(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】鉛含有ガラスを処理するための、このガラスに含有される鉛の溶液中の溶出を限定することを可能にする方法
(51)【国際特許分類】
C03C 23/00 20060101AFI20221116BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517266
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 FR2020051622
(87)【国際公開番号】W WO2021053304
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ジョリヴェ,パトリック
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA04
4G059AA20
4G059AB09
4G059AC18
4G059AC30
(57)【要約】
本発明は鉛含有ガラスを処理するための方法に関し、これが、このガラスに含有される鉛の溶出を限定することを可能にし、前記の方法が次の別個のステップを連続的に含む:
- 鉛含有ガラスを過塩素酸を含む溶液と接触させるステップ;
- ガラスのガラス転移温度以下の温度におけるガラスの熱処理のステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有ガラスを処理するための方法であって、これが、このガラスに含有される前記鉛の溶出を限定することを可能にし、前記方法が次の別個のステップを連続的に含む、方法:
- 前記鉛含有ガラスを過塩素酸を含む溶液と接触させるステップ;
- 前記ガラスのガラス転移温度以下の温度における前記ガラスの熱処理のステップ。
【請求項2】
過塩素酸を含む溶液が過塩素酸の水溶液である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
過塩素酸が10
-3Mから10
-1Mの範囲の濃度で溶液中に存在する、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
接触させる前記ステップが常温で実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
熱処理の前記ステップがガラスのガラス転移温度未満の150℃までの範囲の温度で実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
熱処理の前記ステップが200℃から700℃、有利には300から600℃の範囲の温度で実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
熱処理の前記ステップが12時間から36時間の範囲の継続時間に渡って実施される、請求項1~6のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項8】
鉛含有ガラスがクリスタル型のガラスである、請求項1~7のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項9】
鉛含有ガラスから作られた物体を処理するための方法である、請求項1~8のいずれか1項に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛含有ガラスを処理するための方法に関し、これは、特にガラスが水系媒体と接触するときに、このガラスに含有される鉛の溶出を限定することを可能にする。
【0002】
本発明は、特に、クリスタル型のガラス、特に少なくとも24重量%の酸化鉛またはさらには少なくとも30重量%の酸化鉛を含むガラスの処理のための用途を有する。
【背景技術】
【0003】
鉛の浸出を減少させるための鉛含有ガラスの表面処理は、特に、かかるガラスを含有する物体が口と接触することを意図され得るときには(例えば宝石、食器)、人体による鉛の摂取を避けるために重要である。
【0004】
実際、鉛は体にとって有毒な金属であり、ある種の分量に従って摂取された鉛は、中枢神経系、循環系、またはさらには消化器系にとって負の効果を引き起こし得る。これは、鉛の浸出の現象を限定するためにこれらの物体の表面処理を施すための数々の研究が実施された理由である。
【0005】
特に、特許文献1では、ガラスから作られた、特にクリスタルから作られた物品の表面処理のための方法が記載されている。これは、その処理を保証することが望まれるガラスから作られた物品を、ガラスから作られた物品の軟化温度、例えば490℃の温度を超過しない温度において、アンモニウムおよびアルミニウムの硫酸塩(単数または複数)の粉末の蒸気化から来る反応性ガスと接触させる工程、次に、物品の冷却後に、かくして処理された物品を洗浄していずれかの粉末状残留物をそれから排除する工程を含む。
【0006】
しかしながら、この方法はコントロールすることが困難なままに留まっており、カラフェなどの複雑な形状を有する物品に均一な様式で適用することは困難であることが判明し得る。その上、この方法は、外部に向かって開かれた中空物体については、粉末が蒸気の形成の間に物体の内部に閉じ込められたままに留まるためにそれらの端を閉じることを強いる。
【0007】
既に存在するものから判断して、本発明者らは、前述の欠点を有さず、かつ特にこのガラスが水系媒体と接触させられるときに、特にそれの変質の間にそれの鉛の浸出率の実質的縮減を得ることを可能にする鉛含有ガラスを処理するための方法を開発するというゴールを設定した。この方法は、体内への鉛の摂取についての毒性学的データの進展(検出限界の予想される強い縮減)ならびに欧州REACHおよび食品接触規制の可能な強化ともまた調和していなければならない。これらは溶液中の鉛の許容濃度を非常に強く制限し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国公開特許第2700764号明細書
【発明の概要】
【0009】
かくして、本発明は鉛含有ガラスを処理するための方法に関し、これが、特に、このガラスに含有される鉛の溶出を限定することを可能にし、前記方法が次の別個のステップを連続的に含む:
- 前記鉛含有ガラスを過塩素酸を含む溶液と接触させるステップ;
- 前記ガラスのガラス転移温度以下の温度における前記ガラスの熱処理のステップ。
【0010】
これらの2つの別個の連続的なステップの連続的な実装によって、それが水系媒体と接触させられるときに、それが酸性の媒体であるときでさえも、かくして処理されたガラスの鉛の浸出の現象の実質的縮減に寄与する相乗効果が観察された。特に、規格ISO7086に従うと、本発明の方法に従って処理されたガラスで得られる鉛の浸出の点で、ステイニング処理を経過したガラスで得られるものに類似である結果が観察された。
【0011】
まず第1に、本発明の方法は、鉛含有ガラスを過塩素酸を含む溶液と接触させるステップを含む。
【0012】
過塩素酸は式HClO4を満足する酸を意味していると理解される。
【0013】
より具体的には、過塩素酸を含む溶液は、過塩素酸の水溶液、より正確には水の他には専ら過塩素酸を含む溶液である。
【0014】
過塩素酸は、10-3Mから10-1Mの範囲の、好ましくは10-2Mに等しい濃度で溶液中に存在し得る。
【0015】
接触させるステップは、12時間から36時間の範囲の継続時間、例えば24時間に渡って実施され得る。
【0016】
最後に、有利には、接触させるステップは加熱を要求しない。これは、換言すると、それが、常温、つまり方法が実装される現地の環境の温度において実装されるということを意味する。この温度は15℃から27℃の範囲であることができ、例えば22℃である。
【0017】
具体的には、接触させるステップには、鉛を含むガラスを過塩素酸を含む溶液中に浸漬すること、または、ガラスがドリンクガラスまたはカラフェなどの中空の空洞を包含する成形製品の形態であるときには、この製品の空洞を過塩素酸を含む溶液によって満たすことが関わり得る。
【0018】
具体的なケースに従うと、接触させるステップは、10-3Mから10-1Mの範囲の、好ましくは10-2Mに等しい濃度を有する過塩素酸の水溶液によって、常温(より具体的には22℃)において24時間に渡って実施され得る。
【0019】
ひとたび接触させるステップが完了されると、本発明の方法は、ガラスのガラス転移温度以下の温度における、好ましくは12時間から36時間の範囲の継続時間に渡る熱処理のステップを含む。
【0020】
有利には、熱処理のステップはガラスのガラス転移温度よりも低い温度において実施され、より具体的には、これはガラスのガラス転移温度未満の150℃までの範囲であり得る。
【0021】
熱処理のステップは12時間から36時間の範囲の継続時間に渡って実施され得る。
【0022】
より具体的には、熱処理のステップは、200℃から700℃、有利には300から600℃の範囲の温度において、より具体的には12時間から36時間の範囲の継続時間に渡って実施され得る。
【0023】
特に、ガラスが、ガラスの総重量に対して相対的に24重量%のPbO酸化鉛を含むガラスであるときには、熱処理のステップは400から500℃の範囲の温度で実施され得、より具体的には450℃に等しくあり得る。
【0024】
具体的には、熱処理のこのステップには、好適な温度に加熱されたチャンバーによって鉛含有ガラスを加熱することが関わり得る。
【0025】
この方法は、特に、クリスタル型の鉛含有ガラス、例えば:
- ガラスの総重量に対して相対的に少なくとも24重量%のPbO酸化鉛を含むガラス(これらのガラスは「レッドクリスタル24%」と呼ばれ得る);
- ガラスの総重量に対して相対的に少なくとも30重量%のPbO酸化鉛を含むガラス(これらのガラスは「フルレッドクリスタル30%」と呼ばれ得る)、
に適合される。
【0026】
この方法は、既にこの鉛含有ガラスを含有する物体の形態のガラスに実装されるように完全に適合され(かくして、処理方法は、鉛含有ガラスから作られた物体を処理するための方法である)、これらの物体は:
- ドリンクグラス、カラフェのような食器などの食品使用のための物体;
- 宝石などの装飾使用のための物体、
であり得る。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は、調製の例に関する次の追加の記載を読むことによって明らかになるであろう。
【0028】
当然のことながら、この追加の記載は本発明の例解として与えられるのみであり、決して限定ではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】下の例1の第1の一連の試験について、種々の試験および参照の鉛の濃度C
Pb(mg/Lによる)を例示するグラフである。
【
図2】下の例1の第2の一連の試験について、種々の試験、参照、およびステイニングガラス粉末の鉛の濃度C
Pb(mg/Lによる)を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
例1
第1に、第1の一連の試験がガラス粉末(より具体的には、24重量%のPbOを含む市販のバカラグラスであって、63~125μmの粒径を有し、535cm
2.g
-1の比表面積を有し、458℃のガラス転移温度を有する)によって実施され、前記粉末は次の条件に付される:
*第1試験:HClO
4の水溶液と接触させられる;T=22℃;濃度:10
-3M(
図1の曲線b)または10
-4M(
図1の曲線c);接触の継続時間:1日;
*第2試験:H
3PO
4の水溶液と接触させられる;T=22℃;濃度:10
-3M(
図1の曲線d)または10
-4M(
図1の曲線e);接触の継続時間:1日;
*第3試験:HClO
4/H
3PO
4を含む水溶液と接触させられる;T=22℃;濃度:4*10
-3M(pH=2.4)(
図1の曲線f);接触の継続時間:1日;
*第4試験:K
2S
2O
5を含む水溶液と接触させられる;T=22℃;濃度:1M(pH=0)(
図1の曲線g)または2M(
図1の曲線h);接触の継続時間:1日;
*第5試験:H
2SO
4を含む水溶液と接触させられる;T=22℃;濃度:0.5M(
図1の曲線i)、4*10
-3M(
図1の曲線j)または10
-4M(
図1の曲線k);接触の継続時間:1日;
*第6試験:1日に渡る450℃におけるアニーリング(
図1の曲線l);
*第7試験:1日に渡る500℃におけるアニーリング(
図1の曲線m);
*第8試験:1日に渡る550℃におけるアニーリング(
図1の曲線n);
*第9試験:10日に渡る420℃におけるアニーリング(
図1の曲線o);
*第10試験:Zn
2+イオン(400mg.L
-1)を含む水溶液と接触させられる;T=22℃;接触の継続時間=1日、およびpH=5.5(
図1の曲線p);
*第11試験:Zn
2+イオン(400mg.L
-1)を含む水溶液と接触させられる;T=22℃;接触の継続時間=1日、およびpH=2.4(
図1の曲線q)。
【0031】
これらの試験の有効性を、ISO7086検査の間に分析された鉛の濃度に基づいて測定した。これらの種々の試験から来る粉末を酢酸の溶液(4体積%)と24時間に渡って22℃で1000m-1という比(S/Vと呼ばれるガラスの表面積/溶液の体積)(または10mLの酢酸溶液中の187mgのガラス粉末)に従って接触させること、それから酢酸の溶液の鉛濃度を定量することによった。
【0032】
前述の試験のそれぞれによる酢酸の溶液中の定量された鉛の濃度は
図1に報告されている。これは鉛の濃度C
Pb(mg/Lによる)を種々の試験(上で定められている曲線bからq)および参照(Ref.として指示されており、いずれかの処理を経過していないガラス粉末に対応し、溶液中に放出される鉛の参照濃度を形成する。
図1の曲線a)について例示するグラフである。
【0033】
鉛の放出についての最も有効な条件は、HClO4過塩素酸によって、特に10-3mol.L-1の濃度によって得られるものである。
【0034】
かくして決定されたこれらの有効な条件(つまり過塩素酸の使用)から出発して、第2の一連の試験が依然として同じ型のガラス粉末(つまり、24重量%のPbOを含む市販のバカラグラスであって、63~125μmの粒径を有し、535cm
2.g
-1の比表面積を有する)によって実施され、前記粉末は次の条件に付された:
*第1試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-3M;接触の継続時間:1日(
図2の曲線b);
*第2試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-3M;接触の継続時間:1日、次に450℃におけるアニーリング(24時間に渡る)(
図2の曲線c);
*第3試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-2M;接触の継続時間:1日(
図2の曲線d);
*第4試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-2M;接触の継続時間:1日、次に450℃におけるアニーリング(24時間に渡る)(
図2の曲線e);
*第5試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-1M;接触の継続時間:1日(
図2の曲線f);
*第6試験:HClO
4の水溶液と接触させられた;T=22℃;濃度:10
-1M;接触の継続時間:1日、次に450℃におけるアニーリング(24時間に渡る)(
図2の曲線g);
*第7試験:HClO
4(10
-3M)+Zn
2+(100mg.L
-1)の水溶液と接触させられた;T=22℃;接触の継続時間:1日(
図2の曲線h);
*第8試験:HClO
4(10
-3M)+H
2O
2(10体積%)の水溶液と接触させられた;T=22℃;接触の持続時間:1日(
図2の曲線i)。
前述の試験のそれぞれによるかつ比(S/V)=1000m
-1による規格ISO7086に従う酢酸の溶液中の定量された鉛の濃度が
図2に報告されている。これは、鉛の濃度C
Pb(mg/Lによる)を、種々の前述の試験(曲線bからi)および参照(Ref.として指示されており、いずれかの処理を経過していないガラス粉末に対応し、溶液中に放出される鉛の参照濃度を形成する。
図2の曲線a)について、ならびにステイニングガラス粉末(ステイニングBACとして指示されている。つまり、カラフェに適用されるステイニング処理を経過したガラス粉末。
図2の曲線j)についてもまた例示するグラフである。前記ステイニングガラス粉末は、いずれかの処理を経過していない粉末に対して45倍の鉛の濃度の縮減に至る。
【0035】
450℃における熱処理は、同じ濃度の過塩素酸によってだがこの熱処理なしに実施された試験に対して、鉛の放出を少なくともおよそ3分の1にすることを可能にするということが分かる。最も良好な結果は450℃のアニーリングによる10-2M過塩素酸の溶液によって得られる(鉛の放出は、熱処理なしの同等の試験に対して6倍、参照に対して40倍改善される)。
【0036】
450℃における熱処理が、Zn2+イオンまたはH2O2過酸化水素水を含む過塩素酸の溶液によって得られるものよりも良好な結果を得ることをもまた可能にするということもまた分かる。
【0037】
同様に、450℃のアニーリングによる過塩素酸の10-2M溶液による処理はステイニングガラス粉末と同じ桁の性能に至るが、液体プロセスで実施されるこの処理が表面の全てが均一な様式で処理されることを可能にする限り、この処理は複雑な形状を有する物体に適用され得るということから、より良好な再現性を保証することを可能にするということに注目すべきである。
【0038】
例2
この例では、試験が、クリスタル型のガラスから作られた物体によって、より具体的にはバカラグラスおよびサン・ルイフルートによって実施される(これらの2つの物体は458℃のガラス転移温度を有するガラスから作られている)。
【0039】
これらの2つの物体を:
- それらを10-2Mの過塩素酸の水溶液と22℃において1日に渡って接触させるステップ;
- 24時間に渡る450℃における熱処理のステップ、
を含む処理方法に付した。
【0040】
この処理方法の後に実施された外観検査は、この方法を経過していない同じ物体に対して違いがないということを示している。これは処理方法が物体の外見を変えないということを実証している。
【0041】
かくして処理された物体もまた22℃で24時間に渡って酢酸の溶液(4体積%)によるISO7086検査に付され、溶液の体積は50mLである(比S/Vはバカラからのグラスでは100m-1、サン・ルイからのフルートでは120m-1である)。この試験から、両方の物体について、鉛の放出の縮減は同じ未処理の物体に対して40倍であるということが分かる。
【国際調査報告】