IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インスティテュート オブ リサーチ オブ アイロン アンド スティール, ジィァンスー プロビンス/シャー-スティール, カンパニー リミテッド (シーエヌ)の特許一覧 ▶ ヂャンジャガン ロンシォン スペシャル スティール カンパニー リミテッドの特許一覧 ▶ ジィァンスー シャガン グループ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2022-549385超高強度スチールコード用線材及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-24
(54)【発明の名称】超高強度スチールコード用線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/06 20060101AFI20221116BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20221116BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20221116BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20221116BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20221116BHJP
   B22D 11/115 20060101ALI20221116BHJP
   B22D 11/128 20060101ALI20221116BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20221116BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221116BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221116BHJP
【FI】
C21D8/06 A
C21C7/00 H
C21C7/00 K
C21C7/072
C21C7/10 A
B22D11/00 A
B22D11/115 D
B22D11/128 350A
B22D11/20 C
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21C7/10 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543602
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 CN2019111668
(87)【国際公開番号】W WO2021056633
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】201910914918.X
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522116856
【氏名又は名称】インスティテュート オブ リサーチ オブ アイロン アンド スティール, ジィァンスー プロビンス/シャー-スティール, カンパニー リミテッド (シーエヌ)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF RESEARCH OF IRON AND STEEL, JIANGSU PROVINCE/SHA-STEEL, CO. LTD (CN)
【住所又は居所原語表記】Technology Building of Jiangsu Shagang Group, Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou, Jiangsu 215625, China
(71)【出願人】
【識別番号】522115457
【氏名又は名称】ヂャンジャガン ロンシォン スペシャル スティール カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ZHANGJIAGANG RONGSHENG SPECIAL STEEL CO. LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang City Suzhou, Jiangsu 215625, China
(71)【出願人】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】ジィァンスー シャガン グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU SHAGANG GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou,Jiangsu 215625, China
(74)【代理人】
【識別番号】100120019
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 敏安
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ チャンドン
(72)【発明者】
【氏名】マー ハン
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ ジャチー
(72)【発明者】
【氏名】シェン クゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ シァオフォン
(72)【発明者】
【氏名】シー イーシン
(72)【発明者】
【氏名】ホァン ヨンリン
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
4K032
【Fターム(参考)】
4E004MB12
4E004MC07
4E004NC04
4K013AA07
4K013AA09
4K013BA02
4K013BA03
4K013BA05
4K013BA14
4K013CC06
4K013CE01
4K013CE05
4K013CF12
4K013DA05
4K013DA12
4K013EA20
4K013EA29
4K013EA32
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC04
4K032CE01
(57)【要約】
本発明は、超高強度スチールコード用線材及びその製造方法を開示する。前記製造方法は、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を製錬することと、溶鋼を中心炭素偏析度0.92~1.08のインゴットブランクとして鋳造することと、インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとすることと、中間ビレットを圧延して線材とすることと、線材を温度制御により冷却し、清浄度が高く、均質性が高く、引張強度が1150MPa以下である線材を得ることと、を含み、当該線材は、モノフィラメントの引張強度が3600MPa以上である超高強度スチールコードに使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分の質量%でC:0.78%~0.96%、Si:0.15%~0.30%、Mn:0.30%~0.60%、P≦0.02%、S≦0.02%、Als≦0.004%、Ti≦0.001%、N≦0.005%、Cr≦0.50%、Ni≦0.05%、Cu≦0.05%、Mo≦0.01%、Nb≦0.10%、V≦0.10%、Sn≦0.01%、Pb≦0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物である超高強度スチールコード用線材の製造方法であって、
5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を製錬する鋼製錬段階と、
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度0.92~1.08のインゴットブランクとして鋳造するインゴットブランク鋳造段階と、
前記インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとするコギング段階と、
前記中間ビレットを圧延して線材とする圧延段階と、
前記線材を温度制御により冷却し、引張強度が1150MPa以下である前記線材を得る制御冷却段階とをこの順に含むことを特徴とする超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項2】
前記鋼製錬段階は、溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に含み、前記炉内一次製錬工程において、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における90%以上のスラグを除去することを特徴とする請求項1に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項3】
前記炉内一次製錬工程において、出鋼前に転炉又は電気炉により脱リン及び脱炭を行い、
転炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の85%~95%とし、先ずは脱リンを行うことによって、P≦0.03%のセミスチール溶鉄を得てから、脱炭を行い、次いで、溶鋼の温度≧1680℃、P≦0.015%、C≧0.2%となるように制御し、
電気炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の50%~90%とし、脱リン及び脱炭を行った後、溶鋼の温度≧1650℃、P≦0.015%、C≧0.5%となるように制御することを特徴とする請求項2に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項4】
前記炉外精錬工程は、
溶鋼の化学成分及び温度を調整するステップと、
溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上となるように、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加して前記精錬被覆剤を電気的に溶融させるステップと、
ソフト撹拌又は真空精錬により溶鋼中の介在物を除去するステップと、をこの順に含むことを特徴とする請求項2に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項5】
前記溶鋼の化学成分及び温度を調整するステップ及び前記溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上となるように、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加して前記精錬被覆剤を電気的に溶融させるステップは、LF精錬炉内で行われ、また、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加した後、溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上、CaO成分の含有量が30%以下、Al23成分の含有量が10%以下となるように、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.005
Nm3/(t・min)以下に制御することを特徴とする請求項4に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項6】
前記ソフト撹拌又は真空精錬により溶鋼中の介在物を除去するステップにおいて、
ソフト撹拌により溶鋼中の介在物を除去する場合、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)に制御し、ソフト撹拌時間を30分以上とし、次いで15~20分間鎮静処理し、
RH真空炉による真空精錬により介在物を除去する場合、溶鋼をRH真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、次いで10~15分間鎮静処理し、
VD/VOD真空炉による真空精錬により介在物を除去する場合、溶鋼をVD/VOD真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、VD/VOD真空炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)とし、次いで20~30分間鎮静処理することを特徴とする請求項4に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項7】
前記介在物除去工程において、炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁遠心力の作用下で溶鋼中の介在物を除去し、電磁誘導コイルの電圧が200~1500V、周波数が300~800Hz、最大加熱昇温速度が3℃/minとなるように制御することを特徴とする請求項2に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項8】
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼の過熱度が15~25℃であり、
前記インゴットブランク鋳造段階において、前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工し、前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌する電磁撹拌機能を有し、前記晶析装置の電流を500A~800A、周波数を1Hz~5Hzに制御し、連続鋳造ブランクの加工成型には、前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置及びセクター部が使用され、前記アレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量を5mm以上、総圧下量を30mm以上とし、実施される総圧下量が10mm~30mm、総圧下率が3%~10%となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項9】
前記コギング段階は、前記インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとするために、加熱工程及び連続圧延コギング工程をこの順に含むことを特徴とする請求項1に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項10】
前記加熱工程において、前記インゴットブランクを温度が1000~1200℃に制御された加熱炉に移して100~150分間加熱し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、前記インゴットブランクは、前記均熱段階で30~60分間保持され、
前記連続圧延コギング工程において、前記加熱炉を出た前記インゴットブランクに、10~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、2~9パスの水平/垂直交互連続圧延機により前記インゴットブランクを交互に連続圧延して中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前のインゴットブランク温度を980~1080℃とし、前記中間ビレットを冷却してから出鋼することを特徴とする請求項9に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項11】
前記圧延段階は、前記中間ビレットを圧延して前記線材とするために、加熱工程及び高速圧延工程をこの順に含み、
前記加熱工程において、前記中間ビレットを温度が1000~1150℃に制御された
加熱炉に移して90~150分間加熱し、前記中間ビレットは、温度が1050℃以上の均熱段階で30~60分間保持され、
前記高速圧延工程において、前記加熱炉を出た前記中間ビレットに、9~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が950~1050℃、仕上げ圧延温度が900~940℃、フィラメント吐出温度が900~940℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御することを特徴とする請求項1に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項12】
前記制御冷却段階において、前記線材を8~18K/sの冷却速度で温度制御により冷却し、600℃に冷却した後に冷却速度を4~8K/sに低下させ、中心に網状セメンタイト又はマルテンサイト異常構造がなく、引張強度が1150MPa以下である前記線材を得ることを特徴とする請求項1に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項13】
前記制御冷却段階において、ステルモア冷却ラインにより前記線材を温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を1.05m/s以下に制御し、第1~6のファンを起動させ、第3~6のファンの開度を最大50%に制御し、冷却速度を8~18K/sに維持し、また、巻取り温度を450℃以下に制御し、巻取りの後に、前記線材をPFライン内で自然冷却することを特徴とする請求項12に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項14】
前記制御冷却段階において、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.7~0.9m/sに制御し、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの最適開度を順次にそれぞれ20~50%、10~40%、30%以下及び20%以下とすることを特徴とする請求項13に記載の超高強度スチールコード用線材の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の製造方法で製造されることを特徴とする超高強度スチールコード用線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、出願日が2019年09月26日であり、出願番号が201910914918.Xであり、発明の名称が「超高強度スチールコード用線材及びその製造方法」である中国特許出願の優先権を主張し、その全ての内容は引用によって本出願に取り込まれる。
【0002】
本発明は、鋼鉄製錬の技術分野に属し、超高強度スチールコードを製造するための線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、中国国内の自動車発展は非常に急速に進んでおり、中国の自動車の生産販売量が世界第1位となっている。自動車の全体的な質量が半分に低下すれば、これに対応して自動車の燃料消費量もほぼ半分に減少することが実践によって証明されている。現在の環境保護と省エネルギーのニーズにより、自動車の軽量化は、現代社会における自動車発展のトレンドとなっている。
【0004】
スチールコードは、自動車のタイヤラジアルの主な骨格材料であり、スチールコードの強度レベルを上げるたびに、自動車用タイヤの重量を10%減らすことができる。そのため、軽量化に向けた自動車の発展に伴い、超高強度スチールコードの需要が高まっている。
【0005】
現在、超高強度スチールコードを製造するための線材は、すべて高強度線材であり、実際に、スチールコードの超高強度要求を満たすために、線材の強度を高めることにより加工されたスチールコードの強度を確保することが多い。しかし、このような高強度線材は、伸線時の断線率が高く、撚り線時の断線率が高く、金型の消耗が高く、歩留まりが低いなどの問題がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、超高強度スチールコードを製造するための線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記の目的の1つを実現するために、本発明の一実施形態は、化学成分の質量%でC:0.78%~0.96%、Si:0.15%~0.30%、Mn:0.30%~0.60%、P≦0.02%、S≦0.02%、Als≦0.004%、Ti≦0.001%、N≦0.005%、Cr≦0.50%、Ni≦0.05%、Cu≦0.05%、Mo≦0.01%、Nb≦0.10%、V≦0.10%、Sn≦0.01%、Pb≦0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物である超高強度スチールコード用線材の製造方法であって、
5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を製錬する鋼製錬段階と、
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度0.92~1.08のインゴットブランクとして鋳造するインゴットブランク鋳造段階と、
前記インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとするコギング段階と、
前記中間ビレットを圧延して線材とする圧延段階と、
前記線材を温度制御により冷却し、引張強度が1150MPa以下である前記線材を得る制御冷却段階とをこの順に含む、超高強度スチールコード用線材の製造方法を提供する
【0008】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記鋼製錬段階は、溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に含み、前記炉内一次製錬工程において、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における90%以上のスラグを除去する。
【0009】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記炉内一次製錬工程において、出鋼前に転炉又は電気炉により脱リン及び脱炭を行い、
転炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の85%~95%とし、先ずは脱リンを行うことによって、P≦0.03%のセミスチール溶鉄を得てから、脱炭を行い、次いで、溶鋼の温度≧1680℃、P≦0.015%、C≧0.2%となるように制御し、
電気炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の50%~90%とし、脱リン及び脱炭を行った後、溶鋼の温度≧1650℃、P≦0.015%、C≧0.5%となるように制御する。
【0010】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記炉外精錬工程は、
溶鋼の化学成分及び温度を調整するステップと、
溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上となるように、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加して前記精錬被覆剤を電気的に溶融させるステップと、
ソフト撹拌又は真空精錬により溶鋼中の介在物を除去するステップと、をこの順に含む。
【0011】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記溶鋼の化学成分及び温度を調整するステップ及び前記溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上となるように、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加して前記精錬被覆剤を電気的に溶融させるステップは、LF精錬炉内で行われ、また、溶鋼の表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加した後、溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上、CaO成分の含有量が30%以下、Al23成分の含有量が10%以下となるように、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.005Nm3/(t・min)以下に制御する。
【0012】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記ソフト撹拌又は真空精錬により溶鋼中の介在物を除去するステップにおいて、
ソフト撹拌により溶鋼中の介在物を除去する場合、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)に制御し、ソフト撹拌時間を30分以上とし、次いで15~20分間鎮静処理し、
RH真空炉による真空精錬により介在物を除去する場合、溶鋼をRH真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、次いで10~15分間鎮静処理し、
VD/VOD真空炉による真空精錬により介在物を除去する場合、溶鋼をVD/VOD真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、VD/VOD真空炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)とし、次いで20~30分間鎮静処理する。
【0013】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記介在物除去工程において、炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁遠心力の作用下で溶鋼中の介在物を除去し、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/m
2以下であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を得る。
【0014】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記介在物除去工程において、電磁誘導コイルの電圧が200~1500V、周波数が300~800Hz、最大加熱昇温速度が3℃/minとなるように制御する。
【0015】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼の過熱度が15~25℃であり、
前記インゴットブランク鋳造段階において、前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工し、前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌する電磁撹拌機能を有し、連続鋳造ブランクの加工成型には、前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置及びセクター部が使用される。
【0016】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記インゴットブランク鋳造段階において、前記晶析装置の電流が500A~800A、周波数が1Hz~5Hz、前記アレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量が5mm以上、総圧下量が30mm以上となるように制御し、実施される総圧下量が10mm~30mm、総圧下率が3%~10%となるように制御する。
【0017】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記コギング段階は、前記インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとするために、加熱工程及び連続圧延コギング工程をこの順に含む。
【0018】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記加熱工程において、前記インゴットブランクを温度が1000~1200℃に制御された加熱炉に移して100~150分間加熱し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、前記インゴットブランクは、前記均熱段階で30~60分間保持され、
前記連続圧延コギング工程において、前記加熱炉を出た前記インゴットブランクに、10~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、2~9パスの水平/垂直交互連続圧延機により前記インゴットブランクを交互に連続圧延して中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前のインゴットブランク温度を980~1080℃とし、前記中間ビレットを冷却してから出鋼する。
【0019】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記圧延段階は、前記中間ビレットを圧延して前記線材とするために、加熱工程及び高速圧延工程をこの順に含む。
【0020】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記加熱工程において、前記中間ビレットを温度が1000~1150℃に制御された加熱炉に移して90~150分間加熱し、前記中間ビレットは、温度が1050℃以上の均熱段階で30~60分間保持され、
前記高速圧延工程において、前記加熱炉を出た前記中間ビレットに、9~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が950~1050℃、仕上げ圧延温度が900~940℃、フィラメント吐出温度が900~940℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御する。
【0021】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記制御冷却段階において、前記線材を8~18K/sの冷却速度で温度制御により冷却し、600℃に冷却した後に冷却速度を4~8K/sに低下させ、中心に網状セメンタイト又はマルテンサイト異常構造がなく、引張強度が1150MPa以下である前記線材を得る。
【0022】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記制御冷却段階において、ステルモア冷却ラインにより前記線材を温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を1.05m/s以下に制御し、第1~6のファンを起動させ、第3~6のファンの開度を最大50%に制御し、冷却速度を8~18K/sに維持し、また、巻取り温度を450℃以下に制御し、巻取りの後に、前記線材をPFライン内で自然冷却する。
【0023】
本発明の一実施形態のさらなる改良としては、前記制御冷却段階において、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.7~0.9m/sに制御し、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの最適開度を順次にそれぞれ20~50%、10~40%、30%以下及び20%以下とする。
【0024】
上記の目的の1つを実現するために、本発明の一実施形態は、上記のいずれか1つの実施形態に記載される製造方法で製造されることを特徴とする超高強度スチールコード用線材をさらに提供する。
【0025】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は、以下の通りである。線材の清浄度及び均質化を制御することにより、清浄度が高く、均質化が高く、引張強度が1150MPa以下である低強度線材を製造し、該線材は、モノフィラメント引張強度が3600MPa以上である超高強度スチールコードの製造に使用でき、線材をスチールコードに加工する過程中に伸線時の断線率が高く、撚り線時の断線率が高く、金型の消耗が高く、歩留まりが低い等の問題を解決でき、伸線時の断線率、撚り線時の断線率及び金型の消耗が低いとともに歩留まりが高いことを確保できるだけでなく、低引張強度の線材をスチールコードに加工する過程中に伸線時のエネルギー消費量が低く、伸線しやすく、さらに超高強度スチールコードの大規模な普及が可能となり、自動車タイヤの重量減少や軽量化の目的を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態は、超高強度スチールコード用線材の製造方法、及び前記製造方法で製造された超高強度スチールコード用線材を提供する。即ち、該線材は、超高強度スチールコードの母材の加工に用いることができる。具体的には、前記線材は、従来の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、モノフィラメントの引張強度が3600MPa以上である超高強度スチールコードに加工されることができる。
【0027】
前記線材は、化学成分の質量%でC:0.78%~0.96%、Si:0.15%~0.30%、Mn:0.30%~0.60%、P≦0.02%、S≦0.02%、Als≦0.004%、Ti≦0.001%、N≦0.005%、Cr≦0.50%、Ni≦0.05%、Cu≦0.05%、Mo≦0.01%、Nb≦0.10%、V≦0.10%、Sn≦0.01%、Pb≦0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物である。
【0028】
好ましい一実施形態では、前記線材の製造方法は、鋼製錬段階、インゴットブランク鋳造段階、コギング段階、圧延段階及び制御冷却段階をこの順に含む。次に、前記製造方法における各ステップを1つずつ具体的に説明する。
【0029】
(1)鋼製錬段階
5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を製錬する。このように、溶鋼の清浄度を制御することで、最終的に製造される線材は高い清浄度を有することができる。
【0030】
好ましくは、前記鋼製錬段階は、溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び
介在物除去工程などをこの順に含む。
【0031】
前記溶鉄脱硫工程において、高炉溶鉄をKR脱硫装置内で脱硫し、脱硫後の溶鉄のS含有量は、0.002%以下である。
【0032】
前記炉内一次製錬工程において、まず、前記溶鉄脱硫工程後の溶鉄に対して、転炉又は電気炉により脱リン及び脱炭を行う。具体的には、転炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の85%~95%とし、これに対応してスチールスクラップの重量を全装入量の15%~5%とし、先ずはセミスチール溶鉄のP含有量が0.03%以下になるまで脱リンしてから脱炭し、脱炭後に、溶鋼のP含有量が0.015%以下、C含有量が0.2%以上、温度が1680℃以上となるように制御する。電気炉による脱リン及び脱炭の場合、溶鉄の重量を全装入量の50%~90%とし、これに対応してスチールスクラップの重量を全装入量の50%~10%とし、脱炭後の溶鋼のP含有量が0.015%以下であり、C含有量が0.5%以上であり、温度が1650℃以上である。その後、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における90%以上のスラグを除去する。該出鋼プロセスは、実際に脱酸合金化及びスラグ形成/除去のプロセスでもあり、出鋼中にスラグを除去せずにスラグ形成剤を添加する従来技術に比べて、スラグ除去処理を行い、スラグ形成剤の添加を禁止することにより、介在物におけるSiO2成分の含有量を高め、溶鋼における介在物成分の激しい変動と制御不能性を低下させ、介在物におけるCaO成分の含有量及びAl23成分の含有量を減らすように制御することに役立つことができる。
【0033】
前記炉外精錬工程は、以下のステップを順次に含む。まず、LF精錬炉内で前記炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼の化学成分及び温度を調整し、溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、LF精錬炉内の溶鋼表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加し、速やかに5~10分間通電して前記精錬被覆剤を溶解させ、これによって、介在物における成分の含有量をさらに効果的に制御する。最後に、ソフト撹拌又は真空精錬により溶鋼における介在物を除去する。
【0034】
好ましくは、LF精錬炉内の溶鋼表面に8~12kg/tの精錬被覆剤を添加した後、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.005Nm3/(t・min)以下に制御することで、精錬被覆剤による介在物成分の正確な制御への影響を減らし、スラグと溶鋼との反応を抑制する。
【0035】
上記によれば、前記炉内一次製錬工程の出鋼プロセスの制御、前記炉外精錬工程における精錬被覆剤及び底吹きアルゴンガスの制御等により、溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量を40%以上、CaO成分の含有量を30%以下、Al23成分の含有量を10%以下とする。
【0036】
ソフト撹拌により溶鋼中の介在物を除去する場合、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)に制御し、ソフト撹拌を行った後、鎮静処理を行い、ソフト撹拌と鎮静処理の合計時間を45分間以上とし、好ましくはソフト撹拌時間を30分間以上、鎮静処理を15~20分間とする。RH真空炉による真空精錬により介在物を除去する場合、溶鋼をRH真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、次いで10~15分間鎮静処理する。VD/VOD真空炉による真空精錬により介在物を除去する場
合、溶鋼をVD/VOD真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15~25分間処理し、VD/VOD真空炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.001Nm3/(t・min)~0.005Nm3/(t・min)とし、次いで20~30分間鎮静処理する。
【0037】
前記介在物除去工程において、好ましくは、前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁遠心力の作用下で溶鋼中の介在物を除去し、溶鋼をさらに精製し、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが25μm以下である溶鋼を得る。さらに好ましくは、前記介在物除去工程において、電磁誘導コイルの電圧が200~1500V、周波数が300~800Hz、最大加熱昇温速度が3℃/minとなるように制御する。
【0038】
前記介在物除去工程における出鋼溶鋼は、即ち前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼であり、前記介在物除去工程の後、前記溶鋼は、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2以下であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上である要件を満たし、清浄度の高い溶鋼である。
【0039】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度0.92~1.08のインゴットブランクとして鋳造する。このように、ビレットの均質性を制御することにより、最終的に製造される線材は、高い均質性を有することができる。
【0040】
好ましくは、前記鋼製錬段階における前記介在物除去工程において、電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュの電磁誘導加熱作用下で、前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼の過熱度を15~25℃とし、さらに該低過熱度の溶鋼を中心炭素偏析度0.92~1.08のインゴットブランクとして鋳造し、これによって、高い均質性を有するようにインゴットブランクを制御する。
【0041】
前記インゴットブランク鋳造段階において、前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工する。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、さらに好ましくは前記晶析装置の電流が500A~800A、周波数が1Hz~5Hzとなるように制御することにより、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を従来技術よりも10%増加させることができる。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び中心偏析を効果的に制御し、好ましくは前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量を5mm以上、総圧下量を30mm以上とし、実施される総圧下量を10mm~30mm、総圧下率を3%~10%とするように制御することで、最終的に中心炭素偏析度0.92~1.08の連続鋳造ブランクを得る。
【0042】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工されたインゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとし、好ましくは、前記コギング段階は、前記インゴットブランクをコギングして中心炭素偏析度0.95~1.05の中間ビレットとするために、加熱工程及び連続圧延コギング工程をこの順に含む。このように、ビレットの均質性をさらに制御することにより、最終的に製造される線材は、より高い均質性を有することができる。
【0043】
前記加熱工程において、前記インゴットブランク鋳造段階で加工されたインゴットブランクを第1加熱炉に移して100~150分間加熱し、前記第1加熱炉の温度を1000
~1200℃に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、インゴットブランクを前記均熱段階で30~60分間保持することにより、インゴットブランクのさらなる均質化処理を実現し、均質性を高める。
【0044】
前記連続圧延コギング工程において、前記第1加熱炉を出たインゴットブランクに、10~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、2~9パスの水平/垂直交互連続圧延機により前記インゴットブランクを交互に連続圧延して130mm×130mm~200mm×200mmの中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前のインゴットブランク温度を980~1080℃とし、前記中間ビレットを自然冷却してから出鋼し、得られる前記中間ビレットは、その中心炭素偏析度が0.95~1.05であり、均質性の高いブランクである。もちろん、前記中間ビレットの断面形状及びサイズはこれに限定されない。
【0045】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とする。
【0046】
好ましくは、前記圧延段階は、加熱工程及び高速圧延工程をこの順に含む。
【0047】
前記加熱工程において、前記中間ビレットを第2加熱炉に移して90~150分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1000~1150℃に制御し、前記中間ビレットは温度が1050℃以上の均熱段階で30~60分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
【0048】
前記高速圧延工程において、前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、9~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が950~1050℃、仕上げ圧延温度が900~940℃、フィラメント吐出温度が900~940℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御する。
【0049】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に得られる前記線材の引張強度が1150MPa以下であり、前述のとおり、該線材は、モノフィラメント引張強度が3600MPa以上である超高強度スチールコードの加工に使用でき、従来技術においてモノフィラメント引張強度が3600MPa以上の超高強度スチールコードに用いられる線材に比べて、本実施形態の線材は、引張強度が低く、均質性及び清浄度が高く、スチールコードの加工に用いられる製造プロセスにおいて、伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、また、線材の引張強度がより低いため伸線中のエネルギー消費量が低く、伸線しやすい。
【0050】
好ましくは、前記制御冷却段階において、線材を8~18K/sの冷却速度で温度制御により冷却し、600℃に冷却した後に冷却速度を4~8K/sに低下させ、中心に網状セメンタイト又はマルテンサイト異常構造がなく、引張強度が1150MPa以下の線材を得る。
【0051】
具体的には、前記制御冷却段階において、ステルモア冷却ラインにより線材を温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を1.05m/s以下に制御し、第1~6のファンを起動させ、第3~6のファンの開度を最大50%に制御し、冷却速度を8~18K/sに維持し、また、巻取り温度を450℃以下に制御し、巻取りの後に、前記線材をPFライン内で自然冷却する。
【0052】
さらに、前記制御冷却段階において、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.7~0.9m/sに制御し、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの最適開度を順次にそれぞれ20~50%、10~40%、30%以下及び20%以下とする。
【0053】
概して言えば、本実施形態は、線材の清浄度及び均質化を制御することにより、清浄度が高く、均質化が高く、引張強度が1150MPa以下である低強度線材を製造し、該線材は、モノフィラメント引張強度が3600MPa以上である超高強度スチールコードの製造に使用でき、従来技術においてモノフィラメント引張強度が3600MPa以上の超高強度スチールコードに用いられる線材に比べて、本実施形態の線材は、引張強度が低く、線材をスチールコードに加工する過程中に伸線時の断線率が高く、撚り線時の断線率が高く、金型の消耗が高く、歩留まりが低い等の問題を解決でき、伸線時の断線率、撚り線時の断線率及び金型の消耗が低いとともに歩留まりが高いことを確保できるだけでなく、低引張強度の線材をスチールコードに加工する過程中に伸線時のエネルギー消費量が低く、伸線しやすく、さらに超高強度スチールコードの大規模な普及が可能となり、自動車タイヤの重量減少や軽量化の目的を実現できる。
【0054】
以下に、幾つかの具体的な実施例を参照しながら、本出願の技術案をさらに説明する。
【0055】
<実施例1>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1374℃、Si=0.38%、S=0.035%、重量111tの高炉溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.001%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の溶鉄を、重量18tの清浄なスチールスクラップとともに、120tの転炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、転炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リンを行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を2.0に制御し、温度を1420℃以下に制御し、吹錬してP=0.032%、Si=0.001%のセミスチール溶鉄を得て、炉を振とうして初期段階の脱ケイ素・脱リンによるスラグを除去し、その後、酸素を吹き込み、脱炭を行い、再び石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、最終的なスラグの塩基度を3.5に制御し、吹錬してP=0.015%、C=0.62%、温度T=1680℃の溶鋼を得た。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、ソフト撹拌により溶鋼における介在物を除去し、ソフト撹拌の終了後に鎮静処理を行い、ソフト撹拌と鎮静処理の合計時間を45分間とした。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、加熱昇温速度が3℃/min、過熱度が25℃となるように制御し、電磁遠心力により、介在物を浮上させ、最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下である高清浄度の溶鋼を得た。
【0056】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度1.08の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度25℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が800A、周波数が4Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量が5mm、総圧下量が30mm、総圧下率が10%となるように制御し、最終的に、中心炭素偏析度が1.08である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0057】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.02である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1150℃、加熱合計時間を100分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクを前記均熱段階で60分間保持することにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、10MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、5パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して180mm×180mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を1080℃とし、前記中間ビレットに対して自然冷却、探傷、研磨を順次に行った後に出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.02であった。
【0058】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して90分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1150℃に制御し、前記中間ビレットは、温度が1050℃以上の均熱段階で60分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が1050℃、仕上げ圧延温度が940℃、フィラメント吐出温度が940℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御した。
【0059】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0060】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、引張強度が1150MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.8m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配
置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に50%、40%、30%及び20%に制御し、そして、巻取り温度を450℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、引張強度が1150MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。
【0061】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.78%、Si=0.15%、Mn=0.3.0%、P=0.02%、S=0.015%、Als=0.004%、Ti=0.001%、N=0.005%、Cr=0.50%、Ni=0.05%、Cu=0.05%、Mo=0.01%、Nb=0.10%、V=0.10%、Sn=0.01%、Pb=0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0062】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は1.02であり、また、前記線材の引張強度は、1150MPaであった。
【0063】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3600MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【0064】
<実施例2>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.45個/mm2であり、介在物のサイズが28μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1362℃、Si=0.40%、S=0.032%、重量109tの高炉溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.001%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の溶鉄を、重量19tの清浄なスチールスクラップとともに、120tの転炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、転炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リンを行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を2.1に制御し、温度を1420℃以下に制御し、吹錬してP=0.035%、Si=0.0008%のセミスチール溶鉄を得て、炉を振とうして初期段階の脱ケイ素・脱リンによるスラグを除去し、その後、酸素を吹き込み、脱炭を行い、再び石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、最終的なスラグの塩基度を3.6に制御し、吹錬してP=0.013%、C=0.54%、温度T=1688℃の溶鋼を得た。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、ソフト撹拌により溶鋼における介在物を除去し、ソフト撹拌の終了後に鎮静処理を行い、ソフト撹拌と鎮静処理の合計時間を48分間とした。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、加熱昇温速度が3℃/min、過熱度が20℃となるように制御し、電磁遠心力により、介在物を浮上させ、最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.45個/mm2であり、介在物のサイズが28μm以下である高清浄度の溶鋼を得
た。
【0065】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度0.92の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度20℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が800A、周波数が4Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量が5mm、総圧下量が30mm、総圧下率が10%となるように制御し、最終的に、中心炭素偏析度が0.92である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0066】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.05である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1000℃、加熱合計時間を150分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度が1100℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクは、前記均熱段階で52分間保持されることにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、10MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、9パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して130mm×130mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を980℃とし、前記中間ビレットに対して自然冷却、探傷、研磨を順次に行った後に出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.05であった。
【0067】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して150分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1000℃に制御し、前記中間ビレットは、温度が1056℃以上の均熱段階で52分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、9~14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が950℃、仕上げ圧延温度が900℃、フィラメント吐出温度が900℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御した。
【0068】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0069】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、引張強度が1139MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以
下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.8m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に20%、10%、25%以下及び15%に制御し、そして、巻取り温度を430℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、清浄度が高く、均質性が高く、引張強度が1139MPaである低強度線材を得た。
【0070】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.87%、Si=0.15%、Mn=0.30%、P=0.015%、S=0.015%、Als=0.003%、Ti=0.0008%、N=0.005%、Cr=0.48%、Ni=0.05%、Cu=0.05%、Mo=0.01%、Nb=0.10%、V=0.10%、Sn=0.01%、Pb=0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0071】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.45個/mm2であり、介在物のサイズが28μm以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は1.05であり、また、前記線材の引張強度は、1150MPaであった。
【0072】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3641MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【0073】
<実施例3>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.38個/mm2であり、介在物のサイズが24μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1369℃、Si=0.38%、S=0.036%、重量109tの高炉溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.001%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の溶鉄を、重量19tの清浄なスチールスクラップとともに、120tの転炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、転炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リンを行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を1.9に制御し、温度を1420℃以下に制御し、吹錬してP=0.033%、Si=0.001%のセミスチール溶鉄を得て、炉を振とうして初期段階の脱ケイ素・脱リンによるスラグを除去し、その後、酸素を吹き込み、脱炭を行い、再び石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、最終的なスラグの塩基度を3.3に制御し、吹錬してP=0.012%、C=0.50%、温度T=1692℃の溶鋼を得た。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、ソフト撹拌により溶鋼における介在物を除去し、ソフト撹拌の終了後に鎮静処理を行い、ソフト撹拌と鎮静処理の合計時間を49分間とした。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタン
ディッシュに移し、加熱昇温速度が3℃/min、過熱度が15℃となるように制御し、電磁遠心力により、介在物を浮上させ、最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.38個/mm2であり、介在物のサイズが24μm以下である高清浄度の溶鋼を得た。
【0074】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度1.02の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度15℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が800A、周波数が4Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、前記連続鋳造設備のアレイ型引抜矯正装置の単ロール圧下量が5mm、総圧下量が30mm、総圧下率が10%となるように制御し、最終的に、中心炭素偏析度が1.02である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0075】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.02である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1000℃、加熱合計時間を150分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度が1120℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクは、前記均熱段階で52分間保持されることにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、10MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、9パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して130mm×130mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を980℃とし、前記中間ビレットに対して自然冷却、探傷、研磨を順次に行った後に出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.02であった。
【0076】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して150分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1000℃に制御し、前記中間ビレットは、温度が1056℃以上の均熱段階で52分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、12.8MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が950℃、仕上げ圧延温度が900℃、フィラメント吐出温度が900℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御した。
【0077】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0078】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、引張強度が1142MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.8m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に30%、20%、20%及び10%に制御し、そして、巻取り温度を440℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、清浄度が高く、均質性が高く、引張強度が1142MPaである低強度線材を得た。
【0079】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.96%、Si=0.30%、Mn=0.60%、、P=0.010%、S=0.012%、Als=0.003%、Ti=0.0006%、N=0.003%、Cr≦0.46%、Ni=0.05%、Cu=0.05%、Mo=0.01%、Nb=0.10%、V=0.10%、Sn=0.01%、Pb=0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0080】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.38個/mm2であり、介在物のサイズが24μm以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は1.02であり、また、前記線材の引張強度は、1142MPaであった。
【0081】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3628MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【0082】
<実施例4>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1374℃、Si=0.38%、S=0.035%の溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.0015%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の重量82.5tの溶鉄を取り、重量27.5tの清浄なスチールスクラップとともに、100tの電気炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、電気炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リン及び通電による昇温を行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を3.5に制御し、P=0.015%、C=0.50%、T=1650℃の溶鋼を得て、その後、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における90%のスラグを除去し、その後、出鋼溶鋼を炉外精錬工程に投入した。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程においてスラグが除去された溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、LF精錬炉内の溶鋼表面に8kg/tの精錬被覆剤を添加し、速やかに5分間通電して精錬被覆剤を溶解させ、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.005Nm3/(t・min)以下に
制御し、さらに溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量を40%とした。最後に、ソフト撹拌により溶鋼における介在物を除去し、LF精錬炉の取鍋底吹きアルゴンガス強度を0.003Nm3/(t・min)に制御し、ソフト撹拌時間を30分間とし、次いで15分間鎮静処理した。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁誘導コイルの電圧が200V、周波数が300Hz、加熱昇温速度が1℃/min、過熱度が22~25℃となるように制御し、電磁遠心力により、溶鋼をさらに精製した。
【0083】
最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下である高清浄度の溶鋼を得た。
【0084】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度1.05の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度22~25℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が500A、周波数が1Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、実施される総圧下量を10mm、総圧下率を3%とし、最終的に、中心炭素偏析度が1.05である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0085】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.02である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1150℃、加熱合計時間を100分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクを前記均熱段階で60分間保持することにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、10MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、5パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して180mm×180mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を1080℃とし、前記中間ビレットを自然冷却してから出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.02であった。
【0086】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して90分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1150℃に制御し、前記中間ビレットは、温度が1050℃以上の均熱段階で60分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、14MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が1050℃、仕上げ圧延温度が940℃、フィラメント吐出温度が920℃、最高圧延速度が110m/sとなるように制御した。
【0087】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0088】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1050MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.8m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に30%、20%、15%及び10%に制御し、冷却速度を8K/sに維持し、また、巻取り温度を450℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1050MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。
【0089】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.78%、Si=0.15%、Mn=0.30%、P=0.02%、S=0.015%、Als=0.004%、Ti=0.001%、N=0.005%、Cr=0.50%、Ni=0.05%、Cu=0.05%、Mo=0.01%、Nb=0.10%、V=0.10%、Sn=0.01%、Pb=0.02%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0090】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.5個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が40%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は1.02であり、また、前記線材は、その中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1050MPaであった。
【0091】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3600MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【0092】
<実施例5>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.3個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1300℃、Si=0.45%、S=0.030%の溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.002%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の重量117tの溶鉄を取り、重量13tの清浄なスチールスクラップとともに、120tの転炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、転炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リンを行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を2.0に制御し、吹錬してP=
0.025%、温度T=1400℃のセミスチール溶鉄を得て、炉を振とうして初期段階の脱ケイ素・脱リンによるスラグの60%を除去し、その後、酸素を吹き込み、脱炭を行い、再び石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、最終的なスラグの塩基度を4.0に制御し、吹錬してP=0.012%、C=0.30%、温度T=1680℃の溶鋼を得て、その後、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における93%のスラグを除去し、その後、出鋼溶鋼を炉外精錬工程に投入した。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程においてスラグが除去された溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、LF精錬炉内の溶鋼表面に10kg/tの精錬被覆剤を添加し、速やかに8分間通電して精錬被覆剤を溶解させ、さらに溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量を45%とした。最後に、RH真空炉による真空精錬により溶鋼中の介在物を除去し、溶鋼をRH真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で15分間処理し、次いで15分間鎮静処理した。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁誘導コイルの電圧が250V、周波数が400Hz、加熱昇温速度が2℃/min、過熱度が20~23℃となるように制御し、電磁遠心力により、溶鋼をさらに精製した。
【0093】
最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.3個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が45%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下である高清浄度の溶鋼を得た。
【0094】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度1.06の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度20~23℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が600A、周波数が1.5Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、実施される総圧下量を18mm、総圧下率を6%とし、最終的に、中心炭素偏析度が1.06である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0095】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.03である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1120℃、加熱合計時間を120分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度が1100℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクは、前記均熱段階で45分間保持されることにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、12MPaの圧力
で高圧水脱リンを行い、その後、9パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して140mm×140mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を1050℃とし、前記中間ビレットを自然冷却してから出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.03であった。
【0096】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して120分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1100℃に制御し、前記中間ビレットは、温度1080℃以上の均熱段階で45分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、12MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が1030℃、仕上げ圧延温度が920℃、フィラメント吐出温度が900℃、最高圧延速度が100m/sとなるように制御した。
【0097】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0098】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1100MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.9m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に40%、35%、25%及び15%に制御し、冷却速度を12K/sに維持し、また、巻取り温度を430℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1100MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。
【0099】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.82%、Si=0.15%、Mn=0.50%、P=0.012%、S=0.01%、Als=0.002%、Ti=0.0005%、N=0.002%、Cr=0.01%、Ni=0.02%、Cu=0.02%、Mo=0.005%、Nb=0.01%、V=0.02%、Sn=0.005%、Pb=0.01%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0100】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.3個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が45%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.03であり、また、前記線材は、その中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1100MPaであった。
【0101】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3720MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低
く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【0102】
<実施例6>
(1)鋼製錬段階
溶鉄脱硫工程、炉内一次製錬工程、炉外精錬工程及び介在物除去工程をこの順に行うことにより、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.2個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下である溶鋼を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。
溶鉄脱硫工程:温度T=1320℃、Si=0.45%、S=0.030%の溶鉄をKR脱硫装置に投入して脱硫を行い、脱硫後の溶鉄におけるSが0.001%であった。
炉内一次製錬工程:まず、前記溶鉄脱硫工程後の重量188tの溶鉄を取り、重量10tの清浄なスチールスクラップとともに、180tの転炉に投入して脱リン及び脱炭を行い、具体的には、転炉内に酸素を吹き込み、脱ケイ素・脱リンを行い、石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、スラグの塩基度を2.2に制御し、吹錬してP=0.026%、温度T=1400℃のセミスチール溶鉄を得て、炉を振とうして初期段階の脱ケイ素・脱リンによるスラグの70%を除去し、その後、酸素を吹き込み、脱炭を行い、再び石灰、軽焼ドロマイト、ペレットなどのスラグを添加し、最終的なスラグの塩基度を4.0に制御し、吹錬してP=0.01%、C=0.40%、温度T=1690℃の溶鋼を得て、その後、出鋼中に他のスラグ形成剤を添加せずに炭素添加剤、フェロシリコン及び金属マンガンをこの順に添加し、出鋼終了後に出鋼溶鋼の表面における95%のスラグを除去し、その後、出鋼溶鋼を炉外精錬工程に投入した。
炉外精錬工程:まず、炉内一次製錬工程においてスラグが除去された溶鋼をLF精錬炉に送り、LF精錬炉内で溶鋼の化学成分及び温度を目的範囲まで速やかに調整し、具体的には、電気的な温度制御により溶鋼の温度を目的範囲に調整し、炉内一次製錬工程における出鋼溶鋼サンプルの成分を測定し、次いで成分の測定結果により炭粉、合金を追加することにより、溶鋼の化学成分を目的範囲に調整してもよい。その後、LF精錬炉内の溶鋼表面に12kg/tの精錬被覆剤を添加し、速やかに10分間通電して精錬被覆剤を溶解させ、さらに溶鋼の介在物におけるSiO2成分の含有量を50%とした。最後に、RH真空炉による真空精錬により溶鋼中の介在物を除去し、溶鋼をRH真空炉の真空チャンバーの真空度が1.5mbar以下の高真空環境で20分間処理し、次いで15分間鎮静処理した。
介在物除去工程:前記炉外精錬工程における出鋼溶鋼を電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュに移し、電磁誘導コイルの電圧が500V、周波数が600Hz、加熱昇温速度が3℃/min、過熱度が15~18℃となるように制御し、電磁遠心力により、溶鋼をさらに精製し、最終的に、5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.2個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が50%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下である高清浄度の溶鋼を得た。
【0103】
(2)インゴットブランク鋳造段階
前記鋼製錬段階における出鋼溶鋼を中心炭素偏析度1.08の連続鋳造ブランクとして鋳造した。具体的なプロセスは以下の通りである。上述した電磁誘導加熱機能を有するタンディッシュで得られた過熱度15~18℃の溶鋼を、連続鋳造設備に注入して連続鋳造ブランクに加工した。前記連続鋳造設備の晶析装置は、注入された溶鋼を電磁的に撹拌し、連続鋳造ブランクの等軸晶の割合を高める電磁撹拌機能を有し、具体的には、前記晶析装置の電流が800A、周波数が3Hzとなるように制御した。また、前記連続鋳造設備として、連続大圧下量機能を実現できるアレイ型引抜矯正装置及びセクター部を採用することで、連続鋳造ブランクの中心低密度及び偏析を効果的に制御し、実施される総圧下量を25mm、総圧下率を8%とし、最終的に、中心炭素偏析度が1.08である高清浄度の均質化連続鋳造ブランクを得た。
【0104】
(3)コギング段階
前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクをコギングして中心炭素偏析度が1.05である高清浄度の均質化中間ビレットとした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第1回加熱工程:前記インゴットブランク鋳造段階で加工された連続鋳造ブランクを第1加熱炉に移して加熱し、前記第1加熱炉の温度を1100℃、加熱合計時間を130分間に制御し、加熱プロセス全体は、予熱段階、加熱段階及び温度1080℃以上の均熱段階に分けられ、連続鋳造ブランクは、前記均熱段階で50分間保持されることにより、連続鋳造ブランクの熱拡散処理を行い、連続鋳造ブランクのさらなる均質化を実現し、均質性を高めた。
連続圧延コギング工程:前記第1加熱炉を出た連続鋳造ブランクに、12MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、9パスの水平/垂直交互連続圧延機により連続鋳造ブランクを交互に連続圧延して140mm×140mmのサイズの四角形中間ビレットとし、第1パスの圧延機に入る前の連続鋳造ブランクの温度を1050℃とし、前記中間ビレットを自然冷却してから出鋼し、得られた前記中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.05であった。
【0105】
(4)圧延段階
前記コギング段階で出鋼されたもの、即ち前記中間ビレットを圧延して線材とした。具体的なプロセスは以下の通りである。
第2回加熱工程:前記中間ビレットを第2加熱炉に移して120分間加熱し、前記第2加熱炉の温度を1100℃に制御し、前記中間ビレットは、温度1080℃以上の均熱段階で45分間保持され、該プロセスにより、前記中間ビレットをさらに均質化することができる。
高速圧延工程:前記第2加熱炉を出た前記中間ビレットに、12MPaの圧力で高圧水脱リンを行い、その後、高速圧延機により前記中間ビレットを圧延して線材とし、圧延開始温度が1030℃、仕上げ圧延温度が920℃、フィラメント吐出温度が900℃、最高圧延速度が100m/sとなるように制御した。
【0106】
前記第2加熱炉と前記第1加熱炉は、同一の加熱炉としてもよいし、互いに独立した2つの加熱炉としてもよい。
【0107】
(5)制御冷却段階
前記圧延段階で圧延して得られた線材を温度制御により冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1150MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。具体的なプロセスは以下の通りである。フィラメント吐出機を出た後の前記圧延段階で圧延して得られた線材を、ステルモア冷却ライン内で温度制御により冷却し、前記ステルモア冷却ラインのテーブルローラ速度を0.9m/sに制御し、第1~6のファンを起動させ、第1のファンが配置された前記ステルモア冷却ライン部における保温カバーを閉め、第3~6のファンの開度を順番に50%、40%、30%及び20%に制御し、冷却速度を15K/sに維持し、また、巻取り温度を400℃に制御し、巻取りの後に、線材をPFライン内で自然冷却し、最終的に、中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1150MPaである高清浄度、高均質性、低強度の線材を得た。
【0108】
測定した結果、本実施例で製造された前記線材は、その化学成分の質量%でC=0.92%、Si=0.30%、Mn=0.60%、P=0.01%、S=0.01%、Als=0.001%、Ti=0.0002%、N=0.005%、Cr=0.3%、Ni=0.003%、Cu=0.003%、Mo=0.005%、Nb=0.005%、V=0.02%、Sn=0.005%、Pb=0.01%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であった。
【0109】
上記から分かるように、前記線材において5μm以上のサイズの介在物の数密度が0.2個/mm2であり、介在物のサイズが30μm以下であり、介在物におけるSiO2成分の含有量が50%以上であり、CaO成分の含有量が30%以下であり、Al23成分の含有量が10%以下であり、また、前記線材を製造するための中間ビレットの中心炭素偏析度は、1.05であり、また、前記線材は、その中心に網状セメンタイト異常構造がなく、引張強度が1150MPaであった。
【0110】
また、本実施例の線材は、既有の伸線、熱処理、亜鉛/銅メッキ等の工程により、さらにモノフィラメント引張強度が3900MPaである超高強度スチールコードに仕上げ加工することができ、また、仕上げ加工中に伸線時の断線率が低く、撚り線時の断線率が低く、金型の消耗が低く、歩留まりが高く、伸線しやすい。
【国際調査報告】