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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】クエンチ保護装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20221116BHJP
   H01C 7/10 20060101ALI20221116BHJP
   H01C 7/12 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H01F6/02
H01C7/10
H01C7/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517285
(86)(22)【出願日】2020-09-21
(85)【翻訳文提出日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 GB2020052282
(87)【国際公開番号】W WO2021058940
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】1913695.1
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507329985
【氏名又は名称】オックスフォード インストルメンツ ナノテクノロジー ツールス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーニー アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ツイン アンディ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレン デイヴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィズニチェンコ ローマン
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034CB01
5E034CC14
5E034DA03
5E034DD05
5E034EC05
5E034ED01
(57)【要約】
超伝導磁石のためのクエンチ保護装置を開示する。この装置は、複数の磁石部分を含む超伝導磁石と、各バリスタが複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分を横切って電気的に並列に接続された複数のバリスタと、複数のバリスタに電気的に接続され、複数のバリスタのうちのいずれか1つ又は2つ以上のバリスタの電圧の変化に応答して複数の磁石部分の各々に熱を加えるように構成されたヒータ装置とを含む。超伝導磁石を保護する方法も開示する。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導磁石のためのクエンチ保護装置であって、
複数の磁石部分を含む超伝導磁石と、
前記複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分を横切って電気的に並列にそれぞれ接続された複数のバリスタと、
前記複数のバリスタに電気的に接続され、前記複数のバリスタのいずれか1つ以上のバリスタの電圧の変化に応答して前記複数の磁石部分の各々に熱を加えるように構成されたヒータ装置と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ヒータ装置は、前記複数のバリスタのいずれか1つ以上のバリスタの電圧が閾値電圧値に到達したことに応答して熱を加えるように構成される、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ヒータ装置は複数のヒータを含み、前記複数のヒータの各ヒータは、前記複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分に熱を加えるように配置される、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記ヒータ装置は、前記複数のバリスタの前記1つ以上のバリスタの前記電圧変化の結果として、前記複数の磁石部分の各々に加えるべき熱をジュール加熱によって生成するように構成される、
請求項1から3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記複数のバリスタの1つ以上のバリスタは、それぞれ2つ以上のバリスタ部品を含む、
請求項1から4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
各バリスタ部品はディスク状に形成され、前記バリスタ部品の2つ以上のバリスタ部品を含む1つ以上のバリスタの各々では、前記バリスタ部品がスタック状に配置される、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記複数のバリスタの1つ以上のバリスタの電圧が所定のクエンチ閾値電圧値に到達したことに基づいて、前記複数の磁石部分の1つ以上の磁石において発生したクエンチを検出するように構成されたクエンチ検出器モジュールと、
前記クエンチ検出モジュールがクエンチの発生を検出したことに応答して、前記複数の磁石部分の1つ以上の磁石部分にクエンチ状態を誘起するように構成されたクエンチインデューサシステムと、
を含む能動的クエンチ保護システムをさらに備える、
請求項1から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記磁石部分を通じた電流の大きさが前記磁石の動作電流に対応する所定の電流値の50%未満である間に、前記複数の磁石部分の1つ以上の磁石部分において発生するクエンチが、前記複数のバリスタの1つ以上のバリスタの前記電圧を前記所定のクエンチ閾電圧値に到達させるように構成される、
請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記超伝導磁石部分は、少なくとも1つの低温超伝導体(LTS)磁石部分と、少なくとも1つの高温超伝導体(HTS)磁石部分とを含み、前記クエンチ保護装置は、前記複数のバリスタのいずれか1つ以上のバリスタの電圧が閾値電圧値に到達したことに応答して前記少なくとも1つのHTS磁石部分の各々にクエンチ保護を適用するように適合されたHTSクエンチ保護システムを含む、
請求項1から8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
HTSクエンチ保護システムは、前記少なくとも1つのHTS磁石部分から前記磁石の外部体にエネルギーを散逸させること、及び、前記少なくとも1つのHTS磁石部分のコイル内にジュール加熱を引き起こすように構成された所定の周波数及び大きさを有する交流電流を適用すること、のうちのいずれか1つ以上によって前記クエンチ保護を適用するように適合される、
請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記複数のバリスタの各々は炭化ケイ素を含む、
請求項1から10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記ヒータ装置は、前記複数の磁石部分のうちの1つにクエンチが発生した時に、結果として生じる前記バリスタの電圧によって前記ヒータ装置が前記複数の磁石部分のうちの少なくとも1つのさらなる磁石部分に熱を供給するように、前記複数のバリスタに関連付けられる、
請求項1から11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
複数の磁石部分を含む超伝導磁石を保護する方法であって、前記複数の磁石部分のそれぞれを横切って複数のバリスタの各々が電気的に並列接続され、前記複数のバリスタにヒータ装置が電気的に接続され、前記方法は、前記複数のバリスタのいずれか1つ以上のバリスタの電圧の変化に応答して前記複数の磁石部分の各々に熱を加えることを含む、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエンチ保護装置に関する。具体的には、本発明は、超伝導磁石の複数の部分のそれぞれの部分に接続された複数のバリスタを含む、超伝導磁石のためのクエンチ保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導体、とりわけ超伝導磁石におけるクエンチとは、内部の超伝導性が突然失われることであり、磁石コイルの一部が通常の抵抗状態に戻った時に発生する。クエンチは、典型的には磁石内部の過剰な磁場又はその変化率、或いは物理的欠陥などの様々な条件によって発生することがある。この結果、超伝導でなくなったコイルの部分に流れ続ける大電流によってその場所に急速な局所的ジュール熱が発生して周囲領域の温度を上昇させる。この結果、これらの領域も通常の抵抗状態になり、従って磁石全体の温度が超伝導閾値よりも上昇して磁石が通常状態に戻る加熱連鎖反応(heating chain reaction)が生じる。
【0003】
クエンチが発生すると、突然の電流の減少によって誘導電圧のスパイク及びアーク放電が発生することがある。これらの高電圧及び発熱の影響によって磁石及びその他の部品が損傷することがある。また、低温流体によって低動作温度に維持される液体ヘリウムバス磁石などの「湿式」磁石では、超伝導体として動作している間に磁石に蓄えられた大量のエネルギーが急速に熱に変換されることによって、低温流体がいきなり爆発的に沸騰する恐れがある。さらに、「湿式」磁石では、この流体の沸騰によって窒息の危険性が生じることもある。
【0004】
クエンチが発生すると、コイルの抵抗が高くなることによって流れる電流が減少する。しかしながら、コイルのサイズによってはクエンチの進行に数秒かかることもあるため、通常、電流はゆっくりと低下する。また、通常、磁石部分は1又は2以上の他の磁石部分と直列に接続して動作しており、このような場合に1つの磁石部分のみがクエンチすると、他の磁石部分のインダクタンスが電流の維持を目的とした電圧を発生させ、これによってクエンチが発生した磁石部分だけでなく、これらの接続された磁石部分に蓄えられたエネルギーもクエンチが発生した磁石部分において放出されることがある。
【0005】
クエンチ発生後にできるだけ早く電流を停止又は制限し、発生した熱を磁石部分及びこれに接続された他の磁石部分の至る所でできるだけ多く拡散又は放散させることによってクエンチした磁石内に望ましくない潜在的に有害な熱エネルギーが集中するのを避けるために、超伝導磁石に安全装置を備えることが知られている。この拡散効果を達成するための既知の手法は、磁石コイル内でクエンチが検出された時に他のコイルを意図的に加熱することによって他のコイルでクエンチを開始することである。
【0006】
誘導性の超伝導磁石部分に抵抗器及びダイオードを使用することは、クエンチ保護のための既知の手法である。通常、抵抗器は、NiCr、ステンレス鋼、又は所与の温度で線形的な電圧-電流特性を有する別の抵抗材料で構成される。このような既存の保護システムでは、相互インダクタンス及び抵抗器への電流循環によってコイルセットを通じて完全に受動的にクエンチが伝播する。この手法は、「受動的」保護手法と呼ぶことができる。
【0007】
クエンチの開始は、電流の変化率又は各部分における臨界電流への到達によって達成することができる。いくつかのシステムでは、隣接するコイルのクエンチを開始してクエンチを促進するためにヒータネットワークが使用される。この手法は、「ヒータによる受動的」手法と呼ぶことができる。ヒータは、クエンチが発生した部分、及び/又は磁石の他の保護部分のうちの1つの抵抗器にわたって生成される電圧によって駆動される。
【0008】
或いは、クエンチを外部的に検出し、これに応答して容量性放電又はバッテリー放電を引き起こし、これを使用して磁石内のヒータをトリガ又は駆動させることもできる。この種の保護は、「能動的」と呼ぶことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第3014634号明細書
【特許文献2】英国特許第2514372号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既存のクエンチ保護のための解決策にはいくつかの欠点がある。例えば、保護装置において高磁場磁石と共に従来の抵抗器を使用すると、これらの抵抗器に過剰な電流が流れた場合に抵抗器が溶けて開回路状態になり、アース及び磁石の部品間に無制御に電気アークが発生する恐れがある。このようなシナリオでは、磁石に破損が生じる恐れがある。さらに、磁石部分の電圧の上昇に長い時間(通常は約100ms)がかかってしまい、受動的構成及びヒータによる受動的構成によって行われる保護の応答性が制限されることもある。
【0011】
例えば、「ヒータによる受動的」システムのヒータをより効果的に駆動させ、エネルギー散逸のさらなる増大及び促進を図り、特に小型、高磁場かつ高電流密度磁石の保護を改善することによる、超伝導磁石のクエンチに対する改善された保護方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、超伝導磁石のためのクエンチ保護装置であって、複数の磁石部分を含む超伝導磁石と、各バリスタが複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分を横切って電気的に並列に接続された複数のバリスタと、複数のバリスタに電気的に接続され、複数のバリスタのうちのいずれか1つ又は2つ以上のバリスタの電圧の変化に応答して複数の磁石部分の各々に熱を加えるように構成されたヒータ装置と、を備えた装置が提供される。
【0013】
本発明者らは、極低温環境においてバリスタを有利に採用することができ、特に磁石クエンチに対する保護機能を改善するために使用できることに気付いた。バリスタは、印加された電圧に応じて電気抵抗が変化する電子部品であり、一般に電流が増加すると抵抗が減少する。図1Aに、バリスタの電流-電圧関係と固定又は線形抵抗器の電流-電圧関係との間の比較を示す。従って、バリスタは、電圧依存型の非線形電気部品として理解することができる。バリスタは、一般に低電圧において高電気抵抗を有し、上述したようにこの電気抵抗が電圧の上昇と共に減少するものとして特徴付けることができる。この応答は、一般にシグモイド曲線をたどるものと理解することができる。これらの部品は、他の技術分野では電圧サージリミッタとして一般的に使用されている。バリスタは、低温超伝導体(LTS)又は高温超伝導体(HTS)磁石部分を有する保護回路において有利に使用できることが分かっている。このような装置は、磁石クエンチの開始時に、バリスタにより高い電圧及び電流を生じることができる。この効果を使用して、クエンチコイルに隣接する、又はクエンチを促進するために熱を付与できるように別様に配置されたコイルのクエンチヒータを駆動し、或いは磁石全体にわたるクエンチを促進するために磁石部分間の電流分布を変化させることができる。このように、この装置を使用して、磁石全体を通じたクエンチの伝播を従来の抵抗器ベースの装置よりも素早く達成することができる。従って、この装置は、磁石全体を通じてより確実にかつ高い応答性でクエンチを分散させ、これによって高度に局所化された加熱による有害な影響を軽減することができる。バリスタ装置によって容易になる磁石全体を通じた急速なエネルギーの放散は、クエンチの発生時に生じるコイルホットスポットを有利に減少させることができる。本開示において使用する「電圧」という用語は電位差を意味するものとして理解することができる。すなわち、バリスタの電圧はバリスタの電位差として理解することができる。
【0014】
上述したように、バリスタを使用する重要な意味あいは、一般に低電流ではバリスタの電圧が比較的高くなる一方で、最大電流が流れると所定の限界内に留まる点にある。電流に関するバリスタの性能はV=CIβという関係によって近似することができ、ここでのVはバリスタの電圧であり、βは非線形性パラメータであり、Cはバリスタに1Aの電流が流れた場合の抵抗値である。通常、これらのパラメータは、いずれかの所与の材料の異なる動作温度において異なる。指標の目安として、室温では、通常、炭化ケイ素(SiC)材料を含むバリスタはβ0.5を有することができ、通常、酸化亜鉛材料(ZnO)を含むバリスタはβ0.05の非線形性パラメータ値を有することができる。複数のバリスタのうちの1つ又は2つ以上は、その非線形性及び抵抗特性に基づいて選択され、典型的にはそのβ及びCパラメータの値によって定量化されることが好ましい。
【0015】
例示として、図1B及び図2に、1Ωの線形抵抗器と比較したβ=0.5、C=15のバリスタの特徴的な電圧-電流グラフを示す。図1Bには、関心範囲全体にわたる応答をプロットする。保護された磁石部分の最大許容電圧を250Vと仮定すると、これは1Ωの線形抵抗器を使用した場合に250Aの電流が流れることに相当する。この電流では、選択されたバリスタの電圧は電圧制限内に収まる。図2には、より低い電流における曲線の拡大部分を示す。この領域では、バリスタの電圧が、同じ電流が流れている抵抗器の電圧よりも高い。「受動的」クエンチヒータは、確実に作動するのに100Vを必要とすることができ、バリスタでは50A未満の電流でこの電圧に到達するのに対し、1Ω抵抗器ではこれを達成するために100Aの電流が流れている必要があることが分かる。
【0016】
様々な実施形態及び構成では、磁石に熱が加わるようになる電圧の変化を、正方向又は負方向の電圧値の変化とすることができる。通常、装置は、電圧の変化の大きさ、すなわち電圧が変化する前の値と変化した後の値との間の差分の絶対値が、設定又は予め決定された閾値差値を満たすか又は上回ることが好ましいという所定の条件を満たす電圧変化に基づいて熱を加えるように適合される。
【0017】
いくつかの好ましい実施形態では、ヒータ装置が、複数のバリスタのいずれか1つ又は2つ以上のバリスタの電圧が閾値に到達したことに応答して熱を加えるように構成される。このように、この変化は、その部分の電圧が閾値に等しくなり又はこれを通り越すようなものとすることができる。上述したように、これらの値は正又は負とすることができるので、通常、この変化は閾値又はその大きさを上回る電圧の大きさを含む。
【0018】
本開示において説明する装置は、最初の部分で発生したクエンチを緩和するために、バリスタが接続されている磁石部分でクエンチが発生した時にバリスタの電圧が変化して磁石又は磁石の他の何らかの部分を加熱する特定の態様に有利に依拠することができる。この態様は、原理的には1つのヒータによって達成することができる。しかしながら、好ましい実施形態では、加熱装置が複数のヒータを含む。より好ましくは、1又は複数のヒータが、超伝導磁石全体又は加熱によってクエンチを誘発すべきその少なくとも一部の周囲の熱の分布を最大化するように配置される。従って、いくつかの実施形態では、ヒータ装置が複数のヒータを含み、複数のヒータの各ヒータが、複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分に熱を加えるように配置され、又は使用時に熱を加えるように構成される。いずれかの部分でクエンチが発生した時に作動するように構成されたそれぞれのヒータを各磁石部分に設けることで、磁石内のエネルギーをより迅速かつ効果的に放散することができる。
【0019】
いくつかの好ましい実施形態は、上述した「ヒータによる受動的」保護スキームと同様のものであると理解することができる。従って、いくつかの実施形態では、ヒータ装置が、複数のバリスタのうちの前記1つ又は2つ以上のバリスタの電圧変化の結果として、複数の磁石部分の各々に加えるべき熱をジュール加熱によって生成するように構成される。バリスタを含む保護回路に接続された1又は2以上のヒータを通じて生成又は増加される電流を介してヒータを受動的に駆動すると、上述した受動的スキームの利点が維持されたまま、磁石のいずれかの部分のクエンチに対する装置の応答性の劇的な改善もバリスタによって達成される。
【0020】
通常、各磁石部分に接続されるバリスタは単一のバリスタ部品として提供される。しかしながら、好ましい実施形態では、複数のバリスタのうちの1つ又は2つ以上或いは全てがそれぞれ2又は3以上のバリスタ部品を含む。すなわち、このような実施形態の各バリスタ部品は個々にバリスタであり、これらの用途では、これらの部品が所与の磁石部分にわたってバリスタとして機能するグループで動作するように構成される。様々な実施形態では、複数のバリスタ部品を含むこれらの複合バリスタの各々が、2つ、3つ、4つ、5つ又は6つ以上、或いはいずれかの数のこのような部品を含むことができる。各バリスタにおけるバリスタ部品の数は、装置内の複数のバリスタのうちのいずれか2つについて同じであることも又は異なることもでき、例えばこの数は、関連する超伝導磁石コイルの構造に依存する。
【0021】
共にグループ化された複数のバリスタ部品を含むバリスタを使用する場合には、グループ化された部品をスタックの形態で提供することが有利となり得る。従って、好ましい実施形態は、例えばタイル、プレート又はディスクなどの積み重ね可能な形状を有するこれらのバリスタ部品を含む。いくつかの好ましい実施形態では、各バリスタ部品がディスク状に形成され、前記バリスタ部品のうちの2又は3以上のバリスタ部品を含む1又は2以上のバリスタの各々では、バリスタ部品がスタック状に配置される。
【0022】
これに加えて又はこれに代えて、バリスタを利用してヒータによる受動的保護回路を作動させるために、能動的保護回路もバリスタのクエンチに対する電圧応答から恩恵を受けることができる。具体的には、電圧変化に起因する電流によって駆動されるのではなく外部的に駆動、給電又は構成される保護装置又はシステムを作動させる信号又はトリガとして電圧変化を使用できるので、バリスタの使用、及びクエンチの発生時に急速な電圧上昇をもたらすその能力は能動的スキームにとって有用である。
【0023】
従って、いくつかの実施形態では、装置が、複数の磁石部分のうちの1つ又は2つ以上の磁石部分を横切って接続された複数のバリスタのうちの1つ又は2つ以上のバリスタの電圧が、上述した閾値電圧値と同じである又は異なることができる所定のクエンチ閾値電圧値に到達したことに基づいて、複数の磁石部分のうちの1つ又は2つ以上の磁石において発生したクエンチを検出するように構成されたクエンチ検出器モジュールを含む能動的クエンチ保護システムをさらに含む。能動的クエンチ保護システムは、クエンチ検出モジュールがクエンチの発生を検出したことに応答して、複数の磁石部分のうちの1つ又は2つ以上の磁石部分にクエンチ状態を誘起するように構成されたクエンチインデューサシステムをさらに含むことができる。この装置は、バリスタを採用することによってより迅速に閾値電圧に到達することができ、すなわち以下でさらに説明するような磁石全体を通じてクエンチを誘発する方法が異なるこれらの能動的保護スキームをより迅速にトリガできるという点で有利である。
【0024】
バリスタの電圧が急速に上昇する特定の利点は、磁石の動作電流に比例して低い磁石電流でクエンチが発生した場合には、保護回路内の1又は2以上のバリスタの電圧が能動的クエンチのトリガレベルよりも上昇するのに対し、従来の抵抗器保護の場合には、電圧がこのレベルを下回ってヒータ回路がトリガを行わない点である。この文脈における「低い」電流とは、典型的には磁石の動作電流の半分未満の電流に対応するものと理解される。従って、能動的保護システムを採用するいくつかの実施形態では、この装置を、磁石部分を通じた電流の大きさが磁石の動作電流に対応する所定の電流値の50%未満である間に、複数の磁石部分のうちの1つ又は2つ以上の磁石部分において発生するクエンチが、複数のバリスタのうちの1つ又は2つ以上のバリスタの電圧を所定のクエンチ閾電圧値に到達させるように構成することができる。このように、このような装置は、従来の手法と比べてクエンチ保護を拡張することができる。この拡張は、抵抗ベースの保護装置が作動する電流レベルよりも低い電流レベルで能動的保護をトリガするための電圧条件が満たされるように装置、特にバリスタを構成することによって達成することができる。いくつかの好ましい実施形態では、装置を、前記電流の大きさが前記動作電流の40%、30%、20%又は10%未満である時に前記電圧が所定のクエンチ閾値電圧値に到達するように構成することができる。
【0025】
本開示において説明する装置は、様々なタイプの超伝導磁石を保護するために使用することができる。低温超伝導(LTS)磁石に加えて、LTS部分と共に高温超伝導(HTS)部分も含むハイブリッド磁石は、一般にHTS部分を効果的に保護するために別の又はさらなる装置を必要とする。いくつかの実施形態は、両タイプの超伝導コイルに同じ方法のクエンチ保護を採用することができるが、通常、LTSに適用されるクエンチ保護法は必ずしもHTS磁石部分には適用できず、保護において特に効果的ではない。
【0026】
通常、最小クエンチエネルギー密度として理解できるHTS対LTSの「安定性マージン」は、HTSコイルの方がLTSコイルよりも3桁大きい。このことは、例えばIwasaの6.2.6節、「超伝導磁石におけるケーススタディ(Case Studies in Superconducting Magnets)」、Springer(第2版、2009年)において、特に表6.4を参照しながら説明されている。すなわち、HTS導体から巻かれた磁石は、LTS巻線よりも外乱に対する安定性が高く、クエンチの可能性が低い。
【0027】
HTS巻線はクエンチしないこともあるが、必ずしもHTS磁石部分が損傷しないとは限らない。特にLTS磁石内にHTS部分が挿入されるように又は使用時に収容されるように構成された磁石では損傷の恐れがある。通常、このような構成では、LTS巻線の電流が減衰すると、レンツの法則による誘導結合によってHTS巻線の電流が増加する。1つの考えられる損傷メカニズムは、結果として生じる追加応力によって磁石の巻線が酷使されるものである。
【0028】
また、安定性が高いということは、LTS磁石に典型的に適用される装置又はスキームを使用して磁石を保護するためにクエンチを引き起こすことが相当困難になるということでもある。また、HTSコイルに局所的にクエンチが誘発された場合でも、同じ理由で導体巻線を通じて伝播する可能性は低くなる。従って、局所ヒータが不適切に適用されると、ホットスポットの発生という望ましくない効果が生じ、原理的にHTSの過熱損傷を招く恐れがある。
【0029】
これらの違いに対応するために、ハイブリッド磁石に含まれるHTS磁石及びHTS巻線の両方を保護する別の装置が使用されてきた。電圧信号又は変化検出、或いは磁石がクエンチしたことを示す別の指標に基づいてトリガされる異なるHTS保護スキームの例は数多く存在する。1つの例は、磁石の外部からスイッチを開いてコイルからエネルギーを放散させるものである。別の例は、コイルの表面に局所的にではなく巻線バルクに加熱を誘導するように積極的に交流を付与するものである。後者の例による装置は欧州特許第3014634号において説明されており、この文献では「結合損失誘導クエンチ(Coupling Loss Induced Quench)」と呼ばれている。
【0030】
LTS/HTSハイブリッド超伝導磁石を保護すべきいくつかの実施形態では、HTS磁石及び磁石部品を保護するための既存の装置を採用することができる。このような実施形態では、超伝導磁石部分が、少なくとも1つの低温超伝導体(LTS)磁石部分と、少なくとも1つの高温超伝導体(HTS)磁石部分とを含み、クエンチ保護装置が、複数のバリスタのうちのいずれか1つ又は2つ以上のバリスタの電圧が閾値電圧値に到達したことに応答して少なくとも1つのHTS磁石部分の各々にクエンチ保護を適用するように適合されたHTSクエンチ保護システムを含む。上述したように、通常、HTS部分は、LTS磁石部分内の挿入体として使用されるように構成される。磁石のHTS挿入部品とLTS部品との組み合わせには、「アウトサート」と呼ぶこともできる様々な構成を使用することができる。例えば、異なる電流で動作できるような2つの異なるそれぞれの電源を使用して、LTS部品及びHTS部品を別々に励起することができる。いくつかの実施形態では、これらの2つの部品を直列に接続して1つの電源に繋ぎ、同じ電流で動作させることができる。誘導結合を伴って各部分を励起することができる他の構成も可能である。通常、HTSシステムは、磁石部分のいずれかにクエンチが発生した場合に特にHTS部分を保護する技術を有効にするためのトリガとして電圧条件を使用する。
【0031】
上述したように、HTSクエンチ保護システムは、少なくとも1つのHTS磁石部分から磁石の外部体にエネルギーを散逸させること、並びに少なくとも1つのHTS磁石部分のコイル内にジュール加熱を引き起こすように構成された所定の周波数及び大きさを有する交流電流を適用すること、のうちのいずれか1つ又は2つ以上によってクエンチ保護を適用するように適合される。エネルギーは、スイッチを開いてコイルから外部の接続部品にエネルギーを伝えることによって散逸させることができる。
【0032】
様々な実施形態では、本開示において上述したようなものを含む、磁石部分を横切って接続された異なるタイプのバリスタを使用することができる。装置は、その特性を理由として炭化ケイ素(SiC)バリスタを含むことが好まし。より好ましくは、複数のバリスタのうちの1つ又は2つ以上或いはサブセットが炭化ケイ素を含み、さらに好ましくは、複数のバリスタの各々が炭化ケイ素を含む。
【0033】
いくつかの好ましい実施形態では、装置に含まれるバリスタが高エネルギー炭化ケイ素バリスタである。通常、このような部品は、一般に粒状の炭化ケイ素を含み、通常は1又は2種類以上の結合剤及び/又は添加剤から形成されたマトリックス内に分散又は別様に配置される。通常、マトリックスは粘土材料から形成される。通常、各バリスタは、前記(単複の)材料を含むディスク形状を有し、通常はこれに電気接点が取り付けられる。
【0034】
通常、バリスタは、電圧、電流及びバリスタのエネルギー特性のうちのいずれかを含む、所与の用途にとって望ましい特定の特性に従って選択される。また、バリスタは、部品の抵抗の非線形性の度合いに基づいて選択することもできる。通常、この非線形性はバリスタのベータ値に関して定量化される。
【0035】
また、バリスタは、本保護装置による典型的なバリスタのディスクにおける局所領域での短絡という故障モードに起因して、その部品故障定格(component failure rating)に肉薄することもある。典型的な実施形態によるバリスタの強固な材料組成は極低温環境において有益に保持され、これによって通常は接地へのアーク放電及びその後の磁石コイルへの損傷を伴わずに磁石試験を完了することができる。
【0036】
本装置での使用には様々なSiCバリスタが適している。本発明者らは、驚くべきことに、従来室温用途で使用されていたバリスタを極低温環境で使用すると、既存の保護システムに比べて多くの利点をもたらすクエンチ保護装置を提供できることに気付いた。通常、バリスタ、並びに保護回路及び/又はヒータ回路などの配置の他の構成部品は、極低温環境で動作するように構成される。
【0037】
この装置は、バリスタの固有の特性を利用して多くの方法でクエンチを促進する保護回路の組み込みを容易にすることができるという利点を有する。
【0038】
この装置は、低電流では高電圧を伴う一方で高電流では低電圧を伴うことによって、磁石に生じる損傷のリスクを低減しながらバリスタの電流密度を最大化できる(従来の抵抗回路と比較した時に場合に通常はより水平な状態を保つ)ため有益となり得る。通常、最初に低電流で高電圧が掛かり、その後に抵抗が低下するということは、磁石部分における高電流の蓄積を避けるようにバリスタを構成できることを意味する。
【0039】
また、いくつかの実施形態では、バリスタからの電圧を使用して、とりわけ1又は2以上の他のコイルにおいてクエンチを開始できる速度の面でより効率的にヒータを駆動することができる。通常、ヒータ電圧は少なくとも一定程度自己制限を行うので、これによって異なるクエンチシナリオにおけるヒータの信頼性を高めることもできる。
【0040】
バリスタは、電圧クランプが発生するように構成されることが好ましい。これにより、過剰電流にかかわらず磁石コイルが保護される安全な電圧を維持することができる。1又は2以上のバリスタに含まれるSiC粒子のサイズは、クランプ電圧及び/又は電流密度を最適化するように選択することができる。
【0041】
さらに、「能動的」保護回路は、初期に大きな部分電圧を有することによって、設定された電圧閾値におけるより迅速なトリガ(正及び負)が可能になることが好ましい。
【0042】
いくつかの実施形態では、それぞれが上述したようなバリスタベースのものである能動的保護回路及び「ヒータによる受動的」装置の両方の組み合わせが有益である。例えば、LTS部品及びHTS部品の両方を含む磁石では、2つの異なる保護スキームを最も適した構成部品に適用できるため、このような組み合わせが特に有益である。この点については、以下でさらに詳細に説明する。
【0043】
いくつかの好ましい実施形態では、バリスタが、保護される磁石部分を横切って背中合わせの(back-to-back)ダイオードと直列に接続される。装置は、より多くの電流を引き込み、とりわけ「ヒータによる受動的」シナリオにおいてヒータを燃焼させるように設計された保護回路を含むことができる。これらの実施形態では、発見されたバリスタの有利な特性が有益に利用されている。
【0044】
装置は、とりわけT=4.2Kなどの極低温条件下で受動的クエンチ保護を改善された形で提供することもでき、このようにしてフェールセーフ動作を提供することができる。
【0045】
本開示において上述したように、説明する装置によって達成できる重要な利点は、所与の磁石部分において発生したクエンチがより迅速に他の磁石部分に伝播できる点である。この利点は、磁石全体にわたって急速に熱を加えるように接続された1又は複数のヒータが接続された保護回路を装置の一部として提供することによって達成される。ヒータ装置は、複数の磁石部分のうちの1つの磁石部分にクエンチが発生した時に、結果として生じる前記バリスタの電圧によってヒータ装置が複数の磁石部分のうちの少なくとも1つのさらなる磁石部分に熱を提供するように複数のバリスタに関連付けられることが好ましい。
【0046】
本発明の第2の態様によれば、複数の磁石部分を含む超伝導磁石を保護する方法であって、複数の磁石部分のそれぞれの磁石部分を横切って複数のバリスタの各々が電気的に並列接続され、複数のバリスタにヒータ装置が電気的に接続され、複数のバリスタのいずれか1つ又は2つ以上のバリスタの電圧の変化に応答して複数の磁石部分の各々に熱を加えるステップを含む方法が提供される。
【0047】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1A】典型的な線形抵抗器と比較した典型的なバリスタの特性を示す折れ線グラフである。
図1B】関心範囲にわたる抵抗器の特性と比較した例示的なバリスタの特性を示す折れ線グラフである。
図2】低電流におけるバリスタの特性と線形抵抗器の特性とを比較した折れ線グラフである。
図3】磁石クエンチ保護装置において抵抗器の代わりにバリスタを使用したクエンチ挙動をモデル化するために使用される磁石試験コイルの断面の概略図である。
図4】バリスタで保護されたクエンチ部分及び固定抵抗器によって保護されたクエンチ部分を有する2部分磁石のモデル化されたコイル電圧の比較を示す折れ線グラフである。
図5】両コイルがクエンチしている磁石に流れるモデル化されたコイル電流をプロットし、磁石をバリスタで保護した場合及び線形抵抗器で保護した場合の電流を示す折れ線グラフである。
図6】超伝導磁石回路に関連する保護回路を示す保護装置例の概略図であり、図示の磁石は、2つのコイル部分のみを有する単純化した例である。
図7】1つの保護されたコイル部分を横切る本発明による保護装置の保護回路と先行技術による等価回路との比較を含む概略図である。
図8】LTS磁石上の内部的に作動するクエンチヒータと、磁石内のHTS挿入体の外部的に作動するクエンチ保護のためのトリガとを組み合わせた、本発明による装置例及び保護回路を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
クエンチ保護装置におけるバリスタの能力を実証するためにクエンチモデリングを実行した。単純化のために、またより複雑なモデル化シナリオでバリスタの効果が不明瞭になる傾向、又は系統的なモデリングエラーを招く傾向を考慮して、単純な2つのコイル設計を使用して概念を試験した。この試験は説明を目的とするものにすぎず、クエンチ保護装置はあらゆる数の磁石コイルと共に実装することができると想定される。コンピュータソフトウェアを使用して、コイル構成及びクエンチモデリングをモデル化した。
【0050】
図3は、この一般例においてモデル化した円筒形コイルの半分の断面図である。これらのコイルを、(図のy軸に対応する)R=0を中心として(図のx軸に平行な)z方向に伸びる円筒形ブロックとして示す。コイル1及びコイル2は、いずれも同じサイズのNbTiワイヤから成り、単純化のため、及びクエンチモデリングの結果と近似理論的に導出した解析計算との比較のために、同等の抵抗及びインダクタンスを有するように選択したものである。使用するバリスタパラメータは、極低温における電圧-電流特性の実験的測定から導出されたものである。超伝導ワイヤ及びその他の材料特性、並びにその他の内部モデルパラメータは、磁石設計中及び磁石試験結果の解析のためにクエンチモデルコンピュータプログラムにおいて長く確立され、信頼性高く使用されてきたものである。
【0051】
コイル2において開始するクエンチをモデル化することによって、バリスタベースのクエンチ保護がクエンチ部分の導出された電圧に及ぼす影響を実証した。抵抗器の代わりにバリスタを使用して磁石を保護した場合には、クエンチ部分を従来の抵抗器で保護した場合に比べて電圧の立ち上がりが大幅に速くなることが判明した。図4に可視化するデータに基づけば、抵抗器ではなく適切なバリスタを保護回路内で使用することによってクエンチヒータを約50ms早く始動できることが分かる。
【0052】
クエンチ時にコイルに誘起される最大過電流に対するバリスタの使用効果を実証するために、モデル化した両コイルがクエンチしているモデルを実行した。従って、結果は、全てのコイルにわたってクエンチヒータが始動した場合を示す。これにより、最初のコイルがクエンチを開始した直後にクエンチが開始したコイルからの効果を使用して他のコイルにクエンチを誘発する場合も近似される。
【0053】
このモデルでは、磁石をバリスタで保護すると、従来の抵抗器で保護した時と比べて最も遅いクエンチ部分のピーク電流が大幅に減少することが示された。図5に可視化するデータに基づけば、従来の抵抗器の代わりに適切なバリスタを保護回路内で使用することによってピーク過電流を半分よりも多く減少させることができた。
【0054】
図4及び図5には、クエンチモデリングの例示的な出力を示す。
【0055】
次に、クエンチモデリングによって実証された原理を採用するクエンチ保護装置の例について説明する。
【0056】
いくつかの例では、バリスタが、保護される磁石部分を横切って「背中合わせ」のダイオードと直列に接続され、導出された電圧が、上述した「ヒータによる受動的」シナリオにおいてヒータを作動させるために使用されることが好ましい。英国特許第2514372号に記載されているような保護スキームは、バリスタの電圧変化に応答して磁石コイルを保護する手段としての実装に適している。
【0057】
図6は、単純化のために2つのコイル部分のみを有する磁石を示す第1の装置例の概略的表現である。この配置の応用は、この単純化した例よりも大幅に多くの保護された磁石コイル部分を含むことが想定される。
【0058】
図7は、図の右側におけるバリスタを含む保護回路例、及び図の左側における線形抵抗器を含む先行技術による回路の概略的表現である。
【0059】
HTS挿入体を有するLTS磁石を含む磁石の保護に特に適したさらなる例では、LTSコイル及びHTSコイルにそれぞれ異なる保護スキームが使用される。これらの2つの磁石部品は、別々の電源を使用して並列で動作することも、又は直列で動作することもできる。この例では、上記の装置例と同様に、LTS部分の保護に「ヒータによる受動的」スキームを採用する。また、この装置は、クエンチ保護スキームをHTS磁石の外部で作動させるために、LTS磁石保護要素間の電圧変化を先行技術の装置で可能であったよりも素早く検出するように構成される。このようなハイブリッド型磁石のための保護スキームの組み合わせについては上述した。図8に、この例に含まれる追加要素を概略的に示す。
【0060】
次に、SiCバリスタ及びこれを含む超伝導磁石クエンチ保護装置の例について詳細を説明する。
【0061】
上述したように、バリスタの特性はV=CIβの関係を特徴とすることができる。バリスタの非線形性の度合いを定める「ベータ値」βは放電の速度に影響を与える。この値は、バリスタの材料内のドーパント及びプロセス調整によって修正することができる。
【0062】
いくつかバリスタ例は、粘土マトリックス中のSiC粒子から製造される、ディスク又はタイルを生産するための半導体デバイスである。
【0063】
液体窒素中で、デバイスが室温にある時の5倍超にエネルギーを高めて装置例の故障モード試験を実行した。バリスタディスクには、短絡によって故障しても電流を流し続ける非伝搬性ホットスポットが形成されることが判明した。これは、磁石の保護にとって特に有用な特性である。このバリスタ例のSiC材料は、極低温条件でもその完全性を維持し、材料を最適化すれば、さらなる例が線形ダンプ抵抗器の効果的な代用品になると想定される。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】