(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】低沸点成分からメチルメタクリレートを精製する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/54 20060101AFI20221117BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20221117BHJP
C07C 67/39 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C07C67/54
C07C69/54 Z
C07C67/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519041
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(85)【翻訳文提出日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020075351
(87)【国際公開番号】W WO2021058293
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319013746
【氏名又は名称】レーム・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Deutsche-Telekom-Allee 9, 64295 Darmstadt, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン クリル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ヘルムート ケーニッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ベライド アイト アイサ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC48
4H006AD11
4H006BC51
4H006BC52
4H006BD60
4H006BE30
4H006KA35
4H006KC14
(57)【要約】
本発明は、低沸点成分で汚染されたメチルメタクリレートを蒸留により精製する新規の方法であって、このMMAは、酸化的エステル化により製造され、粗生成物として、低沸点成分のプロピオン酸メチルエステル(PRAME)、イソ酪酸メチルエステル(IBSME)およびメタクロレイン(MAL)を含む方法に関する。本方法は、示された低沸点成分を含むC2ベースのメタクロレインから製造されたMMAに適用することができる。しかし本方法は理論的には、PRAMEおよびMALを含むがIBSMEをほとんど含まないC4ベースのメタクロレインから製造されたMMAにも適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルメタクリレートの製造方法であって、第1の反応段階において反応器Iでメタクロレインを製造し、前記メタクロレインを第2の反応段階において反応器IIで酸素含有ガスの存在下でアルコールを用いて酸化的エステル化して、未精製のアルキルメタクリレート流を生成する方法において、
a.反応器Iで、プロピオンアルデヒドおよびホルマリンから出発して、プロピオンアルデヒドを含むメタクロレインを取得し、
b.反応器IIおよび任意の反応器IIIで、前記メタクロレインに含まれる前記プロピオンアルデヒドをプロピオン酸アルキルエステルに転化させ、これに加えて任意にイソ酪酸アルキルエステルが生成され、
c.反応器IIまたは反応器IIIの後に、プロピオン酸アルキルエステルと任意にイソ酪酸アルキルエステルとを含む、得られたアルキルメタクリレート粗製流を、蒸留塔Iを有する複数の蒸留分離塔および少なくとも1つの抽出分離部による後処理プロセスで後処理して、純粋なアルキルメタクリレートを取得し、前記蒸留塔Iにおいて、分留によりアルキルメタクリレートを底部フラクションとして分離し、メタクロレインとイソ酪酸アルキルエステルとプロピオン酸アルキルエステルとを含む副生成物フラクションを頂部フラクションとして取得することを特徴とする、方法。
【請求項2】
プロセスステップcから、プロピオン酸アルキルエステルまたはイソ酪酸アルキルエステルのそれぞれの含有量が0.1重量%未満であるアルキルメタクリレートを取得する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蒸留塔Iからの前記頂部フラクションを相分離器Iに送り、そこで水性フラクションと有機フラクションとに分離する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記相分離器Iにさらに水を送り、その際、前記水は、新鮮水および/または1つ以上の他のプロセスステップからの水含有再循環流であってよい、請求項3記載の方法。
【請求項5】
副生成物であるメタクロレイン、イソ酪酸アルキルエステルおよびプロピオン酸アルキルエステルを含む相分離器Iからの有機相を、部分的にまたは完全に前記蒸留塔Iに再循環させる、請求項3または4記載の方法。
【請求項6】
蒸留塔Iからの頂部流および/または相分離器Iからの有機相を完全にまたは部分的に蒸留塔IIに送って分留し、蒸留塔IIで、メタクロレインとイソ酪酸アルキルエステルおよび/またはプロピオン酸アルキルエステルとを含む低沸点副生成物フラクションと、メタクロレイン、イソ酪酸アルキルエステルおよびプロピオン酸アルキルエステルのそれぞれの含有量が0.1重量%未満である底部のアルキルメタクリレート含有フラクションとに分離する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
蒸留塔Iまたは蒸留塔IIからの少なくとも1つのアルキメタクリレート含有底部フラクションを蒸留塔IIIに送って高沸点成分を分離し、その後、任意の蒸留塔でさらに精製してさらなる低沸点成分を分離する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
蒸留塔Iでの蒸留を、エントレーナーとして作用する追加の溶媒の存在下で行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
蒸留塔Iからの前記頂部フラクションまたは相分離器Iからの水相を反応器IVに送り、前記反応器IVで酸加水分解を行う、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
反応器IVからの生成物流を完全にまたは部分的に廃棄部に供給し、かつ/または上流の処理ステップの1つに再循環させる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
蒸留塔Iおよび任意の蒸留塔IIを、それぞれ0.1bar~1barの絶対圧で運転する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
蒸留塔Iへの導入の上流で抽出分離を抽出部Iで行い、その際、水とアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含むフラクションを分離する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
プロセスステップaから得られた前記メタクロレインのプロピオンアルデヒド含有量は、100ppm~2重量%である、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
プロセスステップcから得られた前記アルキルメタクリレート中のイソ酪酸アルキルエステル含有量は、2000ppm未満である、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記アルコールはメタノールであり、前記アルキルメタクリレートはMMAであり、前記イソ酪酸アルキルエステルはイソ酪酸メチルエステルであり、前記プロピオン酸アルキルエステルはプロピオン酸メチルエステルである、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低沸点成分で汚染されたメチルメタクリレート(MMA)を蒸留により精製する新規の方法であって、このMMAは、酸化的エステル化により製造され、粗生成物として、低沸点成分のプロピオン酸メチルエステル(PRAME)、イソ酪酸メチルエステル(IBSME)およびメタクロレイン(MAL)を含む、方法に関する。本方法は、示された低沸点成分を含むC2ベースのメタクロレインから製造されたMMAに適用することができる。しかし本方法は理論的には、PRAMEおよびMALを含むがIBSMEをほとんど含まないC4ベースのメタクロレインから製造されたMMAにも適用可能である。
【0002】
先行技術
現在、メチルメタクリレート(MMA)は、C2、C3またはC4構成単位から出発する様々な方法によって製造されている。この方法では、MMAは、メタノールを用いたメタクロレインの直接酸化的エステル化反応により得られる。その際、第1のステップでプロパノールおよびホルムアルデヒドからメタクロレインが得られる。このような方法は、国際公開第2014/170223号に記載されている。
【0003】
本発明による方法は、いわゆるC2プロセスに従って、第二級アミンおよび酸、主に有機酸の存在下でホルマリンおよびプロピオンアルデヒドからメタクロレインを製造することを含む。ここで、この反応はマンニッヒ類似反応であり、その後、触媒である第二級アミンが放出される。そのようなメタクロレイン製造方法は、特に米国特許第7,141,702号明細書、米国特許第4,408,079号明細書、特許第3069420号公報、特開平4-173757号公報、欧州特許出願公開第0317909号明細書および米国特許第2,848,499号明細書に記載されている。プロセスに応じて、91~98%の収率を達成することができる。通常は、精製後にプロピオンアルデヒドの含有量が100ppm~2重量%であるメタクロレイン流が得られる。このメタクロレイン品質は、基本的に、液相でのメタクロレインからMMAへの直接酸化的エステル化による後続の反応に適している。
【0004】
空気およびメタノールを反応物とする液相でのいわゆる直接酸化的エステル化におけるメタクロレインからのMMAの製造とその後の粗製MMAの精製は、本発明にとって特に重要である。
【0005】
米国特許第5,969,178号明細書、米国特許第7,012,039号明細書、国際公開第2014/170223号および国際公開第2017/046110号には、酸化的エステル化によるMMAの製造方法が記載されている。ここで、メタクロレインを酸化的エステル化に供給し、生成された粗製MMAを処理するための様々なプロセス制御の選択肢が開示されている。ここで、本発明による方法では、新鮮なメタクロレインを酸化的エステル化の反応器排出物と混合し、分留において、留出液がメタクロレイン、プロピオンアルデヒド、メタクロレインよりも低沸点のさらなる副成分およびメタノールの一部を含むように分離する変法が好ましい。本発明による方法では特に他の変法も考えられ、特に、メタクロレイン合成により得られたプロピオンアルデヒドを酸化的エステル化のプロセスステップでプロピオン酸メチルエステルに転化させる変法も考えられる。このフラクションの底部フラクションは、MMA、水、メタクリル酸、塩、IBSME、PRAME、およびさらなる有機高沸点物質を含むことが好ましい。この変法は、国際公開第2017/046110号に記載されていた。さらに、本発明による方法によれば、酸化的エステル化においてプロピオンアルデヒドからプロピオン酸メチルエステルが生成される。さらに、イソ酪酸メチルエステルが生成される。通常は、抽出後に複数の蒸留塔を用いて粗製MMAの処理が行われる。この粗製MMAは、例えば、メタクロレイン、プロピオン酸メチルエステル、イソ酪酸メチルエステル、メタノール、水、メタクリル酸、および高沸点副成分を含む。先行技術による後処理の構想では、確かに良質のメチルメタクリレートが得られるものの、クリティカルで分離が困難な副成分である痕跡量のプロピオン酸メチルエステルおよびイソ酪酸メチルエステルが増加することが判明した。
【0006】
米国特許第4,518,462号明細書には、メタクロレインの酸化的エステル化またはメタクリル酸のエステル化からヘキサンをエントレーナーとして用いて粗製MMAからイソ酪酸メチルエステル(IBSME)の分離を行うMMAの製造方法が開示されている。この場合、関連する蒸留塔へのフィードは、メタノール、MMA、反応による水およびIBSMEを含む。蒸留は、さらに水を加えることなく行われる。この蒸留の分離原理は、エントレーナーであるヘキサンが、MMAおよびメタノールから形成される共沸混合物を分解することにある。しかしこの手順は、IBSMEおよびメタノールによって形成される共沸混合物には影響を及ぼさない。その結果、IBSMEは塔頂部で濃縮され、精製されたMMAは底部で抜き出され、水は側流で抜き出される。その後、留出液を相分離すると、有機相の主成分としてヘキサンが得られ、極性相の成分としてメタノールおよびIBSMEが得られる。その後、この極性相の2回目の蒸留が行われ、残りのヘキサンおよび他の低沸点成分がメタノールから分離されるが、IBSMEはメタノール相に残留する。したがって、メタノールを反応器に再循環させるには、この流れを3回目の非常に手間のかかる蒸留に供する必要がある。米国特許第4,518,462号明細書には、運転条件に応じてMMA回収率が95.4~96.2%であることが記載されている。この場合、MMA純度は、運転モードに応じて98.36重量%~99.9重量%である。
【0007】
米国特許第4,070,254号明細書には、例えばC4ベースのメタクロレインの酸化的エステル化または他のプロセスによるMMAの製造方法が記載されている。ここでも、MMAからのPRAMEの分離は記載されていない。この方法では、エントレーナーは使用されない。蒸留による分離は、全体として非常に多くの段数を必要とする。この場合、分離の構想は、MMAおよびIBSMEならびに任意に水を含むフィードを、まず留出液においてデカンタを備えた1つまたは2つの塔で蒸留することに基づいている。この場合、追加の水を、デカンタでも塔供給部でも加えることができる。分離原理は、塔頂部でのIBSMEの濃縮である。この場合、IBSMEの一部がそれぞれの水相に分離し、これによりその都度かなりのMMA損失が生じる。重要な制御パラメータは、フィード中のIBSME含有量に関連する水の添加量である。MMAの損失は、最適化によって低減することはできても、避けることはできない。第2の塔のデカンタの有機物流は、廃棄物流として蓄積されるか、または任意に変法で第3の塔において蒸留することができ、その際、MMAが塔の缶出液として回収される。しかしこの変法は、特に必要なエネルギーおよび必要な分離装置の数の点で、非常にコストがかかる。運転モードに応じて、本方法では98.99重量%~99.70重量%のMMA純度が達成される。MMAの回収率は、95.0~98.94%である。
【0008】
課題
本発明の課題は、メタクロレインから製造されたアルキルメタクリレートの新規の後処理方法であって、低沸点副生成物を特に効率的に除去する方法を提供することであった。
【0009】
この場合特に、これをアルキルメタクリレートの後処理に新たに組み込まれる蒸留によって実現することが課題であった。
【0010】
特に、アルキルメタクリレートはMMAであることが好ましい。この場合、上記の課題は、このMMAからプロピオン酸メチルエステルPRAME、イソ酪酸メチルエステルIBSME、メタクロレインMALを、特に効率的に、できるだけ少ないエネルギー投入量で除去することであった。
【0011】
さらに、本発明の課題は、メタクロレインから製造されたアルキルメタクリレートが酸化的エステル化により得られたか、酸化とその後のエステル化により得られたかにかかわらず、その精製に前記の新規方法を適用できるようにすることであった。この場合特に、C2供給源からのメタクロレインから製造されたMMA中に存在する副生成物を除去することを目的としている。
【0012】
明示されていないさらなる課題は、実施例、特許請求の範囲または発明の詳細な説明から、また本発明の全体的な文脈からも、また従来技術に関しても、明らかとなり得る。
【0013】
解決策
前記の課題は、アルキルメタクリレートの新規の製造方法であって、第1の反応段階において反応器Iでメタクロレインを製造し、このメタクロレインを第2の反応段階において反応器IIで酸素含有ガスの存在下でアルコールを用いて酸化的エステル化して、未精製のアルキルメタクリレート流を生成する方法により解決された。この新規の方法は、特に以下のプロセス態様を特徴とする:
a.反応器Iで、プロピオンアルデヒドおよびホルマリンから出発してメタクロレインを得る。ここで、このメタクロレインはプロピオンアルデヒドを含む。
b.次に、反応器IIおよび任意の反応器IIIで、メタクロレインに含まれるこのプロピオンアルデヒドをプロピオン酸アルキルエステルに転化させる。同時に、これらの反応器の少なくとも1つで、イソ酪酸アルキルエステルを生成する。
c.反応器IIまたは反応器IIIの後に、得られたアルキルメタクリレート粗製流を後処理プロセスで後処理して、純粋なアルキルメタクリレートを得る。ここで、この後処理プロセスは、複数の蒸留分離塔および少なくとも1つの抽出分離部を通過する。この場合、アルキルメタクリレート粗製流は、当初、プロピオン酸アルキルエステルおよびイソ酪酸アルキルエステルを含む。
【0014】
本発明によれば、プロセスステップcは、少なくとも1つの蒸留塔Iを有し、この蒸留塔Iにおいて、アルキルメタクリレートが底部フラクションとして分離される。ここで、分留により、メタクロレインとイソ酪酸アルキルエステルおよび/またはプロピオン酸アルキルエステルとを含む副生成物フラクションが頂部フラクションとして得られる。
【0015】
本発明には、2つの好ましい実施形態が存在する。これらの実施形態のうち、第1の実施形態では、反応器IIは、MALがアルコールおよび酸素により酸化的エステル化されてアルキルメタクリレートが生成される反応器である。この反応は、好ましくは液相で行われ、貴金属含有触媒で触媒される。本実施形態では、反応器IIIは存在しない。
【0016】
第2の実施形態では、MALが反応器IIで好ましくは気相で酸化されて、メタクリル酸が生成される。続いて、反応器IIIでこのメタクリル酸がアルコールでエステル化されて、アルキルメタクリレートが生成される。反応器IIIにおけるこの段階は、好ましくは液相で行われる。
【0017】
好ましくは、本発明による方法では、プロセスステップcから、プロピオン酸アルキルエステルまたはイソ酪酸アルキルエステルのそれぞれの含有量が0.1重量%未満であるアルキルメタクリレートが得られる。
【0018】
本発明による方法で使用されるアルコールは、通常はメタノールである。これに応じて、アルキルメタクリレートはMMAであり、イソ酪酸アルキルエステルはイソ酪酸メチルエステルであり、プロピオン酸アルキルエステルはプロピオン酸メチルエステルである。
【0019】
本変形例では、蒸留塔Iからの頂部フラクションが相分離器Iに送られ、そこで水性フラクションと有機フラクションとに分離される(
図1参照)。ここで、この相分離器Iにさらに水も送ることが特に好ましく、その際、水は、新鮮水および/または1つ以上の他のプロセスステップからの水含有再循環流であってよい。
【0020】
また、副生成物であるメタクロレイン、イソ酪酸アルキルエステルおよびプロピオン酸アルキルエステルを含む相分離器Iからの有機相を部分的にまたは完全に蒸留塔Iに再循環させることも好ましい。
【0021】
さらに、蒸留塔Iからの頂部流および/または相分離器Iからの有機相を部分的にまたは完全に蒸留塔IIに送って分留することが好ましい(
図2参照)。その後、この蒸留塔IIで、メタクロレインとイソ酪酸アルキルエステルおよび/またはプロピオン酸アルキルエステルとを含む低沸点副生成物フラクションと、メタクロレイン、イソ酪酸アルキルエステルおよびプロピオン酸アルキルエステルのそれぞれの含有量が0.1重量%未満である底部のアルキルメタクリレート含有フラクションとに分離が行われる。
【0022】
また、好ましくは、蒸留塔Iまたは蒸留塔IIからの少なくとも1つのアルキメタクリレート含有底部フラクションが蒸留塔IIIに送られて、高沸点成分が分離される。その後、任意に、高沸点物質から精製されたこのフラクションをさらなる蒸留塔でさらに精製して、さらなる低沸点成分を分離することもできる(付録のスキームには含まれていない)。
【0023】
任意に、蒸留塔Iでの蒸留は、エントレーナーとして作用する追加の溶媒の存在下で行うことができる。
【0024】
本発明の特定の実施形態では、蒸留塔Iからの頂部フラクションおよび/または相分離器Iからの水相は、反応器IVに送られる。この反応器IVで、酸加水分解が行われる。
【0025】
また、反応器IVからの生成物流を完全にまたは部分的に廃棄部に供給し、かつ/または上流の処理ステップの1つに再循環させることも好ましい。
【0026】
蒸留塔Iおよび任意の蒸留塔IIをそれぞれ0.1bar~1barの絶対圧で運転することが特に有利であることが判明した。
【0027】
本発明による方法の特に好ましい変形例はさらに、蒸留塔Iへの導入の上流で、抽出部Iで抽出分離を行うことを特徴とする。この抽出分離では、水とアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩とを含むフラクションが分離される。プロセスの一選択肢では、抽出部Iの有機相を蒸留塔IVで蒸留して、粗製MMAから高沸点物質を分離する。その後、生成された高沸点底部フラクションを蒸留塔Vで再度蒸留することができる。MMAの損失を最小限にするために、蒸留塔Vの留出液を蒸留塔IVに返送することができる。蒸留塔IVの留出液は、この変法では蒸留塔Iのフィードである。
【0028】
プロセスステップaから得られたメタクロレインのプロピオンアルデヒド含有量は、100重量ppm~2重量%であることが好ましい。同様に、プロセスステップcから得られたアルキルメタクリレート中のイソ酪酸アルキルエステル含有量は、2000ppm未満であることが好ましい。
【0029】
低沸点塔で行われる蒸留段階Iは、前述の副生成物であるプロピオン酸アルキルエステルおよびイソ酪酸アルキルエステルならびに残留するメタクロレインの必要な分離を達成するために様々な様式で設計することが可能である。そこで、留出液においてデカンタを備えた多段蒸留塔を使用することが実用的であることが判明した。蒸留塔は、通常は100mbar~1bar、好ましくは150~500mbar、特に好ましくは200~400mbarの内圧で運転される。この場合、底部温度はおよそ55~100℃となる。温度が高いと例えば重合などの副反応が起こりやすいため、底部温度が80℃未満、好ましくは70℃未満となるように圧力を設定することが望ましい。塔は、頂部温度が底部温度より7~15℃低くなるように設計および運転されることが好ましい。
【0030】
ここで、フィード流は主に、アルキルメタクリレート、好ましくはMMA、イソ酪酸アルキルエステル、好ましくはIBSME、プロピオン酸アルキルエステル、好ましくはPRAME、メタクロレイン、メタノール、水、およびその他の低沸点物質からなる。
【0031】
好ましくは、塔は、30~100、好ましくは45~65の理論段数を有する。理論段数とは、塔内の局所的な熱力学的平衡状態である。この数は、1つの塔の中で2つの異なる種類またはその組み合わせで実現することができる。最終的には、こうした変形形態によって必要な塔の長さが得られる。塔内にシーブトレイが存在してもよい。第2の方法または付加的な方法として、塔の領域に不規則充填物や規則充填物が充填されていてもよい。蒸留塔Iへの供給は、好ましくは、塔底部から見て塔底部と塔中央部との間で行うことができる。特に好ましくは、供給は、塔の1/3の位置と塔中央部との間で行われる。
【0032】
通常は、蒸留塔Iでは、0.5~5.0、好ましくは1.0~3.0の範囲の比較的高い還流/供給比で運転される。
【0033】
精製されたMMAは、塔底部に蓄積される。ここで、塔の運転条件は、それぞれの処理の構想に適合させることができる。総じて、このMMAに含まれる低沸点物質は、高沸点点物質分離用の塔では分離できず、最終生成物にも含まれる。
【0034】
蒸留塔Iの後、留出液は任意に水を加えて相分離に供され、その際、水性流および有機物流が生成される。相分離器は、50℃未満の温度で運転することができる。好ましくは、温度は、4~30℃、通常は15~25℃である。相分離器でのフィードに対する水の比率は、通常は0(水の追加なし)~0.5、好ましくは0.1~0.2である。水性流は、主にH2O、メタノールおよびある割合の有機物質MMA、PRAME、IBSMEなどを含む。水性流は、廃水として処理されるか、あるいは酸加水分解などの任意の副生成物処理に供することができる。酸加水分解では、通常は無機酸の添加によりMMA、PRAMEおよびIBSMEが再び鹸化される。この場合、この鹸化は、温度、酸濃度および反応器IVでの滞留時間に関して、全体として不完全な鹸化にとどまるように制御される。PRAMEおよびIBSMEの鹸化反応は、MMAに対して速度論的に好ましいため、このようにしてMMAの適切な割合を保持することができる。あるいはその後、放出されたメタノールおよび残留するMMAを、例えば蒸留によって、高いコストをかけずに単離することも可能である。任意に、反応器IVからの全生成物を、いわゆるメタノール回収塔である蒸留塔VIに送ることができる。その場合、遊離酸の沸点が高いため、イソ酪酸およびプロピオン酸を、単に蒸留塔VIの底部を通じて廃水処理部に供給することができる。
【0035】
相分離器Iの有機物流は、完全に塔に返送されるか、あるいは任意に排出流として抜き出される。任意に、この排出流をさらなる塔で精製することができる。この場合、MMAが底部生成物として回収され、分離すべき低沸点物質(IBSME、PRAME、MAL)が留出液として分離される。
【0036】
完全を期すために、メタノール、MMA、PRAMEおよびIBSMEに関する前述のセクションのすべてが、当然のことながら他のアルコール、ひいてはアルキルメタクリレート、イソ酪酸アルキルエステルまたはプロピオン酸アルキルエステルにも適用可能であることに留意されたい。
【0037】
本発明による方法により、イソ酪酸メチルエステルを分離すると同時に、メタクロレインとプロピオン酸メチルエステルとを単一の蒸留塔で分離し、同時に99重量%超のMMA回収率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ホルマリンおよびプロパナールから出発するMMA製造の全体フロー図。
【
図2】任意の排出塔を用いたホルマリンおよびプロパナールから出発するMMA製造の全体フロー図。
【0039】
図面には、例として本発明の2つの異なる実施形態が図示されている。ここで、これらの図示は、特許請求の範囲に記載された内容に関して何ら制限的な効果を有するものではない。
【0040】
実施例
実施例1
図1に示す連続運転プラントで、高沸点物質塔(蒸留塔IV)(26)の留出液流(31)を生成し、これを後続の低沸点物質塔(蒸留塔I)(32)で蒸留して低沸点物質から精製する。この操作により、PRAME含有量<10ppmおよびIBSME含有量<350ppmであるプロセス安定剤含有MMA底部流を生成することができる。低沸点物質塔を、絶対圧250mbarの運転圧力で運転する。この塔は、Sulzer社製M750.Y規則充填物(直径100mm、充填物高さ12000mm、6000mmで供給)を備えている。冷却器にプロセス安定剤を添加する。プロセス安定剤は、MMAに溶解させてあり、添加量は330g/hである。運転温度20℃に温調され、水添加部(34)を有する相分離器により、水相(36)および有機相を生成する。この有機相を還流として塔に返送し、一部を排出流(35)としてプロセスから排出する。本実施例では、高沸点物質塔の留出液流(31)は11000g/hであり、98.0重量%のMMA、1.0重量%のH
2O、0.2重量%のMAL、0.1重量%のPRAME、0.1重量%のIBSMEおよび0.5重量%の残留物を含み、この残留物は主にメタノールである。還流/供給比は1.1に設定されており、排出流は112g/hに固定されている。相分離器への水の添加速度は、1285g/hである。この結果、頂部温度は53℃、底部温度は61℃となる。相分離器の水性流(36)は1483g/hであり、1.2重量%のMMA、93.8重量%のH
2O、1重量%のMAL、0.3重量%のPRAME、0.1重量%のIBSMEおよび3.6重量%の残留物を含む。この結果、底部排出物(40)は10950g/hとなり、組成は、99.9重量%のMMA、50ppmのPRAME、350ppmのIBSMEおよび0.06重量%のプロセス安定剤である。図示されている運転では、MMA保持率99.04%が達成される。
【0041】
実施例2
実施例1の塔(絶対圧250mbarの運転圧力)および相分離器(運転温度20℃)を用いて、高沸点物質塔の留出液流(31)(11000g/h、96.7重量%のMMA、1.8重量%のH2O、0.1重量%のMAL、0.1重量%のPRAME、0.2重量%のIBSMEおよび1.1重量%の残留物を含有)を蒸留する。この場合、還流/供給比は2.2に設定されており、排出流は25g/hに固定されている。相分離器への水の添加速度は、1530g/hである。この結果、頂部温度は54℃、底部温度は62℃となる。相分離器の水性流(36)は1858g/hであり、1.6重量%のMMA、91.8重量%のH2O、0.4重量%のMAL、0.4重量%のPRAME、0.5重量%のIBSMEおよび4.9重量%の残留物を含む。この結果、底部排出物(40)は11035g/hとなり、組成は、99.91重量%のMMA、35ppmのPRAME、315ppmのIBSMEおよび0.06重量%のプロセス安定剤である。記載されたこの運転モードでは、MMA保持率99.71%が達成される。
【0042】
実施例3
実施例1の塔(絶対圧250mbarの運転圧力)および相分離器(運転温度20℃)において、高沸点物質塔の留出液流(31)(11000g/h、96.7重量%のMMA、1.8重量%のH2O、0.1重量%のMAL、0.1重量%のPRAME、0.2重量%のIBSMEおよび1.1重量%の残留物を含有)を蒸留する。この場合、還流/供給比は2.0に設定されており、排出流は25g/hに固定されている。相分離器には水を加えない。この結果、頂部温度は50℃、底部温度は62℃となる。相分離器の水性流(36)は335g/hであり、5.5重量%のMMA、60.0重量%のH2O、2.0重量%のMAL、1.5重量%のPRAME、2.0重量%のIBSMEおよび29.0重量%の残留物を含む。底部排出物(40)は11000g/hであり、組成は、99.9重量%のMMA、55ppmのPRAME、320ppmのIBSMEおよび0.06重量%のプロセス安定剤である。MMA保持率99.51%が達成される。
【0043】
実施例4
実施例1~実施例3で使用したプロセス配置構成に、さらなる蒸留塔II(44)、いわゆる排出塔(
図2)を追加する。この塔に排出流(35)をフィードとして供給し、蒸留により精製する。この場合、生成された留出液(45)は、低沸点成分(MAL、PRAME、およびIBSME)を含む。底部フラクションは、プロセス安定剤とともにMMAを含み、この底部フラクションを低沸点物質塔に返送する。排出塔を、絶対圧250mbarの圧力で運転する。塔は、Sulzer社製高性能実験用充填物DX(直径50mm、充填物高さ2000mm)を備えている。低沸点物質塔および相分離器の運転条件は、実施例1と同じである。低沸点物質塔へのフィードは11000g/hであり、96.7重量%のMMA、1.8重量%のH
2O、0.1重量%のMAL、0.1重量%のPRAME、0.2重量%のIBSMEおよび1.1重量%の残留物を含む。この場合、還流/供給比は1.0に設定されており、相分離器への水の添加量は1530g/hである。この結果、頂部温度は54℃、底部温度は62℃となる。排出塔へのフィードとしての役割を果たす排出流(35)は、110g/hに固定されている。相分離器の水性流(36)は1858g/hであり、1.2重量%のMMA、93.8重量%のH
2O、1重量%のMAL、0.4重量%のPRAME、0.1重量%のIBSMEおよび3.5重量%の残留物を含む。排出塔の頂部温度は34℃であり、底部温度は61℃である。排出塔の留出液流(45)が22g/h生じ、これは、2.1重量%のMMA、7.9重量%のH
2O、39.9重量%のMAL、26.6重量%のPRAME、19.5重量%のIBSMEおよび4.0重量%の残留物を含む。排出塔の缶出液(46)を完全に低沸点物質塔に返送する。この結果、低沸点物質塔の底部排出物(40)は11038g/hとなり、組成は、99.91重量%のMMA、5ppmのPRAME、315ppmのIBSMEおよび0.06重量%のプロセス安定剤である。MMA保持率は99.73%である。
【0044】
実施例5
実施例1で使用したプロセス配置構成に、反応容量250mlの撹拌槽反応器(反応器IV)(37)を追加する(
図1)。撹拌機を500rpmで運転し、運転温度は40℃である。この反応器(37)に、相分離器の水相(36)を導入する。この流れは、1.2重量%のMMA、93.8重量%のH
2O、1重量%のMAL、0.3重量%のPRAME、0.1重量%のIBSMEおよび3.6重量%の残留物からなり、1483g/hの速度で生じる。さらに、撹拌槽反応器(37)に96%硫酸(38)を9.8g/hで加える。記載された流れによって、滞留時間は10分となる。この場合、PRAME転化率44%、IBSME転化率48%、およびMMA転化率44%であることが確認された。
【0045】
実施例6
実施例1の塔(絶対圧600mbarの運転圧力)および相分離器(運転温度20℃)を用いて、高沸点物質塔の留出液流(31)(11000g/h、96.7重量%のMMA、1.8重量%のH2O、0.1重量%のMAL、0.1重量%のPRAME、0.2重量%のIBSMEおよび1.1重量%の残留物を含有)を蒸留する。ヘキサンをエントレーナーとして塔頂部で加える。補填すべきヘキサン損失は8.8g/hである。この場合、還流/供給比は1.8に設定されており、排出流は73g/hである。相分離器への水の添加量は1489g/hである。この結果、頂部温度は54℃、底部温度は84℃となる。塔頂部で60.5重量%のヘキサン含有量が達成される。相分離器の水性流(36)は1816g/hであり、0.4重量%のMMA、92.9重量%のH2O、0.4重量%のMAL、0.4重量%のPRAME、0.4重量%のIBSMEおよび5.5重量%の残留物を含む。底部排出物(40)は10930g/hであり、組成は、99.90重量%のMMA、35ppmのPRAME、315ppmのIBSMEおよび0.07重量%のプロセス安定剤である。記載されたこの運転モードでは、MMA保持率99.66%が達成される。
【符号の説明】
【0046】
(1)反応器Iのホルマリンの供給
(2)反応器Iへのプロパナールの供給
(3)反応器Iへの任意の安定剤の供給
(4)メタクロレイン合成用反応器I
(5)粗製メタクロレインの処理
(6)反応器IIへのメタクロレインの供給
(7)メタクロレインの酸化的エステル化用反応器II
(8)アルコールの供給(通常は、メタノールの供給)
(9)酸素または空気の導入
(10)塩基の供給
(11)反応器IIの排ガス
(12)反応器IIの反応器排出物
(13)蒸留塔VII:メタクロレイン回収塔
(14)MAL再循環
(15)MALアセタール転化装置
(16)酸の供給(通常は、硫酸)
(17)MALアセタール転化装置の生成物流
(18)抽出部I
(19)抽出部Iへの水の供給
(20)抽出部Iの水相
(21)蒸留塔VI:メタノール回収塔
(22)反応器IIに返送するためのアルコールを含む低沸点フラクション
(23)メタノール回収塔の返送
(24)廃棄またはさらなる後処理のための水、酸およびそのアルカリ塩を含む底部フラクション
(25)抽出部の有機相
(26)蒸留塔IV:高沸点物質塔
(27)MMA、メタクリル酸および高沸点物質を含む底部フラクション
(28)蒸留塔V:MMA回収塔
(29)MMAを含む留出液
(30)メタクリル酸および高沸点物質を含む底部フラクション
(31)MMAおよび低沸点物質を含む留出液
(32)蒸留塔I:低沸点物質塔
(33)任意の相分離器I
(34)任意の水の添加
(35)任意の排出流
(36)任意の相分離器Iの水相
(37)任意の酸加水分解用反応器IV
(38)酸の供給(通常は、硫酸)
(39)任意に再循環流としての、酸加水分解の生成物流
(40)低沸点物質塔の底部フラクション
(41)蒸留塔III:MMAの最終精製用のMMA精製塔
(42)MMA精製塔の留出液としての、仕様に適合したMMA
(43)任意に高沸点物質塔に返送するMMA精製塔の底部フラクション
(44)蒸留塔II:排出塔
(45)イソ酪酸メチルエステルおよびプロピオン酸メチルエステルなどの低沸点物質を含む留出液
(46)MMAを含む排出塔の底部フラクション
(A)排ガス
【国際調査報告】