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特表2022-549207真菌性髄膜脳炎誘発の血液脳関門通過および脳内生存関連遺伝子の用途
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  • 特表-真菌性髄膜脳炎誘発の血液脳関門通過および脳内生存関連遺伝子の用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】真菌性髄膜脳炎誘発の血液脳関門通過および脳内生存関連遺伝子の用途
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/18 20060101AFI20221116BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C12Q1/18
G01N33/15 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517840
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 KR2020012663
(87)【国際公開番号】W WO2021054786
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0114797
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519157118
【氏名又は名称】エムティックスバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AMTIXBIO CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】A-513,11,Beobwon-ro 11-gil, Songpa-gu, Seoul 05836 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】バン,ヨン-ソン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジョン スン
(72)【発明者】
【氏名】イ,キョン-テ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジュヒョン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ07
4B063QQ79
4B063QQ98
4B063QR68
4B063QR76
(57)【要約】
本発明は、血液脳関門(Brain-blood barrier)通過に関与するタンパク質の量または活性を測定する抗真菌剤をスクリーニングする方法、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物、その組成物を含む診断用キット、及び前記タンパク質に対する阻害剤を含む治療用医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌の血液脳関門(BBB)通過阻害剤をスクリーニングする方法であって、
(a)Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hobi、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質を含む、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に解析する試料を接触させる工程;
(b)前記タンパク質の量または活性を測定する工程;及び
(c)前記(b)工程におけるタンパク質の量または活性が下方調節されたことが測定された場合に、前記試料が真菌の血液脳関門(BBB)通過阻害剤であると判定する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記(a)および(b)工程が、30℃~40℃で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法に従ってスクリーニングされた阻害剤を含む、抗真菌用組成物。
【請求項4】
前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)およびリボザイムのいずれか1つ以上である、請求項3に記載の抗真菌用組成物。
【請求項5】
前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNAまたはこれらを含むベクターである、請求項3に記載の抗真菌用組成物。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項に記載の抗真菌用組成物を薬理学的有効成分として含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の予防、治療、または予防および治療するための医薬組成物。
【請求項7】
アゾール系または非アゾール系抗真菌剤をさらに含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記アゾール系抗真菌剤は、フルコナゾール(fluconazole)、イトラコナゾール(itraconazole)、ボリコナゾール(voriconazole)およびケトコナゾール(ketoconazole)のいずれか1つ以上である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記非アゾール系抗真菌剤は、アンフォテリシンBまたはフルジオキソニル(fludioxonil)である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
化粧用組成物である、請求項3~5のいずれか一項に記載の抗真菌用組成物。
【請求項11】
細菌または真菌の血液脳関門通過阻害剤をスクリーニングする方法であって、
Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびFjj1からなる群から選択されたいずれか1つ以上の血液脳関門通過関連タンパク質で、解析しようとする試料を処理し;及び
前記タンパク質のいずれか1つ以上の量または活性を解析することを含む、前記方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法に従ってスクリーニングされた阻害剤を含む抗真菌用組成物。
【請求項13】
前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)およびリボザイムのいずれか1つ以上である、請求項11に記載の抗真菌用組成物。
【請求項14】
前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、またはこれらを含むベクターである、請求項11に記載の抗真菌用組成物。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか一項に記載の抗真菌用組成物を薬理学的有効成分として含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の予防、治療、または予防および治療するための医薬組成物。
【請求項16】
化粧用組成物である、請求項12~4のいずれか一項に記載の抗真菌用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門(Brain-blood barrier、「BBB」という)通過に関与するタンパク質の量または活性を測定することを含む抗真菌剤スクリーニング方法に関する。また、本発明は、髄膜脳炎(meningoencephalitis)またはクリプトコッカス症(cryptococcosis)診断用バイオマーカー組成物、その組成物を含む診断用キット、および前記タンパク質に対する阻害剤を含む治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)は、土壌、木、及び鳥類の糞便を含む様々な自然環境に分布し、その感染源が多様で、下等真核細胞から水生動物および陸生動物に至るまで多くの種類を宿主とする真菌病原体である。クリプトコッカス・ネオフォルマンスは、真菌性髄膜脳炎の主な死亡原因の一つであって、全世界的に毎年約百万人の新規感染者および約六十万人の死亡者をもたらすことが知られている。しかし、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症を治療する治療法として利用されている療法が限られているのが実情である。
【0003】
一方、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの病原性メカニズムを理解するために、過去数十年間に亘って幅広い研究が行われてきた。個々の遺伝子/タンパク質の機能を解析するための努力のみならず、近年、大規模な遺伝子欠失変異体ライブラリーの系統的解析により多くの病原性関連シグナル要素が追加で発見された。クリプトコッカス・ネオフォルマンスの病原性メカニズムにおいて、BBB通過および増殖は、クリプトコッカス・ネオフォルマンスが哺乳類の脳組織に致命的損傷を与える重要な要因の1つである
【0004】
それにもかかわらず、クリプトコッカス・ネオフォルマンスのBBB通過と脳感染を制御するとして知られている因子、およびそれを制御する複雑なシグナル伝達経路は、まだ明らかにされていない。このようなことから、クリプトコッカス・ネオフォルマンスのBBB通過及び脳感染の制御に関連して、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの病原性を制御するシグナル及び新陳代謝のネットワークを完全に理解し、新たな抗真菌性のターゲット及び薬物の開発が必要であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抗真菌剤スクリーニング方法を提供することである。
本発明の他の目的は、併用投与用抗真菌剤スクリーニング方法を提供することである。
本発明のまた他の目的は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物を提供することである。
【0006】
本発明のまた他の目的は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用キットを提供することである。
本発明のまた他の目的は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症治療用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に解析する試料を接触させ;(b)前記標的タンパク質の量または活性を測定し;及び(c)前記工程における抗真菌剤標的タンパク質の量または活性が下方調節されたことが測定された場合に、前記試料が抗真菌剤であると判定する工程を含む抗真菌剤スクリーニング方法であって、前記標的タンパク質は、血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質である、抗真菌剤スクリーニング方法を提供する。これに関連する一実施形態において、前記抗真菌剤は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症を治療、予防、または治療および予防するための抗真菌剤であり得る。これに関連する他の一実施形態において、前記(a)および(b)工程は、好ましくは30℃~40℃で行うことができる。これに関連するまた他の一実施形態において、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1およびJjj1からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質であってもよい。
【0008】
これに関連するまた他の一実施形態において、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質のうち、Cex1、Alk1、Pbs2、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Vrk1、Gal83、Irk2、Hap2、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、及びHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、血液脳関門(BBB)接着に関連するタンパク質であり;前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質のうち、Alk1、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Gal83、Urk1、Irk2、Vrk1、Ada2、Hap2、Sre1、Pdr802、およびHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、脳内部生存関連タンパク質である。
【0009】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、併用投与用抗真菌剤をスクリーニングする方法であって、(a)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に抗真菌剤を接触させ、前記タンパク質の量または活性を測定する第1の測定工程;(b)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に解析する試料及び前記抗真菌剤を接触させ、前記タンパク質の量または活性を測定する第2の測定工程;及び(c)第1及び第2の測定工程における測定値を比較して、第2の測定工程における測定値が第1の測定工程における測定値よりも下方調節された場合に、前記試料が併用投与用抗真菌剤であることを判定することを含む。これに関連する一実施形態において、前記工程(a)の抗真菌剤は、例えば、フルコナゾール(fluconazole)、イトラコナゾール(itraconazole)、ボリコナゾール(voriconazole)およびケトコナゾール(ketoconazole)からなる群から選択される1つ以上の抗真菌剤であってもよい。これに関連するまた他の一実施形態において、前記非アゾール系抗真菌剤、例えば、アンフォテリシンBまたはフルジオキソニル(fludioxonil)であってもよい。
【0010】
これに関連するまた他の一実施形態において、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1およびJjj1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質であってもよい。これに関連するまた他の一実施形態において、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質のうち、Cex1、Alk1、Pbs2、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Vrk1、Gal83、Irk2、Hap2、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、及びHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、血液脳関門(BBB)接着に関連するものであり;前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質のうち、Alk1、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Gal83、Urk1、Irk2、Vrk1、Ada2、Hap2、Sre1、Pdr802およびHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、脳内部生存に関連するタンパク質である。本実施形態の範囲に属するまた他の一実施形態において、前記併用投与用抗真菌剤は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症を予防、治療または予防および治療するためのものであってもよい。
【0011】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか1つ以上の血液脳関門通過関連タンパク質を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物を提供する。これに関連する一実施形態において、本発明は、前記血液脳関門通過関連タンパク質のいずれか1つ以上のタンパク質の量または活性が下方調節された場合に髄膜脳炎またはクリプトコッカス症と診断することを特徴とする、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物を提供する。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用キットを提供する。
【0012】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)のCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択される一つ以上の血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する阻害剤を含む、抗真菌用医薬組成物を提供する。これに関連する一実施形態において、前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体(antibody)、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)およびリボザイム(ribozyme)のいずれか1つ以上であってもよい。これに関連するまた他の一実施形態において、前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisenseoligonucleotide)、siRNA、shRNA、miRNA、またはそれらを含むベクターであってもよい。これに関連する一実施形態において、本発明は、前記医薬組成物を含み、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の治療、予防、または治療および予防するための医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、真菌の血液脳関門(BBB)通過阻害剤をスクリーニングする方法であって、(a)Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか一つ以上のタンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に解析するサンプルを接触させる工程;(b)前記タンパク質および/または前記タンパク質をコードする遺伝子の量または活性を測定する工程;及び(c)前記(b)工程において、タンパク質および/または遺伝子の量または活性が下方調節されたことが測定された場合に、前記試料が真菌の血液脳関門(BBB)通過阻害剤であると判定する工程を含む、真菌の血液脳関門(BBB)通過阻害剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0014】
これに関連する一実施形態において、前記(a)および(b)工程を30℃~40℃で行うことができる。これに関連する本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、前記方法に従ってスクリーニングされた阻害剤を含む抗真菌用組成物を提供し、前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)およびリボザイムのいずれか1つ以上であってもよい。また、前記阻害剤は前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisenseoligonucleotide)、siRNA、shRNA、miRNA、またはこれらを含むベクターであってもよい。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、前記抗真菌用組成物を薬理学的に有効な成分として含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の予防、治療、または予防および治療するための、抗真菌用医薬組成物である。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、前記抗真菌用組成物を含む化粧用組成物を提供する。
【0015】
本発明のまた他の一実施形態において、本発明は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか1つ以上の血液脳関門通過関連タンパク質またはこれらのタンパク質をコードする遺伝子に解析しようとする試料を処理し;及び前記タンパク質のいずれか1つ以上のタンパク質の量または活性を解析する、または前記遺伝子のいずれか1つ以上の遺伝子の量または活性を解析することを含み、細菌または真菌の血液脳関門通過阻害剤をスクリーニングする方法を提供する。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、前記方法に従ってスクリーニングされた阻害剤を含む抗真菌用組成物を提供する。
【0016】
この場合、前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)及びリボザイムのいずれか一つ以上であってもよい。また、前記阻害剤は、前記血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、miRNA、またはそれらを含むベクターであってもよい。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、前記抗真菌用組成物を薬理学的有効成分として含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の予防、治療、または予防および治療するための医薬的組成物を提供する。これに関連するまた他の一実施形態において、本発明は、前記抗真菌用組成物を含む化粧用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血液脳関門通過関連タンパク質は、クリプトコッカス・ネオフォルマンス感染による髄膜脳炎またはクリプトコッカス症緩和および治療に対する新たなターゲットとして活用することができ、前記タンパク質を抑制することができる抗真菌剤または薬物スクリーニングに効果的に活用することができる。本発明の効果は、前記効果に制限されるものではなく、本発明の詳細な説明または請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能なあらゆる効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】肺および脳-STM解析を比較するための模式図を示す。
図2】鼻腔吸引マウスを通じた肺―STMスコアおよび静脈内注射マウスによる脳―STMスコアを示す。
図3】ナノストリング(NanoString)解析のための模式図を示す。
図4a】毒性関連遺伝子、肺―毒性遺伝子、脳―毒性遺伝子、およびコア毒性遺伝子の遺伝子発現の折り畳み変化ヒートマップを示す。
図4b】同上
図5】トランスウェル(transwell)を用いたin vitro 血液脳関門(BBB)通過解析結果を示す。
【0019】
図6】血液脳関門通過関連タンパク質の内皮細胞接着および血液脳関門通過の有無を解析した結果を示す。
図7】血液脳関門通過関連タンパク質のナノストリング群集化を示す。
図8】ICV(intracerebroventricular)投与に関連して模式図で示す。
図9】ICV-STMスコアを通じて脳における生存に関連するタンパク質を解析した結果を示す。
図10】脳感染関連シグナルネットワークを模式図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、(a)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)細胞に解析する試料を接触させる工程;(b)前記標的タンパク質の量または活性を測定する工程;(c)前記工程における抗真菌剤標的タンパク質の量または活性が下方調節されたことが測定された場合に、前記試料が抗真菌剤であると判定する工程を含む、抗真菌剤スクリーニング方法であって、前記標的タンパク質は、血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質である、抗真菌剤スクリーニング方法に関するものである。
【0021】
本発明において、「抗真菌剤」は、真菌類(カビ、酵母及びキノコ)の繁殖を抑制するものであり、無機系抗真菌剤、有機系天然物抽出系抗真菌剤、有機系脂肪族化合物抗真菌剤及び有機系芳香族化合物抗真菌剤を含む。無機系抗真菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウムに代表される塩素化合物、過酸化水素に代表される過酸化物ホウ酸、ホウ酸ナトリウムに代表されるホウ酸化合物、硫酸銅に代表される銅化合物、硫酸亜鉛、塩化亜鉛に代表される亜鉛化合物、硫黄、多硫酸石灰、水和硫黄に代表される硫黄系物、酸化カルシウムに代表されるカルシウム化合物、チオ硫酸ナトリウム、銀錯塩、硝酸銀に代表される銀化合物、その他、オキソ、ケイフッ化ナトリウムなどがあり、有機系天然物抽出系抗真菌剤としては、ヒノキチオール、モウソウチク抽出液、クレオソート油などがあるが、これに制限されるものではない。
【0022】
前記抗真菌剤は、髄膜脳炎 またはクリプトコッカス症を治療または予防するためのものであってもよいが、これらに制限されるものでない。
本発明の「髄膜脳炎」は、組織を取り囲む薄膜と脳の間もしくは脳組織内に発生する髄膜脳炎および/または脳実質の炎症性疾患を指す脳炎を含む疾患をいう。
前記髄膜脳炎は、真菌性髄膜脳炎、ウイルス性髄膜脳炎、結核性髄膜脳炎などがある。真菌性髄膜脳炎の場合、呼吸器を介して感染し、中枢神経系に侵入し、真菌類および哺乳類は、細胞構造が進化的に類似しており、真菌類のみのターゲット発掘が難しいので、効果的な抗真菌剤を開発することが難しい疾患の一つである。
【0023】
前記脳炎は、原因によって感染性、血管炎性、腫瘍性、化学性、特発性などに分類され、病因に対して感染性脳炎、結核性脳炎などに分類することができる。脳炎は、早期診断による治療をしなかった場合、致死率が70~80%程度と高い疾患の一つである。
本発明の「クリプトコッカス症」は、クリプトコッカス・ネオフォルマンスという酵母型真菌による感染疾患である。主に免疫力が低下している人に多く見られ、呼吸器症状を伴った肺感染が起こったり、中枢神経系に感染が拡散し、髄膜脳炎やクリプトコッカス症などの中枢神経系感染が起こることがある。
【0024】
本発明において、「試料」は、遺伝子の発現量に影響を及ぼしたり、又はタンパク質の量または活性に影響を及ぼすか否かを検査するためにスクリーニングに用いられる未知の候補物質を意味するものであり、核酸、ペプチド、ポリペプチド、化学物質および天然物抽出物が含まれるが、これらに制限されるものではない。
【0025】
本発明において、タンパク質の量または活性の変化は、二次元電気泳動、バイオチップまたはタンパク質に特異的に結合することができる抗体を用いて測定することができ、前記バイオチップは、タンパク質チップまたは核酸アレイなどがある。また、前記タンパク質に特異的に結合できる抗体を用いて測定する方法には、ウエスタンブロット(western blot)、ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)、比色法(colorimetric method)、電気化学法(electrochemical method)、蛍光法(fluorimetric method)、発光法(luminometry)、粒子計数法(particle counting method)、肉眼測定法(visual assessment)及びシンチレーション計数法(scintillation counting method)からなる群から選択される方法などがあり得るが、これらに制限されず、公知の様々な解析方法を介して実施することができる。
【0026】
本発明において「血液脳関門(BBB)」は、脳脊髄液と血液を分離するバリアであり、脳毛細血管の内皮細胞が密着結合(tight junction)を形成して細胞間溶質の移動を妨げ、高分子と親水性物質の通過を防ぐことを意味する。
【0027】
本発明において、「血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質」は、このような血液脳関門に細菌及び/又は真菌類等の菌が通過するのに直間接的に関与するキナーゼ、転写因子等のタンパク質を全て指す。
本発明では、髄膜脳炎を引き起こすクリプトコッカス・ネオフォルマンスによる一連の感染過程中、これまで明らかになっていない血液脳関門通過及び増殖に関与するタンパク質について究明した。そこで、本発明者らは、血液脳関門の接着および通過に関与する14個のキナーゼCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、および9個の転写因子Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、Jjj1の合計23個のタンパク質を明らかにし、これらの髄膜通過関連タンパク質を用いた抗真菌剤スクリーニング方法を提供するものである。
【0028】
具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Srel、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、in vitro BBBシステムを介して脳感染関連突然変異転写因子およびキナーゼの血液脳関門の移動有無を確認したところ、14個のキナーゼCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snfl、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、および9個の転写因子Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、Jjj1が血液脳関門通過において必要なタンパク質であることが確認された(図5)。
【0030】
具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質のうち、Cex1、Alk1、Pbs2、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Vrk1、Gal83、Irk2、Hap2、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、およびHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、血液脳関門の接着に関与することができる。
【0031】
本発明の一実施形態において、クリプトコッカス・ネオフォルマンスは、血液脳関門を通過する際に最初に内皮細胞の表面接着工程を含むので、前記血液脳関門通過関連タンパク質が内皮細胞の単分子接着能力にも関与するかどうかを確認したところ、ほとんどのタンパク質が内皮細胞の接着にも関与することが確認された。このことは、内皮細胞への接着が、クリプトコッカス・ネオフォルマンスが効率的に血液脳関門を通過するための重要な前提条件の一つであることを示唆している(図6)。
【0032】
また、具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質であるAlk1、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Gal83、Urk1、Irk2、Vrk1、Ada2、Hap2、Sre1、Pdr802、およびHob1からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、脳内部生存にも関連するタンパク質であってもよい。
前記「脳内生存関連タンパク質」は、脳内でクリプトコッカス・ネオフォルマンスを増殖させたり、または増殖に必要なものと機能的に関連したタンパク質などの全部を含む。
【0033】
本発明の一実施形態において、脳内生存に関与するタンパク質を確認するために、クリプトコッカス・ネオフォルマンス菌株でマウスを感染させた後、感染した脳を回収して確認したところ、Alk1、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Gal83、Vrk1、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Sre1、Pdr802、およびHob1の14個のタンパク質が血液脳関門通過および脳内生存両方に関与するタンパク質であることが確認された。また、20個のキナーゼ(Tlk1、Trm7、Crk1、Mak3201、Yck2、Arg5/6、Kin1、Mpk1、Mps1、Kic1、Yak1、Bud32、Bck1、Utr1、Fpb26、Pos5、Mec1、Ipk1、Hog1、Swe102)と4個の転写因子(Bzp2、Zfc3、Gat201、Nrg1)を含む合計24個のタンパク質が血液脳関門通過には関与しないが、脳内でクリプトコッカス・ネオフォルマンス菌株が増殖に関与するタンパク質であることが確認された(図9)。
以上の結果から、クリプトコッカス・ネオフォルマンス菌株が血液脳関門を通過し、脳内で増殖するために重複でかつ別個のシグナル伝達経路を利用することが分かる。
【0034】
前記血液脳関門通過および/または脳内生存に関与するタンパク質は、細胞周期制御、tRNA移動、細胞壁および膜保全、ストレス応答および適応、脂質とステロール代謝の関与、液胞輸送、ヘム媒介呼吸制御、リボソーム生合成、炭素利用、グルコース新生合成、カプセル生合成、リン酸塩感知および物質代謝に関与し、Torシグナル伝達などの生物学的プロセス及びシグナル伝達経路に関与することができる。
【0035】
例えば、前記血液脳関門の通過に関与するタンパク質の生物学的機能およびシグナル伝達経路には、Alk1の細胞周期制御関与;Cex1のtRNA移動関与;Yfh701の細胞壁および膜保全関与;Pbs2のストレス反応と適応関与;Pkh201、Sre1およびHob1の脂質とステロール物質代謝関与;Hap2のヘム-媒介呼吸制御関与;Vrk1、Sch9およびJjj1のリボソーム生合成関与;Pho4のリン酸塩検出および物質代謝関与;Sch9のTorシグナル伝達関与などがある。
【0036】
また、例えば、前記脳内生存関連タンパク質の生物学的機能およびシグナル伝達経路には、Snf1、Gal83、Yck1、Fpb26のグルコース検出および物質代謝関与;Kin1の分極性細胞外排出関与;Urk1のピリミジンリボヌクレオチド回収経路関与;Pos5のミトコンドリア機能関与;Trm7のtRNA修飾関与;Mak3201の二本鎖RNA含有粒子の複製または維持関与;Crk1(酵母Ime2オーソロガスタンパク質)の減数分裂の活性化;Alk1、Swe102、Hsl101、およびSsn3の細胞周期および形態制御;Pkh201(酵母Pkh2オーソロガスタンパク質);Ada2のヒストンアセチル基転移酵素活性化関与;Hap2のヘム-媒介呼吸制御関与;及びVrk1のリボソーム生合成関与などがある。
【0037】
これらのうち、Pkh201及びAlk1を含む2つのキナーゼ並びにHap2、Sre1、Hob1及びPdr802を含む4つの転写因子は、血液脳関門通過と接着及び脳内部での生存全部に必要であり、これは脂質物質代謝、細胞周期制御、およびヘム-媒介呼吸制御が血液脳関門通過と接着、および脳内での生存などの全過程において重要であることを示唆している。
【0038】
また、具体的には、前記抗真菌剤スクリーニング方法において、(a)及び(b)工程は、30℃~40℃の間で行ってもよい。
本発明のまた他の態様では、(a)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス細胞に抗真菌剤を接触させ、前記タンパク質の量または活性を測定する第1の測定工程;(b)抗真菌剤標的タンパク質を含むクリプトコッカス・ネオフォルマンス細胞に解析する試料および前記抗真菌剤を接触させ、前記タンパク質の量または活性を測定する第2の測定工程;及び(c)第1及び第2の測定工程における測定値を比較して、第2の測定工程における測定値が第1の測定工程における測定値よりも下方調節されるた場合に、前記試料が併用投与用抗真菌剤であることを判定する併用投与用抗真菌剤スクリーニング方法であって、前記標的タンパク質は、血液脳関門通過関連タンパク質である併用投与用抗真菌剤スクリーニング方法に関する。
【0039】
本発明において「併用投与」とは、複数の薬を一緒に投与する場合、その効果が単独投与した場合よりも上昇する場合を指し、本発明で既存の公知の抗真菌剤を単独で投与するときよりスクリーニングした抗真菌剤を一緒に投与したとき、抗真菌効果が上昇する場合を意味する。
【0040】
前記血液脳関門通過関連タンパク質は、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzcl、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれかであってもよい。
【0041】
具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質のうち、Cex1、Alk1、Pbs2、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Vrk1、Gal83、Irk2、Hap2、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1およびHob1からなる群からなる選択されるいずれかのタンパク質は、血液脳関門の接着に関与することができる。
【0042】
また、具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質のうち、Alk1、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Gal83、Urk1、Irk2、Vrk1、Ada2、Hap2、Sre1、Pdr802及びHob1の14個からなる群から選択されるいずれかのタンパク質は、脳内生存にも関連するタンパク質であってもよい。
【0043】
また、具体的には、前記(a)工程における抗真菌剤は、アゾール系または非アゾール系抗真菌剤であってもよい。
より具体的には、前記アゾール系抗真菌剤は、フルコナゾール(fluconazole)、イトラコナゾール(itraconazole)、ボリコナゾール(voriconazole)およびケトコナゾール(ketoconazole) のいずれか一つ以上であってもよい。
また、前記非アゾール系抗真菌剤は、アンフォテリシンBまたはフルジオキソニル((fludioxonil)であってもよい。
前記併用投与用抗真菌剤は、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症を治療するためのものであってもよい。
【0044】
本発明のまた他の態様では、Cex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzcl、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか1つ以上の血液脳関門通過関連タンパク質を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物に関する。
前記「髄膜脳炎」または「クリプトコッカス症」についての説明は、前述のとおりである。
【0045】
本発明において、「髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー」は、血液脳関門通過関連タンパク質の量または活性レベル差を利用して髄膜脳炎またはクリプトコッカス症であるか否かを診断できることを特徴とする。
本発明において、「診断」とは、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症であるか否かを決定することを意味し、具体的には血液脳関門通過関連タンパク質の量または活性のレベルが高いか低いかを比較することにより判断することができる。
具体的には、前記血液脳関門通過関連タンパク質のいずれか1つ以上のタンパク質の量または活性が下方調節される場合に、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症と診断することができる。
【0046】
例えば、血液脳関門通過タンパク質であるCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Srel、Fzcl、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択されるいずれか一つ以上のタンパク質の量または活性レベルを測定して下方調節された場合、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症と診断することができる。
【0047】
前記バイオマーカー組成物は、血液脳関門通過関連タンパク質のレベルを測定することができる製剤を含むことができ、前記製剤は、前記23個の血液脳関門通過関連タンパク質それぞれのタンパク質の量または活性を測定することができる。
本発明のまた他の態様では、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用バイオマーカー組成物を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症診断用キットに関するものである。
【0048】
前記キットは、血液脳関門通過関連タンパク質の量または活性を測定することができる製剤、測定に使用される他の構成成分、溶液または装置などを制限なく含むことができ、キットを使用するための説明書を追加することができる。
前記キットは、試料を担持することができる通常のウェル形態のマイクロタイタープレートを含むことができる。前記ウェル内には、試料および1つ以上のバイオマーカーを吸収することができる多孔質支持体を含むことができ、このような支持体は従来技術で公知されており、また、市販されているので、購入が可能である。
【0049】
本発明のまた他の態様では、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)のCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、Pkh201、Met3、Hsl101、Snf1、Sch9、Irk5、Vrk1、Gal83、Urk1、Irk2、Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、Sre1、Fzc1、Pdr802、Fzc9、Hob1、およびJjj1からなる群から選択される1つ以上の血液脳関門通過関連タンパク質に対する阻害剤を含む抗真菌用医薬組成物に関する。
前記「髄膜脳炎」または「クリプトコッカス症」は、既に上述したとおりである。
【0050】
本発明において、「阻害剤」は、血液脳関門を通過する、または血液脳関門を通過する前に内皮細胞接着に直間接的に関与するキナーゼまたは転写因子の発現または活性を低下ささせたり、抑制したりする核酸、ペプチド、ポリペプチド、化学物質または天然物質などを指す。
具体的には、前記阻害剤は、血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質に対する抗体、優性ネガティブ変異(Dominant-negative mutation)およびリボザイムのいずれか1つ以上であってもよい。
【0051】
また、具体的には、前記阻害剤は、血液脳関門(BBB)通過関連タンパク質をコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(antisenseoligonucleotide)、siRNA、shRNA、miRNAまたはこれらを含むベクターであってもよいが、これらに制限されるものではなく、前記遺伝子の発現を抑制することができる阻害剤を全部含む。
【0052】
本発明のまた他の態様では、前記抗真菌用医薬組成物を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症治療または予防用医薬組成物に関する。
「抗真菌用医薬組成物」、「髄膜脳炎」および「クレプトコッカス症」に関する説明は、上述のとおりである。
【0053】
本発明に係る医薬組成物は、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続または遅延放出を呈するように当技術分野で周知の方法を用いて医薬剤形として調製することができる。剤形の調製において、本発明に係る医薬組成物は、本発明の化合物の活性を阻害しない範囲内で薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。
【0054】
前記薬学的に許容可能な担体は、通常使用されるもの、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油などを含むが、これらに制限されない。また、本発明の医薬組成物は、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤、その他の薬学的に許容可能な添加剤を含むことができる。
【0055】
本発明に係る医薬組成物の投与は、薬学的に有効な量を投与することができる。「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比で疾患を予防または治療するのに十分な量を意味する。有効用量レベルは、製剤化方法、患者の状態および体重、患者の性別、年齢、疾患の程度、薬物形態、投与経路および期間、排泄速度、反応感度などの要因に応じて当業者によって多様に選択することができる。有効量は、当業者に認識されているように、処理の経路、賦形剤の使用、および他の薬剤と共に使用する可能性に応じて変わり得る。しかし、好ましい効果のために、経口投与剤の場合、一般に成人に1日に体重1kg当たり、本発明の組成物を1日0.0001~100mg/kg、好ましくは0.001~100mg/kg投与することができるが、この投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を制限するものではない。
【0056】
本発明の医薬組成物は、マウス、家畜、ヒトなどの哺乳動物に様々な経路を介して投与することができる。具体的には、本発明の医薬組成物は、経口または非経口投与(例えば、塗布または静脈内、皮下、腹腔内注射)することができるが、経口投与が好ましい。膣炎の予防および治療のためには膣内に投与することができる。経口投与のための固形製剤には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、軟質カプセル剤、丸剤などが含まれ得る。経口用の液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、エアロゾル等が該当し、通常使用される単純希石剤である水、リキッドパラフィン以外にも様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれ得る。非経口投与のための製剤としては、それぞれ通常の方法により滅菌された水溶液、液剤、非水性溶剤、懸濁剤、エマルジョン、点眼剤、眼軟膏剤、シロップ、坐剤、エアゾールなどの外用剤及び滅菌注射剤の形態で製剤化して使用することができ、好ましくはクリーム、ゲル、パッチ、噴霧剤、軟膏剤、硬膏剤、ローション剤、リニメント剤、眼軟膏剤、点眼剤、パスタ剤またはカタプラズマ剤の医薬組成物を調製して使用することができるが、これに制限されるものではない。局所投与のための製剤は、臨床的処方に応じて無水形または水性形であってもよい。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどを用いることができる。坐剤の基剤としては、ウィテプソール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリンジ、グリセロゼラチンなどを用いることができる。
【0057】
本発明のまた他の一態様では、前記髄膜脳炎またはクリプトコッカス症治療または予防用医薬組成物を対象体に投与する工程を含む、髄膜脳炎またはクリプトコッカス症の治療方法を提供する。
本発明における「髄膜脳炎」、「クリプトコッカス症」などの用語は、上述のとおりである。
【0058】
前記対象体は動物を指し、一般に本発明の化合物を用いた治療で有益な効果を奏することができる哺乳動物であってもよい。そのような対象体の好ましい例は、ヒトなどの霊長類を含むことができる。また、そのような対象体には、糖尿病の症状を有したり、そのような症状を有する危険性のある対象体を全部含むことができる。
以下、本発明を実施形態により詳細に説明する。ただし、下記実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記実施形態によって制限されるものではない。
【0059】
実施形態1.菌株及び培養条件
本発明では、髄膜脳炎誘発に関連する転写因子およびキナーゼを解析するために用いられた菌株は、以下の表1に示す通りである。クリプトコッカス・ネオフォルマンスは、特に断りがなければ、酵母エキス-ペプトンデキストロース(Yeast Extract Peptone Dextrose、YPD)培地で培養した。

【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【表1-19】
【表1-20】
【表1-21】
【0060】
実験例1.クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)キナーゼ及び転写因子の変異体ライブラリーを用いたSTMベースのマウスの肺および脳感染解析
肺および脳感染に必要なキナーゼおよび転写因子を同定するために、クリプトコッカス・ネオフォルマンスキナーゼおよび転写因子の変異体ライブラリーを用いて、各突然変異に対する肺―STMスコアと脳―STMスコアを比較した。クリプトコッカス・ネオフォルマンスキナーゼおよび転写因子の変異体ライブラリーの作製方法は、韓国公開特許第10-2017-0054190号を参照することができる。
【0061】
46個の固有の署名タグ付きNAT選択マーカーを有するキナーゼおよび転写因子の変異体ライブラリー(4個グループの転写因子、5個グループのキナーゼ変異体ライブラリー)を用いて高速大容量(high-throughput)のマウスの脳感染性アッセイを行った。ste50突然変異を毒性のある対照株として使用した。
ライブラリーの各グループは、YPD培地に30℃で16時間それぞれ培養し、PBSで3回洗浄し、各突然変異の濃度を10cells ml-1に調節し、各試料50μlを1つのチューブに集めた。
【0062】
各変異体ライブラリーのインプット(input)ゲノムDNAを用意するために、突然変異プール200mlをYPDプレートに広げ、30℃で3日間培養した後、掻き取った。アウトプット(output)ゲノムDNAサンプルのために突然変異プール50μl(マウス当たり5×10)を7週齢の雌A/Jマウス(日本SLC,Inc.)に静脈内注射(尾静脈内)または脳室内(ICV)注入により感染させた。静脈注射は、尾静脈の膨張を刺激するために温かい(40℃)水中で実施をし、マウスは抑制装置で固定した。ICV注射の場合、マウスを2%トリブロモエタノール(20ml/kg、腹腔内注射、Sigma Aldrich)で麻酔させ、定位固定装置(David Kopf Instruments)上に置いた。対照または突然変異プールに、ハミルトンシリンジおよびポンプ(WPI)と共にNanoFil針(WIP)を用いて心室(前後方向、-0.2mm;側面、-0.1mm;腹部、-2.0mm)に注入した。感染したマウスは、感染7日後に犠牲にし、脳を回収して4mlのPBSで均質化させた後、200μlの試料を100mgml-1のクロラムフェニコールを含有するYPDプレートに広げ、30℃で2日間培養した後、掻き取った。全ゲノムDNAは、CTAB法で掻き取った入出力試料から抽出した。
【0063】
CFX96TMリアルタイム(Real-Time)PCR検出システム(Bio-Rad)を用いてタグ特異的プライマーで定量的PCR(Quantitative PCR)を行った後、STMスコアを計算した。STMスコアを決定するために、2-ΔΔCT方法によりゲノムDNA量の相対的変化を計算した。入力対出力試料の平均倍数の変化は、Logスコア(Log-(Ct、ターゲット-Ct、アクチン)出力-(Ct、ターゲット-Ct、アクチン)入力))で計算し、各キナーゼと転写因子に対して2つの独立した突然変異が確認された。
同じ方法を用いて鼻腔内に感染したマウス(感染後14日)から回収した肺を用いたキナーゼおよび転写因子に対して2つの独立した突然変異を確認し、その後、脳-STMスコアと肺-STMスコアを比較した。
【0064】
その結果、キナーゼの場合、合計34個のキナーゼが肺および脳感染両方に必要であることを確認し、コア毒性キナーゼであることを確認した。コア毒性キナーゼは、cAMPシグナル伝達経路のPka1、高浸透圧グリセロール応答(HOG)経路のSsk2およびHog1、細胞壁保存MAPK経路のBck1およびMpk1、アンフォールド(unfold)タンパク質応答(UPR)経路のIre1、液胞輸送経路のVps15、炭素利用経路のSnf1およびGal83、KEOPS/EKC複合体のBud32およびTOR(ラパマイシン標的)経路のYpk1、Gsk3およびIpk1があり、これらの既知のタンパク質を除いて、コア毒性キナーゼは生体内での機能が不明なIrk2およびIrk5を確認した。Irk2およびIrk5は、それぞれAPHリン酸転移酵素、ジアシルグリセロールリン酸化酵素-様キナーゼおよびAGC/YANKタンパク質キナーゼファミリーに属し、IRK5の欠失はメラニン生成を著しく減少させるが、カプセル生成を劇的に向上させるので、メラニン形成の欠陥は、毒性に対するIrk5の役割が原因である可能性があることを示す(図2)。
【0065】
また、転写因子の場合、計9個の転写因子が肺及び脳感染に全部必要であることを確認し、コア毒性転写因子であることを確認した。コア毒性転写因子は、ステロール生合成経路のSre1およびHob1、カプセル生合成経路のGat201およびNrg1を含むことを確認した。また、真菌特異的なZn-Cys型DNA結合ドメインを含むPdr802、Fzc1、Fzc9、およびFzc31もコア毒性因子であることを確認した。具体的には、FZC1の欠失は39℃で(37℃ではない)成長および繁殖能力を低下させるが、カプセルおよびメラニン生成は増加し、FZC9の欠失は繁殖および過酸化水素に対する耐性を減少させた。FZC31の欠失は、高温および酸化ストレス下での成長および繁殖能力を低下させるが、メラニン生成は増加させることが確認された。
【0066】
前記の結果は、キナーゼ遺伝子の欠失が転写因子の遺伝子欠失よりも肺および脳-STMスコアにより劇的な変化をもたらしており、これはキナーゼが一般にシグナル経路において転写因子の上流で機能するので、このような結果は、重複的で、かつ、別々のシグナル成分の他のクリプトコッカス感染工程に関与することを示唆する。
【0067】
実験例2.クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)感染関連毒性遺伝子、キナーゼおよび転写因子に対するin vivo遺伝子発現プロファイリング
感染工程の依存シグナル伝達経路に対する解析を行うために、58個の毒性関連因子、180個の転写因子、および183個のキナーゼに対して、ナノストリングエンカウンターベースのin vivo 転写解析(NanoString nCounter-based in vivo transcription analysis)を実施した。
【0068】
まず、マウスにクリプトコッカス・ネオフォルマンスH99株を鼻腔内に感染させ、感染した肺、脳、腎臓および脾臓組織を感染後、3日目、7日目、14日目、および21日目に回収した。全宿主と病原体RNAを各感染組織から単離し、ナノストリング解析に使用した。病原体-特異的mRNA転写産物を8つのハウスキーピング遺伝子の平均発現レベルに正規化し、設計されたプローブを用いた病原体-特異的mRNA転写産物の定量化に使用した。様々な組織および感染日における各標的遺伝子のin vivo 発現レベルを、基礎成長条件(30℃でYPD培地)下でin vitro 発現レベルと比較した。
【0069】
具体的には、6週齢の雌A/Jマウスに鼻腔吸引を通じて5×10細胞を感染させ、感染3日、7日、14日、または21日後に各グループの3匹のマウスの肺、脳、脾臓、および腎臓を取り出し、凍結乾燥させた。乾燥した器官を均質化し、トータルRNA抽出キット(easy-BLUE、Intron Biothnology)を用いて、トータルRNA(YPD培地で成長したベース試料から)を抽出した。C.neoformansトータルRNA(YPD培地で増殖したベース試料から)10ngまたはC.neoformans感染マウスの組織RNA10μgを含む試料を、製造メーカーの標準プロトコルに従って設計されたプローブコードセットと反応させた。
【0070】
計8つのハウスキーピング遺伝子ミトコンドリアタンパク質、CNAG_00279;微小管結合タンパク質、CNAG_00816;アルドース還元酵素、CNAG_02722;コピリン、CNAG_02991;アクチン、CNAG_00483;チューブリンベータチェーン、CNAG_01840、チューブリンアルファ-1Aチェーン、CNAG_03787;ヒストンH3、CNAG_04828を正規化に使用した。正規化されたデータをlogスコアに変換して倍数変化を表し、Morpheus(http://software.broadinstitute.org/morpheus)の平均結合と1マイナスピアソン(Pearson)相関関係を用いて群集化を行った。
【0071】
その結果、58個の細胞毒性関連遺伝子が如何に異に制御されるか確認し、ClG1とCFO1などの金属イオンの検出と吸収に関与する遺伝子は、全感染工程の他の組織で非常に高く上向き制御され、Cig1とCfo1クリプトコッカス・ネオフォルマンスの毒性に必須であることを確認した。また、CnMT1/2(メタロチオネイン)およびCTR4(銅担体)などの銅レギュロン遺伝子は、初期感染工程から後期感染工程まで、すべての感染組織において高度に上向き制御されることを確認した。また、2つの主要な毒性因子であるメラニン(LAC1)およびカプセル(CAP10、CAP59、CAP60、CAP64)の産生に関連する遺伝子は、感染中に別々に調節され、特にLAC1のin vivo 発現レベルが3~14日間増加し、21日目には減少することが確認された。これは、LAC1の誘導条件が造血性拡散にさらに有利であることを示唆する。CAP10、CAP59、CAP60およびCAP64は、全般的に低い発現レベルが示されたが、肺で7~21日間だけ弱く発現が増加した。
【0072】
また、キナーゼおよび転写因子のin vivo 転写プロファイリング解析の結果、感染の全過程において、183個のキナーゼおよび180個の転写因子の発現態様を確認した。肺がC.neoformans初期感染部位であることを反映して、特に14日後に、多くのキナーゼおよび転写因子遺伝子の発現が肺に誘導されることを確認した。肺以外の他の組織において特異的に発現された遺伝子はなく、一部の遺伝子は、感染工程の全体にわたって高い発現レベルまたは低い発現レベルを示すことを確認した。すなわち、病原性に関与するほとんどの遺伝子は、通常in vivoで高度に表現されていることがわかる。
【0073】
実験例3.血液脳関門(BBB)の接着及び通過に必要な転写因子及びキナーゼの同定
脳がクリプトコッカス・ネオフォルマンス感染の致命的な標的組織であるところ、脳感染に特異的に欠陥のある転写因子およびキナーゼSTM突然変異に集中し、以下の実験を行った。脳-STMスコアが肺-STMスコアと異なり、特に低い傾向を示すキナーゼおよび転写であるか否かは、それぞれ12個および10個であり、下記表3に示す通りである。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0074】
脳STMスコア変化が造血性拡散中に発生するかどうかを確認し、pho4Δ突然変異のみが血清型特異的糸状欠陥を示した。残りの突然変異のうち、一部は脳をカバーする血液脳関門通過に関連している可能性があると仮定して、前記12個のキナーゼおよび10個の転写因子が血液脳関門の接着および通過に必須であるかどうかを確認するために、in vitro BBBシステムを用いて実験を行った。
また、脳STMスコアおよび肺STMスコア両方低い傾向を示すキナーゼおよび転写因子は、それぞれ34個および9個であり、以下の表4に示される通りである。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【0075】
3-1.in vitro BBBシステム(in vitro BBBシステム)検証
in vitro BBBシステムを検証した。まずはクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans H99株)、非病原性のサッカロマイセス・セレビジア(Saccharomyces cerevisiae S288C)、および本発明において独自に構築したmpr1Δ変異株の血液脳関門通過能力を比較するために、24時間の間、前記菌株を培養した後、血液脳関門を通過できるかどうかを確認した。
【0076】
その結果、野生型クリプトコッカス・ネオフォルマンスの約10%が血液脳関門を通過したのに対し、S.cerevisiae(S288C)は、全く血液脳関門を通過できず、mpr1Δ突然変異体もほとんど血液脳関門を通過できなかったことが確認された(図5a)。また、TEER(trans-endothelial electrical resistance)測定の結果、有意な変化が見られず、なおかつクリプトコッカス・ネオフォルマンス細胞の脳血管障壁を通過する間、隣り合うHBMECsと結合する密着結合が影響されなかったことがさらに確認された。
このような結果は、発明者のin vitro BBBシステムが期待どおりに機能していたことを示唆する。
【0077】
3-2.in vitro BBBシステム(in vitroBBBシステム)を用いた血液脳関門の接着及び通過に必要な転写因子並びにキナーゼの同定
前記のようにBBBシステムを検証して確立した後、血液脳関門通過において選択された脳感染関連10個の転写因子、12個のキナーゼ突然変異および脳と肺感染全部において重要であることが明らかになった9個の転写因子と34個のキナーゼの中、37℃で糸状の欠陥のあるシグナル伝達経路を除いたCEX1、ALK1、PBS2、YFH701、PKH201、ABC1、TRM7、TLK1、MAK3201、CRK1、HAP2、ADA2、JJJ1、PHO4、ATF1、HOB5、STB4、CRZ1、ZFC3、MET3、HSL101、SNF1、SCH9、IRK5、VRK1、GAL83、URK1、IRK2、YAK1、HOG1、SSK2、DAK101、KIN1、PKA1、SRE1、FZC9、PDR802、FZC1、HOB1、FZC3、及びCAT201遺伝子変異株のシグナル伝達経路におけるコア毒性キナーゼおよび転写因子をトレンスウェル(transwell)ベースのin vitro BBBシステムを通じて確認するために以下の実験を行った。血液部位の上部区画と脳部位の下部区画とを分離するトランスウェル上にヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)をBBBスクリーニングに使用した。
【0078】
まず、内皮細胞培養は、hCMECM/D3細胞を、コラーゲン被覆された8μm多孔質膜(BD Falcon)または12ウェルプレート(BD Falcon)に5×10cells/mL密度で散らし、EGMTM-2(Longa)で維持させた。それから、翌日培地を2.5%ヒト血清に変え、4日間培養した。接種の24時間前に、培地を半強度の培地に変え、細胞を37℃および5%COで維持させた(transendothelial electrical resistance(TEER)around 200Ω/cm)。
【0079】
in vitro BBBスクリーニングのために、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)WTおよび欠失変異体、またはS.cerevisiae株の5×10細胞は、500μlのPBSに入れ、多孔質膜の上部に接種させた。COインキュベーター内で37℃で24時間インキュベートした後、膜を通過した細胞数をCFUで測定した。接着解析のために、接種した24時間培養皿をPBSで3回洗浄し、37℃のインキュベーターで30分間滅菌蒸留水と反応させてhCMEC/D3細胞を破壊して収集した。
【0080】
血液脳関門の移動または内皮細胞接着の程度は、WT算出数に対するCFUの割合で計算した。TEERは、酵母細胞の接種前および接種後のEVOM装置(World Precision Instruments)を用いて測定した。
【0081】
その結果、合計5つのキナーゼCex1、Alk1、Pbs2、Yfh701、およびPkh201、および4つの転写因子Ada2、Hap2、Pho4/Hlh3、およびJjj1が血液脳関門通過に必要であることを確認した(図5b)。さらに、血液脳関門通過欠陥の5つのキナーゼと4つのTF突然変異のHBMECsの単分子膜への接着能力を確認し、jjj1Δ、yfh701Δ、ada2Δ、およびpho4Δ突然変異を除くほとんどの突然変異は、HBMECsに対して接着力が減少していることが確認された(図6a)。
【0082】
また、ステロール生合成経路のSre1及びHob1、TOR経路のSch9、黄銅化経路のMet3、炭素利用経路のSnf1とGal83、リボソーム生合成経路のVrk1は、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの血液脳関門通過を促進させることが確認されており(図5c)、Hsl101、Irk2、Irk5、Urk1、Fzc1、Fzc9、およびPdr802もまた血液脳関門通過に重要であることが確認された。また、met3Δ、snf1Δ、vrk1Δ、gal83Δ、hsl101Δ、irk2Δ、sre1Δ、fzc9Δ、hob1Δ、pdr802Δ、およびfzc1Δ突然変異は、HBMEsの単分子膜に対して接着力が減少していることを示した(6b)。
【0083】
以上の結果から、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの効率的な血液脳関門通過において宿主細胞の接着が重要であることが分かり、クリプトコッカス・ネオフォルマンスが血液脳関門通過のために様々な生物学的過程に関与する複雑なシグナルネットワークを使用することを示唆する。
【0084】
3-3.血液脳関門の接着および通過に必要な転写因子およびキナーゼのin vivo転写プロファイリング解析の確認
実験例3-2で同定した転写因子およびキナーゼが脳でしか特異的に調節されないか否かを、前記実験例2のナノストリングエンカウンターベースのin vivo転写解析を用いて確認した。
【0085】
その結果、ほとんどの遺伝子が感染後期の段階において、肺でアップレギュレートされることを確認し、特に、PDR802、SRE1、VRK1、PKH201およびYFH701のin vivo発現は、ほぼすべての感染段階において、すべての感染組織に強力に誘導されることが確認された。
その反面、BBB通過およびHBMECsへの接着におけるCex1とMet3の重要な役割とは関係なく、感染の全段階およびすべての組織において強力に誘導されないことが確認された。
【0086】
実験例4.脳内でクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)の生存に必要なキナーゼ及び転写因子の同定
一部のキナーゼおよび転写因子が造血性の拡散および血液脳関門通過では正常ではあるが、脳-STMスコアにおいて依然として変化が見られる理由を明らかにするために、脳内で増殖する低い脳-STMスコアの転写因子およびキナーゼ突然変異の能力をモニタリングする実験を行った。
【0087】
4-1.低い脳-STMスコアの転写因子とキナーゼ突然変異の同定
まず、血液脳関門を迂回し、クリプトコッカス・ネオフォルマンスでマウスを感染させるための新しい脳室内(ICV)注入方法を確立した(図8)。ICV注入により高い/低い脳-STMの転写因子およびキナーゼ突然変異を有する一グループのマウスを感染させた後、6dpi後に感染した脳から突然変異を回収し、qPCRによるSTMスコアを評価した(以下、ICV-STMスコアと略称)。
【0088】
その結果、6つのキナーゼTLK1、TRM7、CRK1、MAK3201、PKH201またはALK1と4つの転写因子ADA2、PIP2、ZFC3、またはHAP2遺伝子が変異した菌株がICV-STMスコアを著しく減少させることを確認した(図9)。
【0089】
これにより、2つのキナーゼPkh201、Alk1および2つの転写因子Ada2、Hap2が血液脳関門通過および脳内での生存両方に必要であるのに対し、血液脳関門通過に必要なキナーゼと転写因子Cex1、Pbs2、Yfh701、Pho4、およびJjj1は、脳内での増殖に必要がないことが分かる。
【0090】
また、4つのキナーゼTlk1、Trm7、Crk1、およびMak3201と1つの転写因子Zfc3は、独特に血液脳関門通過ではない脳内での増殖に関与することを確認した。
【0091】
4-2.脳内においてクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)の増殖に必要な追加のキナーゼ及び転写因子の確認
脳内においてクリプトコッカス・ネオフォルマンスの増殖に必要なものと機能的に関連する他のキナーゼおよび転写因子を確定するために、コア毒性キナーゼおよび転写因子の突然変異に対するICV-STMスコアを確認した。
【0092】
その結果、37℃で糸状に欠陥があるほとんどのキナーゼおよび転写因子の突然変異yck2Δ、arg5/6Δ、mpk1Δ、mps1Δ、kic1Δ、bud32Δ、bck1Δ、utr1Δ、fbp26Δ、pos5Δ、mec1Δ、ipk1Δ、swe102Δ、およびnrg1Δはまた、ICV-STMスコアの減少を示しており、血液脳関門通過に必要なコアキナーゼと転写因子のうち、Irk2、Vrk1、Pdr802、Sre1、およびHob1は、脳内での増殖にも必要であることを確認した(図9)。
【0093】
*hog1Δ突然変異の場合、低いICV-STMスコアを示すところ、Hog1は血液脳関門通過には必要ではないが、脳内での増殖には必要であり、逆にSch9、Irk5、Fzc1、およびFzc9は脳内での増殖には不要であることが確認された。
また、Snf1、Gal83、Kin1、Urk1、Hsl101、Yak1、Fbp26、Pos5、およびSwe102が脳内においてクリプトコッカス・ネオフォルマンスの増殖に関与することが確認された。
【0094】
上記結果は、クリプトコッカス・ネオフォルマンスが血液脳関門を通過し、脳内で増殖するために重複で、かつ、別々のセットのシグナル伝達経路を利用することを示唆する。
上述した本発明の説明は例示するためのものであり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解できるであろう。したがって、前記で説明した実施形態はあらゆる面で例示的なものであり、制限的なものではないと理解すべきである。例えば、単一形態で説明されている各構成要素を分散して実施することができ、同様に分散されたものと説明されている構成要素を組み合わせた形態で実施することができる。
【0095】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示されており、特許請求の範囲の意味および範囲ならびにその均等概念から導き出されたあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】