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特表2022-549215細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法およびそのような方法における使用に適した構造体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法およびそのような方法における使用に適した構造体
(51)【国際特許分類】
   C12N 13/00 20060101AFI20221116BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20221116BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221116BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20221116BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221116BHJP
【FI】
C12N13/00
C12M1/42
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517857
(86)(22)【出願日】2020-09-21
(85)【翻訳文提出日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 EP2020076287
(87)【国際公開番号】W WO2021058430
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】19198937.5
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522108677
【氏名又は名称】トリンス ビーブイ
【氏名又は名称原語表記】TRINCE BV
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン ブレックマンズ
(72)【発明者】
【氏名】ランホア ション
(72)【発明者】
【氏名】ステファーン ドゥ スメ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029GA08
4B029GB10
4B033NG05
4B033NH07
4B033NJ03
4B033NK06
4B033NK10
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC48
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、電磁放射を吸収することができる粒子を含む構造体の上またはその構造体の近くに少なくとも1つの細胞を導入することによって、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法に関する。粒子は、0.001体積%~20体積%の範囲の濃度で存在し、構造体の材料に包埋されている。少なくとも60パーセントの粒子は、これら粒子と構造体の自由エリア表面Sとの間の最短距離Lが1nm~500nmの範囲であるように、材料に包埋されている。本発明はさらに、細胞を透過性にするための光熱プロセスでの使用に適した構造体、およびそのような構造体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法であって、
材料と、前記材料に包埋された、電磁放射を吸収することができる平均球相当径dを有する粒子と、を含む構造体を提供するステップであって、前記構造体は、体積Vおよび自由エリア表面Sを画定し、前記粒子は、0.001体積%~20体積%(体積粒子/体積構造)の範囲の濃度で前記構造体内に存在し、前記構造体内に存在する前記粒子の少なくともPパーセントは、前記粒子の前記Pパーセントと前記構造体の前記自由エリア表面Sとの間の最短距離Lが1nm~500nmの範囲であるように前記材料に包埋されており、前記Pは少なくとも60パーセントである、提供するステップと、
前記構造体の上または前記構造体から100μm未満の距離に、少なくとも1つの細胞を導入するステップと、
前記構造体に電磁放射を照射するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記粒子が、0.01体積%~5体積%の範囲の濃度で前記構造体中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記構造体の前記自由エリア表面Sから最短距離L(Lは5nm~500nmの範囲である)に位置する粒子の表面密度が、10-4μm-2~1/dの範囲であり、前記粒子の表面密度は、前記構造体に存在する粒子の数Nに、前記自由エリア表面Sから前記最短距離Lに位置する前記粒子の前記パーセントPを掛け、前記構造の前記自由エリア表面の面積で割ったもの(N×P/S)と定義される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子の少なくとも95%が、前記構造体の前記自由エリア表面に露出されていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記粒子が、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素もしくは炭素ベースの粒子、ならびに1つ以上の光吸収化合物を含む粒子、および1つ以上の光吸収化合物を取り込んだもしくは1つ以上の光吸収化合物で官能化された粒子からなる群から選択される粒子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記材料が、無機材料もしくは無機ベースの材料、セラミックもしくはセラミックベースの材料、有機材料もしくは有機ベースの材料、または該材料のうち少なくとも1つを含む複合材料を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記材料が、1つの材料または1つの表面修飾された材料を含み、該材料は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、セルロースアセトフタレート、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、シルク、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートおよびポリアクリレートからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記構造体が、多孔質構造または非多孔質構造を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記構造体が、少なくとも50%の多孔率を有する多孔質構造を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多孔質構造が、繊維、粒子状物質、繊維と粒子状物質との組み合わせ、または発泡体を含み、前記粒子は、前記繊維、前記粒子状物質、または前記発泡体に包埋されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記照射が、1fs~1μsの範囲の持続時間を有するパルスを有し、および/または0.001~10J/cmの範囲のパルスあたりのフルエンスを有するパルス放射源による照射を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
構造体の上または該構造体の近くに導入される細胞を透過性にするための光熱プロセスでの使用に適した構造体であって、材料と、該材料に包埋された、電磁放射を吸収することができる平均球相当径dを有する粒子と、を含み、かつ、体積Vおよび自由エリア表面Sを画定し、前記粒子は、0.001体積%~20体積%(体積粒子/体積構造)の範囲の濃度で前記構造体内に存在し、前記構造体内に存在する前記粒子の少なくともPパーセントは、前記粒子の前記Pパーセントと前記構造体の前記自由エリア表面Sとの間の最短距離Lが1nm~500nmの範囲であるように前記材料に包埋されており、前記Pは少なくとも60パーセントである、構造体。
【請求項13】
薬物スクリーニング、細胞治療、免疫療法、遺伝子療法、細胞標識、操作された細胞の製造、およびタンパク質干渉研究における、請求項12に記載の構造体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包埋された粒子を含む構造体の上または該構造体の近くに細胞を導入し、この構造体を照射することによって、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法に関する。本発明による方法は、粒子と細胞との間の接触を必要としない。本発明はさらに、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法に適した構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内への外因性化合物の細胞内送達は、多くの生物工学的および生物医学的用途における一般的な要求事項である。例としては、基礎研究のための変異細胞系の作製、バイオ医薬品化合物の薬物スクリーニング、および細胞ベースの免疫療法のための細胞(CAR-T細胞など)の製造がある。特定の用途に関わらず、共通の課題は細胞膜を克服することであり、これは、特にDNA、RNA、タンパク質などの高分子にとって大きな障害となっている。近年、この分野では、細胞毒性を最小限に抑えながら、分子、特に高分子を送達するのに可能な限り効率的にすべき新たな物理的トランスフェクション法に関する研究が著しく増加してきている。
【0003】
細胞内に化合物を送達するための物理的方法は、かなりの関心を集めている。そのような方法は、細胞膜の透過性を増加させて、化合物が細胞膜を通過することを可能にするという共通点を有する。
【0004】
ナノ粒子(NPs)増感光穿孔法(Nanoparticle (NPs) sensitized photoporation)は、化合物を細胞内に送達するための今後有望な物理的方法である。光穿孔法では、細胞膜はレーザー照射および光応答性ナノ粒子の組み合わせによって一時的に透過性になる。細胞は、初めに、細胞膜に吸着できるナノ粒子、通常は金粒子、酸化鉄粒子、または炭素粒子とともにインキュベートされる。次に、局所加熱、圧力波の誘導、または活性酸素種の生成などの光熱的または光化学的効果によって細胞膜が透過性になるように、レーザー照射が印加される。
【0005】
光穿孔法は、例えば細胞治療用に操作された細胞を製造するための有望な技術であるが、ナノ粒子を細胞と接触させることについての一般的な安全上の懸念がある。実際に、一般的にナノ粒子の潜在的な毒物学的影響についてはかなりの不確実性がある。さらに、金ナノ粒子などのプラズモンナノ粒子は、光穿孔法で使用される強力なレーザー照明に対して、より小さな断片に断片化する傾向がある。報告されたところによると、ナノメートルサイズの金粒子は、細胞内に取り込まれると遺伝子毒性を示す可能性がある。光穿孔法が、プラズモンナノ粒子と細胞との間の密接な接触を必要とすることを考慮すると、例えば細胞治療で使用される細胞をトランスフェクトするために光穿孔法を使用することはナノ毒性の懸念があり得る。
【0006】
したがって、光穿孔法中にプラズモンナノ粒子が細胞と直接接触するのを回避する方法を開発することが現在の関心事である。
【0007】
US9,957,476は、プラズモンナノ粒子を使用することによる細胞の穿孔システムを記載している。上記システムは、レーザーを使用して光トラップを作製してナノ粒子を細胞の近くに位置付け、光トラップされた粒子に向けられたレーザーを使用して、光トラップされた粒子のレーザー誘起破壊を引き起こすことにより、細胞の穿孔を引き起こす。ただし、システムのスループットは制限されており、かなりの数の細胞を処理するためのスケールアップができない。結果として、上記システムは、細胞治療のための多数の操作された細胞の製造には不向きである。
【0008】
US9,139,416は、マイクロチャネルの壁にナノワイヤが備えられた該マイクロチャネルを有する基板を含むマイクロ流体デバイスを記載している。細胞がチャネルを流れる間にレーザー光を照射すると、細胞を光穿孔することができる。ただし、上記デバイスでは、特に様々な細胞タイプを扱う場合において、システムのパフォーマンスを最大化する必要性が生じるため、プラズモン構造と細胞との間の距離を調整することができない。さらに、上記デバイスはナノワイヤの損傷に煩わされるため、有効寿命が限られている。
【0009】
EP2272945は、金の層などの薄い金属層でコーティングされた表面構造を備えた基板の表面またはその近くに細胞を配置し、基板の表面にレーザーパルスを照射することによって細胞を穿孔する方法を記載している。そのような方法は、細胞膜が片側で、すなわち細胞が基板の表面構造と接触している側(細胞の下側)で透過性である一方で、細胞内に送達される必要のある化合物が主に反対側(細胞の上側)に存在してしまうという欠点を有する。このことは、分子が細胞に入ることができる効率、特に大きな分子が細胞に入ることができる効率を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、当技術分野で知られている方法の欠点を回避する、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、光熱プロセスによって、特に、例えばレーザー放射などの電磁放射による照射によって、細胞の透過性を増加させる方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、構造内に包埋された粒子を含む構造体を使用して、該構造体の上または該構造体の近くに細胞を導入しかつ該構造体に電磁放射を照射することによって、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、粒子、例えばナノ粒子またはそれらの構成要素への細胞の直接的な露出が制限されるか、または回避さえされる、細胞の透過性を増加させる方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、パルスレーザー放射、例えばナノ秒パルス放射を使用することによって細胞の透過性を増加させる方法を提供することである。
【0015】
さらには、細胞不透過性物質の細胞内送達、特には高分子の細胞内送達のために効率を増強させた細胞の透過性を増加させる方法を提供することを目的とする。
【0016】
細胞の原形質膜の透過性を増加させるためにナノ粒子などの電磁放射を吸収することができる粒子を含む構造であって、該粒子およびそれらの構成要素が、レーザー活性化時に構造内にほとんど、好ましくは完全に保持される構造体を提供することも目的とする。
【0017】
さらに、薬物スクリーニング、細胞治療、免疫療法、遺伝子療法、細胞標識、および操作された細胞の製造に使用するのに適した細胞の透過性を増加させる方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明の目的は、光熱プロセスで使用するのに適した構造体であって、該構造体の上または該構造体の近くに導入された細胞を透過性にする構造体を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、細胞の透過性を繰り返し増加させるために、レーザー照射によって複数回活性化することができる構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、細胞の原形質膜の透過性を増加させる方法が提供される。該方法は、
材料を含み、電磁放射を吸収することができる粒子を含む構造体を提供するステップを含む。ここで、該粒子は平均球相当径dを有し、該材料に包埋されている。該構造体は、体積Vおよび自由エリア表面(free area surface)Sを画定する。該粒子は、0.001体積%~20体積%の範囲の濃度で構造体内に存在する(体積粒子/体積構造)。該構造体内に存在する該粒子の少なくともPパーセントは、粒子のこのPパーセントと該構造体の前記自由面積表面Sとの間の最短距離Lが1nm~500nmの範囲であるように該材料に包埋されており、Pは少なくとも60パーセントである。
また、該方法は、前記構造体の上または該構造体の近くに、好ましくは前記構造体から100μm未満の距離に、少なくとも1つの細胞を導入するステップを含む。
また、該方法は、前記構造体に電磁放射を照射するステップを含む。
【0021】
構造体に電磁放射を照射すると、構造内に存在する、すなわち構造体に包埋された粒子が光熱効果をもたらし、構造体および構造体の自由エリア表面Sが局所的かつ一時的に加熱される。光熱効果は、特に、照射された粒子に近接する材料の局所的かつ一時的な加熱を引き起こす。その結果、粒子に近接する自由エリア表面の温度が上昇する。照射時に誘発される局所的かつ一時的な加熱は、構造体と接触しているか、または構造体に近接する膜または障壁(barrier)、例えば細胞の原形質膜の透過化または穿孔をもたらし得る。
【0022】
粒子に最も近接する自由エリア表面Sの温度は、例えば、その初期温度より少なくとも10℃高い温度、例えば、その初期温度より少なくとも20℃または少なくとも30℃高い温度に達し、これは、少なくとも1nmの面積に対して少なくとも1ns(ナノ秒)間である。粒子に最も近接する自由エリア表面Sでの温度上昇がより高くなり得ることは明らかであり、例えば、少なくとも1nmの面積に対して少なくとも1nsの間で、初期温度より少なくとも50℃または少なくとも100℃高くなり得る。
【0023】
粒子に最も近接する自由エリア表面Sの温度は、例えば、60℃の温度に達し、細胞膜が透過性になると考えられる温度である。その結果、構造体の局所的に加熱された領域と接触または近接している、すなわち、照射された粒子に最も近接する自由エリア表面と接触または近接している細胞は、透過性になる。粒子に最も近接する自由エリア表面Sの温度は、60℃より高く、例えば、100℃を超える温度に達し得ることは明らかである。
【0024】
本発明に係る方法は、粒子と細胞との間の直接接触を必要とせずに、構造体の上または構造体の近くに導入された細胞の透過性を増加させることを可能にする。構造体の上に細胞を導入することは、細胞または細胞の少なくとも一部が構造体、すなわち構造体の自由エリア表面Sに接触するように細胞が導入されることを意味する。構造体の近くに細胞を導入するということは、細胞または細胞の少なくとも一部と構造体との距離が、100μmまたは100μm未満、例えば50μm、20μm、10μm、5μm、3μm、2μm、1μm、0.5μm、または0.1μmであるように導入されることを意味する。これは、細胞または細胞の少なくとも一部と構造体の自由エリア表面Sとの間の(最も近い)距離が、100μm以下、例えば50μm、20μm、10μm、5μm、3μm、2μm、1μm、0.5μm、または0.1μmであることを意味する。
【0025】
さらに、本発明に係る方法は、構造中に存在する粒子の材料が全く、または実質的に全く放出されないという利点を有する。実質的に全く材料が(放出され)ないということは、構造内に存在する粒子の総粒子質量の1%未満、好ましくは0.5%未満、0.1%未満、0.05%未満が放出されることを意味する。
【0026】
本発明の目的において、構造体の「体積」(V)という用語は、構造体の内部体積とも呼ばれ、この構造によって占められる総空間、すなわち、構造体の材料および粒子によって占められる総空間と定義される。
【0027】
構造体の「自由エリア表面」(S)という用語は、構造体の(内部)体積を囲む構造体の全外面、すなわち、周囲環境と直接接触している構造体の全表面と定義される。構造体が流体、例えば液体((生物学的)細胞またはガス、例えば空気を含む媒体)に沈められ、該構造体がその流体に対して不浸透性である材料を含む場合、構造体の自由エリア表面は、その流体と接触している、または接触し得る構造体の材料の全表面と定義することもできる。
【0028】
好ましくは、構造体の体積に対する構造体の自由エリア表面の面積Sの比、すなわちS/V比は、10-2~10μm-1の範囲、例えば、10-1~50μm-1、または1~10μm-1の範囲である。
【0029】
(ある1つの)粒子から構造体の自由エリア表面Sまでの最短距離Lは、(ある1つの)粒子の外面から構造体の自由エリア表面Sまで測定された最短距離と定義される。
【0030】
粒子(例えば、球形粒子、縦長の粒子(longitudinal particle)、または不規則な形状の粒子)の平均球相当径dは、その粒子と等価体積である球体の平均直径と定義される。粒子の平均球相当径dは、粒子の平均体積相当径(average equivalent volume diameter)とも呼ばれる。粒子が球形粒子からなる場合、平均球相当径がその粒子の平均直径に一致することは明らかである。
【0031】
上記のように、本発明に係る構造体中に存在する電磁放射を吸収することができる粒子の濃度は、0.001体積%~20体積%の範囲である。より好ましくは、本発明に係る構造体中に存在する電磁放射を吸収することができる粒子の濃度は、0.01体積%~10体積%または0.01体積%~5体積%の範囲であり、例えば、0.05体積%、0.1体積%、0.2体積%、0.5体積%、1体積%、2体積%、または5体積%である。
【0032】
本発明に係る構造体中に存在する粒子は、好ましくは、構造体中に存在する少なくとも60%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~500nmの間、例えば、2nm~500nmまたは5nm~500nmの範囲であるように材料に包埋される。より好ましくは、粒子は、構造体中に存在する少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~500nmの間、例えば、2nm~500nmまたは5nm~500nmの範囲であるように材料に包埋される。
【0033】
好ましい実施形態では、粒子は、構造体中に存在する少なくとも60%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~250nmの間、例えば、2nm~250nmまたは5nm~250nmの範囲であるように材料に包埋される。より好ましくは、粒子は、構造体中に存在する少なくとも70%の粒子、構造体中に存在する少なくとも80%の粒子、少なくとも90%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~250nmの間、例えば、2nm~250nmまたは5nm~250nmの範囲であるように材料に包埋される。
【0034】
他の実施形態では、粒子は、構造体中に存在する少なくとも60%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~100nmの間、例えば、2nm~100nmまたは5nm~100nmの範囲であるように材料に包埋される。より好ましくは、粒子は、構造体中に存在する少なくとも70%の粒子、構造体中に存在する少なくとも80%の粒子、少なくとも90%の粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが、1nm~100nmの間、例えば、2nm~100nmまたは5nm~100nmの範囲であるように材料に包埋される。
【0035】
好ましくは、構造体の自由エリア表面Sから最短距離L(Lは1nm~500nmの範囲である)に位置する粒子の表面密度は、10-4μm-2~1/dの範囲であり(dは、μmで表される粒子の平均球相当径である)、例えば、2×10-4μm-2~2μm-2の間、または2×10-3μm-2~0.2μm-2の間である。したがって、粒子の表面密度は、前記構造体に存在する粒子の数Nに、自由エリア表面Sから最短距離Lに位置する粒子のパーセントPを掛け(Lは1nm~500nmの範囲、例えば5nm~500nmの範囲である)、構造体の自由エリア表面の面積で割ったものと定義される。1nm~500nmの範囲、例えば5nm~500nmの範囲の距離Lに位置する粒子の表面密度は、式N×P/Sを使用して計算することができる。
【0036】
好ましい実施形態では、構造体の自由エリア表面Sから最短距離L(Lは1nm~250nmの範囲である)に位置する粒子の表面密度は、10-4μm-2~1/dの範囲であり、例えば、2×10-4μm-2~2μm-2の間、または2×10-3μm-2~0.2μm-2の間の範囲である。
【0037】
他の好ましい実施形態では、構造体の自由エリア表面Sから最短距離L(Lは1nm~100nmの範囲である)に位置する粒子の表面密度は、10-4μm-2~1/dの範囲であり、例えば、2×10-4μm-2~2μm-2の間、または2×10-3μm-2~0.2μm-2の間の範囲である。
【0038】
平均球相当径が160μmの酸化鉄粒子の面密度は、例えば、2×10-4μm-2~2μm-2の間、1×10-3μm-2~0.4μm-2の間、または2×10-3μm-2~0.2μm-2の間の範囲である。
【0039】
本発明に係る構造体の好ましい実施形態では、すべてまたは実質的にすべての粒子が構造体の材料に完全に包埋されている。これは、構造体のすべてまたは実質的にすべての粒子が構造体の材料によって完全に囲まれていることを意味する。その結果、全ての粒子がまたは実質的に全ての粒子が、構造体の自由エリア表面に露出されていない。
【0040】
本発明の目的において、「自由エリア表面に露出される粒子」という用語は、構造体の自由エリア表面から出現し、該構造体周囲の外部環境と接触しているそれらの外面の少なくとも一部を有するすべての粒子を指す。
【0041】
本発明の目的において、「実質的にすべての粒子」とは、粒子の少なくとも95%、好ましくは粒子の少なくとも99%、例えば粒子の少なくとも99.9%を意味する。
【0042】
同様に、本発明の目的において、「実質的に粒子がない」とは、粒子が5%未満である、好ましくは粒子が1%未満である、例えば粒子が0.1%未満であることを意味する。
【0043】
本発明に係る構造体に包埋される粒子は、電磁放射を吸収することができ、電磁放射が照射されると光熱効果を生成するように適合された任意の粒子を含み得る。
【0044】
粒子は、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはマイクロ粒子およびナノ粒子の組み合わせを含み得る。
【0045】
「マイクロ粒子」という用語は、1μm~100μmの範囲の球相当径を有する粒子を指す。「ナノ粒子」という用語は、1nm~1000nmの範囲の球相当径を有する粒子を指す。
【0046】
粒子は任意の形状をとり得る。それらは、例えば、球形、楕円形、棒状、ピラミッド型、分岐型、または不規則な形状であり得る。
【0047】
粒子は、固体粒子であり得、1つ以上の材料を含むシェル構造またはコアシェル構造を有し得る。
【0048】
好ましい粒子は、金属粒子、金属酸化物粒子、炭素または炭素ベースの粒子、1つ以上の光吸収化合物を含む粒子、または1つ以上の光吸収化合物を取り込んだ(loaded)もしくは1つ以上の光吸収化合物で官能化された粒子を含む。
【0049】
金属粒子の例としては、金粒子、銀粒子、白金粒子、パラジウム粒子、銅粒子、およびそれらの合金を含む。好ましい金属粒子は、金粒子、銀粒子およびそれらの合金を含む。
【0050】
金属酸化物粒子の例としては、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、および酸化マグネシウムを含む。
【0051】
炭素または炭素ベースの粒子の例としては、グラフェン量子ドット、(還元された)酸化グラフェン、およびカーボンナノチューブを含む。
【0052】
1つ以上の光吸収化合物を含む粒子または1つ以上の光吸収化合物を取り込んだもしくは官能化された粒子の例としては、合成有機もしくは合成無機吸収剤を含むか、またはそれらを取り込んだもしくはそれらで官能化された粒子、ならびに天然に存在する吸収剤もしくはその誘導体を含むか、またはそれらを取り込んだもしくはそれらで官能化された粒子を含む。特定の例としては、リポソーム、固体脂質ナノ粒子、インドシアニングリーンなどの光吸収色素分子を含むか、またはそれらを取り込んだまたはそれらで機能化したポリマーベースの粒子、無機量子ドット(蛍光量子収率は低い)、色素(メラニン、ロドプシン、フォトプシン、またはヨードプシンなど)のような天然に存在する光吸収剤、およびポリドーパミンのような合成類似体、または光線力学療法で使用される光増感剤を含む。
【0053】
粒子は、好ましくは、生体適合性粒子を含む。より好ましくは、粒子は、臨床的に承認された粒子を含むか、または臨床的に承認された粒子から構成される。
【0054】
粒子は、個々の粒子、または互いに近接して位置する2つ以上の粒子の組み合わせもしくはクラスターを含み得る。
【0055】
本発明に係る構造体は、1つのタイプの粒子、または異なる粒子の組み合わせ、例えば、異なるサイズ、異なる組成および/もしくは異なる形状を有する粒子を含み得る。
【0056】
粒子の寸法、例えば、粒子の幅、高さまたは直径は、透過型電子顕微鏡法(TEM)、走査型電子顕微鏡法(SEM)、または原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して決定され得る。
【0057】
粒子のサイズは、好ましくは、球相当径d(体積相当径とも呼ばれる)によって定義される。
【0058】
電磁放射を吸収することができる粒子が包埋される構造体の材料は、例えば、無機材料または無機ベースの材料、例えば、シリカもしくはシリカベースの材料またはセラミックもしくはセラミックベースの材料、有機材料または有機ベースの材料、例えば、炭素もしくは炭素ベースの材料、またはポリマーもしくはポリマーベースの材料を含む。構造体の材料はまた、上記の材料の少なくとも1つを含む複合材料、例えば、有機および無機材料を含む複合材料を含み得る。
【0059】
構造体の好ましい材料は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、セルロースアセトフタレート、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、シルク、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートまたはポリアクリレートを含むか、またはそれらをベースとする。
【0060】
好ましい実施形態では、構造体は、表面修飾された材料、例えば、表面修飾されたポリマー材料を含む。表面修飾は、例えば、構造体の材料への細胞接着を増強するためのコーティング(例えば、コラーゲン)の適用を含む。
【0061】
構造体は、連続的または不連続的な構造を含み得る。
【0062】
構造体は、多孔質または非多孔質の構造を含み得る。多孔質構造は、自由エリア表面が大きく、したがって、本発明の方法に係る構造体の上または該構造体の近くに導入される細胞に露出される利用可能な表面が広大であるという利点を有するので、好ましいと言える。好ましくは、多孔質構造は、構造体の上または該構造体の近くに導入された細胞の細孔への部分的または完全な進入を可能にする細孔サイズを有する。好ましくは、多孔質構造は、細胞培地(medium)中に存在する分子の細胞へのアクセスを制限しない細孔サイズを有する。
【0063】
構造体の多孔率(porosity)は、構造体が占める総体積、すなわち、構造の体積V(材料および材料に包埋された粒子の体積)とその構造体の細孔または空隙の体積との合計に対する、構造体の細孔または空隙の体積の比率と定義される。多孔率は、0%~100%の範囲であり得る。構造体が多孔質構造を含む場合、構造体の多孔率は、好ましくは、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%である。
【0064】
構造体は平坦もしくは平面であり得るか、または構造体は非平坦、例えば管状であり得る。電磁放射が照射される構造体の表面は、平坦か非平坦となり得る。
【0065】
構造体は、滑らかなまたは滑らかでない表面を有し得る。滑らかでない表面は、例えば、突起を備えた表面を含む。
【0066】
構造体の厚さは、好ましくは、0.1μm~1000μmの範囲、例えば、0.1μm~100μmの間、または1μm~10μmの間である。
【0067】
構造体の厚さとは、構造体の最短寸法に沿って構造体の材料を貫通した距離と定義される。例えば、平坦または平面構造の場合、その厚さは水平面に垂直な方向に沿って測定された構造体の距離に一致する。長い管状構造の場合、その厚さは管状構造の半径方向の直径に一致する。
【0068】
実施形態の第1のグループは、材料と、材料に包埋された電磁放射を吸収することができる粒子とを含む非多孔質構造を含む。例としては、ポリマーシートまたはポリマーホイルに包埋された電磁放射を吸収することができる粒子を含むポリマーシートまたはポリマーホイルを含む。
【0069】
特に好ましい実施形態は、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、セルロースアセトフタレート、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、シルク、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートまたはポリアクリレートを含むか、またはそれらをベースとする。
【0070】
ポリマーシートは、例えば、ポリマーシートに包埋された酸化鉄粒子および/または炭素粒子を含む。
【0071】
上記第1のグループの構造体は、例えば、厚さt、長さA、幅A’を有する。厚さtは、好ましくは、0.1μm~100μmの間、例えば、0.1μm~10μmの間である。
【0072】
構造体の体積Vは、t×A×A’に対応する。
【0073】
第1のグループの構造体の長さおよび幅は、通常、構造の厚さtよりも極めて大きいため、第1のグループの構造体の自由エリア表面の面積は、2×A×A’に等しいと見積もられ得る。照射される構造の自由エリア表面の面積は、構造の表面の一方(例えば、上面または下面)に対応するため、A×A’に等しいと見積もられ得る。
【0074】
したがって、構造の体積Vに対する構造の自由エリア表面の面積Sの比、すなわちS/V比は、1/tに対応する。
【0075】
実施形態の第2のグループは、材料と、材料に包埋された電磁放射を吸収することができる粒子とを含む多孔質構造を含む。例としては、多孔質ポリマー構造に包埋された粒子を有する多孔質ポリマー構造を含む。
【0076】
多孔質構造の例としては、繊維(例えば、ポリマー繊維)を含む構造、粒子状物質(particulates)(例えば、ポリマー粒子状物質)を含む構造、繊維と粒子状物質との組み合わせ(例えば、ポリマー繊維および/またはポリマー粒子状物質の組み合わせ)を含む構造、および発泡体(例えば、ポリマー発泡体)を含む構造を含む。繊維および/または粒子状物質は、相互に連結されていてもされていなくてもよい。例えばポリマー粒子状物質としての粒子状物質は、球状粒子状物質ならびに不規則な形状の粒子状物質を含み得る。電磁放射を吸収することができる粒子は、好ましくは、粒子が構造の自由エリア表面に(部分的に)露出されないように、好ましくは、繊維、粒子状物質または発泡体に包埋される。
【0077】
第2のグループの構造の第1の例は、(ポリマー)繊維を含む構造である。(ポリマー)繊維の繊維直径は、例えば、0.1μm~10μmの範囲、例えば、0.5μmまたは1μmである。(ポリマー)繊維は、相互に連結されていてもされていなくてもよい。(ポリマー)繊維は、当技術分野で知られている任意の技術によって得ることができる。(ポリマー)繊維を製造するための好ましい技術は、電界紡糸法である。代替技術は、湿式紡糸、溶融紡糸、押出紡糸、乾式噴霧湿式紡糸、乳濁液紡糸および懸濁紡糸を含む。ポリマーの好ましい例としては、ポリスチレン繊維、ポリカプロラクトン繊維、エチルセルロース繊維、セルロースアセトフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、およびポリ乳酸-co-グリコール酸ベースの繊維を含む。(ポリマー)繊維は表面修飾され得る。
【0078】
(ポリマー)繊維は、繊維の直径dfibreに対応する直径および、繊維の長さLfibreに対応する長さを有する長い円筒体と見なすことができるため、繊維の体積Vfibreは、
【数1】

に対応し、繊維の自由エリア表面の面積Sfibreは、
【数2】

に対応する。したがって、体積Vfibreに対する自由エリア表面の面積Sfibreの比率は、4/dfibreに対応する。
【0079】
第2のグループの構造体の第2の例は、例えばポリマー(ミクロ)球体のようなポリマー粒子状物質を含む構造体である。粒子状物質の直径は、例えば、0.1μm~10μmの範囲、例えば、0.5μmまたは1μmである。ポリマー粒子状物質は、相互に連結されていてもされていなくてもよい。(ポリマー)粒子状物質は、当技術分野で知られている任意の技術によって得ることができる。粒子状物質の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、セルロースアセトフタレート、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸ベースの繊維を含む。ポリマー粒子状物質は表面修飾され得る。
【0080】
粒子状物質が直径dmsのミクロ球体である場合、ミクロ球体の体積Vmsは、
【数3】

に対応し、ミクロ球体の自由エリア表面の面積Smsは、
【数4】

に対応する。したがって、ミクロ球体の体積Vmsに対する自由エリア表面の面積Smsの比率は、6/dmsに対応する。
【0081】
細胞は、例えば、構造体の上または該構造体の近くに細胞を含む懸濁液を付与することによって、構造体の上または該構造体の近くに導入される。細胞は、構造体の上または該構造体の近くに連続的に導入することも、不連続的に導入することもできる。
【0082】
懸濁液中の細胞の濃度は、好ましくは1mLあたり1~10細胞の範囲である。
【0083】
好ましい方法では、懸濁液、すなわち細胞は、特定の期間中、構造体の上または該構造体の近くで培養される。
【0084】
代替の方法では、細胞は、構造体の上または該構造体の近くに導入された直後、または導入後間もなく、電磁照射によって構造体を活性化させることにより処理される。
【0085】
構造、特に構造体に包埋された粒子は、パルス放射源によって照射されることが好ましいが、連続波放射源による照射も検討され得る。構造体は、1つ以上のパルスによって照射され得る。
【0086】
パルス放射源が使用される場合、パルスは、好ましくは、1fs(フェムト秒)~1ms(ミリ秒)の範囲、例えば、1fs~100μs(マイクロ秒)の範囲、10fs~10μsの範囲、10fs~1μs、または10fs~10nsの範囲の持続時間を有する。
【0087】
放射源のパルスあたりのフルエンス(単位面積あたりに送達される電磁エネルギー)は、好ましくは、0.001~1000J/cmの間、例えば、0.001~100J/cmの間、0.01~10J/cmの間、例えば、0.1J/cm~1J/cmの範囲である。
【0088】
放射源の波長は、紫外線領域から赤外線領域までの範囲であり得る。好ましい方法では、使用される放射線の波長範囲は、可視領域から近赤外領域である。
【0089】
本発明に係る方法は、例えば、EP2272945に記載されている方法のように当技術分野で知られている方法と比較して、増強された効率、例えば、増強されたトランスフェクションの効率を示す。出願人はいかなる理論にも拘束されることを望まないが、出願人は、効率の増強は、細胞と構造体との接触の増加の直接的な結果であると考える。細胞と構造体との間の接触が増加するため、細胞膜のより広い面積が透過性になり、その結果、より多くのおよび/またはより大きな分子が細胞に入ることができる。構造体が多孔質構造を含む場合、自由エリア表面がより大きくなり、細胞が様々な側から構造体の自由エリア表面に到達することができるため、効率がさらに増加され得る。
【0090】
これまで、大きな高分子を細胞内に送達するには、蒸気ナノバブルを作製し、細胞の膜、例えば細胞の原形質膜を透過し得る局所的な圧力波を引き起こすことを目的に、高強度のレーザーパルスが必要であると考えられていた。驚くべきことに、本発明に係る方法は、はるかに低い強度の単一レーザーパルス、例えば、0.001J/cm~1J/cmの範囲、好ましくは0.01J/cm~0.5J/cmの範囲、より好ましくは0.05J/cm~0.2J/cmのフルエンス範囲を有する単一レーザーパルスを使用して、細胞の膜、例えば細胞の原形質膜を透過性にすることを可能にすることが見出された。さらに、本発明に係る方法は、低いレーザー強度を使用する場合でさえ、比較的大きな細孔を引き起こすことを可能にし、比較的大きな高分子、例えば、公称サイズが500kDaの高分子の細胞内送達までも可能にする。
【0091】
本発明に係る方法のさらなる利点は、構造体に包埋された粒子の断片化または放出が回避される点である。ICP-MS分析が、放出された粒子の材料の量が検出不可能であることを示した。これは、一方では細胞が粒子の潜在的に有毒な材料に露出されていないことを意味し、他方では粒子が照射後も無傷かつ機能し続けることを意味する。技術分野で知られている光穿孔法技術では、照射された(ナノ)粒子は、単一のレーザーパルスでしばしば断片化される。その結果、当技術分野で知られている技術では、(ナノ)粒子はしばしば一度だけしか使用できない。本発明に係る方法では、この構造体を繰り返し照射に用いることができる。
【0092】
本発明に係る方法のさらなる利点は、構造体の製造の容易さである。
【0093】
本発明の第2の態様によれば、構造体の上または該構造体の近くに導入される細胞、特に細胞の原形質膜を透過性にするための光熱プロセスでの使用に適した前記構造体が提供される。該構造体は、材料と、該材料に包埋された電磁放射を吸収できる粒子と、を含む。該粒子は、平均球相当径dを有する。該構造体は、体積Vおよび自由エリア表面Sを画定する。該粒子は、0.001体積%~20体積%の範囲(体積粒子/体積構造)、例えば、0.01体積%~10体積%の間、または0.01体積%~10体積%の範囲の濃度で構造内に存在する。該構造内に存在する該粒子の少なくともPパーセントは、該構造体の該自由エリア表面から最短距離Lに位置し、Lは1nm~500nmの範囲であり、それにより、Pは少なくとも60%である。
【0094】
構造体は、上記の任意のタイプの構造を含み得る。
【0095】
本発明に係る構造体は、薬物スクリーニング、細胞治療、免疫療法、遺伝子療法、細胞標識、および操作された細胞の製造に使用するのに特に適している。
【0096】
構造体は、オリゴヌクレオチド、siRNA、mRNA、またはpDNAを含む核酸の細胞内送達での使用に特に適している。
【0097】
構造体はまた、Cas9/gRNAなどのリボ核タンパク質を含む核タンパク質の細胞内送達での使用にも適している。
【0098】
さらに、構造体は、ナノボディまたは抗体などのペプチドおよびタンパク質の細胞内送達での使用に適している。
【0099】
くわえて、構造体は、蛍光標識ポリマー、量子ドット、酸化鉄ナノ粒子、ガドリニウムキレートなどの造影剤の細胞内送達での使用に適している。
【0100】
構造体はさらに、例えば、LSPRセンサー(局在表面プラズモン共鳴)またはSERS(表面増強ラマン分光法)などの感知および特性評価の目的で、プラズモンナノ粒子の細胞内送達に使用するのに適している。
【0101】
本発明に係る構造体は、インビトロおよびエクスビボ用途での使用に適している。構造体はさらに、インビボ用途での使用に適している。
【0102】
本発明の第3の態様によれば、特に、薬物スクリーニング、細胞治療、免疫療法、遺伝子療法、細胞標識、操作された細胞の製造、およびタンパク質干渉研究において、本発明に係る構造体の使用が提供される。構造体は、インビトロおよびエクスビボ用途で使用され得る。構造体はさらに、インビボ用途で使用され得る。
【0103】
好ましい使用では、構造体は、上記のように細胞の透過性を増加させる方法において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
本発明は、添付の図面に関連して以下でより詳細に論じられる:
図1】本発明に係る細胞膜の透過性を増加させる方法を概略的に示す図である。
図2】カルセイン-AM生存率染色、およびフルエンスが増加する単一の7nsレーザーパルスによる10kDa(RD10)の赤色蛍光標識デキストランの細胞内送達を示す共焦点画像を示す図である。
図3】異なるレーザーパルスフルエンスおよび酸化鉄ナノ粒子(IONP)の異なる濃度を用いた、赤色蛍光標識された10kDaデキストラン(RD10)の送達効率および細胞生存率(カルセイン陽性細胞)を示す。
図4】初めに赤色蛍光10kDaデキストラン(RD10)を、次いで緑色蛍光FITC-デキストラン(FD10)を用いて光穿孔法を繰り返した場合の共焦点画像を示す。
図5】RD10およびFD10を用いて光穿孔法を繰り返した場合の、細胞の90%がRD10およびFD10の両方を含むことを示すフローサイトメトリーデータを示している。
図6】各光穿孔法ステップ間(N=1~4)でその濃度が2倍になっているFD10を用いたHELA細胞の連続光穿孔法の場合の送達効率を示す。
図7】FD10を用いたHELA細胞の連続する光穿孔法の場合の、光穿孔法ステップの数の増加に伴う細胞あたりの相対蛍光強度中央値(average relative mean fluorescence intensity)(rMFI)を示す。
図8】光穿孔法の数の増加(N=1、2、4)に対して、さまざまな分子量(10、40、70、150、および500kD)のFITC-デキストラン分子の送達効率を示す。
図9】光穿孔法の数の増加に伴う異なるFITC-デキストラン分子についての細胞あたりの相対蛍光強度中央値(rMFI)を示す。
図10】異なる濃度のIONPを有し、異なるフルエンスのレーザーパルスで照射された繊維を含む構造についてのジャーカット細胞におけるFD10の送達効率および生存率を示す。
図11】未処理の細胞(ネガティブコントロール)、IONPと共にインキュベートした細胞(ポジティブコントロール)、および異なる濃度のIONPを含有する繊維からなる構造で光穿孔法によって処理した細胞において、ICP-MSによって測定された鉄濃度を示す。
図12】蒸留水中(ネガティブコントロール)、異なる濃度のIONPを有する培養ウェルに匹敵する量の繊維を消化する王水によって消化された異なる濃度のIONPを有する繊維中(ポジティブコントロール)、および光穿孔法後に構造体から収集された蒸留水中において、ICP-MSによって測定された鉄濃度を示す。
図13】GFPを安定して発現し、N回の光穿孔法(N=1~4)後にファイバー基質上で増殖したH1299細胞のMFI、ノックダウン効率、および細胞生存率を示す。該ファイバー基質は、異なる濃度C(C=0.5~50μM)のsiRNAを有するIONPを含む。
図14】異なるIONP濃度およびレーザーフルエンスを用いた光穿孔法によるヒトT細胞におけるFD10の細胞内送達を示す。
図15】光穿孔法を繰り返した場合のヒトT細胞におけるFD10の細胞内送達を示す(N=1~4)。
図16】電気穿孔法(EP)、本発明に係る光穿孔法(PEN)、および金ナノ粒子増感光穿孔法(PP)を用いた、刺激されたヒトT細胞におけるsiRNA送達性能を示し、図16aは生存率を、図16bはトランスフェクション収率をそれぞれ示し、該トランスフェクション収率は、陽性細胞のパーセンテージに生細胞のパーセンテージを掛けて得られた、生きていて、かつトランスフェクトされた細胞のパーセンテージである。
図17】CD3+T細胞におけるPD1発現を示す例示的なヒストグラムを示す。
図18】電気穿孔法(EP)、本発明に係る光穿孔法(PEN)、および金ナノ粒子増感光穿孔法(PP)による送達後72時間までの、siRNAを用いたヒトCD3 T細胞におけるPD1ノックダウンのレベルを示す。
図19】H1299におけるCas-9遺伝子ノックアウトに対する1% IONPを有するポリカプロラクトン(PCL)由来のナノファイバーを含む構造体の適用を示す。
図20】H9ヒト胚性幹細胞における高分子送達に対する1% IONPを有するポリカプロラクトン(PCL)由来のナノファイバーを含む構造体の適用を示す。
図21図21aおよび図21bは、ポリマーシートを含む細胞の原形質膜の透過性を増加させるための構造体の代替の例を示す。
図22】異なる濃度のIONPを有するポリマーシートを用いたHeLa細胞の光穿孔法に対する、FD500陽性細胞、生存率、および相対蛍光強度中央値を示す。
図23】異なるレーザーフルエンスを使用した特定濃度のIONPを有するポリマーシートを用いたHeLa細胞の光穿孔法に対する、FD500陽性細胞のパーセンテージ、生存細胞のパーセンテージ、および相対蛍光強度中央値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0105】
本発明は、特定の実施形態に関して、および特定の図面を参照して説明されるが、本発明は、それに限定されず、特許請求の範囲によってのみ説明される。図面は概略的なものであり、限定的なものではない。図面の一部の要素のサイズは、例としての説明のために誇張されており、縮尺どおりに描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明を実施するための実際の縮小に対応していない。
【0106】
範囲の終点を参照する場合、範囲の終点の値が含まれる。
【0107】
本発明を説明するとき、使用される用語は、他に示されない限り、以下の定義に従って解釈される。
【0108】
説明および特許請求の範囲で使用される「第1」、「第2」などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも時間的、空間的、ランク付けまたは他の方法で順序を説明するものではない。そのように使用される用語は、状況に応じて交換可能であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示された以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0109】
2つ以上のアイテムをリストする場合の「および/または」という用語は、リストされたアイテムのいずれか1つを単独で採用できること、またはリストされたアイテムの2つ以上の任意の組み合わせを採用できることを意味する。
【0110】
「細胞」という用語は、真核細胞、原核細胞を含むすべての種類の生物学的細胞を指す。
【0111】
「透過性を増加させる(increase the permeability of)」、「透過性にする(permeabilize)」、「透過性にする(permeabilizing)」および「透過性化(permeabilization)」という用語は、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜の透過性を少なくとも部分的または局所的に変化させる任意の方法を指す。透過性化後、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜は、例えば分子、高分子、粒子またはナノ粒子などの1つ以上のタイプの化合物に対してより透過性であるように変化する。
【0112】
「穿孔する(perforate)」、「穿孔(perforating)」または「穿孔(perforation)」という用語は、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜に対して1つ以上の開口部、穴または細孔を提供する任意の方法を指す。膜または障壁、例えば細胞の原形質膜を穿孔することにより、開口部が膜または障壁、例えば細胞の原形質膜に作製され、膜または障壁、例えば細胞の原形質膜を通って、分子、高分子、粒子またはナノ粒子などの化合物の輸送を可能にする。
【0113】
本発明の目的において、「透過性を増加させる(increase the permeability of)」、「透過性にする(permeabilize)」、「透過性にする(permeabilizing)」および「透過性化(permeabilization)」という用語と、「穿孔する(perforate)」、「穿孔(perforating)」または「穿孔(perforation)」という用語は、交換可能に用いられる。
【0114】
同様に、本発明の目的において、「開口部」、「穴」、および「細孔」という用語は交換可能に用いられる。
【実施例
【0115】
[実施例1 ナノファイバーのウェブおよびナノファイバーに包埋された粒子を含む多孔質構造]
本発明に係る構造体の第2の実施形態は、ナノファイバーおよびナノファイバーに包埋された電磁放射を吸収することができる粒子を含む多孔質構造を含む。以下に説明する実施例は、構造体の材料としてのポリカプロラクトンと、電磁放射を吸収することができる粒子としての酸化鉄ナノ粉末とを含む。他の材料および他の粒子も検討できることは明らかである。
【0116】
[1-a.光熱電界紡糸されたナノファイバーの合成および特性評価]
ナノファイバーウェブの合成には、以下の材料が使用される:
- ポリカプロラクトン(PCL、Mw≒70,000g/mol);
- N、N-ジメチルホルムアミド(DMF);
- テトラヒドロフラン(THF);
- 酸化鉄(Fe)ナノパウダー(IONP)(#MKBW3262、Sigma-Aldrich、ベルギー);
- ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH、Mw=17,560g/mol、#MKBZ2824V、Sigma-Aldrich、ベルギー);
- 濃硫酸溶液(96%)(Sigma-Aldrich);
- I型コラーゲンラットタンパク質(Thermo Fisher Scientific、#A1048301、Gibco(商標)、ベルギー)。
【0117】
0体積%~1.15体積%の異なる濃度のPCLを添加した1:1 DMF/THF溶液に、IONPを再分散した。
【0118】
このようにして得られた混合物を使用して、電界紡糸法によってナノファイバーを製造した。接地された回転コレクターに取り付けられた顕微鏡ガラススライド(#1000912、マリーエンフェルト、ドイツ)上に、ナノファイバーを収集した。
【0119】
電界紡糸中に、特に明記しない限り、印加電圧、流量および電界紡糸距離は、それぞれ10kV、0.3ml/h、および20cmに固定した。接地された回転コレクターを500rpmの回転速度に設定した。30分(または具体的に示された時間)後、電界紡糸プロセスを停止し、ナノファイバーウェブを備えたスライドガラスを回転コレクターから分離し、層流キャビネット内で45分間のUV照射により滅菌した。
【0120】
ナノファイバーのサイズおよび直径を、走査型電子顕微鏡を使用して決定した。IONPを含まないファイバーの平均直径は300nmであった。1.15体積%までのIONPを含めた場合、平均直径は有意に変化しなかった。
【0121】
構造体の厚さを、共焦点顕微鏡を使用して調査した。電界紡糸の持続時間が長くなると、構造体は1時間後に4μmまで徐々に厚くなった。ウェブは30分後にあまり変化しなくなったので、電界紡糸時間は30分とした。
【0122】
ナノファイバーに対してIONPの量を増加させて使用した場合、ナノファイバーウェブの厚さは有意には変化しなかった。これは、ナノファイバーウェブの厚さが使用範囲内のIONP含有量とは無関係であることを明確に示している。
【0123】
IONPをナノファイバー内に包埋した。これは、20kVの電圧を用いたSEMで明確に見ることができる。SEM画像は、IONPが個々の粒子として、または2つ以上の個々の粒子のクラスターとして存在し得ることを示した。簡便にするために、包埋されたIONPは、「IONPクラスター」または「クラスター」と呼ばれ、「IONPクラスター」またはクラスターという用語は個々の粒子およびクラスター化された粒子の両方を含むと解釈する。SEMにより、SEM画像の面積1000μmあたりのウェブ全体のIONPクラスターの見掛け密度を定量化することが可能となった。IONP含有量が0.0046体積%から1.15体積%に増加するにつれて、密度は1.7から192クラスター/1000μmに直線的に増加した。
【0124】
[1-b.細胞培養基質としてのナノファイバーウェブの調製]
8ウェルSecure-Seal(商標)両面接着スペーサー(#S24737、Invitrogen)を、層流キャビネット内で45分間UV照射により滅菌した。接着スペーサーの片側から保護シールを剥がした後、ナノファイバーウェブに静かに貼り付けた。次に、スライドガラスからウェブ(上部に接着スペーサーを付けた状態)を容易に取り外すため、これらのサンプルを蒸留水に3分間浸した。ウェブを、1個あたり1つまたは4つの接着ウェル(細胞を増殖させることができる)を使用して手動で小さな断片に切断し、PBSバッファーに保存した。
【0125】
次に、これらの細胞培養基質をさらに、最適な細胞付着のためにコラーゲンで修飾した。細胞培養基質を32%硫酸溶液(6ウェルプレートのウェルあたり3ml)に3分間浸した。蒸留水で洗浄した後、高分子電解質PAH(2mg/ml、0.5M NaCl)の水溶液に15分間浸し、蒸留水で3回すすいだ。ナノファイバー表面へのPAHの物理吸着により、ナノファイバーは正に帯電した。次に、PAHでコーティングされたナノファイバーをI型コラーゲンラットテールプロテインの0.5mg/ml水溶液に15分間浸し、PBS溶液ですすいだ。最後に、修飾された基質を、さらなる使用の前にPBSに保存した。
【0126】
[1-c.光穿孔処理のための細胞培養基質における細胞の培養または収集]
HeLa細胞(#CCL-2)およびジャーカットクローンE6.1(#TIB-152)を、ATCC(American Type Culture Collection)から入手し、光穿孔法による付着細胞および浮遊細胞のトランスフェクションのモデルとして採用した。増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)を安定して発現するヒト肺上皮細胞(H1299)を、siRNAノックダウン実験の検証用に使用した。2mMグルタミン、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)を含むDMEM/F-12から、HeLa細胞培養培地を作製した。H1299およびジャーカット細胞培養培地は、2mMグルタミン、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシンおよび10%FBS含むRPMI1640からなるものであった。
【0127】
付着細胞を増殖させるために、細胞培養基質を、HeLaまたはH1299を添加した6ウェル力価プレート(#10062-892、VWR)に配置した(2mlの細胞培養培地で約1×10細胞)。細胞を、5%COの加湿雰囲気において、37℃の細胞インキュベーター内で24時間、付着および増殖させた。光穿孔処理の直前に、細胞に送達される必要のある目的の分子を細胞培地に添加した。
【0128】
ジャーカット細胞を、75cmまたは175cmのフラスコ(#734-2313、#734-2315、VWR(登録商標))において、1×10~1×10細胞/mlの細胞密度で培養した。光穿孔法のために、目的の分子を細胞培地に添加し、細胞を約2×10細胞/ウェルで細胞基質に移した。光穿孔法のレーザースキャンを開始する前に、細胞をファイバーウェブ上に5分間沈降させた。
【0129】
最終実験を、ゲント大学病院から入手したヒトT細胞で実施した。バフィーコートを健康なドナーから入手した。末梢血単核細胞(PBMC)を、Lymphoprep(Alere Technologies、オスロ、ノルウェー)を用いた密度遠心分離によって単離した。次に、PBMCを10%ウシ胎児血清(FCS、Bovogen)、100U/mlペニシリン(Gibco、Invitrogen)、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco、Invitrogen)、2mMグルタミンおよび5ng/ml IL-2(Roche、Vilvoorde、ベルギー)を添加したIMDM(Gibco、Invitrogen、Merelbeke、ベルギー)でインキュベートし、CD23/CD28ビーズ(Stemcell Technologies、バンクーバー、カナダ)をビーズと細胞との比率が1:1となるように用いて刺激した。7日後、細胞(PBMC)を回収し、X線照射(40Gy)(SARRP)したPBMC(1:2比)を、X線照射(50 Gy)JY(5:1比)した、1μg/mlフィトヘマグルチニン(Remel Europe、KENT、UK)を添加した完全IMDMのフィーダー細胞と共に再びインキュベートした。さらに14日後、CD3+細胞を回収し、さらに示すように実験に使用した。小動物放射線研究プラットフォーム(Xstrahl、サリー、英国)を使用してフィーダー細胞を照射した。光穿孔処理のために、T細胞を約8×10細胞/ウェルの密度で、すでに存在するトランスフェクション分子のもとで培養基質に移した。レーザー処理を開始する前に、細胞をファイバーウェブ上に5分間沈降させた。
【0130】
[1-d.付着細胞の光穿孔法]
本発明に係る方法は、図1に概略的に示されている。初めに、材料および電磁放射を吸収することができる粒子を含む構造体が提供される(図1a)。構造体は、例えば上記の通りに合成される。続いて、細胞は、例えば上記のような構造体の上で増殖する(図1b)。細胞については、いくつかの小さな修正を加えて以前に報告されたカスタムビルドの光学セットアップを使用して光穿孔した(R.H. Xiong et al., Comparison of Gold Nanoparticle Mediated Photoporation: Vapor Nanobubbles Outperform Direct Heating for Delivering Macromolecules in Live Cells, Acs Nano, 8 (2014) 6288-6296)(図1c)。簡潔に説明すると、パルス持続時間7nsのパルスレーザーを波長647nmで調整し(OpoletteTM HE 355 LD、OPOTEK Inc、カナダ)、ナノファイバーおよびIONPを含む構造体を照射するように応用した。コリメートされたパルスレーザービームは、1°の光整形ディフューザー(Physical Optics Corporation、Torrance、カナダ)に向けられ、顕微鏡の入り口の前にあるアクロマートレンズおよび10倍の対物レンズ(Plan Fluor、Nikon)を組み合わせることで、サンプルでのレーザービーム幅は約250μmとなった。レーザーパルスエネルギーを、パルスレーザーに同期したエネルギーメーター(J-25MB-HE&LE、Coherent)によってモニタリングした。本発明に係るナノファイバーおよびIONP(直径約9mm)を含む構造体の上のすべての細胞をスキャンするために、電動顕微鏡のステージを使用して、固定レーザービームを通してサンプルをスキャンした。レーザーの繰り返し周波数は20Hzであるため、スキャン速度を3mm/sに設定し、後続のライン間の距離は0.15mmであった。このようにして、すべての細胞は、隣接する照射ゾーン間のオーバーラップ領域で最大4つまでの少なくとも1つのレーザーパルスを受けた。ジャーカット細胞またはヒトT細胞を用いたいくつかの実験では、本文に示されているように、細胞を複数回スキャンした。その場合、細胞を新しい場所でナノファイバーにランダムに付着させるために、細胞をウェル内に再懸濁し、各スキャンの間に再び沈降させた。トランスフェクトされた細胞を図1dに示す。
【0131】
[1-e.光穿孔法による分子の細胞内送達]
本発明に係る構造体の光穿孔法による細胞内送達を評価するために、10kDaの赤色蛍光標識デキストラン(RD10)を、ナノファイバーおよび0.23体積% IONPを含む構造体において培養されたHeLa細胞に添加した。上記のように、細胞を7nsのパルスレーザービーム(λ=647nm)でスキャンした。レーザー処理後、細胞を洗浄し、カルセインAM生存率染色剤を細胞に添加した。異なるレーザーフルエンスを使用した共焦点画像の例を図2に示す。図2aは、カルセインAM生存率染色からの緑色蛍光を示す共焦点画像を示しており、最高値である0.12J/cmのレーザーフルエンスでのみ細胞毒性が明らかになったことが示された。図2bは、RD10からの赤色蛍光を示す共焦点画像を示しており、レーザーフルエンスの増加に伴ってRD10の細胞内送達が増加していることが示された。
【0132】
RD10の細胞内送達および細胞生存率を、異なるIONP濃度で調製された様々なレーザーフルエンスおよび構造体について、共焦点顕微鏡によって体系的に評価した(図3)。送達効率をRD10陽性細胞のパーセンテージとして定量化し、生存率をカルセイン陽性細胞のパーセンテージとして表した。予想通り、レーザー照射がない場合(0J/cm)、HeLa細胞へのRD10の顕著な取り込みは発生しなかった。レーザー照射をすると、RD10は、印加されたレーザーフルエンスおよびIONP含有量に依存する程度まで細胞に正常に送達された。レーザーフルエンスまたはIONP含有量を増やすと、一般的に細胞内送達をより増やすことになるが、細胞毒性もまた徐々に増加する。興味深いことに、最適な送達効率につながるレーザーフルエンスとIONP濃度との組み合わせがいくつか存在することを見出した。例えば、IONP含有量が最小の0.023体積%(3.6 IONP/細胞に対応)の構造体の場合、0.56J/cmのレーザーフルエンスにより、85%を超える陽性細胞が得られ、細胞生存率は約87%であった。これは、0.23体積%のIONP(43 IONP/細胞)の構造体で得られたものと実質的に同一であるが、レーザーフルエンスはほぼ7分の1の0.08J/cmである。
【0133】
[1-f.細胞のトランスフェクションのための構造体の繰り返し活性化]
当技術分野で知られているナノ粒子増感光穿孔法では、ナノ粒子、例えば、金ナノ粒子を用いるが、金ナノ粒子は最初のレーザーパルスの後に断片化する傾向があるためにたった一度だけ活性化され得るが、結果としてその光熱機能を失ってしまう。しかしながら、送達効率をさらに改善することを目的として、本発明に係る構造体の複数の照射サイクルを評価した。
【0134】
本発明に係るナノファイバーおよびIONPを含む構造体の上の細胞を2回照射した。第1のラウンドでは、前述のようにRD10が送達された。続いて細胞を洗浄した。図4aは、第1のラウンド後の共焦点画像を示している。次いで、10kDaの緑色蛍光FITC-デキストラン高分子(FD10)の存在下において、同じ構造体で細胞を2回照射した。第2のラウンド後の共焦点画像を図4bに示す。図4aと図4bとの重ね合わせたものを図4cに示し、これによると、多くの細胞が緑色および赤色の両方の蛍光を示している。
【0135】
図5に示すフローサイトメトリーによる定量分析により、90%の細胞がRD10およびFD10の両方に対して陽性であることを確認した。
【0136】
同じ構造体を使用して、繰り返しの光穿孔法のさらなる証拠を提供するために、HELA細胞についてFD10を用いて最大4回、光穿孔した。FD10濃度を、各光穿孔ラウンド間で2倍(0.2mg/ml~1.6mg/ml)にし、細胞内送達の増加をより簡単に確認できるようにした(拡散駆動であるため、濃度勾配を必要とする)。各光穿孔後の陽性細胞のパーセンテージを図6に示す。各光穿孔後の細胞あたりの相対蛍光強度中央値を図7に示す。陽性細胞のパーセンテージは約70%から約90%に増加したが(図6)、送達の増加は、細胞あたりの相対蛍光強度中央値(rMFI)から最も明白であり、光穿孔の追加ラウンドごとにほぼ直線的に増加した(図8)。
【0137】
[1-g.光穿孔法による高分子の細胞内送達]
より大きな高分子、すなわちタンパク質またはmRNAの分子量を有する分子の細胞内送達を評価するために、40kDa、70kDa、150kDa、および500kDaのFITC-デキストラン(FD40、FD70、FD150およびFD500)分子を、1倍、2倍および4倍の光穿孔によってHeLa細胞に送達した。取り込みをフローサイトメトリーによって測定し、陽性細胞(図8)のパーセンテージおよびrMFI(図9)として表した。
【0138】
図8および図9に示すように、分子量が増加するにつれて送達効率は徐々に低下し、これは、分子の組み合わせが細孔サイズと比較して大きくなり、分子拡散が遅くなるためである。光穿孔法の手順を繰り返すと、一般的にわずかにより多くの陽性細胞が得られるが、平均して細胞あたりの送達量は改善されなかった。
【0139】
図8および図9から、本発明に係る方法は、少なくとも500kDaまでの化合物で細胞をトランスフェクトすることに成功しており、トランスフェクトされた細胞のパーセンテージは、分子サイズに応じて65~90%の範囲である。
【0140】
[1-h.光穿孔法による浮遊細胞のトランスフェクション]
本発明に係る方法が浮遊細胞のトランスフェクションにどの程度成功するかを調査するために、ジャーカット細胞(トランスフェクトが困難な初代ヒトT細胞のモデルとして広く使用されているヒトTリンパ球の不死化系)を使用した。ナノファイバーおよびIONPを含む構造体に細胞を添加する前に、初めに2mg/ml FD10をジャーカット細胞懸濁液に添加した。細胞を5分間沈降させたが、これはファイバーウェブ上面に細胞を収集するのに十分な時間であった。その後、付着細胞の場合とまったく同じ方法でレーザービームをスキャンすることにより、それらを光穿孔した。細胞あたりの利用可能なIONPクラスターの数を、ジャーカット細胞の面積にIONP密度(この場合は7.7~28.4 IONP/細胞の範囲)を掛けることによって定量化した。
【0141】
次に、レーザーフルエンスおよびIONP含有量の関数としてのトランスフェクション効率を調査した。図10a、図10b、および10cに示すように、カルセイン赤-オレンジAM生存率染色剤で測定した場合、細胞生存率を犠牲にして、レーザーフルエンスの増加に伴って送達効率が増加する。同様に、所定のレーザーフルエンスのIONP含有量を増やすと、一般に送達効率が増加する。生存率の閾値を最小で80%に設定すると、ナノファイバーおよび0.46体積% IONP(~12 IONP/細胞)ならびに0.16J/cmのレーザーフルエンスを含む構造体で最高のトランスフェクション効率(~75%陽性細胞)が得られた。最後に、繰り返しの光穿孔法をテストし(図10d)、細胞の生存率にほとんど影響を与えずに手順を繰り返すことで、陽性細胞のパーセンテージを増加させ得ることを再び見出した。上記実験については、ナノファイバーおよび0.46体積% IONPを含み、レーザーフルエンスが最適以下の0.08J/cmを使用して、上記段階的な改善をよりよく示していることに注意してほしい。後続のレーザースキャンの間に細胞を穏やかに再懸濁し、新しい場所で細胞がナノファイバーにランダムに付着するように、再び沈降させた。
【0142】
[1-i.レーザー照射時にナノファイバーおよびIONPを含む構造体からのIONPの漏出可能性を検出するためのICP-MS測定]
構造体の材料に包埋された電磁放射を吸収できる粒子と細胞とが直接接触しているかどうかを評価するために、光穿孔後の細胞の鉄含有量をICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)で測定した。
【0143】
ナノファイバーおよびIONPを含む構造体への照射を、ファイバー上に細胞が存在する場合と存在しない場合とで行った。細胞が存在しない場合は、蒸留水をナノファイバーおよび粒子を含む構造体に加えた。ICP-MS分析のためにレーザー処理した後、蒸留水を再度収集した。細胞を含むサンプルを、上記のように調製した。レーザー照射後、浮遊細胞の場合はPBSで洗浄することにより、付着細胞の場合はトリプシン処理することにより細胞を収集した。最後に、100μlの王水(塩酸および硝酸の3:1混合物)をサンプルに添加して、存在し得る細胞またはその他の有機物を分解した。次に、鉄含有量をICP-MS(Agilent 8800、カリフォルニア州サンタクララ、米国)で測定した。具体的には、サンプル溶液を金属フリーのチューブで100倍に希釈し、内部標準としてYを添加して(最終濃度1μg/L)、機器の不安定性および/またはシグナルドリフトを補正し、2%HNOを含む10mLの最終体積とした。外部校正スタンダード(0、0.5、1、2.5、5、および10μg/L Fe + 1μg/L Y)を、1,000mg/L Fe標準原液から、弱酸性溶液を使用して適切な量に希釈することにより調製し、これにより、サンプル溶液のマトリックスを模倣する。サンプル調製のすべてのステップを通して、ボルテックスミキサーを使用して溶液を完全に混合した。
【0144】
内部標準補正を、次の式に従って実施した:
【数5】
Fe,corrは、補正された56Fe(NH2+信号応答(signal response)、RFeは、測定された56Fe(NH2+信号応答、およびRYは、89Y(NH6+信号応答である。相対標準偏差を、すべての計算ステップ(内部標準化および外部校正)の誤差伝搬によって計算した。Feのバックグラウンド濃度が通常わずかに上昇するため、バックグラウンド等価濃度(BEC)が、分析性能のより代表的な測定値であるがゆえに、検出/定量限界(LOD/LOQ)の代わりに上記BECを計算した。HeLa細胞およびジャーカット細胞を、ナノファイバーおよび各々0.23体積%または0.46体積% IONPを含む構造を使用して、上記のように光穿孔した。ポジティブコントロールとして、ポリエチレングリコールでコーティングされた500μg/mlの30nm IONPで37℃、4時間インキュベートした細胞も含ませた。図11に示すように、ポジティブコントロールは、両方の細胞タイプのネガティブコントロール(未処理の細胞)と比較して、実際に有意に高い鉄濃度を示した。ただし、重要なことに、光穿孔された細胞の鉄含有量は、テストされたレーザーフルエンス(0.08~0.16J/cm)またはレーザースキャンの数(最大N=4)のいずれについても未処理の細胞と有意差はなかった。これは、細胞内の鉄含有量には測定可能なほどの増加がないことを証明しているが、わずかな増加を簡単に検出し得ないほど細胞内の内因性鉄含有量がすでに相当高いと言うことができる。したがって、純粋な蒸留水に沈め、レーザー光(細胞が存在しない)で照射したときの本発明に係る構造体からの潜在的な鉄放出を評価した。図12の結果は、ナノファイバーおよびIONPを含む構造体へのレーザー活性化後の蒸留水中の鉄含有量が有意に増加せず、機器の検出感度である0.082mg/Lを下回ったままであることを示している。このことは、ナノファイバーおよび0.23体積% IONPを含む構造体のみならず、最大0.16J/cmのフルエンスで複数のレーザー活性化サイクル(最大N=4)を行った後でも、IONP含有量が最高の1.15体積%の構造体にも当てはまった。ポジティブコントロールとして、ナノファイバーを含む構造体に存在するのと同量のファイバーを王水で分解したことにより、すべてのIONPが放出されたに違いない。その場合、ICP-MSは、包埋されたIONP含有量(0.23体積%、0.46体積%、または1.15体積% IONP)に比例する非常に高い鉄濃度を実際に検出した。本発明に係る構造体は、潜在的に毒性の増感ナノ粒子またはその構成要素への細胞の直接的な露出を回避しながら、レーザー活性化によって意図された効率的な細胞トランスフェクションというゴールへ到達すると結論付けることができる。
【0145】
[1-j.光穿孔法による付着細胞における効率的な遺伝子サイレンシング]
機能性高分子としてのsiRNAの細胞内送達を評価するために、抗eGFP siRNAを、緑色蛍光タンパク質(GFP)を安定して発現する付着性H1299細胞内に送達した。細胞を、0.23体積% IONPを有するコラーゲン-コーティングされたナノファイバーウェブ上で37℃、24時間増殖させた後、コントロールおよび抗GFP siRNAを用いて光穿孔し(0.08J/cm)、GFP発現を測定する前に24時間増殖させ続けた。5μM siRNAを用いたトライアル実験の共焦点顕微鏡による検査では、抗GFP siRNAで処理した場合は明確なGFP発現低下が示され、コントロールsiRNAで処理した場合は示されなかった。フローサイトメトリーでこれらの結果を確認すると、コントロールsiRNAで処理した場合は77%のGFP陽性細胞であったが、機能性siRNAで処理した場合は28%に減少した。siRNA濃度(0.5、1、2、5μM)の関数としてのノックダウン効率および細胞毒性を体系的に評価した。eGFPの発現は、siRNA濃度が高くなると減少し、5μM siRNAでは有意な遺伝子サイレンシングを有する細胞が75%に達した(図13a、図13b)。繰り返しの光穿孔がsiRNA遺伝子サイレンシングにも有益であるかどうかを評価した。実際、各スキャンで最大4回レーザースキャンを繰り返すと、eGFPの発現は徐々に減少し、4回のレーザー照射を繰り返した後は、ノックダウン効率が最大75%に達した。すべての条件において、ここで細胞力価-Glo発光アッセイ(cell Titer-Glo luminescent assay)によって測定された細胞生存率は非常に良好なままであった(>75%、図13b)。
【0146】
[12-k.光穿孔法による初代ヒトT細胞における効率的な遺伝子サイレンシング]
本発明に係るナノファイバーおよびIONPを含む構造上のヒト患者由来のCD3+T細胞の光穿孔法を評価した。0.23体積%、1.15体積%、2.3体積% IONPを有する構造体を調製し、T細胞を0.16J/cmの固定レーザーフルエンスでトランスフェクトした(これがジャーカットに最適であったため)。最良のトランスフェクション効率(約30%の陽性細胞)が、1.15体積%のIONPで得られた(図14)。次に、レーザーフルエンスを最適化し、トランスフェクション効率が0.16J/cmで最適であることを確認した。興味深いことに、レーザーフルエンスを0.32J/cmに増加させても、理論シミュレーションで予測されたようなさらなるトランスフェクション効率の改善は起こらなかった。ジャーカットと同様に、繰り返しの光穿孔はFD10陽性細胞のパーセンテージを改善した(図15)。例えば、3回の光穿孔によりトランスフェクション効率53%が達成され、細胞生存率は60%を超えた。これらの結果に基づいて、ヒトT細胞でのさらなる実験のために、I=0.16J/cm、1.15体積% IONP中性ナノファイバー、およびN=3を選択した。
【0147】
刺激されたヒトT細胞における光穿孔のsiRNA送達性能を、蛍光標識されたモデルsiRNA(生物学的機能なし)を用いてテストした。電気穿孔法、および従来の金ナノ粒子増感光穿孔法という、他の2つの確立された物理的トランスフェクション技術を用いて、直接的な比較を実施した。図16において、電気穿孔法はEPであり、本発明に係る光穿孔法はPENであり、金ナノ粒子増感光穿孔法はPPである。電気穿孔法で頻繁に観察されるように、処理から生存した細胞はごくわずかであった(14.2%、図16b)が、ほとんどすべてがsiRNAについて陽性であった(94.2%、図16a)。両方の測定の積は、いわゆるトランスフェクション収率、つまり、生きていて、かつトランスフェクトされた細胞のパーセンテージであり、電気穿孔法ではわずか13.5%に達したのみである。金ナノ粒子増感光穿孔法および本発明に係る構造を使用する光穿孔法は両方とも、細胞生存率が60%を超え、かつ陽性細胞が40~50%であったので、細胞に対してはるかに穏やかであった。これにより、本発明に係る構造体を使用する光穿孔法のトランスフェクション収率は35%、金ナノ粒子増感光穿孔法のトランスフェクション収率は30%という結果になった(図16b)。したがって、本発明に係る光穿孔法を用いたトランスフェクション収率は、従来の光穿孔法と同様であるが、電気穿孔法よりも2.5倍以上優れていると結論付けることができる。後者は、この結果が本発明に係る粒子と細胞との間の直接的な接触なしに得られるという事実を考えると、驚くべき成果である。
【0148】
機能的なsiRNAによる遺伝子サイレンシングを評価するために、PD-1受容体を標的とした。初日、T細胞をドナーから収集し、第1回目の刺激を行った。7日後、細胞をsiRNAのトランスフェクションのために収集し、第2回目の刺激を行った。細胞を1μM siPD1でトランスフェクトし、PD-1抗体染色後にフローサイトメトリーにより、24時間、48時間、72時間後のPD1発現を定量した。トランスフェクションを、電気穿孔法、光穿孔法、金ナノ粒子増感光穿孔法の間で再度比較した。例示的なフローサイトメトリーヒストグラムが図17に示され、kは、コントロールsiRNAおよびsiPD1を用いた光穿孔法の48時間後の細胞で、後者の場合のPD1発現の減少を示している。生細胞の全集団にわたるPD-1抗体染色の減少から、ノックダウン効率を経時的に定量化した(図18)。3つのトランスフェクション方法すべてで同様のレベルのPD-1遺伝子サイレンシングが得られ、48時間後に最大40%のノックダウンに達していた。光穿孔法はその毒性の低さゆえ、電気穿孔法よりも2.5倍高いトランスフェクション収率を示すことを念頭に置きつつ、該光穿孔法は養子T細胞治療のために操作されたT細胞を製造するための非常に有望で効果的なトランスフェクション法であることを確認する。
【0149】
図19は、H1299におけるCas-9遺伝子ノックアウトに対する1% IONPを有するポリカプロラクトン(PCL)由来のナノファイバーを含む構造の適用を示す。図19aは、GFP発現をノックアウトするように設計された4μMのCas-9リボヌクレオプロテインによる光穿孔法の前(左)および後(右)に、GFPを安定して発現するH1299細胞の緑色蛍光を示す共焦点画像を示している。サンプルは、0.08J/cmのレーザーフルエンスで1回スキャンした。図19bは、対応するサイトメトリーヒストグラムを示しており、各々90.5%および33.5%のeGFP陽性細胞を用いた光穿孔法の前後でeGFP発現が細胞集団全体にわたってどのように分布しているかを図示している。図19cおよび図19dは、H1299細胞の蛍光強度中央値(MFI)およびノックダウン効率(=eGFP陰性細胞のパーセンテージ)をそれぞれ示しており、該H1299細胞については、Cas-9リボヌクレオプロテインの濃度を増加させながら(0.5、1、2、4μM)、かつ0.5μMの濃度で複数回(N=2、3、4)光穿孔している。
【0150】
H9ヒト胚性幹細胞における高分子送達に対する1% IONPを有するポリカプロラクトン(PCL)由来のナノファイバーを含む構造体の適用を示す。
【0151】
図20aは、光穿孔前(上段)、1回の光穿孔サイクル後(2段目)、および2回の光穿孔サイクル後(下段)における10kDa(RD10)の蛍光標識デキストランの送達が成功したことを示す共焦点画像を示している。生細胞をカルセインAMで染色し、死細胞はヨウ化プロピジウム(PI)の陽性シグナルで認識できる。光穿孔法を0.08J/cmのレーザーフルエンスを用いて実施した。
【0152】
図20bは、レーザーフルエンス(I=0.08、0.12、0.24J/cm)および複数の光穿孔サイクル(N=2、3、4)の関数として、画像処理によって定量化した細胞生存率およびRD陽性細胞のパーセンテージを示す。
【0153】
[実施例2 ポリマー材料およびナノ粒子を含む非多孔質構造]
図21aは、本発明に係る構造体1の実施形態の概略図を示す。図21bは、線A-A'に沿った図21aに示される構造体1の断面図を示す。構造体1は、ポリマー材料2および電磁放射を吸収することができる粒子3を含むポリマーシートを含む。粒子3は、例えば、炭素粒子もしくは酸化鉄粒子、または炭素粒子と酸化鉄粒子との組み合わせを含む。粒子3は、材料2に包埋されており、例えば、平均球相当径dが1000nmである。
【0154】
構造体の厚さtは、0.1μm~100μmの範囲であり、例えば1μm、2μmまたは5μmの厚さである。
【0155】
構造体の体積Vに対する構造の自由エリア表面の面積Sの比、すなわちS/V比は、1/tに対応する。
【0156】
ポリマーシートは、好ましくは、ポリスチレン、ポリカプロラクトン、エチルセルロース、セルロースアセトフタレートまたはポリ乳酸-co-グリコール酸、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、シルク、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、デキストラン、デンプン、ポリカーボネートまたはポリアクリレートを含むか、またはそれらをベースとする。
【0157】
粒子は、0.001体積~20体積%(体積粒子/体積構造)の範囲の濃度で、例えば、1体積%、2体積%または5体積%の濃度で、材料中に存在する。
【0158】
好ましくは、すべてまたは実質的にすべての粒子が構造体の材料に完全に包埋され、これは、構造体のすべてまたは構造体の実質的にすべての粒子が構造体の材料によって完全に囲まれ、全ての粒子がまたは実質的に全ての粒子が、構造の自由エリア表面に露出されていないことを意味する。
【0159】
構造体内に存在する少なくとも60%の粒子は、この粒子と自由エリア表面Sとの最短距離Lが1nm~100nmの範囲になるように材料に包埋される。
【0160】
図22は、IONPを有さないPLAフィルム(2%PLA)(コントロール)、0.005%IONPを有するPLAフィルム(2%PLA)、0.01%IONPを有するPLAフィルム(2%PLA)、0.1%IONPを有するPLAフィルム(2%PLA)を用いたHeLa細胞の光穿孔法に対する、FD500(FICT-デキストラン500kDa)陽性細胞のパーセンテージ、細胞力価-Glo代謝アッセイで測定した細胞の生存率、および相対蛍光強度中央値を示す。
【0161】
さらに、FD500陽性細胞のパーセンテージ、生存率、および相対蛍光強度中央値(rMFI)を、各々、0.3J/cm(=E1)、0.5J/cm(=E2)、0.84J/cm(=E3)、1.26J/cm(=E4)、および1.6J/cm(=E5)という異なるレーザーフルエンスを使用して、0.025%IONPを有するPLAフィルム(2%PLA)を使用したHeLa細胞の光穿孔法(1光穿孔サイクル)について決定した。結果を図23に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21a
図21b
図22
図23
【国際調査報告】