(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】エアロゾル粒子を迅速かつ自律的に検出するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221116BHJP
G01N 15/00 20060101ALI20221116BHJP
G01N 15/10 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
G01N27/62 B
G01N15/00 C
G01N15/10 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022518635
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 US2020048042
(87)【国際公開番号】W WO2021061330
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520148932
【氏名又は名称】ゼテオ テック、 インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100086531
【氏名又は名称】澤田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100093241
【氏名又は名称】宮田 正昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101801
【氏名又は名称】山田 英治
(74)【代理人】
【識別番号】100095496
【氏名又は名称】佐々木 榮二
(72)【発明者】
【氏名】ブライデン、ウェイン、エイ.
(72)【発明者】
【氏名】コール、チャールズ、ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マクローリン、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ダペン
(72)【発明者】
【氏名】エクセルバーガー、スコット
(72)【発明者】
【氏名】ジョーン、ネイト
(72)【発明者】
【氏名】ストロール、スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン、ゲイリー
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041DA04
2G041GA06
(57)【要約】
気体および液体サンプル中の分析物粒子の迅速かつ自律的な検出を提供するためのシステムおよび方法が開示される。MALDI-MSを使用して生物学的エアロゾル分析物を識別し、LDIおよび飛行時間型質量分析(TOFMS)を使用するMALDI-MSを使用して化学エアロゾル分析物を識別するための方法および装置が開示される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律的サンプル捕捉および分析システムにおいて、
未使用ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
サンプル収集ステーションと、
TOFMSを有する分析ステーションとを有し、
サンプルディスクホルダが少なくとも1つのステッピングモーターおよびアクチュエーターを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、当該システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
上記サンプル収集ステーションは、エアロゾルサンプル収集ステーションと液体サンプル受け入れステーションの少なくとも1つを有する請求項1記載のシステム。
【請求項3】
上記システムはさらにカメラステーションを有する請求項1記載のシステム。
【請求項4】
上記システムは、液体化学物質分配ステーションをさらに有する請求項1記載のシステム。
【請求項5】
上記ディスクはMALDIマトリックス化学物質でプレコートされている請求項1記載のシステム。
【請求項6】
上記サンプルディスクは、ニッケルおよびニッケル合金の少なくとも1つから製造される請求項1記載のシステム。
【請求項7】
上記エアロゾルサンプル収集ステーションは、直径約1mmのサンプルスポットサイズを生成するように構成されている請求項2記載のシステム。
【請求項8】
上記分配ステーションは、約0.5μlから約2μlの液体を分配するように構成される請求項4記載のシステム。
【請求項9】
上記液体は、TFA、アセトニトリル、メタノール、エタノール、および水の少なくとも1つを有する請求項8記載のシステム。
【請求項10】
上記システムは、有線通信および無線通信のうちの少なくとも1つを使用してリモートサーバーと通信するように構成され、上記分析ステーションの出力は、上記リモートサーバーに転送され、次にデータ処理ステーションに転送されてデータ処理される請求項1記載のシステム。
【請求項11】
上記システムは、有線通信および無線通信のうちの少なくとも1つを使用してデータ処理ステーションと通信するように構成され、上記分析ステーションの出力は、上記データ処理ステーションに転送されてデータ処理される請求項1記載のシステム。
【請求項12】
自律的サンプル捕捉および分析システムにおいて、
未使用ディスクのスタックを有するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
エアロゾルサンプル収集ステーションと、
液体化学物質分配ステーションと、
カメラステーションと、
分析ステーションとを有し、
サンプルディスクホルダが、ステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御されることを特徴とするシステム。
【請求項13】
上記分析ステーションはTOFMSを有する請求項12記載のシステム。
【請求項14】
上記分析ステーションは、TOFMSおよび光検出器の少なくとも1つを有する請求項12記載のシステム。
【請求項15】
上記カメラステーションは、顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを収容するように構成される請求項12記載のシステム。
【請求項16】
乾燥ステーションをさらに有し、上記サンプルが、誘導加熱、抵抗加熱、乾燥空気および真空の流れ、ならびにそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを使用して実質的に乾燥される請求項12記載のシステム。
【請求項17】
粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するために、上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーをさらに有する請求項12記載のシステム。
【請求項18】
請求項13記載のシステムを使用してエアロゾル分析物粒子を収集および分析するための方法において、
上記新しいサンプルディスクローダーステーションにおいて上記サンプルディスクホルダにサンプルディスクをロードするステップと、
新しいディスクを具備する上記サンプルディスクホルダを上記エアロゾル収集ステーションに移動させるステップであって、そこでエアロゾル粒子が、上記コーティングされたサンプルディスクに衝突させられる上記ステップと、
堆積したエアロゾルサンプルを化学物質で処理するために、上記サンプルディスクホルダを上記液体化学物質分配ステーションに移動するステップと、
上記サンプルディスクホルダを上記カメラステーションに移動させて顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを使用して検査するステップと、
上記サンプルを乾燥させるステップと、
サンプル分析のために、上記サンプルディスクホルダをTOFMS分析ステーションに移動させてサンプル分析を行うステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項19】
上記自律的サンプル捕捉および分析システムとリモートサーバーとの間の有線通信および無線通信の少なくとも1つを使用して、上記TOFMS分析ステーションの出力を上記リモートサーバーに転送するステップと、
上記エアロゾル分析物粒子に固有の生のスペクトルデータを生成するステップと、
フィルタリング、ベースライン減算、信号対雑音比の推定、ピーク検出、および特徴抽出の少なくとも1つを実行して、処理されたスペクトルデータを生成ステップと、
上記処理されたスペクトルデータを、いくつかの生物学的および化学的分析物の処理されたスペクトルデータを含む参照ライブラリと比較することにより、エアロゾル分析物粒子の組成を特定するステップとをさらに有する請求項18記載の方法。
【請求項20】
サンプルディスクは、MALDIマトリックス化学物質でプレコートされている請求項18記載の方法。
【請求項21】
自律的分析システムにおいて、
未使用ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
液体サンプル受け入れステーションと、
液体化学物質分配ステーションと、
TOFMS分析ステーションとを有し、
サンプルディスクホルダがステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御されることを特徴とするシステム。
【請求項22】
上記液体サンプル受け入れステーションは、上記エアロゾル収集装置から液体サンプルを受け取るように構成されている請求項21記載のシステム。
【請求項23】
上記液体サンプル受け入れステーションは、呼気を含む液体サンプルを受け取るように構成されている請求項21記載のシステム。
【請求項24】
上記液体サンプル受け入れステーションは、標的分析物を精製することができる液体サンプル処理装置から得られた液体サンプルを受け取るように構成される請求項21記載のシステム。
【請求項25】
上記エアロゾル収集装置は、インパクター、連続的または断続的なすすぎを伴う回転インパクター、連続的または断続的なすすぎを伴うサイクロン、湿潤壁インパクター、および液体インピンジャーのうちの少なくとも1つを有する請求項22記載のシステム。
【請求項26】
エアロゾル粒子を収集および分析するための方法において、
エアロゾル粒子を液体中に収集するステップと、
上記液体のサンプルを少なくとも1つの酵素および熱酸処理にかけ、上記エアロゾルのサンプルに特徴的なペプチドを生成するステップと、
処理されたサンプルにMALDIマトリックス溶液を付加するステップと、
上記サンプルを乾燥させTOFMSを使用して分析するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項27】
上記酵素および熱酸処理のうちの少なくとも1つが約140℃で約15分間行われる請求項26記載の方法。
【請求項28】
液体サンプル中の汚染粒子を捕捉および分析するための自律サンプルにおいて、
キャリアガス中の汚染粒子を有するエアロゾルを生成するための噴霧器と、
上記エアロゾル中の汚染粒子のサイズを予め定められた平均粒子直径に拡大するための少なくとも1つの凝縮成長管と、
未使用ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、
エアロゾルサンプル収集ステーションと、
液体化学物質分配ステーション と、
分析ステーションとを有し、
サンプルホルダがステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御されることを特徴とするシステム。
【請求項29】
上記分析ステーションはLDI-MSを有する請求項28記載のシステム。
【請求項30】
上記分析ステーションは、LDI-MS、MALDI-TOFMS、および光検出器の少なくとも1つを有する請求項28記載のシステム。
【請求項31】
上記ディスクはMALDIマトリックス化学物質でプレコートされている請求項30記載のシステム。
【請求項32】
上記サンプルディスクは、ニッケルおよびニッケル合金の少なくとも1つから製造される請求項28記載のシステム。
【請求項33】
上記分配ステーションは、約0.5μlから約2μlの液体を分配するように構成される請求項28記載のシステム。
【請求項34】
上記液体は、TFA、アセトニトリル、メタノール、エタノール、および水の少なくとも1つを有する請求項33記載のシステム。
【請求項35】
上記システムはさらにカメラステーションを有する請求項28記載のシステム。
【請求項36】
上記カメラステーションは、顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを収容するように構成される請求項35記載のシステム。
【請求項37】
乾燥ステーションをさらに有し、上記サンプルが真空下で実質的に乾燥される請求項28記載のシステム。
【請求項38】
粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するために、上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーをさらに有する請求項28記載のシステム。
【請求項39】
上記汚染粒子の組成を識別するために上記分析ステーションから出力された処理データを取得するためのデータ処理ステーションをさらに有する請求項28記載のシステム。
【請求項40】
上記汚染粒子の平均サイズは約1nmから約20nmの間である請求項28記載のシステム。
【請求項41】
上記凝縮成長管を出る粒子の平均サイズは約3μmである請求項28記載のシステム。
【請求項42】
上記液体サンプルは、UPW、および、半導体製造中に使用される化学物質液体のうちの少なくとも1つを有する請求項28記載のシステム。
【請求項43】
液体サンプル中の汚染粒子を捕捉および分析するための方法において、
請求項28に記載の装置を供給するステップと、
上記液体サンプルを噴霧して、キャリアガス中に汚染粒子を有するエアロゾルを生成するステップと、
少なくとも1つの凝縮成長管を使用して上記エアロゾル中の上記汚染粒子のサイズを成長させて、予め定められた平均粒子直径の拡大された汚染エアロゾル粒子を生成するステップと、
上記未使用サンプルディスクローダーステーションにおいて上記サンプルホルダにサンプルディスクをロードするステップと、
未使用ディスクを具備する上記サンプルホルダを上記エアロゾル収集テーションに移動する移動ステップであって、上記拡大された汚染エアロゾル粒子が上記コーティングされたサンプルディスクに衝突させられる上記移動ステップと、
上記サンプルホルダを上記液体化学物質分配ステーションに移動させて上記堆積したエアロゾルサンプルを化学物質で処理するステップと、
上記サンプルホルダを上記カメラステーションに移動させて上記顕微鏡カメラおよび上記デジタルカメラによる画像化をうちの少なくとも一方を使用して検査するステップと、
上記サンプルを乾燥させるステップと、
上記分析ステーションに移動させてサンプル分析を実行するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項44】
上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーを使用して、粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するステップをさらに有する請求項43記載の方法。
【請求項45】
上記分析ステーションはLDI-MSを有する請求項43記載の方法。
【請求項46】
上記分析システムは、LDI-MS、MALDI-TOFMS、LIBS、ラマン分光法、およびIR分光法の少なくとも1つを有する請求項43記載の方法。
【請求項47】
上記エアロゾル分析物粒子に固有の生のスペクトルデータを生成するステップと、
フィルタリング、ベースライン減算、信号対雑音比の推定、ピーク検出、および特徴抽出の少なくとも1つを実行して、処理されたスペクトルデータを生成するステップと、
上記処理されたスペクトルデータを、いくつかの生物学的および化学的分析物の処理されたスペクトルデータを有する参照ライブラリと比較することにより、上記汚染粒子の組成を識別するステップとを有する請求項43記載の方法。
【請求項48】
上記識別するステップは、機械学習を使用してスペクトルデータをトレーニングデータセットと比較し、汚染粒子の組成を予測するステップを有する請求項47記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
この出願は、2019年9月23日に提出され、「エアロゾル粒子を迅速かつ自律的に検出するシステムおよび方法」と題された米国仮出願第62/904655号、2019年11月5日に提出され、「エアロゾル粒子を迅速かつ自律的に検出するシステムおよび方法」と題された米国仮出願第62/931200号、および2020年8月24日に提出され、「エアロゾル粒子を迅速かつ自律的に検出するシステムおよび方法」と題された米国仮出願第63/069705号に関連しており、その利益を主張し、その開示は、その全体が参照によりここに組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、質量分析、および、オプションで1つまたは複数の光学技術を使用して、エアロゾル分析物粒子を高精度で迅速かつ自律的に識別するシステムおよび方法に関する。より具体的には、限定ではないけれども、本開示は、MALDI-MSを使用して生物学的エアロゾル分析物を識別し、また、飛行時間型質量分析(TOFMS:time-of-flight mass spectrometry)を使用するLDI-MSを使用して、化学エアロゾル分析物を識別するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
エアロゾル化された生物学的および化学的脅威物質による脅威は、そのような事態から生じる可能性のある生命および財産への潜在的に悲惨な結果のために、米国政府の重要な懸念であり続けている。特に懸念される2つの主要な脅威シナリオは、(1)HVACシステムが構造全体にエージェントを効果的に分散してしまう閉鎖構造(オフィスビル、空港、大量輸送施設など)内でのエージェントの放出、および(2)町や都市などの居住地域全体でのエージェントの地域放出である。放出されたエアロゾル化されたエージェントへの曝露は、大量の死傷者につながる可能性がある。広範囲の放出では、汚染物質の種類、量、および汚染物質の場所に関するタイムリーな情報がなければ、市民を最初の曝露から保護することは非常に困難である。迅速な是正措置を講じるには、脅威エージェントの構成をリアルタイムで、できれば自律的に特定するための方法と装置が必要である。
【0004】
薬剤耐性結核菌やSARS-CoV-19などの微生物によって引き起こされる自然発生のパンデミックによる脅威は、残念ながら広く認識されている。これらの微生物は、接触によって、または通常の呼吸、咳、くしゃみ、あくび、運動、楽器の演奏などの間に放出されるエアロゾルを介して広がる可能性がある。深呼吸は、肺の深部で発生する微細なエアロゾルを生成することが知られており、呼吸器感染症が存在する場合、エアロゾル中の粒子の一部は感染性微生物を含む。
【0005】
主要空港などのインフラストラクチャを最も効果的に保護するには、自律型エアロゾル脅威識別システムがサンプルを収集して分析し、エアロゾルが危険であるかどうかを約5分以内に判断する必要がある。エアロゾルの脅威を約5分以内に特定できれば、空港ターミナルビルなどの建物内でのエアロゾルの拡散を制限するための是正措置を講じることができる。より多くの時間が経過すると、エアロゾルは人の動きによって、さらに重要なことに、建物の換気システムの通常な機能によって、拡散する。高層ビルでは、エレベータが数分で建物全体にエアロゾルを移動させることにもなる。有毒または病原性のエアロゾルの脅威を検出し、建物の管理システムと通信して、危険なエアロゾルが建物に拡散した場合の拡散を制限できる自律システムが必要である。有毒または病原性エアロゾルのそのような拡散または「放出」は、一般に「テロ事件」と考えられる。
【0006】
化学薬品や生物エージェントなど、種々のエアロゾル分析物をサンプリング、検出、および識別するシステムは利用できるけれども、リアルタイムまたはほぼリアルタイムの分析ができないか、分析物の範囲が限られている。1つの解決策は、サンプルをクリーンアップし、生物学的分析物を濃縮する、マイクロ流体技術を使用する。例えば、特定の抗体を使用して、生物学的分析物を濃縮および精製することができる。このターゲット固有のソリューションは、分析物のクリーンアップと濃縮に十分な時間があれば、妥当な結果を提供する。他のターゲット固有のソリューションは、病原体のゲノム内の特定のターゲットに一意に関連付けられている核酸のセクションを増幅する。他の解決策はターゲット固有であり、ウイルス、毒素、または粒子状化学物質の分析を犠牲にして細菌分析物に対してのみ機能する。この方法では、たとえば患者からのサンプルを細菌培養プレートに適用し、8~24時間インキュベートする必要がある。細菌コロニーが成長した後、個々の増幅および精製されたコロニーが収集され、全細胞「マトリックス支援」レーザー脱離イオン化(MALDI:"matrix assisted" laser desorption ionization)飛行時間型(TOF:time-of-flight)質量分析によって測定される。他の解決策はターゲット固有であり、ウイルス、毒素、または粒子状化学物質の分析を犠牲にして細菌分析物に対してのみ機能する。この方法では、たとえば患者からのサンプルを細菌培養プレートに適用し、8~24時間インキュベートする必要がある。細菌コロニーが成長した後、個々の増幅および精製されたコロニーが収集され、全細胞「マトリックス支援」レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)質量分析によって測定される。多くの研究がこの技術の精度を調査し、臨床細菌分析物の99%を超える正確な識別を発見した。迅速な臨床細菌識別のための2つの商用システムが開発された。すなわち、Bruker Biotyper(Becton Dickinsonが販売)とVitek MS(Shimadzuが開発し、bioMerieuxが販売)である。これらのシステムは、細菌学的識別のための16s RNA「ラボゴールドスタンダード」と比較して優れた診断結果を提供する。ただし、これらの信頼性の高い臨床結果を達成するには、サンプルを精製するために、培養または抽出ステップ、あるいはその両方が必要である。したがって、サンプリングから生体分析物の識別までの時間は、通常、12時間から1日またはそれ以上である。このような遅延は、臨床検査室では許容できることがしばしばあるけれども、生物防御など、生物分析物のほぼリアルタイムの識別が必要な他のアプリケーションでは受け入れられない。生物防御、より一般的な環境バイオエアロゾルモニタリング、およびポイントオブケアヘルスケアアプリケーションでは、細菌だけでなく、真菌、ウイルス、および、生物毒素を含む、大きな生物有機分子(タンパク質、ペプチド、脂質)を、ほぼ実時間で同時に識別する能力が必要とされる。さらに、臨床応用の分析時間を短縮することで、タイムリーな治療と最良の治療コースの特定(たとえば、ウイルス感染と細菌感染の区別)、および治療コースの有効性の評価を可能にすることで、ケアの質と結果を改善できる。先の技術には、分析を実行するために必要なターゲット固有の試薬の開発に関連してコストに対する分析時間に関連する制限がある。
【0007】
「生物学的および化学的顕微鏡的標的化」と題された米国特許第8,441,632号は、潜在的に感度が高く、特異的かつ迅速(約5分以下)であるけれども、標的特異的試薬を使用せず、ラマン分光法に基づく技術を開示している。ラマン分光法は、分子の振動モードを決定するために使用される分析手法であるけれども、回転モードやその他の低周波数モードも観察される場合がある。これは、光と材料内の化学結合との相互作用に基づいている。ラマン分光法を微生物サンプルに適用した場合、グループの一部のメンバーが人間に病原性を示し、一部はそうではない属または種の近隣を十分に分離しない。
【0008】
MALDI-TOFMSでは、ターゲット粒子(分析物)はマトリックス化学物質でコーティングまたは混合される。次に、サンプル混合物を乾燥させてから、質量分析計にロードする。マトリックス化学物質は、短くて強いレーザーパルスからの光(多くの場合紫外線波長)を優先的に吸収する。マトリックスがない場合、生体分子は強い紫外線にさらされると熱分解によって分解する傾向がある。マトリックスが存在する場合、レーザーエネルギはマトリックス化学物質によって優先的に吸収され、マトリックスと分析物が蒸発する。マトリックス化学物質は、また、気化した分子に電荷を移動させ、イオンを生成する。イオンは、電界によってフライト管を下って加速される。コーティングされた分析物粒子は、多くの場合、無傷の微生物であり、MALDI飛行時間(TOF)質量分析(MS)を使用して分析される。サンプル前処理では、通常、酸、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)と、MALDIマトリックス化学物質、例えば、アルファ-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸とで構成される液体が溶媒に溶解され、分析物に付加される。溶媒は、アセトニトリル、水、メタノール、エタノール、およびアセトンを含む。TFAが、通常、分析対象物のマススペクトルに対する塩不純物の影響を抑制し、分析対象物内から酸可溶性タンパク質を浸出させるために追加される。酸は分析物の細胞膜を部分的に分解し、タンパク質をTOF質量分析計でのイオン化と分析に利用できるようにする。水は親水性タンパク質の溶解を可能にし、メタノールは少なくともいくつかの疎水性タンパク質の溶解を可能にする。MALDIマトリックス溶液をMALDIプレート上の分析物にスポットして、分析物上にMALDIマトリックス材料の均一で均質な層を生成する。溶媒は蒸発し、再結晶したマトリックスのみが残り、分析物はマトリックス結晶全体に広がる。次に、酸とマトリックスを混合した分析物を含むコーティングされたプレートを、TOF質量分析計で分析する。他のMALDIマトリックス材料は、3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸(シナピン酸)、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(α-シアノまたはα-マトリックス)および2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含み、これは、米国特許第8,409,870号に記載されている。大質量範囲飛行時間型(TOF)質量分析と組み合わせたMALDI技術により、大きなペプチド成分、および、完全タンパク質の直接分析も可能になり、これが、「全細胞」の生物学的識別を可能にする。
【0009】
「飛行時間ミニチュア質量分析計のためのサンプル収集調製方法」と題された米国特許出願公開第2003/0020011号は、生物学的危険物などの周囲エアロゾルを収集し、エアロゾル粒子の組成を特定するための方法および装置を開示している。MALDIマトリックス化学物質は、噴霧され、周囲のサンプルエアロゾルに注入される。マトリックスエアロゾル粒子とサンプルエアロゾル粒子は、VCR(ビデオカセットレコーダー)テープなどの媒体に共蒸着される。次に、テープは分析のためにMALDI飛行時間型質量分析計に移される。マトリックス粒子と周囲のエアロゾル粒子の相互作用は、テープに被着する前に粒子が互いに衝突しないため、テープ上で発生する。テープ表面でのマトリックスとサンプルエアロゾル粒子の衝突は、粒子を高速に加速し、エアロゾルの流れをテープに向けるノズルによって可能になる。流れを加速するために消費されるエネルギのために、粒子は表面に衝突し、同時にテープ上で互いに衝突する。この加速がなければ、粒子は気相流の流線に従ってテープを通過して流れるであろう。「飛行時間型質量分析計システム」と題された米国特許第6,841,773号は、ビデオカセットテープの形態のサンプルコレクターおよびサンプルトランスポーターを含むフィールドポータブル質量分析計システムを開示している。サンプルトランスポーターはサンプルコレクターとインターフェースして、サンプルデポジットを受け取る。このシステムは、飛行時間型(TOF)質量分析計を有する。
【0010】
「静電アトマイザーおよびアトマイズされた流体スプレーを製造する方法」と題された米国特許出願公開第2005/0017102号は、分析物サンプルストリームを、MALDIマトリックスを含む別個のリザーバーに含まれる1つ以上のスプレー流体と接触させ、分析物をMALDIプレートなどの基板上に堆積させ、MALDIMSを使用して分析することを開示している。一例において、第1のマイクロインジェクターにイソプロパノールが供給される。2番目のインジェクターには70%のアセトニトリル、30%の水、および0.1%のトリフルオロ酢酸の混合物が供給される。3番目のインジェクターには、水、水/グリセリン、酢酸、ギ酸、エタノールなどの種々のプロセス流体が順次供給される。制御されたマイクロインジェクター(たとえば、電源に動作可能に接続された100μm IDのステンレス鋼針)は、噴霧された液体をサンプル準備ゾーンに噴霧する。インジェクターは、各スプレーがサンプル準備ゾーンの同じ領域にスプレーされるように配向される。サンプル準備ゾーンは、マイクロインジェクターの配向に垂直なチャネルである。バクテリアの胞子や他の生物学的物質などの分析対象のサンプルを含む濃縮ガスストリームは、サンプル準備ゾーンを通過し、噴霧された液体と接触してから、MALDI分析のためにサンプルスライドに送られる。しかしながら、開示されているように、MALDIマトリックスエアロゾルストリームを分析物エアロゾルストリームと混合しても、駆動に音響力または静電力などの追加の外力が加えられて衝突を駆り立てない限り、2つのエアロゾルストリーム内の個々の粒子が互いに衝突することはない。
【0011】
「強化された粒子収集効率のための方法および装置」と題された米国特許第7,125,437号は、収集および分析される粒子を含む空気流を衝突表面に向けて誘導し、水性液滴を含むエアロゾルを、当該衝突表面から当該空気流へと上流へと案内して水滴で粒子を凝固させ、粒子のサイズを大きくして、衝突表面での凝集粒子の収集効率を高めるステップを有する粒子収集の方法を開示している。水性液滴を含むエアロゾルは、液体を含むリザーバーに対してキャリアガスの加圧流を導入することによって生成されて良く、それにより、リザーバーから液体を吸引し、同時に、空気流中の粒子を共エアロゾル化する前に、液体粒子を剪断して分断して、吸引された液体をエアロゾル化する。代替的には、水性液滴を含むエアロゾルは、選択された液体を、圧電要素を含む圧電ベースの噴霧器を通じて案内し、液体粒子が圧電ベースの要素の出口を通過するとき当該圧電素子を、液体粒子を剪断してエアロゾルを生成するのに十分な所望の周波数で振動させることによって生成されて良い。開示された方法は、さらに、凝固粒子が衝突表面に衝突するときに当該衝突表面を湿潤させて、当該衝突表面上に液体のプールを形成し、衝突表面からの凝固粒子の跳ね返りを最小限に抑えて収集効率を高めるステップと、添加剤を選択し、選択した添加剤を共エアロゾル化して、空気流または衝突面の液体のプールに環境を作り出し、凝固粒子を機械的、化学的、または生物学的に修正して、収集された凝固粒子の識別を支援するステップを有して良い。添加剤は、空気流または液体のプールで作成された環境が、培養される生物の加速された成長を可能にするように選択される。立っている液滴のプールの形成は、例えば、衝突ノズルの基部で、衝突表面のすぐ近くに計量された量の液体を直接導入することによっても実現することができる。その結果、衝突面の上流に過剰な液滴を導入する代わりに、当該表面に垂直に立っている液滴のプールを作成できる。米国特許第7,125,437号および米国特許第6,841,773号は、MALDI-MS分析のための信頼できるエアロゾルサンプリングおよびマトリックス混合装置をもたらさない。なぜならば、上述した方法を使用してMALDIマトリックスをエアロゾル化すると、マトリックス化学物質の一部が結晶化し、噴霧器が詰まる傾向があるためである。
【0012】
細菌、真菌、ウイルス、毒素、および低揮発性化学物質、例えば、分子量が約1000Da未満の1つまたは複数の化合物を含むエアロゾル分析物粒子の、信頼性の高い自律的かつほぼリアルタイムの分析および識別を高精度に実現するための方法および装置が望まれる。
【発明の概要】
【0013】
自律的サンプル捕捉および分析システムが開示され、このシステムは、未使用(フレッシュ)ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、サンプル収集ステーションと、TOFMSを有する分析ステーションとを有し、サンプルディスクホルダが少なくとも1つのステッピングモーターおよびアクチュエーターを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、当該システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御される。上記サンプル収集ステーションは、エアロゾルサンプル収集ステーションと液体サンプル受け入れステーションの少なくとも1つを有して良い。事例的なシステムはさらにカメラステーションを有して良い。事例的なシステムは、液体化学物質分配ステーションをさらに有して良い。上記サンプルディスクはMALDIマトリックス化学物質でプレコートされて良い。上記サンプルディスクは、ニッケルおよびニッケル合金の少なくとも1つから製造されて良い。上記エアロゾルサンプル収集ステーションは、直径約1mmのサンプルスポットサイズを生成するように構成されて良い。上記分配ステーションは、約0.5μlから約2μlの液体を分配するように構成されて良い。分配される液体は、TFA、アセトニトリル、メタノール、エタノール、および水の少なくとも1つを有して良い。上記システムは、有線通信および無線通信のうちの少なくとも1つを使用してリモートサーバーと通信するように構成され、上記分析ステーションの出力は、上記リモートサーバーに転送され、次にデータ処理ステーションに転送されてデータ処理されて良い。上記システムは、有線通信および無線通信のうちの少なくとも1つを使用してデータ処理ステーションと通信するように構成され、上記分析ステーションの出力は、上記データ処理ステーションに転送されてデータ処理されて良い。
【0014】
自律的サンプル捕捉および分析システムが開示され、このシステムは、未使用ディスクのスタックを有するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、エアロゾルサンプル収集ステーションと、液体化学物質分配ステーションと、カメラステーションと、分析ステーションとを有し、サンプルディスクホルダが、ステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御される。ここに開示されるロボットシステムは、2つの移動軸を具備する。3つの移動軸を有する他の実施例は可能であるけれども、2つの移動軸を有するものに比べて信頼性がないであろう。上記分析ステーションはTOFMSを有して良い。上記分析ステーションは、TOFMSおよび光検出器の少なくとも1つを有して良い。上記カメラステーションは、顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを収容するように構成されて良い。上記システムは、乾燥ステーションをさらに有して良く、上記サンプルが、誘導加熱、抵抗加熱、乾燥空気および真空の流れ、ならびにそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを使用して実質的に乾燥されて良い。事例的なシステムは、粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するために、上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーをさらに有して良い。
【0015】
ここに開示された事例的なシステムを使用してエアロゾル分析物粒子を収集および分析するための方法が開示され、この方法は、上記未使用サンプルディスクローダーステーションにおいて上記サンプルディスクホルダにサンプルディスクをロードするステップと、未使用ディスクを具備する上記サンプルディスクホルダを上記エアロゾル収集ステーションに移動させるステップであって、そこでエアロゾル粒子が、上記コーティングされたサンプルディスクに衝突させられる上記ステップと、堆積したエアロゾルサンプルを化学物質で処理するために、上記サンプルディスクホルダを上記液体化学物質分配ステーションに移動するステップと、上記サンプルディスクホルダを上記カメラステーションに移動させて顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを使用して検査するステップと、上記サンプルを乾燥させるステップと、サンプル分析のために、上記サンプルディスクホルダをTOFMS分析ステーションに移動させてサンプル分析を行うステップとを有する。上記方法は、上記自律的サンプル捕捉および分析システムとリモートサーバーとの間の有線通信および無線通信の少なくとも1つを使用して、上記TOFMS分析ステーションの出力を上記リモートサーバーに転送するステップと、上記エアロゾル分析物粒子に固有の生のスペクトルデータを生成するステップと、フィルタリング、ベースライン減算、信号対雑音比の推定、ピーク検出、および特徴抽出の少なくとも1つを実行して、処理されたスペクトルデータを生成ステップと、上記処理されたスペクトルデータを、いくつかの生物学的および化学的分析物の処理されたスペクトルデータを含む参照ライブラリと比較することにより、エアロゾル分析物粒子の組成を特定するステップとをさらに有して良い。サンプルディスクは、MALDIマトリックス化学物質でプレコートされて良い。エアロゾルサンプラーは、周囲エアロゾルまたは半導体プロセス流体などのプロセス流体に懸濁されたエアロゾルのサンプルを受け取るように構成されて良い。プロセス流体が液体である場合、プロセス流体はエアロゾルサンプラーによって受け取られる前にエアロゾル化される。
【0016】
自律的分析システムが開示され、このシステムは、未使用ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、液体サンプル受け入れステーションと、液体化学物質分配ステーションと、TOFMS分析ステーションとを有し、サンプルディスクホルダがステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御される。上記液体サンプル受け入れステーションは、上記エアロゾル収集装置から液体サンプルを受け取るように構成されて良い。上記液体サンプル受け入れステーションは、呼気を含む液体サンプルを受け取るように構成されて良い。上記液体サンプル受け入れステーションは、標的分析物を精製することができる液体サンプル処理装置から得られた液体サンプルを受け取るように構成されて良い。上記エアロゾル収集装置は、インパクター、連続的または断続的なすすぎを伴う回転インパクター、連続的または断続的なすすぎを伴うサイクロン、湿潤壁インパクター、および液体インピンジャーのうちの少なくとも1つを有して良い。
【0017】
エアロゾル粒子を収集および分析するための方法が開示され、この方法は、エアロゾル粒子を液体中に収集するステップと、上記液体のサンプルを少なくとも1つの酵素および熱酸処理にかけ、上記エアロゾルのサンプルに特徴的なペプチドを生成するステップと、処理されたサンプルにMALDIマトリックス溶液を付加するステップと、上記サンプルを乾燥させTOFMSを使用して分析するステップとを有する。上記酵素および熱酸処理のうちの少なくとも1つが約140℃で約15分間行われて良い。
【0018】
液体サンプル中の汚染粒子を捕捉および分析するための自律サンプルが開示され、これは、キャリアガス中の汚染粒子を有するエアロゾルを生成するための噴霧器と、上記エアロゾル中の汚染粒子のサイズを予め定められた平均粒子直径に拡大するための少なくとも1つの凝縮成長管と、未使用ディスクのスタックを具備するカートリッジを受け取るように構成された未使用サンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、使用済みディスクカートリッジを受け取るように構成された使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーションと、エアロゾルサンプル収集ステーションと、液体化学物質分配ステーションと、分析ステーションとを有し、サンプルホルダがステッピングモーターおよびアクチュエーターの少なくとも1つを使用して水平および垂直に移動し、予め定められた分析シーケンスを使用して各ステーションと結合するように構成され、上記システムの動作がマイクロコントローラーを使用して制御される。上記分析ステーションはLDI-MSを有して良い。上記分析ステーションは、LDI-MS、MALDI-TOFMS、および光検出器の少なくとも1つを有して良い。代替的には、上記分析ステーションは、MALDI-TOFMSを有して良く、その場合、ディスクは、MALDIマトリックス化学物質でプレコートされる。上記サンプルディスクは、ニッケルおよびニッケル合金の少なくとも1つから製造されて良い。特定の用途には他の材料が好ましい場合がある。たとえば、半導体不純物の微量金属分析には、シリコン、ゲルマニウム、または希土類金属が好ましい場合がある。非磁性ディスク材料を使用する場合には、磁性材料の薄膜をサンプルディスクの底に配置する必要がある。上記分配ステーションは、約0.5μlから約2μlの液体を分配するように構成されて良い。上記液体は、TFA、アセトニトリル、メタノール、エタノール、および水の少なくとも1つを有して良い。上記システムはさらにカメラステーションを有して良い。上記カメラステーションは、顕微鏡カメラおよびデジタルカメラの少なくとも1つを収容するように構成されて良い。上記システムは、乾燥ステーションをさらに有し、上記サンプルが真空下で実質的に乾燥されて良い。上記システムは、粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するために、上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーをさらに有して良い。上記システムは、上記汚染粒子の組成を識別するために上記分析ステーションから出力された処理データを取得するためのデータ処理ステーションをさらに有して良い。上記汚染粒子の平均サイズは約1nmから約20nmの間であって良い。上記凝縮成長管を出る粒子の平均サイズは、1μmから10μmの間であって良い。代替的には、凝縮成長管を出る粒子の平均サイズは、約2μmから約4μmの間であって良い。上記凝縮成長管を出る粒子の平均サイズは約3μmであって良い。上記液体サンプルは、UPW、および、半導体製造中に使用される化学物質液体のうちの少なくとも1つを有して良い。
【0019】
液体サンプル中の汚染粒子を捕捉および分析するための事例的な方法が開示され、この方法は、ここに開示される事例的な装置を供給するステップと、上記液体サンプルを噴霧して、キャリアガス中に汚染粒子を有するエアロゾルを生成するステップと、少なくとも1つの凝縮成長管を使用して上記エアロゾル中の上記汚染粒子のサイズを成長させて、予め定められた平均粒子直径の拡大された汚染エアロゾル粒子を生成するステップと、上記未使用サンプルディスクローダーステーションにおいて上記サンプルホルダにサンプルディスクをロードするステップと、未使用ディスクを具備する上記サンプルホルダを上記エアロゾル収集テーションに移動する移動ステップであって、上記拡大された汚染エアロゾル粒子が上記コーティングされたサンプルディスクに衝突させられる上記移動ステップと、上記サンプルホルダを上記液体化学物質分配ステーションに移動させて上記堆積したエアロゾルサンプルを化学物質で処理するステップと、上記サンプルホルダを上記カメラステーションに移動させて上記顕微鏡カメラおよび上記デジタルカメラによる画像化をうちの少なくとも一方を使用して検査するステップと、上記サンプルを乾燥させるステップと、上記分析ステーションに移動させてサンプル分析を実行するステップとを有する。上記方法は、上記サンプル収集ステーションの上流に配置された蛍光センサーを使用して、粒子サイズ分布、粒子数、および標的分析物粒子対クラッタ粒子比のうちの少なくとも1つを測定するステップをさらに有して良い。上記分析ステーションはLDI-MSを有して良い。上記分析システムは、LDI-MS、MALDI-TOFMS、LIBS、ラマン分光法、およびIR分光法の少なくとも1つを有して良い。上記方法は、さらに、上記エアロゾル分析物粒子に固有の生のスペクトルデータを生成するステップと、フィルタリング、ベースライン減算、信号対雑音比の推定、ピーク検出、および特徴抽出の少なくとも1つを実行して、処理されたスペクトルデータを生成するステップと、上記処理されたスペクトルデータを、いくつかの生物学的および化学的分析物の処理されたスペクトルデータを有する参照ライブラリと比較することにより、上記汚染粒子の組成を識別するステップとを有して良い。上記識別するステップは、機械学習を使用してスペクトルデータをトレーニングデータセットと比較し、汚染粒子の組成を予測するステップを有して良い。
【0020】
本開示の他の特徴および利点は、以下の説明および添付の図面に部分的に記載され、ここでは、本開示の好ましい側面が説明および示され、部分的に、添付図面と関連して把握される以下の詳細な説明を吟味することを通じて、当業者に明らかになり、また、本開示の実施を通じて学習するであろう。本開示の利点は、添付の特許請求の範囲で具体的に指摘されている手段および組み合わせによって実現および達成されて良い。
【0021】
本開示の他の特徴および利点は、以下の説明および添付の図面に部分的に記載され、ここで、本開示の好ましい態様が、説明され、また、図示されており、これは、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を検討することにより当業者に明らかになり、または、または本開示の実施を通じて学習することができる。本開示の利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘されている手段および組み合わせによって実現および達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本開示の上述の側面および多くの付随する利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるようになるので、より容易に把握されるであろう。
【
図1A】
図1Aは、例示的な自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムの斜視図を示す。
【
図1B】
図IBは、例示的な自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムで使用するためのサンプルディスクホルダの斜視図を示す。
【
図1C】
図1Cは、例示的な自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムのサンプル収集ステーションの断面図を示す。
【
図2A】
図2Aは、未使用サンプルディスクを保持するための例示的なカートリッジの斜視図を示す。
【
図2B】
図2Bは、カートリッジ内のサンプルディスクのスタックの斜視図を示す。
【
図2C】
図2Cは、サンプルディスクホルダにサンプルディスクをロードする前のカートリッジ内のディスクのスタックの断面図を示す。
【
図2D】
図2Dは、サンプルディスクホルダにサンプルディスクをロードした後のカートリッジ内のディスクのスタックの断面図を示す。
【
図3】
図3はエアロゾル粒子サンプルの捕捉と分析のための例示的な自律的方法の模式図を示す。
【
図4】
図4はエアロゾル粒子サンプルの捕捉と分析のための自律的方法に関連する例示的なシステムリセット方法の模式図を示す。
【
図5】
図5は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用して得られた生物学的エアロゾル粒子の生の質量スペクトルを示す。
【
図6】
図6は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用して得られた、Bg(Bacillus subrilis var niger)エアロゾル胞子の処理された質量スペクトル(下)を、ライブラリBgスペクトル(上)と比較して示す。
【
図7】
図7は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用して得られた、Bt(Bacillus thuringiensis al Hakam)エアロゾル胞子の処理された質量スペクトル(下)を、ライブラリBtスペクトル(上)と比較して示す。
【
図8】
図8はBg、Bt、EnterobacteriaファージT2、E.coli、およびタンパク質アルブミン(66kDa、Da=Dalton)を含むバイオエアロゾル粒子の処理された質量スペクトルを、全質量範囲(上、最大約80kDa)および低質量範囲 (下、最大約10kDa)で示す。
【
図9】
図9は建物のほこりと実験室の空気を含む空気中の種々の濃度のBg粒子に対する、例示的な自律エアロゾルサンプルキャプチャおよび分析システムを使用した分析の感度を示す。
【
図11A】
図11Aは、例示的な自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムで使用するための例示的な噴霧器の模式図を示す。
【
図11B】
図11Bは、例示的な自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムで使用するための例示的な噴霧器の模式図を示す。
【
図12】
図12は、自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムに関連するデータ管理を示す例示的な模式図である。
【
図13】
図13は、自律エアロゾルサンプル捕捉および分析システムのためのソフトウェアデザインを示す例示的な模式図である。
【
図14】
図14は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用した、大腸菌を含むバイオエアロゾル粒子の処理された質量スペクトルを示す。
【
図15】
図15は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用したY.rohdeiを含むバイオエアロゾル粒子の処理された質量スペクトルを示す。
【
図16】
図16は例示的なサンプル捕捉および分析システムを使用した、大腸菌バクテリオファージMS2ウイルスを含むバイオエアロゾル粒子の処理された質量スペクトルを示す。
【0023】
図中のすべての参照番号、識別子、およびコールアウトは、ここに完全に記載されているかのように、この参照によってここに組み込まれる。図の要素に番号を付けないことは、いかなる権利も放棄することを意図したものではない。番号のない参照は、図や付録の英字で識別されることもある。
【0024】
以下の詳細な説明は、詳細な説明の一部を形成する添付の図面への参照を含む。図面は、例示として、開示されたシステムおよび方法が実施され得る具体的な実施例を示している。「例」または「オプション」として理解されるべきこれらの実施例は、当業者がこの発明を実施することを可能にするのに十分詳細に説明される。この発明の範囲から逸脱することなく、実施例を組み合わせることができ、他の実施例を利用することができ、または構造的または論理的変更を行うことができる。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で解釈されるべきではなく、この発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの法的均等物によって定義される。
【0025】
本開示において、エアロゾルは、一般に、空気またはガスに分散された粒子の懸濁液を意味する。「自律的な」診断システムおよび方法は、「医療専門家による介入なし、または、最小限の介入で」診断テスト結果を生成することを意味する。「サンプルディスク」または「サンプル基板」とは、サンプルを被着させることができる固体(通常は金属)表面を意味する。エアロゾルの「リアルタイム」または「準リアルタイム」の分析とは、一般的には、分析対象のエアロゾルサンプルが収集されてからおよそ数分以内(たとえば、約5分未満)にエアロゾル分析物を特定する分析方法および装置を意味する。単数表記(英語の「a」または「an」という用語に相当するもの)は、1つまたは複数を含むために使用され、「または」(「or」)という用語は、特に明記されていない限り、非排他的な「または」を指すために使用されている。さらに、ここで使用され、他に定義されていない表現または用語は、説明のみを目的としており、限定を目的としていないことを理解されたい。本開示で別段の定めがない限り、「約」という用語の範囲を解釈するために、開示される値(寸法、動作条件など)に関連する誤差範囲は、本開示で示される値の±10%である。パーセンテージとして開示された値に関連する誤差範囲は、示されたパーセンテージの±1%である。特定の単語の前に使用される「実質的に」(「substantially」)という単語には、「指定された範囲のかなりの部分」、および「指定されたものの大部分ではあるが全部ではない」という意味が含まれる。
【詳細な説明】
【0026】
この発明の具体的な側面は、開示された方法およびシステムの組成、原理、および動作を説明する目的で、以下にかなり詳細に説明されている。しかしながら、種々の修正を行うことができ、この発明の範囲は、記載された例示的な側面に限定されない。
【0027】
例示的な自律的サンプル捕捉および分析システム100(
図1A~B)は、未使用(フレッシュ)サンプルディスクまたは基板ローダーステーション101、使用済みサンプルディスクまたは基板ローダーステーション102、エアロゾルサンプル収集ステーション103、カメラステーション104を有して良い。サンプルディスクホルダ108は、フレーム107内に配置され、各ステーションの下に移動可能に配置されるように構成される。サンプルディスクホルダ108は、リニアアクチュエータおよびステッピングモータ110を使用して水平方向(X-Y軸)に移動するように構成されている。サンプルディスクホルダ108は、また、ステッピングモータおよびリニアアクチュエータ111を使用して垂直(Z方向)に移動するように構成されて良い。すなわち、サンプルディスクホルダ108は、ステーション間を自律的に(ロボット的に)移動し(水平移動)、垂直移動を使用する各ステーションと係合するように構成されて良い。例示的なディスク112は、直径6mmであって良く、ニッケルおよびニッケル合金のうちの少なくとも1つから製造されて良い。ディスク112の厚さは、約0.05インチから約0.01インチの間であって良い。分配ステーション105は、分配ポンプを使用して、リザーバ105'に貯蔵された液体を約0.5μLから約1.5μLの間で分配するように構成される。マイクロディスペンシングポンプ、例えば、The Lee Company(Westbrook、CT)によって供給されるポンプを使用して良い。他の例示的な分配ポンプは、
図10Aに示されるような蠕動ポンプ220(Instetek、Inc.、CA)である。ポンプ220は、内径が1mm以下、外径が1mm以下の耐薬品性管での使用に適している場合がある。サンプルローダー108は、サンプルディスク112を保持することに加えて、吸着剤カードまたはパッドも保持する。吸着剤カード221は、サンプルホルダに隣接して配置され、管がパージされるときに分配される液体を吸着するために使用される。吸着剤カードは、厚さが約0.1~1mmの織布または不織布の親水性多孔質シートで構成されている。カード材料は、紙繊維、ナイロン、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)織シートのうちの少なくとも1つを有して良い。耐薬品性管のタイプの例は、C-FLEX管(Cole-Palmer Vernon Hills、イリノイ州)である。
【0028】
化学液体は、TFA、アセトニトリル、メタノール、エタノール、および水を有して良い。液体は、約70体積%のアセトニトリル、約15体積%のTFAを有して良く、残りは水である。代替的には、液体は、約70体積%のメタノール、約15体積%のTFAを有して良く、残りは水である。分配される液体の量は、サンプルディスク上に直径約1mmの(ノズル165の直径は約0.7mm)サンプルスポットを得るために、約0.5μlから約2μlの間である。約35°Cを超える高い周囲温度では、溶媒の蒸発損失を補うために、分配量を増やす必要があるであろう。分配量およびノズル直径は、スポットサイズが約0.5mmから約1.5mmの間のスポットを達成するように変更して良い。この周囲条件の影響を取り除くために、システム100またはその一部は、温度および湿度が制御された空間に配置されて良い。代替的には、システム100内の温度および湿度を監視し、それに応じて分配量を制御して良い。さらに、分析のために分配される液体の量は、分析物スポットのサイズに比例してスケーリングされて良い。その後、スポットが小さいほど、分配する必要のある液体が少なくなる。システム100に好ましいエンクロージャは、密閉された温度制御されたケースである。システム100が暖かく乾燥していることを確実にするために水および溶媒蒸気を除去する必要があり、このために、適切な吸着器構成要素(図示せず)に装填された1つまたは複数の乾燥剤または吸着剤をケース内に提供して良く、サンプル乾燥は好ましくは暖かく乾燥した周囲条件で行われる。この文脈では、「暖かい」は約30°Cから約45°Cの間を意味し、「乾燥した」は約25%未満の相対湿度を意味する。
【0029】
分配管先端240は、ステンレス鋼、および、耐溶剤性、耐酸性ポリマー例えばPTFEのうちの少なくとも1つを有する。
図10Bは、サンプルディスク112上に一塊の溶媒を分配するための例示的なシーケンス250を示す。最初に、ステップ251において、サンプル吸着剤カード221は、分配管の下に配置される。ステップ252において、ポンプ220は、当該ポンプ220の下流の分配管に配置された流体を完全にパージするのに十分な期間作動される。ステップ253において、ディスク112を備えたサンプルディスクホルダ108は、分配管先端240の下に位置付けられ(上述のようにステーション間をロボットで移動するように構成されて良い)、ステップ254において、液体がサンプルディスク112上に分配される。ポンプ速度および動作はシステムコントローラ(図示せず)によって制御されて良い。
【0030】
ディスク112は、MALDI化学物質でプレコートされて良く、これは、溶媒に溶解されたアルファ-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を有する。溶媒は、アセトニトリル、水、メタノール、エタノール、およびアセトンを含んで良い。オプションとして、システム100は、ディスク112をコーティングするためのMALDIマトリックスコーティングステーションを有して良い。未使用ディスク112は、未使用サンプルディスクカートリッジ200にロードされる前に、すなわち、システム100にロードされる前に、コーティングされて良い。代替的には、MALDIマトリックス溶液は、サンプルをディスクに堆積した後、リザーバーからサンプルに追加して良い。マトリックスを溶液に保つために、磁気攪拌を使用してリザーバーを加熱および攪拌する必要があるかもしれない。
【0031】
システム100は、また、可動サンプルディスクホルダ108を各ステーションと位置合わせするためのホーミングセンサを有して良い。Z軸ホーミングセンサ118が
図1Bに示されている。ステッピングモーター110(X-Y軸)および111(Z軸)は、マイクロコントローラーを使用して制御されて良い。ステッピングモーター111は、X-Y軸キャリッジ109に取り付けられて良い。ステーション106において、電気絶縁体要素117を使用してスタブ116がTOFMSから絶縁されて良い。エアロゾル収集ステーション103は、外径1/4インチO.D.のSS304またはSS316の合金管113を有して良い。可撓性管(図示せず)は、端部115で入口管113に取り外し可能に接続され、サンプリングされる領域に配置されて良い。例えば、周囲空気サンプルは、ステーション103の出口管またはフィッティング114に接続されたエアロゾルポンプ(図示せず)を使用して、入口管113に引き込まれて良い。いくつかの用途では、可撓性管を換気ダクトに接続して、ダクト内を流れる空気のサンプルが収集されて良い。端部115の反対側に配置された入口管113の端部は、
図1Cに示されるように、エアロゾルをインパクターノズル165に供給するように構成されて良い。ノズル165は、約0.35mmから約1mmの間のノズル先端167の穴径によって特徴付けられて良い。ノズル先端167とサンプルディスク112との間に配置された間隔166は、ほぼノズル直径のサイズであって良い。つまり、約0.35mmから約1mmの間である。
【0032】
ローダーステーション101は、サンプルディスクローダーカートリッジまたはマガジン200(
図2A~E)を有して良い。カートリッジ200の下端は、サンプルディスクホルダ108のスタブ116と機械的に係合するように構成される。スタブ116は、アルミニウムおよびアルミニウム合金のうちの少なくとも1つで製造されて良い。スタブ116がステッピングモーターおよびZ軸リニアアクチュエータ111によって作動されるサンプルディスクカートリッジ200に挿入されると、それは可撓性ウィング201(またはローダー機構)を外側に屈曲させ、カートリッジ200においてサンプルディスクのスタックからサンプルディスク112を強制的に解放してスタブ116に載せる。
図2Cに示すように、各ディスク112の表面は、各ディスク112の幾何学的にキャップされた形状204によって他のディスクから分離されている。金属サンプルディスクは、スタブ116の端部に取り付けられた適切な磁石202を使用してスタブ上の所定の位置に保持される。スタブ116をカートリッジ200から引き抜くと、アームまたはウィング201が内側に戻り、タブ203は、次に利用可能なディスクを保持するキャップ204と係合する(
図2D)。次に利用可能なサンプルディスクは、後続のサンプルのサンプリングのためにスタブ116と係合する位置にある。サンプルディスクカートリッジ200において、次に利用可能なディスク112および対応するキャップ204は、タブまたはフック203を使用して所定の位置に保持される。サンプルディスクは、ローダー機構リテーナ205、プッシュロード206、およびウェイト207を使用して所定の位置に配置される。
【0033】
カメラステーション104は、マウントボルト104'に取り外し可能に取り付けられた顕微鏡カメラおよびデジタルカメラを有して良い。これらのカメラを使用して、ステーション間のディスクのイメージを確認して良い。たとえば、新しいディスク112がローダー200から適切にロードされているかどうか(ローダーステーション101で新しいディスクが抽出されているかどうか)、サンプル捕捉ステーション103に被着されたサンプルが所望のスポットサイズであるかどうか、およびサンプルが十分に乾燥したかどうかを確認して良い。システム100は、また、分析の過程で収集された位置およびサンプルの詳細(例えば、カメラ画像)を記録するためのデータロギングシステムを有して良い。オプションとして、サンプルディスクホルダ108がサンプル収集ステーション103に配置されるとき、適切なカウンタを使用して測定された周囲空気中の粒子カウントが所定の閾値を超えたときに、吸引ポンプの運転を開始して良い。カメラステーション104で使用され得る他のタイプのカメラは、蛍光顕微鏡カメラ、ハイパースペクトルイメージングカメラ、および熱イメージングカメラを含む。たとえば、ハイパースペクトルカメラと熱画像カメラは、収集されたサンプルの質量とサンプルが乾燥した程度をより正確に測定できるであろう。スタブ116は、Oリングシール119を使用して、TOF-MSの真空チャンバーとの間で真空気密シールを形成することができる。
【0034】
TOFMSステーション106での分析を終了した後、サンプルディスクホルダ108は、使用済みまたは消費済みディスクをステーション102の使用済みディスクカートリッジに戻すように構成される。磁石102を使用して所定の位置に保持された使用済みディスクを備えたスタブ116を持ち上げて、ディスクをステーション102のカートリッジの可撓性アーム201と係合させる。有限要素解析は、スタブによってフレキシブルアームに加えられた約0.1ポンドの外向きの力が約0.015インチの半径方向の変位を生成することを示し、これは、タブ203を解放し、使用済みディスクをステーション102の使用済みサンプルディスクカートリッジに移動するのに十分である。
【0035】
システム100は、また、分析ステーションから出力されたデータを取得および処理するためのデータ処理システムを有して良い。データ処理は、フィルタ/平滑化、ベースライン減算、信号対雑音比の推定、ピーク検出、特徴抽出、検出、分類、およびユーザーインターフェイスを介したレポートを含むレポートの各ステップを有して良い。検出および分類は、参照スペクトルと比較して、サンプル中のエアロゾル粒子(例えば、リシンを含むがこれに限定されないバイオハザード粒子)の組成を特定することによって達成されて良い。機械学習エンジンを使用して、取得・収集されたスペクトルデータを分析するための機械学習(ML)技術は、分析対象物の識別のための手動データ処理を大幅に改善する。手動データ処理は遅くて労働集約的である。機械学習は一般に人工知能のサブセットであり、時間の経過とともにデータ分析によってパフォーマンスが向上するアルゴリズムで構成されている。教師あり機械学習手法が使用されて良い。教師あり学習は、入出力ペアの例に基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習するタスクで構成される。一連のトレーニング例で構成されるラベル付きトレーニングデータから関数を推測する。機械学習は、特定の機能を事前に特定する必要なしに、複雑なデータセット内の署名を特定できる教師なし学習方法である深層学習方法も含む。教師なし機械学習手法と半教師あり(教師あり学習と教師なし学習のハイブリッド手法)も使用されて良い。教師なし学習方法は、既存のラベルなしで、データセット内の以前は未知のパターンを、見つけるのに役立つタイプ学習を含んで良い。教師なし学習で使用される2つの例示的な方法は、主成分分析とクラスター分析である。クラスター分析は、アルゴリズムの関係を推定するために、共有属性を持つデータセットをグループ化またはセグメント化するための教師なし学習で使用される。クラスター分析は、ラベル付けされていない、分類、またはカテゴライズされていないデータをグループ化する機械学習の分野である。クラスター分析は、データの共通性を識別し、新しい各データをそのような共通性の有無に基づいて処理する。このアプローチは、異常なデータポイントを検出するのに役立つ。教師なし学習法は異常検出に使用されて良い。これは、これまで知られていなかった危険を特定するのに役立つ。たとえば、空気サンプルを定期的に分析して、空気中の粒子の組成を測定し、粒子の特性(サイズ、形状、蛍光など)と粒子に関連するスペクトルを特定して、「通常の」周囲空気中の粒子のベースラインデータ情報を取得することができる。生物学的脅威物質の大気への放出などのイベント後の大気中の粒子は、ベースラインデータから逸脱し、異常を強調する粒子特性データとスペクトルデータを提供し(異常スペクトルによって証明されるように)、脅威を軽減するために必要な是正措置をとる機会を提供する。コンパイルされたスペクトルデータは、粒子組成を予測するために、既知の生物学的物質スペクトルの知識ベースを有するトレーニングデータセットと比較されて良い。例示的なサンプル準備および分析システムは、機械学習エンジンとデータ通信して、トレーニングデータセット知識ベースを更新し、時間とともに組成の予測を改善して良い。生物学的物質の質量スペクトルは、化学物質の質量スペクトルよりも約3桁大きい範囲をカバーしているため、自動化された手法の適用が大幅に複雑になる。さらに、環境汚染物質は、イオン化プロセス(競合イオン化)中にターゲットと競合することによって信号強度を低下させる可能性がある。これは、ターゲットシグネチャとデコンボリューションする必要のあるシグネチャコンポーネント(クラッタ)を導入する。現在の自動化された方法は、ほとんどの場合、環境が乱雑にならないサンプルで非常に純粋なターゲットを検索することに限定されている。開示された例示的な方法は、標的分析物をクラッタから物理的に分離することによって競合的イオン化を排除し、シグネチャの曖昧さを排除する(各イベントは、標的またはクラッタのいずれかであると想定される)。エアロゾルサンプルに関連するスペクトルデータの分析のための機械学習方法の統合に関する追加の詳細は、本出願人の出願に係る「複雑な有機MALDIマトリックスを使用せずにエアロゾル粒子を検出するための方法およびシステム」と題された米国仮特許出願第62/868,906号に開示されており、参照によりその全体がここに組み込まれる。代替的には、分析ステーションからのデータ出力は、データ管理システム1200内の外部データ処理ステーション1201(
図12)を使用して処理されて良く、データは、有線(イーサネット、LAN)または無線の双方向通信を介してシステム100から処理ステーションに転送されて良い。種々のフォーマットのデータ、例えば、生データ、フィルタリングされたデータ、データログ、アラームおよび動作パラメータは、ローカルストレージサーバ1202およびリモートまたはクラウドストレージサーバ1203のうちの少なくとも1つに格納されて良い。サーバはデータ処理ステーション1201と双方向のセキュア通信で接続されるように構成される。モバイルアプリケーションソフトウェア1204(「app」/アプリ)は、また、例示的なシステム100の動作状態を監視し、データ処理を開始し、データ処理ステーション1201からの出力または結果を表示および報告するように構成されて良い。モバイルアプリケーションソフトウェアまたは「app」(アプリ)は、スマートフォン、タブレット、時計などのモバイルデバイスで実行するように構成されたコンピュータープログラムである。アプリは、フロントエンドコンポーネントまたはユーザーインターフェイス(「UI」)を有し、ユーザーに使いやすくフレンドリなインターフェースを提供するように設計されている。フロントエンドは、データルーティング、セキュリティ、認証、承認、オフライン作業、およびサービスオーケストレーションを容易にするバックエンドコンポーネントと通信する。アプリは、また、モバイルアプリサーバー、メッセージキューイング、エンタープライズサービスバス(「ESB」)、その他のサービス指向アーキテクチャ(「SOA」)インフラストラクチャコンポーネントなど、1つ以上の中間コンポーネントまたは中央コンポーネントと通信して良い。モバイルデバイスとデータベースまたはクラウド間のデータ同期とオフライン(インターネット接続なし)機能は、モバイルアプリをシームレスに機能させるための鍵である。Couchbase Mobile(Couchbase)、Azure Mobile Services(Microsoft)、Cognito(Amazon)、Firebase(Google)などのデータベースおよびクラウドサービスのプロバイダーは、モバイル製品との同期およびオフライン機能を提供する。アプリは、アドレス認証、保存データなどの機能を使用して、同期および分散ストレージ、伝送およびストレージを提供することが好ましく、これは、アプリがファイルシステム暗号化およびデータレベル暗号化、移動中のデータ、並びに、ユーザーがアクセスおよび変更/修正できるデータを定義する読み取り/書き込みアクセスをサポートするかどうかに関連する。データベースは、リレーショナル(Oracle、mySQLなどのSQLデータベース)またはNoSQL(MongoDB、CouchDBなど)であって良い。さらに、モバイルプラットフォームでの分散型データ書き込みの場合、同じデータを複数のデバイスで同時に変更でき、複数のデバイスからのデータアクセス間で競合が発生する可能性がある。アプリには、これらの競合を解決するためのメカニズムを組み込むことが望ましい。競合解決メカニズムにより、デバイス上、クラウド内で自動的に解決できる場合もあれば、手動で始動する場合もある。
図13は、システム100のソフトウェアデザイン1300を示す例示的な模式図である。システム100の構成要素1301の動作は、コントローラ1302によって制御される。先に述べたように、モバイルアプリケーションソフトウェア(「アプリ」)は、例示的なシステム100の動作ステータスを監視し、データ処理を開始し、出力または結果を表示および報告するように構成されて良い。
【0036】
システム100は、複数のローダーステーション101を有して良い。例えば、第1のローダーステーション101は、MALDIマトリックスでコーティングされたディスク112を有して良く、第2のローダーステーション101は、コーティングされていないディスクを有して良い。例示的なシステム100は、また、交互にコーティングされたディスクとコーティングされていないディスクのスタックを有するローダーステーション101を有して良い。コーティングされたサンプルディスクが必要であり、コーティングされていないサンプルディスクが未使用サンプルディスクスタックまたはカートリッジ200の下部にある場合、コーティングされていないサンプルディスクを未使用ディスクスタック200から引き出し、使用済みディスクスタックからステーション102のカートリッジに移動させて良く、これにより、ロボットで操作されるサンプルホルダ108が、未使用ディスクスタック内のコーティングされていないサンプルディスク112にアクセスすることを可能にする。ローダーステーション101の新しいカートリッジとステーション102の使用済みカートリッジとの間のこれらの移動は、約10秒未満、好ましくは約5秒未満で達成することができる。さらに、システム100は、カルーセル上に存在する複数のローダーおよびアンローダーステーションを有して良い。1つのサンプルディスクカートリッジが使い果たされると、カルーセルが回転して、コーティングされたサンプルディスクまたはコーティングされていないサンプルディスクの新しいスタックを含む新しいサンプルディスクカートリッジが提供されて良い。代替的には、2つのカルーセルを提供して良く。1つは新しいサンプルディスク用で、もう1つは使用済みサンプルディスク用である。カメラステーション104によって生成された画像の分析のために機械学習技術を使用しても良い。例えば、ニューラルネットワークを訓練して、サンプルディスク112がステーション101で適切にロードされたか、ステーション102で適切にアンロードされたか、またはサンプルが乾燥しているか、乾燥が必要かどうかを評価して良い。
【0037】
化学エアロゾル粒子を分析するための他の例示的な方法において、ディスクにMALDIマトリックスを事前に堆積させる必要がない場合がある。化学エアロゾル粒子(脅威物質)の例は、リシン、フェンタニル、およびカルフェンタニルが含まれるけれども、これらに限定されない。これらの化学薬品は比較的製造が容易であり、炭疽菌などの生物剤よりも容易に入手でき、最近化学兵器として使用されている。これらの非生物学的化学エアロゾル粒子を有するサンプルのサンプル調製中に、エアロゾル粒子は、MALDIマトリックスでプレコートされていないサンプルディスクまたは基板に直接被着され、必要に応じて乾燥され、レーザー脱離/イオン化質量分析計(LDI-TOFMS)として操作されるTOF-MSを使用して、分析される。レーザー脱離/イオン化-飛行時間型質量分析(LDI-TOFMS)は、小さな有機化合物(<1000Da)および無機化合物の分析に使用できる。なぜならば、これは、イオン化中に分子イオンの有意なフラグメンテーションを生成し、有機化合物中の分子量および分子構造の決定を可能にするからである。MALDI TOFMSは、大きな有機化合物例えばポリマーに適している。
【0038】
例示的な方法300(
図3)において、MALDIマトリックスでプレコートされた新しいディスク112を有するサンプルディスクホルダ108は、エアロゾルサンプルでディスクに衝突するために、TOFMSステーション106からステーション103に移動される。ステーション106からサンプルを移動する前に、TOFMSステーションのゲートバルブが閉じられている。ステップ310において、エアロゾルポンプが所定の時間オンにされて、周囲空気を管113に引き込み、コーティングされたディスク112上の粒子に衝撃を与える。ステップ302において、ポンプがオフにされ、サンプルディスクホルダ108は、ステップ303においてステーション105に移動され、ステップ304において、被着されたサンプルが化学物質で処理される。次に、ステップ305において、ディスクを有するサンプルディスクホルダは、顕微鏡カメラの少なくとも1つを使用して検査するため、またはデジタルカメラを使用して画像化するために、カメラステーション104に移動される。ステップ306において、サンプルの乾燥が開始される。ステーション104でサンプルの画像を撮影することによってサンプルを定期的に監視し(ステップ307)、画像が、まだサンプルが湿っていることを示す場合、例えばヒーターを使用してサンプルを加熱することによって乾燥を続ける(ステップ308)。サンプルが十分に乾燥している場合、TOFMS分析のためにサンプルホルダがステーション106に移動される。ステップ309において、サンプルスタブ116は、TOFMSの真空チャンバーで密封され、チャンバーは、ステップ310においてポンプ引きされる。サンプルヒーターが存在し、オンにされている場合、ヒーターはオフにされる。TOFMSのイオン化レーザーはステップ311でトリガーされ、スペクトルはステップ312で収集され、ステップ313で分析される。
【0039】
新しい分析のためにシステム100をリセットするための例示的な方法において、リセットプロセス400(
図4)は、使用済みディスクをステーション102の使用済みディスクカートリッジに移動するステップ(ステップ401)、ディスクをカートリッジステーション102に挿入するステップ(ステップ402)、画像化のためにスタブをステーション104に移動させるステップ(ステップ403)、使用済みディスクがスタブから除去されたかどうかをチェックするステップ(ステップ405)を有する。使用済みディスクがまだスタブ116上に存在する場合、メンテナンスアラートがステップ406で発生する。使用済みディスクが取り外されたことを画像が示す場合、サンプルディスクホルダ108は、ステップ407で新しいディスクカートリッジステーション101に移動され、スタブ116は、ステップ408でステーション101のカートリッジに挿入される。スタブは、ステップ409で画像化するためにステーション104に移動され、画像は、ステップ410で収集される。ステップ411において、画像が、ディスクがスタブ116上に存在することを示す場合、サンプルディスクホルダ108は、サンプル収集のためにエアロゾルサンプリングステーション103に移動される。ディスクが存在しない場合、メンテナンスアラートが発生する。機械学習手法を使用して、リセットプロセス中に撮影された画像のレビューを自動化して良い。ステップ411の後にディスクが存在する場合、サンプルディスクホルダは、ステップ412でステーション106(MSステーション)に移動され、その結果、新しいサンプルディスク112が真空下で保管されて良い。次に、TOFMSシステムのゲートバルブを開いて、新しいディスクを真空に露出させて良い。
【0040】
他の例示的な方法において、エアロゾル粒子は、米国特許出願公開第2003/0020011号に開示されているように、衝突によって基板上に収集されて良く、参照によりその全体がここに組み込まれる。仮想インパクター、または仮想インパクションの複数の段階をサンプル収集ステーション103に組み込んで、サンプルディスク112に衝突する前にエアロゾル粒子を濃縮して良く、これは米国特許第7,799,567号「仮想インパクションおよび実際のインパクションに基づくエアサンプラー」に記載されているとおりであり、参照によりその全体がここに組み込まれる。次に、MALDIマトリックス溶液をサンプルに加えて良い。MALDIマトリックス溶液は、溶媒に溶解されたアルファ-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を有して良い。溶媒には、アセトニトリル、メタノール、水、エタノール、およびアセトンが含んで良い。MALDIマトリックス溶液をMALDIプレート上の分析物にスポットして、分析物上にMALDIマトリックス材料の均一で均質な層を生成する。溶媒は蒸発し、再結晶したマトリックスのみが残り、分析物はマトリックス結晶全体に広がる。コーティングされたプレートまたは基板を乾燥させ、TOFMSで分析される。「全細胞」分析は、約5分未満で識別を実現できる。
【0041】
他の例示的な方法において、システムは、空気力学的粒子サイザー、光学粒子カウンタ、および各粒子の蛍光または脱分極測定を提供する装置のうちの少なくとも1つをさらに有する。例示的なエアロゾル粒子サイザーは、Air Techniques International,Inc.(メリーランド州)によって製造されている。蛍光や脱分極などの測定技術は、脅威エアロゾル粒子を通常の周囲エアロゾル粒子から区別するのに役立つ。これは、単位時間あたりのサイズとカウントのみに基づいてこの決定を行うことは信頼できないためである。この光学的検出コンポーネントは、衝突収集ステップと並列に、または、その上流に優先的に追加される。脅威エアロゾル粒子に関連する粒子のサイズに関する情報は、これらの粒子の収集を最適化するために使用されて良い。たとえば、平均粒子径が約1μの粒子は、平均粒子径が約3μの粒子よりも、衝突を駆動するためにより高い速度を必要とする。粒子密度が同程度であると仮定すると、直径約3μの粒子の質量は約1μの粒子の質量の約27倍である。慣性分離が、粒子質量と粒子速度に比例するため、エアロゾル収集ステーション103で使用されるポンプの動作は、1μ粒子の場合には、ノズルを通過する空気流速を高くするように調整し、または、収集される粒子のサイズが大きかった(例えば、約3μ)場合には、速度を遅くして空気流速を下げて良い。結果として、光学検出器を利用して、脅威エアロゾル粒子の平均粒子直径に基づいてエアロゾル粒子の収集効率を最適化することができる。さらに、光検出器によって測定された脅威粒子の数密度を使用して、サンプリング期間の長さを決定して良い。たとえば、脅威エアロゾルが脅威粒子の粒子負荷が高い高密度エアロゾルである場合、良好なサンプルを取得するには、サンプリング期間を短くするだけで十分な場合がある。脅威エアロゾル濃度が希薄な場合、より長いサンプリング期間が必要になる。
【0042】
他の例示的な方法において、エアロゾル粒子は、例えば、以下に開示されるようなインパクター装置を使用して、衝突または突入によって液体に収集されて良い。次に、サンプルを酵素または熱酸処理に数分間さらして良い。消化は約140°Cで約15分間行って良い。ホットアシッドは、アスパラギン酸(Asp)残基でタンパク質を切断し、非常に特異的なペプチドを生成する。タンパク質シグネチャ分子の化学的消化により、約15分でプロテオミクスペプチドマップが提供される。個々のペプチドをマイクロシーケンスして、既知のバイオマーカーのアミノ酸配列を特定して良い。「触媒」毒素の場合、活性アッセイは、「生きている」毒素がサンプル中に存在することを明確に決定でき、これは、リシン、ボツリヌス毒素、アブリンを含むけれども、これらに限定されない。このアッセイは、完了するまでに約1時間から2時間かかる場合がある。次に、MALDIマトリックス溶液が処理されたサンプルに追加される。サンプルを乾燥させ、TOFMSで分析して良い。
【0043】
自律的なサンプル分析は、質量分析や光学イメージングに限定されない。サンプルディスク上に収集されたサンプルを分析するための他の例示的な方法において、蛍光顕微鏡法、ラマン分光法、表面増強ラマン分光法、走査型電子顕微鏡法、および他の表面ベースの分析が、システム100内の他の個別のステーションで使用されて良く、サンプルホルダ108およびサンプル処理ロボットキャリッジ109にアクセス可能である。
【0044】
炭疽菌などの生物学的エアロゾル粒子の収集および分析のための例示的な方法において、溶媒中のMALDIマトリックス化学物質は、基板上に被着されて良く、これは、適切な金属、金属合金および他の高導電性材料で製造されたディスクを含むけれども、これらに限定されない。例示的なサンプルディスク112は、直径6mmであって良く、サンプルディスクホルダ108に保持されて良い。MALDIマトリックス化学物質は、溶媒に溶解されたアルファ-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を有して良い。溶媒は、アセトニトリル、水、エタノール、およびアセトンを含んで良い。マトリックス化学物質を実質的に乾燥させて、ディスク上に薄膜を形成して良い。次に、プレコートされたディスクは、約1分未満のサンプリング期間でサンプルエアロゾル粒子をディスク上に被着させることができるスポッティングノズルの下に配置されて良い。サンプルエアロゾルは、周囲空気中の粒子を含み得る。トリフルオロ酢酸(TFA)、アルコール、水、またはそれらの混合物などの他の化学物質を、堆積したサンプルに加えて良い。TFAは、通常、分析物の質量スペクトルに対する塩不純物の影響を抑制し、細菌の胞子やウイルスの表層から酸可溶性タンパク質を浸出させるために添加される。水は親水性タンパク質の溶解を可能にし、アセトニトリルまたは有機溶媒は疎水性タンパク質と脂質の溶解を可能にする。化学物質を添加する前に、適切なカメラを使用してサンプルスポットの1つまたは複数の画像をキャプチャして良い。サンプルスポットの画像は、化学処理後に収集および分析して、乾燥プロセスを監視し、サンプルが実質的に乾燥したかどうかを判断することができる。高倍率イメージングを使用して、収集された粒子の形態に関する情報を提供することができる。蛍光画像または熱画像を使用して、ディスク上の材料の位置またはサンプルの乾燥に関する追加情報を提供して良い。乾燥プロセスは、乾燥サンプルスポットに温風を通過させるか、サンプルディスクを加熱することによって加速することができ、例えば、誘導性または抵抗性の加熱面をサンプルディスクと物理的に接触させるか、誘導性または抵抗性の発熱体をサンプルディスクホルダ108に組み込む。乾燥に使用される温風は、乾燥プロセスをさらに強化するために、乾燥剤のベッドに通すことによって除湿して良い。水に大幅に吸収される波長を放射する赤外線エミッタ素子、例えば、中赤外線領域のものも使用して良い。例示的な方法を使用して生成されたディスク上のサンプルは、サンプルディスクの中心またはその近くに、小さく、丸い、実質的に乾燥したエアロゾルスポットまたは堆積物をもたらす。ディスクは、サンプルを堆積させる前に、MALDIマトリックス化学溶液でプレコートされて良い。代替的には、MALDIマトリックス化学溶液を、乾燥前に堆積したサンプルと混合して良い。システム100は、また、サンプルが真空下で乾燥される専用の乾燥ステーションを有して良い。ステーション106内のTOFMSに関連する粗引きポンプおよびターボポンプのうちの少なくとも1つは、乾燥ステーションに流体的に接続されて良い。
【0045】
次に、質量分析計を使用してサンプルを分析して良い。例えば、サンプルに特徴的な約2から約200の離散質量ピーク(スペクトル)は、サンプルを少なくとも1つのレーザーイオン化パルスに曝すことによって生成されて良い。レーザーイオン化パルスの数は、約1~約20個である。エアロゾルサンプルを追加する前に、MALDIマトリックスを薄膜として事前に堆積させることで、ディスクに堆積する前にマトリックスやエアロゾルを噴霧する必要がなくなる。そして、実質的に均一にMALDIマトリックスでコーティングされたエアロゾル粒子であるエアロゾル粒子を提供する。例示的な方法は、また、潜在的に表面粗さまたは表面粘着性の追加に起因する粒子の付着を改善し、したがって、高速ストリームが収集表面に衝突して、粒子が衝突後に基板から「跳ね返る」傾向を生み出すときのエアロゾル粒子の損失を回避または最小化する。表面に衝突する粒子の数を最大化しながら跳ね返りを最小化するための最適な気流速度は約75m/sであるけれども、衝突表面の特性、オリフィス径、および粒子カットサイズに応じて、約50m/sから約150m/sの間で変化して良い。粒子カットサイズは、このサイズの粒子の半分がインパクターによって収集され、半分がインパクターを通過する粒子の直径である。
【0046】
先に説明された例示的な方法は、自律的であるように構成されて良い。例えば、例示的なエアロゾルサンプリングロボットシステム100を使用して、以下のステップを実行して良い。
(a)1つまたは複数のディスクを有する新しいディスクカートリッジまたはコンテナからサンプルディスクまたは基板を選択する。
(b)適切な装置を使用して収集されたサンプルエアロゾル粒子を堆積させるために、MALDIマトリックスを有するディスクを第1のノズルの下に配置する。
(c)TFA、アルコール、および水のうちの少なくとも1つを含む処理溶液でサンプルを処理するために、エアロゾルサンプルを有するディスクを第2のノズルの下に配置する。
(d)ディスク上のサンプルを実質的に乾燥させる。
(e)ディスクを質量分析計のサンプルステーションに移動する。
(f)分析プロセスを開始し、質量スペクトルデータを生成する。
(g)使用済みディスクを廃棄する。たとえば、使用済みディスクのカートリッジまたはコンテナへとディスクを取り除く。
【0047】
先に説明した例示的な方法は、2つの連続するステップ間で、ディスクを有するサンプルホルダをカメラステーション104に移動させて、ディスクのデジタル画像をキャプチャするステップをさらに有して良く、これによって、ステップ(a)においてサンプルホルダがローダーステーション101からディスクを引き抜いたかどうかを調べ、ステップ(b)においてサンプルが被着されたかどうかを調べ、またステップ(d)において乾燥が実質的に終了したかどうかを調べることができ、以下同様である。カメラステーション104は、ディスクの表面を照らすために、1つまたは複数の光源(例えば、発光ダイオードすなわちLED)を有して良い。例えば、その上にサンプルまたは処理溶液を含む液滴を有するディスクの表面の画像は、典型的には、例えば正反射を介して光を反射することができるガラス状の滑らかな表面を有し、これは表面からの光の鏡面反射と考えて良い。したがって、画像は表面を照らす個別のLEDを示している場合がある。対照的に、ディスクが実質的に乾燥している場合、つまり効果的な乾燥が達成されている場合、表面は光を散乱する傾向があり、画像には表面を照らす個別のLEDが表示されない。これらステップ中に収集されたデジタル画像の検査は、また、各ステップ後にキャプチャされた画像を、標準またはベースラインデジタル画像のライブラリと比較して、ディスクを有するサンプルディスクホルダ108を次のステップに移動する必要があるかどうか、またはディスクは使用済みディスクカートリッジ102で廃棄する必要があるかどうかを決定して良い。分析後のディスク上のサンプルは、必要に応じて、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)およびその他の生体分子または微生物学的手法を使用して抽出および分析し、MALDITOFMSの結果を確認して良い。
【0048】
分析プロセスを開始するステップ(f)は、サンプルディスクホルダ108がそれに密封された状態でMSステーション106を約10-5トル未満、好ましくは約5×10-6トル未満に排気するステップ、電圧を導電性ディスクに印加してディスクの表面近くの領域に強い電界を生成するステップ、レーザーパルスを集束させてMALDIマトリックスと分析物を蒸発させ、イオンを生成するステップ、および、電界の方向を制御することによってイオンを検出器に加速するステップを有して良い。
【0049】
例示的な方法は、MALDIマトリックス溶液を堆積させ、マトリックスを実質的に乾燥させるために、コーティングされていないディスクを第3のノズルの下に配置するステップをさらに含んで良い。
【0050】
サンプルエアロゾル粒子は、ステーション103での衝突による収集に限定されない場合がある。サンプルエアロゾル粒子は、また、ガス流(例えば、周囲空気)に分散された粒子(例えば、サンプルエアロゾル粒子)を収集するために使用される適切な衝撃または液体衝突装置を使用して収集されて良い。エアロゾル粒子は、通常、少量の水または液体に濃縮され、ステーション105と同様の分配ステーションを使用してディスク上にスポットされて良い。衝撃装置は、大量の空気を装置に押し込み、収集された粒子を濃縮し、高品質の代表的なサンプルを提供する。米国特許第6,267,016号は、参照によりその全体がここに組み込まれ、組み合わされた衝撃コレクタおよびファンを有する回転式コレクタを開示しており、この回転式コレクタは、空気または他の気体流体を引き込み、その中で粒子が空洞に同伴され、次に、粒子に衝撃を与える回転面を提供することによって、粒子を気体流体から分離する。粒子は、また、その内面を含む空洞内の他の表面に衝突し、これらの表面から洗い流され、空洞に注入された水または他の液体で濡らされる。水または他の液体は、連続的または断続的にキャビティに注入され、インペラ・ベーンおよびそれらが衝突した他の表面から粒子を洗い流す。粒子状物質は、液体によってねじ山付きの排水口を通って、空気または気体流体用の排気口を含むレシーバーに運ばれる。ポンプは、液体を入口ポートからキャビティに噴霧する導管を介して、レシーバーから液体を再循環させる。レシーバーに収集された粒子状物質は、空気または他の気体流体に同伴された粒子状物質を検出または識別するために分析できる標本を提供する。米国特許第6,695,146号は、流体の流れを主流と副流に分離するための仮想インパクターを開示しており、その結果、副流は、所望のサイズのより高濃度の粒子を含む。マイナーフローはアーカイブ表面に向けられ、粒子がアーカイブ表面に衝突して堆積する。時間の経過とともに、アーカイブ表面と仮想インパクターは、互いに対して移動し、もって、異なる時間に収集された粒子がアーカイブ表面の異なる部分に間隔を置いて配置されたスポットとして堆積する。粒子状物質は、粒子状物質の分析が必要になるまでアーカイブ表面に保管される。アーカイブ表面は、粒子の沈着および保持を強化する材料でコーティングすることができ、さらに、アーカイブ表面に沈着した生物の粒子の寿命を維持する材料でコーティングすることができる。米国特許第6,695,146号、米国特許第6,290,065号、米国特許第6,062,392号、および、米国特許第6,363,800号の開示は参照してその全体を、ここに組み込む。
【0051】
米国特許第7,799,567号は、空気などの流体流から粒子を除去し、1つまたは複数の収集表面に粒子を堆積させるための方法を開示している。プレフィルタは、雨や昆虫などの特大の粒子や汚染物質を排除するために使用される。濃縮器は、流体の少なくとも一部において事前に定義された粒子サイズよりも大きい粒子の濃度を増加させるために使用され、濃縮された体積の流体を生成する。コンセントレータおよびプレフィルタは、たとえば、仮想インパクターであって良い。米国特許第7,799,567号および米国特許第11/385,326号、米国特許第11/058,442号、米国特許出願第10/366,595号、および、米国特許第6,887,710号、米国特許第6,729,196号、米国特許第6,363,800号、米国特許第6,951,147号、および、米国特許第6,267,016号は、その全体を参照によりここに組み込む。さらに、米国特許第7,759,123号は、参照によりここに組み込まれ、これは、収集された粒子の濃縮スポットを衝撃収集表面から除去し、それらの粒子を、液体サンプルを調製するのに適した容器に移すための方法および装置を開示している。流体のジェットを利用して、粒子を除去および移動させる。液体ジェットを使用する場合、サンプルを不必要に希釈しないように、液体の量を最小限に抑える。
【0052】
分析されるエアロゾル粒子は、周囲空気に見られる粒子に限定される必要はない。一例として、分析物エアロゾルは、人間または動物の呼気中に見られる呼気粒子(EBP)を含むであろう。健康な成人の呼吸中に吐き出される空気の量は、通常1~2リットルであり、これには約0.5リットルの通常の一回換気量が含まれる。人間は、通常の呼吸、咳、会話、くしゃみなどの種々の呼吸活動中に呼気粒子(EBP:exhaled breath particles)を生成する。通常の呼吸中の人工呼吸器を装着した患者からのEBP濃度は、約0.4~約2000粒子/呼吸または0.001~5粒子/mLである可能性がある。さらに、EBPのサイズは5マイクロメートル未満である可能性があり、それらの80%は0.3~1.0マイクロメートルの範囲である可能性がある。吐き出された粒子サイズ分布も0.3から2.0マイクロメートルの間であると報告されている。EBPの平均粒子サイズは、通常の呼吸では1マイクロメートル未満、咳では1~125マイクロメートルになる可能性がある。さらに、肺結核患者の25%は、咳をするときに結核菌の3~約600CFU(コロニー形成単位:colony forming unit)を吐き出し、この病原体のレベルは主に0.6~3.3マイクロメートルの範囲であって。これらのバクテリアは棒状で、長さは約2~4マイクロメートル、幅は約0.2~0.5マイクロメートルである。本出願人の出願に係る、「呼気を使用する、結核および他の疾患の診断」と題される、米国特許出願第62/891,954号および63/069120号は、参照によりその全体がここに組み込まれ、これらは、彼らは、サンプル収集サブシステムおよびサンプル分析サブシステムを有する、呼気を使用してTB(結核)を診断するための自律システムを開示している。サンプル収集サブシステムは、サンプル抽出コンポーネントであって、所定の呼気操作中に個人から、排出され、当該サンプル抽出コンポーネント中へと供給される空気中へ排出される結核菌(Mtb)に特徴的な呼気エアロゾル(EBA)粒子および脂質バイオマーカーの少なくとも1つを抽出するために個人の顔を受け取るように構成されたサンプル抽出コンポーネントと、インターフェース管によってサンプル抽出コンポーネントに流体接続され、収集されたサンプルとして呼気および空気からEBA粒子および脂質を分離および収集するように構成されたサンプルキャプチャコンポーネントとを有して良い。1つまたは複数の冷却装置は、インターフェース管の少なくとも1つの壁と熱的に連絡するように構成される。熱電冷却装置の例は、Marlow Industries(Dallas、TX)によって製造されている。サンプルキャプチャコンポーネントとサンプル分析サブシステムは流動的に接続されている。収集されたサンプルは、化学物質の分配に使用されるステーション105と同様のステーションを使用してサンプルプレート上で濃縮されて良い。収集されたサンプルの量は約1ml未満であって良い。収集されたサンプルの量は、100μL未満、2μL未満であって良い。膜ベースの分離または蒸発を含む方法および装置を使用して、液体サンプルをミリリットル容量からマイクロリットル容量に濃縮して良いけれども、これは膜ベースの分離または蒸発に限定されない。
【0053】
微生物の特徴的な細胞内容物のより多くをMALDI分析に曝露することにより、例示的なシステム100を使用した微生物の分析を改善するために、微生物細胞壁または胞子コートを開くまたは「溶解」(lysed)して良い。「細菌の胞子を溶解してそれらの識別を容易にするための装置および方法」と題された米国特許第5,989,824号は、プラズマまたは放電を使用して、金属基板上にある開放細胞または胞子を破壊することを開示し、参照によりその全体がここに組み込まれる。「溶解」は、化学的、集束音響、および集束電磁処理を使用して実現してもよい。
【0054】
液体サンプルは、呼気エアロゾルコレクターから、または液体または液体中の固体の懸濁液を含む任意のプロセスから得ることができる。液体サンプル処理コンポーネントは、塩などの不純物を除去するため、または分析システムのパフォーマンスを向上させるためにサンプルを濃縮または化学修飾するために必要になる場合がある。たとえば、C18樹脂を使用して、液体サンプルから塩を除去して良い。先に説明したように、酵素または熱酸処理を使用して、タンパク質を特定の標的分析物とより正確に関連するペプチドに分解するして良い。マイクロピラーアレイを使用して、粒子のサイズソートをしたりサイズを選択したりしてから、複雑な懸濁液または希釈した懸濁液から特定のターゲット粒子を濃縮または整理して良い。例示的な方法および装置は、これらのサンプル準備の側面をさらに含んで良い。本出願人の出願に係る「呼気を使用した呼吸器疾患の診断」と題すされる米国特許出願第63/005179号、および、「呼気およびエアロゾルの分析を使用した呼吸器疾患の診断」と題される同第63/010029号は、呼気および他のエアロゾルを使用して呼吸器疾患を診断するための呼気サンプル収集システムを開示し、これは、非揮発性有機成分を選択的に捕捉するための充填床カラムを有するサンプル捕捉コンポーネントを有し、これらの内容は参照してここに組み入れる。
【0055】
他の例示的な方法において、サンプルが生物学的粒子と化学的粒子の両方を含む場合、先に説明した方法を変更して良い。裸のディスクまたは基板(MALDIマトリックスコーティングなし)をスポットサンプラーの下に配置して良く、以前に開示された収集装置のいずれか1つを使用して収集されたエアロゾルサンプルをディスク上に堆積させて良い。次に、化学組成の分析と識別のために、ディスクをLDI-TOFMS装置に移送して良い。次に、同じサンプルディスクを例示的な装置100内のステーションに輸送して良く、そこで化学物質がサンプルスポットに追加される。化学混合物は、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、メタノール、TFA、および水を有して良い。サンプルを乾燥させ、生物学的組成をMALDI-TOFMSで分析して識別して良い。その後、化学的および生物学的脅威エアロゾル粒子の両方が単一のサンプルから迅速に識別され得る。
【0056】
例示的なシステム100において、未使用サンプルディスクは、2つの別個の場所、すなわち、MALDIマトリックスでコーティングされたディスクが保管される場所と、コーティングされていないディスクが保管される別の場所に格納されて良い。代替的には、交互のサンプルディスクをコーティングすることができ、コーティングされていないサンプルディスクが新しいサンプルディスクスタックの一番下にあるときにコーティングされたサンプルディスクが必要な場合、コーティングされていないサンプルディスクを新しいディスクスタックから引き出して使用済みディスクスタックに移動することができ、これにより、ロボットは新しいディスクスタック内のコーティングされていないサンプルディスクにアクセスできる。これらの動きは、数秒で完了するであろう。
【0057】
大気中の生物学的脅威因子の存在を特定するために、空気サンプルを所定の時間間隔で収集し、上述の例示的な方法を使用して分析して、背景/ベースライン情報の履歴データセット(トレーニングデータセット)を生成して良い。分析は、機械学習アルゴリズムを使用して時間の経過とともに改善されて良い。背景情報の変化をモデル化して、保護地域の大気の通常の行動をマッピングして良い。生物学的、生化学的、または化学的なエアロゾル粒子の放出が疑われる場合、上述の例示的な方法を使用して空気をサンプリングすると、過去の背景情報から逸脱した情報が得られる。このような脅威の存在の最初の兆候は、通常の背景からの急激な逸脱である。この段階で、個々の粒子の組成に関してアルゴリズムによる決定を行って良い。したがって、人命を保護し、人命の損失を防ぐために、是正措置を迅速に講じることができる。たとえば、建物の暖房、換気、および空調(HVAC)システムをシャットダウンしてエアロゾルの拡散を制限し、火災警報器を作動させて建物から避難させて良い。
【0058】
先に開示された例示的な方法および装置は、また、液体サンプルおよび種々のサンプルの分析に使用されて良く、これは、半導体ガスおよび液体プロセスストリームを含むけれども、これらに限定されない。液体サンプルは噴霧される場合がある。この場合、サンプルのアリコートは、適切な手段を使用してエアロゾル化されて良い。例えば、噴霧器を使用して、空気中の液体サンプルをエアロゾル化されて良い。例えば、噴霧器を使用して、液体サンプルを濾過された空気の流れにエアロゾル化して良い。
【0059】
液体サンプル、具体的には、半導体プロセスストリームの液体サンプルは、超純水(UPW:ultrapure water)中で約1nmから約100nmの範囲の粒子サイズのナノ粒子汚染物質を有して良い。液体サンプルは、半導体製造プロセスの開始時、すなわちフロントエンドオブライン(FEOL)に使用される化学液体と、製造プロセスのバックエンドオブライン(BEOL)段階で使用される化学物質とを有して良い。半導体産業における超純水は、ほとんどすべての汚染物質を除去するために処理された水を指し、これら汚染物質は、生物学的物質(細菌性物質など)、金属、金属カチオン(ナトリウム、ホウ素、バリウム、鉄、シリコンおよびカルシウムを含むけれども、これらに限定されない)、有機金属化合物、有機化合物、例えば、プラスチック成分から水に浸出するポリマー、陰イオン化合物、具体的には塩素および硝酸イオンを含む陰イオン化合物、および無機化学化合物(例えば、硝酸アンモニウム)、溶解および粒子状物質、および溶存酸素を含む溶存ガスを含む。化学化合物は、揮発性および不揮発性の化学物質を有して良い、さらに、反応性および不活性の化学物質、親水性および疎水性の化学物質などを有して良い。UPW品質の要件は、技術標準において概説され、この技術標準はASTMD5127「電子および半導体産業で使用される超純水に関する標準ガイド」およびSEMF63「半導体処理で使用される超純水に関するガイド」を含むけれどもこれらに限定されない。UPWは、製薬およびバイオテクノロジー産業でも使用されて良い。UPWは、半導体部品やコンポーネントの洗浄や滅菌に使用されて良い。
【0060】
例示的なシステム100を使用するナノ粒子汚染物質(分析物)を含む液体サンプルの分析は、好ましくは、液体サンプルを噴霧してナノ粒子および水蒸気を含むエアロゾルを生成し、水蒸気をナノ粒子上に凝縮して、LDI-MSまたは他の表面ベースの分析方法を使用した分析用の凝縮成長管内において、粒子のサイズを増加または拡大することを有して良い。次に、大きな「成長した」粒子を含むエアロゾルを、ステーション103でサンプルディスク112上に堆積させるか、または先に説明した仮想インパクターによって濃縮することができる。サンプルディスク112は、汚染物質とは見なされない金属から製造またはコーティングすることができ、それにより、サンプルディスク自体からの干渉を排除する。先に検討したように、ナノ粒子を有する液体サンプルは、液滴または液体の流れに接触するときに適切なガスノズルまたはオリフィス1101を出る高速キャリアガス(例えば、空気)の流れを使用して噴霧して良い。キャリアガスの流れは、液体サンプルの流れに対して垂直であって良い(
図11A)。代替的には、噴霧器は、出口に開口部を備えた環状管の形態であって良い(
図11B)。この場合、液体サンプルは環状部を通って流れ、キャリアガスによってエアロゾルとしてオリフィスから押し出される。TSI、Inc.(ミネソタ州、Shoreview)は、液体を噴霧するための種々の製品を販売している。
【0061】
一側面において、噴霧器を出るエアロゾル中の標的ナノ粒子は、以下に説明するように、少なくとも約3ミクロンのサイズに凝縮または成長して、TOF-MSおよび他の光学検出器の検出を可能にする。ナノ粒子を濃縮するための任意の方法を使用することができる。例えば、ナノ粒子は、光学的に検出できるサイズに粒子を成長させるために凝縮にさらされて良い。米国特許第7,736,421号「高飽和比水凝縮装置および方法」に開示されているように、超微粒子の凝縮成長は、(1)断熱膨張、(2)乱流混合、または(3)冷壁凝縮管を使用して行って良い。これらの方法のそれぞれは、過飽和の領域を作成し、そこでは、凝縮蒸気の濃度が、局所ガス温度での平衡蒸気圧よりも高くなっている。米国特許第6,712,881号「連続的な層流水ベースの粒子凝縮装置および方法」は、エアロゾル、またはエアロゾルと粒子を含まないシース空気が、壁が濡れている装置または管を通って層流様式で流れる方法を開示しており、この装置または管の壁は、流入する流れよりも暖かい温度に保たれる。水蒸気の質量拡散率は空気の熱拡散率よりも大きいため、暖かく湿った壁からの水蒸気の輸送は、流れが温まる速度よりも速くなる。これにより、流れの中心線に沿って最大となる水蒸気過飽和の領域が作成され、ここで、過飽和は、平衡水蒸気含有量を超える水蒸気含有量として定義される。この層流の水ベースの凝縮装置を使用して、5nm程度の小さな粒子を凝縮して良い。エアロゾルサンプルストリームが通過する湿潤芯(ウェットウィック)で裏打ちされた管を使用して良い。この芯で裏打ちされた管の最初の部分の壁は、最初の温度に保たれ、前提条件として機能する。管の第2の部分の壁は、第1の温度よりも高い温度に加熱される。「成長領域」と呼ばれる当該2番目の部分において、流れの加温と比較して、暖かく湿った壁からの水蒸気の拡散が比較的速く、過飽和、粒子の活性化、および凝縮成長の領域が作成される。粒子を含まないシース空気を使用して、粒子を含むエアロゾルの流れを取り囲み、粒子を中心線に閉じ込め、そこで最高の過飽和を達成して良い。Aerosol Devices(コロラド州Fort Collins)は、システム100に統合できる凝縮成長管システムを提供する。
【0062】
'421米国特許は、第1の温度で壁を具備する成長チャンバーを提供するステップと、第1の温度より低い第2の温度で高濃度の凝縮性蒸気(空気などのキャリアガス中の水蒸気)を含む温かいシースフローを提供するステップと、シース流を伴う層状エアロゾル流を導入するステップとを有し、ここで、エアロゾル流の温度は、第1の温度および第2の温度よりも低い第3の温度である方法を開示している。このシースフローは、より冷たいエアロゾルフローを囲むために層流で導入される。組み合わされた流れを含むチャンバー内において、熱輸送と物質移動の速度の違いの結果として、蒸気過飽和の領域が作成される。その結果、蒸気は粒子上で凝縮し、粒子を液滴中に拡大する。シースフローは、凝縮成長領域に入る前に温度調整されて良い。この方法は、直径3.2nmの小さな粒子を成長させるために使用されて良い。凝縮性蒸気は、空気、二酸化炭素、およびアルゴンのうちの少なくとも1つを有するキャリアガス中に、メタノールを有して良い。
【0063】
「超微細粒子のための高度な層流水凝縮技術」と題された米国特許第9,821,263号は、エアロゾル粒子のサイズを成長させる表法を開示し、この方法は、入口および出口を有する湿潤壁凝縮器に層流の気流を導入する導入ステップであって、当該気流は凝縮器の入口において入り口温度を有する当該導入ステップと、入口に隣接する、凝縮器の第1部分を、当該入口温度より少なくとも5℃高い第1の温度に制御するステップと、第1部分と出口との間に位置する凝縮器の第2部分を、第1の温度よりも低い第2の温度に制御するステップとを有する。凝縮器の第1部分および第2部分は、体積を規定し、ここで、空気流を凝縮器に導入すると、体積内に体積空気流量が生成され、体積は、円筒形状または複数プレート形状を有し、各プレートは、幅を有し、プレート間は分離される。円筒形の形状の管の場合、最初の部分の長さを体積流量で割った値は0.5s/cm2未満であり、複数のプレートの形状の場合、最初の部分の長さを、体積流量で割った量に、幅を間隔で割った値を掛けた値は、0.5s/cm2未満である。凝縮成長管の壁は、芯を使用して濡らされて良い。米国特許第9,610,531号「水凝縮システムのためのウィックウェッティング」は、層流水凝縮成長システムの湿潤壁を形成し得るウィックの受動的湿潤を開示しており、自立ウィックは、ウィック材料の毛細管作用に依存し、水蒸気がウィック表面に凝縮する低温の領域から、蒸発する高温のセクションに水を輸送する。このアプローチは、貯水容器なしで拡張操作を可能にし、成長管の向きに影響されない。サイフォンウィックは、サイフォンのような方法を使用して、ウィックの空気の流れの反対側のウィックの後ろに水で満たされたギャップを維持することができる。このアプローチは、大規模なシステムに対応するためにアクティブポンピングで補完されて良い。一側面において、成長管内の温度プロファイルを制御することによって、異なるサイズまたは直径の標的エアロゾル粒子を成長させるために、複数の凝縮成長管が使用されて良い。
【0064】
噴霧器を出るエアロゾル(またはエアロゾルの一部)は、凝縮成長管に送られて良い。凝縮成長管の設計(長さ、直径、および動作温度)は、噴霧器を出るエアロゾルの粒子負荷(カウント)、および凝縮成長管への流量とキャリアガスの流量に基づいて最適化されて良く、キャリアガスは、典型的には、ろ過された空気である。Aerosol Devices凝縮成長管システムは、長さが約4.5インチで、管あたり約1LPM~1.5LPMの流量を処理できる成長管を提供する。BioSpot VIVAS(Aerosol Devices)は、8本の管を通る8LPMの流れを処理できる。
【0065】
凝縮成長管を出るエアロゾルは、乾燥または湿潤粒子としてサンプルディスク112上に堆積されて良い。ノズル1101は、標的液滴の最適な衝突速度を生成するように設計されて良い。0.35~0.7mmの範囲のノズル直径の最適速度は、50~100m/sの範囲である。サンプルディスク112上の標的粒子の効率的な収集を達成し、粒子の跳ね返りを最小化または排除するために、湿ったエアロゾル粒子を堆積させることが有益であろう。収集中または収集後に、液体の水は、以前に開示されたようにディスク112を乾燥させることによって除去されて良い。噴霧の重要な側面は、少量のフィルタ空気にエアロゾルを同伴することである。噴霧器に存在する空気の体積流量が、凝縮成長管によって受け入れられる体積流量に比べて大きい場合、噴霧器出口の一部のみが成長管に向けられる。
【0066】
例示的なシステム100において、ステーション106は、TOF-MS質量スペクトル分析に加えて、1つまたは複数の光学的検出ツールおよび方法を有して良く、これは、ディスク112に堆積した分析物のサンプルがレーザーパルスから十分な光エネルギを吸収すると、高エネルギ状態から低エネルギ状態に遷移するときに特徴的な光子を放出し、一時的な光学的特徴、例えば、高次蛍光、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、ラマンスペクトル、および赤外線スペクトルを生成するからである。したがって、質量分析に加えて、光学センサー/検出器を使用して、サンプル粒子の組成を特定して良い。TOF-MSと光学センサーの両方を使用して収集された測定データは、データ融合技術を使用して処理され、サンプル分析物の組成に関する情報を提供して良い。1つまたは複数の光学的手法と質量分析を含む種々の検出器から情報を収集することにより、データ融合プロトコルを使用してサンプルに関連するデータをフィルタリングおよび分析し、高い精度、感度、および特異性で、粒子の組成とタイプを迅速に(リアルタイムに近い)特定することができる。TOF-MS、LIBS、ラマン分光法、および赤外線分光法の少なくとも1つを有する測定の各々からのデータは、センサーデータ融合エンジンに転送されて良く、ここで機械学習や深層学習などの人工知能ツールを使用して、粒子を完全に特性評価できる。ラマン分光法は、ターゲット固有の試薬を使用せず、高速(約5分以下)になる可能性がある。
【0067】
ラマン分光法は、サンプルの識別と定量に使用できる分子振動に関する情報を提供する。この技術は、レーザービーム(例えば、波長が約330~約360nmのUVレーザー源)をサンプルに集束させ、非弾性散乱光を検出することを含む。散乱光の大部分は励起源と同じ周波数であり、レイリーまたは弾性散乱として知られている。入射電磁波とサンプル中の分子の振動エネルギレベルとの相互作用により、ごく少量の散乱光のエネルギがレーザー周波数からシフトする。この「シフトされた」光の強度と周波数をプロットすると、サンプルのラマンスペクトルが得られる。ラマン分光法の限界は、グループの一部のメンバーが人間に病原性を持ち、一部はそうではない属または種の近隣を解決するのが難しいことである。
【0068】
LIBSにおいて、レーザーパルス(たとえば、波長が約1064nmの高エネルギNd:YAGレーザーからの)を粒子に集束させて、少量の粒子をアブレーションしてプラズマを生成する。分析対象物の粒子は、イオン種と原子種に分解(解離)する。プラズマが冷えると、CCD検出器などの光検出器を使用して、元素の特徴的な原子輝線を観察できる。蛍光分光法では、サンプル分子は特定の波長での照射によって励起され、異なる波長の放射線を放出する。発光スペクトルは、定性分析と定量分析の両方の情報を提供する。適切な波長の光が分子に吸収されると、分子の電子状態は基底状態から、励起された電子状態の1つで多くの振動レベルの1つに変化する。分子がこの励起状態になると、いくつかのプロセスを介して緩和が発生する可能性がある。蛍光はこれらのプロセスの1つであり、光を放出する。蛍光分光法で放出される光の種々の周波数とそれらの相対強度を分析することにより、種々の振動レベルに関連する化学構造を決定できる。生物学的サンプル中の特定のアミノ酸、たとえばトリプトファンは、高い蛍光量子効率を持っており、これらのアミノ酸を識別するために蛍光分光法の使用するのが有利である。
【0069】
例示的なシステム100において、ステーション106は、TOF-MS質量スペクトル分析に加えて、1つまたは複数の光学的検出ツールおよび方法を有して良く、これは、ディスク112に堆積した分析物のサンプルがレーザーパルスから十分な光エネルギを吸収すると、高エネルギ状態から低エネルギ状態に遷移するときに特徴的な光子を放出し、一時的な光学的特徴、例えば、高次蛍光、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、ラマンスペクトル、および赤外線スペクトルを生成するからである。したがって、質量分析に加えて、光学センサー/検出器を使用して、サンプル粒子の組成を特定して良い。TOF-MSと光学センサーの両方を使用して収集された測定データは、データ融合技術を使用して処理され、サンプル分析物の組成に関する情報を提供して良い。1つまたは複数の光学的手法と質量分析を含む種々の検出器から情報を収集することにより、データ融合プロトコルを使用してサンプルに関連するデータをフィルタリングおよび分析し、高い精度、感度、および特異性で、粒子の組成とタイプを迅速に(リアルタイムに近い)特定することができる。TOF-MS、LIBS、ラマン分光法、および赤外線分光法の少なくとも1つを有する測定の各々からのデータは、センサーデータ融合エンジンに転送されて良く、ここで機械学習や深層学習などの人工知能ツールを使用して、粒子を完全に特性評価できる。ラマン分光法は、ターゲット固有の試薬を使用せず、高速(約5分以下)になる可能性がある。
【0070】
ラマン分光法は、サンプルの識別と定量に使用できる分子振動に関する情報を提供する。この技術は、レーザービーム(例えば、波長が約330~約360nmのUVレーザー源)をサンプルに集束させ、非弾性散乱光を検出することを含む。散乱光の大部分は励起源と同じ周波数であり、レイリーまたは弾性散乱として知られている。入射電磁波とサンプル中の分子の振動エネルギレベルとの相互作用により、ごく少量の散乱光のエネルギがレーザー周波数からシフトする。この「シフトされた」光の強度と周波数をプロットすると、サンプルのラマンスペクトルが得られる。ラマン分光法の限界は、グループの一部のメンバーが人間に病原性を持ち、一部はそうではない属または種の近隣を解決するのが難しいことである。
【0071】
LIBSにおいて、レーザーパルス(たとえば、波長が約1064nmの高エネルギNd:YAGレーザーからの)を粒子に集束させて、少量の粒子をアブレーションしてプラズマを生成する。分析対象物の粒子は、イオン種と原子種に分解(解離)する。プラズマが冷えると、CCD検出器などの光検出器を使用して、元素の特徴的な原子輝線を観察できる。蛍光分光法では、サンプル分子は特定の波長での照射によって励起され、異なる波長の放射線を放出する。発光スペクトルは、定性分析と定量分析の両方の情報を提供する。適切な波長の光が分子に吸収されると、分子の電子状態は基底状態から、励起された電子状態の1つで多くの振動レベルの1つに変化する。分子がこの励起状態になると、いくつかのプロセスを介して緩和が発生する可能性がある。蛍光はこれらのプロセスの1つであり、光を放出する。蛍光分光法で放出される光の種々の周波数とそれらの相対強度を分析することにより、種々の振動レベルに関連する化学構造を決定できる。生物学的サンプル中の特定のアミノ酸、たとえばトリプトファンは、高い蛍光量子効率を持っており、これらのアミノ酸を識別するために蛍光分光法の使用するのが有利である。
【0072】
[例]
[例1.例示的なシステム100を使用した生物学的エアロゾル粒子の検出]
【0073】
例示的な試験において、枯草菌:Bacillus subtilis var niger(「Bg」)、バチルス・チューリンゲンシス:Bacillus thuringiensis(「Bt」)、大腸菌:Escherichia coli、エンテロバクテリアファージT2ウイルス:Enterobacteria phage T2ウイルス、および分子量66kDaのアルブミン(タンパク質)を有するサンプルを、MALDIコーティングディスク上に沈着させた。次に、サンプルを70%メタノール、10%TFA、および15%水を有する溶液で処理した。サンプルを乾燥させ、TOFMSを含む例示的なシステム100を使用して分析した。いずれの場合も、サンプルを乾燥させ、サンプルを含むディスクを含むサンプルスタブをMSステーション106に移動し、MSシステムにおいて排気した。
図5は、以下の2つの条件下でのこれらの各サンプルの生の(未処理)質量スペクトルを示す。(a)実質的に乾燥されていない(または効果的に乾燥されていない)サンプルと、約105トル未満で排気することによって効果的に乾燥されたサンプルである。図から理解できるとおり、それぞれの場合に効果的に乾燥されたサンプルは、効果的に乾燥されなかったサンプルと較べた場合、ピークの信号強度の増加(フラグメント化されたイオンの相対的な存在量)、ピークのシャープ化、新しいフラグメントの識別、およびスペクトルライブラリとの比較を可能にするスペクトルフィンガープリントをもたらした。
【0074】
[例2.例示的なシステム100を使用したTOFMS分析の感度]
胞子、栄養細菌、およびウイルスを含む生物学的エアロゾル粒子を有するサンプルを、約250リットルの容量のチャンバーに引き込み、補給空気を使用して噴霧して、1000パーツ/リットル(ppl)の粒子濃度を達成した。チャンバーは、サンプリングされた空気を攪拌および混合して、空気中のエアロゾル粒子の均質なサンプルを得るための混合ファンを備えていた。次に、チャンバーからサンプルを採取し、約4リットル/分(LPM)のエアロゾル粒子を衝突によってMALDIコーティングされたディスクに堆積させた。堆積の前に、インラインAPS/蛍光センサーを使用して、粒子サイズ分布を測定し、生体粒子(蛍光)の数をカウントし、非生物学的粒子の数をカウントし、ターゲット粒子とクラッタの比率を決定した。次に、TOFMSを使用してサンプルを分析した。空気中の約50から約100個の胞子の感度が実証された。
【0075】
[例3.例示的なシステム100を使用した、Bg胞子を含む生物学的エアロゾル粒子の高特異性検出]
Bg胞子を有するエアロゾルサンプルは、例示的なシステム100を使用して捕捉および分析され、ライブラリベースライン参照Bg質量スペクトルと比較された。
図6に示されるように、測定されたスペクトルの特徴は、参照スペクトルの特徴と高度に相関し、例示的なシステムおよびデータ処理ツールの優れた特異性(質量分解能)能力を示した。
【0076】
[例4.例示的なシステム100を使用した、Bt胞子を有する生物学的エアロゾル粒子の高特異性検出]
Bt(Bacillus thuringiensis al Hakam)胞子を有するエアロゾルサンプルを捕捉し、例示的なシステム100を使用して分析し、ライブラリベースライン参照Bt質量スペクトルと比較した。
図7に示されるように、測定されたスペクトルの特徴は、参照スペクトルの特徴と高度に相関し、例示的なシステムおよびデータ処理ツールの優れた特異性(質量分解能)能力を示した。
【0077】
[例5.例示的なシステム100を使用した生物学的エアロゾル粒子の高特異性検出。]
Bt、Bg、E.coliおよびアルブミン(66kDa)を有するエアロゾルサンプルが捕捉され、例示的なシステム100を使用して分析された。
図8に示されるように、全質量範囲(80kDa)にわたるこれらのバイオ粒子のスペクトル特性が特定された。
【0078】
[例6.例示的なシステム100を使用した、Bg粒子を含む生物学的エアロゾル粒子の高感度検出。]
Bg粒子対バックグラウンド粒子比が約0.05から約0.56の間のBg粒子を有するエアロゾルサンプルが捕捉され、例示的なシステム100を使用して分析された。
図9に示すように、Bgスペクトルの特徴が特定されたため、この濃度範囲でのBg検出の感度は優れていた。
【0079】
[例7.例示的なシステム100を使用した、E.coliを有する生物学的エアロゾル粒子の高感度検出]
大腸菌(E. coli)を含むエアロゾルサンプルは、例示的なシステム100を使用して捕捉および分析され、ベースライン参照質量スペクトルと比較された。
図14に示されるように、測定されたスペクトルの特徴は、参照スペクトルの特徴と高度に相関し、例示的なシステムおよびデータ処理ツールの優れた特異性(質量分解能)能力を示した。
【0080】
[例8.例示的なシステム100を使用した、Y.rohdeiを含む生物学的エアロゾル粒子の高感度検出。]
Y.rohdeiを含むエアロゾルサンプルは、例示的なシステム100を使用して捕捉および分析され、ベースライン参照質量スペクトルと比較された。
図15に示されるように、測定されたスペクトルの特徴は、参照スペクトルの特徴と高度に相関し、例示的なシステムおよびデータ処理ツールの優れた特異性(質量分解能)能力を示した。
【0081】
[例9.例示的なシステム100を使用した、E.coliバクテリオファージMS2ウイルス粒子を含む生物学的エアロゾル粒子の高感度検出。]
E.coliバクテリオファージMS2ウイルスを含むエアロゾルサンプルを捕捉し、例示的なシステム100を使用して分析した。
図16に示されるように、測定されたスペクトルの特徴は、例示的なシステムおよびデータ処理ツールの優れた特異性(質量分解能)能力を示した。
【0082】
要約は、37C.F.R.§1.72(b)に準拠して、読者が大まかな把握から技術的開示の性質と要点を迅速に判断できるようにするために提供されている。特許請求の範囲または意味を解釈または制限するために使用されるべきではない。
【0083】
本開示は、それを実施する好ましい形態に関連して説明されてきたけれども、当業者は、本開示の精神から逸脱することなく、それに多くの修正を加えることができることを理解するであろう。したがって、本開示の範囲が先の説明によって制限されることを意図するものではない。
【0084】
本開示の本質から逸脱することなく、種々の変更を行うことができることも理解されたい。このような変更も暗黙的に説明に含まれている。それらは依然としてこの開示の範囲内にある。この開示は、独立して、そしてシステム全体として、そして方法および装置モードの両方において、開示の多くの側面をカバーする特許をもたらすことを意図していることを理解されたい。
【0085】
さらに、本開示および特許請求の範囲の種々の要素のそれぞれは、また、種々の方法で達成されて良い。この開示は、任意の装置実装のバリエーション、方法またはプロセスの実装、あるいはこれらの任意の要素の単なるバリエーションであろうと、そのような各バリエーションを包含すると理解されるべきである。
【0086】
特に、各要素の単語は、機能または結果のみが同じであっても、同等の装置用語または方法用語によって表現され得ることを理解されたい。このような同等の、より広い、またはさらに一般的な用語は、各要素または動作の説明に含まれると見なす必要がある。このような用語は、この開示が権利を与えられている暗黙的に広い範囲を明示するために必要な場合に置き換えることができる。すべての動作は、その動作をとるための手段として、またはその動作を引き起こす要素として表現される可能性があることを理解する必要がある。同様に、開示される各物理的要素は、その物理的要素が促進する動作の開示を包含すると理解されるべきである。
【0087】
さらに、使用される各用語に関して、本出願におけるその利用がそのような解釈と矛盾しない限り、例えば、技術者によって認識されている標準的な技術辞書とランダムハウスウェブスターのUnabridgedDictionaryの最新版の少なくとも1つに含まれている、共通の辞書定義は、各用語およびすべての定義、代替用語、および同義語について、ここに組み込まれるものとして理解されるべきである。
【0088】
さらに、「有する」(comprising、comprise)という移行句の使用は、従来のクレーム解釈に従って、本明細書の「オープンエンド」クレームを維持するために使用される。したがって、文脈上別段の必要がない限り、「有する」は、記載された要素またはステップあるいは要素またはステップのグループを含むことを意味することを意図しているけれども、他の要素またはステップあるいは要素またはステップのグループを除外することを意味するものではない。そのような用語は出願人に法的に許容される最も広い範囲を提供するための最も広範な態様で解釈されるべきである。
【国際調査報告】