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特表2022-549484水および酸の制御が改善されたアルキルメタクリレートの製造方法
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  • 特表-水および酸の制御が改善されたアルキルメタクリレートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】水および酸の制御が改善されたアルキルメタクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/39 20060101AFI20221117BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C07C67/39
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519040
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(85)【翻訳文提出日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020075679
(87)【国際公開番号】W WO2021058314
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】19199483.9
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン チュンケ
(72)【発明者】
【氏名】ベライド アイト アイサ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス リューリング
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート ケルブル
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ヘルムート ケーニッヒ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006BC10
4H006BD20
4H006BD60
4H006BE30
4H006KA35
4H006KC14
(57)【要約】
本発明は、アルキルメタクリレート、特にメチルメタクリレート(MMA)の製造方法であって、第1の反応段階でメタクロレイン(MAL)を製造し、第2の反応段階でメタクロレインをアルコール、好ましくはメタノールで直接酸化的エステル化(DOE)してアルキルメタクリレートとし、第2の反応段階からのアルキルメタクリレート粗生成物を後処理することを含む方法に関する。特に、本発明は、メタクロレインの酸化的エステル化の反応器排出物の最適化された後処理であって、水の使用量、酸の使用量および/または水性廃棄物流の量を、得られるプロセス水流の最適化された返送によって最小限に抑える後処理に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートの製造方法であって、反応器Iにおける第1の反応段階でメタクロレインを製造し、前記メタクロレインを、反応器IIにおける第2の反応段階で、液相での反応水の生成下に、酸素含有ガスの存在下でアルコールとの酸化的エステル化によりアルキルメタクリレートとする方法であって、
a.反応器IIからの反応混合物のアルキルメタクリレートへの後処理が、少なくとも1つの蒸留部と少なくとも1つの抽出部とを含み、
b.アルコールとブレンステッド酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含む前記抽出部の水相を、塔IIにおいて少なくとも1回蒸留処理して、反応水とブレンステッド酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含むプロセス水流を前記塔IIの底部に生じさせ、その際、前記プロセス水流において、アルコールおよびアルキルメタクリレートの含有量は、全プロセス水流に対して5重量%未満であり、
c.前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流の一部を前記方法から排出して廃棄に供し、一部を反応器IIからの前記反応混合物の前記後処理に返送する
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流の一部を前記抽出部に返送し、前記返送されたプロセス水流を、前記抽出部において、アルキルメタクリレートとアルコールとを含む有機相と接触させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流の一部を反応器IIIに返送し、前記返送されたプロセス水流を、有機相に対して3重量%未満のメタクロレインアセタール含有量を有するアルキルメタクリレートとアルコールとを含む有機相と反応器IIIで接触させる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
抽出を、抽出塔および/または直列に接続された少なくとも2つの一連のミキサーセトラー装置で行い、前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流を、前記抽出塔の頂部の下方またはミキサーセトラー装置のミキサー領域に加え、任意に前記抽出塔の頂部領域で水、特に脱塩水を加える、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記抽出部への水および任意にブレンステッド酸の添加を、前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流の添加の上方で行う、請求項4記載の方法。
【請求項6】
反応器IIIにおいてブレンステッド酸を添加し、前記添加を、連続運転の場合に前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流において1.5~2.5の範囲のpH値が確立されるように選択する、請求項3記載の方法。
【請求項7】
本発明による方法へのブレンステッド酸の添加を、専ら反応器IIIへの添加により行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記抽出部においてアルキルメタクリレートとメタクリル酸とを含む有機相が得られ、前記抽出部からの有機相を、蒸留段階IVで、アルキルメタクリレートを含む底部フラクションと、低沸点の頂部フラクションとに分離する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記蒸留段階IVからの前記頂部フラクションを水と混合し、次いで相分離器Iで有機相と水相とに分離する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記相分離器Iからの前記水相を、反応器IVにおいて少なくとも1つのブレンステッド酸と混合し、その際、前記相分離器Iからの前記水相に含まれるエステル副生成物を開裂させてアルコールを回収し、任意に、前記塔IIの前記底部からの前記プロセス水流の一部を前記反応器IVに送る、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記反応器IVからの生成物を、完全にまたは部分的に前記塔IIに送る、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記相分離器Iからの前記水相を、完全にまたは部分的に前記塔IIに送る、請求項9記載の方法。
【請求項13】
反応器IIからの前記反応混合物を蒸留段階Iで分離し、その際、メタクロレインおよび一部のアルコールを、頂部フラクションを通じて除去して前記反応器IIに送る、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
メタクロレインを、完全にまたは部分的に前記蒸留段階Iに添加し、前記蒸留段階Iの前記頂部フラクションを通じて前記反応器IIに送る、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記アルコールはメタノールであり、前記アルキルメタクリレートはメチルメタクリレートである、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記ブレンステッド酸は硫酸である、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルメタクリレート、特にメチルメタクリレート(MMA)の製造方法であって、第1の反応段階でメタクロレイン(MAL)を製造し、第2の反応段階でメタクロレインをアルコール、好ましくはメタノールで直接酸化的エステル化(DOE)してアルキルメタクリレートとし、第2の反応段階からのアルキルメタクリレート粗生成物を後処理することを含む方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、メタクロレインの酸化的エステル化の反応器排出物の最適化された後処理であって、水の使用量、酸の使用量および/または水性廃棄物流の量を、得られるプロセス水流の最適化された返送によって最小限に抑える後処理に関する。
【0003】
先行技術
メチルメタクリレートは、ポリマーや他の重合性化合物とのコポリマーの製造に大量に使用されている。さらに、メチルメタクリレート(MMA)は、酸のエステル化、あるいはMMAと対応するアルコールとのエステル交換反応により製造可能な様々な特定のメタクリル酸(MAS)系エステルの重要な構成要素である。そのため、この出発物質の可能な限り簡便で経済的でかつ環境に配慮した製造方法に大きな関心が寄せられている。
【0004】
現在、メチルメタクリレート(MMA)は、C、CまたはC構成単位から出発する様々な方法によって製造されている。この方法では、MMAは、イソブチレンまたはtert-ブタノールを気相中の大気酸素により不均一系触媒上で酸化させてメタクロレイン(MAL)とし、その後メタノールを用いてメタクロレインの酸化的エステル化反応を行うことにより得られる。アサヒ化成工業株式会社により開発されたこの方法は、特に米国特許第5,969,178号明細書および米国特許第7,012,039号明細書に記載されている。この方法の欠点は、特に必要なエネルギーが非常に多いことである。
【0005】
いわゆるアサヒプロセスによるMMAの製造では、C(イソブテンまたはt-ブタノール)から出発し、MALを中間単離し、次いでMALをメタノールで直接酸化的エステル化(略称「DOE」)してMMAにし、水との反応によりメタクリル酸(MAS)が副生成物として生成される。
【0006】
この方法のさらなる発展形態では、第1のステップでプロパノールおよびホルムアルデヒドからメタクロレインが得られる。このような方法は、国際公開第2014/170223号に記載されている。
【0007】
下記スキーム1に、MMA製造の反応マトリックスを示し、ここでは、エチレン、合成ガス、ホルムアルデヒドからメタクロレインを製造する場合を例示する。前述のように、メタクロレインはイソブテンやt-ブタノールからも得ることができる。
【0008】
【化1】
【0009】
メタクリル酸は、酸化的エステル化(DOE反応)において、水の存在下で生成される。この水は、反応を連続的に行う場合、酸化的エステル化反応器内に通常は2~20重量%の定常濃度で存在する。DOE反応が一定のpHで行われる場合、生成されたメタクリル酸は、アルカリ性または塩基性の補助物質、最も単純な場合にはアルカリ化合物で少なくとも割合に応じて中和される。
【0010】
酸化的エステル化の粗生成物は、通常、主反応物であるアルキルメタクリレート、未反応出発材料、特にメタクロレインおよびアルコール、少量の水、ならびに様々な副生成物、例えば、メタクリル酸(MAS)およびその塩(例えば、ナトリウムメタクリレート)、アセタール(例えば、ジメトキシイソブテンDMIB)、ならびにさらなる高沸点成分、例えば、付加生成物およびディールス・アルダー生成物、例えばヒドロキシイソ酪酸およびその対応するエステル、二量体メタクロレイン(DIMAL)およびそのエステル(DIMALエステル)を含む。重合に適した純度、通常は明らかに99重量%を上回る純度で目的のアルキルメタクリレート(例えば、MMA)を得るためには、高沸点副生成物を分離しなければならないことがよくある。
【0011】
米国特許第5,969,178号明細書およびそこで引用された先行技術には、イソブテンまたはt-ブタノールをメタクロレインに酸化的に転化させ、その後MMAに酸化的エステル化する変法が記載されている。酸化的エステル化の粗生成物から、第1の蒸留段階でメタクロレインとメタノールとの混合物が塔頂下方で分離され、低沸点成分が頂部を経て除去される。MMAを含む缶出液は、不飽和炭化水素と共に第2の蒸留段階に送られ、そこでメタノールと飽和炭化水素との共沸混合物が頂部を経て分離される。粗MMAを含む缶出液はさらなる後処理に送られ、頂部を経て得られたフラクションから相分離器および第3の蒸留塔によってメタノールが単離され、反応器に返送される。この場合、メタノールは、形成された共沸混合物により比較的多量の水を含む可能性があるため、脱水に供する必要があることを考慮しなければならない。
【0012】
この方法の代替法として、米国特許第5,969,178号明細書には1つの塔のみでの後処理が開示されており、この塔では、供給部が必ず底部の上方に位置する。頂部を通じて、この塔から反応器排出物の低沸点成分が除去される。底部には粗MMAと水との混合物が残り、これがさらなる後処理に供される。最後に、メタクロレインとメタノールとの混合物が副流を通じて塔から取り出され、反応器に返送される。米国特許第5,969,178号明細書では、様々な共沸混合物があるため、このようなプロセスを行うことが困難であることが指摘されている。米国特許第5,969,178号明細書には、記載されたプロセスで必然的に生成するメタクリル酸塩を含む水溶液からMMAを分離するための解決策は提供されていない。
【0013】
米国特許第7,012,039号明細書には、酸化的エステル化の反応器排出物のやや異なる後処理が開示されている。鉛を含む触媒を使用すると、当然ながら反応溶液中に鉛が放出されるため、その後の後処理が特に複雑になる。なぜならば、このプロセスでは不溶性の鉛塩が生成され、これを高い費用をかけて別途分離しなければならないためである。ここでは、第1の蒸留段階でメタクロレインがシーブトレイ上で頂部を通じて留去され、MMAを含む水性混合物が底部から相分離器へと導かれる。この相分離器で、硫酸を加えてこの混合物がpH値2程度に調整される。その後、遠心分離により硫酸含有水と有機相または油相とが分離される。この有機相がさらに蒸留されて高沸点成分とMMAを含む相とに分離され、その際、このMMAを含む相が頂部で抜き出される。その後、第3の蒸留で、このMMAを含む相と低沸点成分とを分離する。その後、さらに第4の蒸留で最終精製を行う。
【0014】
米国特許第7,012,039号明細書によるこのプロセスでは、硫酸を大量に添加しなければならず、プラントの一部に腐食の影響を与えかねないという問題がある。したがって、これらの部分、特に相分離器や、さらには第2の蒸留塔などが、これに適した材料で作製されている必要がある。当該明細書によれば、当業者にとって明らかな酸含有水性流の循環を導き出すことはできない。さらに、米国特許第7,012,039号明細書によるプロセスは、メタクリル酸または生成物中に残存する残留メタノールを回収する可能性を提供していない。
【0015】
国際公開第2014/170223号には、米国特許第7,012,039号明細書と同様の方法が記載されている。相違点は、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を循環系で加えることによって酸化的エステル化におけるpHを調整することにある。このpH調整には、特に触媒を保護する役割がある。さらに、塩を含有することにより、相分離における水相の分離が容易となる。しかし、このことは、生成したメタクリル酸がナトリウム塩として存在し、後に水相と分離して廃棄されることにもつながる。相分離の際に硫酸を添加するという変法によって、確かに遊離酸は回収されるが、その代償として硫酸(水素)ナトリウムが生じ、廃棄時に別の問題を引き起こす可能性がある。
【0016】
国際公開第2017/046110号には、MMAの製造方法であって、酸化的エステル化の粗生成物を、メタノール、少なくとも1つのアルカリ塩、メタクリル酸および無機強酸を含む抽出物の水相の蒸留によって後処理する方法が記載されている。この蒸留段階の低沸点フラクションは、主にメタノールを含んでおり、酸化的エステル化に返送される。水性缶出液のフラクションは排出され、廃棄される。水およびメタクリル酸を含む蒸留の副流を抽出部に供給することができる。粗生成物の抽出時に強酸を加えることで、メタクリル酸の塩が中和され、遊離メタクリル酸を好都合に回収することができる。
【0017】
国際公開第2019/042807号には、PMMA樹脂の製造方法であって、最初にモノマーを製造する方法が記載されている。酸化的エステル化の後、MMA粗生成物は反応器内で有機酸および/または鉱酸を加えて後処理され、副生成物のジメトキシイソブテンが加水分解される。
【0018】
酸化的エステル化の粗生成物を後処理する先行技術の方法の欠点は、様々な箇所で比較的多量の酸および水がプロセスに添加され、したがって、酸および/または有機成分が負荷されており廃棄が必要である水性廃棄流が高い割合で生成されるということにある。また、強酸の添加には、対応するプロセス部品において、特に耐食性材料の設計などの設備投資の増加が必要となる。
【0019】
課題
したがって、先行技術に鑑み、本発明の課題は、上述した従来の方法の欠点を有しない、メタクロレインの酸化的エステル化のための技術的に改良された方法を提供することである。特に、本発明の課題は、メタクロレインの酸化的エステル化の粗生成物の後処理の改良を提供することであり、それによって、水および酸の使用量ならびに水性廃棄物流の量を減少させることができる。特に、廃棄物流における水性および有機成分ならびに酸の生成を低減することで、可能な限り低い廃棄費用で運用できる方法を提供することである。
【0020】
さらに、この方法は、例えばプラント建設に使用される材料に関して、先行技術と比較して費用対効果が高いことが望まれる。さらに、この方法では、アルキルメタクリレートの収率を可能な限り高くし、メタクリル酸などのメタクリル系副生成物を回収できることが望ましい。基本的には、副生成物を可能な限り高い割合で転化・返送できる方法であることが望ましい。
【0021】
課題の解決方法
驚くべきことに、生じるプロセス水流の制御の最適化によって、酸および水の供給量、ならびに水性廃水の量を最小限に抑えられることが明らかになった。特に、アルコールを回収するために蒸留段階の水性缶出液を最適に狙いどおりに分配することで、使用される水および/または使用される酸を節約し、かつプロセスから除去する必要のある廃水流を減少させることが可能となることが判明した。
【0022】
上記の課題は、本発明によれば、アルキルメタクリレートの製造方法であって、反応器Iにおける第1の反応段階でメタクロレイン(MAL)を製造し、このメタクロレインを、反応器IIにおける第2の反応段階で、液相での反応水の生成下に、酸素含有ガスの存在下でアルコール、好ましくはメタノールとの酸化的エステル化によりアルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート(MMA)とする方法において、
a.反応器IIからの反応混合物のアルキルメタクリレートへの後処理が、少なくとも1つの蒸留部と少なくとも1つの抽出部とを含み、
b.アルコールとブレンステッド酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含む抽出部の水相を、塔II(蒸留段階II)において少なくとも1回蒸留処理して、反応水とブレンステッド酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含むプロセス水流(底部フラクションW4)を塔IIの底部に生じさせ、その際、このプロセス水流において、アルコールおよびアルキルメタクリレートの含有量は、全プロセス水流に対して5重量%未満であり、
c.塔IIの底部からのこのプロセス水流(底部フラクションW4)の一部を本方法から排出して廃棄に供し、一部を反応器IIからの反応混合物の後処理に返送する
ことを特徴とする方法により解決される。
【0023】
発明の説明
特許請求された方法の出発材料、生成物および/または副生成物を含む流れ、相またはフラクションという表現は、本発明の趣意において、前述の化合物がそれぞれの流れの中に存在すること、例えば出発材料、生成物および/または副生成物の優勢な割合が対応する流れの中に存在することと理解される。原則として、記載された化合物に加えて、さらなる成分が含まれていてもよい。多くの場合、成分への言及は、各方法ステップを明確にするためのものである。
【0024】
好ましくは、本発明による方法の少なくとも1つの蒸留部、例えば後述の蒸留段階I;II、IIIおよびIVは、蒸留塔で実施される。蒸留塔は、蒸留段階に応じてI;II、III、IVを付して示される。蒸留塔の典型的な実施形態は、当業者に知られている。典型的には、例えば、シーブトレイ、カスケードトレイ、ターボグリッドトレイおよび/もしくはルーバートレイを備えたトレイ塔、または充填塔、例えばランダム充填塔(例えば、Raschig社製Raschig Superringを装備)または規則充填材(例えば、Sulzer社製Mellapak)を備えた塔を使用することができる。通常、蒸留段階では、少なくとも1つの高沸点底部フラクションと、少なくとも1つの低沸点頂部フラクションとが得られる。異なる蒸留段階における蒸留温度は、蒸留圧力、分離すべき混合物の組成、トレイの数および蒸留塔の設計、ならびに他の要因に応じて、当業者によって選択される。好ましくは、蒸留温度は20~120℃の範囲である。
【0025】
好ましくは、アルコールはメタノールであり、アルキルメタクリレートはメチルメタクリレート(MMA)である。
【0026】
好ましくは、ブレンステッド酸(以下、酸Sともいう)は、強酸であり、特にメタクリル酸のpK値よりも低いpK値を有する酸である。好ましくは、ブレンステッド酸は、3未満、特に好ましくは2未満のpK値を有する。硫酸、リン酸などの無機強酸や、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機強酸を用いてもよい。好ましくは、ブレンステッド酸は硫酸である。
【0027】
好ましくは、本発明による方法は、連続的または半連続的に運転される。好ましくは、本方法は、廃棄物流の不連続な排出を除いて、連続的に運転される。
【0028】
好ましくは、塔IIの底部からのプロセス水流の一部は、抽出部に返送され、この返送されたプロセス水流は、抽出部において、アルキルメタクリレートとアルコールとを含む有機相(特に有機相P1)と接触させられる。
【0029】
好ましくは、塔IIの底部からのプロセス水流は、下記の好ましい方法の底部フラクションW4である。
【0030】
好ましくは、塔IIの底部からのプロセス水流の一部は、反応器III(特に、流れW1に含まれるアセタールを開裂するアセタール開裂装置III)に返送され、この返送されたプロセス水流は、有機相に対して3重量%未満の(特にジメトキシイソブテンの)メタクロレインアセタール含有量を有するアルキルメタクリレートとアルコールとを含む有機相(特に底部フラクションW1)と反応器IIIで接触させられる。
【0031】
好ましくは、抽出は、抽出塔および/または直列に接続された少なくとも2つの一連のミキサーセトラー装置で行われ、塔IIの底部からのプロセス水流は、抽出塔の頂部の下方またはミキサーセトラー装置のミキサー領域に加えられ、任意に抽出塔の頂部領域で水、特に脱塩水が加えられる。
【0032】
本発明による方法に供給される水は、特に完全脱塩水である。
【0033】
好ましくは、抽出部への水および任意にブレンステッド酸の添加は、塔IIの底部からのプロセス水流の添加の上方で行われる。
【0034】
好ましくは、反応器IIIにおいてブレンステッド酸が添加され、この添加は、連続運転の場合に塔IIの底部からのプロセス水流(特に底部フラクションW4)において1.5~2.5の範囲のpH値が確立されるように選択される。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明による方法へのブレンステッド酸の添加は、専ら反応器IIIへの添加により行われる。異なる方法操作の異なるpH値をより正確に調整できるように、本方法の異なる箇所で酸添加を実施することも考えられる。
【0036】
好ましくは、抽出部においてアルキルメタクリレートとメタクリル酸とを含む有機相が得られ、抽出部からの有機相(特に有機相P1または蒸留段階IIIからの頂部フラクションW5)は、蒸留段階IV(塔IV)で、アルキルメタクリレートを含む底部フラクション(特に底部フラクションW8)と低沸点の頂部フラクション(特に頂部フラクションW7)とに分離される。
【0037】
好ましくは、塔IVからのフラクションは水と混合され、次いで相分離器Iで有機相(特に有機相P3)と水相(特に水相P4)とに分離される。
【0038】
好ましくは、相分離器Iからの水相(特に水相P4)は、反応器IVにおいて少なくとも1つのブレンステッド酸と混合され、その際、相分離器Iからの水相に含まれるエステル副生成物が開裂されてアルコールが回収され、任意に、塔IIの底部からのプロセス水流の一部が反応器IVに送られる。
【0039】
好ましくは、反応器IVからの生成物は、完全にまたは部分的に塔IIに送られる。
【0040】
代替的な実施形態では、反応器IIIでのアセタール加水分解(DMIB+水→MAL+MeOH)と、反応器IVで行われる部分的なエステル加水分解とを、1つの反応容器にまとめることができる。
【0041】
好ましくは、相分離器Iからの水相は、完全にまたは部分的に塔IIに送られる。
【0042】
好ましくは、反応器IIからの反応混合物は蒸留段階I(塔I)で分離され、その際、メタクロレインおよび一部のアルコールが頂部フラクションを通じて除去され、反応器IIに返送される。
【0043】
好ましくは、メタクロレインは、完全にまたは部分的に蒸留段階Iに添加され、蒸留段階Iの頂部フラクションを通じて反応器IIに送られる。
【0044】
好ましくは、アルコールはメタノールであり、アルキルメタクリレートはメチルメタクリレートである。好ましくは、ブレンステッド酸は硫酸である。
【0045】
第1の反応段階(MALの製造)
本発明による方法は、第1の反応段階において、反応器Iでメタクロレイン(MAL)を製造することを含む。本発明によれば、メタクロレインの合成方法の第1の段階は自由に選択することが可能である。この方法の第1の反応段階は、tーブタノールまたはイソブチレンをベースとする第1の段階の合成と、プロパナールおよびホルマリンをベースとする第1の段階の合成との双方を含むことができる。
【0046】
プロパナールおよびホルマリンをベースとするメタクロレイン(MAL)の製造では、原則として、第2の反応段階(直接酸化的エステル化、DOE反応)で使用可能な品質のメタクロレインが得られる2種類の変法を考えることができる。一方では、プロパノールおよびホルマリンは、撹拌式またはポンプ式の反応器で、20℃~120℃の温度、1bar~10barの圧力で反応させることができる。通常、十分な転化率を得るためには、10分超の反応時間が必要である。他方で、プロパノールとホルマリンを反応させてMALを製造することができ、その際、10~100barの平均圧力で、120℃~250℃の高温で、反応は2秒~20秒の反応時間で所望の高収率に達する。
【0047】
メタクロレインの製造方法は当業者に知られており、例えば、Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2012, Wiley-VCH Verlag GmbH, Weinheim(DOI: 10.1002/14356007.a01_149.pub2)に記載されている。
【0048】
また、第1の反応段階が、C4原料から出発する方法、特にt-ブタノールおよび/またはイソブテンの酸化であることも可能である。ここで、典型的には、イソブテンまたはt-ブタノールは、気相で酸素含有ガス、好ましくは水蒸気を用いて300℃超の温度にて不均一系触媒で反応される。関連する先行技術には、多くのサブバリエーションおよび使用可能な触媒系、ならびに単離任意が記載されている。その概要は、例えば、“Trends and Future of Monomer-MMA Technologies”, K. Nagai & T. Ui, Sumitomo Chemical Co., Ltd., Basic Chemicals Research Laboratory, 2005 (http://ww.sumitomochem.co.jp/english/rd/report/theses/docs/20040200_30a.pdf)に記載されている。
【0049】
好ましくは、反応器Iにおける第1の反応段階は、プロパノールとホルマリンとの反応である。第1の反応段階は、残留プロパナールのような低沸点物質および/または高沸点物質(例えば、二量体メタクロレイン)を分離するための蒸留塔を任意に含んでいてもよい。
【0050】
第2の反応段階(直接酸化的エステル化DOE)
本発明による方法は、第2の反応段階において、反応器IIでメタクロレインをアルコール、好ましくはメタノールで酸化的エステル化(DOE反応)し、アルキルメタクリレート、好ましくはメチルメタクリレート(MMA)を得ることを含む。
【0051】
好ましくは、直接酸化的エステル化(DOE)反応は、液相で、2~100barの圧力、好ましくは2~50barの範囲の圧力で、かつ10~200℃の範囲の温度で、不均一系触媒を用いて実施される。不均一系触媒は、通常、粒径が20nm未満、好ましくは0.2~20nmの範囲にある金含有担持ナノ粒子である。
【0052】
典型的には、直接酸化的エステル化は、触媒の最適な活性を保証するためにpH値を調整しながら行われ、好ましくは、pH値は、6~8のpHに調整され、特に好ましくはpH7に調整される。
【0053】
好ましくは、第2の反応段階は、メタクロレインとアルコールを、酸素含有ガスの存在下で、20~150℃の適度な温度で、1~20barの適度な圧力で、粒子状の貴金属含有不均一系触媒であって、好ましくは粒径が1~300μmであるものの存在下で反応させることを含み、その際、より大きな粒子も使用することができる。
【0054】
先行技術には、このMALをメタノールでMMAに酸化的エステル化するための数多くの触媒が記載されている。米国特許第6,040,472号明細書には、酸化物担体上のPd-Pb含有触媒が記載されており、欧州特許出願公開第1393800号明細書には、酸化ケイ素担体またはTiO/SiO担体に金粒子を分散させた金含有触媒が記載されており、欧州特許出願公開第2177267号明細書および欧州特許出願公開第2210664号明細書には、シェル構造を有するニッケル含有触媒が記載されており、欧州特許出願公開第2210664号明細書には、担体上に酸化ニッケルおよび金ナノ粒子を含む触媒が開示されており、国際公開第2017/084969号には、担体としてのいくつかの混合酸化物をベースとする触媒系が記載されており、これらも同様に活性成分として酸化コバルトに加えてナノ粒子状の金を有する。
【0055】
典型的には、反応器IIは、メタクロレイン(MAL)供給部、アルコール(特にメタノール)供給部、酸素および/または空気供給部、ならびに塩基供給部を含む。
【0056】
任意に、出発材料または出発材料の一部、特に塩基およびMeOHは、反応器IIに導入する前に任意にミキサーで混合することが可能である。
【0057】
メタクロレインの直接酸化的エステル化の方法は、当業者に知られている。第2の反応段階のさらなる詳細は、例えば、米国特許第5,969,178号明細書、米国特許第7,012,039号明細書、国際公開第2014/170223号および国際公開第2019/042807号に記載されている。
【0058】
好ましい実施形態では、反応器IIからの反応混合物の後処理は、以下のステップを含む:
i.反応器IIからの酸化的エステル化の粗生成物を蒸留段階Iで分離し、その際、頂部フラクション中のメタクロレインおよび一部のアルコールを除去して反応器IIに返送し、アルキルメタクリレートとメタクリル酸および/またはその塩とアルコールと水とを含む底部フラクションW1を得る、
ii.任意に、底部フラクションW1を反応器IIIに供給し、少なくとも1つの酸Sを添加し、その際、流れW1に含まれるアセタールを開裂させて流れW2を得る、
iii.流れW1またはW2を水で抽出し、アルキルメタクリレートとメタクリル酸とを含む有機相P1と、水と酸Sおよび/またはその塩とアルコールとメタクリル酸および/またはその塩とを含む水相P2とに分離する、
iv.蒸留段階IIで抽出部から水相P2を分離し、その際、主にアルコールを含む頂部フラクションW3と、水と酸Sおよび/またはその塩とメタクリル酸および/またはその塩とを含む底部フラクションW4とを得る、
v.蒸留段階IIIで抽出部から有機相P1を分離し、その際、アルキルメタクリレートを含む頂部フラクションW5と、メタクリル酸を含む底部フラクションW6とを得る、
vi.蒸留段階IVで蒸留段階IIIからの頂部フラクションW5を分離し、その際、頂部フラクションW7と、アルキルメタクリレートを含む底部フラクションW8とを得る、
vii.蒸留段階IVからの頂部フラクションW7を水と混合し、相分離器Iで有機相P3と水相P4とに分離する、
viii.任意に、相分離器Iからの水相P4を反応器IVにおいて少なくとも1つの酸Sと混合し、その際、P4に含まれるエステル副生成物を開裂させてアルコールを回収し、その際、水相P5を得て、
その際、蒸留段階IIからの底部フラクションW4を、完全にまたは部分的に、反応器III、抽出部、相分離器Iおよび反応器IVから選択される1つ以上の方法部分に送る。
【0059】
典型的には、水相、例えばP2およびP4は、より重質の相であり、有機相、例えばP1およびP3は、それぞれの分離のより軽質の相である。
【0060】
反応器IIからの反応混合物を後処理する好ましいステップについて、以下でより詳細に説明する。
【0061】
蒸留段階I(ステップi)
好ましくは、本発明による方法は、反応器IIからの酸化的エステル化からの反応混合物を蒸留段階I、特に蒸留塔Iで分離し、その際、メタクロレインおよび一部のアルコールを除去して反応器IIに返送し、アルキルメタクリレートとメタクリル酸および/またはその塩とアルコールと水とを含む流れW1を得ることを含む。
【0062】
本発明による方法の好ましい実施形態では、メタクロレインは、反応器IIに直接送られるかまたは部分的に送られるのではなく、蒸留段階Iを通じてプロセスに導入される。好ましくは、メタクロレインは完全にまたは部分的に蒸留段階Iに添加され、蒸留段階Iの低沸点頂部フラクションを経て反応器IIに送られる。
【0063】
反応器III - アセタール開裂装置(任意のステップii)
本発明による方法は、好ましくは、蒸留段階Iからの底部フラクションW1を反応器III(アセタール開裂装置)に供給し、少なくとも1つの酸Sを添加し、その際、流れW1に含まれるアセタールを開裂させて流れW2を得ることを含む。
【0064】
好ましくは、反応器IIIにおいて、アセタール副生成物であるジメトキシイソブテン(DMIB)は、メタクロレイン(MAL)およびメタノール(MeOH)に開裂される。アセタール開裂については、例えば、国際公開第2019/042807号および特開平11-302224号公報に記載されている。特に、任意の方法ステップii)でアセタール副生成物を除去することにより、ポリマーや成形材料などの下流のアルキルメタクリレート生成物における変色を低減することができる。
【0065】
典型的には、さらに、特にアルカリメタクリレートのようなメタクリル酸の塩も反応器IIIで中和され、その際、遊離メタクリル酸が形成される。
【0066】
典型的には、底部フラクションW1と少なくとも1つの酸Sおよび任意に水との混合は、反応器IIIで行われる。反応器IIIは、例えば、好ましくはスタティックミキサーを備えた管状反応器として、撹拌反応器として、またはそれらの組み合わせとして、当業者に公知の様式で設計することができる。
【0067】
好ましくは、反応器IIIは、少なくとも1つの酸S、好ましくは硫酸が供給される酸供給部Iを含む。また、少なくとも1つの酸Sを、(専らまたは部分的に)蒸留段階IIからの底部フラクションW4の返送を通じて供給することも可能である。任意に、反応器IIIは、酸供給部Iに加えて、水供給部を含むことができる。
【0068】
好ましくは、反応器IIIのpH値は、0~7.0、好ましくは0.5~5.0の範囲にある。
【0069】
典型的には、反応器IIIへの少なくとも1つの酸S(好ましくは硫酸)の添加は、抽出部における水相P2が4以下の範囲のpH値、好ましくはpH1.5~pH3を有するように選択される。
【0070】
好ましい実施形態では、任意の方法ステップii)が実現され、反応器IIIへの酸S(好ましくは硫酸)の添加、特に酸供給部Iを通じた酸Sの添加が、連続運転の場合に蒸留段階IIからの底部フラクションW4において0~3の範囲、好ましくは2のpH値が確立されるように選択される。
【0071】
好ましい実施形態では、任意の方法ステップii)が実現され、本発明による方法への新鮮な酸S(好ましくは硫酸)の添加が、専ら反応器IIIへの添加を通じて、好ましくは酸供給部Iを通じて実施される。
【0072】
抽出(ステップiii)
本発明による方法は、少なくとも1つの抽出部を含む。
【0073】
好ましくは、本方法は、流れW1(任意のステップii)なしの場合)またはW2(任意のステップii)ありの場合)を水で抽出し、アルキルメタクリレートとメタクリル酸とを含む有機相P1(典型的には軽質の相)と、水と酸Sおよび/またはその塩とアルコールとメタクリル酸および/またはその塩とを含む水相P2(典型的には重質の相)とに分離することを含む。好ましくは、水の添加は、塔の上部で行われる。
【0074】
典型的には、有機相P1は、主にアルキルメタクリレートおよび反応の有機副生成物、例えばメタクリル酸およびさらなる高沸点副生成物、ならびに少量の水およびメタノールを含む。典型的には、水相P2は、有機生成物をほとんど含まず、主に水およびメタノール、ならびに中和によるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、およびメタクリル酸の塩、特にメタクリル酸のアルカリ金属塩を含む。
【0075】
好ましくは、少なくとも1つの酸Sが抽出時に添加される。好ましくは、抽出における少なくとも1つの酸S(好ましくは硫酸)の添加は、抽出における水相P2が3以上の範囲内のpH値を有するように選択される。典型的には、抽出における酸Sの添加により、メタクリル酸の塩、例えば、特にアルカリメタクリレートが中和される。
【0076】
任意に、任意の供給部IIを通じて抽出部に水を添加することができる。任意に、酸Sを、例えば任意の酸供給部を通じて、および/または水供給部IIと共に、抽出部に添加することができる。また、水および任意に酸Sを、蒸留段階IIからの底部フラクションW4の返送を通じて抽出部に(専らまたは部分的に)供給することも可能である。
【0077】
好ましくは、ステップiii)の抽出は、抽出塔で行われる。抽出塔の典型的な実施形態は、当業者に知られている。典型的には、トレイ塔または充填塔、例えばランダム充填塔(例えば、ラシヒリングを装備)または規則充填材(例えば、Sulzer社製Mellapak)を備えた塔を使用することができる。
【0078】
好ましい実施形態では、抽出のための水の添加は、蒸留塔の上方領域の水供給部IIを通じて、好ましくは第1の抽出段階に、好ましくは蒸留段階IIからの底部フラクションW4の可能な返送の上方で行われる。
【0079】
好ましい実施形態では、抽出(ステップiii)は抽出塔で行われ、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、抽出塔の中間領域、好ましくは第1の抽出段階の下方、特に好ましくは第2の抽出段階の下方で添加される。さらに好ましくは、抽出塔における抽出部への水および任意に酸Sの添加は、蒸留段階IIからの底部フラクションW4の上方で行われる。
【0080】
所望のアルキルメタクリレート生成物を最も大きな割合で含む抽出部の有機相P1は、好ましくは、以下に記載する蒸留段階IIIおよびIVならびに任意にVおよびVIを経てさらに精製される。ここでは、アルキルメタクリレートの大部分を含む有機相P1から、まず高沸点成分(蒸留段階III)が、次に低沸点成分(蒸留段階IV)が取り出される。
【0081】
水相W4は、典型的には、対応するブレンステッド酸の鉱酸塩を含み、その際、塩の含有量は、W4に対して0.5~15重量%の範囲である。塩を含む相W4を抽出部に返送することで、典型的には抽出性能が向上される。原則として、この効果は、脱塩水に比べて密度が高くなるため、有機相と比較して密度差が大きくなることに起因する。
【0082】
蒸留段階II - アルコール回収(ステップiv)
好ましくは、本発明による方法は、水相P2を蒸留段階II(好ましくは蒸留塔II)で抽出部から分離し、その際、主にアルコールを含む低沸点頂部フラクションW3と、水と酸Sおよび/またはその塩とメタクリル酸および/またはその塩とを含む高沸点底部フラクションW4とを得ることを含む。
【0083】
好ましくは、頂部フラクションW3は、完全にまたは部分的に反応器IIに返送される。
【0084】
本発明によれば、蒸留段階IIからの水性底部フラクションは、本発明による方法の1つ以上の異なる箇所に返送され、それによって水および/または酸Sが節約され、水性廃棄物流の量が低減される。
【0085】
本発明によれば、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、完全にまたは部分的に、反応器III、抽出部、相分離器Iおよび反応器IVから選択される1つ以上の方法部分に送られる。
【0086】
本方法の好ましい実施形態では、蒸留段階IIからの底部フラクションW4の一部は、本方法から連続的および/または不連続的に(パージとして)排出される。
【0087】
好ましくは、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、完全にまたは部分的に抽出部(ステップiii)に返送される。抽出部へのW4の添加の好ましい実施形態は、上述したとおりである。
【0088】
好ましくは、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、完全にまたは部分的に相分離器I(ステップvii)に送られる。
【0089】
好ましい実施形態では、任意の方法ステップii)(アセタール開裂装置)が実現され、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、完全にまたは部分的に反応器III(アセタール開裂装置)に返送される。
【0090】
好ましい実施形態では、任意の方法ステップviii)が実現され、蒸留段階IIからの底部フラクションW4は、完全にまたは部分的に反応器IV(エステル加水分解)に送られる。
【0091】
好ましい実施形態では、底部フラクションW4の返送は、前記方法部分のうち2つ以上で行われる。
【0092】
好ましくは、水性底部フラクションW4は、1~3、好ましくは1.5~2.5の範囲のpH値を有する。好ましくは、水性底部フラクションW4は、全重量W4に対して60重量%超、好ましくは80重量%超の水を含む。好ましくは、底部フラクションW4は、全重量W4に対して10重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に好ましくは1重量%未満のアルコール、特にメタノールを含む。
【0093】
蒸留段階III - 高沸点物質の分離(ステップv)
好ましくは、本発明による方法は、有機相P1を蒸留段階III(特に蒸留塔III)で抽出部から分離し、その際、アルキルメタクリレートを含む低沸点頂部フラクションW5と、メタクリル酸を含む高沸点底部フラクションW6とを得ることを含む。
【0094】
一実施形態では、頂部フラクションW5の一部を、相分離器IIに送ることができる。水相を、反応器IVに供給することができる。
【0095】
好ましい実施形態では、メタクリル酸を含む底部フラクションW6は、任意の蒸留段階VI(蒸留塔VI)に送られ、その際、W6中のアルキルメタクリレートの量が減少され、アルキルメタクリレートを含む蒸留段階VIの頂部フラクションを、蒸留段階IIIに返送することができる。
【0096】
好ましい実施形態では、メタクリル酸を、底部フラクションW6および/または任意の蒸留段階VIの底部フラクションからさらなる生成物として得ることができる。その詳細は、例えば、国際公開第2017/046110号に記載されている。あるいは、アルキルメタクリレートを精製するための蒸留段階III、IVおよびVのうちの1つ、いくつかまたはすべてを、結晶化に置き換えることもできる。
【0097】
蒸留段階IV - 低沸点物質の分離(ステップvi)
好ましくは、本発明による方法は、蒸留段階IIIからの低沸点頂部フラクションW5を蒸留段階IV(特に蒸留塔IV)で分離し、その際、低沸点頂部フラクションW7と、アルキルメタクリレートを含む高沸点底部フラクションW8とを得ることを含む。
【0098】
好ましくは、底部フラクションW8を、さらなる任意の蒸留段階V(特に蒸留塔V)に送ることができ、その際、アルキルメタクリレートの最終精製が行われ、アルキルメタクリレートが任意の蒸留段階Vの頂部フラクションとして本方法から生成物として排出される。
【0099】
任意の蒸留段階Vの底部フラクションを、任意に蒸留段階IIIおよび/または蒸留段階VIに送ることができる。
【0100】
相分離器I(ステップvii)
好ましくは、本発明による方法は、蒸留段階IVからの頂部フラクションW7を水と混合し、相分離器Iで有機相P3(典型的には軽質相)と水相P4(典型的には重質相)とに分離することを含む。
【0101】
相分離器の典型的な設計は、当業者に知られている。
【0102】
好ましくは、有機相P3を、有機廃棄物流として、相分離器Iから完全にまたは部分的に、連続的にまたは不連続的に本方法から排出することができる。好ましくは、相分離器Iからの有機相P3は、完全にまたは部分的に任意の蒸留段階VII(MAL回収)に送られ、そこでメタクロレインが回収されて反応器IIでの酸化的エステル化に供給される。
【0103】
代替的実施形態では、相分離器Iからの水相P4は、完全にまたは部分的に蒸留塔II(アルコール回収)に送られる。これは特に、任意の方法ステップviii)が実現されない場合に行われる。
【0104】
また、水相P4を相分離器Iから完全にまたは部分的に、連続的および/または不連続的に水性廃水流として排出することも可能である。
【0105】
好ましくは、相分離器Iは、水供給部IIIを含む。また、水を(専らまたは部分的に)蒸留段階IIからの底部フラクションW4の返送を通じて供給することも可能である。
【0106】
反応器IV - エステル加水分解(任意のステップviii)
好ましくは、本発明による方法は、相分離器Iからの水相P4を反応器IVにおいて少なくとも1つの酸Sと混合し(エステル加水分解)、その際、P4に含まれるエステル副生成物を開裂させ、アルコールを回収し、水相P5を得ることを含む。
【0107】
典型的には、任意の反応器IVにおいて、メチルメタクリレートよりも低い沸点を有するエステル副生成物、特にイソ酪酸アルキルエステルおよびプロピオン酸アルキルエステルなどの飽和エステル、例えばイソ酪酸メチルエステル、プロピオン酸メチルエステルが加水分解され、その際、アルコール、好ましくはメタノールを回収することが可能である。
【0108】
本方法の好ましい実施形態では、任意の方法ステップviii)が実現され、反応器IV(エステル加水分解)からの水相P5が、完全にまたは部分的に蒸留塔IIに送られる。ここで、典型的には、エステル加水分解で回収されたアルコールは、頂部フラクションW3を通じて反応器IIに供給される。
【0109】
また、反応器IVから水相P5の一部を水性廃水流として連続的および/または不連続的に排出することも可能である。
【0110】
好ましくは、反応器IVは、少なくとも1つの酸S、好ましくは硫酸が供給される酸供給部IVを含む。また、少なくとも1つの酸Sを、(専らまたは部分的に)蒸留段階IIからの底部フラクションW4の返送を通じて供給することも可能である。任意に、反応器IVは、酸供給部IVに加えて、水供給部を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
図1】本発明によるアルキルメタクリレートの製造方法の第2の方法ステップ(酸化的エステル化MALおよび生成物流の後処理)の可能な概略フロー図の一例を示す。本発明によるMAL合成方法の反応器Iは図示されていない。
【0112】
実験の部
実施例1 - W4を抽出部(9)に返送
反応器IIで、液相で酸素含有ガスの存在下でメタクロレインとメタノールを反応させてメチルメタクリレート(MMA)を生成させた。反応器IIからの反応器排出物は、以下の組成を有していた:MEOH 43.1重量%、MAL 8.8重量%、MMA 37.0重量%、HO 6.6重量%、MALアセタール 360ppm、残部 4.4重量%。
【0113】
反応器II(2)からの排出物を、抽出部(9)に直接供給した。抽出を、抽出塔で行った。部分的に、抽出への水供給II(11)を行った。抽出部の水相P2を塔II(12)に送った。塔IIの底部流から水性廃水流A1を排出した。部分的に、抽出部(9)への塔IIの底部流(W4)の返送を行った。
【0114】
試験3の場合、W4および水の添加を、抽出塔(9)の頂部で行った。試験4の場合、W4の添加を、抽出塔の頂部の下方で行い、水の添加を、抽出塔(9)の頂部で行った。
【0115】
抽出部の有機相の後処理を、塔III(15)、IV(16)、およびV(17)で行った。塔Vでは、MMA生成物流(26)を頂部フラクションとして取り出した。
【0116】
抽出部(9)への供給および水性廃棄物流の量を、以下の表1にまとめた。
【0117】
【表1】
【0118】
実施例2 - W4を反応器III/アセタール開裂装置に返送
反応器IIで、液相で酸素含有ガスの存在下でメタクロレインとメタノールを反応させてメチルメタクリレート(MMA)を生成させた。反応器IIからの反応器排出物は、以下の組成を有していた:MEOH 43.1重量%、MAL 8.8重量%、MMA 37.0重量%、HO 6.6重量%、MALアセタール 360ppm、残部 4.4重量%。
【0119】
反応器II(2)からの排出物を反応器III(8)に送って後処理を行った。反応器IIIは、下流にデカンターを備えた連続運転式撹拌槽として設計されていた。部分的に、96%硫酸(酸S)の供給を、酸供給部I(10)を通じて反応器IIIへと行った。反応器IIIからの排出物を、抽出部(9)に供給した。
【0120】
抽出を、抽出塔で行った。部分的に、抽出部への水供給II(11)を行った。抽出部の水相P2を塔II(12)に送った。塔IIの底部流から水性廃水流A1を排出した。部分的に、塔IIの底部流(W4)を反応器IIIおよび/または抽出部(9)に返送した。
【0121】
抽出部の有機相の後処理を、塔III(15)、IV(16)およびV(17)で行った。塔Vで、MMA生成物流(26)を頂部フラクションとして取り出した。
【0122】
反応器IIIおよび抽出部への供給を、以下の表2にまとめた。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例3 - W4を相分離器Iに返送
実施例1の記載と同様に行った。塔IVからの頂部フラクションに、水供給部III(24)を通じて水を加え、その後、相分離器I(19)で有機相P3と水相P4とに分離した。水相P4を、塔II(12)に返送した。
【0125】
部分的に、塔IIの底部流(W4)を相分離器Iおよび/または抽出部に返送した。相分離器Iおよび抽出部への供給を、以下の表3にまとめた。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例4 - W4を反応器IV/エステル開裂装置に返送
実施例3の記載と同様に行った。相分離器Iに、水供給部III(24)を通じて水を加えた。相分離器I(19)からの水相P4を反応器IV(エステル開裂装置)(21)に送り、酸供給部IVを通じて96%硫酸(酸S)と混合した。反応器IVからの水相P5を、塔II(12)に返送した。
【0128】
部分的に、塔IIの底部流(W4)を反応器IVおよび/または抽出部に返送した。反応器IVおよび抽出部への供給を、以下の表4にまとめた。
【0129】
【表4】
【0130】
本発明による方法制御により、同じ生成物品質および収率を維持しつつ、水および/または酸の供給量を節約し、かつ水性廃水流A1を最小限に抑えることができることが判明した。
【符号の説明】
【0131】
(1)反応器IIへのMALの供給部
(2)MALの酸化的エステル化用反応器II
(3)反応器IIへのアルコール(特にメタノール)の供給部
(4)反応器IIへの酸素および/または空気の供給部
(5)反応器IIへの塩基の供給部
(6)MAL分離のための蒸留塔I
(7)反応器IIに返送するためのMALとアルコールとを含む低沸点フラクション(再循環流)
(8)アセタール副生成物の開裂用反応器III(アセタール開裂装置)(例えば、ジメトキシイソブテン(DMIB)→MAL+MeOH)(任意)
(9)抽出部
(10)(8)への任意の酸供給部I
(11)(9)への任意の水供給部II
(12)アルコール回収用の蒸留塔II
(13)反応器IIに返送するためのアルコールを含む蒸留塔IIの低沸点フラクション
(14)水と酸とアルキルメタクリル酸および/またはその塩とを含む蒸留塔IIの底部フラクション
(15)高沸点物質分離用の蒸留塔III
(16)低沸点物質分離用の蒸留塔IV
(17)MMA最終精製用の蒸留塔V
(18)(15)の底部流に含まれるアルキルメタクリレートの量を低減するための蒸留塔VI(任意)
(19)塔IV(16)からの低沸点フラクションを後処理するための相分離器I
(20)相分離器I(19)からの有機相からMALを回収するための蒸留塔VII(任意)
(21)エステル副生成物(例えば、イソ酪酸アルキルエステル、プロピオン酸アルキルエステルなどの飽和エステル)からアルコールを回収するための反応器IV(エステル開裂装置)(任意)
(22)出発材料混合用装置 ミキサーI(任意)
(23)水処理部(任意)
(24)(19)への水供給部III(任意)
(25)(21)への酸供給部IV(任意)
(26)アルキルメタクリレート生成物流
(27)MALを含む再循環流
(A1)/(A2)水性廃棄物流
(B1)/(B2)有機廃棄流
図1
【国際調査報告】