(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(54)【発明の名称】認知症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20221118BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221118BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P25/28
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519163
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 AU2020051022
(87)【国際公開番号】W WO2021056071
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514114910
【氏名又は名称】マッコーリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イットナー ラース
(72)【発明者】
【氏名】クァ ヤーヅー ダイアナ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC20
(57)【要約】
β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する方法、及びAβ蓄積に関連する認知症を患う被験体において記憶を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、阻害剤が本明細書において定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法を本明細書において提供する。ニューロンにおけるAβ毒性を低減させる方法であって、ニューロンを有効量のLIMK1の阻害剤に曝露することを含み、阻害剤が本明細書において定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、該阻害剤が式(I):
【化1】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法。
【請求項2】
Zが以下の構造:
【化2】
(式中、
R
4、R
5、R
6及びR
7は、上記R
1、R
2及びR
3と同じ定義を有し、
XはCH又はNであり、
R
8はH又は任意に置換されたアルキルである)の1つから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式(I)の化合物が式(Ia):
【化3】
(式中、可変部分R
1~R
7、X、Y及びArは、請求項1又は2において定義される通りである)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)の化合物が、前記式(Ia)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩であり、
R
1、R
3、R
5、R
6及びR
7がHであり、
R
2がメチルであり、
R
3が(S)-メチルであり、
XがNであり、
YがNCNであり、
Arが3-ブロモフェニルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記式(Ia)の化合物が以下の構造:
【化4】
を有する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物がLIMK1の選択的阻害剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物がLIMK1の特異的阻害剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記認知症がアルツハイマー病である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記認知症の前記少なくとも1つの症状が記憶欠損、及び/又は神経回路網の異常若しくは崩壊を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
神経回路網の異常又は崩壊が興奮毒性又はAβ毒性に関連する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を患う被験体において記憶を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、該阻害剤が式(I):
【化5】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法。
【請求項12】
ニューロンにおけるAβ毒性を低減させる方法であって、ニューロンを有効量のLIMK1の阻害剤に曝露することを含み、該阻害剤が式(I):
【化6】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法。
【請求項13】
β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する医薬の製造におけるLIMK1の阻害剤の使用であって、該阻害剤が式(I):
【化7】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、使用。
【請求項14】
β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を患う被験体において記憶を改善するための医薬の製造におけるLIMK1の阻害剤の使用であって、該阻害剤が式(I):
【化8】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、本明細書において定義されるLIMドメインキナーゼ1(LIMK1)の阻害剤を用いてβ-アミロイド蓄積に関連する認知症、特にアルツハイマー病を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、世界的に老年性及び初老期認知症の最も一般的な病態であり、65歳以上の人々における認知症の全症例の50%超を占めている。アルツハイマー病は、臨床的には認知機能の漸進的な進行性の低下によって特徴付けられ、通例、記憶、知的能力の喪失、及び言語障害(不全失語症)の増加として現れる。平均すると、診断から約9年後に死に至る。アルツハイマー病の発生率は、年齢とともに劇的に上昇し、全世界の85歳以上の人々の50%超がアルツハイマー病に罹患していると推定される。
【0003】
アルツハイマー病は、病理学的には細胞外プラークへのβ-アミロイドペプチド(Aβ)の沈着及びニューロン内神経原線維濃縮体への微小管結合タンパク質タウの蓄積によって特徴付けられる。細胞レベルでは、ニューロン結合が徐々に損なわれ、細胞の消失に先立ってシナプスの機能障害及び消失が生じる。これらの神経病理学的変化は、記憶の進行性喪失と並行して起こる。
【0004】
Aβは、β-セクレターゼ及びγ-セクレターゼによるニューロン膜貫通タンパク質アミロイド前駆体タンパク質(APP)からの切断によって生成する38~43アミノ酸のペプチドである。Aβは、細胞外空間に放出され、そこで凝集してプラークを形成する。Aβは、ニューロンに有害であり、細胞内カルシウム平衡の崩壊及び膜電位の喪失をもたらす孔形成を引き起こし、アポトーシスを促進し、シナプスの消失を引き起こし、細胞骨格を破壊する。Aβの可溶性オリゴマーがAβ毒性の大部分を引き起こし、認知機能障害及び認知低下の原因であることを示す証拠が増えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルツハイマー病患者の予後は悪く、治療は限られている。この消耗性疾患、並びに関連する形態の認知症及び認知低下を治療する新たな方法の開発が明らかに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、LIMドメインキナーゼ1(LIMK1)の遺伝的枯渇及び薬理学的阻害が、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて記憶欠損及び神経回路網異常を改善し、β-アミロイド(Aβ)毒性及び興奮毒性からマウスを保護するという本発明者らの発見に基づいている。
【0007】
本開示の第1の態様によれば、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、該阻害剤が式(I):
【化1】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法が提供される。
【0008】
幾つかの実施の形態においては、Zは、以下の構造:
【化2】
(式中、
R
4、R
5、R
6及びR
7は、上記R
1、R
2及びR
3と同じ定義を有し、
XはCH又はNであり、
R
8はH又は任意に置換されたアルキルである)の1つから選択される。
【0009】
特定の実施の形態においては、式(I)の化合物は、式(Ia):
【化3】
(式中、可変部分R
1~R
7、X、Y及びArは、上で定義される通りである)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0010】
実施の形態においては、式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩であり、
R1、R3、R5、R6及びR7はHであり、
R2はメチルであり、
R3は(S)-メチルであり、
XはNであり、
YはNCNであり、
Arは3-ブロモフェニルである。
【0011】
化合物は、LIMK1の選択的阻害剤としてもよい。化合物は、LIMK1の特異的阻害剤としてもよい。
【0012】
実施の形態においては、式(Ia)の化合物は、以下の構造:
【化4】
を有する。
【0013】
特定の実施の形態においては、認知症はアルツハイマー病である。
【0014】
認知症の少なくとも1つの症状は、臨床的又は病理学的な症状を含み得る。特定の実施の形態においては、少なくとも1つの症状は、記憶欠損、及び/又は神経回路網の異常若しくは崩壊を含み得る。神経回路網の異常又は崩壊は、興奮毒性又はAβ毒性に関連し得る。
【0015】
本開示の第2の態様によれば、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を患う被験体において記憶を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、該阻害剤が上で定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法が提供される。
【0016】
本開示の第3の態様によれば、ニューロンにおけるAβ毒性を低減させる方法であって、ニューロンを有効量のLIMK1の阻害剤に曝露することを含み、該阻害剤が上で定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法が提供される。
【0017】
本開示の第4の態様は、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する医薬の製造におけるLIMK1の阻害剤の使用であって、阻害剤が上で定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、使用を提供する。
【0018】
本開示の第5の態様は、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を患う被験体において記憶を改善するための医薬の製造におけるLIMK1の阻害剤の使用であって、阻害剤が上で定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、使用を提供する。
【0019】
本開示の第6の態様は、ニューロンにおけるAβ毒性を低減させる医薬の製造におけるLIMK1の阻害剤の使用であって、阻害剤が上で定義される式(I)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、使用を提供する。
【0020】
本開示の態様及び実施形態は、本明細書において、非限定的な例としてのみ、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Limk1枯渇がアルツハイマー病のマウスモデルにおいて記憶欠損及び神経回路網異常を防止することを示す図である。(A)左のグラフ:逃避潜時の時間的改善は、Limk1
-/-マウスにおいて遅延し、非突然変異同腹仔(Limk1
+/+)と比較してAPPトランスジェニックAPP23(APP23/Limk1
+/+)マウスにおいて著しく損なわれた。APP23/Limk1
-/-マウスは、Limk1
-/-マウスと同様の成績であり、学習の改善が示された。右のグラフ:Limk1
+/+対照と比較したLimk1
-/-、APP23/Limk1
+/+及びAPP23/Limk1
-/-マウスにおけるプローブ試験時の有意な記憶固定障害。n=8~10、
*p<0.05、
**p<0.01(スチューデントt検定)。左から右にLimk1
+/+;Limk1
-/-;APP23/Limk1
+/+;APP23/Limk1
-/-。(B)APP23/Limk1
+/+マウスは、T型水迷路(water T maze)において習得の24時間後に逃避プラットホームの位置を学習することができないが、APP23/Limk1
-/-マウスは、Limk1
+/+及びLimk1
+/+と同様の成績であり、24時間後の失敗が有意に少ない。n=7又は8、
*p<0.05、
**p<0.01(ANOVA)。Limk1
+/+、Limk1
-/-、APP23/Limk1
+/+及びAPP23/Limk1
-/-のそれぞれについて、左側のカラムは習得時であり、中央のカラムは習得の2時間後であり、右側のカラムは24時間後である。(C)左のグラフ:自由行動マウスにおける遠隔計測海馬脳波検査(EEG)記録時の非トランスジェニック(Limk1
+/+)及びLimk1ノックアウト(Limk1
-/-)同腹仔と比較したAPPトランスジェニックAPP23マウス(APP23/Limk1
+/+)における1分当たりのスパイク数の有意な増加。スパイク頻度は、APP23/Limk1
-/-マウスのEEG記録においては、APP23/Limk1
+/+同腹仔と比較して有意に低く、Limk1
+/+及びLimk1
-/-対照との有意差はなかった(ns)。n=11、
*p<0.05、
***p<0.001(スチューデントt検定)。右のグラフ:左のグラフにおいて統計分析される個々のLimk1
+/+、Limk1
-/-、APP23/Limk1
+/+及びAPP23/Limk1
-/-マウスにおけるEEG記録のスパイク頻度の提示。(D)APP23/Limk1
-/-同腹仔並びにLimk1
+/+及びLimk1
-/-対照と比較したAPP23/Limk1
+/+マウスにおける周波数間カップリング(cross frequency coupling)の変調指数の有意な低減。n=8、
***p<0.001(スチューデントt検定)。(C)及び(D)について、左から右にLimk1
+/+;Limk1
-/-;APP23/Limk1
+/+;APP23/Limk1
-/-。(E)APP23/Limk1
-/-同腹仔並びにLimk1
+/+及びLimk1
-/-対照と比較したAPP23/Limk1
+/+マウスのEEG記録における振幅位相の有意な破壊。n=8、
*p<0.05、
**p<0.01(ANOVA)。
【
図2】ヒトアルツハイマー病及びアルツハイマー病マウスモデルにおけるLimk1活性の上昇を示す図である。(A)ヒトアルツハイマー病(左)及びヒト突然変異体APPトランスジェニックAPP23マウス(右)の脳の代表的な免疫組織化学染色。Aβ抗体6E10で染色した、アミロイド-β(Aβ)プラーク(緑色)周辺にリン酸化LIMK1基質ADF/コフィリン(p-ADF/コフィリン;赤色;矢印)が蓄積した細胞。核をDAPIで染色した。スケールバー、50μm。(B)APP23同腹仔と比較した老齢APP23/Limk1
-/-マウスの海馬におけるADF/コフィリン凝集体数の顕著な低減の定量化。
【
図3】LIMK1阻害剤(LIMKi)がLIMK1活性を効率的に阻害することを示す図である。in vitro LIMK1活性アッセイにより、試験した全ての濃度(100μM、10μM、1μM、0.1μM)でのLIMKiによるキナーゼの阻害が実証される。DMSO(溶媒)は、LIMK1活性を阻害しなかった。
【
図4】LIMK1阻害がアルツハイマー病のマウスモデルにおいて発作の誘導に対する感受性を低減させ、神経回路網過同期性及び記憶欠損を緩和したことを示す図である。(A)興奮毒性発作を50mg/kg(体重)のペンチレンテトラゾール(PTZ)の急性腹腔内注射によって誘導し、続いて発作発生の計時及びスコアリング(0=発作なし~7=末期癲癇重積状態)を行った。マウスを発作誘導の30分前にビヒクル又は10mg/kg(体重)のLIMK1阻害剤(LIMKi)で腹腔内処置した。左のグラフ:ビヒクル対照と比較したLIMKi処置マウス(濃い線)における軽度発作(すなわち、スコア<5)の発生までの潜伏時間の遅延。ビヒクル処置マウスのみが時間とともに重症の発作段階を発生する(すなわち、スコア=5)。右のグラフ:ビヒクル対照と比較したLIMKi処置マウス(右側のカラム)における発作重症度の有意な低減。n=9、
**p<0.001(スチューデントt検定)。(B)LIMKi又はビヒクル投与の2時間前(Pre)及び2時間後(Post)を含む、非トランスジェニック(wt)及びAPPトランスジェニック(APP23)マウスにおける4時間にわたる複合海馬脳波検査(EEG)記録。腹腔内LIMKi及びビヒクル投与の時点を矢印で示す。左:wtマウスにおけるビヒクル又はLIMKi注射の前後の明白なスパイク活動の非存在。APP23マウスにおけるビヒクル投与の前後の頻繁なスパイク。対照的に、LIMKi注射により、注射後のAPP23におけるスパイク活動が緩和される。右のグラフ:前後のスパイク数と比較した場合のビヒクル処置APP23におけるスパイク頻度の有意な変化の非存在及びLIMKi処置APP23マウスにおけるスパイク頻度の有意な低減。n=8、
*p<0.05(スチューデントt検定)。(C)APP23マウス(ビヒクル)の周波数間カップリングの変調指数の有意な低減をLIMKi投与の1時間後に補正し、wt対照(ビヒクル/LIMKi処置)との差をなくした。n=8、
**p<0.01(スチューデントt検定)。(D)APP23マウス(ビヒクル)のEEG記録における振幅位相の有意な破壊をLIMKi送達の1時間後に補正し、wt対照(ビヒクル/LIMKi処置)との差をなくした。n=8、
*p<0.05(ANOVA)。(E)慢性Limk1阻害は、ADマウスにおける記憶欠損を回復させる。APP23マウスは、3ヶ月齢でモリス水迷路(MWM)パラダイムにおける記憶欠損を発症する。10mg/kg LIMKiによるi.p.処置(週に3回又は4回)を3ヶ月齢で開始し、4ヶ月間継続した後、7ヶ月齢でMWM試験を行った。左のグラフ:ビヒクル処置APP23マウスは、ビヒクル処置対照と比較して学習遅延を示した。LIMKi処置対照は、中程度の学習遅延を示したが、LIMKi処置は、APP23マウスの学習をビヒクル対照レベルまで改善した。右のグラフ:ビヒクル処置APP23は、MWMプローブ試験において標的象限での滞在時間が有意に少なく、記憶形成の欠陥が示された。LIMKi処置APP23は、対照との有意差を示さなかった。n=8~10、
*p<0.05(ANOVA)。(C)及び(E)における棒グラフについて、左から右に非Tg+ビヒクル;非Tg+LIMKi;APP23+ビヒクル;APP23+LIMKi。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示全体を通して参照される全ての特許、特許出願、公開された出願及び公報、データベース、ウェブサイト及び他の公開資料は、特に指定のない限り、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。用語の定義が複数ある場合には、本節における定義が優先される。URL又は他のかかる識別子若しくはアドレスに言及する場合、かかる識別子が変化することがあり、インターネット上の特定の情報が移り変わることがあるが、同等の情報をインターネット検索によって見つけることができると理解される。識別子への言及は、かかる情報の入手可能性及び一般への普及を証明するものである。
【0023】
数量を特定しない冠詞(articles "a" and "an")は、冠詞の文法上の対象の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書において使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。
【0024】
本明細書の文脈において、「約」という用語は、同じ機能又は結果を達成する文脈において当業者が記載の値と同等とみなす数値の範囲を指すことが理解される。
【0025】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という単語及び「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」等の変化形は、記載の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を含むが、任意の他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0026】
「任意に」という用語は、その後に記載される特徴が存在しても若しくは存在しなくてもよいこと、又はその後に記載される事象若しくは状況が発生しても若しくは発生しなくてもよいことを意味するために本明細書において使用される。したがって、本明細書は、特徴が存在する実施形態及び特徴が存在しない実施形態、並びに事象又は状況が発生する実施形態及び事象又は状況が発生しない実施形態を含み、包含すると理解される。
【0027】
「阻害剤」という用語は、本明細書において使用される場合、標的分子、例えばLIMK1の少なくとも1つの機能又は生物活性を直接又は間接的に減少又は阻害する作用物質を指す。「選択的」という用語及びその文法的変形語は、別の分子の機能を実質的に阻害することなく標的分子を阻害する作用物質を指すために本明細書において使用される。
【0028】
本開示の文脈において、「阻害する」という用語及び文法的同等語は、指定の事象、活性又は機能の完全な阻害を必ずしも意味するわけではない。むしろ、阻害は、所望の効果をもたらすのに十分な程度及び/又は時間であってもよい。阻害は事象、活性又は機能の予防、遅延、低減又は別様の妨害であり得る。かかる阻害は、大きさ及び/又は時間的な性質であってもよい。特定の文脈において、「阻害する」及び「防止する」という用語、並びにそれらの変化形は、区別なく使用されることがある。同様に、第1のサンプルにおける又は第1の時点での物質、現象、機能又は活性のレベル又は値よりも低い、第2のサンプルにおける又は第2の時点での物質、現象、機能又は活性のレベル又は値に関して、「阻害する」、「減少させる」及び「低減する」という用語は、区別なく使用されることがある。低減は、主観的又は客観的に決定又は測定してもよく、当該技術分野において認められる統計的分析法に従ってもよい。
【0029】
本明細書における「に関連する」という用語の使用は、事象、症状又は病状の間の時間的、物理的又は空間的な関係を説明するものである。このため、例えば、本開示の文脈において、Aβ蓄積に関連する認知症は、認知症が直接又は間接的にAβの蓄積、通例、細胞外蓄積によって少なくとも部分的に特徴付けられるか、又はそれに起因することを意味する。認知症は、Aβの蓄積時に発生又は開始する可能性がある。代替的には、Aβ蓄積及び認知症は、認知症の発症がAβ蓄積の開始の数分後、数時間後、数日後、数週間後、数ヶ月後又は数年後であるように時間間隔が空いていてもよい。
【0030】
本明細書において使用される場合、「治療する」、「治療」という用語及び文法的同等語は記載の神経変性疾患を改善するか、疾患の確立を阻止、遅延若しくは遅滞させるか、又は他の形で疾患の進行を阻止、妨害、遅延若しくは逆転させる任意及び全ての用途を指す。このため、「治療する」等の用語は、その最も広い文脈で考慮すべきである。例えば、治療は、必ずしも患者が完全回復まで治療されることを意味するわけではない。疾患が複数の症状を示すか、又は複数の症状によって特徴付けられる場合、治療又は予防は、必ずしも上記症状の全てを改善、阻止、妨害、遅延又は逆転させる必要はなく、上記症状の1つ以上を阻止、妨害、遅延又は逆転させるものであってもよい。
【0031】
本明細書において使用される場合、「有効量」という用語は、作用物質又は化合物の非毒性であるが、所望の効果をもたらすのに十分な量又は用量をその意味に含む。必要とされる正確な量又は用量は、治療される種、被験体の年齢、体格、体重及び全身状態、治療される疾患又は病態の重症度、投与される特定の作用物質、並びに投与方法等の要因に応じて被験体によって異なる。このため、正確な「有効量」を特定することはできない。しかしながら、任意の所与の場合について、適切な「有効量」は、当業者であれば日常実験のみを用いて決定することができる。
【0032】
「被験体」という用語は、本明細書において使用される場合、哺乳動物を指し、ヒト、霊長類、家畜動物(例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験室試験用の動物(例えばマウス、ウサギ、ラット、モルモット)、興行及びショー用の動物(例えばウマ、家畜、イヌ、ネコ)、伴侶動物(例えばイヌ、ネコ)、並びに捕獲野生動物を含む。哺乳動物は、ヒト又は実験室試験用の動物であるのが好ましい。更により好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0033】
プロテインキナーゼのLIMドメインファミリーは、LIMドメインキナーゼ1(LIMK1)及びLIMドメインキナーゼ2(LIMK2)を含む。LIMキナーゼは、アクチンと結合し、リン酸化を介してコフィリンタンパク質の活性を調節することによってアクチン細胞骨格の構成に影響を与えるセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。脳において最も高度に発現されるニューロンLIMK1は、シナプス形態の確立された調節因子である。本発明より前には、神経変性疾患におけるLIMK1の機能的役割については殆ど知られていなかった。ヒトLIMK1は、7番染色体にコードされるLIMK1遺伝子から産生される647アミノ酸のタンパク質(UniProtタンパク質データベースアクセッション番号P53667)である。選択的スプライシングにより、LIMK1の4つのアイソフォームが生成する。
【0034】
本明細書において例示されるように、本発明者らは、トランスジェニックマウスにおける記憶力、神経回路網活性、及びAβ形成の神経病理学的変化に対するLimk1枯渇及びLIMK1阻害の影響を実証した。本明細書に記載されるデータは、アルツハイマー病におけるLIMK1の新たな役割を確立し、LIMK1の阻害によってアルツハイマー病及び関連する形態の認知症における機能障害を改善する新規の潜在的治療アプローチをもたらす。
【0035】
1つの態様においては、本開示は、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症を治療するか、その発症を遅らせるか、又はその少なくとも1つの症状を改善する方法であって、それを必要とする被験体に有効量のLIMK1の阻害剤を投与することを含み、該阻害剤が式(I):
【化5】
(式中、
Zは、任意に置換されたシクロアルキレン、任意に置換されたアリーレン及び任意に置換されたアニリンからなる群より選択され、
R
1、R
2及びR
3は独立してH、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、任意に置換されたアルコキシ、任意に置換されたアミン、任意に置換されたアルキル、任意に置換されたヘテロアルキル及び任意に置換されたアルケニルからなる群より選択され、
YはO、S、NCN、NCS及びNSO
2Meからなる群より選択され、
Arは、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリール及び任意に置換されたヘテロシクリルからなる群より選択される)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、方法を提供する。
【0036】
幾つかの実施形態においては、Zは、以下の構造:
【化6】
(式中、
R
4、R
5、R
6及びR
7は、上記R
1、R
2及びR
3と同じ定義を有し、
XはCH又はNであり、
R
8はH又は任意に置換されたアルキルである)の1つから選択される。
【0037】
「アルキル」は、直鎖状でも又は分岐していてもよく、好ましくは1個~10個の炭素原子、又はより好ましくは1個~6個の炭素原子を有する一価アルキル基を指す。かかる基の例としては、メチル、エチル、n-イソプロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、n-ヘキシル等が挙げられる。
【0038】
「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有し、直鎖状でも又は分岐していてもよく、好ましくは2個~10個の炭素原子を有する一価脂肪族炭素環(carbocyclic)基を指す。かかる基の例としては、ビニル又はエテニル基(-CH=CH2)、n-プロペニル(-CH2CH=CH2)、イソプロペニル(-C(CH3)=CH2)、ブタ-2-エニル(-CH2CH=CHCH3)等が挙げられる。
【0039】
「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、直鎖状でも又は分岐していてもよく、好ましくは2個~10個の炭素原子を有する一価脂肪族炭素環(carbocyclic)基を指す。かかる基の例としては、アセチレン又はエチニル基(-C≡CH)、プロパルギル(-CH2C≡CH)等が挙げられる。
【0040】
「アリール」は、単一の環(例えばフェニル)又は複数の縮合環(例えばナフチル、アントラセニル)を有し、好ましくは6個~14個の炭素原子を有する一価不飽和芳香族炭素環基を指す。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル等が挙げられる。
【0041】
「アルコキシ」及び「アリールオキシ」は、それぞれ「-O-アルキル」及び「-O-アリール」基を指し、ここでアルキル及びアリール基は、上記のものである。
【0042】
「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨード基を指す。
【0043】
「ヘテロアリール」は、好ましくは6個~14個の炭素原子及び1個~4個のヘテロ原子を有し、ヘテロ原子が環内にあり、酸素、窒素及び硫黄から独立して選択される、一価芳香族炭素環基を指す。かかるヘテロアリール基は、単一の環(例えばピリジル、ピロリル又はフリル)又は複数の縮合環(例えばインドリル及びベンゾフリル)を有し得る。
【0044】
「ヘテロシクリル」は、単一の環又は複数の縮合環を有し、好ましくは4個~10個の炭素原子及び1個~4個のヘテロ原子を有し、ヘテロ原子が窒素、硫黄、酸素、セレン及びリンから独立して選択される、一価の飽和又は不飽和の基を指す。
【0045】
ヘテロシクリル及びヘテロアリール基の例としては、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチルピリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、イソチアゾール、フェナジン、イソオキサゾール、フェノキサジン、フェノチアジン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、フタルイミド、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾ[b]チオフェン、チアゾール、チアゾリジン、チオフェン、ベンゾ[b]チオフェン、モルホリノ、ピペリジニル、ピロリジン、テトラヒドロフラニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
本明細書において使用される場合、特定の基との関連で「任意に置換された」という用語は、その基がヒドロキシル、アシル、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アルケニルオキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アミノ、アミノアシル、アルキルアリール、アリール、アリールオキシ、カルボキシル、アシルアミノ、シアノ、ハロゲン、ニトロ、スルフェート、ホスフェート、ホスフィン、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、オキシアシル、オキシアシルアミノ、アミノアシルオキシ、トリハロメチル等から選択される1つ以上の基で更に置換されていても又は置換されていなくてもよいことを意味するとみなされる。
【0047】
特に好適な任意の置換基の例としては、F、Cl、Br、I、CH3、CH2CH3、OH、OCH3、CF3、OCF3、NO2、NH2、COCH3及びCNが挙げられる。
【0048】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容可能な塩」という用語は、親化合物の所望の生物活性を保持する塩を指し、薬学的に許容可能な酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。式(I)の化合物の好適な薬学的に許容可能な酸付加塩は、無機酸又は有機酸から調製することができる。無機酸の例としては、塩酸、硫酸及びリン酸が挙げられる。有機酸の例としては、脂肪族、脂環式、芳香族、複素環式カルボン酸及びスルホン酸有機酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルロン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アルキルスルホン酸及びアリールスルホン酸が挙げられる。式(I)の化合物が固体である場合、化合物及びその塩は、1つ以上の異なる結晶又は多形形態で存在していてもよく、これらは全て、式(I)の範囲に含まれることが意図される。
【0049】
特定の実施形態においては、式(I)の化合物は、式(Ia):
【化7】
(式中、可変部分R
1~R
7、X、Y及びArは、上で定義される通りである)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩である。
【0050】
実施形態においては、式(I)の化合物は、式(Ia)の化合物又はその薬学的に許容可能な塩であり、
R1、R3、R5、R6及びR7はHであり、
R2はメチルであり、
R3は(S)-メチルであり、
XはNであり、
YはNCNであり、
Arは3-ブロモフェニルである。
【0051】
本開示の例示的な実施形態においては、式(Ia)の化合物は、以下の構造を有する(本明細書においてLIMKiとも称される):
【化8】
【0052】
阻害剤は、LIMK1の特異的阻害剤であっても、又はLIMK1に対して選択的なものであってもよい。このため、阻害剤がLIMK2に対して阻害活性を示すこともある。阻害剤は、LIMK1の1つ以上のアイソフォームに対して阻害活性を示していてもよい。
【0053】
本開示の実施形態は、β-アミロイド(Aβ)蓄積に関連する認知症の治療に適用可能である。治療は、認知症の1つ以上の臨床症状の改善、例えば、認知症に関連する記憶欠損又は記憶障害の軽減又は予防を含む記憶の改善をもたらし得る。治療は、認知症の1つ以上の病理学的特徴に関した改善、例えばAβ毒性、又は神経回路網の異常若しくは崩壊の低減をもたらし得る。
【0054】
通例、認知症はアルツハイマー病である。代替的には、認知症は、アミロイドパシー(amyloidopathy)(アルツハイマー型認知症)又は脳アミロイド血管症を含むか、又はそれに関連し得る。被験体は、認知症と診断されていても、又は認知症の1つ以上の症状を呈していてもよい。認知症を有する被験体は、無症状であってもよく、本開示の治療が疾患又はその症状の発症を遅らせる。認知症の症状としては、疾患に特徴的な又は疾患に関連する記憶欠損及びニューロンの異常又は崩壊が挙げられる。被験体は、認知症に罹患しやすいか、又は認知症を発症するリスクがある可能性がある。
【0055】
本開示の実施形態は、治療を必要とする被験体への任意の好適な手段による、通例、医薬組成物の形態でのLIMK1阻害剤の送達を企図し、組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体、添加剤又は希釈剤を含み得る。かかる組成物は、任意の簡便又は好適な経路にて、例えば非経口(例えば腹腔内、皮下、動脈内、静脈内、筋肉内、髄腔内、脳内、眼内)、経口(舌下を含む)、経鼻、経粘膜又は局所経路によって投与することができる。適切な濃度の分子を治療すべき体内の部位に直接送達することが必要される状況では、投与は、全身的ではなく局所的であってもよい。局所投与は、非常に高い局所濃度の分子を必要な部位に送達する能力をもたらすため、身体の他の器官がベクター及び分子に曝露されるのを回避し、それにより潜在的に副作用を軽減した上で、所望の治療効果又は予防効果を達成するのに適している。
【0056】
当業者には理解されるように、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤の選択は、投与経路、並びに治療すべき病態及び被験体の性質に左右される。特定の担体又は希釈剤及び投与経路は、当業者によって容易に決定され得る。担体又は希釈剤及び投与経路は、化合物の活性が製剤の調製中に枯渇せず、化合物が作用部位に無傷で到達することができるように慎重に選択する必要がある。
【0057】
薬学的に許容可能な担体又は希釈剤の例は、脱塩水又は蒸留水;生理食塩水;ピーナッツ油(peanut oil)、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、ラッカセイ油(arachis oil)又はヤシ油等の植物由来の油;メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン及びメチルフェニルポリシロキサン等のポリシロキサンを含むシリコーン油;揮発性シリコーン;流動パラフィン、軟パラフィン又はスクアラン等の鉱油;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体;低級アルカノール、例えばエタノール又はイソプロパノール;低級アラルカノール(aralkanols);低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール又はグリセリン;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル又はオレイン酸エチル等の脂肪酸エステル;ポリビニルピロリドン;寒天;カラギーナン;トラガカントゴム又はアラビアゴム、及びワセリンである。通例、担体(単数又は複数)は、組成物の10重量%~99.9重量%を占める。
【0058】
当業者であれば、従来のアプローチを用いて、投与される化合物の適切な配合を容易に決定することができる。配合及び投与の手法は例えば、Remington (1980) Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa., latest edition及びNiazi (2009) Handbook of Pharmaceutical Manufacturing Formulations, Informa Healthcare, New York, second editionに見ることができ、それらの内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0059】
好ましいpH範囲(適切な場合)及び好適な添加剤の特定は、例えばKatdare and Chaubel (2006) Excipient Development for Pharmaceutical, Biotechnology and Drug Delivery Systems (CRC Press)に記載されているように当該技術分野において日常的である。
【0060】
幾つかの実施形態においては、式Iの化合物は、被験体による経口摂取のための錠剤、丸薬、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液、トローチ剤等の剤形での経口投与のために配合される。特定の実施形態においては、式Iの化合物は、錠剤、丸薬、トローチ剤又はカプセル等の固体剤形での経口投与のために配合される。かかる実施形態においては、薬学的に許容可能な担体は、希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を含むが、これらに限定されない多数の添加剤を含み得る。
【0061】
好適な希釈剤(「充填剤」とも称される)としては、ラクトース(ラクトースの一水和物、噴霧乾燥一水和物、無水物等を含む)、マンニトール、キシリトール、デキストロース、スクロース、ソルビトール、圧縮糖(compressible sugar)、イソマルト、微結晶性セルロース、粉末セルロース、デンプン、アルファ化デンプン、デキストレート(dextrates)、デキストラン、デキストリン、デキストロース、マルトデキストリン、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ポロキサマー、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、シリケート(例えば二酸化ケイ素)、ポリビニルアルコール、タルク及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
好適な崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルファ化デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶性セルロース、低級アルキル置換ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸ナトリウム及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。好適な結合剤としては、微結晶性セルロース、ゼラチン、糖、ポリエチレングリコール、天然及び合成ゴム、ポリビニルピロリドン、アルファ化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。好適な滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
非経口投与用の医薬製剤は、水溶性形態の式Iの化合物の水溶液を含む。さらに、式Iの化合物の懸濁液を適切な油性注射用懸濁液として調製することができる。好適な親油性溶媒又は担体としては、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル若しくはトリグリセリド等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストラン等の懸濁液の粘度を上昇させる物質を含有していてもよい。任意に、懸濁液は好適な安定化剤、又は化合物の溶解性を高め、高濃度の溶液の調製を可能にする作用物質を含有していてもよい。
【0064】
滅菌溶液は、適切な溶媒中の必要量の化合物を必要に応じて上記のような他の添加剤と組み合わせ、続いて濾過等の減菌を行うことによって調製することができる。概して、分散液は、基本的な分散媒と上記のような必要な添加剤とを含有する滅菌ビヒクルに滅菌した様々な活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌乾燥粉末は、活性化合物と上記のような他の必要な添加剤とを含む滅菌溶液を真空乾燥又は凍結乾燥させることによって調製することができる。
【0065】
注射用途に適した医薬品形態には、滅菌注射液又は分散液及び滅菌注射液の調製のための滅菌粉末が含まれる。かかる形態は、製造及び貯蔵の条件下で安定している必要があり、還元、酸化及び微生物汚染から保護され得る。注射については、組成物は水溶液、好適にはハンクス液、リンガー液又は生理食塩緩衝液等の生理学的に適合する緩衝液中で配合することができる。経粘膜投与については、透過すべき障壁に適切な浸透剤が製剤中に使用される。かかる浸透剤は概して、当該技術分野において既知である。
【0066】
任意の特定の被験体に対する本発明の組成物の特定の用量レベルが、例えば用いられる阻害剤の活性、阻害剤の半減期、治療される個体の年齢、体重、健康全般及び食生活、投与時期、排出率、並びに任意の他の治療又は療法との組合せを含む様々な要因に左右されることが理解される。治療医によって選択される用量レベル及びパターンで単回又は複数回の投与を行うことができる。広範囲の用量が適用可能であり得る。患者を考慮して、例えば、1日に体重1kg当たり約0.1mg~約1mgの作用物質を投与することができる。投与計画は、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。例えば、幾つかの分割用量を毎日、毎週、毎月若しくは他の好適な時間間隔で投与してもよく、又は状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に低減させてもよい。
【0067】
本開示の例示的な実施形態においては、阻害剤が、所望の結果を達成するために必要とされる治療期間にわたって、1日1回又は1日1回未満、例えば2日に1回又は3日に1回被験体に投与され得ることが企図される。投与は、例えば毎日若しくは2日に1回の連続的なものであっても、又は治療に対する被験体の応答及び治療の過程における被験体の進行に応じて、治療する医療専門家によって決定される投与間隔を空けた間欠的なものであってもよい。
【0068】
本発明は、本明細書に記載されるLIMK1阻害剤が、所望の治療結果又は予防結果を促進し得る他の好適な作用物質と同時投与される併用療法を企図する。「同時投与される」とは、同じ製剤における、若しくは同じ若しくは異なる経路を介した2つの異なる製剤における同時投与、又は同じ若しくは異なる経路による逐次投与を意味する。「同時に」とは、活性作用物質が実質的に同時に投与されることを意味する。「逐次」投与とは、作用物質の投与間の数秒から数分、数時間又は数日の時間差を意味する。投与は、任意の順序であってもよい。
【0069】
本明細書に記載される各実施形態は、他に具体的に指定されない限り、変更すべき点を変更して、あらゆる実施形態に適用されるものとする。
【0070】
本明細書における任意の先行刊行物(又はそれから得られる情報)又は既知の任意の事柄への言及は、その先行刊行物(又はそれから得られる情報)又は既知の事柄が、本明細書が関連する努力傾注分野における共通の一般知識の一部を形成することの承認又は容認又はいかなる形の示唆ではなく、そのようにみなすべきではない。
【0071】
ここで、以下の具体的な実施例を参照して本開示を説明するが、これらの実施例は、いかなる形でも本開示の範囲を限定すると解釈すべきではない。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本開示の例示であり、本明細書全体を通して記載される開示の一般的性質をいかなる形でも限定すると解釈すべきではない。
【0073】
一般的方法
マウス。APP23は、ヒトスウェーデン突然変異体(K595N/M596L)アミロイド-β前駆体タンパク質(APP)をニューロンにおいて発現する(Sturchler-Pierrat et al., 1997, Proc Natl Acad Sci USA 94, 13287-13292)。Limk1-/-マウスは、以前に報告されている(Meng et al., 2002, Neuron 35, 121-133)。全てのマウスが純粋なC57Bl/6バックグラウンドであった。マウスは、標準的な個別換気ケージにおいて12時間の明/暗サイクルで標準的な固形飼料及び水を自由摂取させて飼育した。他に指定のない限り、雌雄両方のマウスを使用した。研究者は、データ分析が完了するまで遺伝子型について盲検化された。全ての実験がマッコーリー大学の動物倫理委員会によって承認された。
【0074】
記憶試験。マウスの記憶を、公開されたプロトコルに従ってT型水迷路パラダイム及びモリス水迷路において評定した(Ittner et al., 2010, Cell 142, 387-397、Ke et al., 2015, Acta Neuropathol 130, 661-678)。マウスの慢性処置は、10mg/kg LIMKi又はビヒクル(0.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース606(HPMC 606)、0.5%ポリビニルピロリドンk17(PVP k17)及び0.1%tween 80)の週3回又は4回の腹腔内注射によって行い、3ヶ月齢から開始して7ヶ月齢まで継続した。全てのマウスを試験前に試験室に馴化させた。
【0075】
脳波検査。海馬EEG記録は、以前に記載されているように埋込み遠隔計測電極(D.S.I.)を用いて行った(Ittner et al., 2014, Acta neuropathologica communications 2, 149)。全ての記録を送信器の埋込みの1週間後にマウスをホームケージに個別に収容して行った。化合物の投与は、マウスを一時的に拘束して腹腔内に行った。LIMK1阻害剤LIMKiのビヒクルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース606(HPMC 606)をポリビニルピロリドンk17(PVP k17)及びtween 80とともに、それぞれ0.5%、0.5%、0.1%の割合で含有するものであった。スパイク分析は、以前に記載されているようにNeuroscoreソフトウェアモジュール(D.S.I.)を用いて行った(Ittner et al., 2016, Science 354, 904-908)。θ波及びγ波の周波数間カップリングは、以前に記載されているように行った(Ittner et al., 2016, Science 354, 904-908)。
【0076】
組織染色。パラフィン包埋脳組織の染色は、以前に記載されているように行った(Ittner et al., 2010, Cell 142, 387-397)。一次抗体は、Aβ(6E10;Covance)、p-ADF/コフィリン(Sigma)及びADF/コフィリン(Sigma)に対するものであった。核をDAPI(Molecular Probes)で可視化した。ADF凝集体を連続海馬切片において計数した。
【0077】
LIMK1活性アッセイ。異なる濃度のLIMKi(又はDMSO)の非存在下又は存在下でのLIMK1活性を、市販のアッセイを用い、製造業者の説明書(Promega)に従って決定した。
【0078】
発作モデル。50mg/kg(体重)のペンチレンテトラゾールの腹腔内注射によって興奮毒性発作をマウスにおいて誘導した後、正方形のエリア(40cm×40cm)において観察した。発作のスコアリングは、以前に記載されているように行った(Ittner et al., 2010, Cell 142, 387-397)。LIMKi処置マウスについては、重症発作スコア5~7を単一のスコア5にまとめることによってスコアリングを調整した。どちらのスケールについても、軽度ないし中程度の発作は、5未満のスコアによって反映される。
【0079】
統計分析。全ての統計分析を、Prism 7ソフトウェア(GraphPad)を用いて行った。全ての値を平均及び標準誤差として提示する。0.05未満のp値を有意とみなした。
【0080】
実施例1-Limk1枯渇は、記憶欠損及び神経回路網異常を予防する
ヒト突然変異体APPのトランスジェニック発現を有するアルツハイマー病マウスモデルは、記憶欠損、Aβ病変及び早期死亡を呈し、これは興奮毒性と関連付けられている(Ittner and Gotz, 2011, Nat Rev Neurosci 12:67-72)。Limk1
-/-マウスは、長期増強が増大するが、記憶形成の根本的変化は見られない(Meng et al., 2002, Neuron 35:121-133)。Limk1がアルツハイマー病マウスにおける欠損に機能的に寄与するかを決定するために、本発明者らは、Aβ形成APP23マウスとLimk1
-/-系統とを交配し、APP23/Limk1
-/-マウスを得た。標準的なモリス水迷路(MWM)及びT型迷路試験によって記憶を評定した。APP23は、非トランスジェニック同腹仔対照と比較してMWMパラダイムにおいて著しい学習障害を呈し、Limk1
-/-マウスは、学習遅延の傾向を示した。興味深いことに、APP23/Limk1
-/-マウスは、Limk1
-/-マウスと同程度の学習プロファイルの改善を示した(
図1A)。これらの知見は、T型迷路試験によって確立された。習得時のパフォーマンスは、全ての遺伝子型で同程度であったが、APP23は、その後の試験セッションにおいて標的アームを記憶することができず、APP23/Limk1
-/-、Limk1
-/-マウス及び非トランスジェニックマウスは、この単純作業において同程度の記憶を示した(
図1B)。まとめると、Limk1枯渇は、APP23マウスの重度の記憶欠損を防いだ。
【0081】
APP23マウスは、脳波検査(EEG)記録における非痙攣性の無症候性発作活動、並びにヒトにおけるものを含む記憶形成に関係するモダリティであるEEG記録(Ittner et al., 2014, Acta Neuropath Comm 2:149)の無スパイクエピソード中のγパワーのθ位相変調の周波数間カップリング(CFC)の破壊を呈する。本発明者らは、自由行動マウスにおける記録のためにAPP23/Limk1
-/-マウス、並びにAPP23/Limk1
+/+、Limk1
-/-及びLimk1
+/+同腹仔に海馬電極の遠隔計測EEG送信器を埋め込んだ。APP23/Limk1
+/+マウスは、EEG記録において頻繁な過同期放電(hypersynchronous discharges)を呈したが、Limk1
-/-及びLimk1
+/+同腹仔の記録においては、かかる事象は殆ど検出されなかった(
図1C)。比較すると、APP23/Limk1
-/-マウスは、スパイク数の有意な低減を示したが、対照との有意差はなかった。APP23/Limk1
+/+マウスにおいては、無スパイクエピソード中のCFCが破壊された(データは示さない)。対照的に、APP23/Limk1
-/-マウスは、Limk1
-/-及びLimk1
+/+同腹仔の記録において検出されたものと同じCFCを8Hzで示した。したがって、APP23/Limk1
+/+マウスの変調指数(
図1D)及び振幅位相(
図1E)の有意な低減を、APP23/Limk1
-/-マウスにおいてLimk1
-/-及びLimk1
+/+同腹仔の記録のレベルまで正規化した。まとめると、APP23マウスの神経回路網異常は、Limk1のノックアウトによって緩和した。
【0082】
実施例2-Limk1欠損APP23マウスにおける病理及びAβ毒性の低減
アルツハイマー病を有する個体の脳切片においては、Aβプラーク付近のニューロンが、LIMK1の下流標的であるリン酸化ADF/コフィリン(p-ADF/コフィリン)に対して顕著に染色される(
図2A)。同様に、APP23マウスの脳におけるAβプラーク付近のニューロンは、p-ADF/コフィリンに対して標識された。非トランスジェニックマウス及びヒト対照においては、ニューロンの同様の集中的な標識は見られなかった(データは示さない)。ADF/コフィリン抗体によるAPP23/Limk1
+/+脳の染色から、海馬における幾つもの棒状構造が明らかとなった(
図2B)。対照的に、APP23/Limk1
-/-脳においては、かかる棒状構造は殆ど見られなかった。Limk1
-/-及びLimk1
+/+脳は、かかる封入体を有しなかった(データは示さない)。
【0083】
実施例3-薬理学的LIMK1阻害は、Aβ毒性からニューロンを保護し、APP23マウスにおいて回路網異常を緩和する
APP23/Limk1
-/-マウスにおいて示された改善(実施例1)を考慮して、本発明者らは、LIMK1阻害剤による処置が同様にAβ毒性を防止し、APP23マウスの欠損を改善し得るかを決定した。C57Bl/6初代マウスニューロンを、0.05μMオリゴマーAβ(oAβ)とともに下に示す化合物1(本明細書においてLIMKiとも称される)で処置し、樹状突起スパインの喪失及び細胞生存性を決定した。
【化9】
【0084】
Aβ処理ニューロンは、スパインの喪失及び生存性の低減を呈した。しかしながら、化合物1による前処置は、培養ニューロンのAβにより誘導される樹状突起スパイン喪失及び死滅からの用量依存的な保護をもたらした。次に、本発明者らは、化合物1の潜在的な短期的影響をin vivoで決定した。PTZで興奮毒性発作を誘導する30分前の10mg/kgの化合物1の投与は、C57Bl/6マウスにおいて平均発作重症度を有意に低減させ、重症発作の発生までの潜伏時間を増加させた(
図4A)。次に、本発明者らは、APP23マウスにおける神経回路網活性に対する急性化合物1投与の影響を試験した。薬物投与前の記録は、APP23マウスにおける頻繁な過同期放電を示した(
図4B)。同様に、ビヒクル注射後2時間にわたる記録の継続は、高いスパイク活動を示した。しかしながら、化合物1投与の30分後に、化合物1処置APP23マウスにおいては、ビヒクル処置APP23マウスと比較し、また注射前の記録と比較して過同期性が有意に減少した(
図4B)。さらに、化合物1投与の1時間後のCFCは、再確立された(データは示さない)。変調指数(
図4C)及び振幅位相(
図4D)の有意な低減を、APP23マウスにおける化合物1投与によって正規化した。このため、化合物1によるLIMK1の阻害は、ニューロンにおけるAβ毒性及びin vivoにおける興奮毒性からの保護をもたらした。さらに、化合物1でのAPP23の処置は、CFCを含む回路網異常を矯正した。
【0085】
実施例4-薬理学的LIMK1阻害は、APP23マウスにおいて記憶欠損を改善する
ニューロン及びAPP23マウスにおける化合物1の短期的影響(実施例3)から、本発明者らは、長期処置がAPP23マウスにおいて記憶欠損を改善し得るかを試験した。3ヶ月齢のAPP23マウスを4ヶ月間処置した後、MWMにおける記憶試験に供した。APP23マウスは、3ヶ月齢で顕著な記憶欠損を呈し、これは加齢とともに進行する(Ittner et al., 2016, Science 354:904-908)。処置の効果を隠す可能性がある星状膠細胞媒介性Aβクリアランスの潜在的阻害を回避するために間欠的処置スケジュールを選択した。7ヶ月齢では、ビヒクル処置APP23マウスは、ビヒクル処置非トランスジェニックマウスと比較して有意な記憶欠損を呈した(
図4E)。Limk1
-/-マウスと同様に、化合物1による慢性処置は、非トランスジェニックマウスにおいて学習を遅延させた。化合物1投与により、4ヶ月の処置後のAPP23マウスの記憶力が改善した。
【国際調査報告】