(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】FKRPの心毒性を軽減する遺伝子治療発現系
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20221116BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221116BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221116BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221116BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/12 ZNA
A61P43/00 111
A61P21/00
A61P25/00
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/76
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022516701
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2020076063
(87)【国際公開番号】W WO2021053124
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エヴリーヌ・ジケル
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA18
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC021
4C084ZC022
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA33
4C087ZA94
4C087ZC02
(57)【要約】
本発明は、FKRPタンパク質をコードする配列、並びに- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となるプロモーター配列、及び心臓において発現するmiRNAの標的配列、又は- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となり、心臓において毒性が許容されるレベルのプロモーター活性を呈するプロモーター配列を含む、全身投与のための発現系と、FKRP欠乏に関連する種々の疾患の治療のためのこの使用とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FKRPタンパク質をコードする配列、並びに
- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となるプロモーター配列、及び心臓において発現するmiRNAの標的配列、又は
- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となり、心臓において毒性が許容されるレベルのプロモーター活性を呈するプロモーター配列
を含む、全身投与のための発現系。
【請求項2】
FKRPタンパク質が、配列番号5の配列を有する、請求項1に記載の発現系。
【請求項3】
FKRPタンパク質をコードする配列が、配列番号1又は配列番号3又は配列番号4のヌクレオチド1659~3146を含むか又はこれからなる、請求項1に記載の発現系。
【請求項4】
miR208aの少なくとも1つの標的配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項5】
miR208aの標的配列が、配列番号2の配列を有する、請求項4に記載の発現系。
【請求項6】
デスミンプロモーター、有利には、配列番号6の配列のデスミンプロモーターを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項7】
配列番号3のヌクレオチド146~3946又は配列番号4のヌクレオチド146~3974を含むか又はこれからなる、請求項6に記載の発現系。
【請求項8】
カルパイン3遺伝子のプロモーター配列、好ましくは、配列番号7の配列のカルパイン3遺伝子のプロモーター配列、又はmiR206のプロモーター配列、好ましくは、配列番号8の配列のmiR206のプロモーター配列を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項9】
心臓に対するよりも骨格筋に対して高い指向性を有するベクターを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項10】
ウイルスベクター、有利には、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、好ましくは、血清型8又は9、より好ましくは、血清型9のAAVベクターを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項11】
AAV2/8又はAAV2/9ベクター、有利には、AAV2/9ベクターを含む、請求項10に記載の発現系。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の発現系を含む医薬組成物。
【請求項13】
遺伝子治療における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の発現系、又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
FKRP欠乏に関連するか、又はαジストログリカン(α-DG)グリコシル化における欠陥により誘導される、有利には、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)及び筋・眼・脳病(MEB)、有利には、LGMD2Iからなる群から選択される、病態の治療における使用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の発現系、又は請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
全身的に、好ましくは、静脈内注射により投与される、請求項13又は14に規定の使用のための発現系又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FKRP(フクチン関連タンパク質)遺伝子導入発現の心毒性の同定に基づく。これにより、特に、FKRPの心臓発現を調節、すなわち、部分的に脱標的化することにより、心臓におけるFKRP毒性を軽減するための発現系がもたらされる。次いで、これにより、FKRP欠乏と関連する種々の疾患、例えば、肢帯筋ジストロフィーR9型(LGMD2 R9)と新たに名付けられた肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)の治療のための有用かつ安全な治療ツールがもたらされる。
【背景技術】
【0002】
「ジストログリカノパシー」により、αジストログリカン(αDG)の二次的グリコシル化異常を引き起こす種々の遺伝的病態が再群化される。骨格筋、心臓、眼、及び脳組織に主に存在するこのタンパク質は、高グリコシル化膜タンパク質であり、このグリコシル化プロセスにより、その分子量は筋肉において70~156kDaに増加する。これは、細胞骨格を細胞外マトリクス(ECM)に結合するジストロフィン-糖タンパク質複合体の一部分である。高レベルのグリコシル化により、一部のECMタンパク質、例えば、心臓及び骨格筋におけるラミニン、神経筋接合部におけるアグリン及びパールカン、脳におけるニューレキシン、並びに網膜におけるピカチュリンのラミニン球状ドメインにαDGが直接的に結合することが可能となる。αDGのグリコシル化は、複雑なプロセスであり、未だ完全には理解されていない。実際、多数の遺伝子が、αDGグリコシル化に関与するものとして同定されている。このような発見は、αDGグリコシル化の欠陥を示す患者における変異検出のためのハイスループットシーケンシング方法の使用によって最近加速している。このようなタンパク質のうちの1つは、フクチン関連タンパク質(FKRP)である。この配列に多くのグリコシルトランスフェラーゼに共通するDxDモチーフが存在し、FKRP遺伝子が変異した患者においてαDGの低グリコシル化が証明されたため、推定αDGグリコシルトランスフェラーゼとして元々分類されていた(Bretonら、1999; Brockingtonら、2001)。最近、FKRP及びこの相同体であるフクチンは、リガンド結合部分の付加に必要なdi-Rbo5Pリンカーを形成するリビトール-5-リン酸(Rbo5P)トランスフェラーゼとして同定された(Kanagawaら、2016)。
【0003】
FKRP遺伝子における変異によって、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I;Mullerら、2005;新名称:肢帯筋ジストロフィーR9型すなわちLGMD2 R9)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C;Brockingtonら、2001)からウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)及び筋・眼・脳病(MEB;Beltran-Valero de Bernabeら、2004)までのαDGグリコシル化における欠陥により誘導される全範囲の病態が生じ得る。疾患の重症度と患者数の間に逆相関が存在し、重症であるほど、患者はまれである(www.orphanet.frに示される有病率:WWS(全ての遺伝子):1~9/1,000,000及びLGMD2I:1~9/100,000)。病態の型は、少なくとも部分的にFKRP変異の性質に相関すると思われる。特には、276番目のタンパク質においてロイシンをイソロイシンにより置換するホモ接合L276I変異は、LGMD2Iと常に関連する(Mercuriら、2003)。LGMD2Iは、肩及び骨盤帯の筋肉を不均一ではあるが選択的に侵す常染色体劣性筋ジストロフィーである。これは、特に、北欧においてL276I変異の有病率が高いため、欧州における最も高頻度のLGMD2のうちの1つである(Sveenら、2006)。病態の重症度は、非常に不均一である。筋肉の症候は、生後から20歳代までに現れ、デュシェンヌ様疾患から比較的良性の経過まで異なり得る。また、心臓は、重度の心不全及び死亡等の結果に至ることがある(Mullerら、2005)。心臓の磁気共鳴画像診断を使用する調査では、非常に高い割合のLGMD2I患者(60~80%)が、心筋機能不全、例えば、駆出率の低下を呈し得ることが示唆される(Wahbiら、2008)。興味深いことには、心臓異常の重症度は、骨格筋障害には相関しない。Rosalesら(2011)は、7人の患者のコホートに基づいて、重度の拡張型心筋症が生じ得るが(1人の患者)、LGMD2Iによって、軽度の構造性及び機能性心臓異常が一般に生じると結論づけた。また、Petriら(2015)は、LGMD2を有する患者内で、LVEF(左室駆出率)が、LGMD2I型を有する患者(n=28)において59%(15~72)~55%(20~61)に有意(p=0.03)に低下(すなわち、毎年0.4パーセントの降下)し、≦50%のLVEFが、この亜群における死亡率の上昇と関連したことを観察した。
【0004】
Gicquelら(Hum Mol Genet、2017年3月3日、doi: 10.1093/hmg/ddx066)はFKRPL276Iマウスモデルの作製を報告しており、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV2/9)による、デスミンプロモーターの制御下に配置したマウスFkrp遺伝子、及びベータヘモグロビン(HBB2)遺伝子のポリアデニル化(ポリA)シグナルの導入を評価した。筋肉内又は静脈内送達の後、筋肉の病態の改善を観察した。これらのマウスは、mRNA並びにタンパク質レベルにおけるFKRPの強力な発現を得て、αDGの適切なグリコシル化の回復及びラミニン結合の増加を示し、ジストロフィーの組織学的及び機能的回復が生じた。国際公開第2019/008157号に報告されているように、この構築物の筋肉での効率性は、フレームシフト開始コドンから生成される補足的転写物を回避する変異を有するFKRPコード配列を使用することにより、更に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/008157号
【特許文献2】国際公開第2014/167253号
【特許文献3】国際公開第2016/138387号
【特許文献4】国際公開第2007/000668号
【特許文献5】米国特許第7,282,199号)
【特許文献6】国際公開第2005/033321号
【特許文献7】米国特許第6,156,303号
【特許文献8】国際公開第2003/042397号
【特許文献9】国際公開第2003/123503号
【特許文献10】国際公開第2019/193119号
【特許文献11】PCT/欧州特許第2020/061380号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bretonら、1999
【非特許文献2】Brockingtonら、2001
【非特許文献3】Kanagawaら、2016
【非特許文献4】Mullerら、2005
【非特許文献5】Beltran-Valero de Bernabeら、2004
【非特許文献6】www.orphanet.fr
【非特許文献7】Mercuriら、2003
【非特許文献8】Sveenら、2006
【非特許文献9】Wahbiら、2008
【非特許文献10】Rosalesら(2011)
【非特許文献11】Petriら(2015)
【非特許文献12】Gicquelら(Hum Mol Genet、2017年3月3日、doi: 10.1093/hmg/ddx066)
【非特許文献13】Piekarowiczら(2017、European Society Of Gene & Cell Therapy conference、ポスターP096; HUMAN GENE THERAPY 28:A44 (2017)、DOI: 10.1089/hum.2017.29055.要約)
【非特許文献14】Hauserら(2000、Molecular Therapy、Vol. 2、No 1、16~24頁)
【非特許文献15】Wangら(2008、Gene Therapy、Vol. 15、1489~99頁)
【非特許文献16】Corinら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci.、Vol. 92、6185~89頁)
【非特許文献17】Blainら、2010、Human Gene Therapy、Vol. 21、127~34頁
【非特許文献18】E.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【非特許文献19】Toromanoffら(2008)
【非特許文献20】「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook、2012)
【非特許文献21】「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984)
【非特許文献22】「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010)
【非特許文献23】「Methods in Enzymology」(Weir、1997)
【非特許文献24】「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997)
【非特許文献25】「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987)
【非特許文献26】「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002)
【非特許文献27】「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」(Babar、2011)
【非特許文献28】「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)
【非特許文献29】Bartoliら、2006
【非特許文献30】Apparaillyら、2005
【非特許文献31】Gicquelら、P094、Conference European Society Of Gene & Cell Therapy 2017、doi: 10.1089/hum.2017.29055.要約
【非特許文献32】Gicquelら、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、FKRPに基づく遺伝子置換治療は、FKRP欠乏から生じる病態の有望な治療であると思われる。しかし、安全かつ効率的な治療の必要性が、なお存在する。
【0008】
遺伝子治療に関しては、安全な発現系は、標的組織、すなわち、天然タンパク質の欠乏に関連する異常の治癒に前記タンパク質を必要とする組織における、治療有効量のタンパク質の産生を、特には、必須かつ生命維持に必要な臓器又は組織において、いかなる毒性をも呈することなく確実とするものとして定義する。
【0009】
例えば、神経筋疾患に関して、国際公開第2014/167253号では、ミオチューブラリン及びカルパイン3をコードする発現系は、全身投与した場合に心毒性を有するが、前記毒性は、心臓において発現するmiRNAの標的配列を前記構築物に導入するか、又は心臓において毒性が許容されるレベルのプロモーター活性を呈するか若しくは活性を全く有しないプロモーター配列を使用することにより、軽減することができることが報告された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、標的組織、主に、骨格組織における治療有効量のタンパク質、及び心臓における毒性が許容される量のタンパク質の産生を確実とする発現系を提供することによる、フクチン関連タンパク質(FKRP)欠乏に関連する壊滅的な病態、例えば、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)の軽減又は治癒を目的とする。
【0011】
実際、発明者らは、FKRPをコードする発現系の潜在的心毒性を検出した。これは、フクチン関連タンパク質(FKRP)欠乏に関連する病態、例えば、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)を有する患者が、心臓異常をも頻繁に呈するまで予想されていなかった。したがって、一般的知識によれば、心臓における持続的レベルのFKRP発現は、特に、FKRP関連疾患の心臓の症候を軽減するのに有益であると考えられた。
【0012】
候補遺伝子及び関連病態のリストを提供する国際公開第2014/167253号の文書では、FKRPに関して全く言及していないことに注目すべきである。他方、国際公開第2016/138387号の文書では、FKRPの推定的肝毒性、及び肝臓における発現を減少させるための、発現系におけるmir122標的配列の使用可能性に単に言及した。最終的には、国際公開第2019/008157号の文書では、発現を望まない又は有毒でさえある組織において発現を阻害するmiRNA標的配列を加える可能性を開示しているが、心臓の脱標的化は動機付けしていない。
【0013】
定義
他に定義しない限り、本明細書において使用する全ての技術的及び科学的用語は、当業者により一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書において使用する用語法は、特定の実施形態のみを記載する目的のためのものであり、制限とすることは意図しない。
【0014】
「a」及び「an」の冠詞は、冠詞の文法的対象の1つ又は1つよりも多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において使用する。例として、「an element」は、1つの要素又は1つよりも多い要素を意味する。
【0015】
本明細書において使用する「約」又は「およそ」は、測定可能な値、例えば、量、時間的期間等を指す場合、特定の値から±20%又はプラスマイナス10%、より好ましくは、±5%、更により好ましくは、±1%、なお更に好ましくは、±0.1%の変動を、このような変動が、開示の方法を実施するのに適切であるように包含することを意味する。
【0016】
範囲:本開示を通じて、本発明の種々の態様は、範囲の形式により提示することができる。範囲の形式による説明が、単に便宜及び簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する確固たる制限として解釈されるべきでないことが理解されるべきである。したがって、範囲の説明は、具体的に開示するあらゆる部分範囲、並びにこの範囲内の個々の数値を有すると考えられるべきである。例えば、1~6の範囲の説明は、具体的に開示する部分範囲、例えば、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等、並びにこの範囲内の個々の数値、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3及び6を有すると考えられるべきである。これは、範囲の幅にかかわらず適用する。
【0017】
「単離物」は、自然状態から変化させたか又は除去したものを意味する。例えば、生きている動物に自然に存在する核酸又はペプチドは、「単離物」ではないが、自然状態の共存する物質から部分的又は完全に分離した同一の核酸又はペプチドは、「単離物」である。単離核酸又はタンパク質は、実質的に精製した形態で存在し得るか、又は例えば、宿主細胞のような非天然環境において存在し得る。
【0018】
本発明の文脈では、一般に存在する核酸塩基の次の略号を使用する。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、「U」はウリジンを指す。
【0019】
「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重型であり、同一のアミノ酸配列をコードする、全てのヌクレオチド配列を含む。また、タンパク質又はRNA若しくはcDNAをコードするヌクレオチド配列の句は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、一部の型においてイントロンを含み得る程度にイントロンを含み得る。
【0020】
「コード」は、定義のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA及びmRNA)又は定義のアミノ酸配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおける他のポリマー及び高分子の合成のための鋳型として作用する、ポリヌクレオチドにおける特定のヌクレオチド配列、例えば、遺伝子、cDNA又はmRNAの固有の特性、並びにこれから生じる生物学的特性を指す。したがって、遺伝子は、この遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳によって細胞又は他の生物系においてタンパク質が産生される場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり、通常、配列表に提示されるヌクレオチド配列であるコード鎖、及び遺伝子又はcDNAの転写のための鋳型として使用する非コード鎖の両方は、タンパク質又はこの遺伝子若しくはcDNAの他の産物をコードするものとすることができる。
【0021】
本明細書において使用する「ポリヌクレオチド」の用語は、ヌクレオチドの鎖として定義する。その上、核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書において使用する核酸及びポリヌクレオチドは、互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、これを単量体の「ヌクレオチド」に加水分解可能であるという一般知識を有する。単量体のヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解され得る。本明細書において使用する場合、ポリヌクレオチドは、限定されないが、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術及びPCR等を使用する、組換えライブラリー又は細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング、並びに合成的手段を含む、当技術分野において利用可能な任意の手段により得られる全ての核酸配列を含むが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書において使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」の用語は、互換的に使用し、ペプチド結合により共有結合するアミノ酸残基からなる化合物を指す。タンパク質又はペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなければならず、タンパク質又はペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大数に対する制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合により相互に連結する2つ以上のアミノ酸を含む、任意のペプチド又はタンパク質を含む。本明細書において使用する場合、この用語は、当技術分野において一般に、例えば、ペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも呼ばれる短鎖、並びに当技術分野において一般に、多くの種類が存在するタンパク質と呼ばれる長鎖の両方を指す。「ポリペプチド」は中でも、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同のポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、又はこれらの組合せを含む。
【0023】
タンパク質は、「変化」させてもよく、サイレント変異をもたらし機能的等価物が生じるアミノ酸残基の欠失、挿入、又は置換を含む。計画的なアミノ酸置換は、生物学的活性が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性における類似性に基づいて行い得る。例えば、負荷電アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含んでもよく、正荷電アミノ酸は、リジン及びアルギニンを含んでもよく、類似の疎水性値を有する無荷電極性頭部基を有するアミノ酸は、ロイシン、イソロイシン、及びバリン、グリシン及びアラニン、アスパラギン及びグルタミン、セリン及びスレオニン、並びにフェニルアラニン及びチロシンを含んでもよい。
【0024】
本明細書において使用する「バリアント」は、1つ又は複数のアミノ酸により変化させたアミノ酸配列を指す。バリアントは、置換されたアミノ酸が類似の構造又は化学特性を有する「保存的」変異、例えば、ロイシンのイソロイシンとの置換を有し得る。また、バリアントは、「非保存的」変異、例えば、グリシンのトリプトファンとの置換を有し得る。また、類似する軽微な変異は、アミノ酸の欠失若しくは挿入、又はこの両方を含み得る。生物学的又は免疫学的活性を消失させることなく置換、挿入、又は欠失させ得るアミノ酸残基の決定におけるガイダンスは、当技術分野において周知のコンピュータプログラムを使用して見出し得る。
【0025】
「同一」又は「相同」は、2つのポリペプチド間又は2つの核酸分子間の配列同一性又は配列類似性を指す。2つの比較する両配列の位置が、同一の塩基又はアミノ酸単量体サブユニットにより占有される場合、例えば、2つのDNA分子の各々における位置が、アデニンにより占有される場合、分子は、この位置において相同又は同一である。2つの配列間の相同性/同一性のパーセントは、2つの配列により共有される一致する位置の数を比較した位置の数で割って100をかけた関数である。例えば、2つの配列において10のうち6個の位置が一致する場合、2つの配列は、60%同一である。一般には、2つの配列をアラインメントした場合に比較を行って、最大相同性/同一性を得る。
【0026】
「ベクター」は、単離核酸を含み単離核酸を細胞内部に送達するのに使用可能な、物質の組成物である。多数のベクターが当技術分野において公知であり、直鎖ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物と関連するポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスを含むが、これらに限定されない。したがって、「ベクター」の用語は、自己複製プラスミド又はウイルスを含む。また、この用語は、細胞内への核酸の導入を容易とする非プラスミド及び非ウイルス化合物、例えば、ポリリジン化合物、リポソーム等を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
「発現ベクター」は、発現するヌクレオチド配列に作動可能に結合する発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なcis作用エレメントを含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞、又はin vitroでの発現系により供給することができる。発現ベクターは、組換えポリヌクレオチドを組み込む、当技術分野において公知のこのような全て、例えば、コスミド、プラスミド(例えば、裸又はリポソームに含まれる)及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)を含む。
【0028】
本明細書において使用する「プロモーター」の用語は、細胞の転写機構、又はポリヌクレオチド配列の特定の転写を開始するのに必要とされる導入された転写機構により認識されるDNA配列として定義する。
【0029】
本明細書において使用する場合、「プロモーター/制御配列」の用語は、プロモーター/制御配列に作動可能に結合する遺伝子産物の発現のために必要とされる核酸配列を意味する。一部の例では、この配列は、コアプロモーター配列である場合があり、他の例では、この配列は、エンハンサー配列、及び遺伝子産物の発現に必要とされる他の制御エレメントをも含む場合がある。プロモーター/制御配列は、例えば、遺伝子産物を組織特異的に発現する配列であり得る。
【0030】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は特定化するポリヌクレオチドと作動可能に結合する場合、細胞の殆ど又は全ての生理学的条件下で細胞において産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0031】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は特定化するポリヌクレオチドと作動可能に結合する場合、プロモーターに対応するインデューサーが細胞に存在するときにのみ細胞において実質的に産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0032】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子によりコード又は特定化されるポリヌクレオチドと作動可能に結合する場合、細胞が、プロモーターに対応する組織型の細胞であるときに細胞において選択的に産生される遺伝子産物を生じる、ヌクレオチド配列である。
【0033】
「異常な」の用語は、生物、組織、細胞、又はこれらの成分の文脈において使用する場合、少なくとも1つの観察可能又は検出可能な特性(例えば、年齢、治療、時刻等)において、「正常な」(予想される)それぞれの特性を呈する生物、組織、細胞、又はこれらの成分とは異なる生物、組織、細胞、又はこれらの成分を指す。ある細胞又は組織型に対して正常であるか又は予想される特性は、異なる細胞又は組織型に対しては異常であり得る。
【0034】
「患者」、「対象」、「個体」等の用語は、本明細書において互換的に使用し、in vitro又はin situにかかわらず、本明細書に記載の方法に適する任意の動物、又はこの細胞を指す。対象は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌだけでなく、マウス、ラット又は非ヒト霊長類であり得る。特定の非限定的実施形態では、患者、対象、又は個体は、ヒトである。
【0035】
「疾患」又は「病態」は、対象が恒常性を維持することができず、疾患が回復しない場合、対象の健康が悪化し続ける、対象の健康状態である。対照的に、対象における「障害」は、対象が恒常性を維持することができるが、対象の健康状態が、障害が存在しない状態ほど好ましくない、健康状態である。無治療のままでも、障害による対象の健康状態の更なる低下は必ずしも生じない。
【0036】
疾患又は障害は、疾患又は障害の症候の重症度、このような症候を患者が経験する頻度、又はこの両方が低下する場合、「軽減」又は「回復」する。また、これは、疾患又は障害の進行の停止を含む。疾患又は障害は、疾患又は障害の症候の重症度、このような症候を患者が経験する頻度、又はこの両方が除去される場合、「治癒」する。
【0037】
「治療学的」治療は、病態の徴候を示す対象に施される、このような徴候を減少させるか又は除去する目的のための治療である。「予防的」治療は、病態の徴候を示さないか又は病態の診断を未だ受けていない対象に施される、このような徴候の発生を予防又は延期する目的のための治療である。
【0038】
本明細書において使用する場合、「疾患又は障害の治療」は、対象が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの徴候又は症候の頻度又は重症度を低下させることを意味する。疾患又は障害は、本明細書では、治療の文脈において互換的に使用する。
【0039】
化合物の「有効量」は、化合物を投与する対象に有益な作用をもたらすのに十分な化合物の量である。「治療有効量」の句は、本明細書において使用する場合、このような疾患の症候の軽減を含む、疾患又は症状を予防又は治療する(この発症を遅延若しくは予防するか、この進行を予防するか、阻害、減少、又は逆転させる)のに十分又は有効な量を指す。送達媒体の「有効量」は、化合物を効率的に結合させるか又は送達するのに十分な量である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、全身投与後、骨格筋における高レベルのFKRPタンパク質の産生を意図する発現系により、潜在的に有毒となる心臓における発現が同時に生じて、前記系が治療学的使用に不適となり得るという発明者らによる同定に基づく。
【0041】
特には、心臓漏出過剰に加えてFKRP導入遺伝子の骨格筋発現に関する、この新たに同定された問題の技術的解法を本発明において提供する。
【0042】
したがって、一般に、本発明は、FKRPタンパク質をコードする配列を含む発現系であって、
- 標的組織、有利には、骨格筋におけるタンパク質の治療学的に許容されるレベルの発現、及び
- 全ての組織、特には、心臓における毒性が許容されるレベルのタンパク質の発現
が可能となる、発現系に関する。
【0043】
本発明の枠組みでは、発現系は、in vivoでのFKRP産生が可能となるポリヌクレオチドとして一般に定義する。一態様によれば、前記系は、FKRPタンパク質をコードする核酸、並びにこの発現に必要とされる制御エレメント、少なくともプロモーターを含む。次いで、前記発現系は、発現カセットに対応し得る。或いは、前記発現カセットは、ベクター又はプラスミドにより内包させることができる。「発現系」の表現は、本明細書において使用する場合、全ての態様を包含する。
【0044】
本発明によれば、標的組織は、特には、そのタンパク質をコードする天然遺伝子に欠陥がある場合、タンパク質が治療学的役割を果たすべき組織又は臓器として定義する。本発明の特定の実施形態によれば、標的組織は、横紋骨格筋と名付けられ、以降は骨格筋、すなわち、運動機能に関与する全ての筋肉及び横隔膜と呼ばれる。他の潜在的標的組織は、網膜及び脳である。
【0045】
上に言及したように、心臓もFKRP欠乏に関連する種々の疾患に侵される可能性があり、したがって心臓も潜在的標的組織である。しかし、本出願の枠組みでは、FKRPは、高発現した場合、心毒性を呈し得ることを示す。したがって、遺伝子導入に関しては、心臓異常が、種々の戦略、例えば、β遮断薬、利尿薬、又はACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬を使用して治療し得るため、発現系は、心臓におけるFKRP発現を、治療学的に許容されるレベルではなく、毒性が許容されるレベルで支持するべきである。
【0046】
本出願において実証するように、FKRPが心臓において果たす治療学的役割を有し得るとしても、この組織における過剰量、特には、内在的量を過剰に上回る量のこのタンパク質が、有害又は更には致命的であり、したがって有毒であると判明し得るため、この発現レベルは、厳密に制御するべきである。
【0047】
したがって、本発明の文脈では、心臓は、この潜在的毒性から保護しなければならない。特定の実施形態によれば、本発明の発現系は、心臓における毒性が許容されるタンパク質レベルのFKRP発現を確実とする。
【0048】
したがって、特定の態様によれば、本発明は、FKRPタンパク質をコードする配列を含む発現系であって、
- 骨格筋、場合により、網膜及び脳を含む、標的組織におけるタンパク質の治療学的に許容されるレベルの発現、及び
- 全ての組織、特には、心臓における毒性が許容されるレベルのタンパク質の発現
が可能となる、発現系に関する。
【0049】
有利には、本発明は、FKRPタンパク質をコードする配列を含む、全身投与のための発現系であって、
- FKRPが、骨格筋において治療学的に許容されるレベルで発現し、
- FKRPが、心臓において毒性が許容されるレベルで発現する、
発現系に関する。
【0050】
第1の特性によれば、本発明の発現系は、導入遺伝子に対応する、FKRPタンパク質をコードする配列を含む。本発明の文脈では、「導入遺伝子」の用語は、本発明の発現系を使用してトランスに配置された配列、好ましくは、オープンリーディングフレームを指す。
【0051】
特定の実施形態によれば、この配列は、発現系を導入する体内のゲノムに存在する内在性配列の同一又は等価なコピーである。
【0052】
別の特定の実施形態によれば、内在性配列は、タンパク質が、部分的若しくは完全に非機能性となるか、又は更には存在しなくなる(内在性タンパク質の発現又は活性の欠如)か、或いは所望の細胞内区画に適切に配置されなくなる、1つ又は複数の変異を有する。換言すれば、好ましくは、本発明の発現系は、タンパク質をコードする配列の欠陥コピーを有し、関連病態を有する対象に投与することを意図する。したがって、この文脈では、本発明の発現系が保有する配列によりコードされるタンパク質は、変異によりFKRP欠乏に関連する病態が生じるタンパク質として定義することができる。
【0053】
したがって、より一般には、本発明の発現系が保有する配列は、FKRP欠乏に関連する病態の文脈において、治療活性を有するタンパク質をコードする配列として定義することができる。治療活性の概念は、「治療学的に許容されるレベル」の用語に関して、以下のように定義する。
【0054】
「オープンリーディングフレーム」からORFとも名付けられるFKRPタンパク質をコードする配列は、核酸配列又はポリヌクレオチドであり、特には、一本又は二本鎖DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)又はcDNA(相補性デオキシリボ核酸)であり得る。
【0055】
有利には、前記配列は、特には、骨格筋において、機能性タンパク質、すなわち、その天然又は必須の機能を確実とすることが可能なタンパク質をコードする。これは、本発明の発現系を使用して産生されるタンパク質が、適切に発現及び配置され、活性であることを意味する。
【0056】
好ましい実施形態によれば、前記配列は、天然タンパク質をコードし、前記タンパク質は、好ましくは、ヒト起源である。また、これは、このタンパク質の誘導体又は断片であり得るが、但し、誘導体又は断片は、所望の活性を保持する。好ましくは、「誘導体」又は「断片」の用語は、ヒトFKRP配列との少なくとも60%、好ましくは、70%、更により好ましくは、80%又は更には90%、95%若しくは99%の同一性を有するタンパク質配列を指す。例えば、別の起源(非ヒト哺乳動物等)由来、又は切断型、若しくは更には変異したタンパク質であるが、活性なタンパク質を包含する。したがって、本発明の文脈では、「タンパク質」の用語は、その起源にかかわらず、完全長タンパク質、並びにこの機能性誘導体及び断片として理解される。
【0057】
特定の態様では、本発明による発現系により治療する疾患は、FKRPタンパク質の非産生、又は完全若しくは部分的非機能性タンパク質の産生を生じる、少なくとも1つの遺伝子における変異により生じる。本発明によれば、発現系は、活性形態で、かつ天然タンパク質の非存在を少なくとも部分的に補う量のこのタンパク質、又は天然タンパク質の非存在を補うことが可能な別のタンパク質の産生に役立つ。したがって、発現系の投与により、可動性及び呼吸の観点から、標的組織、特には、骨格筋における正常な表現型の向上又は回復が可能となる。
【0058】
目的のタンパク質は、本発明の文脈では、例えば、マウス、ラット又はイヌ型(この配列は、データベースにおいて利用可能)を使用し得るとしても、有利には、ヒト起源のFKRP(配列番号5)である。
【0059】
特定の実施形態によれば、FKRPタンパク質は、配列番号5に示す配列(495aaのタンパク質に対応する)からなるか又はこれを含むタンパク質である。特定の実施形態によれば、FKRPは、配列番号5によりコードされる天然ヒトFKRPと同一の機能、特には、αジストログリカン(αDG)をグリコシル化し、及び/又はFKRPの欠陥と関連する症候の1つ又は複数、特には、上に開示するLGMD2I表現型を少なくとも部分的に軽減する能力を有するタンパク質である。これは、この断片及び/又は誘導体であり得る。一実施形態によれば、前記FKRP配列は、配列番号5の配列との60%、70%、80%、90%、95%又は更に99%以上の同一性を有する。
【0060】
このようなタンパク質、この機能性治療誘導体又は断片をコードする任意の配列は、本発明の発現系の一部分として組み入れることができる。例として、対応するヌクレオチド配列(cDNA)は、国際公開第2019/008157号における配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7又は配列番号8の配列として同定された配列である。
【0061】
特定の実施形態によれば、FKRPをコードする配列は、配列番号1、配列番号3又は配列番号4の配列のヌクレオチド1659~3146を含むか又はこれからなる。
【0062】
FKRP遺伝子における変異によって、公知のように、αDGグリコシル化における欠陥により誘導される全範囲の病態が、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I;Mullerら、2005)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C;Brockingtonら、2001)からウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)及び筋・眼・脳病(MEB;Beltran-Valero de Bernabeら、2004)まで生じ得る。したがって、遺伝子の置換又は導入の戦略によれば、例えば、天然の治療FKRPをコードする配列のトランスな配置は、前記病態を治療するのに役立つ。
【0063】
本発明では、その変異により、1つ又は複数の標的組織、特には、骨格筋における疾患が生じ、発現系による産生が、少なくとも1つの組織、特には、心臓における毒性を示す、FKRPに言及する。
【0064】
本発明によれば、有利には、発現系により、骨格筋におけるFKRPタンパク質の治療学的に許容されるレベルの発現が可能となるはずである。
【0065】
その上、別の好ましい実施形態によれば、これにより、心臓における毒性が許容されるレベルのFKRPタンパク質の発現が可能となるはずである。
【0066】
本発明の文脈では、「タンパク質の発現」の用語は、「タンパク質の産生」として理解され得る。したがって、発現系により、上に定義するレベルのタンパク質の転写及び翻訳の両方が可能となるはずである。また、前記タンパク質の正確な折畳み及び局在化が重要である。
【0067】
本発明の文脈において定義するレベル、すなわち、「治療学的に許容される」及び「毒性が許容される」レベルは、タンパク質の量、並びにこの活性に関連する。
【0068】
所与の組織において産生されたタンパク質の量の評価は、前記タンパク質に対する抗体を使用する免疫検出、例えば、ウエスタンブロット若しくはELISA、又は質量分析により行うことができる。或いは、対応するメッセンジャーRNAは、例えば、PCR又はRT-PCRにより定量し得る。この定量は、組織の1つの試料、又はいくつかの試料に対して実施することができる。したがって、標的組織が骨格筋である場合では、これは、1つの筋型、又はいくつかの筋型(例えば、四頭筋、横隔膜、前脛骨筋、三頭筋等)に対して実行し得る。
【0069】
本発明の文脈では、「治療学的に許容されるレベル」の用語は、本発明の発現系により産生されたタンパク質が、特には、クオリティ・オブ・ライフ又は寿命の観点から、患者の病状の改善に役立つことを指す。したがって、骨格筋を侵す疾患に関して、これは、疾患に罹患している対象の筋肉症状の改善、又は健常対象のものに類似する筋肉表現型の回復を含む。上に言及したように、筋肉の強度、サイズ、組織像、及び機能により主に定義される筋肉状態は、次の方法:生検、強度、筋緊張、筋量、又は筋肉の可動性の測定、臨床検査、医用画像診断、バイオマーカー等のうちの1つにより評価することができる。
【0070】
したがって、骨格筋に関する治療学的有効性の評価に役立ち、治療後に種々の時点で評価することが可能な判断基準は、特には、
- 平均余命の向上、
- 筋力の上昇、
- 組織像の向上、及び/又は
- 横隔膜の機能性の向上
のうちの少なくとも1つである。
【0071】
本発明の文脈では、「毒性が許容されるレベル」の用語は、本発明の発現系により産生されたタンパク質によって、組織の顕著な変化が、特には、組織学的、生理学的、及び/又は機能的に生じないことを指す。特には、タンパク質の発現は、致死的ではない場合がある。特定の一実施形態では、前記組織において産生されたタンパク質の量は、特に、健常対象と比較して、この組織における前記タンパク質の内在的レベルを上回ってはならない。組織における毒性は、組織学的、生理学的、及び機能的に評価することができる。
【0072】
心臓の特定の場合では、タンパク質の任意の毒性は、形態学及び心臓機能の試験によって、臨床検査、電気生理学、画像診断、バイオマーカー、平均余命の監視によって、又は線維症、及び/若しくは細胞浸潤物、及び/若しくは炎症の検出を含む、例えば、シリウスレッド又はヘマトキシリン(例えば、ヘマトキシリン・エオシン・サフラン(HES)又はヘマトキシリン・フロキシン・サフロン(HFS))を用いた染色による、組織学的解析によって、評価することができる。
【0073】
有利には、本発明による発現系の有効性及び/又は毒性のレベルは、in vivoで動物において、場合により、タンパク質をコードする遺伝子の欠陥コピーを有し、したがって関連病態に罹患している動物において評価する。好ましくは、発現系は、例えば、静脈内(i.v.)注射により、全身的に投与する。
【0074】
本発明によれば、好ましくは、発現系は、
- タンパク質の発現が有毒である組織、特には、心臓における、タンパク質の発現の防止、若しくは発現レベルの低下、並びに/又は
- 標的組織、特には、骨格筋、場合により、網膜及び/若しくは脳における、タンパク質の発現の維持、若しくは発現レベルの上昇
が可能となる、少なくとも1つの配列を含む。
【0075】
特定の実施形態によれば、本発明は、
- 心臓におけるFKRPの発現を防止するか若しくは発現レベルを低下させ、及び/又は
- 骨格筋におけるFKRPの発現を維持するか若しくは発現レベルを上昇させる、
少なくとも1つの配列を含む発現系に関する。
【0076】
本発明の文脈では、「発現の防止」の用語法は、好ましくは、前記配列が存在しなくても発現が存在しない場合を指し、一方、「発現レベルの低下」の用語法は、前記配列の配置により発現が低下する(又は減少する)場合を指す。
【0077】
同様に、「発現の維持」の用語法は、好ましくは、前記配列が存在しなくても匹敵するレベルの発現が存在する場合を指し、一方、「発現レベルの上昇」の用語法は、前記配列の配置による発現の上昇が存在する場合を指す。
【0078】
本発明の文脈では、所望の目的:
- それが有毒である組織におけるタンパク質の発現又は発現レベルの低下を、標的組織における発現レベルを低下させることなく防止することが可能な配列の使用、
- 標的組織における高レベルの発現、及びタンパク質の発現が有毒であると思われる組織における低又は無発現を確実とすることが可能なプロモーター配列の使用、
- 適する指向性、すなわち、タンパク質の発現が有毒であると思われる組織に対するよりも標的組織に対して高い指向性を有するベクター、好ましくは、ウイルスベクターの使用
を達成するための、組合せ可能な少なくとも3つの方法が存在する。
【0079】
一態様によれば、本発明は、FKRPタンパク質をコードする配列、並びに
- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となるプロモーター配列、及び心臓において発現するmiRNAの標的配列、又は
- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となり、心臓において毒性が許容されるレベルのプロモーター活性を呈するプロモーター配列
を含む、全身投与のための発現系に関する。
【0080】
好適には、本発明の発現系は、好ましくは、導入遺伝子の5'に配置され、ここに機能的に結合するタンパク質をコードする配列の転写を管理するプロモーター配列を含む。好ましくは、これにより、骨格筋におけるタンパク質の治療学的に許容されるレベルの発現が確実となる。
【0081】
これは、誘導性又は構成的な天然又は合成(人工)のプロモーターを含み得る。同様に、これらは、ヒトを含む任意の起源、導入遺伝子と同一起源、又は別の起源のプロモーターであり得る。
【0082】
第1の実施形態によれば、プロモーター配列は、非選択的プロモーター、すなわち、低組織特異性を有し、種々の組織、場合により、骨格筋及び心臓において、ほぼ同レベルの発現が確実となるプロモーターに対応する。サイトメガロウイルス(CMV)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)、EF1又はCMV初期エンハンサー/ニワトリβアクチン(CAG)プロモーターは、例として引用することができる。
【0083】
特定の実施形態によれば、これは、骨格筋発現に適するが、他の組織、特には、他の筋肉、例えば、心臓における発現を生じ得る、プロモーター配列を指す。このようなプロモーターは、筋特異的であると考えられるが、これらは、筋独占的ではない。デスミンプロモーター由来のプロモーター配列、好ましくは、配列番号6の配列のデスミンプロモーター、骨格アルファ-アクチンプロモーター(ACTA1)、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター若しくはミオシン重鎖プロモーター、並びにこれらの誘導体、例えば、CK4及びMHCK7プロモーター、又はC5-12合成プロモーターは、例として引用することができる。
【0084】
本発明の好ましい実施形態によれば、発現系のプロモーター配列は、種々の組織における種々のプロモーター活性のために選択される。この場合では、この配列は、骨格筋におけるタンパク質の発現の増加に役立ち、一方、タンパク質の発現が有毒である組織、主に心臓における発現を防止する。
【0085】
例として、標的組織が骨格筋である場合では、プロモーターは、好ましくは、筋特異的プロモーターである。別の有利な特性によれば、前記プロモーターは、心臓においてプロモーター活性が低いか又はこれを有しない、この組織における毒性が許容されるレベルのタンパク質発現が可能となる。より有利には、心臓においてプロモーター活性が低いことが好ましい。
【0086】
特定の実施形態によれば、前記プロモーター配列は、カルパイン3遺伝子のプロモーター由来の配列、好ましくは、ヒト起源の配列、更により好ましくは、配列番号7の配列に対応し得る。別の適するプロモーター配列は、miRNA206(miR206)の配列、好ましくは、ヒト起源の配列、より好ましくは、配列番号8の配列である。このような2つのプロモーターは、国際公開第2014/167253号の文書において、骨格筋におけるカルパイン3の治療学的に許容されるレベルの発現、及び心臓におけるこのタンパク質の毒性が許容されるレベルの発現を確実とすることが可能であると報告されている。
【0087】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明は、配列番号7又は配列番号8の配列を有するプロモーターの制御下に配置されたFKRPタンパク質をコードする配列を含む発現系に関する。また、配列番号7及び配列番号8の配列に由来するか、又はこれらの断片に対応するが、特に、組織特異性、任意選択で、有効性に関して、類似のプロモーター活性を有するプロモーター配列を、本発明下に包含する。
【0088】
有利には、心臓においては非常に低いが、骨格筋においては十分であるか又は極めて強力な、上に定義する発現プロファイルを呈する任意のプロモーターを使用し得る。
【0089】
候補プロモーター配列は、骨格筋において高い活性が報告されており、場合により、所望の発現プロファイルを有する、遺伝子に由来してもよく、例えば、
- ガンマ-サルコグリカン遺伝子のプロモーター、
- 骨格アルファ-アクチン(ACTA1)プロモーター又はこれに由来する型、
- Piekarowiczら(2017、European Society Of Gene & Cell Therapy conference、ポスターP096; HUMAN GENE THERAPY 28:A44 (2017)、DOI: 10.1089/hum.2017.29055.要約)により開示されるような、筋肉ハイブリッド(MH)プロモーター、
- Hauserら(2000、Molecular Therapy、Vol. 2、No 1、16~24頁)及びWangら(2008、Gene Therapy、Vol. 15、1489~99頁)に開示されるような、筋肉クレアチンキナーゼプロモーターの誘導体、特には、二重(dMCK)若しくは三重(tMCK)タンデムのMCKエンハンサーを有する切断型MCKプロモーター、又はCK6及びCK8プロモーター、
- 少なくとも1つのUSE(上流エンハンサー)配列、例えば、トロポニンIプロモーター配列において同定されるもの(Corinら、1995、Proc. Natl. Acad. Sci.、Vol. 92、6185~89頁)、又はこの100bpの欠失(ΔUSE; Blainら、2010、Human Gene Therapy、Vol. 21、127~34頁)を、場合により、3(×3)若しくは4(×4)コピー含むプロモーター
が挙げられる。特に興味深いものは、デルタUSE×3(DUSE×3)プロモーター及びデルタUSE×4(DUSE×4)プロモーターである。
【0090】
他の遺伝子のプロモーター:トロポニン、筋原性因子5(Myf5)、ミオシン軽鎖1/3 fast(MLC1/3f)、筋分化1(MyoD1)、ミオゲニン(Myog)、ペアードボックス遺伝子7(Pax7)、MEF2に更に言及することができる。
【0091】
また、前記配列に由来するか、又はこの断片に対応するが、特に、組織特異性、場合により、有効性に関して、類似のプロモーター活性を有するプロモーター配列を本発明下に包含する。好ましくは、「誘導体」又は「断片」の用語は、この配列との少なくとも60%、好ましくは、70%、更により好ましくは、80%、又は更に90%、95%若しくは99%の同一性を有する配列を指す。特に興味深いものは、上に定義するように骨格筋及び心臓において適当なFKRP発現が可能となるプロモーター配列である。
【0092】
一実施形態によれば、本発明の発現系は、
- FKRPタンパク質をコードする配列、及び
- 骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となり、心臓において毒性が許容されるレベルのプロモーター活性を呈するか又は活性を全く有しないプロモーター配列、場合により、上に列挙するもののうちの1つ
を含む。
【0093】
このプロモーター配列によって、全ての組織、特には、心臓において毒性が許容されるレベルのFKRPタンパク質の発現が可能とならない場合は、これは、タンパク質の発現が有毒である前記組織においてFKRPタンパク質の発現レベルを低下させる機能を有する配列と有利に結合させる。
【0094】
したがって、本出願では、FKRPを発現させるためのデスミンプロモーターの使用により、心毒性が生じることを報告する。対照的に、本発明によれば、miRNA-208aの少なくとも1つの標的配列、好ましくは、配列番号2の配列の標的配列と結合するデスミンプロモーター、好ましくは、配列番号6の配列のデスミンプロモーターの使用により、
- 骨格筋におけるタンパク質の治療学的に許容されるレベルの発現、
- 心臓における毒性が許容されるレベルのタンパク質発現
の両方が可能となる。
【0095】
既に述べたように、前記配列は、タンパク質発現が有毒である組織、特には、心臓においてFKRPタンパク質の発現を防止するか、又は発現レベルを低下させることが可能である。この作用は、特には、
- タンパク質をコードする配列の転写レベル、
- タンパク質をコードする配列の転写から生じる転写物(例えば、それらの分解を介して)、
- 転写物のタンパク質への翻訳
に関する種々の機構に従って起こり得る。
【0096】
このような配列は、好ましくは、例えば、次の群:
- マイクロRNA、
- 内在性低分子干渉RNAすなわちsiRNA、
- 転移RNA(tRNA)の低分子断片、
- 遺伝子間領域のRNA、
- リボソームRNA(rRNA)、
- 核内低分子RNA(snRNA)、
- 核小体低分子RNA(snoRNA)、
- piwiタンパク質と相互作用するRNA(piRNA)
から選択される低RNA分子のための標的である。
【0097】
有利には、この配列は、標的組織、好ましくは、骨格筋におけるFKRPタンパク質の発現の維持又は更には発現レベルの上昇に役立つ。
【0098】
好ましくは、このような配列は、タンパク質の発現が有毒である組織におけるこの有効性のために選択される。この配列の有効性が組織に応じて可変であり得るため、毒性が判明した全ての標的組織におけるこれらの有効性のために選択された、このような配列のいくつかを組み合わせることが必要であり得る。
【0099】
好ましい実施形態によれば、この配列は、マイクロRNA(miRNA)のための標的配列である。公知のように、このような賢明に選択された配列は、選択された組織における遺伝子発現の特異的抑制に役立つ。
【0100】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明の発現系は、タンパク質の発現が有毒である組織、特には、心臓において発現又は存在するマイクロRNA(miRNA)のための標的配列を含む。好適には、標的組織、好ましくは、骨格筋に存在するこのmiRNAの量は、FKRPが有毒である組織に存在する量未満であるか、又はこのmiRNAは、標的組織において、更には発現しなくてもよい。特定の実施形態によれば、標的miRNAは、骨格筋において発現しない。別の特定の実施形態によれば、これは、心臓において特異的又は更には独占的に発現する。
【0101】
当業者に公知のように、特には、所与の組織における、miRNA発現の存在又はレベルは、PCR、好ましくは、RT-PCR、又はノーザンブロットにより評価し得る。
【0102】
種々のmiRNA並びにこれらの標的配列及びこれらの組織特異性は、当業者に公知であり、例えば、国際公開第2007/000668号の文書に記載されている。心臓において発現するmiRNAは、例えば、miR-1、miR133a、miR-206、miR-499及びmiR-208aである。特に興味深いものは、心臓において独占的に発現するmiRNA、例えば、配列番号21の配列のmiR208aである。
【0103】
特定の実施形態によれば、本発明の発現系は、miRNA-208a(miR208a;配列番号21をも意味する)の標的配列を含む。したがって、FKRPに関するこのような標的配列の使用により、この心毒性の問題の解決が可能となることを本発明の枠組みにおいて示している。好ましくは、ヒト、イヌ及びマウスにおいて同一のこの標的配列は、22pbの配列番号2の配列を有する。言うまでもなく、miRNA-208aにより認識される任意の由来の又は切断型配列は、本発明の一部分として組み入れ得る。特には、1つ又は複数のヌクレオチドが配列番号2から分岐する配列、例えば、配列番号2との少なくとも60%、70%、80%、90%又は更には95%の同一性を有する配列は、miR208aに結合可能である限り、すなわち、好ましくは、このシード配列との相同性に関して、miR208aの標的配列である限り、使用することができる。
【0104】
既に述べたように、マイクロRNAのための標的配列は、単独、又は他の配列、有利には、マイクロRNAのための標的配列と組み合わせて、使用してもよく、これは、同一であるか又は異なってもよい。このような配列は、タンデム又は反対方向で使用することができる。FKRPに関しては、肝臓において発現するmir122の標的配列の使用が、既に提案されている。
【0105】
好ましい実施形態によれば、特に、miRNA208aの標的配列では、1つ又は複数、特には2つ又は4つの配列を組み入れ得る。好ましくは、これらは、タンデムで、すなわち、全て同方向で使用する。複数の標的配列を組み入れる場合は、これらは、ランダム配列のDNAスペーサーにより、当業者に公知の方法で分離し得る。
【0106】
好ましくは、miRNA、特には、miR208aの標的配列の場合では、これは、タンパク質をコードする配列の3'に配置され、より有利には、発現系の3'UTR(「非翻訳領域」)領域内に挿入する。更により好ましくは、発現系が、タンパク質をコードするcDNAの3'にポリアデニル化シグナルを含む場合、この配列は、オープンリーディングフレームの終止コドンとポリアデニル化シグナルの間に挿入する。
【0107】
本発明の文脈では、miRNA-208aの少なくとも1つの標的配列が、少なくとも心臓において毒性が許容されるレベルのFKRPタンパク質が得られるように構成されたことが実証された。
【0108】
一実施形態によれば、本発明の発現系は、
- FKRPタンパク質をコードする配列、及び
- 心臓において発現するmiRNAの標的配列
を含む。
【0109】
その上、好ましくは、これは、FKRPの発現を管理するプロモーター配列を更に含む。前記プロモーターは、好ましくは、骨格筋においてFKRPの治療学的に許容されるレベルの発現が可能となるプロモーター配列、例えば、デスミンプロモーター、好ましくは、ヒトデスミンプロモーター(配列番号6)である。
【0110】
特定の実施形態によれば、発現系は、
- 筋肉発現が可能となるプロモーター、例えば、デスミンプロモーター、好ましくは、ヒトデスミンプロモーター、例えば、配列番号6の配列のヒトデスミンプロモーターの制御下に配置されたFKRPをコードする配列、
- 心臓において発現するmiRNAの少なくとも1つの標的配列、好ましくは、miRNA-208aの標的配列、好ましくは、配列番号2の標的配列
を含む。
【0111】
特定の実施形態によれば、本発明による発現系は、
- 配列番号3のヌクレオチド146~3946、又は
- 配列番号4のヌクレオチド146~3974
を含むか又はこれからなる。
【0112】
実施形態の別の特定の形態では、発現系は、
- プロモーター、例えば、デスミンプロモーター、好ましくは、ヒトデスミンプロモーター、例えば、配列番号6の配列のヒトデスミンプロモーター、又はカルパイン3プロモーター、好ましくは、ヒトカルパイン3プロモーター、例えば、配列番号7の配列のヒトカルパイン3プロモーター、又はmiRNA206プロモーター、好ましくは、ヒトmiRNA206プロモーター、例えば、配列番号8の配列のヒトmiRNA206プロモーターの制御下に配置されたFKRPをコードする配列、
- 心臓において発現するmiRNAの少なくとも1つの標的配列、好ましくは、miRNA-208aの標的配列、例えば、配列番号2の配列のmiRNA-208a標的配列、場合により、2つの標的配列を有利には、タンデムで
含み得る。
【0113】
したがって、上に詳述する様々な種類の配列を、同一の発現系において組み合わせ得る。
【0114】
本発明によれば、発現系又は発現カセットは、存在する導入遺伝子の発現に必要なエレメントを含む。導入遺伝子の発現を確実とし、これを調節する、上に定義するもののような配列に加えて、このような系は、
- 好ましくは、コード配列の3'又はmiRNAの標的配列の3'に挿入される、ポリアデニル化シグナル、例えば、SV40又はヒトヘモグロビンのポリA、
- 転写物を安定化する配列、例えば、ヒトヘモグロビンのイントロン1、
- エンハンサー配列
のような他の配列を含み得る。
【0115】
本発明による発現系は、特には、ヒトにおける、細胞、組織、又は体内に導入することができる。導入は、当業者に公知の方法により、ex vivo又はin vivoで、例えば、トランスフェクション又は形質導入により行うことができる。したがって、別の態様によれば、本発明は、好ましくは、ヒト起源の、本発明の発現系を含む細胞、又は組織を包含する。
【0116】
本発明による発現系、この場合、単離核酸は、すなわち、裸のDNAの形態で、対象に投与することができる。細胞へのこの核酸の導入を容易とするために、これは、種々の科学的手段、例えば、コロイド分散系(高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフィア、ビーズ)又は脂質ベースの系(水中油型のエマルジョン、ミセル、リポソーム)と組み合わせることができる。
【0117】
或いは、別の好ましい実施形態によれば、本発明の発現系は、プラスミド又はベクターを含む。有利には、このようなベクターは、ウイルスベクターである。ヒトを含む哺乳動物の遺伝子治療において一般に使用されるウイルスベクターは、当業者に公知である。このようなウイルスベクターは、好ましくは、次のリスト:ヘルペスウイルスに由来するベクター、バキュロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターから選択される。
【0118】
本発明の特定の実施形態によれば、発現系を含むウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0119】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、種々の障害の治療のための強力な遺伝子送達ツールとなっている。AAVベクターは、病原性が無いこと、中程度の免疫原性、並びに分裂終了細胞及び組織に安定かつ効率的に形質導入する能力を含む、これらが遺伝子治療に理想的に適するものとなる多数の特徴を有する。AAVベクター内に含まれる特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター及び送達方法の適切な組合せを選択することにより、1つ又は複数の型の細胞を特異的に標的化することができる。
【0120】
一実施形態では、コード配列は、AAVベクター内に含まれる。100種を越える自然に存在するAAV血清型が公知である。AAVカプシドにおいて多くの天然バリアントが存在し、ジストロフィー型病態に特異的に適する特性を有するAAVの同定及び使用が可能となる。AAVウイルスは、従来の分子生物学的技術を使用して改変してもよく、このような粒子を、核酸配列の細胞特異的送達、免疫原性の最小化、安定性及び粒子生存期間の調整、効率的分解、核への的確な送達のために最適化することが可能となる。
【0121】
上に言及するように、AAVベクターの使用は、比較的無毒であり、効率的な遺伝子導入をもたらし、特定の目的のために容易に最適化可能であるため、DNAの外因的送達の一般的方法である。ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離し、十分に特性決定されたAAVの血清型の中でも、ヒト血清型2は、遺伝子導入ベクターとして開発された最初のAAVである。現在使用される他のAAV血清型としては、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVrh74、AAV11及びAAV12が挙げられる。加えて、非天然改変バリアント及びキメラAAVも有用であり得る。
【0122】
ベクターの構築に望ましいAAV断片としては、vp1、vp2、vp3及び超可変領域を含むcapタンパク質、rep78、rep68、rep52及びrep40を含むrepタンパク質、並びにこのようなタンパク質をコードする配列が挙げられる。このような断片は、多様なベクター系及び宿主細胞において容易に利用し得る。
【0123】
このような断片は、単独で、他のAAV血清型配列若しくは断片と組み合わせて、又は他のAAV若しくは非AAVウイルス配列由来のエレメントと組み合わせて使用し得る。本明細書において使用する場合、人工AAV血清型は、自然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを含むが、これに限定されない。このような人工カプシドは、適する任意の技術により、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質の断片)を、選択された異なるAAV血清型から得られ得る異種配列、同一AAV血清型の非近接部分、非AAVウイルス源から得られ得る異種配列、又は非ウイルス源から得られ得る異種配列と組み合わせて使用して生成し得る。人工AAV血清型は、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド又は「ヒト化」AAVカプシドであり得るが、これらに限定されない。したがって、例となるAAV又は人工AAVとしては、とりわけAAV2/8(米国特許第7,282,199号)、AAV2/5(国立衛生研究所から入手可能)、AAV2/9(国際公開第2005/033321号)、AAV2/6(米国特許第6,156,303号)、AAVrh10(国際公開第2003/042397号)、AAVrh74(国際公開第2003/123503号)、AAV9-rh74ハイブリッド又はAAV9-rh74-P1ハイブリッド(国際公開第2019/193119号)、PCT/欧州特許第2020/061380号に開示されているAAVバリアントが挙げられる。一実施形態では、本明細書において記載する、組成物において有用なベクター及び方法は、最低でも、選択されたAAV血清型のカプシド、例えば、AAV8カプシドをコードする配列、又はこの断片を含む。別の実施形態では、有用なベクターは、最低でも、選択されたAAV血清型のrepタンパク質、例えば、AAV8repタンパク質をコードする配列、又はこの断片を含む。任意選択で、このようなベクターは、AAVcap及びrepタンパク質の両方を含み得る。AAVrep及びcapの両方を配置するベクターでは、AAVrep及びAAVcap配列はともに、一血清型起源、例えば、全てAAV8起源の配列であり得る。或いは、rep配列が、cap配列を配置する血清型とは異なるAAV血清型由来のベクターを使用し得る。一実施形態では、rep及びcap配列は、別々の源(例えば、別々のベクター、又は宿主細胞及びベクター)から発現する。別の実施形態では、このようなrep配列は、異なるAAV血清型のcap配列にインフレームで融合させて、キメラAAVベクター、例えば、AAV2/8を形成する(米国特許第7,282,199号)。
【0124】
一実施形態によれば、組成物は、血清型2、5、8若しくは9のAAV又はAAVrh74を含む。有利には、請求するベクターは、AAV8又はAAV9ベクター、特には、AAV2/8又はAAV2/9ベクターである。より有利には、請求するベクターは、AAV9ベクター又はAAV2/9ベクターである。
【0125】
本発明において使用するAAVベクターでは、AAVゲノムは、一本鎖(ss)核酸又は二本鎖(ds)/自己相補性(sc)核酸分子のいずれかであり得る。
【0126】
有利には、FKRPタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、AAVベクターのITR(「逆位末端反復」)配列間に挿入する。典型的ITR配列は、配列番号1のヌクレオチド1~145(5'ITR配列)及び配列番号1のヌクレオチド3913~4057(3'ITR配列)に対応する。
【0127】
組換えウイルス粒子は、当業者に公知の任意の方法、例えば、293HEK細胞の同時トランスフェクション、単純ヘルペスウイルス系、及びバキュロウイルス系により得ることができる。ベクター力価は、通常、1mLあたりのウイルスゲノム(vg/mL)として表す。
【0128】
一実施形態では、ベクターは、制御配列、特には、プロモーター配列、有利には、上に記載する配列を含む。
【0129】
他の考えられる制御配列の非包括的リストは、次の通りである。
- 転写物安定化のための配列、例えば、ヘモグロビン(HBB2)のイントロン1、例えば、配列番号1のヌクレオチド1207~1652に対応する配列。配列番号1の配列に示すように、有利には、前記HBB2イントロンの後には、コザック共通配列(GCCACC)がmRNA内のAUG開始コドンの前に含まれ、翻訳開始が向上する。
- 有利には、ヒトFKRPをコードする配列の3'における、ポリアデニル化シグナル、例えば、目的の遺伝子のポリA、SV40又はベータヘモグロビン(HBB2)のポリA。好ましい例として、HBB2のポリAは、配列番号1のヌクレオチド3147~3912に対応する。
- エンハンサー配列。
- 前記発現が望まれず、例えば、有毒であり得る非標的組織においてヒトFKRPをコードする配列の発現を阻害することが可能なmiRNA標的配列。例としては、肝毒性を回避するためのmiR122標的配列であり得る。好ましくは、対応するmiRNAは、骨格筋に存在しない。
【0130】
配列番号5の配列をコードし、例えば、配列番号1のヌクレオチド1659~3146に対応するポリヌクレオチドに関しては、本発明のベクターは、配列番号1、配列番号3及び配列番号4にそれぞれ示す配列を含み得る。
【0131】
好ましい実施形態によれば、本発明の発現系は、適する指向性、この場合、タンパク質の発現が有毒であると思われる組織に対するものよりも高い、標的組織、有利には、骨格筋に対する指向性を有するベクターを含む。有利には、本発明の発現系は、心臓に対するものよりも高い、骨格筋に対する指向性を有するベクターを含む。これは、最小限の若しくは非心臓標的化/形質導入、又は選択的若しくは更には独占的骨格筋標的化/形質導入のために選択されるカプシドを含むAAVベクターであり得る。
【0132】
本発明の更なる態様は、
- 上に開示する、本発明の発現系を含む細胞、又は前記発現系を含むベクター
に関する。
【0133】
細胞は、任意の細胞型、すなわち、原核又は真核細胞であり得る。細胞は、ベクターの増殖に使用し得るか、又は宿主若しくは対象に更に導入(例えば、移植)し得る。発現系又はベクターは、当技術分野において公知の任意の手段、例えば、形質転換、エレクトロポレーション又はトランスフェクションにより、細胞に導入することができる。細胞に由来する小胞も使用することができる。
【0134】
- 上に開示する、本発明の発現系、前記発現系を含むベクター、又は前記発現系若しくは前記ベクターを含む細胞を含む、遺伝子導入動物、有利には、非ヒト。
【0135】
本発明の別の態様は、上に開示する、発現系、ベクター又は細胞を含む、医薬としての使用のための組成物に関する。
【0136】
実施形態によれば、組成物は、少なくとも前記遺伝子治療製剤(発現系、ベクター又は細胞)、及び場合により、同一の疾患又は別の疾患の治療を目的とする、他の活性分子(他の遺伝子治療製剤、化学分子、ペプチド、タンパク質等)を含む。
【0137】
特定の実施形態によれば、本発明による発現系の使用は、抗炎症薬又はリビトールの使用と組み合わせる。
【0138】
次いで、本発明では、本発明の発現系、ベクター又は細胞を含む医薬組成物を提供する。このような組成物は、治療有効量の治療薬(本発明の発現系又はベクター又は細胞)及び薬学的に許容される担体を含む。特定の実施形態では、「薬学的に許容される」の用語は、動物及びヒトにおける使用について、連邦又は州政府の規制機関により認可されたもの、或いは米国若しくは欧州薬局方又は他の一般に認められた薬局方に列挙されたものを意味する。「担体」の用語は、希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はともに治療薬を投与する媒体を指す。このような医薬担体は、滅菌液、例えば、水及び油であってもよく、石油、動物、植物、又は合成起源のもの、例えば、ピーナツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等を含む。医薬組成物を静脈内に投与する場合、水は、好ましい担体である。また、食塩溶液並びに水性デキストロース及びグリセリン溶液を、特には、注射液のための、液体担体として利用することができる。適する医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0139】
また、組成物は、必要に応じて、少量の湿潤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含み得る。このような組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、持続放出製剤等の形態をとり得る。適する医薬担体の例は、E.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、治療有効量の治療薬を、好ましくは、精製形態で、適量の担体とともに含むことにより、対象への適切な投与のための形態がもたらされる。
【0140】
好ましい実施形態では、組成物は、医薬組成物をヒトへの静脈内投与のために構成する場合、日常的手順に従って製剤化する。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。また、必要に応じて、組成物は、可溶化剤、及び注射部位における疼痛を和らげる局所麻酔薬、例えば、リドカインを含む。
【0141】
一実施形態では、本発明による組成物は、ヒトにおける投与に適する。組成物は、好ましくは、液体形態、有利には、食塩水組成物、より有利には、リン酸緩衝食塩水(PBS)組成物又はリンゲル乳酸溶液である。
【0142】
標的疾患の治療において有効である、本発明の治療薬(例えば、発現系又はベクター又は細胞)の量は、標準的臨床技術により決定することができる。加えて、in vivo及び/又はin vitroアッセイを任意選択で利用して、最適な投与量範囲を予想するのに役立て得る。また、製剤化において利用する正確な用量は、投与経路、体重、及び疾患の重篤度に依存し、医師の判断及び各患者の状況に従って決定すべきである。
【0143】
適する投与により、標的組織、特には、骨格筋、場合により、心臓への治療有効量の遺伝子治療製剤の送達が可能となるはずである。本発明の文脈では、遺伝子治療製剤が、ヒトFKRPをコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターである場合、治療薬の用量は、対象1キログラム(kg)あたりに投与される、FKRP配列を含むウイルス粒子の量(ウイルスゲノムを表すvg)として定義する。
【0144】
利用可能な投与経路は、局所、経腸(系全体に作用するが、胃腸(GI)管を通じて送達される)又は非経口(全身に作用するが、GI管以外の経路により送達される)経路である。本明細書に開示する組成物の好ましい投与経路は、非経口経路であり、筋肉内投与(すなわち、筋肉への投与)及び全身投与(すなわち、循環系への投与を含む。この文脈では、「注射」(又は「灌流」若しくは「注入」)の用語は、血管内、特には、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、眼内、くも膜下腔内、又は脳内投与を包含する。注射は、シリンジ又はカテーテルを使用して通常、実施する。
【0145】
一実施形態では、組成物の全身送達は、局所治療部位付近、すなわち、衰弱した筋肉近くの静脈又は動脈への組成物の投与を含む。特定の実施形態では、本発明は、全身作用を生じる、組成物の局所送達を含む。通常、「領域的(局所領域的)注入」、「分離式肢灌流による投与」又は「高圧経静脈肢灌流」と呼ばれるこの投与経路は、筋ジストロフィーにおける遺伝子治療方法として良好に使用されている。
【0146】
一態様によれば、組成物は、分離した肢に(局所領域的に)注入又は灌流により投与する。換言すれば、本発明は、加圧下での血管内投与経路、すなわち、静脈(経静脈)又は動脈による脚及び/又は腕における組成物の領域的送達を含む。これは、例えば、Toromanoffら(2008)に開示するように、通常、止血帯を使用して、血液循環を一時的に抑止しながら、注入製剤の領域的拡散を可能とすることにより達成する。
【0147】
一実施形態では、組成物は、対象の肢に注射する。対象が、ヒトである場合、肢は、腕又は脚であり得る。一実施形態によれば、組成物は、対象の体の下部、例えば、膝下、又は対象の体の上部、例えば、前腕に投与する。
【0148】
本発明による好ましい投与方法は、全身投与である。全身投与により、心臓及び横隔膜を含む対象の体の筋肉全体に達するための全身注射へ、次いで、このような全身性かつ未だ不治の病の実質的治療への道が開かれる。特定の実施形態では、全身送達は、組成物が対象の体全体に到達可能となるような対象への組成物の送達を含む。
【0149】
好ましい実施形態によれば、全身投与は、血管における組成物の注射、すなわち、血管内(静脈内又は動脈内)投与により生じる。一実施形態によれば、組成物は、末梢静脈を通じた静脈内注射により投与される。
【0150】
全身投与は、次の条件下で典型的に実施する。
- 1~10mL/分、有利には、1~5mL/分、例えば、3mL/分の流量。
- 全注射量は、1~20mLの間で変動してもよく、好ましくは、対象1kgあたりベクター製剤5mLである。注射量は、全血量の10%より多くならないものとし、好ましくは、およそ6%である。
【0151】
全身的に送達する場合、組成物は、好ましくは、1015vg/kg又は更には1014vg/kg以下、有利には、1010、1011又は更には1012vg/kg以上の用量で投与する。詳細には、用量は、5.1012vg/kg~1014vg/kgの間、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8又は9.1013vg/kgであり得る。また、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8又は9.1012vg/kgの低用量を検討することにより、潜在的毒性及び/又は免疫反応を回避することができる。当業者に公知のように、可能な限り低い用量により、効率に関して満足のいく結果をもたらすことが好ましい。
【0152】
特定の実施形態では、治療は、組成物の単回投与を含む。
【0153】
「ジストログリカノパシー」は、αジストログリカン(αDG)のグリコシル化異常に関連する疾患又は病態を意味する。この欠陥は、FKRP欠陥が原因であり得る。特定の実施形態によれば、病態は、肢帯筋ジストロフィー2I型又はR9型(LGMD2I又はLGMD2 R9)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)及び筋・眼・脳病(MEB)からなる群において選択され、有利には、LGMD2Iである。
【0154】
本発明の組成物から利益を得る対象は、このような疾患を有すると診断されたか、又はこのような疾患を発症するリスクを有する全ての患者を含む。次いで、治療する対象は、例えば、FKRP遺伝子のシーケンシングを含む、当業者に公知の任意の方法によるFKRP遺伝子における変異若しくは欠失の同定に基づいて、及び/又は当業者に公知の任意の方法による発現若しくは活性のFKRPレベルの評価により、選択され得る。したがって、前記対象は、このような疾患の症候を既に示している対象、及び前記疾患を発症するリスクを有する対象の両方を含む。一実施形態では、前記対象は、このような疾患の症候を既に示している対象を含む。別の実施形態では、前記対象は、通院患者、及び初期の非通院患者である。
【0155】
このような組成物は、とりわけ、遺伝子治療、特には、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)及び筋・眼・脳病(MEB)、有利には、LGMD2Iの治療を意図する。
【0156】
一実施形態によれば、本発明は、上に開示する、遺伝子治療製剤(発現系、ベクター又は細胞)の対象への投与を含むジストログリカノパシーの治療方法に関する。
【0157】
有利には、ジストログリカノパシーは、αジストログリカン(αDG)のグリコシル化異常、及び/又はFKRP欠乏に関連する病態である。より有利には、病態は、肢帯筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー・ワールブルグ症候群(WWS)又は筋・眼・脳病(MEB)である。
【0158】
更なる態様では、本発明の発現系又はベクターを前記細胞に送達する工程を含む、細胞におけるαジストログリカン(αDG)のグリコシル化を増加させる方法であって、FKRPポリヌクレオチドが、前記細胞において発現し、これによりFKRPを産生させてαDGのグリコシル化を増加させる、方法を本発明において提供する。
【0159】
有利には、発現系は、体内、特には、動物、有利には、哺乳動物、より好ましくは、ヒトに、全身的に投与する。
【0160】
本発明の実践では、他に指示しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生物化学、及び免疫学の従来技術を利用し、これらは十分に当業者の範囲内である。このような技術は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook、2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」(Babar、2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)のような文献において十分に説明されている。このような技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの生成に適用可能であり、したがって、本発明を生成及び実践する際に考慮され得る。特定の実施形態のために特に有用な技術を、以下の節において検討する。
【0161】
本明細書において引用するありとあらゆる特許、特許出願、及び公報の開示は、これにより、この全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0162】
更に記載せずとも、当業者は、先の説明及び以下の例示的実施例を使用して、本発明の化合物を生成及び利用し、請求する方法を実践することが可能であると考えられる。
【0163】
本発明は、以下の実験的実施例及び添付の図面の参照によって詳細に更に記載する。このような実施例は、例示のみの目的のために提供し、制限することは意図しない。
【0164】
本出願では、デスミンプロモーターの制御下に配置されるFKRPをコードする配列、及び1つ又は2つのmiR208a標的配列を含むAAV9ベクターに関して、本発明を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【
図1】次のベクター構築物の図である。A/miRNA-208aの標的配列を欠くFKRP発現カセット(AAV-FKRP); B/FKRP遺伝子の3'末端にmiRNA-208aの標的配列(矢印)を1つ(AAV-FKRPシングル)又は2つ(AAV-FKRPタンデム)含むFKRP発現カセット。
【
図2】AAV-FKRPベクターを静脈内に投与したラットの心臓の横断切片: 3種の指示用量(1
e12vg/kg; 5
e12vg/kg; 7.5
e13vg/kg)のAAV-FKRP注射の後15日目の心筋及びHES染色(上、スケール=50μm)又はシリウスレッド染色(下)の組織学的解析を示す図である。
【
図3】AAV-FKRPベクターを静脈内に投与したマウスの心臓の横断切片: 1
e14vg/kgの用量のAAV-FKRP注射から6週後の心筋及びHPS染色(上、スケール=200μm)又はシリウスレッド染色(下)の組織学的解析を示す図である。
【
図4】PBS(緩衝液)、AAV-FKRP、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムのいずれかを注射したラットの体重曲線を示すグラフである。
【
図5】注射から2週後のラットのTA(前脛骨)筋におけるAAV-FKRP、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムの1核あたりのベクターコピー数(VCN)を示すグラフである。
【
図6】PBS(緩衝液)、AAV-FKRP、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムの注射から2週後のラットの心臓におけるFKRP mRNA(A)又はタンパク質(B)の評価を示す図である。アスタリスク(*)は、統計学的差異を示す。
【
図7】7.5
e13vg/kgの用量のAAV-FKRP、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデム(指示の通り)の注射の後15日目のラットの心筋及びHES染色(上、スケール=50μm)又はシリウスレッド染色(下)の組織学的解析を示す図である。
【
図8】PBS(緩衝液)、AAV-FKRP、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムの注射から2週後のラットのTA筋におけるFKRP mRNA(A)又はタンパク質(B)の評価を示す図である。
【
図9】AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムのいずれかを注射したラットの体重曲線を示すグラフである。
【
図10】7.5
e13vg/kgの用量のAAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムの注射から11週後のラットの心筋及びHES染色(上、スケール=50μm)又はシリウスレッド染色(下)の組織学的解析を示す図である。
【実施例】
【0166】
材料及び方法
1)組換えAAVベクターの生成:
ベクターAAV-FKRP(配列番号1;
図1Aを参照)に含まれるカセットは、国際公開第2019/008157号に開示のように、配列番号11の配列のヌクレオチド496~4550に対応する。DNAスペーサーによりそれぞれ分離される、22pbのmiRNA-208a(配列番号2)の標的配列(1又は2つの各配列)を、FKRPcDNAの3'UTR領域に加えている。対応するカセット(
図1B)は、配列番号3及び配列番号4の配列をそれぞれ有し、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムのベクターがそれぞれ生じる。
【0167】
詳細には、配列番号1の発現カセットは、
- 配列番号1のヌクレオチド1~145に対応する5'ITR配列、この後、
- 配列番号1のヌクレオチド146~1206に対応するヒトデスミンプロモーター(配列番号6)、この後、
- 配列番号1のヌクレオチド1207~1652に対応するHBB2イントロンの後、次の配列の直前に挿入したコザック共通配列(GCCACC)、
- 配列番号1のヌクレオチド1659~3146に対応するヒトFKRPをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)、この後、
- 配列番号1のヌクレオチド3147~3912に対応するHBB2ポリA配列、この後、
- 配列番号1のヌクレオチド3913~4057に対応する3'ITR配列
を含む。
【0168】
詳細には、配列番号3の発現カセットは、
- 配列番号3のヌクレオチド1~145に対応する5'ITR配列、この後、
- 配列番号3のヌクレオチド146~1206に対応するヒトデスミンプロモーター(配列番号6)、この後、
- 配列番号3のヌクレオチド1207~1652に対応するHBB2イントロンの後、次の配列の直前に挿入したコザック共通配列(GCCACC)、
- 配列番号3のヌクレオチド1659~3146に対応するヒトFKRPをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)、この後、
- 配列番号3のヌクレオチド3153~3174に対応するmiR208a標的配列(配列番号2)、この後、
- 配列番号3のヌクレオチド3181~3946に対応するHBB2ポリA配列、この後、
- 配列番号3のヌクレオチド3947~4091に対応する3'ITR配列
を含む。
【0169】
詳細には、配列番号4の発現カセットは、
- 配列番号4のヌクレオチド1~145に対応する5'ITR配列、この後、
- 配列番号4のヌクレオチド146~1206に対応するヒトデスミンプロモーター(配列番号6)、この後、
- 配列番号4のヌクレオチド1207~1652に対応するHBB2イントロンの後、次の配列の直前に挿入したコザック共通配列(GCCACC)、
- 配列番号4のヌクレオチド1659~3146に対応するヒトFKRPをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)、この後、
- 配列番号4のヌクレオチド3153~3174及びヌクレオチド3181~3202に対応する2つのmiR208a標的配列(配列番号2)をタンデムで、この後、
- 配列番号4のヌクレオチド3209~3974に対応するHBB2ポリA配列、この後、
- 配列番号4のヌクレオチド3975~4119に対応する3'ITR配列
を含む。
【0170】
アデノウイルス不含rAAV2/9ウイルス製剤は、これまでに記載のように(Bartoliら、2006)3つのプラスミドトランスフェクションプロトコールを使用して、AAV2-ITR組換えゲノムをAAV9カプシドにパッケージングすることにより生成した。簡潔には、HEK293細胞にpAAV-hデスミン-hFKRP、RepCapプラスミド(pAAV2.9、Dr J. Wilson、UPenn)及びアデノウイルスヘルパープラスミド(pXX6;Apparaillyら、2005)を1:1:2の比率で同時トランスフェクトした。粗製ウイルス溶解物をトランスフェクションから60時間後に回収し、凍結及び融解サイクルにより溶解した。ウイルス溶解物を2ラウンドのCsCl超遠心分離により精製した後、透析した。ウイルスゲノムを、TaqManリアルタイムPCRアッセイにより、AAVベクターゲノムに含まれるFKRPコード配列に特異的なプライマー及びプローブを使用して定量した。増幅に使用したプライマー対及びTaqManプローブは、
FKRPoptフォワード:GCCCTTCTACCCCAGGAATG(配列番号9)
FKRPoptリバース:AAACTTCAGCTCCAGGAACCTC(配列番号10);及び
FKRPoptプローブ:TGCCCTTTGCTGGCTTTGTGGCCCAGGC(配列番号11)
である。ベクター力価は、1mlあたりのウイルスゲノム(vg/ml)を単位として表す。
【0171】
2)in vivoでの実験:
ラット及びマウスを、動物試験に関する仏国及び欧州の法律に従って処置した。この試験では、10~12週齢のスプラーグ・ドーリー雄ラット及び4週齢の雄FKRP欠乏マウス(Gicquelら、P094、Conference European Society Of Gene & Cell Therapy 2017、doi: 10.1089/hum.2017.29055.要約)を使用した。
【0172】
指示用量による組換えベクターを、指示する通りラット及びマウスの尾静脈内に注射した。等容量の緩衝食塩水(PBS)を対照として投与した。臨床状態及び動物の体重を定期的に監視した。動物を、指示時間(ラットは2週又は11週;マウスは6週)において屠殺した。
【0173】
3)ウエスタンブロット:
心臓及び筋肉組織を、EDTA不含Completeプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社、Bale、Switzerland)を補充した、RIPA溶解緩衝液(Thermo Fisher Scientific社、Waltham、MA、USA)により機械的に均質化した。試料に含まれる核酸を、ベンゾナーゼ(Sigma社、St. Louis、MO、USA)による37℃で15分のインキュベーションにより分解した。
【0174】
プレキャストポリアクリルアミドゲル(4~15%、BioRad社、Hercules、CA、USA)を使用してタンパク質を分離し、次いで、ニトロセルロース膜に移した。
【0175】
FKRPに対するウサギポリクローナル抗体については、これまでに記載されている(Gicquelら、2017)。ニトロセルロース膜を、FKRP(1:100)及び標準化のためのGAPDH(Santa Cruz Biotechnologies社、Dallas、TX、USA、1:5000)に対する抗体を用いて室温で2時間プローブした。
【0176】
最終的には、膜をIRDye(登録商標)でインキュベートして、Odyssey赤外線スキャナー(LI-COR Biosciences社、Lincoln、NE、USA)により検出した。
【0177】
4)PCR:
ベクターコピー数(VCN)を、TA筋において、ベクターゲノムに含まれるHBB2ポリA配列に対する定量的RT-PCRにより定量し、タイチン遺伝子(TTN)を使用して標準化した。
HBB2pAフォワード:CTTGACTCCACTCAGTTCTCTTGCT(配列番号12);
HBB2pAリバース:CCAGGCGAGGAGAAACCA(配列番号13);及び
HBB2pAプローブ:CTCGCCGTAAAACATGGAAGGAACACTTC(配列番号14)。
TTNフォワード:GTCCCCTGCGTATCTGCTATG(配列番号15);
TTNリバース:CGCTCGTTTTCAATACTACCTCTCT(配列番号16);及び
TTNプローブ:TCCGCAGCTCTAGTGGAAGAACCACC(配列番号17)。
【0178】
FKRPmRNAをTA筋及び心臓からTriZOL方法を使用して抽出し、次いで、定量的RT-PCRにより、コドン最適化FKRP配列に対して設計したオリゴヌクレオチド及びプローブを使用して定量し、P0遺伝子の発現により標準化した。
P0フォワード:CTCCAAGCAGATGCAGCAGA(配列番号18);
P0リバース:ATAGCCTTGCGCATCATGGT(配列番号19);及び
P0プローブ:CCGTGGTGCTGATGGGCAAGAA(配列番号20)。
【0179】
FKRPoptフォワード(配列番号9)、FKRPoptリバース(配列番号10)及びFKRPoptプローブ(配列番号11)は、上に開示するものである。
【0180】
5)組織学的検査:
心筋の凍結横断切片(8μm厚)をヘマトキシリン・エオシン・サフラン(HES)、シリウスレッド又はヘマトキシリン・フロキシン・サフロン(HFS)により標準プロトコールを使用して染色した。
【0181】
切片をPERTEX媒体(Leica社)でマウントした。Axio Scan Z1スライドスキャナー(Zeiss社)を使用してデジタル画像を取得した。
【0182】
結果:
1/FKRP遺伝子導入により心毒性が誘導される
1-1/ラットにおいて
AAV-FKRP(
図1A;配列番号1を内包する)の全身投与を、10~12週齢の雄ラット(スプラーグ・ドーリー)5匹において、1
e12、5
e12及び7.5
e13vg/kgの3種の異なる用量で実施した。注射から2週後、ラットを安楽死させて試料採取した。心臓のスライスをヘマトキシリン・エオシン・サフラン(HES)及びシリウスレッドの両方により染色した。
【0183】
AAV-FKRP投与後のラット心臓の組織学的検査により、心臓障害が示され、
図2に示すように、炎症及び線維症が、7.5
e13vg/kgの用量の注射から15日後のラットにおいて明白に観察される。その上、このような条件では、ラット1匹が死亡した。
【0184】
1-2/マウスにおいて
マウスが、FKRP欠乏動物モデルを開発した唯一の哺乳動物種であり、したがって、発現系の治療作用について研究可能な唯一の種であるため、AAV-FKRPベクターの潜在的心毒性も、このモデルにおいて調査した。
【0185】
AAV-FKRPの全身投与を、4週齢の雄FKRP欠乏マウス6匹において、4種の用量:5e12、1.5e13、4.5e13及び1e14vg/kgで実施した。注射から6週後、マウスを安楽死させて試料採取した。心臓のスライスをヘマトキシリン・フロキシン・サフラン(HES)及びシリウスレッドの両方により染色した。
【0186】
全てのマウスは、最も高用量(1e14vg/kg)の試験でさえも生存した。反対に(以下参照)、7.5e13vg/kgの用量の投与から2週後に、ラット1匹が死亡した。これにより、AAV-FKRP全身投与によって、マウスは、ラットほど罹患しないことが明らかとなる。
【0187】
しかし、AAV-FKRP投与後のマウス心臓の組織学的検査により、心臓障害が明らかとなり、
図3に示すように、炎症及び線維症が、1
e14vg/kgの用量の注射から6週後のマウスにおいて観察される。
【0188】
総じて、提示されたデータにより、AAV-FKRPの心毒作用が明らかとなり、これは、2種(ラット及びマウス)において確認され、全く予想外であった。
【0189】
2/心臓におけるFKRP導入遺伝子発現の減少により筋肉発現に影響することなく心毒性が軽減される
FKRP心毒性を防止する概念実証として、心臓特異的マイクロRNA、すなわち、miR-208aの標的配列の1つ又は2つのコピーをAAV-FKRPベクターに導入した。このように得られたベクター(
図1B)は、AAV-FKRPシングル(miR-208aの標的配列1つを含み、配列番号3を内包する)及びAAV-FKRPタンデム(miR-208aの標的配列2つを同方向に含み、配列番号4を内包する)と名付けられる。
【0190】
2-1/ラットにおける短期(2週)試験
この動物モデルにより、特には、7.5e13vg/kgの用量において、心毒性が迅速かつ明白に明らかとなるため、これまでのデータに基づいて、ラットモデルを更なる実験のために選択した。
【0191】
miR-208a標的(配列番号2)の0、1又は2つのコピーを含むAAV-FKRPの全身投与を、7.5e13vg/kgの用量で10~12週齢の雄ラット(スプラーグ・ドーリー)5匹において実施した。注射から2週後、ラットを安楽死させて試料採取した。
【0192】
a)生存及び体重の経過観察:
生存データを以下の表に示す。
【0193】
【0194】
データにより、おそらくは、この構築物の心毒性のため、AAV-FKRPを投与したコホートにおいて死亡のみが生じたことが明らかとなる。
【0195】
その上、
図4では、AAV-FKRPを注射したラットの体重は経時的に増加しないが、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムを注射したラットの体重は増加することが示される。
【0196】
結果として、2週後、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムを投与したラットが、AAV-FKRPを投与したラットよりも適合すると思われる。
【0197】
b)TA筋におけるベクターコピー数の定量
各ベクターゲノムに含まれるHBB2ポリA配列の定量に基づき、タイチン遺伝子(TTN)を使用して更に標準化した、
図5に示すデータにより、3つのベクターで類似するレベルの、骨格筋組織、すなわち、TA筋の感染が明らかとなる。
【0198】
重要なことには、これにより、miR-208a標的配列の導入により、筋肉におけるベクター導入の効率に対して、いかなる負の影響をも生じないことが確認され、ここで、前記タンパク質は、FKRPの欠乏と関連する筋肉異常を治癒する治療レベルで産生されるはずである。
【0199】
c)遺伝子導入後の心臓におけるFKRP発現
図6に示すように、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムの構築物により、AAV-FKRPと比較して、FKRP導入遺伝子発現の重要な低下がmRNAレベル(A)並びにタンパク質レベル(B)で観察される。
【0200】
このような低下を観察するのに十分なmiR-208a標的配列が存在することに注目すべきである。
【0201】
d)遺伝子導入後の心臓障害
図7に示すデータにより、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムの構築物によって、AAV-FKRPと比較して、心臓障害の大規模な減少が明らかとなる。換言すれば、FKRP導入遺伝子発現が心臓において減少する、すなわち、適当なマイクロRNAによる制御を行う場合、毒作用が消失する。
【0202】
e)遺伝子導入後の骨格筋におけるFKRP発現
TA筋に関する
図8に示すように、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムの構築物により、AAV-FKRPと比較して、mRNAレベル(A)並びにタンパク質レベル(B)において、FKRP導入遺伝子発現の減少は観察されない。
【0203】
これにより、miR208aの使用によって心臓の特異的脱標的化が可能となることが確認される。miR208a標的配列の導入により、骨格筋におけるFKRP発現の効率に対して、いかなる負の影響も生じないことは、非常に重要であり、ここで、前記タンパク質は、FKRPの欠乏と関連する筋肉異常を治癒する治療レベルで産生されるはずである。
【0204】
2-2/ラットにおける長期(11週)試験
上に報告した実験と同一であるが、注射から11週後に、この実験をラットに対して実施した。
【0205】
a)生存及び体重の経過観察:
注意すべきことには、AAV-FKRPの投与から2週後の屠殺の際に、ラット1匹は死亡していたが、全てが重度の心臓障害を有していた。対照的に、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムを注射した全てのラットは、投与から11週後も生存した。
【0206】
その上、
図9では、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムを注射したラットの体重が、経時的に確かに増加したことが示される。
【0207】
結果として、11週後、AAV-FKRPシングル又はAAV-FKRPタンデムを投与した全てのラットの状態は、良好であると思われる。
【0208】
b)遺伝子導入後の心臓障害:
その上、
図10では、11週後であっても、心臓障害は観察されないことが確認される。
【0209】
結果として、AAV-FKRPシングル及びAAV-FKRPタンデムのベクターは、いかなる心毒性をも呈しない。
【0210】
【配列表】
【国際調査報告】