(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】二次電池のためのナトリウム金属酸化物材料、および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20221117BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20221117BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221117BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 E
C01G53/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021518491
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(85)【翻訳文提出日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2019075858
(87)【国際公開番号】W WO2020069935
(87)【国際公開日】2020-04-09
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】フォル・ファン・ビュロウ・ヨーン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA01
5H050BA15
5H050CA09
5H050CA29
5H050GA02
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5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料であって、NaxMyCozO2-δ(式中、Mは以下:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbの元素のうちの1種または複数を含み、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を含み、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さは、3~10μm、好ましくは5~10μmである、前記のナトリウム金属酸化物材料に関する。本発明はまた、本発明のナトリウム金属酸化物材料を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料であって、Na
xM
yCo
zO
2-δ(式中、Mは以下の元素:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbのうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を含み、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さは、3~10μm、好ましくは5~10μmである、前記のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項2】
z=0である、請求項1に記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項3】
前記の一次粒子が長さと厚さを有し、前記厚さが前記長さより小さく、そして一次粒子の平均厚さが1.0~4.0μm、好ましくは2.0~3.5μmである、請求項1または2に記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項4】
Mが、Niと、Mn、Cu、Ti、Fe、Mgの群から選択される少なくとも1種のさらに別の金属とを含む、請求項1~3のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項5】
Mが、NiおよびMnを含む、請求項1~4のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項6】
Mが、Ni、Mn、MgおよびTiを含む、請求項1~5のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項7】
前記のナトリウム金属酸化物材料が、P2およびO3相を含む混合相材料である、請求項1~6のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項8】
前記のナトリウム金属酸化物材料が、20~40重量%のP2相および60~80重量%のO3相を含む、請求項7に記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項9】
前記のナトリウム金属酸化物材料のタップ密度が1.5~2.5g/cm
3である、請求項1~8のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項10】
前記のナトリウム金属酸化物材料のタップ密度が1.7~2.2g/cm
3である、請求項9に記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項11】
BET面積が0.3~1m
2/gである、請求項1~10のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項12】
前記のナトリウム金属酸化物材料が、前駆体材料を分散体中で混合し、乾燥し、オーブンにおいて加熱することによって製造された、請求項1~11のいずれか1つに記載のナトリウム金属酸化物材料。
【請求項13】
Na
xM
yCo
zO
2-δ(式中、Mは以下の元素:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbのうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を含むナトリウム金属酸化物材料であって、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さは3~10μm、好ましくは5~10μmである前記ナトリウム金属酸化物材料を製造する方法であって、以下のステップを含む方法:
a)ナトリウム塩と、以下の元素:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbのうちの少なくとも1種の塩もしくは酸化物とを含む前駆体材料を、分散体中で混合して、混合前駆体とするステップであって、前記の混合前駆体がカーボネートを含むステップ;
b)前記の混合前駆体を乾燥して、2~15重量%の水分含有量を有する混合前駆体とするステップ;
c)前記の混合前駆体をオーブン内に置き、オーブンを800~1000℃の温度までの温度に加熱してナトリウム金属酸化物材料を提供するステップ;および
d)前記のナトリウム金属酸化物材料を、含まれるCO
2が100ppm未満である雰囲気において室温に冷却するステップ。
【請求項14】
ステップc)の加熱が以下のステップを含む、請求項13に記載の方法:
c1)オーブンを900~1000℃の第1の温度T1に加熱するステップ;
c2)P2相とO3相との間の特定の相分布が達成されるまで、オーブンの温度を第1の温度T1に維持するステップ;
c3)オーブンを第2の温度T2に冷却するステップ、ここで、T2は800~950℃であり、T2はT1よりも50~150℃低い;
c4)ナトリウム金属酸化物材料が実質的にカーボネートを含まなくなるまでオーブンの温度を第2の温度T2に維持するステップ。
【請求項15】
二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料であって、Na
xM
yCo
zO
2-δ(式中、Mは以下の元素:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbのうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を含み、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均体積は少なくとも8μm
3である、前記のナトリウム金属酸化物材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、概して、二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料に関する。特に、本発明の実施態様は、組成NaxMyCozO2-δ(式中、Mは、以下の元素:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbのうちの1つまたは複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の燃焼は、大気中に放出される高レベルの二酸化炭素をもたらす。この汚染が地球規模の気候変動の重要な要因であるということは、一般的なコンセンサスである。これにより、通例の化石燃料をクリーンエネルギーに置き換える需要が常に増え続けている。今日、我々の社会で使用されているクリーンで再生可能なエネルギー生成の断続的な性質は、経済的で持続可能性のエネルギー貯蔵を必要とする。Liイオン電池(LIB)および鉛酸電池(PbA)に加えて、ナトリウムイオン電池(SIB)は、ナトリウム資源の天然存在度および低いコスト、ならびにリチウムイオン電池に使用されるものと類似の「ロッキングチェア」ナトリウム貯蔵機構のために、グリッドスケール貯蔵用途のための有望な代替として考えられている。
【0003】
優れた電気化学的性能を有する最適な電極材料の探索は、現在、SIBの重要な開発分野である。この研究領域内では、層状遷移金属酸化物が、一つにはそれらの環境的な優しさと容易な合成のために、優れた電極材料のクラスを代表する。しかしながら、Naイオンカソード材料の大規模生産はまだ初期段階であり、SIB技術をLIBおよびPbAと商業的に競争力をもつように促進させるために、最適な材料粉体特性(密度、流動性および安定性)を達成することがなおも大きな課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施態様は、概して、二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料に関する。本発明の目的は、改善された電気化学的安定性を有するナトリウム金属酸化物材料を提供することである。本発明の目的はまた、一次粒子の長さが公知のナトリウム金属酸化物材料と比較して増加したナトリウム金属酸化物材料を提供することである。本発明のさらなる目的は、市販の電極内でのナトリウム金属酸化物材料の高ローディングを可能にする高いタップ密度を有するナトリウム金属酸化物材料を提供することである。本発明のさらなる目的は、有利なまたはさらには最適な表面積を有するナトリウム金属酸化物材料を提供することである。本発明のさらなる目的は、本発明のナトリウム金属酸化物材料を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施態様は、二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料を提供することであって、
前記のナトリウム金属酸化物材料は、
NaxMyCozO2-δ
(式中、Mは以下:
Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sb
の元素のうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)
を含み、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さは、3~10μm、好ましくは5~10μmである。
【0006】
ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さが3~10μmである場合、ナトリウム金属酸化物材料の構造安定性および密度が改善される。好ましくは、一次粒子の平均長さは5~10μmである。一次粒子の平均長が増加すると電気化学が改善される。最後に、電池セルへのナトリウム金属酸化物材料の加工は、一次粒子が大きい場合、ナトリウム金属酸化物材料がほこりっぽさが少なく、包装がより容易であり、電極に適切なローディングを提供するという点で、より容易である。例えば、材料の容量をできるだけ高くするために、xは0.8~1である。語句「一次粒子の長さ」は、物体の三次元のうち最も大きいものを意味することが意図され;従って、ある一次粒子の長さは、当該一次粒子の最も広いファセットまたは面である。一次粒子が明らかに最も広い面またはファセットを有する場合、そのような最も大きい面またはファセットの寸法が長さである。さらに、一次粒子が円板状および円形である場合、一次粒子の長さは直径である。
【0007】
コバルト(Co)は、Li-およびNa-イオン電池用の層状酸化物材料における一般的な元素である。しかしながら、一般に、コストを低減するためにはCo含有量を低減することが望ましい。従って、本発明の材料において、Coは当該材料の主成分ではない;しかしながら、Coは、商業化されたリチウム類似体LiNi0.8Co0.15Al0.05O2において見られるように、ドーパントまたは置換基として存在してよい。
【0008】
一実施態様において、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均体積は、少なくとも8μm3である。従って、一次粒子が直径または特徴的な長さを決定できない形状を有する場合、例えば、一次粒子が球状またはダイス形状に見える場合、一次粒子の体積サイズは、平均体積が8μm3(2×2×2μmの辺長を有するダイス形状粒子よりも大きい一次粒子に対応する)よりも大きくなるように言及される。
【0009】
δの値は、ナトリウム金属酸化物材料の電気的中性をもたらす値である。この値は、ナトリウム金属酸化物材料の元素の酸化状態に依存する。
【0010】
材料がNaxMyCozO2-δ
(式中、Mは以下:Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sbの元素のうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)であると示すことは、元素の組み合わせが「M」によって表され、0.9≦y≦1.1に相当する量で提供されることを表すことが意図されることにも留意されるべきである。
【0011】
ナトリウム金属酸化物材料の好ましい実施態様はNa0.78Ni0.2Fe0.38Mn0.42O2、Na1.00Ni0.25Fe0.5Mn0.25O2およびNa0.76Mn0.5Ni0.3Fe0.1Mg0.1O2を含む。
【0012】
「材料が含む」という表現は、材料が不純物も含み得ること、しかしながら材料が示された化学量論を主に有することを表すことが意図される。
【0013】
疑義を避けるために、語句「一次粒子」は本明細書ではその通例の意味で使用され、すなわち、粒状材料中の物質の個々のフラグメントを指すために使用される。IUPACは、「一次粒子」を、粒状材料中の「最小の別個の識別可能な実体」と定義している。そのような最小の別個の識別可能な実体は単結晶である。一次粒子は、二次粒子(これは、複数の一次粒子が集合した粒子であり、凝集体の場合には弱い付着もしくは凝集の力によって、または凝結体の場合には強い原子間力もしくは分子間力(atomic or molecular forces)によって、一緒に保持される)と区別することができる。二次粒子を形成する一次粒子は、個々の固有性を保持する。
【0014】
一実施態様において、式NaxMyCozO2-δにおいてz=0である。これはコバルトを含まない材料に相当し、これはコバルトが希少で高価な元素であるという点から有利である。
【0015】
一実施態様において、前記の一次粒子はある長さとある厚さを有し、前記厚さは前記長さより小さく、そして一次粒子の平均厚さは1.0~4.0μm、好ましくは2.0~3.5μmである。典型的には、一次粒子は、一次粒子の最大寸法または相当直径が一次粒子の厚さよりも明らかに大きい、明確なファセットを有する血小板様形態を有する。
図1参照。
【0016】
一次粒子の平均長さは、決定可能な長さを有する粒子の数につき決定されることに留意されるべきである。従って、材料の一次粒子のSEM画像において所定の数の粒子の長さが決定可能である場合、平均長さの大きさは、決定可能な長さを有するそれらの一次粒子に基づいて決定され得る。SEM画像中の粒子の一部のみが、決定可能な長さを有し得る。好ましくは、平均長さの決定は、材料の一次粒子のSEM画像または類似の画像の範囲に基づく。類似の留意事項が一次粒子の平均厚さにも当てはまる。
【0017】
さらに、平均長さおよび/または平均厚さの決定に寄与する粒子の各々は、目的にかなったサイズを有するべきである。従って、粒子が1nm未満または500μm超の長さを有する場合、そのような粒子は材料の一部とはみなされず、従って、平均長さおよび/または平均厚さの決定に寄与しない。
【0018】
一実施態様において、Mは、Niと、Mn、Cu、Ti、Fe、Mgの群から選択される少なくとも1種のさらに別の金属とを含む。そのようなナトリウム金属酸化物材料の好ましい実施態様には以下が含まれる:Na0.78Ni0.2Fe0.38Mn0.42O2。
【0019】
一実施態様では、前記のナトリウム金属酸化物材料はNiおよびMnを含む。そのようなナトリウム金属酸化物材料の好ましい実施態様には以下が含まれる:Na1.0Ni0.5Mn0.5O2。
【0020】
一実施態様において、前記のナトリウム金属酸化物材料は、Naならびに金属Ni、Mn、TiおよびMgを含む。そのようなナトリウム金属酸化物材料の好ましい実施態様には以下が含まれる:Na0.9Ni0.3Mn0.3Mg0.15Ti0.25O2、Na0.85Ni0.283Mn0.283Mg0.142Ti0.292O2、Na0.833Ni0.317Mn0.467Mg0.10Ti0.117O2、Na0.8Ni0.267Mn0.267Mg0.133Ti0.333O2、およびNa0.75Ni0.25Mn0.25Mg0.125Ti0.375O2。
【0021】
一実施態様において、前記のナトリウム金属酸化物材料は、P2およびO3相を含む混合相材料である。前記の混合相材料は、改善された電気化学的安定性を提供すると考えられる。本明細書において使用される場合、ナトリウム金属酸化物材料の相組成は、いくらかのサイクル後の放電状態に、またはその初期の放電状態に、すなわちその合成された時の状態にある。一実施態様において、ナトリウム金属酸化物材料は、粉末X線回折図のRietveld精密化によって決定された場合に、20~40重量%のP2相および60~80重量%のO3相を有する二重相材料である。本発明の利点は、特定のP2/O3相比を有する混合相材料を提供できることである。P2相はより良好なNa-イオン輸送特性によって材料の発電能力に寄与する一方で、O3は、材料の容量に寄与すると考えられる。この文脈において、語句「混合相材料」は、相P2およびO3の両方を有する材料であって、これらの相の各々が少なくとも5重量%ずつ存在する材料を表すことが意図される。
【0022】
Wang, P. F.等の文献「Layered Oxide Cathodes for Sodium-Ion Batteries: Phase Transition, Air Stability, and Performance」(Advanced Energy Materials, 2018, 8(8),1-23)に記載されるように、Na
xTMO
2の典型的な層状構造は、稜共有しているTMO
6八面体層およびNaイオン層の交互の積み重ねからなる。本明細書において、「TM」は遷移金属を意味する。これらのナトリウムをベースとする層状材料は、2つの主要な群に分類することができる:周囲のNa
+環境および特有の酸化物層の積層の数によるP2型またはO3型。これは、Delmas等によって最初に明記された。記号「P」および「O」は、Naイオンのプリズム型または八面体型の配位環境を表し、「2」および「3」は、単一の単位胞における異なる種類のO積層を有する遷移金属層の数を示唆する。P2およびO3相の結晶構造の概略図が、Wang, P. F.等の上述の引用文献の
図1に示されている。
【0023】
P2型NaxTMO2は、いわゆる三角プリズム型(P)サイトに全てのNa+が位置する2種のTMO2層(ABおよびBA層)からなる。Na+は、2つの異なるタイプの三角プリズム型サイトを占有し得る:Naf(Na1)が、近接するスラブの2つのTMO6八面体とその面に沿って接触するのに対して、Nae(Na2)は、6つの周囲のTMO6八面体とその稜に沿って接触する。これらの隣接するNafおよびNaeサイトは、2つの隣接するNaイオン間の大きなクーロン反発のため、近すぎて同時に占有することができない。
【0024】
O3型Na
xTMO
2では、三価状態を有する3d遷移金属イオン(<0.7Å)と比較して大きなNaイオンのイオン半径(1.02Å)のために、Na
+および3d遷移金属イオンは、立法最密充填(ccp)酸素配列を有する別個の八面体サイトに収容される。O3型の層状相は、カチオンが規則化した岩塩超構造酸化物の1つとして分類することができる。稜共有したNaO
6およびTMO
6八面体は[111]に垂直な交互層に秩序し、NaO
2およびTMO
2スラブをそれぞれ形成する。層状構造として、単位胞を説明するために、NaTMO
2は、異なるO積層を有する結晶学的に3種のTMO
2層、いわゆるAB、CAおよびBC層、から構成され(Wang,P.F.らの上記で引用した文献の
図1c参照)、Naイオンは、典型的なO3型層状構造を形成するTMO
2層間のいわゆる八面体(O)サイトに収容されている。
【0025】
一実施態様において、ナトリウム金属酸化物材料のタップ密度は、1.5~2.5g/cm3である。例えば、ナトリウム金属酸化物材料のタップ密度は、1.7~2.2g/cm3である。
【0026】
「タップ密度」は、通常は所定の高さからの、粉末の容器の「タッピング」を単位として規定された圧密/圧縮の測定回数後の、粉末(または粒状固体)の嵩密度を記載するために使用される用語である。「タッピング」の方法は、「持ち上げおよび落下」と記載するのが最良である。この文脈において、タッピングは、タンピング、横打ちまたは振動と混同されるべきではない。測定の方法はタップ密度値に影響を及し得、従って、異なる材料のタップ密度を比較するときには同じ方法を使用すべきである。本発明のタップ密度は、少なくとも10gの粉末の添加の前後にメスシリンダーを秤量して添加した材料の質量を書き留め、引き続き、テーブル上でシリンダーを相当の回数タッピングし、その後タップした材料の体積を読み取ることによって、測定される。典型的には、タッピングは、さらなるタッピングが体積のさらなる変化をもたらさなくなるまで継続されるべきである。例にすぎないが、タッピングは、1分の間に約120または180回行うことができる。
【0027】
タップ密度は、粒度分布に大きく依存する特性であり;本明細書で言及されるタップ密度は、以下の粒度分布に粉砕された粉末について測定された値である:3μm<d(0.1)<7μm、7μm<d(0.5)<14μmおよび14μm<d(0.9)<25μm。これらのタップ密度および粒度分布は、ナトリウム金属酸化物材料の十分な容量および適切な多孔度を得るために適切である。材料内の全粒度分布、すなわち、粒子径の関数としての特定のサイズを有する粒子の体積率は、懸濁物または粉末中の粒子のサイズを定量化する方法である。そのような分布において、d(0.1)またはD10は集団の10%がd(0.1)またはD10の値未満である粒子径として定義され、d(0.5)またはD50は集団の50%がd(0.5)またはD50の値未満である粒子径(すなわちメジアン)として定義され、そしてd(0.9)またはD90は集団の90%がd(0.9)またはD90の値未満である粒子径として定義される。粒度分布を決定するために一般的に使用される方法には、動的光散乱測定および走査型電子顕微鏡測定が含まれ、画像解析と一体となっている。
【0028】
一実施態様において、BET面積は0.3~1m2/gである。好ましくは、BET面積は0.3~0.6m2/gである。低いBET面積は、電気化学セルにおいてサイクルされた場合の材料の劣化の低さに関連することが周知である。
【0029】
一実施態様において、前記のナトリウム金属酸化物材料は、前駆体材料を分散体中で混合し、乾燥し、オーブンにおいて加熱することによって製造された。これは、ナトリウム金属酸化物材料の析出とは対照的である。析出させたナトリウム金属酸化物材料が約2g/cm3までのタップ密度を得ることができることは周知である。しかしながら、材料の混合および乾燥は、通常は、本発明により得られるものよりも低いタップ密度を有する材料を提供する。前記分散体は例えば水性分散体であり、乾燥方法は、例えば噴霧乾燥である。
【0030】
本明細書で使用される場合に、語句「オーブン」は、500℃を十分に超えて加熱するための任意の適切な容器(例えば、キルンまたは炉)を表すことが意図される。
【0031】
本発明の別の態様は、NaxMyCozO2-δ
(式中、Mは以下:
Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sb
の元素のうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)
を含む、ナトリウム金属酸化物材料を製造する方法であって、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さが3~10μmである、前記製造方法を提供する。前記方法は以下のステップを含む:
a)ナトリウム塩と、以下:
Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sb
の元素のうちの少なくとも1種の塩もしくは酸化物とを含む前駆体材料を、分散体中で混合して、混合前駆体とするステップであって、前記の混合前駆体がカーボネートを含むステップ;
b)前記の混合前駆体を乾燥して、2~15重量%の水分含有量を有する混合前駆体とするステップ;
c)前記の混合前駆体をオーブン内に置き、オーブンを800~1000℃の温度に加熱してナトリウム金属酸化物材料を提供するステップ;および
d)前記のナトリウム金属酸化物材料を、含まれるCO2が100ppm未満である雰囲気において室温に冷却するステップ。
【0032】
前記前駆体材料の塩(複数可)は、任意の適切な塩(複数可)であり得る。一例は、酸化物または炭酸塩、例えば炭酸ナトリウムならびにNiのおよび/または以下のうちの1つの炭酸塩を使用することである:Mn、Cu、Ti、FeおよびMg。あるいは、硝酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムを使用し得る。概して、硫酸塩は、製造後の材料中に残留するであろう硫黄のために使用されず、硝酸塩は熱処理の間のNOx放出を回避するために使用されず、塩化物もまた、めったに使用されないであろう。
【0033】
ステップd)は、CO2が100ppm未満、好ましくはCO2が50ppm未満の雰囲気中で行われる。ステップd)はCO2の少ない雰囲気中で実施されるが、ステップa)~c)は、例えば、空気中で、または空気に似た雰囲気、例えば75~85%の窒素、15~25の酸素、場合によりいくらかのアルゴンおよび場合によりいくらかのCO2において実施される。
【0034】
本発明による方法の一実施態様によれば、ステップc)の加熱は、以下のステップを含む:
c1)オーブンを900~1000℃の第1の温度T1に加熱するステップ;
c2)P2相とO3相との間の特定の相分布が達成されるまで、オーブンの温度を第1の温度T1に維持するステップ;
c3)オーブンを第2の温度T2に冷却するステップ、ここで、T2は800~950℃であり、T2はT1よりも50~150℃低い;および
c4)ナトリウム金属酸化物材料が実質的にカーボネートを含まなくなるまでオーブンの温度を第2の温度T2に維持するステップ。
【0035】
本発明の方法の利点は、特定のP2/O3相比を有する混合相材料を提供できることである。ステップc2)は、一次粒子が焼結し、ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均長さが3~10μm、好ましくはさらに5~10μmであるサイズまで成長することを確実にする。ステップc2)におけるP2相とO3相との間の特定の相分布は、ナトリウム金属酸化物材料の最終相分布とは幾分異なる。典型的には、前記の特定の相分布は、ナトリウム金属酸化物材料の最終相分布よりも幾分少ないO3を有する。ステップc4)は、ステップc2)とc3)との間の材料におけるよりも最終材料中に幾分多いO3が存在するように、相分布が変化することを確実にする。概して、前記材料は、ステップc2)とc3)との間の材料におけるよりも最終材料において5~20重量%多いO3を有するであろう。従って、ステップc3)は、相分布をより多くのO3に向かって変化させるが、5~20重量%の程度しか変化させない。従って、ナトリウム金属酸化物材料の最終相分布は依然として、P2相およびO3相の両方を有する相分布であり、それぞれ少なくとも20重量%の割合である。
【0036】
語句「ナトリウム金属酸化物材料が実質的にカーボネートを含まない」は、ステップc4)で空気と平衡にあるナトリウム金属酸化物材料が、含有カーボネートが約2000ppm未満である雰囲気を形成することを表すことが意図される。大気は約400ppmのCO2を有するが、ステップc1)およびc2)の間では、相当量(例えば20体積%まで)のCO2をオーブン内で検出することができる。ステップc4)は、CO2レベルが5000ppm未満、例えば2000ppmCO2になるまで継続される。CO2レベルは、例えば、Pewatron AGからのCarbondio 2000ガスモジュールセンサによって測定することができる(0-2000ppmのCO2)。このCO2レベルは、それぞれ装置およびアプリケーション標準(ISO11358、ISO/DIS 9924、ASTM E1131、ASTM D3850、DIN51006を含む)を満たすNetzsch STA 409Cを使用する熱重力分析(TGA)で測定した場合の最大0.5重量%Na2CO3のナトリウム金属酸化物材料におけるNa2CO3含有量に相当する。
【0037】
概して、ステップc4)は、実質的に全ての炭酸ナトリウムが分解されるまでオーブンの温度を維持することに相当する。一例として、ステップc4)は、オーブンの温度を、5~20時間、例えば8~10時間、温度T2に維持することに相当する。語句「温度を維持する」は、温度が比較的安定したままであることを表すことが意図される。しかしながら、例えば10~20℃のより小さい温度変化は、語句「温度を維持する」によってカバーされることが意図される。語句「オーブンを冷却する」は、材料が1つのオーブン内に維持され、その温度を低下させる場合、および、材料がオーブン内で、1つのより高温の部分から別のより低温の部分へ、例えばコンベヤベルト上で輸送される場合の両方をカバーすることが意図される。
【0038】
本発明の方法により、良好なスラリー特性および良好な粉末特性(power properties)を有する混合相材料を得ることができる。
【0039】
本発明の別の態様において、本発明は、二次電池の電極のためのナトリウム金属酸化物材料であって、NaxMyCozO2-δ(式中、Mは以下:Mn、Cu、Ti、Fe、Mg、Ni、V、Zn、Al、Li、Sn、Sb、の元素のうちの1種または複数であり、0.7≦x≦1.3、0.9≦y≦1.1、0≦z<0.15、0≦δ<0.2である)を含み、前記ナトリウム金属酸化物材料の一次粒子の平均体積は少なくとも8μm3である、前記のナトリウム金属酸化物材料に関する。従って、一次粒子が直径または特徴的な長さを決定できない形状を有する場合、例えば、一次粒子が球状またはダイス形状に見える場合、一次粒子の体積サイズは、平均体積が8μm3よりも大きくなるように言及され、2×2×2μmの辺長を有するダイスよりも大きいことに対応する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、フレーク様一次粒子を有するP2型材料の概略図である。
【0041】
図面の詳細な説明
図1は、フレーク様一次粒子を有するP2型材料、例えばP2型材料Na
2/3Mn
0.7Fe
0.1Mg
0.1O
2の概略図である。
図1から、一次粒子が典型的には、一次粒子の最大寸法または相当直径が一次粒子の厚さよりも明らかに大きい、明確なファセットを有する血小板様形態を有することが分かる。いくつかの一次粒子に関して、長さLまたは厚さTを
図1に示した。前記一次粒子は、直径または長さが約1~3μmであり、厚さが100~500nmである。
図1は、粒子が最大寸法、すなわち長さ、および最小寸法、すなわち厚さを有することを示している。
図1はまた、一部の粒子については、長さまたは厚さが識別できないかもしれないことを示している。この場合、粒子の厚さまたは長さのみが、サンプルにおける粒子の平均長さおよび厚さの決定に含まれる。
【0042】
従って、一次粒子の長さLは、一次粒子の三次元のうちで最も大きく、一次粒子の厚さはその三次元のうちで最も小さい。
【0043】
例:
ナトリウム金属イオン材料の製造:
NaおよびNiおよび元素Mn、Cu、Ti、FeおよびMgの少なくとも1種の炭酸塩を含む原材料の物理的混合物の形態にある前駆体材料を、水性分散液中で混合し、次いで噴霧乾燥して粉末にする。噴霧乾燥され、混合された前駆体材料を、サガー内に置く。噴霧乾燥されて混合された前駆体材料の嵩密度は約0.7~1.0g/cm3であり、サガーは、噴霧乾燥および混合された前駆体材料の床高さが35mmより高くなるように充填される。混合され、噴霧乾燥された前駆体材料は、2~15重量%の水分含有量を有する。合計約0.4~3.3Lの水を含有する20~22kgの混合され噴霧乾燥された前駆体材料を有するサガーをオーブンに入れる。この場合に使用されるオーブンは、制御可能なガス注入口で改造されたNaberthermからの5面加熱による電気加熱室炉(コントローラC440付きLH216)である。
【0044】
引き続き、オーブンの熱処理プログラムを開始し、オーブンを通るガス流なしで、1~5℃/分の勾配でオーブンを500℃のオーブン頂部温度まで加熱する。これらの条件では、完全に気密ではないため、オーブンの壁の外側に水分が凝縮しているのを観察することができる。オーブンの頂部の温度が約500℃に達すると、粉末は280℃~320℃に達し、カーボネートが飽和水分雰囲気中で分解し始める。この時点で、オーブンの底部から頂部へ20~100L/分の空気の流れが開始され、1~5℃/分の勾配で徐々に900~1000℃に加熱される。
【0045】
数時間、例えば5~20時間後、オーブンを1~100L/分のCO2を含まない空気流中で冷却する。オーブンが約500℃に冷却されたとき、窒素のより高い流れが利用可能であれば、オーブンが室温に達するまで窒素を冷却媒体として使用することができる。
【0046】
本発明を様々な実施態様の記載により例証し、これらの実施態様は相当詳細に記載したが、出願人は添付の請求項の範囲をそのような詳細に減縮することも、いかなる方法によって限定することも意図するものではない。追加的な利点および改変は、当業者にとっては容易に明らかとなるであろう。従って、本発明はそのより広い態様において、示され、記載された具体的な詳細、代表的な方法および例証的な例に限定されない。従って、出願人の発明の一般概念の意図または範囲から逸脱することなく、前記の詳細から逸脱することは可能である。
【国際調査報告】