合、機能的MSD突然変異を含む4つのレンチウイルスベクターゲノム変異体に関して、レンチウイルスベクター力価を増加させることが可能であった。力価の増加は、MSD-2KOm5配列を含有するMSD突然変異LVゲノムと共に256U1が発現された場合に最大であった。
【
図16】修飾U1 snRNA発現カセットは、一過性トランスフェクションプロトコルにおける使用を容易にするために、レンチウイルスベクターゲノムプラスミドバックボーンに配置されうる。実施例の多くは、レンチウイルスベクターの製造におけるレンチウイルスベクター成分プラスミドとのコトランスフェクションにおいて、別個の修飾U1 snRNA発現プラスミドを使用する。一過性トランスフェクション中にシスで修飾U1 snRNAカセットを提供可能にするために、レンチウイルスベクターゲノムプラスミドバックボーン上の「許容」部位を特定するために、3つの変異体がクローニングした。A.一過性トランスフェクション中にシスで修飾U1 snRNAカセットを提供するレンチウイルスベクターゲノム変異体の概略図。バージョン1(「[cis]ver1」)およびバージョン3(「[cis]ver3」)は修飾U1 snRNAカセットを耐性マーカーと複製起点との間に配置した。この場合、修飾U1 snRNAカセットはレンチウイルスベクターゲノムカセットに対して反転している(耐性マーカーの配向がver1とver3とで異なっている)。バージョン2(「[cis]ver2」)は修飾U1 snRNAカセットをレンチウイルスベクターゲノムカセット上流に同一配向で配置した。(凡例:Pro,プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd,主要スプライスドナー{ここではMSD-2KOとして示されている};RRE,rev応答エレメント;cppt,中央ポリプリントラクト;Transgenic(トランスジェニック),治療用ペイロード(payload)を含む異種配列;U1-Pro,U1プロモーター;Term[3’box],U1転写ターミネーター)。B.EF1a-GFPカセットを含有するMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムプラスミドの3つの「cis」バージョンを使用して、「trans」(「トランス」)アプローチと並行してHEK293T細胞においてレンチウイルスベクターを製造した。「trans」アプローチにおいては、同じMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノム(修飾U1 snRNAカセットがバックボーン内に挿入されていないもの)を、別個のプラスミドでのコトランスフェクションにより供給される修飾U1 snRNAの存在下または非存在下で製造した。データは、別個の修飾U1 snRNAコード化プラスミドのコトランスフェクションと同様に、「cis」(「シス」)レンチウイルスベクターゲノムの使用によりMSD-2KOレンチウイルスベクター力価が増加しうることを示している。
【
図17】治療用導入遺伝子をコードする標準的レンチウイルスベクターの力価を増加させるための修飾U1 snRNAの使用の更なる実証。T2Aペプチドを介してGFPに融合したコドン最適化もしくは野生型ヒトアルファ1-アンチトリプシンをコードする又は癌抗原5T4に対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするEF1a駆動性導入遺伝子カセットを含有する標準的レンチウイルスベクターベクターを、修飾U1 snRNA(256U1)の存在下または非存在下、無血清懸濁液HEK293T細胞において製造し、組込み(Integration)アッセイおよびGFP-FACSアッセイ(示されている場合)により力価測定した。データは、修飾U1 snRNAが製造中に供給された場合、ベクター力価が約3倍増加することを示している。
【
図18】標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターの増加を可能にする修飾U1 snRNAを安定に発現するHEK293T細胞の単離の成功は、修飾U1 snRNAカセットがレンチウイルスベクターパッケージングおよびプロデューサー細胞株内に導入されうることを示している。EFS-GFPカセットを含有する標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムを、追加的な305U1プラスミドの存在下または非存在下、HEK293TまたはHEK293T.305U1(9nt変異体)細胞において製造した。データは、修飾U1 snRNAを発現する安定なカセットが、毒性を伴うことなく細胞内に導入されうることを示している。
【
図19】レンチウイルスベクター製造中に導入遺伝子を発現する異常にスプライシングされるmRNAをMSD-2KOレンチウイルスベクターにおいて阻止して、TRiP系を利用する際にTRAPにより標的化されることを要する導入遺伝子mRNAの量を減少させる。A.EF1a-GFP導入遺伝子カセットをコードする「TRiP」レンチウイルスベクターゲノムの概略図。ここで、TRAP結合部位(tbs)は該カセットの5’UTR内に配置されている(ベクター製造中のTRAPの供給は導入遺伝子の発現レベルを低下させる)。MSD-2KOレンチウイルスベクターの製造中、完全長未スプライス化パッケージング可能vRNAおよび導入遺伝子mRNAは、レンチウイルスベクターカセットから製造されるRNAの主要形態である(i)(導入遺伝子プロモーターが製造中に活性である場合)。しかし、標準的レンチウイルスベクターゲノムにおけるMSDの無差別的活性は、導入遺伝子をコードしうる追加的な「異常」スプライス産物をもたらす(ii)。これは、内部導入遺伝子プロモーター、すなわち、組織特異的プロモーターに非依存的に生じうる。(凡例:Pro,プロモーター;5’Rからgagまでの領域はパッケージングエレメント{Ψ}を含有する;msd,主要スプライスドナー;cppt,中央ポリプリントラクト;Int,イントロン;sd/sa,スプライスドナー/アクセプター;GOI,関心のある遺伝子;灰色の矢印は、第3世代レンチウイルスベクター製造中に産生される未スプライス化vRNAの割合を評価するためのフォワードプライマー{f}およびリバースプライマー{r}の位置を示す。転写後調節エレメント{PRE}は明瞭化のために示されていない)。B.EF1a-GFPカセットを含有する標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムプラスミドを使用して、HEK293T細胞においてレンチウイルスベクターを製造し、GFP発現スコアを得た(% GFP×MFI)。標準的レンチウイルスベクター製造中に培養物中で産生されたGFPの総量と比較して、MSD-2KOは、TRAPの非存在下でさえも、産生GFPの量を減少させる相当な効果を示した。したがって、TRAPの抑制効果はMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムの使用により増強されて、培養物中のGFPのレベルをかなり低下させた。
【
図20】修飾U1 snRNAの使用によるレンチウイルスベクター力価の増加はビリオン内へのベクターRNAパッケージングの増加と相関している。実施例5で製造されたベクターのRNアーゼ処理粗製ベクター上清から全RNAを抽出した(
図6を参照されたい)。精製されたRNAを、ベクターゲノムRNAにおけるHIV-1パッケージングシグナルに対するプライマーを使用するRT-qPCRに付した。vRNA対する修飾U1 snRNAの存在下で産生された粗製ベクター回収物におけるvRNAシグナルの増加は、
図6に示されているベクター力価の増加と同様の大きさであった。
【
図21】修飾U1 snRNAの使用によるα1-アンチトリプシン(α1AT)コード化VSVG偽型レンチウイルスベクター力価の増加、および製造中の導入遺伝子発現の付随的抑制。GFP発現(T2Aペプチドによる)に翻訳的に連結されたコドン最適化(co)または野生型(wt)α1ATタンパク質をコードする、HIV-1に基づくLVを、256U1の非存在下または存在下、HEK293T無血清懸濁細胞において製造した。[A]接着性HEK293Tの形質導入およびフローサイトメトリーにより、清澄化ベクター回収物を力価測定した。[B]産生後の細胞ライセートを導入遺伝子タンパク質およびβ-アクチンに関する免疫ブロットに付した。256U1発現プラスミドと共にコトランスフェクトされた細胞において、導入遺伝子発現における僅かではあるが観察可能な減少が明らかであった。
【
図22】修飾U1 snRNAの使用によるα1-アンチトリプシン(α1AT)コード化センダイウイルス(SeV)エンベロープ偽型レンチウイルスベクター力価の増加、および製造中の導入遺伝子発現の付随的抑制。GFP発現(T2Aペプチドによる)に翻訳的に連結されたα1ATタンパク質をコードする、HIV-1に基づくLVを、256U1の非存在下または存在下、接着性または懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。SeV-F/HN偽型LVは形質導入前にトリスピン処理による活性化を要した。[A]接着性HEK293Tの形質導入およびフローサイトメトリーにより、清澄化ベクター回収物を力価測定した。[B]産生後の細胞ライセートを導入遺伝子タンパク質およびβ-アクチンに関する免疫ブロットに付した。256U1発現プラスミドと共にコトランスフェクトされた細胞において、導入遺伝子発現における僅かではあるが観察可能な減少が明らかであった。256U1によりもたらされるLV力価の増加は、製造中に発現されるα1-アンチトリプシンの減少ゆえに、SeV F/HN偽型ベクターにおいては、VSVG偽型ベクターと比較して、より顕著であった(
図21)。SeV Fタンパク質は形質導入前にトリプシンによる活性化を要し、したがって、粗製ベクター内のα1ATは、おそらく、この活性化段階を阻害するであろう。
【
図23】反転導入遺伝子カセットを含有するレンチウイルスベクターの力価を増加させるための修飾U1 snRNAの使用。[A]LCR-β-グロビンプロモーターにより駆動される反転β-グロビン遺伝子(初代細胞における効率的発現のための必要エクソン/イントロンを含有するもの)をコードするLVゲノム発現カセットの概略図。[B]LV調製物を、示されている修飾U1 snRNAの非存在下または存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。接着性HEK293Tの形質導入およびそれに続く組込みアッセイにより、清澄化ベクター回収物を力価測定した。
【
図24】修飾U1 snRNAの使用によるレンチウイルスベクターの力価の増加は粗製ベクター物質においてだけではなく濃縮ベクター物質においても観察される。EF1aプロモーター駆動性ホタルルシフェラーゼ/GFP二重レポーターカセットをコードする、HIV-1に基づくレンチウイルスベクターを、256U1の非存在下または存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。清澄化ベクター回収物の大部分を、約20倍の濃縮係数が得られるように遠心分離により濃縮した。接着性HEK293T細胞の形質導入、およびそれに続く、GFP陽性細胞を測定するためのフローサイトメトリーにより、清澄化ベクター回収物および濃縮ベクターを力価測定した。
【
図25】発現レベルおよび残留物を評価するための修飾U1 snRNAの検出のためのTaqmanベースRT-qPCRアッセイの開発。[A]256U1 snRNA分子と、フォワード/リバースプライマーおよびFAM/TAMRAコンジュゲート化プローブの結合位置とを示す概略図。内因性U1 snRNAと本発明に記載されている修飾U1 snRNAとの主な差異は該分子の5’末端であり、修飾U1 snRNAがベクターゲノムRNAにアニーリングすることが可能となるように、天然スプライスドナーアニーリング配列が標的化配列によって置換される。リバースプライマーを使用して(逆転写酵素を使用して)cDNA合成工程を行うための必要な要件ゆえに、内因性U1 snRNAと修飾U1 snRNAとの両方が、細胞RNAおよび(潜在的に)ベクター粒子から抽出されたRNAのcDNA合成中に生成されるcDNAのプールに寄与する。したがって、内因性U1 snRNAと修飾U1 snRNAとを識別するために、フォワードプライマーを、5’末端においてvRNA標的化配列にアニーリングするように設計する。[B]p256U1の存在下または非存在下のトランスフェクションから得られた細胞ライセートから抽出された全RNAのTaqman qPCR(+/- RT工程)から得られたプロットされたCt閾値。p256U1サンプル(反応当たり2×10
7コピー、10倍系列希釈)から標準曲線(黒丸)を作成し、良好な範囲および直線性が得られた。非トランスフェクト化細胞サンプルとp256U1トランスフェクト化細胞(RT工程無し)との間の約2倍のサイクル差は、サンプルがRT工程後にDNアーゼで処理されたにもかかわらず、サンプルに関連する残留p256U1 DNAのレベルの可能性を示している。p256U1トランスフェクト化細胞に由来する+RT処理サンプルと-RT処理サンプルとの間のCtの平均差は19.4サイクルであり、サンプルの80倍希釈(すなわち、反応当たり約10
5 コピー)では、この差は20サイクルであった。
【
図26】レンチウイルスベクター製造の一過性トランスフェクション法におけるトランスフェクション混合物への修飾U1 snRNA発現プラスミドの添加の用量反応。HIV-1に基づくLV-CARベクター(CD19を標的化するCARを発現するEF1aプロモーター駆動性カセットをコードするもの)を、漸増量のコトランスフェクト化p256U1の非存在下または存在下、一過性トランスフェクションにより、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。[A]製造後の細胞を全RNA抽出に付し、ベクターゲノムRNA(vRNA)または256U1 snRNAのレベルをRT-qPCRにより定量した。全てのデータを、内因性転写産物(RPH1)に対して行った対照RT-qPCRに基づいて補正した。[B]接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続く組込みアッセイ(vRNAプライマーを使用する抽出宿主細胞DNAのqPCR)により、清澄化LV-CARベクター上清を力価測定した。データは、生産細胞内の256U1 snRNAレベルとvRNAレベルとの間の相関性を示しており、産出ベクター力価における類似した増加がもたらされる。
【
図27】治療用導入遺伝子をコードするレンチウイルスベクターの製造のための修飾U1 snRNAとLV成分プラスミドとの比率を最適化するための多分散モデリング(「実験計画法」[DoE]によるもの)の適用の一例。HIV-EF1a-5T4CARベクターを、懸濁(無血清)HEK293T細胞において、40mLの振とうフラスコのスケールで製造した。GagPolおよびrevの投入レベルを固定し、ゲノム、VSVGおよび256U1プラスミドのレベルを変化させた。接着性HEK293T細胞の形質導入、およびそれに続く、抗CAR抗体を使用する免疫フローサイトメトリーにより、清澄化粗製回収ベクターを力価測定した(淡灰色のバー;「試験」T1~28)。DoE実験により得られた力価の値はp256U1投入の最適レベルの予測を可能にした。ついで、この投入レベル(「DoE予測」D1~3)またはp256U1の非存在下(「プラットフォーム」P1~3)のいずれかで、更なるベクター調製物を製造した。この最適化実験はp256U1の適用を可能にし、HIV-EF1a-5T4CAR産出力価における約10倍の増加をもたらした。
【
図28】初代T細胞の形質導入および残留256U1 snRNA分析のための濃縮ベクターを製造するための、256U1の存在下または非存在下でのHIV-EF1a-5T4CARベクターの製造および濃縮。HIV-EF1a-5T4CAR(「LV-CAR」)ベクターを250mLの振とうフラスコのスケールでの懸濁(無血清)HEK293T細胞の一過性トランスフェクションにより製造し、イオン交換クロマトグラフィー、塩活性ヌクレアーゼ(SAN)によるDNアーゼ処理、およびそれに続く低速遠心分離に付した。HEK293T細胞の形質導入およびそれに続く組込みアッセイにより、ベクター調製物を力価測定した。
【
図29】ベクター調製物における残留265U1 snRNAの検出および定量。256U1の存在下または非存在下で製造されたHIV-EF1a-5T4CAR(「LV-CAR」)の製造からのベクターサンプル(
図28を参照されたい)を全RNA抽出に付した後、ベクター関連RNAのRT-qPCR分析に付して、vRNAおよび256U1残留DNAレベル/比を定量した。データが示すところによると、清澄化ベクター回収物において検出された、初期に高レベルの256U1 snRNAは、主に、ベンゾナーゼでの処理により除去可能な「遊離」256U1 snRNAによるものであった(ベンゾナーゼは、精製中の清澄化ベクター回収物の処理には使用しなかった)。この処理は256U1とvRNAとの比を1:20に減少させ、これは下流の処理/濃縮中の塩活性ヌクレアーゼ(SAN)処理の後で更に1:32に減少した。
【
図30】256U1の存在下または非存在下で製造されたHIV-EF1a-5T4CARの濃縮/精製調製物の、質量分析による比較タンパク質分析。初代T細胞(表IVを参照されたい)を形質導入するために製造された濃縮/精製LV-CAR調製物(
図28および29を参照されたい)を質量分析により分析して、LV製造中の256U1修飾U1 snRNA分子の発現により生じうるタンパク質含有量における主な差異を評価した。256U1の存在下で製造されたベクター(LV-CAR[+256U1])に関する上位400のタンパク質ヒットを合計比率としての相対存在量に基づいて1位~400位にランク付けし、LV-CARまたはLV-CAR[+256U1]におけるこれらのヒットの相対存在量をy軸上にプロットした。これらの400個のタンパク質のうち上位100個がタンパク質の総存在量の約70%を構成し、上位10個が約30%を構成した。上位2つの最多ヒットは、共にLV調製物のGagおよびVSV-Gであり、HIV-1ビリオンに高レベルで組み込まれることが公知である他の細胞因子には、ベイシジン、HSPc-71K、アグリンおよびシクロフィリンAが含まれ、最後者はカプシドに特異的に結合する。この比較は、それらの2つのLV調製物のタンパク質組成にほとんど差異がないことを示した。GagおよびPolにマッピングされるペプチドの存在量の比(Gag対Pol)は両方のLV調製物に関して約16であり、これは、HIV-1に関する予想比である約20に合致しており、このことは、該データが良好な品質であることを示している。
【
図31】256U1の存在下または非存在下で製造されたHIV-EF1a-5T4CARベクターを使用するCAR-T細胞の作製。3名の健常ドナーからの約1.5×10
6個の末梢血単核細胞(PBMC)をCD3/CD28 T細胞エキスパンダー(Expander)ビーズの存在下で培養し、IL-2と共にインキュベートした。活性化T細胞を濃縮ベクターサンプル「LV-CAR」および「LV-CAR[+256U1]」(
図28~30および表IVを参照されたい)でMOI 1.25で形質導入し、更にLV-CAR[+256U1]の場合にはMOI 0.3で形質導入した。[A]生細胞総数を形質導入後第13日(D13)までモニターした後、凍結生細胞バンク(1×10
7 vc/バイアル)を作製した。CAR-T細胞を回復(revive)させ、5日間(R+5)増殖させて、細胞殺滅およびサイトカイン遊離アッセイのための準備を整えた(
図32および33を参照されたい)。[B]形質導入後第8日(D8)および冷凍ストックからの回復の際に、形質導入率を測定した。
【
図32】256U1の存在下または非存在下で製造されたLV-CARベクターを使用して作製されたCAR-T細胞の機能性の評価;サイトカイン遊離。回復させたCAR-T細胞を更に5日間増殖させた。生存率は全て97%を超えていた。約1×10
5個のCAR-T細胞を同数の標的細胞株、すなわち、THP-1、Kasumi-1およびSKOV-3(全て5T4陽性)、およびAML-193(5T4陰性細胞株)と共培養した。24時間後、サイトメトリービーズを使用して、培養上清をグランザイムB[A]およびインターフェロンγ活性[B]に関して分析した。
【
図33】256U1の存在下または非存在下で製造されたLV-CARベクターを使用して作製されたCAR-T細胞の機能性の評価;標的細胞の殺滅。回復させたCAR-T細胞を更に5日間増殖させた。生存率は全て97%を超えていた。約1×10
5個のCAR-T細胞を同数の標的細胞株、すなわち、THP-1、Kasumi-1およびSKOV-3(全て5T4陽性)、およびAML-193(5T4陰性細胞株)と共培養した。標的細胞を細胞追跡用蛍光色素で標識して、フローサイトメトリーによるその後の特定を可能にした。40時間後、細胞を回収し、生存性解析用蛍光色素で染色した。各実験ウェルにおける生存不能標的細胞の割合をフローサイトメトリーにより測定し、標的細胞のみの培養物(CAR-Tが添加されていないもの)の生存率と比較した。
【
図34】256U1の存在下で製造されたHIV-EF1a-5T4CARでの形質導入の後のCAR-T増殖培養における残留ベクター関連RNAの分析。2つの異なるMOIでのHIV-EF1a-5T4CAR(+256U1;
図31を参照されたい)での形質導入の後のCAR-T細胞の増殖中に、第8日および第13日に細胞ペレットを回収した。全RNAを抽出し、RPH1 mRNA、vRNA(Psi)および256U1 snRNAに対するRT-qPCRを行った。内因性RPH1転写産物の存在量と残留256U1 snRNAの存在量との差をデルタCt法により計算した。
【
図35】振とうフラスコおよびバイオリアクターにおけるp256U1の存在下または非存在下でのレンチウイルスベクターパッケージング細胞株の一過性トランスフェクションによるHIV-EF1a-CAR(CD19)ベクターの製造。HIV-EF1a-CAR_CD19またはHIV-EF1a-CAR_CD19-T2A-GFPゲノムプラスミドのいずれかを、p256U1の存在下または非存在下、懸濁無血清順応レンチウイルスベクターパッケージング細胞株(PAC)内にトランスフェクトした。40mLの振とうフラスコまたは250mLのバイオリアクターのいずれかにおいて製造を行った。懸濁無血清順応HEK293T細胞を対照として使用し、ここで、全てのベクター成分プラスミドDNAもコトランスフェクトした。
【
図36】256U1 snRNA発現カセットで安定的にトランスフェクトされた懸濁(無血清)順応HEK293T細胞株からのレンチウイルスベクター製造の増強。ハイグロマイシンB耐性マーカーカセットに機能的に連結された256U1 snRNA発現カセットで安定にトランスフェクトされたHEK293T細胞から懸濁(無血清)順応HEK293T細胞株「256U1c39」を単離した。親HEK293T細胞株と比較した場合のHIV-EF1a-5T4CAR力価の増加を、選択圧の存在下または非存在下、10週間にわたって評価した。データは、256U1c39クローンが、一過性トランスフェクト化HEK293T親細胞に近いレベルまたは同じレベルで、256U1 snRNAを安定に産生したことを示している。
【
図37】修飾U1 snRNAの再標的化配列の長さの試験。HIV-EF1a-GFP、HIV-EF1a-CARCD19またはHIV-EF1a-5T4CARベクターを、vRNAのLVパッケージング領域内の305位を標的化する修飾U1 snRNAの存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。試験された各305U1変異体は5、7、9~15ヌクレオチドの種々の長さの標的化配列を含有していた。該変異体を未修飾U1および256U1(15nt)と比較した。接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリー[A]または組込みアッセイ[B]により、清澄化ベクター上清を力価測定した。
【
図38】修飾U1 snRNAによるレンチウイルスベクター力価の増加はスプライシング関与複合体の生成におけるU1 snRNAの「AU」ジヌクレオチド依存性の報告されている能力に無関係であるらしい。HIV-EF1a-GFPベクターを、256U1 snRNAの示されているジヌクレオチド変異体(表Vを参照されたい)の存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造し、接着性HEK293T細胞上で力価測定した。相対力価(256U1の非存在下に対するもの)をプロットし、Yehら(2017)による予想CBP20結合スコアおよび力価に対する影響(13nt変異体、淡灰色のバー)が最も高いものから最も低いものへとランク付けした。点線は256U1_13_aT対照変異体による力価増加を示す。各ジヌクレオチド変異体のCAP結合スコアの予想される能力とベクター力価の増加との間に相関性は存在しないようであった。
【
図39】修飾U1標的化部位の微調整。256U1 snRNAにより特定された見掛け「ホットスポット」に基づいて、13ヌクレオチドの標的アニーリング長を含有する修飾U1 snRNAを設計した(表VI)(
図4および5を参照されたい)。これらは、HIV-1に基づくLVゲノムにおいてnt256標的部位の上流または下流に標的部位が約2ntの増分でシフトするように設計した。HIV-EF1a-GFPベクターを、示されている変異体修飾U1 snRNAのそれぞれの非存在下または存在下、一過性トランスフェクションにより、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリーによる分析により、清澄化ベクター上清を力価測定した。
【
図40】EIAV vRNAの5’パッケージング領域に対する修飾U1 snRNAでの生産細胞のコトランスフェクションによる、EIAVに基づくレンチウイルスベクターの力価の増加。示されている修飾U1 snRNA発現プラスミド(表VIを参照されたい)の存在下または非存在下、pEIAV-CMV-GFPまたはpEIAV-EF1a-GFPのいずれかのゲノムプラスミドならびにpGagPol、pRevおよびpVSVGで懸濁(無血清)HEK293T細胞をトランスフェクトした。接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリーにより、清澄化ベクター上清を力価測定した。相対力価を、修飾U1 snRNA発現プラスミドの非存在下で製造されたベクター(縞模様のバー)と比較してプロットした。
【
図41】SIVagm vRNAの5’パッケージング領域に対する修飾U1 snRNAでの生産細胞のコトランスフェクションによる、SIVagmに基づくレンチウイルスベクターの力価の増加。示されている修飾U1 snRNA発現プラスミド(表VIIIを参照されたい)の存在下または非存在下、SIVベクター成分で懸濁(無血清)HEK293T細胞をトランスフェクトした。接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続く組込みアッセイにより、清澄化ベクター上清を力価測定した。
【0079】
発明の詳細な説明
一般的な定義
本発明の実施は、特に示されていない限り、当業者の能力の範囲内の化学、分子生物学、微生物学および免疫学の通常の技術を用いる。そのような技術は文献に説明されている。例えば、以下のものを参照されたい:J.Sambrook,E.F.FritschおよびT.Maniatis(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Books 1-3,Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.ら(1995および定期的な補遺)Current Protocols in Molecular Biology,Ch.9,13および16,John Wiley & Sons,New York,NY;B.Roe,J.CrabtreeおよびA.Kahn(1996)DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley & Sons;J.M.PolakおよびJames O’D.McGee(1990)In Situ Hybridization:Principles and Practice;Oxford University Press;M.J.Gait(編)(1984)Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;ならびにD.M.J.LilleyおよびJ.E.Dahlberg(1992)Methods of Enzymology:DNA Structure Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology,Academic Press。これらの一般的テキストのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする。
【0080】
特に示されていない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。特に示されていない限り、「rev」および「gag-pol」はレンチウイルスベクターのタンパク質および/または遺伝子を意味する。
【0081】
本明細書中で用いる「タンパク質」なる語はタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドを含む。本明細書中で用いる「タンパク質」なる語は、一本鎖ポリペプチド分子、および個々の構成ポリペプチドが共有結合または非共有結合手段により連結されている複数のポリペプチドの複合体を含む。本明細書中で用いる「ポリペプチド」および「ペプチド」なる語は、アミノ酸であるモノマーがペプチドまたはジスルフィド結合によって互いに連結されているポリマーを意味する。
【0082】
本明細書中で用いる「アミノ酸配列」なる語は「ポリペプチド」なる語および/または「タンパク質」なる語と同義である。幾つかの場合には、「アミノ酸配列」なる語は「ペプチド」なる語と同義である。幾つかの場合には、「アミノ酸配列」なる語は「酵素」なる語と同義である。
【0083】
本明細書中で用いる「ヌクレオチド配列」なる語は、「ポリヌクレオチド」なる語および/または「核酸配列」なる語と同義である。
【0084】
本開示は、本明細書に開示されている例示的な方法および材料により限定されるものではなく、本明細書に記載されているものと類似または同等の任意の方法および材料が本開示の実施形態の実施または試験に使用されうる。数値範囲は、範囲を定める数値を含む。特に示されていない限り、全ての核酸配列は、それぞれ、左から右に、5’から3’への方向で示されており、アミノ酸配列は、それぞれ、左から右に、アミノからカルボキシへの方向で示されている。
【0085】
値の範囲が示されている場合、文脈に明らかに矛盾しない限り、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の10分の1までの各介在値も具体的に開示されていると理解される。示されている範囲内の任意の示されている値または介在値と、その示されている範囲内の任意の他の示されている値または介在値との間のそれぞれのより小さな範囲は本開示に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立して、該範囲に含まれること又は該範囲から除外されることが可能であり、示されている範囲内に任意の具体的に除外される限界がある場合には、より小さな範囲内に一方もしくは両方の限界が含まれる又は両方の限界が含まれない場合の各範囲もこの開示に含まれる。示されている範囲が該限界の一方または両方を含む場合には、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0086】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる単数形は、文脈に明らかに矛盾しない限り、複数対象物を含むことに注意する必要がある。
【0087】
本明細書中で用いる「含む」、「含み」および「含まれる」なる語は、「包含する」、「包含し」または「含有する」、「含有し」と同義であり、包括的またはオープンエンド(open-ended)であり、追加的な非列挙メンバー、要素または方法工程を除外しない。「含む」、「含み」および「含まれる」なる語は「からなる」なる語も含む。
【0088】
修飾U1 snRNA
本発明者らは、驚くべきことに、内因性配列(スプライスドナー部位)をもはや標的化せずに今やvRNA分子内の配列を標的化するように修飾されたU1 snRNAに基づく非コードRNAを共発現させることにより、レンチウイルスベクターの産出(output)力価が増加しうることを、本発明において見出した。本発明は、そのような修飾U1 snRNA、およびレンチウイルスベクターの産生力価を増加させるための新規方法に関する。このアプローチは、修飾U1 snRNAと、その他のベクター成分との、ベクター製造中の共発現からなる。コンセンサススプライスドナー部位をベクターゲノムvRNA内の標的配列に相補的な異種配列により置換することによりコンセンサススプライスドナー部位への結合が除去されるように、修飾U1 snRNAを設計する。本発明は、標的配列および相補性の長さ、設計ならびに発現様態を含む、修飾U1 snRNAの最適な特徴および適用の種々の様態を記載する。
【0089】
ヒトU1 snRNA(核内低分子RNA)は164 ntの長さを有し、4つのステムループからなる明らかな構造を有する(
図1を参照されたい)。内因性非コードRNAであるU1 snRNAは、イントロンスプライシングの初期段階で、天然スプライスドナーアニーリング配列(例えば、5’-ACUUACCUG-3’)を介してコンセンサススプライスドナー部位(例えば、5’-MAGGURR-3’;ここで、MはAまたはCであり、RはAまたはGである)に結合する。ステムループIは、ポリA抑制に重要であることが示されているU1A-70Kタンパク質に結合する。ステムループIIはU1Aタンパク質に結合し、5’-AUUUGUGG-3’配列はSmタンパク質に結合し、これは、ステムループIVと共に、U1 snRNAプロセシングに重要である。本発明において、修飾U1 snRNAは、天然スプライスドナー標的化配列の部位において、ベクターゲノムvRNA分子内の標的配列に相補的な異種配列を導入するように修飾されている(
図1を参照されたい)。
【0090】
本明細書中で用いる「修飾U1 snRNA」、「再指向化U1 snRNA」、「再標的化U1 snRNA」、「再利用U1 snRNA」および「突然変異U1 snRNA」なる語は、U1 snRNAが、標的遺伝子のスプライシングプロセスを開始させるためにそれが使用するコンセンサス5’スプライスドナー部位配列(例えば、5’-MAGGURR-3’)にもはや結合しないように修飾されているU1 snRNAを意味する。したがって、修飾U1 snRNAは、U1 snRNAの5’末端における天然スプライスドナーアニーリング配列とのドナー部位配列の相補性に基づいてスプライスドナー部位配列(例えば、5’-MAGGURR-3’)にもはや結合しないように修飾されているU1 snRNAである。その代わりに、修飾U1 snRNAは、遺伝子のスプライシングに無関係な配列である、レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内のユニークRNA配列(標的部位)を有するヌクレオチド配列に結合するように設計されている。レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は事前に選択されうる。したがって、修飾U1 snRNAは、その5’末端がレンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように修飾されているU1 snRNAである。その結果、修飾U1 snRNAは、修飾U1 snRNAの5’末端における短い配列との標的部位配列の相補性に基づいて標的部位配列に結合する。
【0091】
レンチウイルスベクターの5’パッケージング領域は、当技術分野で公知の配列を有しうる。例えば、レンチウイルスベクターの5’パッケージング領域は以下のもののいずれかでありうる。
【化1】
【0092】
適切な修飾U1 snRNAは、特定のベクタータイプのパッケージング領域に結合するように設計されうる。例えば、レンチウイルスベクターの産出力価を増加させるための修飾U1 snRNAの使用は、以下の一般的な手順に従うことにより達成されうる。
【0093】
1.レンチウイルスベクターゲノム配列を得、ベクターゲノムRNA分子の5’パッケージング配列領域内の標的配列のセットを特定するべきである。広い5’パッケージング配列領域は、ベクターゲノムRNA分子の最初のヌクレオチドから、残りの野生型gag配列の3’ヌクレオチドまで(これは、典型的には、パッケージング配列の一部として保持される)である。
【0094】
2.最初の標的スクリーニングのために15ヌクレオチドの長さの標的配列のパネルを特定し、15~20個の異なる(重複しない)配列を最初に特定することが推奨される。これらは、vRNAの最初のヌクレオチドからgag領域の約50番目のヌクレオチドまでのパッケージング配列にわたって均等に分布すべきであり、保持されるgag領域内では、より少数の配列が特定される。
【0095】
3.ベクターゲノムRNA(5’-3’)内に存在するこれらの標的配列を逆相補して、修飾U1 snRNA分子(5’-3’)の最初の複数ヌクレオチド内にコードされる15ヌクレオチドの標的アニーリング配列を得るべきである。
【0096】
4.標的アニーリング配列をU1 snRNA発現カセット(U1プロモーターおよび終結領域を含有するもの)内に挿入して、天然U1 snRNAヌクレオチド3~11を置換する。すなわち、「AT」ジヌクレオチド(天然U1 snRNAのヌクレオチド1および2[snRNA分子における「AU」])は標的アニーリング配列の上流に保持されるべきであり、ここで、「A」は転写開始部位である。これは標準的な分子クローニング/遺伝子合成技術により達成されうる。
【0097】
5.ついで、目的のトランスジェニック配列をコードするレンチウイルスベクターの製造により、修飾U1 snRNA発現構築物のパネルをスクリーニングすべきであり、ここで、各修飾U1 snRNA発現構築物はベクター成分で個々に発現される。これは、ベクター成分での一過性コトランスフェクションによって最も簡便に行われうるが、パッケージングまたはプロデューサー細胞株においても行われうる。ついで産出ベクター上清を力価測定して、最大の力価増加をもたらす主要標的領域を経験的に決定する。
【0098】
6.修飾U1 snRNAは、最初の経験的に特定された標的部位の上流および下流のベクターゲノムRNAを漸増的に標的化する標的アニーリング配列を含有する変異体を作製することにより、更に改善されうる。該漸増的スキャンは、最初の経験的に特定された標的部位の上流または下流において、変異体当たりそれぞれ1個、2個、3個または4個以上のヌクレオチドだけ、標的アニーリング配列を段階的に移動させ、場合によっては、前(最初)のスクリーニングにおいて試験された標的位置まで継続することにより達成されうる。これはベクターゲノムRNA内の最適な標的部位を特定しうる。
【0099】
7.修飾U1 snRNAは、長さが異なる標的アニーリング配列を含有する変異体を作製することにより、更に改善されうる。前のスクリーニングから特定された修飾U1 snRNA(これは15ヌクレオチドの標的アニーリング配列を有しうる)を採用し、標的アニーリング配列が段階的に縮小または増大する変異体を設計することが推奨される。この場合、変異体の新たなパネルが作製され、ここで、各変異体の標的アニーリング配列は9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれ以上のヌクレオチド長でありうる。ついで、修飾U1 snRNA変異体のこの新たなパネルは、それ以前と同様にスクリーニングされうる。
【0100】
8.修飾U1 snRNAは、1位および2位に代替ヌクレオチドを含有する変異体を作製することにより、更に改善されうる。具体的には、「AT」ジヌクレオチド(snRNA分子内の「AU」)は、このコンセンサスから逸脱して例えば「GA」へと改変されうる。ついで、修飾U1 snRNA変異体のこの新たなパネルは、それ以前と同様にスクリーニングされうる。
【0101】
9.修飾U1 snRNA発現構築物は、レンチウイルスベクター成分とは別のDNA分子(例えば、プラスミドDNA)内でコードされうる、またはベクターゲノムもしくはgagpolもしくは他のDNA成分(該ベクター成分と共にコトランスフェクトされるもの(例えば、TRAP発現プラスミド))をコードするDNAに機能的に連結されうる。
【0102】
10.修飾U1 snRNA発現構築物は、細胞株を作製するために安定にトランスフェクトされうる。該細胞株は、一過性トランスフェクションによりレンチウイルスベクターを製造するために使用されうる。例えば、該細胞株は、tetRのような転写リプレッサーおよび/またはTRAPのような翻訳リプレッサー、あるいはこれらの両方のタイプの発現制御タンパク質によっても安定にトランスフェクトされうる。
【0103】
11.修飾U1 snRNA発現構築物は、パッケージングまたはプロデューサー細胞株を作製するために他のレンチウイルスベクター成分で安定にトランスフェクトされうる。
【0104】
12.前記のような安定な細胞株を得る別の方法は、自己不活性化レトロウイルスまたはレンチウイルスベクター内に修飾U1 snRNA発現カセットを挿入し、該修飾U1 snRNA発現カセットをコードするベクタービリオンを産生させ、制御された多重度で細胞を形質導入して、目的のコピー数の該修飾U1 snRNA発現カセットを含有する可能性がより高い安定な細胞株を単離することである。該自己不活性化レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターは選択マーカーカセットをも含有しうる。
【0105】
13.レンチウイルスベクター生産細胞またはレンチウイルスベクター産物内の修飾U1 snRNA配列のRNAまたはDNAコピー数を評価するために、内因性/天然U1 snRNAよりも修飾U1 snRNAを明確に検出するためにフォワードプライマーが修飾U1 snRNAの特定の標的アニーリング配列にアニーリングするRT-qPCRアッセイ法が開発されうる。
【0106】
本明細書中で用いる「天然スプライスドナーアニーリング配列」および「天然スプライスドナー標的化配列」なる語は、イントロンのコンセンサス5’スプライスドナー部位に広く相補的である内因性U1 snRNAの5’末端における短い配列を意味する。天然スプライスドナーアニーリング配列は5’-ACUUACCUG-3’でありうる。
【0107】
本明細書中で用いる「コンセンサス5’スプライスドナー部位」なる語は、例えば配列5’-MAGGURR-3’を有する、スプライス部位選択において使用されるイントロンの5’末端におけるコンセンサスRNA配列を意味する。
【0108】
本明細書中で用いる「レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列」、「標的配列」および「標的部位」なる語は、修飾U1 snRNAに結合する標的部位として予め選択された、レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域内の特定のRNA配列を有する部位を意味する。
【0109】
本明細書中で用いる「レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域」および「レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域」なる語は5’U5ドメインの開始部からgag遺伝子由来配列の末端までのレンチウイルスベクターゲノムの5’末端における領域を意味する。したがって、レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域は5’U5ドメイン、PBSエレメント、ステムループ(SL)1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメントおよびgag遺伝子由来配列を含む。複製欠損ウイルスベクター粒子の産生を可能にするために、レンチウイルスベクター製造中にゲノムにトランスで完全gag遺伝子を提供することは、当技術分野で一般的である。トランスで提供されるgag遺伝子のヌクレオチド配列は、野生型ヌクレオチドによりコードされる必要はないが、コドン最適化されうる。重要なことに、トランスで提供されるgag遺伝子の主な特性は、それがgagおよびgagpolタンパク質をコードし、該タンパク質の発現を導くことである。したがって、レンチウイルスベクター製造中に完全gag遺伝子がトランスで提供される場合、「レンチウイルスベクターゲノム分子のパッケージング領域」なる語は、5’U5ドメインの開始部からSL3 ψエレメントにおける「コア」パッケージングシグナルまでのレンチウイルスベクターゲノム分子の5’末端における領域、およびATGコドン(SL4内に存在する)から、ベクターゲノム上に存在する残りのgagヌクレオチド配列の末端までの天然gagヌクレオチド配列を意味しうる、と当業者に理解される。
【0110】
本明細書中で用いる「gag遺伝子由来配列」なる語は、該ベクターゲノム内に存在(例えば、残存)しうる、ATGコドンからヌクレオチド688まで(Kharytonchyk,S.ら,2018,J.Mol.Biol.,430:2066-79)から誘導されるgag遺伝子の任意の天然配列を意味する。
【0111】
本明細書中で用いる「天然スプライスドナーアニーリング配列を含むU1 snRNAの最初の11ヌクレオチド内に異種配列を導入する」、「3~11位の9ヌクレオチド内に該異種配列を導入する」および「U1 snRNAの5’末端における最初の11ヌクレオチド内に異種配列を導入する」なる語は、U1 snRNAの最初の11ヌクレオチドまたは3~11位の9ヌクレオチドを、全体的または部分的に、該異種配列で置換すること、あるいは、該異種配列と同じ配列を有するように、U1 snRNAの最初の11ヌクレオチドまたは3~11位の9ヌクレオチドを修飾することを含む。
【0112】
本明細書中で用いる「天然スプライスドナーアニーリング配列内に異種配列を導入する」および「U1 snRNAの5’末端における天然スプライスドナーアニーリング配列内に異種配列を導入する」なる語は、天然スプライスドナーアニーリング配列を、全体的または部分的に、該異種配列で置換すること、あるいは、該異種配列と同じ配列を有するように、天然スプライスドナーアニーリング配列を修飾することを含む。
【0113】
本明細書中で用いる「レンチウイルスベクター力価を増強する」なる語は、「レンチウイルスベクター力価を増加させる」および「レンチウイルスベクター力価を改善する」を含む。
【0114】
したがって、1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に結合するように修飾されている修飾U1 snRNAを提供する。
【0115】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列を導入するように、内因性U1 snRNAと比較して5’末端において修飾されている。
【0116】
幾つかの実施形態においては、修飾U1 snRNAは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列を天然スプライスドナーアニーリング配列内に導入するように、内因性U1 snRNAと比較して5’末端において修飾されている。
【0117】
修飾U1 snRNAは、天然スプライスドナーアニーリング配列を含む配列を、該ヌクレオチド配列に相補的な異種配列で置換するように、内因性U1 snRNAと比較して5’末端において修飾されうる。
【0118】
修飾U1 snRNAは修飾U1 snRNA変異体でありうる。本発明に従い修飾されるU1 snRNA変異体は、天然に存在するU1 snRNA変異体、U1-70Kタンパク質結合を除去するステムループI領域内の突然変異を含有するU1 snRNA変異体、またはU1Aタンパク質の結合を除去するステムループII領域内の突然変異を含有するU1 snRNA変異体でありうる。U1-70Kタンパク質結合を除去するステムループI領域内の突然変異を含有するU1 snRNA変異体はU1_m1またはU1_m2、好ましくは、U1A_m1またはU1A_m2でありうる。
【0119】
幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAは、本明細書に記載されているU1_256配列の主要U1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)に対して少なくとも70%の同一性(適切には、少なくとも75%、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性)を有するヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAは、本明細書に記載されているU1_256配列の主要U1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)を含む。U1_256配列(配列番号15)の主要U1 snRNA配列[クローバーリーフ](nt 410~562)は以下のとおりである。
【化2】
【0120】
幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAは以下のヌクレオチド配列を含む。
【化3】
【0121】
幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAは以下のヌクレオチド配列を含む。
【化4】
【0122】
幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAは以下のヌクレオチド配列を含む。
【化5】
【0123】
幾つかの好ましい実施形態においては、天然スプライスドナーアニーリング配列を含むU1 snRNAの最初の11ヌクレオチドは、レンチウイルスベクターゲノムのパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列により、全体的または部分的に置換されうる。適切には、U1 snRNAの最初の11ヌクレオチドの1~11個(適切には、2~11個、3~11個、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個)の核酸が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換される。
【0124】
幾つかの実施形態においては、天然スプライスドナーアニーリング配列は、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列により、全体的または部分的に置換されうる。適切には、天然スプライスドナーアニーリング配列の1~11個(適切には、2~11個、3~11個、5~11個、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または11個)の核酸が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換される。好ましい実施形態においては、天然スプライスドナーアニーリング配列の全体が、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的な異種配列により置換される。すなわち、天然スプライスドナーアニーリング配列(例えば、5’-ACUUACCUG-3’)が、本発明に従い、異種配列により、完全に置換される。
【0125】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列を含む修飾U1 snRNAは該異種配列の5’末端における最初のヌクレオチドにおいてAをコードし、これは、該Aが標的配列に対するアニーリングに関与するかどうかに無関係である。
【0126】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列を含む修飾U1 snRNAは該異種配列の5’末端における最初の2つのヌクレオチドにおいてAUをコードし、これは、該Aまたは該Uが標的配列に対するアニーリングに関与するかどうかに無関係である。
【0127】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列を含む修飾U1 snRNAは該異種配列の5’末端における最初の2つのヌクレオチドにおいてAUをコードせず、最初のヌクレオチドは標的配列に対するアニーリングに関与してもしなくてもよい。
【0128】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列は該ヌクレオチド配列に対する少なくとも7ヌクレオチドの相補性を含む。幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列に相補的である異種配列は該ヌクレオチド配列に対する少なくとも9ヌクレオチドの相補性を含む。好ましくは、本発明における使用のための異種配列は該ヌクレオチド配列に対する15ヌクレオチドの相補性を含む。
【0129】
適切には、本発明における使用のための異種配列は7~25(適切には、7~20、7~15、9~15、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25)ヌクレオチドを含みうる。
【0130】
適切には、本発明における使用のための異種配列は7ヌクレオチドを含みうる。
【0131】
適切には、本発明における使用のための異種配列は8ヌクレオチドを含みうる。
【0132】
適切には、本発明における使用のための異種配列は9ヌクレオチドを含みうる。
【0133】
適切には、本発明における使用のための異種配列は10ヌクレオチドを含みうる。
【0134】
適切には、本発明における使用のための異種配列は11ヌクレオチドを含みうる。
【0135】
適切には、本発明における使用のための異種配列は12ヌクレオチドを含みうる。
【0136】
適切には、本発明における使用のための異種配列は13ヌクレオチドを含みうる。
【0137】
適切には、本発明における使用のための異種配列は14ヌクレオチドを含みうる。
【0138】
適切には、本発明における使用のための異種配列は15ヌクレオチドを含みうる。
【0139】
適切には、本発明における使用のための異種配列は16ヌクレオチドを含みうる。
【0140】
適切には、本発明における使用のための異種配列は17ヌクレオチドを含みうる。
【0141】
適切には、本発明における使用のための異種配列は18ヌクレオチドを含みうる。
【0142】
適切には、本発明における使用のための異種配列は19ヌクレオチドを含みうる。
【0143】
適切には、本発明における使用のための異種配列は20ヌクレオチドを含みうる。
【0144】
適切には、本発明における使用のための異種配列は21ヌクレオチドを含みうる。
【0145】
適切には、本発明における使用のための異種配列は22ヌクレオチドを含みうる。
【0146】
適切には、本発明における使用のための異種配列は23ヌクレオチドを含みうる。
【0147】
適切には、本発明における使用のための異種配列は24ヌクレオチドを含みうる。
【0148】
適切には、本発明における使用のための異種配列は25ヌクレオチドを含みうる。
【0149】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は5’U5ドメイン、PBSエレメント、SL1エレメント、SL2エレメント、SL3ψエレメント、SL4エレメントおよび/またはgag遺伝子由来配列内に位置する。適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列はSL1、SL2および/またはSL3ψエレメント内に位置する。幾つかの好ましい実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列はSL1および/またはSL2エレメント内に位置する。幾つかの特に好ましい実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列はSL1エレメント内に位置する。
【0150】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は少なくとも7ヌクレオチドを含む。幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は少なくとも9ヌクレオチドを含む。適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は7~25(適切には、7~20、7~15、9~15、7、8、9、10、11、12、13、14または15)ヌクレオチドを含む。
【0151】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は7ヌクレオチドを含む。
【0152】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は8ヌクレオチドを含む。
【0153】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は9ヌクレオチドを含む。
【0154】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は10ヌクレオチドを含む。
【0155】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は11ヌクレオチドを含む。
【0156】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は12ヌクレオチドを含む。
【0157】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は13ヌクレオチドを含む。
【0158】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は14ヌクレオチドを含む。
【0159】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は15ヌクレオチドを含む。
【0160】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は16ヌクレオチドを含む。
【0161】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は17ヌクレオチドを含む。
【0162】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は18ヌクレオチドを含む。
【0163】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は19ヌクレオチドを含む。
【0164】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は20ヌクレオチドを含む。
【0165】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は21ヌクレオチドを含む。
【0166】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は22ヌクレオチドを含む。
【0167】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は23ヌクレオチドを含む。
【0168】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は24ヌクレオチドを含む。
【0169】
適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は25ヌクレオチドを含む。
【0170】
好ましくは、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列は15ヌクレオチドを含む。
【0171】
レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を増加させうる。したがって、本発明の修飾U1 snRNAの存在下でのレンチウイルスベクターの製造は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター力価を増加させる。レンチウイルスベクター力価の測定のための適切なアッセイは、本明細書に記載されているとおりである。適切には、レンチウイルスベクターの製造は、該修飾U1 snRNAと、レンチウイルスベクターのgag、env、revおよびRNAゲノムを含むベクター成分との共発現を含む。幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクター力価の増加は機能的5’LTRポリA部位の存在下または非存在下で生じる。幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAによりもたらされるレンチウイルスベクター力価の増加はベクターゲノムの5’LTRにおけるポリA部位抑制に非依存的である。
【0172】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を少なくとも30%増加させうる。適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を少なくとも35%(適切には、少なくとも40%、45%、50%、60%、70%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%または1000%)増加させうる。
【0173】
本発明の修飾U1 snRNAは、(a)修飾U1 snRNAに結合するレンチウイルスベクターゲノムのパッケージング領域における標的部位(事前選択ヌクレオチド部位)を選択すること、および(b)U1 snRNAの5’末端における天然スプライスドナーアニーリング配列(例えば、5’-ACUUACCUG-3’)内に、工程(a)で選択された事前選択ヌクレオチド部位に相補的な異種配列を導入することにより、設計されうる。
【0174】
内因性U1 snRNAの5’末端における天然スプライスドナーアニーリング配列(例えば、5’-ACUUACCUG-3’)内に又はその代わりに、標的部位に相補的な異種配列を、分子生物学の通常の技術を用いて導入することは、当業者の能力の範囲内である。一般的に言えば、適切な常法は、特異的突然変異誘発、または相同組換えによる置換を含む。
【0175】
内因性U1 snRNAの5’末端における天然スプライスドナーアニーリング配列(例えば5’-ACUUACCUG-3’)を、標的部位に相補的な異種配列と同じ配列を有するように、分子生物学の通常の技術を用いて修飾することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、適切な方法は、特異的突然変異誘発またはランダム突然変異誘発、およびそれに続く、本発明による修飾U1 snRNAを与える突然変異に関する選択を含む。
【0176】
本発明の修飾U1 snRNAは当技術分野で一般に公知の方法に従い製造されうる。例えば、修飾U1 snRNAは化学合成または組換えDNA/RNA技術により製造されうる。
【0177】
通常の分子生物学および細胞生物学の技術を用いて、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を細胞内に導入することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、後記のとおり、発現カセットが使用されうる。
【0178】
したがって、もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAを含む細胞を提供する。適切な細胞は後記に記載されている。
【0179】
もう1つの態様においては、本明細書中の実施例で実証されているとおり、本明細書に記載されている本発明による修飾U1は導入遺伝子発現の抑制を有益にもたらしうる。したがって、本発明は、本明細書に記載されているとおり、修飾U1を使用する導入遺伝子抑制のための方法、またはその方法もしくは使用をも含む。
【0180】
ヌクレオチド配列
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0181】
本発明に関連する「ヌクレオチド配列」なる語は二本鎖または一本鎖分子であることが可能であり、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNAおよびキメラDNA/RNA分子を含む。好ましくは、それは、本発明の修飾U1 snRNAをコードするDNA、より好ましくはcDNA配列を意味する。
【0182】
典型的には、本発明の範囲に含まれるヌクレオチド配列は、本明細書に記載されているとおり、組換えDNA技術(すなわち、組換えDNA)を用いて製造される。
【0183】
好ましい実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列は発現カセットである。
【0184】
修飾U1 snRNA分子の存在/存在量は、全RNAの抽出、およびそれに続く、DNAプライマーを使用するRT-PCRまたはRT-qPCR(定量的)により、ベクター生産細胞抽出物またはベクタービリオン内で定量されうる。重要なことに、フォワードプライマーは、修飾U1 snRNA分子の標的化配列に対する相補性を有するように設計され、その結果、qPCR中に修飾U1 snRNAのみが増幅され、内因性U1 snRNAは増幅されない。
【0185】
1つの態様においては、本発明は、本明細書に記載されている本発明による修飾U1を含むベクタービリオンを提供する。
【0186】
ベクター/発現カセット
ベクターは、1つの環境から別の環境への実体(エンティティ)の転移を可能または容易にする手段である。本発明においては、例えば、組換え核酸技術において使用される幾つかのベクターは、核酸のセグメント(例えば、異種DNAセグメント、例えば、異種cDNAセグメント)のような実体が標的細胞内に導入され、該細胞により発現されることを可能にする。ベクターは、本発明の修飾U1 snRNA(またはウイルスベクター成分)をコードするヌクレオチド配列の組込みを促進して、本発明の修飾U1 snRNA(またはウイルスベクター成分)をコードするヌクレオチド配列、および標的細胞におけるその発現を維持しうる。
【0187】
ベクターは発現カセット(発現構築物とも称される)であることが可能であり、またはそれを含みうる。本明細書に記載されている発現カセットは、転写されうる配列を含有する核酸の領域を含む。したがって、mRNA、tRNAおよびrRNAをコードする配列はこの定義に含まれる。
【0188】
ベクターは1以上の選択可能なマーカー遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)および/または追跡可能なマーカー遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子)を含みうる。ベクターは、例えば、標的細胞に感染させるため、および/または標的細胞に形質導入するために使用されうる。ベクターは、問題の宿主細胞内でベクターが複製することを可能にするヌクレオチド配列を更に含みうる。
【0189】
「カセット」なる語は、「コンジュゲート」、「構築物」および「ハイブリッド」のような語と同義であり、プロモーターに直接的または間接的に結合したポリヌクレオチド配列を含む。本発明の発現カセットは、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の発現のためのプロモーターを含み、そして所望により、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列の調節因子を含みうる。本発明における使用のための発現カセットは、ウイルスベクター成分をコードするヌクレオチド配列の発現のためのプロモーターを含み、そして所望により、ウイルスベクター成分をコードするヌクレオチド配列の調節因子を含みうる。好ましくは、カセットは、プロモーターに機能的に連結された少なくともポリヌクレオチド配列を含む。
【0190】
発現カセットは、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を適合性標的細胞においてインビトロで複製するために使用されうる。したがって、本発明は、本発明の発現カセットを適合性標的細胞内にインビトロで導入し、修飾U1 snRNAの発現をもたらす条件下で該標的細胞を増殖させることによる、インビトロでの修飾U1 snRNAの製造方法を提供する。修飾U1 snRNAは当技術分野で周知の方法により標的細胞から回収されうる。適切な標的細胞には、哺乳類細胞株および他の真核細胞株が含まれる。
【0191】
発現カセット、例えばプラスミド、コスミド、ウイルスまたはファージベクターの選択は、しばしば、それが導入される宿主細胞に左右される。発現カセットはDNAプラスミド(スーパーコイル、ニックまたは線状)、ミニサークルDNA(線状またはスーパーコイル)、制限酵素消化および精製によるプラスミド骨格の除去により目的領域のみを含有するプラスミドDNA、酵素DNA増幅プラットフォーム、例えばドギーボーン(doggybone)DNA(dbDNA(商標))を使用して生成されたDNA[この場合、使用される最終的なDNAは、閉じた連結形態であり、またはそれは、オープンカットエンドを有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)]でありうる。
【0192】
したがって、1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列を含む発現カセットを提供する。
【0193】
本発明の1つの態様においては、本明細書に記載されている修飾U1発現カセットは、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターにより、本明細書に記載されている細胞に送達されうる。
【0194】
通常の分子生物学および細胞生物学の技術を用いて本発明の発現カセットを細胞内に導入することは当業者の能力の範囲内である。
【0195】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の発現カセットを含む細胞を提供する。適切な細胞は後記に記載されている。
【0196】
レンチウイルスベクター製造系および細胞
レンチウイルスベクター製造系は、レンチウイルスベクターの製造に必要な成分をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。したがって、ベクター製造系は、レンチウイルスベクター粒子の生成に必要なウイルスベクター成分をコードするヌクレオチド配列のセットを含む。
【0197】
「ウイルスベクター製造系」または「ベクター製造系」または「製造系」は、レンチウイルスベクター製造に必要な成分を含む系として理解されるべきである。
【0198】
1つの態様においては、ヌクレオチド配列は、ベクター製造のためのtat非依存的系におけるレンチウイルスベクターにおける使用に好適でありうる。本明細書に記載されているとおり、第3世代レンチウイルスベクターはU3依存的であり(そして転写を駆動するために異種プロモーターを使用する)、本発明によるヌクレオチド配列は第3世代レンチウイルスベクターのコンテキストにおいて使用されうる。本発明の1つの態様においては、tatはレンチウイルスベクター製造系において提供されず、例えば、tatはトランスで提供されない。1つの態様においては、本明細書に記載されている細胞またはベクターまたはベクター製造系はtatタンパク質を含まない。
【0199】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナーは不活性化されており、該ヌクレオチド配列は、tat非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである。
【0200】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はtatの非存在下で製造される。
【0201】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はtatに非依存的に転写されている。
【0202】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列はU3非依存的レンチウイルスベクターにおける使用のためのものである。
【0203】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列は、U3プロモーターに非依存的に転写されている。
【0204】
1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、主要スプライスドナー部位の3’側の潜在的スプライスドナー部位は不活性化されており、該ヌクレオチド配列は異種プロモーターにより転写されている。
【0205】
1つの態様においては、本明細書に記載されているヌクレオチド配列の転写はU3の存在に依存的ではない。ヌクレオチド配列はU3非依存的転写事象に由来しうる。ヌクレオチド配列は異種プロモーターに由来しうる。本明細書に記載されているヌクレオチド配列は天然U3プロモーターを含まなくてもよい。
【0206】
1つの実施形態においては、ウイルスベクター製造系は、GagおよびGag/Polタンパク質、ならびにEnvタンパク質およびベクターゲノム配列をコードするヌクレオチド配列を含む。該製造系は、所望により、Revタンパク質またはその機能的置換をコードするヌクレオチド配列を含みうる。
【0207】
本発明の1つの実施形態においては、少なくとも1つの導入遺伝子成分は反転していること、または逆配向であることが可能である。
【0208】
1つの実施形態においては、少なくとも1つの導入遺伝子成分はベクターゲノムRNAの5’-3’の配向性に対して反転していること、または逆配向であることが可能である。導入遺伝子カセットが反転している、すなわち、転写単位が、ベクターゲノムカセットを駆動するプロモーターと反対になっているレンチウイルスベクターゲノムが使用されうる。また、導入遺伝子カセットの成分が逆配向であり別の成分が順配向でありうる場合も可能であり、例えば、双方向性の導入遺伝子カセットまたは複数の別個のカセットの使用が可能である。
【0209】
1つの実施形態においては、ウイルスベクター製造系はモジュラー核酸構築物(モジュラー構築物)を含む。モジュラー構築物は、レンチウイルスベクターの製造において使用される2以上の核酸を含むDNA発現構築物である。モジュラー構築物は、レンチウイルスベクターの製造において使用される2以上の核酸を含むDNAプラスミドでありうる。プラスミドは細菌プラスミドでありうる。核酸は、例えば、gag-pol、rev、env、ベクターゲノムをコードしうる。また、パッケージング細胞株およびプロデューサー細胞株の作製のために設計されたモジュラー構築物は更に、転写調節タンパク質(例えば、TetR、CymR)および/または翻訳抑制タンパク質(例えば、TRAP)および選択可能なマーカー[例えば、Zeocin(商標)、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ネオマイシン耐性遺伝子]をコードする必要がある。本発明における使用のための適切なモジュラー構築物はEP3502260(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0210】
本発明による使用のためのモジュラー構築物は1つの構築物上にレトロウイルス成分の2以上をコードする核酸配列を含有するため、これらのモジュラー構築物の安全性プロファイルは考慮されており、追加的な安全上の特徴が構築物内に直接的に組み込まれている。これらの特徴には、レトロウイルスベクター成分の複数のオープンリーディングフレームのためのインスレーターの使用および/またはモジュラー構築物におけるレトロウイルス遺伝子の特定の配向および配置が含まれる。これらの特徴を用いることにより、複製可能ウイルス粒子を生成する直接的なリードスルーが防がれると考えられている。
【0211】
ウイルスベクター成分をコードする核酸配列は、モジュラー構築物において、逆および/または交互の転写配向でありうる。したがって、ウイルスベクター成分をコードする核酸配列は、同じ5’から3’への配向では提供されず、その結果、ウイルスベクター成分は、同じmRNA分子からは生成され得ない。逆配向は、異なるベクター成分のための少なくとも2つのコード配列が「頭から頭へ」および「尾から尾へ」の転写配向で提供されることを意味しうる。これは、モジュラー構築物の、1つの鎖上に、1つのベクター成分(例えば、env)のコード配列を提供すること、および反対側の鎖上に、別のベクター成分(例えば、rev)のコード配列を提供することにより達成されうる。好ましくは、3以上のベクター成分のコード配列がモジュラー構築物に存在する場合、コード配列の少なくとも2つは逆転写配向で存在する。したがって、3以上のベクター成分のコード配列がモジュラー構築物に存在する場合、各成分は、それが隣接している他のベクター成分の隣接コード配列の全てに対して反対の5’から3’への配向で存在するように配向されうる。すなわち、各コード配列に関して交互の5’から3’への(または転写的な)配向が用いられうる。
【0212】
本発明による使用のためのモジュラー構築物は、以下のベクター成分のうちの2以上をコードする核酸配列を含みうる:gag-pol、rev、env、ベクターゲノム。モジュラー構築物は、ベクター成分の任意の組合せをコードする核酸配列を含みうる。1つの実施形態においては、モジュラー構築物は、以下のものをコードする核酸配列を含みうる:
i)レトロウイルスベクターのRNAゲノムおよびrev、またはそれらの機能的代替物;
ii)レトロウイルスベクターのRNAゲノムおよびgag-pol;
iii)レトロウイルスベクターのRNAゲノムおよびenv;
iv)gag-polおよびrev、またはそれらの機能的代替物;
v)gag-polおよびenv;
vi)envおよびrev、またはそれらの機能的代替物;
vii)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、revまたはそれらの機能的代替物、およびgag-pol;
viii)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、rev、またはそれらの機能的代替物、およびenv;
ix)レトロウイルスベクターのRNAゲノム、gag-polおよびenv;あるいは
x)gag-pol、rev、またはそれらの機能的代替物、およびenv
(ここで、核酸配列は逆および/または交互の配向である)。
【0213】
1つの実施形態においては、レトロウイルスベクターを製造するための細胞は、前記のi)~x)の組合せのいずれかをコードする核酸配列を含むことが可能であり、ここで、核酸配列は、同じ遺伝子座に位置し、逆および/または交互の配向である。同じ遺伝子座は、細胞内の単一の染色体外遺伝子座、例えば単一のプラスミド、または細胞のゲノム内の単一の遺伝子座(すなわち、単一の挿入部位)を意味しうる。細胞は、レトロウイルスベクター、例えばレンチウイルスベクターを製造するための安定または一過性細胞でありうる。
【0214】
DNA発現構築物はDNAプラスミド(スーパーコイル、ニックまたは線状)、ミニサークルDNA(線状またはスーパーコイル)、制限酵素消化および精製によるプラスミド骨格の除去により目的領域のみを含有するプラスミドDNA、酵素DNA増幅プラットフォーム、例えばドギーボーン(doggybone)DNA(dbDNA(商標))を使用して生成されたDNA[この場合、使用される最終的なDNAは、閉じた連結形態であり、またはそれは、オープンカットエンドを有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)]でありうる。
【0215】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する。
【0216】
「ウイルスベクター生産細胞」、「ベクター生産細胞」または「生産細胞」は、レンチウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター粒子を産生しうる細胞として理解されるべきである。レンチウイルスベクター生産細胞は「プロデューサー細胞」または「パッケージング細胞」でありうる。ウイルスベクター系の、1以上のDNA構築物は、ウイルスベクター生産細胞内に安定に組み込まれうる、または該生産細胞内でエピソーム的に維持されうる。あるいは、ウイルスベクター系のDNA成分の全てがウイルスベクター生産細胞内に一過性にトランスフェクトされうる。更に別の代替的実施形態においては、該成分の幾つかを安定に発現する生産細胞が、ベクター製造に必要な残りの成分で一過性にトランスフェクトされうる。
【0217】
本明細書に記載されている本発明の1つの態様においては、U1発現カセットは、本明細書に記載されている本発明の細胞内に安定に組み込まれる。
【0218】
本明細書中で用いる「パッケージング細胞」なる語は、レンチウイルスベクター粒子の産生に必要なエレメントを含むがベクターゲノムを欠く細胞を意味する。所望により、そのようなパッケージング細胞は、ウイルス構造タンパク質(例えば、gag、gag/polおよびenv)および典型的にはrevを発現しうる1以上の発現カセットを含みうる。
【0219】
プロデューサー細胞/パッケージング細胞は任意の適切な細胞型でありうる。プロデューサー細胞は一般には哺乳類細胞であるが、例えば、昆虫細胞であることも可能である。
【0220】
本明細書中で用いる「プロデューサー細胞」または「ベクター製造/プロデューサー細胞」なる語は、レンチウイルスベクター粒子の産生に必要なエレメントの全てを含有する細胞を意味する。プロデューサー細胞は、安定なプロデューサー細胞株であること又は一過性に誘導されたものであることが可能であり、あるいは、レトロウイルスゲノムが一過性に発現される安定なパッケージング細胞であることが可能である。
【0221】
ベクター生産細胞は、インビトロで培養される細胞、例えば組織培養細胞株でありうる。適切な細胞株には、哺乳類細胞、例えばマウス線維芽細胞由来細胞株またはヒト細胞株が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、ベクター生産細胞はヒト細胞株に由来する。
【0222】
細胞および製造方法
本発明のもう1つの態様は、本明細書に記載されているヌクレオチド配列を細胞(例えば、生産細胞)内に導入し、レンチウイルスベクターの製造に適した条件下で該細胞を培養することを含む、レンチウイルスベクターの製造方法に関する。
【0223】
したがって、1つの態様においては、本発明は、
a)ベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程;
b)所望により、ベクター成分をコードする該ヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含む細胞を選択する工程;
c)該ベクター成分が該修飾U1 snRNAと共発現され、レンチウイルスベクターが産生される条件下、細胞を更に培養する工程;および
d)所望により、レンチウイルスベクターを単離する工程
を含む、レンチウイルスベクターの製造方法を提供する。
【0224】
もう1つの態様においては、本発明は、
a)ベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程;
b)ベクター成分をコードする該ヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含む細胞を選択する工程;
c)所望により、本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列とは異なる核酸ベクターを、前記の選択された細胞内に導入する工程;
d)レンチウイルスベクターが産生される条件下で細胞を更に培養する工程;および
e)所望により、レンチウイルスベクターを単離する工程
を含む、レンチウイルスベクターの製造方法を提供する。
【0225】
本発明の方法においては、ベクター成分はgag、env、revおよび/またはレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含みうる。ベクター成分をコードするヌクレオチド配列および本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列は任意の順序で同時または連続的に細胞内に導入されうる。ベクター成分をコードするヌクレオチド配列は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列の前に細胞内に導入されうる。本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列は、ベクター成分をコードするヌクレオチド配列の前に細胞内に導入されうる。
【0226】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターは複製欠損型でありうる。
【0227】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のいずれかの方法により製造されるレンチウイルスベクターを提供する。
【0228】
もう1つの態様においては、本発明は、レンチウイルスベクターの製造のための、本発明の修飾U1 snRNAまたは本発明の修飾U1 snRNAをコードするヌクレオチド配列または本発明の生産細胞の使用を提供する。
【0229】
レンチウイルスベクターの製造は、本明細書に記載されている適切な生産細胞における、ベクター成分との本発明の修飾U1 snRNAの共発現を含みうる。
【0230】
もう1つの態様においては、本発明は、
a)gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程;ならびに
b)所望により、ベクター成分をコードする該ヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを含む細胞を選択する工程
を含む、レンチウイルスベクターを製造するための生産細胞の製造方法を提供する。
【0231】
もう1つの態様においては、本発明は、
a)gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入する工程;ならびに
b)ベクター成分をコードする該ヌクレオチド配列または本発明の少なくとも1つの修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む細胞を選択する工程
を含む、レンチウイルスベクターを製造するための安定な生産細胞の製造方法を提供する。
【0232】
もう1つの態様においては、本発明は、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列と、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列とを、細胞内に導入することを含む、レンチウイルスベクターを製造するための一過性生産細胞の製造方法を提供する。
【0233】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のいずれかの方法により製造されるレンチウイルスベクターを製造するための細胞を提供する。
【0234】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のいずれかの方法により製造されるレンチウイルスベクターを製造するための安定な生産細胞を提供する。
【0235】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明のいずれかの方法により製造されるレンチウイルスベクターを製造するための一過性生産細胞を提供する。
【0236】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを製造するための細胞を提供する。
【0237】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを製造するための安定な生産細胞を提供する。
【0238】
もう1つの態様においては、本発明は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターを製造するための一過性生産細胞を提供する。
【0239】
幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターを製造するための安定または一過性生産細胞は、本発明の修飾U1 snRNAをコードする1、5、10、15、20または30個の安定に組込まれたヌクレオチド配列を含む。
【0240】
本発明の方法および使用の幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を増加させる。したがって、本発明の修飾U1 snRNAの存在下でのレンチウイルスベクターの製造は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター力価を増加させる。レンチウイルスベクター力価を測定するための適切なアッセイは本明細書に記載されているとおりである。適切には、レンチウイルスベクターの製造は、該修飾U1 snRNAと、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含むベクター成分との共発現を含む。幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクター力価の増加は機能的5’LTRポリA部位の存在下または非存在下で生じる。幾つかの実施形態においては、本発明の修飾U1 snRNAによりもたらされるレンチウイルスベクター力価の増加はベクターゲノムの5’LTRにおけるポリA部位抑制に非依存的である。
【0241】
本発明の方法および使用の幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を少なくとも30%増加させうる。適切には、レンチウイルスベクターゲノム配列のパッケージング領域内のヌクレオチド配列への本発明の修飾U1 snRNAの結合は、本発明の修飾U1 snRNAの非存在下でのレンチウイルスベクター製造と比較して、レンチウイルスベクター製造中のレンチウイルスベクター力価を少なくとも35%(適切には、少なくとも40%、45%、50%、60%、70%、100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%または1000%)増加させうる。
【0242】
本発明の方法および使用の幾つかの実施形態においては、レンチウイルスベクターを製造するための適切な生産細胞または細胞は、適切な条件下で培養された場合にウイルスベクターまたはウイルスベクター粒子を産生しうる細胞である。したがって、細胞は、典型的には、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含みうるベクター成分をコードするヌクレオチド配列を含む。適切な細胞株には、哺乳類細胞、例えばマウス線維芽細胞由来の細胞株またはヒト細胞株が含まれるが、これらに限定されるものではない。それらは、一般には、ヒト細胞を含む哺乳類細胞、例えばHEK293T、HEK293、CAP、CAP-TまたはCHO細胞であるが、例えば、SF9細胞のような昆虫細胞であることも可能である。好ましくは、ベクター生産細胞はヒト細胞株に由来する。したがって、そのような適切な生産細胞は、本発明の方法または使用のいずれかにおいて使用されうる。
【0243】
ヌクレオチド配列を細胞内に導入するための方法は当技術分野で周知であり、既に記載されている。したがって、gag、env、revおよびレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含むベクター成分をコードするヌクレオチド配列、ならびに本発明の修飾U1 snRNAをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列または本発明の少なくとも1つの発現カセットを、分子生物学および細胞生物学における通常の技術を用いて細胞内に導入することは、当業者の能力の範囲内である。
【0244】
安定な生産細胞はパッケージングまたはプロデューサー細胞でありうる。パッケージング細胞からプロデューサー細胞を作製するために、ベクターゲノムDNA構築物を安定または一過性に導入することが可能である。パッケージング/プロデューサー細胞は、WO 2004/022761に記載されているとおり、ベクターの成分の1つ、すなわち、ゲノム、gag-pol成分およびエンベロープを発現するレトロウイルスベクターで適切な細胞株を形質導入することにより作製されうる。
【0245】
あるいは、ヌクレオチド配列を細胞内にトランスフェクトすることが可能であり、ついで、生産細胞ゲノム内への組込みが稀にランダムに生じる。トランスフェクション法は、当技術分野で周知の方法を用いて行われうる。例えば、安定なトランスフェクション法は、コンカテマー化を助けるように操作された構築物を使用することが可能である。もう1つの例においては、トランスフェクション法は、リン酸カルシウム、または商業的に入手可能な製剤、例えばLipofectamine(商標)2000CD(Invitrogen,CA)、FuGENE(登録商標)HDまたはポリエチレンイミン(PEI)を使用して行われうる。あるいは、ヌクレオチド配列はエレクトロポレーションにより生産細胞内に導入されうる。当業者は、生産細胞内へのヌクレオチド配列の組込みを促進するための方法を認識するであろう。例えば、核酸構築物の線状化は、それが天然で環状である場合に有用でありうる。それほどランダムでない組込み法は、内因性ゲノム内の選択された部位への組込みを導くために、哺乳類宿主細胞の内因性染色体と共有される相同性の領域を含む核酸構築物を含みうる。更に、組換え部位が構築物上に存在する場合、これらは標的化組換えに使用されうる。例えば、核酸構築物は、Creリコンビナーゼと組合された場合に標的化組込みを可能にするloxP部位(すなわち、P1バクテリオファージに由来するCre/lox系を使用)を含有しうる。代替的または追加的に、組換え部位は、att部位(例えば、λファージ由来)であり、この場合、att部位はラムダインテグラーゼの存在下で部位特異的組込みを可能にする。これは、レンチウイルス遺伝子が宿主細胞ゲノム内の遺伝子座に標的化されることを可能にし、これは、高いおよび/または安定な発現を可能にする。
【0246】
標的化組込みの他の方法は当技術分野で周知である。例えば、選択された染色体遺伝子座における標的化組換えを促進するために、ゲノムDNAの標的化切断を誘導する方法が用いられうる。これらの方法は、しばしば、非相同末端結合(NHEJ)のような生理学的メカニズムによる切断の修復を誘導するための内因性ゲノムにおけるニックのような二本鎖切断(DSB)を誘導する方法または系の使用を含む。切断は、特異的ヌクレアーゼ、例えば、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の使用、特異的切断を導くための、操作されたcrRNA/tracr RNA(「単一ガイドRNA」)の存在下のCRISPR/Cas9系の使用、および/またはアルゴノート系に基づくヌクレアーゼ(例えば、ティー・サーモフィルス(T.thermophilus)由来)の使用により生じうる。
【0247】
パッケージング/プロデューサー細胞株は、レンチウイルス形質導入のみ又は核酸トランスフェクションのみ又はそれらの両方の組合せの方法を用いるヌクレオチド配列の組込みにより作製されうる。
【0248】
生産細胞からレトロウイルスベクターを作製するための方法、特に、レトロウイルスベクターのプロセシングはWO2009/153563に記載されている。
【0249】
1つの実施形態においては、生産細胞はRNA結合タンパク質(例えば、トリプトファンRNA結合減衰タンパク質;TRAP)および/またはTetリプレッサー(TetR)タンパク質または代替的調節タンパク質(例えば、CymR)を含みうる。
【0250】
生産細胞からのレンチウイルスベクターの製造は、トランスフェクション法、誘導工程(例えば、ドキシサイクリン誘導)を含みうる安定細胞株からの製造、または両方の組合せによるものでありうる。トランスフェクション法は、当技術分野で周知の方法を用いて実施可能であり、具体例は既に記載されている。
【0251】
生産細胞(パッケージングもしくはプロデューサー細胞株のいずれか、または成分をコードするレンチウイルスベクターで一過性にトランスフェクトされたももの)を培養して、細胞およびウイルスの数ならびに/またはウイルス力価を増加させる。細胞の培養は、それが代謝し、および/または増殖し、および/または分裂し、および/または本発明による目的のウイルスベクターを産生することを可能にするように行う。これは当業者に周知の方法により達成可能であり、例えば適切な培地における細胞に栄養素を供与することを含むが、これに限定されるものではない。該方法は、表面に接着する成長、懸濁液中での成長またはそれらの組合せを含みうる。培養は、例えば、組織培養フラスコ、組織培養マルチウェルプレート、皿、ローラーボトル、ウェーブバッグまたはバイオリアクターにおいて、バッチ、流加、連続系などを使用して行われうる。細胞培養によるウイルスベクターの大規模な製造を達成するためには、細胞が懸濁状態で増殖しうることが当技術分野においては好ましい。細胞を培養するための適切な条件は公知である(例えば、Tissue Culture,Academic Press,KruseおよびPaterson編(1973),ならびにR.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley-Liss Inc.,2000,ISBN 0-471-34889-9)を参照されたい)。
【0252】
好ましくは、細胞を、まず、組織培養フラスコまたはバイオリアクターにおいて「増量(バルクアップ)」し、ついで、多層培養容器または大型バイオリアクター(50Lを超えるもの)において増殖させて、本発明のベクター生産細胞を得る。
【0253】
好ましくは、細胞を接着様態で増殖させて、本発明のベクター生産細胞を得る。
【0254】
好ましくは、細胞を懸濁様態で増殖させて、本発明のベクター生産細胞を得る。
【0255】
主要スプライスドナー
ウイルスベクターのRNAゲノムのパッケージング領域における主要スプライスドナー部位の突然変異は、ベクター製造力価に有害であり、更に、MSDに直に隣接する潜在的スプライスドナー(crSD)を活性化することが示されている。MSDまたはCrSDからの異常スプライシングは、ベクタービリオン内にパッケージングされ得ないスプライス化RNAの生成につながる。形質導入細胞における組込みベクターに由来する転写リードスルー産物からの細胞転写産物へのMSDからのスプライシングも報告されており、安全性の懸念が生じている。本発明者らは、修飾U1 snRNAの存在下で力価の更なる増加をもたらす、(修飾U1 snRNAの非存在下で)ベクター力価のそれほど顕著でない減少をもたらすMSDスプライシング領域内の新規突然変異を記載する。主要スプライスドナー部位のそのような突然変異または欠失は、本明細書に記載されているものに加えて、ベクター力価に対する追加的な改善効果をもたらすことが可能であり、本明細書に記載されている本発明の任意の他の態様と組合せて使用されうる。
【0256】
RNAスプライシングは、5つの小さな核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)から構成されるスプライセオソームと称される大きなRNA-タンパク質複合体により触媒される。イントロンとエクソンとの境界はプレmRNA内の特定のヌクレオチド配列により示され、これは、スプライシングが生じる位置を示す。そのような境界は「スプライス部位」と称される。「スプライス部位」なる語は、切断されおよび/または別のスプライス部位に連結されるのに適していると、真核細胞のスプライシング機構により認識されうるポリヌクレオチドを意味する。
【0257】
スプライス部位は、プレmRNA転写産物に存在するイントロンの切除を可能にする。典型的には、5’スプライス境界は「スプライスドナー部位」または「5’スプライス部位」と称され、3’スプライス境界は「スプライスアクセプター部位」または「3’スプライス部位」と称される。スプライス部位には、例えば、天然に存在するスプライス部位、操作されたスプライス部位または合成スプライス部位、カノニカル(canonical)またはコンセンサススプライス部位および/または非カノニカルスプライス部位、例えば潜在的スプライス部位が含まれる。
【0258】
スプライスアクセプター部位は、一般に、3つの別個の配列エレメント、すなわち、分岐点または分岐部位、ポリピリミジントラクトおよびアクセプターコンセンサス配列からなる。真核生物における分岐点コンセンサス配列はYNYTRAC(ここで、Yはピリミジン、Nは任意のヌクレオチド、およびRはプリンである)である。3’アクセプタースプライス部位コンセンサス配列はYAG(ここで、Yはピリミジンである)である(例えば、Griffithsら編,Modern Genetic Analysis,2nd edition,W.H.Freeman and Company,New York(2002)を参照されたい)。3’スプライスアクセプター部位は、典型的には、イントロンの3’末端に位置する。
【0259】
したがって、主要スプライスドナー部位は、本発明における使用のためのレンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列において不活性化されうる。
【0260】
1つの態様においては、本発明はまた、本明細書に記載されている本発明による細胞を提供し、ここで、レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、例えば突然変異または欠失している。
【0261】
1つの態様においては、レンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を提供し、ここで、該レンチウイルスベクターのRNAゲノムにおける主要スプライスドナー部位は不活性化されており、例えば突然変異または欠失している。
【0262】
「カノニカルスプライス部位」または「コンセンサススプライス部位」なる語は交換的に用いられることが可能であり、種間で保存されているスプライス部位を意味しうる。
【0263】
真核生物のRNAスプライシングにおいて使用される5’ドナースプライス部位および3’アクセプタースプライス部位のコンセンサス配列は当技術分野で周知である。これらのコンセンサス配列は、イントロンの各末端におけるほぼ不変のジヌクレオチド、すなわち、イントロンの5’末端におけるGT、およびイントロンの3’末端におけるAGを含む。
【0264】
カノニカルスプライスドナー部位コンセンサス配列は(DNAの場合には)AG/GTRAGT(ここで、Aはアデノシンであり、Tはチミンであり、Gはグアニンであり、Cはシトシンであり、Rはプリンであり、「/」は切断部位を示す)でありうる。これは、本明細書に記載されているより一般的なスプライスドナーコンセンサス配列MAGGURRに適合している。スプライスドナー配列がこのコンセンサスから逸脱しうることは当技術分野で周知であり、例えばvRNAパッケージング領域内の二次構造のような他の制約がその同じ配列に影響を及ぼしているウイルスゲノムにおいて、特にそうである。非カノニカルスプライス部位も当技術分野で周知であるが、カノニカルスプライスドナーコンセンサス配列と比較して稀にしか存在しない。
【0265】
「主要スプライスドナー部位」は、典型的にはウイルスベクターヌクレオチド配列の5’領域に位置する天然ウイルスRNAパッケージング配列内でコードされ組み込まれている、ウイルスベクターゲノムにおける第1の(優勢な)スプライスドナー部位を意味する。
【0266】
1つの態様においては、ヌクレオチド配列は活性主要スプライスドナー部位を含有しない。すなわち、スプライシングは該ヌクレオチド配列における主要スプライスドナー部位からは生じず、主要スプライスドナー部位からのスプライシング活性は除去されている。
【0267】
主要スプライスドナー部位はレンチウイルスゲノムの5’パッケージング領域に位置する。
【0268】
HIV-1ウイルスの場合、主要スプライスドナーコンセンサス配列は(DNAの場合には)TG/GTRAGT(ここで、Aはアデノシンであり、Tはチミンであり、Gはグアニンであり、Cはシトシンであり、Rはプリンであり、「/」は切断部位を示す)である。
【0269】
本発明の1つの態様においては、スプライスドナー領域、すなわち、突然変異の前に主要スプライスドナー部位を含むベクターゲノムの領域は、以下の配列を有しうる:
GGGGCGGCGACTGGTGAGTACGCCAAAAAT(配列番号1)。
【0270】
本発明の1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGGGCGGCGACTGCAGACAACGCCAAAAAT(配列番号2 - MSD-2KO)。
【0271】
本発明の1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGGGCGGCGAGTGGAGACTACGCCAAAAAT(配列番号11 - MSD-2KOv2)。
【0272】
本発明の1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGGGAAGGCAACAGATAAATATGCCTTAAAAT(配列番号12 - MSD-2KOm5)。
【0273】
本発明の1つの態様においては、修飾の前に、スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGCGACTGGTGAGTACGCC(配列番号9)。
【0274】
この配列は本明細書においては「ステムループ2」領域(SL2)とも称される。この配列はベクターゲノムのスプライスドナー領域においてステムループ構造を形成しうる。本発明の1つの態様においては、この配列(SL2)は、本明細書に記載されている本発明によるヌクレオチド配列から欠失していることが可能である。
【0275】
したがって、本発明は、SL2を含まないヌクレオチド配列を含む。本発明は、配列番号9の配列を含まないヌクレオチド配列を含む。
【0276】
本発明の1つの態様においては、主要スプライスドナー部位は以下のコンセンサス配列:
TG/GTRAGT(配列番号3)
(ここで、Rはプリンであり、「/」は切断部位である)を有しうる。
【0277】
1つの態様においては、Rはグアニン(G)でありうる。
【0278】
本発明の1つの態様においては、主要スプライスドナーおよび潜在的スプライスドナー領域は以下のコア配列:
/GTGA/GTA(配列番号13)
(ここで、「/」は主要スプライスドナーおよび潜在的スプライスドナー部位における切断部位である)を有しうる。
【0279】
本発明の1つの態様においては、MSD突然変異ベクターゲノムは主要スプライスドナーおよび潜在的スプライスドナー「領域」(配列番号13)に少なくとも2つの突然変異を有することが可能であり、ここで、第1および第2の「GT」ヌクレオチドは、それぞれ、主要スプライスドナーおよび潜在的スプライスドナーヌクレオチドの直に3’側に位置する。
【0280】
本発明の1つの態様においては、主要スプライスドナーコンセンサス配列はCTGGT(配列番号4)である。主要スプライスドナー部位は配列CTGGTを含有しうる。
【0281】
1つの態様においては、スプライス部位の不活性化の前のヌクレオチド配列は、配列番号1、3、4、9、10および/または13のいずれかに記載されている配列を含む。
【0282】
1つの態様においては、ヌクレオチド配列は不活性化主要スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド13および14に対応するヌクレオチドの間に切断部位を有するものである。
【0283】
本明細書に記載されている本発明においては、ヌクレオチド配列は不活性潜在的スプライスドナー部位をも含有する。1つの態様においては、ヌクレオチド配列は、主要スプライスドナー部位に隣接する(該部位の3’側の)活性潜在的スプライスドナー部位を含有しない。すなわち、該隣接潜在的スプライスドナー部位からはスプライシングが生じず、潜在的スプライスドナー部位からのスプライシングは除去されている。
【0284】
「潜在的スプライスドナー部位」なる語は、隣接配列コンテキスト(例えば、近傍の「好ましい」スプライスドナーの存在)ゆえに通常はスプライスドナー部位として機能しない又はスプライスドナー部位としてそれほど効率的に利用されないが、隣接配列の突然変異(例えば、近傍の「好ましい」スプライスドナーの突然変異)によってより効率的に機能するスプライスドナー部位になるように活性化されうる核酸配列を意味する。
【0285】
1つの態様においては、潜在的スプライスドナー部位は主要スプライスドナーの3’側の最初の潜在的スプライスドナー部位である。
【0286】
1つの態様においては、潜在的スプライスドナー部位は主要スプライスドナー部位の3’側の主要スプライスドナー部位の6ヌクレオチド以内に存在する。好ましくは、潜在的スプライスドナー部位は主要スプライスドナー切断部位の4または5ヌクレオチド以内、好ましくは4ヌクレオチド以内に存在する。
【0287】
本発明の1つの態様においては、潜在的スプライスドナー部位はコンセンサス配列TGAGT(配列番号10)を有する。
【0288】
1つの態様においては、ヌクレオチド配列は不活性化潜在的スプライスドナー部位を含み、該部位は、不活性化されていない場合には、配列番号1のヌクレオチド17および18に対応するヌクレオチドの間に切断部位を有するものである。
【0289】
本発明の1つの態様においては、主要スプライスドナー部位および/または隣接潜在的スプライスドナー部位は「GT」モチーフを含む。本発明の1つの態様においては、主要スプライスドナー部位と隣接潜在的スプライスドナー部位との両方が、突然変異した「GT」モチーフを含む。突然変異したGTモチーフは、主要スプライスドナー部位と隣接潜在的スプライスドナー部位との両方からのスプライス活性を不活性化しうる。そのような突然変異の一例は本明細書においては「MSD-2KO」と称される。
【0290】
1つの態様においては、スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
CAGACA(配列番号5)。
【0291】
例えば、1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGCGACTGCAGACAACGCC(配列番号6)。
【0292】
不活性化突然変異のもう1つの例は本明細書においては「MSD-2KOv2」と称される。
【0293】
1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GTGGAGACT(配列番号7)。
【0294】
例えば、1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
GGCGAGTGGAGACTACGCC(配列番号8)。
【0295】
例えば、1つの態様においては、突然変異スプライスドナー領域は以下の配列を含みうる:
AAGGCAACAGATAAATATGCCTT(配列番号14)。
【0296】
1つの態様においては、前記のステムループ2領域はスプライスドナー領域から欠失して、主要スプライスドナー部位と隣接潜在的スプライスドナー部位との両方の不活性化をもたらしうる。そのような欠失は本明細書においては「ΔSL2」と称される。
【0297】
主要スプライスドナー部位および隣接潜在的スプライスドナー部位を不活性化するために、種々の異なるタイプの突然変異が核酸配列内に導入されうる。
【0298】
1つの態様においては、突然変異は、スプライス領域におけるスプライシング活性を除去または抑制する機能的突然変異である。本明細書に記載されているヌクレオチド配列は配列番号1、3、4、9、10および/または13におけるヌクレオチドのいずれかにおいて突然変異または欠失を含有しうる。適切な突然変異は当業者に公知であり、本明細書に記載されている。
【0299】
例えば、点突然変異が核酸配列内に導入されうる。本明細書中で用いる「点突然変異」なる語は単一ヌクレオチドに対する任意の変化を意味する。点突然変異には、例えば欠失、トランジションおよびトランスバージョンが含まれ、これらは、タンパク質コード配列内に存在する場合、ナンセンス突然変異、ミスセンス突然変異またはサイレント突然変異として分類されうる。「ナンセンス」突然変異は終止コドンを生成する。「ミスセンス」突然変異は、異なるアミノ酸をコードするコドンを生成する。「サイレント」突然変異は、タンパク質の機能を変えない同じアミノ酸または異なるアミノ酸のいずれかをコードするコドンを生成する。潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列内に1以上の点突然変異が導入されうる。例えば、潜在的スプライス部位を含む核酸配列は、2以上の点突然変異をそれに導入することにより突然変異に付されうる。
【0300】
スプライスドナー領域からのスプライシングの減弱を達成するために、主要スプライスドナーおよび潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列内の幾つかの位置に少なくとも2つの点突然変異が導入されうる。1つの態様においては、突然変異はスプライスドナー切断部位における4ヌクレオチド内に存在することが可能であり、カノニカルスプライスドナーコンセンサス配列において、これはA1G2/G3T4であり、ここで、「/」は切断部位である。
【0301】
スプライスドナー切断部位がこのコンセンサスから逸脱しうることは当技術分野で周知であり、例えばvRNAパッケージング領域内の二次構造のような他の制約がその同じ配列に影響を及ぼしているウイルスゲノムにおいて、特にそうである。G3T4ジヌクレオチドは一般に、カノニカルスプライスドナーコンセンサス配列内で最も可変性の低い配列であることが周知であり、G3および/またはT4への突然変異が、最大の減弱効果を達成する可能性が最も高いであろう。例えば、HIV-1ウイルスベクターゲノムにおける主要スプライスドナー部位の場合、これはT1G2/G3T4(ここで、「/」は切断部位である)でありうる。例えば、HIV-1ウイルスベクターゲノムの潜在的スプライスドナー部位の場合、これはG1A2/G3T4(ここで、「/」は切断部位である)でありうる。また、点突然変異はスプライスドナー部位の隣に導入されうる。例えば、点突然変異はスプライスドナー部位の上流または下流に導入されうる。主要および/または潜在的スプライスドナー部位を含む核酸配列が、複数の点突然変異を導入することにより突然変異に付される実施形態においては、点突然変異は潜在的スプライスドナー部位の上流および/または下流に導入されうる。
【0302】
スプライス部位突然変異体の構築
本発明のスプライス部位突然変異体は、種々の技術を用いて構築されうる。例えば、突然変異は、天然配列の断片への連結を可能にする制限部位に隣接した突然変異配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することにより、特定の遺伝子座に導入されうる。連結後、得られた再構築された配列は、所望のヌクレオチド挿入、置換または欠失を有する誘導体を含む。
【0303】
DNA配列の改変を可能にする他の公知技術には、ギブソン・アセンブリ(Gibson assembly)、ゴールデンゲート(Golden-gate)クローニング、インフュージョン(In-fusion)のような組換えアプローチが含まれる。
【0304】
あるいは、必要な置換、欠失または挿入による改変配列を得るために、オリゴヌクレオチドに対する部位特異的(またはセグメント特異的)突然変異誘発法が用いられうる。スプライス部位突然変異体の欠失またはトランケート化誘導体は、所望の欠失に隣接する簡便な制限エンドヌクレアーゼ部位を利用することによっても構築されうる。
【0305】
制限処理の後、オーバーハングが埋められ、DNAが再連結されうる。
【0306】
前記の改変を施す例示的な方法はSambrookら(Molecular cloning:A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に開示されている。
【0307】
スプライス部位突然変異体はまた、PCR突然変異誘発、化学的突然変異誘発、強制的なヌクレオチドの誤取り込み(例えば、LiaoおよびWise,1990)による化学的突然変異誘発(DrinkwaterおよびKlinedinst,1986)の技術を用いることにより、またはランダム突然変異誘発オリゴヌクレオチドの使用(Horwitzら,1989)により構築されうる。
【0308】
本発明はまた、
(i)本明細書に記載されているレンチウイルスベクターのRNAゲノムをコードするヌクレオチド配列を準備する工程、および
(ii)該ヌクレオチド配列における本明細書に記載されている主要スプライスドナー部位および潜在的スプライスドナー部位を突然変異させる工程
を含む、レンチウイルスベクターヌクレオチド配列の製造方法を提供する。
【0309】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスはレトロウイルスの、より大きな群の一部である。レンチウイルスの詳細な一覧はCoffinら(1997)“Retroviruses”Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds:JM Coffin,SM Hughes,HE Varmus pp 758-763に見出されうる。簡潔に説明すると、レンチウイルスは霊長類群および非霊長類群に分類されうる。霊長類レンチウイルスの例には、ヒト自己免疫不全症候群(エイズ)の原因因子であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれるが、これらに限定されるものではない。非霊長類レンチウイルス群には、原型「スローウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに関連ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、マエディビスナウイルス(MVV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEVまたはビスナレンチウイルスに由来する。
【0310】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはHIV-1に由来する。
【0311】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはHIV-2に由来する。
【0312】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはEIAVに由来する。
【0313】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはSIVに由来する。
【0314】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはFIVに由来する。
【0315】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはBIVに由来する。
【0316】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはCAEVに由来する。
【0317】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターはビスナレンチウイルスに由来する。
【0318】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染する能力を有する点で、レトロウイルスとは異なる(Lewisら(1992)EMBO J 11(8):3053-3058ならびにLewisおよびEmerman(1994)J Virol 68(1):510-516)。これとは対照的に、MLVのような他のレトロウイルスは非分裂細胞または遅く分裂する細胞(例えば、筋肉、脳、肺および肝組織を構成する細胞)には感染できない。
【0319】
本明細書中で用いるレンチウイルスベクターは、レンチウイルスから誘導可能な少なくとも1つの成分部分を含むベクターである。好ましくは、その成分部分は、該ベクターが標的細胞に感染または形質導入し、NOIを発現する生物学的メカニズムに関与する。
【0320】
レンチウイルスベクターは、インビトロで適合性標的細胞においてNOIを複製するために使用されうる。したがって、本明細書には、インビトロで適合性標的細胞内に本発明のベクターを導入し、NOIの発現をもたらす条件下、該標的細胞を増殖させることによる、インビトロでのタンパク質の製造方法が記載されている。タンパク質およびNOIは、当技術分野で周知の方法により標的細胞から回収されうる。適切な標的細胞には、哺乳類細胞株および他の真核細胞株が含まれる。
【0321】
幾つかの態様においては、ベクターは「インスレーター」(プロモーターとエンハンサーとの間の相互作用を遮断し、隣接遺伝子からのリードスルーを低減するバリヤとして機能する遺伝的配列)を有しうる。
【0322】
1つの実施形態においては、インスレーターは1以上のレンチウイルス核酸配列の間に存在して、プロモーター干渉および隣接遺伝子からのリードスルーを予防する。インスレーターが1以上のレンチウイルス核酸配列の間にベクター内に存在する場合、これらの絶縁された遺伝子のそれぞれは個々の発現単位として配置されうる。
【0323】
レトロウイルスおよびレンチウイルスゲノムの基本構造は多数の共通の特徴を有し、それらとしては、例えば、5’LTRおよび3’LTR(それらの間または内部に、ゲノムがパッケージングされることを可能にするパッケージングシグナルが位置する)、プライマー結合部位、標的細胞ゲノム内への組込みを可能にする組込み部位、ならびにウイルス粒子の構築に必要なポリペプチドであるパッケージング成分をコードするgag/polおよびenv遺伝子が挙げられる。レンチウイルスは追加的な特徴、例えば、HIVにおけるrev遺伝子およびRRE配列を有し、これらは、感染標的細胞の核から細胞質への、組込まれたプロウイルスのRNA転写産物の効率的な輸出を可能にする。
【0324】
プロウイルスにおいては、これらの遺伝子は両端で、長末端反復(LTR)と称される領域に隣接している。LTRはプロウイルスの組込みおよび転写をもたらす。LTRはエンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御しうる。
【0325】
LTRはそれら自体が同一の配列であり、U3、RおよびU5と称される3つのエレメントに分類されうる。U3はRNAの3’末端に特有の配列に由来する。Rは、RNAの両端において反復する配列に由来し、U5は、RNAの5’末端に特有の配列に由来する。それらの3つのエレメントのサイズはレトロウイルスよって大きく変動しうる。
【0326】
本明細書に記載されている典型的なレトロウイルスベクターにおいては、複製に必須の1以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部が該ウイルスから除去されうる。例えば、gag/polおよびenvは存在しないこと又は機能的でないことが可能である。これは該ウイルスベクターを複製欠損型にする。
【0327】
レンチウイルスベクターは霊長類レンチウイルス(例えば、HIV-1)または非霊長類レンチウイルス(例えば、EIAV)に由来しうる。
【0328】
一般的には、典型的なレトロウイルスベクター製造系は必須ウイルスパッケージング機能からのウイルスゲノムの分離を含む。これらの成分は、通常、別々のDNA発現カセット(あるいは、プラスミド、発現プラスミド、DNA構築物または発現構築物として公知である)上で生産細胞に付与される。
【0329】
ベクターゲノムはNOIを含む。ベクターゲノムは、典型的には、パッケージングシグナル(ψ)、NOIを保持する内部発現カセット、(所望により)転写後エレメント(PRE)、典型的には中央ポリプリントラクト(cppt)、3’-ppuおよび自己不活性化(SIN)LTRを要する。ベクターゲノムRNAおよびNOI mRNAの両方の適切なポリアデニル化ならびに逆転写の過程のために、R-U5領域が必要である。ベクターゲノムは、所望により、WO 2003/064665に記載されているオープンリーディングフレームを含むことが可能であり、これは、revの非存在下でのベクター製造を可能にする。
【0330】
パッケージング機能はgag/polおよびenv遺伝子を含む。これらは生産細胞によるベクター粒子の産生のために必要である。ゲノムへのトランスでのこれらの機能の付与は複製欠損型ウイルスの産生を促進する。
【0331】
ガンマ-レトロウイルスベクターの製造系は、典型的には、ゲノム、gag/polおよびenv発現構築物を要する3成分系である。HIV-1に基づくレンチウイルスベクターの製造系は更に、アクセサリー遺伝子revが付与されること、およびベクターゲノムがrev応答エレメント(RRE)を含むことを要する。EIAVに基づくレンチウイルスベクターは、ゲノム内にオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する場合には、revがトランスで付与されることを要さない(WO 2003/064665を参照されたい)。
【0332】
通常、ベクターゲノムカセット内でコードされる「外部」プロモーター(これはベクターゲノムカセットを駆動する)および「内部」プロモーター(これはNOIカセットを駆動する)の両方は、その他のベクター系成分を駆動するものと同様に、強力な真核またはウイルスプロモーターである。そのようなプロモーターの例には、CMV、EF1a、PGK、CAG、TK、SV40およびユビキチンプロモーターが含まれる。強力な「合成」プロモーター、例えば、DNAライブラリーにより作製されるプロモーター(例えば、JeTプロモーター)も、転写を駆動するために使用されうる。あるいは、転写を駆動するためには、例えば以下のような組織特異的プロモーターが使用されうる:ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、錐体-桿体ホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝臓脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、GPIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーターおよびB29プロモーター。
【0333】
レトロウイルスベクターの製造は、これらのDNA成分での生産細胞の一過性コトランスフェクションまたは安定な生産細胞系の使用(ここで、該成分の全ては生産細胞ゲノム内に安定に組込まれる)を含む(例えば、Stewart HJ,Fong-Wong L,Strickland I,Chipchase D,Kelleher M,Stevenson L,Thoree V,McCarthy J,Ralph GS,Mitrophanous KAおよびRadcliffe PA.(2011).Hum Gene Ther.Mar;22(3):357-69)。もう1つのアプローチは、安定なパッケージング細胞(該細胞内にパッケージング成分が安定に組込まれている)を使用すること、および次いで必要に応じて、ベクターゲノムプラスミドにおける一過性トランスフェクションを行うことである(例えば、Stewart,H.J.,M.A.Leroux-Carlucci,C.J.Sion,K.A.MitrophanousおよびP.A.Radcliffe(2009).Gene Ther.Jun;16(6):805-14)。完全ではない代替的なパッケージング細胞株を作製し(1つまたは2つのパッケージング成分のみが細胞株内に安定に組込まれている)、そしてベクターを作製するために、欠損成分を一過性にトランスフェクトすることも可能である。生産細胞はまた、調節タンパク質、例えば、転写調節因子のtetリプレッサー(TetR)タンパク質グループのメンバー(例えば、T-Rex、Tet-OnおよびTet-Off)、転写調節因子のクマート誘導性スイッチ系グループのメンバー(例えば、クマートリプレッサー(CymR)タンパク質)、またはRNA結合タンパク質(例えば、TRAP-トリプトファン活性化RNA結合タンパク質)を発現しうる。
【0334】
本発明の1つの実施形態においては、ウイルスベクターはEIAVに由来する。EIAVはレンチウイルスの最も単純なゲノム構造を有し、本発明における使用に特に好ましい。EIAVは、gag/polおよびenv遺伝子に加えて、3つの他の遺伝子、すなわち、tat、revおよびS2をコードしている。TatはウイルスLTRの転写活性化因子として作用し(DerseおよびNewbold(1993)Virology 194(2):530-536ならびにMauryら(1994)Virology 200(2):632-642)、revはrev応答エレメント(RRE)を介してウイルス遺伝子の発現を調節し、統合する(Martaranoら(1994)J Virol 68(5):3102-3111)。これらの2つのタンパク質の作用メカニズムは霊長類ウイルスにおける同様のメカニズムに広く類似していると考えられている(Martaranoら(1994)J Virol 68(5):3102-3111)。S2の機能は未知である。また、EIAVタンパク質Ttmが特定されており、これは、膜貫通タンパク質の開始部位におけるenvコード配列へとスプライシングされるtatの第1エキソンによりコードされている。本発明のもう1つの実施形態においては、ウイルスベクターはHIVに由来する。HIVがEIAVと異なるのは、それがS2をコードしていないが、EIAVとは違って、それがvif、vpr、vpuおよびnefをコードしている点である。
【0335】
「組換えレトロウイルスまたはレンチウイルスベクター」(RRV)なる語は、標的細胞に形質導入しうるウイルス粒子内へのRNAゲノムのパッケージングをパッケージング成分の存在下で可能にするのに十分なレトロウイルス遺伝情報を有するベクターを意味する。標的細胞の形質導入は逆転写および標的細胞ゲノム内への組込みを含みうる。RRVは、該ベクターにより標的細胞へと運搬されるべき非ウイルスコード配列を保持する。RRVは、標的細胞内で感染性レトロウイルス粒子を産生する自律的(非依存的)複製の能力を有さない。通常、RRVは機能的gag/polおよび/もしくはenv遺伝子、ならびに/または複製に必須の他の遺伝子を欠く。
【0336】
好ましくは、本発明のRRVベクターは最小ウイルスゲノムを有する。
【0337】
本明細書中で用いる「最小ウイルスゲノム」なる語は、標的細胞へのNOIの感染、形質導入および運搬のための必要な機能性を付与するのに必須のエレメントを保有させながら非必須エレメントを除去するためにウイルスベクターが操作されていることを意味する。この方法の更なる詳細はWO 1998/17815およびWO 99/32646に見出されうる。最小EIAVベクターはtat、S2遺伝子を欠き、所望により、revを欠いていてもよく、これらの遺伝子のいずれもが製造系においてトランスで付与されない。最小HIVベクターはvif、vpr、vpu、tatおよびnefを欠く。
【0338】
生産細胞内でベクターゲノムを産生させるために使用される発現プラスミドは、生産細胞/パッケージング細胞におけるゲノムの転写を指令するための、レトロウイルスゲノムに機能的に連結された転写調節制御配列を含む。全ての第3世代レンチウイルスベクターは5’U3エンハンサー-プロモーター領域における欠失を有し、ベクターゲノムRNAの転写は異種プロモーター、例えば別のウイルスプロモーター、例えばCMVプロモーター(後記)により駆動されうる。この特徴はtatに非依存的なベクター製造を可能にする。幾つかのレンチウイルスベクターゲノムは効率的なウイルス産生のための追加的配列を要する。例えば、特にHIVの場合には、RRE配列が含まれうる。しかし、(別個の)GagPolカセットにおけるRREの必要性(およびトランスで付与されるrevに対する依存性)はGagPol ORFのコドン最適化によって低減または排除されうる。この方法の更なる詳細はWO 2001/79518に見出されうる。
【0339】
rev/RRE系と同じ機能を果たす代替的配列も公知である。例えば、rev/RRE系の機能的類似体がメイソン・ファイザー(Mason Pfizer)サルウイルスにおいて見出される。これは構成的輸送エレメント(CTE)として公知であり、感染細胞内の因子と相互作用すると考えられているゲノム内のRRE型配列を含む。該細胞因子はrev類似体とみなされうる。したがって、rev/RRE系の代替物としてCTEが使用されうる。公知の又は利用可能となるRevタンパク質の任意の他の機能的等価体が本発明に関連がありうる。例えば、HTLV-1のRexタンパク質はHIV-1のRevタンパク質に機能的に取って代わりうることも公知である。RevおよびRREは、本発明の方法における使用のためのベクターにおいて存在しないか又は非機能的であることが可能であり、あるいは、revおよびRRE、または機能的に等価な系が存在することが可能である。
【0340】
本明細書中で用いる「機能的代替物」なる語は、別のタンパク質または配列と同じ機能を果たす代替的配列を有するタンパク質または配列を意味する。「機能的代替物」なる語は、同じ意味を有する本明細書における「機能的等価体」および「機能的類似体」と交換的に用いられる。
【0341】
SINベクター
本明細書に記載されているレンチウイルスベクターは、ウイルスエンハンサーおよびプロモーター配列が欠失している自己不活性化(SIN)配置で使用されうる。SINベクターは製造可能であり、非SINベクターの場合に類似した有効性でインビボ、エクスビボまたはインビトロで非分裂標的細胞に形質導入しうる。SINプロウイルスにおける長末端反復(LTR)の転写不活性化はvRNAの動員を妨げるはずであり、複製可能ウイルスの形成の可能性を更に低減する特徴である。これは、LTRのシス作用性効果を排除することにより内部プロモーターからの遺伝子の調節発現をも可能にするはずである。
【0342】
例えば、自己不活性化レトロウイルスベクター系は、転写エンハンサーまたはエンハンサーおよびプロモーター(3’LTRのU3領域内のもの)を欠失させることにより構築されている。ベクターの逆転写および組込みのラウンドの後、これらの変化が5’および3’LTRの両方にコピーされて、転写的に不活性なプロウイルスを与える。しかし、そのようなベクターにおけるLTRに対して内部のいずれかのプロモーターは転写的に尚も活性であろう。この戦略は、内部に位置する遺伝子からの転写に対するウイルスLTRにおけるエンハンサーおよびプロモーターの効果を排除するために用いられている。そのような効果には、転写の増強または転写の抑制が含まれる。この戦略は、ゲノムDNA内への3’LTRから下流転写を排除するためにも用いられうる。これは、いずれかの内因性癌遺伝子の偶発的活性化を予防することが重要なヒト遺伝子治療において特に関心が持たれる。Yuら(1986)PNAS 83:3194-98;Martyら(1990)Biochimie 72:885-7;Naviauxら(1996)J.Virol.70:5701-5;Iwakumaら(1999)Virol.261:120-32;Deglonら(2000)Human Gene Therapy 11:179-90。SINレンチウイルスベクターはUS 6,924,123およびUS 7,056,699に記載されている。
【0343】
複製欠損型レンチウイルスベクター
複製欠損型レンチウイルスベクターのゲノムにおいては、gag/polおよび/またはenvの配列が突然変異している、および/または機能的でないことが可能である。
【0344】
本明細書に記載されている典型的なレンチウイルスベクターにおいては、ウイルス複製に必須のタンパク質に関する1以上のコード領域の少なくとも一部が該ベクターから除去されうる。これはウイルスベクターを複製欠損型にする。非分裂標的細胞に形質導入可能であり、および/またはウイルスゲノムを標的細胞ゲノム内に組込むことが可能なNOIを含むベクターを作製するために、ウイルスゲノムの部分も、NOIにより置換されうる。
【0345】
1つの実施形態においては、レンチウイルスベクターは、WO 2006/010834およびWO 2007/071994に記載されている非組込み性ベクターである。
【0346】
もう1つの実施形態においては、該ベクターは、ウイルスRNAを欠損している又は欠いている配列を運搬する能力を有する。もう1つの実施形態においては、運搬されるべきRNA上に位置する異種結合ドメイン(gagにとって異種)およびGagまたはGagPol上の同族(コグネイト)結合ドメインが、運搬されるべきRNAのパッケージングを確保するために使用されうる。これらのベクターは共にWO 2007/072056に記載されている。
【0347】
NOIおよびポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドはDNAまたはRNAを含みうる。それらは一本鎖または二本鎖でありうる。遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドが同一ポリペプチドをコードしうる、と当業者により理解されるであろう。また、本発明のポリペプチドが発現されることになるいずれかの特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映させるために、通常の技術を用いて、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を当業者が行いうる、と理解されるべきである。
【0348】
該ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能ないずれかの方法により修飾されうる。そのような修飾は、本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性または寿命を増加させるために行われうる。
【0349】
DNAポリヌクレオチドのようなポリヌクレオチドは組換え法、合成法または当業者に利用可能な任意の手段により製造されうる。それらはまた、標準的な技術によってクローニングされうる。
【0350】
より長いポリヌクレオチドは、一般に、組換え手段を用いて、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を用いて製造される。これは、クローニングしたい標的配列に隣接するプライマー(例えば、約15~30ヌクレオチドのもの)のペアを作製し、動物またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAと該プライマーを接触させ、所望の領域の増幅を引き起こす条件下でPCRを行い、増幅された断片を(例えば、反応混合物をアガロースゲルで精製することにより)単離し、増幅されたDNAを回収することを含む。プライマーは、増幅されたDNAが適切なベクター内にクローニングされうるように適切な制限酵素認識部位を含有するように設計されうる。
【0351】
一般的なレトロウイルスベクターエレメント
プロモーターおよびエンハンサー
NOIおよびポリヌクレオチドの発現は、制御配列、例えば転写調節エレメントまたは翻訳抑制エレメント[これらには、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現調節シグナル(例えば、tetリプレッサー(TetR)系)またはベクター生産細胞系内導入遺伝子抑制(Transgene Repression In vector Production cell system)(TRIP)または本明細書に記載されているNOIの他の調節因子が含まれる]を使用して制御されうる。
【0352】
原核生物プロモーターおよび真核細胞において機能するプロモーターが使用されうる。組織特異的または刺激特異的プロモーターが使用されうる。2以上の異なるプロモーターからの配列エレメントを含むキメラプロモーターも使用されうる。
【0353】
適切なプロモーター配列は強力プロモーターであり、それらには、ウイルス、例えばポリオーマウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルスおよびシミアンウイルス40(SV40)のゲノムに由来するもの、あるいは、異種哺乳類プロモーター、例えばアクチンプロモーター、EF1a、CAG、TK、SV40、ユビキチン、PGKまたはリボソームタンパク質プロモーターが含まれる。あるいは、転写を駆動するために、例えば以下のような組織特異的プロモーターが使用されうる:ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、錐体-桿体ホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝臓脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、GPIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーターおよびB29プロモーター。
【0354】
NOIの転写は、エンハンサー配列をベクター内に挿入することにより、更に増強されうる。エンハンサーは比較的、配向および位置に非依存的であるが、真核細胞ウイルス由来のエンハンサー、例えばSV40エンハンサーおよびCMV初期プロモーターエンハンサーが使用されうる。エンハンサーはプロモーターに対して5’または3’側の位置においてベクター内にスプライシングされうるが、好ましくは、プロモーターから5’側の部位に位置する。
【0355】
プロモーターは、適切な標的細胞における発現を確保または増強するための特徴を更に含みうる。例えば、該特徴は保存領域、例えばプリブナウボックス(Pribnow Box)またはTATAボックスでありうる。プロモーターは、ヌクレオチド配列の発現のレベルに影響を及ぼす(例えば、該レベルを維持、増強または低減する)他の配列を含有しうる。適切な他の配列には、Sh1-イントロンまたはADHイントロンが含まれる。他の配列には、誘導可能エレメント、例えば、温度、化学物質、光またはストレスにより誘導可能なエレメントが含まれる。また、転写または翻訳を増強するための適切なエレメントが存在しうる。
【0356】
NOIの調節因子
レトロウイルスパッケージング/プロデューサー細胞株の作製およびレトロウイルスベクター製造における複雑化要因は、特定のレトロウイルスベクター成分およびNOIの構成的発現が細胞毒性であり、該毒性が、これらの成分を発現する細胞の死を招き、したがってベクターの製造を不可能にすることである。したがって、これらの成分(例えば、gag-pol、およびエンベロープタンパク質、例えばVSV-G)の発現が調節されうる。細胞への代謝負荷を最小限に抑えるために、他の非細胞毒性ベクター成分、例えばrevの発現も調節されうる。したがって、本明細書に記載されている、ベクター成分をコードするモジュラー構築物もしくはヌクレオチド配列および/または細胞は、少なくとも1つの調節エレメントに関連する細胞毒性および/または非細胞毒性ベクター成分を含みうる。本明細書中で用いる「調節エレメント」なる語は、関連する遺伝子またはタンパク質の発現に影響を及ぼしうる(該発現を増強または低減しうる)任意のエレメントを意味する。調節エレメントには、遺伝子スイッチ系、転写調節エレメントおよび翻訳抑制エレメントが含まれる。
【0357】
哺乳類細胞において遺伝子スイッチを生成させるために、多数の原核生物調節系が採用されている。多数のレトロウイルスパッケージングおよびプロデューサー細胞株は、遺伝子スイッチ系(例えば、テトラサイクリンおよびクマート誘導性スイッチ系)を使用して制御されており、したがって、ベクター製造時にレトロウイルスベクター成分の1以上の発現のスイッチが入れられることを可能にする。遺伝子スイッチ系には、転写調節因子の(TetR)タンパク質グループ(例えば、T-Rex、Tet-OnおよびTet-Off)のもの、転写調節因子のクマート誘導性スイッチ系グループ(例えば、CymRタンパク質)のもの、およびRNA結合タンパク質(例えば、TRAP)が関わるものが含まれる。
【0358】
そのような1つのテトラサイクリン誘導性系として、T-REx(商標)系に基づくテトラサイクリンリプレッサー(TetR)系が挙げられる。例えば、そのような系においては、最初のヌクレオチドがヒト部位メガロウイルス主要前初期プロモーター(hCMVp)のTATATAAエレメントの最後のヌクレオチドの3’末端から10bpの位置となるように、テトラサイクリンオペレーター(TetO2)が配置され、その場合、TetRが単独でリプレッサーとして機能しうる(Yao F,Svensjo T,Winkler T,Lu M,Eriksson C,Eriksson E.,1998,Hum Gene Ther;9:1939-1950)。そのような系においては、NOIの発現は、TetO2配列の2つのコピーがタンデムに挿入されているCMVプロモーターにより制御されうる。TetRホモ二量体は、誘導物質(テトラサイクリンまたはその類似体ドキシサイクリン[dox])の非存在下、TetO2配列に結合し、上流CMVプロモーターからの転写を物理的に遮断する。誘導物質は、存在する場合には、TetRホモ二量体に結合して、アロステリック変化を引き起こし、その結果、それはTetO2配列にもはや結合できなくて、遺伝子発現が生じる。TetR遺伝子はコドン最適化されうる。なぜなら、これは翻訳効率を改善して、TetO2制御遺伝子発現の、より厳密な制御をもたらすことが判明したからである。
【0359】
TRIP系はWO 2015/092440に記載されており、ベクター製造中に生産細胞におけるNOIの発現を抑制する別の方法を提供する。導入遺伝子を駆動する構成的および/または強力なプロモーター(組織特異的プロモーターを含む)が望ましい場合、特に、生産細胞における導入遺伝子タンパク質の発現がベクター力価の低下をもたらし、および/または導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクター運搬によりインビボで免疫応答を誘導する場合、TRAP結合配列(例えば、TRAP-tbs)相互作用はレトロウイルスベクターの製造のための導入遺伝子タンパク質抑制系の基礎を形成する(Maunderら,Nat Commun.(2017)Mar 27;8)。
【0360】
簡潔に説明すると、TRAP-tbs相互作用は翻訳遮断をもたらして、導入遺伝子タンパク質の翻訳を抑制する(Maunderら,Nat Commun.(2017)Mar 27;8)。翻訳遮断は生産細胞においてのみ有効であり、それ自体は、DNAまたはRNAに基づくベクター系を妨げない。TRiP系は、導入遺伝子タンパク質が構成的および/または強力なプロモーター(単一または多シストロン性mRNAからの組織特異的プロモーターを含む)から発現される場合、翻訳を抑制しうる。導入遺伝子タンパク質の非調節発現はベクター力価を低下させ、ベクター産物の品質に影響を及ぼしうることが実証されている。毒性または分子負荷の問題が細胞ストレスにつながりうる場合、導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクター運搬により導入遺伝子タンパク質がインビボで免疫応答を誘導する場合、遺伝子編集導入遺伝子の使用がオン/オフ・ターゲットの影響をもたらしうる場合、導入遺伝子タンパク質がベクターおよび/またはエンベロープ糖タンパク質除去に影響を及ぼしうる場合、一過性および安定PaCL/PCLベクター製造系の両方における導入遺伝子タンパク質の抑制は、ベクター力価の低下を防ぐために生産細胞にとって有益である。
【0361】
エンベロープおよびシュードタイピング
1つの好ましい態様においては、本明細書に記載されているウイルスベクターはシュードタイピング(偽型化)されている。これに関して、シュードタイピングは1以上の利点をもたらしうる。例えば、HIVに基づくベクターのenv遺伝子産物はこれらのベクターを、CD4と称されるタンパク質を発現する細胞のみに感染することに制限するであろう。しかし、これらのベクター内のenv遺伝子が他のエンベロープウイルスからのenv配列で置換されている場合、それらはより広い感染スペクトルを有しうる(VermaおよびSomia(1997)Nature 389(6648):239-242)。例えば、研究者は、HIVに基づくベクターをVSV由来の糖タンパク質でシュードタイピングしている(VermaおよびSomia(1997)Nature 389(6648):239-242)。
【0362】
もう1つの代替形態においては、Envタンパク質は修飾Envタンパク質、例えば突然変異体または操作されたEnvタンパク質でありうる。修飾は、標的化能を導入するために、または毒性を低減するために、または別の目的のために行われ、または選択されうる(Valsesia-Wittmanら 1996 J Virol 70:2056-64;Nilsonら(1996)Gene Ther 3(4):280-286;およびFieldingら(1998)Blood 91(5):1802-1809およびそれらにおいて引用されている参考文献)。
【0363】
ベクターは、選ばれた任意の分子でシュードタイピングされうる。
【0364】
本明細書中で用いる「env」は、本明細書に記載されている内因性レンチウイルスエンベロープまたは異種エンベロープを意味するものとする。
【0365】
VSV-G
ラブドウイルスである水疱性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、あるエンベロープウイルスおよびウイルスベクタービリオンをシュードタイピングしうることが示されたエンベロープタンパク質である。
【0366】
レトロウイルスエンベロープタンパク質の非存在下、MoMLVに基づくレトロウイルスベクターをそれがシュードタイピングしうることはEmiら((1991)Journal of Virology 65:1202-1207)により最初に示された。WO 1994/294440は、レトロウイルスベクターがVSV-Gで成功裏にシュードタイピング(シュードタイプ化)されうることを教示している。これらのシュードタイプ化VSV-Gベクターは、広範な哺乳類細胞に形質導入するために使用されうる。その後、Abeら(1998)J Virol 72(8)6356-6361は、非感染性レトロウイルス粒子がVSV-Gの付加により感染性にされうることを教示している。
【0367】
Burnsら((1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033-7)はレトロウイルスMLVをVSV-Gで成功裏にシュードタイピングし、これは、天然形態のMLVと比較して変化した宿主域を有するベクターを与えた。VSV-Gシュードタイプ化ベクターは、哺乳類細胞だけでなく、魚類、爬虫類および昆虫に由来する細胞株にも感染することが示されている(Burnsら(1993)前掲)。それらは、種々の細胞株に関して、通常のアンホトロピックエンベロープより効率的であることも示されている(Yeeら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9564-9568,Emiら(1991)Journal of Virology 65:1202-1207)。VSV-Gタンパク質は、あるレトロウイルスをシュードタイピングするために使用されうる。なぜなら、その細胞質尾部はレトロウイルスのコアと相互作用しうるからである。
【0368】
VSV-Gタンパク質のような非レトロウイルスシュードタイピングエンベロープの提供は、感染性の低下を伴うことなくベクター粒子が高い力価まで濃縮されうるという利点をもたらす(Akkinaら(1996)J.Virol.70:2581-5)。レトロウイルスエンベロープタンパク質は超遠心分離中のセン断力に耐えることができないようである。なぜなら、おそらく、それらは、非共有結合により結合した2つのサブユニットからなるからであろう。それらのサブユニット間の相互作用は遠心分離により破壊されうる。一方、VSV糖タンパク質は単一の単位から構成されている。したがって、VSV-Gタンパク質シュードタイピングは、製造プロセス中に、効率的な標的細胞感染/形質導入の両方に、潜在的な利点をもたらしうる。
【0369】
WO 2000/52188は、膜関連ウイルスエンベロープタンパク質として水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV-G)を有する、安定なプロデューサー細胞株からのシュードタイプ化レトロウイルスベクターの作製を記載しており、VSV-Gタンパク質の遺伝子配列を提供している。
【0370】
ロスリバーウイルス
非霊長類レンチウイルスベクター(FIV)をシュードタイピングするために、ロスリバーウイルスエンベロープが使用されており、全身投与後、主に肝臓に形質導入された(Kangら,2002,J.Virol.,76(18):9378-9388)。効率は、VSV-Gシュードタイプ化ベクターで得られたものより20倍大きいと報告された。そして、それは、肝毒性を示唆する肝酵素の血清レベルによる測定でのそれほど大きな細胞毒性を引き起こさなかった。
【0371】
バキュロウイルスGP64
バキュロウイルスGP64タンパク質は、臨床的および商業的用途に必要な高力価ウイルスの大規模製造において使用されるウイルスベクターのためのVSV-Gの代替物となることが示されている(Kumar M,Bradow BP,Zimmerberg J(2003)Hum Gene Ther.14(1):67-77)。VSV-Gシュードタイプ化ベクターと比較して、GP64シュードタイプ化ベクターは、類似した広い指向性および類似した天然力価を有する。GP64の発現は細胞を殺さないため、GP64を構成的に発現するHEK293Tに基づく細胞株が作製されうる。
【0372】
代替的エンベロープ
EIAVをシュードタイピングするために使用された場合に合理的な力価を与える他のエンベロープには、モコラ(Mokola)、狂犬病、エボラおよびLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)が含まれる。4070Aでシュードタイピングされたレンチウイルスの、マウスへの静脈内注入は、肝臓において最大の遺伝子発現をもたらした。
【0373】
パッケージング配列
本発明の文脈において用いる「パッケージングシグナル」なる語は互換的に「パッケージング配列」または「psi」とも称され、ウイルス粒子形成中にレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成に要求される非コード化シス作用性配列に関して用いられる。HIV-1においては、この配列は、主要スプライスドナー部位(SD)の上流から少なくともgag開始コドン(ヌクレオチド688までのgagの5’配列の一部または全部が含まれうる)まで伸長する遺伝子座に位置づけられている。EIAVにおいては、パッケージングシグナルはGagの5’コード領域内へのR領域を含む。
【0374】
本明細書中で用いる「拡張パッケージングシグナル」または「拡張パッケージング配列」なる語は、gag遺伝子内へと更に拡張された、psi配列の周囲の配列の使用に関するものである。これらの追加的パッケージング配列の含有はウイルス粒子内へのベクターRNAの挿入の効率を増加させうる。
【0375】
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)RNAカプシド形成決定因子は離散的および不連続的であり、ゲノムmRNAの5’末端の1つの領域(R-U5)、およびgagの近位311nt内に位置づけられるもう1つの領域を含むことが示されている(Kayeら,J Virol.Oct;69(10):6588-92(1995))。
【0376】
配列内リボソーム進入部位(IRES)
IRESエレメントの挿入は単一プロモーターからの複数のコード領域の発現を可能にする(Adamら(前記);Kooら(1992)Virology 186:669-675;Chenら 1993 J.Virol 67:2142-2148)。IRESエレメントは、それがウイルスタンパク質のキャップ(cap)非依存的翻訳を促進する、ピコルナウイルスの非翻訳5’末端において、最初に見出された(Jangら(1990)Enzyme 44:292-309)。IRESエレメントは、RNAにおけるオープンリーディングフレーム間に位置する場合、IRESエレメントにおけるリボソームの進入およびそれに続く下流の翻訳開始を促進することにより、下流オープンリーディングフレームの効率的翻訳を可能にする。
【0377】
IRESの概説はMountfordおよびSmith(TIG May 1995 vol 11,No 5:179-184)に示されている。多数の異なるIRES配列が公知であり、脳心筋炎ウイルス(EMCV)(Ghattas,I.R.ら,Mol.Cell.Biol.,11:5848-5859(1991));BiPタンパク質[MacejakおよびSarnow,Nature 353:91(1991)];ショウジョウバエ(Drosophila)のアンテナペディア遺伝子(エキソンdおよびe)[Ohら,Genes & Development,6:1643-1653(1992)]からのもの、ならびにポリオウイルス(PV)におけるもの[PelletierおよびSonenberg,Nature 334:320-325(1988);また、MountfordおよびSmith,TIG 11,179-184(1985)も参照されたい]を包含する。
【0378】
PV、EMCVおよびブタ水疱病ウイルス由来のIRESエレメントはレトロウイルスベクターにおいて既に使用されている(Coffinら,前記)。
【0379】
「IRES」なる語は、IRESとして働く又はIRESの機能を改善する任意の配列または配列の組合せを含む。IRESはウイルス由来(例えば、EMCV IRES、PV IRESまたはFMDV 2A様配列)または細胞由来(例えば、FGF2 IRES、NRF IRES、Notch 2 IRESまたはEIF4 IRES)でありうる。
【0380】
IRESが各ポリヌクレオチドの翻訳を開始しうるためには、それはモジュラー構築物における該ポリヌクレオチドの間または前に位置するべきである。
【0381】
安定な細胞株の開発に利用されるヌクレオチド配列は、安定な組込みが生じた細胞の選択のための選択可能なマーカーの付加を要する。これらの選択可能なマーカーはヌクレオチド配列内の単一転写単位として発現可能であり、あるいは、ポリシストロン性メッセージにおける選択可能なマーカーの翻訳を開始させるためにIRESエレメントを使用することが好ましいかもしれない(Adamら 1991 J.Virol.65,4985)。
【0382】
遺伝的配向およびインスレーター
核酸は方向性(配向性)を有し、これは細胞内の転写および複製のようなメカニズムに究極的な影響を及ぼすことが周知である。したがって、遺伝子は、同じ核酸構築物の一部である場合、互いに対する相対的配向を有しうる。
【0383】
本発明の特定の実施形態においては、細胞または構築物中の同じ遺伝子座に存在する少なくとも2つの核酸配列は逆配向および/または交互配向で存在しうる。換言すれば、この特定の遺伝子座における本発明の特定の実施形態においては、連続する遺伝子のペアは同一配向を有さない。これは、該領域が宿主細胞の同じ物理的位置において発現される場合、転写および翻訳の両方のリードスルーを防ぐのに役立ちうる。
【0384】
ベクター製造に必要な核酸が細胞内の同じ遺伝子座を拠点としている場合、交互配向を有することはレトロウイルスベクター製造に利益をもたらす。また、これが今度は、複製可能レトロウイルスベクターの生成の予防において、生じる構築物の安全性を改善しうる。
【0385】
核酸配列が逆配向および/または交互配向で存在する場合、インスレーターの使用は、NOIのその遺伝的環境からの不適切な発現またはサイレンシングを予防しうる。
【0386】
「インスレーター」なる語は、インスレーター結合タンパク質に結合した際に周囲の調節因子シグナルから遺伝子を保護する能力を有するDNA配列エレメントのクラスを意味する。エンハンサー遮断機能およびクロマチンバリア機能の2つのタイプのインスレーターが存在する。インスレーターがプロモーターとエンハンサーとの間に位置する場合、インスレーターのエンハンサー遮断機能はエンハンサーの転写増強の影響からプロモーターを保護する(GeyerおよびCorces 1992;KellumおよびSchedl 1992)。クロマチンバリアインスレーターは、近傍の凝縮クロマチンの進行を防ぐことにより機能し、そのような進行は、転写的に活性なクロマチン領域を転写的に不活性なクロマチン領域へと変換して遺伝子発現のサイレンシングをもたらすものである。ヘテロクロマチンの拡散を抑制して遺伝子サイレンシングを抑制するインスレーターは、ヒストン修飾に関与する酵素をリクルートして、このプロセスを妨げる(Yang J,Corces VG.2011;110:43-76;Huang,Liら 2007;Dhillon,Raabら 2009)。インスレーターはこれらの機能の一方または両方を有しうる。ニワトリβ-グロビンインスレーター(cHS4)はそのような一例である。このインスレーターは、最も広く研究されている脊椎動物インスレーターであり、G+Cに非常に富み、エンハンサー遮断機能とヘテロクロマチンバリア機能との両方を有する(Chung J H,Whitely M,Felsenfeld G.Cell.1993;74:505-514)。エンハンサー遮断機能を有する他のそのようなインスレーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ヒトβ-グロビンインスレーター5(HS5)、ヒトβ-グロビンインスレーター1(HS1)およびニワトリβ-グロビンインスレーター(cHS3)(Farrell CM1,West AG,Felsenfeld G.,Mol Cell Biol.2002 Jun;22(11):3820-31;J Ellisら EMBO J.1996 Feb 1;15(3):562-568)。望ましくない遠位相互作用を低減することに加えて、インスレーターは、隣接レトロウイルス核酸配列間のプロモーター干渉(すなわち、この場合、1つの転写単位からのプロモーターが隣接転写単位の発現を損なう)を防ぐのにも役立ちうる。レトロウイルスベクター核酸配列のそれぞれの間でインスレーターが使用される場合、直接的なリードスルーの低減は、複製可能レトロウイルスベクター粒子の形成を防ぐのに役立つであろう。
【0387】
インスレーターはレトロウイルス核酸配列のそれぞれの間に存在しうる。1つの実施形態においては、インスレーターの使用はプロモーター-エンハンサー相互作用を妨げて、ベクター成分をコードするヌクレオチド配列において、あるNOI発現カセットが別のNOI発現カセットと相互作用することを妨げる。
【0388】
ベクターゲノム配列とgag-pol配列との間にインスレーターが存在することが可能である。したがって、これは、複製可能レトロウイルスベクターおよびRNA転写産物のような「野生型」の産生の可能性を制限して、構築物の安全性プロファイルを改善する。安定に組込まれた多重遺伝子ベクターの発現を改善するためのインスレーターエレメントの使用はMoriarityら,Nucleic Acids Res.2013 Apr;41(8):e92において引用されている。
【0389】
ベクター力価
レンチウイルスベクターの力価を決定する多数の異なる方法が存在する、と当業者は理解するであろう。力価は、しばしば、形質導入単位/mL(TU/mL)として示される。力価は、ベクター粒子の数を増加させることにより、およびベクター調製物の特異的活性を増加させることにより増加されうる。
【0390】
治療用途
本明細書に記載されているレンチウイルスベクターまたは本明細書に記載されているレンチウイルスベクターで形質導入された細胞もしくは組織は医療において使用されうる。
【0391】
また、本明細書に記載されているレンチウイルスベクター、本発明の生産細胞または本明細書に記載されているレンチウイルスベクターで形質導入された細胞もしくは組織は、関心のあるヌクレオチドをそれを要する標的部位に送達するために、医薬の製造に使用されうる。本発明のレンチウイルスベクターまたは形質導入細胞のそのような使用は、既に記載されているとおり、治療または診断の目的のためのものでありうる。
【0392】
したがって、本明細書に記載されているレンチウイルスベクターにより形質導入された細胞を提供する。
【0393】
「ウイルスベクター粒子により形質導入された細胞」は、ウイルスベクター粒子により運搬される核酸が導入された細胞、特に標的細胞として理解されるべきである。
【0394】
好ましい実施形態においては、関心のあるヌクレオチドは治療効果をもたらす。
【0395】
「標的細胞」は、NOIを発現させることが望ましい細胞として理解されるべきである。NOIは、本発明のウイルスベクターを使用して標的細胞内に導入されうる。標的細胞への送達(運搬)はインビボ、エクスビボまたはインビトロで行われうる。
【0396】
NOIは治療または診断用途を有しうる。適切なNOIには、酵素、補因子、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、キメラ抗原受容体、標的タンパク質のトランスドメイン陰性突然変異体、毒素、条件的毒素、抗原、転写因子、構造タンパク質、レポータータンパク質、細胞内局在化シグナル、腫瘍抑制タンパク質、増殖因子、膜タンパク質、受容体、血管作用性タンパク質およびペプチド、抗ウイルスタンパク質およびリボザイム、ならびにそれらの誘導体(例えば、関連レポーター基を有する誘導体)をコードする配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。NOIはマイクロRNAをもコードしうる。理論により束縛されることを望むものではないが、マイクロRNAのプロセシングはTRAPにより抑制されると考えられている。
【0397】
1つの実施形態においては、NOIは神経変性障害の治療において有用でありうる。
【0398】
もう1つの実施形態においては、NOIはパーキンソン病の治療において有用でありうる。
【0399】
もう1つの実施形態においては、NOIは、ドーパミン合成に関与する1以上の酵素をコードしうる。例えば、該酵素は以下のものの1以上でありうる:チロシンヒドロキシラーゼ、GTP-シクロヒドロラーゼIおよび/または芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ。3つ全ての遺伝子の配列が入手可能である(それぞれ、GenBank(登録商標)アクセッション番号X05290、U19523およびM76180)。
【0400】
もう1つの実施形態においては、NOIは小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)をコードしうる。もう1つの実施形態においては、ウイルスゲノムは、芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードするNOIおよびVMAT2をコードするNOIを含みうる。そのようなゲノムはパーキンソン病の治療において、特にL-DOPAの末梢投与と共に使用されうる。
【0401】
もう1つの実施形態においては、NOIは治療用タンパク質または治療用タンパク質の組合せをコードしうる。
【0402】
もう1つの実施形態においては、NOIは、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インスリン増殖因子-2、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C/VEGF-2、VEGF-D、VEGF-E、PDGF-A、PDGF-B、PDFG-AおよびPDFG-Bのヘテロ二量体およびホモ二量体からなる群から選択される1以上のタンパク質をコードしうる。
【0403】
もう1つの実施形態においては、NOIは、アンジオスタチン、エンドスタチン、血小板因子4、色素上皮由来因子(PEDF)、胎盤増殖因子、レスチン(restin)、インターフェロン-α、インターフェロン誘導性タンパク質、gro-ベータおよびチューブダウン(tubedown)-1、インターロイキン(IL)-1、IL-12、レチノイン酸、抗VEGF抗体またはそれらのフラグメント(断片)/変異体、例えばアフリベルセプト、トロンボスポンジン、VEGF受容体タンパク質、例えばUS 5,952,199およびUS 6,100,071に記載されているもの、ならびに抗VEGF受容体抗体からなる群から選択される1以上の抗血管新生タンパク質をコードしうる。
【0404】
もう1つの実施形態においては、NOIは、NF-kBインヒビター、IL1ベータインヒビター、TGFベータインヒビター、IL-6インヒビター、IL-23インヒビター、IL-18インヒビター、腫瘍壊死因子アルファおよび腫瘍壊死因子ベータ、リンホトキシンアルファおよびリンホトキシンベータ、LIGHTインヒビター、アルファシヌクレインインヒビター、タウインヒビター、ベータアミロイドインヒビター、IL-17インヒビターからなる群から選択される抗炎症タンパク質、抗体、またはタンパク質もしくは抗体のフラグメント/変異体をコードしうる。
【0405】
もう1つの実施形態においては、NOIは嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)をコードしうる。
【0406】
もう1つの実施形態においては、NOIは、通常は眼細胞において発現されるタンパク質をコードしうる。
【0407】
もう1つの実施形態においては、NOIは、通常は光受容細胞および/または網膜色素上皮細胞において発現されるタンパク質をコードしうる。
【0408】
もう1つの実施形態においては、NOIは、RPE65、アリール炭化水素相互作用性受容体タンパク質様1(AIPL1)、CRB1、レシチンレチナールアセチルトランスフェラーゼ(LRAT)、光受容体特異的ホメオボックス(CRX)、レチナールグアニル酸シクラーゼ(GUCY2D)、RPGR相互作用タンパク質1(RPGRIP1)、LCA2、LCA3、LCA5、ジストロフィン、PRPH2、CNTF、ABCR/ABCA4、EMP1、TIMP3、MERTK、ELOVL4、MYO7A、USH2A、VMD2、RLBP1、COX-2、FPR、ハルモニン(harmonin)、Rabエスコート(escort)タンパク質1、CNGB2、CNGA3、CEP 290、RPGR、RS1、RP1、PRELP、グルタチオン経路酵素およびオプチシン(opticin)を含む群から選択されるタンパク質をコードしうる。
【0409】
他の実施形態においては、NOIはヒト凝固因子VIIIまたはIXをコードしうる。
【0410】
他の実施形態においては、NOIは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)、メチルマロニルCoAムターゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、イソバレリルCoAデヒドロゲナーゼ、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、3メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、カルバモイル-リン酸シンターゼアンモニア、オルニチントランスカルバミラーゼ、グルコシルセラミダーゼベータ、アルファガラクトシダーゼA、グルコシルセラミダーゼベータ、シスチノシン、グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、N-アセチル-アルファ-グルコサミニダーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、アリールスルファターゼA、チトクロームB-245ベータ、ABCD1、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リサーゼ、アルギナーゼ1、アラニングリコキシラートアミノトランスフェラーゼ、ATP結合性カセット、サブファミリーBメンバーを含む群から選択される、代謝に関与する1以上のタンパク質をコードしうる。
【0411】
他の実施形態においては、NOIはキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)をコードしうる。1つの実施形態においては、CARは抗5T4 CARである。他の実施形態においては、NOIはB細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD22、CD20、CD47、CD138、CD30、CD33、CD123、CD70、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ルイスY抗原(LeY)、チロシンタンパク質キナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、ムチン1,細胞表面結合(Muc1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、内皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン、タンパク質チロシンホスファターゼ、非受容体タイプ(non-receptor type)22、インターロイキン2受容体アルファ、ヘリカーゼCドメイン1で誘導されるインターフェロン、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)、グリピカン3(GPC3)、ジシアロガングリオシド(GD2)、メシオテリン、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)をコードしうる。
【0412】
1つの実施形態においては、NOIはBCMAをコードする。
【0413】
1つの実施形態においては、NOIはCD19をコードする。
【0414】
1つの実施形態においては、NOIはCD22をコードする。
【0415】
1つの実施形態においては、NOIはCD20をコード化する。
【0416】
1つの実施形態においては、NOIはCD47をコードする。
【0417】
1つの実施形態においては、NOIはCD138をコード化する。
【0418】
1つの実施形態においては、NOIはCD30をコードする。
【0419】
1つの実施形態においては、NOIはCD33をコード化する。
【0420】
1つの実施形態においては、NOIはCD123をコードする。
【0421】
1つの実施形態においては、NOIはCD70をコード化する。
【0422】
1つの実施形態においては、NOIはPSMAをコード化する。
【0423】
1つの実施形態においては、NOIはLeYをコードする。
【0424】
1つの実施形態においては、NOIはROR1をコード化する。
【0425】
1つの実施形態においては、NOIはムチン1をコードする。
【0426】
1つの実施形態においては、NOIはMuc1をコードする。
【0427】
1つの実施形態においては、NOIはEpCAMをコードする。
【0428】
1つの実施形態においては、NOIはEGFRをコードする。
【0429】
1つの実施形態においては、NOIはインスリンをコードする。
【0430】
1つの実施形態においては、NOIはタンパク質チロシンホスファターゼをコードする。
【0431】
1つの実施形態においては、NOIは非受容体タイプ(non-receptor type)22をコードする。
【0432】
1つの実施形態においては、NOIはインターロイキン2受容体アルファをコードする。
【0433】
1つの実施形態においては、NOIは、ヘリカーゼCドメイン1で誘導されるインターフェロンをコードする。
【0434】
1つの実施形態においては、NOIはHER2をコードする。
【0435】
1つの実施形態においては、NOIはGPC3をコード化する。
【0436】
1つの実施形態においては、NOIはGD2をコードする。
【0437】
1つの実施形態においては、NOIはメシオテリンをコードする。
【0438】
1つの実施形態においては、NOIはVEGFR2をコードする。
【0439】
他の実施形態においては、NOIは、ULBP1、2および3、H60、Rae-1a、b、g、d、MICA、MICBを含む群から選択されるNKG2Dリガンドに対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードしうる。
【0440】
更なる実施形態においては、NOIは、SGSH、SUMF1、GAA、コモンガンマ鎖(CD132)、アデノシンデアミナーゼ、WASタンパク質、グロビン、アルファガラクトシダーゼA、δ-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、δ-アミノレブリン酸デヒドラターゼ(ALAD)、ヒドロキシメチルビラン(HMB)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)デカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(COPRO)オキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PROTO)オキシダーゼ、フェロケラターゼ、α-L-イデュロニダーゼ、イドロナートスルファターゼ、ヘパランスルファミダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、ヘパラン-α-グルコサミニド、N-アセチルトランスフェラーゼ、3 N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ、ガラクトース-6-スルファートスルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼおよびヒアルロニダーゼをコードしうる。
【0441】
NOIに加えて、該ベクターはまた、siRNA、shRNAまたは調節shRNAを含む又はコードしうる(Dickinsら(2005)Nature Genetics 37:1289-1295,Silvaら(2005)Nature Genetics 37:1281-1288)。
【0442】
適応症
本発明の、レトロウイルスおよびAAVベクターを含むベクターは、WO 1998/05635、WO 1998/07859、WO 1998/09985に挙げられている障害の治療において有用な1以上のNOIを運搬するために使用されうる。関心のあるヌクレオチドはDNAまたはRNAでありうる。そのような疾患の例を以下に記載する。
【0443】
以下のものに応答する障害:サイトカインおよび細胞増殖/分化活性;免疫抑制物質または免疫刺激物質の活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスの感染を含む免疫不全の治療、リンパ球増殖の調節、癌および多数の自己免疫疾患の治療、ならびに移植片拒絶の予防または腫瘍免疫の誘導のためのもの);造血の調節(例えば、骨髄またはリンパ系疾患の治療);骨、軟骨、腱、靭帯および神経組織の成長の促進(例えば、創傷治癒、火傷、潰瘍および歯周病および神経変性の治療のためのもの);卵胞刺激ホルモンの阻害または活性化(繁殖性の調節);走化性/ケモキネシス活性(例えば、損傷または感染部位に特定の細胞型を動員するためのもの);止血および血栓溶解活性(例えば、血友病および脳卒中の治療のためのもの);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショックまたはクローン病の治療のためのもの);マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、したがって、抗炎症活性;抗免疫活性(すなわち、炎症に関連しない応答を含む、細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害効果);マクロファージおよびT細胞が細胞外マトリックス成分およびフィブロネクチンに接着する能力の阻害、ならびにT細胞におけるアップレギュレーションされたfas受容体発現。
【0444】
悪性障害、例えば、癌、白血病、良性および悪性腫瘍の増殖、浸潤および拡大、血管新生、転移、腹水および悪性胸水貯留。
【0445】
自己免疫疾患、例えば、関節炎、例えば関節リウマチ、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病および他の疾患。
【0446】
血管疾患、例えば、動脈硬化、アテローム性動脈硬化性心疾患、再灌流障害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心血管作用、末梢血管疾患、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症、脳卒中、脳虚血、虚血性心疾患または他の疾患。
【0447】
消化管の疾患、例えば、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病および他の疾患。
【0448】
肝疾患、例えば、肝線維症、肝硬変。
【0449】
遺伝性代謝障害、例えば、フェニルケトン尿症PKU、ウィルソン病、有機酸血症、尿素回路障害、胆汁うっ滞および他の疾患。
【0450】
腎臓および泌尿器疾患、例えば、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の疾患。
【0451】
耳、鼻および咽喉の障害、例えば、耳炎または他の耳鼻咽喉科疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患。
【0452】
歯科および口腔障害、例えば、歯周病、歯周炎、歯肉炎または他の歯科/口腔疾患。
【0453】
精巣疾患、例えば、精巣炎または精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷または他の精巣疾患。
【0454】
婦人科疾患、例えば、胎盤機能不全、胎盤不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症および他の婦人科疾患。
【0455】
眼科的障害、例えば、レーバー先天性黒内障(LCA)、例えばLCA10、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、緑内障、例えば開放角緑内障および若年性先天性緑内障、眼内炎症、例えば網膜炎または嚢胞性黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、色素性網膜炎、黄斑変性、例えば加齢性黄斑変性(AMD)および若年性黄斑変性、例えばベスト病、ベスト卵黄様黄斑変性、シュタルガルト病、アッシャー症候群、ドイン蜂巣状網膜ジストロフィー、ソルビー黄斑ジストロフィー、若年性網膜分離症、錐体桿体ジストロフィー、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、アディ症候群、小口病、変性眼底疾患、眼外傷、感染により引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過剰瘢痕、例えば緑内障濾過手術後のもの、眼インプラントに対する反応、角膜移植移植片拒絶、および他の眼科疾患、例えば糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、RLBP1関連網膜ジストロフィー、脈絡膜欠如および色覚異常。
【0456】
神経障害および神経変性障害、例えば、パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症および/または副作用、エイズ関連認知症症候群、HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病および他の変性疾患、CNSの病態または障害、脳卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ファブリー病、ゴーチャー病、シスチン症、ポンペ病、異染性白質ジストロフィー、ウィスコット-アルドリッチ症候群、副腎白質ジストロフィー、ベータサラセミア、鎌状赤血球症、ギランバレー症候群、シデナム舞踏病、重力筋無力症、偽性脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNSの感染症、筋萎縮および筋ジストロフィー、中枢神経系および末梢神経系の疾患、病態または障害、運動ニューロン疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、脊髄および剥離損傷。
【0457】
他の疾患および病態、例えば嚢胞性線維症、ムコ多糖症、例えばサンフィリポ症候群A、サンフィリポ症候群B、サンフィリポ症候群C、サンフィリポ症候群D、ハンター症候群、ハーラー-シャイエ症候群、モルキオ症候群、ADA-SCID、X連鎖SCID、X連鎖慢性肉芽腫性疾患、ポルフィリン症、血友病A、血友病B、外傷後炎症、出血、凝固および急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、敗血症性ショック、感染症、糖尿病、手術の合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、遺伝子治療の合併症および副作用、例えばウイルス性担体の感染またはエイズによるもの、天然または人工の細胞、組織および器官、例えば角膜、骨髄、臓器、レンズ、ペースメーカー、天然または人工皮膚組織の移植の場合の移植片拒絶の予防および/または治療のための体液性および/または細胞性免疫応答を抑制または阻害するためのもの。
【0458】
siRNA、マイクロRNAおよびshRNA
特定の他の実施形態においては、NOIはマイクロRNAを含む。マイクロRNAは生物において天然で産生される小さなRNAの非常に大きな群であり、それらの少なくとも一部は標的遺伝子の発現を調節する。マイクロRNAファミリーの当初のメンバーはlet-7およびlin-4である。let-7遺伝子は、蠕虫の発生中に内因性タンパク質コード化遺伝子の発現を調節する小さな高度に保存されたRNA種をコードしている。該活性RNA種は最初は約70ntの前駆体として転写され、これは約21ntの成熟形態へと転写後プロセシングされる。let-7およびlin-4は共にヘアピンRNA前駆体として転写され、これらはダイサー酵素によりそれらの成熟形態へとプロセシングされる。
【0459】
該ベクターは、NOIに加えて、siRNA、shRNAまたは調節shRNAを含み又はコードしうる(Dickinsら(2005)Nature Genetics 37:1289-1295,Silvaら(2005)Nature Genetics 37:1281-1288)。
【0460】
二本鎖RNA(dsRNA)により引き起こされる転写後遺伝子スプライシング(PTGS)は、外来遺伝子の発現を制御するための保存された細胞防御メカニズムである。ウイルスまたはトランスポゾンのようなエレメントのランダムな組込みは、相同一本鎖mRNAまたはウイルスゲノムRNAの配列特異的分解を活性化するdsRNAの発現を引き起こすと考えられている。該サイレンシング作用はRNA干渉(RNAi)として公知である(Ralphら(2005)Nature Medicine 11:429-433)。RNAiのメカニズムは約21~25ヌクレオチド(nt)のRNAの二本鎖への長いdsRNAのプロセシングを含む。これらの産物は、mRNA分解の配列特異的メディエーターである低分子干渉またはサイレンシングRNA(siRNA)と称される。分化哺乳類細胞においては、30bpを超えるdsRNAはインターフェロン応答を活性化して、タンパク質合成の阻止および非特異的mRNA分解を招くことが判明している(Starkら,Annu Rev Biochem 67:227-64(1998))。しかし、この応答は、21ntのsiRNA二本鎖を使用することにより迂回可能であり(Elbashirら,EMBO J.Dec 3;20(23):6877-88(2001),Hutvagnerら,Science.Aug 3,293(5531):834-8.Eupub Jul 12(2001))、これは、培養哺乳類細胞内で遺伝子機能が分析されることを可能にする。
【0461】
医薬組成物
本開示は、本明細書に記載されているレンチウイルスベクターを、または本明細書に記載されているウイルスベクターで形質導入された細胞もしくは組織を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と共に含む医薬組成物を提供する。
【0462】
本開示は、遺伝子治療により個体を治療するための医薬組成物を提供し、ここで、該組成物はレンチウイルスベクターの治療的有効量を含む。該医薬組成物はヒトまたは動物における使用のためのものでありうる。
【0463】
該組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバント(補助剤)を含みうる。医薬担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な医薬慣例に基づいて行われうる。該医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤を、あるいはそれらに加えて、任意の適切な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤、および標的部位内へのベクターの進入を補助または増進しうる他の担体物質(例えば、リピッド(脂質)デリバリーシステム)を含みうる。
【0464】
適切な場合には、該組成物は以下のいずれかの1以上により投与されうる:吸入;坐剤またはペッサリーの形態;ローション剤、溶液(水剤)、クリーム剤、軟膏剤または散布剤の形態で局所的に;皮膚パッチの使用により;賦形剤、例えばデンプンまたはラクトースを含有する錠剤の形態で、あるいは単独での又は賦形剤と混合されたカプセル剤または胚珠状物(ovule)において、あるいは香味または着色剤を含有するエリキシル剤、溶液(水剤)または懸濁剤の形態で経口的に。あるいは、それらは、非経口的に、例えば海綿体内、静脈内、筋肉内、頭蓋内、眼内、腹腔内または皮下に注射されうる。非経口投与の場合、該組成物は、他の物質、例えば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩または単糖類を含有しうる無菌水溶液の形態で最良に使用されうる。頬側または舌下投与の場合には、該組成物は、通常の方法で製剤化されうる錠剤またはトローチ剤(ロゼンジ)の形態で投与されうる。
【0465】
本明細書に記載されているレンチウイルスベクターは、エクスビボで、標的細胞または標的組織に形質導入した後、該標的細胞または組織を、それを要する患者に導入するためにも使用されうる。そのような細胞の一例は自己T細胞でありうる。そのような組織の一例はドナー角膜でありうる。
【0466】
変異体、誘導体、類似体、ホモログおよび断片
本明細書に記載されている特定のタンパク質およびヌクレオチドに加えて、本発明はそれらの変異体、誘導体、類似体、ホモログおよび断片の使用をも含む。
【0467】
本発明の場合には、いずれかの与えられた配列の変異体は、問題のポリペプチドまたはポリヌクレオチドがその内因性機能の少なくとも1つを保有するように残基(アミノ酸残基も核酸残基も含む)の特定の配列が修飾されている配列である。変異体配列は、天然に存在するタンパク質に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、修飾、置換および/または変異により得られうる。
【0468】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書中で用いる「誘導体」なる語は、配列からの又は配列に対する、1つ(以上)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、修飾、置き換え、欠失および/または付加を含む。ただし、生じるタンパク質またはポリペプチドはその内因性機能の少なくとも1つを保有する必要がある。
【0469】
ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して本明細書に記載されている「類似体」なる語は、任意の模倣体、すなわち、それが模倣しているポリペプチドまたはポリヌクレオチドの内因性機能の少なくとも1つを有する化合物を含む。
【0470】
典型的には、アミノ酸置換は、例えば、1、2または3個から10または20個までの置換として行われうる。ただし、修飾された配列は、要求される活性または能力を保有する必要がある。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含みうる。
【0471】
本発明において使用されるタンパク質は、サイレントな変化をもたらし機能的に同等なタンパク質を与える、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換をも有しうる。内因性機能が保有される限り、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいて、意図的なアミノ酸置換が行われうる。例えば、負荷電アミノ酸はアスパラギン酸およびグルタミン酸を含み、正荷電アミノ酸はリジンおよびアルギニンを含み、類似した親水性値を有する無荷電極性頭部基を有するアミノ酸はアスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニンおよびチロシンを含む。
【0472】
保存的置換が、例えば以下の表に従い行われうる。第2列における同じ分類におけるアミノ酸、および好ましくは、第3列における同じ行におけるアミノ酸が互いに置換されうる。
【表1】
【0473】
「ホモログ」なる語は、野生型アミノ酸配列および野生型ヌクレオチド配列に対して或る相同性(ホモロジー)を有する実体を意味する。「相同性」なる語は「同一性」と同等でありうる。
【0474】
この文脈においては、相同配列は、対象配列に対して少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一でありうる、好ましくは少なくとも95%または97%または99%同一でありうるアミノ酸配列を含むとみなされる。典型的には、ホモログは対象アミノ酸配列と同じ活性部位などを含む。相同性は類似性(すなわち、類似した化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)に関しても考慮されうるが、本発明の文脈においては、配列同一性に関して相同性を表すことが好ましい。
【0475】
この文脈においては、相同配列は、対象配列に対して少なくとも50%、55%、65%、75%、85%または90%同一でありうる、好ましくは少なくとも95%または97%、98%または99%同一でありうるヌクレオチド配列を含むとみなされる。相同性は類似性に関しても考慮されうるが、本発明の文脈においては、配列同一性に関して相同性を表すことが好ましい。
【0476】
相同性比較は、目により、またはより通常には、容易に利用可能な配列比較プログラムの補助により行われうる。これらの商業的に入手可能なコンピュータプログラムは2以上の配列の間の相同性または同一性の割合(%)を計算しうる。
【0477】
相同性の割合(%)は連続的アミノ酸にわたって計算されうる。すなわち、一方の配列を他方の配列とアライメント(整列)し、一方の配列における各アミノ酸を他方の配列における対応アミノ酸と、同時に1残基ごとに、直接的に比較する。これは「非ギャップ化(ungapped)」アライメントと称される。典型的には、そのような非ギャップ化アライメントは比較的短い残基数のみにわたって行われる。
【0478】
これは非常に簡便で一貫した方法であるが、それは例えば以下のような場合を考慮していない。すなわち、ヌクレオチド配列において1つの挿入または欠失が存在する場合、それが存在しなければ同一ペアである配列において、該挿入または欠失は、後続コドンの、アライメントからの脱落を引き起こして、グローバルアライメントが行われた場合に相同性(%)における大きな減少を潜在的に引き起こしうる。したがって、ほとんどの配列比較法は、全体的な相同性スコアを過度に不利にすることなく、考えられうる挿入および欠失を考慮した最適アライメントを与えるように設計される。これは、局所的相同性(ローカルホモロジー)を最大にすることを試みるために配列アライメント内に「ギャップ」を挿入することにより達成される。
【0479】
しかし、より複雑なこれらの方法は、アライメントにおいて生じる各ギャップに「ギャップ・ペナルティ」を割り当てるものであり、この場合、同一アミノ酸の数が同じとなる場合、可能な限り少ないギャップを有する配列アライメント(これは、それらの2つの比較配列間の、より高い関連性を反映する)が、多数のギャップを有するものより高いスコアを得る。「アフィン・ギャップ・コスト(affine gap cost)」は典型的に用いられ、これは、ギャップの存在に関しては比較的高いコストを課し、ギャップにおける各後続残基に関しては、より小さいペナルティを課すものである。これは、最もよく用いられるギャップ・スコア化(スコアリング)系である。高いギャップ・ペナルティは、もちろん、より少数のギャップを有する最適化アライメントを与えるであろう。ほとんどのアライメントプログラムは、ギャップペナルティが改変されることを可能にする。しかし、そのようなソフトウェアを配列比較に使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に関するデフォルト・ギャップ・ペナルティはギャップに関しては-12であり、各伸長に関しては-4である。
【0480】
したがって、最大相同性(%)の計算は、まず、ギャップ・ペナルティを考慮した最適アライメントの生成を要する。そのようなアライメントを行うための適切なコンピュータプログラムとしては、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12:387)が挙げられる。配列比較を行いうる他のソフトウェアの例には、BLASTパッケージ(Ausubelら(1999) 前掲-Ch.18を参照されたい)、FASTA(Atschulら(1990)J.Mol.Biol.403-410)およびGENEWORKS比較ツールスイートが含まれるが、これらに限定されるものではない。BLASTおよびFASTAは共に、オフラインおよびオンライン検索のために利用可能である(Ausubelら(1999)前掲,p.7-58~7-60を参照されたい)。しかし、幾つかのアプリケーションに関しては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST 2 Sequencesと称されるもう1つのツールも、タンパク質およびヌクレオチド配列の比較のために利用可能である(FEMS Microbiol Lett(1999)174(2):247-50;FEMS Microbiol Lett(1999)177(1):187-8を参照されたい)。
【0481】
最終的な相同性(%)は同一性に関して測定されうるが、アライメントプロセス自体は、典型的には、オール・オア・ナッシング(全か無か)のペア比較に基づくものではない。実際には、化学的類似性または進化距離に基づいて各ペアワイズ比較にスコアを割り当てるスケール化(scaled)類似性スコアマトリックスが一般に使用される。一般に使用されるそのようなマトリックス(行列)の一例は、BLASTプログラムスイートのデフォルトマトリックスであるBLOSUM62マトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、公的デフォルト値またはカスタム記号比較表(提供されている場合)を使用する(更なる詳細は使用マニュアルを参照されたい)。幾つかのアプリケーションに関しては、GCGパッケージには公的デフォルト値を、あるいは他のソフトウェアの場合にはデフォルトマトリックス、例えばBLOSUM62を使用することが好ましい。
【0482】
ソフトウェアが最適アライメントを一旦生成したら、相同性(%)、好ましくは配列同一性(%)を計算することが可能である。ソフトウェアは、通常、配列比較の一部としてこれを行い、数的結果を与える。
【0483】
「断片」も変異体であり、この語は、典型的には、機能的に又は例えばアッセイにおいて関心が持たれるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの、選択された領域を意味する。したがって、「断片」は、完全長ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸または核酸配列を意味する。
【0484】
そのような変異体は、標準的な組換えDNA技術、例えば部位特異的突然変異誘発を用いて製造されうる。挿入を行いたい場合には、挿入部位の両側の天然に存在する配列に対応する5’および3’隣接領域と共に該挿入をコードする合成DNAが作製されうる。該隣接領域は、天然に存在する配列内の部位に対応する簡便な制限部位を含有し、その結果、該配列は適切な酵素で切断され、該合成DNAは該切断物内に連結されうる。ついで該DNAは本発明に従い発現されてコード化タンパク質を与える。これらの方法は、DNA配列の操作のための当技術分野で公知の多数の標準的な技術の単なる例示に過ぎず、他の公知技術も使用されうる。
【0485】
本発明の細胞および/またはモジュラー構築物における使用に適した調節タンパク質の、全ての変異体、断片またはホモログは、NOIの翻訳がウイルスベクター生産細胞において抑制または予防されるように、NOIのコグネイト結合部位に結合する能力を保有する。
【0486】
結合部位の、全ての変異体断片またはホモログは、NOIの翻訳がウイルスベクター生産細胞において抑制または予防されるように、コグネイトRNA結合タンパク質に結合する能力を保有する。
【0487】
コドン最適化
本発明において使用されるポリヌクレオチド(NOIおよび/またはベクター製造系の成分を含む)はコドン最適化されうる。コドン最適化はWO 1999/41397およびWO 2001/79518に既に記載されている。個々のコドンの、細胞の使用頻度は、細胞によって異なる。このコドン偏向は細胞型における個々のtRNAの相対存在量における偏向に対応する。配列内のコドンを、対応tRNAの相対存在量に合致するようにそれが調整されるように変化させることにより、発現を増強することが可能である。同様に、対応tRNAが個々の細胞型において稀有であることが知られているコドンを意図的に選択することにより発現を低減することが可能である。このように、更なる翻訳制御度が利用可能である。
【0488】
レトロウイルスを含む多数のウイルスは多数の稀有コドンを利用しており、一般的に利用される哺乳類コドンに一致するようにこれらを変化させることにより、関心のある遺伝子、例えばNOIまたはパッケージング成分の、哺乳類生産細胞内の発現の増強が達成されうる。コドン使用頻度表は哺乳類細胞および種々の他の生物に関して当技術分野で公知である。
【0489】
ウイルスベクター成分のコドン最適化は多数の他の利点を有する。それらの配列の改変により、プロデューサー細胞/パッケージング細胞におけるウイルス粒子の構築に要求されるウイルス粒子のパッケージング成分をコードするヌクレオチド配列において、それらからRNA不安定性配列(INS)が除去される。同時に、パッケージング成分のアミノ酸配列コード化配列は保有されており、その結果、該配列によってコードされるウイルス成分は同じままであり、またはパッケージング成分の機能が損なわれない程度に少なくとも十分に類似したままである。また、レンチウイルスベクターにおいて、コドン最適化は輸出のためのRev/RREの必要性を回避して、最適化配列をRev非依存的にする。コドン最適化はベクター系内の種々の構築物間(例えば、gag-polおよびenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間)の相同組換えをも低減する。したがって、コドン最適化の全体的な効果はウイルス力価の顕著な増加および安全性の改善である。
【0490】
1つの実施形態においては、INSに関連したコドンのみがコドン最適化される。しかし、遥かに好ましく実用的な実施形態においては、幾つかの例外、例えば、gag-polのフレームシフト部位を含む配列を除き(後記を参照されたい)、該配列はそれらの全体においてコドン最適化される。
【0491】
レンチウイルスベクターのgag-pol遺伝子は、gag-polタンパク質をコードする2つの重複したリーディングフレームを含む。両方のタンパク質の発現は翻訳中のフレームシフトに依存している。このフレームシフトは翻訳中のリボソーム「スリッページ」の結果として生じる。このスリッページは少なくとも部分的にはリボソーム停止(stalling)RNA二次構造により引き起こされると考えられている。そのような二次構造はgag-pol遺伝子におけるフレームシフト部位の下流に存在する。HIVの場合、重複領域はgagの開始位置の下流のヌクレオチド1222(ここで、ヌクレオチド1はgag ATGのAである)からgagの終結位置(nt1503)まで伸長している。したがって、フレームシフト部位およびそれらの2つのリーディングフレームの重複領域にわたる281bpの断片は、好ましくは、コドン最適化されない。この断片の保有は、Gag-Polタンパク質の、より効率的な発現を可能にするであろう。EIAVの場合には、重複の開始位置はnt1262(ここで、ヌクレオチド1はgag ATGのAである)に位置するとみなされており、該重複の終結位置は1461bpに位置する。該フレームシフト部位およびgag-pol重複が維持されることを保証するために、野生型配列はnt1156から1465まで保持されている。
【0492】
最適コドン使用頻度からの誘導体化が、例えば、簡便な制限部位を収容するために実施可能であり、保存的アミノ酸変化がGag-Polタンパク質内に導入されうる。
【0493】
1つの実施形態においては、コドン最適化は、軽度に発現される哺乳類遺伝子に基づく。第3の塩基、そして時には第2および第3の塩基が改変されうる。
【0494】
遺伝暗号の縮重性ゆえに、多数のgag-pol配列が当業者により得られうると理解されるであろう。また、コドン最適化gag-pol配列を作製するための出発点として使用されうる多数のレトロウイルス変異体が記載されている。レンチウイルスゲノムは非常に可変性でありうる。例えば、尚も機能的であるHIV-1の多数の擬似種が存在する。これはEIAVにも当てはまる。これらの変異体は、形質導入プロセスの特定の部分を増強するために使用されうる。HIV-1変異体の例は、http://hiv-web.lanl.govにおけるLos Alamos National Security,LLCにより運営されているHIV Databasesにおいて見出されうる。EIAVクローンの詳細は、http://www.ncbi.nlm.nih.govにおけるNational Center for Biotechnology Information(NCBI)データベースにおいて見出されうる。
【0495】
コドン最適化gag-pol配列に関する戦略は任意のレトロウイルスに関して用いられうる。これは、EIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV-1およびHIV-2を含む全てのレンチウイルスに適用されるであろう。また、この方法は、HTLV-1、HTLV-2、HFV、HSRVおよびヒト内因性レトロウイルス(HERV)、MLVおよび他のレトロウイルスからの遺伝子の発現を増強するために使用されうるであろう。
【0496】
コドン最適化はgag-pol発現をRev非依存的にしうる。しかし、レンチウイルスベクターにおける抗revまたはRRE因子の使用を可能にするためには、ウイルスベクター産生系を完全にRev/RRE非依存的にすることが必要であろう。したがって、ゲノムが修飾されることも必要である。これは、ベクターゲノム成分を最適化することにより達成される。好都合なことに、これらの修飾はまた、プロデューサー細胞および形質導入細胞の両方において全ての追加的タンパク質が存在しない、より安全な系の産生をもたらす。
【0497】
本実施例において、本明細書に記載されている本発明の修飾U1ならびに関連する方法および使用が、好都合にも、許容可能または有利な安全性プロファイルをもたらしうることが実証されている。
【0498】
本明細書に記載されている刊行物は、専ら、本出願の出願日の前のそれらの開示のために提供されているに過ぎない。本明細書におけるいかなるものも、そのような刊行物が、本明細書に添付されている特許請求の範囲の先行技術を構成することを認めるものと解釈されるべきではない。
【0499】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明することとする。これらの実施例は、本発明を実施する際に当業者を助けるのに役立つことを意図しており、本発明の範囲を限定することを何ら意図してない。
【0500】
実施例
一般的な分子/細胞生物学技術およびアッセイ
修飾U1 snRNA発現構築物
修飾U1 snRNAの、DNAに基づく発現構築物は、RNA転写および終結を駆動する内因性U1 snRNA遺伝子における保存配列を含み、256U1(U1_256とも称される)snRNAの非限定的な例において以下に強調表示されている。
【化6】
【0501】
本研究において使用した初期修飾U1 snRNAおよび対照の要約を以下の表に示す。この表は新規アニーリング配列および標的部位配列を示す(配列は5’から3’への方向で表示されている)。
【0502】
表I.試験修飾U1 snRNAおよび対照U1 snRNA内の標的アニーリング配列(標的配列に相補的な異種配列)ならびに初期研究において使用したそれらの標的配列を示す配列一覧。ヌクレオチドは「再標的化領域」においてそれぞれの発現カセット内でコードされるため、ヌクレオチドはDNAとして示されている。全ての初期構築物に(AT)モチーフが存在し、これは、それぞれの場合において、U1 snRNA分子の最初の2つのヌクレオチドを構成する。標的配列番号は、示されている場合には、HIV-1のNL4-3(GenBank:M19921.2)またはHXB2(GenBank:K03455.1)株における標的を意味する。なぜなら、この研究におけるレンチウイルスベクターゲノムは、これらの2つの高度に保存された株から構成されるハイブリッドパッケージングシグナルを含有していたからである(この研究において使用したパッケージング配列はGenBank:MH782475.1におけるベクター配列に最も類似している)。
【表2】
【0503】
接着細胞培養、トランスフェクションおよびレンチウイルスベクター製造
HEK293T細胞を完全培地[10% 熱不活性化(FBS)(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)および1% 非必須アミノ酸(NEAA)(Sigma)で補足されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma)]内で5% CO2において37℃で維持した。
【0504】
接着様態でのHIV-1ベクターの標準的なスケールの製造は以下の条件下の10cmディッシュにおけるものであった(他の形態での実施の場合には、全ての条件は面積によってスケーリングされた)。HEK293T細胞を10mLの完全培地内で3.5×105細胞/mlで播種し、24時間後、10cmプレート当たりに以下の質量比のプラスミドを使用して、細胞をトランスフェクトした:4.5μg ゲノム、1.4μg Gag-Pol、1.1μg Rev、0.7μg VSV-Gおよび0.01~2μgの修飾U1 snRNAプラスミド。
【0505】
トランスフェクションは、製造業者のプロトコル(Life Technologies)に従い、Opti-MEM中でDNAをLipofectamine(リポフェクタミン)2000CDと混合することにより行った。約18時間後に酪酸ナトリウム(Sigma)を10mMの最終濃度まで約5~6時間にわたって加えた後、トランスフェクション培地を新鮮無血清培地で置換した。典型的には、20~24時間後にベクター上清を回収し、ついで濾過(0.22μm)し、-20/-80℃で凍結した。ヌクレアーゼ処理に関する陽性対照として、典型的には、Benzonase(登録商標)を5U/mLで回収物に1時間にわたって加えた後、濾過した。
【0506】
懸濁細胞培養、トランスフェクションおよびレンチウイルスベクター製造
HEK293T.1-65s懸濁細胞を振とうインキュベーター(190RPMに設定された25mm軌道)においてFreestyle + 0.1% CLC(Gibco)内で5% CO2中、37℃で増殖させた。懸濁液を使用した全てのベクター製造は、24ウェルプレート(1mL容量、振とう台上)、25mL振とうフラスコまたはバイオリアクター(<5L)において行った。HEK293Ts細胞を無血清培地内で1ml当たり8×105細胞で播種し、ベクター製造に全体にわたって、振とうしながら5% CO2中、37℃でインキュベートした。播種の約24時間後、トランスフェクション時の培養の有効最終体積当たりのプラスミドの以下の質量比を用いて、細胞をトランスフェクトした:0.95μg/mL ゲノム、0.1μg/mL Gag-Pol、0.6μg/mL Rev、0.7μg/mL VSV-G、および0.01~0.2μg/mL 修飾U1 snRNAプラスミド。
【0507】
トランスフェクションは、製造業者のプロトコル(Life Technologies)に従い、Opti-MEM中でDNAをLipofectamine(リポフェクタミン)2000CDと混合することにより行った。約18時間後に酪酸ナトリウム(Sigma)を10mMの最終濃度まで加えた。典型的には、20~24時間後にベクター上清を回収し、ついで濾過(0.22μm)し、-20/-80℃で凍結した。ヌクレアーゼ処理に関する陽性対照として、典型的には、Benzonase(登録商標)を5U/mLで回収物に1時間にわたって加えた後、濾過した。
【0508】
レンチウイルスベクター力価測定アッセイ
GFPマーカー含有カセットによるレンチウイルスベクターの力価測定のために、HEK293T細胞を96ウェルプレート内で1.2×104細胞/ウェルで播種した。GFPをコードするウイルスベクターを使用して、8mg/ml ポリブレンと1×ペニシリンストレプトマイシンとを含有する完全培地内で約5~6時間にわたって細胞を形質導入し、その後、新鮮培地を加えた。形質導入細胞を5% CO2中、37℃で2日間インキュベートした。ついで、Attune-NxT(Thermofisher)を使用してフローサイトメトリー用に培養物を調製した。GFP発現率を測定し、形質導入時の2×104細胞の予想細胞数(典型的な増殖速度に基づく)、ベクターサンプルの希釈係数、陽性GFP集団の割合および形質導入時の総体積を用いて、ベクター力価を計算した。
【0509】
組込みアッセイによるレンチウイルスベクター力価測定
組込みアッセイによるレンチウイルスベクター力価測定のために、原液(ニート)から1:5希釈までの0.5mLのベクター上清を使用して、8μg/mL ポリブレンの存在下、12ウェルスケールで1×105 HEK293T細胞を形質導入した。培養物を10日間継代し(2~3日ごとに1:5分割)、ついで1×106個の細胞ペレットから宿主DNAを抽出した。HIVパッケージングシグナル(ψ)とRRP1とに設定されたFAMプライマー/プローブを使用して二重定量PCRを行い、以下の因子、すなわち、形質導入体積、ベクター希釈度、RRP1正規化HIV-ψコピー数(反応当たりに検出されたもの)を用いて、ベクター力価(TU/mL)を計算した。
【0510】
SDS-PAGEおよび免疫ブロット法
標準的なSDS-PAGEおよび免疫ブロット法を、主として、ベクター回収後のベクター産生終了細胞に関して行った。ベクター粒子の免疫ブロット分析では、約2mLの濾過ベクター上清を微量遠心管内で21,000rpmで4℃で1~2時間、遠心分離した後、「ペレット」を20~30μLのPBSに再懸濁させた。これらの濃縮ベクター調製物をPERTアッセイ(後記)により定量し、7×104 PERT予想TUのベクターをSDS-PAGEゲルのウェルごとにローディングした。約1×106個のベクター産生終了細胞を200μlの分画バッファー中で細胞溶解し、遠心分離により核を取り出した。タンパク質サンプルをBioRadアッセイにより定量し、典型的には5μgのタンパク質を、予め形成された12~15ウェルの4~20% アクリルアミドゲル上にローディングした。タンパク質を氷上で3時間にわたって45Vでニトロセルロース上にトランスファーした。ブロットを5% 乳PBS/tween―20中で4℃で一晩ブロッキングした。一次抗体およびHRP二次抗体(ブロッキングバッファー中で典型的には1:100希釈)でブロットをプローブした。免疫ブロットをECL検出およびそれに続くX線フィルム露出により分析した。
【0511】
RNA抽出およびRT-qPCRアッセイ
RNeasyミニキット(QIAGEN)を使用して、細胞またはLVサンプルから、全RNAを抽出し、精製した。1マイクログラムのRNAをDNアーゼI(Ambion)で1時間処理した後、不活性化した。QuantStudio(商標)6(Life Technologies)を使用して、標準的な化学RT-PCRサイクリング条件下、Taqman(登録商標)1工程RT-PCRマスターミックス(Life Technologies)から構成されるqRT-PCR反応において、50ngのDNアーゼI処理RNAを使用した。標的特異的プライマー/プローブセットを使用した。陰性対照反応は、DNA汚染に関して対照試験するためのRTを含有していなかった。
【0512】
質量分析によるタンパク質の分析
サンプル調製
溶液中のトリプシン分解およびそれに続くペプチドの浄化(クリーンアップ)により、MS分析用のサンプルを調製した。簡潔に説明すると、高モル濃度の尿素バッファーを使用してサンプルを変性させた後、還元試薬およびアルキル化試薬として、それぞれ、ジチオスレイトール(DTT)およびヨードアセトアミドを加えた。タンパク質の線状化の後、尿素の濃度を下げるための希釈の後、トリプシンを各サンプルに加えた。37℃での一晩のインキュベーションにより、タンパク質消化を完了した。ついで、トリフルオロ酢酸(TFA)の添加による酸性pHにより、トリプシン活性を中和した。消化されたペプチドをC18カラムにより浄化し、脱塩した。カラムを、まず、アセトニトリル(ACN)で活性化し、0.1% TFA溶液で完全に洗浄した後、消化ペプチドをローディングした。0.1% TFA溶液で更に洗浄した後、ペプチドを酸性化70% ACN溶液により溶出し、低結合性チューブ内に回収した。次に、SpeedVacを使用する蒸発により、ACNを除去し、洗浄され脱塩された乾燥ペプチドを、2% ACNと0.1% ギ酸(FA)とを含有する溶液に再懸濁させた。
【0513】
液体クロマトグラフィーおよび質量分析
Q Exactive(商標)HF質量分析計(Thermo Fisher Scientific)にオンラインで接続されたUltiMate 3000(Thermo Fisher Scientific)でペプチドを分析した。ペプチドを、μPAC(商標)捕捉カラム(PharmaFluidic,Ghent,Belgium)上に5μL/分の流速で3分間ローディングし、ついで、0.1% ギ酸中の0.8%から78%までのアセトニトリルの120分の非線形勾配を用いる50cm μPAC(商標)カラム(PharmaFluidics)で分離した。UltiMate 3000カラムオーブンを使用して、カラム温度を50℃に維持した。Q Exactive(商標)HFを350~1,150のm/z範囲でデータ非依存的(DIA)に作動させた。20msの最大注入時間で、3×106の自動ゲイン制御(AGC)目標値を用いて、120,000の分解能で、フルスキャンスペクトルを記録した。フルスキャンの後、0.5Thのオーバーラップ(重複)を用いる8.5 Th幅の100ウィンドウを用いた。60msの最大注入時間および200 Thの固定された最初の質量で、2×105のAGC目標値を用いて、30000の分解能で、DIAスペクトルを記録した。正規化衝突エネルギー(NCE)を28%に設定し、デフォルト荷電状態を3に設定した。2.0kVのスプレー電圧および250℃の加熱キャピラリー温度でEASYスプレーエレクトロスプレーエミッター(Thermo Fisher Scientific)を使用して、ペプチドをイオン化した。
【0514】
DIA-NNを使用したデータ分析
ホモサピエンス(homo sapiens)uniprot参照プロテオームのタンパク質配列をレンチウイルスタンパク質(GAG、POL)および高頻度汚染物質と鎖状に連結して、このプロジェクトの予測スペクトルライブラリーを作成した。最大1個の欠落切断部位を許容する350~1,150のm/z範囲の厳密なトリプシン特異性(PではないKR)を有する全ての可能なペプチドに関して、スペクトルライブラリーを予測した。「任意のLC」定量戦略を用いる可能な「RTプロファイリング」で、MS1に関しては5ppmの、そしてMS2スペクトルに関しては10ppmの固定質量許容差を用いて、DIA-NN(バージョン1.7)において質量スペクトルを分析した。前駆体特定に関する偽発見率を0.1%に設定し、タンパク質をそれらのそれぞれの遺伝子に従いグループ分けした。「正規化ユニーク(normalized.unique)」強度を用いて、タンパク質を定量した。
【0515】
差次的発現分析
BioConductor DEPパッケージを使用して、Rにおいて差次的発現分析を行った。欠落値を伴うタンパク質を最初にフィルター処理して、少なくとも1つの条件が全てのレプリケートに関して定量されるようにした。BioConductor VSNパッケージを使用して、分散安定化正規化を行った。ついで、QRILC(Quantile Regression Imputation of Left-Censored data)を用いて欠落値を代入した。経験的ベイズ統計を用いたタンパク質関連線形モデルを使用して、差次的発現分析を行った。ベンジャミンおよびホッホバーグ(Benjamini&Hochberg)法を用いて多重検定を行うためにP値を補正した。
【0516】
CAR-T細胞の作製および機能性の評価
細胞形質導入
3名の健常ヒトドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)を商業的供給業者から購入した。100 IU/mLの組換えヒトIL-2(12ウェルプレート)を含む修飾T細胞培地内で、ウェル当たり1.5×106個のPBMCを4.5×106個のCD3/CD28 T細胞エキスパンダービーズと共に培養した。LV-CAR/LV-CAR[+256U1]を、示されているとおりに1.25または0.3の推定感染部分(MOI)で関連ウェルに加えた。100 IU/mLの組換えヒトIL-2を含む修飾T細胞培地の体積を増加させることにより(必要に応じて、培養容器のサイズを増加させた)、1mL当たり1.0×105個の生細胞の濃度で細胞を維持した。培養内で13日後、細胞凍結培地内で1mL当たり1.0×107個の生細胞の濃度で細胞を凍結した。最初の増殖における8日後および回復の5日後のフローサイトメトリーにより、形質導入された細胞の割合を測定した。
【0517】
機能性試験
CAR-T細胞応答を試験するために使用した細胞株はSKOV-3(高レベルの5T4lを発現する卵巣癌細胞株)、ならびに3つの急性骨髄性白血病(AML)細胞株、すなわち、THP-1、Kasumi-1およびAML-193であった(最後者は5T4陰性細胞株である)。標的細胞株を細胞追跡用蛍光色素で標識して、フローサイトメトリーによるその後の特定を可能にした。約1×105個のCAR-T細胞を96ウェル丸底プレート内で1×105個の各細胞株と共に3回重複して共培養した。24時間後、細胞測定ビーズアレイによるインターフェロンガンマおよびグランザイムBの分析のために、ある量の培養上清を各ウェルから取り出した。40時間後、細胞を回収し、生存性解析用蛍光色素で染色した。各実験ウェルにおける非生存性標的細胞の割合をフローサイトメトリーにより測定した。
【0518】
実施例1
HIV-1ポリA部位の転写リードスルーに対するポリAシグナル突然変異体の影響を評価するために、GFP-ポリA-Gルシフェラーゼレポーターカセットを設計した。該レポーターは上流GFP ORF(トランスフェクション効率を正規化可能にするためのもの)、標準的3’SIN-LTR配列(HIV-1 ポリAシグナルを含有するRU5配列を含む)、ならびにそれに続くIRES-Gluc配列およびSV40ポリAシグナルをコードする。したがって、HIV-1 ポリAシグナルの任意のリードスルーが、GFP発現により正規化されたルシフェラーゼ活性により測定可能であった。2つのポリAシグナル突然変異(pAM1=AAUAAA>AACAAA;pAKO=AAUAAAAの欠失)および野生型ポリAシグナル(wt pA=AAUAAA)の影響を測定した(
図2A)。
【0519】
標準的レンチウイルスベクターゲノムと、異なる5’LTR ポリAシグナル突然変異体(pAM1またはpAM2)を含有する2つのゲノムとを使用して、修飾U1 snRNA(256_U1;製造中に並行して供給される)の非存在下または存在下でベクター粒子を作製し、ついで力価測定した。修飾U1 snRNAの存在下で製造されたベクターは、非存在下の場合より3~6倍多く、これは、機能的ポリA部位が5’LTRに存在するかどうかに非依存的であった(
図2B)。これは、修飾U1 snRNAがポリAの漏出性(leaky)リードスルーを抑制するようには作用しておらず(すなわち、内因性U1 snRNAは主要スプライスドナー部位に結合し、早期ポリアデニル化を完全に抑制している)、したがって、何らかの他の新規メカニズムにより(おそらく、vRNA安定性/核外輸送を改善することにより)ベクターを増加させるように作用しているに違いないことを示している。
【0520】
実施例2
U1 snRNA分子の他の特徴を、本発明におけるそれらの可能な要件において評価するために、実験を行った。幾つかの修飾U1 snRNA発現カセットを構築した。それらの全てはHIV-1パッケージング領域における「256」位置に対する標的配列を有する(
図3A)。2つの変異体は、U1-70Kタンパク質結合を除去する、ステムループI領域内の公開されている突然変異を含有し(256_70K_m1および256_70K_m2)、2つの変異体は、U1Aタンパク質結合を除去する、ステムループII領域内の公開されている突然変異を含有し(256_U1A_m1および256_U1A_m2)、1つの変異体は突然変異したSmタンパク質結合モチーフを含有していた(256_SM_m1)(Alexander,M.R.ら,2010,Nucleic Acids Res.,38:3041-53;Ashe,M.P.ら,2000,RNA,6:170-7)。天然に存在するU1 snRNAを発現する3つの他のカセット(U1A5、U1A6およびU1A7)も構築した。これらは、保存されたSm結合領域を有するが、クローバーリーフ構造内には非常に異なる配列を有していた(したがって、U1-70KまたはU1Aに結合する可能性は低い)。最後に、lacZ遺伝子配列を標的化する2つの対照U1 snRNA構築物を陰性対照として作製した。
【0521】
これらの修飾U1 snRNAをレンチウイルスベクター成分(マーカー遺伝子=GFP)と共にHEK293T生産細胞内に個別にコトランスフェクトした場合、ベクター力価は256_U1および70KまたはU1Aタンパク質結合突然変異U1によって2~4倍増強したが、その他の変異体によっては増強しなかった(
図3A)。U1Aに基づくsnRNAは機能的U1A-70KおよびU1A結合ループに非依存的にLV力価を増加させたが、力価増加はSmタンパク質結合モチーフに依存していた。snRNA変異体U1A5、U1A6およびU1A7はLV力価を増加させなかった。このことは、この効果にはU1A snRNAの何らかの構造的特徴が要求されることを示している。
【0522】
実施例3
接着性HEK293Tベクター製造の状況において行った実験。GFPをコードする標準的レンチウイルスベクターを、15ヌクレオチドまたは9ヌクレオチドの標的化長の相補性を含むベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った部位に対する標的配列を含有する修飾U1 snRNAの非存在下または存在下で製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている(表Iを参照されたい)。データは、ベクター力価の増強規模の増加が、5’ポリA部位から更に離れた標的部位と相関し、理想的な標的領域がパッケージングシグナルのSL1ループ内でコードされることを示している(
図4)。データはまた、9ヌクレオチド(内因性U1 snRNAによる)の代わりに15ヌクレオチドの相補性の標的化長を利用することが、ベクター力価の、より確実な増加をもたらすことを示している。
【0523】
実施例4
懸濁無血清HEK293Tベクター製造の状況において行った実験。GFPをコードする標準的レンチウイルスベクターを、15ヌクレオチドの標的化長の相補性を含むベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った部位に対する標的配列を含有する修飾U1 snRNAの非存在下または存在下で製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている。データは、ベクター力価の増強規模の増加が、5’ポリA部位から更に離れた標的部位と相関し、理想的な標的領域がパッケージングシグナルのSL1ループ内でコードされることを示している(
図5)。
【0524】
実施例5
接着性HEK293Tベクター製造の状況において行った実験。GFPをコードする標準的レンチウイルスベクター(pHIV-EF1a-GFP)、またはCD19
*に対するキメラ抗原受容体をコードする標準的レンチウイルスベクター(pHIV-EF1a-CD19)を、レンチウイルスベクターパッケージング領域内のいずれかの部位を標的化する修飾U1 snRNA(256U1または305U1)またはLacZ対照を標的化する修飾U1 snRNA(LacZU1)の非存在下または存在下で製造した。修飾U1 snRNAは、ベクターゲノムvRNA分子の5’末端の長さに沿った標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている(表Iを参照されたい)。修飾U1 snRNA発現構築物は2つの異なる用量(すなわち、1×および4×)で供給された。データは、本発明がベクターゲノムのペイロード(payload)に非依存的に適用されうることを示している(
図6)。
【0525】
* 本実施例および本明細書に示されている他の全ての実施例におけるCD19 CARは、公的に利用可能な配列に基づくscFVを利用した。
【0526】
重鎖-GenBankCAA67618.1:
QVQLQQSGAELVRPGSSVKISCKASGYAFSSYWMNWVKQRPGQGLEWIGQIWPGDGDTNYNGKFKGKATLTADESSSTAYMQLSSLASEDSAVYFCARRETTTVGRYYYAMDYWGQGTSVTVSS(配列番号191)。
【0527】
軽鎖(カッパ)-GenBank AAB34430.1:
ELVLTQSPASLAVSLGQRATISCKASQSVDYDGDSYLNWYQQIPGQPPKLLIYDASNLVSGIPPRFSGSGSGTDFTLNIHPVEKVDAATYHCQQSTEDPWTFGGGTKLEIKRRS(配列番号192)。
【0528】
実施例6 - MSDからの無差別スプライシング、MSD-2KOレンチウイルスベクターの力価の減少、および再指向化U1 snRNAによる力価の回復/増強
レンチウイルスベクターゲノムの一般的構造は全ての第3世代ベクター系を通じて一貫しており(Toshie SAKUMA,Michael A.BARRY and Yasuhiro IKEDA.Biochem.J.(2012)443,603-618)、導入遺伝子カセットの上流のRREの位置およびパッケージング配列を含有するHIV-1プロウイルスの5’領域は維持されているが、他の側面においては異なっており、より後の世代のものはU3/tat非依存的になっており、3’LTRにおける自己不活性化を示し、cpptおよびwPREの使用を含む。5’パッケージング配列の操作の例の見掛け上の欠如は、おそらく、その複雑な構造によるものであり、それにおいてコードされている凝縮された情報は、HIV-1の複製、転写、スプライシングにおけるバランス、GagPolの翻訳、ゲノムの二量体化、集合、逆転写および組込みの多数の態様に必要である。この複雑な領域内に、主要スプライスドナー(MSD)は、SL1(二量体化ループ)とSL3(Gagへの結合)との間のステムループ2(SL2)領域内に埋め込まれている。レンチウイルスベクターゲノムにおけるパッケージング領域の直下流へのRRE配列(およびエンベロープ領域内の関連スプライスアクセプター7(sa7))の再配置は、revの非存在下、スプライスアクセプター(sa7)をMSDに「供給」すると考えられていた。レンチウイルスベクターの製造中に、revの供給は、RREへのrevの結合およびsa7へのMSDスプライシングの抑制をもたらし、その結果、スプライシングされていない完全長レンチウイルスベクターゲノムvRNAの産生をもたらすと考えられていた(
図7A)。しかし、本発明者ら(
図9Bii)および他の研究者(例えば、Cuiら(1999),J.Virol.,73:6171-6176)は、トランスジェニック配列内のMSDからスプライスアクセプター部位への異常スプライシングがかなりのものであり、ベクタービリオン内へのパッケージングに利用可能な未スプライス化vRNAのレベルが比較的低く(場合によっては5%未満に)なりうる(合計に対する比較;
図7Bを参照されたい)ことを示している。
【0529】
パッケージングのためのvRNAの生成における非効率性は、細胞への多数のベクターゲノムプラスミドの送達ゆえに、一過性トランスフェクション法で得られるレンチウイルスベクター力価において常に直接観察されるわけではない。このタイプの異常スプライシングが生じる場合であっても、標準的な第3世代ベクターの力価は1×107 TU/mLを超えることが常套的に可能である。しかし、本発明者らは、遥かに少数の組込みベクターゲノムカセットが存在しうる安定なプロデューサー細胞株の開発の場合には、異常スプライシングの問題がより大きく効いてくる可能性が高いと予想している。実際、本発明者らは、ゲノム成分が安定プロデューサークローンにおいて制限的であることを典型的に見出しており、MSD活性がこの制限に実質的に寄与しうると仮定している。
【0530】
MSDから導入遺伝子カセット内に生じる異常スプライス化mRNAの生成において、おそらくそれほど明らかではない結果、すなわち、製造中の導入遺伝子カセットの発現(の増加)が、更に認められる。これまでに、レンチウイルスベクター製造中の導入遺伝子発現を抑制するためにTRIP系が開発されており(WO 2015/092440に記載されている)、これは、ベクター製造に対する特定の導入遺伝子タンパク質の悪影響に比例して関連づけられるベクター力価の回復を可能にする。本発明者らは、効率的な異常スプライシング(例えば、EF1a駆動性カセットを含有する標準的レンチウイルスベクターにおけるもの;
図9を参照されたい)が、導入遺伝子を典型的にコードするmRNAを生成することを見出している。理論により束縛されることを望むものではないが、EF1a駆動性カセットの場合には、MSDは強力なEF1aスプライスアクセプターへとスプライシングされるが、他のプロモーター-UTR配列の場合には、MSDは、revの存在下であっても、より弱い潜在的スプライスアクセプターを「選択」する。MSDはRRE-sa7配列を「見て見ぬふりをする」ようであり、ベクターゲノムのより中心、すなわち、導入遺伝子プロモーター領域における他の部位を優先するようである。これはHIV-1 5’パッケージング領域の「残留」特性でありうる。なぜなら、野生型HIV-1においては、MSDは、典型的には、ゲノムの中央および3’末端に位置するスプライスアクセプターにスプライシングされるからである。MSDは下流のベクター配列内の多数の位置において異常にスプライシングされる可能性があるが、ナンセンス変異依存分解機構の基準に適合したmRNA(すなわち、それは、タンパク質[導入遺伝子タンパク質]をコードしているため、適合したmRNAであるようである)のみが細胞質へと輸送され(および/または細胞質内で安定であり)、ついで、そこにおいて、それが翻訳される可能性がある。これは、導入遺伝子をコードするmRNAの抑制を維持するためにTRIP系に更なる負担をかけて、mRNAのより大きなプールに対する、それほど抑制的でない制御をもたらす。更に、組織特異的プロモーターの使用(部分的には、レンチウイルスベクター製造中の導入遺伝子の発現を回避するためのもの)は、異常スプライシングのこのメカニズムによる、導入遺伝子をコードする翻訳可能なmRNAの細胞質内出現によって「無効」となる可能性がある。本質的に、導入遺伝子は、ベクターゲノムvRNAの発現を駆動する(典型的には強力な)構成的プロモーターにより発現される。
【0531】
したがって、MSD突然変異レンチウイルスベクターを生成する多数の理由があり、実際、他の研究者はU3/tat非依存的レンチウイルスベクターにおいてそのように行うことを試みたが、成功しなかった。本発明者らは、HIV-1におけるMSDの突然変異がSL2内の隣接潜在的スプライスドナー部位を活性化して、相当なレベルのスプライシングをもたらすことを見出している。この理由により、本発明者らはMSDと近傍潜在的スプライスドナー(crSD)との両方において突然変異を用いており(
図15を参照されたい)、この修飾を「MSD-2KO」または「MSD2KO」または「MSDの機能的修飾」と称する。この二重突然変異は、レンチウイルスベクターの製造中の、SL2のスプライシング領域(MSDとCrSDとの両方を含む)から強力なEF1aスプライスアクセプターへの異常スプライシングを除去するのに非常に有効であることが、
図9に示されている。他の研究者によって同様に報告されているとおり、3つの異なるプロモーター-GFP導入遺伝子カセットを含有するMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムはベクター力価の低下をもたらすことも示されている(
図8)。
図9Biにおいて、トランスでのHIV-1 tatの供与はMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムの力価の観察された減少をレスキューしうることも示されている。尤も、「異常」スプライス産物(SL4における副次的な潜在的スプライスドナーからのもの)の量は増加する(
図9Bii)。重要なことに、ベクターパッケージングシグナルの異領域に再指向化された修飾U1 snRNAは、副次的スプライス産物の存在を増加させることなく、MSD-2KOレンチウイルスベクターゲノム力価を増加させることが示されている(
図9および10)。
【0532】
実施例7 - MSD-2KOレンチウイルスベクター力価の増加はベクターゲノムカセット内の5’ポリA部位の抑制によるものではない
5’ポリA部位を抑制するように本発明が作用するかどうかを評価するために、EF1aまたはCMV駆動性GFP導入遺伝子カセットのいずれかを含有するMSD-2KOレンチウイルスベクターゲノム内に5’ポリA部位への機能的突然変異を導入した(
図11)。pAm1 ポリA突然変異が
図2に説明されており(明瞭化のために
図11Aに再掲されている)、これはポリアデニル化活性の完全阻止を示している。驚くべきことに、本発明者らが見出したところによると、5’ポリAシグナルの突然変異はEF1a-GFP含有MSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムの力価を部分的にしか増加させず、CMV-GFP MSD2KOレンチウイルスベクターゲノムに実質的に影響を及ぼさず、これはMSD-2KO突然変異の低減効果の程度に釣り合っているようであった(EF1a含有ゲノムの場合、MSD2KO突然変異はそれほど顕著ではない)。重要なことに、この実験における305U1分子の供給は標準的レンチウイルスベクターゲノム(これにおいては、内因性U1 snRNAは、おそらく、残留5’ポリA活性を完全に抑制しうるであろう)とMSD2KO/pAm1レンチウイルスベクターゲノム(これは、可能な5’ポリA活性を有していなかった)との両方の力価を増加させた。これは、MSD突然変異レンチウイルスベクターの力価を回復させるために供給される修飾U1 snRNAが、これまでに記載されていない転写後段階で作用しているという説得力のある証拠を提供するものである。
【0533】
ついで、本発明者らは、305U1および256U1の70KおよびU1A結合ループを突然変異させることを試みて、これがMSD2KOレンチウイルスベクターゲノムの観察された力価の増加に影響を及ぼすかどうかを評価した。
図12は、修飾U1 snRNA内のSL1またはSL2の機能的突然変異が、製造中に共発現された場合にMSD-2KOレンチウイルスベクター力価を増強するこれらの分子の能力に全く影響を及ぼさず、Smタンパク質結合突然変異のみがこの活性を遮断したことを示している。これは、ポリA活性の抑制における再指向化U1 snRNAのこれまでに必須とされていた70K結合特性が本発明においては重要でないことを示しており、MSD突然変異レンチウイルスベクター力価を増加させるために使用される修飾U1 snRNAが新規メカニズムによって機能しているという更なる証拠を提供するものである。
【0534】
MSD-2KOレンチウイルスベクターに適用された場合に修飾U1 snRNAによりもたらされる力価の増加が、標準的レンチウイルスベクターと比較して、それらの「好ましい」標的部位において異なるかどうかを評価するために(
図4および5を参照されたい)、MSD-2KOレンチウイルスベクターゲノムの5’領域に沿った異なる部位(表Iを参照されたい)を標的化する修飾U1 snRNAのパネルをスクリーニングした(
図14)。このスクリーニングは、パッケージング領域(SL1~3)に対する標的化が好ましく、おそらくSL3内に「ホットスポット(hotspot)」が存在することを示している。該スクリーニングは、標的部位に対する15ヌクレオチド(または9ヌクレオチドが示されている)の相補性を有する修飾U1 snRNAを使用して行った。なぜなら、本発明者らは、標準的レンチウイルスベクターに関して、9ヌクレオチドを超える相補性長を用いた場合に力価の増加がより頑強でありうることを既に実証していたからである(
図4を参照されたい)。実際、本発明者らは別の実験を行って、MSD-2KOレンチウイルスベクターに関して、修飾U1 snRNA(「305」配列を標的化するもの)で観察された力価増加は僅か7ヌクレオチドの相補性で観察できたが、好ましい使用においては、10~15ヌクレオチドの相補性を用いることが、力価増強の増加ゆえに(
図13)、そしてまた、これが修飾U1 snRNAによる考えられうる「オフターゲット(off-target)」効果を最小化することから、より良好であることを示した。
【0535】
実施例8 - 修飾U1 snRNAによるMSD-2KOレンチウイルスベクター力価の増加はスプライスドナー突然変異のタイプに非依存的である
図15Aは、MSDと下流に位置する潜在的スプライスドナーとの両方を突然変異させる、MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムパッケージング領域の「MSD2KO」変異体のSL2ループへの遺伝子修飾を示す(MSD2KO変異体は本明細書における非限定的な例の多くで使用されている)。修飾U1 snRNAの使用による力価増加の効果が、MSD2KO突然変異体に加えられた特定の改変に何らかの様態で依存的であるかどうかを評価するために、本発明者らは以下の3つの他のスプライスドナー領域突然変異体を作製した。[1]「MSD2KOv2」はMSDおよび潜在的ドナー配列内に2つの特定の改変をも導入した。[2]「MSD-2KOm5」はSL2ループ全体を人工ステムループによって置換する。[3]完全SL2欠失は、このようにスプライスドナー領域(スプライシング領域とも称される)の全体を除去する。ついで、本発明者らは、修飾U1 snRNA(256U1)の存在下または非存在下、HEK293T細胞において標準的またはMSD突然変異レンチウイルスベクター変異体(EFS-GFP発現カセットを含有するもの)を製造し、ベクター上清を力価測定した(
図15B)。結果が示すところによると、4つ全てのMSD突然変異レンチウイルスベクター変異体は、標準的ベクターと比較して低減していたが、4つ全ては、レンチウイルスベクター製造中に供給される修飾U1 snRNAの使用によって増強可能であった。このことは、修飾U1 snRNAによるスプライスドナー領域突然変異の特異的配列依存性が存在しないことを示している。興味深いことに、MSD-2KOm5変異体は最も非低減性であり、256U1分子の存在下で製造された場合には、使用される内部プロモーターが何であるかに無関係に(EFS、EF1a、CMVおよびヒトPGKプロモーターを比較)、産出力価の最大増加を示した。
【0536】
実施例9 - レンチウイルスベクターゲノムプラスミドDNAバックボーン内にシスでコードされる修飾U1 snRNAカセットの使用。
【0537】
本明細書におけるこれまでの実施例はレンチウイルスベクター成分プラスミドおよび修飾U1 snRNAコード化プラスミドでのHEK293T細胞の一過性コトランスフェクションによるトランスでのレンチウイルスベクター製造中の修飾U1 snRNA分子の使用を開示している。MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムカセットと修飾U1 snRNAカセットとが同一プラスミドDNA分子内で適切にコードされうるかどうかを評価するために、3つの変異体構築物をクローニングした(
図16A)。レンチウイルスベクターゲノムカセットおよび/または機能的プラスミドバックボーン配列に対して3つの異なる配置で256U1発現カセットが挿入されるように、MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムカセット(MSD-2KO変異体)を修飾した。これらの「シス」形態(バージョン)のプラスミドを、HEK293T細胞においてMSD突然変異レンチウイルスベクターを製造するために使用し、「トランス」様態(この様態においては、修飾U1 snRNAプラスミドを未修飾MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムとコトランスフェクトした)と比較した(
図16B)。結果は、これらの「シス」形態のプラスミドの力価が、コトランスフェクションで供給された256U1の存在下の未修飾MSD突然変異レンチウイルスベクターゲノムに類似していたことを示している。
【0538】
実施例10 - 標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターの両方の産生を増強するための、修飾U1 snRNAを安定に発現する細胞株の使用
305U1発現カセットをHEK293T細胞内に安定に組込み、追加的な305U1プラスミドDNAの存在下または非存在下の一過性トランスフェクションによって標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターを製造した。安定な細胞の作製の成功は、修飾U1 snRNAが、細胞毒性作用を伴うことなく、細胞内で内因的に発現されうることを初めて示した。このことは、修飾U1 snRNAが、スプライセオソームまたはU1 snRNA合成のいずれかに関与する細胞因子を力価測定せず、オフターゲットが生じず、あるいは、オフターゲット効果が、正常な細胞生存性に影響を及ぼさないことを示している。レンチウイルスベクターの産出力価は、標準的レンチウイルスベクターおよびMSD-2KOレンチウイルスベクターの両方において修飾U1 snRNAによりもたらされる力価増加が修飾U1 snRNAの安定な供給において可能であることを示している(
図18)。これは、修飾U1 snRNAがレンチウイルスベクターパッケージングおよびプロデューサー細胞株内に容易に組込まれることを可能にするであろう。
【0539】
実施例11 - 治療用導入遺伝子カセットをコードする標準的レンチウイルスベクターの力価を増加させるための修飾U1 snRNAの使用の更なる例
EF1aプロモーターカセットにより駆動される、野生型またはコドン最適化ヒトアルファ1-アンチトリプシン(T2A-GFPレポーターに融合されているもの)またはキメラ抗原受容体(5T4に対するもの)のいずれかをコードする標準的レンチウイルスベクターを、256U1の存在下または非存在下、無血清懸濁HEK293T細胞において製造した。これらのベクターを組込みアッセイまたはフローサイトメトリーにより力価測定して、標的細胞におけるGFP発現を評価した(
図17)。これらのデータは、256U1が、試験された全てのベクターの力価を増加させたことを示している。
【0540】
実施例12 - MSD突然変異レンチウイルスベクターは、製造中に、より少量の導入遺伝子タンパク質を産生する
レンチウイルスベクター製造中の異常スプライシングを除去するもう1つの利点は、導入遺伝子タンパク質の産生につながる導入遺伝子コード化mRNAの量を減少させることである。導入遺伝子の発現はレンチウイルスベクターの製造に相当な影響を及ぼす可能性があり、これは、ウイルスベクター製造中の導入遺伝子の翻訳を抑制するためにTRiP系を既に開発することにつながっている(WO2015/092440に記載されている)。簡潔に説明すると、細菌タンパク質「TRAP」がベクター製造中に共発現され、5’UTR内の導入遺伝子ORFの上流に挿入されたその「TRAP結合配列」(tbs)に結合して、走査(scanning)リボソームを遮断する。
【0541】
この研究の過程で、本発明者らは意外にも、SL2の主要ドナースプライス領域から内部スプライスアクセプター部位へのスプライシングアウト(スプライシングによる切り出し)により、導入遺伝子をコードするmRNAが、ベクターゲノムカセットを駆動する「外部」(CMV)プロモーターから有効に産生されることを見出した。これが生じる程度はcpptと導入遺伝子ORFとの間の内部配列(すなわち、プロモーター-5’UTR配列)に左右される。導入遺伝子カセットにおけるEF1aプロモーター(非常に強力なスプライスアクセプターを含有するもの)の使用は、外部プロモーターに由来する全転写産物の95%以上において、MSDからの異常スプライシングをもたらす(
図7を参照されたい)。標準的またはMSD-2KOレンチウイルスベクターの生産培養における全GFP発現を比較することにより(
図19)、本発明者らは、製造中に発現される導入遺伝子タンパク質の最大80%が異常スプライス産物に由来することを示している。本発明者らは、MSD-2KO遺伝子型をTRiP系と組合せると、産生される導入遺伝子タンパク質の減少が増強されることを見出した。
【0542】
実施例13
レンチウイルスベクターのvRNAに標的化された修飾U1 snRNAの共発現はベクター粒子サンプル内のvRNAの増加をもたらす
接着性HEK293Tベクター製造の状況で実験を行った。GFP(pHIV-EF1a-GFP)をコードする標準的レンチウイルスベクターまたはCD19に対するキメラ抗原受容体をコードする標準的レンチウイルスベクター(pHIV-EF1a-CD19)を、レンチウイルスベクターパッケージング領域内のいずれかの部位を標的化する修飾U1 snRNA(256U1または305U1)またはLacZ対照を標的化する修飾U1 snRNA(LacZU1)の非存在下または存在下で製造した。修飾U1 snRNAは、レンチウイルスベクターパッケージング領域内の標的化配列部位の最初のヌクレオチドに従い命名されている(表Iを参照されたい)。修飾U1 snRNA発現構築物は2つの異なる用量(すなわち、1×および4×)で供給された。ベクター上清をDNアーゼ/RNアーゼで処理した後、ベクター粒子から全RNAを抽出し、ついで、vRNAのパッケージング領域(Psi)に対するRT-qPCRを行って、存在する全vRNAコピーを定量した(
図20)。データは、修飾U1 sRNAの共発現がベクター粒子内のvRNAの増加をもたらしたことを示している。
【0543】
実施例14
レンチウイルスベクターのvRNAに標的化された修飾U1 snRNAの共発現はベクター製造中の導入遺伝子発現の低下につながりうる。懸濁無血清適応HEK293Tベクター製造の状況で実験を行った。α1-抗トリプシン(α1AT)導入遺伝子(GFPに融合しているもの)をコードする、HIV-1に基づくレンチウイルスベクターの修飾U1 snRNA増強産生の評価中に(
図21および22)、LV力価の相対的増加が、センダイ(Sendai)エンベロープ(F/HN)でシュードタイピング(偽型化)されたベクターの場合(約20倍)には、VSVGでシュードタイピングされたベクターの場合(約3倍)より大きいことが観察された。ベクターを懸濁HEK293T細胞(および、示されている場合には、接着性HEK293T細胞)において製造し、ついで組込みアッセイとフローサイトメトリーとの両方により接着性HEK293T細胞上で力価測定した。製造後の細胞ライセートを導入遺伝子タンパク質(およびGFP)およびβ-アクチンに関する免疫ブロット法に付した。これは、256U1がトランスで提供された場合、低いが一貫した導入遺伝子発現抑制を示した。センダイFタンパク質は形質導入前にトリプシン活性化を要するため、この結果は、回収物におけるα1ATの存在がFタンパク質のトリプシン活性化を阻害したことを示している。したがって、p256U1でトランスフェクトされた細胞におけるα1AT発現の見掛け上の抑制は活性ベクター力価に対する更なる増強をもたらした。理論により束縛されることを望むものではないが、この結果は256U1による作用メカニズムと合致しており、該作用メカニズムにおいては、vRNAは安定化される(おそらく核分解を回避する)だけでなく、翻訳から迂回されることが可能であり、これは、そうでなければ導入遺伝子タンパク質の産生を招くであろう。実際、非翻訳完全長未スプライス化野生型HIV-1のプールがビリオン内に活発にパッケージングされることが最近報告された(Chenら(2020),PNAS;117(11):6145-6155)。この特定の場合においては、256U1のこれらの2つの驚くべき効果は相加的であり、ベクター産出/活性における10倍の増加を招く。導入遺伝子発現が産出ベクター力価に有害でありうる他の治療用ベクターゲノムの場合に、修飾U1 snRNAによる導入遺伝子発現の減少のこの控えめな効果は、力価増加に寄与する同様の効果をもたらしうる。
【0544】
実施例15
反転導入遺伝子カセットを含有するレンチウイルスベクターの力価を増加させるための修飾U1 snRNAの使用。
【0545】
幾つかの場合には、導入遺伝子カセットが反転している、すなわち、転写単位が、ベクターゲノムカセットを駆動するプロモーターと反対であるレンチウイルスベクターゲノムを利用する必要がある。例えば、鎌状赤血球症またはβ-サラセミアの治療用に開発されたほとんどのレンチウイルスベクターはβ-グロビン遺伝子を含み、この場合、イントロンは、3つのエクソンを伴うコンテキストでコードされる[これは、最終分化赤血球におけるイントロンのアウトスプライシング(out-splicing)が、効率的なβ-グロビン発現に必要だからである]。ほとんどの場合、イントロンは、rev応答エレメント(RRE)を含有するパッケージングされたレンチウイルスベクターvRNA内に保持されうる。なぜなら、核内のRREへのrevの結合はイントロン含有vRNAの輸出をもたらすからである。しかし、これはβ-グロビン遺伝子には当てはまらず、導入遺伝子カセットが「順」配向の場合、rev/RREの存在下であっても、これらのvRNAからイントロンが失われる。また、導入遺伝子カセットの1成分が逆配向であり、別の成分が順配向である場合が存在しうる。例えば、双方向導入遺伝子カセットまたは複数の別個のカセットを使用する場合がそうである。
【0546】
修飾U1 snRNAの使用が、反転導入遺伝子カセットを含むレンチウイルスベクターの増加を可能にするかどうかを評価するために、β-グロビン遺伝子を含有するレンチウイルスベクターを、パッケージング領域に標的化された4つの異なる修飾U1 snRNAの非存在下または存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した(
図23)。懸濁無血清適応HEK293Tベクター製造の状況で実験を行った。データは、修飾U1 snRNAがこれらのクラスのレンチウイルスベクターの力価をも増加させうることを示している。
【0547】
実施例16
修飾U1 snRNAによるレンチウイルスベクター力価の増加は濃縮ベクター調製物において測定可能である。懸濁無血清適応HEK293Tベクター製造の状況で実験を行った。ホタルルシフェラーゼ-GFP二重レポーター導入遺伝子カセットをコードするレンチウイルスベクターを、256U1の非存在下または存在下で、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。清澄化ベクター回収物を遠心分離(約20倍の濃縮係数)により濃縮し、ついで濃縮前と濃縮後との両方のベクターサンプルを接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリーにより力価測定した(
図24)。データは、修飾U1 snRNAによりもたらされた力価の増加がプロセスLV物において観察されることを示しており、これは、ベクター力価の増強が、粗製ベクター物質に関連するアーティファクトではないという証拠を更に追加するものである。
【0548】
実施例17
製造後の細胞ライセートおよびベクター物質における残留修飾U1 snRNAの測定のための修飾U1 snRNAの高感度定量的検出方法の開発。プレsnRNAは細胞質内でプロセシングされた後、それは、プレmRNAスプライシングに関与する中心的複合体であるスプライセオソームの一部として核内に再び輸送される。したがって、本明細書に記載されている修飾U1 snRNAは主に核の位置に存在すると予想され、それがビリオン内に取り込まれる可能性は非常に低いと予想される。実際、プロセシングされたU1 snRNAはHIV-1ビリオン内に活発にパッケージングされず、プレU1 snRNAの存在は、ビリオンにおいて検出される最も豊富な細胞RNA(例えば、7SL)よりも100倍低いことを、他の研究者は示している(Eckwahlら(2016);RNA,22(8):1228-1238)。
【0549】
それにもかかわらず、細胞内の修飾U1 snRNAの発現を評価可能にし、ベクター産物における修飾U1 snRNAに由来する残留RNAを検出/定量可能にするために、Taqmanに基づくRT-qPCRアッセイを開発した(
図25)。修飾U1 snRNAを高発現内因性U1 snRNAから区別するために、フォワードプライマーが修飾U1 snRNA分子の5’末端におけるvRNA標的化配列と相同になるように、アンプリコンを設計した(
図25Aを参照されたい)。したがって、リバースプライマーは内因性U1 snRNAと修飾U1 snRNAとの両方のcDNA合成を可能にするが、定量PCR工程は、修飾U1 snRNAに由来するcDNAのみから生じる。この非限定的な例においては、256U1のsnRNAを増幅するために88bpのアンプリコンを設計した。プライマー/プローブのセットの感度を評価するために、懸濁(無血清)HEK293T細胞をp256U1でトランスフェクトし、ベンゾナーゼ(残留p256U1 DNAを分解するため)で処理されたレプリケート培養物から全RNAを抽出し、精製した。未消化のp256U1 DNAに由来するシグナルを評価するために、逆転写酵素工程の存在下または非存在下、精製された全RNAに対してTaqman qPCRを行った(
図25Bを参照されたい)。p256U1プラスミドをqPCR工程用の標準曲線として使用し、非常に良好な直線性および範囲を示した。未トランスフェクト化細胞RNAおよびp256U1トランスフェクト化細胞RNA(+RT処理)からの希釈cDNAサンプルは19~20サイクル差のCt値を示し、RT無処理p256U1トランスフェクト化細胞RNAは未トランスフェクト化細胞RNAよりも僅か約2倍低いCtを示した。これは、RT-qPCRアッセイが内因性U1 snRNAよりも修飾U1 snRNAを明確に検出し定量しうることを示した。
【0550】
実施例18
修飾U1 snRNA用量反応、および懸濁(無血清)HEK293T細胞の最大の一過性トランスフェクションのための修飾U1 snRNAプラスミドとLV成分プラスミドとの比率を最適化するための多分散モデリング
一過性トランスフェクション中の投入修飾U1 snRNAプラスミド、生じる修飾U1 snRNA発現およびベクターゲノムRNA(vRNA)と産出ベクター力価との両方に対する影響の間の関係を評価するために、単純な用量反応研究を行った。EF1aプロモーター駆動性CAR-CD19発現カセットをコードするLVを、LV成分pDNAの一過性トランスフェクションにより、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。この場合、p256U1の投入を0~600ng/mL(トランスフェクション時の有効最終培養濃度)の量の範囲にわたって設定した。全てのLV pDNAの比/量は一定のままであり、一方、pBlueScriptでのフィリングにより全pDNAを維持した。cDNA工程内の全RNAを正規化するために、全RNAを抽出し、256U1 snRNAとvRNAとの両方および内因性転写産物(RPH1;データは表示されていない)を定量することにより、製造後の細胞を分析した(
図26A)。また、清澄化LV上清を組込みアッセイにより力価測定した(
図26B)。データは、投入p256U1量、256U1 snRNAの発現レベルおよびvRNAの定常状態レベル(これは線形的に増加した)の間の線形相関を示している。LV-CARCD19の産出力価も、力価増加が最大になった300ng/mLの投入レベルまで、投入p256U1量(および生産細胞内のvRNAの増加)と線形関係を示した。これは、(これらの条件下およびこのLVゲノムに関して)最大力価増加を達成するp256U1の最小投入レベルが150~300ng/mLのどこかであることを示唆した。
【0551】
実験計画法(DoE)を用いて、40mLの振とうフラスコのスケールで28個の条件を設定し、試験した。この場合、p256U1、pGenome(この場合はpHIV-EF1a-5T4CAR)およびpVSVGを変化させ、pGagPol/pRev投入レベルを一定に維持した(
図27)。接着性HEK293T細胞の形質導入、およびそれに続く、5T4CARに対するMAbを使用するイムノフローサイトメトリーにより、清澄化ベクター回収物を力価測定した。ついで、DoEにより特定された180ng/mL p256U1の最適投入量を、p256U1の非存在下の場合と比較して、他のHIV-EF1a-5T4CARベクター調製物の生成に適用して、約10倍のLV産出力価の平均増加を得た。p256U1の180ng/mLの投入量は用量反応実験の知見と密接に一致していた(
図26を参照されたい)。
【0552】
実施例19
ケーススタディ: 256U1の存在下または非存在下で製造された濃縮/精製レンチウイルスベクター調製物を使用したCAR-T細胞の作製および評価。レンチウイルスベクター遺伝子治療製品に対する修飾U1 snRNAの適用の影響を評価するために、小規模なケーススタディを行った。この場合、5T4に標的化されたキメラ抗原受容体をコードするレンチウイルスベクター(HIV-EF1a-5TACAR/’LV-CAR’)を、[1]256U1の存在下または非存在下で製造し、精製し(
図28)、[2]濃縮産物中の残留256U1 snRNAの量を定量し(
図29)、[3]2つの濃縮ベクター調製物の比較タンパク質分析を行い(
図30および表IV)、[4]3つの健常ドナーPBMCから増殖した初代T細胞を形質導入し、5T4陽性細胞に対する殺傷活性を評価し(
図31~33)、[5]CAR-T増殖培養における残留256U1およびvRNAをRT-qPCRにより評価した(
図34)。
【0553】
250mLの振とうフラスコのスケールの懸濁(無血清)HEK293T細胞培養において、添加されたp256U1プラスミドDNAの存在下(+256U1)または陰性対照としてのpBluescriptの存在下、2つの濃縮HIV-EF1a-5TACARベクター調製物を作製した。ついで清澄化回収物(ベンゾナーゼで処理されていないもの)をイオン交換クロマトグラフィーに付して約125倍の濃度にし、ついでヌクレアーゼ処理に付した。最後に、ベクター調製物を約45分間の遠心分離に付した後、TSSMに再懸濁させて、250倍の総濃度にした。接着性HEK293T細胞の形質導入、およびそれに続く、CAR導入遺伝子に対する抗体を使用したイムノフローサイトメトリーにより、清澄化回収物および濃縮ベクターサンプルの両方を力価測定した(
図28)。これらのデータは、256U1 snRNAの使用によりもたらされる力価増加を証明している。
【0554】
ついで濃縮プロセスからのベクターサンプルを全RNA抽出に付した。この場合、抽出前に、清澄化回収サンプルをベンゾナーゼの存在下または非存在下で処理した。ついでvRNAと残留256U1 snRNAとの両方をRT-qPCRにより定量した(256U1 RT-qPCRアッセイの開発に関しては、実施例17を参照されたい)。
図29はこのデータを示しており、これは、[1]256U1の存在下で製造されたベクターからの全てのベクターサンプルにおけるvRNAの増加、[2]256U1 snRNAと比較した、vRNAの存在量に対するヌクレアーゼ処理の影響、および[3]濃縮ベクターにおけるvRNAと比較した、256U1 snRNAシグナルの相対比を示している。この分析は、清澄化LV回収物中に存在する256U1 snRNAシグナルが、おそらく製造中の漏出(leaky)/破裂細胞に由来する主に「遊離」RNAであることを示している。なぜなら、ベンゾナーゼ処理はこの検出を劇的に低減するからである。濃縮LV物質においては、256U1対vRNAシグナルの比は1対32であり、このことは、16個のvRNA含有LV粒子ごとに、単一の256U1 snRNA(または少なくとも88bpのアンプリコン)が存在することを示している。これは、256U1 snRNAがLV粒子内に活発にパッケージングされないこと、および濃縮LV物質において検出されたシグナルが粒子の外側の残留256U1 snRNAの存在による可能性が高いことを示唆した。これはまた、ヌクレアーゼ処理およびLV精製工程の最適化により、256U1 snRNAシグナルの更なる減少が可能であることを示唆している。
【0555】
ついで2つの濃縮LV-CARベクター調製物を質量分析により分析して、ビリオンのタンパク質マークアップ(mark-up)に対するLV-CAR産生中の256U1 snRNAの発現の主要影響を評価した。本明細書に記載されているとおりにサンプルを調製し(「
一般的な分子/細胞生物学技術およびアッセイ」の節を参照されたい)、Q Exactive(商標)HF質量分析計にオンラインで接続されたUltiMate 3000でペプチドを分析した。質量スペクトルをDIA-NN(バージョン1.7)において分析した。ホモサピエンス(homo sapiens)uniprot参照プロテオームのタンパク質配列をレンチウイルスタンパク質(gag、pol、rev)およびVSV-G糖タンパク質および高頻度汚染物質と鎖状に連結して、このプロジェクトの予測スペクトルライブラリーを作成した。LV-CAR[+256U1]ベクターサンプルにおいて検出された上位400個のタンパク質をランク付けし、それらの相対存在量を上位400のタンパク質の総スペクトル存在量に対する百分率としてプロットした(
図17、黒丸)。LV-CARベクターサンプル内の同じタンパク質ヒットの相対存在量もプロットして、2つのベクター調製物のタンパク質プロファイルにおける大きな差異が可視化されうるかどうかを評価した(
図17、白丸)。これらのデータは予想レンチウイルスタンパク質gag(ランク#1)、VSV-G(ランク#2)およびpol(ランク#37)の存在を証明しており、revはランク#400に現れる。gagペプチドとpolペプチドとの比の比較は、両方のサンプルに関して、約16:1の非常に類似した比を示した。これは、gag/pol mRNA(野生型HIV-1におけるもの)の許容される差次的翻訳の比である20:1に近い(gagポリタンパク質が翻訳の主要産物であるが、20回に約1回の割合でフレームシフト事象がgagpolポリタンパク質の翻訳を引き起こす)。また、HIV-1に基づくレンチウイルスビリオン内に取り込まれることが公知である以下の細胞タンパク質も存在していた:ベイシジン(ランク#3)、HSPc-71K(ランク#5)およびシクロフィリンA(ランク#22;カプシドに特異的に結合する)。分析は2つのLV-CARベクター間の最小の差異を示した。このことは、LV製造中の256U1 snRNAの過剰発現が細胞タンパク質の全体的なアップ/ダウンレギュレーションおよび/またはLVビリオンへのそれらの取り込みをもたらさなかったことを示している。
【0556】
それらの2つのLVサンプル間で最大2倍の有意差を示したヒットの差次的発現分析を、BioConductor DEPパッケージを使用して、Rにおいて行った。この分析からの主要ヒットの選択を表IVに示す。この統計分析は、gag、pol、VSVGおよびシクロフィリンAの2倍の増加が非常に有意であることを示した。このことは、これらのLVタンパク質が、他のバックグラウンド(汚染の可能性がある)タンパク質と比較して、LV-CAR[+256U1]ベクターにおいて、より豊富であったことを示唆している。
【0557】
表IV:256U1の存在下または非存在下で製造されたHIV-EF1a-5T4CAR(LV-CAR)の濃縮/精製調製物の質量分析による比較タンパク質分析から最大2倍変動するヒットに関して行われた統計分析からのタンパク質の選択。BioConductor DEPパッケージを使用して、Rにおいて差次的発現分析を行った。欠落値を伴うタンパク質を最初にフィルター処理して、少なくとも1つの条件が全てのレプリケートに関して定量されるようにした。BioConductor VSNパッケージを使用して、分散安定化正規化を行った。ついで、QRILC(Quantile Regression Imputation of Left-Censored data)を用いて欠落値を代入した。経験的ベイズ統計を用いたタンパク質関連線形モデルを使用して、差次的発現分析を行った。ベンジャミンおよびホッホバーグ(Benjamini&Hochberg)法を用いて多重検定を行うためにP値を補正した。ランキング番号は、LV-CAR[+256U1]サンプルにおいて検出された上位400個のタンパク質である。
【表3】
【0558】
2つの濃縮HIV-EF1a-5TACAR/LV-CARベクター調製物を使用して、3名の健常ドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)をMOI 1.25(両方のベクター調製物)またはMOI 0.3(HIV-EF1a-5TACAR +256U1のみ)で形質導入し、ついで形質導入T細胞の増殖および第13日における細胞バンキングを行った。ついで細胞を回復させ、更に5~6日間増殖させた。増殖中および回復後の総生細胞およびLV-CARまたはLV-CAR[+256U1]ベクターによる形質導入率をモニターした(
図31)。この分析は、両方のLV調製物に1.25の合致MOIを用いたにもかかわらず、LV-CAR[+256U1]ベクターは、一般に、LV-CARベクターより効率的に増殖T細胞を形質導入することを示した(これは、おそらく、LV-CAR[+256U1]ベクターにおける汚染物質が少ないためであった;
図30および表IVを参照されたい)。MOI 0.3でのLV-CAR[+256U1]ベクターによる形質導入率はLV-CARベクター(MOI 1.25)による形質導入の場合に類似していた。したがって、更なる比較はこれらのサンプルに集中した。
【0559】
ついで、5T4CARを発現するT細胞を標的細胞殺傷活性に関して評価した。これは、同数の5T4陽性細胞(THP-1、Kasumi-1、SKOV-3)または5T4陰性細胞(AML-193)とのコインキュベーション、ならびにそれに続く、インキュベーション後24時間におけるサイトカイン放出(
図32)およびインキュベーション後40時間における細胞殺傷(
図33)の分析により行った。これらの結果が示すところによると、2つのベクター調製物のいずれかで形質導入されたCAR-T細胞は、特異的細胞殺傷をもたらすように、グランザイムBおよびインターフェロン-γを放出することにより5T4陽性細胞の存在下で特異的に活性化されることが同等に可能であった。
【0560】
形質導入後第8日および第13日に、細胞サンプルを採取し、全RNAを抽出して、細胞転写産物ローディング対照として使用されたRPH1 mRNAと比較した残留256U1 snRNAの相対的存在量を評価した。
図34はこれらのデータを示しており、これは、各時点でのRPH1転写産物と比較して、残留256U1 snRNAシグナルが4~5 log低く、残留vRNAが3~3.5 log低かったことを示している。第8日と第13日との間の残留256U1 snRNAシグナルの減少はvRNAの場合よりも約5倍大きかった。このことは、vRNA(カプシド内で保護されていると思われる)と比較して、残留256U1 snRNAの大部分が(分解のために)曝露されたことを示しており、このことは、おそらく、増殖中にT細胞に結合したままの無傷LVビリオンが少数しか存在しないことを反映している。全体として、残留RNA分析が示すところによると、修飾U1 snRNAは、プロセシングされたLV物質内で低レベル(この研究レベルの製造規模では16個の完全ビリオンごとに1個)で検出されうるが、このシグナルの少なくとも80%はビリオンの外部に存在する可能性が高い。これは、ヌクレアーゼ処理および精製工程の最適化により、この残留物の更なる減少が可能でありうることを意味する。
【0561】
HEK293T細胞株内での構成的で長期的な修飾U1 snRNA発現が、見掛け上の一般的な細胞毒性を伴うことなく可能であることを考慮すると(実施例21を参照されたい)、LV形質導入中の標的細胞の一部への完全長修飾U1 snRNAの送達は標的細胞の生存性に影響を及ぼさない可能性が高い。修飾U1 snRNAの設計により、宿主細胞RNAとの特異的相互作用は不可能であると考えられ、内因性U1 snRNAの膨大なプールと比較した場合の標的細胞におけるその比較存在量は、それが結合に関してRNP因子と効率的に競合しうる可能性が非常に低いことを意味するであろう。
【0562】
実施例20
懸濁(無血清)パッケージング細胞からのLV産生を増加させるための修飾U1 snRNAの使用。HIV-EF1a-CAR-CD19ベクターまたはGFPレポーター変異体ベクター(HIV-EF1a-CAR-CD19-T2A-GFP)を、p256U1の存在下または非存在下、振とうフラスコまたは250mLのバイオリアクター(AMBR250)のいずれかにおけるレンチウイルスベクターパッケージング細胞株(PAC)において製造した。HEK293T細胞を、対照として、並行して、全てのベクター成分でトランスフェクトした。清澄化ベクター回収物を接着性HEK293Tの形質導入およびそれに続く組込みアッセイにより力価測定した。力価を「256U1無し」に対してプロットした(
図35)。データは、HEK293T細胞と比較してPAC細胞株の場合にベクター力価の増加が最大であったことを示している。
【0563】
実施例21
256U1発現カセットで安定にトランスフェクトされた懸濁(無血清)HEK293T細胞によるレンチウイルスベクター力価の増加。懸濁(無血清)HEK293T細胞を256U1-HygR発現カセットで安定にトランスフェクトし、クローンを選択した。クローン256U1c39を評価用に選択した。レンチウイルスベクター力価の増加を単離後第1週、第5週および第10週に評価し、ヒロマイシンBの存在下または非存在下で継続的に増殖させ、p256U1の存在下または非存在下で一過性トランスフェクションによりHIV-EF1a-5T4CARベクターを製造することにより各時点で親HEK293T細胞と比較した(
図36)。データは、256U1c39クローン内の256U1 snRNA発現がハイグロマイシン選択の存在下または非存在下で安定であったことを示しており、このことは、これらの修飾U1 snRNAの長期発現がHEK293T細胞に対して毒性でないことを示している。また、256U1c39細胞株におけるベクター力価増加のレベルは、全ての条件にわたり、観察された最大力価増加に近かった。
【0564】
実施例22
レンチウイルスベクターに対する修飾U1 snRNAの増加の効果は、内因性U1 snRNAに存在する保存された5’ジヌクレオチド「AU」に依存的でないらしい。
【0565】
実施例1において、修飾U1 snRNAによる作用メカニズムはレンチウイルスベクターの5’LTR領域内の5’ポリAシグナルのポリA抑制(内因性U1 snRNAの公知特性)によるものではないことが示されている。なぜなら、修飾U1 snRNAは、このポリA部位の機能的突然変異を含有するLVの力価を増加させることが尚も可能だからである。
【0566】
他の研究者は、U1 snRNA生物学の、スプライシングにおけるその役割に重要だと思われる1つの側面を特徴づけしている(Yehら(2017)Nucleic Acids Res.45(16):9679-9693)。内因性U1 snRNAはCAP結合複合体(CBC)をその5’末端にリクルートし、これはスプライシングにおけるU1 snRNPの機能に重要である。該著者は、「AU」ジヌクレオチドが、他のジヌクレオチドと比較してCBCの最適結合をもたらすことを見出し、「AU」ジヌクレオチドが真核生物内で非常に広範に保存されている理由を強く主張した。
【0567】
レンチウイルスベクターゲノムのパッケージングシグナルに標的化された修飾U1 snRNAのコンテキストにおける保存された「AU」ジヌクレオチド配列の重要性を評価するために、256U1 snRNAに基づいて多数の変異体を作製した(表V)。
【0568】
表V:ベクター力価増加に対する5’末端ジヌクレオチドの変化の影響を評価するために作製されたHIV-1 LV vRNAゲノムの256位を標的化する変異体修飾U1 snRNA。この表は、vRNAにおける15ヌクレオチド変異体256U1標的配列および塩基対、ならびに13ヌクレオチド変異体標的配列がどのように比較されるかを示す。256U1_13変異体は、計算されたT-融解温度(Tm℃)が約46℃になるように、可能な場合には標的に対する13個の連続的塩基対を維持するように設計された。修飾U1 snRNA分子の5’末端におけるジヌクレオチドが示されており、下線付きのヌクレオチドは、Yehら(2017)の知見に基づく可能な転写開始部位を表す。アスタリスクで示された変異体は、2つの表示ジヌクレオチドの最初のものが修飾snRNAの最初のヌクレオチドではない可能性が高いことを示す。U1プロモーターの転写開始部位も示されており、「aa」および「cc」を有する変異体の場合には、可能性が高い-1)TSS(灰色の枠で囲まれた「C」)を示す。
【表4】
【0569】
Yehら(2017)は、最初の1~2ヌクレオチドを変化させた場合の転写開始部位およびU1 snRNA存在量の影響に関しても報告している。彼らは、転写開始がピリミジンよりもプリンにおいて優先され、したがって、ピリミジン-プリンまたはピリミジン-ピリミジン ジヌクレオチドが1位および2位に配置された場合には、ピリミジンは次のプリンを優先して「スキップ」されることを見出した。この一般則の例外は、「UU」(この場合、転写開始は19または29ヌクレオチド下流で生じた)または「AA」/「CC」[この場合、転写開始は-1位(「C」である)で生じた]であった。「UU」変異体は256U1変異体の試験パネルには存在しなかった。変異体のパネルでは、予想される転写開始部位(Yehら(2017)による)に応じて、標的配列との塩基対形成に一方もしくは両方のヌクレオチドが関与しうる又は両方とも関与し得ない多数の異なるジヌクレオチド変異体の試験を可能にするために、標的配列の長さを15ヌクレオチドから13ヌクレオチドに減少させた。9~15ヌクレオチドの標的化配列を含有する修飾U1 snRNAは全て、力価の増加をもたらしうることが示された(
図37)。
【0570】
したがって、隣接標的化配列の全長は全ての変異体に関して13ヌクレオチドであり(尤も、正確には同じ13ヌクレオチドではない)、全ての突然変異体のT融解温度は約46℃であると予想された。HIV-EF1a-GFPベクターを懸濁(無血清)HEK293T細胞において24ウェルのスケールで製造し、ジヌクレオチド変異体U1 snRNAのそれぞれをベクター成分で個別にコトランスフェクトした。清澄化ベクター回収物を接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリーにより力価測定した。
図38に示されているデータは、「256U1無し」と比較した相対的なベクター力価を示す。これは、256_13_Gt以外の全てのジヌクレオチド変異体がベクター力価を増加させることが可能であり、ほとんどが対照256_13_aT U1 snRNAと同様の増加規模を達成したことを示している。更に、各ジヌクレオチド変異体の予想CBC結合スコア(Yehら(2017)による)と、ベクター力価の増加をもたらす各変異体の能力との間に相関性はないようであった。これは、有能なU1 snRNPスプライシング複合体の生成におけるU1 snRNAの公知CAP結合特性が、本明細書に記載されている修飾U1 snRNAのベクター力価増強効果に重要でないことを示している。変異体256_13_gT(256_13_Gtと同じジヌクレオチドを有する)がベクター力価の増加をもたらすことが可能であったことを考慮すると、これは、(前記の「UU」以外に)回避すべきジヌクレオチドが必ずしも存在しない可能性があることも示している。これらの2つの変異体U1 snRNAの標的化配列は2つのヌクレオチド(各末端における1つ)において異なっていたことに注目すべきである。256_13_ga変異体が最大のベクター力価増加を示したことに注目することは興味深いことであり、したがって、これは、レンチウイルスベクターパッケージング領域内の最良標的配列のスクリーニングに加えて、異なるジヌクレオチドを使用することによる修飾U1 snRNAの最適化が可能であることを示した。
【0571】
実施例23
漸増的スキャンによるU1 snRNAの標的部位修飾の微調整。本明細書における他の実施例は、HIV-1に基づくレンチウイルスベクターの力価を増加させるために、256U1[15nt]修飾U1 snRNA変異体を利用する。なぜなら、それは、一般に、LVの最大増加をもたらすからである。256~270の標的領域に、より近い他の標的部位が、力価増加の僅かな改善を可能にしうるかどうかを評価するために、標的配列「ウィンドウ」を256~270の標的領域から約2ntの増分で上下に有効に移動させることにより、変異体修飾U1 snRNAのセットを設計した(表VI)。この領域の標的配列における僅かな変化の重要性をより正確に把握するために、該変異体の全ては13ヌクレオチドの標的長から構成されていた(他の箇所において、13または15ヌクレオチドの標的アニーリング長を含む修飾U1 snRNAは機能的に類似していることが示されている;
図37を参照されたい)。これらの変異体修飾U1 snRNAを、HIV-1に基づくLV-EF1a-GFPベクター成分と共に、懸濁(無血清)HEK293T細胞内に個別にコトランスフェクトし(210ng/mLのプラスミド投入;実施例18を参照されたい)、得られた清澄化ベクター上清を接着性HEK293T細胞上で力価測定した(
図39)。2つの独立した実験からの平均結果は、この場合、253U1-13nt、255U1-13ntおよび245U1-13nt変異体修飾U1 snRNAが、256U1-15ntの使用と比較して若干改善された力価増強効果を可能にしたことを示している。データは、修飾U1 snRNA(例えば、この場合はHIV-EF1a-GFP)の使用により適度に増強されたLVゲノムの場合であっても、特定の標的部位および標的アニーリング長を変化させることにより、力価増加を最大化するために厳密な標的配列が微調整されうることを示している。
【0572】
表VI:変異体修飾U1 snRNA内の標的アニーリング配列(標的配列に相補的な異種配列)、および微調整研究において使用されたそれらの標的配列を記載する配列一覧。ヌクレオチドは「再標的化領域」においてそれぞれの発現カセット内でコードされるため、ヌクレオチドはDNAとして示されている。全ての初期構築物に(AT)ジヌクレオチドが存在し、これは、それぞれの場合において、U1 snRNA分子の最初の2つのヌクレオチドを構成する。全ての変異体は13ヌクレオチドの標的化長を含み、標的部位を256U1標的部位の上流または下流に有効に移動させた(コンテキストに示されている256U1_15nt配列)。2つの変異体における太字の「T」ヌクレオチドは標的との塩基対形成に関与する(全ての変異体で13ヌクレオチドの長さを維持する)。標的配列番号は、示されている場合には、HIV-1のNL4-3(GenBank:M19921.2)またはHXB2(GenBank:K03455.1)株における標的を意味する。なぜなら、この研究におけるレンチウイルスベクターゲノムは、これらの2つの高度に保存された株から構成されるハイブリッドパッケージングシグナルを含有していたからである(パッケージング配列はGenBank:MH782475.1におけるベクター配列に最も類似していた)。
【表5】
【0573】
実施例24
5’パッケージングシグナル配列領域に標的化された修飾U1 snRNAを使用した非霊長類レンチウイルスベクターの産出力価の増強。修飾U1 snRNAが非霊長類レンチウイルスベクターの増強を可能にしうるかどうかを評価するために、EIAVベクターゲノムの5’パッケージング領域に対して15ntの標的化配列長を有する修飾U1 snRNAのパネルを設計した(表VII)。これらの変異体はR領域から保持gag領域(パッケージング配列のもの)までを標的化した。EIAV-CMV-GFPおよびEIAV-EF1a-GFPベクターを、修飾eU1 snRNA発現構築物の存在下または非存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において製造した。清澄化ベクター回収物を接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続くフローサイトメトリーにより力価測定した。U1 snRNAの非存在下の場合と比較して相対力価をプロットした(
図40)。データは、HIV-1に基づくLVで観察されたのに類似した様態で、修飾U1 snRNAの使用により、EIAVに基づくLVの産出力価が(この場合は最大300%)増加しうることを示しており、これは普遍的な作用メカニズムを示している。スクリーニングは、プライマー結合部位領域(121U1e)上またはその近傍、およびgag配列の最初のヌクレオチド(260U1e)における最適な標的部位を特定した。
【0574】
表VII:EIAVに基づくレンチウイルスベクターゲノムvRNAの5’パッケージング領域に標的化された修飾U1 snRNA。この表は、EIAVベクターゲノムvRNA(SPEIAV-19株)の修飾U1 snRNA(全15ntの再標的化配列)の名称および標的配列を示す。下線付きのヌクレオチドはEIAVパッケージング領域のgag領域内のATG突然変異を表す。
【表6】
【0575】
実施例25
5’パッケージングシグナル配列領域に標的化された修飾U1 snRNAを使用した非霊長類レンチウイルスベクター(SIVagm)の産出力価の増強。修飾U1 snRNAが非霊長類レンチウイルスベクターの増強を可能にしうるかどうかを評価するために、SIVベクターゲノムの5’パッケージング領域に対して15ntの標的化配列長を有する修飾U1 snRNAのパネルを設計した(表VIII)。これらの変異体はR領域から保持gag領域(パッケージング配列のもの)までを標的化した。表VIIIに概要説明されている標的アニーリング配列を含有する修飾U1 snRNA発現構築物の存在下または非存在下、懸濁(無血清)HEK293T細胞において、SIVベクターを製造した。清澄化ベクター回収物を接着性HEK293T細胞の形質導入およびそれに続く組込みアッセイにより力価測定した。U1 snRNAの非存在下の場合と比較して力価をプロットした(
図41)。データは、5’パッケージングシグナル配列領域に標的化された修飾U1 snRNAがSIVベクター力価を2倍増加させうることを示している(386U1sおよび415U1sを参照されたい)。パッケージング配列の一部を構成する保持gag配列の直上流に配列を標的化するための「ホットスポット」が存在するようであった。
【0576】
表VIII:SIVagmに基づくレンチウイルスベクターゲノムvRNAの5’パッケージング領域に標的化された修飾U1 snRNA。この表は、SIVagmベクターゲノムvRNA(TYO-1株)の修飾U1 snRNA(全15ntの再標的化配列)の名称および標的配列を示す。
【表7】
【0577】
前記の本明細書に挙げられている全ての刊行物を参照により本明細書に組み入れることとする。本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本発明の記載されている方法および系の種々の修飾および変更が当業者に明らかであろう。
【0578】
本発明は特定の好ましい実施形態に関して記載されているが、特許請求している本発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないと理解されるべきである。実際、分子生物学または関連分野の当業者に明らかである、本発明を実施するための記載されている態様の種々の修飾が、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれると意図される。
【配列表】
【国際調査報告】