(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】質量分析計イオン検出器のための極低雑音フロート高電圧供給装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20221116BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20221116BHJP
H02M 7/10 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
H01J49/02 200
H01J49/26
H02M7/10 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518725
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 IB2020058950
(87)【国際公開番号】W WO2021059194
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ファウル, マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】グラディン, エルネスト
【テーマコード(参考)】
5C038
5H006
【Fターム(参考)】
5C038HH26
5H006CA07
5H006CB04
5H006DB01
(57)【要約】
質量分析計のための高電圧電源システムは、一次巻線および二次巻線を有する第一の変換器を伴う接地基準電源であって、一次巻線は、AC電力の第一の源に電気的に結合されている、接地基準電源と、一次巻線および二次巻線を有する第二の変換器を伴うフロートバイアス電圧電源であって、第二の変換器の一次巻線は、AC電力の第二の源に電気的に結合されている、フロートバイアス電圧電源とを備えている。フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路は、接地基準電源に電気的に結合され、接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける。フローティングシールドが、フローティングバイアス電圧電源のまわりにあり、少なくとも1つの抵抗素子が、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路上にあり、フロートバイアス電圧電源から接地基準電源に結合される雑音を低減させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計における使用のための高電圧電源システムであって、該高電圧電源システムは、
一次巻線および二次巻線を備えた第一の変換器を有する接地基準電源であって、該一次巻線は、AC電力の第一の源に電気的に結合されている、接地基準電源と、
一次巻線および二次巻線を備えた第二の変換器を有するフロートバイアス電圧電源であって、該第二の変換器の該一次巻線は、AC電力の第二の源に電気的に結合され、該フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路は、該接地基準電源に電気的に結合され、それによって、該接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける、フロートバイアス電圧電源と、
該フロートバイアス電圧電源のまわりに配置されたフローティングシールドと、
該フロートバイアス電圧電源の該リターン電気経路上に配置された少なくとも1つの抵抗素子と
を備え、
該少なくとも1つの抵抗素子は、該フロートバイアス電圧電源から該接地基準電源に結合される雑音を低減させる、高電圧電源システム。
【請求項2】
前記フローティングシールドは、前記フロートバイアス電圧電源の前記リターン電気経路から接地までの低ACインピーダンスの経路を提供する、請求項1に記載の高電圧電源システム。
【請求項3】
前記少なくとも1つの抵抗素子は、前記フローティングシールドに関連付けられた静電容量と直列に結合され、それによって、前記リターン電気経路のインピーダンスを高める、請求項2に記載の高電圧電源システム。
【請求項4】
前記少なくとも1つの抵抗素子は、約10kΩから約1MΩまでの範囲内の抵抗を有する、請求項3に記載の高電圧電源システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抵抗素子は、約100kΩから約1MΩまでの範囲内の抵抗を有する、請求項4に記載の高電圧電源システム。
【請求項6】
前記フローティングシールドに関連付けられた前記静電容量は、約6pFから約100nFまでの範囲内にある、請求項3に記載の高電圧電源システム。
【請求項7】
前記フローティングシールドに関連付けられた前記静電容量は、約100pFから約50nFまでの範囲内にある、請求項6に記載の高電圧電源システム。
【請求項8】
前記第二の変換器に配置されたファラデーシールドをさらに備え、該ファラデーシールドは、該第二の変換器の前記二次巻線と前記一次巻線との間の寄生結合を低減させる、請求項1に記載の高電圧電源システム。
【請求項9】
前記ファラデーシールドは、前記結合を少なくとも約2pFだけ低減させる、請求項8に記載の高電圧電源システム。
【請求項10】
前記ファラデーシールドは、前記結合を約2から約100までの範囲内の倍率で低減させる、請求項8に記載の高電圧電源システム。
【請求項11】
前記リターン電気経路は、少なくとも1つのコンデンサを介して接地に容量結合されている、請求項1に記載の高電圧電源システム。
【請求項12】
前記接地基準電源は、約0から約20kVまでの範囲内の出力電圧を提供する、請求項1に記載の高電圧電源システム。
【請求項13】
前記フロートバイアス電圧電源は、約0から約10kVまでの範囲内のバイアス電圧を提供する、請求項10に記載の高電圧電源システム。
【請求項14】
前記フロートバイアス電圧電源は、前記質量分析計のイオン検出器に結合され、該イオン検出器にバイアス電圧を印加する、請求項1に記載の高電圧電源システム。
【請求項15】
質量分析計であって、該質量分析計は、
質量分析器と、
該質量分析器の下流に配置されたイオン検出器と、
該イオン検出器に高電圧を印加するように構成された高電圧電源システムと
を備え、
該高電圧電源システムは、
一次巻線および二次巻線を備えた第一の変換器を有する接地基準電源であって、該一次巻線は、AC電力の第一の源に電気的に結合されている、接地基準電源と、
一次巻線および二次巻線を備えた第二の変換器を有するフロートバイアス電圧電源であって、該第二の変換器の該一次巻線は、AC電力の第二の源に電気的に結合され、該フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路は、該接地基準電源に電気的に結合され、それによって、該接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける、フロートバイアス電圧電源と、
該フローティングバイアス電源のまわりに配置されたフローティングシールドと、
該フロートバイアス電圧電源の該リターン電気経路上に配置された少なくとも1つの抵抗素子と
を備え、
該少なくとも1つの抵抗素子は、該フロートバイアス電圧電源から該接地基準電源に結合される雑音を低減させる、質量分析計。
【請求項16】
前記フローティングシールドは、前記フロートバイアス電圧電源の前記リターン電気経路から接地までの低ACインピーダンスの経路を提供する、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記少なくとも1つの抵抗素子は、前記フローティングシールドに関連付けられた静電容量と直列に結合され、それによって、前記リターン電気経路のインピーダンスを高める、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記少なくとも1つの抵抗素子は、約10kΩから約1MΩまでの範囲内の抵抗を有する、請求項17に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記フローティングシールドに関連付けられた前記静電容量は、約6pFから約100nFまでの範囲内にある、請求項18に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記リターン電気経路は、少なくとも1つのコンデンサを介して接地に容量結合されている、請求項15に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2019年9月24日に出願された“Ultra Low Noise Floated High Voltage Supply for Mass Spectrometer Ion Detector”と題する米国仮出願第62/905,029号に対する優先権を主張し、米国仮出願第62/905,029号は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
本開示は、概して、2つの高電圧電源間の雑音結合を低減させるためのシステムおよび方法を対象とし、より特定すると、質量分析計システムにおけるフロートバイアス電圧電源と接地基準電圧電源との間の雑音結合を低減させるためのシステムおよび方法を対象とする。
【0003】
高電圧電源は、質量分析計システムにおいて、システムの様々な構成要素に電圧を印加するために採用される。例として、高電圧電源は、質量分析計システムにおいて、そのようなシステムのイオン検出器にバイアス電圧を印加するために採用される。いくつかの構成では、フロート高電圧電源が、接地基準電源に電気的に結合され、それによって、フロート高電圧電源は、接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける。そのような構成の従来の設計では、電流リプルが、フロート高電圧電源の二次巻線から接地基準電源の出力コンデンサに流れ、出力にリプル電圧を誘発し得る。そのようなリプル電圧は、イオン検出器における雑音を増大させ、従って、イオン検出器に関する信号対雑音比に悪影響を与え得る。
【0004】
従って、高電圧電源における雑音を低減させる方法およびシステムへのニーズが、存在し、特に、質量分析計への用途を伴う電気的フロート構成において2つの高電圧電源間の雑音を低減させるために採用され得るそのような方法およびシステムへのニーズが、存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
一態様では、質量分析計における使用のための高電圧電源システムが、開示され、高電圧電源システムは、一次巻線および二次巻線を備えた第一の変換器を有する接地基準電源であって、当該一次巻線は、AC電力の第一の源に電気的に結合されている、接地基準電源と、一次巻線および二次巻線を備えた第二の変換器を有するフロートバイアス電圧電源であって、当該第二の変換器の当該一次巻線は、AC電力の第二の源に電気的に結合されている、フロートバイアス電圧電源とを備えている。当該フロートバイアス電源のリターン電気経路は、当該接地基準電源に電気的に結合され、それによって、接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける。さらに、フローティングシールドが、フローティングバイアス電圧電源のまわりに配置され、少なくとも1つの抵抗素子が、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路上に配置され、フロートバイアス電圧電源から当該接地基準電源に結合される雑音を低減させる。
【0006】
フローティングシールドは、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路から接地までの低ACインピーダンスの経路を提供し得る。
【0007】
リターン電気経路上に配置された抵抗素子は、フローティングシールドに関連付けられた静電容量と直列に結合され、それによって、リターン電気経路のインピーダンスを高め得る。いくつかの実施形態では、抵抗素子は、約10kΩから約1MΩまでの範囲、例えば、約100kΩから約500kΩまでの範囲内の抵抗を有し得る。いくつかの実施形態では、フローティングシールドに関連付けられた静電容量は、約6pFから約100nFまでの範囲、例えば、約100pFから約50nFまでの範囲内にあり得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、ファラデーシールドが、フロートバイアス電圧電源の変換器の中に配置され、ファラデーシールドは、変換器の二次巻線と一次巻線との間の寄生結合を低減させる。いくつかの実施形態では、ファラデーシールドは、約2から約100までの範囲内の倍率で結合を低減させ得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、リターン電気経路は、少なくとも1つのコンデンサを介して接地に容量結合されている。いくつかの実施形態では、そのようなコンデンサは、約6pFから約100nFまでの範囲内の静電容量を有し得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、接地基準電源は、0から20kVまでの範囲、例えば、約0から10kVまでの範囲内の出力電圧を提供し得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、フロートバイアス電圧電源は、質量分析計のイオン検出器にバイアス電圧を供給するためにイオン検出器に結合され得る。
【0012】
関連する態様では、質量分析計が、開示され、質量分析計は、質量分析器と、当該質量分析器の下流に配置されたイオン検出器と、イオン検出器に高電圧を印加するように構成された高電圧電源システムとを含む。高電圧電源システムは、一次巻線および二次巻線を備えた第一の変換器を有する接地基準電源を含み得、当該一次巻線は、AC電力の第一の源に電気的に結合されている。高電圧電源システムは、一次巻線および二次巻線を備えた第二の変換器を有するフロートバイアス電圧電源をさらに含み得、当該第二の当該変換器の一次巻線は、AC電力の第二の源に電気的に結合されている。フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路は、接地基準電源に電気的に結合され、それによって、接地基準電源の出力電圧にバイアスをかける。フローティングシールドが、当該フローティングバイアス電源のまわりに配置され、少なくとも1つの抵抗素子が、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路上に配置され、フロートバイアス電圧電源から接地基準電源に結合される雑音を低減させる。
【0013】
本開示の様々な態様のさらなる理解が、下に簡単に記載された付属の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照して達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
(図面の簡単な説明)
【
図1】
図1は、本教示のある実施形態に従った高電圧電源システムを概略的に描写している。
【0015】
【
図2】
図2は、
図1に描写された高電圧電源システムの選択された部分を概略的に描写している。
【0016】
【
図3】
図3は、フロートバイアス電圧電源と接地基準電源との変換器の一次巻線にAC電圧を印加するAC電圧源によって生成されたAC電圧の位相を同期させるために採用され得る制御装置の例を概略的に描写している。
【0017】
【
図4】
図4は、本開示に従った高電圧電源システムが採用され得る質量分析計を概略的に描写している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
本開示は、質量分析計への用途を伴う電気的フロート構成における2つの高電圧電源間の雑音結合を低減させる方法およびシステムを提供する。そのような構成では、1つの電源リターンが、電気的接地を基準とし、第二の電源が、リターン基準として他の電源の出力を使用する。そのような手法では、2つの電源を接続することがフロート電源から接地基準電源へのリプルまたは雑音結合などの所望されない効果を有し得ることが、一般的に知られている。そのようなリプルまたは雑音は、質量分析計システムにおける性能劣化をもたらし得る。下で詳細に検討されるように、本開示の方法およびシステムは、そのようなリプルまたは雑音結合を著しく低減させ得、従って、例えば質量分析計システムにおいて使用されると、高電圧電源システムの性能を改善し得る。
【0019】
図1および
図2は、本開示のある実施形態に従った電源システム10を概略的に描写しており、電源システム10は、接地基準電圧供給装置100(本明細書では、接地基準電源またはライナー電源とも称される)とフロート電圧バイアス電源200(本明細書では、バイアス電源とも称される)とを含み、フロート電圧バイアス電源200は、下でより詳細に検討される手段においてそれにバイアス電圧を印加するために、接地基準電源100に電気的に結合されている。下で詳細に検討されるように、フロートバイアス電圧電源200は、質量分析計400のイオン検出器406にバイアス電圧を印加し得、ライナー電源100は、質量分析計のライナー素子408に電圧を印加し得る。
【0020】
フロートバイアス電圧電源200は、一次巻線202aおよび二次巻線202bを含む変換器202を含む。一次巻線202aは、コンデンサC1を介してAC(交流)源204からAC電圧を受け取る。この実施形態では、変換器の一次巻線202aは、AC電圧源204に結合されている。下で検討されるように、変換器の二次巻線は、AC源によって一次巻線に印加されるAC電圧を上昇させ、上昇させられた電圧をフロートバイアス電圧電源の下流構成要素に印加し得る。
【0021】
この実施形態では、ファラデーシールド210が、変換器の一次巻線と二次巻線との間で、フロートバイアス電圧電源の変換器の中に配置され、一次巻線と二次巻線との間の寄生結合を抑制する。
【0022】
さらに、フローティング金属シールド220が、バイアス電圧供給装置200のまわりに配置されている。下でより詳細に検討されるように、フローティング金属シールド220は、フロートバイアス電圧電源の変換器の二次巻線の一方の端子からその他方の端子までの低インピーダンスの経路を提供し、その経路は、ライナー電圧供給装置を通した経路を介して雑音電流が第二の端子に戻ることを抑制するのに役立ち得る。
【0023】
ライナー電圧電源100も、AC電圧源104からAC電圧を受け取る一次巻線102aと、一次巻線の電圧を上昇させ、上昇させられた電圧をライナー電源の下流構成要素に印加する二次巻線102bとを含む変換器102を含む。この実施形態では、一次巻線102aは、コンデンサC16を介してAC電圧源104に結合されている。
【0024】
引き続き
図1および
図2を参照すると、電気接続経路110は、バイアス電圧電源200を接地基準電圧電源100に電気的に接続し、フロートバイアス供給装置による接地基準電圧電源へのバイアス電圧の印加を可能にする。この実施形態では、電気接続経路110は、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路222(本明細書では、「リターン電気経路」と称される)を含む。
【0025】
電気接続経路110は、フロート電圧電源200の変換器の二次巻線202bの端子Aから、寄生コンデンサC9を介して、電気的接地まで延びており、電気的接地を通して、ライナー電源に関連付けられたコンデンサC21の端子Dまで延びている。接続経路110は、コンデンサC21の端子Cから、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路222を介して、フロートバイアス電圧電源の変換器の二次巻線の端子Bまでさらに延びている。
【0026】
この実施形態では、2つの抵抗素子R5およびR7が、フロートバイアス電圧電源からライナー電源に注入される雑音を軽減するために、フロートバイアス電圧電源のリターン電気経路上に配置されている。この実施形態では2つの抵抗素子が描写されているが、他の実施形態では、1つ以上の抵抗素子が、採用され得る。いくつかの実施形態では、抵抗素子R5とR7との組み合わせの抵抗は、例えば、約10kΩから約1MΩまでの範囲内にあり得、例えば、約100kΩから約500kΩまでの範囲内にあり得、または約200kΩから約400kΩまでの範囲内にあり得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、フロートバイアス電圧電源のリターン経路上に配置された抵抗素子R5およびR7は、約20から約100までの範囲(例えば、約30から約90までの範囲、または約40から約80までの範囲、または約50から約70までの範囲)内の倍率で、フロートバイアス電圧電源によってライナー電源に注入される雑音を低減させ得る。例として、抵抗素子R5およびR7は、フロートバイアス電圧電源からライナー電源に注入される雑音を、約60mVpp(ミリボルトピークツーピーク)より低いレベルまで低減させるのに役立つ。
【0028】
フロートバイアス電圧電源とライナー電源との間の雑音結合を低減させるための本開示に従った様々な素子の役割は、電圧変換器の本質的特性がその一次巻線と二次巻線との間の寄生結合であることを考慮することによってさらに理解され得る。フロートバイアス電圧電源の変換器の一次巻線と二次巻線との間のそのような寄生結合は、コンデンサC9として本明細書中に描写され、ライナー電源の変換器の一次巻線と二次巻線との間のその寄生結合は、コンデンサC24によって本明細書中に表されている。さらに、金属フローティングシールド220(バイアス変換器TX1端子のリターンに接続されている)の中にフロートバイアス電圧電源を配置することの本質的な副作用は、フロートバイアス電圧電源の変換器の二次巻線の端子Aとその封入体との間の寄生容量の存在である。そのような寄生容量は、コンデンサC40によって本明細書中に表されており、変換器202の二次巻線と並列である。
【0029】
ライナー変換器の二次巻線と接地との間の寄生容量が、コンデンサC41によって本明細書中に表されている。
【0030】
ライナー電源において、コンデンサC24およびC41は、C24およびC41より著しく大きな巻線間コンデンサC17と並列に電気的に接続されている。これらのコンデンサは、変換器TX2に対する容量負荷をわずかに増大させるが、回路の機能性に対するどのような望ましくない効果も発生させない。
【0031】
対照的に、フロートバイアス電圧電源において、コンデンサC9は、バイアス電圧電源の変換器202の二次巻線202bの端子Aに存在する電圧信号のための接地までの経路を提供する。そのような経路は、C9を通したAC電流が接地に流れることを可能にする。抵抗器R7およびR5が存在しない場合、電流は、C9を介して、並列に接続されたコンデンサC10およびC21を介して変換器202の二次巻線の端子Bに戻る(
図2を参照)。より具体的には、C21がC10と比較して遥かに大きな静電容量を有するので、そのようなAC電流の大部分は、ライナー電圧電源のコンデンサC21を介してバイアス電圧変換器202の二次巻線の端子Bに戻る。従って、そのようなAC電流は、コンデンサンスC21横断するAC電圧リプルを生成し得る。一般に、コンデンサC21のインピーダンスは、コンデンサC9およびC10のインピーダンスより遥かに低い。例えば、C21、C10およびC9の典型的なインピーダンスは、C21が約1400オームであり、C10が約10キロオームであり、C9が約1メガオームより大きい。それにもかかわらず、フロートバイアス電圧電源の変換器の二次巻線の端子Aに存在する典型的な高振幅信号と、C9/C21分配器の構成とに起因して、この経路に沿って循環する電流は、ライナー電源の出力に望ましくなく現れる大きさのC21を横断するAC電圧リプルを生成し得る。
【0032】
C21を横断して循環するAC電流を低減させるために、高い抵抗を示す抵抗器R5およびR7が、C10とC21との間のリターン経路222上に追加される。これらの抵抗器を追加することによって、C9を介した電流の大部分は、フローティングシールドボックスの接地に対する静電容量であるC10を介して、変換器202の端子Bまで戻るように強制される。変換器202の端子A上のAC電圧は、C10上にリプル電圧を発達させ得、リプル電圧は、比C10/C9によって減衰させられ、ネットワークR7+R5およびC21のフィルタリング作用によってさらに減衰させられる。
【0033】
変換器ファラデーシールド210と、フローティング金属シールド220と、電流低減用抵抗器R5およびR7との使用は、バイアス電圧供給装置を介してライナー電源に注入される所望されない電流の大きさを低減させ得る。特に、いくつかの実施形態では、変換器ファラデーシールドは、例えば、約5から10までの範囲内の倍率でコンデンサC9の静電容量を低減させ得、次に、C9のインピーダンスを増大させ、このコンデンサを通して戻る電流の大きさを低下させ、従って、ライナー電源の出力における所望されないリプルの大きさを低減させ得る。
【0034】
接地に対するフローティング金属シールド220の静電容量(C10)は、次に、コンデンサC9を通して流れる電流のために、フロートバイアス電圧電源の二次巻線の端子Bからの代替の低インピーダンスの経路を提供し得る。抵抗器R7およびR4は、コンデンサC21を通して流れる電流を有利に低減させ、好ましくは抑制し、従って、ライナー上の電圧リプルを低減させる。
【0035】
上で検討されたように、フローティング金属シールド220は、寄生コンデンサC10を接地に追加する。このコンデンサは、コンデンサC9を通して流れる電流がC9からC21まで延びている経路によって示されるインピーダンスより遥かに大きなインピーダンス(例えば、約10から約20倍までの範囲内の倍率で大きなインピーダンス)を示す経路を介してフロートバイアス電圧電源の変換器の二次巻線の端子Bに戻るための新しい経路を生み出す。その結果、コンデンサC10は、C21を横断する電圧リプルを大幅に増大させない。さらに、抵抗素子R5およびR7は、リターン経路222のインピーダンスを(例えば、数kΩから約数百kΩまで)増大させ、従って、コンデンサC21を横断する電圧リプルの大きさを、例えば、10から100倍、または、いくつかの場合、それより低減させることをもたらす。言い換えれば、多くの実施形態では、コンデンサC9を通して流れる電流は、リターン経路としてコンデンサC10を使用し、従って、あらゆる電圧リプルの大部分は、ライナーコンデンサC10を横断して生じ、電圧供給装置の出力に存在しない。
【0036】
さらにいくつかの実施形態では、AC電圧源104および204によって、バイアス電圧供給装置の変換器102および接地基準電圧供給装置の変換器202にそれぞれ印加されるAC信号の位相は、フロートバイアス電圧電源200によって生成された電圧リプルがライナー電源によって生成された電圧リプルから差し引かれ、従って、ライナー電源の出力における全体のリプル低減をもたらすように同期させられ得る。
【0037】
例として、
図1を参照すると、AC電圧源104および204と通信する制御装置12が、それらの電圧源によって生成されたAC電圧の位相を同期させ得、それによって、フロートバイアス電圧電源200によって生成された電圧リプルが、ライナー電圧供給装置100によって生成された電圧リプルから差し引かれることを確実にする。制御装置12は、本開示によって通知される当該技術分野において公知の技術を使用して、ハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアにおいて実装され得る。例として、
図3は、プロセッサ14と、ランダムアクセスメモリ(RAM)16と、読み取り専用メモリ(ROM)18と、通信バス20(プロセッサと他の構成要素との間の通信を可能にする)とを含むそのような制御装置12の実装の例を概略的に描写している。制御装置12は、制御装置12とAC電圧源104および204との間の通信を可能にする通信モジュール22をさらに含み得る。AC電圧の位相を同期させるための命令は、ROM18に格納され得、ランタイムにおいて、実行のためにプロセッサによってRAM16に転送され得る。
【0038】
再び
図1を参照すると、フロートバイアス電圧電源において、コンデンサC2およびC6が、ダイオードD1およびD2と一緒に従来の二倍電圧増倍器を形成し、それらは、フロートバイアス電圧電源の変換器210の一次巻線に印加されるAC電圧を増倍するための変換器210への要求を低減させ得る。フロートバイアス電圧電源200は、抵抗器R1およびR2と、コンデンサC7およびC8とによって形成されたフィルタをさらに含む。フィルタは、バイアス電源の出力における差動電圧を低減させる差動フィルタである。
【0039】
引き続き
図1を参照すると、ライナー電源100は、ダイオードD3、D4、D5およびD6と、コンデンサC39、C30、C11およびC12とによって形成された四倍電圧増倍器を含み、それらは、従来の増倍器の構成を集合的に提供する。四倍電圧増倍器は、AC電圧源104によってライナー電源の変換器の一次巻線に印加される電圧を増幅するためのライナー電源の変換器100への要求を低減させる。
【0040】
上記のように、本開示に従った高電圧電源システムは、多様な質量分析計(数ある分析計の中でも、飛行時間型質量分析器、四重極型質量分析器を有するそれらなど)において採用され得る。例として、そのような高電圧電源システムは、イオン加速を提供するために、および/または、質量分析計のイオン検出器に必要な電圧を印加するために使用され得る。
【0041】
例示として、
図4および
図1を参照すると、本開示のある実施形態に従った質量分析計400は、数ある素子の中でも、イオンを生成するためのイオン源402と、イオンを分析するための質量分析器404と、イオンを検出するためのイオン検出器406とを含み得る。この実施形態では、高電圧電源システム100は、質量分析計のイオン検出器にバイアス電圧を印加し得、質量分析計のライナー素子にバイアス電圧を印加し得る。より具体的には、
図1に描写されているように、この実施形態では、フロートバイアス電圧電源の出力電圧は、イオン検出器にバイアスをかけるために採用され、接地基準電圧電源の出力電圧は、質量分析計のライナー素子にバイアスをかけるために採用されている。
【0042】
質量分析器404は、当該技術分野において公知の質量分析計システムにおいて採用される任意の好適な質量分析器であり得る。例として、質量分析器404は、数ある分析器の中でも、飛行時間型質量分析器、四重極型分析器、タンデム四重極-四重極型質量分析器であり得る。
【0043】
当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、上の実施形態に対して様々な変更がなされ得ることを認識するであろう。
【国際調査報告】