IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニーの特許一覧 ▶ イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特表-方法 図1
  • 特表-方法 図2
  • 特表-方法 図3
  • 特表-方法 図4
  • 特表-方法 図5
  • 特表-方法 図6
  • 特表-方法 図7
  • 特表-方法 図8
  • 特表-方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20221117BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221117BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221117BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20221117BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/1391
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517993
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-04-06
(86)【国際出願番号】 GB2020052284
(87)【国際公開番号】W WO2021058941
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】1913817.1
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(71)【出願人】
【識別番号】522306561
【氏名又は名称】イーブイ・メタルズ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】EV Metals UK Limited
(72)【発明者】
【氏名】ケアンズ、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ダイアモンド、アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AB04
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA12
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA23
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を製造するための方法が提供される。この方法は、制御された量のコーティング液をリチウムニッケル金属酸化物粒子に添加することと、その後の焼成工程を含む。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1に記載の組成を有する表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を製造する方法であって、
LiNi2+b
式1
[式中、
Mは、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2
0.5≦x<1
0<y≦0.5
0≦z≦0.2
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1
前記方法は、
(i)複数の一次粒子を含む二次粒子の形態のリチウムニッケル金属酸化物粒子を用意する工程と、
(ii)少なくとも50℃の温度のコーティング液を用意する工程であって、前記コーティング液が少なくとも1つの金属含有化合物を含む、工程と、
(iii)前記リチウムニッケル金属酸化物粒子に前記コーティング液を添加して含浸粉末を形成する工程であって、前記コーティング液の添加体積が前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の見かけの細孔容積の50~150%に相当する、工程と、
(iv)前記含浸粉末を焼成して、前記表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記式中、AがAl及び/又はMgである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式中、MがCoを含み、前記コーティング液がコバルト含有化合物、好ましくは硝酸コバルトを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物の粒界におけるコバルトの濃度が、前記表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物の一次粒子におけるコバルトの濃度よりも高い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記式中、AがAlを含み、前記コーティング液がアルミニウム含有化合物、好ましくは硝酸アルミニウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物の粒界におけるアルミニウムの濃度が、前記表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物の一次粒子におけるアルミニウムの濃度よりも高い、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティング液が、リチウム含有化合物、好ましくは硝酸リチウムを含む、請求項3~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記式中、MがCoである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング液が、50~80℃の温度で供給される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記添加工程が40~80℃の温度で行われる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティング液が、少なくとも1つの水和金属塩を加熱することによって形成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティング液中の金属の総モル濃度が、少なくとも0.5mol/L、少なくとも0.75mol/L、少なくとも1mol/L、少なくとも1.25mol/L、少なくとも1.5mol/L、少なくとも1.75mol/L又は少なくとも2mol/Lである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティング液を前記リチウムニッケル金属酸化物粒子に噴霧することによって、前記コーティング液を前記リチウムニッケル金属酸化物粒子に添加する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記焼成工程が400~1000℃の温度で行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
添加されるコーティング液の体積が、前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の前記見かけの細孔容積の70~150%、好ましくは前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の前記見かけの細孔容積の90~150%又は90~125%に相当する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
添加されるコーティング液の体積が、前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の前記見かけの細孔容積の100~150%、好ましくは前記リチウムニッケル金属酸化物粒子の前記見かけの細孔容積の100~125%に相当する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を形成する工程を更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む前記電極を含む電池又は電気化学セルを構築する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次リチウムイオン電池のカソード材料としての有用性を有するリチウムニッケル金属酸化物材料を製造するための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造を有するリチウムニッケル金属酸化物材料は、二次リチウムイオン電池のカソード材料として有用である。電気化学的安定性及びサイクル性能を改善するために、そのような材料中のニッケルを種々の量で他の金属と置き換えることができる。また、粒子表面における、又は二次粒子の場合には隣接する一次粒子間の粒界における特定の金属元素の量を増加又は濃縮することが、電気化学的性能を改善するための有効な方法であり得ることも分かっている。
【0003】
典型的には、粒界富化は、リチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子を、1つ以上の金属含有化合物の溶液に浸漬し、次いで蒸発によって溶媒を除去し、その後熱処理又は焼成工程を行うことによって達成される。
【0004】
例えば、国際公開第2013025328号には、層状のα-NaFeO型構造を有するリチウムニッケル金属酸化物組成物を含む複数の結晶子と、隣接する結晶子間の粒界とを含み、粒界におけるコバルトの濃度が結晶子よりも高い粒子が記載されている。国際公開第2013025328号の実施例2は、組成Li1.01Mg0.024Ni0.88Co0.122.03を有し、コバルト富化粒界を有する。粒界の富化を達成するために、リチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子を硝酸リチウム及び硝酸コバルトの水溶液に添加し、続いて得られたスラリーを噴霧乾燥し、その後熱処理工程を行う。
【0005】
表面改質及び/又は粒界富化の使用は、追加のプロセスステップを必要とし、より高いエネルギー消費、プロセス廃棄物のレベルの増加、及びより高い製造コストをもたらすという欠点を有する。このことは、かかる材料の商業的実現可能性に影響を及ぼし、環境に影響を及ぼす可能性がある。リチウムニッケル金属酸化物材料の製造のための改善されたプロセスが依然として求められている。具体的には、表面改質及び/又は粒界富化をもたらす方法の改善が依然として求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、1つ以上の金属含有化合物の溶液中へのリチウムニッケル金属酸化物粒子の浸漬は、粒界富化を達成するために必要ではなく、リチウムニッケル金属酸化物材料の二次粒子へ制御された体積のコーティング液を添加することを用いて、多量に溶媒を蒸発させる必要なく、粒界における組成を改質することができることを見出した。更に、浸漬蒸発法によって生成された材料の電気化学的性能は、本明細書に記載の方法によって生成された材料と少なくとも一致し得、製造プロセス中に噴霧乾燥又は代替の蒸発工程を必要としないという利点により、エネルギー消費及び産業廃棄物を大幅に低減することが分かった。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様では、式1に記載の組成を有する表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を製造する方法が提供され、
LiNi2+b
式1
[式中、
Mは、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a≦1.2
0.5≦x<1
0<y≦0.5
0≦z≦0.2
-0.2≦b≦0.2
x+y+z=1]
方法は、
(i)複数の一次粒子を含む二次粒子の形態のリチウムニッケル金属酸化物粒子を用意する工程と、
(ii)少なくとも50℃の温度のコーティング液を用意する工程であって、コーティング液が少なくとも1つの金属含有化合物を含む、工程と、
(iii)リチウムニッケル金属酸化物粒子にコーティング液を添加して含浸粉末を形成する工程であって、コーティング液の添加体積がリチウムニッケル金属酸化物粒子の見かけの細孔容積の50~150%に相当する、工程と、
(iii)含浸粉末を焼成して、表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料を形成する工程と、を含む。
【0008】
本発明の第2の態様では、本明細書に記載の方法によって得られる又は得ることができる表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例3に従って製造された材料及び浸漬-噴霧乾燥の比較例のX線回折(XRD)パターンを示す。
図2】実験1~3によって製造された表面改質リチウムニッケル金属酸化物及び浸漬-噴霧乾燥の比較例の電気化学的試験の結果を示す。
図3】実験1~3によって製造された表面改質リチウムニッケル金属酸化物及び浸漬-噴霧乾燥の比較例のサイクル寿命試験の結果を示す。
図4】実験4及び実験5によって製造された表面改質リチウムニッケル金属酸化物及び浸漬-噴霧乾燥の比較例の電気化学的試験の結果を示す。
図5】実験4及び実験5によって製造された表面改質リチウムニッケル金属酸化物及び浸漬-噴霧乾燥の比較例のサイクル寿命試験の結果を示す。
図6】リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)基材及び実施例7で製造した表面改質NMC材料の電気化学試験の結果を示す。
図7】NMC基材及び実施例7で製造した表面改質NMC材料のサイクル寿命試験の結果を示す。
図8】実験4の方法に従って製造された材料の集束イオンビーム透過型電子顕微鏡(FIB-TEM)画像を示す。
図9】実験5の方法に従って製造された材料のFIB-TEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本発明の好ましいかつ/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0011】
本発明は、上で定義した式Iに記載の組成を有する表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の製造方法を提供する。
【0012】
式Iでは、0.8≦a≦1.2である。aは、0.9又は0.95以上であることが好ましい場合がある。aは、1.1以下、又は1.05以下であることが好ましい場合がある。0.90≦a≦1.10、例えば0.95≦a≦1.05、又はa=1若しくは約1であることが好ましい場合がある。
【0013】
式Iにおいて、0.5≦x<1である。0.6≦x<1、例えば0.7≦x<1、0.75≦x<1、0.8≦x<1、0.85≦x<1又は0.9≦x<1であることが好ましい場合がある。xは、0.99、0.98、0.97、0.96又は0.95以下であることが好ましい場合がある。0.75≦x<1、例えば、0.75≦x≦0.99、0.75≦x≦0.98、0.75≦x≦0.97、0.75≦x≦0.96又は0.75≦x≦0.95であることが好ましい場合がある。0.8≦x<1、例えば0.8≦x≦0.99、0.8≦x≦0.98、0.8≦x≦0.97、0.8≦x≦0.96又は0.8≦x≦0.95であることが更に好ましい場合がある。また、0.85≦x<1、例えば、0.85≦x≦0.99、0.85≦x≦0.98、0.85≦x≦0.97、0.85≦x≦0.96又は0.85≦x≦0.95であることが好ましい場合もある。
【0014】
Mは、Co及びMnのうちの1つ以上である。換言すれば、一般式は、代替的に、LiNiCoy1Mny22+bと書くことができ、式中、y1+y2は、0<y1+y2≦0.5を満たし、式中、y1又はy2のいずれかは0であってもよい。MがCo単独であること、すなわち表面改質リチウムニッケル金属酸化物がMnを含まないことが好ましい場合がある。
【0015】
式1において、0<y≦0.5である。yは、0.01、0.02又は0.03以上であることが好ましい場合がある。yは、0.4、0.3、0.2、0.15、0.1又は0.05以下であることが好ましい場合がある。また、0.01≦y≦0.5、0.02≦y≦0.5、0.03≦y≦0.5、0.01≦y≦0.4、0.01≦y≦0.3、0.01≦y≦0.2、0.01≦y≦0.1又は0.03≦y≦0.1であることが好ましい場合もある。
【0016】
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr及びCaのうちの1つ以上である。好ましくは、Aは、少なくともMg及び/又はAlであり、あるいは、Aは、Al及び/又はMgである。Aが2つ以上の元素を含む場合、zは、Aを構成する各元素の量の合計である。
【0017】
式Iでは、0≦z≦0.2である。0≦z≦0.15、0≦z≦0.10、0≦z≦0.05、0≦z≦0.04、0≦z≦0.03、又は0≦z≦0.02であることが好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、zは0である。
【0018】
式Iでは、-0.2≦b≦0.2である。bは、-0.1以上であることが好ましい場合がある。また、bが0.1以下であることが好ましい場合もある。-0.1≦b≦0.1であることが更に好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、bは、0又は約0である。
【0019】
典型的には、表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料は、結晶性(又は実質的に結晶性の材料)である。それは、α-NaFeO型構造を有していてもよい。
【0020】
表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子は、(1つ以上の結晶子から構成される)複数の一次粒子を含む二次粒子の形態である。一次粒子は、結晶粒としても知られ得る。一次粒子は、粒界によって分離されている。
【0021】
式Iの粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料は表面改質されている。本明細書では、「表面改質」という用語は、粒子の表面付近に少なくとも1つの元素の濃度を増加させる表面改質プロセスを受けた一次粒子及び/又は二次粒子を含む粒子状材料、すなわち、粒子が、粒子の表面又は表面付近に、粒子の残りの材料、すなわち粒子のコアよりも高い濃度の少なくとも1つの元素を含有する材料層を含むことを指す。表面改質は、粒子を1つ以上の更なる金属含有化合物と接触させ、次いで材料を加熱することから生じる。明確にするために記すと、本明細書の式Iに記載の組成の議論は、表面改質粒子の文脈では、粒子全体、すなわち改質表面層を含む粒子に関する。
【0022】
式Iの粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料は、富化された粒界を含んでもよく、すなわち、粒界における1つ以上の金属の濃度が、一次粒子中の1つ以上の金属の濃度よりも高くてもよい。粒界は、例えば、コバルト及び/又はアルミニウムで富化されてもよい。
【0023】
Mがコバルトを含み、一次粒子間の粒界におけるコバルトの濃度が一次粒子中のコバルトの濃度よりも高いことが好ましい場合がある。代替的又は追加的に、一次粒子間の粒界におけるアルミニウムの濃度が一次粒子中のアルミニウムの濃度よりも高いことが更に好ましい場合がある。
【0024】
一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、少なくとも0.5原子%、例えば少なくとも1原子%、少なくとも2原子%又は少なくとも2.5原子%であってもよい。一次粒子中のコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、35原子%以下、例えば30原子%以下、20原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、8原子%以下又は5原子%以下であってもよい。
【0025】
粒界におけるコバルトの濃度は、粒界におけるNi、M及びAの総含有量に対して、少なくとも1原子%、少なくとも2原子%、少なくとも2.5原子%又は少なくとも3原子%であってよい。粒界におけるコバルトの濃度は、一次粒子中のNi、M及びAの総含有量に対して、40原子%以下、例えば35原子%以下、30原子%以下、20原子%以下、15原子%以下、10原子%以下、又は8原子%以下であってよい。
【0026】
一次粒子中のコバルト濃度と粒界におけるコバルト濃度との差は、少なくとも1原子%、例えば少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であってもよい(粒界におけるコバルト濃度(原子%)から一次粒子中のコバルト濃度(原子%)を減算することによって計算される)。
【0027】
粒界における及び一次粒子中のコバルト又はアルミニウムなどの金属の濃度は、集束イオンビームミリングなどのセクショニング技術によって薄くスライスされた粒子の切片(例えば、厚さ100~150nm)における粒界の中心及び隣接する一次粒子の中心のエネルギー分散型X線(EDX)分析により求めることができる。
【0028】
表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、その表面にコバルトリッチのコーティングを有してもよい。二次粒子中のコバルトの濃度は、二次粒子の表面から二次粒子の中心に向かう方向に減少し得る。二次粒子の表面におけるコバルトの濃度と二次粒子の中心のコバルトの濃度との差は、少なくとも1原子%、例えば少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であってもよい(粒子の中心のコバルトの濃度(原子%)から粒子の表面におけるコバルトの濃度(原子%)を減算することによって計算される)。コバルトの濃度は、粒界及び一次粒子について上記で定義したように求めることができる。
【0029】
代替的又は追加的に、表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、それらの表面にアルミニウムリッチなコーティングを有してもよい。二次粒子中のアルミニウムの濃度は、二次粒子の表面から二次粒子の中心に向かう方向に減少し得る。二次粒子の表面におけるアルミニウムの濃度と二次粒子の中心のアルミニウムの濃度との差は、少なくとも1原子%、例えば少なくとも3原子%又は少なくとも5原子%であってもよい(粒子の中心のアルミニウムの濃度(原子%)から粒子の表面におけるアルミニウムの濃度(原子%)を減算することによって計算される)。アルミニウムの濃度は、粒界及び一次粒子におけるコバルトのレベルについて上で定義したように求めることができる。
【0030】
表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、典型的には、少なくとも1μm、例えば少なくとも2μm、少なくとも4μm又は少なくとも5μmの体積D50粒径を有する。表面改質リチウムニッケル金属酸化物(例えば二次粒子)の粒子は、典型的には、30μm以下、例えば20μm以下又は15μm以下のD50粒径を有する。表面改質リチウムニッケル金属酸化物の粒子は、1μm~30μm、例えば2μm~20μm、又は5μm~15μmのD50を有することが好ましい場合がある。D50粒径は、レーザー回折法を用いて(例えば、粒子を水に懸濁し、Malvern Mastersizer2000を使用して分析することによって)求めることができる。
【0031】
本明細書に記載の方法は、リチウムニッケル金属酸化物粒子へのコーティング液の添加を含む。
【0032】
リチウムニッケル金属酸化物粒子は、複数の一次粒子を含む二次粒子の形態で提供される。コーティング液の添加前の粒子は、「基材」として知られている場合がある。いくつかの実施形態では、基材の粒子は、式(II)に記載の組成を有する。
Lia1Nix1y1z12+b1
式II
[式中、
Mは、Co及びMnのうちの1つ以上であり、
Aは、Al、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr及びCaのうちの1つ以上であり、
0.8≦a1≦1.2
0.5≦x1<1
0<y1≦0.5
0≦z1≦0.2
-0.2≦b1≦0.2
x+y+z=1]
【0033】
式II中のAはAlではないことが好ましい場合がある。この場合、Aは、V、Ti、B、Zr、Cu、Sn、Cr、Fe、Ga、Si、Zn、Mg、Sr、及びCaのうちの1つ以上である。式II中のMがCo単独であること、すなわち、基材がMnを含まないことが好ましい場合もある。
【0034】
当業者であれば、値a1、x1、y1、z1及びb1並びに元素Aが、本明細書に記載の方法に倣って式1の所望の組成を得るように選択されることを理解するであろう。
【0035】
基材は、当業者に周知の方法によって製造される。これらの方法は、例えばアンモニアやNaOHなどの塩基の存在下で、金属硫酸塩などの金属塩の溶液から混合金属水酸化物を共沈殿させることを含む。場合によっては、適切な混合金属水酸化物は、当業者に既知の商業的供給業者から入手することができる。次いで、混合金属水酸化物は、焼成工程の前に、水酸化リチウム又は炭酸リチウムなどのリチウム含有化合物及びその水和形態と混合されて、基材を形成する。
【0036】
コーティング液は、少なくとも1つの金属含有化合物を含む。当業者であれば、コーティング液が表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の表面層中に存在することが望ましい元素を含むことを理解するであろう。金属含有化合物は、典型的には、硝酸塩、硫酸塩、クエン酸塩又は酢酸塩などの金属塩である。金属含有化合物は無機金属塩であることが好ましい場合がある。硝酸塩が特に好ましい場合がある。
【0037】
好ましくは、コーティング液はアルミニウム含有化合物を含む。アルミニウム含有化合物は、典型的には、無機アルミニウム塩、例えば硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩である。コーティング液中にアルミニウム含有化合物を使用すると、表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界及び/又は表面若しくは表面付近におけるアルミニウム濃度が増加し得る。
【0038】
代替的又は追加的に、コーティング液はコバルト含有化合物を含むことが好ましい。コバルト含有化合物は、典型的には、無機コバルト塩、例えば硝酸コバルトなどコバルト塩である。コーティング液にコバルトを含む化合物を用いることで、表面改質されたリチウムニッケル金属酸化物粒子の粒界及び/又は表面付近におけるコバルトの濃度を高めることができる。
【0039】
任意選択で、コーティング液はリチウム含有化合物を含む。このことは、寿命の低下につながる可能性がある表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物材料の構造におけるボイド又は欠陥を回避するために有益であり得ることを提案した。
【0040】
1つ以上の金属含有化合物は、金属塩の水和物、例えば、金属硝酸塩の水和物、例えば任意選択で、硝酸リチウムと組み合わせた硝酸コバルト及び/若しくは硝酸アルミニウムの水和物、又は硝酸リチウムの水和物などとして提供されることが好ましい場合がある。
【0041】
1つ以上の金属塩水和物を加熱してコーティング液を形成することが特に好ましい場合がある。有利には、そのような材料は、加熱時に水分を失うことで、高い金属濃度でコーティングするのに適した液体の相変化及び形成をもたらす。更に、金属塩水和物は、典型的には、脱水された等価物よりも経済的である。任意選択で、また必要に応じて、更なる水を添加して、必要な体積のコーティング液を得ることができる。
【0042】
コーティング液は、少なくとも50℃の温度で提供される。これにより、添加中において不十分な混合及び不均一なコーティングをもたらす1つ以上の金属含有化合物の結晶化の可能性が低減される。更に、高温を用いることによって、高濃度の金属塩を使用することができ、金属塩水和物を加熱することによってコーティング液を調製することができる。
【0043】
典型的には、コーティング液は、50~80℃、例えば50~75℃、55~75℃、60~75℃、又は65~75℃の温度で提供される。
【0044】
典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度(すなわち、コーティング液中の各金属のモル濃度の合計)は、少なくとも0.5mol/Lである。当業者であれば、使用されるコーティング液の総金属濃度が、基材に塗布される必要がある金属の量及び基材の見かけの細孔容積にも依存することを理解するであろう。ただし、0.5mol/L未満の総金属濃度では、基材の一貫したコーティング及び/又は粒界富化が提供されない可能性がある。好ましくは、コーティング液中の金属の総モル濃度は、少なくとも0.75mol/L、1.0mol/L、1.25mol/L、1.5mol/L、1.75mol/L、2.0mol/L、2.5mol/L又は3mol/Lである。
【0045】
当業者であれば、総モル濃度が、必要な体積のコーティング液中の金属含有化合物の溶解度によって制限されることを理解するであろう。典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度は7mol/L未満である。典型的には、コーティング液中の金属の総モル濃度は、0.5mol/L~7mol/L、例えば1mol/L~7mol/L、2mol/L~7mol/L、3mol/L~7mol/L、又は4mol/L~7mol/Lである。
【0046】
コーティング液は、リチウムニッケル金属酸化物粒子に添加される。典型的には、リチウムニッケル金属酸化物粒子は、コーティング液の添加前に混合容器に投入される。典型的には、粒子は、コーティング液の添加中に、例えばかき混ぜ又は撹拌によって混合される。これにより、コーティング液の均一な分布が確保される。
【0047】
添加工程は、形成された表面改質リチウムニッケル金属酸化物粒子における炭酸リチウムなどの不純物のレベルを低下させ得る、CO及び/又は水分を含まない雰囲気などの制御された雰囲気下で行うことが好ましい場合がある。
【0048】
添加は、入口パイプを介して混合容器に分割して添加するなどのいくつかの手段によって行うことができ、又はリチウムニッケル金属酸化物粒子にコーティング液を噴霧することによって行うことができる。コーティング液の噴霧は、コーティング液のより一貫した分布、より再現性のあるコーティング工程、及びコーティング液を完全に添加した後のより短い混合時間をもたらし得ると考えられる。
【0049】
添加工程は高温で行われてもよく、換言すれば、リチウムニッケル金属酸化物粒子が入っている容器を加熱する温度は、コーティング液を添加する前の周囲温度よりも高い温度、例えば、25℃より高い温度、好ましくは30℃より高い温度、又は40℃より高い温度である。添加工程において高温を用いることは、添加工程において、コーティング液の成分の固化又は結晶化の可能性を低減し、ひいては均質なコーティングを確実にするのに役立つ。
【0050】
添加工程は、40℃~80℃、例えば50℃~70℃、又は55℃~65℃の温度で行うことが好ましい場合がある。そのような添加温度を用いることにより、表面改質粒子状リチウムニッケル金属酸化物の電気化学的性能が改善され得、例えば容量保持が改善され得る。
【0051】
本明細書に記載の方法では、コーティング液は、リチウムニッケル金属酸化物粒子の見かけの細孔容積の50~150%に相当する体積でリチウムニッケル金属酸化物粒子に添加される。粒子の見かけの細孔容積の50%未満の体積のコーティング液を使用すると、表面改質が不均一になり得る。表面改質及び粒界富化を達成するためには、粒子の見かけの細孔容積の150%を超える体積のコーティング液を使用する必要はなく、そのようなコーティング液を使用すると、有害なことに、溶媒除去及び/又は乾燥並びに関連するエネルギー消費の必要性が増加することが分かっている。
【0052】
好ましくは、コーティング液は、リチウムニッケル金属酸化物粒子の見かけの細孔容積の70~150%、又はより好ましくは90~150%に相当する体積でリチウムニッケル金属酸化物粒子に添加される。利用可能な細孔容積の70%超又は90%超の体積のコーティング液を使用することにより、1つ以上の金属含有化合物をより多量に使用することが可能になり、それによって粒界濃縮が進み得る。
【0053】
好ましくは、コーティング液は、リチウムニッケル金属酸化物粒子の見かけの細孔容積の70~125%、又はより好ましくは90~125%に相当する体積でリチウムニッケル金属酸化物粒子に添加される。見かけの細孔容積の125%未満の体積のコーティング液を使用することにより、乾燥及び蒸発の必要性が低減する。また、粒子の見かけの細孔容積の125%を超える体積のコーティング液を使用すると、コーティング液を添加した時点で、リチウムニッケル金属酸化物粒子が入っている容器内にコーティング液がたまりを作る可能性があり、これは均一な表面改質を達成するのに有害であり得ることが見出された。添加されるコーティング液の体積は、粒子の見かけの細孔容積の95%~120%、又は95%~115%、又は95%~110%、又は95%~105%に相当することが好ましい場合がある。
【0054】
添加されるコーティング液の体積は、粒子の見かけの細孔容積の100%~150%、又は100~125%、100~120%、100~115%又は100~110%に相当することが好ましい場合もある。
【0055】
基材の単位質量当たりの見かけの細孔容積は、ブラベンダー社製アドソープトメーター「C」などのトルク測定システムを使用して求められる。この方法は、混合プロセス中のトルクの測定に関連する。混合しながらリチウムニッケル金属酸化物粒子に水を添加すると、体積付加トルク曲線にトルクピークが生じる。トルクピークの開始点における粒子の単位質量当たりに添加される水の体積は、粒子の単位質量当たりの見かけの細孔容積である。
【0056】
コーティング液を完全に添加した後に、粒子を一定期間混合してもよい。典型的には、粒子は、コーティング液を完全に添加した後、1~60分間混合され得る。次いで、焼成工程の前に、任意選択で、例えば100~150℃、例えば120℃の温度まで、例えば1~5時間、例えば2時間加熱することによって、含浸粒子を乾燥させる。コーティング液を完全に添加した後、含浸粒子は、追加の乾燥を必要とせずに、焼成工程に直接供されることが好ましい場合がある。有利には、含浸粒子を、コーティング液の添加に使用される容器から焼成機に直接移してもよい。
【0057】
次いで、含浸粒子を焼成工程に供する。焼成工程は、少なくとも400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃又は少なくとも650℃の温度で実施され得る。焼成工程は、1000℃以下、900℃以下、800℃以下又は750℃以下の温度で実施してもよい。材料は、400℃、少なくとも500℃、少なくとも600℃、又は少なくとも650℃の温度で、少なくとも30分、少なくとも1時間、又は少なくとも2時間の期間にわたって加熱され得る。期間は6時間未満であってもよい。好ましくは、焼成工程は、400~1000℃の温度範囲内で30分~6時間の期間にわたって実施される。
【0058】
焼成工程は、COを含まない雰囲気下で行ってもよい。例えば、COを含まない空気は、加熱中、また任意選択で冷却中に材料上に流されてもよい。COを含まない空気は、例えば、酸素と窒素との混合物であってもよい。好ましくは、雰囲気は酸化雰囲気である。本明細書で使用される場合、「COを含まない」という用語は、100ppm未満のCO、例えば50ppm未満のCO、20ppm未満のCO、又は10ppm未満のCOを含む雰囲気を含むことを意図している。これらのCOレベルは、COスクラバーを使用してCOを除去することによって達成され得る。
【0059】
COを含まない雰囲気は、OとNとの混合物を含むことが好ましい場合がある。混合物がOよりも多量のNを含むことが更に好ましい場合がある。いくつかの実施形態では、混合物が、50:50~90:10、例えば60:40~90:10、例えば約80:20の比でN及びOを含む。
【0060】
この方法は、1つ以上の粉砕工程を含むことができ、これは焼成工程の後に実施することができる。粉砕設備の種類は特に限定されない。例えば、ボールミル、遊星ボールミル、又は圧延床ミルであってもよい。粉砕は、粒子が所望のサイズに達するまで行うことができる。例えば、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が少なくとも5μm、例えば少なくとも5.5μm、少なくとも6μm又は少なくとも6.5μmであるような体積粒径分布を有するまで粉砕することができる。表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料の粒子は、D50粒径が15μm以下、例えば14μm以下又は13μm以下であるような体積粒径分布を有するまで粉砕することができる。
【0061】
本発明の方法は、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極(典型的にはカソード)を形成する工程を更に含んでもよい。典型的には、これは、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料のスラリーを形成し、このスラリーを集電体(例えば、アルミニウム集電体)の表面に塗布し、任意選択で、処理(例えばカレンダ加工)して電極の密度を高めることによって行われる。スラリーは、溶媒、結合剤、炭素材料、及び更なる添加物のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0062】
典型的には、本発明の電極は、少なくとも2.5g/cm、少なくとも2.8g/cm、又は少なくとも3g/cmの電極密度を有する。電極密度は、4.5g/cm以下であってもよく、4g/cm以下であってもよい。電極密度は、電極が形成される集電体を含まない、電極の電極密度(質量/体積)である。したがって、活性物質、あらゆる添加剤、あらゆる追加の炭素材料、及びあらゆる残りの結合剤が関係する。
【0063】
本発明の方法は、表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を含む電極を備える電池又は電気化学セルを構築することを更に含み得る。電池又はセルは、典型的には、アノード及び電解質を更に含む。電池又はセルは、典型的には、二次(再充電式)リチウム(例えば、リチウムイオン)イオン電池であってもよい。
【0064】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明するが、以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供され、その範囲を限定することを意図するものではない。
【0065】
実施例
実施例1-リチウムニッケル金属酸化物基材(Li1.03Ni0.91Co0.08Mg0.01基材A)の調製例
Ni0.91Co0.08Mg0.01(OH)(100g、Brunp)及びLiOH(26.3g)をポリプロピレンボトル内で1時間乾燥混合した。LiOHを真空下200℃で24時間予備乾燥し、乾燥Nを充填してパージしたグローブボックス内で乾燥した状態を維持した。
【0066】
粉末混合物を99%+アルミナるつぼに入れ、COを含まない空気下で焼成した。焼成は以下のように行った。すなわち、2時間保持で450℃(5℃/分)まで、6時間保持で700℃(2℃/分)まで上昇させ、130℃まで自然冷却した。焼成及び冷却の最初から終わりまで、COを含まない空気を粉末床に流した。これにより、表題化合物を得た。
【0067】
次いで、試料を130℃の炉から取り出し、高アルミナライニングミルポットに移し、D50が9.5~10.5μmになるまで圧延床ミルで粉砕した。
【0068】
実施例2-リチウムニッケル金属酸化物基材(Li1.03Ni0.90Co0.08Mg0.02基材B)の調製例
Ni0.90Co0.08Mg0.02(OH)(100g、Brunp及びLiOH(26.2g)をポリプロピレンボトル内で1時間乾燥混合した。LiOHを真空下200℃で24時間予備乾燥し、乾燥Nを充填してパージしたグローブボックス内で乾燥した状態を維持した。次いで、混合物を実施例1と同様に焼成及び粉砕して、基材Bを得た。
【0069】
実施例3-表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料(Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012)の製造方法
(A)基材の見かけの細孔容積の算出
式Li1.03Ni0.91Co0.08Mg0.01のリチウムニッケル金属酸化物基材(基材A)92.7gをBrabendar吸収計Bトルク測定システムに入れ、脱塩水を4ml/分で添加した。トルク読み取り値を、固体材料の質量あたりに添加された液体の量に対してプロットした。トルク読み取り値は、0.14ml/gでピーク値を示した。そして、このピークに至るトルク上昇の出だしをリチウムニッケル金属酸化物基材の単位質量あたりの見かけの細孔容積(0.12ml/g)とした。
【0070】
(B)使用するコーティング液の体積の算出
(1)目的とする表面改質リチウムニッケル金属酸化物の組成であるLi1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012に基づいて、リチウムニッケル金属酸化物基材Aの試料500gに必要なCo、Al及びLiの添加量を算出し(以下に記す)、もって硝酸塩結晶の使用量を算出した。
【0071】
【表1】
(2)硝酸混晶を60℃に加熱したときの液量を測定したところ、52mLであった。
(3)リチウムニッケル金属酸化物基材A(500g)の見かけの細孔容積は、60mL(0.12mL/g*500g)と算出された。
(4)見かけの細孔容積の約120%に相当する体積のコーティング液を得るために酸塩結晶に添加する水の量を20mLと算出した。
【0072】
(C)表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料(Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012)の調製
硝酸コバルト(II)六水和物(59.0g、ACS、98~102%、Alfa Aesar製)、硝酸アルミニウム九水和物(12.2g、98%、Alfa Aesar製)及び硝酸リチウム(16.4g、無水物、99%、Alfa Aesar製)を水(20ml)と合わせ、次いで約60℃に加熱してコーティング液を形成した。
【0073】
基材Aの試料(500g)をWinkworth MixerモデルMZ05に入れ、ミキサーを50rpmで作動させながら60℃に加熱した。次いで、コーティング液を、ピペットを使用して5分間にわたって基材に添加した。次いで、ミキサーを15分間運転させた後、試料を出した。
【0074】
約250gの粉末をアルミナるつぼに添加した。次いで、試料を、スクラバーから供給されたCOを含まない空気と共にCarbolite Gero GPC1200炉内で焼成した。試料を、5℃/分で450℃まで加熱し、450℃で1時間保持し、2℃/分で700℃まで加熱し、700℃で2時間保持し、4ml/分の流速のCOを含まない空気で室温まで冷却することによって焼成した。
【0075】
作製された材料のX線粉末回折(XRD)は、結晶性材料が層状α-NaFeO型構造を有することを示した。XRDパターンは、浸漬-噴霧乾燥法によって製造した同じ組成の以前の試料と一致した(図1)。
【0076】
実施例4-表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料(Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012)の製造方法
式Li1.01Ni0.867Co0.115Al0.006Mg0.012の表面改質リチウムニッケル金属酸化物材料を、実施例3と同様の方法を使用して基材Bから調製した。
【0077】
実施例5-プロセスパラメータの検討
一連の実験を行って、コーティングプロセスパラメータを検討した。500gの基材を使用して各試料を調製し、実施例3又は実施例4に記載の方法に以下の変形を加えた方法を用いてコーティングした。
【0078】
【表2】
【0079】
製造された材料のX線粉末回折(XRD)は、各実験によって層状α-NaFeO型構造を有する結晶性材料が製造されることを示した。
【0080】
実施例6-硝酸塩粉末を使用した基材の乾式コーティング(比較例)
また、結果を乾式混合によって生成されたものと比較するために、更なる実験(実験3)を行った。この例では、固体硝酸コバルト(II)六水和物、硝酸アルミニウム九水和物及び硝酸リチウムを、粉末として(硝酸塩結晶を加熱したり、硝酸塩結晶に水を添加したりすることなく)Winkworth MixerモデルMZ05ミキサー内の基材Bに直接添加した。使用した基材及び金属塩の量は、実施例5の実験1及び実験2で使用したものと同じであった。コーティング液を加える前の基材温度は60℃であり、ミキサー速度は50rpmであった。その後の熱処理は、実施例2について記載した通りであった。
【0081】
実施例7-表面改質NMC材料(Li1.01Ni0.82Co0.15Mn0.07Al0.006O2)の製造方法
式(Li1.0Ni0.8Mn0.1Co0.1)のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)基材約90gをBrabendar吸収計Bトルク測定システムに入れ、脱塩水を4ml/分で添加した。トルク読み取り値を、固体材料の質量あたりに添加された液体の量に対してプロットした。トルク読み取り値は、0.15ml/gでピーク値を示した。そして、このピークに至るトルク増加の出だしを、NMC基材の単位質量当たりの見かけの細孔容積(0.13ml/g)とした。
【0082】
式Li1.01Ni0.82Co0.15Mn0.07Al0.006の表面改質NMC材料を形成するためにNMC基材の500g試料に必要なCo、Al及びLiの添加量を計算し(以下に記す)、もって硝酸塩結晶の使用量を計算した。
【0083】
【表3】
【0084】
硝酸混晶を60℃に加熱したときの液量を測定したところ、52mLであった。
NMC基材の見かけの細孔容積(500g)を計算したところ、65mL(0.13mL/g*500g)であった。見かけの細孔容積の約120%に相当する体積のコーティング液を得るために硝酸塩結晶に添加する水の量を計算したところ、20mLであった。
【0085】
表面改質されたNMC材料の調製
硝酸コバルト(II)六水和物(59.0g、ACS、98~102%、Alfa Aesar製)、硝酸アルミニウム9水和物(12.2g、Alfa Aesar製98%)及び硝酸リチウム(16.4g、無水、99%、Alfa Aesar)を水(20ml)と合わせ、次いで、約60℃に加熱して、コーティング液を形成した。NMC基材の試料(500g)をWinkworth MixerモデルMZ05に入れ、ミキサーを50rpmで作動させながら60℃に加熱した。次いで、コーティング液を、ピペットを使用して5分間にわたって基材に添加した。次いで、ミキサーを15分間運転させた後、試料を出した。
【0086】
約250gの粉末をアルミナるつぼに添加した。次いで、試料をスクラバーから供給されるCOを含まない空気と共に、Carbolite Gero GPC1200炉内で焼成した。試料を、5℃/分で450℃まで加熱し、450℃で1時間保持し、2℃/分で700℃まで加熱し、700℃で2時間保持し、4ml/分の流速のCOを含まない空気で室温に冷却した。
【0087】
実施例8-電気化学試験
実施例5及び実施例6からの試料を、以下に示すプロトコルを用いて電気化学的に試験した。試料を、国際公開第2013025328号に記載されている方法と同様の溶液浸漬-噴霧乾燥法を使用し、実験1及び2並びに実験4及び5で調製した組成に合わせて基材材料A及びBから調製したリチウムニッケル金属酸化物材料の対照試料と比較した。
【0088】
実施例7で調製した表面改質試料も、実施例7で出発材料として使用したNMC基材と共に電気化学プロトコルを用いて試験した。
【0089】
電気化学プロトコル
電極は、94重量%のリチウムニッケル金属酸化物活物質、導電性添加剤である3重量%のSuper-C、及び結着剤である3重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、溶媒であるN-メチル-2-ピロリジン(NMP)に混合することによって調製した。このスラリーをリザーバに加え、125μmドクターブレードコーティング(Erichsen)をアルミニウム箔に塗布した。電極を120℃で1時間乾燥させた後、プレスして3.0g/cmの密度を達成した。典型的には、活性物質の添加量は9mg/cmである。プレスした電極を14mmのディスクに切断し、真空下120℃で12時間更に乾燥させた。
【0090】
アルゴンを充填したグローブボックス(MBraun)内で組み立てたCR2025コインセル型を用いて電気化学試験を行った。陽極としてリチウム箔を用いた。セパレータとして、多孔質ポリプロピレン膜(Celgrad2400)を用いた。エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)と1%のビニルカーボネート(VC)との1:1:1混合物中の1M LiPFを電解質として使用した。
【0091】
セルを、MACCOR4000シリーズで試験し、23℃で3.0~4.3Vの0.1C(1C=200mAh/g)で充電及び放電した。
【0092】
細胞を、Cレート試験及び保持試験を用いてMACCOR4000シリーズで試験した。Cレート試験では、0.1C~5Cで電池を充電及び放電した。保持試験は、50サイクルにわたって充電及び放電された試料を用いて1Cで行った。両試験は23℃で行った。
【0093】
電気化学的結果
電気化学的性能の試験の結果を図2図7に示す。
【0094】
図2は、実施例5の実験1及び2、実施例6の乾式混合比較例の実験3、及び比較噴霧乾燥例で製造された試料(すべて基材Bから製造)のCレートプロットを示す。これは、本発明の方法(実験1及び実験2)によって製造された材料が、少なくとも浸漬-噴霧乾燥及び乾式混合方法によって製造された材料の放電容量に匹敵し得ることを示した。
【0095】
図3は、実施例5の実験1及び2、実施例6)の乾式混合比較例の実験3、及び比較噴霧乾燥例で製造された試料(すべて基材Bから製造)の容量保持試験の結果を示す。これは、本発明の方法が、先行技術の浸漬-噴霧乾燥法によって製造されるものに匹敵するサイクル寿命を有する材料を提供することを示している。乾式混合を使用すると、不十分なコーティング及び/又は粒界の濃縮不足を示す著しく低下した性能(実験3)がもたらされる。
【0096】
図4は、実施例5の実験4及び5で生成された試料及び比較噴霧乾燥例(すべて基材Aから製造)のCレートプロットを示す。これは、本発明の方法(実験4及び実験5)によって製造された材料が、噴霧乾燥方法によって製造された材料の放電容量に匹敵し得ることを示した。この試験では、高温(60℃、実験5)でベース粉末を用いて製造された材料は、周囲温度(20℃、実験4)でベース粉末を用いて製造された材料より高い放電容量を示す。
【0097】
図5は、実施例5の実験4及び5で製造された試料並びに比較噴霧乾燥例(すべて基材Aから製造)の容量保持試験の結果を示す。これは、本発明の方法が、先行技術の噴霧乾燥法によって製造されたものに匹敵するサイクル寿命を有する材料を提供することを示している。この試験では、高温(60℃、実験5)でベース粉末を用いて製造された材料は、周囲温度(20℃、実験4)でベース粉末を用いて製造された材料に対して改善されたサイクル寿命保持率を示す。
【0098】
図6は、実施例7で製造したNMC基材及び表面改質NMC材料の試料の電気化学試験からのCレートプロットを示す。これは、本明細書に記載の方法がさまざまな放電レートにわたって放電容量の改善をもたらすことを示している。
【0099】
図7は、実施例7で製造したNMC基材及び表面改質NMC材料の試料の容量保持試験の結果を示す。これは、本明細書に記載の方法が、粒界及びNMC粒子の表面におけるコバルト及びアルミニウムの濃度を示す放電容量保持の改善をもたらすことを示している。
【0100】
実施例9-粒界富化の分析
実施例5の実験4及び実験5と同様の方法によって調製した試料をFIB-TEM(集束イオンビーム透過電子顕微鏡法)によって分析した(実験4-図8及び実験5-図9)。画像は、一次粒子間の粒界、及び二次粒子の表面が、コバルト及びアルミニウムの富化を示し、粒界及び表面におけるコバルト及びアルミニウムの濃度が一次粒子中に存在する濃度よりも高いことを示している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】