(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-25
(54)【発明の名称】標的化ヌクレアーゼを用いたマイクロバイオータ組成の調節
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221117BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20221117BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520089
(86)(22)【出願日】2020-09-29
(85)【翻訳文提出日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 US2020053304
(87)【国際公開番号】W WO2021067291
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(71)【出願人】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】イーストランド,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジーガン
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,グレゴリー ディ
(72)【発明者】
【氏名】ベラー,ザッカリー ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン,ジェフリー アイバン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
(57)【要約】
微生物の複雑な集団をリモデリングするための組成物および方法が、本明細書にて提供される。RNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、標的原核生物の染色体DNAの部位を標的とするように設計されており、ここで、標的原核生物のレベルは、原核生物の混合集団において調節され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌または古細菌の染色体と関連する人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムを含むタンパク質-核酸複合体であって、ここで、該人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが微生物の染色体内のある部位に標的化されており、かつ該微生物の染色体が、配列番号1に対して少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むHUファミリーDNA結合タンパク質をコード化している、タンパク質-核酸複合体。
【請求項2】
人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、タイプI CRISPRシステム、タイプII CRISPRシステム、タイプIII CRISPRシステム、タイプIV CRISPRシステム、タイプV CRISPRシステムまたはタイプVI CRISPRシステムから選択されるCRISPRシステムである、請求項1記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項3】
CRISPRシステムが、CRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNAを含む、請求項2記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項4】
CRISPRヌクレアーゼが、Cas9、Cas12、Cas13またはCasXである、請求項3記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項5】
人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、該人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムをコード化する核酸から発現され、かつ細菌染色体または古細菌染色体に組込まれている、請求項1から4のいずれか一項記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項6】
人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、該人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムをコード化する核酸から発現され、かつ染色体外ベクターに担持されている、請求項1から4のいずれか一項記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項7】
原核生物の染色体がバクテロイデス属細菌内に存在する、請求項1から6のいずれか一項記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項8】
バクテロイデス属細菌が、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・ブルガータス、バクテロイデス・セルロシリティカス、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ヘルコゲネス、バクテロイデス・オヴァタス、バクテロイデス・サラニトロニス、バクテロイデス・ユニフォーミスまたはバクテロイデス・キシラニソルベンから選択される、請求項7記載のタンパク質-核酸複合体。
【請求項9】
原核生物の混合集団において標的原核生物の増殖を遅らせる方法であって、ここで、該方法は、標的原核生物において人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムを発現させることを含み、該人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、標的原核生物の染色体内のある部位に標的化されて、該標的原核生物の染色体内に少なくとも1つの二本鎖切断が導入されることにより該標的原核生物の増殖を遅らせる、方法。
【請求項10】
標的原核生物の増殖を遅らせることが、原核生物の混合集団における標的原核生物レベルの減少または除去をもたらす、請求項9記載の方法。
【請求項11】
RNA誘導型ヌクレアーゼシステムの発現が誘導できる、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、タイプI CRISPRシステム、タイプII CRISPRシステム、タイプIII CRISPRシステム、タイプIV CRISPRシステム、タイプV CRISPRシステムまたはタイプVI CRISPRシステムから選択されるCRISPRシステムである、請求項9から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
CRISPRシステムが、CRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNAを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
CRISPRヌクレアーゼが、Cas9、Cas12、Cas13またはCasXヌクレアーゼである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNAが、標的原核生物の染色体に組込まれた少なくとも1つの核酸から発現される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
CRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNAが、染色体外ベクターに担持された少なくとも1つの核酸から発現される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
CRISPRヌクレアーゼをコードする核酸が、誘導性プロモーターに作動可能に連結されている、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
発現させるステップが、原核生物の混合集団をプロモーター誘導化学物質と接触させることを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
原核生物の混合集団が細胞培養物中に保持される、請求項9から18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
原核生物の混合集団が哺乳動物の消化管内に保持されている、請求項9から18のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが、人工CRISPRヌクレアーゼシステムであり、人工CRISPRヌクレアーゼシステムをコードする少なくとも1つの核酸が標的原核生物に導入され、CRISPRヌクレアーゼをコードする核酸が誘導性プロモーターに作動可能に連結され、そして発現ステップがプロモーター誘導化学物質を哺乳動物に投与することを含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
投与が、プロモーター誘導化学物質を経口投与することを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
プロモーター誘導化学物質がアンヒドロテトラサイクリンである、請求項18、21または22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
哺乳動物がヒトである、請求項20から23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
ヒトが癌の処置を受けており、ヒトの胃腸管内の原核生物混合集団からの標的原核生物の減少または除去が、癌処置に対する該ヒトの応答を改善する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
癌の処置が免疫療法を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
標的原核生物がバクテロイデス属である、請求項9から26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
バクテロイデス属が、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・ブルガータス、バクテロイデス・セルロシリティカス、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ヘルコゲネス、バクテロイデス・オヴァタス、バクテロイデス・サラニトロニス、バクテロイデス・ユニフォーミスまたはバクテロイデス・キシラニソルベンから選択される、請求項27記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年9月30日出願の米国仮特許出願第62/908,130号、2019年10月1日出願の米国仮特許出願第62/909,078号、および2020年7月16日出願の米国仮特許出願第63/052,825号に基づく優先権の利益を主張する。これらのそれぞれの内容全体は、引用により本明細書に包含させる。
【0002】
配列リスト
本出願には、EFS-Webを介してASCII形式で送信された配列表が含まれており、引用によりその全体が組込まれる。2020年9月29日に作成されたASCIIコピーは、P19-171-_WO-PCT_SL.txtと称し、サイズは51,634バイトである。
【0003】
技術分野
本発明は、細菌叢(マイクロバイオータ)の組成をリモデリングするための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
微生物集団の組成および発現機能を制御することは、医学、バイオテクノロジーおよび環境サイクルの重要な面である。古典的な抗菌戦略はある程度の制御が可能であるが、依然として解決が望まれるのは、近縁の微生物でさえ区別することができ、微生物集団の構成を細かく制御することができる一般的かつプログラム可能な戦略である。最近の進歩は、RNA誘導型ヌクレアーゼシステムが微生物集団の特定のDNA配列を標的とするように設計できることを示している。同様の戦略を用いて、複数種の細菌集団から特定の種を標的にして除去することは有益である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
この特許または特許出願ファイルには、カラーで作成された図面が少なくとも1つ含まれている。カラー図面を含むこの特許または特許出願の公報のコピーは、要求によりおよび必要な料金の支払いに応じて、米国特許商標庁から提供される。
【0006】
【
図1】
図1Aから
図1Bは、組込まれた誘導性CRISPRシステムを用いた標的化マイクロバイオータ調節を示している。CRISPRシステム(Cas9エンドヌクレアーゼおよびガイドRNA)の発現は、細菌の染色体破壊をもたらし、最終的には細胞死を引き起こす。このように、ターゲティングガイドRNAを含む組込み型CRISPRカセットを担持する特定のバクテロイデス菌株は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導時にインサイチュウで混合集団から除去され得る。
【
図2】
図2は、CRISPR組込みベクターの概略図を示す。Cas9タンパク質は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導性プロモーターから発現される。シングルガイドRNA(N20-sgRNAスキャフォールド)はP1プロモーターから構成的に発現され、ここで、20ヌクレオチドのプロトスペーサー配列(N20)は、PAMが存在するとき(Streptococcus pyogenes CRISPR/Cas9の場合はNGG)、ゲノム内の標的DNA切断を明示する。
【
図3】
図3Aから
図3Cは、ヒトの腸由来細菌であるバクテロイデス・シータイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)(Bt)におけるCRISPRシステムの染色体組込みを示す。
図3AはNBU2組込みメカニズムを示す。
図3Bは、コンジュゲーションを介したBtへのCRISPR組込みを示す。
図3Cは、CRISPR組込み体のコロニーPCRスクリーニングを示す。PCR A:attBT2-1遺伝子座、外側プライマー;PCR B:attBT2-2遺伝子座、外側プライマー;PCR C:attBT2-1遺伝子座、左接合部;PCR D:attBT2-2遺伝子座、左接合部。M1~M4:非ターゲティング対照gRNAを含む4つのBtコロニー、;T1-T4:tdkを標的とするgRNAを含む4つのBtコロニー;S1-S4:susCを標的とするgRNAを含む4つのBtコロニー。
【0007】
【
図4】
図4Aから
図4Bは、組込み型CRISPRシステムを用いた個々のバクテロイデス菌株の誘導型CRISPR殺滅(killing)を示す。
図4Aは血液寒天プレートでの結果を示す。選択したCRISPRインテグレート(M1およびT1)について、TYG+Gm 200、Em 25のチューブ培養物を希釈し、それぞれ0ng/mlおよび100ng/ml濃度のアンヒドロテトラサイクリン(aTc)を添加したBHI血液寒天プレート(Gm 200、Em 25)に拡散させた(24時間チューブ培養、10
-6希釈、100μlスプレッド)。細胞を37℃にて40時間嫌気的にインキュベートした。
図4Bは、TYG液体培地での結果を示す。選択されたCRISPRインテグラント(M1、M2、T1、T3、S1、S2)を、TYG培地中の新鮮なコロニーから37℃にて6時間、OD600nm~0.6まで嫌気的に増殖させ、それぞれ0ng/ml、10ng/mlおよび100ng/mlの終濃度でaTcを補充した新鮮なTYG液体培地(Gm 200、Em 25)への1 :100希釈を行った。37℃にて24時間、嫌気性条件下での培養中に増殖を評価した。
【
図5】
図5Aから
図5Cは、インビトロでの混合集団における特定のバクテロイデス菌株の標的化された誘導性CRISPR殺滅(killing)を示す。選択されたCRISPR組込み体(M1、T1、S1)を、TYG培地中の新鮮なコロニーから37℃にて6時間嫌気的にOD600nm~0.6まで増殖させた。等量の細胞培養物(1:100希釈)を混合し、終濃度がそれぞれ0ng/ml、10ng/mlおよび100ng/mlのaTcを添加した新鮮なTYG液体培地(Gm 200、Em 25)に添加した。これらの培養物を37℃にて24時間嫌気的にインキュベートした。
図5A:OD600nm測定。
図5B:ガイドRNA領域(Cas9およびNBU2をコードする配列に結合するプライマー、1.5kbのアンプリコンサイズ)を増幅するPCRを、100ng/ml、10ng/mlおよび0ng/mlの濃度のaTcで処理した培養物に対して実施し、次いでサンガーDNA配列決定を行った。aTcで処理した培養物は、非ターゲティング対照gRNAのみを有する。
図5C:M1+S1_aTc100の培養物を希釈し(10
-6)、BHI血液寒天プレート(Gm200、Em25)上に広げ、37℃にて40時間、嫌気的に培養し、単一コロニーを得た。選択した5つのシングルコロニーおよび寒天プレートから掻き出した混合物について、ガイドRNA領域を増幅するコロニーPCRを行い、その後サンガーDNA配列決定を行い、増殖した全てのクローンが非標的、対照gRNAのみを有していることが示された。
【
図6】
図6は、バクテロイデス・ブルガータス(Bacteroides vulgatus (Bv))の染色体へのCRISPR組込みを示す。各コンジュゲーションからのコロニー、Bv.M(VM1、VM2、VM3、VM4、VM5、VM6、VM7とラベル付け)、およびsusC_Bv(V1、V2、V3、V4、V5とラベル付け)をコロニーPCRスクリーニング用に選択した。0、Bv野生型株;M、DNAラダー。
PCR A(外側プライマー、0.5kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-1遺伝子座での組込みをスクリーニングした;
PCR B(外側プライマー、0.5kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-2遺伝子座での組込みをスクリーニングした;そして、
PCR C(外側プライマー、0.6kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-3遺伝子座での組込みをスクリーニングした。
PCR D(外側プライマーおよびermGコード配列に結合する内部プライマー、0.6kbまたは0kb:attBv. 3-1遺伝子座組込みの左接合部)を用いて、選択したクローンの組込まれた染色体および組込みプラスミド配列の接合部を確認した。左のパネル:非ターゲティング、対照ガイドRNA(M)を含む組込み株;右パネル:susC_BvガイドRNAをターゲットとする組込み株。
【0008】
【
図7】
図7Aから
図7Cは、バクテロイデス・シータイオタオミクロン(B. thetaiotaomicron)CRISPR変異体の増殖の特徴を示す。
図7A:バクテロイデス・シータイオタオミクロンVPI-5482CRISPR変異体を操作するためのプラスミド設計。
図7B:血液寒天プレート±200ng/mL aTc上で培養されたスクランブルgRNAまたはtdkターゲティングgRNAのいずれかを含むBt変異体。
図7C:9ng/mL aTcを含むLYBHI培地中で増殖させたとき、Bt CRISPR変異体のOD600=0.2を達成するために必要な時間の箱ひげ図。
【
図8】
図8Aから
図8Dは、バクテロイデス・シータイオタオミクロンノックダウンを示す。
図8A:実験計画。矢印は、コンソーシアムが成体のオスの無菌C57Bl/6Jマウスに強制経口投与された時間を示す。各レシピエントマウスは、aTcが投与されなかった1~8日目に0.5%エタノールビークルを投与された。
図8Bおよび8C:各処理条件での経時的なBtまたはバクテロイデス・セルロシリティカス(B. cellulosilyticus)の相対存在量およびaTc曝露が水平バーで示される。
図8D:ビークル対照アームに対する4日間の処置アームの各時点(行)での各コンソーシアムメンバー(列)の相対存在量の中央値(%)の差を示すヒートマップ。
【
図9】
図9Aから
図9Bは、バクテロイデス・シータイオタオミクロンの排除を示している。
図9A:実験計画。矢印は、13メンバーまたは12メンバーからなるコンソーシアムの導入時を示す。
図9B:13メンバー(12株Bt)コミュニティアームに対する12メンバーコミュニティ処置アームの各時点(行)での各コンソーシアムメンバー(列)の相対存在量中央値(%)の差を示すヒートマップ。
【
図10】
図10は、安定して維持された誘導性CRISPRシステムを用いた標的化微生物叢の調節を示す。CRISPRシステム(Cas9エンドヌクレアーゼおよびガイドRNA)の発現は、細菌の染色体破壊および最終的には細胞死を引き起こす。このように、ターゲティングガイドRNAを備えた安定して維持されたCRISPRカセットを含む特定のバクテロイデス菌株は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導時にインサイチュウで混合集団から排除できる。
【0009】
【
図11】
図11Aから
図11Dは、血液寒天プレートの写真である。
図11Aは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTcなし、右側には100ng/mlのaTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンにおけるsusCを標的とするpRepA-CRISPRの10
-4希釈を示す。
図11Bは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/mlのaTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンにおけるsusCを標的とするpRepA-CRISPRの10
-6希釈を示す。
図11Cは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/ml aTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンでのpRepA-CRISPR非ターゲティングの10
-4希釈を示す。
図11Dは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴いおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/ml aTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンでのpRepA-CRISPR非ターゲティングの10
-6希釈を示す。
【
図12】
図12は、組込まれた、誘導性CRISPRシステムを用いた標的マイクロバイオータ調節を示す。CRISPRシステム(Cas9エンドヌクレアーゼおよびガイドRNA)の発現は、細菌の染色体破壊および最終的には細胞死を引き起こす。このように、ターゲティングガイドRNAを備えた組込みCRISPRカセットを担持する特定のバクテロイデス菌株は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導時にインサイチュウで混合集団から排除できる。
【
図13】
図13Aから
図13Bは、プラスミドpNBU2-CRISPR.susC_BWH2-19がt-RNA-Ser遺伝子、BcellWH2_RS22795のattBWH2部位にのみ組込まれていることを示す。プラスミド組込み部位の5’末端を
図13Aに示し、プラスミド組込み部位の3’末端を
図13Bに示す。
【
図14】
図14は、実施例13に記載の通り、24時間の増殖後に取得したOD600nmの読み取り値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明は、大量の標的化株の選択的ノックダウンによって複雑な微生物集団を再構築するために用いられる人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムを提供する。特に、RNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、標的となる原核生物種の染色体DNAの部位を標的とするように設計されており、ここで、用語“原核生物”とは、細菌ドメインおよび古細菌ドメインのメンバーを意味する。本明細書に記載の組成物および方法は、エクスビボおよび生動物内で微生物群集組成物を操作するために使用できる。
【0011】
(I)タンパク質-核酸複合体
本発明の一面は、原核生物の染色体に関連する操作された人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムを含むタンパク質-核酸複合体を提供し、ここで、該人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、染色体中のある部位を標的し、該細菌染色体は、配列番号1のアミノ酸配列(MNKADLISAVAAEAGLSKVDAKKAVEAFVSTVTKALQEGDKVSLIGFGTFSVAERSARTGINPSTKATITIPAKKVTKFKPGAELADAIK)と少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むHUファミリーDNA結合タンパク質をコードしており、かつ細菌種の染色体は配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有するHUファミリーDNA結合タンパク質と関連している。一般的に、細菌種の染色体DNAを標的とするRNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、目的の生物に内因性である天然RNA誘導型ヌクレアーゼ(例えば、CRISPR)システム以外のものである。
【0012】
RNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、その切断活性がRNA(例えば、ガイドRNA)によって指示されるDNAエンドヌクレアーゼ(例えば、CRISPRヌクレアーゼ)を含む。原核生物は、原核生物の染色体DNAと結合するHUファミリータンパク質を発現する。したがって、本明細書に記載のタンパク質-核酸複合体は、DNA/タンパク質複合体(原核生物染色体DNAおよび関連するHUファミリータンパク質)に結合したリボヌクレオタンパク質複合体(CRISPRヌクレアーゼ/gRNA)を含む。
【0013】
(a)RNA誘導型ヌクレアーゼシステム
本明細書に記載のタンパク質-核酸複合体は、その切断活性がガイドRNA(gRNA)によって指示されるDNAエンドヌクレアーゼを含む、RNA誘導型ヌクレアーゼシステムを含む。以下に詳述するように、gRNAは、目的の核酸(例えば、原核生物の染色体)の特定の配列を認識し、標的とするように操作できる。
【0014】
一般的に、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(CRISPR)ヌクレアーゼである。CRISPRヌクレアーゼは細菌または古細菌であり得る。状況によっては、CRISPRヌクレアーゼは、タイプI CRISPRシステム、タイプII CRISPRシステム、タイプIII CRISPRシステム、タイプIV CRISPRシステム、タイプV CRISPRシステム、またはタイプVI CRISPRシステム由来であり得る。特定の態様において、CRISPRヌクレアーゼは、タイプIIシステム、タイプVシステムまたはタイプVIシステムなどの単一サブユニットエフェクターシステムに由来し得る。様々な態様において、CRISPRヌクレアーゼは、タイプII Cas9ヌクレアーゼ、タイプV Cas12(以前はCpf1と呼ばれる)ヌクレアーゼ、タイプVI Cas13(以前はC2cdと呼ばれる)ヌクレアーゼ、CasXヌクレアーゼまたはCasYヌクレアーゼであり得る。
【0015】
CRISPRヌクレアーゼは、アカリオクロリス種、アセトハロビウム種、アシダミノコッカス種、アシディチオバチルス種、アシドテルムス種、アッカーマンシア種、アリシクロバチルス種、アロクロマチウム種、アンモニフェックス種、アナベナ種、アルトロスピラ種、バシラス種、ビフィドバクテリウム種、ブルクデリアレス(Burkholderiales)種、カルディセロシルプトル種、カンピロバクター種、カンディダタス種、クロストリジウム種、コリネバクテリウム種、クロコスファエラ種、シアノテース(Cyanothece)種、デルタプロテオバクテリウム種、エクシグオバクテリウム種、フィネゴルディア種、フランシセラ種、ケドノバクター(Ktedonobacter)種、ラクノスピラチェ(Lachnospiraceae)種、ラクトバチルス種、レプトトリキア(Leptotrichia)種、リングビア種、マリノバクター種、メタノハロビウム種、ミクロシラ種、ミクロコレウス種、ミクロシスティス種、マイコプラズマ種、ナトラネロビウス(Natranaerobius)種、ナイセリア種、ニトラトラクター(Nitratifractor)種、ニトロソコッカス種、ノカルディオプシス種、ノデュラリア種、ノストック種、オエノコッカス種、オシラトリア種、パラシュートテレラ(Parasutterella)種、ペロトマクラム種、ペトロトガ種、プラクトマイセス種、ポラロモナス(polaromonas)種、プレボテラ種、シュードアルテロモナス種、ラルストニア種、ルミノコッカス種、スタフィロコッカス種、ストレプトコッカス種、ストレプトマイセス種、ストレプトスポランジウム種、シネコッカス(Synechococcus)種、サーモシーフォ種、ヴェルコミクロビア(Verrucomicrobia)種、またはウォリネラ(Wolinella)種に由来し得る。
【0016】
ある面において、CRISPRヌクレアーゼは、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)Cas9、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9、ストレプトコッカス・サーモフィルス Cas9、ストレプトコッカス・パスツーリアヌス(Streptococcus pasteurianus)Cas9、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)Cas9、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)Cas9、ナイセリアシネレア(Neisseria cinerea)Cas9、フランシセラ・ノビシダCas12、酪酸生成菌(Acidaminococcus sp.)Cas12、ラクノスピラ属菌(Lachnospiraceae bacterium)ND2006 Cas12a、レプトトリキア・ウェイディイ(Leptotrichia wadeii)Cas13a、レプトトリキア・シャーイイ(Leptotrichia shahii)Cas13a、プレボテラ属菌(Prevotella sp.)P5-125 Cas13、ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)Cas13d、デルタプロテオバクテリア(Deltaproteobacterium)CasX、プランクトミケス門(Planctomyces)CasX、またはCandidatus CasYであり得る。
【0017】
CRISPRヌクレアーゼは、野生型または天然タンパク質であり得る。野生型CRISPRヌクレアーゼは、一般的に、2つのヌクレアーゼドメインを含み、例えば、Cas9ヌクレアーゼはRuvCドメインおよびHNHドメインを含み、それぞれが二本鎖配列の一本鎖を切断する。CRISPRヌクレアーゼは、ガイドRNA(例えば、REC1、REC2)またはRNA/DNAヘテロ二本鎖(例えば、REC3)と相互作用するドメイン、およびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と相互作用するドメイン(すなわち、PAM相互作用ドメイン)もまた含む。
【0018】
あるいは、CRISPRヌクレアーゼを変更して、ターゲティング特異性の改善、忠実度の改善、PAM特異性の変更、オフターゲット効果の減少、および/または安定性の増加を実現できる。例えば、CRISPRヌクレアーゼは、1以上の突然変異(すなわち、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、および/または挿入)を含むように改変され得る。ターゲティング特異性を改善し、忠実度を改善し、および/またはオフターゲット効果を減少させる1以上の突然変異の限定されない例としては、N497A、R661A、Q695A、K810A、K848A、K855A、Q926A、K1003A、R1060A、および/またはD1135E(SpyCas9の番号付けシステムによる)が挙げられる。
【0019】
様々な態様において、CRISPRヌクレアーゼは、ヌクレアーゼであり得る(すなわち、二本鎖ヌクレオチド配列の両鎖を切断するか、または一本鎖ヌクレオチド配列を切断する)。他の態様において、CRISPRヌクレアーゼは、二本鎖配列の一本鎖を切断するニッカーゼ(nickase)であり得る。ニッカーゼは、CRISPRヌクレアーゼのヌクレアーゼドメインの1つを不活性化することで操作できる。たとえば、Cas9タンパク質のRuvCドメインは、D10A、D8A、E762Aおよび/またはD986Aなどの変異によって不活化されるか、あるいはCas9タンパク質ドメインのHNHは、H840A、H559A、N854A、N856Aおよび/またはN863A(化膿レンサ球菌Cas9、SpyCas9の番号付けシステムを参照)などの変異によって不活化されて、Cas9ニッカーゼ(例えば、nCas9)を生成する。他のCRISPRヌクレアーゼの同等の変異は、ニッカーゼ(例えば、nCas12)を生成し得る。
【0020】
CRISPRシステムにはガイドRNAもまた含まれる。ガイドRNAは、CRISPRヌクレアーゼおよび目的の核酸の標的配列と相互作用し、CRISPRヌクレアーゼを標的配列に誘導する。標的配列は、その配列がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接していることを除いて、配列の制限はない。異なるCRISPRヌクレアーゼは異なるPAM配列を認識する。たとえば、Cas9タンパク質のPAM配列には、5’-NGG、5’-NGGNG、5’-NNAGAAW、5’-NNNNGATTおよび5-NNNNRYACが含まれ、Cas12タンパク質のPAM配列には、5’-TTNおよび5’-TTTVが含まれ、ここで、Nは何れかのヌクレオチドと定義され、RはGまたはAと定義され、WはAまたはTと定義され、YはCまたはTと定義され、そしてVはA、CまたはGと定義される。一般的に、Cas9 PAMは標的配列の3’にあり、Cas12 PAMは標的配列の5’にある。
【0021】
ガイドRNAは、特定のCRISPRヌクレアーゼと複合体を形成するように設計されている。一般的に、ガイドRNAは、(i)標的部位でハイブリダイズする5’末端にガイド配列またはスペーサー配列を含むCRISPR RNA(crRNA)、および(ii)CRISPRヌクレアーゼと相互作用するトランザクションcrRNA(tracrRNA)配列を含む。各ガイドRNAのガイド配列またはスペーサー配列は異なる(すなわち、配列特異的である)。ガイドRNA配列の残りの部分は、一般的に、特定のCRISPRヌクレアーゼと複合体を形成するように設計されたガイドRNAでも同じである。
【0022】
crRNAは、5’末端のガイド配列、ならびにtracrRNAの5’末端の配列と塩基対を形成して二重構造を形成する3’末端の追加配列を含み、該tracrRNAは、CRISPヌクレアーゼと相互作用する少なくとも1つのステムループ構造を形成する。ガイドRNAは、単一分子(例えば、単一ガイドRNA(sgRNA)または1ピースsgRNA)であり、ここで、crRNA配列がtracrRNA配列に連結されている。あるいは、ガイドRNAは、crRNAおよびtracrRNAを含む2つの別個の分子(例えば、2ピースgRNA)であり得る。
【0023】
crRNAガイド配列は、目的の核酸中の標的配列(すなわち、プロトスペーサー)の補体とハイブリダイズするように設計されている。一般的に、ガイド配列および標的配列の間の相補性は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99%である。特定の態様において、相補性は完全(すなわち、100%)である。様々な態様において、crRNAガイド配列の長さは、約15ヌクレオチドから約25ヌクレオチドの範囲であり得る。例えば、crRNAガイド配列は、約15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長または25ヌクレオチド長であり得る。特定の態様において、ガイドは、約19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長または21ヌクレオチド長である。一態様において、crRNAガイド配列は、20ヌクレオチド長を有する。特定の態様において、crRNAは、tracrRNAと相互作用する追加の3’配列を含み得る。追加の配列は、約10から約40ヌクレオチドを含み得る。ガイドRNAが単一分子を含む態様において、gRNAのcrRNA部分およびtracrRNA部分は、ループを形成する配列によって連結され得る。ループを形成する配列は、長さが約4ヌクレオチド長から約10ヌクレオチド長またはそれ以上の範囲であり得る。
【0024】
上記のように、tracrRNAは、CRISPRヌクレアーゼと相互作用する少なくとも1つのステムループ構造を形成するリピート配列を含む。各ループおよびステムの長さはさまざまである。例えば、ループは長さが約3から約10ヌクレオチドの範囲であってよく、ステムは長さが約6から約20塩基対の範囲であり得る。ステムは、1から約10ヌクレオチドの1以上のバルジ(bulges)を含むことができる。ガイドRNAのtracrRNA配列は、一般的に、野生型CRISPRヌクレアーゼと相互作用する野生型tracrRNAの配列に基づいている。野生型配列は、二次構造の形成、二次構造の安定性の向上などを促進するように改変できる。例えば、1以上のヌクレオチド変化をガイドRNA配列に導入できる。tracrRNA配列は、長さが約50ヌクレオチド長から約300ヌクレオチド長の範囲であり得る。様々な態様において、tracrRNAは、長さが約50から約90ヌクレオチド長、約90から約110ヌクレオチド長、約110から約130ヌクレオチド長、約130から約150ヌクレオチド長、約150から約170ヌクレオチド長、約170から約200ヌクレオチド長、約200から約250ヌクレオチド長、または約250から約300ヌクレオチド長の範囲であり得る。tracrRNAは、tracrRNAの3’末端に任意の延長を含んでいてよい。
【0025】
ガイドRNAは、標準的なリボヌクレオチドおよび/または修飾されたリボヌクレオチドを含み得る。いくつかの態様において、ガイドRNAは、標準的または改変されたデオキシリボヌクレオチドを含み得る。ガイドRNAが酵素的に(すなわち、インビボまたはインビトロで)合成される態様において、ガイドRNAは、一般的に、標準的なリボヌクレオチドを含む。ガイドRNAが化学的に合成される態様において、ガイドRNAは、標準的にまたは改変されたリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドを含み得る。修飾リボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドには、塩基修飾(例えば、シュードウリジン、2-チオウリジン、N6-メチルアデノシンなど)および/または糖修飾(例えば、2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-アミノ、ロックド核酸(LNA)など)が含まれる。ガイドRNAの骨格は、ホスホロチオエート結合、ボラノホスフェート結合またはペプチド核酸を含むように修飾することもできる。
【0026】
CRISPRヌクレアーゼシステムのガイドRNAは、CRISPRヌクレアーゼシステムを原核生物の染色体DNAの特定の部位に向けるように設計されているため、上記のようにタンパク質-核酸複合体を形成できる。一般的に、タンパク質-核酸複合体は原核生物内で形成される。
【0027】
いくつかの態様において、人工CRISPRヌクレアーゼシステムは、原核生物の染色体に組込まれ、そしてそこから発現され得る。他の態様において、人工CRISPRヌクレアーゼシステムは、染色体外ベクターを担持し発現させることができる。人工CRISPRヌクレアーゼシステムの発現を調節できる。たとえば、人工CRISPRヌクレアーゼシステムの発現は、誘導性プロモーターによって調節できる。
【0028】
(b)原核生物染色体
本明細書に記載のタンパク質-核酸複合体は、原核染色体をさらに含み、ここで、原核染色体は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むHUファミリーDNA結合タンパク質をコードし、原核生物の染色体DNAは、上記のHUファミリーDNA結合タンパク質と関連している。DNA結合タンパク質のHUファミリーは、配列特異性なしに二本鎖DNAに結合し、フォーク(fork)、3/4ウェイジャンクション、ニック、オーバーハングおよびバルジなどのDNA構造に結合する小さな(約90アミノ酸の)塩基性ヒストン様タンパク質を含む。HUファミリーのDNA結合タンパク質の結合は、DNAを安定させ、極端な環境条件下での変性から保護できる。
【0029】
染色体は、ドメイン細菌またはドメイン古細菌のメンバー内にあり得る。ある態様において、生物は、細菌種またはその種の異なる株である。ある態様において、HUファミリーDNA結合タンパク質は、配列番号1に対して少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0030】
特定の態様において、原核生物はバクテロイデス属のメンバーである。バクテロイデス属は、哺乳動物の腸内細菌叢の顕著な嫌気性シンビオントである。それらは様々な糖分解酵素を含み、腸内の多糖類の主要な発酵槽である。それらは、腸内に保持されているとき、宿主との複雑で一般的に有益な関係を維持するが、この環境から逃れると重大な病状を引き起こす可能性がある。バクテロイデス属の限定されない例としては、B. アシディファシエンス、B. バクテリウム、B. バルニシアエス、B. カッキー、B. ケーシコラ、B. ケーシガリナラム、B. キャピローシス、B. セルロシリティカス、B. セルロソルベン、B. クラルス、B. コアグランス、B. コプロコラ、B. コプロスイ(coprosuis)、B. ジスタゾニス、B. ドレイ、B. エガーシイ、B. グラスィリス(gracilis)、B. フェシキンチラエ、B. フェシス(faecis)、B. ファインゴールジ(finegoldii)、B. フルクサス、B. フラジリス、B. ガラクツロニクス(galacturonicus)、B. ガリナセウム、B.ガリナラム、B.ゴルドステイニイ(goldsteinii)、B.グラミニソルベンス(graminisolvens)、B.ヘルコジーン(helcogene)、B.ヘパリノリティカ(heparinolyticus)、B.インテスティナリス(intestinalis)、B.ジョンソニー(johnsonii)、B.ルーティ(luti)、B.マシリエンシス(massiliensis)、B.メラニノゲニカス、B.ネオナチ(neonati)、B.ノルディ(nordii)、B.オレイシプレヌス、B.オリス、B.オバツス、B.パウロサッカロリティカス(paurosaccharolyticus)、B.プレビウス(plebeius)、B.ポリプラグマチス(polypragmatus)、B.プロピオニシファシエンス、B.プトレディネス、B.ピオゲネス、B.レチカロテルミチス(reticulotermitis)、B.ロデンチウム(rodentium)、B.サラニトロニス、B.セイリヤーシアエ(salyersiae)、B.サートーリアイ、B.セディメント(sediment)、B.ステラコリス(stercoris)、B.スターコリロソリス(stercorirosoris)、B.スイ(suis)、B.テクタス(tectus)、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、B.チモネンシス(timonensis)、B.ユニフォルミス、バクテロイデス・ブルガータス(B. vulgatus)、B.キシラニソルベンス(xylanisolvens)、B.キシラノリティカス(xylanolyticus)、およびB.ズウグレオフォルマンスが挙げられる。
【0031】
ある態様において、原核生物の染色体は、バクテロイデス・シータイオタオミクロン、バクテロイデス・バルガタス、バクテロイデス・セルロシリティカス、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ヘルコゲネス、バクテロイデス・オバタス、バクテロイデス・サラナイトロニス、バクテロイデス ユニフォーミス、またはバクテロイデスキシランソルベンスから選択される。
【0032】
ある態様において、染色体は、バルネシエラ種、バルネシエラ・ビスセリコラ(Barnesiella viscericola)、カプノサイトファーガ種、オドリバクター・スプランクニカス(Odoribacter splanchnicus)、パルジバクター種(Paludibacter sp.)、パラバクテロイデス種、ポルフィロモナダ菌種、およびシュライフェリア種(Schleiferia sp)から選択される。
【0033】
(c) 特定のタンパク質-核酸複合体
特定の態様において、タンパク質-核酸複合体は、バクテロイデス属の染色体と結合するか、またはそれと結合する人工CRISPR Cas9/gRNAシステムまたは人工CRISPR Cas12/gRNAシステムを含み得る。
【0034】
(II)タンパク質-核酸複合体を作製する方法
本発明のさらなる面は、人工RNA誘導型(CRISPR)ヌクレアーゼシステムおよび上記のようなHUファミリーDNA結合タンパク質をコードする原核生物染色体を含む複合体を生成するための方法を提供する。前記方法は、(a)原核生物染色体中の部位を標的とするようにCRISPRヌクレアーゼシステムを操作すること、および(b)人工CRISPRヌクレアーゼシステムを原核生物に導入することを含む。
【0035】
CRISPRヌクレアーゼシステムのエンジニアリングには、crRNAガイド配列がPAM配列(目的のCRISPRヌクレアーゼによって認識される)に隣接する原核生物染色体の特定の(~19-22nt)配列を標的とし、かつtracrRNA配列が、上記のセクション(I)(a)に記載のように、目的のCRISPRヌクレアーゼによって認識される、ガイドRNAの設計が含まれる。人工CRISPRシステムは、コード化核酸として原核生物に導入され得る。例えば、コード化核酸はベクターの一部であり得る。様々なベクターを送達または導入するための手段は、当技術分野でよく知られている。
【0036】
人工CRISPRシステムをコードするベクター(すなわち、CRISPRヌクレアーゼおよびガイドRNA)は、プラスミドベクター、ファージミドベクター、ウイルスベクター、バクテリオファージベクター、バクテリオファージ-プラスミドハイブリッドベクター、または他の適切なベクターであり得る。ベクターは、組込みベクター、コンジュゲーションベクター、シャトルベクター、発現ベクター、染色体外ベクターなどであり得る。
【0037】
CRISPRヌクレアーゼをコードする核酸配列は、原核生物での発現のためにプロモーターに作動可能に連結できる。特定の態様において、人工CRISPRヌクレアーゼに作動可能に連結されたプロモーターは、調節されたプロモーターであり得る。ある面において、調節されたプロモーターは、化学物質を誘導するプロモーターによって調節され得る。そのような態様において、プロモーターは、大腸菌Tn10由来のtet調節システムに基づき、強力なtetオペレーター(tetO)を含むマイコバクテリアプロモーターおよびリプレッサー(TetR)の発現カセットからなるpTetOであってよく、プロモーター誘導性化学物質はアンヒドロテトラサイクリン(aTc)であり得る。他の態様において、プロモーターは、pBADまたはaraC-ParaBADであってよく、そしてプロモーター誘導化学物質は、アラビノースであり得る。さらなる態様において、プロモーターは、pLacまたはtac(trp-lac)であってよく、そしてプロモーター誘導化学物質は、ラクトース/IPTGであり得る。他の態様において、プロモーターはpPrpBであってよく、そしてプロモーター誘導化学物質はプロピオネートであり得る。
【0038】
少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸配列は、目的の原核生物における発現のためにプロモーターに作動可能に連結され得る。目的の原核生物がバクテロイデスである態様において、構成的プロモーターは、バクテロイデス・シータイオタオミクロン 16S rRNA遺伝子 BT_r09の上流に位置するP1プロモーターであり得る(Wegmann et al., Applied Environ. Microbiol., 2013, 79:1980-1989)。他の適切なバクテロイデスプロモーターとしては、P2、P1TD、P1TP、P1TDP(Lim et al., Cell, 2017, 169:547-558)、PAM、PcfiA、PcepA、PBT1311(Mimee et al., Cell Systems, 2015, 1:62-71)または上記のプロモーターのいずれかの変異体が挙げられる。他の態様において、構成的プロモーターは、大腸菌σ70プロモーターまたはその誘導体、バチルス・サブティリス(B. subtilis)σAプロモーターまたはその誘導体、あるいはサルモネラPppv2プロモーターまたはその誘導体であり得る。当業者は、目的の原核生物に適した追加の構成的プロモーターに精通している。
【0039】
いくつかの態様において、ベクターは、組込みベクターであり得、そしてリコンビナーゼ、ならびに1以上のリコンビナーゼ認識部位をコードする配列をさらに含み得る。一般的に、リコンビナーゼは不可逆的なリコンビナーゼである。適切なリコンビナーゼの限定されない例としては、バクテロイデス属intN2チロシンインテグラーゼ(NBU2遺伝子によってコードされる)、ストレプトミセス属ファージphiC31(ΦC31)リコンビナーゼ、コリファージP4リコンビナーゼ、コリファージラムダインテグラーゼ、リステリアA118ファージリコンビナーゼ、およびアクチノファージR4 Sreリコンビナーゼが挙げられる。リコンビナーゼ/インテグラーゼは、2つの配列特異的認識(または付着)部位(例えば、attP部位およびattB部位)間の組換えに介在する。いくつかの態様において、ベクターは、リコンビナーゼ認識部位の1つ(例えば、attP)を含むことができ、他のリコンビナーゼ認識部位(例えば、attB)は、原核生物の染色体に(例えば、tRNA-ser遺伝子の近くに)位置できる。このような状況では、ベクター全体を原核生物の染色体に組込むことができる。他の態様において、人工CRISPRヌクレアーゼシステムをコードする配列は、2つのリコンビナーゼ認識部位に隣接でき、その結果、人工CRISPRヌクレアーゼシステムをコードする配列のみが原核生物染色体に組込まれる。
【0040】
上記のベクターの何れも、少なくとも1つの転写終結配列、ならびに少なくとも1つの複製起点および/または目的の原核細胞における増殖および選択のための少なくとも1つの選択可能なマーカー配列(例えば、抗生物質耐性遺伝子)をさらに含み得る。
【0041】
ベクターおよびその使用に関する追加情報は、“Current Protocols in Molecular Biology” Ausubel et al., John Wiley & Sons, New York, 2003または“Molecular Cloning: A Laboratory Manual” Sambrook & Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 3rd edition, 2001に見いだされ得る。
【0042】
人工CRISPRヌクレアーゼシステムをコードするベクターが組込みベクターである態様において、人工CRISPRシステムをコードする核酸(またはベクター全体)は、細菌へのベクターの送達(およびリコンビナーゼ/インテグラーゼの発現)後に細菌染色体に安定して組込まれ得る。人工CRISPRヌクレアーゼシステムをコードするベクターが組込みベクターではない態様において、ベクターは、微生物へのベクターの送達後、染色体外に留まることができる。
【0043】
CRISPRヌクレアーゼをコードする配列が誘導性プロモーターに作動可能に連結されている態様において、CRISPRヌクレアーゼシステムの発現は、原核生物に化学物質を誘導するプロモーターを導入することによって調節できる。特定の態様において、プロモーター誘導化学物質は、アンヒドロテトラサイクリンであり得る。誘導されると、CRISPRヌクレアーゼが合成され、少なくとも1つのガイドRNAと複合体を形成し、このガイドRNAは、CRISPRヌクレアーゼシステムを細菌染色体の標的部位に向け、それによって本明細書に記載のタンパク質-核酸複合体を形成する。
【0044】
(III)マイクロバイオータ組成を調節するための方法
本発明のさらなる面は、微生物の混合集団における標的微生物(原核生物)の増殖を選択的に遅らせることによって、微生物の集団および組成を変更するための方法を包含する。この方法は、標的原核生物において人工RNA誘導(CRISPR)ヌクレアーゼシステムを発現することを含み、人工RNA誘導型ヌクレアーゼシステムは、少なくとも1つの二本鎖切断が導入されるように、標的原核生物の染色体中の部位を標的とし、これにより、標的原核生物の成長または増殖が遅くなる。DNA切断は一般に原核生物では修復されないか、修復が効率的でないため、染色体DNAに少なくとも1つの二本鎖切断を含む標的原核生物の成長は遅くなるか停止する。標的原核生物の増殖を遅らせることは、原核生物の混合集団における標的原核生物のレベルの低下または排除をもたらす。
【0045】
上記のセクション(I)(a)に記載のCRISPRヌクレアーゼシステムはいずれも、上記のセクション(II)に記載のように、目的の原核生物の染色体内の部位を標的とするように設計でき、それらはセクション(I)(b)に記載されている。人工CRISPRヌクレアーゼシステムは、上記のセクション(II)に記載のように、ベクターの一部として原核生物に導入できる。一般的に、CRISPRヌクレアーゼは誘導性である(すなわち、そのコード配列は誘導性プロモーターに作動可能に連結されている)。そのため、CRISPRヌクレアーゼは定義された時点で発現させることができる。プロモーター誘導化学物質がない場合、CRISPRヌクレアーゼシステムを生成することはできない。CRISPRヌクレアーゼは、原核生物をプロモーター誘導化学物質に曝露することによって生成でき、その結果、CRISPRヌクレアーゼは、上記のセクション(II)に記載のように、染色体に組込まれたコード配列または染色体外コード配列から発現される。CRISPRヌクレアーゼは、染色体に組込まれたコード配列または染色体外コード配列から構成的に発現される少なくとも1つのガイドRNAと複合体を形成し、それによって活性なCRISPRヌクレアーゼシステムを形成する。CRISPRヌクレアーゼシステムは、原核生物の染色体の標的部位を標的としており、染色体DNAに二本鎖切断を導入する。二本鎖切断は、標的原核生物の増殖の遅延および/または細胞死をもたらす。結果として、原核生物の混合集団は、標的原核生物のレベルを減少または排除した。
【0046】
いくつかの態様において、標的原核生物は、上記のセクション(I)(b)に詳述されるように、バクテロイデス属であり得る。
【0047】
人工CRISPRシステムは、原核生物の混合集団内の標的原核生物に導入できる。あるいは、人工CRISPRシステムを標的原核生物に導入し、その後、原核生物の混合集団と混合することもできる。
【0048】
いくつかの態様において、原核生物の混合集団を細胞培養に添加(harbored)し、化学物質を誘導するプロモーターへの曝露は、標的原核生物のレベルの低下または排除をもたらす。
【0049】
他の態様において、原核生物の混合集団を、哺乳動物の消化管(または腸)に添加でき、ここで、化学物質を誘導するプロモーターの投与は、腸内細菌叢における標的原核生物のレベルの低下または排除をもたらす。プロモーター誘導化学物質は、経口投与できる(例えば、食物、飲料または医薬製剤を介して)。哺乳動物は、マウス、ラットまたは他の研究動物であり得る。特定の態様において、哺乳動物はヒトであり得る。標的原核生物(例えば、バクテロイデス)の減少または排除は、腸の健康の改善につながる可能性がある。
【0050】
原核生物の混合集団(細胞培養または消化管内)は、多種多様な分類群を含み得る。例えば、ヒトの腸内細菌叢は、何百もの異なる種の細菌およびこれらの種の多くの菌株レベルの変異体を含み得る。
【0051】
特定の態様において、哺乳動物(例えば、ヒト)は、癌免疫療法を受けることができ、ここで、免疫療法応答者は、非応答者と比較して、腸内細菌叢においてより低いレベルのバクテロイデス種を有することが示されている(Gopalakrishnan et al., Science, 2018, 359:97-103)。したがって、腸内細菌叢におけるバクテロイデス種のレベルの低下は、より良いヒトの癌免疫療法の結果をもたらし得る。
【0052】
特定の態様において、哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウマまたはウシ)は、炎症性腸疾患、クローン病、大腸憩室炎、腸閉塞、ポリープ除去、癌組織除去、潰瘍性大腸炎、腸切除、直腸切除、完全結腸切除または部分的結腸切除を含むがこれらに限定されない様々な理由で腸手術を受けることができ、ここで、誘導型CRISPRシステムによる哺乳動物腸内のバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)種の術前減弱が、腸の外側であるが哺乳動物の体内の場所でのバクテロイデス・フラジリスによる術後感染のリスクを低減できる可能性がある。腸の外側の場所には、腸の外表面が含まれる。バクテロイデス・フラジリス内の誘導型CRISPRシステムは、病原性アイランド、毒素(すなわち、バクテロイデス・フラジリス毒素またはBFT)、またはバクテロイデス・フラジリスの感染性株もしくは術後感染症を引き起こすことが知られている他の天然腸プロカリオテスに関連する他の固有の配列に類似するがこれらに限定されない場所を切断または修飾することを目標とすることができる。例えば、非毒素原性バクテロイデス・フラジリス(NTBF)および腸管毒素原性バクテロイデス・フラジリス(ETBF)のレベルは、NTBF株ではなく、ETBF株内に配置された人工誘導型CRISPRシステムを用いて選択的に調節され得る。腸の手術後に感染症を引き起こす他の細菌分類には、バクテロイデス・カピローシス、大腸菌、エンテロコッカス・フェカーリス、ガメラ・ヘモリサンおよびモルガネラ菌が含まれ得る。腸内細菌叢への誘導型CRISPRシステムの送達は、手術前、手術中または手術後のプロバイオティクス処置の一部として行われ得る。誘導型CRISPRシステムの標的原核生物への送達は、哺乳動物体外または哺乳動物体内で起こり得る。誘導型CRISPRシステムの標的原核生物への送達は、プラスミドまたはバクテリオファージなどの核酸ベクターを介して行われ得る。プラスミドの送達は、エレクトロポレーション、化学形質転換または細菌から細菌への接合を介して行われてもよい。
【0053】
様々な態様において、標的原核生物のレベルは、CRISPRヌクレアーゼの発現前と比較して少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約99%減少させることができる。特定の態様において、標的原核生物は、CRISPRヌクレアーゼの発現後に、原核生物の混合集団において検出不可能なレベルに低減され得る。
【0054】
(IV)プロバイオティクスとしてのCRISPR組込み原核生物
本発明のさらに別の態様は、プロバイオティクスとして用いるために改変された原核生物を包含する。改変された原核生物は、原核生物の染色体に組込まれた、または原核生物の細胞内でエピソームベクターとして維持された、セクション(I)に記載された改変されたCRISPRヌクレアーゼシステムのいずれかを含む。ある態様において、操作された原核生物は、誘導型CRISPRヌクレアーゼシステムを含む操作されたバクテロイデスである。哺乳動物対象への操作されたバクテロイデスの投与とそれに続くCRISPRシステムの誘導は、腸内細菌叢におけるバクテロイデス菌株の相対的な存在量を減らすために使用できる。他の態様において、バクテロイデス菌株は、腸内細菌叢においてバクテロイデス属の野生型菌株を打ち負かすように操作され得る。これらおよび他の態様において、哺乳動物対象に治療的利益を提供する操作されたバクテロイデス株は、その後、誘導型CRISPRヌクレアーゼシステムの誘導によって哺乳動物対象から除去され得る。
【0055】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の文献は、本発明で用いる多くの用語の一般的な定義を含む技術の1つを提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd Ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991); および、Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で用いる以下の用語は、他に明記しない限り、それぞれの用語の意味を有する。
【0056】
本発明の要素またはその好ましい態様(複数可)を導入するとき、冠詞“a”、“an”、“the”および“該”は、1以上の要素が存在することを意味することを意図している。用語“含む(comprising)”、“含む(including)”および“有する(having)”は、包括的であることを意図しており、記載された要素以外の追加の要素が存在する可能性があることを意味する。
【0057】
数値xに関連して用いられる用語“約”とは、例えば、x±5%を意味する。
【0058】
本明細書で用いる用語“相補的(complementary)”または“相補性(complementarity)”とは、特定の水素結合を介した塩基対形成による二本鎖核酸の会合を意味する。塩基対は、標準のワトソン-クリック塩基対であり得る(たとえば、5’-AGTC-3’と相補配列3’-TCAG-5’の対)。塩基対形成はまた、フーグスティーン(Hoogsteen)または逆フーグスティーン水素結合であり得る。相補性は通常、二重領域に関して測定されるため、たとえばオーバーハングは除外される。二本鎖領域の2つの鎖間の相補性は部分的であり、塩基の一部(例えば、70%)のみが相補的である場合、パーセンテージ(例えば、70%)として表され得る。相補的でない塩基は“ミスマッチ”である。二本鎖領域のすべての塩基が相補的である場合、相補性も完全であり得る(すなわち、100%)。
【0059】
遺伝子またはポリヌクレオチドに関する用語“発現”は、遺伝子またはポリヌクレオチドの転写、および適切な場合には、mRNA転写物のタンパク質またはポリペプチドへの翻訳を意味する。したがって、文脈から明らかなように、タンパク質またはポリペプチドの発現は、オープンリーディングフレームの転写および/または翻訳に起因する。
【0060】
本明細書で用いる用語“遺伝子”は、遺伝子産物をコードするDNA領域(エキソンおよびイントロンを含む)、ならびに遺伝子産物の産生を調節するすべてのDNA領域を意味し、かかる調節配列がコード配列および/または転写配列に隣接するか否かにかかわらず、全ての領域を意味する。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位および内部リボソーム侵入部位などの翻訳調節配列、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位および遺伝子座制御領域を含むが、必ずしもこれらに限定されない。
【0061】
用語“異種”は、目的の細胞に対して内因性または天然でない存在(entity)を意味する。例えば、異種タンパク質は、外来的に導入された核酸配列のような外来起源に由来する、または元々由来していたタンパク質を意味する。いくつかの例において、異種タンパク質は、目的の細胞によって通常は産生されない。
【0062】
用語“ヌクレアーゼ”は、用語“エンドヌクレアーゼ”と互換的に用いられ、二本鎖核酸配列の両鎖を切断する、または一本鎖核酸配列を切断する酵素を意味する。
【0063】
用語“核酸”および“ポリヌクレオチド”は、線状または環状のコンフォメーションで、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを意味する。本発明の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的に解釈されるものではない。この用語は、天然ヌクレオチドの既知の類縁体、ならびに塩基、糖および/またはリン酸部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)において修飾されているヌクレオチドを包含し得る。一般に、特定のヌクレオチドの類縁体は、同じ塩基対特異性を有する;すなわち、Aの類縁体は、Tと塩基対を形成する。
【0064】
用語“ヌクレオチド”は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを意味する。ヌクレオチドは、標準的なヌクレオチド(すなわち、アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジンおよびウリジン)、ヌクレオチド異性体、またはヌクレオチド類縁体であってよい。ヌクレオチド類縁体とは、修飾されたプリン塩基もしくはピリミジン塩基または修飾されたリボース部位を有するヌクレオチドを意味する。ヌクレオチド類縁体は、天然ヌクレオチド(例えば、イノシン、プソイドウリジンなど)または非天然ヌクレオチドであってもよい。ヌクレオチドの糖または塩基部分上の修飾の限定されない例としては、アセチル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、ヒドロキシル基、メチル基、リン酸基、チオール基の付加(または除去)、ならびに塩基の炭素および窒素原子の他の原子での置換(例えば、7デアザプリン)などが挙げられる。ヌクレオチド類縁体には、ジデオキシヌクレオチド、2’-O-メチルヌクレオチド、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)およびモルフォリノも含まれる。
【0065】
用語“ポリペプチド”および“タンパク質”は、アミノ酸残基のポリマーを意味するために互換的に用いられる。
【0066】
用語“標的配列”および“標的部位”は、CRISPRシステムが標的とされる目的の核酸(例えば、染色体DNAまたは細胞RNA)中の特定の配列、およびCRISPRシステムは、核酸または核酸に関連するタンパク質を変更する。
【0067】
核酸およびアミノ酸配列の同一性を決定するための技術は、当技術分野で知られている。一般的には、そのような技術は、遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、および/またはそれによってコードされるアミノ酸配列を決定すること、およびこれらの配列を第2のヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較することを含む。この方法でゲノム配列を決定し、比較することもできる。一般に、同一性とは、それぞれ2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応を意味する。2以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)は、それらのパーセント同一性を決定することによって比較できる。核酸またはアミノ酸配列であるかどうかにかかわらず、2つの配列のパーセント同一性は、2つの整列した配列間の完全一致の数を短い配列の長さで割って100を掛けたものである。核酸配列のおおよそのアラインメントは、Smith and Waterman、Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)の局所ホモロジーアルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff、Atlas of Protein Sequences and Structure、MO Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353-358、National Biomedical Research Foundation、Washington、DC、USAによって開発され、かつGribskov, Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763(1986)によって正規化されたスコアリングマトリックスを用いてアミノ酸配列に適用できる。配列のパーセント同一性を決定するためのこのアルゴリズムの例示的な実装(implementation)は、Genetics Computer Group(Madison、Wis.)によって“BestFit”ユーティリティアプリケーションとして提供されている。配列間のパーセント同一性または類似性を計算するための他の適切なプログラムは、当技術分野で一般に知られており、例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォルトパラメーターで用いられるBLASTである。たとえば、BLASTNおよびBLASTPは、次のデフォルトパラメータを用いて使用できる:遺伝子コード(genetic code)=標準(standard);フィルター(filter)=なし(none);鎖(strand)=両方(both);カットオフ(cutoff)=60;expect=10;マトリックス(Matrix)=BLOSUM62;説明(Descriptions)=50個の配列(sequences);並べ替え(sort by)=HIGH SCORE;データベース(Databases)=非冗長(non-redundant)、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS 翻訳+スイスタンパク質+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、GenBankのウェブサイトに見い出すことができる。
【0068】
本発明の範囲から逸脱することなく、上記の細胞および方法に様々な変更を加えることができるため、上記の説明および以下に示す実施例に含まれるすべての事項は、例示として解釈されるべきであり、制限するものと解釈されない。
【実施例】
【0069】
実施例
以下の実施例は、本発明の特定の面を示している。
【0070】
実施例1.ベクター構築
CRISPR組込みpNBU2-CRISPRプラスミドを、pExchange-tdkのプラスミド骨格(RP4-oriT、R6K ori、bla、ermG)、pNBU2-tetQbのNBU2インテグラーゼ、および化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)株SF370の合成DNAまたはゲノムDNAのPCRから作製されたアンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導型CRISPRカセット(P2-A21-tetR、P1TDP-GH023-SpCas9、P1-N20 sgRNAスキャフォールド)を用いてギブソンクローニング(NEBuild HIFI DNA Assembly Master Mix、New England Biolabs)により構築した。
図2は、プラスミド設計を示す。
【0071】
プラスミド骨格は、大腸菌でのアンピシリン選択のためのR6K複製起点およびbla配列、結合のためのRP4-oriT配列、ならびにバクテロイデス属でのエリスロマイシン(Em)選択のためのermG配列を含む。NBU2は、intN2チロシンインテグラーゼをコードする。これは、pNBU2-CRISPRプラスミド上のattN2部位とバクテロイデス属細胞の染色体上にあるattB部位の1つとの間の配列特異的組換えを組換えに介在する。attN2およびattBは同じ13bpの認識ヌクレオチド配列(5’-3’):CCTGTCTCTCCGC(配列番号2)を有している。
【0072】
誘導型CRISPRカセットには、TetRレギュレーターの制御下にあるaTc誘導性SpCas9(P2-A21-tetR、P1TDP-GH023-SpCas9)、およびP1プロモーター下に構成的に発現するガイドRNA(P1-N20 sgRNAスキャッホルド)が含まれる。プロモーターおよびリボソーム結合部位は、Lim et al., Cell, 2017, 169:547-558に記載の通り、バクテロイデス・シータイオタオミクロン 16SrRNA遺伝子の調節配列に由来し、操作されている。ガイドRNAは、コーディングDNA配列、非コーディングDNA配列または非標的化スクランブルヌクレオチド配列と相同なヌクレオチド配列である。この配列は、異なるCas9ホモログのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)要求(requirements)と互換性がある限り、どのような形式でも構わない。ガイドRNAは、tracrRNAおよびcrRNAの別個の転写ユニットにあるか、またはハイブリッドキメラtracr/crRNAシングルガイド(sgRNA)に融合されている。
【0073】
上記のプラスミドのDNA配列は、配列番号3に示されている。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0074】
実施例2.バクテロイデス・シータイオタオミクロンの染色体へのCRISPR組込み
pNBU2.CRISPRプラスミドをE.coli S-17ラムダpirに形質転換した後、コンジュゲーションを介してバクテロイデス細胞に送達した。この特定の例において、pNBU2-CRISPRプラスミドはintN2チロシンインテグラーゼをコードしており、pNBU2-CRISPRプラスミド上のattN2部位とバクテロイデス・シータイオタオミクロンVPI-5482(略してBt)の染色体上の2つのtRNA-Ser遺伝子、BT_t70(attBT2-1)およびBT_t71(attBT2-2)の3’末端に位置する2つのattBT部位の1つとの間の配列特異的組換えに介在する。pNBU2-CRISPRプラスミドを挿入すると、2つのtRNA-Ser遺伝子の1つが不活性化され、tRNA-Serが必須であるために、BT_t70およびBT_t71の両方に同時に挿入される可能性は低くなる。
【0075】
この特定の例において、非ターゲティング対照ガイドRNA(‘M’と呼ばれる)、Btゲノム内のtdk _Bt(BT_2275)およびsusC _Bt (BT_3702)コーディング配列を標的化するガイドRNAを発現する3つのプラスミドを構築した。tdk遺伝子はチミジンキナーゼをコード化し、susC遺伝子はバクテロイデス・シータイオタオミクロンのデンプン結合(starch binding)に関与する外膜タンパク質をコード化する。tdk _Btのプロトスペーサー配列は、5’-AATTGAGGCATCGGTCCGAA-3’(配列番号4)であり、susC _Btのプロトスペーサー配列は、5’ ATGACGGGAATGTACCCCAG-3’ (配列番号5)である。バクテロイデスのゲノムに対する非ターゲティング対照プロトスペーサー配列(5’-TGATGGAGAGGTGCAAGTAG-3’;配列番号6)のインシリコ分析では、有意な配列一致は得られなかったため、“オフターゲット”活性は期待されない。sgRNA足場配列は、5’-GTTTTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTT-3’(配列番号7)であった。得られたプラスミドは、それぞれpNBU2-CRISPR.M、pNBU2-CRISPR.tdk_Bt、およびpNBU2-CRISPR.susC_Btと呼ばれる。
【0076】
pNBU2-CRISPRプラスミドをエリスロマイシン選択を有するBt細胞にコンジュゲートし、コンジュゲーションあたり500~1000個のコロニーが得られた(
図3A、3B)。バクテロイデス属の複製起点がないため、これらのプラスミドはバクテロイデス細胞で維持できない。エリスロマイシン耐性コロニーはおそらく染色体組込み体であった。M(M1、M2、M3、M4)、tdk _Bt(T1、T2、T3、T4)およびsusC _Bt(S1、S2、S3、S4)とラベル付けされた各コンジュゲーションからの4つのコロニーが、2つのattBT遺伝子座のいずれか一方におけるCRISPR組込みのコロニーPCRスクリーニング用に選択された(
図3C)。各遺伝子座の外部プライマーを用いて、PCRアンプリコンのサイズを特定した:野生型またはプラスミドを組込んだものである。プラスミド全体が約10kbであるため、コロニーPCRを用いて組込むためのPCRアンプリコンを得ることはまず不可能であるが、精製されたゲノムDNAを用いることは可能である。各遺伝子座について、外側プライマー(outside primers)を用いるPCRを行った。組込みが起こらなかった場合、ゲル上で約0.5kb(attBT2-1遺伝子座)または0.65kb(attBT2-2遺伝子座)のPCRアンプリコンが予想されるが、それ以外の場合、PCR産物は期待されない。さらに、組込みの左接合部を増幅するPCRを、染色体配列に結合する外部プライマーと、組込みプラスミドからのermGコード配列に結合する内部プライマーを用いて行った。組込みが起こった場合、ゲル上にPCR産物が見られるはずである。それ以外の場合、PCR産物は期待されない。PCR増幅は、Q5 Hot-start 2X Master Mix(New England Biolabs)を用いて、次のサイクリング条件を用いて行った:98℃にて30秒間の初期変性;98℃にて20秒間、58℃にて20秒間および72℃にて45秒間を25サイクル;そして、72℃にて5分間の最終延長。PCR産物を1%アガロースゲルで分離した。
図3Cに示すように、外部プライマーを用いたPCR A(attBT2-1遺伝子座)およびPCR B(attBT2-2遺伝子座)のサイズに基づいて、クローンM1-M4、T1、T2、T4、S1、S3、S4はすべて、attBT2-1遺伝子座に組込まれたCRISPRカセットを担持しているが、クローンT3およびS2は、Bt染色体上のattBT2-2遺伝子座に組込まれていると推定される。染色体配列とプラスミド配列との間の接合部は、選択されたクローンM1、M2、T1、T3、S1およびS2のPCR(PCR CおよびD)およびサンガーDNA配列決定によってさらに正しいことが確認された。
【0077】
実施例3.個々のバクテロイデス・シータイオタオミクロン株の誘導型CRISPR殺滅
選択されたバクテロイデス・シータイオタオミクロンCRISPR組込み体M1、T1およびS1について、すべてattBT2-1遺伝子座に誘導型CRISPRカセットが組込まれているため、誘導型CRISPR/Cas9を介した細胞死をBHI血液寒天プレートまたはTYG液体培地のいずれかで調べた(それぞれ、
図4Aおよび4B)。M1株およびT1株の単一コロニーを、coyチャンバー(Coy Laboratory Products Inc.)中で、200μg/mlゲンタマイシン(Gm)および25μg/mlエリスロマイシン(Em)を添加した5ml TYG液体培地を含むファルコンチューブ培養で、一晩、嫌気的に増殖させた。培養物を希釈し(10
-6)、100μlを、それぞれ0ng/mlおよび100ng/mlの濃度のアンヒドロテトラサイクリン(aTc)を添加したBHI血液寒天プレート(Gm 200μg/mlおよびEm 25μg/ml)に播種した。寒天プレートを嫌気的に37℃にて2~3日間インキュベートした。すべての菌株について、aTcが存在しない(0ng/ml)血液寒天プレート上で約10
3-10
4 CFU(コロニー形成単位)が得られた。T1株について、aTcが存在する(100ng/ml)血液寒天プレートではCFUの形成は観察されなかったが、M1株では、10
3-10
4 CFUが得られた(
図4A)。
【0078】
同様に、M1を除いて、37℃にて4日間嫌気的に培養した後でも、100ng/mlのaTcを添加したTYG培地を含む液体チューブ培養では細胞増殖は観察されなかった。ただし、嫌気的培養の24時間後に10ng/mlのaTc濃度でクローンT1およびS2のわずかな増殖が観察され、完全な枯渇にはより高いaTc濃度が望ましいことが示唆された(
図4B)。データは、染色体に組込まれたCRISPR/Cas9システムが外因的に提供されたインデューサーaTcによって活性化され、標的化RNA(tdk_BtまたはsusC_Bt)によって誘導される致命的なゲノムDNA切断を提供し、その結果、細胞生存性を失うことを示す。
【0079】
実施例4.インビトロでの混合集団におけるバクテロイデス・シータイオタオミクロン細胞の標的化された誘導型CRISPR殺滅
非ターゲティング(M)またはターゲティング(tdk_BtまたはsusC_Bt)ガイドRNAのいずれかを発現するCRISPR組込みBt株の混合培養を用いて、インビトロでの混合集団における特定の株の標的化CRISPR殺滅を実証した。等量の指数増殖期培養物を混合し、それぞれ終濃度0ng/ml、10ng/mlまたは100ng/mlのaTcを添加した5mlのTYG液体培地中で嫌気的にインキュベートした。24時間後、すべての培養物は約1.3 OD600nmまで増殖した(
図5A)。aTc処理培養物の1セット(それぞれ0ng/ml、10ng/ml、100ng/mlのaTcを添加したM1+T1)について、ガイドRNA(P1-N20 sgRNA骨格)の領域でPCRおよびとDNA配列決定を行った。DNA配列決定クロマトグラムから、aTc処理培養物(aTc10およびaTc100)は、非ターゲティングの対照ガイドRNA(M)を含む細胞のみであったが、aTc処理なしの培養物(aTc 0)は、非ターゲティングガイドRNA(M)およびtdk _BtターゲティングガイドRNA(
図5B)の両方を含む細胞の混合集団である。
【0080】
aTcで処理した培養物の1つ(M1+S1-aTc100)を希釈し、aTcを添加せずにBHI血液寒天培地に播種し、単一コロニーを得た。個々のコロニーおよび寒天プレート上のコロニーの掻取り(scrape)を、gRNA領域のPCR、次いでサンガーDNA配列決定によって分析した。すべての個々のコロニーおよびコロニー混合物は、非ターゲティングの対照gRNAのみを含むことがわかった。このことは、組込みを含むsusC_Bt gRNAが、チューブ培養における誘導性Cas9タンパク質発現自体による増殖阻害ではなく、aTc誘導性CRISPR殺滅によって正常に枯渇したことを示唆している(
図5C)。
【0081】
M1+T1の混合培養についても同様の実験を行った結果、同じ観察結果が得られた。これらのデータは、インビトロでの混合集団におけるバクテロイデス・シータイオタオミクロン細胞の標的化された誘導型CRISPR殺滅を示した。
【0082】
実施例5.抗生物質選択なしのバクテロイデス・シータイオタオミクロン株の長期的増殖および標的化CRISPR殺滅
抗生物質での選択をせずに液体培養で長期的な増殖および標的殺滅を試験するために、連続限界希釈を用いた。CRISPR組込みBt株M1、T1およびS1をグリセロールストックからTYG培地に播種し、コイチャンバー内で37℃にて24時間、嫌気的に増殖させた。培養物を1:100希釈で新鮮なTYG培地に再播種し、さらに24時間嫌気的に増殖させた。同じ手順を4回繰り返した結果、液体培地で約5日間、40世代の増殖が得られた。次に、培養物をBHI血液寒天プレートに拡散し、単一コロニーを形成した。それぞれ約50コロニーの抗生物質耐性株を、Gm(200μg/ml)またはEm(25μg/ml)のいずれかを添加したBHI血液寒天プレート上で試験した。試験されたすべてのコロニーは両抗生物質に耐性があり、このことは、組込まれたBt株でのCRISPRカセットの長期維持を示唆している。
【0083】
実施例6.バクテロイデス・ブルガータスの染色体へのCRISPR組込み
誘導型CRISPRカセットは、バクテロイデス・ブルガータス ATCC8482株(略して、Bv)の染色体にも組込まれている。Bvへの染色体組込みに用いられるpNBU2.CRISPRプラスミドは、Bvゲノム上のsusC _Bv(BVU_RS05095)を標的とするガイドRNAがクローン化されたことを除いて、実施例1と同様に構築された。susC_BvガイドRNAを発現させるための20bpプロトスペーサー配列は、5’-ATTCGGCAGTGAATTCCAGA-3’(配列番号8)である。
【0084】
非ターゲティング対照ガイドRNA(M)またはsusC _BvターゲティングガイドRNAのいずれかを発現するpNBU2-CRISPRプラスミドを、大腸菌S17ラムダpirに形質転換し、Bv細胞に結合させた。各結合で約10,000個のEm耐性コロニーが得られた。コロニーPCRによる染色体CRISPR組込みスクリーニングのために、7つのコロニー(VM1、VM2、VM3、VM4、VM5、VM6およびVM7とラベル付け)を、非ターゲティング対照コンジュゲーションプレートから選択し、5つのコロニー(V1、V2、V3、V4、V5とラベル付け)を、susC_Bvからそれぞれ選択した。Bv染色体には3つの潜在的なNBU2インテグラーゼ認識遺伝子座attBvがぞんざいする:attBv.3-1(tRNA-Ser、BVU_RS10595)、attBv.3-2(BVU_RS21625)およびattBv.3-3(遺伝子間領域、3,171,462から3,171,474のヌクレオチド座標)。各遺伝子座について、外部プライマーを用いたPCRを実施した。組込みが起こらなかった場合、ゲル上で約0.5kbのPCRアンプリコンが予想される。そうでない場合、PCR産物は期待されない。attBv3-1遺伝子座の場合、組込みの左接合部を増幅するPCRは、染色体配列に結合する外部プライマー、および組込みプラスミドからのermGコーディング配列に結合する内部プライマーを用いて実行した。attBv.3-1遺伝子座の場合、約0.6kbのPCR産物がゲル上に見い出されるはずである。そうでない場合、PCR産物は期待されない。
図6に示すように、非ターゲティング対照ガイドRNA組込み(VM)の場合、7つのクローンすべてがattBv.3-1遺伝子座でCRISPR組込みを担持していた;susC _BvターゲティングガイドRNA組込み(V)の場合、クローンV1はattBv.3-1遺伝子座およびattBv.3-2遺伝子座の両方でCRISPR組込みを担持し得る;クローンV2は、attBv.3-1遺伝子座およびattBv.3-2遺伝子座の両方でCRISPR組込みを担持し得る;そして、クローンV3、V4およびV5の場合、それらはすべてattBv.3-1遺伝子座でのみCRISPRカセット組込みを担持していた。このデータセットは、NBU2ベースのCRISPR組込みシステムがバクテロイデス・ブルガータス株で良く機能することを示している。
【0085】
実施例7.バクテロイデス・ブルガータスの標的化された誘導型CRISPR殺滅
実施例3と同様に、個々のCRISPR組込みBv株VM1(非標的化ガイドRNAを発現する)およびV1、V2、V3、V4、V5(すべてsusC_BvガイドRNAを発現する)を、TYG液体培地中で一晩、嫌気的に増殖させた。次に、培養物を100ng/ml aTcを添加した新鮮なTYG培地に再播種(1:100希釈)した後、37℃にて24時間、好気的に増殖させた。VM1培養物のみが高濁度に増殖したが、標的化ガイドRNAを発現する他の培養物は増殖を示さなかった。
【0086】
実施例4と同様に、VM1(非ターゲティングガイドRNA)およびV3(susC _BvガイドRNAを発現)の混合培養物を、100ng/mlのaTcで処理した後、TYG液体培地で24時間嫌気的に培養した。培養物は高濁度に増殖した。混合培養物のガイドRNA領域のPCRおよびDNA配列決定は、処理された培養物が非ターゲティング対照ガイドRNAを発現する細胞のみを含んでいたことを示す。これは、インデューサーの添加により、混合細胞集団で特定のバクテロイデス・ブルガータス株のCRISPR殺滅を示す。
【0087】
実施例8.他のバクテロイデス菌株の染色体へのCRISPRの組込み
NBU2インテグラーゼ組換えtRNA-ser部位(13bp)は保存されており、公開されているゲノム配列から、バクテロイデス・セルロシリティカス、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ヘルコジネス(Bacteroides helcogenes)、バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)、バクテロイデス・サラニトロニス(Bacteroides salanitronis)バクテロイデス・ユニフォルミスおよびバクテロイデス・キシラニソルベンスを含む他の多くのバクテロイデス株にも存在する。ターゲティングガイドRNAを発現する誘導型CRISPRカセットは、これらのバクテロイデス菌株の染色体に組込むことができ(実施例3および6に記載)、ターゲティングガイドRNAを発現する特定の菌株のターゲットCRISPR殺滅は、aTcインデューサーで処理することにより達成できる(実施例4、5および7に記載)。
【0088】
特定の種の染色体上にNBU2インテグラーゼ部位がない状況では、これらの13塩基対のDNA配列は、組換え(Cre/loxPなど)によるか、または当技術分野で知られているアレル交換を介して、染色体に容易に挿入でき、染色体CRISPR組込みおよび標的株殺滅を可能にする。
【0089】
実施例9.ヒトプロバイオティクスとして送達されるCRISPR組込みバクテロイデス菌株
CRISPRを組込まれたバクテロイデス菌株は、ヒトの腸内の野生型バクテロイデス菌株の相対的な存在量を減らす方法として使用できる。ヒト黒色腫患者における抗PD-1免疫療法は、腸内細菌叢におけるバクテロイデス菌株の存在に応じて異なることが示されている(Gopalakrishnan et al., Science, 2018, 359:97-103)。非応答者は、免疫療法応答者と比較したとき、微生物叢中のバクテロイデス菌株の相対量が増加している。免疫療法を開始する前に、誘導された組込みCRISPRシステムを介したバクテロイデス菌株の除去を行い、ヒトの癌免疫療法の結果を改善できる。
【0090】
実施例10.モデルヒト腸内細菌叢のバクテロイデスメンバーの発現におけるCRISPRを標的とした減少
腸内細菌叢は、ヒトの健康ならびにさまざまな疾患の多くの面の重要な決定要因である。宿主生物学に対するその無数の効果に対する評価が急速に高まっているため、微生物叢に直接作用する治療法を開発する取り組みが刺激されている。これらの新しい治療法の多くは、腸内細菌叢の初期構成に著しく依存していることが分かっている。そのため、微生物叢のメンバー間の生態学的関係(例えば、栄養素の競争/協力の基盤を含むニッチな分割)を明確にするためのツールは、効果的な微生物叢指向の治療法の進歩において重要な役割を果たす(例えば、Patnode et al., 2019)。
【0091】
腸内細菌群集メンバー間の相互作用を研究するために、本発明者らは、定義されたモデルのヒト腸内細菌叢における特定の腸内細菌株の発現を独立して混乱させる能力を備えた遺伝子システムを開発した。このシステムは、健康な個体の成人の腸内細菌叢の著名かつ一般的なメンバーであるバクテロイデス・シータイオタオミクロンを用いて実施された。
【0092】
バクテロイデス・シータイオタオミクロン株VPI-5482(Bt)で一連の変異株を生成した。変異体には、(i)アンヒドロテトラサイクリン誘導型(aTc)spCas9遺伝子、(ii)エリスロマイシン耐性カセット、および(iii)無作為な非ゲノム配列(ネガティブ対照)、または2つBt遺伝子(tdkおよびSusC)のうちの1つを標的とする構成的に活性なガイドRNAが含まれていた。これらのカセットは、2つのゲノム位置の1つに組込まれている。これらの変異体を用いて、プレートアッセイおよび液体培養における強力なaTc誘導性殺滅を記録した(
図7Aから
図7C)。
【0093】
そのゲノムが配列決定された13個の培養ヒト腸内細菌株のコンソーシアムで無菌マウスにコロニー形成させた(以下参照)。このコンソーシアムには、tdkを標的とするgRNAを含むBt-CRISPR変異体が含まれていた。マウスは単独で飼育され、飽和脂肪が多く果物や野菜が少ないヒト用の食餌を与えられた。低繊維の‘HiSF/LoFV’食には10%(w/w)のエンドウ豆繊維が追加された。この配合は、このコミュニティ/食餌の状況でBtの相対存在量を15~20%に維持することが以前に示されていた(Patnode et al., 2019)。処置群では、強制経口投与(食餌)後1日または4日目に、飲料水に10μg/mLのaTcを補充した(
図8A)。それ以外の場合、強制経口投与後1日目以降、マウスは、0.5%エタノールのみを含む飲料水(すなわち、aTc溶解度を維持するために用いたビークル)を受けた。糞便DNAのショートリードショットガンシーケンシングを用いて、菌株レベルの解像度でコミュニティメンバーの相対的な存在量を定義した。さらに、哺乳動物の腸内には見いだされない2つの「スパイクイン」細菌分類群を含めることにより、生物の絶対量を定量化した(詳細については以下を参照)。
【0094】
結果は、4日間の処置群ではaTc処理開始の2日後にBtの相対的存在量および絶対的存在量が35分の1に減少し、早期処理条件でも同様の効果を有したことを明らかにした(相対的存在量の50分の1の減少)。Btの存在量は、この最下点に達した後に増加し始めたが、対照群で観察されたレベルには達しなかった(
図8B)。
【0095】
Btの枯渇は、他のいくつかのバクテロイデス属:B. cellulosilyticus 、B. ovatus およびB. caccaeの相対存在量の顕著な変化を伴った(
図8C、D;線形混合モデル限界平均値P<0.05)。Btおよびこれらの他のバクテロイデスの絶対存在量の変化のパターンは、相対存在量の測定値と平行していた。
【0096】
関連する試験において、マウスは、WT Bt株を含む13個のメンバーのコミュニティ、またはBtを除く12個のメンバーのコミュニティでコロニーを形成させた。これらのマウスを単独で飼育し、強制経口投与後20日間、HiSF/LoFV+10%エンドウ豆繊維食餌を自由摂取させた。連続的に採取した糞便サンプルから分離されたDNAのCOPRO-Seq分析により、コンソーシアムの設置前にWT Btを排除すると、これらの他のバクテロイデスの相対的/絶対的存在量が変化し、CRISPR-Btノックダウンの効果とほぼ一致することが明らかになった(
図9Aから
図9B)。
【0097】
A.インビトロ増殖アッセイ
すべての増殖アッセイは、3%水素、20%CO2、および77%N2の雰囲気下で、ソフトサイド嫌気性増殖チャンバー(Coy Laboratory Products)内で行われた。アンヒドロテトラサイクリン塩酸塩(37919、Millipore Sigma)のストック溶液をエタノール中で2mg/mLに調製し、フィルター滅菌した(Millipore Sigma SLGV033RS)。Bt変異体のストックを連続希釈し、血液寒天プレート±200ng/mLアンヒドロテトラサイクリン上に播種した。2日間の増殖後、プレートを画像化した。Bt変異体のグリセロールストックをコロニー精製し、25μg/mLエリスロマイシンを含む5mL LYBHIに播種した。一晩のインキュベーション後、培養物を9ng/mL aTcを含むLYBHI培地で1:50に希釈し、200μLのアリコートを96ウェルフルエリアプレート(Costar;カタログ番号;CLS3925)のウェルにピペット注入した。プレートを、光学的に透明な膜(Axygen;カタログ番号;UC500)で密封し、37℃にて15分毎に、光学密度(600nm)を介して増殖をモニターした(Biotek Eon with BioStack 4)。
【0098】
B.ノトバイオート(Gnotobiotic)マウス
飼育- マウスを伴うすべての試験は、セントルイスのワシントン大学の動物研究委員会によって承認されたプロトコールに従って実施した。無菌の雄のC57/B6マウス(18-22週齢)を、薄膜の柔軟なプラスチック製アイソレータ内にあるケージに単独飼いし、オートクレーブ可能なマウスチャウ(Envigo;カタログ番号:2018S)を給餌した。ケージには環境エンリッチメントのための紙製ハウスを入れた。動物を、厳密な明暗サイクル(0600時に点灯、1900時間に消灯)で維持した。
【0099】
HiSF/LoFV+10%エンドウ豆繊維は、全米健康栄養調査(NHANES)データベース1からの消費パターンに基づいて選択したヒト食品を用いて製造した。食餌を粉末に粉砕し(D90粒子サイズ、980mm)、10%(w/w)の食物繊維(Rattenmaier;カタログ番号:Pea Fiber EF 100)と混合した。次に、この混合物をペレットに押し出した。このペレットを包装して真空密封し、ガンマ線照射により滅菌した(20~50キログラム)。無菌性は、TYG培地を用いて37℃にて好気的条件および嫌気的条件(雰囲気、75%N2、20%CO2、5%H2)で培養し、この飼料を無菌マウスに与えた後にその糞便DNAをショートリードショットガンシーケンス(Community PROfiling by sequencing、COPRO-Seq)解析することによって確認した。
【0100】
0.5%エタノールまたは10μg/mL aTCを含む新鮮な滅菌飲料水を、ノトバイオート・アイソレーターに1日おきに調製した。
【0101】
コロニー形成- Bacteroides caccae TSDC17.2-1.2、Bacteroides finegoldii TSDC17.2-1.1、Bacteroides massiliensis TSDC17.2-1.1、Collinsella aerofaciens TSDC17.2-1.1、Escherichia coli TSDC17.2-1.2、Odoribacter splanchnicus TSDC17.2-1.2、Parabacteroides distasonis TSDC17.2-1.1、Ruminococcaceae sp。TSDC17.2-1.2、およびSubdoligranulum variabile TSDC17.2-1.1を、肥満において一致しない双子ペア[Ridaura et al. (2013) の Twin Pair 1]のうち、痩せた双子の一方から採取した糞便サンプルから培養した。これらの単離株、およびバクテロイデス・オバタスATCC 8483、バクテロイデス・バルガタスATCC 8482、バクテロイデス・シータイオタオミクロンVPI-5482およびバクテロイデス・セルロシリティカスWH2の注釈付きゲノム配列は、Patnode et al 2019に記載されている。バクテロイデス・シータイオタオミクロンVPI-5482変異体は、上記で定義されたプロトコールに従って生成された。これらの13株のそれぞれをコロニー精製し、TYGまたはLYBHI培地中で初期定常期まで増殖させた(Goodman et al., 2019)。単培養物のアリコートを、15%グリセロール中で-80℃にて保存した。等価数の生物をプールし(OD600測定に基づく)、アリコートを用いるまで-80℃で15%グリセロール中に維持した。試験0日目に、アリコートを解凍し、ノトバイオートアイソレーターに導入した。細菌コンソーシアムを、プラスチックチップの経口ガベージ針を通して無菌マウスに投与した(総容量、マウスあたり300μL)。
【0102】
マウスを、コロニー形成の前に4日間、無補給のHiSF/LoFV食餌の自由摂食に切り替えた。コロニー形成後、マウスは10%のエンドウ豆繊維を添加したHiSF/LoFVを開始した。強制経口投与の1日後、0.5%エタノールまたはアンヒドロテトラサイクリン(10μg/mL)を含む飲料水を全マウスに開始した。コロニー形成後およびaTc離脱後、床敷(Aspen Woodchips; Northeastern Products)を取り替えた。糞便サンプルを、試験0-8日目に各動物から排便後数秒以内に採取し、直ちに-80℃で凍結した。
【0103】
C.COPRO-Seqによるコミュニティメンバーの相対的存在量および絶対的存在量の解析
凍結糞便サンプルおよび糞便内容物(安楽死時に採取)を1.8mLスクリュートップチューブで秤量した。哺乳動物の微生物叢には見いだされない2つの細菌株を、既知の濃度で各サンプルチューブに「スパイクイン」した[2.22×108 細胞/mL アリシクロバチラス・アシディフィラス(Alycyclobacillus acidiphilus DSM 14558および9.93×108 細胞/mL アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) DSM 30147の両方を30μLずつ]。DNA抽出は、250μLの0.1mmジルコニア/シリカビーズおよび1個の3.97mmスチールボールを500μLの2xバッファーA(200 mM Tris、200 mM NaCl、20mM EDTA)、210μL 20% (wt:wt)ドデシル硫酸ナトリウム、500μLフェノール:クロロホルム:アミルアルコール(25:24:1)中で4分間、ビーズ法(bead-beating)サンプルから始めた(Biospec Minibeadbeater-96)。3,220gで4分間遠心分離した後、420μLの水相を除去し、製造元のプロトコールに従って精製した(QIAquick 96 PCR purification kit; Qiagen)。
【0104】
Nextera DNA Library Prep Kit (Illumina; カタログ番号: 15028211)およびカスタムバーコードプライマー(Adey)の組み合わせを用いて、精製DNAからシーケンスライブラリーを調製した。ライブラリーは、Illumina NextSeq装置を用いて配列決定した[リード長、75nt;配列決定深度、1.02 x 10
6 ± 2.2 x 10
4 リード/サンプル(平均±SD)]。リードは、Bowtie IIで細菌ゲノム上にマッピングされ、相対的存在量は、情報量の多いゲノムサイズでスケーリングしたリードカウントを用いて計算した(Hibberd et al., 2017)。100,000リード未満のサンプルは、さらなる解析から除外した。本発明者らは、与えられたコミュニティメンバーの絶対的存在量を、以下の関係を用いて定義した:
【数1】
【0105】
D.線形モデリング
強制経口投与の4~7日後のビークル対照群および4日間処置群からの相対存在量データを、線形モデル(R core team, 2018)を用いて、以下の形式でモデル化した:
lm(log10(percent) ~ Condition*DPG, data = data)。
推定周辺平均(Lenth, 2019)を用いて、各日による条件の効果を、応答尺度上で有意さについて試験した。
【0106】
実施例11.ベクター構築
安定に維持されたRepA CRISPRプラスミドを、pExchangetdkからのプラスミド骨格(RP4-oriT、R6K ori、bla、ermG)、pBI143からのRepA(Smith et al, Plasmid, 1995, 34:211-222)、および合成DNAまたはストレプトコッカス・ピオゲネス株SF370のゲノムDNAのPCRから組み立てられたアンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導型CRISPRカセット(P2-A21-tetR、P1TDP-GEF023-SpCas9、P1-N20 sgRNA scaffold)を用いてギブソンクローニング法により構築した。
図10は、プラスミドデザインを示す。
【0107】
プラスミド骨格は、大腸菌のアンピシリン選択のためのR6K複製起源およびBla配列、バクテロイデス属の複製のためのrepA配列、コンジュゲーション用のRP4-oriT配列およびバクテロイデス属のエリスロマイシン(Em)選択のためのermG配列を担持する。
【0108】
誘導型CRISPRカセットは、TetRレギュレーターの制御下にあるaTc誘導性SpCas9(P2-A21-tetR、P1TDP-GH023-SpCas9)、およびP1プロモーター下で構成的に発現されるガイドRNA(P1-N20 sgRNA scaffold)を含む。プロモーターおよびリボソーム結合部位は、Lim et al.、Cell、2017、169:547-558に記載の、バクテロイデス・シータイオタオミクロン 16S rRNA遺伝子の調節配列に由来し設計される。ガイドRNAは、コーディングDNA配列、または非コーディングDNA配列、または非ターゲティングスクランブルヌクレオチド配列と相同性を有するヌクレオチド配列である。この配列は、異なるCas9ホモログのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)要求に適合する限り、何れの形態であってもよい。ガイドRNAは、tracrRNAおよびcrRNAの別々の転写単位であるか、またはハイブリッドキメラtracr/crRNAシングルガイド(sgRNA)に融合されるかのいずれかであり得る。
【0109】
上記プラスミドのDNA配列は、配列番号9に示される。
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【0110】
実施例12.個々のバクテロイデス・シータイオタオミクロン株の誘導性CRISPR殺滅
抗生物質選択をしないBrain Heart Infusion(BHI)血液寒天プレート上で、2つの安定に維持されたプラスミドをバクテロイデス・シータイオタオミクロンにコンジュゲートさせた。一方のプラスミドは、スクランブルされた非標的化プロトスペーサー配列(5’-TGATGGAGAGGTGCAAGTAG-3’;配列番号6)を有する陰性対照(“M”と称する)であった。この非ターゲティング対照プロトスペーサー配列のバクテロイデスゲノムに対するインシリコ解析では、有意な配列の一致は見られなかったため、‘オフターゲット’活性は予期されない。もう一方のプラスミドは、Btゲノム上のsusC_Bt (BT_3702)コーディング配列を標的とするプロトスペーサー配列(5’-ATGACGGGAATGTACCCCAG-3’;配列番号5)を有する。susC遺伝子はバクテロイデス・シータイオタオミクロンにおけるデンプン結合に関与する外膜たんぱく質をコードしている。sgRNAの骨格配列は、5’-GTTTTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTT-3’(配列番号7)である。得られた2つのプラスミドをpRepA-CRISPR.Mand pRepA-CRISPR.susC_Btと呼ぶ。コロニーを採取し、200μg/mlのゲンタミン(Gm)および50μg/mlのエリスロマイシン(Em)を加えたBHI血液寒天プレートに再播種し、コイチャンバー(Coy Laboratory Products Inc)上で嫌気的に増殖させた。この再播種プレートから単一コロニーを採取し、10mlのTYG液体培地で200μg/ml Gmおよび50μg/ml Emで増殖させた。OD600nmを測定し、ODが1になるように濃度を調整し、1ml容量で1~10倍希釈した。200μg/mlのゲンタミン(Gm)および50μg/mlのエリスロマイシン(Em)にそれぞれ0んg/mlおよび100ng/mlの濃度のアンヒドロテトラサイクリン(aTc)を添加したBHI血液寒天プレートに2種の希釈液(10
-4および10
-6)の100μlを播種した。寒天培地は嫌気的に37℃にて2~3日間培養した。aTcを含まない血液寒天培地プレート(0ng/ml)では、すべての株でコロニー形成単位(CFU)が得られた。susC標的化プラスミドについてaTcが存在する(100ng/ml)血液寒天プレート上ではCFU形成が観察されなかったが、M株については依然としてCFUが得られた(
図11A~D)。
【0111】
実施例13.べクター構築
CRISPR組み込みpNBU2.CRISPRプラスミドを、pExchangetdkからのプラスミド骨格(RP4-oriT、R6K ori、bla、ermG)、pNBU2-tetQbからのNBU2インテグラーゼ、および化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)株SF370の合成DNAまたはゲノムDNAのPCRから作製されたアンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導型CRISPRカセット(P2-A21-tetR、P1TDP-GH023-SpCas9、P1-N20 sgRNAスキャフォールド)を用いてギブソンクローニング(NEBuild HIFI DNA Assembly Master Mix、New England Biolabs)により構築した。エリスロマイシン(ermG)抗生物質耐性遺伝子は、合成DNAおよび従来の制限酵素クローニングを用いて、セフォキシチン抗生物質耐性遺伝子(cfxA)に置換した。
図12は、プラスミド設計を示す。
【0112】
プラスミド骨格は、大腸菌のアンピシリン選択のためのR6K複製起源およびBla配列、コンジュゲーション用のRP4-oriT配列およびバクテロイデス属のセフォキシチン(FOX)選択用のcfxA配列を担持する(Parker and Smith、Antimicrobial agents and Chemotherapy、1993、37: 1028-1036)。NBU2は、pNBU2-CRISPRプラスミド上のattN2部位とバクテロイデス細胞の染色体上に存在するattB部位の一つとの間の配列特異的組換えに介在するintN2チロシンインテグラーゼをコードしている。attN2およびattBは同じ13bpの認識塩基配列(5’-3’):CCTGTCTCCGC(配列番号2)を有している。
【0113】
誘導型CRISPRカセットは、TetRレギュレーターの制御下にあるaTc誘導性SpCas9(P2-A21-tetR、P1TDP-GH023-SpCas9)、およびP1プロモーター下で構成的に発現するガイドRNA(P1-N20 sgRNA scaffold)を含む。プロモーター結合部位およびリボソーム結合部位は、Lim et al.、Cell、2017、169:547-558に記載の、バクテロイデス・シータイオタオミクロン 16S rRNA遺伝子の調節配列に由来し設計される。ガイドRNAは、コーディングDNA配列、または非コーディングDNA配列、または非標的化スクランブルヌクレオチド配列と相同性を有するヌクレオチド配列である。この配列は、異なるCas9ホモログのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)要件に適合する限り、何れの形態であってもよい。ガイドRNAは、tracrRNAおよびcrRNAの別々の転写単位であるか、またはハイブリッドキメラtracr/crRNAシングルガイド(sgRNA)に融合されるかのいずれかであり得る。
【0114】
上記プラスミド(
図12)のDNA配列は、配列番号10に示される。
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【0115】
実施例14.バクテロイデス・セルロシリティカスWH2の染色体へのCRISPR組込み
NBU2-CRISPRププラスミドを大腸菌S-17 ラムダpirに形質転換し、次いでコンジュゲーションを介してバクテロイデス・セルロシリティカスH2細細胞へ送達した。この具体例では、NBU2-CRISPRププラスミドは、NBU2-CRISPRプラスミド上のattN2部位と、バクテロイデス・セルロシリティカスWH2(略称BWH2)の染色体上の2つのtRNA-Ser遺伝子BcellWH2_RS22795またはBcellWH2_RS23000、あるいは非コード領域(塩基座標6071791-6071803)の3’末端に位置する3つのattBWH2部位のうちの1つとの間の配列特異的組換えに介在するintN2チロシンインテグラーゼをコードしている。上の3’末端に位置する3つのattBWH2サイトのうちの1つを選択することができる。pNBU2-CRISPRプラスミドを挿入すると、2つのtRNA-Ser遺伝子のうち1つを不活性化する可能性があり(非コーディング領域に挿入した場合はtRNA-Ser遺伝子を不活性化しない)、tRNA-Serの必須性から両方のtRNA-Ser遺伝子への同時挿入はあり得ない。
【0116】
非ターゲティング対照ガイド(“M”と称する)、tdk_BWH2(BcellWH2_RS17975)を標的とする2つのガイドRNA(“T2”および“T3”と称する)ならびにsusC_BWH2(BcellWH2_RS26295)を標的とする2つのガイドRNA(“S6”および“S19”と称する)を発現する5つのプラスミドを構築した。tdk遺伝子はチミジンキナーゼをコードし、susC遺伝子はバクテロイデス・セルロシリティカス WH2のデンプン結合に関与するSusC/RagAファミリーTon-B結合型外膜タンパク質をコードしている。tdk_BWH2の2つのプロトスペーサー配列は、T2(5’-ATACAGGAAACCAATCGTAG-3’;配列番号11)およびT3(5’-GGAAGAATCGAAGTTATATG-3’;配列番号12)であり、susC_BWH2についてはS6(5’-AATCCACTGGATGCCATCCG-3’;配列番号13)およびS19(5’-GCTTATGTCTATCTATCCGG-3’;配列番号14)である。バクテロイデスゲノムに対する非ターゲティング対照プロトスペーサー配列M(5’-TGATGGAGAGGTGCAAGTAG-3’;配列番号6)のインシリコ分析は、有意な配列一致をもたらさなかったため、“オフターゲット”活性は予期されない。sgRNA足場配列は、5’ GTTTTAGAGCTAGAAATAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTT-3’(配列番号7)であった。得られたプラスミドをpNBU2-CRISPR.M_BWH2、pNBU2-CRISPR.tdk_BWH2-2、pNBU2-CRISPR.tdk_BWH2-3、pNBU2-CRISPR.susC_BWH2-6およびpNBU2-CRISPR.susC_BWH2-19と称する。
【0117】
セフォキシチン耐性を有するpNBU2-CRISPRプラスミド上のattN2部位とバクテロイデス・セルロシリティカスWH2ゲノム中の3つのattBWH2部位のうちの1つとの間の標的挿入の例を
図13A-Bに示す。プラスミドpNBU2-CRISPR.susC_BWH2-19は、t-RNA-Ser遺伝子、BcellWH2_RS22795のattBWH2部位にのみ組込まれた。プラスミド組込み部位の5’末端を
図13Aに、プラスミド組込み部位の3’末端を
図13Bに示す。配列決定はIllumina Next Gen Sequencing technologyを用いて行い、解析はGeneious align/assemble ソフトウェアを用いて行った。
【0118】
実施例15.個々のバクテロイデス・セルロシリティカスWH2株の誘導型CRISPR殺滅
選択されたバクテロイデス・セルロシリティカスWH2組込み体(M1、M2、T2、T3、S6およびS19)について、TYG液体培地中で誘導型CRISPR Cas9介在細胞死について試験した。M1、M2、T2、T3、S6およびS19の単一コロニー(M1およびM2は同じM非ターゲティング結合プレートからの別個のコロニー)を、200μg/mlゲンタマイシン(Gm)および10μg/mlセフォキシチン(FOX)を補充したTYG液体培地5mlを含むファルコンチューブ中で一晩、コイチャンバー(coy Laboratory Products Inc.)内で嫌気的に増殖させた。一晩培養したものを、TYG培地でOD600nmが1になるように規格化した。これらの標準化培養物を1:100の比率で希釈し(24.75 mlのTYG中、250μl)、種培養物を作製した。この25mlの種培養物を、新鮮な15mlのファルコンチューブ中5mlの培養物に分注した。アンヒドロテトラサイクリン(aTc)を0ng/ml、10ng/mlまたは100ng/mlのいずれかで5mlの培養物に添加し、37℃にて24時間嫌気的に培養した。24時間の増殖の後に読み取られたOD600nmの測定値を
図14に示す。このデータは、染色体上に組込まれたCRISPR/Cas9システムが、外因的に提供された誘導体(aTc)によって活性化され、標的RNA(tdk_BWH2またはsusC_BWH2)によって導かれる致死ゲノムDNA切断を生じ、結果として、細胞生存能の喪失をもたらすことを示す。
【0119】
文献
Goodman, A. L. et al. Identifying genetic determinants needed to establish a human gut symbiont in its habitat. Cell Host Microbe 6, 279-289 (2009).
Hibberd, M. C. et al. The effects of micronutrient deficiencies on bacterial species from the human gut microbiota. Sci. Transl. Med. 9, eaal4069 (2017).
Patnode, M. et al. Interspecies competition impacts targeted manipulation of human gut bacteria by fiber-derived glycans. Cell, 179(1), 59-73.
Lenth, R. (2019). emmeans: Estimated Marginal Means, aka Least-Squares Means. R package version 1.4.1. https://CRAN.R-project.org/package=emmeans.
Ridaura, V. K. et al. Gut microbiota from twins discordant for obesity modulate metabolism in mice. Science 341, 1241214.
R Core Team (2018). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. URL https://www.R-project.org/.
Smith, C. J. et al. Nucleotide Sequence Determination and Genetic Analysis of the Bacteroides Plasmid, pBI143. Plasmid, 1995, 34:211-222
Lim et al. Engineered Regulatory Systems Modulate Gene Expression of Human Commensals in the Gut. Cell, 2017, 169:547-558
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-05-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
【
図4】
図4Aから
図4Bは、組込み型CRISPRシステムを用いた個々のバクテロイデス菌株の誘導型CRISPR殺滅(killing)を示す。
図4Aは血液寒天プレートでの結果を示す。選択したCRISPRインテグレート(M1およびT1)について、TYG+Gm 200、Em 25のチューブ培養物を希釈し、それぞれ0ng/mlおよび100ng/ml濃度のアンヒドロテトラサイクリン(aTc)を添加したBHI血液寒天プレート(Gm 200、Em 25)に拡散させた(24時間チューブ培養、10
-6希釈、100μlスプレッド)。細胞を37℃にて40時間嫌気的にインキュベートした。
図4Bは、TYG液体培地での結果を示す。選択されたCRISPRインテグラント(M1、M2、T1、T3、S1、S2)を、TYG培地中の新鮮なコロニーから37℃にて6時間、OD600nm~0.6まで嫌気的に増殖させ、それぞれ0ng/ml、10ng/mlおよび100ng/mlの終濃度でaTcを補充した新鮮なTYG液体培地(Gm 200、Em 25)への1 :100希釈を行った。37℃にて24時間、嫌気性条件下での培養中に増殖を評価した。
【
図5】
図5Aから
図5Cは、インビトロでの混合集団における特定のバクテロイデス菌株の標的化された誘導性CRISPR殺滅(killing)を示す。選択されたCRISPR組込み体(M1、T1、S1)を、TYG培地中の新鮮なコロニーから37℃にて6時間嫌気的にOD600nm~0.6まで増殖させた。等量の細胞培養物(1:100希釈)を混合し、終濃度がそれぞれ0ng/ml、10ng/mlおよび100ng/mlのaTcを添加した新鮮なTYG液体培地(Gm 200、Em 25)に添加した。これらの培養物を37℃にて24時間嫌気的にインキュベートした。
図5A:OD600nm測定。
図5B:ガイドRNA領域(Cas9およびNBU2をコードする配列に結合するプライマー、1.5kbのアンプリコンサイズ)を増幅するPCRを、100ng/ml、10ng/mlおよび0ng/mlの濃度のaTcで処理した培養物に対して実施し、次いでサンガーDNA配列決定を行った。aTcで処理した培養物は、非ターゲティング対照gRNAのみを有する。
図5Bに示されるDNA配列は、上から下の順に、配列番号15(4例)および配列番号16(1例)である。図5C:M1+S1_aTc100の培養物を希釈し(10
-6)、BHI血液寒天プレート(Gm200、Em25)上に広げ、37℃にて40時間、嫌気的に培養し、単一コロニーを得た。選択した5つのシングルコロニーおよび寒天プレートから掻き出した混合物について、ガイドRNA領域を増幅するコロニーPCRを行い、その後サンガーDNA配列決定を行い、増殖した全てのクローンが非標的、対照gRNAのみを有していることが示された。
図5Cに示されるDNA配列は、上から下の順に、それぞれ配列番号17(7例)である。
【
図6】
図6は、バクテロイデス・ブルガータス(Bacteroides vulgatus (Bv))の染色体へのCRISPR組込みを示す。各コンジュゲーションからのコロニー、Bv.M(VM1、VM2、VM3、VM4、VM5、VM6、VM7とラベル付け)、およびsusC_Bv(V1、V2、V3、V4、V5とラベル付け)をコロニーPCRスクリーニング用に選択した。0、Bv野生型株;M、DNAラダー。
PCR A(外側プライマー、0.5kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-1遺伝子座での組込みをスクリーニングした;
PCR B(外側プライマー、0.5kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-2遺伝子座での組込みをスクリーニングした;そして、
PCR C(外側プライマー、0.6kbまたは0kb)を用いて、attBv. 3-3遺伝子座での組込みをスクリーニングした。
PCR D(外側プライマーおよびermGコード配列に結合する内部プライマー、0.6kbまたは0kb:attBv. 3-1遺伝子座組込みの左接合部)を用いて、選択したクローンの組込まれた染色体および組込みプラスミド配列の接合部を確認した。左のパネル:非ターゲティング、対照ガイドRNA(M)を含む組込み株;右パネル:susC_BvガイドRNAをターゲットとする組込み株。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
【
図11】
図11Aから
図11Dは、血液寒天プレートの写真である。
図11Aは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTcなし、右側には100ng/mlのaTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンにおけるsusCを標的とするpRepA-CRISPRの10
-4希釈を示す。
図11Bは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/mlのaTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンにおけるsusCを標的とするpRepA-CRISPRの10
-6希釈を示す。
図11Cは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴うおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/ml aTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンでのpRepA-CRISPR非ターゲティングの10
-4希釈を示す。
図11Dは、血液BHIプレート上でのaTc誘導を伴いおよび伴わない(左側にはaTCなし、右側には100ng/ml aTc)バクテロイデス・シータイオタオミクロンでのpRepA-CRISPR非ターゲティングの10-6希釈を示す。
【
図12】
図12は、組込まれた、誘導性CRISPRシステムを用いた標的マイクロバイオータ調節を示す。CRISPRシステム(Cas9エンドヌクレアーゼおよびガイドRNA)の発現は、細菌の染色体破壊および最終的には細胞死を引き起こす。このように、ターゲティングガイドRNAを備えた組込みCRISPRカセットを担持する特定のバクテロイデス菌株は、アンヒドロテトラサイクリン(aTc)誘導時にインサイチュウで混合集団から排除できる。
【
図13】
図13Aから
図13Bは、プラスミドpNBU2-CRISPR.susC_BWH2-19
(図12)がt-RNA-Ser遺伝子、BcellWH2_RS22795のattBWH2部位にのみ組込まれていることを示す。プラスミド組込み部位の5’末端を
図13Aに示し、プラスミド組込み部位の3’末端を
図13Bに示す。
図13Aに示されるDNA配列リストは、上から順に以下の通りである:配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号19(右から左);配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号18(左から右);配列番号19(右から左);配列番号20(左から右);配列番号21(右から左);配列番号22(左から右);配列番号23(右から左);および配列番号24(左から右)である。例えば、配列番号19は、配列番号18の相補鎖であることなどが理解され得る。図13Bに示されるDNA配列リストは、上から順に以下の通りである:配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号27(左から右);配列番号28(右から左);配列番号29(左から右);配列番号30(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号31(左から右);配列番号32(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号33(左から右);配列番号34(右から左);配列番号35(左から右);配列番号36(右から左);配列番号25(左から右);配列番号26(右から左);配列番号37(左から右);および配列番号38(右から左)など。例えば、配列番号26は、配列番号25の相補鎖であることなどが理解され得る。
【
図14】
図14は、実施例
15に記載の通り、24時間の増殖後に取得したOD600nmの読み取り値を示す。
【国際調査報告】