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特表2022-549245尿の細胞から作製される内皮および平滑筋様組織およびその使用
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  • 特表-尿の細胞から作製される内皮および平滑筋様組織およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】尿の細胞から作製される内皮および平滑筋様組織およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20221116BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20221116BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20221116BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20221116BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20221116BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20221116BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221116BHJP
   A61K 35/22 20150101ALI20221116BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20221116BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/071 ZNA
C12N7/01
C07K14/47
A61L27/38 300
A61K35/34
A61K35/44
A61P9/00
A61K35/22
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517976
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(85)【翻訳文提出日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 US2020041537
(87)【国際公開番号】W WO2021055081
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】62/903,154
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ヨンソプ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヨンドゥク
(72)【発明者】
【氏名】イ,サンホ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AA97X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB04
4B065BB15
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB23
4B065BC50
4B065CA44
4B065CA46
4C081AB12
4C081AB13
4C081CD34
4C087AA01
4C087BB40
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA36
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、尿の細胞から作製される内皮および平滑筋様血管組織に関する。いくつかの態様において、本開示は、尿由来細胞を第1の増殖培地中でETV2に、該細胞が増加したレベルの内皮表面マーカーを発現する細胞のプールを形成するよう改変されるような条件下に暴露し、その後、該細胞プールを第2の増殖培地に、該細胞が前記内皮表面マーカーに加えて増加したレベルの平滑筋表面マーカーを発現する細胞を含む組織を形成するよう改変されるような条件下に暴露することによって、内皮および平滑筋様血管組織を作製する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、本書に記載される細胞および組織を、血管、心臓および創傷治癒の処置適用のために使用することに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)対象から尿の細胞を濃縮すること;
ii)該濃縮した尿の細胞を、
a)EGF、
b)ヒドロコルチゾン、
c)エピネフリン、および
d)ヒト血清または動物血清
を含む第1の増殖培地中で複製して、精製された濃縮尿由来細胞を提供すること;
iii)該精製された濃縮尿由来細胞をETV2に暴露すること;
iv)該精製された濃縮尿由来細胞を第1の増殖培地中で培養して、内皮様尿由来細胞を提供すること;
v)該内皮様尿由来細胞を、
a)EGF、
b)VEGFA、
c)bFGF、
d)ヘパリン、
e)L-アスコルビン酸、および
d)ヒト血清または動物血清
を含む第2の増殖培地中で培養して、内皮および平滑筋様血管組織を提供すること、
を含む、内皮および平滑筋様血管組織を作製する方法。
【請求項2】
ヒト血清が対象に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
いくつかの態様において、精製された濃縮尿由来細胞をETV2に暴露することが、該精製された濃縮尿由来細胞を、組換えウイルスであって、該精製された濃縮尿由来細胞に感染し、ETV2をコードする遺伝子を含み、感染後にETV2を発現する組換えウイルスと混合することによる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組換えウイルスがアデノウイルスまたはレンチウイルスである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
増殖培地が、グルコース、アミノ酸、およびビタミン、グルタミン、およびピルビン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
内皮および平滑筋様血管組織を三次元構造に折り畳むステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
内皮および平滑筋様血管組織を対象に移植することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
いくつかの態様において、内皮および平滑筋様血管組織を移植することが、内皮および平滑筋様血管組織を、静脈、動脈、毛細血管、心筋、皮膚、肺、腎臓または腸と接触させることによる、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年9月20日に出願された米国仮出願第62/903154の利益を主張する。該出願の全体が、参照することにより本書に含まれる。
【0002】
連邦助成研究に関する記載
本発明は、アメリカ国立衛生研究所により与えられたDK108245、HL127759およびHL129511の下、連邦の支援によってなされた。
【0003】
庁電子出願システム(EFS-WEB)でテキストファイルとしての提出された文書の参照による組み込み
本願に係る配列表は、紙の代わりにテキストフォーマットで提供され、参照することにより本明細書に含まれる。配列表を含むテキストファイルの名称は、19161PCT_ST25.txtである。テキストファイルは11KBで、2020年7月9日に作成されたものであり、EFS-Webで電子的に提出される。
【背景技術】
【0004】
背景
虚血性心臓血管疾患は、先進国における罹患および死亡の大きな原因である。リスク因子管理、薬理学的治療および外科的血行再建が現在の治療の選択肢であるが、血管が永久的に損なわれた場合には必ずしも効果的ではない。過去何十年にもわたり多大な努力がなされてきたにもかかわらず、虚血性心臓および血管疾患の患者の治療は未だ困難である。したがって、宿主器官における血液供給を新血管形成によって回復する治療法の開発の必要性は高い。
【0005】
内皮細胞(EC)は血管系の重要な要素であり、損傷または虚血組織の修復に欠かせない。ここ何年かの間、細胞療法に使用するためのECを作製するために多くの試みがなされてきた。当初関心が高かったが、成体幹細胞または前駆細胞は、内皮への分化転換能が小さいことがわかった。それに代わる有望な細胞として胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)が現れた。しかしながら、その臨床適用は、造腫瘍性または非効率的な細胞生産性といった問題のために、制限されている。したがって、改善策を見出すことが必要とされている。
【0006】
Leeらは、ER71/ETV2を用いる、ヒト皮膚線維芽細胞の内皮細胞へのリプログラミングを報告している。
【0007】
Veldmanらは、転写因子Etv2による、インビボでの速骨格筋の機能的内皮への分化転換を報告している。PLoS Biol, 2013, 11(6): e1001590。
【0008】
Bharadwajらは、ヒト尿由来幹細胞の多能性分化を報告している。Stem Cells 2013, 31:1840-1856。
【0009】
ここに引用する文献は、従来技術であると認めたものではない。
【発明の概要】
【0010】
概要
本開示は、尿の細胞から作製される内皮および平滑筋様血管組織に関する。いくつかの態様において、本開示は、尿由来細胞を第1の増殖培地中でETV2に、該細胞が増加したレベルの内皮表面マーカーを発現する細胞のプールを形成するよう改変されるような条件下に暴露し、その後、該細胞プールを第2の増殖培地に、該細胞が前記内皮表面マーカーに加えて増加したレベルの平滑筋表面マーカーを発現する細胞を含む組織を形成するよう改変されるような条件下に暴露することによって、内皮および平滑筋様血管組織を作製する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、本書に記載される細胞および組織を、血管、心臓および創傷治癒の処置適用のために使用することに関する。
【0011】
いくつかの態様において、本開示は、i)対象から尿の細胞を濃縮すること;ii)該濃縮した尿の細胞を、a)EGF、b)ヒドロコルチゾン、c)エピネフリン、およびd)ヒト血清または動物血清を含む第1の増殖培地中で複製して、精製された濃縮尿由来細胞を提供すること;iii)該精製された濃縮尿由来細胞をETV2に暴露すること;iv)該精製された濃縮尿由来細胞を第1の増殖培地中で培養して、内皮様尿由来細胞を提供すること;v)該内皮様尿由来細胞を、a)EGF、b)VEGFA、c)bFGF、d)ヘパリン、e)L-アスコルビン酸、およびd)ヒト血清または動物血清を含む第2の増殖培地中で培養して、内皮および平滑筋様血管組織を提供すること、を含む、内皮および平滑筋様血管組織を作製する方法に関する。いくつかの態様において、ヒト血清は、該血管組織で処置される、または該血管組織を移植される対象に由来する。
【0012】
いくつかの態様において、精製された濃縮尿由来細胞をETV2に暴露することは、該精製された濃縮尿由来細胞を、組換えウイルスであって、該精製された濃縮尿由来細胞に感染し、ETV2をコードする遺伝子を含み、感染後にETV2を発現する組換えウイルスと混合することによる。いくつかの態様において、組換えウイルスはアデノウイルスまたはレンチウイルスである。
【0013】
いくつかの態様において、第1または第2の増殖培地は、グルコース、アミノ酸、およびビタミン、グルタミン、およびピルビン酸ナトリウムを含む。
【0014】
いくつかの態様において、本書に開示される方法は、内皮および平滑筋様血管組織を三次元構造に折り畳むステップをさらに含む。いくつかの態様において、本書に開示される方法は、内皮および平滑筋様血管組織を対象に移植することをさらに含む。
【0015】
いくつかの態様において、内皮様および平滑筋様血管組織を移植することは、内皮および平滑筋様血管組織を、静脈、動脈、毛細血管または心筋と接触させることによる。
【0016】
いくつかの態様において、本開示は、ETV2をコードする組換えベクターをプロモーターとの作動可能な組み合わせで含む増幅された尿の細胞を、プロモーターの刺激に、ETV2が該細胞中で生成され、増幅された尿の細胞が増加したレベルの内皮表面マーカーを発現する細胞のプールを形成するように改変されるような条件下に暴露し、それによって内皮様細胞を提供することを含み、ここで、前記表面マーカーがKDRおよびCDH5である、内皮または内皮様細胞を作製する方法に関する。
【0017】
いくつかの態様において、細胞プールは、増加したレベルの表面マーカーKDRおよびCDH5を発現する。いくつかの態様において、細胞プールは、増加したレベルの表面マーカーPECAM1およびTEKを発現する。
【0018】
いくつかの態様において、尿の細胞または増幅された細胞は、ERGもしくはFLI1をコードする組換えベクターを含むもしくは含まない、またはFOXC2、MEF2C、SOX17、NANOGもしくはHEY1をコードする組換えベクターを含むもしくは含まない。
【0019】
いくつかの態様において、尿の細胞または増幅された尿由来細胞を、TGFβ阻害剤を含む培地と接触させるまたは接触させない。
【0020】
いくつかの態様において、本書に開示される方法は、精製された尿由来細胞のプールを、KDRを発現する細胞を選択することによって精製して、精製されたKDR尿由来細胞のプールを提供するステップをさらに含む。いくつかの態様において、本書に開示される方法は、精製された尿由来細胞のプールを、KDRを発現しない細胞を選択することによって精製して、精製されたKDRネガティブ尿由来細胞のプールを提供するステップをさらに含む。
【0021】
いくつかの態様において、本開示は、本書に開示される方法によって作製された細胞を含む組成物に関する。
【0022】
いくつかの態様において、本書に開示される方法は、本開示において作製される細胞をバルプロ酸と接触させることを含む、内皮様細胞を作るステップをさらに含む。
【0023】
いくつかの態様において、本書に開示される方法は、本開示において作製される細胞をプロモーター刺激と接触させることを含む、改変された細胞のプールを作るステップをさらに含む。
【0024】
いくつかの態様において、本書に開示される方法は、本開示において作製される細胞をコラーゲンと接触させることを含む、改変された細胞のプールを作るステップをさらに含む。
【0025】
いくつかの態様において、本開示は、必要とする対象に本開示において作製された細胞または組織を有効量で投与することを含む、皮膚の状態、疾患、損傷、挫傷、開いた傷、裂傷、血管の状態、疾患、心臓の状態、疾患、アテローム性動脈硬化、冠動脈の疾患、または虚血を治療または予防する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、血管様組織の作製方法を示す。ヒト尿の細胞を尿の遠心分離によって集める。細胞ペレットを増殖培地(尿の細胞の増殖培地:10%ウシ胎児血清含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM/栄養混合物F-12(DMEM/F-12は、タンパク質、脂質または成長因子を含まない))に懸濁させる。成長因子EGF、ヒドロコルチゾンおよびエピネフリンを加える。細胞懸濁液を37℃、CO(5%)インキュベーターで14日間インキュベートする。細胞を選択し複製してコロニーを形成させる。複製された尿の細胞のリプログラミングを、ETV2コードするアデノウイルスによる感染によって開始する。尿由来細胞を24時間増殖させる。その後、培地を、VEGFA、EGF、bFGF、ヘパリンおよびビタミンCを含むように変更する。
図2図2は、ETV2処理された複製された尿の細胞において内皮遺伝子が顕著に誘導されたことを示すデータを示す。
図3図3は、血管様組織におけるチューブ状ネットワーク構造を示す。
図4図4は、非EC集団(KDRネガティブ)が顕著に平滑筋細胞特異的遺伝子に富むことを示すデータを示す。
図5図5は、血管様組織の作製を示す。
図6図6は、ヒト(H. sapiens、クエリ、NCBIアクセッション番号NP_055024.2)およびマウス(M. musculus、サブジェクト、NCBIアクセッション番号NP_031985.2)のETV2アイソフォーム1の配列比較を示す。232/344(同一67%)、250/344(ポジティブ73%)、および11/344(ギャップ3%)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示を詳細に説明する前に、本開示は説明される特定の態様に限定されず、当然変更されうることを理解されたい。また、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されうるので、本書において使用される術語は、特定の態様を説明する目的でのみ使用され、限定を意図したものではないことを理解すべきである。
【0028】
本書において使用される技術用語および科学用語は、別の定義をしない限り、本開示が属する技術分野の専門家に通常理解されるのと同じ意味を有する。好ましい方法および材料を以下に説明するが、本書に記載されるのと同様のまたは等価な任意の方法および材料も、本開示の実施または試験において使用することができる。
【0029】
本明細書において引用される刊行物および特許はすべて、個々の刊行物または特許が参照することにより本書に含まれることが特に個別に示されているかのように、参照することにより本書に含まれ、また、刊行物が、それに関して引用される方法および/または材料を開示および記載するために、参照することにより本書に含まれる。任意の刊行物の引用は、出願日前のその開示のためになすものであって、先行の開示のために本開示がそのような刊行物に対し先行する資格がないと認めるものと解釈されるべきではない。さらに、示される刊行日は実際の刊行日とは異なることがあり得、個別の確認が必要でありうる。
【0030】
本開示に接すれば当業者には明らかとなるであろうが、本書に記載および説明される個々の態様はそれぞれに、別個の成分および特徴を有し、これは、本開示の範囲または精神から外れることなく容易に、他のいくつかの態様の任意のものの特徴から切り離し、またはそれと組み合わせることができる。任意の記載される方法は、記載される事象の順序で、または理論的に可能な任意の他の順序で、実施することができる。
【0031】
本開示の態様は、別の指定をしない限り、当分野の技術の範囲内の、医薬、有機化学、生化学、分子生物学、薬理学等の技術を利用しうる。そのような技術は文献に十分に記載されている。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲において、文脈からそうでないことが明らかでない限り、単数形の記載は複数のものを包含することに注意すべきである。したがって、例えば短数の「サポート」の記載は複数のサポートを包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲において、別の意図が明らかでない限り下記の意味を有するものと定義される多くの用語が用いられうる。
【0033】
本開示および特許請求の範囲において使用される「含むこと」(および「含む」といった、含むこと、の任意の変化形)、「有すること」(および「有する」といった、有すること、の任意の変化形)、「包含すること」(および「包含する」といった、包含すること、の任意の変化形)または「含有すること」(および「含有する」といった、含有すること、の任意の変化形)という表現は、インクルーシブまたはオープンエンドであって、さらなる記載されていない要素または方法ステップを排除するものではないという点で、米国特許法における該表現の意味を有する。例えば、ある核酸配列を有するオリゴヌクレオチドに関する用語「含むこと」は、さらなる5’(5’末端)または3’(3’末端)ヌクレオチドを含みうるオリゴヌクレオチドいい、すなわち、該用語は、該オリゴヌクレオチド配列をより大きい核酸内に含むことを意図する。「本質的に~からなる」または「~からなる」等の表現は、本開示に含まれる方法および組成物に関して使用されるとき、請求項に係る進歩性の特徴をもたらすために、ある従来技術要素を排除するが、本書に開示される対応する組成物または方法と比較して組成物または方法の基本的な新規な特徴に実質的に影響しないさらなる組成物成分または方法ステップ等を含みうる、本書に開示されるような組成物をいう。
【0034】
用語「血清」とは、動物の血液を凝固させ、凝固物を血液から分離することで得られる血液産物をいう。ウシ胎児血清は、殺したウシから摘出したウシ胎児の血液から得る。
【0035】
本書において「増殖培地」または「培地」とは、ビタミン、アミノ酸、無機塩、バッファー、および栄養物、例えばアセテート、スクシネート、糖および/または場合によりヌクレオチドといった、細胞の維持およびタンパク質生合成による増殖を促進する成分を含有する組成物をいう。さらに、増殖培地は、pH指示薬としてフェノールレッドを含有しうる。増殖培地の成分は血液の血清に由来しうる、または増殖培地は血清不含有でありうる。増殖培地には場合により、アルブミン、脂質、インスリン、および/または亜鉛、トランスフェリンもしくは鉄、セレン、アスコルビン酸、および抗酸化剤、例えばグルタチオン、2-メルカプトエタノールもしくは1-チオグリセロールを補充しうる。他の意図される増殖培地の成分は、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸第二銅、二塩化マンガン、エタノールアミン、およびピルビン酸ナトリウムを包含する。最小必須培地(MEM)は、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウム、必須アミノ酸、およびビタミンであるチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ニコチンアミド(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、コリン、およびミオイノシトール(かつてビタミンB8と称された)を含有する増殖培地をさす当分野の用語である。さまざまな増殖培地が当分野で知られている。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)は、下記表1に示すように、グリシン、セリンおよび硝酸第二鉄といったさらなる成分を含有し、ビタミン、アミノ酸およびグルコースの含量の高い増殖培地である。
【0036】
【表1】
【0037】
ハムF-12培地は、高レベルのアミノ酸、ビタミン、および他の微量成分を含む。プトレシンおよびリノール酸がこの処方に含まれる。下記表2を参照されたい。
【0038】
【表2】
【0039】
いくつかの態様において、本開示は、DMEMとハムF-12の1:1混合物であるDMEMとF-12培地の混合物を用いた本書に開示される増殖培地を意図する。必要な至適二酸化炭素は、DMEでは10%であり、F-12では5%である。この培地は混合物であるから、至適二酸化炭素濃度は典型的には5%~8%である。
【0040】
本書において「ヘパリン」とは、可変的に硫酸化された反復二糖単位を有する抗凝固剤ポリマーをさす。二糖単位の多くは、2-O-スルホ-α-L-イズロン酸および2-デオキシ-2-スルホアミド-α-D-グルコピラノシル-6-O-スルフェートからなる。
【0041】
用語「ETSトランスロケーションバリアント2」および「ETV2」は、造血および血管発生に関与する転写因子をさす。マウスにおいてETV2欠損は、造血および血管形成の完全な阻害ならびに胚の死亡をもたらす。ヒト組換えETV2は、市販されるNCBI参照配列NP_055024.2(配列番号1)のタンパク質である。ETV2をコードするアデノウイルスも、ETV2 mRNAを発現するものが市販されている(NCBI参照配列NM_014209.4参照)。
【0042】
いくつかの態様において、本開示は、尿由来細胞をETV2に、ETV2が、任意にC末端またはN末端で細胞透過ペプチド(CPP)、例えばポリアルギニンとの融合体として産生されるような条件下に暴露すること、すなわち該ETV2融合体を尿由来細胞と接触させることを意図する。Warrenらは、合成組換えmRNAによるヒト細胞の、リプログラミングによる多能性化、および方向付けられた分化を報告している。Cell stem cell, 2010, 7:618-630。いくつかの態様において、本開示は、尿由来細胞をETV2のmRNAに暴露すること、例えばエレクトロポレーションの利用による、または該RNAとカチオン性ベヒクルを複合体化してエンドサイトーシスによる取り込みを促進することによる、該細胞へのmRNAの送達を意図する。
【0043】
用語「上皮成長因子」および「EGF」は、約6kDaのタンパク質をさす。ヒトEGF遺伝子は、タンパク質分解プロセスを受けて上皮および他の細胞の分裂を刺激するよう機能するペプチドを生成するプレタンパク質をコードする。ヒト組換えVEGFAは、下記配列を有する54アミノ酸タンパク質の形態のものが市販されている:
MNSDSECPLSHDGYCLHDGVCMYIEALDKYACNCVVGYIGERCQYRDLKWWELR(配列番号3)
【0044】
用語「血管内皮増殖因子A」または「VEGFA」は、血管内皮細胞の増殖および遊走を誘導する、ジスルフィド結合ホモ二量体として存在するヘパリン結合タンパク質をさす。ヒト組換えVEGFAは、下記配列を有する165アミノ酸タンパク質の形態のものが市販されている:
APMAEGGGQNHHEVVKFMDVYQRSYCHPIETLVDIFQEYPDEIEYIFKPSCVPLMRCGGCCNDEGLECVPTEESNITMQIMRIKPHQGQHIGEMSFLQHNKCECRPKKDRARQENPCGPCSERRKHLFVQDPQTCKCSCKNTDSRCKARQLELNERTCRCDKPRR(配列番号4)
【0045】
用語「塩基性線維芽細胞成長因子」または「bFGF」は、FGF受容体(FGFR)ファミリーメンバーに結合するβ-トレフォイル構造を有するタンパク質をさす。ヒト組換えbFGFは、下記配列を有する154アミノ酸タンパク質の形態のものが市販されている:
AAGSITTLPALPEDGGSGAFPPGHFKDPKRLYCKNGGFFLRIHPDGRVDGVREKSDPHIKLQLQAEERGVVSIKGVCANRYLAMKEDGRLLASKCVTDECFFFERLESNNYNTYRSRKYTSWYVALKRTGQYKLGSKTGPGQKAILFLPMSAKS(配列番号5)
【0046】
本書に開示されるタンパク質のバリアントは、当業者が容易に作製することができる。コンピューターモデリングを利用して、構造類似性を有する機能的バリアントを予測することができる。固有の活性を確認する試験を、文献および本明細書に記載される手順を用いて実施することができる。当業者は、望ましい性質を有することが予測される多数の機能しうるバリアントを作製しうることを理解しうる。遺伝子が知られ、メンバーは、種間で相同性が顕著である。配列は、図6においてヒトとマウスの配列である配列番号1と2の間の相異によって示されるように、同一ではない。344アミノ酸のうち232アミノ酸(67%)だけが同一である。いくつかは、保存的置換である(+で示される)。いくつかは、保存的置換ではない。機能的なバリアントを作製するために、当業者は、やみくもにランダムな組み合わせを試すことはせず、その代わりに、安定な置換をなすためにコンピュータープログラムを利用しうる。ある種の保存的置換が望ましいことが当業者に知られうる。さらに、当業者は典型的には、進化的に保存された位置に変更を加えない。Saldano et al. Evolutionary Conserved Positions Define Protein Conformational Diversity, PLoS Comput Biol. 2016, 12(3):e1004775を参照されたい。
【0047】
生物学的活性を消失させることなく、どのアミノ酸残基をどれだけ多く置換、挿入または欠失しうるかを決定するための手掛かりは、当分野でよく知られる公に利用可能なデータベースと組み合わせてコンピュータープログラムを用いることによって、例えばRaptorX、ESyPred3D、HHpred、Homology Modeling Professional for HyperChem、DNAStar、SPARKS-X、EVfold、Phyre、およびPhyre2ソフトウェアを用いることにより、得ることができる。Kelley et al., the Phyre2 web portal for protein modelling, prediction and analysis. Nat Protoc. 2015, 10(6):845-58を参照されたい。また、Marks et al., Protein structure from sequence variation, Nat Biotechnol, 2012, 30(11):1072-80; Mackenzie et al. Curr Opin Struct Biol, 2017, 44:161-167; Mackenzie et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 113(47):E7438-E7447 (2016) およびWei et al. Int. J. Mol. Sci. 2016, 17(12), 2118を参照されたい。
【0048】
本開示はいくつかの態様において、同一性が50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上を超える、本書に開示されるポリペプチド配列のバリアントの使用を意図する。「配列同一性」とは、2つ以上の核酸またはタンパク質の間の関連性の指標をいい、典型的には比較全長についてのパーセンテージで表される。同一性の計算には、より長い各配列において同じ相対位置に存在する同一のアミノ酸残基が考慮される。同一性の計算は、「GAP」(Genetics Computer Group, Madison, Wis.)および「ALIGN」(DNAStar, Madison, Wis.)といったコンピュータープログラムに含まれるアルゴリズムをデフォルトパラメータで用いて行われうる。いくつかの態様において、配列「同一性」は、2つの配列間で配列アラインメントにおいて正確にマッチする残基の数(パーセンテージで表される)をさす。いくつかの態様において、アラインメントの同一性パーセンテージは、同一である位置の数を、最短の配列、またはオーバーハングを除いた対応する位置の数(ここで、配列中のギャップは対応する位置としてカウントする)の大きい方で除することによって計算されうる。例えば、ポリペプチドGGGGGG(配列番号6)とGGGGT(配列番号7)とでは、配列同一性が5分の4または80%である。例えば、ポリペプチドGGGPPP(配列番号8)とGGGAPPP(配列番号9)とでは、配列同一性が7分の6または85%である。
【0049】
いくつかの態様において、任意の意図される配列同一性パーセンテージについて、配列は、同じパーセンテージ以上の配列類似性を有しうることも意図される。パーセント「類似性」とは、アラインメントの2つの配列の間のアミノ酸類似性、例えば疎水性、水素結合力、帯電の程度を定量化するために用いられる。この方法は、あるアミノ酸がマッチするために同一である必要がないことを除き、同一性を決定するのと同様である。いくつかの態様において、配列類似性は、よく知られたコンピュータープログラムをデフォルトパラメータで用いて計算されうる。典型的には、アミノ酸は、性質の類似する群に含まれる、例えば下記のアミノ酸群にしたがって性質の類似する群に含まれる場合、マッチすると判定される:芳香族-F Y W;疎水性-A V I L;正に荷電-R K H;負に荷電-D E;極性-S T N Q。
【0050】
「対象」は、任意の動物を意味するが、好ましくは哺乳動物、例えばヒト、サル、マウスまたはウサギである。
【0051】
本書において、用語「処置する」および「処置」は、対象(例えば患者)が治癒し、疾患が完治する場合に限定されない。むしろ、本開示の態様は、症状を軽減する、および/または疾患進行を遅延させるのみの処置をも意図する。
【0052】
用語「核酸」は、ヌクレオチドのポリマーまたはポリヌクレオチドをいう。この用語は、単一の分子または分子の集合体をさして用いられる。核酸は、一本鎖または二本鎖であり得、後述のようにコーディング領域およびさまざまな調節エレメントの領域を含み得る。
【0053】
用語「遺伝子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド」または特定のポリペプチドを「コードする核酸配列」は、遺伝子のコーディング領域を含む核酸配列、言い換えれば遺伝子産物をコードする核酸配列を含む核酸配列をいう。コーディング領域は、cDNA、ゲノムDNAまたはRNAのいずれかの形態中に存在しうる。DNA形態中に存在する場合、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸は、一本鎖(すなわちセンス鎖)または二本鎖でありうる。適当な調節エレメント、例えばエンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、ポリアデニル化シグナル等は、適正な転写開始および/または正確な一次RNA転写産物のプロセシングを可能にするために必要な場合、遺伝子のコーディング領域の極く近傍に配置されうる。あるいは、本発明の発現ベクター中に用いられるコーディング領域は、内因のエンハンサー/プロモーター、スプライスジャンクション、介在配列、ポリアデニル化シグナル等、または内因および外来調節エレメントの両方の組み合わせを含みうる。
【0054】
用語「作動可能な組み合わせで」、「作動可能な順序で」および「作動可能に連結される」とは、所定の遺伝子の転写および/または所望のタンパク質分子の合成を導くことのできる核酸分子が形成されるような様式で核酸配列が連結されることをいう。この用語は、機能的タンパク質が生成されるような様式でアミノ酸配列が連結されることをもいう。
【0055】
用語「調節エレメント」とは、核酸配列の発現のいくつかの側面を調節する遺伝子エレメントをいう。例えば、プロモーターは、作動可能に連結されたコーディング領域の転写の開始を促進する調節エレメントである。他の調節エレメントは、スプライシングシグナル、ポリアデニル化シグナル、終結シグナル等である。
【0056】
プロモーターは、構成的または調節可能でありうる。プロモーターについて用いられる用語「構成的」とは、プロモーターが、作動可能に連結された核酸配列の転写を、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光等)の不存在下に誘導可能であることを意味する。典型的には、構成的プロモーターは、導入遺伝子の発現を実質的に任意の細胞および任意の組織において誘導することができる。これに対し、「調節可能」または「誘導可能」なプロモーターは、作動可能に連結された核酸配列の転写を、刺激(例えば熱ショック、化学物質、光等)の存在下に、刺激の不存在下とは異なるあるレベルで誘導することのできるものである。
【0057】
エンハンサーおよび/またはプロモーターは、「内在性」または「外来」または「異種」でありうる。「内因性」エンハンサーまたはプロモーターは、ゲノム中で所定の遺伝子と天然に連結されているものである。「外来」または「異種」エンハンサーまたはプロモーターは、それが連結されることで遺伝子の転写が誘導されるように、遺伝子の近くに遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技術)によって配置されるものである。例えば、第1の遺伝子と作動可能に組み合わされている内因性プロモーターを単離し、取り除き、第2の遺伝子と作動可能に組み合わせるように配置し、それによって、第2の遺伝子と作動可能に組み合わされた「異種プロモーター」とすることができる。そのような組み合わせにはさまざまなものが意図され、例えば第1および第2の遺伝子は、同じ種に由来する、または異なる種に由来することができる。
【0058】
ヒト尿の細胞のリプログラムされた血管組織(rVT)へのダイレクトリプログラミング
冠動脈疾患(例えば心筋梗塞)および末梢動脈疾患(例えば重症下肢虚血)を包含する虚血性心臓血管疾患は、しばしば罹患および死亡の原因となる。このような臨床アウトカムの主因は、血管が損なわれることにある。血管構造の重要な要素としての内皮細胞(EC)は、損傷または虚血組織の修復に欠かせない。細胞療法に使用するECを作製するいくつかの方法が開発されている。ECを作製する1つの方法は、EC生成のために特異的で重要な単一の転写因子(TF)ETV2(改変mRNA、タンパク質、タンパク質含有エクソソームを包含する、遺伝子または遺伝子産物)を用いるダイレクト リネージ リプログラミングによる。この方法は、プロセスが簡単であること、多能性幹細胞(PSC)および人工多能性幹細胞(iPSC)の使用の際にもたらされる可能性のある造腫瘍性を回避できることを含む潜在的な利点のゆえに注目されている。本書に記載するリプログラミング方法は、自己細胞療法に適用されうる。
【0059】
平滑筋細胞を含む血管様組織の形成をもたらす短時間内でのEC成熟を利用する改善されたリプログラミング方法が開発された。ソース細胞は、患者から、臨床適用において用いられうる非侵襲的手法で採取される。ヒト尿の細胞を使用することで、皮膚からの皮膚線維芽細胞採取の場合の生検によるソース細胞採取に伴う痛みを回避することができる。尿の細胞が複製され、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、末梢動脈疾患、重症下肢虚血、卒中、糖尿病合併症、および創傷治癒を包含するがそれに限定されない、血行再建を必要とする疾患の処置に有用な内皮様および平滑筋様組織へと転換される。ヒト尿の細胞の血管様組織への転換は、特殊な培養条件およびヒト尿の細胞中へのETV2遺伝子送達を含むプロトコルを用いてなされる。
【0060】
自己ソース由来の天然のバイオ足場またはバイオマトリックスの体内合成は、標的組織において移植された細胞の生存を高める。天然ECMは、治療用細胞から放出された成長因子を蓄積し、該細胞が血管新生を開始するのに適当な微小環境を提供する。
【0061】
治療用細胞成分から自然に形成される天然のバイオマトリックスは、個別の細胞の生成および人工組織の形成に必要な複雑なプロセスを回避して、効果的な方法の組織形成を提供する。天然のバイオマトリックスは、自己ソースから形成され、その形成メカニズムは、製造過程の病原体侵入リスクをほぼ免れるので、より生体適合性である。細胞を介するマトリックス合成は実質的に研究されていないが、天然のマトリックス形成において合成表現型を有するVSMCが重要な役割を担うことが、研究により示されている。TGFBおよびPDGFBの導入により、コラーゲン合成が誘導された。VSMCは乳酸培養培地中でもコラーゲン合成を顕著に高めたが、これはグルコース代謝が合成表現型の細胞に影響しうることを示している。アスコルビン酸の投与により、VSMCおよび皮膚線維芽細胞によるコラーゲン生合成が刺激された。ヒドロキシルプロリンおよびヒドロキシリジンの補因子であるアスコルビン酸は、コラーゲン生合成中のαペプチド架橋において重要な役割を担う。
【0062】
ヒト尿からの尿の細胞の誘導
サンプルから尿の細胞を得るために、尿を集めて遠心分離する。濃縮された尿の細胞を採取し、EGF、ヒドロコルチゾン、エピネフリンおよびウシ胎児血清(FBS)を含む増殖培地に懸濁させる。該細胞懸濁液を、予めゼラチンコーティングした細胞培養プレートに播き、37℃、CO(5%)で14日間培養する。コロニーからの尿の細胞を、ダイレクトリプログラミングのためのソース細胞としてさらなる継代培養へと維持する。ゼノフリー条件を提供する臨床的目的のために、FBSを患者由来ヒト血清に置き換えることができる。
【0063】
ヒト尿の細胞の、血管様組織/リプログラムされた血管組織(rVT)へのリプログラミング
血管様組織を作製するために、ヒト尿の細胞を特定の培養条件において、ETV2の過剰発現によって内皮細胞へとリプログラムする。ヒト尿の細胞のリプログラミングは、尿の細胞の増殖培地中で、該細胞を、ETV2を発現するアデノウイルスで24時間感染させることによって開始される。その後、内皮リプログラミング培地を、VEGFA、EGF、bFGF、ヘパリンおよびビタミンCを含むように変更する(図1参照)。ETV2形質導入後、尿の細胞の形態はコーベルストーン形の内皮細胞のように見える。リプログラミングプロセスを、リプログラムされていない対照尿の細胞と比較した遺伝子プロファイルおよびタンパク質発現の変化によってモニターした。尿の細胞が内皮細胞にリプログラムされたかを決定するために、KDR、CDH5、PECAM1およびVWFといった内皮特異的遺伝子について、mRNAレベルを定量リアルタイムPCRによって測定した(図2)。EC遺伝子は、ETV2処理された尿の細胞において顕著に誘導された。初期内皮遺伝子に加え、PECAM1およびVWFといった後期成熟内皮遺伝子が発現された(図2)。したがって、ECマーカーの誘導が急速に増加し、PECAM1といった成熟内皮表面マーカーの数がより多くなったが、このようなことは、皮膚線維芽細胞といった他の種類のソース細胞では起こらない。ヒト皮膚線維芽細胞は、そのように高レベルのPECAM1を、ETV2過剰発現による14日間未満の短いリプログラミング期間内に発現しない。尿由来細胞は、平滑筋様細胞といったいくつかの系列へも分化転換された。
【0064】
内皮リプログラミングの間に、尿の細胞は、細胞シートの上面に特殊なチューブ様構造の形態を形成した。機能的特性を試験するために、EC特異的なアセティックLDLの取り込み、およびUEA1レクチンの結合を、蛍光細胞化学によって確認した。該組織で、CDH5、PECAM1、ACTA2およびCNN1といったECマーカーおよび平滑筋マーカーを共染色した。リプログラミングされた組織を酵素消化し、EC特異的マーカーKDRを利用してECと非ECの集団に分けた。EC(ETV-VMT)と非ECのマーカーで分けた集団は、リプログラムされた組織がそれぞれ内皮および平滑筋様細胞に富むことを示した(図4)。リプログラムされた組織は、機械的に採取し血管様構造へと折り畳むことができた(図5)。この組織は、KDR、CDH5およびPECAM1といったECマーカーを発現する細胞を30~50%含んだ。ETV2誘導によるヒト皮膚線維芽細胞のリプログラミングと比較して、成熟ECマーカーPECAM1は顕著に多く、より短いリプログラミング期間で効率的に誘導される。非ECマーカー発現細胞(KDRネガティブ)は、SM22a、SMTN、ACTA2およびCNN1といった平滑筋マーカーを高レベルで示す(図4)。リプログラムされた内皮および平滑筋様細胞を含む組織を、マウス後肢虚血モデルに移植した。該組織は3箇月よりも長くインビボで維持された。したがって、該組織は、治療に高度の維持および細胞生存を必要とする、虚血組織への直接の移植または注入のためにより好ましい。
【0065】
PSCの分化および体細胞のダイレクトリプログラミングといった他のさまざまなプロトコルを用いる内皮細胞の作製では、十分な数の機能的内皮細胞を臨床適用のために望ましい時間内に達成することは報告されていない。リプログラムされたECの臨床適用での使用における大きな難点は、患者の虚血標的領域に注入されたECの維持効率の低さである。本書に開示される方法は、他のEC作製法と比較して、いくつかの利点を有する。尿からは、非侵襲的な方法で得ることのできるソース細胞を制限なく供給できる。EC作製を、他の方法と比較してよりタイムリーに行うことができる。リプログラムされた内皮および平滑筋細胞を共に、異種生体材料を伴わず虚血領域における維持の良好な細胞シート構造中に得ることができる。該リプログラムされた血管様組織は、PADおよびMIといったさまざまな虚血性疾患の自己細胞療法に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2022549245000001.app
【国際調査報告】