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特表2022-549136電気自動車またはハイブリッド自動車内の高電圧回路の絶縁抵抗を推定するための方法
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  • 特表-電気自動車またはハイブリッド自動車内の高電圧回路の絶縁抵抗を推定するための方法 図1
  • 特表-電気自動車またはハイブリッド自動車内の高電圧回路の絶縁抵抗を推定するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】電気自動車またはハイブリッド自動車内の高電圧回路の絶縁抵抗を推定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20221116BHJP
   G01R 31/52 20200101ALI20221116BHJP
【FI】
G01R27/02 R
G01R31/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517327
(86)(22)【出願日】2020-09-21
(85)【翻訳文提出日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2020076319
(87)【国際公開番号】W WO2021063725
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】1910786
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハラルキ, フーセム
(72)【発明者】
【氏名】ヴァフラード, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィオリン, ピエール-ミカエル
【テーマコード(参考)】
2G014
2G028
【Fターム(参考)】
2G014AA17
2G014AB61
2G028BE04
2G028CG03
2G028DH03
(57)【要約】
電気車両またはハイブリッド車両内の高電圧ネットワークの絶縁抵抗を決定するための方法において、ボディと車両の高電圧バッテリの単一の第1の端子とに接続された制御可能な連続電圧源が設けられ、第1の抵抗器が単一の第1の端子とボディとの間に電源に直列に接続され、第2の抵抗器が第1の抵抗器と電源との間に直列に接続され、連続する電圧設定点の値がボディと単一の第1の端子との間に印加され、各々の設定点の値に対する第2の抵抗器の端子において電圧の測定信号が取得され、前記信号の適応フィルタリングが行われ、伝達関数係数のベクトルの推定が再帰的方式で行われ、絶縁抵抗値が推定値に基づいて決定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車両またはハイブリッド車両の高電圧バッテリ(1)上のある点(3)と前記車両のボディ(2)との間の絶縁抵抗(30)を決定するための方法であって、
前記ボディと前記バッテリの単一の第1の端子(HV-)とに接続された制御可能なDC電圧源(41)を設けるステップと、
前記単一の第1の端子と前記ボディとの間に前記電圧源と直列に接続され、前記バッテリの前記単一の第1の端子を通して入ってくる電流を制限することが可能である第1の抵抗器(42)を設けるステップと、
前記第1の抵抗器と前記電圧源との間に直列に接続された第2の抵抗器(44)を設けるステップと、
前記第2の抵抗器の端子間の電圧を測定することが可能である測定装置を設けるステップと、
前記電圧源を用いて、前記ボディと前記バッテリの前記単一の第1の端子との間に異なった連続する電圧設定点の値を印加するステップと、
前記測定装置によって、連続して印加された各々の電圧設定点の値に対する前記第2の抵抗器の前記端子間の電圧の測定値を表す電圧測定信号を取得するステップと、
前記電圧測定信号に基づいて前記絶縁抵抗の値を計算するステップと
を含む方法において、
前記方法が、前記電圧測定信号を適応フィルタリングするステップを実施すること、および再帰的方式で、前記適応フィルタの伝達関数係数のベクトルを推定するステップと、フィルタリング係数の更新を行うステップとを含み、前記絶縁抵抗の値が推定値に基づいて計算されることとを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記絶縁抵抗の前記値が、下記の数式を用いて計算され、
ここで、Rが前記絶縁抵抗の前記値であり、Rが前記第1の抵抗器の値であり、Rが前記第2の抵抗器の値であり、
が前記適応フィルタの前記伝達関数係数の前記ベクトルの前記推定値であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適応フィルタの前記伝達関数係数の前記ベクトルの前記推定値が、下記のように定義される入力信号u(k)および出力信号y(k)の前記伝達関数を考慮することにより得られ、
u(k)=Ud2(k)-Ud1(k)=ΔU(k)
y(k)=Um2(k)-Um1(k)=ΔU(k)
ここで、Um1(k)およびUm2(k)が、それぞれ、前記電圧源により連続して印加される前記電圧設定点の値Ud1(k)およびUd2(k)についての前記第2の抵抗器の前記端子間で測定される電圧値に対応することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタの伝達関数の前記入力信号が、下記のように定義される前記入力信号で置き換えられ:
ここで、Ubat1およびUbat2が、電圧設定点の値を印加する各々の繰返しにおける全バッテリ電圧の変動を考慮に入れるように、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される前記電圧設定点の値を考慮した全バッテリ電圧値に対応することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記推定値に基づいて前記バッテリの前記単一の第1の端子に関する前記絶縁抵抗の位置を計算するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記適応フィルタの前記伝達関数係数の前記ベクトルの前記推定値が、下記のように定義される入力信号u(k)および出力信号y(k)の前記伝達関数を考慮することにより得られ、
u(k)=Ubat・(Um2-Um1
y(k)=Um1d2-Ud1m2
ここで、Um1およびUm2が、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される前記電圧設定点の値Ud1およびUd2についての前記第2の抵抗器の前記端子間で測定される電圧値に対応し、Ubatが全バッテリ電圧であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記フィルタの伝達関数の前記入力信号が、下記のように定義される前記入力信号で置き換えられ:
u(k)=Um2・Ubat1-Um1・Ubat2
ここで、Ubat1およびUbat2が、電圧設定点の値を印加する各々の繰返しにおける全バッテリ電圧の変動を考慮に入れるように、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される前記電圧設定点の値を考慮した全バッテリ電圧値に対応することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フィルタリングするステップが、再帰的最小二乗アルゴリズムを用いて行われることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、単一のフィルタリング設定パラメータの使用を含み、前記設定パラメータが、値0と1との間の実係数から構成される前記フィルタの忘却因子を表すことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気車両またはハイブリッド車両の高電圧バッテリ(1)上のある点(3)と前記車両のボディ(2)との間の絶縁抵抗(30)を決定するための装置であって、前記装置が、前記バッテリと前記ボディとの間の絶縁不良を検出するための検出回路(4)を含み、前記検出回路が、前記バッテリの単一の第1の端子(HV-)と前記ボディとの間に電圧設定点(U)を印加することが可能である制御可能なDC電圧源(41)と、前記単一の第1の端子と前記ボディとの間に前記電圧源と直列に接続され、前記バッテリの前記単一の第1の端子を通して入ってくる電流を制限することが可能である第1の抵抗器(42)と、前記第1の抵抗器と前記電圧源との間に直列に接続された第2の抵抗器(44)と、前記第2の抵抗器の端子間の電圧(U)を測定することが可能である測定装置とを備え、前記装置が制御ユニット(46)を備え、前記制御ユニット(46)が、前記電圧源を用いて、前記ボディと前記バッテリの前記単一の第1の端子との間の異なった連続する電圧設定点の値の印加を制御することと、前記測定装置によって、連続して印加された各々の電圧設定点の値に対する前記第2の抵抗器の前記端子間の電圧の測定値を表す電圧測定信号を取得することと、前記電圧測定信号に基づいて前記絶縁抵抗の値を計算することとが可能である、装置において、前記制御ユニットが、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法にしたがって適応フィルタリング処理を実施するための適応フィルタリングモジュールを備えることを特徴とする、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気車両またはハイブリッド車両の分野に関する。本発明は、特に、高電圧バッテリを備える電気車両またはハイブリッド車両の高電圧回路上のある点と車両のグランドとの間の絶縁抵抗を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも1つの電気機械を装備したトラクションチェーンを有する電気自動車またはハイブリッド自動車では、この電気機械は、車両を駆動するために必要なモータトルクを与えるために使用される。そのため、電力が高電圧バッテリにより電気機械へ送られる。必要な電圧レベルは、数100ボルト、典型的には400ボルト付近に達する。このようなバッテリはまた、電気モードでの車両の走行距離を長くするために大きな容量を有する。自動車用途に特有な多数の技術的な理由が、ボディまたは車両の機械的なグランド(車両の金属シャーシおよび金属車体構造物により形成され、これゆえユーザによってアクセス可能である)とバッテリの電位との間での絶縁物の使用に導く。このように、バッテリに電気的に接続された車両のすべての部品は、グランドから絶縁されなければならない。この絶縁物は、電気的に絶縁性の材料の使用を通して実現される。しかしながら、絶縁物は、経時的に劣化する可能性が高く、これゆえ、車両のグランドを、車両の乗客または車両と接触するすべての人にとって危険である電位にするおそれがある。
【0003】
これが、車両の乗客または車両と接触するすべての人に対する潜在的な電気的ショックを防止するために高電圧回路上の任意の点と車両のグランドとの間の絶縁抵抗をチェックすることが不可欠である理由である。特に、このモニタリングは、第2の絶縁不良が生じる前に第1の絶縁不良を直すことを可能にすることができる。具体的に、二重の不良だけが、車両をともすれば故障させる短絡を引き起こすことがある。
【0004】
この絶縁抵抗は、物理的に測定されることがあるまたは推定されることがある。
【0005】
絶縁抵抗を物理的に測定することは、高電圧および電流が試験しようとする絶縁点のところに導入されることを必要とする。しかしながら、システムが動作したままでいることを依然として可能にしながら、言い換えると、トラクション遮断または負荷遮断をもたらさずに、車両の高電圧回路上の任意の点と車両のグランドとの間の絶縁抵抗をいつでも知ることが可能であることが必要である。
【0006】
このように、車両の動作中に電気車両およびハイブリッド車両の高電圧ネットワークの絶縁をチェックする文脈では、推定を介して絶縁抵抗を求めることが好まれる。
【0007】
この推定値は、何らかの絶縁不良の信頼できる検出を可能にするために決して過大評価しないように、そして車両の故障をともすればもたらす何らかの誤検出を避けるために過小評価しないように、十分に正確でなければならない。
【0008】
電気車両またはハイブリッド車両に関する絶縁不良を検出するための装置は、先行技術において知られており、これらの装置は、漏れ電流がバッテリの端子同士の間に接続された複数の抵抗器から形成される電圧分割ブリッジを使用して測定される抵抗測定回路に基づく。このような回路は、バッテリの両方の端子に接続されることを必要とするという欠点を有し、このことが車両への上記装置の統合を複雑にする。
【0009】
FR3037406という文書は、電気車両の高電圧バッテリと車両の電気的グランドを形成する車両のボディとの間の電気的な絶縁不良を検出するための回路を開示する。この検出回路は、ボディおよびバッテリの単一の第1の端子、例えば、バッテリの負の端子に電気的に接続される。絶縁不良は、例えば、バッテリの2つの隣接するセル同士の間に位置するバッテリのある点とボディとを接続し、安全しきい値よりも低い値を有する絶縁抵抗としてはっきりと現れる。このように、潜在的に危険である漏れ電流は、バッテリのこの点からボディへこの分離抵抗を通って流れる。前述の文書による検出回路は、一方ではボディに、他方ではバッテリの単一の第1の端子に接続され、様々な電圧値がボディと単一の第1の端子との間に印加されることを可能にする制御可能なDC電圧源を備える。検出回路はまた、バッテリの単一の第1の端子を通して入りそしてバッテリ上のある点を介して出る、絶縁不良を示す電流を測定するための装置も備え、この電流は次いでボディへ絶縁抵抗を通って流れる。このように、制御可能な電圧源による電圧の印加は、測定装置および絶縁抵抗を通過する電流をもたらす。このようにして、制御可能な電圧源によって印加される各々の電圧値に対して、この電流の測定値が取得され、上記測定値からバッテリ上の問題の点とボディとの間の絶縁抵抗の値が計算され得る。
【0010】
しかしながら、絶縁抵抗の値の計算は、この方法によれば実施することが比較的冗長である。特に、ある時間にわたり異なる電位でボディおよびバッテリの単一の第1の端子をバイアスすること、漏れ電流測定が行われ得る定常状態に達することが必要である。この定常状態を得るために必要な時間は、車両の高電圧ネットワークの絶縁をチェックするための信頼性のある方策の実施において不利なことがある。
【発明の概要】
【0011】
このように、発明の目的は、この制限を少なくとも部分的に克服することである。
【0012】
そのために、本発明は、電気車両またはハイブリッド車両の高電圧バッテリ上のある点と上記車両のボディとの間の絶縁抵抗を決定するための方法であって、
上記ボディと上記バッテリの単一の第1の端子とに接続された制御可能なDC電圧源を設けるステップと、
上記単一の第1の端子と上記ボディとの間に前記電圧源と直列に接続され、上記バッテリの上記単一の第1の端子を通して入ってくる電流を制限することが可能である第1の抵抗器を設けるステップと、
上記第1の抵抗器と前記電圧源との間に直列に接続された第2の抵抗器を設けるステップと、
上記第2の抵抗器の端子間の電圧を測定することが可能である測定装置を設けるステップと、
前記電圧源を用いて、上記ボディと上記バッテリの上記単一の第1の端子との間に異なった連続する電圧設定点の値を印加するステップと、
前記測定装置によって、連続して印加された各々の電圧設定点の値に対する前記第2の抵抗器の上記端子間の電圧の測定値を表す電圧測定信号を取得するステップと、
前記電圧測定信号に基づいて上記絶縁抵抗の値を計算するステップと
を含む方法において、
上記方法が、上記電圧測定信号を適応フィルタリングするステップを実施すること、および再帰的方式で、上記適応フィルタの伝達関数係数のベクトルを推定するステップと、上記フィルタリング係数の更新を行うステップとを含み、上記絶縁抵抗の値が前記推定値に基づいて計算されることとを特徴とする、方法に関する。
【0013】
発明の方法の適用は、計算の複雑さを大きくせずに絶縁抵抗を決定するための方法の収束の速度を最適化することを可能にする。
【0014】
有利なことに、上記絶縁抵抗の上記値が、下記の数式を用いて計算され、
ここで、Riが上記絶縁抵抗の上記値であり、Rdが上記第1の抵抗器の値であり、Rmが上記第2の抵抗器の値であり、
が上記適応フィルタの上記伝達関数係数の上記ベクトルの上記推定値である。
【0015】
有利なことに、上記適応フィルタの上記伝達関数係数の上記ベクトルの上記推定値が、下記のように定義される入力信号u(k)および出力信号y(k)の上記伝達関数を考慮することによって得られ、
u(k)=Ud2(k)-Ud1(k)=ΔU(k)
y(k)=Um2(k)-Um1(k)=ΔU(k)
ここで、Um1(k)およびUm2(k)が、それぞれ、前記電圧源により連続して印加される上記電圧設定点の値Ud1(k)およびUd2(k)についての前記第2の抵抗器の上記端子間で測定される電圧値に対応する。
【0016】
有利なことに、上記フィルタ伝達関数の上記入力信号が、下記のように定義される上記入力信号で置き換えられ:
ここで、Ubat1およびUbat2が、電圧設定点の値を印加する各々の繰返しにおける全バッテリ電圧の変動を考慮に入れるように、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される上記電圧設定点の値を考慮した全バッテリ電圧値に対応する。
【0017】
好ましくは、上記方法が、前記推定値に基づいて上記バッテリの上記単一の第1の端子に関する上記絶縁抵抗の位置を計算するステップを含む。
【0018】
有利なことに、上記適応フィルタの上記伝達関数係数の上記ベクトルの上記推定値が、下記のように定義される入力信号u(k)および出力信号y(k)の上記伝達関数を考慮することにより得られ、
u(k)=Ubat・(Um2-Um1
y(k)=Um1d2-Ud1m2
ここで、Um1およびUm2が、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される上記電圧設定点の値Ud1およびUd2についての前記第2の抵抗器の上記端子間で測定される上記電圧値に対応し、Ubatが全バッテリ電圧である。
【0019】
有利なことに、上記フィルタ伝達関数の上記入力信号が、下記のように定義される上記入力信号で置き換えられ:
u(k)=Um2・Ubat1-Um1・Ubat2
ここで、Ubat1およびUbat2が、電圧設定点の値を印加する各々の繰返しにおける全バッテリ電圧の変動を考慮に入れるように、それぞれ、前記電圧源によって連続して印加される上記電圧設定点の値を考慮した全バッテリ電圧値に対応する。
【0020】
有利なことに、上記フィルタリングステップが、再帰的最小二乗アルゴリズムを用いて行われる。
【0021】
有利なことに、上記方法が、単一のフィルタリング設定パラメータの使用を含み、前記設定パラメータが値0と1との間の実係数から構成される上記フィルタの忘却因子を表す。
【0022】
本発明はまた、電気車両またはハイブリッド車両の高電圧バッテリ(1)上のある点と上記車両のボディとの間の絶縁抵抗を決定するための装置であって、上記装置が、上記バッテリと上記ボディとの間の絶縁不良を検出するための検出回路を含み、上記検出回路が、上記バッテリの単一の第1の端子と上記ボディとの間に電圧設定点を印加することが可能である制御可能なDC電圧源と、上記単一の第1の端子と上記ボディとの間に前記電圧源と直列に接続され、上記バッテリの上記単一の第1の端子を通して入ってくる電流を制限することが可能である第1の抵抗器と、上記第1の抵抗器と前記電圧源との間に直列に接続された第2の抵抗器と、上記第2の抵抗器の端子間の電圧を測定することが可能である測定装置とを備え、上記装置が制御ユニットを備え、上記制御ユニットが、前記電圧源を用いて、上記ボディと上記バッテリの上記単一の第1の端子との間に異なった連続する電圧設定点の値の印加を制御することと、測定装置によって、連続して印加された各々の電圧設定点の値に関する前記第2の抵抗器の上記端子間の電圧の測定値を表す電圧測定信号を取得することと、前記電圧測定信号に基づいて上記絶縁抵抗の値を計算することとが可能である、装置において、前記制御ユニットが、上に説明したような方法にしたがって適応フィルタリング処理を実施するための適応フィルタリングモジュールを備えることを特徴とする、装置に関する。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、下記の単一の図を参照して例示的であり非限定的な例として与えられる下記の説明を読むことからより明瞭に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】電気自動車またはハイブリッド自動車の高電圧バッテリ内の絶縁不良を検出するための回路の模式図である。
図2図1の高電圧バッテリ内の絶縁不良の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記の説明は、電気自動車またはハイブリッド自動車の高電圧電気ネットワークへの応用の文脈における発明の1つの例示的な実施形態に関する。図1を参照して、電気自動車またはハイブリッド自動車は、車両に搭載された高電圧電源として充電可能な高電圧バッテリ1を備える。バッテリ1は、2つの端子、それぞれ正端子HV+および負端子HV-を備える。バッテリ1は、バッテリの2つの端子HV-とHV+との間に直列に接続されたセルのセットから構成される。バッテリ1は、その値が経時的に一定のままであるDC電圧Ubatを送るように設計される。この例では、バッテリ電圧Ubatは400Vに等しい。
【0026】
バッテリの端子HV+およびHV-に接続されたものは、インバータおよび車両を推進するための電気機械を備えている電気的負荷(図示せず)である。インバータは、バッテリ電圧Ubatを電気機械用のAC供給電圧へと変換する。車両はまた、一般に金属製の車両のシャーシおよび車体構造物によって形成されたボディ2も備える。このボディは、車両用の電気的グランドを構成し、車両の高電圧バッテリ上のある点のところでの絶縁不良の場合には、上記グランドへ、電荷が流れることを可能にする。
【0027】
絶縁不良によりここで意味するものは、車両のボディ2とバッテリの端子HV+、HV-のうりの一方などのバッテリ上の電位のある点との間の低い電気抵抗の電気的接触の異常の存在である。図1は、車両のボディ2とバッテリのそれぞれの端子HV+およびHV-の各々との間のそれぞれRi+およびRi-により表記された値を有する電気抵抗31、32を図示する。このような抵抗の値は、所定の安全しきい値、例えば、100kΩ以下である場合に低いと言われる。典型的には、絶縁不良がなければ、一方ではボディ2と他方では端子HV+およびHV-、より一般的にはバッテリ1上の可能性のある任意の点との間の抵抗は、100kΩまたは1MΩよりも大きい。あるいは、この抵抗器は、無限大の値の抵抗としてモデル化されることがある。この高い抵抗値のために、潜在的に危険な漏れ電流が、バッテリ1とボディ2との間には流れない。
【0028】
図2は、バッテリ1上のある点3とボディ2との間の単一の絶縁不良を図示する。この絶縁不良は、この点3とボディ2とを接続し、安全しきい値よりも低い、Rにより表記された値を有する絶縁抵抗30としてここでは現れる。潜在的に危険な漏れ電流は、そのときにはバッテリ1からボディ2へこの抵抗器30を通って流れる。このような漏れ電流は、望ましくなく、そしてボディ2と直接接触するはずの車両のユーザを危険にさらすことがある。例えば、点3は、バッテリ1の2つの隣接するセル同士の間に位置する。バッテリ1は、そのときには、点3のいずれかの側の端子HV+とHV-との間に互いに直列に接続された2つのDC電圧源11および12にリンクされることがある。電源11、12は、その端子同士の間に、それぞれ電圧(1-α)*Ubatおよびα*Ubatを配電し、ここでは、係数αが、範囲[0;1]内の実数である。係数αを知ることは、バッテリ1内の絶縁不良の位置を知ることを可能にさせる。このように、バッテリの絶縁の状態を示している絶縁抵抗は、バッテリの端子HV-に対しては位置αのところおよび端子HV+に対しては位置(1-α)のところに位置する。
【0029】
図1および図2に示したように、車両は、高電圧バッテリ1と車両のボディ2との間のこのような絶縁不良を検出するための回路4をさらに備える。検出回路4は、ボディ2とバッテリ1の単一の端子、ここでは端子HV-との間に電気的に接続される。言い換えると、検出回路4の端子は、一方では車両のグランドを構成するボディ2および他方では車両の高電圧バッテリ1の端子HV-に接続される。
【0030】
検出回路4は、必要であれば、絶縁抵抗30の端子間で電位差を生成しそしてその結果この絶縁抵抗を通り流れる電流iを生じさせるために、制御ユニット46から受信する制御信号にしたがって端子HV-とボディとの間の回路にゼロでない電圧設定点Uを印加することが可能である制御可能なDC電圧源41を備える。電圧設定点の値Uは、好ましくは60V以下、例えば、0と24Vとの間である。
【0031】
検出回路4はまた、バッテリの端子HV-とボディとの間にDC電圧源41と直列に接続され、制限抵抗器42と呼ばれる、第1の電気抵抗器42も備える。より精密に、制限抵抗器42は、端子HV-とDC電圧源41との間に接続される。この制限抵抗器42は、電流iの値が高くなりすぎることおよびユーザを危険にさらすことを防止するように、バッテリ1と検出回路4の残りの部分との間のより優れた絶縁を確実にすることを可能にさせる。Rにより表記されるこの制限抵抗器42の値は、例えば、検出回路4の電気的絶縁を損傷しないように十分に高いままで電流iの測定を容易にするために可能な限り低くなるように選択される。Rに関する値は、例えば、400Vの電圧に対して100kΩの程度であり、4mAの最大の許容可能な電流をもたらす(人間の安全性にとって一般に許容される最も大きな最大の許容可能な電流は10mA程度である)異常な絶縁抵抗の値Rよりも、例えば、5倍大きい、それどころか10倍大きいRの値が、好ましくは選択されるだろう。例えば、制限抵抗器の値Rは、このように500kΩに等しい。
【0032】
検出回路4はまた、バッテリの端子HV-および絶縁抵抗30を通って流れる電流を測定するための装置43も備える。測定装置43は、測定抵抗器44と呼ばれる第2の電気抵抗器44を備え、その値はRによって表記され、この第2の電気抵抗器は、DC電圧源41と制限抵抗器42との間に、キャパシタンスCmのキャパシタ45と並列に接続される。言い換えると、DC電圧源41、測定抵抗器44および制限抵抗器42は、ボディ2とバッテリの端子HV-との間に直列に接続される。測定装置44は、電圧設定点UdがDC電圧源41により検出回路4に印加されるときに測定抵抗器44の端子間の電圧Uを測定することが可能である。測定抵抗器44の値Rが知られているので、測定抵抗器44の端子間の電圧Uを測定することは、バッテリの端子HV-を通って入り、次いで絶縁抵抗30を通りボディ2へ流れるように制限抵抗器42を通って流れる電流iの値を電圧Uを測定することから自動的に演繹することを可能にする。
【0033】
このように、電圧設定点Uの印加は、測定装置43および制限抵抗器42を通過する電流iを生じさせる。
【0034】
このように、絶縁抵抗30の値Rを推定するために、制御ユニット46は、DC電圧源41により、複数の異なる電圧設定点Uの値の連続的な印加を制御すること、そして次いで、DC電圧源41によって印加された電圧設定点の値の各々について、測定装置43によって測定される対応する電流iの値を取得することが可能である。制御ユニットは、次いで、取得した電流iの値および印加した電圧設定点Uの値に基づいてバッテリ上の点3のところに位置する絶縁不良に関係する絶縁抵抗30の値Rを自動的に計算することができる。
【0035】
例えば、DC電圧源41は、Ud1およびUd2により表記される2つの異なる電圧設定点の値を連続して印加するように制御される。これらの電圧設定点の値Ud1およびUd2の各々は、それぞれUm1およびUm2により表記される測定抵抗器Rの端子間の電圧の測定値に対応する。
【0036】
このように、絶縁抵抗30の値Rおよびバッテリの端子HV-に関するこの絶縁抵抗の位置αが、電圧設定点の値を印加する各々の繰返しにおいて一定であるようにバッテリの全電圧Ubatを仮定して、下記の式にしたがって計算される:
【0037】
電圧Ubatの変動を考慮に入れることが望まれる場合には、これらの式は下記のようになる:
【0038】
bat1およびUbat2を用いて、それぞれのバッテリ電圧が、2つの電圧設定点Ud1およびUd2の連続する印加について考えられた。
【0039】
測定抵抗器Rの端子間の電圧Uの測定が一般にノイジーであるので、式(1)と(2)または式(3)と(4)は、直接使用されない。発明によれば、これらの式は、知られている再帰的最小二乗(RLS)モデル上で演算する2つのそれぞれの適応アルゴリズムによって処理され、上記は2つの量Rおよびαの各々の安定な推定値を与えることが可能である。このように、検出回路の制御ユニットは、トラクションシステムの電気的絶縁の状態の信頼できる指標をバッテリ管理システム(BMS)に定期的に提供することが可能であり、絶縁不良が観察される場合に制御ユニットが必要な対策を行うことを可能にする。
【0040】
再帰的最小二乗(RLS)法によるこの適応フィルタリングの例示的な実施形態が、一方では絶縁抵抗を推定することについて、そして他方ではバッテリ内の絶縁不良の位置を推定することについてより詳細にここで説明されるだろう。
【0041】
先ず、RLSアルゴリズムを実施するための式が呼び戻される。信号がサンプリングされ、指数kが量の現在の値の指数を表している離散的なケースだけが、以降では考えられるだろう。
【0042】
一般に、このアルゴリズムは、入力信号u(k)および出力信号y(k)の離散型伝達関数H(z)の係数aおよびbを推定するために使用されることがある:
【0043】
このように、「最善の」フィルタ、すなわち、入力が所与の数列u(k)であるときに所望の応答におそらく「最も近い」応答y(k)を出力のところで得ることを可能にするもの、を見出す問題である。この適応フィルタリングは、フィルタの係数を再帰的に更新することを含む。このように、アルゴリズムは、所定の初期状態から始まり、そしてプロセスに適応するためにフィルタの係数を再帰的に修正する。
【0044】
RLSアルゴリズムの各々の主なステップは:
【0045】
1.初期化ステップ:
C(k)はアルゴリズムの入力量の共分散行列であり、初期時刻k=0においてCに等しい。λは忘却因子パラメータである。θ(k)は推定すべきフィルタの係数のベクトルであり、初期時刻k=0において0に等しいように取られる。
【0046】
2.予測ステップ:
は、最小化されるべき基準に対応する予測誤差である。本ケースでは、アルゴリズムの出力のところで生成された信号の現在の値y(k)と、推定した係数θ(k-1)を有する伝達関数による、信号の過去の値のフィルタリングの結果との間の違いを最小化することが求められている。X(k)は下記のように定義されたベクトルX(k)の転置ベクトルを表す:
X(k)=[u(k)u(k-1)...u(k-nb)-y(k-1)...-y(k-na)]
および
【0047】
3.最適利得を計算するステップ:L(k)=C(k-1)・X(k)・[λ+X(k)・C(k-1)・X(k)]-1
【0048】
4.フィルタ係数のベクトルθ(k)の推定値を更新するステップ:
【0049】
フィルタの係数のこの適応は、予測誤差に基づいて行われ、これゆえフィルタリング係数の更新値を計算することを可能にする。
【0050】
5.共分散行列C(k)を更新するステップ:
【0051】
目標インピーダンスが純粋に抵抗性である定常状態では、上で定義された式(5)は下記のようになる:
H(z)=b
【0052】
言い換えると、適応アルゴリズムの目的は、値Rおよびαをそこから演繹するために適応アルゴリズムの2つの異なる実装形態で、式(5)の伝達関数H(z)の静的利得bに対応する、ここでは単一のパラメータ
から構成されるフィルタの係数のベクトルの推定値を提供することである。
【0053】
第1の実装形態は、絶縁抵抗の値Rを推定するために使用される。上に述べたように、2つのケースは、バッテリ電圧Ubatの変動を考慮に入れるか否かに依存して生じることがある。このように、バッテリ電圧Ubatの変動が無視される第1のケースでは、式(5)の伝達関数H(z)の静的利得bは、下記のように定義される入力信号u(k)および出力信号y(k)の伝達関数H(z)を考慮することによって評価される。
u(k)=Ud2(k)-Ud1(k)=ΔU(k)
y(k)=Um2(k)-Um1(k)=ΔU(k)
【0054】
これゆえ、推定値
を更新するための式は:
とともに:
【0055】
アルゴリズムの収束の後で、次式が得られる:
【0056】
式(1)に基づいて、推定される絶縁抵抗Rは下記(7)のように計算される:
【0057】
バッテリ電圧Ubatの変動が考慮に入れられる第2のケースでは、式(5)の伝達関数H(z)の静的利得bが、第1のケースに対するように同じ方法で評価されるが、伝達関数H(z)について考慮される下記の入力信号をともなう:
【0058】
適応アルゴリズムの第2の実装形態は、バッテリの端子HV-に関する絶縁不良の位置に対応する値αを推定するために使用される。絶縁抵抗の値を推定することに対するように、2つのケースは、バッテリ電圧Ubatの変動を考慮に入れるか否かに依存して生じ得る。このように、バッテリ電圧Ubatの変動が無視される第1のケースでは、適応アルゴリズムのステップ1からステップ5は、下記のように定義される伝達関数H(z)の入力信号u(k)および出力信号y(k)を用いて実施される:
u(k)=Ubat・(Um2-Um1)および
y(k)=Um1d2-Ud1m2
【0059】
アルゴリズムの収束の後で、フィルタの係数のベクトルの推定値
は、値αの推定値を与える。
【0060】
バッテリ電圧Ubatの変動が考慮に入れられるケースに関して、
を推定するための適応アルゴリズムのステップ1からステップ5は、下記のように定義される伝達関数H(z)の入力信号u(k)および出力信号y(k)を用いてこの時には実施される:
u(k)=Um2・Ubat1-Um1・Ubatおよび
y(k)=Um1d2-Ud1m2
【0061】
絶縁抵抗の値を推定するためであっても絶縁不良の位置を推定するためであっても、RLSタイプの適応アルゴリズムを実施することは、ただ1つの設定パラメータを有することの利点を有する。忘却因子λを表しているこの設定パラメータは、上の式において定義される。0と1との間の範囲にわたる設定パラメータの値は、共分散行列内の先のサンプルに対してより大きな重要性またはより小さな重要性を与えることを可能にする。そのパラメータ表現は、これゆえ、誤差を最小に保ちながらアルゴリズムの収束の速度を最適化するために不可欠である。
【0062】
絶縁抵抗を推定するためにRLSタイプの適応アルゴリズムを使用することのもう1つの利点は、行列転置を必要としないので計算コストを最適化することを可能にすることである。このように、BMSの計算能力を増加させる必要なしにそれゆえこの依然として不可欠な機能に起因する何らかの追加のコストを必然的に伴わずにこの推定機能が統合されることを可能にする。
【0063】
不安定性を避けるために、絶縁抵抗の値Rの推定値を更新することは、下記の条件が満足される場合にだけ能動化される。:
|ΔU(k)|>ΔUm_min
【0064】
この条件は、アルゴリズムが測定雑音に対して堅固にされることおよび電圧UおよびUの同期が保証されることを可能にする:
ΔU(k).ΔU(k-1)≧0
【0065】
この条件は、突然の変化に対してアルゴリズムが堅固にされることを可能にする。
|ΔUbat(k)|<ΔUbat_max
【0066】
この条件は、全バッテリ電圧の変動に対してアルゴリズムを堅固にする。
図1
図2
【国際調査報告】