(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(54)【発明の名称】アルミニウム製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/057 20060101AFI20221118BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20221118BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20221118BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20221118BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221118BHJP
【FI】
C22F1/057
C22F1/05
C22F1/053
C22F1/047
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 691B
C22F1/00 692Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 602
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 683
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519197
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2020076893
(87)【国際公開番号】W WO2021058737
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519340400
【氏名又は名称】インペリアル・カレッジ・イノベーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL COLLEGE INNOVATIONS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,ツゥタオ
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジングォ
(72)【発明者】
【氏名】ディーン,トレバー
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,ルイクァン
(57)【要約】
アルミニウムブランクワークピースからターゲット形状に部品を形成する方法が開示され、この方法は、(a)1組の金型の間でアルミニウムブランクワークピースを冷間成形し、完全にまたは部分的にターゲット形状に形成された構成要素を生成するステップと、(b)溶体化熱処理(SHT)温度以上に加熱し、SHTが完了するまでその温度を実質的に維持することによって、完全にまたは部分的に形成された構成要素を溶体化熱処理し、それによって、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された構成要素を生成するステップと、(c)1組の金型の間に保持されている間に、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された構成要素を急冷し、金型の間に保持して、急冷と同時に追加の成形を提供して、ターゲット形状に完全に形成された構成要素を生成するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムブランクワークピースからターゲット形状に構成要素を形成するアルミニウム製造方法であって、
1組の金型の間で前記アルミニウムブランクワークピースを冷間成形し、完全にまたは部分的に前記ターゲット形状に形成された前記構成要素を生成するステップ(a)と、
溶体化熱処理(SHT)温度以上に加熱し、SHTが完了するまでその温度を実質的に維持することによって、完全にまたは部分的に形成された前記構成要素を溶体化熱処理し、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された前記構成要素を生成するステップ(b)と、
前記1組の金型の間に保持されている間に、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された前記構成要素を急冷し、前記金型の間に保持して、急冷と同時に追加の成形を提供して、前記ターゲット形状に完全に形成された前記構成要素を生成するステップ(c)と、を有する、アルミニウム製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)において、前記アルミニウムブランクワークピースは、0~100℃、好ましくは、15~30℃の温度で冷間成形される、請求項1に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)における冷間成形の温度は、前記ステップ(a)における冷間成形の前のステップにおいて、前記1組の金型および/または前記アルミニウムブランクワークピースの温度処理によって制御される、請求項1または2に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)において形成された前記構成要素は、前記ターゲット形状に対して部分的に形成され、
部分的に形成された前記構成要素は、前記ステップ(c)において、前記ターゲット形状に対して完全に形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)において、前記構成要素は、前記ターゲット形状に対して20~100%に形成される、請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項6】
前記1組の金型には、成形中に前記アルミニウムブランクワークピースを把持し、成形中の前記アルミニウムブランクワークピースの流れを制御するように構成された1つ以上の突起を有するグリップが設けられ、
前記ステップ(a)および前記ステップ(c)が存在する場合、成形中に前記アルミニウムブランクワークピースを把持する前記グリップを使用する工程をさらに有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)で使用される前記1組の金型は、第1の1組の金型であって、前記ステップ(c)で使用される前記1組の金型は、第2の1組の金型である、
または、
前記ステップ(a)で使用される前記1組の金型、および前記ステップ(c)で使用される前記1組の金型は、同一である、請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウムブランクワークピースは、アルミニウムシートワークピースである、請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウムブランクワークピースは、アニールされる、またはテンパー条件T3、T4~T6、T7、FまたはWなどの任意のテンパー条件状態である、請求項1~8のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウムブランクワークピースは、完全にまたは部分的にアニールされる、またはT4またはT6テンパー条件状態であり、好ましくは、前記アルミニウムブランクワークピースは、完全にアニールされる、請求項1~9のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項11】
前記アルミニウムブランクワークピースは、アルミニウム合金である、請求項1~10のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項12】
前記アルミニウムブランクワークピースは、熱処理可能なアルミニウム合金または熱処理不可能なアルミニウム合金であって、好ましくは熱処理可能なアルミニウム合金である、請求項1~11のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウムブランクワークピースは、AA2XXX、A6XXX、またはAA7XXXシリーズ合金である、請求項1~12のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項14】
前記アルミニウムブランクワークピースは、AA5XXXシリーズ合金である、請求項1~12のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項15】
前記アルミニウムブランクワークピースは、O状態でアニールされたアルミニウム合金シート(例えば、AA6082アルミニウム合金)である、請求項1~14のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項16】
溶体化熱処理が行われる前記ステップ(b)は、前記ステップ(a)において形成された前記構成要素を450~600℃の範囲内の温度に加熱する、請求項8~15のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項17】
前記ステップ(b)において、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された前記構成要素は、前記ステップ(c)において、好ましくは1~20秒以内に、より好ましくは3~10秒以内に前記金型に移される、請求項1~16のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項18】
前記ステップ(c)において、前記1組の金型は、0~250℃、好ましくは150℃未満の温度に維持される、請求項1~17のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項19】
前記ステップ(c)において、前記アルミニウムブランクワークピースが熱処理可能なアルミニウム合金である場合、急冷は人工的なエージング温度以下の温度で実施し、熱処理不可能なアルミニウム合金である場合、急冷は冶金学的安定温度以下の温度で実施する、請求項13~18のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項20】
前記ステップ(c)において、急冷は、15℃/秒以上200℃/秒以下の速度で実施される、請求項1~19のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項21】
改良された機械的特性を得るために、形成された前記構成要素を人工的にエージングするステップをさらに有する、請求項1~20のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項22】
前記ステップ(a)及び/又は前記ステップ(c)において、前記1組の金型及び/又は前記構成要素との間の界面を潤滑するために潤滑剤を使用する、請求項1~21のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載のアルミニウム製造方法によって形成された構成要素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムワークピースから構成要素(コンポーネント)を形成するための方法、および前記方法によって製造された構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車、鉄道及び航空宇宙産業における車両の重量減少を達成するための現在の傾向は、アルミニウム、例えばアルミニウム合金シートから前記車両のためのパネル又は構成部品を形成する試みの増加をもたらした。車両の重量低減は特に燃料消費を低減し、二酸化炭素大気汚染を最小限に抑えるために重要である。また、軽量構成部品の使用は自動車用途ではハンドリング性能の向上、航空宇宙用途ではより重い荷重を運ぶことを可能にするなど、他の利点を提供し得る。これらの理由から、そのような用途のための構成部品をアルミニウム合金のような軽量合金から作ることが望ましい。車両の軽量化を図る上で、乗員の安全基準を維持・向上させることは重要であり、アルミニウムなどの軽量な新素材を用いて形成される部品・部品は、交換される素材と同等の強度が必要である。
【0003】
アルミニウム合金のような軽量合金から部品を形成する方法は、鋼のような材料から部品を形成する方法と異なりあまり研究あるいは開発されていない。鋼およびアルミニウム合金のような軽合金は、非常に異なるミクロ組織の発現機構を有し、従って、鋼形成プロセスは、軽合金を用いて効果的に構成部品を形成する方法と、一般的に同じ方法で適用することができない。アルミニウム合金を形成する際に遭遇する困難は室温(約20~25℃)でのその一般的に低い成形性(延性)であり、これは、形成され得る成形部品の複雑さを制限する。室温でのアルミニウム合金の低い成形性(低延性)は処理されたアルミニウム合金の粉砕された固体ブロックから作られたアルミニウム合金成分をもたらし、これは、合金の高いパーセンテージが無駄にされ、従って、高い製造コストをもたらした。
【0004】
WO2008/059242号は、アルミニウム合金シートを複雑な形状の構成部品に形成する方法を開示している。WO第2008/059242号に開示されている方法は、以下の一般的なステップを含む。
【0005】
(i)アルミニウム合金薄板をその溶体化熱処理(SHT)温度まで加熱し、SHTが完了するまでその温度を維持する工程と、(ii)薄板からの熱損失が最小限に抑えられるように薄板を1組の冷間金型に迅速に転写する工程と、(iii)冷間金型を直ちに閉じて、薄板を構成部品に形成する工程と、(iv)形成された構成部品の冷却中に、閉じられた金型に形成された構成部品を保持する工程と、を有する。
【0006】
SHTは特定の構成合金元素(析出物)をアルミニウム内の固溶体に溶解し、ステップ(iv)における冷却はアルミニウムを急冷し、急冷中の構成成分の析出および形成された部品の熱歪みを防止する。SHT後、材料は、成形に適した軟質形態である。この方法は以前の方法に勝る特定の利点を有するが、特定の欠点も有する。例えば、この方法を成功させるためには、シートが冷却する前に成形を行う必要がある。シートは急速に冷却する傾向がある(薄く比熱容量が低く、熱伝導率が高い)ので、成形は非常に迅速に行わなければならない。このことは、成形が非常に迅速なプレスを必要とするという点で問題である。このようなプレスは高温と高摩擦のために高価で工具寿命が短い。また、複合部品が完全に形成される前にシートが冷却する傾向があるため、複合部品を形成することは困難である。
【0007】
同様に、アルミニウム合金を室温よりかなり高い温度に、しかしSHT温度より低い温度に加熱すると、ある合金の成形性が改善され、複雑な幾何学的形状を有する部品の形成に役立つことが分かっている。また、このような加熱が、SHTおよびその後のさらなる成形の前に、成形ステップと組み合わされるか、または成形ステップの前に行われる(すなわち、熱間成形プロセスが行われる)場合、複雑な部品を形成することがより容易であることが見出された。特定の焼戻し状態(例えば、T4またはT6焼戻し状態)のアルミニウム合金が好ましく、同じプロセスを受けるO条件状態(アニールされた合金)などのいくつかの異なる状態は、低い機械的特性を有する成形部品をもたらすので、予備熱間成形とそれに続くSHTとを含むこれらのタイプのプロセスにおいてほとんど排他的に使用される。
【0008】
O条件状態アルミニウム合金は比較的高い成形性(延性)を有し、一般に、熱間成形/SHTプロセスで典型的に使用される他のアルミニウム合金(例えば、T4およびT6焼戻しアルミニウム合金)と比較して安価であるが、室温では強度が低く、SHTに必要とされる比較的長い時間で成形部品の熱歪みを適切に低減または回避し、次いで成形部品の良好な機械的特性を可能にするために急速冷却を達成することが困難であるため、このようなプロセスでは通常使用されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルミニウム合金シートなどのアルミニウム金属から構成要素を形成するための代替および/または改良された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様では、アルミニウムブランクワークピースからターゲット形状に構成要素(要素、部品)を形成する方法が提供され、この方法は、(a)1組の金型の間でアルミニウムブランクワークピースを冷間成形し、完全にまたは部分的にターゲット形状に形成された構成要素を生成するステップと、(b)溶体化熱処理(SHT)温度以上に加熱し、SHTが完了するまでその温度を実質的に維持することによって、完全にまたは部分的に形成された構成要素を溶体化熱処理し、それによって、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された構成要素を生成するステップと、(c)1組の金型の間に保持されている間に、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された構成要素を急冷し、金型の間に保持して、急冷と同時に追加の成形を提供して、ターゲット形状に完全に形成された構成要素を生成するステップと、を含む。
【0011】
この方法は、部品をターゲット形状(所定の形状)の成形部品に成形するためのものである。冷間成形、すなわちアルミニウムワークピースをその再結晶温度未満の温度で成形することはアルミニウム合金を歪み硬化させ、これは成形中の局所的な薄化を抑制し、より大きな変形(より大きな形状複雑性)を得ることを可能にし、成形された構成要素の静的および動的強度を増加させ、成形プロセス中のワークピースにおける裂け目または亀裂の可能性を一般に減少させる。
【0012】
ステップ(a)における冷間成形は、ステップ(b)およびステップ(c)と組み合わせて、より広範囲のアルミニウム合金を効果的に形成することを有利に可能にすることが見出された。第1の態様の方法は、冷間成形に起因する歪硬化のために、O条件状態のアルミニウム合金と共に効果的に使用され得る。冷間成形は高温での成形と比較して複雑ではなく、より少ないエネルギーを必要とし、従って、エネルギー使用に関して、温間/熱間成形プロセスよりもコスト節約を提供する。冷間成形に使用される金型は、部品に歪みや表面品質不良などの欠陥を付与する可能性のある加熱を排除するため、熱間金型に比べて制御が容易である。冷間成形は熱間成形と比較してより低い成形速度を使用することがあり、従って、冷間金型プロセスで使用される工具の寿命は、熱間成形プロセスの寿命よりも長いと理解される。
【0013】
ステップ(c)の焼き入れ後になるように十分な合金元素が固溶している場合には、ステップ(b)でSHTが完了し、任意の時効処理とし、所要の強度の析出硬化焼戻し材が形成される。SHT完了に必要な時間は形成される材料およびそれが曝される温度に依存するが、公知の技術を使用して実験的に決定され得る。
【0014】
ステップ(c)において、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された成分の急冷は、急冷がステップ(b)の後に溶体化熱処理された形成された部品に対して実施され得ることを意味する。ステップ(c)における1組の金型(金型の閉じた組)の間に保持することによって、完全にまたは部分的に形成された構成部品を焼き入れして急冷することは、急冷工程後の形成された構成要素におけるいかなる歪みも有利に最小限に抑える。
【0015】
第1の態様による方法に記載された工程の組み合わせは、析出物を含まないか、またはほとんど含まない冶金学的構造を有する材料において、スプリングバックがほとんどない複雑なターゲット形状の設計を可能にすることが見出された。
【0016】
アルミニウム合金の冷間成形温度での低延性は、ステップ(a)で形成される不完全な成形部品につながる可能性がある。形成された構成要素のターゲット形状に応じて、冷間成形ステップ(a)はターゲット形状に一致する構成要素をもたらしてもよいし、もたらさなくてもよい。ターゲット形状がステップ(a)で達成されない場合、ステップ(c)で達成されることが有利である。したがって、ステップ(a)で形成された構成要素は、形成された構成要素のターゲット形状に完全に形成されてもよく、または形成された構成部品のターゲット形状に向かって途中までの形状に部分的に形成されてもよい。ステップ(a)は、存在する場合、ステップ(c)における形成の負担を有利に減少させる。好ましくは、ターゲット形状がステップ(a)の形成において完全に達成されるが、ワークピースにおいてスプリングバックが示される場合(おそらく、SHTステップ(b)の結果として)、二次成形工程を、スプリングバック効果を除去するために、急冷ステップ(c)において使用してもよい。
【0017】
ステップ(a)において、アルミニウムワークピースは、0~100℃、好ましくは15~50℃、最も好ましくは15~30℃の温度で冷間成形され得る。
【0018】
冷間成形ステップ(a)の温度は、ステップ(a)における冷間成形の前のステップにおいて、1組の金型、および/またはアルミニウムブランクワークピースの温度処理によって制御されてもよい。
【0019】
ステップ(a)で形成される部品は、ターゲット形成部品形状(ターゲット形状)の20%~100%、例えばターゲット形成部品形状の20%~60%、ターゲット形成部品形状の30%~70%、または80%~100%に形成されてもよい。部分成形はSHT処理前に、初期プレスにおける加工物の緊密な曲がりから生じる可能性のあるあらゆる故障を回避するために有利に使用されてもよい。
【0020】
1組の金型、すなわちステップ(a)における1組の金型および/またはステップ(c)における1組の金型は、加工物が金型の間に位置決めされるときに、成形中にワークピースを把持するように構成された1つ以上の突起を備えるグリップを備えてもよく、ステップ(a)および/またはステップ(c)は、成形中にワークピースを把持するためにグリップを使用することをさらに含む。グリップ及び突起を使用することは、成形中のアルミニウムブランクワークピースの金型への流れを有利に制御し、構成要素の裂け目又は割れの可能性を減少させつつ、構成要素におけるしわを防止することが分かっている。1つ以上の突出部は、ドロービードと呼ばれてもよい。この方法は、グリップがワークピースを把持するときに、突起を受け入れてワークピースを突起の間で把持するように構成された窪みを、グリップに設けることを更に含むことができる。
【0021】
ステップ(a)で使用される金型は、第1の1組の金型であってもよく、ステップ(c)で使用される1組の金型は、第2の1組の金型であってもよい(すなわち、異なる金型がステップ(a)およびステップ(c)で金型に使用されてもよい)。あるいは、ステップ(a)およびステップ(c)で使用される金型が同じ金型(すなわち、同じ金型)であってもよい。
【0022】
ステップ(a)およびステップ(c)における金型が同じ金型である場合、ドロービード(存在する場合)はそれらが第1の形成ステップ(a)の間により広がり、ステップ(c)の間により広がらないように、取り外し可能または調節可能であり得る。
【0023】
ステップ(a)で用いたアルミニウムブランクワークピースは、アルミニウムシートワークピースであってもよい。ステップ(a)で使用されるアルミニウムブランクワークピースはアニールされてもよく、またはテンパー条件T3、T4~T6、T7、O、FまたはWなどの任意のテンパー条件状態であってもよく、ステップ(a)で使用されるアルミニウムブランクワークピースは完全にまたは部分的にアニールされてもよく、またはT4またはT6テンパー条件状態であってもよいが、これらに限定されない。ステップ(a)で用いたアルミニウムブランクワークピースは、完全にアニールされてもよい。好ましくは、ステップ(a)で使用されるアルミニウムブランクワークピースが完全に歪み硬化されない。
【0024】
使用されるアルミニウムブランクワークピースは、アルミニウム合金すなわち成形可能なアルミニウム合金であってもよい。使用されるアルミニウムブランクワークピースは熱処理可能なアルミニウム合金または熱処理不可能なアルミニウム合金であってもよいが、熱処理可能なアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウムブランクワークピースが熱処理不可能なアルミニウム合金である場合、溶体化熱処理ステップ(b)は金属組織が安定したままであるように、金属学的に安定した温度以下に完全または部分的に形成された成分を加熱する加熱ステップであり、ステップ(c)は、ステップ(b)から加熱された完全または部分的に形成された構成要素を急冷するステップを含む。
【0025】
アルミニウムブランクワークピースは、AA2XXX、A6XXX、またはAA7XXXシリーズ合金であってもよい。アルミニウム合金は代替的に、AA5XXXシリーズ合金であってもよい。
【0026】
好ましくは、使用されるアルミニウムブランクワークピースはO状態でアニールされたアルミニウム合金シート(例えば、AA6082アルミニウム合金)である。
【0027】
溶体化熱処理ステップ(b)は、完全にまたは部分的に形成された構成要素を450~600℃の範囲内の温度に加熱することを含んでもよい。
【0028】
ステップ(c)では、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された構成要素に対して溶体化熱処理が完了すると、好ましくは1~20秒以内に、より好ましくは3~10秒以内に金型に移されて、好ましくは1組の金型に急速に移される。この時間枠(迅速な時間枠)はステップ(c)における急冷が実施される前に、溶体化熱処理された形成された成分に生じる、沈殿の発生のようなあらゆる悪い冷却効果を防止するのに十分である。
【0029】
ステップ(c)において、1組の金型は、0~250℃、例えば15~60℃、または20~25℃の温度に維持され得る。好ましくは、ステップ(c)における1組の金型が150℃未満の温度に維持される。
【0030】
ステップ(c)における1組の金型の温度は、熱エネルギーがその間に保持されている溶体化熱処理成形部品から伝達されるにつれて上昇する。1組の金型の温度を0~250℃、好ましくは150℃未満に維持することにより、金型は十分な冷却を行うことができ、析出エージングに適した急冷微細構造を達成することができる。
【0031】
ステップ(c)において、溶体化熱処理された成形部品は、局所冷却(部品の特定の部品を冷却する)を受けて、温度の一貫性、したがって部品内の実質的に均質な金属結晶構造を確保することができる。1組の金型は、局所的な冷却を提供するように構成することができる。ステップ(c)において、材料が熱処理可能なアルミニウム合金である場合、焼入れは材料の人工的なエージング温度以下の温度で実施してもよい。あるいはステップ(c)において、材料が熱処理不可能なアルミニウム合金である場合には材料の冶金学的安定温度以下の温度で焼入れを行ってもよく、それによって、合金のミクロ組織が安定したままであることが保証される。
【0032】
ステップ(c)において、焼き入れ(急冷)は15℃/秒以上から200℃/秒以下の速度で実施され得、例えば、溶体化熱処理された完全にまたは部分的に形成された成分の温度は、16℃/秒以上、20℃/秒以上、30℃/秒以上などの速度で冷却され得る。本明細書に記載の急冷(焼き入れ)は最終製品において、適切な冶金学的微細構造が達成されることを有利に保証し、低強度または低腐食性能などの低急冷速度に関連する有害な影響を回避する。
【0033】
本方法のステップ(c)は形成された構成部品に、急冷中のあらゆる不利な冷却効果から前記構成部品を保護するように構成された断熱材を提供するステップをさらに含むことができる。
【0034】
本方法は、形成された構成部品を人工的にエージングして、改善された機械的特性を得るステップ(d)をさらに含んでもよい。
【0035】
この方法は、ステップ(a)及び/又はステップ(c)において、1組の金型及び/又は1組の金型と部品との間の界面を潤滑するために潤滑剤を使用することを更に含むことができる。
【0036】
潤滑を用いて、成形性を改善するために、金型と工作物との間の界面摩擦を有利に減少させることができる。
【0037】
本発明の第2の態様では、本明細書に記載の第1の態様による方法によって形成された構成要素が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
以下、本発明の上記および他の態様を、一例として添付図面を参照して説明する。
【
図1a】本発明を、閉鎖位置で使用するのに適した1組の金型を示す。
【
図1b】本発明を、開放位置で使用するのに適した1組の金型を示す。
【
図2】本発明の一例に従って形成されたアルミニウム合金ワークピースの温度時間プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
第1の態様の例示的方法の詳細な説明は
図1を参照して、O状態の完全にアニールされたアルミニウム合金シート(以下、「加工物」と称する)のブランクからターゲット形状の構成要素を形成することに関連して与えられる。以下の詳細な実施例は、完全にアニールされたアルミニウムのブランクを形成することを記載するが、本明細書に開示された方法は部分的にアニールされたアルミニウムブランク又は他のアルミニウム合金から作製されたブランクを形成するためにも有効に使用することができる。
【0040】
ワークピースは最初に、第1の金型ツールによって受け取られる。ワークピースはアニールされたアルミニウム合金シートのロールから第1の金型ツールに供給されてもよく、それによって、ブランクは金型ツールがシートを受け取ったときに適切な寸法にシートを切断することによって形成されるか、または所望の寸法に予め切断されていてもよい。
【0041】
第1の金型ツールは、アイテム100において
図1a及び
図1bに一般的に示されているような冷間成形用の従来型の成形金型ツールであってもよい。
図1a及び
図1bはそれぞれ、開位置及び閉位置の成形用金型ツールを示し、これは、対応するパンチプレート102及びキャビティ(金型)プレート104の部品がそれぞれオス及びメスの関係で嵌合するように構成されており、これらの部品がプレス部品によってワーク112との間で共に(
図1bに示すように)一緒に押圧されると、部品がワーク112の外に形成されて中間部品を形成するようになっている。
【0042】
金型ツールは、成形プロセス中に加工物を把持するように構成された、項目106において一般的に示されている1つ以上のグリップセットを備える。グリップセット106は、成形中の金属の流れを制御し、成形中のワーク112のしわを防止するか、又は少なくとも最小限に抑えるのを助ける。グリップセット106は、プレート102及びプレート104のエッジの周囲、及びワーク112の上方及び下方に配置された2つの部品106a及び106b内に設けられている。一緒にされると、部品106a及び106bはそれらがワーク112をクランプし、把持するように構成される。グリップセット106は、成形中にワーク112を把持するグリップセット106を補助するドロービードセットを備えることができる。ドロービードセットの突出部108は、ワーク112をクランプする際に(
図1bに示す)窪み部110に入り、それらの間にワーク112を捕捉し、ワーク112を保持する曲がりくねった経路を形成することによって、ワーク112のグリップを向上させるように、グリップから突出するように構成されている。第1のステップで形成された中間構成要素は所望のターゲット形状に形状が一致していてもよく、または一致していなくてもよく、すなわち、第1のステップで形成された構成要素は、ターゲット形状に完全にまたは部分的に形成されてもよい。第1の金型ツール100はパンチおよびキャビティプレート部品の温度を所望の温度に維持するために、液体冷却システムを備えていても、備えていなくてもよい。
【0043】
この方法の第1のステップは、
図2の項目(1)に一般的に示される冷間成形ステップであり、典型的な冷間成形条件下で実施される。冷間成形ステップは、冷間成形温度、例えば室温(約20℃)で実施される。ワークとしてO条件焼鈍アルミニウム合金を用い、成形速度は1ミリメートル毎秒から200ミリメートル毎秒の範囲である。この冷間成形プロセスには、冷間成形プロセスに適したタイプの従来の潤滑剤を使用することができる。
【0044】
中間部品は第1の金型ツールから取り出され、第2のステップ(
図2の項目(2)で一般的に示される)で、材料のSHT(アニールされたアルミニウム合金の場合、450~600℃)以上に加熱され、SHTが完了し、溶体化熱処理された中間部品が形成されるまで、その温度で浸漬される。溶体化処理のための温度での浸漬時間は合金の種類に依存し、公知の技術を用いて実験的に決定することができる。第1のステップで第1の金型ツールによって形成された中間部品を除去するステップと、第2のステップで中間部品を加熱するステップとの間の転写時間については、特別な要件はない。
【0045】
いったんSHTが完了すると、
図2の項目(3)に一般的に示されている第3のステップにおいて、溶体化熱処理された中間部品が移送され、急冷のための第2の金型ツールの閉じた金型と第2の成形ステップとの間に位置決めされる。
【0046】
溶体化熱処理された中間部品は、加熱がもはや適用されなくなるとすぐに、例えば1~10秒以内に、できるだけ迅速に第2の金型ツールに移される。第3のステップにおける成形速度は、50ミリメートル/秒~500ミリメートル/秒の範囲である。1組の金型を保持するための圧力は、1メガパスカル~30メガパスカルの範囲である。保持時間(つまり、必要な圧力でワークを閉じた金型スツールの間に保持する時間)は、2秒~15秒の範囲である。
【0047】
第2の金型ツールのパンチおよびキャビティプレート部分の温度は、溶体化熱処理された中間部品がそれらの間に配置されるとき、室温である。熱エネルギーは、閉鎖された第2の金型ツールの間にあるときに、溶体化熱処理された中間部品から第2の金型ツールに伝達されるのであろう。第2の金型ツールは、中間部品に接触する部品の温度が150℃未満に留まるように構成される。液体冷却はその温度を制御するために、第2の金型ツールによって採用されてもよい。溶体化熱処理された中間部品は、密閉された第2の金型ツールの間に保持されるとき、粗い相の形成を防止するために、好ましくは15℃/秒を超える速度で急速に冷却される。言い換えれば、第2の金型ツールの内側に形成される部品は急冷される。あるいは、溶体化熱処理された中間構成要素が第2ステップの後(SHTの後、第2の金型ツールに入る前)に急速に冷却されてもよい。冷却速度の正確な制御は、それが毎秒15℃を超える限り必要ではない。冷却速度に影響を及ぼす可能性がある考慮すべき要因は、ブランクサイズ、ブランク厚さ、保持圧力などである。第2の金型ツールは、第1の金型ツールのグリップに関連して上述したものに従って、グリップを備えることができる。特定の焼入れ速度は、好ましくは使用される特定の合金、およびその成分の最終的な機械的および腐食の要件に基づいて選択されるべきである。例えば、2024のような2XXXまたは7XXXX合金は良好な耐食性を達成するために、毎秒摂氏約50度または毎秒摂氏約200度の急冷を必要とすることがある。あるいは7020のような感受性の低い合金がより低い焼入れ力を可能にするために、より遅く焼入れされてもよく、またはより精度の低いまたはより簡単なツーリングが使用されることを可能にしてもよい。成形性を改善するために、金型と加工物との間の界面摩擦を減少させるために、第1および/または第2の金型ツールに潤滑剤を塗布してもよい。第1の金型ツールのための潤滑剤は冷間成形プロセスでの使用に適した任意の潤滑剤であってよく、第2の金型ツールのために、高温での使用に適した任意の潤滑剤であってよく、第2の金型ツールによって受け取られたときに、ワークは、最初が第2の金型ツールによって受け取られ、急冷プロセスの急冷温度となる。
【0048】
熱処理可能なアルミニウム合金部品の仕上げステップとして、追加の人工エージングステップ(
図2には不図示)をプロセスの最後に導入して、析出硬化を可能にし、それによって、増加した硬度および強度を達成することができる。
【0049】
第1および第2の金型ツールの形状(すなわち、パンチプレートおよびキャビティ(金型)プレートの形状)は、互いに実質的に同一であってもよく、またはそれらの形状が異なっていてもよい。形状の相違は、第1の冷間成形ステップにおける部分成形を促進するために使用されてもよく、例えば、第1の金型ツールの形状はターゲット形状の方に20~100%あってもよく、部分的に形成された中間部品を製造し、第2の金型ツールの形状はターゲット形状(すなわち、ターゲット形状の100%)に一致してもよい。第1及び第2の金型ツールが同じである場合には、第1の形成ステップにおける部分的な形成が形成力及び時間のような形成変数を変化させることによって達成することができる。第2の金型ツールは、溶体化熱処理された中間部品を「オーバーフォーミング」して、成形後に起こると予想されるあらゆる歪み効果を考慮に入れるように成形することができる。このようにして、第1(冷間)成形ステップで成形された部品に対して目標形状の方に20~100%の中間部品を製造し、第2の成形ステップで成形された部品に対して目標形状の100%である成形部品を達成するために、同じ金型ツール又は異なる金型ツールを使用することができる。第1の金型ツール及び/又は第2の金型ツールにおける整形の度合い(ターゲット形状に向かうパーセンテージ)が決定される方法は限定されるものではないが、例えば3Dスキャナを用いて寸法を測定し、次いで測定値をターゲット形状の対応する値と比較することを含み得る。
【0050】
本明細書に開示される方法は、アルミニウム合金を形成する従来の方法から著しく逸脱している。当業者は、ここに開示された方法が限定ではなく例として教示することを理解するのであろう。したがって、上記の説明に含まれる、または添付の図面に示される事項は例示的なものとして解釈されるべきであり、限定的な意味で解釈されるべきではない。以下の特許請求の範囲は本明細書に記載されるすべての一般的および特定の特徴、ならびに、言語の問題として、それらの間にあると言われ得る、方法の範囲のすべてのステートメントを包含することが意図される。
【国際調査報告】