(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】分解炉システム、及び分解炉システム内で炭化水素供給原料を分解するための方法
(51)【国際特許分類】
C10G 9/36 20060101AFI20221117BHJP
【FI】
C10G9/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517961
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2020067173
(87)【国際公開番号】W WO2021052642
(87)【国際公開日】2021-03-25
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504191741
【氏名又は名称】テクニップ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ウィジンジャ,イェレ ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ウード,ピーター
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA04
4H129CA05
4H129FA02
4H129NA20
4H129NA22
4H129NA26
4H129NA27
(57)【要約】
【解決手段】炭化水素供給原料を分解ガスに変換するための分解炉システムを提供する。分解炉システムは、対流部、放射部及び冷却部を備えており、対流部は、炭化水素供給原料を受けて予熱するように構成された、第1の高温コイルを含む複数の対流バンクを有しており、放射部は、熱分解反応を可能にする温度に炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを含む火室を有しており、冷却部は少なくとも1つの移送ライン交換器を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素供給原料を分解ガスに変換するための分解炉システムであって、
対流部、放射部及び冷却部を備えており、
前記対流部は、炭化水素供給原料-希釈剤混合物を受けて予熱するように構成された、第1の高温コイルを含む複数の対流バンクを有しており、
前記放射部は、熱分解反応を可能にする温度に前記炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有しており、
前記冷却部は、少なくとも1つの移送ライン交換器を有しており、
前記対流部は、前記炭化水素供給原料を希釈剤と混合して、前記第1の高温コイルの上流側で前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を生成するように構成されており、
前記分解炉システムは、炭化水素供給原料が前記第1の高温コイルを出た後であって前記放射部に入る前に、前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を前記移送ライン交換器によって更に予熱するように構成されており、
前記対流部は、炭化水素供給原料が前記移送ライン交換器から出た後であって、前記放射部に入る前に前記炭化水素供給原料を更に予熱するように構成されている第2の高温コイルを有している、分解炉システム。
【請求項2】
前記第2の高温コイルは、前記対流部の底部に配置されている、請求項1に記載の分解炉システム。
【請求項3】
前記炭化水素供給原料を希釈蒸気、好ましくは過熱された希釈蒸気と、前記第1の高温コイルの上流側で混合するように構成されている手段、及び、任意には、更なる希釈蒸気、好ましくは過熱された希釈蒸気を炭化水素供給原料-希釈蒸気混合物に追加するように構成されている更なる手段を備えており、前記更なる手段は、前記第1の高温コイルからの炭化水素供給原料-希釈蒸気混合物のための出口と、前記移送ライン交換器への炭化水素供給原料-希釈蒸気混合物のための入口との間で、前記更なる希釈蒸気を前記炭化水素供給原料-希釈蒸気混合物に導入するように構成されている、請求項1又は2に記載の分解炉システム。
【請求項4】
飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている蒸気ドラムを更に備えている、請求項1~3のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項5】
一次移送ライン交換器の下流側に配置されて前記蒸気ドラムに連結され、前記蒸気ドラムからのボイラ水を少なくとも部分的に蒸発させるように構成されている二次移送ライン交換器を更に備えている、請求項4に記載の分解炉システム。
【請求項6】
前記対流部は、前記蒸気ドラムからの高圧蒸気を過熱するように構成されている少なくとも1つの高圧蒸気過熱器を有している、請求項3~5のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項7】
前記対流部は、前記炭化水素供給原料又は前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に追加するための希釈蒸気を過熱するように構成されている少なくとも1つの希釈蒸気過熱器を有している、請求項3~6のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項8】
前記複数の対流バンクは、予熱された炭化水素供給原料を希釈剤の一部又は全てと混合するように構成されている手段の前に前記炭化水素供給原料を予熱するように構成されている供給予熱器を更に有しており、
前記手段は、前記供給予熱器と前記第1の高温コイルとの間に配置されている、請求項1~7のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項9】
前記複数の対流バンクは、更なる希釈剤を前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に混合するように構成されて前記第1の高温コイルの下流側であって前記移送ライン交換器の上流側に配置されている更なる手段を有している、請求項1~8のいずれか1つに記載の分解炉システム。
【請求項10】
分解炉システム、例えば請求項1~9のいずれか1つに記載の分解炉システムで炭化水素供給原料を分解するための方法であって、
炭化水素供給原料を希釈剤と混合して、炭化水素供給原料-希釈剤混合物を生成し、前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に第1の供給原料予熱工程、第2の供給原料予熱工程及び第3の供給原料予熱工程を与えて、その後、前記炭化水素供給原料が分解される、前記分解炉システムの放射部に前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を送り、
前記第1の供給原料予熱工程では、第1の高温コイルを使用して分解炉システムの高温の煙道ガスによって炭化水素供給原料-希釈剤混合物を予熱し、
前記第2の供給原料予熱工程では、移送ライン交換器を使用して前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を更に予熱し、
前記第3の供給原料予熱工程では、第2の高温コイルを使用して前記分解炉システムの高温の煙道ガスによって前記炭化水素供給原料を更に予熱する、方法。
【請求項11】
前記炭化水素供給原料を希釈蒸気、好ましくは過熱された希釈蒸気と混合して、前記第1の供給原料予熱工程で予熱する炭化水素供給原料-希釈剤混合物を生成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の供給原料予熱工程後、更なる希釈蒸気を前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に追加し、その後、移送ライン交換器を使用して前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を更に予熱する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記移送ライン交換器の下流側に設けられた二次移送ライン交換器を使用して、前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって高圧蒸気を発生させる、請求項10~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を前記対流部で過熱する、請求項10~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記炭化水素供給原料を希釈剤と混合する前に前記炭化水素供給原料を予熱する、請求項10~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
希釈剤と混合する際に水の露点を超える温度を有して前記第1の高温コイルに供給される炭化水素供給原料-希釈剤混合物が得られる温度まで前記炭化水素供給原料を、前記希釈剤と混合する前に予熱する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を、水の露点を超える温度で前記第1の高温コイルに送る、請求項10~16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を、前記水の露点より30~70℃高い温度で、例えば前記水の露点より約50℃高い温度で前記第1の高温コイルに送る、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を前記第1の高温コイルで予熱し、前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物は、前記第2の供給原料予熱工程の開始の際に前記炭化水素供給原料の炭化水素の露点を超える温度を既に有する、請求項10~18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
前記方法を、飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている蒸気ドラムを備えている分解炉システムで実行し、
前記分解炉システムは、一次移送ライン交換器の下流側に配置されて前記蒸気ドラムに連結され、前記蒸気ドラムからのボイラ水を少なくとも部分的に蒸発させるように構成されている二次移送ライン交換器を好ましくは更に備えている、請求項10~19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
前記対流部は、前記蒸気ドラムからの高圧蒸気を過熱するように構成されている少なくとも1つの高圧蒸気過熱器を有している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記対流部は、前記炭化水素供給原料又は前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に追加するための希釈蒸気を過熱するように構成されている少なくとも1つの希釈蒸気過熱器を有している、請求項10~21のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解炉システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば米国特許第4479869 号明細書に開示されているような従来の分解炉システムは、一般に対流部を備えており、対流部内で炭化水素供給原料を予熱する及び/又は部分的に蒸発させ、希釈蒸気と混合して供給原料-希釈蒸気混合物を生成する。このシステムは、少なくとも1つの放射コイルを火室に有する放射部を更に備えており、放射部内で、対流部からの供給原料-希釈蒸気混合物を熱分解によって高温で生成物成分及び副生成物成分に変換する。このシステムは、熱分解副反応を止めて生成物に有利な反応の平衡を維持するために、放射部からの生成物又は分解ガスを迅速に急冷するように構成されている少なくとも1つの急冷交換器、例えば移送ライン交換器を有する冷却部を更に備えている。移送ライン交換器からの熱を高圧蒸気の形態で回収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既知のシステムの欠点は、熱分解反応のために多くの燃料を供給する必要があるということである。この燃料消費量を減らすために、火室効率、つまり放射コイルに吸収される火室内の放出熱の割合を著しく高めることができる。しかしながら、火室効率を高めた従来の分解炉システムの対流部の熱回収機構は、放射部に送るために最適温度に達するように炭化水素供給原料を加熱する能力を僅かしか有さない。その結果、燃料消費量を減らし、ひいてはCO2 排出量を減らすことは従来の分解炉システム内ではほとんど不可能である。
【0004】
この欠点を少なくとも部分的に解決するために、冷却部が少なくとも1つ、好ましくは2つの移送ライン交換器を熱交換器として有する低排出分解炉システムが開発されている(国際公開第2018/229267号パンフレット)。このシステムは、供給原料を放射部に送る前に移送ライン交換器によって予熱するように構成されている。一般に行われているように供給原料を対流部で加熱する代わりに、移送ライン交換器内の分解ガスの廃熱を使用して冷却部内の供給原料を加熱することにより、火室効率を著しく高めて、最大約20%、又約20%を超える燃料ガスの減少率を得ることができる。火室効率は、吸熱反応である熱分解により炭化水素供給原料を分解ガスに変換するために少なくとも1つの放射コイルに吸収される熱と、燃焼ゾーンでの燃焼プロセスによって放出される熱との、25℃の低位発熱量に基づく比である。この定義は、API 規格560 (Fired Heaters for General Refinery Service)で定義されているような燃料効率3.25の公式に相当する。この効率が高いほど、燃料消費量は少なくなるが、対流部で予熱する供給原料に利用可能な熱も下げる。
【0005】
冷却部で供給原料を予熱することにより、この障害を克服することができる。従って、このような分解炉システムには、第1の供給原料予熱工程及び第2の供給原料予熱工程がある。第1の供給原料予熱工程では、例えば対流部の複数の対流バンクの内の1つで分解炉システムの高温の煙道ガスによって炭化水素供給原料を予熱する。予熱する際に更に、液体の供給原料の場合には部分的に蒸発させ、ガス状の供給原料の場合には過熱する。第2の供給原料予熱工程では、供給原料を分解炉システムの放射部に送る前に、供給原料を分解炉システムの分解ガスの廃熱によって更に予熱する。第2の供給原料予熱工程を、冷却部の移送ライン交換器を使用して行う。移送ライン交換器は典型的には、分解ガスから供給原料への直接の熱伝達を可能にするように構成されている。
【0006】
この分解炉システムの更なる利点は、移送ライン交換器では重い(アスファルテンの)かすの凝縮による汚れがまず無いということである。ガスから沸騰蒸気への熱伝達の場合、例えば、移送ライン交換器が先行技術のシステムのように飽和蒸気を発生させるように構成されている場合、沸騰水の熱伝達率はガスの熱伝達率より高い。このため、壁の温度が沸騰水の温度に非常に近くなる。分解炉内のボイラ水の温度は典型的には約320 ℃であり、交換器の低温側の壁の温度は、交換器の低温端部の広範囲な部分でこの温度をごく僅かに超える一方、分解ガスの露点は液体の供給原料の大部分で350 ℃を超えるため、管の表面に重いかす成分が凝縮して機器の汚れが生じる。このため、交換器を定期的に清浄化する必要がある。交換器の清浄化は、放射コイルの炭素除去中に部分的に行われるが、移送ライン交換器を機械的に清浄化する作業のために炉を定期的に取り出す必要がある。炉の取り出しは、交換器の水噴射だけでなく、破損を回避すべく制御して時間をかけた炉の冷却及び加熱をも含むので数日かかる場合がある。ガスからガスへの熱伝達の場合、両方の熱伝達率は等しく、移送ライン交換器の壁の温度はガスから沸騰水への熱交換の場合より十分高く、壁の温度は、およそ壁の両側の2つの媒体の平均値である。このシステムでは、壁の温度は最も低温の部分で約450 ℃であり、最も高温の部分で約700 ℃に迅速に上昇すると予測される。これは、交換器全体に亘って炭化水素の露点を常に超えており、凝縮が生じ得ないことを意味する。
【0007】
しかしながら、効率が向上するこの分解炉システムの欠点は、排出物の冷却が比較的遅く、反応平衡の固定が妨げられるため、生成物の劣化が僅かに進む場合があるということである。低温側で沸騰水を用いる従来の移送ライン交換器(TLE) とは異なり、この低排出分解炉の移送ライン交換器のタイプでは、低温側にガスがある。ガスの熱伝達率は沸騰水の熱伝達率より大幅に低いため、上述したように熱伝達を制限する場合がある。加えて、おおよそ350 ℃の低温側のガスの入口温度、及び約600 ~650 ℃の低温側の出口温度は、移送ライン熱交換器によって冷却される高温の排出物と冷却ガスとの対数平均温度差を大幅に減らす。この比較的低い対数平均温度差のため、反応平衡の固定は比較的遅く、生成物から副生成物への変換が増える場合がある。当業者に知られているように、逆流熱交換器の対数平均温度差(LMTD)は、(dTA-dTB)/ln(dTA/dTB) として定められることができ、dTA は、熱交換器の第1の端部での温度差であり、例えばここでは高温側入口温度と低温側出口温度との温度差であり、dTB は、熱交換器の第2の端部での温度差であり、例えばここでは高温側出口温度と低温側入口温度との温度差である。
【0008】
本発明の目的は、前述した問題を解決又は緩和することである。特に、本発明は、エネルギー供給の必要性を比較的低く抑えながら、ひいてはCO2の排出量を削減しながら、生成物の劣化を最小限度に抑え得る代替の低排出分解炉システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明の第1の態様によれば、炭化水素供給原料を分解ガスに変換するための分解炉システムであって、対流部、放射部及び冷却部を備えており、
前記対流部は、炭化水素供給原料を受けて予熱するように構成された、第1の高温コイルを含む複数の対流バンクを有しており、
前記放射部は、熱分解反応を可能にする温度に前記炭化水素供給原料を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有しており、
前記冷却部は、少なくとも1つの移送ライン交換器を有しており、
前記分解炉システムは、炭化水素供給原料を前記放射部に送る前に前記移送ライン交換器によって予熱するように構成されており、
前記対流部は、炭化水素供給原料が前記移送ライン交換器から出た後であって、前記放射部に入る前に前記炭化水素供給原料を予熱するように構成されている第2の高温コイルを有している、分解炉システムを提供する。
【0010】
一般に、前記第1の高温コイルは、炭化水素供給原料-希釈剤混合物を受けて予熱するように構成されており、従って、分解炉システムの対流部は、前記炭化水素供給原料を前記希釈剤と混合して、第1の高温コイルの上流側で前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を生成するように構成されている。
【0011】
更に、本発明は、分解炉システム、例えば本発明に係る分解炉システムで炭化水素供給原料を分解するための方法であって、
炭化水素供給原料を希釈剤と混合して、炭化水素供給原料-希釈剤混合物を生成し、前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物に第1の供給原料予熱工程、第2の供給原料予熱工程及び第3の供給原料予熱工程を与えて、その後、前記炭化水素供給原料が分解される、前記分解炉システムの放射部に前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を送り、
前記第1の供給原料予熱工程では、第1の高温コイルを使用して分解炉システムの高温の煙道ガスによって炭化水素供給原料-希釈剤混合物を予熱し、
前記第2の供給原料予熱工程では、移送ライン交換器を使用して前記分解炉システムの分解ガスの廃熱によって前記炭化水素供給原料-希釈剤混合物を更に予熱し、
前記第3の供給原料予熱工程では、第2の高温コイルを使用して前記分解炉システムの高温の煙道ガスによって前記炭化水素供給原料を更に予熱する、方法に関する。
【0012】
特に、本発明は、請求項1~9のいずれかに係る分解炉システム、及び請求項10~22のいずれかに係る炭化水素供給原料を分解するための方法に関する。
【0013】
本技術分野では、対流部の高温コイルは典型的には、周囲温度を既に超えている温度で高温コイルに入る供給原料を(更に)予熱するように構成されており、高温コイルに入る供給原料は、高温コイルの上流側の供給予熱器で最初の予熱工程を既に受けていてもよく、及び/又は(蒸気などの)希釈剤と混合されていてもよい。以下で更に詳細に説明するように、特に高温コイルは、高温コイルの入口側で水の露点を超える温度を有する供給原料(-希釈剤混合物)を(更に)予熱するように構成されている。特に、希釈蒸気を使用する場合、一般に希釈蒸気-炭化水素供給原料混合物の水の露点を超える必要がある。一般に、水の露点より少なくとも約30℃高い第1の高温コイルの入口側での供給原料(-希釈剤混合物)温度が好ましい。典型的には、第1の高温コイルの入口側での前記温度は、水の露点より30~70℃高い範囲、特に水の露点より35~65℃高い範囲内で選択され、水の露点より40~60℃高い範囲内の温度、例えば水の露点より約50℃高い温度が特に好ましい。
【0014】
供給原料に応じて、第1の高温コイルに入るとき、供給原料の炭化水素の露点を既に超えていてもよい。そうでない場合、供給原料-希釈剤混合物を典型的に、移送ライン交換器の分解ガスからの廃熱を使用して、更なる予熱工程の前に前記炭化水素の露点を超える温度に予熱する。典型的には、第2の供給原料-希釈剤予熱工程に入る前、つまり、移送ライン交換器に入る前に供給原料の炭化水素の露点を超えるように、対流部の外側の希釈(蒸気)混合ポイントでの完全な蒸発のために、その後、(分解する前に追加される全希釈剤の一部を含む)供給原料-希釈剤混合物を、第1の高温コイル内で部分的に蒸発させて、希釈剤、特に過熱された希釈蒸気の残り部分と混合する。深刻な汚れを防止すべく供給原料が移送ライン交換器に入る前に炭化水素の露点を超える必要がある。
【0015】
第1の供給原料-希釈剤予熱工程に入る前に又は入る際に、つまり第1の高温コイルで又は第1の高温コイルの前に希釈剤の少なくとも一部を追加する。従って、本発明の分解炉システムは、第1の高温コイルの上流側で希釈剤及び供給原料を混合するための手段を備えている。第1の供給原料-希釈剤予熱工程(第1の高温コイルでの予熱)で又は第1の供給原料-希釈剤予熱工程(第1の高温コイルでの予熱)の前に希釈剤の一部のみを追加する場合、第2の供給原料-希釈剤予熱工程(分解ガスからの廃熱を使用した移送ライン交換器での予熱)の前に希釈剤の残り部分を一般に追加する。従って、本発明に係る分解炉システムは、第1の高温コイルの下流側であって、分解ガスから供給原料-希釈剤混合物に廃熱を伝えるための移送ライン交換器の上流側で希釈剤及び供給原料を混合するための更なる手段を備えてもよい。
【0016】
更に、供給原料に応じて以下の事項を通常考慮する。
【0017】
ガス状の供給原料(エタン、プロパン及び蒸発LPG )では、供給原料は一般に、供給原料の炭化水素の露点を超えた状態で対流部に既に入っており、全ての希釈剤、特に希釈蒸気と混合する場合に水の露点を超えることを保証する温度にあるか又はこの温度まで加熱される必要があるだけである。
【0018】
液状の又は部分的に蒸発したLPG 及びナフサなどの軽い液状の供給原料では、供給原料を一般に、第1の高温コイルの前に供給予熱器で予熱して部分的に蒸発させる。供給原料を希釈剤、特に過熱された希釈蒸気と混合するときに炭化水素の最終蒸発が達成される。この場合も、水の露点を超える。
【0019】
重いかすを含むガス凝縮物及び軽い供給原料では、供給原料を一般に第1の高温コイルの前に供給予熱器で予熱して部分的に蒸発させ、次に、水の露点を超えるように希釈剤、特に過熱された希釈蒸気と混合する。しかしながら、重いかすは典型的には第1の高温コイルで蒸発するだけである。
【0020】
軽油などの重い供給原料では、供給原料を一般にまず予熱して、次に希釈剤の一部、特に過熱された希釈蒸気と混合し、第1の高温コイルに入る前に水の露点を超える。この第1の高温コイルでは、蒸気を使った部分蒸発を供給原料に行う。第2の供給原料-蒸気予熱工程に入る前に、希釈剤の残り部分、特に過熱された希釈蒸気と混合することにより、最終蒸発を典型的に行う。この場合、第2の供給原料-蒸気予熱工程は(一次)移送ライン交換器になる。
【0021】
当業者は、周知の一般的な知識に基づき露点を決定することができる。
【0022】
放射部は、供給原料の熱分解反応を可能にする温度に供給原料(-希釈剤混合物)を加熱するように構成された少なくとも1つの放射コイルを有する火室を有している。冷却部は、熱交換器として少なくとも1つの移送ライン交換器を有している。分解炉システムは、供給原料(-希釈剤混合物)を放射部に送る前に移送ライン交換器によって予熱するように構成されている。本発明に係るシステム又は方法で分解生成物から供給原料(-希釈剤)混合物に廃熱を伝えるための移送ライン交換器は一般に、分解ガスから供給原料への直接熱伝達を可能にするように構成されている。発明的な方法では、対流部は、供給原料が移送ライン交換器から出た後であって、放射部に入る前に供給原料(-希釈剤混合物)を予熱するように構成されている第2の高温コイルを有している。放射部に入る前の供給原料(-希釈剤混合物)の最終予熱を第2の高温コイルによって行うことができるので、移送ライン交換器の低温側の出口温度は比較的低く、例えば600 ℃を超える代わりに約550 ℃程度に維持され得るため、高温側の出口温度がより高くなる。その結果、対数平均温度差が比較的大きくなり、反応平衡の固定を促進して、生成物から副生成物への変換を制限し、システムの収率を上げることができる。加えて、移送ライン交換器による冷却部での供給原料(-希釈剤混合物)の部分的な予熱により、分解炉システムへのエネルギー供給を削減するという利点が維持され得る。
【0023】
第2の高温コイルは、好ましくは対流部の底部に配置されてもよい。対流部の底部領域の温度が対流部の頂部領域の温度より高く、必要な仕事量を与え得るのに十分高いため、この位置は、供給原料を予熱する際に比較的高い効率をもたらし得る。更に、例えば放射部から出る煙道ガスの温度変動及び/又は煙道ガスの流量変動により火室効率が変化する場合、第2の高温コイルは、これらの変動が供給原料の放射コイル入口温度に与える影響を取り除き得る。これらの煙道ガスの温度及び/又は流量の変動は、例えば風の強い状態、又は燃料ガスの組成及び/若しくは圧力の変動に起因し得る。煙道ガスの温度の上昇により火室効率が低下すると、放射コイル入口温度でもある、供給原料の第2の高温コイル出口温度が上昇する。供給原料の放射コイル入口温度が上昇する場合、実質的に一定の放射コイル出口温度を維持するために、燃焼を弱める必要が有り得る。このように燃焼を弱めることにより、火室効率を再び高めて、効率の低下を部分的に打ち消すことができる。供給原料(-希釈剤混合物)のより低い入口温度は放射仕事量を高めて火室効率を低下させ、燃料消費量を増やす一方、より高い入口温度は対流部内の供給原料の変換、及び対流部の管の内面へのコークスの関連する堆積を生じさせ得るので、最適化された放射コイル入口温度の維持は重要である。管の温度は対流部内のコークスの燃焼には低過ぎるので、放射コイル内のコークスを除去するための定期的な炭素除去サイクル中に、このコークス堆積物を除去することができず、対流部内の影響を受けた管の切断及びコークスの機械的な除去のために長期に亘って費用がかかる炉の操業停止が最終的に必要である。
【0024】
更に、第2の高温コイルは、移送ライン交換器の低温側の滞留領域内でのコークス及び堆積物の形成による早期変換及び関連する汚れのリスクを低下させるという利点をもたらす。これは特に、低温側の移送ライン交換器内の最高動作温度を下げることによって実現される。
【0025】
移送ライン交換器の外側の第2の高温コイル内で最終予熱を行うことにより、高温コイルに滞留領域がないため、早期変換及び関連する汚れのこのリスクが回避され得る。
【0026】
本発明に係るシステムは、過熱された希釈蒸気を生成するように構成されている希釈蒸気過熱器を備えていることが有利である。複数の対流バンクの内の少なくとも1つが、高圧蒸気又は希釈蒸気を夫々過熱するように構成されている高圧蒸気過熱器又は希釈蒸気過熱器である場合、第2の高温コイルは、好ましくは少なくとも1つの蒸気過熱器の上流側で対流部の底部に配置され得る。そのため、第2の高温コイルは、蒸気過熱器を過熱から保護することができる。
【0027】
対流部は、前記炭化水素供給原料を希釈剤、好ましくは希釈蒸気と混合して、供給原料-希釈剤混合物を与えるように有利に構成されている。従って、有利には第1の高温加熱コイルは供給原料-希釈剤混合物を予熱するように構成されており、移送ライン交換器は、放射部に送る前に供給原料-希釈剤混合物を予熱するように構成されており、第2の高温コイルは、供給原料-希釈剤混合物が移送ライン交換器から出た後であって、放射部に入る前に供給原料-希釈剤混合物を予熱するように構成されている。更に、本発明に係る分解炉の対流部は、対流バンクの更なるバンク、つまり、予熱された供給原料を希釈剤の少なくとも一部と混合するように構成されている分解炉の手段の上流側で炭化水素供給原料を予熱するように構成されている供給予熱器を通常更に有している。様々なタイプの供給原料について説明している上記を更に参照されたい。
【0028】
希釈剤の一部又は全部が、第1の高温コイルの上流側で炭化水素供給原料と混合される。希釈剤の一部のみが、第1の高温コイルに送られる前に供給原料と混合される場合、残り部分は、(分解生成物からの廃熱を使用した)移送ライン交換器による予熱工程の前に通常追加される。希釈剤は、好ましくは蒸気、特に過熱された蒸気とすることができる。或いは、メタンを蒸気の代わりに希釈剤として使用することができる。供給原料-希釈剤混合物は通常、対流部で過熱される。このため、供給原料-希釈剤混合物がいかなる液滴も含まないことが保証される。過熱の量は、(第1の高温コイル、移送ライン交換器及び第2の高温コイルのいずれかでの)希釈剤又は(混合物の第2の予熱工程のための移送ライン交換器での)供給原料炭化水素の望ましくない凝縮を防止するために露点を十分な差で確実に超えるのに十分である必要がある。
【0029】
加えて、対流部、及びより高い温度のためにコークス形成のリスクが依然としてより高い移送ライン交換器での供給原料の分解及びコークス形成を防ぐことができる。更に、供給原料-希釈剤混合物及び分解ガスの両方の比熱が非常に近いので、生じる熱流も熱交換器、つまり移送ライン交換器の壁の両側で近い。これは、熱交換器が、熱交換器の一端部から他端部に熱交換器に亘って高温側及び低温側間の流体のほとんど同じ温度差で動作し得ることを意味する。これは、高温側及び低温側間のこの温度差が比較的大きくなり得る場合でも、プロセスの観点及び機械的な観点の両方から有利である。(一次)移送ライン交換器の高温側及び低温側間の流体のこのような比較的大きな温度差に対処するために、当業者に知られているように、膨張ベローズが移送ライン交換器に連結されてもよい。従って、本発明に係る分解炉システム又は本発明に係る方法で使用される分解炉システムは、過熱された炭化水素供給原料-希釈剤混合物(典型的には炭化水素供給原料及び希釈蒸気の混合物)を供給して、著しく過熱された(一次)移送ライン交換器に送るように通常構成されており、これにより、前記移送ライン交換器での露点腐食を防止することができる。
【0030】
分解炉システムが、飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている蒸気ドラムを更に備え得ることが好ましい。ボイラ水が、例えば蒸気ドラムに供給されて、分解炉システムの蒸気ドラムから少なくとも1つの移送ライン交換器に流れることができる。蒸気及び水の混合物を移送ライン交換器の内部で部分的に蒸発させた後、蒸気ドラムに送ることができ、蒸気ドラムで、残っている液体水から蒸気を分離することができる。
【0031】
分解炉システムは、一次移送ライン交換器が供給原料を予熱するためだけに構成されてもよい一方、一次移送ライン交換器の下流側に配置されて蒸気ドラムに連結され、蒸気ドラムからのボイラ水を少なくとも部分的に蒸発させるように構成されている二次移送ライン交換器を更に備え得ることがより好ましい。火室効率、ひいては冷却部の有効熱量に応じて、二次移送ライン交換器は、放射部からの分解ガスを更に冷却するために主移送ライン交換器つまり一次移送ライン交換器の後に直列に配置され得る。主移送ライン交換器は、供給原料を放射部に送る前に予熱するように構成されている一方、二次移送ライン交換器はボイラ水を部分的に蒸発させるように構成され得る。分解炉システムは、一又は複数の二次熱交換器を備えることができるが、主移送ライン交換器は、高圧飽和蒸気を発生させるのではなく供給原料を予熱するように常に構成されている。二次移送ライン交換器は、追加の仕事量を、例えば比較的長くすることにより、与えるように構成されていることが好ましい。一次移送ライン交換器からの供給原料の低温側出口温度は、供給原料を更に予熱するように構成されている第2の高温コイル無しのシステムより低いため、一次移送ライン交換器からの排出物の高温側出口温度は先行技術のシステムより高いので、二次移送ライン交換器は、二次移送ライン交換器の同様の出口温度に達するために先行技術のシステムより多くの仕事量を処理して排出物を更に冷却する必要があり得る。
【0032】
対流部は、蒸気ドラムからの高圧蒸気を過熱するように構成されている少なくとも1つの高圧蒸気過熱器を好ましくは有し得る。更に及び/又は或いは、ボイラ水が、対流部で高圧蒸気を発生させるように構成されてもよい、少なくとも1つの高圧蒸気過熱器の内の1つに直接供給され得る。高圧蒸気過熱器が場合によっては過熱する場合があるので、高圧蒸気過熱器は、高圧蒸気過熱器から熱を移動させることができる別のタイプの対流バンクによって好ましくは保護される。既知のタイプの高効率分解炉では、飽和蒸気を発生させるように構成されているボイラコイルが対流部の底部に配置されており、高圧蒸気過熱器を保護しながら、更に煙道ガスの熱から高圧蒸気を発生させることができる。しかしながら、加熱するボイラ水と冷却する煙道ガスとの温度差が比較的大きいため、このような構成は、エネルギー移動の観点から最適な選択ではない場合がある。本発明の場合のように、高圧蒸気過熱器の上流側に配置された第2の高温コイルを使用して高圧蒸気過熱器を過熱から保護することにより、システムのエネルギー移動が最適化され得る。
【0033】
火室は、好ましくは火室効率が40%より高く、好ましくは45%より高く、より好ましくは48%より高いように構成され得る。上述したように、火室効率は、熱分解により炭化水素供給原料を分解ガスに変換するために少なくとも1つの放射コイルに吸収される熱と、燃焼プロセスによって放出される熱との比である。供給原料を放射部に送る前に冷却部の移送ライン交換器によって予熱することがない従来の分解炉の通常の火室効率は約40%である。この火室効率を超える場合、煙道ガスで利用可能な熱が不十分であるので、供給原料を最適温度まで加熱することができず、火室効率を約40%から約48%に高めることにより、対流部で利用可能な熱の割合が約50~55%から約42~47%に下がる。
【0034】
このような先行技術のシステムに対して、本発明に係るシステムは、対流部での熱のこのような利用可能性の低下に対処することができる。火室効率を約40%から約48%に高めることにより、燃料の約20%を節約することができる。様々な方法で、例えば火室内の断熱火炎温度を上昇させることにより、及び/又は少なくとも1つの放射コイルの熱伝達率を高めることにより、火室効率を高めることができる。断熱火炎温度を上昇させずに火室効率を上昇させることにより、更に述べられる火室効率を高める他の方法である酸素-燃料燃焼又は予熱空気燃焼の場合のように、NOx 排出量が実質的に増加しないという利点がある。
【0035】
例えば、燃焼が火室の高温側、つまり、底部燃焼炉の場合には火室の底部の近くの領域、又は頂部燃焼炉の場合には頂部の近くの領域に制限されるように、火室が構成され得る。火室は好ましくは十分な熱伝達領域を有しており、より具体的には、少なくとも1つの放射コイルの熱伝達表面積は、40%より高く、好ましくは45%より高く、より好ましくは48%より高い火室効率を得るために十分低い、火室の出口又は対流部の入口での温度に煙道ガスを冷却しながら、少なくとも1つの放射コイル内で供給原料の必要な変換レベルに供給原料を変換するのに必要な熱を伝えるために十分大きい。火室の少なくとも1つの放射コイルは、欧州特許出願公開第1611386 号明細書、欧州特許出願公開第2004320 号明細書又は欧州特許出願公開第2328851 号明細書に開示されているような旋回流管、又は英国特許出願第1611573.5 号明細書に開示されているような巻き環状放射管のような非常に効率的な放射管を好ましくは含む。前記少なくとも1つの放射コイルは、米国特許出願公開第2008/142411号明細書に開示されているような3レーン構成のような改良された放射コイル構成を有することがより好ましい。
【0036】
本発明に係る分解方法に関して、適切で好ましい条件/工程を上記の説明に基づき決定することができる。特に好ましい実施形態では、供給原料-希釈剤混合物は第1の高温コイルで予熱されて、第1の高温コイルを出て(分解ガスからの廃熱が伝えられる移送ライン交換器で)第2の供給原料-希釈剤予熱工程に入る供給原料-希釈剤混合物は、供給原料の炭化水素の露点を超える温度を有する。
【0037】
特に好ましい実施形態では、炭化水素供給原料-希釈剤混合物は対流部で過熱される。ここでは、供給原料と最も好ましくは混合される希釈剤は過熱蒸気である。供給原料-希釈剤混合物の第1の予熱工程の前に、希釈剤の本質的に全てが供給原料と混合されてもよいが、第1の予熱工程の前に希釈剤の一部を供給原料と混合して、その後、前記第1の予熱工程後に残り部分を混合することが更に可能である。その後、更なる希釈蒸気を供給原料-希釈剤混合物に追加し、その後、移送ライン交換器を使用して分解炉システムの分解ガスの廃熱により供給原料-希釈剤混合物を更に予熱する。
【0038】
更に、供給原料を希釈剤と混合する前に、供給原料に予熱工程を既に与えることが特に好ましい。
【0039】
本発明を、例示的な実施形態の図面を参照して更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明に係る分解炉システムの第1の好ましい実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る分解炉システムの第2の実施形態を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る分解炉システムの第3の実施形態を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る分解炉システムの第4の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
尚、図面は本発明の実施形態の概略図として示されている。対応する要素は対応する参照符号で示されている。
【0042】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る分解炉システム40を示す概略図である。分解炉システム40は、複数の対流バンク21を有する対流部を備えている。炭化水素供給原料1 を供給予熱器22に送ることができる。供給予熱器22は、分解炉システム40の対流部20内の複数の対流バンク21の内の1つとすることができる。この炭化水素供給原料1 は、好ましくは天然のパラフィン系又はナフテン系のあらゆる種類の炭化水素とすることができるが、少量の芳香族化合物及びオレフィンが更に存在し得る。このような供給原料の例として、エタン、プロパン、ブタン、天然ガソリン、ナフサ、灯油、天然の凝縮物、軽油、減圧軽油、水素化処理若しくは脱硫若しくは水素化脱硫された(減圧)軽油又はこれらの組み合わせがある。供給原料の状態に応じて、供給原料を予熱器で予熱する及び/又は部分的に若しくは完全に蒸発させ、その後、希釈蒸気2 などの希釈剤と混合する。希釈蒸気2 を直接注入することができる。或いは、この好ましい実施形態のように、希釈蒸気2 をまず希釈蒸気過熱器24で過熱して、その後、供給原料1 と混合することができる。例えば、より重い供給原料のために1つの蒸気注入ポイント又は複数の蒸気注入ポイントを設けることが可能である。
【0043】
混合した供給原料/希釈蒸気混合物13は第1の高温コイル23で、次に一次移送ライン交換器35で更に加熱され得る。混合した供給原料/希釈蒸気混合物13が一次移送ライン交換器35を出た後であって、放射部10に入る前に、供給原料又は混合物は、本発明によれば、対流部20内の第2の高温コイル26によって更に予熱されて、放射コイル11に導入するための最適温度に達する。放射コイルは、例えば、上述したタイプの内の1つ、又は当業者に知られているように適度な連続運転時間を維持するあらゆる他のタイプとすることができる。放射コイル11では、熱分解反応が開始するポイントまで炭化水素供給原料を迅速に加熱するので、炭化水素供給原料が生成物及び副生成物に変換される。このような生成物は、特に水素、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、スチレン及び/又はキシレンである。副生成物は、特にメタン、芳香族化合物及び燃料油である。希釈蒸気などの希釈剤、変換されなかった供給原料及び変換された供給原料の生じた混合物(「分解ガス」と称される反応器排出物)を一次移送ライン交換器35で迅速に冷却して、生成物に有利な反応の平衡を固定する。
【0044】
供給原料又は供給原料/希釈蒸気混合物13を加熱することにより、分解ガス8 の廃熱を、まず一次移送ライン交換器35で回収し、次に、放射部10に送る前に第2の高温コイル26で更に予熱するために対流部に戻す。少なくとも更なる移送ライン交換器、つまり、一次移送ライン交換器35の下流側に配置されて、ボイラ水9aから少なくとも部分的に蒸発したボイラ水9bによって飽和高圧蒸気を発生させるように構成されている二次移送ライン交換器36で、分解ガス8 のあらゆる更なる過剰な廃熱を更に回収してもよい。
【0045】
システムは、飽和高圧蒸気4 を発生させるように構成されている蒸気ドラム33を備えることができる。ボイラ給水3 を蒸気ドラム33に供給してもよい。その後、ボイラ水9aが二次移送ライン交換器36に供給されて、二次移送ライン交換器でボイラ水を部分的に蒸発させてもよい。そのため、少なくとも部分的に蒸発したボイラ水9bは、自然循環によって蒸気ドラムに還流してもよい。蒸気ドラム33では、発生した飽和蒸気をボイラ水から分離して、対流部20に送って、対流部20の少なくとも1つの高圧蒸気過熱器25、例えば第1及び第2の過熱器25によって過熱することができる。前記少なくとも1つの過熱器25は、好ましくは希釈蒸気過熱器24の上流側に、好ましくは第2の高温コイル26の下流側に設けられ得る。高圧蒸気の温度を制御するために、第1の過熱器25と第2の過熱器25との間に設けられた過熱低減器34に追加のボイラ給水3 を注入することができる。
【0046】
吸熱性の高い熱分解反応のための反応熱は、当業者に知られているように、多くの様々な方法で炉火室とも称される放射部10内に燃料(ガス)5 の燃焼によって供給され得る。燃焼空気6 を、例えば炉火室の燃焼器12に直接導入することができ、燃焼器12内で、燃料ガス5 及び燃焼空気6 を燃焼させて熱分解反応のための熱を与える。或いは、例えば対流部20の下流側、好ましくは図示されているように対流部のあらゆる他の対流部バンクの下流側に設けられた空気予熱器27として具体化された対流バンクによって、燃焼空気6 を対流部20内でまず予熱してもよい。燃焼空気6 を、例えば押込ファン37によって空気予熱器27に導入してもよい。燃焼空気を予熱することにより、断熱火炎温度を上昇させることができ、火室をより効率的にすることができる。
【0047】
炉火室内の燃焼ゾーン14で、燃料5 及び(予熱された)燃焼空気を水及びCO
2 などの燃焼生成物、いわゆる煙道ガスに変換する。煙道ガス7 からの廃熱を、様々なタイプの対流バンク21を使用して対流部20内で回収する。熱の一部をプロセス側、つまり、炭化水素供給原料及び/又は供給原料-希釈剤混合物の予熱及び/又は蒸発及び/又は過熱のために使用し、熱の残りを非プロセス側、例えば上述したような高圧蒸気の発生及び過熱のために使用する。炉火室10内の燃焼は、底部燃焼器12及び/若しくは側壁燃焼器を用いて、並びに/又は頂部燃焼炉の屋根燃焼器及び/若しくは側壁燃焼器を用いて行われ得る。
図1に示されているような炉火室10の例示的な実施形態では、燃焼は、底部燃焼器12のみを使用して火室の下部に制限される。このため、従来の機構と比較して火室効率を高めて、燃料ガス消費量を最大約20%まで大幅に減らすことができる。高い火室効率は特に、例えば底部燃焼の場合には(図示されているような)底部燃焼器若しくは底部の近くに置かれた複数列の側壁燃焼器のみを用いて達成され得るか、又は、頂部燃焼の場合には屋根燃焼器若しくは屋根の非常に近くに置かれた複数列の側壁燃焼器のみを用いて達成され得る。
【0048】
この目的を実現するための他の例として、火室をより高くするか、又はより効率的な放射コイルを設けることがある。この場合の熱分布は放射コイルの一部にある程度集中するので、局所的な熱流束が増加し、連続運転時間を減らす。この影響を打ち消すために、適度な連続運転時間を維持すべく、例えば旋回流管タイプ又は巻き環状放射管タイプなどの熱伝達を向上させる放射コイル管を放射コイルに適用することが必要であってもよい。3レーンコイル構成などのより良い性能を得るための他の手段を別々に又は他の手段と組み合わせて更に使用して連続運転時間を延ばすことが可能である。
図1の実施形態では、煙道ガスファンとも称される誘引ファン30、及び煙道ガスを対流部20から排出するために対流部の下流側端部に設けられた煙突31が更に示されている。
【0049】
新規の発明的な配置では、最適化された放射コイル入口温度が維持され得る一方、一次移送ライン交換器の対数平均温度差が拡大され得るため、反応平衡の固定を促進して、生成物から副生成物への変換を制限し、システムの収率を上げることができる。例として、供給原料を約350 ℃の低温側入口温度で一次移送ライン交換器35に送って、先の約610 ℃の代わりに約555 ℃の低温側出口温度に予熱してもよい一方、更に、排出物を約810 ℃の高温側入口温度で一次移送ライン交換器35に送って、先行技術の構成では約575 ℃の代わりに約630 ℃の高温側出口温度に冷却してもよい。これにより、対数平均温度差が213 ℃から267 ℃に増加し、これは、一次移送ライン交換器における対数平均温度差の25%の増加に相当し、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどの生成物の大規模な生産能力に重要である可能性があるシステムの収率を約0.1 %からおおよそ2.0 %に上げる。前述したように、供給原料のより低い入口温度は放射仕事量を高めて火室効率を低下させ、燃料消費量を増やす一方、より高い入口温度は対流部内の供給原料の変換、及び対流部の管の内面へのコークスの関連する堆積を生じさせ得るので、最適化された放射コイル入口温度の維持は重要である。
【0050】
対流部の第1の高温コイル、冷却部の移送ライン交換器及び対流部の第2の高温コイルにより炭化水素供給原料を3段階で予熱する本発明は、代替の分解炉システム、及びこの分解炉システムで炭化水素供給原料を分解する方法に有利に更に適用され得る。
図2は、本発明に係る分解炉システムの第2の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、燃焼器12内で燃焼する燃料ガス5 、燃焼空気6 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。燃焼ゾーン14への酸素の導入は、
図1に示されている機構に代わる方法として断熱火炎温度を更に上昇させ得る。
【0051】
図3は、本発明に係る分解炉システムの第3の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、外部で再循環する煙道ガス52の存在下で燃焼器12内で燃焼する燃料(ガス)5 、燃焼空気6 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。燃焼酸素51を、放出器55を使用して燃焼器12へ共通のラインで燃焼器12の上流側で再循環煙道ガス52と混合することができる。再循環煙道ガス52を得るために、対流部20を出る煙道ガスを、生成された煙道ガス7 及び外部再循環のための煙道ガス52に、例えば煙道ガス分離器54によって分離することができる。生成された煙道ガス7 を、誘引ファン30を使用して煙突31を通して排出することができる。誘引ファン30は、煙道ガスを燃焼器12の外部で再循環させるように構成され得る。或いは、誘引ファン30は、下流のシステム、例えば煙突31又は煙道ガス再循環回路52の圧力降下差などのパラメータに応じて2以上のファンとして具体化されてもよい。
【0052】
図4は、本発明に係る分解炉システムの第4の実施形態を示す概略図である。この実施形態では、炉火室10内での熱分解反応のための熱が、外部で再循環する煙道ガス52の存在下で燃焼器12内で燃焼する燃料(ガス)5 、及び窒素を十分除去した燃焼酸素51によって与えられる。この機構は、全ての燃焼空気6 が燃焼酸素51と取り替えられている点を除いて
図3に示されている機構とほとんど同一である。この機構は、燃焼酸素51の消費量が最も多いが、煙突を出る煙道ガスの量が最も少ない機構である。この煙道ガスはCO
2 が非常に豊富であるため、炭素の捕捉には理想的であり、対流部への空気漏れに関連した窒素を除いて窒素が存在しないため、NOx 排出量は最も少ない。この機構は最も環境にやさしい。
【0053】
本発明に繋がる研究は、助成金契約第723706号に基づき欧州連合ホライズンH2020 プログラム(H2020-SPIRE-04-2016)からの資金を受けている。
【0054】
明瞭化及び簡潔な説明のために、特徴は、同一の実施形態又は個別の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、本発明の範囲は、記載された特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を包含し得ることが認識される。示された実施形態は、異なっていると記載されている例とは別に、同一の要素又は同様の要素を有すると理解され得る。
【0055】
特許請求の範囲では、括弧内のあらゆる参照符号は、請求項を限定すると解釈されないものとする。「備えている」という文言は、請求項に記載されている特徴又は工程以外の他の特徴又は工程の存在を除外しない。更に、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という文言は、「1つのみ」に限定すると解釈されないものとするが、代わりに「少なくとも1つ」を意味すべく使用され、複数を除外しない。ある手段が互いに異なる請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが利点のために使用され得ないことを示さない。多くの変形例が当業者には明らかである。全ての変形例は、以下の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲内に含まれると理解される。
【符号の説明】
【0056】
1.炭化水素供給原料
2.希釈蒸気
3.ボイラ給水
4.高圧蒸気
5.燃料ガス
6.燃焼空気
7.煙道ガス
8.分解ガス
9a.ボイラ水
9b.部分的に蒸発したボイラ水
10.放射部/炉火室
11.放射コイル
12.底部燃焼器
13.供給原料/希釈蒸気混合物
14.燃焼ゾーン
20.対流部
21.対流バンク
22.供給予熱器
23.第1の高温コイル
24.希釈蒸気過熱器
25.高圧蒸気過熱器
26.第2の高温コイル
27.空気予熱器
30.誘引ファン
31.煙突
33.蒸気ドラム
34.過熱低減器
35.一次移送ライン交換器
36.二次移送ライン交換器
37.押込ファン
40.分解炉システム
50.予熱燃焼空気
51.酸素
52.外部で再利用される煙道ガス
54.煙道ガス分離器
55.煙道ガス放出器
【国際調査報告】