(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】高い標的密度の細胞に対する選択性を向上させた多量体抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20221116BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20221116BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20221116BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221116BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20221116BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221116BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221116BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221116BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221116BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221116BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221116BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221116BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221116BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221116BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
C07K16/30
C12N15/62 Z
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 Y
A61P35/00
A61P35/02
A61K47/68
A61K38/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517731
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 US2020051513
(87)【国際公開番号】W WO2021055765
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517252624
【氏名又は名称】アイジーエム バイオサイエンシズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バリガ ラメシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヒントン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ケイト ブルース
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA12
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB271
4C085AA13
4C085BB11
4C085BB37
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、多量体結合分子を、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様結合分子を、例えば、高密度で標的抗原を発現する細胞、例えば腫瘍細胞に対する選択性を向上させた抗体を、提供する。選択性の向上は、例えば、標的抗原に対する結合親和性の調節によって、及び/または多量体抗原結合を介してアビディティーを調節することによって達成され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2、5、または6個の二価結合ユニットを含む多量体結合分子であって、
前記二価結合ユニットが、それぞれ4、10、または12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを集合的に含み、
各結合ユニットが、2つの抗体重鎖を含み、各抗体重鎖が、IgA重鎖定常領域、IgA様重鎖定常領域、IgM重鎖定常領域、もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアント、及び結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニットを含み、
前記結合分子の前記結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの少なくとも3つが、細胞の表面上の同じ所定の標的に特異的に結合し、
前記結合分子が、より低い密度で前記所定の標的を発現する細胞と比較して、より高い密度で前記所定の標的を発現する細胞に優先的に結合する、
前記多量体結合分子。
【請求項2】
各抗体重鎖が、結合ユニット関連抗原結合ドメインの重鎖可変領域(VH)部分を含む、請求項1に記載の結合分子。
【請求項3】
細胞の表面上の前記同じ所定の標的に結合する前記少なくとも3つの結合ユニット関連抗原結合ドメインが、各々、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項1または請求項2に記載の結合分子。
【請求項4】
前記少なくとも3つの抗原結合ドメインが、各々、前記所定の標的上の同じエピトープに結合する、請求項1~3のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項5】
細胞の表面上の前記同じ所定の標的に結合する前記少なくとも3つの結合ユニット関連抗原結合ドメインが、同一である、請求項4に記載の結合分子。
【請求項6】
少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインが、細胞の表面上の前記同じ所定の標的に結合し、かつ同一である、請求項5に記載の結合分子。
【請求項7】
前記細胞の表面上の前記所定の標的に特異的に結合する前記同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの2つのみを有する参照二価IgG抗体と比較して、より高い密度で前記所定の標的を発現する細胞に優先的に結合する、請求項5または請求項6に記載の結合分子。
【請求項8】
前記結合分子が、より高い密度で前記標的抗原を発現する細胞に結合することができ、前記細胞の表面上の前記所定の標的に特異的に結合する前記同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの2つのみを有する前記参照二価IgG抗体が、より高い密度で前記標的抗原を発現する前記細胞に結合することができない、請求項7に記載の結合分子。
【請求項9】
より低い密度で前記所定の標的を発現する細胞に検出可能に結合しない、請求項1~8のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項10】
高密度で前記所定の標的を発現する前記細胞が、がん細胞であり、低密度で前記所定の標的を発現する前記細胞が、正常細胞である、請求項1~9のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項11】
前記結合分子が、五量体または六量体であり、それぞれ5または6個の二価のIgM結合ユニットまたはIgM様結合ユニットを含み、
各結合ユニットが、結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニットに各々関連付けられた2つのIgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項12】
前記IgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントが、各々、Cμ4ドメイン及びIgMテールピース(tp)ドメインを含む、請求項11に記載の結合分子。
【請求項13】
前記IgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントが、各々、Cμ1ドメイン、Cμ2ドメイン、Cμ3ドメイン、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項11または請求項12に記載の結合分子。
【請求項14】
前記IgM重鎖定常領域または前記IgM様重鎖定常領域が、ヒトIgM定常領域またはヒト由来のIgM様定常領域を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項15】
各結合ユニットが、
前記IgM定常領域もしくはIgM様定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントに対しアミノ末端側に位置するVHを各々含む、2つのIgM重鎖またはIgM様重鎖と、
免疫グロブリン軽鎖定常領域に対しアミノ末端側に位置するVLを各々含む、2つの免疫グロブリン軽鎖と
を含む、
請求項11~14のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項16】
五量体であり、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む、請求項11~15のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項17】
前記結合分子が、二量体であり、2つの二価のIgA結合ユニットもしくはIgA様結合ユニット及びJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含み、
各結合ユニットが、結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニットに各々関連付けられた2つのIgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項18】
分泌成分、またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む、請求項17に記載の結合分子。
【請求項19】
前記IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントが、各々、Cα3ドメイン及びIgAテールピース(tp)ドメインを含む、請求項17または請求項18に記載の結合分子。
【請求項20】
前記IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントが、各々、Cα1ドメイン、Cα2ドメイン、IgAヒンジ領域、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む、請求項19に記載の結合分子。
【請求項21】
前記IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントが、ヒトIgA重鎖定常領域またはヒト由来IgA様重鎖定常領域である、請求項17~20のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項22】
各結合ユニットが、
前記IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントに対しアミノ末端側に位置するVHを各々含む、2つのIgA重鎖またはIgA様重鎖と、
免疫グロブリン軽鎖定常領域に対しアミノ末端側に位置するVLを各々含む、2つの免疫グロブリン軽鎖と
を含む、
請求項17~21のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項23】
前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントが、配列番号42のアミノ酸配列を含むヒトJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントである、請求項16~22のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項24】
前記J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントが、野生型J鎖と比較して、前記結合分子の血清半減期に影響を及ぼし得る1つ以上の単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を含むバリアントJ鎖であり、前記結合分子が、動物に投与されると、前記1つ以上の単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を除いて同一でありかつ同じ動物種に同じようにして投与される参照結合分子と比較して、増加した血清半減期を示す、請求項16~23のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項25】
前記J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントが、野生型ヒトJ鎖(配列番号42)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含む、請求項24に記載の結合分子。
【請求項26】
配列番号42のY102に対応する前記アミノ酸が、アラニン(A)、セリン(S)、またはアルギニン(R)で置換されている、請求項25に記載の結合分子。
【請求項27】
配列番号42のY102に対応する前記アミノ酸が、アラニン(A)で置換されている、請求項26に記載の結合分子。
【請求項28】
前記J鎖が、バリアントヒトJ鎖であり、かつ配列番号43(J
*)のアミノ酸配列を含む、請求項27に記載の結合分子。
【請求項29】
前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントが、異種部分をさらに含む修飾J鎖であり、前記異種部分が、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに化学的にコンジュゲートまたは融合されている、請求項16~28のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項30】
前記異種部分が、異種ポリペプチドである、請求項29に記載の結合分子。
【請求項31】
前記異種ポリペプチドが、ペプチドリンカーを介して前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合されている、請求項30に記載の結合分子。
【請求項32】
前記ペプチドリンカーが、配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、または配列番号61からなる、請求項31に記載の結合分子。
【請求項33】
前記異種ポリペプチドが、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのN末端に融合されているか、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのC末端に融合されているか、あるいは
異種ポリペプチドが、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントの前記N末端及び前記C末端の両方に融合されている、
請求項30~32のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項34】
前記結合分子が、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合した少なくとも2つの異種ポリペプチドを含み、前記少なくとも2つの異種ポリペプチドが、同じであり得るかまたは異なり得る、請求項30~33のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項35】
少なくとも1つの異種ポリペプチドが、J鎖関連抗原結合ドメインを含む、請求項30~34のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項36】
前記J鎖関連抗原結合ドメインが、抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項35に記載の結合分子。
【請求項37】
前記抗原結合フラグメントが、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、ジスルフィド結合Fv(sdFv)フラグメント、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項36に記載の結合分子。
【請求項38】
前記J鎖関連抗原結合ドメインが、scFvフラグメントを含む、請求項37に記載の結合分子。
【請求項39】
前記J鎖関連抗原結合ドメインが、免疫エフェクター細胞に特異的に結合する、請求項35~38のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項40】
前記免疫エフェクター細胞が、T細胞またはNK細胞である、請求項39に記載の結合分子。
【請求項41】
前記免疫エフェクター細胞が、T細胞であり、前記J鎖関連抗原結合ドメインが、CD3εに特異的に結合するscFvフラグメントを含む、請求項39または請求項40に記載の結合分子。
【請求項42】
前記T細胞が、CD8+細胞傷害性T細胞である、請求項41に記載の結合分子。
【請求項43】
前記scFvフラグメントが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、
前記VHが、VH相補性決定領域VHCDR1、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、それらはそれぞれ、
配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列、または
前記VHCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列
を含み、
前記VLが、VL相補性決定領域VLCDR1、VLCDR2、及びVLCDR3を含み、それらはそれぞれ、
配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列、または
前記VLCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列
を含む、
請求項41または請求項42に記載の結合分子。
【請求項44】
前記scFvフラグメントが、配列番号48のVHアミノ酸配列と配列番号52のVLアミノ酸配列とを含む、請求項43に記載の結合分子。
【請求項45】
前記scFvフラグメントが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、前記VH及び前記VLが、それぞれ、配列番号44及び配列番号45のアミノ酸配列を含む、請求項41または請求項42に記載の結合分子。
【請求項46】
前記修飾J鎖が、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含む、請求項41または請求項42に記載の結合分子。
【請求項47】
前記免疫エフェクター細胞が、NK細胞であり、前記scFvフラグメントが、CD16に特異的に結合する、請求項40に記載の結合分子。
【請求項48】
前記修飾J鎖が、前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合または化学的にコンジュゲートされた免疫刺激剤(「ISA」)をさらに含む、請求項29~47のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項49】
前記ISAが、サイトカインまたはその受容体結合フラグメントもしくはバリアントを含む、請求項48に記載の結合分子。
【請求項50】
前記ISAが、
(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質またはその受容体結合フラグメントもしくはバリアント(「I」)、及び
(b)Iと会合することができるスシドメインまたはそのバリアントを含むインターロイキン-15受容体α(IL-15Rα)フラグメント(「R」)
を含み、
前記J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアント、ならびにI及びRのうちの少なくとも1つが、融合タンパク質として会合し、
I及びRが、会合して前記ISAとして機能することができる、
請求項49に記載の結合分子。
【請求項51】
前記ISAが、ペプチドリンカーを介して前記J鎖に融合されている、請求項48~50のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項52】
前記所定の標的が、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、EGFR、HER2(ErbB2)、ErbB3、ErbB4、CTLA4、PD-1、PD-L1、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、GD2、SLAMF7、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソテリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)、またはCD33である、請求項1~51のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項53】
前記所定の標的に特異的な前記少なくとも3つの同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインが、前記所定の標的に結合することが知られている既存の抗体の抗原結合ドメインの親和性低減バリアントであり、前記既存の抗体の抗原結合ドメインが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、請求項5~52のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項54】
前記既存の抗体が、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、カプロマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュルバルマブ、エロツズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、イピリムマブ、イノツズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、またはトレメリムマブである、請求項53に記載の結合分子。
【請求項55】
前記既存の抗体よりも少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低い前記所定の標的に対する結合親和性で、前記所定の標的に結合する、請求項53または請求項54に記載の結合分子。
【請求項56】
前記既存の抗体の前記抗原結合ドメインのVH及びVLが、それぞれ、配列番号7及び配列番号8、配列番号14及び配列番号15、配列番号16及び配列番号17、配列番号18及び配列番号19、配列番号20及び配列番号21、配列番号22及び配列番号23、配列番号24及び配列番号25、配列番号26及び配列番号27、配列番号28及び配列番号29、配列番号30及び配列番号31、配列番号32及び配列番号33、配列番号34及び配列番号35、配列番号36及び配列番号37、配列番号38及び配列番号39、または配列番号40及び配列番号41のアミノ酸配列を含む、請求項53~55のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項57】
前記既存の抗体の前記抗原結合ドメインが、配列番号7の前記VHアミノ酸配列及び配列番号8の前記VLアミノ酸配列を含み、前記親和性低減バリアントが、配列番号8の前記VLのN93位にアミノ酸置換を含む、請求項56に記載の結合分子。
【請求項58】
前記アミノ酸置換が、N93DまたはN93Eである、請求項57に記載の結合分子。
【請求項59】
前記所定の標的に特異的な前記少なくとも3つの同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインが、配列番号7の前記VHアミノ酸配列と、配列番号9または配列番号10の前記VLアミノ酸配列とを含む、請求項58に記載の結合分子。
【請求項60】
低密度でCD20を発現するB細胞のEC50濃度よりも、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞の補体指向性細胞傷害性(CDC)を導くことができる、請求項57~59のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項61】
高密度でCD20を発現するB細胞のCDCを導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない、請求項57~60のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項62】
五量体IgMもしくはIgM様結合分子、または二量体IgAもしくはIgA様結合分子であり、CD3εに特異的に結合するscFvを含む修飾J鎖をさらに含む、請求項57~61のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項63】
前記修飾J鎖が、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含む、請求項62に記載の結合分子。
【請求項64】
低密度でCD20を発現するB細胞株または正常なB細胞のEC50濃度よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞のT細胞指向性細胞傷害性(TDCC)、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができる、請求項62または請求項63に記載の結合分子。
【請求項65】
高密度でCD20を発現するB細胞のTDCC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない、請求項62~64のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項66】
高密度及び低密度の両方でCD20を発現する前記B細胞が、リンパ腫細胞株である、請求項60~65のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項67】
高密度でCD20を発現する前記リンパ腫細胞株が、Ramos細胞株、Raji細胞株、DoHH-2細胞株、JeKo-1細胞株、Z-138細胞株、Daudi細胞株、Granta細胞株、またはDoHH2細胞株であり、低密度でCD20を発現する前記リンパ腫細胞株が、CA46細胞株、Nalm-1細胞株、Toledo細胞株、BJAB細胞株、Kasumi-2細胞株、RPMI8226細胞株、HT細胞株、SU-DHL-8細胞株、JM1細胞株、Namalwa細胞株、Nalm-6細胞株、またはZ138細胞株である、請求項66に記載の結合分子。
【請求項68】
前記結合分子が、Ramos細胞のCDCを導くことができ、前記結合分子と同じ抗原結合ドメインを含む等量の単一特異性二価IgG1抗体が、Ramos細胞の検出可能な補体媒介性殺滅を示さない、請求項66または請求項67のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項69】
前記高密度でCD20を発現するB細胞が、がんを有する対象におけるCD20陽性の悪性B細胞であり、前記低密度でCD20を発現するB細胞が、前記がんを有する対象における正常なB細胞である、請求項60~65のいずれか1項に記載の結合分子。
【請求項70】
前記がんが、CD20陽性の白血病、リンパ腫、または骨髄腫である、請求項69に記載の結合分子。
【請求項71】
前記対象が、ヒトである、請求項69または70に記載の結合分子。
【請求項72】
請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子と担体とを含む、組成物。
【請求項73】
請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子、またはその抗原結合及び多量体化フラグメント、またはそのサブユニットをコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項74】
前記サブユニットが、抗体重鎖または多量体化フラグメントもしくはそのバリアント、抗体軽鎖またはそのフラグメント、J鎖またはそのフラグメントもしくはそのバリアント、あるいはそれらの任意の組み合わせである、請求項73に記載のポリヌクレオチド。
【請求項75】
請求項73または請求項74に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項76】
請求項75に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項77】
請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子の産生方法であって、請求項76に記載の宿主細胞を培養する工程と、前記結合分子を回収する工程とを含む、前記産生方法。
【請求項78】
5個の二価結合ユニット及び修飾J鎖を含むIgMまたはIgM様抗体であって、
各結合ユニットが、結合ユニット関連抗原結合ドメインに各々関連付けられた2つのヒトIgM重鎖定常領域またはヒト由来のIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含み、
前記抗体の各結合ユニット関連抗原結合ドメインが、配列番号7のVHアミノ酸配列と、配列番号9または配列番号10のVLアミノ酸配列とを含み、
前記修飾J鎖が、CD3εに特異的に結合するscFvを含むJ鎖関連結合ドメインを含み、
前記IgM抗体は、低密度でCD20を発現するB細胞株または正常B細胞のEC50濃度よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞のTDCC、CDC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができる、
前記IgMまたはIgM様抗体。
【請求項79】
高密度でCD20を発現するB細胞のCDC、TDCC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない、請求項78に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項80】
前記修飾J鎖が、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含む、請求項78または請求項79に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項81】
前記高密度及び低密度でCD20を発現する細胞が、リンパ腫細胞株である、請求項78~80のいずれか1項に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項82】
前記高密度でCD20を発現する細胞が、Ramos細胞株であり、前記低密度でCD20を発現する細胞が、CA46細胞株である、請求項81に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項83】
前記IgMまたはIgM様抗体が、Ramos細胞の補体媒介性殺滅を導くことができ、同じ抗原結合ドメインを含む等量の単一特異性二価IgG1抗体が、Ramos細胞の検出可能な補体媒介性殺滅を示さない、請求項78~82のいずれか1項に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項84】
前記高密度でCD20を発現する細胞が、がんを有する対象における悪性B細胞であり、前記低密度でCD20を発現する細胞が、前記がんを有する対象における正常なB細胞である、請求項78~80のいずれか1項に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項85】
前記がんが、CD20陽性の白血病、リンパ腫、または骨髄腫である、請求項84に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項86】
前記対象が、ヒトである、請求項84または請求項85に記載のIgMまたはIgM様抗体。
【請求項87】
対象におけるがんを治療するための方法であって、有効量の請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子、請求項72に記載の組成物、または請求項78~86のいずれか1項に記載のIgMもしくはIgM様抗体を、治療を必要とする対象に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項88】
がんを治療するための薬剤の調製における、有効量の請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子、請求項72に記載の組成物、または請求項78~86のいずれか1項に記載のIgMもしくはIgM様抗体の使用。
【請求項89】
がんの治療における使用のための、請求項1~71のいずれか1項に記載の結合分子、請求項72に記載の組成物、または請求項78~86のいずれか1項に記載のIgMもしくはIgM様抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年9月19日に出願された米国仮特許出願第62/902,915号の利益を主張し、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。このASCIIの写しは、2020年9月17日に作成されたものであり、023WO1-Sequence-Listingと名付けられ、82,283バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
背景
がん細胞及び他の疾患細胞を直接標的とするモノクローナル抗体は、通常、疾患細胞上で過剰発現されるが正常で健康な細胞上でも低減されたレベルで発現される、標的抗原に結合する。したがって、このような抗体での治療は、腫瘍細胞を殺滅させ得るが、この抗体はまた、正常な細胞にも悪影響を及ぼし得る。例えば、抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブは、B細胞リンパ腫を効果的に殺すことができるが、患者の正常なB細胞を枯渇させることもできる。Kosmas,C.,et al.Leukemia,16:2004-2015(2002)(非特許文献1)。最近、Slaga et al.Science Trans.Med.doi:10.1126/scitranslmed.aat5775(2018)(非特許文献2)は、HER2に二価結合するが、親和性が低減した二重特異性抗HER2/CD3抗体が、より低い密度のHER2を発現する非腫瘍細胞の殺滅と比較して、HER2過剰発現腫瘍細胞の選択的殺滅を示したことを実証した。
【0004】
多量体化することができる抗体及び抗体分子(例えば、IgA及びIgM抗体)は、例えば、免疫腫瘍学及び感染性疾患の分野で、特異性及びアビディティーの改善、ならびに複数の結合標的への結合能をも可能にする有望な薬物候補として浮上している。例えば、米国特許第9,951,134号(特許文献1)、同第9,938,347号(特許文献2)、及び同第10,618,978号(特許文献3)、米国特許出願公開第US2019-0100597号(特許文献4)及び第US2019-0185570号(特許文献5)、ならびにPCT公開第WO2016/154593号(特許文献6)、第WO2016/168758号(特許文献7)、第WO2018/017888号(特許文献8)、第WO2018/017763号(特許文献9)、第WO2018/017889号(特許文献10)、第WO2018/017761号(特許文献11)、及び第WO2019/169314号(特許文献12)を参照されたく、これらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
低減した密度で抗原を発現する健康な細胞との相互作用を回避しながら、標的抗原を過剰発現する腫瘍または他の疾患細胞をより選択的に標的化することができる治療用モノクローナル抗体の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9,951,134号
【特許文献2】同第9,938,347号
【特許文献3】同第10,618,978号
【特許文献4】米国特許出願公開第US2019-0100597号
【特許文献5】第US2019-0185570号
【特許文献6】PCT公開第WO2016/154593号
【特許文献7】第WO2016/168758号
【特許文献8】第WO2018/017888号
【特許文献9】第WO2018/017763号
【特許文献10】第WO2018/017889号
【特許文献11】第WO2018/017761号
【特許文献12】第WO2019/169314号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kosmas,C.,et al.Leukemia,16:2004-2015(2002)
【非特許文献2】Slaga et al.Science Trans.Med.doi:10.1126/scitranslmed.aat5775(2018)
【発明の概要】
【0008】
概要
本開示は、2、5、または6個の二価結合ユニットを含む多量体結合分子であって、二価結合ユニットが、それぞれ4、10、または12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを集合的に含む、多量体結合分子を提供する。本明細書で提供されるように、各結合ユニットは、2つの抗体重鎖を含み、各抗体重鎖が、IgA重鎖定常領域、IgA様重鎖定常領域、IgM重鎖定常領域、もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアント、及び結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニットを有し、結合分子の結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの少なくとも3つが、細胞表面上の同じ所定の標的に特異的に結合し、結合分子が、より低い密度で所定の標的を発現する細胞と比較して、より高い密度で所定の標的を発現する細胞に優先的に結合する。
【0009】
特定の実施形態では、各抗体重鎖は、結合ユニット関連抗原結合ドメインの重鎖可変領域(VH)部分を含む。特定の実施形態では、細胞の表面上の同じの所定の標的に結合する少なくとも3つの結合ユニット関連抗原結合ドメインは、各々、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも3つの抗原結合ドメインはそれぞれ、所定の標的上の同じエピトープに結合する。ある特定の実施形態では、細胞の表面上の同じの所定の標的に結合する少なくとも3つの結合ユニット関連抗原結合ドメインは、同一である。
【0010】
ある特定の実施形態では、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、細胞の表面上の同じの所定の標的に結合し、かつ同一である。ある特定の実施形態では、提供される結合分子は、細胞の表面上の所定の標的に特異的に結合する同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの2つのみを有する参照二価IgG抗体と比較して、より高い密度で所定の標的を発現する細胞に優先的に結合する。特定の実施形態では、提供される結合分子は、より高い密度で標的抗原を発現する細胞に結合することができ、細胞の表面上の所定の標的に特異的に結合する同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの2つのみを有する参照二価IgG抗体は、より高い密度で標的抗原を発現する細胞に結合することができない。ある特定の実施形態では、提供される結合分子は、より低い密度で所定の標的を発現する細胞に検出可能に結合しない。ある特定の実施形態において、高密度で所定の標的を発現する細胞は、がん細胞であり、低密度で所定の標的を発現する細胞は、正常な健康細胞である。
【0011】
ある特定の実施形態では、多量体結合分子は、五量体または六量体であり、それぞれ5または6個の二価のIgM結合ユニットまたはIgM様結合ユニットを含み、各結合ユニットは、結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニットに各々関連付けられた2つのIgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、IgM重鎖定常領域もしくはIgM様重鎖定常領域、またはそれらの多量体化フラグメントもしくはバリアントは、各々、Cμ4ドメイン及びIgMテールピース(tp)ドメインを含み、さらに、Cμ1ドメイン、Cμ2ドメイン、Cμ3ドメイン、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。ある特定の実施形態では、IgM重鎖定常領域またはIgM様重鎖定常領域は、ヒトIgM定常領域またはヒト由来IgM様定常領域である。ある特定の実施形態では、各結合ユニットは、IgM定常領域もしくはIgM様定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントに対しアミノ末端側に位置するVHを各々含む2つのIgM重鎖またはIgM様重鎖と、免疫グロブリン軽鎖定常領域に対してアミノ末端側に位置するVLを各々含む2つの免疫グロブリン軽鎖とを含む。多量体結合分子が五量体であるそれらの実施形態では、多量体結合分子は、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含み得る。
【0012】
ある特定の実施形態では、多量体結合分子は二量体であり、2つの二価のIgA結合ユニットもしくはIgA様結合ユニット及びJ鎖もしくはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含み、各結合ユニットは、結合ユニット関連抗原結合ドメインもしくはそのサブユニットに各々関連付けられた2つのIgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、二量体結合分子は、分泌成分、またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含むことができる。ある特定の実施形態では、IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域、またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントは、各々、Cα3ドメイン及びIgAテールピース(tp)ドメインを含み、さらにCα1ドメイン、Cα2ドメイン、IgAヒンジ領域、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。ある特定の実施形態では、IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントは、ヒトIgA重鎖定常領域またはヒト由来IgA様重鎖定常領域である。ある特定の実施形態では、各結合ユニットは、IgA重鎖定常領域もしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントに対しアミノ末端側に位置するVHを各々含む2つのIgA重鎖またはIgA様重鎖と、免疫グロブリン軽鎖定常領域に対しアミノ末端側に位置するVLを各々含む2つの免疫グロブリン軽鎖とを含む。
【0013】
本明細書で提供するある特定の多量体結合分子は、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態において、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントは、配列番号42のアミノ酸配列を含むヒトまたはヒト由来のJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントである。ある特定の実施形態において、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントは、野生型J鎖と比較して、結合分子の血清半減期に影響を及ぼし得る1つ以上の単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を含む、バリアントJ鎖である。これらの実施形態によれば、バリアントJ鎖を含む結合分子は、動物に投与されると、1つ以上の単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を除いて同一でありかつ同じ動物種に同じようにして投与される参照多量体結合分子と比較して、増加した血清半減期を示す。より具体的には、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントは、野生型ヒトJ鎖(配列番号42)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含む。配列番号42のY102は、アラニン(A)、セリン(S)またはアルギニン(R)で置換され得る。より具体的には、配列番号42のY102に対応するアミノ酸は、アラニン(A)で置換され得る。ある特定の実施形態では、J鎖は、バリアントヒトJ鎖であり、かつ配列番号43(J*)のアミノ酸配列を含む。
【0014】
ある特定の実施形態では、提供される多量体結合分子のJ鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントは、修飾J鎖であり、異種部分をさらに含み、異種部分は、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに化学的にコンジュゲートまたは融合されている。ある特定の実施形態では、異種部分は、異種ポリペプチドである。異種ポリペプチドは、ペプチドリンカーを介して、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合することができる。例えば、ペプチドリンカーは、アミノ酸配列番号57、配列番号58、配列番号59、配列番号60、または配列番号61から構成され得る。ある特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのN末端に融合されているか、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのC末端に融合されているか、異種ポリペプチドが、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのN末端及びC末端の両方に融合され得る。ある特定の実施形態では、少なくとも2つの異種ポリペプチドは、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合することができ、少なくとも2つの異種ポリペプチドは、同じであり得るか、または異なり得る。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの異種ポリペプチドは、J鎖関連抗原結合ドメインを含む。ある特定の実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、抗体またはその抗原結合フラグメント、例えば、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、ジスルフィド結合Fv(sdFv)フラグメント、もしくはそれらの任意の組み合わせである。ある特定の実施形態では、抗原結合フラグメントは、scFvフラグメントである。ある特定の実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、免疫エフェクター細胞、例えば、T細胞、例えば、CD8+細胞傷害性T細胞、またはNK細胞に特異的に結合する。
【0015】
免疫エフェクター細胞がT細胞である場合、J鎖関連抗原結合ドメインは、例えば、CD3εに特異的に結合するscFvフラグメントであり得る。ある特定の実施形態では、抗CD3ε scFvフラグメントが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、当該VHが、VH相補性決定領域VHCDR1、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、それらはそれぞれ、配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列、または該VHCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列、を含み、当該VLが、VL相補性決定領域VLCDR1、VLCDR2、及びVLCDR3を含み、それらはそれぞれ、配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列、または該VLCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列を含む。例えば、scFvフラグメントは、VHアミノ酸配列(配列番号48)及びVLアミノ重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み得、ここで、VH及びVLは、それぞれ配列番号44及び配列番号45のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、修飾J鎖は、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含むことができる。免疫エフェクター細胞がNK細胞である場合、J鎖関連抗原結合ドメインは、例えば、CD16に特異的に結合するscFvフラグメントであり得る。
【0016】
特定の実施形態では、提供される多量体結合分子の修飾J鎖は、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合または化学的にコンジュゲートされた免疫刺激剤(「ISA」)を含み得る。ある特定の実施形態では、ISAは、サイトカインまたは受容体結合フラグメントもしくはそのバリアントを含み得る。例えば、ISは、(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質もしくは受容体結合フラグメントもしくはそのバリアント(「I」)、及び(b)Iと会合することができるスシドメインまたはそのバリアントを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)フラグメント(「R」)を含むことができ、ここで、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアント、ならびにI及びRの少なくとも1つは、融合タンパク質として会合し、I及びRは、会合してISAとして機能することができる。ある特定の実施形態では、ISAは、ペプチドリンカーを介してJ鎖に融合され得る。
【0017】
ある特定の実施形態では、提供される多量体結合分子の所定の標的は、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、EGFR、HER2(ErbB2)、ErbB3、ErbB4、CTLA4、PD-1、PD-L1、VEGF、VEGFR1、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、GD2、SLAMF7、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソテリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリル抗原(STn抗原)、またはCD33である。特定の実施形態では、所定の標的に特異的な少なくとも3つの同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、所定の標的に結合することが知られている既存の抗体の抗原結合ドメインの親和性低減バリアントであり、既存の抗体の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む。ある特定の実施形態では、既存の抗体は、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ、カプロマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュルバルマブ、エロツズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、イピリムマブ、イノツズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、またはトレメリムマブである。ある特定の実施形態では、提供される結合分子は、既存の抗体よりも少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低い所定の標的に対する結合親和性で、所定の標的に結合する。ある特定の実施形態では、既存の抗体の抗原結合ドメインのVH及びVLは、それぞれ、配列番号7及び配列番号8、配列番号14及び配列番号15、配列番号16及び配列番号17、配列番号18及び配列番号19、配列番号20及び配列番号21、配列番号22及び配列番号23、配列番号24及び配列番号25、配列番号26及び配列番号27、配列番号28及び配列番号29、配列番号30及び配列番号31、配列番号32及び配列番号33、配列番号34及び配列番号35、配列番号36及び配列番号37、配列番号38及び配列番号39、または配列番号40及び配列番号41のアミノ酸配列を含む。
【0018】
より具体的には、既存の抗体の抗原結合ドメインは、CD20に特異的に結合し、配列番号7のVHアミノ酸配列及び配列番号8のVLアミノ酸配列を含み、親和性低減バリアントは、配列番号8のVLのN93位にアミノ酸置換を含む。例えば、配列番号8のN93は、N93DまたはN93Eアミノ酸置換を含むことができる。ある特定の実施形態では、所定の標的に特異的な少なくとも3つの同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、配列番号7のVHアミノ酸配列と、配列番号9または配列番号10のVLアミノ酸配列とを含む。ある特定の実施形態では、提供される結合分子は、低密度でCD20を発現するB細胞のEC50濃度よりも、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞の補体指向性(complement-directed)細胞傷害性(CDC)を導くことができる。ある特定の実施形態では、提供される結合分子は、高密度でCD20を発現するB細胞のCDCを導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない。ある特定の実施形態では、提供される抗CD20結合分子は、五量体IgMまたはIgM様結合分子、または二量体IgAまたはIgA様結合分子であり、CD3εに特異的に結合するscFvを含む修飾J鎖をさらに含む。例えば、修飾J鎖は、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含むことができる。ある特定の実施形態では、提供される抗CD20結合分子は、低密度でCD20を発現するB細胞株または正常なB細胞のEC50濃度よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞のT細胞指向性細胞傷害性(TDCC)、またはTDCCとCDCの両方を導くことができる。ある特定の実施形態では、提供される抗CD20結合分子は、高密度でCD20を発現するB細胞のTDCC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない。ある特定の実施形態では、高密度及び低密度の両方でCD20を発現するB細胞は、リンパ腫細胞株である。例えば、高密度でCD20を発現するリンパ腫細胞株は、Ramos細胞株、Raji細胞株、DoHH-2細胞株、JeKo-1細胞株、Z-138細胞株、Daudi細胞株、Granta細胞株、またはDoHH2細胞株であり、低密度でCD20を発現するリンパ腫細胞株は、CA46細胞株、Nalm-1細胞株、Toledo細胞株、BJAB細胞株、Kasumi-2細胞株、RPMI8226細胞株、HT細胞株、SU-DHL-8細胞株、JM1細胞株、Namalwa細胞株、Nalm-6細胞株、またはZ138細胞株である。ある特定の実施形態では、提供される抗CD20結合分子は、Ramos細胞のCDCを導くことができ、結合分子と同じ抗原結合ドメインを含む等量の単一特異性二価IgG1抗体は、Ramos細胞の検出可能な補体媒介性殺滅を示さない。ある特定の実施形態では、高密度でCD20を発現するB細胞は、がんを有する対象におけるCD20陽性の悪性B細胞であり、低密度でCD20を発現するB細胞は、がんを有する対象における正常なB細胞である。ある特定の実施形態では、がんは、CD20陽性の白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0019】
本開示はさらに、本開示によって提供される結合分子を含む組成物を提供する。
【0020】
本開示は、提供される結合分子、提供される結合分子の抗原結合及び多量体化フラグメント、またはそのサブユニットをコードする核酸分子を含む、単離されたポリヌクレオチドをさらに提供する。ある特定の実施形態では、サブユニットは、抗体重鎖またはその多量体化フラグメントもしくはバリアント、抗体軽鎖またはそのフラグメント、J鎖またはそのフラグメントもしくはそのバリアント、あるいはそれらの任意の組み合わせである。さらに、提供されるポリヌクレオチドを含むベクター、及び提供されるベクターまたはポリヌクレオチドを含む宿主細胞が開示される。関連する実施形態では、本開示は、提供される結合分子の産生方法を提供し、本方法は、提供される宿主細胞を培養する工程と、結合分子を回収する工程とを含む。
【0021】
加えて、本開示は、5個の二価結合ユニット及び修飾J鎖を含むIgMまたはIgM様抗体を提供し、各結合ユニットは、結合ユニット関連抗原結合ドメインに各々関連付けられた2つのヒトIgM重鎖定常領域またはヒト由来のIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含み、抗体の各結合ユニット関連抗原結合ドメインは、配列番号7のVHアミノ酸配列と、配列番号9または配列番号10のVLアミノ酸配列とを含み、修飾J鎖は、CD3εに特異的に結合するscFvを含むJ鎖関連結合ドメインを含み、IgM抗体は、低密度でCD20を発現するB細胞株または正常B細胞のEC50濃度よりも少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍低いEC50濃度で、高密度でCD20を発現するB細胞のTDCC、CDC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができる。ある特定の実施形態では、IgMまたはIgM様抗体は、高密度でCD20を発現するB細胞のCDC、TDCC、またはTDCC及びCDCの両方を導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞については導くことができない。ある特定の実施形態では、修飾J鎖は、配列番号46のアミノ酸20~412(V15J)、配列番号47のアミノ酸20~412(V15J*)、または配列番号56のアミノ酸20~420(SJ*)を含む。ある特定の態様では、高密度及び低密度CD20発現細胞は、リンパ腫細胞株であり、例えば、高密度でCD20を発現する細胞は、Ramos細胞株であり得、低密度でCD20を発現する細胞は、CA46細胞株であり得る。ある特定の実施形態では、提供されるIgMまたはIgM様抗体は、Ramos細胞の補体媒介性殺滅を導くことができ、同じ抗原結合ドメインを含む等量の単一特異性二価IgG1抗体は、Ramos細胞の検出可能な補体媒介性殺滅を示さない。ある特定の実施形態では、高密度でCD20を発現する細胞は、がんを有する対象における悪性B細胞であり、低密度でCD20を発現する細胞は、がんを有する対象における正常なB細胞である。がんは、例えば、CD20陽性の白血病、リンパ腫、または骨髄腫であり得る。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0022】
本開示はさらに、対象におけるがんを治療するための方法を提供し、本方法は、治療を必要とする対象に、有効量の提供される結合分子、提供される組成物、または提供されるIgMもしくはIgM様抗体を投与する工程を含む。
【0023】
本開示は、がんを治療するための薬剤の調製における、有効量の提供される結合分子、提供される組成物、または提供されるIgMまたはIgM様抗体の使用をさらに提供する。
【0024】
本開示は、がんの治療における使用のための、提供される結合分子、提供される組成物、または提供されるIgMまたはIgM様抗体をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】結合親和性が変更された抗CD20 IgG及びIgMの生成。非還元ゲルは、組み立てられたIgGを示す。レーン1:RTX-IgG WT、レーン2:RTX IgG N93A、レーン3:RTX IgG N93D、レーン4:RTX IgG N93E、レーン5:RTX IgG N93K、レーン6:RTX IgG N93R。
【
図1B】結合親和性が変更された抗CD20 IgG及びIgMの生成。還元ゲルは、IgG重鎖及び軽鎖を示す。レーン1:RTX-IgG WT、レーン2:RTX IgG N93A、レーン3:RTX IgG N93D、レーン4:RTX IgG N93E、レーン5:RTX IgG N93K、レーン6:RTX IgG N93R。
【
図1C】結合親和性が変更された抗CD20 IgG及びIgMの生成。非還元ゲルは、組み立てられたIgMを示す。レーン1:RTX-IgM+J WT、レーン2:RTX IgM+J N93A、レーン3:RTX IgM+J N93D、レーン4:RTX IgM+J N93E、レーン5:RTX IgM+J N93K、レーン6:RTX IgM+J N93R。
【
図1D】結合親和性が変更された抗CD20 IgG及びIgMの生成。還元ゲルは、IgM重鎖及び軽鎖を示す。レーン1:RTX-IgM+J WT、レーン2:RTX IgM+J N93A、レーン3:RTX IgM+J N93D、レーン4:RTX IgM+J N93E、レーン5:RTX IgM+J N93K、レーン6:RTX IgM+J N93R。
【
図2A】IgGとしてのリツキシマブの様々に変更された親和性変異体の、Ramos細胞への結合活性。
【
図2B】IgM+Jとしてのリツキシマブの様々に変更された親和性変異体の、Ramos細胞への結合活性。
【
図3】Aは、Ramos細胞及びCA46B細胞株上におけるリツキシマブの様々に変更された親和性変異体のCDC活性。Ramos細胞上におけるIgG抗体のCDC活性。Bは、Ramos細胞及びCA46B細胞株上におけるリツキシマブの様々に変更された親和性変異体のCDC活性。Ramos細胞上におけるIgM抗体のCDC活性。Cは、Ramos細胞及びCA46B細胞株上におけるリツキシマブの様々に変更された親和性変異体のCDC活性。CA46細胞上におけるIgG抗体のCDC活性。Dは、Ramos細胞及びCA46B細胞株上におけるリツキシマブの様々に変更された親和性変異体のCDC活性。CA46細胞上におけるIgM抗体のCDC活性。
【
図4】Aは、CA46細胞上におけるリツキシマブの2つの変更した親和性変異体のTDCC活性。白丸:RTX-IGM V15J、白菱形:RTX-IgM N93E V15J、白三角:RTX-IgM N93D V15J。Bは、正常B細胞上におけるリツキシマブの2つの変更した親和性変異体のTDCC活性。白丸:RTX-IGM V15J、白菱形:RTX-IgM N93E V15J、白三角:RTX-IgM N93D V15J。Cは、Ramos細胞上におけるリツキシマブの2つの変更した親和性変異体のTDCC活性。白丸:RTX-IGM V15J、白菱形:RTX-IgM N93E V15J、白三角:RTX-IgM N93D V15J。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
定義
「1個の」(「a」または「an」)実体という用語は、1個以上のその実体を指し、例えば、「1個の結合分子(a binding molecule)」は、1個以上の結合分子を表す。したがって、「1個の」(「a」または「an」)、「1個以上の」、及び「少なくとも1個」という用語は、本明細書では互換的に使用することができる。
【0027】
さらに、本明細書で使用される場合、「及び/または」は、2つの特定された特徴または構成要素のそれぞれの特定の開示として、他方の特徴または構成要素の有無にかかわらず、解釈されるべきである。したがって、本明細書における「A及び/またはB」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、「A及びB」、「AまたはB」、「A」(単独)、及び「B」(単独)を含むことが意図される。同様に、「A、B、及び/またはC」などの語句で使用される「及び/または」という用語は、以下の実施形態のそれぞれを包含することを意図している:A、B、及びC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);及びC(単独)。
【0028】
他に定義されない限り、本明細書中で使用される技術用語及び科学用語は、本開示が関連する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press、及びthe Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは、当業者に、本開示で使用される用語の多くの一般的な辞書を提供する。
【0029】
単位、接頭語、及び記号は、国際単位(SI)の承認された形式で表される。数値範囲は、その範囲を画定する数字を含む。別途指示されない限り、アミノ酸配列はアミノからカルボキシの方向に左から右に記載される。本明細書に提供される見出しは、本明細書を全体的に参照することによって得ることができる、本開示の種々の実施形態の限定ではない。したがって、以下に早速定義される用語は、その全体が本明細書を参照することによってより完全に定義される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、単一の「ポリペプチド」ならびに複数の「ポリペプチド」を包含するよう意図されており、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)によって直鎖状に連結されたモノマー(アミノ酸)から構成される分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖または複数の鎖を指し、生成物の特定の長さを指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の鎖(複数可)を指すために使用される任意の他の用語が、「ポリペプチド」の定義に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語のいずれかの代わりに、またはこれらと互換的に使用され得る。「ポリペプチド」という用語はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、及び既知の保護/遮断基による誘導体化、タンパク質分解切断、または非天然アミノ酸による修飾を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すよう意図されている。ポリペプチドは、生物学的供給源に由来し得るか、または組換え技術によって産生され得るが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されるわけではない。化学合成を含む、任意の様式で生成することができる。
【0031】
本明細書に開示されるポリペプチドは、約3個以上、5個以上、10個以上、20個以上、25個以上、50個以上、75個以上、100個以上、200個以上、500個以上、1,000個以上、または2,000個以上のアミノ酸のサイズであり得る。ポリペプチドは、必ずしもそのような構造を有するわけではないが、所定三次元構造を有することができる。所定三次元構造を有するポリペプチドは、折り畳まれたと称され、所定三次元構造を有さないが、むしろ多数の異なる立体配座をとることができるポリペプチドである。本明細書で使用される場合、糖タンパク質という用語は、アミノ酸、例えばセリンまたはアスパラギンの酸素含有または窒素含有側鎖を介してタンパク質に付着している少なくとも1つの炭水化物部分に結合されたタンパク質を指す。
【0032】
「単離された」ポリペプチドまたはそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体とは、その天然の環境にはないポリペプチドを意図する。特定の精製レベルが求められるわけではない。例えば、単離されたポリペプチドはその天然のまたは自然な環境から取り出され得る。宿主細胞内で発現させた組換え生成ポリペプチド及びタンパク質は、本明細書に開示される場合、単離されているとみなされ、任意の好適な技法によって分離、分画、または部分的もしくは実質的に精製されたネイティブまたは組換えポリペプチドも同様である。
【0033】
本明細書で使用する場合、「非天然ポリペプチド」という用語またはその任意の文法上の変化形は、裁判官、または行政機関もしくは司法機関によって「天然」であると判定もしくは解釈されるまたはその可能性があるポリペプチドの形態を明示的に除外するが、ただしこのような形態のみを除外する、条件付き定義である。
【0034】
本明細書に開示される他のポリペプチドは、前述のポリペプチドのフラグメント、誘導体、類似体、またはバリアント、及びこれらの任意の組み合わせである。本明細書に開示される場合、「フラグメント」、「バリアント」、「誘導体」、及び「類似体」という用語は、対応するネイティブ抗体またはポリペプチドの特性のうちの少なくともいくつか(例えば、抗体に特異的に結合すること)を保持する任意のポリペプチドを含む。ポリペプチドのフラグメントは、本明細書の他の箇所で論じられている特異的抗体フラグメントに加えて、例えば、タンパク質分解フラグメント、ならびに欠失フラグメントを含む。バリアント、例えばポリペプチドのバリアントには、上述のフラグメントが含まれ、また、アミノ酸の置換、欠失、または挿入による改変アミノ酸配列を有するポリペプチドも含まれる。特定の態様において、バリアントは非天然であり得る。非天然バリアントは、当該技術分野で既知の変異誘発技法を用いて生成することができる。バリアントポリペプチドは、保存的または非保存的なアミノ酸の置換、欠失、または付加を含み得る。誘導体は、元のポリペプチドには見られない追加的な特徴を示すように改変されたポリペプチドである。例としては、融合タンパク質が挙げられる。バリアントポリペプチドは、本明細書で「ポリペプチド類似体」とも呼ばれ得る。本明細書で使用する場合、ポリペプチドの「誘導体」はまた、官能性側鎖の反応によって化学的に誘導体化された1つ以上のアミノ酸を有する主題ポリペプチドも指すことができる。「誘導体」としても含まれるのはまた、20個の標準アミノ酸のうちの1つ以上の誘導体を含むペプチドである。例えば、4-ヒドロキシプロリンは、プロリンの代わりになり得る;5-ヒドロキシリジンはリジンの代わりになり得る;3-メチルヒスチジンはヒスチジンの代わりになり得る;ホモセリンはセリンの代わりになり得る;そしてオルニチンはリジンの代わりになり得る。
【0035】
「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸に置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸ファミリーは、当該技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。例えば、チロシンのフェニルアラニンへの置換は保存的置換である。ある特定の実施形態では、本開示のポリペプチド及び抗体の配列における保存的置換は、アミノ酸配列を含むポリペプチドまたは抗体の、結合分子、例えば抗体が結合する抗原への結合を抑止しない。抗原結合を排除しないヌクレオチド及びアミノ酸保存的置換を同定する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Brummell et al.,Biochem.32:1180-1187(1993)、Kobayashi et al.Protein Eng.12(10):879-884(1999)、及びBurks et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA94:412-417(1997)を参照されたい)。
【0036】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単一の核酸ならびに複数の核酸を包含するように意図されており、単離された核酸分子または構築物、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、またはプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、従来的なホスホジエステル結合または従来的でない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。「核酸」または「核酸配列」という用語は、ポリヌクレオチドに存在する任意の1つ以上の核酸セグメント、例えば、DNAまたはRNAフラグメントを指す。
【0037】
「単離された」核酸またはポリヌクレオチドは、その天然の環境から分離された任意の形態の核酸またはポリヌクレオチドを意図する。例えば、ゲル精製されたポリヌクレオチド、またはベクターに含まれるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、「単離された」とみなされるであろう。また、クローニングのための制限部位を有するように操作されたポリヌクレオチドセグメント(例えば、PCR産物)も、「単離された」とみなされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例には、異種宿主細胞中に維持された組換えポリヌクレオチド、または緩衝液もしくは生理食塩水などの非天然溶液中の精製された(部分的または実質的に)ポリヌクレオチドが含まれる。単離されたRNA分子は、インビボまたはインビトロのポリヌクレオチドのRNA転写産物を含み、転写産物は、天然に見られるものではない。単離されたポリヌクレオチドまたは核酸は、合成的に生成されたそのような分子をさらに含む。加えて、ポリヌクレオチドまたは核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位、または転写ターミネーターなどの調節エレメントであり得るか、またはそれを含み得る。
【0038】
本明細書で使用する場合、「非天然ポリヌクレオチド」という用語またはその任意の文法上の変化形は、「天然」である、あるいは裁判官、または行政機関もしくは司法機関によって「天然」であると判定もしくは解釈されるまたはそのような可能性がある核酸またはポリヌクレオチドの形態を明示的に除外するが、ただしこのような形態のみを除外する、条件付き定義である。
【0039】
本明細書で使用する場合、「コード領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる核酸の部分である。「終止コドン」(TAG、TGA、またはTAA)は、アミノ酸に翻訳されないが、コード領域の一部であると考えることができるが、任意の隣接配列、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写終結因子、イントロン等は、コード領域の一部ではない。2つ以上のコード領域が、(例えば、単一のベクター上の)単一のポリヌクレオチド構築物内に、または(例えば、別々の(異なる)ベクター上の)別々のポリヌクレオチド構築物内に存在し得る。さらに、任意のベクターは、単一のコード領域を含み得るか、または2つ以上のコード領域を含むことができ、例えば、単一のベクターは、免疫グロブリン重鎖可変領域及び免疫グロブリン軽鎖可変領域を別々にコードすることができる。加えて、ベクター、ポリヌクレオチド、または核酸は、別のコード領域に融合されたまたは融合されていない異種コード領域を含み得る。異種コード領域には、分泌シグナルペプチドまたは異種機能ドメインなどの特殊な要素またはモチーフをコードするものが含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
ある特定の実施形態において、ポリヌクレオチドまたは核酸はDNAである。DNAの場合、ポリペプチドをコードする核酸を含むポリヌクレオチドは、通常、1つ以上のコード領域と作動可能に連結されたプロモーター及び/または、他の転写もしくは翻訳制御エレメントを含み得る。作動可能な連結とは、調節配列(複数可)の影響下または制御下に遺伝子産物の発現が置かれるような方式で、遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)のためのコード領域が1つ以上の調節配列と連結されている場合のことである。2つのDNAフラグメント(ポリペプチドコード領域及びそれに関連するプロモーターなど)が「作動可能に連結する」とは、プロモーター機能の誘導が、所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合、ならびに2つのDNAフラグメント間の結合の性質が、遺伝子産物の発現を導く発現調節配列の能力を妨害しない場合、または転写されるDNAテンプレートの能力を妨害しない場合、である。したがって、プロモーター領域は、プロモーターがその核酸の転写にもたらすことが可能な場合、ポリペプチドをコードする核酸と作動可能に連結するであろう。プロモーターは、所定の細胞におけるDNAの実質的な転写を指示する細胞特異的プロモーターであり得る。プロモーター以外の他の転写制御エレメント、例えば、エンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルは、細胞特異的転写を指示するためにポリヌクレオチドと作動可能に連結することができる。
【0041】
様々な転写制御領域は、当業者に既知である。これらには、限定されないが、サイトメガロウイルス(イントロン-Aと組み合わせた前初期プロモーター)、シミアンウイルス40(初期プロモーター)、及びレトロウイルス(ラウス肉腫ウイルス等)からのプロモーター及びエンハンサーセグメント等の脊椎動物細胞において機能する転写制御領域が含まれるが、これらに限定されない。他の転写制御領域としては、アクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン、ウサギβ-グロビンなどの脊椎動物遺伝子に由来するもの、ならびに真核細胞における遺伝子発現を制御することができる他の配列が挙げられる。さらなる好適な転写制御領域としては、組織特異的プロモーター及びエンハンサー、ならびにリンホカイン誘導性プロモーター(例えば、インターフェロンまたはインターロイキンによって誘導可能なプロモーター)が挙げられる。
【0042】
同様に、様々な翻訳制御エレメントは、当業者に既知である。これらには、リボソーム結合部位、翻訳開始及び終結コドン、ならびにピコルナウイルスに由来する要素(特に、内部リボソーム進入部位、またはIRES、CITE配列とも称される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、RNA、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、またはリボソームRNAの形態であり得る。
【0044】
ポリヌクレオチド及び核酸コード領域は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指示する分泌ペプチドまたはシグナルペプチドをコードする追加のコード領域と連結することができる。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、粗面小胞体を横切る成長タンパク質鎖の輸出が開始されると成熟タンパク質から切断されるシグナルペプチドまたは分泌リーダー配列を有する。当業者であれば、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドは、ポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有し得、これは、完全または「完全長」ポリペプチドから切断され、ポリペプチドの分泌形態または「成熟」形態を生成することを認識している。特定の実施形態では、天然シグナルペプチド、例えば免疫グロブリン重鎖または軽鎖シグナルペプチドが使用されるか、またはそれに作動可能に関連付けられるポリペプチド分泌を指示する能力を保持するその配列の機能的誘導体が使用される。あるいは、異種哺乳動物シグナルペプチドまたはその機能的誘導体を使用することができる。例えば、野生型リーダー配列は、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)またはマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置換することができる。
【0045】
本明細書で使用する場合、「結合分子」という用語は、その最も広い意味において、結合標的(例えば、エピトープまたは抗原決定基)に対し特異的に結合する分子を指す。本明細書でさらに記載されるように、結合分子は、本明細書に記載の1つ以上の「抗原結合ドメイン」を含むことができる。結合分子の非限定的な例は、抗原特異的結合を保持する本明細書に詳細に記載される抗体または抗体様分子である。特定の実施形態では、「結合分子」は、本明細書に詳細に記載される抗体または抗体様分子を含む。
【0046】
本明細書で使用される場合、「結合ドメイン」または「抗原結合ドメイン」という用語(互換的に使用され得る)は、結合標的、例えばエピトープに特異的に結合するのに必要かつ十分な結合分子、例えば抗体または抗体様分子の領域を指す。例えば、「Fv」、例えば、抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、2つの別個のポリペプチドサブユニットまたは一本鎖のいずれかとして、「結合ドメイン」であるとみなされる。他の抗原結合ドメインとしては、限定するものではないが、ラクダ科動物に由来する抗体の重鎖可変領域(VHH)、サメに由来するVNAR抗原受容体、または異種骨格、例えばフィブロネクチン骨格内に発現する6個の免疫グロブリン相補性決定領域(CDR)が挙げられる。本明細書に記載の「結合分子」または「抗体」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12の、またはさらに多くの「抗原結合ドメイン」を含むことができる。本明細書で使用される場合、「結合ユニット関連抗原結合ドメイン」は、抗体重鎖及び/または抗体軽鎖の一部である抗原結合ドメインを指す。「J鎖関連抗原結合ドメイン」という用語は、本明細書に記載の修飾J鎖、例えば、野生型ヒトJ鎖に融合したscFv、またはその機能的フラグメントもしくはバリアントに関連する抗原結合ドメインを指す。
【0047】
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書では互換的に使用することができる。抗体(または本明細書に開示されるそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体)は、少なくとも重鎖(ラクダ科動物の場合)の可変領域、または少なくとも重鎖及び軽鎖の可変領域を含む。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリン構造は、比較的十分に理解されている。例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)を参照されたい。別段の明記がない限り、「抗体」という用語は、抗体の小さな抗原結合フラグメントからフルサイズの抗体(例えば、2つの完全な重鎖及び2つの完全な軽鎖を含むIgG抗体、4つの完全な重鎖及び4つの完全な軽鎖ならびにJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアント及び/または分泌成分を含むIgA抗体、あるいは10または12の完全な重鎖及び10または12の完全な軽鎖を含み、任意選択でJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含むIgM抗体)に及ぶ範囲のあらゆるものを包含する。
【0048】
以下でより詳細に論じられるように、「免疫グロブリン」という用語は、生化学的に区別することができるポリペプチドの様々な広範なクラスを含む。当業者は、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)及びそれらの間のいくつかのサブクラス(例えば、γ1~γ4またはα1~α2)に分類されることを理解するであろう。この鎖の性質が、抗体の「アイソタイプ」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEとして決定する。免疫グロブリンのサブクラス(サブタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などは、十分に特徴づけられており、機能的な特殊化をもたらすことが知られている。これらの免疫グロブリンの各々の修飾バージョンは、本開示を考慮すれば当業者に容易に認識可能であり、したがって、本開示の範囲内である。
【0049】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)のいずれかに分類される。各重鎖クラスは、カッパ軽鎖またはラムダ軽鎖のいずれかと会合し得る。軽鎖及び重鎖は、互いに共有結合しており、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞、遺伝子操作された宿主細胞によって発現される場合、2つの重鎖の「テール」部分は、共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖において、アミノ酸配列は、Y配置の分岐した端部のN末端から各鎖の底部のC末端まで続く。ある特定の抗体(例えば、IgG抗体)の基本構造は、ジスルフィド結合により接続して「Y」構造を形成する2個の重鎖サブユニット及び2個の軽鎖サブユニットを含み、本明細書においてこの構造は「H2L2構造」または「結合ユニット」とも呼ばれる。
【0050】
「結合ユニット」という用語は、本明細書では結合分子の一部、例えば、抗体、抗体様分子、その抗原結合フラグメント、またはその多量体化フラグメントを指すために使用され、これは、標準的な「H2L2」免疫グロブリン構造、例えば、2つの重鎖またはそのフラグメント、及び2つの軽鎖またはそのフラグメントに対応する。ある特定の実施形態では、結合ユニットは、例えば、ラクダ科動物抗体において、2つの重鎖に対応し得る。ある特定の態様では、例えば、結合分子が二価のIgG抗体またはその抗原結合フラグメントである場合、「結合分子」及び「結合ユニット」という用語は等価である。他の実施形態では、例えば、結合分子が多量体、例えば、二量体IgA抗体もしくはIgA様抗体、五量体IgM抗体もしくはIgM様抗体、または六量体IgM抗体もしくはIgM様抗体である場合、結合分子は、2つ以上の「結合ユニット」を含む。IgA二量体の場合には2個、IgM五量体または六量体の場合には、それぞれ5個または6個である。結合ユニットは、全長抗体の重鎖及び軽鎖を含む必要はないが、典型的には二価であり、すなわち、上記で定義されるように、2つの「結合ユニット関連抗原結合ドメイン」を含む。本明細書で使用される場合、本開示で提供されるある特定の結合分子は「二量体」であり、IgA定常領域またはその多量体化フラグメントを含む2つの二価結合ユニットを含む。本開示で提供される特定の結合分子は五量体または六量体であり、IgM定常領域またはその多量体化フラグメントを含む5個または6個の二価結合ユニットを含む。2個以上、例えば、2個、5個、または6個の結合ユニットを含む結合分子、例えば、抗体または抗体様分子は、本明細書では「多量体」と呼ばれる。「多量体化フラグメント」とは、IgMの場合には五量体または六量体を、IgAの場合には二量体を形成するのに十分なIgMまたはIgA定常領域の一部を意味する。多量体化するのに十分なIgM及びIgA定常領域フラグメントは、本明細書の別の箇所に記載されている。
【0051】
本明細書で使用する場合の「J鎖」という用語は、配列番号42として提示されている成熟ヒトJ鎖のアミノ酸配列を含めた、任意の動物種のネイティブ配列IgMまたはIgA抗体のJ鎖、その任意の機能的フラグメント、その誘導体、及び/またはそのバリアントを指す。種々のJ鎖バリアント及び修飾されたJ鎖誘導体が本明細書に開示される。本明細書で使用される場合、「機能的フラグメント」または「機能的バリアント」は、IgM重鎖定常領域と会合して五量体IgM抗体を形成することができる(またはその代わりに、IgA重鎖定常領域と会合して二量体IgA抗体を形成することができる)フラグメント及びバリアントを含む。
【0052】
「修飾されたJ鎖」という用語は、異種の部分、例えば、異種のポリペプチド、例えば、ネイティブJ鎖配列またはバリアントJ鎖配列に導入された外来の抗原結合ドメイン、を含むネイティブ配列J鎖ポリペプチドの誘導体を指すために本明細書で使用される。導入は、異種ポリペプチドもしくは他の部分の融合を含む手段、またはペプチドもしくは化学リンカーを介した付着による手段を含む、任意の手段によって達成することができる。「修飾されたヒトJ鎖」という用語は、限定されるものではないが、異種部分、例えば、異種ポリペプチド、例えば、J鎖関連抗原結合ドメインの導入によって修飾された、配列番号42のアミノ酸配列もしくはその機能的フラグメントまたはその機能的バリアントを含むネイティブ配列成熟ヒトJ鎖を包含する。ある特定の実施形態では、異種部分は、IgM単量体の五量体への効率的な重合、及び五量体IgMの標的への結合を妨害しない。例示的な修飾されたJ鎖は、例えば、米国特許第9,951,134号及び第10,618,978号、ならびに米国特許出願公開第US-2019-0185570号に見出すことができ、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「IgM由来結合分子」、「IgM様抗体」、「IgM様結合ユニット」、または「IgM様重鎖定常領域」という用語は、多量体を形成する能力、すなわち六量体を形成する能力、またはJ鎖と会合して五量体を形成する能力を付与するのに必要なIgM重鎖の構造部分を依然として保持するバリアント抗体誘導結合分子、抗体、結合ユニット、または重鎖定常領域を指す。IgM様抗体または他のIgM由来結合分子は、典型的には、IgM定常領域の少なくともCμ4及びテールピース(tp)ドメインを含むが、同じ種由来または異なる種由来の他の抗体アイソタイプ、例えば、IgGからの重鎖定常領域ドメインを含み得る。IgM様抗体または他のIgM由来結合分子は、同様に、IgM様抗体が六量体及び/または五量体を形成可能である限り、1つ以上の定常領域ドメインが欠失しているフラグメントであることができる。したがって、IgM様抗体または他のIgM由来結合分子は、例えば、ハイブリッドIgM/IgG抗体であり得るか、またはIgM抗体の「多量体化フラグメント」であり得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「IgA由来結合分子」、「IgA様抗体」、「IgA様結合ユニット」、または「IgA様重鎖定常領域」という用語は、多量体を形成する能力、すなわちJ鎖と会合して二量体を形成する能力を付与するのに必要なIgA重鎖の構造部分を依然として保持するバリアント抗体誘導結合分子、抗体、結合ユニット、または重鎖定常領域を指す。IgA様結合分子または他のIgA由来結合分子は、典型的には、IgA定常領域の少なくともCα3及びテールピース(tp)ドメインを含むが、同じ種由来または異なる種由来の他の抗体アイソタイプ、例えば、IgGからの重鎖定常領域ドメインを含み得る。IgA様結合分子または他のIgA由来結合分子は、同様に、IgA様抗体がJ鎖と会合して二量体を形成可能である限り、1つ以上の定常領域ドメインが欠失しているフラグメントであることができる。したがって、IgA様抗体または他のIgA由来結合分子は、例えば、ハイブリッドIgA/IgG抗体であり得るか、またはIgA抗体の「多量体化フラグメント」であり得る。
【0055】
「価数」、「二価」、「多価」、及び文法的に同等の用語は、所与の結合分子例えば、抗体もしくは抗体様分子、または所与の結合ユニットにおける抗原結合ドメインの数を指す。そのため、所与の結合分子(例えば、IgM抗体もしくはIgM様抗体またはその多量体化フラグメント)に対する「二価」、「四価」、及び「六価」という用語は、それぞれ2つの抗原結合ドメイン、4つの抗原結合ドメイン、及び6つの抗原結合ドメインの存在を示す。各結合ユニットが二価である典型的なIgM抗体もしくはIgM様抗体またはIgM由来結合分子は、五量体IgMが単一のJ鎖関連抗原結合ドメインを含む修飾されたJ鎖を含む場合、10価または12価、または11価を有することができる。二価または多価の結合分子は、単一特異的である(すなわち、すべての抗原結合ドメインが同じである)場合もあれば、二重特異的または多重特異的である(例えば、2つ以上の抗原結合ドメインが異なる、例えば、同じ抗原上の異なるエピトープに結合するか、または完全に異なる抗原に結合する場合)場合もある。
【0056】
「エピトープ」という用語は、抗体または抗体様分子の抗原結合ドメインに特異的に結合することができる任意の分子決定基を含む。ある特定の実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルなどの分子の化学的に活性な表面グルーピングを含むことができ、ある特定の実施形態においては、3次元構造特性、及びまたは特定の電荷特性を有することができる。エピトープは、抗体の抗原結合ドメインによって結合される標的の領域である。
【0057】
「標的」という用語は、結合分子、例えば抗体または抗体様分子によって結合され得る物質を含むように最も広い意味で使用される。標的は、例えば、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、または他の分子であり得る。さらに、「標的」は、例えば、結合分子、例えば抗体または抗体様分子によって結合され得るエピトープを含む細胞、臓器、または生物であり得る。本明細書で使用される場合、「標的抗原」は、結合分子、例えば、本明細書で提供される抗体または抗体様分子によって結合され得る標的分子、例えば、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、または他の分子である。ある特定の実施形態において、標的抗原は、細胞、例えば、腫瘍細胞の表面上に現れることができる。本明細書で使用される「腫瘍特異的抗原」は、少なくとも生物の発達の後期において、腫瘍細胞に特有の、タンパク質または他の細胞表面標的抗原である。本明細書で使用される場合、「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞に対して必ずしも固有ではないが、典型的には、正常な健康な細胞よりも腫瘍細胞上ではるかに豊富に及び/またはより高い密度で発現されるタンパク質または他の細胞表面標的抗原である。
【0058】
軽鎖と重鎖はともに、構造的相同性及び機能的相同性の領域に分類される。「定常」及び「可変」という用語は、機能的に使用される。軽鎖(VL)及び重鎖(VH)の両方の可変領域は、抗原認識及び特異性を決定する。逆に、軽鎖の定常領域(CL)及び重鎖の定常領域(例えば、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、及び/またはCH4)は、分子の柔軟性、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合などの生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域ドメインのナンバリングは、定常領域ドメインが抗体重鎖サブユニットの抗原結合部位またはアミノ末端からより遠位になるにつれて増加する。N末端側部分は可変領域(VH)であり、C末端側部分は定常領域であり、例えば、CH3及びテールピース(IgAの場合)またはCH4及びテールピース(IgMの場合)とCLドメインとは、それぞれ重鎖及び軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0059】
「全長IgM抗体重鎖」とは、N末端からC末端への方向に、抗体重鎖可変領域(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CM1またはCμ1)、抗体重鎖定常ドメイン2(CM2またはCμ2)、抗体重鎖定常ドメイン3(CM3またはCμ3)、及び抗体重鎖定常ドメイン4(CM4またはCμ4)を含み、テールピースをさらに含み得る、ポリペプチドである。
【0060】
「全長IgA抗体重鎖」とは、N末端からC末端への方向に、抗体重鎖可変領域(VH)、抗体定常重鎖定常ドメイン1(CA1またはCα1)、IgAヒンジ領域、抗体重鎖定常ドメイン2(CA2またはCα2)、及び抗体重鎖定常ドメイン3(CA3またはCα3)を含み、テールピースをさらに含み得る、ポリペプチドである。
【0061】
上記のように、可変領域(複数可)は、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子が、抗原上のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合するのを可能にする。すなわち、結合分子、例えば、抗体または抗体様分子のVLドメイン及びVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットは、抗原結合ドメインを形成するように組み合わされる。より具体的には、抗原結合ドメインは、VH鎖及びVL鎖の各々の上の3つのCDRによって定義することができる。ある特定の抗体は、より大きな構造を形成する。例えば、IgAは、2個のH2L2結合ユニット及びジスルフィド結合を介して共有結合したJ鎖を含む分子を形成することができ、この分子はさらに分泌構成要素と会合することができ、IgMは、5個または6個のH2L2結合ユニット及び、任意選択的に、ジスルフィド結合を介して共有結合したJ鎖を含む五量体または六量体の分子を形成することができる。
【0062】
抗体の抗原結合ドメイン内に存在する6個の「相補性決定領域」または「CDR」は、短い非連続的なアミノ酸配列であり、抗体が水性環境内で三次元構造を呈するときに抗原結合ドメインを形成するように特異的に配置される。抗原結合ドメイン内の残りのアミノ酸は、「フレームワーク」領域と呼ばれ、より小さい分子間可変性を示す。フレームワーク領域は主としてβシート立体構造を採用し、CDRは、βシート構造を接続するループを形成し、このループは場合によってはβシート構造の一部を形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間の非共有結合的相互作用によってCDRを正しい方向に配置するスキャフォールドを形成するように作用する。配置されたCDRによって形成された結合ドメインは、標的抗原上のエピトープに対し相補的な表面を定義する。この相補的表面は、抗体がその同族エピトープに対し非共有結合的に結合するのを促進する。それぞれ、CDR及びフレームワーク領域を構成するアミノ酸は、様々な異なる方法で定義されているため、当業者によって、任意の所与の重鎖または軽鎖可変領域について、容易に同定することができる(「Sequences of Proteins of Immunological Interest」Kabat,E.,et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983)、及びChothia and Lesk,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987)を参照されたく、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)
【0063】
当該技術分野内で使用される、及び/または受け入れられる用語の2つ以上の定義がある場合、本明細書で使用される用語の定義は、明示的に反対の記載がない限り、すべてのそのような意味を含むことを意図する。具体例は、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語を使用して、重鎖及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見出される非隣接抗原結合部位を説明することである。これらの特定の領域は、例えば、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”(1983)により及びChothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)により記載され、これらは参照により本明細書に組み込まれる。KabatとChothiaの定義には、互いに対して比較した場合のアミノ酸の重複またはサブセットが含まれる。それにもかかわらず、抗体またはそのバリアントのCDRを指す定義(または当業者に既知の他の定義)のいずれかの適用は、別段の指示がない限り、本明細書で定義及び使用される用語の範囲内にあることが意図される。上記の引用参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含する適切なアミノ酸を、比較として以下の表1に示す。特定のCDRを包含する正確なアミノ酸番号は、CDRの配列及びサイズによって異なる。当業者であれば、抗体の可変領域アミノ酸配列を与えられればどのアミノ酸が特定のCDRを構成するかを日常的に決定することができる。
【0064】
(表1)CDR定義
*
*表1中のすべてのCDR定義のナンバリングは、Kabat et al.(下記参照)によって定められたナンバリング規則に従う。
【0065】
また、抗体可変領域は、例えば、IMGT情報システム(imgt_dot_cines_dot_fr/)(IMGT(登録商標)/V-Quest)を用いて分析して、CDRを含めた可変領域セグメントを同定することもできる(例えば、Brochet et al.,Nucl.Acids Res.,36:W503-508,2008を参照されたい)。
【0066】
Kabat et al.は、任意の抗体に適用可能な可変領域及び定常領域配列のナンバリングシステムも定義した。当業者は、配列自体を超える任意の実験データに依存することなく、この「Kabatナンバリング」システムを任意の可変領域配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用される場合、「Kabatナンバリング」は、Kabat et al.U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequence of Proteins of Immunological Interest”(1983)により定められたナンバリングシステムを指す。ただし、Kabatナンバリングシステムの使用が明示的に述べられない限り、本開示におけるすべてのアミノ酸配列について連続したナンバリングが使用される。
【0067】
ヒトIgM定常ドメインに対するKabatナンバリングシステムは、Kabat,et.al.“Tabulation and Analysis of Amino acid and nucleic acid Sequences of Precursors,V-Regions,C-Regions,J-Chain,T-Cell Receptors for Antigen,T-Cell Surface Antigens,β-2 Microglobulins,Major Histocompatibility Antigens,Thy-1,Complement,C-Reactive Protein,Thymopoietin,Integrins,Post-gamma Globulin,α-2 Macroglobulins,and Other Related Proteins,” U.S.Dept.of Health and Human Services(1991)に見出すことができる。IgM定常領域は、連続的に(すなわち、アミノ酸1番が定常領域の第1のアミノ酸から開始する)、またはKabat付番方式を用いることによって付番され得る。ヒトIgM定常領域の2つのアレルの連続的なナンバリング(本明細書で配列番号1(アレルIGHM*03)及び配列番号2(アレルIGHM*04)として提示される)と、Kabatシステムによるナンバリングとの比較が下記に記載される。下線付きのアミノ酸残基は、Kabatシステムにおいては考慮されない(下記の二重下線付きの
は、セリン(S)(配列番号1)またはグリシン(G)(配列番号2)であり得る)。
【0068】
結合分子、例えば、抗体もしくは抗体様分子またはその抗原結合フラグメント、バリアント、もしくは誘導体、及び/あるいはその多量体化フラグメントとしては、限定されるものではないが、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト、ヒト化、またはキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合フラグメント、例えば、Fab、Fab’、及びF(ab’)2、Fd、Fvs、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VLまたはVHドメインのいずれかを含むフラグメント、Fab発現ライブラリーによって産生されたフラグメントが挙げられる。scFv分子は当技術分野で知られており、例えば、米国特許第5,892,019号に記載されている。
【0069】
「特異的に結合する」とは、概して、結合分子(例えば、抗体またはそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体)が、その抗原結合ドメインを介しエピトープに結合し、その結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間に何らかの相補性を伴うことを意味する。この定義によれば、結合分子、例えば抗体または抗体様分子は、その抗原結合ドメインを介して、ランダムな無関係のエピトープに結合するよりも容易にあるエピトープに結合する場合に、そのエピトープに対し「特異的に結合する」と言われる。「特異性」という用語は、本明細書では、ある特定の結合分子がある特定のエピトープに結合する相対的親和性を称するために使用される。例えば、結合分子「A」は、所与のエピトープに対して結合分子「B」よりも高い特異性を有するとみなすことができ、または結合分子「A」は、関連するエピトープ「D」に対するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言うことができる。
【0070】
結合分子、例えば、本明細書に開示される抗体またはそのフラグメント、バリアント、または誘導体は、5×10-2秒-1、10-2秒-1、5×10-3秒-1、10-3秒-1、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1または10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1または10-7秒-1以下のオフレート(k(off))で標的抗原に結合すると言うことができる。
【0071】
結合分子、例えば、本明細書で開示される抗体またはそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体は、標的抗原に対し、103M-1秒-1、5×103M-1秒-1、104M-1秒-1、5×104M-1秒-1、105M-1秒-1、5×105M-1秒-1、106M-1秒-1、または5×106M-1秒-1、または107M-1秒-1以上のオンレート(k(on))で結合すると言うことができる。
【0072】
結合分子、例えば、抗体またはそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体が、参照抗体または抗原結合フラグメントの所与のエピトープとの結合をある程度遮断する範囲において、そのエピトープに優先的に結合する場合、参照抗体または抗原結合フラグメントのそのエピトープとの結合を競合的に阻害すると言われる。競合的阻害は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイによって測定することができる。結合分子、例えば抗体は、参照抗体または抗原結合フラグメントの所与のエピトープとの結合を少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、または少なくとも50%競合的に阻害すると言うことができる。
【0073】
本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、個々のエピトープと、1つ以上の抗原結合ドメイン(例えば、免疫グロブリン分子の抗原結合ドメイン)との結合の強さの尺度を指す。例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)の27~28ページを参照されたい。抗原に対する抗原結合ドメイン、例えば、Fabフラグメントの親和性は、解離定数またはKDとして記載または特定することができる。KDは、抗体とその抗原との間のkoff/konの比である平衡解離定数である。KDと親和性は、反比例の関係にある。KD値が低いほど、抗体の親和性が高い。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書で提供される抗体は、解離定数またはKDが、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-4M、10-4M、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、または10-15M以下である。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供される抗体またはその抗原結合フラグメントは、より高い密度で標的抗原を発現する細胞、例えば、腫瘍細胞上で腫瘍関連抗原を発現する細胞に対し選択性の向上を有する。「選択性の向上」とは、提供される結合分子、例えば、抗体が、抗原を同様に発現する他の細胞よりもより高い密度で事前選択された標的抗原を発現する標的細胞に結合することを意味する。例えば、腫瘍細胞または悪性細胞は、多くの場合、正常で健康な細胞でも発現する腫瘍関連抗原を発現するが、腫瘍細胞は、正常な細胞よりもはるかに高いレベルまたはより高い密度で標的抗原を発現する。選択性の向上を得るために、結合分子、例えば、本明細書に提供される抗体は、既知の単量体二価参照抗体の等価抗原結合ドメインよりも所定の標的抗原に対する親和性が低い、すなわち、より高いKDを有する、2個を超える抗原結合ドメイン、例えば、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12個の抗原結合ドメインを有するように修飾することができる。例えば、正常な健康な細胞と比べて腫瘍細胞に対する選択性が向上したIgAまたはIgM抗体は、2個を超える抗原結合ドメイン、例えば、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12個の抗原結合ドメインを有することができ、所定の標的抗原に結合する既知の単量体二価抗体の抗原結合ドメインのKDよりも、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、少なくとも10,000倍、またはそれ以上大きいKDを含む。
【0074】
本明細書で使用する場合、「アビディティー」という用語は、抗原結合ドメイン集団と抗原との間における複合体、または抗原の複合体の全体的安定性を指す。例えば、Harlowの29~34ページを参照されたい。アビディティーは、特定のエピトープを有する集団内の個々の抗原結合ドメインの親和性と、さらに免疫グロブリン及び抗原の結合価との両方に関連する。例えば、10価IgM抗体は、同等の結合親和性を有する抗原結合ドメインを有する二価IgG抗体よりも高いアビディティーで抗原に結合するであろう。アビディティーは抗原の影響も受ける可能性があり、例えば、二価のIgG抗体と、高度に反復するエピトープ構造(例えば、ポリマー)との間の相互作用は、高いアビディティーの1つになる。二価,四価、もしくは10価の抗体と、細胞表面に高密度で存在する受容体との間の相互作用も、高いアビディティーを有する。抗体が、細胞の表面上に存在する標的抗原、例えば、腫瘍細胞上の腫瘍特異的または腫瘍関連抗原に結合する場合、以下の少なくとも3つのレバーがアビディティーに影響を与える可能性がある:(a)抗体の価数、例えば、二価のIgG抗体は、等価な抗原結合ドメインを有する10価のIgM抗体とは異なるアビディティーを有するであろう、(b)抗体の個々の抗原結合ドメイン、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個の抗原結合ドメインの親和性の増加または減少、及び/または(c)細胞の表面の標的抗原の密度、例えば、高密度で腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞と低密度で標的抗原を発現する正常な健康細胞との間の差異。本開示は、レバー(a)及び(b)を操作して、標的抗原を高密度で発現する疾患細胞と、標的抗原を低密度で発現する正常細胞との選択性の向上を提供することができる抗体を提供する。
【0075】
本明細書で開示される結合分子、例えば、抗体または抗体様分子もまた、それらの交差反応性の観点からも説明または特定することができる。本明細書で使用する場合、「交差反応性」という用語は、ある抗原に特異的な結合分子(例えば、抗体またはそのフラグメント、バリアント、もしくは誘導体)が第2の抗原と反応する能力を指し、2つの異なる抗原物質間の関連性の尺度である。したがって、結合分子は、その形成を誘導したエピトープ以外のエピトープに結合する場合、交差反応性である。交差反応性エピトープは、一般に、誘導性エピトープと同じ相補的構造特徴の多くを含有し、場合によっては、実際には元のものよりも良好に適合することができる。
【0076】
一本鎖抗体または他の結合ドメインを含めた「抗原結合抗体フラグメント」は、単独で、または以下:ヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、もしくはCH4ドメイン、J鎖、または分泌構成要素、のうちの1つ以上と組み合わせて存在する場合もある。また、可変領域(複数可)と、ヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、もしくはCH4ドメイン、J鎖、または分泌構成要素のうちの1つ以上との任意の組み合わせを含むことができる抗原結合フラグメントも含まれる。結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、鳥及び哺乳動物を含めた任意の動物起源からのものとすることができる。抗体は、例えば、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、クマまたはニワトリの抗体であり得る。別の実施形態では、可変領域は、(例えば、サメからの)コンドリクトイド(condricthoid)起源であり得る。本明細書で使用される場合、「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーから単離された抗体または1つ以上のヒト免疫グロブリン遺伝子導入動物から単離された抗体を含み、場合によっては、内因性免疫グロブリンを発現することができ、場合によっては、以下に記載するように、例えば、Kucherlapati et alによる米国特許第5,939,598号に記載されているように、内因性免疫グロブリンを発現することができない。本開示の実施形態によれば、IgMもしくはIgM様抗体、IgAもしくはIgA様抗体、または本明細書で提供されるIgMもしくはIgA由来結合分子は、それが多量体、例えば、二量体、六量体、または五量体を形成することができる限り、抗体の抗原結合フラグメント、例えば、ScFvフラグメントを含むことができる。
【0077】
本明細書で使用する場合、「重鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖サブユニットは、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中部、及び/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、テールピース(tp)、またはそれらのバリアントもしくはフラグメントのうちの少なくとも1つを含み得る。さらに、重鎖サブユニットは、ある特定の定常領域部分、例えば、CH1ドメイン及び/またはCH2ドメインの全部または一部が欠如している可能性がある。これらのドメイン(例えば、重鎖サブユニット)は、元の重鎖サブユニットからアミノ酸配列が変化するように修飾することができる。本開示の実施形態によれば、本明細書に提供されるIgMまたはIgM様重鎖、またはIgAまたはIgA様重鎖を含む多量体結合分子は、結合分子が多量体、例えば、二量体、六量体、または五量体を形成することを可能にするために、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様重鎖定常領域(複数可)の十分な部分を含み、例えば、重鎖定常領域は、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様重鎖定常領域の「多量体化フラグメント」を含む。
【0078】
本明細書で使用する場合、「軽鎖サブユニット」という用語は、免疫グロブリン軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。軽鎖サブユニットは少なくともVLを含み、さらに、CL(例えば、CκまたはCλ)ドメインを含むことができる。
【0079】
結合分子(例えば、抗体、抗体様分子、その抗原結合フラグメント、バリアント、もしくは誘導体、またはその多量体化フラグメント)は、結合分子が認識または特異的に結合する抗原のエピトープ(複数可)または一部(複数可)の観点から説明または特定することができる。抗体の抗原結合ドメインと特異的に相互作用する標的抗原の一部は、「エピトープ」または「抗原決定基」である。標的抗原は、単一のエピトープまたは少なくとも2個のエピトープを含むことができ、抗原のサイズ、立体構造、及びタイプに応じて、任意の数のエピトープを含むことができる。
【0080】
本明細書で使用する場合、「ヒンジ領域」という用語は、IgG、IgA、及びIgDの重鎖においてCH1ドメインをCH2ドメインに連結する重鎖分子の一部を含む。このヒンジ領域は約25個のアミノ酸を含み、柔軟性を有し、これにより、2個のN末端抗原結合領域が独立して動くことが可能である。
【0081】
本明細書中で使用する場合、「ジスルフィド結合」という用語は、2個の硫黄原子間に形成された共有結合を含む。アミノ酸システインはチオール基を含み、このチオール基によって第2のチオール基とのジスルフィド結合または架橋が形成され得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応領域または部位が第1の種から得られるかまたは誘導され、定常領域(無傷、部分的、または修飾され得る)が第2の種から得られる抗体を指す。いくつかの実施形態において、標的結合領域または部位は、非ヒト供給源(例えば、マウスまたは霊長類)に由来し、定常領域はヒトのものである。
【0083】
「多重特異性抗体」または「二重特異性抗体」という用語は、単一の抗体分子内の、2つ以上の異なるエピトープに対する抗原結合ドメインを有する抗体または抗体様分子を指す。カノニカルな抗体構造に追加される他の結合分子は、2つの結合特異性を用いて構築され得る。
【0084】
本明細書で使用する場合、「操作抗体」という用語は、重鎖及び軽鎖のいずれかまたは両方の可変領域が、CDR内またはフレームワーク領域内いずれかの1つ以上のアミノ酸の少なくとも部分的な置換によって変更されている抗体を指す。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供される抗体は、既知の参照抗体、例えば、承認された治療抗体または開発中の治療抗体の親和性よりも標的抗原に対して低減した親和性を有するように操作され得る。ある特定の実施形態では、既知の特異性の抗体からのCDR全体を、異種抗体のフレームワーク領域に移植することができる。代替のCDRは、フレームワーク領域が由来する抗体と同じクラスまたはサブクラスの抗体から誘導し得るが、CDRは、異なるクラスの抗体、例えば異なる種からの抗体からも誘導することができる。既知の特異性を有する非ヒト抗体からの1つ以上の「ドナー」CDRがヒト重鎖または軽鎖フレームワーク領域に移植される操作抗体は、本明細書では「ヒト化抗体」と呼ばれる。ある特定の態様では、すべてのCDRがドナー可変領域からの完全なCDRで置き換えられるわけではないが、それでもドナーの抗原結合能力をレシピエントの可変ドメインに移行させることができる。例えば、米国特許第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,762号、及び第6,180,370号に記載の説明を考慮すれば、これは十分に当業者の技能範囲内であり、日常的な実験を行うことにより、または試行錯誤試験により、機能的操作された抗体またはヒト化抗体が得られる。
【0085】
本明細書で使用される場合、「操作された」という用語は、合成手段による核酸またはポリペプチド分子の操作(例えば、組換え技術、インビトロペプチド合成、ペプチド、核酸、またはグリカンの酵素的または化学的カップリング、またはこれらの技術のいくつかの組み合わせによる)を含む。
【0086】
本明細書で使用する場合、「結合」、「融合された」、もしくは「融合」という用語、または他の文法上の同等物は、互換的に使用することができる。これらの用語は、化学的コンジュゲーションまたは組換え手段を含むあらゆる手段による、2つ以上の要素、または構成要素が一緒に結合することを指す。「インフレーム融合」は、2つ以上のポリヌクレオチドオープンリーディングフレーム(ORF)を、元のORFの翻訳的リーディングフレームを維持する方法で、結合して連続したより長いORFを形成することを指す。したがって、組換え融合タンパク質は、元のORFによってコードされるポリペプチドに対応する2つ以上のセグメントを含有する単一のタンパク質である(これらのセグメントは、通常、自然界ではそれほど結合されない)。したがって、リーディングフレームは、融合セグメント全体にわたって連続して作製されるが、セグメントは、例えば、インフレームリンカー配列によって物理的または空間的に分離され得る。例えば、免疫グロブリン可変領域のCDRをコードするポリヌクレオチドは、インフレームで融合することができるが、「融合」CDRが連続的なポリペプチドの一部として同時翻訳される限り、少なくとも1個の免疫グロブリンフレームワーク領域または追加のCDR領域をコードするポリヌクレオチドによって分離することができる。
【0087】
ポリペプチドの文脈において、「線状配列」または「配列」とは、アミノ末端からカルボキシル末端への方向におけるポリペプチド内のアミノ酸の順序であり、配列内で隣り合ったアミノ酸は、ポリペプチドの一次構造内で連続している。ポリペプチドの別の部分に対し「アミノ末端側」または「N末端側」であるポリペプチドの部分は、連続したポリペプチド鎖の先に現れる部分である。同様に、ポリペプチドの別の部分に対し「カルボキシ末端側」または「C末端側」であるポリペプチドの部分は、連続したポリペプチド鎖内で後に現れる部分である。例えば、典型的な抗体において、可変領域は、定常領域に対して「N末端」であり、定常領域は、可変領域に対して「C末端」である。
【0088】
本明細書で使用する場合、「発現」という用語は、遺伝子が生化学物質、例えばポリペプチドをもたらすプロセスを指す。このプロセスは、遺伝子ノックダウン、ならびに一過性発現及び安定した発現の両方を含むが、これらに限定されない、細胞内の遺伝子の機能的存在の任意の発現を含む。これには、限定されるものではないが、遺伝子のRNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))への転写、及びこのようなmRNAのポリペプチド(複数可)への翻訳が含まれる。最終的な所望の産物が生化学的である場合、発現は、その生化学的及び任意の前駆体の作製を含む。遺伝子の発現は「遺伝子産物」を産生する。本明細書で使用される場合、遺伝子産物は、核酸、例えば、遺伝子の転写によって産生されるメッセンジャーRNA、または転写産物から翻訳されるポリペプチドのいずれかであり得る。本明細書に記載される遺伝子産物にはさらに、転写後修飾(例えば、ポリアデニル化)を有する核酸、または翻訳後修飾(例えば、メチル化、グリコシル化、脂質の付加、他のタンパク質サブユニットとの会合、タンパク質分解切断など)を有するポリペプチドが含まれる。
【0089】
「治療する」もしくは「治療」もしくは「治療すること」、または「緩和する」もしくは「緩和すること」などの用語は、既存の診断された疾患、病的状態または障害の、その症状を治癒する、減速する、軽減する、及び/またはその進行を停止もしくは減速する治療的措置を指す。「防止する」、「防止」、「回避する」、「阻止」などといった用語は、診断されていない標的とされる疾患、病的状態または障害の発症を防止する予防的または防止的措置を指す。したがって、「治療を必要とする対象」には、障害を既に有する対象、障害を起こし易い対象、及び障害が防止されるべきである対象が含まれる。
【0090】
本明細書で使用する場合、「血清半減期」または「血漿半減期」という用語は、投与後に、タンパク質または薬物(例えば、本明細書に記載の抗体または抗体様分子などの結合分子)の血清中または血漿中濃度が50%低下するのにかかる時間(例えば、分、時間、または日単位)を指す。下記の2つの半減期が説明され得る:中央コンパートメント(例えば、静脈内送達の場合は血液)から末梢コンパートメント(例えば、組織または臓器)への薬物の再分配プロセスに起因する血漿中濃度の低下速度である、アルファ半減期もしくはα半減期、またはt1/2α、及び排泄または代謝プロセスに起因する低下速度である、ベータ半減期もしくはβ半減期、またはt1/2β。
【0091】
本明細書で使用される場合、「薬物血漿中濃度時間曲線下面積」または「AUC」という用語は、ある用量の薬物の投与後の薬物への実際の身体曝露を反映し、mg*h/Lで表される。この曲線下面積は、時間0(t0)から無限大(∞)まで測定され、体内からの薬物の排除速度及び投与量に依存する。
【0092】
本明細書で使用する場合、「平均滞留時間」または「MRT」という用語は、薬物が体内に留まる平均的な時間の長さを指す。
【0093】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳類」とは、診断、予後、または治療が所望される任意の対象、特に哺乳類対象を意味する。哺乳類対象には、ヒト、飼育動物、家畜、及び動物園、スポーツ、または愛玩動物、例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ブタ、ウシ、クマなどが含まれる。
【0094】
本明細書で使用する場合、「療法から利益を得る対象」及び「治療を必要とする動物」のような表現は、所与の治療薬、例えば1つ以上の抗原結合ドメインを含む結合分子(例えば、抗体または抗体様分子)の投与から利益を得るであろう、すべての予期的対象の中からの対象のサブセットを指す。このような結合分子(例えば、抗体または抗体様分子)は、例えば、診断手順及び/または疾患の治療もしくは防止のために使用することができる。
【0095】
IgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来結合分子
IgMは、抗原による刺激に応答してB細胞によって産生される第1の免疫グロブリンであり、血清中におよそ1.5mg/mlで自然に存在し、半減期は約5日である。IgMは、五量体または六量体分子であり、したがって、5個または6個の結合ユニットが含まれる。IgM結合ユニットは通常、2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む。IgG重鎖定常領域には3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を含むが、IgMの重(μ)定常領域にはさらに、第4の定常ドメイン(CH4)を含み、C末端側の「テールピース」(tp)が含まれる。いくつかのヒト対立遺伝子が存在するが、ヒトIgM定常領域は典型的には、アミノ酸配列番号1(IMGT対立遺伝子IGHM*03、例えばGenBankアクセッション番号pir||S37768と同一)または配列番号2(IMGT対立遺伝子IGHM*04、例えばGenBankアクセッション番号sp|P01871.4と同一)を含む。ヒトCμ1領域は、配列番号1または配列番号2のおよそアミノ酸5からおよそアミノ酸102の範囲にあり、ヒトCμ2領域は、配列番号1または配列番号2のおよそアミノ酸114からおよそアミノ酸205の範囲にあり、ヒトCμ3領域は、配列番号1または配列番号2のおよそアミノ酸224からおよそアミノ酸319の範囲にあり、Cμ4領域は、配列番号1または配列番号2のおよそアミノ酸329からおよそアミノ酸430の範囲にあり、テールピースは、配列番号1または配列番号2のおよそアミノ酸431からおよそアミノ酸453の範囲にある。
【0096】
わずかな配列変異を有するヒトIgM定常領域の他の形態が存在し、これには、GenBankアクセッション番号No.CAB37838.1及びpir||MHHUが含まれるが、これらに限定されない。本開示の他の箇所に記載され、特許請求される配列番号1または配列番号2に対応する位置におけるアミノ酸置換、挿入、及び/または欠失は、同様に、代替のヒトIgM配列、ならびに他の種のIgM定常領域アミノ酸配列に組み込むことができる。
【0097】
各IgM重鎖定常領域は、抗原結合ドメイン、例えば、scFvまたはVHH、または抗原結合ドメインのサブユニット、例えば、VH領域と会合することができる。
【0098】
5個のIgM結合ユニットは、追加の小さなポリペプチド鎖(J鎖またはその機能的フラグメント、バリアント、または誘導体)と複合体を形成して、10個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを有する五量体IgM抗体またはIgM様抗体を形成することができる。ヒトJ鎖の前駆体型では、シグナルペプチド(下線)は配列番号6のアミノ酸1から約22まで、成熟ヒトJ鎖は配列番号6のアミノ酸23から約159まで延びる。成熟ヒトJ鎖は、配列番号42のアミノ酸配列を有する。
【0099】
例示的なバリアント及び修飾J鎖は、本明細書の他の場所に提供されている。J鎖がない場合、IgM抗体またはIgM様抗体は、典型的には、6個の結合ユニット及び最大12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを含む六量体に組み立てられる。J鎖を有する場合、IgM抗体またはIgM様抗体は、典型的には、5個の結合ユニット及び最大10個の結合ユニット関連抗原結合ドメイン、またはJ鎖が1つ以上の異種ポリペプチドを含む修飾J鎖である場合(例えば、J鎖関連抗原結合ドメイン(複数可)であり得る)、それ以上を含む五量体に組み立てられる。五量体または六量体IgM抗体またはIgM様抗体への5個または6個のIgM結合ユニットの組み立ては、5個または6個の結合ユニットのCμ4とテールピースドメインとの間の相互作用を伴うと考えられる。例えば、Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)を参照されたい。したがって、本開示において提供される五量体または六量体IgM抗体または抗体様分子の定常領域は、典型的には、少なくともCμ4及び/またはテールピースドメイン(本明細書ではまとめてCμ4-tpとも称される)を含む。したがって、IgM重鎖定常領域の「多量体化フラグメント」は、少なくともCμ4-tpドメインを含む。IgM重鎖定常領域はさらに、Cμ3ドメインもしくはそのフラグメント、Cμ2ドメインもしくはそのフラグメント、Cμ1ドメインもしくはそのフラグメントを含むことができる。ある特定の実施形態において、結合分子、例えば、IgM抗体またはIgM様抗体は、完全なIgM重(μ)鎖定常ドメイン(例えば、配列番号1または配列番号2)、またはそのバリアント、誘導体、もしくは類似体(例えば本明細書に提供されるもの)を含み得る。
【0100】
ある特定の実施形態において、本開示は、5個の二価結合ユニットを含む五量体IgMまたはIgM様抗体を提供し、各結合ユニットは、それぞれが抗原結合ドメインまたは抗原結合ドメインのサブユニットに関連する2個のIgM重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、2つのIgM重鎖定常領域は、ヒト重鎖定常領域である。
【0101】
本明細書で提供されるIgMまたはIgM様抗体が五量体である場合、IgMまたはIgM様抗体は、典型的には、J鎖、またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む。ある特定の実施形態において、J鎖は、例えば、標的、例えば、免疫エフェクター細胞(例えば、CD8+細胞傷害性T細胞またはNK細胞)に特異的に結合するJ鎖関連抗原結合ドメインを含む修飾J鎖であり得る。ある特定の実施形態では、修飾J鎖は、それに結合した1つ以上の異種部分、例えば、免疫刺激剤をさらに含み得る。ある特定の実施形態では、J鎖は、本明細書の他の箇所で論じられるように、本明細書に提供されるIgMまたはIgM様抗体の血清半減期に影響を及ぼす、例えば、増強するように変異され得る。ある特定の実施形態では、J鎖は、本開示の別の箇所で論じられるように、グリコシル化に影響を及ぼすように変異させることができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、多量体結合分子は六量体であり、6個の二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は、六量体であり、6個の二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含み、各結合ユニットは、2つのIgM重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。
【0103】
IgM重鎖定常領域は、Cμ1ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、Cμ2ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、Cμ3ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、Cμ4ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、及び/またはテールピース(tp)もしくはそのフラグメントもしくはバリアントのうちの1つ以上を含むことができるが、ただし、定常領域は、IgMまたはIgM様抗体において所望の機能を果たすことができ、例えば、第2のIgM定常領域と会合して、1つ、2つ、または複数の抗原結合ドメイン(複数可)を有する結合ユニットを形成し、かつ/または他の結合ユニット(五量体の場合、J鎖)と会合して、六量体または五量体を形成することができる。ある特定の態様では、個々の結合ユニット内の2つのIgM重鎖定常領域またはそのフラグメントもしくはバリアントはそれぞれ、Cμ4ドメインまたはそのフラグメントもしくはバリアント、テールピース(tp)またはそのフラグメントもしくはバリアント、あるいはCμ4ドメイン、tp、またはそれらのフラグメントもしくはバリアントの任意の組み合わせを含む。ある特定の実施形態では、個々の結合ユニット内の2つのIgM重鎖定常領域もしくはそのフラグメントもしくはバリアントは、それぞれ、Cμ3ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、Cμ2ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、Cμ1ドメインもしくはそのフラグメントもしくはバリアント、またはこれらの任意の組み合わせをさらに含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、IgMまたはIgM様抗体の結合ユニットは2つの軽鎖を含む。いくつかの実施形態では、IgMまたはIgM様抗体の結合ユニットは、軽鎖の2つのフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、軽鎖は、カッパ軽鎖である。いくつかの実施形態では、軽鎖は、ラムダ軽鎖である。いくつかの実施形態では、各結合ユニットは、2つの免疫グロブリン軽鎖を含み、それぞれが、免疫グロブリン軽鎖定常領域のアミノ末端に位置するVLを含む。
【0105】
血清半減期が延長されたIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来結合分子
本明細書に提供されるような特定のIgM由来結合分子は、血清半減期を延長するように改変することができる。IgM由来結合分子の延長し得る例示的なIgM重鎖定常領域変異は、PCT公開第WO2019/169314号に開示され、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例えば、明細書に提供されるようなIgM由来結合分子のバリアントIgM重鎖定常領域は、野生型ヒトIgM定常領域(例えば、配列番号1または配列番号2)のアミノ酸S401、E402、E403、R344、及び/またはE345に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含み得る。「野生型ヒトIgM定常領域のアミノ酸S401、E402、E403、R344、及び/またはE345に対応するアミノ酸」とは、ヒトIgM定常領域におけるS401、E402、E403、R344、及び/またはE345に相同である、任意の種のIgM定常領域の配列におけるアミノ酸を意味する。ある特定の実施形態では、配列番号1または配列番号2のS401、E402、E403、R344、及び/またはE345に対応するアミノ酸は、任意のアミノ酸、例えば、アラニンで置換され得る。
【0106】
CDC活性が低下したIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来結合分子
本明細書で提供されるある特定のIgM由来多量体結合分子は、参照IgM抗体または対応する参照ヒトIgM定常領域が同一であるIgM様抗体と比較して、補体の存在下での細胞に対する補体依存性細胞傷害性(CDC)活性の低下を示すように操作することができるが、CDC活性の低下を与える変異は除かれる。これらのCDC変異は、本明細書に提供されるように、血清半減期の増加を付与するために、任意の変異と組み合わせることができる。「対応する野生型ヒトIgM定常領域」とは、CDC活性に影響を及ぼす定常領域における修飾(単数または複数)を除いて、バリアントIgM定常領域と同一であるヒトIgM定常領域またはその一部、例えばCμ3ドメインを意味する。ある特定の実施形態において、バリアントヒトIgM定常領域は、例えば、PCT公開第WO/2018/187702号(これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、野生型ヒトIgM定常領域と比べて、例えばCμ3ドメインにおいて、1つ以上のアミノ酸置換を含む。CDCを測定するためのアッセイが当業者に周知されており、例示的なアッセイが、例えば、PCT公開第WO/2018/187702号に記載されている。
【0107】
ある特定の実施形態では、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1(ヒトIgM定常領域対立遺伝子IGHM*03)または配列番号2(ヒトIgM定常領域対立遺伝子IGHM*04)のL310、P311、P313、及び/またはK315位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアミノ酸置換を含む。ある特定の実施形態では、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のP311位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアミノ酸置換を含む。他の実施形態では、本明細書で提供するバリアントIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のP313位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアミノ酸置換を含む。他の実施形態では、本明細書で提供するバリアントIgM定常領域は、配列番号1及び/または配列番号2のP311位及び配列番号1または配列番号2のP313位で野生型ヒトIgM定常領域に対応する置換の組み合わせを含む。これらのプロリン残基は、任意のアミノ酸、例えば、アラニン、セリン、またはグリシンで独立して置換され得る。ある特定の実施形態では、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のK315位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアミノ酸置換を含む。リジン残基は、任意のアミノ酸、例えば、アラニン、セリン、グリシン、またはアスパラギン酸で独立して置換され得る。ある特定の実施形態では、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のK315位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアスパラギン酸によるアミノ酸置換を含む。ある特定の実施形態において、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のL310位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアミノ酸置換を含む。このリジン残基は、任意のアミノ酸、例えば、アラニン、セリン、グリシン、またはアスパラギン酸で独立して置換され得る。ある特定の実施形態では、CDC活性の低下を与えるバリアントヒトIgM定常領域は、配列番号1または配列番号2のL310位で野生型ヒトIgM定常領域に対応するアスパラギン酸によるアミノ酸置換を含む。
【0108】
ヒトIgM定常領域、及び特定の非ヒト霊長類IgM定常領域は、典型的には、5個の天然アスパラギン(N)-結合型グリコシル化モチーフまたは部位を含む。本明細書で使用する場合、「N-結合型グリコシル化モチーフ」は、アミノ酸配列N-X1-S/Tを含むか、またはそれからなり、ここで、Nはアスパラギンであり、X1は、プロリン(P)を除く任意のアミノ酸であり、S/Tはセリン(S)またはトレオニン(T)である。グリカンは、アスパラギン残基の窒素原子に付着している。例えば、Drickamer K,Taylor ME(2006),Introduction to Glycobiology(2nd ed.).Oxford University Press,USAを参照されたい。N-結合型グリコシル化モチーフは、配列番号1または配列番号2のヒトIgM重鎖定常領域において生じ、46位(「N1」)、209位(「N2」)、272位(「N3」)、279位(「N4」)、及び440位(「N5」)で開始する。これらの5個のモチーフは、非ヒト霊長類IgM重鎖定常領域において保存されており、5個のうちの4個は、マウスIgM重鎖定常領域において保存されている。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に提供される多量体結合分子のIgM重鎖定常領域は、5個のN-結合型グリコシル化モチーフ:N1、N2、N3、N4、及びN5を含む。いくつかの実施形態では、各IgM重鎖定常領域上のN-結合グリコシル化モチーフのうちの少なくとも3つ(例えば、N1、N2、及びN3)は、複合体グリカンによって占有される。
【0109】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つのN-X1-S/Tモチーフは、そのモチーフにおけるグリコシル化を防止するアミノ酸の挿入、欠失、または置換を含み得る。ある特定の実施形態では、IgM由来の多量体結合分子は、モチーフN1、モチーフN2、モチーフN3、モチーフN5、またはモチーフN1、N2、N3、もしくはN5のうちの2つ以上、3つ以上、もしくは4つすべての任意の組み合わせにおけるアミノ酸の挿入、欠失、もしくは置換を含むことができ、アミノ酸の挿入、欠失、もしくは置換は、そのモチーフにおけるグリコシル化を防止する。いくつかの実施形態では、IgM定常領域は、配列番号1(ヒトIgM定常領域対立遺伝子IGHM*03)または配列番号2(ヒトIgM定常領域対立遺伝子IGHM*04)の46、209、272、または440位で野生型ヒトIgM定常領域に対して1つ以上の置換を含む。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国仮出願第62/891,263号を参照されたい。
【0110】
IgA抗体、IgA様抗体、及びIgA由来結合分子
IgAは粘膜免疫において決定的な役割を担っており、産生される総免疫グロブリンの約15%を構成する。IgAは、単量体であっても多量体であってもよく、主に二量体分子を形成するが、三量体、四量体、及び/または五量体としても組み立てることができる。例えば、de Sousa-Pereira,P.,and J.M.Woof,Antibodies 8:57(2019)を参照されたい。
【0111】
いくつかの実施形態では、多量体結合分子は二量体であり、2つの二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は二量体であり、2つの二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含み、本明細書に記載のJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は二量体であり、2つの二価結合ユニットまたはそのバリアントまたはフラグメントを含み、本明細書に記載のJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含み、各結合ユニットは2つのIgA重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、多量体結合分子は四量体であり、4つの二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は四量体であり、4つの二価結合ユニットまたはそのバリアントもしくはフラグメントを含み、本明細書に記載のJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は四量体であり、4つの二価結合ユニットまたはそのバリアントまたはフラグメントを含み、本明細書に記載のJ鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含み、各結合ユニットは2つのIgA重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。
【0113】
特定の実施形態では、本開示によって提供される多量体結合分子は、IgA重鎖定常領域、またはその多量体化フラグメントを含む二量体結合分子であり、それぞれ、結合ユニット関連抗原結合ドメインと会合して、合計4つの結合ユニット関連抗原結合ドメインである。本明細書で提供される場合、IgA抗体、IgA由来結合分子、またはIgA様抗体は、2つの結合ユニット及びJ鎖、例えば、本明細書の他の箇所に記載される修飾J鎖を含む。提供される各結合ユニットは、2つのIgA重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、多量体結合分子の少なくとも3つまたは4つすべての結合ユニット関連抗原結合ドメインは、同じ標的抗原に結合する。ある特定の実施形態では、多量体結合分子の少なくとも3つまたは4つすべての結合ユニット関連抗原結合ドメインは、同一である。
【0114】
二価IgA由来結合ユニットは、2つのIgA重鎖定常領域を含み、二量体IgA由来結合分子は、典型的には、2つの結合ユニットを含む。IgAには、次の重鎖定常ドメイン、Cα1(またはその代わりにCA1もしくはCH1)、ヒンジ領域、Cα2(またはその代わりにCA2もしくはCH2)、及びCα3(またはその代わりにCA3もしくはCH3)、ならびにC末端の「テールピース」を含有する。ヒトIgAは2つのサブタイプ、IgA1及びIgA2を有する。ヒトIgA1定常領域は、典型的には、配列番号3のアミノ酸配列を含む。ヒトCα1ドメインは配列番号3の約アミノ酸6から約アミノ酸98まで延びており、ヒトIgA1ヒンジ領域は配列番号3の約アミノ酸102から約アミノ酸124まで延びており、ヒトCα2ドメインは配列番号3の約アミノ酸125から約アミノ酸219まで延びており、ヒトCα3ドメインは配列番号3の約アミノ酸228から約アミノ酸330まで延びており、テールピースは配列番号3の約アミノ酸331から約アミノ酸352まで延びている。ヒトIgA2定常領域は、典型的には、配列番号4のアミノ酸配列を含む。ヒトCα1ドメインは配列番号4の約アミノ酸6から約アミノ酸98まで延びており、ヒトIgA2ヒンジ領域は配列番号4の約アミノ酸102から約アミノ酸111まで延びており、ヒトCα2ドメインは配列番号4の約アミノ酸113から約アミノ酸206まで延びており、ヒトCα3ドメインは配列番号4の約アミノ酸215から約アミノ酸317まで延びており、テールピースは配列番号4の約アミノ酸318から約アミノ酸340まで延びている。
【0115】
2つのIgA結合ユニットが、2つの追加のポリペプチド鎖、J鎖(配列番号42)、及び分泌成分(前駆体:配列番号5、成熟:配列番号5のアミノ酸19から603)と複合体を形成して、本明細書に提供されるような二価の分泌型IgA(sIgA)由来結合分子を形成することができる。2つのIgA結合ユニットが集合して二量体IgA由来結合分子を形成することには、Cα3ドメイン及びテールピースドメインが関与すると考えられている。例えば、Braathen,R.,et al.,J.Biol.Chem.277:42755-42762(2002)を参照されたい。したがって、この開示に提供される多量体化二量体IgA由来結合分子は、典型的には、少なくともCα3ドメイン及びテールピースドメインを含むIgA定常領域を含む。4つのIgA結合ユニットも同様に、J鎖と四量体複合体を形成することができる。sIgA抗体はまた、より高次の多量体、例えば、四量体として形成することもできる。
【0116】
IgA重鎖定常領域は、Cα2ドメインもしくはそのフラグメント、IgAヒンジ領域もしくはそのフラグメント、Cα1ドメインもしくはそのフラグメント、及び/または、他のIgA(または他の免疫グロブリン、例えばIgG)重鎖ドメイン(例えばIgGヒンジ領域を含む)を追加的に含み得る。ある特定の実施形態では、本明細書に提供されるような結合分子は、完全なIgA重(α)鎖定常ドメイン(例えば、配列番号3または配列番号4)、またはそのバリアント、誘導体、もしくは類似体を含み得る。いくつかの実施形態では、IgA重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントは、ヒトIgA定常領域である。
【0117】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供されるような多量体結合分子の各結合ユニットは、それぞれが少なくともIgACα3ドメイン及びIgAテールピースドメインを含む、2つのIgAもしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、IgAまたはIgA重鎖定常領域は各々、IgA Cα3ドメイン及びIgAテールピースドメインのN末端側に位置するIgA Cα2ドメインをさらに含み得る。例えば、IgA重鎖定常領域は、配列番号3のアミノ酸125から353、または配列番号4のアミノ酸113から340を含み得る。ある特定の実施形態では、IgAまたはIgA重鎖定常領域は各々、IgA Cα2ドメインのN末端側に位置するIgAまたはIgGヒンジ領域をさらに含み得る。例えば、IgA重鎖定常領域は、配列番号3のアミノ酸102から353、または配列番号4のアミノ酸102から340を含み得る。ある特定の実施形態では、IgAまたはIgA様重鎖定常領域は各々、IgAヒンジ領域のN末端側に位置するIgA Cα1ドメインをさらに含み得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、IgA抗体、IgA様抗体、または他のIgA由来結合分子の各結合ユニットは、2つの軽鎖を含む。いくつかの実施形態では、IgA抗体、IgA様抗体、または他のIgA由来結合分子の各結合ユニットは、2つのフラグメント軽鎖を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖は、カッパ軽鎖である。いくつかの実施形態では、軽鎖は、ラムダ軽鎖である。いくつかの実施形態では、軽鎖は、キメラカッパラムダ軽鎖である。いくつかの実施形態では、各結合ユニットは、2つの免疫グロブリン軽鎖を含み、それぞれが、免疫グロブリン軽鎖定常領域のアミノ末端に位置するVLを含む。
【0119】
修飾J鎖及び/またはバリアントJ鎖
ある特定の実施形態では、本明細書で提供する多量体結合分子は、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供される多量体結合分子は、五量体であり、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供する多量体結合分子は、二量体IgA分子または五量体IgM分子であり、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含む。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は、成熟ヒトJ鎖配列(例えば、配列番号42)などの天然に存在するJ鎖配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、多量体結合分子は、天然に存在するまたはバリアントJ鎖の機能的フラグメントを含むことができる。
【0120】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される、五量体のIgMまたはIgM様抗体、または二量体のIgAまたはIgA様抗体のJ鎖は、IgMまたはIgM様抗体、またはIgAまたはIgA様抗体が集合して、その結合標的(複数可)に結合する能力を妨げることなく、例えば、異種部分、または2つ以上の異種部分、例えば、ポリペプチドの導入によって修飾され得る。各々が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第9,951,134号及び第10,618,978号、ならびに米国特許出願公開第US-2019-0185570号を参照されたい。したがって、二重特異性もしくは多重特異性IgMもしくはIgM様抗体、またはIgAもしくはIgA様抗体を含む、本明細書に提供されるIgMもしくはIgM様抗体またはIgAもしくはIgA様抗体には、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに導入される異種部分、例えば、異種ポリペプチドをさらに含む、修飾J鎖もしくはその機能的フラグメントもしくはバリアントを含めることができる。特定の実施形態では、異種部分は、限定するものではないが、インフレームで融合されたペプチドもしくはポリペプチド、またはJ鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに化学的にコンジュゲートされたペプチド、ポリペプチド、もしくは他の化学的もしくは生物学的部分であり得る。ある特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、リンカー、例えば、少なくとも5アミノ酸からなり、ただし50アミノ酸よりも多くからはならない、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50個のアミノ酸から構成されるペプチドリンカーを介して、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントに融合されている。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、GGGGS(配列番号57)、GGGGSGGGGS(配列番号58)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号59)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号60)、またはGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号61)からなる。ある特定の態様では、異種部分は、J鎖にコンジュゲートした化学的または生物学的部分であり得る。J鎖に付着される異種部分には、限定されるものではないが、J鎖関連抗原結合ドメイン、例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントもしくはサブユニット、例えば、一本鎖Fv(scFv)分子、IgM、IgM様、IgAまたはIgA様抗体の半減期を増加させることができる安定化ペプチド、またはポリマーもしくは細胞毒素などの化学部分が含まれ得る。いくつかの実施形態では、異種部分は、結合分子、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)またはHSA結合分子の半減期を増加させることができる安定化ペプチドを含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、修飾J鎖は、J鎖関連抗原結合ドメイン、例えば、標的抗原に特異的に結合することができるポリペプチドを含む。ある特定の実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、本明細書の他の箇所に記載される抗体またはその抗原結合フラグメントであり得る。ある特定の実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、一本鎖Fv(scFv)抗原結合ドメインまたは、例えばラクダ科抗体またはコンドリクトイド(condricthoid)抗体に由来する、一本鎖抗原結合ドメインであり得る。J鎖関連抗原結合ドメインは、J鎖の機能または関連するIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の機能を妨害することなく、J鎖関連抗原結合ドメインのその結合標的への結合を可能にする任意の位置でJ鎖に導入することができる。挿入位置としては、限定されるものではないが、C末端もしくはその付近、N末端もしくはその付近、またはJ鎖の三次元構造に基づいてアクセス可能な内部の位置が挙げられる。ある特定の実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、配列番号42の成熟ヒトJ鎖、または配列番号42のアミノ酸92及び101に対応するシステイン残基間のそのバリアントに導入することができる。さらなる実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、グリコシル化部位またはその付近で配列番号42のヒトJ鎖に導入することができる。さらなる実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、配列番号42のヒトJ鎖またはそのバリアントに、C末端から10アミノ酸残基以内、及び/またはN末端から10アミノ酸以内に、導入され得る。さらなる実施形態では、J鎖関連抗原結合ドメインは、配列番号42のヒトJ鎖またはそのバリアントのC末端に、及び/またはN末端に、導入され得る。
【0122】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供するIgM抗体、IgM様抗体、IgA抗体、IgA様抗体、またはIgMまたはIgA由来結合分子のJ鎖は、本明細書に提供するバリアントJ鎖を含むIgM抗体、IgM様抗体、IgA抗体、IgA様抗体、またはIgMまたはIgA由来結合分子の血清半減期を変化、例えば増加させることができる1つ以上のアミノ酸置換を含むバリアントJ鎖である。例えば、特定のアミノ酸の置換、欠失、または挿入によって、対象動物に投与されると、バリアントJ鎖における1つ以上の単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を除いて同一であり、かつ同じ方法を使用して同じ動物種に投与される参照IgM由来の結合分子と比較して、血清半減期の増加を示すIgM由来の結合分子をもたらすことができる。ある特定の実施形態において、バリアントJ鎖は、参照J鎖と比較して、1つ、2つ、3つ、または4つの単一アミノ酸置換、欠失、または挿入を含むことができる。
【0123】
いくつかの実施形態では、多量体結合分子は、グリコシル化が低減したまたは1つ以上の高分子Ig受容体(例えば、pIgR、Fcアルファ-ミュー受容体(FcαμR)、またはFcミュー受容体(FcμR))への結合が低減した、本明細書に記載のバリアント配列などのバリアントJ鎖配列を含むことができる。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、PCT公開第WO2019/169314号を参照されたい。ある特定の実施形態では、バリアントJ鎖は、成熟した野生型ヒトJ鎖(配列番号42)のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含み得る。「成熟した野生型ヒトJ鎖のアミノ酸Y102に対応するアミノ酸」とは、ヒトJ鎖におけるY102に相同である任意の種のJ鎖の配列におけるアミノ酸を意味する。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、PCT公開第WO/2019/169314号を参照されたい。配列番号42におけるY102に対応する位置は、少なくとも43の他の種のJ鎖アミノ酸配列において保存されている。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,951,134号の
図4を参照されたい。配列番号42のY102に対応する位置における特定の変異は、特定の免疫グロブリン受容体、例えば、ヒトまたはマウスFcαμ受容体、マウスFcμ受容体、及び/またはヒトまたはマウス高分子Ig受容体(pIg受容体)の、バリアントJ鎖を含むIgM五量体への結合を阻害することができる。配列番号42のY102に対応するアミノ酸での置換を含むIgM抗体、IgM様抗体、及びIgM由来結合分子は、動物に投与された場合、置換を除いて同一であり、かつ同じ方法で同じ種に投与される対応する抗体、抗体様分子、または結合分子よりもの血清半減期が改善される。ある特定の実施形態では、配列番号42のY102に対応するアミノ酸は、任意のアミノ酸で置換され得る。ある特定の実施形態では、配列番号42のY102に対応するアミノ酸は、アラニン(A)、セリン(S)、またはアルギニン(R)で置換され得る。ある特定の実施形態では、配列番号42のY102に対応するアミノ酸は、アラニンで置換され得る。特定の実施形態では、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアントはバリアントヒトJ鎖であり、本明細書で「J*」と称されるJ鎖である配列番号43のアミノ酸配列を含む。PCT公開第WO2019/169314号を参照されたい。
【0124】
野生型J鎖は、典型的には、1つのN-結合グリコシル化部位を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供する多量体結合分子のバリアントJ鎖またはその機能的フラグメントは、アスパラギン(N)結合グリコシル化モチーフN-X1-S/T内に、例えば、成熟ヒトJ鎖(配列番号42)またはJ*(配列番号43)のアミノ酸49(モチーフN6)に対応するアミノ酸位置から開始する、変異を含み、式中、Nは、アスパラギンであり、X1は、プロリンを除く任意のアミノ酸であり、S/Tは、セリンまたはスレオニンであり、この変異は、そのモチーフにおけるグリコシル化を防止する。PCT公開第WO2019/169314号で実証されるように、この部位でのグリコシル化を防止する変異は、対象動物へ投与されると、バリアントJ鎖におけるグリコシル化を防止する変異または変異を除いて同一であり、かつ同じ動物種に同じように投与される参照多量体結合分子と比較して、血清半減期の増加を示す、本明細書で提供する多量体結合分子をもたらすことができる。
【0125】
例えば、ある特定の実施形態では、本明細書に提供されるJ鎖を含む結合分子のバリアントJ鎖またはその機能的フラグメントは、配列番号42もしくは配列番号43のアミノ酸N49もしくはアミノ酸S51に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含むことができるが、S51に対応するアミノ酸がスレオニン(T)で置換されていないか、またはバリアントJ鎖が、配列番号42もしくは配列番号43のアミノ酸N49及びS51の両方に対応するアミノ酸位置にアミノ酸置換を含むことを条件とする。ある特定の実施形態では、配列番号42または配列番号43のN49に対応する位置が、アラニン(A)、グリシン(G)、トレオニン(T)、セリン(S)、またはアスパラギン酸(D)で置換される。特定の実施形態では、配列番号42または配列番号43のN49に対応する位置は、アラニン(A)で置換され得る。特定の実施形態では、配列番号42または配列番号43のN49に対応する位置は、アスパラギン酸(D)で置換され得る。ある特定の実施形態では、配列番号42または配列番号43のS51に対応する位置は、アラニン(A)またはグリシン(G)で置換される。ある特定の実施形態では、配列番号42または配列番号43のS51に対応する位置は、アラニン(A)で置換される。
【0126】
ある特定の実施形態では、提供される結合分子のJ鎖関連抗原結合ドメインは、抗体またはそのフラグメントを含む。ある特定の実施形態では、抗体フラグメントは、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント、ジスルフィド結合Fv(sdFv)フラグメント、またはそれらの任意の組み合わせである。ある特定の実施形態では、抗体フラグメントは一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。scFvは、J鎖またはフラグメントもしくはバリアント、例えば、J*に、融合または化学的にコンジュゲートすることができる。ある特定の実施形態では、scFvフラグメントは、ペプチドリンカー、例えば、配列番号57~61を介してJ鎖に融合される。scFvフラグメントは、修飾J鎖がIgM、IgM様、IgA、またはIgA様結合ユニットと集合して二量体または五量体を形成する能力が影響を受けない限り、任意の方法でJ鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合することができる。例えば、scFvフラグメントは、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのN末端、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのC末端、またはJ鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントのN末端及びC末端の両方に融合され得る。
【0127】
ある特定の実施形態では、修飾J鎖のscFvは、免疫エフェクター細胞上の標的に結合する。J鎖関連抗原結合ドメインによって結合される免疫エフェクター細胞は、例えば、腫瘍関連標的または腫瘍特異的標的を標的とする結合ユニット関連抗原結合ドメインと会合した場合に有益な効果を付与する任意の免疫エフェクター細胞であってもよく、例えば、腫瘍細胞の細胞ベースの殺滅を媒介する。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、例えば、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NKT細胞、またはγδT細胞、B細胞、形質細胞、マクロファージ、樹状細胞、またはナチュラルキラー(NK)細胞であり得るが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、T細胞、例えば、CD4+またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫エフェクター細胞は、CD8+細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫エフェクター細胞は、NK細胞である。
【0128】
免疫エフェクター細胞がT細胞、例えばCD8+T細胞である場合、J鎖関連scFvフラグメントは、T細胞表面抗原CD3、例えばCD3εに特異的に結合することができる。ある特定の実施形態では、抗CD3ε scFvフラグメントが、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、当該VHが、VH相補性決定領域VHCDR1、VHCDR2、及びVHCDR3を含み、それらはそれぞれ、配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列、または該VHCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号49、配列番号50、及び配列番号51のアミノ酸配列、を含み、当該VLが、VL相補性決定領域VLCDR1、VLCDR2、及びVLCDR3を含み、それらはそれぞれ、配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列、または該VLCDRのうちの1つ以上に1、2、もしくは3つのアミノ酸置換を有する配列番号53、配列番号54、及び配列番号55のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、ScFvフラグメントは、配列番号48のVHアミノ酸配列と配列番号52のVLアミノ酸配列とを含む。他の実施形態では、抗CD3ε scFvフラグメントは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、それぞれアミノ酸配列番号44及び配列番号45を含む。特定の実施形態では、修飾J鎖は、配列番号46のアミノ酸20~412、配列番号47のアミノ酸20~412、または配列番号56のアミノ酸20~420を含むアミノ酸配列を含む。
【0129】
ある特定の他の実施形態では、免疫エフェクター細胞は、NK細胞であり、scFvフラグメントは、CD16またはCD56に特異的に結合できる。
【0130】
本明細書で提供される多量体結合分子の修飾J鎖は、J鎖に付着した追加の異種部分を含むようにさらに修飾され得る。例示的な部分は、例えば、米国特許第9,951,134号及び第10,618,978号、ならびに米国特許出願公開第US2019-0185570号、ならびにPCT出願第PCT/US2020/046379号に記載されており、これらのすべてはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。ある特定の実施形態では、本明細書で提供する多量体結合分子の修飾J鎖は、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアントに融合または化学的にコンジュゲートされた免疫刺激剤(「ISA」)をさらに含むことができる。例えば、ISAは、サイトカインまたは受容体結合フラグメントもしくはそのバリアントを含み得る。特定の実施形態では、J鎖関連ISAは、(a)インターロイキン-15(IL-15)タンパク質または受容体結合フラグメントもしくはそのバリアント(「I」)、及び(b)Iと会合することができるスシドメインまたはそのバリアントを含むインターロイキン-15受容体-α(IL-15Rα)フラグメント(「R」)を含むことができ、J鎖またはそのフラグメントもしくはバリアント、ならびにI及びRのうちの少なくとも1つ、またはI及びRの両方は、融合タンパク質として会合し、I及びRは、会合してISAとして機能することができる。ある特定の実施形態では、ISAは、ペプチドリンカーを介してJ鎖に融合され得る。
【0131】
高い標的密度を有する細胞に対する選択性が向上した多価抗体
本開示は、正常な健康な細胞と比較して、疾患細胞、例えば、がん細胞または腫瘍細胞への結合に対する選択性が向上した多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を提供する。提供される結合分子は、2個の二価結合ユニット(例えば、二量体sIgA抗体の場合)、または5個または6個の二価結合ユニット(例えば、五量体または六量体IgM抗体の場合)を含むことができる。提供される結合分子の各結合ユニットは、典型的には、IgA、IgA様、IgM、もしくはIgM様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントもしくはバリアントをそれぞれ含む2つの抗体重鎖を含み、フラグメント(複数可)は、IgA重鎖定常領域のCH3及びtpドメイン、またはIgM重鎖定常領域のCH4及びtpドメインを少なくとも含む。もちろん、重鎖は、追加のIgAもしくはIgA様重鎖定常領域ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2)、またはIgMもしくはIgM様重鎖定常領域ドメイン(CH1、CH2、CH3)、またはそれらのフラグメントを含み得、また、例えば、1つ以上のIgG定常領域ドメイン(例えば、CH1、ヒンジ、CH2、またはCH3)、または別の抗体アイソタイプの定常領域ドメインまたは別の種由来の定常領域ドメインを含むハイブリッド重鎖定常領域もあり得る。提供される結合分子の各重鎖定常領域は、結合ユニット関連抗原結合ドメインまたはそのサブユニット、例えば、軽鎖可変領域(VL)、scFv、または一本鎖可変領域、例えば、サメまたはラクダ由来のものと会合することができる重鎖可変領域(VH)と会合することができる。
【0132】
本明細書で提供する多量体結合分子において、結合分子の少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8つ、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12個の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、細胞表面上の同じ所定の標的、例えば、細胞上に発現される同じ標的抗原、または標的抗原上の同じエピトープに特異的に結合する。ある特定の実施形態において、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または12の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、同一である。ある特定の実施形態において、標的は、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原である。本明細書に提供される多量体結合分子は、正常な健康細胞などのより低い密度で所定の標的を発現する細胞と比較して、より高い密度で所定の標的を発現する、細胞、例えば、疾患細胞、例えば、腫瘍または他のがん細胞に優先的または選択的に結合する。
【0133】
本明細書で使用される場合、「より低い密度で所定の標的を発現する細胞と比較して、より高い密度で所定の標的を発現する細胞」は、例えば、参照細胞よりも多くの数の標的、例えば、標的抗原のコピーを細胞の表面上で発現する細胞、または標的抗原が参照細胞上の同じ標的抗原よりもより緊密にクラスター化されるように、ラフトまたはクラスターにおいて標的、例えば、標的抗原を発現する細胞を指す。ある特定の実施形態では、「より高い密度で所定の標的を発現する細胞」は、疾患細胞、例えば、がん細胞または腫瘍細胞であり、「より低い密度で所定の標的を発現する」参照細胞は、正常な健康細胞である。ある特定の実施形態では、「所定の標的」は、細胞の疾患状態に応答して過剰発現される抗原である。ある特定の実施形態では、所定の標的は、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原である。
【0134】
ある特定の実施形態では、「所定の標的」は、特定の免疫細胞、例えば、活性化CD4+及びCD8+ T細胞、または調節T細胞(Treg)上で過剰発現されたTNF受容体スーパーファミリー(TNFrSF)標的であり得る。ヒトでは、例えば、TNFrSFメンバーOX40及びGITRは、活性化CD4+及びCD8+ T細胞ならびに活性化Treg上で発現されるが、ほとんどの静止ナイーブT細胞または記憶T細胞では発現されない。CD4+及びCD8+エフェクターT細胞上に発現したOX40またはGITRを介したシグナル伝達により、共刺激性の増殖、生存、及びエフェクター機能が強化される(Id.Stuber,E,et al.Immunity,2:507-21(1995)、Tone M,et al.Proc,Natl Acad Sci USA.100:15059-15064(2003)、Ronchetti,S.,et al.Eur J.Immunol.34:613-622(2004))。適切なサイトカイン環境を考慮すると、OX40またはGITRシグナル伝達はまた、Tregの免疫抑制能力をブロックし、それによって細胞傷害性Tリンパ球(CTL)機能を強化することもできる(Linch,SN,et al.Front.Oncol.5:doi:10.3389/fonc.2015.00034(2015)、Shimizu,J.,et al.Nature,Immunol 3:135-142(2002))。
【0135】
ある特定の実施形態において、「所定の標的」は、免疫細胞上で差異的に発現される免疫チェックポイント分子、例えば、CTLA4であり得る。
【0136】
任意の所与の細胞の抗原密度は、様々な方法で測定及び発現することができる。例えば、細胞は、蛍光タグに結合した抗体で処理し、次に蛍光活性化細胞選別、またはFACSに供することができ、細胞上に発現する標的抗原の相対レベルは、相対平均蛍光強度、またはMFIとして報告することができる。ある特定の実施形態では、より高い密度で所定の標的を発現する細胞は、より低い密度で標的抗原を発現する参照細胞について測定したMFIよりも少なくとも0.5倍、1倍、5倍、10倍、50倍、100倍、500倍、1000倍、5000倍、10,000倍、50,000倍、または100,000倍大きいMFIを有することができる。また、細胞の相対的な標的密度は、所定量の一次抗体、例えば、QIFIKit(DAKO)と結合したキャリブレーションビーズを含むキットを使用するフローサイトメトリーにより測定することができる。キャリブレーションビーズによって提供される標準曲線を使用して、相対抗原密度は、細胞当たりの「特異的抗体結合能」(sABC)として表すことができる。
【0137】
特定の実施形態では、多量体結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、例えば、同等及び/または同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインを有する、同じ標的に結合する対応する二価のIgG治療用モノクローナル抗体と比較して、少なくとも部分的には、所定の標的に対する結合分子の価数の増加により、比較的高密度で所定の標的を発現する細胞に対して向上した選択性を有することができる。例えば、10個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを含む五量体IgM抗体は、結合ユニット関連抗原結合ドメインのうちの2つのみを含む対応する二価IgG抗体よりも、腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原を過剰発現する細胞をより容易に認識し、それに結合することができる。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、それが弱く結合するか、またはより低い密度で所定の標的抗原を発現する細胞、例えば、正常な健常な細胞に検出可能に結合しないが、より高い密度で標的抗原を発現する細胞に検出可能に結合することができるように操作され得る。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、標的抗原をより高い密度で発現する細胞に結合することができ、ここで、細胞の表面上の所定の標的に特異的に結合するわずか2つの同等または同一の結合ユニット関連抗原結合ドメインを有する対応する二価のIgG抗体は、より高い密度で標的抗原を発現する細胞、またはより低い密度で標的抗原を発現する細胞に結合することができない。
【0138】
特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体であるために、増加した価数ならびに所定の標的抗原に対する各結合ユニット関連抗原結合ドメインの親和性の低減の組み合わせによって、より高い密度で所定の標的抗原を発現する細胞に向上した選択性で結合する。例えば、結合分子、例えば、標的抗原に対する結合親和性が低い10個の結合ユニット関連抗原結合ドメインを含むIgMまたはIgM様抗体は、標的に対するそれらのアビディティーの増加に起因して標的抗原を高密度で発現する細胞のみを選択的に標的化することができる。以下の実施例の節に示すように、本発明者らは、結合ユニット関連抗原結合ドメインが標的に対して低減した親和性を有するように、B細胞マーカーCD20に結合する既知の治療抗体の結合ユニット関連抗原結合ドメインを操作した。これらの親和性の低減した結合ユニット関連抗原結合ドメインは、二価のIgGバックグラウンドに組み込まれると、任意のB細胞株において結合して補体媒介性細胞傷害性(CDC)を誘導することができないが、同じ親和性低減抗原結合ドメインが、IgMバックグラウンに組み込まれると、低密度でCD20を発現するB細胞株において検出可能に結合またはCDCを誘導しないが、高密度でCD20を発現するB細胞株においてはCDCを誘導する。同様に、これらの親和性の低減した結合ユニット関連抗原結合ドメインは、二重特異性IgMバックグラウンドに組み込まれると、IgM抗体が、CD3εに特異的に結合するJ鎖関連抗原結合ドメインを含む修飾J鎖をさらに含む場合、低密度でCD20を発現するB細胞株のT細胞指向性細胞傷害性(TDCC)を誘導しないが、高密度でCD20を発現するB細胞株のTDCCを誘導する。親和性の低減を有する標的に結合することが予測される既知の治療抗体のバリアントを同定するための方法は、本明細書の他の場所に提示される。そのようなバリアントを作製する方法は当業者に周知である。
【0139】
ある特定の実施形態では、「より高い密度で所定の標的を発現する細胞」は、がん細胞または腫瘍細胞であり得る。ある特定の実施形態では、標的は、腫瘍特異的抗原、すなわち、腫瘍もしくはがん細胞上でのみ大部分発現されるか、または成人の正常な健康な細胞において検出不可能なレベルでのみ発現され得る標的抗原である。ある特定の実施形態では、標的は、腫瘍関連抗原、すなわち、健康な細胞及びがん性細胞の両方に発現されるが、正常な健康な細胞よりもがん性細胞においてはるかに高密度で発現される標的抗原である。例示的な腫瘍特異的及び腫瘍関連抗原としては、限定するものではないが、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD20、上皮成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2、ErbB2とも呼ばれる)、HER3(ErbB3)、受容体チロシン-タンパク質キナーゼErbB4、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)、プログラム死リガンド1(PD-L1)、血管内皮成長因子(VEGF)、VEGF受容体-1(VEGFR1)、VEGFR2、CD52、CD30、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、CD38、ガングリオシドGD2、シグナル伝達リンパ球活性化分子ファミリーメンバー7(SLAMF7)の自己リガンド受容体、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)、CD22、FLT3(CD135)、CD123、MUC-16、がん胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM-1)、メソテリン、腫瘍関連カルシウムシグナルトランスデューサー2(Trop-2)、グリピカン-3(GPC-3)、ヒト血液型Hタイプ1三糖(Globo-H)、シアリルTn抗原(STn抗原)、またはCD33が挙げられる。当業者は、これらの標的抗原が多くの異なる名称によって文献に現れるが、これらの周知の治療標的は、オンラインで入手可能なデータベース、例えば、EXPASY.orgを使用して容易に識別することができることを理解するであろう。
【0140】
他の腫瘍関連抗原及び/または腫瘍特異的抗原としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:DLL4、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、JAG1、JAG2、c-Met、IGF-1R、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、WNTファミリーポリペプチド、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、LRP5、LRP6、IL-6、TNFアルファ、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、BMPファミリーポリペプチド、BMPR1a、BMPR1b、またはTNFスーパーファミリー受容体タンパク質、例えばTNFR1(DR1)、TNFR2、TNFR1/2、CD40(p50)、Fas(CD95、Apo1、DR2)、CD30、4-1BB(CD137、ILA)、TRAILR1(DR4、Apo2)、DR5(TRAILR2)、TRAILR3(DcR1)、TRAILR4(DcR2)、OPG(OCIF)、TWEAKR(FN14)、LIGHTR(HVEM)、DcR3、DR3、EDAR、またはXEDAR。
【0141】
ある特定の実施形態では、所定の標的に特異的な、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12の結合ユニット関連抗原結合ドメインは、所定の標的、例えば、承認された治療抗体または前臨床または臨床開発中の治療抗体に結合することが知られている既存の抗体の抗原結合ドメインの親和性低減バリアントである。親和性の低減したバリアントを調製するための例示的な既知の治療用抗体には、限定されないが、アレムツズマブ(CD52に結合する)、アテゾリズマブ(PD-L1に結合する)、アベルマブ(PD-L1に結合する)、ベバシズマブ(VEGFに結合する)、ブリナツモマブ(CD19に結合する)、ブレンツキシマブ(CD30に結合する)、カプロマブ(PSMAに結合する)、セツキシマブ(EGFRに結合する)、ダラツムマブ(CD38に結合する)、デノスマブ(RANKLに結合する)、ジヌツキシマブ(GD2に結合する)、デュルバルマブ(PD-L1に結合する)、エロツズマブ(SLAMF7に結合する)、ゲムツズマブ(CD33に結合する)、イブリツモマブ(CD20に結合する)、イピリムマブ(CTLA4に結合する)、イノツズマブ(CD22に結合する)、ネシツムマブ(EGFRに結合する)、ニボルマブ(PD-1に結合する)、オビヌツズマブ(CD20に結合する)、オクレリズマブ(CD20に結合する)、オファツムマブ(CD20に結合する)、オララツマブ(PDGFRAに結合する)、オマリズマブ(IgEに結合する)、パニツムマブ(EGFRに結合する)、ペムブロリズマブ(PD-1に結合する)、ペルツズマブ(HER2に結合する)、ラムシルマブ(VEGFR2に結合する)、ラニビズマブ(VEGFR1及びVEGFR2に結合する)、リツキシマブ(CD20に結合する)、トラスツズマブ(HER2に結合する)、またはトレメリムマブ(CTLA4に結合する)が挙げられる。
【0142】
ある特定の実施形態では、上記に列挙されるものを含むが、これらに限定されない、既存の抗体の抗原結合ドメインの親和性低減バリアントは、既存の抗体の抗原結合ドメインの結合親和性よりも、少なくとも1倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも50,000倍、または少なくとも100,000倍以上低い所定の標的に対する結合親和性で、所定の標的に結合する。言い換えれば、親和性低減バリアント結合ドメインは、既存の抗体の抗原結合ドメインのKDよりも高い値である解離定数(KD)を含む。
【0143】
ある特定の実施形態では、既存の抗体の抗原結合ドメインは、抗体重鎖可変領域(VH)及び抗体軽鎖可変領域(VL)を含み、それぞれ、リツキシマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号7及び配列番号8、抗CD20モノクローナル抗体1.5.3のVH及びVLアミノ酸配列、配列番号14及び配列番号15、イピリムマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号16及び配列番号17、トレメリムマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号18及び配列番号19、トラスツズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号20及び配列番号21、セツキシマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号22及び配列番号23、オクレリズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号24及び配列番号25、オビヌツズマブのVH及びVLアミノ酸配列26及び配列番号27、ペルツズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号28及び配列番号29、オマリズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号30及び配列番号31、ペムブロリズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号32及び配列番号33、アベルマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号34及び配列番号35、アテゾリズマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号36及び配列番号37、デュルバルマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号38及び配列番号39、またはニボルマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号40及び配列番号41を含む。これらの配列を表2に示す。
【0144】
【0145】
ある特定の実施形態では、既存の抗体の抗原結合ドメインは、それぞれ、リツキシマブのVH及びVLアミノ酸配列、配列番号7及び配列番号8を含む抗体重鎖可変領域(VH)及び抗体軽鎖可変領域(VL)を含む。本発明者らは、CD20タンパク質に結合したリツキシマブFabの既知の結晶構造と併せて、リツキシマブのVH及びVLアミノ酸配列のシリコモデリングを行い、CD20上のそのエピトープに対する抗原結合ドメインの結合親和性を増加または減少させることが予測される様々なアミノ酸置換を特定した。BioLuminate(Schrodinger)、Lasergene Structural Biology Suite(DNASTAR)、Immunoinformatics(OMIC Tools)、Biovia(Dassault Systems)、及びRosettaAntibody(Rosetta Software)を含むがこれらに限定されない様々なタンパク質モデリング及び予測アルゴリズムを使用して、抗体結合特性を予測することができる。あるいは、既知の抗体のVH及びVL配列は、例えば、アラニンスキャニングを使用する標準的な方法によってショットガン変異誘発に供することができ、得られた抗原結合ドメインは、目的の所定の標的抗原への結合の親和性の低減について試験することができる。
【0146】
BioLuminateツールを使用して、本発明者は、改変された結合親和性をもたらすことが予測される、N93位でリツキシマブ(配列番号8)のVLのアミノ酸置換を有するリツキシマブ抗原結合ドメインのいくつかの例示的なバリアントを同定し、構築した。リツキシマブ軽鎖可変領域の位置N93におけるいくつかの置換を、結合親和性に対するそれらの予測される効果に従ってランク付けした(N93D<N93E<N93A<WT<N93K<N93R)。これらの変異型軽鎖可変領域RTX N93D(配列番号9)、RTX N93E(配列番号10)、RTX N93A(配列番号11)、RTX N93K(配列番号12)、及びRTX N93R(配列番号13)をコードするDNAフラグメントを、以下の実施例に記載されるように合成した。これらのうち、N93D及びN93E置換を有するバリアント抗原結合ドメインは、予測されるように、野生型リツキシマブ抗原結合ドメインと比較して、CD20に対する親和性の低減を示した。バリアント結合ユニット関連抗原結合ドメインを含むIgM抗体は、高密度でCD20を発現するB細胞株の補体媒介性(CDC)殺滅を導くことができるが、低密度でCD20を発現するB細胞株のCDCを導かなかった。バリアント抗原結合ドメインを含むIgG抗体は、高密度CD20発現細胞株に結合できず、高密度または低密度CD20発現B細胞株のいずれかでCDCを誘発することができなかった。
【0147】
ある特定の実施形態において、例えば、より高い及びより低い密度で目的の所定の標的を発現する細胞へのそれらの結合特性について抗原結合ドメインを試験することが所望される場合、様々な細胞株を用いることができる。例えば、CD20が目的の所定の標的である場合、高密度及び低密度CD20発現細胞株、例えば、B細胞リンパ腫細胞株が利用可能であり、それらのCD20発現レベルについて様々な方法によって等級付けすることができ、これらの方法のいくつかは、本明細書の他の場所で提供される。高密度でCD20を発現する細胞株としては、Ramos細胞株、Raji細胞株、DoHH-2細胞株、JeKo-1細胞株、Z-138細胞株、Daudi細胞株、Granta細胞株、またはDoHH2細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。より低い密度でCD20を発現する細胞株としては、CA46細胞株、Nalm-1細胞株、Toledo細胞株、BJAB細胞株、Kasumi-2細胞株、RPMI8226細胞株、HT細胞株、SU-DHL-8細胞株、JM1細胞株、Namalwa細胞株、Nalm-6細胞株、またはZ138細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される多量体抗CD20結合分子、例えば、アミノ酸配列番号7を有するVH及びアミノ酸配列番号9もしくは配列番号10を有するVLを含む結合ユニット関連抗原結合ドメインを少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12個含むIgA、IgA様、IgM、またはIgM様抗体は、Ramos細胞の補体媒介性殺滅を導くことができ、同じ抗原結合ドメインのうちの2つを含む等量の単一特異性二価IgG1抗体は、Ramos細胞の検出可能な補体媒介性殺滅を示さない。さらに、ある特定の実施形態では、本明細書に提供される多量体抗CD20結合分子、例えば、アミノ酸配列番号7を有するVH及びアミノ酸配列番号9もしくは配列番号10を有するVLを含む結合ユニット関連抗原結合ドメインを少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11または12個含むIgA、IgA様、IgM、またはIgM様抗体は、がんを有する対象において、補体媒介性(CDC)、T細胞媒介性(結合分子が二重特異性であり、例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように、CD3εに結合する修飾J鎖を含む場合に)、または補体媒介性とT細胞媒介性の両方のCD20陽性悪性B細胞殺滅を導くことができるが、がんを有する対象の正常なB細胞に最小限の影響を及ぼすか、影響を与えない。ある特定の実施形態では、がんは、高発現CD20陽性白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。ある特定の実施形態では、対象は、ヒト対象である。
【0149】
本明細書に記載されるものを含むがこれらに限定されない他の既知の治療抗体の親和性の低減したバリアントは、本明細書に記載される方法によって同様に、予測、構築、及び試験することができる。例えば、2つのCTLA4抗体、イピリムマブ(VH:配列番号16及びVL:配列番号17)及びトレメリムマブ(VH:配列番号18及びVL:配列番号19)の同様のモデリングは、イピリムマブ及びトレメリムマブの抗原結合ドメインのFabの既知の結晶構造と組み合わせて、BioLuminateソフトウェアを使用して実施した。モデリングは、以下の置換がこれらの抗原結合ドメインの標的であるCTLA4に対する結合親和性を潜在的に低下させるとして、予測した。
【0150】
イピリムマブの場合、CTLA4に対する抗原結合ドメインの結合親和性を低減させると予測されるアミノ酸置換としては、配列番号16のF50での重鎖置換、例えば、F50D、F50N、F50H、もしくはF50E、配列番号16のS52での重鎖置換、例えば、S52H、S52D、S52K、S52I、S52T、S52F、S52N、S52W、もしくはS52Y、配列番号16のY53での重鎖置換、例えば、Y53S、Y53Q、Y52K、Y53T、Y53F、Y53N、Y53H、Y53W、Y53V、Y53E、もしくはY53L、配列番号16のN56での重鎖置換、例えばN56D、配列番号16のN57での重鎖置換、例えばN57D、N57S、N57G、もしくはN57E、配列番号16のY59での重鎖置換、例えばY59H、Y59K、Y59I、Y59F、Y59R、Y59W、もしくはY59L、配列番号17のG93での軽鎖置換、例えばG93E、配列番号17のS95での軽鎖置換、例えばS95H、S95K、S95N、S95G、もしくはS95A、または配列番号17のW97での軽鎖置換、例えばW97D、もしくはW97Eが挙げられるが、これらに限定されない。
【0151】
トレメリムマブの場合、CTLA4に対する抗原結合ドメインの結合親和性を低減させると予測されるアミノ酸置換としては、配列番号18のW52での重鎖置換、例えば、W52Q、W52G、W52E、W52C、W52D、W52S、W52P、W52H、W52N、W52V、W52T、もしくはW52A、配列番号18のN57での重鎖置換、例えば、N57D、配列番号18のR101での任意の重鎖置換、配列番号18のG102での重鎖置換、例えば、G102Q、G102D、もしくはG102F、配列番号18のY106での重鎖置換、例えば、Y106G、Y106E、もしくはY106D、配列番号18のY107での重鎖置換、例えば、Y107Q、Y107C、Y107K、Y107P、Y107H、Y107N、Y107V、Y107T、Y107A、もしくはY107L、配列番号18のY110での重鎖置換、例えば、Y110I、Y110Q、Y110G、Y110E、Y110C、Y110D、Y110S、Y110K、Y110P、Y110N、Y110H、Y110V、Y110T、Y110W、もしくはY110A、配列番号19のS28での軽鎖置換、例えば、S28H、もしくはS28R、配列番号19のI29での軽鎖置換、例えば、I29W、配列番号19のN30での軽鎖置換、例えば、N30I、N30G、N30E、N30C、N30D、N30S、N30K、N30H、N30V、N30T、N30F、N30A、もしくはN30L、または配列番号19のY32での軽鎖置換、例えば、Y32I、Y32Q、Y32C、Y32K、Y32P、Y32H、Y32N、Y32V、Y32T、もしくはY32Lが挙げられるが、これらに限定されない。
【0152】
ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供される抗体の少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または12個の抗原結合ドメインは、同一であり、細胞表面上の所定の標的に特異的に結合する。
【0153】
特定の実施形態では、結合分子は、2つの二価IgA結合ユニット及びJ鎖または機能的フラグメントもしくはそのバリアントを含む二量体抗体、例えば、四価IgAまたはIgA様抗体であり、各結合ユニットは、例えば、少なくともCα3ドメイン及びテールピース(tp)ドメインを含み、例えば、Cα3ドメイン及びtpドメインならびにCα1ドメイン、IgAヒンジ領域、及び/またはCα2ドメインを含み、それぞれが結合ユニット関連抗原結合ドメイン、例えば本明細書で提供される親和性の低減した抗原結合ドメインと会合する、2つのIgAもしくはIgA様重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントを含む。抗体は、分泌成分、またはそのフラグメントもしくはバリアントをさらに含み得る。
【0154】
特定の実施形態では、結合分子は、それぞれ5個または6個の二価のIgM結合ユニットを含む、五価または六量体のIgMまたはIgM様の抗体であり、各結合ユニットは、少なくともCμ4ドメイン及びtpドメイン、例えば、Cμ4ドメイン及びtpドメインならびにCμ2ドメイン、Cμ1ドメイン、及び/またはCμ3ドメインを含み、それぞれ、結合ユニット関連抗原結合ドメイン、例えば、本明細書で提供される親和性を低減した抗原結合ドメインと会合する、2つのIgMまたはIgM様の重鎖定常領域またはその多量体化フラグメントを含む。ある特定の実施形態において、IgMまたはIgM様抗体は、五量体であり、J鎖、またはその機能的フラグメントもしくはバリアントをさらに含む。ある特定の実施形態では、IgMまたはIgM様重鎖定常領域は、補体依存性細胞傷害性(CDC)を促進する結合分子の能力を調節、例えば低減または遮断するように修飾することができる。いくつかの実施形態では、IgMまたはIgM様重鎖定常領域は、結合分子の血清半減期を増加させるように修飾され得る。
【0155】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、J鎖またはその機能的フラグメントもしくはバリアント、例えば、アミノ酸配列番号42またはその機能的フラグメントもしくはその機能的バリアント、例えば、バリアントJ鎖(例えば、配列番号43)を含むIgM五量体抗体の血清半減期を増加させる、102位にアミノ酸置換(Y102A)を有する、配列番号42のバリアントを含むヒトJ鎖を含む。ある特定の実施形態では、J鎖またはそのフラグメントは、1つ以上の異種ポリペプチドをさらに含む修飾J鎖であり、異種ポリペプチドは、例えば、ペプチドリンカーを介して、J鎖またはそのフラグメントに直接的または間接的に融合される。ある特定の実施形態では、修飾J鎖は、CD3εに特異的に結合する修飾ヒトJ鎖であり、例えば、配列番号46、配列番号47、または配列番号56である。
【0156】
ポリヌクレオチド、ベクター、及び宿主細胞
本開示はさらに、ポリヌクレオチド、例えば、単離された、組換えの、及び/または非天然のポリヌクレオチドであって、本明細書で提供される多量体結合分子、例えばIgM、IgM様、IgA、IgA様抗体のポリペプチドサブユニットをコードする核酸配列を含む、ポリヌクレオチドを提供する。「ポリペプチドサブユニット」とは、独立に翻訳され得る抗体、結合分子、結合ユニット、または結合ドメインの一部を意味する。例としては、限定されるものではないが、抗体VH、抗体VL、一本鎖Fv、抗体重鎖、抗体軽鎖、抗体重鎖定常領域、抗体軽鎖定常領域、J鎖、分泌成分及び/またはこれらの任意の機能的(例えば、抗原結合及び/または多量体化)フラグメントが挙げられる。
【0157】
本開示はさらに、2つ以上のポリヌクレオチドを含む組成物を提供し、2つ以上のポリヌクレオチドは、本明細書に提供されるような多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を集合的にコードすることができる。ある特定の実施形態では、組成物は、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様重鎖もしくはそのフラグメント、例えば、上記のヒトIgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様重鎖をコードするポリヌクレオチドであって、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様重鎖は、所定の標的、例えば、腫瘍特異的抗原もしくは腫瘍関連抗原に結合する結合ユニット関連抗原結合ドメインのVHを少なくとも含み、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様抗体は、より低い密度で所定の標的を発現する参照細胞、例えば正常な健康細胞よりもより高い密度で所定の標的を発現する細胞に選択的に結合する、該ポリヌクレオチドと、軽鎖もしくはそのフラグメント、例えばヒトカッパ鎖またはラムダ鎖をコードするポリヌクレオチドであって、例えば、所定の標的、例えば、腫瘍特異的抗原もしくは腫瘍関連抗原に結合する結合ユニット関連抗原結合ドメインの少なくともVLを含み、ここで、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様抗体は、より低い密度で所定の標的を発現する参照細胞、例えば正常な健康細胞よりもより高い密度で所定の標的抗原を発現する細胞に選択的に結合する、該ポリヌクレオチドとを含むことができる。提供されるポリヌクレオチド組成物はさらに、J鎖(例えば、ヒトJ鎖)、またはそのフラグメントもしくはバリアントをコードするポリヌクレオチドを含むことができる。ある特定の実施形態では、本明細書に提供されるような組成物を構成するポリヌクレオチドは、2つまたは3つの別個のベクター、例えば、発現ベクター上に位置することができる。そのようなベクターは本開示によって提供される。ある特定の態様では、本明細書で提供される組成物を構成するポリヌクレオチドのうちの2つ以上は、単一のベクター、例えば、発現ベクター上に位置してもよい。そのようなベクターは本開示によって提供される。
【0158】
本開示はさらに、本明細書に提供されるような多量体結合分子例えば、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様抗体、またはその任意のサブユニットをコードする1つのポリヌクレオチドもしくは2つ以上のポリヌクレオチド、本明細書に提供されるようなポリヌクレオチド組成物、あるいは、本明細書に提供されるような多量体結合分子例えば、IgM、IgM様、IgA、もしくはIgA様抗体、またはその任意のサブユニットを合わせてコードする1個のベクター、2個、3個、もしくはそれよりも多くのベクターを含む、宿主細胞、例えば、原核または真核宿主細胞を提供する。ある特定の実施形態において、本開示によって提供される宿主細胞は、多量体結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体、またはそのサブユニットを発現することができる。
【0159】
関連する実施形態において、本開示は、本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を産生する方法を提供し、この方法は、上述の宿主細胞を培養し、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を回収することを含む。
【0160】
使用方法
本開示は、本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を使用して、細胞に基づく疾患、例えば、がんを治療するための方法を提供し、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、標的抗原を発現し、より低い密度である参照細胞、例えば、正常な健康細胞のものよりもより高い密度で、目的の所定の標的抗原を発現する細胞に選択的に結合する。本開示はさらに、細胞に基づく疾患、例えば、がんを治療するための医薬の調製において、本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の使用を提供し、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、標的抗原を発現し、より低い密度である参照細胞、例えば、正常な健康細胞のものよりもより高い密度で、目的の所定の標的抗原を発現する細胞に選択的に結合する。本開示はさらに、多量体結合分子、例えば、細胞に基づく疾患、例えば、がんを治療するための本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を提供し、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、標的抗原を発現し、より低い密度である参照細胞、例えば、正常な健康細胞のものよりもより高い密度で、目的の所定の標的抗原を発現する細胞に選択的に結合する。以下に記載される方法は、疾患を治療するための薬剤の調製における提供される組成物の使用、及び疾患を治療するための提供される組成物に等しく適用される。
【0161】
本明細書に提供される治療方法は、例えば、表2に提供されるVH及びVLアミノ酸配列を含む抗体の親和性低減バリアント、またはその抗原結合バリアント、誘導体、もしくは類似体を含むが、これらに限定されない、本明細書に記載されるもの等の既存の治療抗体に由来する、3以上、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、または12個の抗原結合ドメイン、例えば親和性を低減した抗原結合ドメインを含む、結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を利用する。ある特定の実施形態では、多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、より高い密度で所定の標的抗原を発現する細胞、例えば、がん細胞に対して向上した選択性を提供することができる。本開示に基づき、より高い密度で所定の標的抗原を発現する細胞に対する選択性が向上した多量体IgAまたはIgMベースの結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の構築は、当業者の能力内にある。正常な健康な細胞は免れることができるため、改善された選択性は、例えば、既存の療法と比較して安全性を改善し、副作用を予防することができる。
【0162】
さらに別の実施形態では、本明細書に提供されるがん細胞に対する向上した選択性を有する多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、がん治療を必要とする対象に有効用量として投与された場合、例えば、腫瘍成長を遅延させ、腫瘍成長を停止させ、または既存の腫瘍のサイズを低減させることによって、がん治療を容易にすることができる。本開示は、治療を必要とする対象に、有効用量の本明細書に提供される多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。
【0163】
「がん」、「腫瘍」、「がん性」、及び「悪性」という用語は、典型的には制御されていない細胞成長を特徴とする哺乳類の生理的状態を指すまたは説明する。がんの例としては、限定されるものではないが、腺癌、リンパ腫、芽腫、黒色腫、肉腫、及び白血病を含めた癌腫が挙げられる。
【0164】
提供される方法のある特定の実施形態では、治療されるがんは、固形腫瘍、血液悪性腫瘍、それらの任意の転移、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。ある特定の実施形態では、固形腫瘍は、例えば、肉腫、癌腫、黒色腫、リンパ腫、それらの任意の転移、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。より具体的には、固形腫瘍は、例えば、扁平上皮癌、腺癌、基底細胞癌、腎細胞癌、乳房の腺管癌、軟部組織肉腫、骨肉腫、黒色腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌、胃癌、膵臓癌、神経内分泌癌、膠芽腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、脳癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜または子宮癌、食道癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、頭頚部癌、これらの任意の転移、またはこれらの任意の組み合わせがあり得る。
【0165】
提供される方法のある特定の実施形態では、治療されるがんは、血液悪性腫瘍またはその転移であり得る。ある特定の実施形態では、血液悪性腫瘍は、白血病、リンパ腫、骨髄腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、有毛細胞白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、これらの任意の転移、またはこれらの任意の組み合わせがあり得る。
【0166】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供する方法は、追加のがん療法、例えば、手術、化学療法、放射線療法、がんワクチン、またはそれらの任意の組み合わせの投与をさらに含むことができる。
【0167】
本開示は、がんの予防または治療を必要とする対象におけるがんの予防または治療方法であって、有効量の多量体結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を、結合分子、例えば、抗体、または本明細書に記載のポリヌクレオチド、ベクター、もしくは宿主細胞を含む組成物または製剤を、対象に投与することを含む、方法をさらに提供する。
【0168】
「治療上有効な用量または量」または「有効量」とは、投与されたときに、がん患者の治療に関して正の免疫療法応答をもたらす多量体結合分子、例えばIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の量が意図されている。ある特定の実施形態では、治療上有効な用量または量は、がん細胞を殺滅させるが、正常細胞に最小限の影響しか及ぼさないか、または影響を与えない。ある特定の実施形態では、治療有効量は、最小限の副作用を提供する。
【0169】
がん治療のための組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、及び処置が予防的なものであるか治療的なものであるかを含めた、多くの異なる因子に応じて変動する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳類を含めた非ヒト哺乳類も治療することができる。当業者に知られている通例の方法を用いて治療用量を滴定して、安全性及び有効性を最適化することができる。
【0170】
その最も単純な形態では、対象に投与される調製物は、多量体結合分子、本明細書に提供されるような例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体であり、本明細書の他の箇所に記載されるような医薬賦形剤、担体、または希釈剤と組み合わせることができる従来的な剤形で投与される。
【0171】
医薬組成物及び投与方法
多量体結合分子、例えば本明細書に提供されるようなIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体を調製する方法及びそれを必要とする対象に投与する方法は、当業者に周知されているか、または本開示を考慮して当業者によって容易に決定される。結合分子、例えば抗体の投与経路は、例えば、腫瘍内、経口、非経口、吸入または局所によるものであり得る。本明細書で使用される非経口という用語には、例えば、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸、または膣投与が含まれる。これらの投与形態は好適な形態として企図されているが、別の投与形態の例として、注射用溶液、詳細には腫瘍内、静脈内または動脈内の注射または点滴用の溶液が考えられる。ある特定の実施形態では、結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、腫瘍内、または腫瘍細胞の近傍、例えば、腫瘍微小環境(TME)内に局所的に導入され得る。好適な医薬組成物は、緩衝液(例えば、酢酸、リン酸、またはクエン酸緩衝液)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート)、任意選択で安定化剤(例えば、ヒトアルブミン)などを含むことができる。
【0172】
本明細書で考察されるように、多量体結合分子、例えば、本明細書に提供されるIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、がんのインビボ免疫療法治療のために、医薬的に有効な量で投与され得る。開示される結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体は、投与を容易にし、活性薬剤の安定性を促進するように製剤化することができる。したがって、医薬組成物は、医薬的に許容される無毒性の無菌担体、例えば、生理食塩水、無毒性緩衝液、保存料などを含むことができる。多量体結合分子、例えば、本明細書に提供されるようなIgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の医薬有効量は、標的に対する有効な結合を達成し、かつ治療上の有益性を達成するのに十分な量を意味する。特定の態様では、医薬的に有効な量は最小限の副作用を引き起こす。好適な製剤は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Pharmaceutical Press)22d ed.(2012)に記載されている。
【0173】
単一の剤形を作製するために担体材料と組み合わされ得る多量体結合分子、例えば、IgM、IgM様、IgA、またはIgA様抗体の量は、例えば、治療される対象及び特定の投与様式に応じて変動する。組成物は、単回用量、複数回用量として、または輸注において確立された期間にわたり、投与することができる。薬用量レジメンも、最適な所望の応答(例えば、治療または予防応答)をもたらすように調整され得る。
【0174】
本開示は、別段の指示がない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA、及び免疫学の従来的技法を用い、このような技法は当業者の技能範囲内である。このような技法は、文献内で十分に説明されている。例えば、Green and Sambrook,ed.(2012)Molecular Cloning A Laboratory Manual(4th ed.;Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Sambrook et al.,ed.(1992)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(Cold Springs Harbor Laboratory,NY)、D.N.Glover and B.D.Hames,eds.,(1995)DNA Cloning 2d Edition(IRL Press),Volumes 1-4、Gait,ed.(1990)Oligonucleotide Synthesis(IRL Press)、Mullis et al.米国特許第4,683,195号、Hames and Higgins,eds.(1985)Nucleic Acid Hybridization(IRL Press)、Hames and Higgins,eds.(1984)Transcription And Translation(IRL Press)、Freshney(2016)Culture Of Animal Cells,7thEdition (Wiley-Blackwell)、Woodward,J.,Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press) (1985)、Perbal (1988) A Practical Guide To Molecular Cloning;2d Edition(Wiley-Interscience)、Miller and Calos eds.(1987)Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells,(Cold Spring Harbor Laboratory)、S.C.Makrides(2003)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells(Elsevier Science)、Methods in Enzymology,Vols.151-155(Academic Press,Inc.,N.Y.)、Mayer and Walker,eds.(1987)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology (Academic Press,London)、Weir and Blackwell,eds.、及びAusubel et al.(1995)Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons)を参照されたい。
【0175】
抗体工学の一般原理は、例えば、Strohl,W.R.,and L.M.Strohl(2012),Therapeutic Antibody Engineering(Woodhead Publishing)に記載されている。タンパク質工学の一般原理は、例えば、Park and Cochran,eds.(2009),Protein Engineering and Design(CDC Press)に記載されている。免疫学の一般原理は、例えば、Abbas and Lichtman(2017)Cellular and Molecular Immunology 9th Edition(Elsevier)に記載されている。さらに、当技術分野で知られている免疫学の標準的方法は、例えば、Current Protocols in Immunology(Wiley Online Library)、Wild,D.(2013),The Immunoassay Handbook 4th Edition(Elsevier Science)、Greenfield,ed.(2013),Antibodies,a Laboratory Manual,2d Edition(Cold Spring Harbor Press)、及びOssipow and Fischer,eds.,(2014),Monoclonal Antibodies:Methods and Protocols(Humana Press)に従うことができる。
【0176】
上で引用されるすべての参照文献、及び本明細書で引用されるすべての参照文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0177】
下記の実施例は、限定するものではなく、例証として提供されている。
【実施例】
【0178】
実施例1:選択性が向上された悪性B細胞との親和性が変化した抗CD20 IgM抗体のモデリング、構築、及び発現
抗CD20抗体、例えば、リツキシマブは、B細胞悪性腫瘍、例えば、リンパ腫の治療に広く使用される。残念ながら、CD20はまた、正常なB細胞上にも広く発現され、抗CD20がん療法中に望ましくないB細胞枯渇を引き起こす。悪性B細胞上での抗原発現は、典型的には、正常B細胞上よりもはるかに高密度である。この実施例は、親和性を低減した抗CD20結合ドメインを有するIgM抗体の構築及び特性評価を示す。IgMのアビディティーの増加は、より高い密度でCD20を発現する細胞を選択的に標的とする抗体をもたらす。
【0179】
リツキシマブと比較して親和性が低減したCD20に特異的に結合することができる五量体または六量体IgM抗体を、以下の方法によって作製した。リツキシマブのVH(配列番号7)及びVL(配列番号8)アミノ酸配列を、BioLuminate(Shrodinger)及びリツキシマブFab及びCD20の利用可能な結晶構造を使用してシリコモデリングに供して、結合親和性の低減をもたらすアミノ酸置換を予測した。リツキシマブ軽鎖可変領域の位置N93におけるいくつかの置換を、結合親和性に対するそれらの予測される効果に従ってランク付けした(N93D<N93E<N93A<WT<N93K<N93R)。これらの変異型軽可変領域RTX N93D(配列番号9)、RTX N93E(配列番号10)、RTX N93A(配列番号11)、RTX N93K(配列番号12)、及びRTX N93R(配列番号13)をコードするDNAフラグメントを、野生型リツキシマブVHをIgG及びIgM抗体としてコードするコンストラクトとともに、商業的ベンダーによって合成した。
【0180】
これらの抗体コンストラクトを以下に記載のように発現及び精製した。IgG及びIgM分子は、以下のように還元ゲル及び非還元ゲル上で分解された。精製抗CD20IgG及びIgM+野生型J鎖抗体を、還元及び非還元条件下でSDS-PAGEゲル上で分析した。
図1Aは、組み立てられたIgGを分解するための非還元ゲルを示し、
図1Bは、IgG重鎖及び軽鎖を示すための還元ゲルを示し、
図1Cは、組み立てられたIgMを分解するための非還元ゲルを示し、
図1Bは、IgM重鎖及び軽鎖を示すための還元ゲルを示す。非還元IgMゲル試料をNuPage LDS試料緩衝液(Life Technologies #NP0007)と混合し、NativePage Novex 3~12%Bis-Trisゲル(Life Technologies #BN1003)にロードした。NovexTris-アセテートSDS泳動用緩衝液(Life Technologies #LA0041)をゲル電気泳動に使用し、ゲルをColloidal Blue Stain(Life Technologies #LC6025)で染色した。非還元IgG試料を試料緩衝液と混合し、80℃で10分間加熱し、NuPage Novex 4~12%Bis-Trisゲル(Life Technologies #NP0322)にロードした。NuPage MES SDS泳動用緩衝液をゲル電気泳動に使用し、ゲルをColloidal Blueで染色した。還元ゲルの場合、試料を試料緩衝液及びNuPage還元剤(Life Technologies#NP0004)と混合し、80℃で10分間加熱し、NuPage Novex4~12%Bis-Trisゲル(Life Technologies#NP0322)にロードした。NuPage MES SDS泳動用緩衝液(Life Technologies#NP0002)をゲル電気泳動に使用し、ゲルをColloidal Blueで染色した。
【0181】
タンパク質の発現、精製、及び特性評価
トランスフェクション。IgGまたはIgM重鎖、軽鎖、及びJ鎖DNA(IgM五量体コンストラクトの場合)を、例えば、Expi293細胞にトランスフェクトした。発現ベクター用のDNAをエクスピフェクタミン(Expifectamine)と混合した後、細胞に添加した。Expi293細胞による一過性トランスフェクションは製造業者の推奨に従って実施した。
【0182】
IgG発現産物を、例えば、製造業者の推奨に従って、MabSelectSuRe親和性マトリックス(GE Life Sciences カタログ番号17-5438-01)を使用して精製した。
【0183】
J鎖の有無にかかわらず、IgM発現産物は、例えば、Capture Select IgM親和性マトリックス(BAC、Thermo Fisherカタログ番号2890.05)を使用して、製造業者の推奨に従って精製した。
【0184】
実施例2:B細胞株上のCD20密度の特性評価
様々なB細胞株:Raji(ATCCカタログ番号CCL-86)、Ramos(ATCCカタログ番号CRL-1596)、CA46(ATCCカタログ番号CRL-1648)、DB(ATCCカタログCRL-2289)、DoHH-2(DSMZカタログ番号ACC-47)、JeKo-1(ATCCカタログ番号CRL-3006)、Z-138(ATCCカタログ番号CRL-3001)、Toledo(ATCCカタログ番号CRL-2631)、BJAB(DSMZカタログ番号ACC-757)、Kasumi-2(DSMZカタログ番号ACC-526)、Nalm-1(ATCCカタログ番号CRL-1567)、RPMI 8226(ATCCカタログ番号CCL-155)、HT(ATCCカタログ番号CRL-2260)、SU-DHL-8(ATCCカタログ番号CRL-2961)、及びJM1(ATCCカタログ番号CRL-10423)を、QIFIKit(DAKO)を使用して、相対的なCD20表面密度について試験した。非コンジュゲートマウスCD20抗体(Biolegend)を、一価結合を可能にするために、20μg/mLでの一次抗体として、飽和点で使用した。FITCコンジュゲートF(ab’)2抗体(Dako)を、1:50にて二次抗体として使用した。ある範囲の規定量の一次Mabと結合したキャリブレーションビーズの5集団(Dako)を混合し、細胞と同じ方法で染色し、標準曲線として設定した。標準的な操作手順を使用したFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences)を利用して、細胞表面抗原を測定した。FlowJo(Treestar)を使用して、各試料からMFI(平均蛍光強度)を計算した。Prism(GraphPad)を使用して、各細胞株の標準曲線から抗原密度を内挿した。細胞当たりの分子におけるAb結合能(ABC)として表される抗原密度を計算した。最後に、表3における「抗原密度」は、ABCからアイソタイプ対照のバックグラウンドAb当量を差し引くことによって決定される特異的ABC(sABC)として表される。
【0185】
細胞株はまた、以下の方法により、FACS分析によってCD20密度についても試験した。細胞を洗浄し、0.48×106細胞/mLの密度でFACS染色緩衝液(FSB、BDカタログ番号554656)中に再懸濁し、25μL/ウェルをV底96ウェルプレートに添加した。各ウェルについて、5μLのCD20抗体(AlexaFluor488コンジュゲート、Biolegendカタログ番号302316、濃度200μg/mL)及び20μLのCD19(PEコンジュゲート、BDカタログ番号555413、濃度0.015μg/20μL)を添加した。アイソタイプ対照については、5μLのマウスIgG2b抗体(AlexaFluor488コンジュゲート、Biolegendカタログ番号400329)及び20μLのマウスIgG1抗体(PEコンジュゲート、BDカタログ番号555749)を添加した。プレートを暗所及び氷上で30分間インキュベートした。プレートを200μLのFACS染色緩衝液で2回洗浄した。細胞を50μLの固定緩衝液(PBS中で1:8希釈したBDカタログ番号554655)で一晩固定した。FACSCaliburサイトメーターでデータを得て、その後、FlowJo(Tree Star)を使用して解析した。
【0186】
様々な細胞株を、補体依存性細胞傷害性を介して10%正常ヒト血清中で殺滅させる能力についても、以下の方法によって試験した。B細胞株を、(各細胞株に応じて)10~20%の熱不活性化ウシ胎仔血清(HI-FBS)を含有するRPMI完全培地(RPMI-C;RPMI1640培地、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、1倍のMEM非必須アミノ酸、1倍のGlutaMAX)での培養で、37℃、5%のCO2インキュベーター内で維持した。細胞密度を0.2~2.0×106個の細胞/mLに維持するために、必要に応じて2~3日ごとに細胞を分割した。約5.0×106個の細胞を遠心分離によって回収し、5.0mLのRPMI-C中に再懸濁した(1.0×106個の細胞/mL)。精製した抗CD20IgG抗体(リツキシマブ)をRPMI-C、10%HI FBSで30μg/mLに希釈し、次いで非組織培養処理96ウェルプレート(Falcon 351177)中でRPMI-C、10%HI FBS中で3倍に段階希釈した。10μLの細胞(10,000個の細胞/ウェル)、及び10μLの段階希釈したAbを384ウェルプレート(Thermo 164610)中で合わせ、37℃で2時間、5%CO2インキュベーター内でインキュベートした。正常なヒト血清補体(Quidel A113)をRPMI-C、10%HI FBS(1.5mL:3.5mL)で30%に希釈し、次いで(10μL/ウェル 30%NHSまたはRPMI-C、10%HI FBS)を各ウェルに添加し、5%CO2インキュベーター内で37℃で4時間インキュベートした。CellTiter-Glo試薬(Promega G7572)(10μL/ウェル)を各ウェルに加え、プレートシェーカーで2分間、次いで室温で10分間混合し、PerkinElmer EnVision2104で発光を読み取った。
【0187】
結果を表3に示す。細胞上の相対的なCD20抗原密度は、MFI及びCDCによって殺滅させる細胞の能力と相関した。
【0188】
【0189】
実施例3:Ramos細胞に対するIgG及びIgM抗CD20変異体の結合活性
実施例1で作製した様々なIgG及びIgM抗CD20変異体IgG及びIgM抗体の、Ramos細胞に対する結合親和性を、以下の方法によるフローサイトメトリーによって測定した。Ramos細胞を、37℃で5%CO2インキュベーター内での10%HI-胎児ウシ血清を含有するRPMI完全培地(RPMI-C;RPMI1640培地、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、1倍のMEM非必須アミノ酸、1倍のGlutaMAX)での培養で維持した。細胞密度を0.2~2.0×106個の細胞/mLに維持するために、必要に応じて2~3日ごとに細胞を分割した。約2×106個の細胞を遠心分離によって回収し、4.0mLのFACS染色緩衝液(FSB、BD554656;0.5×106個の細胞/mL)中に再懸濁した。実施例1に記載されるように調製した精製IgGまたはIgM抗体を、20μg/mLのFBSに希釈し、次いで、非TC処理96ウェルプレート(Falcon 351177)中でFSBで3倍に段階希釈した。細胞(25μL、12,500細胞/ウェル)及び段階希釈した抗体試料(25μL)を96ウェルのV底プレート(Sarstedt 82.1583.001)中で合わせ、5%CO2インキュベーター内で37℃で2時間インキュベートした。細胞を200μLの冷FSBで2回洗浄し、50μLのマウス抗ヒトカッパ抗体AF647に1μg/mLで再懸濁した(BioLegend 316514、クローンMHK-49、50μg/mL;100μLの抗体:5mLのFSB)。抗体細胞混合物を暗所で氷上で30分間インキュベートした。細胞を再び洗浄し、次いで80μLのFSB(未染色細胞)または80μLの1% 7-アミノアクチノマイシンD(7-AAD、BD 51-88881E、FSB中1:100)(染色細胞)中に再懸濁し、混合物をミニチューブ(Nova 32022)に移した。標準設定を使用してFACSCaliburで蛍光染色データを取得し、FloJo10で解析した。平均蛍光強度(MFI)値をGraphPad Prismにインポートし、得られた曲線適合からEC50またはKD値を計算した。
【0190】
結果を
図2A(IgG)及び
図2B(IgM+J)、ならびに表4及び5に示す。N93D及びN93E変異体は、IgGとしてRamosに対して測定可能な親和性を有さず、wtリツキシマブ(2つの異なるバッチに対して0.16nMまたは0.19nM)と比較した場合に、IgMとして約10倍高いEC50(それぞれ、2.8nM及び1.9nM)を示した。
【0191】
【0192】
【0193】
N93D及びN93E変異体は、野生型リツキシマブとは対照的に、Ramos細胞上のCD20に対する親和性の低減を示した。実際、N93D及びN93E変異体は、IgGとして、Ramos上に測定可能な親和性を有しなかった。IgMとして、2つの変異体は、IgMとして野生型リツキシマブよりも約10倍高いEC50を有した。
【0194】
実施例4:Ramos及びCA46細胞に対するIgG及びIgM抗CD20変異体のCDC活性
実施例1で作製したIgG及びIgMの改変親和性変異体の、2つのB細胞株に対する補体依存性細胞傷害性を促進する能力を、以下の方法によって評価した。実施例2に示されるように、CD20密度が異なる2つのB細胞株、Ramos(より高い密度のCD20)及びCA46(中~低密度のCD20)を、(各細胞株に応じて)10~20%の熱不活性化ウシ胎仔血清(HI-FBS)を含有するRPMI完全培地(RPMI-C;RPMI1640培地、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、1倍のMEMの非必須アミノ酸、1倍のGlutaMAX)での培養で37℃、5%CO2インキュベーター内で維持した。必要に応じて2~3日ごとに分割して、細胞密度を0.2~2.0×106個の細胞/mLの間に維持する。細胞密度を0.2~2.0×106個の細胞/mLに維持するために、必要に応じて2~3日ごとに細胞を分割した。約5.0×106個の細胞を遠心分離によって回収し、5.0mLのRPMI-C中に再懸濁した(1.0×106個の細胞/mL)。実施例1に記載されるように調製した精製された抗CD20 IgM及びIgG抗体を、RPMI-C、10%HI FBSで30μg/mL(IgG)または3μg/mL(IgM)に希釈し、次いで、非組織培養処理96ウェルプレート(Falcon 351177)中で、RPMI-C、10%HI FBSで3倍に段階希釈した。細胞試料(10μL、約10,000細胞/ウェル)を、384ウェルプレート(Thermo 164610)中で10μLの段階希釈した抗体試料と合わせ、5%CO2インキュベーター内で37℃で2時間インキュベートした。正常ヒト血清補体(Quidel A113)をRPMI-C、10%HI FBS(1.5mL:3.5mL)で30%に希釈し、10μLの30%NHSまたはRPMI-C、10%HI FBSを各ウェルに添加した。プレートを5%CO2インキュベーター内で37℃で4時間インキュベートした。Cell Titer-Glo試薬(10μL、Promega G7572)を各ウェルに添加し、プレートシェーカー上で2分間混合し、次いで室温で10分間インキュベートした。発光をPerkinElmer EnVision 2104で読み取った。生データをエクセルのデータにインポートし、すべての値からバックグラウンドを減算した(培地+Cell Titer-Glo、細胞なし、からのシグナル)。データをGraphPad Prismに転送した。Y値は、100%細胞生存率が抗体の非存在下でインキュベートされた細胞の平均最大値として定義されるように正規化された。抗体濃度(nM)を、X=log(X)を使用して変換し、次いで、可変傾斜4パラメータロジスティックフィット[アゴニスト対log(X)]を使用して、曲線へのデータに適合させた。EC50値を、得られた曲線適合から計算した。
【0195】
結果を
図3A~Dに示す。より高いCD20密度のRamos細胞において、N93D及びN93E変異体は、IgGとしてCDC活性を全く示さなかったが(
図3A)、IgMのアビディティーの増加を考慮すると、低親和性のN93D及びN93E変異体は、高アビディティーIgMとして測定可能なCDC活性(約0.1~10nMのEC50)を示した(
図3B)。対照的に、より低いCD20密度のCA46細胞では、N93D及びN93E変異体のIgG(
図3C)及びIgMバージョン(
図3D)はいずれも、測定可能なCDC活性を示さなかった。
【0196】
実施例5:Ramos及びCA46細胞に対するIgM抗CD20変異体のTDCC活性
実施例1で作製したIgMの改変親和性変異体の、2つのB細胞株、及び健常なドナー由来の正常なB細胞に対する、T細胞依存性細胞傷害性(TDCC)を促進する能力を、以下の方法によって評価した。
【0197】
実験の1日前に、CD8+ T細胞(Precision for Medicine 84300)を解凍し、10%の熱不活化ウシ胎仔血清(HI-FBS)を含有するRPMI完全培地(RPMI-C;RPMI1640培地、10mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、1倍MEM非必須アミノ酸、1倍GlutaMAX)に約1.0~2.0×106個の細胞/mLの細胞密度で再懸濁し、次いで、5%CO2インキュベーター内で37℃で一晩静置した。実験当日、T細胞を、RPMI-C、10%HI-FBSで約1.0×106個の細胞/mLの密度に調整した。実施例2に示されるように、CD20密度が異なる2つのB細胞株、Ramos(より高い密度のCD20)及びCA46(中~低密度のCD20)を、(各細胞株に応じて)10~20%のHI-FBSを含有するRPMI-Cでの培養で、5%のCO2インキュベーター内で37℃で維持した。細胞密度を0.2~2.0×106個の細胞/mLに維持するために、必要に応じて2~3日ごとに細胞を分割した。
【0198】
健常なドナーからの約1.0×106個のB細胞を遠心分離によって回収し、1.0mLのRPMI-C、10%HI-FBS中に再懸濁した(1.0×106個の細胞/mL)。CellTrace Orregon Green488(LifeTech 34550)を2~5μMの最終濃度に添加し、続いて5%CO2インキュベーター内で37℃で約30分間インキュベーションすることによって、細胞を蛍光標識した。標識細胞を10mLのRPMI-Cで2回洗浄して過剰な標識を除去し、RPMI-C中に約1.0×105個の細胞/mLの最終密度で再懸濁した。蛍光顕微鏡で細胞を調べることによって、蛍光標識を確認した。
【0199】
実施例1に記載されるように調製したCD3εに特異的に結合する修飾J鎖(J鎖アミノ酸配列番号46)を含む精製された二重特異性抗CD20 IgM抗体を、RPMI-C、10%HI FBSで2μg/mL(野生型)または20μg/mL(バリアント)に希釈し、次に、非TC処理96ウェルU底プレート(Falcon 351177)中でRPMI-C、10%HI FBSで3倍に段階希釈した。蛍光標識B細胞(50μL、約5,000細胞/ウェル)を、96ウェルU底プレート(Falcon351177)中で50μLの段階希釈した抗体試料及びCD8+ T細胞(50μL、約50,000細胞/ウェル)と合わせ、5%CO2インキュベーター内で37℃でインキュベートした。約48時間後、5μL/ウェルのCountBright Absolute Counting Beads(Invitrogen C36950)を添加し、細胞を200μL/ウェルのFACS緩衝液(FBS;BD 554656)で1回洗浄し、次いで1% 7-AAD(BD 51-88881E)を含有する約60μL/ウェルのFBSに再懸濁した。細胞-ビーズ混合物を、FACSCaliburフローサイトメーター(BD)を用いてフローサイトメトリーによって分析し、データをリストモードで保存した。データを、ソフトウェアプログラムFlowJo、バージョン10(BD)を使用して解析した。B細胞を、FL1(緑色)チャネル内の側方散乱(SSC)対蛍光でゲーティングし、生B細胞を、FL4(赤色)チャネル内のFL1蛍光対非蛍光でゲーティングした。カウンティングビーズを、SSC対FL1蛍光でゲーティングした。生B細胞/ウェルの数を、カウンティングビーズを使用する洗浄による損失について正規化した。溶解パーセントは、処理試料中の正規化された生細胞の数/ウェルを未処理試料中の平均正規化された生細胞の数/ウェルから割ることによって算出し、得られた比率を1から差し引き、結果に100を乗じることにより算出した。データを、ソフトウェアプログラムPrism、version7(GraphPad)を使用してさらに解析した。抗体濃度(pM)を、X=log(X)を使用して変換し、可変傾斜4パラメータロジスティックフィット[アゴニスト対ログ(X)]を使用して曲線に適合させた。EC50値を曲線適合から計算した。
【0200】
【0201】
(表6)IgM抗CD20親和性が低減した変異体のTDCC活性
【0202】
より高いCD20密度のRamos細胞では、N93D及びN93E IgM変異体は、高アビディティーIgMとして測定可能なTDCC活性(約0.1~0.7nMのEC50)を示した(
図4C)。対照的に、より低いCD20密度のCA46細胞では、N93D及びN93E IgM変異体は、測定可能なTDCC活性を示さなかった(
図4A)。N93E変異体は、0.14nMの中程度のEC50で正常な健常なB細胞の最大27%を殺滅させ、N93D変異体は、目立ったTDCC活性を示さなかった(
図4B)。
【0203】
本開示の広がり及び範囲は、上述の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物に従ってのみ定義されるべきである。
【0204】
【配列表】
【国際調査報告】