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特表2022-549550水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(54)【発明の名称】水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/36 20060101AFI20221118BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20221118BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20221118BHJP
【FI】
A61L27/36 400
A61L27/36 100
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/36 300
A61L27/36 420
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504167
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070692
(87)【国際公開番号】W WO2021013893
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】1908275
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517125546
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ジャン モネ、サン テティエンヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE JEAN MONNET SAINT ETIENNE
【住所又は居所原語表記】MAISON DE L’UNIVERSITE 10 RUE TREFILERIE, 42100 SAINT ETIENNE, FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】520212233
【氏名又は名称】サントル オスピタリエル ユニヴェルシテル
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ゲン、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テュレ、ジル
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、ジーグオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065CA44
4C081AB21
4C081CD34
4C081DA02
4C081EA02
4C081EA06
(57)【要約】
本発明は、水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法であって、下記工程:・脱細胞化された水晶体嚢を得るために、水晶体嚢を脱細胞化する工程(200)、・脱細胞化された水晶体嚢および微小多孔性支持体メンブレンから構成されるスタックを得るために、脱細胞化された水晶体嚢を支持体メンブレン上に配置する工程(300)、・凍結乾燥されたスタックを得るために、スタックを凍結乾燥させる工程(400)、・無菌化されたスタックを得るために、凍結乾燥されたスタックを無菌化する工程(500)、・同種移植片材料または異種移植片材料を得るために、無菌化されたスタックを包装する工程(600)を含む、方法に関する。
【代表図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための調製方法であって、当該方法が、下記工程:
・ 脱細胞化された水晶体嚢を得るために、水晶体嚢(71)を脱細胞化する工程(200)と、
・ 前記脱細胞化された水晶体嚢および微小多孔性支持体メンブレン(31)から構成されるスタックを得るために、前記脱細胞化された水晶体嚢を前記支持体メンブレン上に配置する工程(300)と、
・ 凍結乾燥されたスタックを得るために、前記スタックを凍結乾燥させる工程(400)と、
・ 無菌化されたスタックを得るために、前記凍結乾燥されたスタックを無菌化する工程(500)と、
・ 同種移植片材料または異種移植片材料を得るために、前記無菌化されたスタックを包装する工程(600)と
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
握り手段(73)を形成するために、前記水晶体嚢(71)を切り取る工程をさらに含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記脱細胞化工程の前に、
・ 臓器提供からの眼球もしくは角膜、または白内障手術からの、外科的廃棄物を構成する水晶体嚢から選択される一次生物学的材料を受け取る工程と、
・ 前記生物学的材料が眼球または角膜である場合:
〇 前記水晶体(7)を抽出する工程と、
〇 水晶体前嚢および後嚢(71)を切り取る工程と
を含む、請求項1または2のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項4】
前記水晶体前嚢および後嚢を切り取る工程が、
・ レーザー光線に対して透過性のハウジングと、当該ハウジングに前記水晶体を押し付けるための吸引手段とを含む保持デバイス中に、水晶体全体を挿入すること、
・ 切り取られた前ディスクを得るために、レーザー光線を使用して前記水晶体嚢の前面を切り取ること、
・ 切り取られた後ディスクを得るために、レーザー光線を使用して前記水晶体嚢の後面を切り取ること、
・ 水晶体前嚢および後嚢を得るために、前記切り取られた前ディスクおよび後ディスクを切断すること
を特徴とするサブ工程を含む、請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
位置決めマーカー手段を形成するために、前記水晶体嚢にマークする工程をさらに含み、当該マークする工程が、前記支持体メンブレン(31)を通して生体適合性インクを適用することからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項6】
前記脱細胞化工程(200)が、下記サブ工程:
・ 前記水晶体嚢を脱細胞化液体中に浸漬すること、そして
・ 場合により、浸漬された前記水晶体嚢を機械的振動に付すこと、および/または、当該水晶体嚢の表面を機械的に削ること、
・ 前記水晶体嚢をリンス液体(例えば、食塩水溶液)でリンスすること
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記配置工程(300)が、
・ 前記支持体メンブレン上に前記水晶体嚢を平らに位置付けること、
・ 前記支持体メンブレンへの前記水晶体嚢の接着を促進するために、前記水晶体嚢を乾燥させること
を特徴とするサブ工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
前記包装する工程の後に、細胞または組織培養工程をさらに含み、当該培養工程が、
・ 前記水晶体嚢を、培養される細胞/組織の接着を促進する物質でコーティングすること、
・ 前記水晶体嚢上で細胞/組織を成長させること(340)
を特徴とするサブ工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項9】
前記包装する工程の後に、前記同種移植片材料または異種移植片材料を再水和させ、前記水晶体嚢を、治療剤として直接使用するか、または、細胞または組織培養工程の実施後に使用することを可能にする工程をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項10】
眼の病変を治療するための外科的キットであって、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法を実施することによって得られた同種移植片材料または異種移植片材料を含むことを特徴とする、キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科的用途のためのインプラント可能なヒトまたは動物の移植片を作製する一般的技術分野に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、水晶体嚢から無菌の凍結乾燥された膜形成性の同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法に関する。
【0003】
この同種移植片材料または異種移植片材料は、眼の外科手術における、特に、角膜および/または網膜の外科手術における、移植片としての使用に適している。
【背景技術】
【0004】
水晶体嚢は、水晶体を包む透明な耐久性のある膜である。
【0005】
現在のところ、水晶体嚢は、外科的廃棄物とみなされている。特に、白内障外科手術の間、水晶体前嚢(以下、「前嚢」と呼ぶ)のディスクが、例えば、機械化された切り取り機器(例えば、フェムト秒レーザー、または当業者に公知の他の任意の切り取り機器)を使用して切り取られる。この前嚢ディスク-6ミリメートルに実質的に等しい直径を有する-は、体系的に破壊される外科的廃棄物を構成する。
【0006】
しかし、コラーゲンIVから主に構成される水晶体嚢は、細胞および組織治療材料、例えば、角膜内皮もしくは角膜上皮移植片または網膜移植片(色素上皮、光受容細胞など)を作製するために有用な異なる細胞型を培養するための優れた支持体である。
【0007】
白内障外科手術(フランスでは年間850,000例の手術、そのうち少なくとも10%は、前嚢を切り取るために機械化された切り取り機器を使用して実施される)に由来する前嚢は、同種移植片材料または異種移植片材料を作製するために使用され得る。
【0008】
水晶体嚢の別の供給源は、組織および臓器、特に角膜または眼球全体の提供に関連し、水晶体前嚢および後嚢ディスクを、予め取り出された水晶体嚢から切り取ることができ、このことは、より大きい直径のディスク(7ミリメートルと11ミリメートルとの間)が切り取られることを可能にし、水晶体前嚢および後嚢の両方が回収されることを可能にする解決手段を提供する。
【0009】
US2002/183844は、色素上皮移植のための微細加工された支持組織、およびその製造方法に関する。この方法は、膜性組織を改変すること、および改変された膜性組織上で細胞を成長させることを特徴とする工程を含む。US2002/183844に記載される方法は、膜性組織が改変されることを可能にし、その結果、改変された膜性組織への細胞接着が促進される。
【0010】
例えば、機械化された切り取り機器(例えば、超高速レーザー)、または他の任意の電気的もしくは機械的もしくは手動の切り取り機器で切り取られた水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための産業的な方法は、これまでに提案されていない。
【0011】
本発明の1つの目的は、この不利益を是正することである。
【発明の概要】
【0012】
この目的のために、本発明は、水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法であって、下記工程:
・脱細胞化された水晶体嚢を得るために、水晶体嚢を脱細胞化する工程、
・脱細胞化された水晶体嚢および微小多孔性支持体メンブレンから構成されるスタックを得るために、脱細胞化された嚢を支持体メンブレン上に配置する工程、
・凍結乾燥されたスタックを得るために、スタックを凍結乾燥させる工程、
・無菌化されたスタックを得るために、凍結乾燥されたスタックを無菌化する工程、
・同種移植片または異種移植片材料を得るために、無菌化されたスタックを包装する工程
を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0013】
したがって、図1の工程610、620に示されるように、本発明による方法は、無菌コンテナ中に、以下のタイプの眼の外科手術のための、取り扱いが容易な脱細胞化された嚢を提供する:
角膜内皮欠陥の閉鎖:これは、角膜中央の後面上に位置するデスメ膜の異常な構造の存在によって特徴付けられるフックス内皮ジストロフィーと呼ばれる高頻度の角膜病変を治療するための方法である。次いで、外科医は、デスメ膜切開と呼ばれる処置によってこの異常な層を機械的に除去する。デスメ膜切開は、周辺から遊走する内皮細胞によって緩徐に埋められる欠陥を内皮に残す。これらの細胞の遊走を加速させるために、細胞の接着および遊走を促進する薄い透明な膜でこの欠陥を覆うことが可能である。脱細胞化された水晶体嚢は、これらの品質を全て有する。
黄斑円孔(MH)の閉鎖:この高頻度の網膜病変は、穴の閉鎖を促進するための脱細胞化された水晶体嚢の配置から、硝子体切除術後に利益を得ることができる。
【0014】
双方の用途において、脱細胞化された嚢は、さらなる再細胞化工程なしに、そのまま使用される。
【0015】
あるいは、図1の工程630および640に示されるように、無菌化され、脱細胞化された嚢を、角膜内皮もしくは上皮細胞、または色素網膜上皮由来の細胞、または他の網膜細胞、例えば、光受容細胞、神経節細胞などを用いて再細胞化することができ、移植の準備のできた、培養培地中に含有される再細胞化された移植片を得ることができる。
【0016】
本発明による方法の好ましく非限定的な態様は、以下のとおりである:
・本発明の方法は、握り手段を形成するために、水晶体嚢を切り取る工程をさらに含み得る;
・本発明の方法は、脱細胞化工程の前に、
〇 臓器提供からの眼球もしくは角膜、または白内障手術からの、外科的廃棄物を構成する水晶体嚢から選択される一次生物学的材料を受け取る工程と、
〇 上記生物学的材料が眼球または角膜である場合:
■ 水晶体を抽出する工程と、
■ 水晶体前嚢および後嚢を切り取る工程と
を含み得る;
・水晶体前嚢および後嚢を切り取る工程は、
〇 レーザー光線に対して透過性のハウジングと、このハウジングに水晶体を押し付けるための吸引手段とを含む保持デバイス中に、水晶体全体を挿入すること、
〇 切り取られた前ディスクを得るために、レーザー光線を使用して水晶体嚢の前面を切り取ること、
〇 切り取られた後ディスクを得るために、レーザー光線を使用して水晶体嚢の後面を切り取ること、
〇 水晶体前嚢および後嚢を得るために、切り取られた前ディスクおよび後ディスクを切断すること
を特徴とするサブ工程を含む;
・本発明の方法は、位置決めマーカー手段を形成するために、水晶体嚢にマークする工程をさらに含みことができ、このマークする工程は、支持体メンブレンを通して生体適合性インクを適用することからなる;
・脱細胞化工程は、下記サブ工程:
〇 水晶体嚢を脱細胞化液体中に浸漬すること、そして
〇 場合により、浸漬された嚢を機械的振動に付すこと、および/または、水晶体嚢の表面を機械的に削ること、
〇 水晶体嚢をリンス液体(例えば、食塩水溶液)でリンスすること
を含み得る;
・配置工程は、
〇 支持体メンブレン上に水晶体嚢を平らに位置付けること、
〇 支持体メンブレンへの水晶体嚢の接着を促進するために、水晶体嚢を乾燥させること
を特徴とするサブ工程を含み得る;
・本発明の方法は、包装する工程の後に、細胞または組織培養工程を含むこともでき、この培養工程は、
〇 水晶体嚢を、培養される細胞/組織の接着を促進する物質でコーティングすること、
〇 水晶体嚢上で細胞/組織を成長させること
を特徴とするサブ工程を含む;
・本発明の方法はまた、包装する工程の後に、同種移植片材料または異種移植片材料を再水和させ、水晶体嚢を、治療剤として直接使用するか、または、細胞または組織培養工程の実施後に使用することを可能にする工程も含み得る。
【0017】
本発明はまた、眼の病変を治療するための外科的キットであって、上記方法を実施することによって得られた同種移植片材料または異種移植片材料を含むことを特徴とするキットに関する。
【0018】
本発明による方法の他の利点および特徴は、添付の図面から、非限定的な例として与えられるいくつかの代替的実施形態の以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】水晶体嚢の異なる可能な供給源、および、本発明による調製方法によって調製された水晶体嚢の異なる可能な使用、の概略図である。
図2】本発明による調製方法の工程の概略図である。
図3】水晶体保持デバイスの断面模式図である。
図4】水晶体保持デバイスの上面模式図である。
図5】異なる形状の切り取られた水晶体嚢の概略図である。
図6】細胞培養デバイスの異なる態様の概略図である。
図7】細胞培養デバイスのハウジングの概略図である。
図8】水晶体嚢にマークする工程の概略図である。
図9】本発明による調製方法によって調製された水晶体嚢を培養するためのサブ工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
同種移植片材料または異種移植片材料を調製するための方法の種々の例について、図面を参照して説明する。これらの種々の図面において、同じ要素は、同じ参照番号によって示される。
【0021】
1.一般的ポイント
図2を参照すると、方法1は、下記工程:
・脱細胞化された複数の水晶体嚢を得るために、各水晶体嚢を脱細胞化すること200、
・合成支持体、例えば、微小多孔性細胞培養インサートメンブレン上に、各嚢を平らに配置すること300、
・凍結乾燥された複数の水晶体嚢を得るために、各水晶体嚢を凍結乾燥させること400(凍結乾燥は、好ましくは、合成支持体を用いて直接的に実施してもよく、また嚢単独を用いて実施することも可能である)、
・無菌化された複数の水晶体嚢を得るために、凍結乾燥された各水晶体嚢を無菌化すること500(したがって、合成支持体ありまたはなし)、
・複数の同種移植片材料または異種移植片材料を得るために、無菌化された各水晶体嚢を包装および保存すること600
を含む。
【0022】
以下のセクション3においてより詳細に説明するように、このようにして得られた同種移植片材料または異種移植片材料(すなわち、脱細胞化、凍結乾燥、無菌化および包装された水晶体嚢)は、移植に使用され得る。より詳細には、脱細胞化された水晶体嚢は、
・再水和工程610の実施後に、直接的に、または
・培養工程630の実施後に、
使用され得る。
【0023】
2.調製方法の工程の詳細な説明
2.1.生物学的材料を受け取る
本発明による調製方法から調製された水晶体嚢は、異なる供給源に由来し得る。特に、これらの水晶体嚢は、
・角膜もしくは眼球の提供、または
・白内障患者の切り取られた水晶体嚢
に由来し得る。
【0024】
供給源に応じて、調製方法は、脱細胞化工程の前に、いくつかの工程を含み得る。
【0025】
2.1.1.角膜または眼球の提供
角膜または眼球の提供の場合、水晶体前嚢および後嚢は、
・臓器ドナー患者からの角膜または眼球の取り出しの間に抽出された(水晶体は、治療目的のための角膜または眼球取り出しからの外科的廃棄物である)、
・本発明による方法を実施する場所への輸送を促進するために、保存液体、例えば、外科的眼灌流液体または当業者に公知の他の任意の無菌保存媒体を含む無菌コンテナ中で貯蔵された
水晶体全体から切り取られる。
【0026】
水晶体が処理場所において利用可能になると、水晶体前嚢および後嚢は、例えば、
・水晶体前嚢および後嚢の切り取り操作の間の水晶体7の固定化を可能にする水晶体保持デバイス;かかる保持デバイスは、図3および4に示される;保持デバイスは、レーザー光線に対して透過性の支持体パッド40を含み、この支持体パッド40は、
〇 その受け取り壁41(すなわち、水晶体と接触することが意図される壁)が水晶体7の形状に対して相補的な凹面形状のものである、ハウジング、
〇 その一方の端部が、受け取り壁41に開口しており、吸引導管の他方の端部が、水晶体を適所に固定するために受け取り壁41と水晶体7との間に真空を生成するために、吸引システム(図示せず)に接続されることが意図される、1つ(またはいくつか)の吸引導管42
を含む、
・水晶体前嚢および後嚢71を切り取るための、超高速(例えば、フェムト秒であるが、それだけではない)レーザー源を含む切り取りシステム50
を使用して切り取られる。
【0027】
あるいは、前嚢および後嚢は、自動化されたまたは手動のドリルビットを使用して切り取られ得る。
【0028】
より詳細には、臓器提供の場合、本発明の方法は、脱細胞化工程200の前に、下記工程:
・レーザー光線に対して透過性の第1の面および第2の面を含む水晶体保持デバイス中に、水晶体全体を挿入すること、
・1つ(またはいくつか)の切り取られた前ディスクを得るために、水晶体嚢の前面上の2ミリメートルと11ミリメートルとの間に含まれる直径のディスク(または小さい直径のいくつかの小さいディスク)を切り取ること、
・1つ(またはいくつか)の切り取られた後ディスクを得るために、水晶体嚢の後面上の2ミリメートルと11ミリメートルとの間に含まれる直径のディスク(または小さい直径のいくつかの小さいディスク)を切り取ること、
・水晶体前嚢および後嚢を得るために、切り取られた前ディスクおよび後ディスクを切断すること、
・本発明の方法の後続する工程を実施する前に、このようにして得られた各水晶体嚢を、保存液体(水、外科的眼灌流液体など)を含むそれぞれのコンテナ中に無菌方式で貯蔵すること
を含み得る。
【0029】
この通常の供給源は、6ミリメートルよりも大きい直径を有するディスクを優先的に得るために、水晶体嚢を切り取ることを可能にする。さらに、所定の水晶体それぞれについて、2つの水晶体嚢(前嚢および後嚢)を回収することが可能であり、このことは、細胞および/または組織治療材料を作製するために使用される生物学的材料の量を最大化する。この生物学的材料は、通常は治療目的のために使用されることがないからである。
【0030】
無論、図5に示されるように、切り取られた水晶体嚢は、ディスク以外の形状を有し得る。例えば、切り取られた各水晶体嚢は、意図された使用に応じて、多角形、五角形、正方形、三角形などの形状を有し得る。
【0031】
さらに、切り取られた各嚢は、水晶体の両凸面形状に従う嚢の天然の湾曲に従うため、および眼中に移植片を位置決めする方法を確実に知るために、嚢71の位置決めの指標(すなわち、嚢の前方面 対 後方面)を施術者に提供するために、位置決めマーカー手段72、例えば、1つ(またはいくつか)のノッチを含み得る;特に、再細胞化された嚢移植片の場合、位置決めマーカーは、施術者が、嚢の凹面上に配置される細胞の正確な位置決めを守ることを可能にする(角膜については、例えば、角膜内皮細胞が眼の内側に面する必要がある;網膜については、色素上皮細胞が眼の内側に面する必要がある、など)。
【0032】
切り取られた各嚢はまた、嚢の取り扱いを促進するために、握り手段73、例えば、1つ(またはいくつか)の握りつまみも含み得る。したがって、これらの握り手段73は、嚢が細胞で覆われている場合に、移植の間に「顎」として機能し、施術者が嚢を損傷させずに取り扱うことを可能にする。
【0033】
有利には、位置決めマーカー手段は、握り手段と一体化され得る。
【0034】
2.1.2.外科的廃棄物
白内障外科手術患者由来の水晶体嚢の場合、水晶体前嚢(通常、5~6ミリメートルの直径のディスク)が、白内障外科手術の間にフェムト秒レーザー源を使用して無菌条件下で施術者によって(または連続円形嚢切開、すなわちCCCと呼ばれる電気的もしくは機械的切り取りデバイスによって)切り取られる。
【0035】
切り取られた各水晶体嚢ディスクは、本発明による方法が実施される場所へとそれらを送るために、保存液体(例えば、水または外科的眼灌流液体など)を含む無菌コンテナ中に包装される。
【0036】
これらの回収された、したがって既に切り取られた嚢について、本発明の方法は、脱細胞化工程の前に、位置決めマーカーおよび/または握り手段を形成する非対称マークを作成するためのさらなる切り取る工程(機械的ドリルまたはレーザーによる)を含み得る。
【0037】
2.2.脱細胞化
脱細胞化工程200は、水晶体嚢の構造および立体構造を維持しつつ、水晶体嚢に付着した残留上皮細胞および結晶体線維を除去する。この脱細胞化は、本発明による方法を実施することによって得られる同種移植片材料または異種移植片材料が移植された患者における免疫反応のリスクを低減または排除する。
【0038】
脱細胞化工程200は、
・再水和後に直接的に使用され得る治療剤(内皮欠陥もしくは黄斑円孔のための)、または
・後続する細胞および/または組織培養のためのマトリックス基礎
を形成する脱細胞化された水晶体嚢を提供する。
【0039】
脱細胞化工程200は、特に、化学的手段(脱細胞化に適した流体の使用)および/または機械的手段(機械的振動、振盪、削りなど)に基づいて、当業者に公知の異なる技法を実施できる。除去される細胞は、嚢の表面上にのみ存在するため、脱細胞化の手段は、単純である(例えば、水中での浸漬および振盪が十分であり得る)。
【0040】
例えば、本発明の一つの実施形態において、脱細胞化工程200は、下記サブ工程:
・受け取った水晶体嚢を脱細胞化液体(例えば、浸透圧ショックによって細胞を破裂させる純水、塩化ナトリウム(NaCl)および/またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および/またはドデシル硫酸ナトリウム界面活性剤および/またはDNase酵素が挙げられる)中に浸漬すること、さらに
・場合により、水晶体嚢に付着した任意の残留上皮細胞および/または水晶体線維も除去するために、浸漬された嚢を機械的振動に付すことおよび/または水晶体嚢の表面を機械的に削ること、
・水晶体嚢を取り出し、それをリンス液体(例えば、食塩水溶液)でリンスすること、
・場合により、脱細胞化された水晶体嚢を得るために、先のサブ工程を繰り返すこと
を含み得る。
【0041】
脱細胞化工程200の実施は、良好な生体適合性および生体力学的強度を有する脱細胞化された水晶体嚢を提供する。
【0042】
2.3.微小多孔性支持体メンブレン上に配置する工程
微小多孔性メンブレン31上に水晶体嚢を配置する工程300は、メンブレン31および嚢71を含む平らなスタックを提供する。かかるスタックは、取り扱いが容易であり、異なる目的(すなわち、眼の外科手術、または細胞および組織生物工学)のための使用の用意ができている。
【0043】
メンブレン31は、図6および7に示されるような細胞培養インサート、または微小多孔性メンブレンを有する他の任意のデバイスのメンブレン、典型的には、細胞培養に適したものであり得る。微小多孔性メンブレン31は保護(材)として機能するが、必要に応じて、引き続き、嚢71の表面上で細胞74が培養されることを可能にもする。
【0044】
メンブレンは、細胞/組織培養を実施するために、当業者に公知の任意の材料で作製され得る。微小多孔性メンブレン31は、無機メンブレン、特に、Al、TIOまたはZrOメンブレンであり得るが、他の無機材料、例えば、熱分解性炭素が使用され得る。あるいは、メンブレン31は、有機メンブレン、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリカーボネート(PC)またはポリエチレンテレフタラート(PET)メンブレンであり得る。
【0045】
メンブレン31は、半透明であり、嚢71がそれを介して容易に見えるようにする。
【0046】
有利には、メンブレン31の多孔性は、メンブレン31を介して、嚢71に直接的に触れる必要なしに、例えば、生体適合性インクによって、1つ(またはいくつか)の位置決めマーカー手段を規定するために嚢71がマークされることを可能にする。これは、嚢71が細胞74で覆われている場合における生物工学の間に有用である。次いで、マーキングが、例えば、クレシルバイオレットを用いる外科的マーカー35を用いてなされ得る。このマーキングは、図8に示されるように、細胞に直接的に触れること/細胞を損傷させることがない、好ましくは、非対称、例えば、非対称な文字F、S、または例えば、3つの周辺ポイント(2つは並んで、1つは離れて)である。あるいは、マーキングは、(例えば、機械的もしくはレーザーマイクロ穿孔によって、またはフェムト秒レーザーエッチングによって、など)材料中に消えないようになされ得る。
【0047】
有利には、メンブレン31の多孔性はまた、いかなる細胞も含有しないその後面上で、トリパンブルーまたは当業者に公知の他の任意の生体色素で嚢71が染色されることも可能にする。この染色は、眼中への導入、および次いで、角膜の後面上または黄斑円孔の前方での据え付けの間に取り扱われる際に、メンブレンを見ることを容易にする。
【0048】
配置工程300の間に、水晶体嚢は、単純な乾燥の後にそれが自発的に接着するメンブレン上に慎重に配置される。
【0049】
メンブレンに付着した水晶体嚢は、スタックを形成し、これは次いで、凍結乾燥され得、無菌化され得、貯蔵され得、異なる用途のために使用され得る。
【0050】
上述のように、メンブレン31は、当業者に公知の細胞培養デバイス、例えば、WO2018/102329に記載される細胞培養デバイスと一体化され得る。
【0051】
図6および7を参照すると、そのような細胞培養デバイスは、
・細胞または組織培養培地を含有するための平行六面体リザーバー10であって、底部11と、上部開口部を規定する4つの側壁12とを含む、リザーバー10、
・リザーバー10の上側リム13上に位置付けられることが意図される取り外し可能なトレイ20であって、各ハウジング30を受け入れるための複数の円形穴21を含む、トレイ20、
・各々がメンブレン31を含む複数のハウジング30であって、各ハウジング30は、取り外し可能なトレイ20がリザーバー10上に位置付けられ、ハウジング30がその関連する円形穴21中に挿入される場合に、各ハウジング30のメンブレン31が、リザーバー10中に含有される培養培地中に浸漬されるように、それぞれの円形穴21を介してフィットし、トレイ20の下に伸びるように構造化されている、ハウジング30
を含み得る。
【0052】
具体的には、ハウジング30は、
・取り外し可能なトレイ20の各穴21の縁上に置かれることが意図される上部フランジ32、
・フランジ32の底部面に取り付けられた基部であって、この基部は、フランジ32から離れていく方向で先細になる少なくとも1つの円錐台状側壁33を含み、側壁33は、培養培地の通過を可能にするための1つ(またはいくつか)のスロット34を含む、基部、および
・側壁33の自由端部に取り付けられ、上部フランジ32を含有する平面に対して実質的に平行な平面で伸びるメンブレン31であって、メンブレン31は、上部面および反対側の底部面を含み、この上部面は、底部面よりも上部フランジに近い、メンブレン31
を含む。
【0053】
メンブレン31は、取り外し可能であり得る。この場合、配置工程300の終わりに、メンブレン31および嚢71のみからなるスタックが得られる。
【0054】
あるいは、メンブレンは、ハウジング30に取り外しできないように取り付けられ得る。この場合、配置工程300の終わりに、メンブレン31および水晶体嚢を一体化するハウジング30が得られる。このハウジングは、培養操作を実施するために引き続き使用され得る。
【0055】
2.4.凍結乾燥
凍結乾燥工程400は、水晶体嚢を脱水する(すなわち、その中に含有されている水を除去)。この凍結乾燥工程は、同種移植片材料または異種移植片材料(本発明の方法の終わりに得られる)の輸送およびこれに続く貯蔵を促進する。なぜなら、これらは、もはや液体媒体中で保存される必要がないからである。
【0056】
凍結乾燥工程400は、凍結乾燥機を使用して(培養された水晶体嚢を凍結させ、次いで、それを融解させることなしに真空下で氷を蒸発させる、など)、または当業者に公知の他の任意の凍結乾燥技法を使用して、実施され得る。
【0057】
有利には、凍結乾燥工程400は、メンブレン31および水晶体嚢から構成される各アセンブリに対して(またはさらには、メンブレン31および培養された水晶体嚢を一体化する各ハウジング30に対して)実施され得る。水晶体嚢に対する取り扱い操作は、水晶体嚢に対する損傷を引き起こす可能性が高いため、乾燥凍結により、水晶体嚢の取り扱い操作の数を制限する。あるいは、嚢はまた、凍結乾燥のみされ得る(しかし、嚢は壊れやすいので、この凍結乾燥は、達成するのに手間がかかる)。
【0058】
水晶体嚢(複数)が凍結乾燥されると、それ(ら)は、無菌化工程に付される。
【0059】
2.5.無菌化
無菌化工程500は、凍結乾燥された水晶体嚢(複数)に付着し得る微生物の数を低減させる。無菌化工程500は、凍結乾燥された水晶体嚢(複数)の保存可能期間をさらに増大させる。
【0060】
無菌化工程500は、ある特定の期間にわたって、当業者に公知の任意の無菌化技法、例えば、照射殺菌(例えば、凍結乾燥された各水晶体嚢を、電子ビーム照射、ガンマ線照射または紫外線照射に付すこと)によって実施され得る。
【0061】
有利には、無菌化工程500は、メンブレン31および凍結乾燥された水晶体嚢を一体化する各ハウジング30に対して実施され得る。
【0062】
あるいは、無菌化工程500は、メンブレン31および凍結乾燥された水晶体嚢からなるアセンブリに対して実施され得る。この場合、凍結乾燥させる工程400が、メンブレン31および水晶体嚢を取り込むハウジング30に対して実施された場合、メンブレン31および凍結乾燥された水晶体嚢からなるアセンブリは、無菌化工程500の実施前に、ハウジング30から取り外され得る。
【0063】
あるいは、無菌化工程500は、凍結乾燥後にメンブレン31から容易に剥離され得る凍結乾燥された水晶体嚢に対してのみ実施され得る。
【0064】
2.6.包装
無菌化工程500の終わりに、無菌化された水晶体嚢単独、またはメンブレン31および無菌化された水晶体嚢から構成されるスタック、またはメンブレン31および無菌化された水晶体嚢を一体化するハウジング30のいずれかは、得られた同種移植片材料または異種移植片材料の貯蔵および輸送を可能にする包装材中に包装される。
【0065】
3.移植材料の使用
移植を実施するために、施術者は、同種移植片材料または異種移植片材料を含有する包装材を受け取る。
【0066】
材料がその包装材から取り出されると、材料は再水和される必要がある。
【0067】
これを実施するために、施術者は、下記のいずれかで、凍結乾燥され無菌化された水晶体嚢を再水和することができる:
・ハウジング中で直接的に(ハウジングが水晶体嚢と共に包装されている場合)、または
・メンブレン上で(メンブレンおよび嚢のみが包装されている場合)、または
・水晶体嚢のみを再水和することができる(水晶体嚢が単独で包装された場合、あるいは再水和操作前にメンブレンから剥離された場合)。
【0068】
水晶体嚢の再水和610は、水、食塩水、眼科的外科的眼内灌流流体、または当業者に公知の他の任意の流体を使用して達成され得る。
【0069】
同種移植片材料または異種移植片材料が再水和されると、移植処置が、従来の方式で実施され得る。
【0070】
3.1.脱細胞化された嚢を移植する
ある特定の用途において、未包装の水晶体嚢は、再水和610後に直接的に移植され得る620。
【0071】
例えば、脱細胞化され再水和された嚢は、フックスジストロフィーに罹患した角膜であって、外科医が当該角膜からデスメ膜を予め取り出した角膜の後ろに移植され得る。そのようにして移植された嚢は、内皮細胞のin vivoでの再成長を導くことを可能にする。
【0072】
あるいは、脱細胞化され再水和された嚢は、黄斑円孔を塞ぐために移植され得る。この場合、移植された嚢は、治療の促進を助ける(嚢は、外科医が黄斑円孔の治療を促進するために黄斑円孔中に置くことができる内境界膜のフラップと同じ治療的役割を果たす)。
【0073】
無論、脱細胞化され再水和された水晶体嚢移植片は、当業者に公知の他の任意の用途のために使用され得る。
【0074】
3.2.細胞に覆われた嚢を移植する
他の用途において、再水和された水晶体嚢は、培養工程630:培養された水晶体嚢を得るための、脱細胞化/凍結乾燥/無菌化/再水和された各水晶体嚢の表面上でのin vitro細胞培養、の実施後に移植640されてよく;細胞の非限定的な例として:
〇 角膜内皮再構築(組織工学角膜内皮移植術、すなわちTEEKと呼ばれる)のための角膜内皮細胞、
〇 眼の表面再構築のための角膜上皮細胞、
〇 網膜の層に特異的に影響を与えるある特定の網膜色素変性症などの疾患のための、または加齢性黄斑変性症(AMD)などの一般的な疾患のための、網膜の色素上皮の細胞
〇 網膜色素変性症のための光受容細胞(錐体および/または桿体)、
〇 視神経症のための神経節細胞
が挙げられる。
【0075】
再水和された水晶体嚢(それら自身の細胞から脱細胞化されたもの)の標的細胞(角膜、網膜など)による培養の工程630は、患者に移植され得る培養された水晶体嚢を提供する(生物工学)。
【0076】
図9に示されるように、培養工程630は、水晶体嚢を、脱細胞化された水晶体嚢上で培養される標的細胞/組織の接着を促進する物質、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカンから構成される物質、または当業者に公知の他の任意の物質でコーティングするサブ工程631を含み得る。
【0077】
このコーティングするサブ工程631に続いて、細胞または組織培養の前に、乾燥させるサブ工程632を(必要に応じて)行ってもよい。
【0078】
最後に、培養工程630は、脱細胞化された水晶体嚢上で細胞/組織を成長させるサブ工程633を含む:
・培養デバイスのリザーバー10を、培養液で満たす、
・取り外し可能なトレイ20を、リザーバー10上に据え付ける、そして
・各ハウジング30を、各円形穴21の内側に据え付ける。
【0079】
培養が実施されると、得られた材料は、移植を実施するために使用され得る。
【0080】
4.試験
本発明者らは、脱細胞化された水晶体嚢上での細胞培養の可能性を実証するために以下の試験を行った。
【0081】
4.1.目的
目的は、角膜内皮細胞(以下、「CEC」という)を水晶体嚢上にシードし、内皮移植片の生物工学のための生物学的支持体としてのその使用の利点を評価することである。
【0082】
4.2.材料
直径が6ミリメートルの水晶体嚢(白内障外科手術患者の嚢をフェムト秒レーザーで切り取った外科的廃棄物)を使用した。これらの水晶体嚢を、脱細胞化し、無菌化し、使用前に純水中で4℃で保存した。
【0083】
5継代目の初代培養物中のCECを使用した。
【0084】
4.3.内皮化
直径6mmの水晶体嚢を、24ウェルプレート上のNunc培養インサートメンブレン上に配置した。ポリカーボネートメンブレンをマイクロ穿孔し、その孔サイズを0.4mmとした。メンブレンへの嚢の接着は単純な乾燥によって行った。インサートメンブレン上の嚢を凍結乾燥し、次いで、密閉ボックス中で室温で貯蔵した。
【0085】
細胞化のための使用の当日に、培養インサートを、リン酸緩衝食塩水を含有するウェル中に浸漬させることによって、嚢を再水和した。
【0086】
コーティング媒体を添加した(ラミニンLMN511)。細胞を、5000細胞/mmでシードした。
【0087】
CEC溶液中での水晶体嚢のin vitro培養の開始の7日後に、CECメンブレンを、アリザリンレッドによる染色後、透過型光学顕微鏡によって、また細胞質の特異的可視化を可能にするDioc6(3,3’-ジヘキシルオキサカルボシアニンヨージド、細胞内オルガネラの膜についての蛍光色素)による染色、および核に特異的なDapi(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)による染色後、共焦点顕微鏡によって、可視化した。
【0088】
4.4.結果
アリザリンレッド染色により、CECによる水晶体嚢表面の総被覆度は、残留内皮細胞密度(ECD)で約3000細胞/mmであることが示された。
【0089】
共焦点顕微鏡により、水体嚢の表面を均一に覆う細胞単層の形成が確認された。
【0090】
水晶体嚢は、優れた透明性および強度を維持しつつ、その表面上にCEC細胞単層が形成されることを可能にした。
【0091】
実験的内皮移植片を、上記のように処理したヒト水晶体嚢をヒトCECで内皮化したTEEKを使用して、ウサギにおいて実施した。
【0092】
移植の当日に、薄いプラスチックリングと内皮化された水晶体嚢が接着したポリカーボネートメンブレンとを有する細胞培養インサートの取り外し可能な部分を、手で無菌的に掴んだ。したがって、TEEKは、何らの外傷もなく取り扱われ得る。ポリカーボネートメンブレンの面を、外科的マイクロスポンジを用いて乾燥させた。レシピエントの眼に移植する間、方向(内皮化された面 対 無細胞の面)を特定するために、3つの非対称マーキングを、TEEKの端(透明度によって裸眼に明確に視認される)に、ポリカーボネートメンブレンを通ったその裏面を介して行った。
【0093】
次いで、TEEKを、培養インサート中で直接的に、0.4%トリパンブルー(通常の内皮移植片と同じプロトコールに従う)で染色した。この色素は、メンブレンの両方の側に適用し、両方の面から移植片に完全に染み込ませた。
【0094】
ポリカーボネートメンブレンを、TEEKよりも大きい直径の外科用メスブレードまたはドリルビットを用いて、プラスチックリングから剥離した。したがって、メンブレンだけが外科医の鉗子によって掴まれるため、TEEKは、何らの接触もなく取り扱われ得る。
【0095】
メンブレン+TEEKアセンブリを、平衡塩類溶液(BSS)タイプの通常の外科的灌注流体中に浸漬した。TEEKを、TEEKの縁を持ち上げるようにスパチュラを使用して、メンブレンから剥離した。TEEKの青色染色は、手術用顕微鏡下で実施されるこの段階の間に、TEEKを良好に可視化することを助ける(TEEKは、外科医がそれを必要と判断した場合には、トリパンブルーで再着色され得る)。
【0096】
TEEKは、天然のデスメ膜角膜内皮移植術(DMEK)ドナー移植片と同様に、外側にCECを有するロールを形成するように丸まった。
【0097】
TEEKを、ガラスインジェクターまたはプラスチック注入カートリッジ中に挿入され、標準的な外科的手順に従ってレシピエント眼中に注入される、DMEK移植片として取り扱った。
【0098】
これを、通常の外科的手技によって、眼において実施した。正確な位置決め(眼の内側に対する内皮化された面、および角膜に対する無細胞の面)を、TEEKの周辺に存在する非対称着色マークおよび/または3つのノッチおよび/または3つの顎によって検証した。
【0099】
TEEKを、ヒト内皮移植と同様に、気泡(空気、または80%空気および20%SF6(六フッ化硫黄)ガスの混合物)によって適所に保持した。
【0100】
次いで、TEEKの良好な機能性は、CECの破壊によって以前病的になったウサギの角膜を4週間にわたって良好かつ透明なまま維持する能力によって確認された。
【0101】
嚢を移植したがCECによる細胞化を行わなかった対照ウサギを、対照とし、それらの角膜は、改善せず、浮腫性のままであった。
【0102】
5.結論
上記調製方法は、水晶体嚢から同種移植片材料または異種移植片材料を提供する。
【0103】
脱細胞化された水晶体嚢は、非免疫原性組織であり、定義によれば、生体適合性である。また、透明であり、細胞培養のための優れた支持体を構成する。
【0104】
ヒト起源であることは、保健機関によるより容易な承認を保証する。ドナーの血清学的診断(かかる診断は、既に角膜提供の義務である;これは、白内障外科医にとって得ることが容易である)によって提供を保証することが可能である。
【0105】
本発明による方法を実施することによって得られる移植片の主な使用は、眼の病変の治療に関する。これらの移植片は、
・内皮移植片;本発明による方法を使用して得られた移植片は、デスメ膜角膜内皮移植術(DMEK)または組織工学角膜内皮移植術(TEEK)タイプの、ドナー角膜から調製された移植片を忠実に再現する:これらは、外科的習慣を変化させず、それらの数は制限されない、
・透明で、取り扱いが容易な支持体上に幹細胞または分化した細胞を移動させるための他の移植片(上皮、結膜、網膜)、
・ガイド性移植片(治癒をガイドすることによる、内皮機能障害を治療するための「デスメドレッシング」)、または治癒性移植片(黄斑円孔の治癒)
であり得る。
【0106】
読者は、各ハウジングのメンブレン上への受け取られた水晶体嚢の配置が、移植のための、水晶体嚢の脱細胞化から再水和までの処理連鎖全体を個々に促進することを理解するであろう。実際、水晶体嚢が配置される支持体メンブレンを一体化するハウジングの使用は、(様々な施術者による水晶体嚢の直接的接触が制限されることによって)水晶体嚢の劣化のリスクを制限する。
【0107】
読者は、多くの改変が、本明細書に記載される新規な教示および利点から実質的に逸脱することなく、上に説明された発明に対してなされてよいことを理解するであろう。
【0108】
例えば、本発明の方法は、機械的切り取り(ドリルビットもしくはレーザー)によって、または非対称の表示を生体適合性インクでマークすることによって、位置決めを示すように嚢にマークする工程を含みことができ、それにより、水晶体嚢の2つの面を識別することが可能になる(特に、面の一方が細胞を担持する場合、他方は、罹患レシピエント角膜と接触させられる面である)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】