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特表2022-549560タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法
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  • 特表-タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法 図1
  • 特表-タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法 図2
  • 特表-タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(54)【発明の名称】タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20221118BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
C12M1/00 C
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507617
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020034523
(87)【国際公開番号】W WO2021054262
(87)【国際公開日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2019172049
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】徐 哲
(72)【発明者】
【氏名】安齊 崇王
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
【Fターム(参考)】
2G045BB11
2G045DA36
2G045GC15
4B029AA07
4B029BB15
(57)【要約】
本発明は、複雑な構造を有する基材に対してもタンパク質吸着剤の被覆状態を可視化できる方法を提供する。高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材1を用意し、前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意し、前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材3を用意し、前記基材3にタンパク質を含む試料を導入して、基材4を得、前記基材4に光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材5を用意し、前記基材5にタンパク質を含む試料を導入して、基材6を得、前記基材6に、タンパク質検出試薬を導入して、基材7を得、前記基材7に光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出し;前記発色状態1、2または3と前記発色状態4とを比較して、前記タンパク質吸着剤の被覆状態または前記タンパク質の吸着状態を評価する、ことを有する、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材1を用意し、前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出し;
高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意し、前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出し;
高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材3を用意し、前記基材3にタンパク質を含む試料を導入して、基材4を得、前記基材4に光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出し;
高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材5を用意し、前記基材5にタンパク質を含む試料を導入して、基材6を得、前記基材6に、タンパク質検出試薬を導入して、基材7を得、前記基材7に光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出し;
前記発色状態1、2または3と前記発色状態4とを比較して、前記タンパク質吸着剤の被覆状態または前記タンパク質の吸着状態を評価する、ことを有する、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法。
【請求項2】
前記発色状態4が、前記発色状態1、2または3に比して、前記蛍光色素の光の吸収を抑制することによって生じる場合に、タンパク質が高分子基材上に吸着している、またはタンパク質吸着剤が高分子基材上に被覆されていると評価する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質検出試薬が、キノリン構造を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質検出試薬が、ビシンコニン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質吸着剤は、下記式(1):
【化1】

式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、下記式(1-1)または下記式(1-2):
【化2】

式(1-1)および式(1-2)中、Rは、炭素原子数1~3のアルキレン基である;
で表される基である;
のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記蛍光色素が、キサンテン系色素である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
近年、再生医療や創薬の開発に際し、細胞培養技術が用いられている。特に幹細胞の使用に注目が集まっており、ドナー細胞から増殖した幹細胞を用いることにより、損傷や欠陥のある組織を修復・置換する技術が盛んに研究されている。ヒトを含め動物の細胞のほとんどは、浮遊状態では生存できず、何かに接着した状態で生存する接着(足場依存)性細胞である。このため、接着(足場依存)性細胞を高密度に培養して、生体組織と類似した培養組織を得ることが行われている。上記を目的として、細胞培養基材を、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニンなどのタンパク質吸着剤(細胞接着因子)で被覆する。
【0003】
一方、細胞培養基材(細胞培養容器)の構造は、従来の平面な皿(プレート)構造以外に、中空糸(ホローファイバー)構造など、多様化が進んでいる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-519800号公報
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
このように構造が多様化・複雑化した培養容器に対しては、所望のタンパク質吸着剤が細胞培養基材に均一にコーティングされたかを非破壊試験で確認することは困難もしくは不可能である。
【0006】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、複雑な構造を有する基材に対してもタンパク質吸着剤の被覆状態を可視化できる方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、蛍光色素、タンパク質吸着剤およびタンパク質検出試薬を適切に組み合わせることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、上記目的は、高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材1を用意し、前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意し、前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材3を用意し、前記基材3にタンパク質を含む試料を導入して、基材4を得、前記基材4に光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出し;高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材5を用意し、前記基材5にタンパク質を含む試料を導入して、基材6を得、前記基材6に、タンパク質検出試薬を導入して、基材7を得、前記基材7に光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出し;前記発色状態1、2または3と前記発色状態4とを比較して、前記タンパク質吸着剤の被覆状態または前記タンパク質の吸着状態を評価する、ことを有する、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の方法を説明するための図である。図1において、10は高分子基材を;20はタンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層を;30はタンパク質検出試薬を含む被覆層を;31はタンパク質検出試薬を;40はタンパク質を;50は蛍光色素が励起状態となる特定波長の光を、それぞれ、示す。
図2図2は、実施例1における各基材の発色状態を示す写真である。図2Aは、基材Aの発色状態1を示す。図2Bは、基材Bの発色状態2を示す。図2Cは、基材Cの発色状態3を示す。図2Dは、基材Dの発色状態4を示す。
図3図3は、実施例2における各バイオリアクターの発色状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0012】
本発明は、
(1)高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材1を用意し、前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出し(工程(1));
(2)高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意し、前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出し(工程(2));
(3)高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材3を用意し、前記基材3にタンパク質を含む試料を導入して、基材4を得、前記基材4に光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出し(工程(3));
(4)高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材5を用意し、前記基材5にタンパク質を含む試料を導入して、基材6を得、前記基材6に、タンパク質検出試薬を導入して、基材7を得、前記基材7に光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出し(工程(4));
(5)前記発色状態1、2または3と前記発色状態4とを比較して、前記タンパク質吸着剤の被覆状態または前記タンパク質の吸着状態を評価する(工程(5))、ことを有する、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価方法に関する。上記構成によると、簡便にタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を目視にて観察できる。また、複雑な構造を有する基材に対してもタンパク質の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を非破壊試験にて評価できる。ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は下記推測に限定されるものではない。
【0013】
図1を参照しながら、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムを説明する。図1Aでは、高分子基材10上にタンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層20が形成されてなる基材A(本発明に係る基材1)を用意する。この基材A(基材1)に上記蛍光色素が励起状態となる特定波長の光50(以下、単に「光50」と称する)を照射すると、被覆層中の蛍光色素が光50によって励起され、励起状態から基底状態に戻る際に強く発光する(本発明に係る発色状態1)。図1Bでは、高分子基材10上にタンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層20ならびにタンパク質検出試薬31を含む被覆層30が順次形成されてなる基材B(本発明に係る基材2)を用意する。この基材B(基材2)に光50を照射すると、タンパク質検出試薬31が光50の一部を吸収する。その結果、被覆層中の蛍光色素に到達する光50の強度が低下し、光50によって励起された蛍光色素の発光強度が低下する(本発明に係る発色状態2)。このため、発色状態2は上記発色状態1より弱い(蛍光強度:発色状態2<発色状態1)。図1Cでは、高分子基材10上にタンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層20が形成されてなる基材C(本発明に係る基材3)を用意する。この基材Cにタンパク質40を含む試料を添加(導入)する(本発明に係る基材4)。その後、基材4に光50を照射すると、タンパク質40が光50の一部を吸収する。ここで、光の吸収の程度は、タンパク質検出試薬31の方がタンパク質40より大きい。その結果、図1Cの被覆層中の蛍光色素に到達する光50の強度は、図1A(発色状態1)の場合に比べて低くなるが、図1B(発色状態2)の場合に比べて高くなる。すなわち、光50によって励起された蛍光色素から発する蛍光強度(本発明に係る発色状態3)は、図1Aの場合(発色状態1)に比べて低くなるが、図1Bの場合(発色状態2)に比べて高くなる(蛍光強度:発色状態2<発色状態3<発色状態1)。図1Dでは、高分子基材10上にタンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層20が形成されてなる基材D(本発明に係る基材5)を用意する。この基材Dにタンパク質40を含む試料を添加(導入)する(本発明に係る基材6)。すると、タンパク質は、被覆層20中のタンパク質吸着剤に吸着する。次に、タンパク質検出試薬31を基材6に導入する(本発明に係る基材7)。すると、タンパク質検出試薬31とタンパク質40とが結合する(タンパク質吸着剤-タンパク質-タンパク質検出試薬-結合体)。次に、この基材に光50を照射すると、この結合体が光を強く吸収する。その結果、被覆層中の蛍光色素には光50がほとんど到達しなくなる。すなわち、光50によって励起された蛍光色素の発光強度が大幅に低下する(本発明に係る発色状態4)。このため、発色状態4は上記発色状態2(および発色状態3、1)より弱い(蛍光強度:発色状態4<発色状態2<発色状態3<発色状態1)。ゆえに、発色状態4を発光強度1、2または3と比較することにより、タンパク質の吸着状態を評価できる。また、タンパク質の吸着が観察される場所は、タンパク質吸着剤が存在する場所に相当する。ゆえに、発色状態4を発光強度1、2または3と比較することにより、タンパク質吸着剤の被覆状態もまた評価できる。さらに、上記発色状態1または3と4との比較は、タンパク質及びタンパク質検出試薬を基材に添加した後、光を照射することによって行われるが、これらの操作は基材の形状に依存せずに実施可能である。さらに、上記比較は非破壊試験にて行うことができる。したがって、上記方法によれば、複雑な構造を有する基材に対しても、タンパク質吸着剤の被覆状態やタンパク質の吸着状態を可視化できる。
【0014】
工程(1)
本工程では、高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材1を用意し、前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出する。なお、以下では、本工程(1)における「タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層」を単に「被覆層1」とも称する。
【0015】
ここで、高分子基材としては、特に制限されず、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする基材が使用できる。具体的には、高分子基材を構成する材料は、以下に制限されないが、ポリアミド(PA)、ポリアラミド(PAA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリールスルホン(PASU)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテル、ポリウレタン(PUR)、ポリエーテルイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等の疎水性ポリマー;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリコールモノエステル(polyglycolmonoester)、水溶性セルロース誘導体、ポリソルベート、ポリエチレン-ポリプロピレンオキサイド共重合体等の親水性ポリマーなどが挙げられる。疎水性ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。親水性ポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明の一実施形態において、高分子基材は、ポリアミド(PA)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)およびポリビニルピロリドン(PVP)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。かような高分子基材は、バイオリアクターの中空糸膜として好適に使用される。
【0017】
本発明に係る高分子基材は、上記疎水性ポリマーおよび上記親水性ポリマーの混合物から形成されてもよく、例えば、ポリアミド(PA)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)およびポリビニルピロリドン(PVP)の混合物(PAES/PVP/PA)から形成されてもよい。かような高分子基材は、バイオリアクターの中空糸膜として特に好適に使用される。高分子基材が疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの混合物から形成される場合において、例えば、疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの合計量に対して、疎水性ポリマーの含有量が65~95重量%であり、親水性ポリマーの含有量が5~35重量%であってもよい。
【0018】
高分子基材は、以下に制限されないが、平面構造、多孔体を挿入した構造、中空糸構造、多孔質膜構造、スポンジ構造、綿状(ガラスウール)構造など様々な構造(形状)を有しえる。例えば、中空糸型バイオリアクター用途では、高分子基材は中空糸を有し、複数の中空糸から構成される多孔質膜(中空糸膜)であることが好ましい。
【0019】
上記好ましい形態において、中空糸の内径(直径)は、特に制限されないが、好ましくは50~1,000μm、より好ましくは100~500μm、特に好ましくは150~350μm程度である。また、中空糸の外径(直径)は、特に制限されないが、好ましくは100~1,200μm、より好ましくは150~700μm、特に好ましくは200~500μm程度である。中空糸の長さは、特に制限されないが、好ましくは50~900mm、より好ましくは100~700mm、特に好ましくは150~500mm程度である。中空糸膜を構成する中空糸の数は、特に制限されないが、例えば、約1,000~100,000本、より好ましくは3,000~50,000本、特に好ましくは5,000~25,000本程度である。一実施形態においては、高分子基材は、平均長約295mm、平均内径215μm、平均外径315μmの中空糸約9000本から構成される。
【0020】
中空糸の外側層は一定の表面粗さを有する開孔構造を有していてもよい。細孔の開口(直径)は、特に制限されないが、約0.5~約3μmの範囲である。中空糸の外側表面の細孔数は1平方ミリメートル(1mm)当たり約10,000から約150,000の範囲であってもよい。ここで、中空糸の外側層の厚みは、特に制限されないが、例えば、約1~約10μmの範囲である。中空糸は、外側に次の層(第2層)を有していてもよい。この際、次の層(第2層)は、約1~約15μmの厚さのスポンジ構造を有することが好ましい。このような構造を有する第2層は、前記外側層の支持体として機能できる。また、本形態において、中空糸は、上記第2層の外側にさらに次の層(第3層)を有していてもよい。この際、さらなる次の層(第3層)は、指状構造を有することが好ましい。このような構造を有する第3層であれば、機械的安定性が得られる。また、分子の膜移動抵抗が低くなるような高い空隙容量を提供できる。本形態において、使用中は、指状空隙は流体で満たされ、該流体によって、拡散および対流における抵抗は、空隙容量が小さいスポンジ充填(sponge-filled)構造を有するマトリックスの場合よりも、低くなる。この第3層は、好ましくは約20~約60μmの厚さを有する。
【0021】
中空糸および多孔質膜の製造方法は、特に制限されず、公知の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、中空糸は、延伸法または固液相分離法により壁に微細孔が形成されてなることが好ましい。
【0022】
バイオリアクターに使用される中空糸膜は、通常、中空糸膜内外での培地交換を行うために、親水化処理が施されている。本発明の一実施形態において、高分子基材は、親水性高分子基材である。
【0023】
親水性高分子基材の製造方法は、特に制限されず、例えば、上記親水性ポリマーや、上記疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーの混合物を用いて、従来公知の方法で高分子基材を製造する方法、上記疎水性ポリマーや、上記疎水性ポリマーおよび上記親水性ポリマーの混合物を用いて、従来公知の方法で高分子基材を製造した後、プラズマ処理、コロナ処理、プライマー処理等の公知の手段を用いて高分子基材表面を親水化させる方法等が挙げられる。
【0024】
高分子基材を構成する材料としては、市販品を使用してもよく、例えば、バクスター株式会社製ポリフラックス(登録商標)、ディーアイシーコベストロポリマー株式会社製デスモパン(登録商標)等が挙げられる。または、例えば、特表2010-523118号公報(特許第5524824号)(WO 2008/124229 A2に相当)、特表2013-524854号公報(特許第6039547号)(WO 2011/140231 A1に相当)、特表2013-507143号公報(特許第5819835号)(WO 2011/045644 A1に相当)、特開2013-176377号公報(WO 2008/109674 A2に相当)、特表2015-526093号公報(WO 2014/031666 A1に相当)、特表2016-537001号公報(WO 2015/073913 A1に相当)、特表2016-536998号公報(WO 2015/073918 A1に相当)、特表2017-509344号公報(WO 2015/148704 A1に相当)及び特表2018-519800号公報(WO 2016/183350 A1に相当)などに記載される細胞培養/増殖システム;さらにはテルモBCT株式会社製のQuantum細胞増殖システムに使用される基材を本発明に係る高分子基材として使用してもよい。
【0025】
上記高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層(被覆層1)ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層(被覆層2)を形成して、基材2を準備する。
【0026】
ここで、被覆層1は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする面に少なくとも形成されていればよいが、好ましくは一方の面のみに形成される。また、高分子基材全面に被覆層が形成される必要はなく、被覆層1はタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする部分に少なくとも形成される。好ましくは、被覆層1は高分子基材全面に形成される。なお、バイオリアクター用途では、高分子基材に細胞接着因子を含む被覆層が形成されている場合がある。この際、細胞接着因子はタンパク質吸着剤として作用する。このような場合には、細胞接着因子(タンパク質吸着剤)を含む被覆層にさらに蛍光色素をコーティングすることによって、被覆層1とすればよい(詳しくは下記参照)。すなわち、被覆層1は、タンパク質吸着剤を含む層および蛍光色素を含む層が積層されてなる形態、またはタンパク質吸着剤を含む層に蛍光色素を別途添加してなる形態であってもよい。
【0027】
被覆層1に使用されるタンパク質吸着剤は、タンパク質吸着能を有するものであれば特に制限されない。例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン等の細胞接着因子などが使用できる。また、タンパク質吸着能が高いという観点から、タンパク質吸着剤は、下記式(1)で示される構成単位を有することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、タンパク質吸着剤は、下記式(1):
【0028】
【化1】
【0029】
前記式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、下記式(1-1)または下記式(1-2)で表される基である:
【0030】
【化2】
【0031】
前記式(1-1)および式(1-2)中、Rは、炭素原子数1~3のアルキレン基である、
のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する。
【0032】
本明細書では、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位を単に「フルフリル(メタ)アクリレート構成単位」または「構成単位(1)」とも称する。
【0033】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含する。同様にして、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。
【0034】
上記好ましい形態では、タンパク質吸着剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(構成単位(1))を有する。上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(構成単位(1))は、基材にタンパク質吸着性を付与する。構成単位(1)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(1)は、1種単独の上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成されても、あるいは上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、複数の構成単位(1)は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。
【0035】
上記式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基である。
【0036】
また、Rは、上記式(1-1)または上記式(1-2)で表される基である。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上効果などの観点から、Rは、上記式(1-1)で表される基であることが好ましい。
【0037】
上記式(1-1)および式(1-2)中、Rは、炭素原子数1~3のアルキレン基である。ここで、炭素原子数1~3のアルキレン基としては、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、及びプロピレン基(-CH(CH)CH-または-CHCH(CH)-)がある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上などの観点から、Rは、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)が好ましく、メチレン基(-CH-)がより好ましい。
【0038】
すなわち、フルフリル(メタ)アクリレートとしては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、アクリル酸2-フリルメチル、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フラン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、メタクリル酸2-フリルメチル、5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フラン等がある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上などの観点から、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートであることが好ましく、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)であることがより好ましい。
【0039】
ここで、タンパク質吸着剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみを有していても、または上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて、他のモノマーに由来する構成単位をさらに有していてもよい。ここで、他のモノマーは、所望の特性(タンパク質吸着性)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、他のモノマーとしては、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、メタアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、エチレン、プロピレン、N-ビニルアセトアミド、N-イソプロペニルアセトアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等がある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上効果の観点から、他のモノマーは、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体およびアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、タンパク質吸着剤が水酸基を有するエチレン性不飽和単量体およびアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等の他のモノマーに由来する構成単位をさらに有する場合の他のモノマーに由来する構成単位の組成は、所望の特性(タンパク質吸着性)を阻害しないものであれば特に制限されないが、全構成単位に対して、0モル%を超えて10モル%未満であることが好ましく、3~8モル%程度であることがより好ましい。すなわち、好ましい形態では、本発明に係るタンパク質吸着剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成される(好ましい形態A)、または、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位および水酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位を有する(好ましい形態B)、または、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位および下記式(3)で表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する(好ましい形態C)。以下、上記好ましい形態A、B及びCについて説明する。
【0040】
【化3】
【0041】
上記式(3)中、Rは、水素原子またはメチル基であり;Rは、炭素原子数2~3のアルキレン基であり;Rは、炭素原子数1~3のアルキル基である。
【0042】
(好ましい形態A)
好ましい形態Aでは、タンパク質吸着剤としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、アクリル酸2-フリルメチル、5-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]フラン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]テトラヒドロフラン、メタクリル酸2-フリルメチル、もしくは5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フランのホモポリマー、または上記2以上からなるコポリマーがある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上効果の観点から、タンパク質吸着剤は、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)またはポリテトラヒドロフルフリルメタクリレートが好ましく、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)がより好ましい。
【0043】
本好ましい形態Aにおいて、タンパク質吸着剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは50,000~800,000である。上記範囲内であれば、タンパク質吸着剤の溶媒に対する溶解性が向上し、基材への塗布を均一に行いやすくなる。タンパク質吸着剤の重量平均分子量は、塗膜形成性を向上させるという観点から、より好ましくは100,000~500,000であり、特に好ましくは150,000~350,000である。
【0044】
本明細書において、「重量平均分子量(Mw)」は、標準物質としてポリスチレンを、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)をそれぞれ使用するゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。具体的には、タンパク質吸着剤をテトラヒドロフラン(THF)に10mg/mlの濃度となるように溶解し、試料を調製する。このようにして調製された試料について、GPCシステムLC-20((株)島津製作所製)にGPCカラムLF-804(昭和電工(株)製)を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準物質としてポリスチレンを用いて、タンパク質吸着剤のGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作製した後、この曲線に基づいてタンパク質吸着剤の重量平均分子量(Mw)を算出する。
【0045】
(好ましい形態B)
好ましい形態Bでは、タンパク質吸着剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(構成単位(1))および水酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(構成単位(2))を有する。ここで、フルフリル(メタ)アクリレート(構成単位(1))は、基材にタンパク質吸着性を付与すると考えられる。また、構成単位(2)中に含まれる水酸基(-OH)が、基材表面へのタンパク質吸着性を促進すると推測される。なお、上記は推測であり、本発明は上記に限定されない。
【0046】
構成単位(1)については、上記したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0047】
構成単位(2)は、水酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位である。ここで、構成単位(2)を形成する水酸基を有するエチレン性不飽和単量体は、1分子内に、1以上の水酸基(-OH)および1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に制限されない。ここで、「エチレン性不飽和基」とは、エチレン(CH=CH)の水素原子が置換されてなる基をいい、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、エチレン性不飽和単量体の1分子内に1種のみ含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0048】
なかでも、エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基(CH=CR-C(=O)-;R=水素原子またはメチル基)であると好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、エチレン性不飽和単量体は、(メタ)アクリロイル基を有する。よって、エチレン性不飽和単量体は、1分子内に、1以上の水酸基および1以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基をそれぞれ有する化合物であると好ましい。エチレン性不飽和単量体に含まれる水酸基および(メタ)アクリロイル基の数の上限は特に制限されないが、タンパク質吸着性の観点から、1分子中の水酸基の数は、3以下であると好ましく、2以下であるとより好ましく、1であると特に好ましい。また、上記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレートとのタンパク質吸着剤の調製の容易性、各構成単位の組成(モル比)の制御性、ならびにタンパク質吸着性の制御性の観点から、1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は3以下であると好ましく、2以下であるとより好ましい。特に、各構成単位の組成(モル比)を制御して、タンパク質吸着性をさらに向上させるという観点から、1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は1であると特に好ましい。
【0049】
本形態の好ましい形態によると、構成単位(2)は、下記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来である。すなわち、エチレン性不飽和単量体は、下記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートであると好ましい。なお、タンパク質吸着剤を構成する構成単位(2)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(2)は、1種単独の下記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成されても、あるいは下記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、複数の構成単位(2)は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。
【0050】
【化4】
【0051】
上記式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基である。Rは、炭素原子数2~3のアルキレン基である。ここで、炭素原子数2~3のアルキレン基としては、エチレン基(-CHCH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、およびプロピレン基(-CH(CH)CH-または-CHCH(CH)-)がある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上などの観点から、Rは、エチレン基(-CHCH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)が好ましく、エチレン基(-CHCH-)がより好ましい。
【0052】
すなわち、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシイソプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシイソプロピルメタクリレート等がある。これらのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上などの観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートであることが好ましく、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)であることがより好ましい。
【0053】
構成単位(1)および構成単位(2)の組成は、特に制限されない。タンパク質吸着性の観点から、タンパク質吸着剤は、好ましくは、20モル%を超えて100モル%未満の上記式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および0モル%を超えて80モル%未満の水酸基を有するエチレン性不飽和単量体由来の構成単位(2)を有する。より好ましくは、タンパク質吸着剤は、35モル%以上98モル%以下の前記構成単位(1)および2モル%以上65モル%以下の前記構成単位(2)を有する。さらに好ましくは、タンパク質吸着剤は、40モル%以上95モル%以下の前記構成単位(1)および5モル%以上60モル%以下の前記構成単位(2)を有する。さらにより好ましくは、タンパク質吸着剤は、50モル%以上93モル%以下の前記構成単位(1)および7モル%以上50モル%以下の前記構成単位(2)を有する。特に好ましくは、タンパク質吸着剤は、55モル%以上90モル%以下の前記構成単位(1)および10モル%以上45モル%以下の前記構成単位(2)を有する。最も好ましくは、タンパク質吸着剤は、60モル%以上90モル%以下の前記構成単位(1)および10モル%以上40モル%以下の前記構成単位(2)を有する。なお、前記構成単位(1)および前記構成単位(2)の合計は100モル%である。構成単位(1)が2種以上の構成単位(1)から構成される場合には、上記構成単位(1)の組成は、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する、構成単位(1)の合計の割合(モル比(モル%))である。同様にして、構成単位(2)が2種以上の構成単位(2)(特に好ましくは前記式(2)で表されるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位)から構成される場合には、上記構成単位(2)の組成は、構成単位(1)および構成単位(2)の合計に対する、構成単位(2)の合計の割合(モル比(モル%))である。
【0054】
本好ましい形態Bにおいて、タンパク質吸着剤は、構成単位(1)および構成単位(2)、ならびに必要であれば上記したような他のモノマー由来の構成単位を有する。ここで、各構成単位の配置は、特に制限されず、ブロック状(ブロックコポリマー型タンパク質吸着剤)でもよいしランダム状(ランダムコポリマー型タンパク質吸着剤)でもよいし交互状(交互コポリマー型タンパク質吸着剤)でもよい。なお、タンパク質吸着性のさらなる向上などを考慮すると、タンパク質吸着剤は、構成単位(1)及び構成単位(2)のみから構成されることが好ましい。
【0055】
本好ましい形態Bにおいて、タンパク質吸着剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは50,000~800,000である。上記範囲内であれば、タンパク質吸着剤の溶媒に対する溶解性が向上し、基材への塗布を均一に行いやすくなる。タンパク質吸着剤の重量平均分子量は、塗膜形成性を向上させるという観点から、より好ましくは100,000~500,000であり、特に好ましくは150,000~350,000である。
【0056】
(好ましい形態C)
好ましい形態Cでは、タンパク質吸着剤は、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(構成単位(1))および下記式(3)で表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)を有する。ここで、フルフリル(メタ)アクリレート(構成単位(1))は、基材にタンパク質吸着性を付与すると考えられる。また、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート(構成単位(3))は、基材にタンパク質吸着性(さらには抗血栓性)を付与すると考えられる。なお、上記は推測であり、本発明は上記に限定されない。
【0057】
構成単位(1)については、上記したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
構成単位(3)は、下記式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来である。なお、タンパク質吸着剤を構成する構成単位(3)は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。すなわち、構成単位(3)は、1種単独の下記式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位のみから構成されても、あるいは下記式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の2種以上の構成単位から構成されてもよい。なお、複数の構成単位(3)は、ブロック状に存在しても、ランダム状に存在してもよい。
【0059】
【化5】
【0060】
上記式(3)中、Rは、水素原子またはメチル基である。Rは、炭素原子数2~3のアルキレン基である。ここで、炭素原子数2~3のアルキレン基としては、エチレン基(-CHCH-)、トリメチレン基(-CHCHCH-)、及びプロピレン基(-CH(CH)CH-または-CHCH(CH)-)がある。これらのうち、タンパク質吸着性(さらには抗血栓性)のさらなる向上、タンパク質吸着性と抗血栓性との良好なバランスなどの観点から、Rは、エチレン基(-CHCH-)、プロピレン基が好ましく、エチレン基(-CHCH-)がより好ましい。また、Rは、炭素原子数1~3のアルキル基である。ここで、炭素原子数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基がある。これらのうち、タンパク質吸着性(さらには抗血栓性)のさらなる向上、タンパク質吸着性と抗血栓性との良好なバランスなどの観点から、Rは、メチル基、エチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0061】
すなわち、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート等がある。これらのうち、タンパク質吸着性のさらなる向上などの観点から、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレートであることが好ましく、メトキシエチル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、メトキシエチルアクリレート(MEA)であることが特に好ましい。
【0062】
構成単位(1)および構成単位(3)の組成は、特に制限されない。タンパク質吸着性の観点から、タンパク質吸着剤は、好ましくは、95~35モル%の式(1)で表されるフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および5~65モル%の式(3)で表されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)を有する。より好ましくは、タンパク質吸着剤は、90~40モル%の式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および10~60モル%の式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)を有する。さらに好ましくは、タンパク質吸着剤は、70~40モル%の式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および30~60モル%の式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)を有する。特に好ましくは、タンパク質吸着剤は、60~40モル%の式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート由来の構成単位(1)および40~60モル%の式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位(3)を有する。このような組成のタンパク質吸着剤は、タンパク質吸着性および抗血栓性をバランスよく発揮できる。このため、タンパク質を含む試料が血液である場合には特に有効である。なお、前記構成単位(1)および前記構成単位(3)の合計は100モル%である。構成単位(1)が2種以上の構成単位(1)から構成される場合には、上記構成単位(1)の組成は、構成単位(1)および構成単位(3)の合計に対する、構成単位(1)の合計の割合(モル比(モル%))である。同様にして、構成単位(3)が2種以上の構成単位(3)から構成される場合には、上記構成単位(3)の組成は、構成単位(1)および構成単位(3)の合計に対する、構成単位(3)の合計の割合(モル比(モル%))である。
【0063】
本好ましい形態Cにおいて、タンパク質吸着剤は、構成単位(1)および構成単位(3)、ならびに必要であれば上記したような他のモノマー由来の構成単位を有する。ここで、各構成単位の配置は、特に制限されず、ブロック状(ブロックコポリマー型タンパク質吸着剤)でもよいしランダム状(ランダムコポリマー型タンパク質吸着剤)でもよいし交互状(交互コポリマー型タンパク質吸着剤)でもよい。なお、タンパク質吸着性のさらなる向上、さらにはタンパク質吸着と抗血栓性との適度なバランスなどを考慮すると、タンパク質吸着剤は、構成単位(1)及び構成単位(3)のみから構成されることが好ましい。
【0064】
本発明に係るタンパク質吸着剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは50,000~1,000,000である。上記範囲内であれば、タンパク質吸着剤の溶媒に対する溶解性が向上し、基材への塗布を均一に行いやすくなる。タンパク質吸着剤の重量平均分子量は、塗膜形成性を向上させるという観点から、より好ましくは100,000~500,000、特に好ましくは250,000~400,000である。
【0065】
本発明に係るタンパク質吸着剤は、特に制限されず、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法等など、従来公知の重合法を適用して作製可能である。具体的には、例えば、本発明に係るタンパク質吸着剤がブロックコポリマーからなる場合には、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11-263819号公報、特開2002-145971号公報、特開2006-316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。
【0066】
または、例えば、本発明に係るタンパク質吸着剤がランダムコポリマーからなる場合には、上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート(上記好ましい形態Aでは)、および(上記好ましい形態Bでは)水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)または(上記好ましい形態Cでは)上記式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ならびに必要であればこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体)の一種または二種以上を重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌して、単量体溶液を調製し、上記単量体溶液を加熱することを有する(共)重合方法が好ましく使用される。なお、以下では、「上記式(1)のフルフリル(メタ)アクリレート、および(上記好ましい形態Bでは)水酸基を有するエチレン性不飽和単量体(好ましくは、上記式(2)のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)または(上記好ましい形態Cでは)上記式(3)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ならびに必要であればこれらと共重合し得る単量体(他のモノマー、共重合性単量体)の一種または二種以上」を「重合用単量体」と称する。上記方法において、単量体溶液の調製で使用できる重合溶媒は、上記使用される単量体を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;及びクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、単量体の溶解しやすさなどを考慮すると、メタノールが好ましい。また、単量体溶液中の単量体濃度は、特に制限されない。単量体溶液中の単量体濃度は、通常1~60重量%であり、より好ましくは5~50重量%であり、特に好ましくは10~45重量%である。なお、上記単量体濃度は、重合用単量体の合計濃度を意味する。
【0067】
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤である。具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、重合用単量体合計量1モルに対して、0.0005~0.005モルが好ましい。このような重合開始剤の配合量であれば、重合用単量体の(共)重合が効率よく進行する。
【0068】
上記重合開始剤は、重合用単量体と、重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液の形態の重合用単量体を重合溶媒と混合してもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様の溶媒が例示できる。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであってもまたは異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。また、この場合の他の溶媒における重合開始剤の濃度は、特に制限されないが、混合のしやすさなどを考慮すると、重合開始剤の添加量が、他の溶媒100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.5~5重量部である。
【0069】
また、重合開始剤を溶液の形態で使用する場合には、重合用単量体を重合溶媒に溶解した溶液を、重合開始剤溶液の添加前に予め脱気処理を行ってもよい。脱気処理は、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスにて、上記溶液を0.5~5時間程度バブリングすればよい。脱気処理の際は、上記溶液を30℃~80℃程度、好ましくは下記の重合工程における重合温度に調温してもよい。
【0070】
次に、上記単量体溶液を加熱することにより、単量体を(共)重合する。ここで、(共)重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
【0071】
(共)重合条件は、所望の重合用単量体が(共)重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、(共)重合温度は、好ましくは30~80℃であり、より好ましくは40℃~55℃である。また、(共)重合時間は、好ましくは1~24時間であり、好ましくは5~12時間である。上記したような条件であれば、各単量体の(共)重合が効率よく進行する。また、(共)重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
【0072】
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
【0073】
(共)重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、(共)重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
【0074】
(共)重合後の(共)重合体は、再沈澱法(析出法)、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。
【0075】
精製後の(共)重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、または加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥または減圧乾燥が好ましい。
【0076】
被覆層1に使用される蛍光色素は、紫外線などの光を照射されると励起されて固有の蛍光を放出するものであれば特に制限されない。視認性などの観点から、蛍光色素はキサンテン系色素であることが好ましい。具体的には、キサンテン系色素としては、以下に制限されないが、クマリン、シアニン、ベンゾフラン、キノリン、キナゾリノン、インドール、ベンズアゾール、ボラポリアザインダセン、フルオレセイン、ローダミン及びロードールなどが挙げられる。また、被覆層1の膜強度、色素の溶出抑制効果、高分子基材との密着性などの観点から、(メタ)アクリル基等の重合性基を有する蛍光色素が好ましく使用される。ここで、蛍光色素は、合成しても、または市販品を使用してもよい。市販品としては、R13(色:蛍光紫、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:559nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)、R60(色:赤、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:499nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)、K01(色:黒、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.3×10g/eq;富士フイルム和光純薬株式会社製)等のキサンテン系色素;Y03(色:黄、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.1×10g/eq、最大吸収波長:419nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)等のシアニン系色素;G01(色:緑、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:643nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)、B01(色:青、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:624nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)等のトリアリールメタン系色素などが挙げられる。
【0077】
高分子基材上に被覆層1を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。例えば、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含むコート液(コート液(1))を調製し、このコート液(1)を高分子基材に塗布する方法が使用できる。または、バイオリアクター等において、予めタンパク質吸着剤(細胞接着因子)を含む層が高分子基材に形成される場合には、蛍光色素を含むコート液(コート液(1’))を調製し、このコート液(1’)を高分子基材のタンパク質吸着剤(細胞接着因子)を含む被覆層に塗布することによって、被覆層1を形成できる。すなわち、高分子基材上にタンパク質吸着剤を含む被覆層が予め形成される場合には、工程(1)は、タンパク質吸着剤を含む被覆層を有する高分子基材の前記被覆層がある側の面に蛍光色素を含む被覆層が形成して、またはタンパク質吸着剤を含む被覆層を有する高分子基材の前記被覆層に蛍光色素を添加して、基材1を用意する。前記基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出する。
【0078】
ここで、コート液(1)、(1’)を調製するのに使用される溶媒は、特に制限されず、タンパク質吸着剤および蛍光色素の種類に応じて適宜選択できる。具体的には、溶媒の例としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ブタン、ヘキサン等のアルカン系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。上記溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、タンパク質吸着剤および蛍光色素は、同じ溶媒に溶解されてコート液(1)を得ても、またはタンパク質吸着剤および蛍光色素を別の溶媒に溶解した後、これらの溶液を混合して、コート液(1)を得てもよい。コート液(1)中のタンパク質吸着剤および蛍光色素の混合比は、特に制限されない。所望のタンパク質の吸着性と蛍光強度(観察しやすさ)とのバランスなどの観点から、タンパク質吸着剤および蛍光色素の混合比(タンパク質吸着剤:蛍光色素の重量比)は、2~200:1であることが好ましく、7.5~150:1であることがより好ましい。コート液(1)中のタンパク質吸着剤の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.05~2重量%であり、より好ましくは0.05~1重量%である。また、コート液(1)、(1’)中の蛍光色素の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.005~0.1重量%であり、より好ましくは0.01~0.05重量%であるである。かような範囲であれば、コート液(1)、(1’)の塗工性が良好である。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な被覆層1を容易に得ることができる。
【0079】
コート液(1)の塗布量は、特に制限されないが、上記被覆層1の厚み(乾燥膜厚)が1~5μmとなるような量であることが好ましい。また、コート液(1’)の塗布量は、特に制限されないが、上記被覆層1が光の照射によって十分蛍光を発することができる程度であればよい。具体的には、コート液(1’)の塗布量は、0.15~0.45g/cm 被覆層1となるような量であることが好ましい。
【0080】
コート液(1)を塗布する前に、紫外線照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、シランカップリング処理、リン酸カップリング処理等により高分子基材表面を予め処理してもよい。例えば、高分子基材表面をプラズマ処理することで基材表面が親水化する。これにより、コート液(1)の高分子基材表面への濡れ性が向上し、均一な被覆層1を形成することができる。
【0081】
高分子基材にコート液(1)、(1’)を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、スプレー法、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)が好ましい。または、バイオリアクター等の場合には、上記コート液(1)、(1’)をバイオリアクター内の高分子基材に導入または循環してもよい。
【0082】
高分子基材にコート液(1)を塗布した後は、塗膜を乾燥することが好ましい。ここで、乾燥条件は、塗膜から溶媒を除去できれば特に制限されず、ドライヤー等を用いて温風処理を行ってもよいし、自然乾燥させてもよい。または、バイオリアクター等の場合には、乾燥空気をバイオリアクター内に導入または循環してもよい。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0083】
上記方法により、被覆層1が高分子基材に形成されて、基材1が得られる。次に、このようにして得られた基材1に光を照射して、前記基材1の発色状態1を検出する。
【0084】
ここで、照射される光は、蛍光試薬の種類に応じて適宜選択される。具体的には、紫外線(UV)、可視光線、赤外線、電子線、ガンマ線等が使用できる。好ましくは紫外線または電子線であり、人体への影響を考慮すると、より好ましくは紫外線である。紫外線を照射する際の、照射波長としては、蛍光色素を励起しうる波長を適宜選択することができる。具体的には、紫外線の波長範囲は、好ましくは200~400nmであり、さらに好ましくは220~320nmである。また、紫外線照射は、10~50℃、より好ましくは20~40℃の温度で行うことが好ましい。紫外線の照射強度は、特に制限されないが、好ましくは1~5,000mW/cm、より好ましくは1~100mW/cm、さらに好ましくは1~10mW/cmである。また、紫外線の積算光量(表面潤滑層を塗布する前の基材1への紫外線の積算光量)は、特に制限されないが、好ましくは1~5,000mJ/cmであり、より好ましくは1~100mJ/cmである。紫外線を照射する装置としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を例示することができる。
【0085】
上記照射により、被覆層1中の蛍光色素が発色し、この発色状態(発色状態1)を検出する(図1A)。
【0086】
工程(2)
本工程では、高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意し、前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出する。なお、以下では、本工程(2)における「タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層」および「タンパク質検出試薬を含む被覆層」を、それぞれ、単に「被覆層1’」および「被覆層2’」とも称する。
【0087】
ここで、高分子基材としては、特に制限されず、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする基材が同様にして使用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の高分子基材が使用できる。本工程(2)で使用される高分子基材は、上記工程(1)で使用されるものと同じであることが好ましい。
【0088】
上記高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層(被覆層1’)ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層(被覆層2’)を形成して、基材2を準備する。
【0089】
ここで、被覆層1’は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする面に少なくとも形成されていればよいが、好ましくは一方の面のみに形成される。また、高分子基材全面に被覆層が形成される必要はなく、被覆層1’はタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする部分に少なくとも形成される。好ましくは、被覆層1’は高分子基材全面に形成される。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’が被覆層1と同様にして形成されることが好ましい。
【0090】
被覆層1’に使用されるタンパク質吸着剤は、タンパク質吸着能を有するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様のタンパク質吸着剤が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’に使用されるタンパク質吸着剤が被覆層1に使用されるタンパク質吸着剤と同じであることが特に好ましい。
【0091】
被覆層1’に使用される蛍光色素は、紫外線などの光を照射されると励起されて固有の蛍光を放出するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の蛍光色素が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’に使用される蛍光色素が被覆層1に使用される蛍光色素と同じであることが好ましい。
【0092】
高分子基材上に被覆層1’を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’が、被覆層1と同じ方法で高分子基材上に形成されることが好ましい。
【0093】
高分子基材上に被覆層1’を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。なお、例えば、バイオリアクター等において、予めタンパク質吸着剤(細胞接着因子)を含む層が高分子基材に形成される場合には、蛍光色素を含むコート液(コート液(1’))を調製し、このコート液(1’)を高分子基材のタンパク質吸着剤(細胞接着因子)を含む被覆層に塗布することによって、被覆層1’を形成できる。すなわち、基材がタンパク質吸着剤を含む被覆層を有する場合には、工程(2)は、タンパク質吸着剤を含む被覆層を有する高分子基材の前記被覆層がある側の面に、蛍光色素を含む被覆層ならびにタンパク質検出試薬を含む被覆層が順次形成されてなる基材2を用意する。前記基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’が、被覆層1と同じ方法で高分子基材上に形成されることが好ましい。
【0094】
すなわち、被覆層1’は、被覆層1と同じであることが好ましい。
【0095】
次に、被覆層1’上に、タンパク質検出試薬を含む被覆層(被覆層2’)が配置される。ここで、被覆層2’は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする面に少なくとも形成されていればよいが、好ましくは被覆層1’の少なくとも一部に形成され、より好ましくは被覆層1’全面上に形成される。
【0096】
被覆層2’に使用されるタンパク質検出試薬は、タンパク質検出能を有するものであれば特に制限されず、検出されるタンパク質の種類によって適宜選択されうる。具体的には、ビシンコニン酸、クーマシーブルー、ニンヒドリンなどが使用できる。これらのうち、タンパク質検出試薬は、キノリン構造を有することが好ましく、ビシンコニン酸(BCA)であることがより好ましい。好ましい形態では、タンパク質をビシンコニン酸法(BCA法)で検出する。BCA法では、タンパク質のペプチド結合が第二銅イオン(Cu2+)を還元して、アルカリ条件下で四座(tetradentate)第一銅イオン(Cu1+)錯体を生成し、この第一銅イオン錯体がBCAと反応して(Cu1+1個につきBCA分子2個)強い紫色を呈する。このため、BCA法では、タンパク質を562nmで測定する。BCA法は、タンパク質検出能が高い、妨害化合物に対する適合性が高い、簡便である、直線作用範囲が広い(定量性に優れる)等の点で好ましく使用される。また、ビシンコニン酸(BCA)の吸収スペクトルとキサンテン系蛍光色素の励起スペクトルとの重複領域が広い点でも好ましい。
【0097】
被覆層1’上に被覆層2’を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。例えば、タンパク質検出試薬を含むコート液(コート液(2))を調製し、コート液(2)を被覆層1’に塗布する方法が使用できる。ここで、コート液(2)を調製するのに使用される溶媒は、タンパク質検出試薬を溶解できるものであれば、特に制限されない。具体的には、上記工程(1)においてコート液(1)の調製で使用されるのと同様の溶媒が使用できる。コート液(2)中のタンパク質検出試薬の濃度は、特に限定されないが、好ましくは2.0~20.0重量%であり、より好ましくは5.0~15.0重量%である。かような範囲であれば、コート液(2)の塗工性が良好である。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な被覆層2’を容易に得ることができる。
【0098】
コート液(2)の塗布量は、特に制限されないが、上記被覆層2’の厚み(乾燥膜厚)が0.1~2μmとなるような量であることが好ましい。または、コート液(2)の塗布量は、0.1~0.3g/cm 被覆層2’となるような量であることが好ましい。
【0099】
被覆層1’にコート液(2)を塗布する方法としては、特に制限されるものではなく、上記工程(1)におけるコート液(1)の塗布方法と同様の方法が適用できる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)が好ましい。または、バイオリアクター等の場合には、上記コート液(2)をバイオリアクター内の高分子基材に導入または循環してもよい。
【0100】
被覆層1’にコート液(2)を塗布した後は、塗膜を乾燥することが好ましい。ここで、乾燥条件は、塗膜から溶媒を除去できれば特に制限されず、ドライヤー等を用いて温風処理を行ってもよいし、自然乾燥させてもよい。または、バイオリアクター等の場合には、乾燥空気をバイオリアクター内に導入または循環してもよい。また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧下または減圧下で行ってもよい。乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0101】
上記方法により、被覆層1’及び2’が順次高分子基材に形成されて、基材2が得られる。次に、このようにして得られた基材2に光を照射して、前記基材2の発色状態2を検出する。ここで、照射される光は、蛍光試薬の種類に応じて適宜選択される。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の光ならびに照射条件および方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、上記工程(1)におけるのと同じ方法・条件で、発色状態2を検出することが特に好ましい。
【0102】
上記照射により、被覆層1’中の蛍光色素が発色し、この発色状態(発色状態2)を検出する(図1B)。
【0103】
工程(3)
本工程では、高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材3を用意し、前記基材3にタンパク質を含む試料を導入して、基材4を得、前記基材4に光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出する。なお、以下では、本工程(3)における「タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層」を単に「被覆層1”」とも称する。
【0104】
ここで、高分子基材としては、特に制限されず、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする基材が同様にして使用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の高分子基材が使用できる。本工程(3)で使用される高分子基材は、上記工程(1)または(2)で使用されるものと同じであることが好ましく、上記工程(1)および(2)で使用されるものと同じであることが好ましい。
【0105】
上記高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層(被覆層1”)を形成して、基材3を準備する。
【0106】
ここで、被覆層1”は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする面に少なくとも形成されていればよいが、好ましくは一方の面のみに形成される。また、高分子基材全面に被覆層が形成される必要はなく、被覆層1”はタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする部分に少なくとも形成される。好ましくは、被覆層1”は高分子基材全面に形成される。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1”が被覆層1または1’と同様にして形成されることが好ましく、被覆層1および1’と同様にして形成されることが好ましい。
【0107】
被覆層1”に使用されるタンパク質吸着剤は、タンパク質吸着能を有するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様のタンパク質吸着剤が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1”に使用されるタンパク質吸着剤が被覆層1または1’に使用されるタンパク質吸着剤と同じであることが好ましく、被覆層1および1’に使用されるタンパク質吸着剤と同じであることがより好ましい。
【0108】
被覆層1”に使用される蛍光色素は、紫外線などの光を照射されると励起されて固有の蛍光を放出するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の蛍光色素が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1”に使用される蛍光色素が被覆層1または1’に使用される蛍光色素と同じであることが好ましく、被覆層1および1’に使用される蛍光色素と同じであることがより好ましい。
【0109】
高分子基材上に被覆層1”を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1”が、被覆層1または1’と同じ方法で高分子基材上に形成されることが好ましく、被覆層1および1’と同じ方法で高分子基材上に形成されることがより好ましい。
【0110】
すなわち、被覆層1”は、被覆層1または被覆層1’と同じであることが好ましく、被覆層1および被覆層1’と同じであることがより好ましい。
【0111】
次に、被覆層1”が高分子基材に形成された基材3に、タンパク質を含む試料を導入する(基材4)。これにより、タンパク質が被覆層1”中のタンパク質吸着剤に吸着する。
【0112】
ここで、タンパク質は、特に制限されず、タンパク質それ自体、血清などのタンパク質の混合物、細胞などが挙げられる。また、試料の導入方法は、試料中のタンパク質が被覆層1”(タンパク質吸着剤)と接触できる限り、特に制限されない。具体的には、基材3を試料中に含浸する、試料を基材3に塗布するなどが挙げられる。または、バイオリアクター等の場合には、試料をバイオリアクター内の基材3(被覆層1”が形成された高分子基材)に導入または循環してもよい。
【0113】
次に、タンパク質を含む試料が導入された基材4に、光を照射して、前記基材4の発色状態3を検出する。ここで、照射される光は、蛍光試薬の種類に応じて適宜選択される。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の光ならびに照射条件および方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、上記工程(1)または(2)におけるのと同じ方法・条件で、発色状態3を検出することが好ましく、上記工程(1)および(2)におけるのと同じ方法・条件で、発色状態3を検出することがより好ましい。
【0114】
上記照射により、被覆層1”中の蛍光色素が発色し、この発色状態(発色状態3)を検出する(図1C)。
【0115】
工程(4)
本工程では、高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層が形成されてなる基材5を用意し、前記基材5にタンパク質を含む試料を導入して、基材6を得、前記基材6に、タンパク質検出試薬を導入して、基材7を得、前記基材7に光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出する。なお、以下では、本工程(4)における「タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層」を単に「被覆層1’”」とも称する。
【0116】
ここで、高分子基材としては、特に制限されず、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする基材が同様にして使用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の高分子基材が使用できる。本工程(4)で使用される高分子基材は、上記工程(1)、(2)または(3)で使用されるものと同じであることが好ましく、上記工程(1)、(2)及び(3)で使用されるものと同じであることがより好ましい。
【0117】
上記高分子基材の少なくとも一方の面に、タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層(被覆層1’”)を形成して、基材5を準備する。
【0118】
ここで、被覆層1’”は、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする面に少なくとも形成されていればよいが、好ましくは一方の面のみに形成される。また、高分子基材全面に被覆層が形成される必要はなく、被覆層1’”はタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態の評価を必要とする部分に少なくとも形成される。好ましくは、被覆層1’”は高分子基材全面に形成される。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’”が被覆層1、被覆層1’または被覆層1”と同様にして形成されることが好ましく、被覆層1、被覆層1’及び被覆層1”と同様にして形成されることがより好ましい。
【0119】
被覆層1’”に使用されるタンパク質吸着剤は、タンパク質吸着能を有するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様のタンパク質吸着剤が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’”に使用されるタンパク質吸着剤が被覆層1、被覆層1’または被覆層1”に使用されるタンパク質吸着剤と同じであることが好ましく、被覆層1、被覆層1’及び被覆層1”に使用されるタンパク質吸着剤が同じであることがより好ましい。
【0120】
被覆層1’”に使用される蛍光色素は、紫外線などの光を照射されると励起されて固有の蛍光を放出するものであれば特に制限されない。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の蛍光色素が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’”に使用される蛍光色素が被覆層1、被覆層1’または被覆層1”に使用される蛍光色素と同じであることが好ましく、被覆層1、被覆層1’及び被覆層1”に使用される蛍光色素が同じであることがより好ましい。
【0121】
高分子基材上に被覆層1’”を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法を同様にしてあるいは適宜改変して適用できる。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、被覆層1’”が、被覆層1、被覆層1’または被覆層1”と同じ方法で高分子基材上に形成されることが好ましく、被覆層1、被覆層1’及び被覆層1”と同じ方法で高分子基材上に形成されることがより好ましい。
【0122】
すなわち、被覆層1’”は、被覆層1、被覆層1’または被覆層1”と同じであることが好ましく、被覆層1、被覆層1’及び被覆層1”と同じであることがより好ましい。
【0123】
次に、被覆層1’”が高分子基材に形成された基材5に、タンパク質を含む試料を導入する(基材6)。これにより、タンパク質が被覆層1’”中のタンパク質吸着剤に吸着する。
【0124】
ここで、試料の導入方法は、試料中のタンパク質が被覆層1’”(タンパク質吸着剤)と接触できる限り、特に制限されない。具体的には、上記工程(3)におけるのと同様の方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、上記工程(3)と同様の方法によって、試料が導入されることが好ましい。
【0125】
次に、タンパク質を含む試料が導入された基材6に、タンパク質検出試薬を導入する(基材7)。ここで使用されるタンパク質検出試薬は、基材6に存在するタンパク質を検出できるものであれば特に制限されず、検出されるタンパク質の種類によって適宜選択されうる。具体的には、上記工程(2)におけるのと同様のタンパク質検出試薬が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、タンパク質検出試薬が被覆層2’に使用されるタンパク質検出試薬と同じであることが特に好ましい。すなわち、タンパク質検出試薬は、キノリン構造を有することが好ましく、ビシンコニン酸(BCA)であることがより好ましい。
【0126】
次に、タンパク質検出試薬が導入された基材7に、光を照射して、前記基材7の発色状態4を検出する。ここで、照射される光は、蛍光試薬の種類に応じて適宜選択される。具体的には、上記工程(1)におけるのと同様の光ならびに照射条件および方法が使用できるため、ここでは説明を省略する。発色状態の比較がより容易かつより正確である等の点から、光の種類、ならびに照射条件および方法が、上記工程(1)、(2)または(3)と同じであることが好ましく、上記工程(1)、(2)及び(3)と同じであることがより好ましい。
【0127】
上記照射により、被覆層1’”中の蛍光色素が発色し、この発色状態(発色状態4)を検出する(図1D)。
【0128】
工程(5)
本工程では、上記工程(1)で検出した発色状態1、上記工程(2)で検出した発色状態2または上記工程(3)で検出した発色状態3と、上記工程(4)で検出した前記発色状態4と、を比較して、前記タンパク質吸着剤の被覆状態または前記タンパク質の吸着状態を評価する。
【0129】
上述したように、同量のタンパク質が吸着した場合に、各発色状態1~4の発光の度合い(蛍光強度)は、発色状態1、発色状態3、発色状態2及び発色状態4の順で高い(発色状態4<発色状態2<発色状態3<発色状態1)。このため、発色状態4が、発色状態1、2または3に比して、蛍光強度が低い場合には、タンパク質が基材上に吸着している、またはタンパク質吸着剤が有効に高分子基材上に存在すると評価できる。すなわち、発色状態4の蛍光強度が、前記発色状態1、2または3の蛍光強度より低い場合に、前記タンパク質吸着剤の被覆状態および前記タンパク質の吸着状態を評価できる。本発明の一形態では、前記発色状態4が、前記発色状態1、2または3に比して、前記蛍光色素の光の吸収を抑制することによって生じる場合に、タンパク質が高分子基材上に吸着している、またはタンパク質吸着剤が高分子基材上に被覆されていると評価する。
【0130】
本工程では、上述したように、発色状態4と発色状態1または3との差が比較的大きい。このため、比較しやすさなどの観点から、発色状態4を、発色状態1または3と比較することが好ましく、発色状態1と比較することがより好ましい。ここで、高分子基材に予めタンパク質吸着剤(細胞接着因子)を含む層が形成されたバイオリアクター等の場合には、高分子基材のタンパク質吸着剤(細胞接着因子)の被覆層に、蛍光色素を含むコート液を循環させる(発色状態1)、蛍光色素を含むコート液及びタンパク質を含む試料を順に循環させる(発色状態3)、または蛍光色素を含むコート液、タンパク質を含む試料及びタンパク質検出試薬を含むコート液を順に循環させる(発色状態4)という簡単な操作によって、タンパク質吸着剤(細胞接着因子)の被覆状態を容易に評価できる。
【0131】
なお、上記工程(4)にてタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を評価した後は、各基材(基材1、2、4、7)を、生理食塩水、リン酸緩衝液等の緩衝液、イオン交換水、純水、RO水等の水で洗浄してもよい。
【0132】
本発明の方法によれば、タンパク質の導入後の発色状態を比較することによって、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を簡便にかつ迅速に可視化できる。例えば、発色状態4に関し、高分子基材全面の蛍光強度が均一である場合には、タンパク質吸着剤が高分子基材上に均一に存在すると評価できる。また、当該方法は、基材の構造が限定されない。ゆえに、本発明の方法によれば、上述したような中空糸型バイオリアクター等の多様化・複雑化した構造(形状)を有する培養容器に対しても、細胞接着因子(タンパク質吸着剤)が中空糸膜に均一に配置できたか否かを非破壊試験にて評価できる。
【0133】
加えて、発色状態3~4の蛍光強度は、タンパク質の量に比例する。すなわち、存在/不存在を確認する所望のタンパク質について、予め量が既知の当該タンパク質を用いて、タンパク質量に対する蛍光強度の検量線を作成し、この検量線および発色状態4の蛍光強度に基づいて、試料中のタンパク質量を測定することができる。詳細には、予めタンパク質量が既知のサンプルについて、上記(工程(4))と同様の操作を行い、タンパク質の蛍光強度を測定し、タンパク質量と蛍光強度との検量線を作成する。ここで、蛍光強度の測定方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、蛍光測定器(蛍光スキャナー)や画像処理システムが使用できる。求められる検量線は、外来要因にはよらず、定常的なものであるため、検量線として有効である。このため、この検量線を利用することにより、試料中のタンパク質量を正確に測定できる。
【実施例
【0134】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0135】
製造例1:タンパク質吸着剤(pTHFA)1の合成
下記方法により、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)1(重量平均分子量:600,000)を合成した。
【0136】
300mL容の4ツ口フラスコに、メタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)90gを仕込んだ。次に、上記4ツ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)60gを添加して、攪拌し、約1時間窒素バブリングを行い、40重量%THFA溶液を調製した。さらに、このTHFA溶液に、重合開始剤として、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル(2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile))(富士フイルム和光純薬(株)製、V-70)を0.06g添加し、45℃のオイルバス中で6時間、ラジカル重合反応を行った。所定時間反応後、反応物をビーカーに移し、3~4時間静置して、重合物(ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート)を沈殿させ、上澄み液を捨てた。次に、ビーカーにアセトンを添加・攪拌して、重合物を溶解した後、溶液をシクロヘキサン中に滴下して、重合物を再沈殿させた。沈殿物を回収して、60℃で一晩真空乾燥することによって、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)1を得た。得られたポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)1の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、約600,000であった。
【0137】
製造例2:タンパク質吸着剤(pTHFA)2の合成
下記方法により、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)2(重量平均分子量:200,000)を合成した。
【0138】
300mL容の4ツ口フラスコに、メタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)190gを仕込んだ。次に、上記4ツ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)60gを添加して、攪拌し、約1時間窒素バブリングを行い、24重量%THFA溶液を調製した。さらに、このTHFA溶液に、重合開始剤として、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル(2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile))(富士フイルム和光純薬(株)製、V-70)を0.06g添加し、45℃のオイルバス中で6時間、ラジカル重合反応を行った。所定時間反応後、反応物をビーカーに移し、3~4時間静置して、重合物(ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート)を沈殿させ、上澄み液を捨てた。次に、ビーカーにアセトンを添加・攪拌して、重合物を溶解した後、溶液をシクロヘキサン中に滴下して、重合物を再沈殿させた。沈殿物を回収して、60℃で一晩真空乾燥することによって、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)2を得た。得られたポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)2の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、約200,000であった。
【0139】
製造例3:タンパク質吸着剤(pTHFA)3の合成
下記方法により、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)3(重量平均分子量:100,000)を合成した。
【0140】
300mL容の4ツ口フラスコに、メタノール(富士フイルム和光純薬(株)製)220gを仕込んだ。次に、上記4ツ口フラスコに、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)30gを添加して、攪拌し、約1時間窒素バブリングを行い、12重量%THFA溶液を調製した。さらに、このTHFA溶液に、重合開始剤として、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル(2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile))(富士フイルム和光純薬(株)製、V-70)を0.06g添加し、45℃のオイルバス中で6時間、ラジカル重合反応を行った。所定時間反応後、反応物をビーカーに移し、3~4時間静置して、重合物(ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート)を沈殿させ、上澄み液を捨てた。次に、ビーカーにアセトンを添加・攪拌して、重合物を溶解した後、溶液をシクロヘキサン中に滴下して、重合物を再沈殿させた。沈殿物を回収して、60℃で一晩真空乾燥することによって、ポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)3を得た。得られたポリテトラヒドロフルフリルアクリレート(pTHFA)3の重量平均分子量(Mw)を測定したところ、約100,000であった。
【0141】
実施例1
(発色状態1の検出)
上記製造例3で得られたpTHFA3(Mw=100,000)(タンパク質吸着剤)3gを、300gのメタノールと混合して、pTHFA溶液を得た。このpTHFA溶液に、重合性染料 蛍光紫R13(色:蛍光紫、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:559nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)(蛍光色素)20mgを添加し、分散液を調製した。
【0142】
この分散液 10mLをシャーレにキャストし、ドラフト内で4時間、自然乾燥し、シャーレ(シャーレA)中にpTHFA及びR13を含む膜(乾燥膜厚:2μm)(基材A-1)を形成した。この基材A-1をシャーレAから取り出し、基材Aを作製した。
【0143】
この基材Aに、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後の基材Aの発色状態を図2Aに示す。
【0144】
(発色状態2の検出)
タンパク質検出試薬であるビシンコニン酸(BCA)を銅イオンキレート剤(組成:bicinchoninic acid Cu+ complex、Thermo fisher scientific製、商品名:BCAタンパク質アッセイ)に1重量%濃度となるように添加し、BCA溶液を調製した。
【0145】
上記(発色状態1の検出)と同様にして、シャーレ(シャーレA)中に基材A-1を作製した。シャーレAに、上記BCA溶液 10mLをキャストし、ドラフト内で1日自然乾燥し、基材A-1上にBCA膜(乾燥膜厚:1μm)(基材B-1)を形成した。この基材B-1を上記シャーレから取り出し、基材Bを作製した。
【0146】
この基材Bに、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後の基材Bの発色状態を図2Bに示す。
【0147】
(発色状態3の検出)
リン酸緩衝液(PBS、pH=7.4)に、ウシ胎児血清(FBS)を10容積%濃度となるように添加し、タンパク質溶液を調製した。
【0148】
上記(発色状態1の検出)と同様にして、シャーレ(シャーレA)中に基材A-1を作製した。シャーレAに、上記タンパク質溶液 50mLを注いで、30分間放置した。所定時間経過後、シャーレAからタンパク質溶液を捨てた(シャーレC-1)。シャーレC-1を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS,pH7.4)50mLで3回洗浄した(シャーレC-2)。洗浄後、シャーレC-2をドラフト内で4時間、自然乾燥して、シャーレ(シャーレC-3)中に基材C-1を得た。この基材C-1をシャーレC-3から取り出し、基材Cを作製した。
【0149】
この基材Cに、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後の基材Cの発色状態を図2Cに示す。
【0150】
(発色状態4の検出)
上記(発色状態2の検出)と同様にして、BCA溶液を調製した。
【0151】
上記(発色状態3の検出)と同様にして、シャーレ(シャーレC-3)中に基材C-1を作製した。シャーレC-3に、上記BCA溶液 10mLを添加した後、37℃で1時間インキュベートして、FBSとBCAとを反応させた(基材D-1)。この基材D-1を上記シャーレから取り出し、基材Dを作製した。
【0152】
この基材Dに、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後の基材Dの発色状態を図2Dに示す。
【0153】
図2から、基材Dの発色状態4は、基材Aの発色状態1、基材Bの発色状態2及び基材Cの発色状態3に比して蛍光が有意に消失していることが分かる。また、基材Dは、蛍光が全体的に消失している。ゆえに、基材Dではタンパク質吸着剤であるpTHFAが均一にかつ全面に配置されていると考察される。また、吸収スペクトル(蛍光強度)を測定することによって、被覆層中のタンパク質の量を測定できることが期待される。
【0154】
上記結果から、本発明の方法によれば、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を簡便にかつ迅速に可視化できることが考察される。さらに、本発明の方法によれば、複雑な構造を有する基材に対してもタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を非破壊試験にて可視化できることが考察される。
【0155】
実施例2
(発色状態1の検出)
内径が215±10μm、肉厚が50±5μmのPAES/PVP/PA製の多孔質中空糸膜をハウジングに収納し、膜面積が2.1mであるバイオリアクター1を作製した。
【0156】
上記製造例3で得られたpTHFA3(Mw=100,000)(タンパク質吸着剤)3gを、300gのメタノールと混合して、pTHFA溶液を得た。このpTHFA溶液に、重合性染料 蛍光紫R13(色:蛍光紫、重合性基:メタクリル基、アクリル当量:1.2×10g/eq、最大吸収波長:559nm;富士フイルム和光純薬株式会社製)(蛍光色素)20mgを添加し、分散液を調製した。
【0157】
上記バイオリアクター1の中空糸膜の内腔に、上記分散液を、20ml/分の流速で回転ポンプで30分間循環させた後、37℃で1時間、インキュベートし、中空糸膜の内面にpTHFA及びR13を含む被覆層Xを形成した(バイオリアクター1’)。
【0158】
このバイオリアクター1’に、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後のバイオリアクター1’の発色状態1を図3に示す。
【0159】
(発色状態3の検出)
リン酸緩衝液(PBS、pH=7.4)に、ウシ胎児血清(FBS)を10%濃度となるように添加し、タンパク質溶液を調製した。
【0160】
上記にて作製したバイオリアクター1’の中空糸膜の内腔に、上記で調製したタンパク質溶液を20ml/分の流速で回転ポンプで30分間循環させた後、37℃で1時間、インキュベートした(バイオリアクター2)。このバイオリアクター2に、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後のバイオリアクター2の発色状態3を図3に示す。
【0161】
(発色状態4の検出)
タンパク質検出試薬であるビシンコニン酸(BCA)を銅イオンキレート剤(組成:bicinchoninic acid Cu+ complex、Thermo fisher scientific製、商品名:BCAタンパク質アッセイ)に10重量%濃度となるように添加し、BCA溶液を調製した。
【0162】
上記(発色状態3の検出)と同様にしてバイオリアクター2を作製した。このバイオリアクター2の中空糸膜の内腔に、上記で調製したBCA溶液を20ml/分の流速で回転ポンプで30分間循環させた後、37℃のインキュベーター中に1時間保持した(バイオリアクター3)。このバイオリアクター3に、波長:254nm、照射強度:2.02mW/cm、照射距離:50mm、積算光量:2.02mJ/cmの照射条件で、低圧水銀灯で、紫外線(UV)を照射した。照射後のバイオリアクター3の発色状態4を図3に示す。
【0163】
図3から、バイオリアクター3の発色状態4は、バイオリアクター1’の発色状態1やバイオリアクター2の発色状態3に比して蛍光が有意に消失していることが分かる。また、バイオリアクター3の発色状態4では、左上部分に一部ピンク色を呈する部分が観察される。当該部分にはタンパク質が吸着していない(即ち、タンパク質吸着剤が十分配置されていない)と推測される。ゆえに、本発明の方法によれば、タンパク質吸着剤の被覆状態を簡便に確認できることが期待される。さらに、吸収スペクトル(蛍光強度)を測定することによって、被覆層中のタンパク質の量を測定できることが期待される。
【0164】
加えて、上記結果から、本発明の方法によれば、タンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を簡便にかつ迅速に可視化できることが考察される。さらに、本発明の方法によれば、複雑な構造を有する基材に対してもタンパク質吸着剤の被覆状態またはタンパク質の吸着状態を非破壊試験にて可視化できることが考察される。
【0165】
本発明の実施形態を詳細に説明し例示したが、開示された実施形態は、例示的かつ例示的な目的のために作られたものであり、限定的なものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきである。
【0166】
2019年9月20日に出願された日本特許出願番号2019-172049号の開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0167】
10…高分子基材、
20…タンパク質吸着剤および蛍光色素を含む被覆層、
30…タンパク質検出試薬を含む被覆層、
31…タンパク質検出試薬、
40…タンパク質、
50…蛍光色素が励起状態となる特定波長の光。
図1
図2
図3
【国際調査報告】