(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(54)【発明の名称】フラビウイルス非構造NS1タンパク質と血漿リポタンパク質との間に形成される新規複合体
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20221118BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221118BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221118BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20221118BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20221118BHJP
C07K 14/08 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
G01N33/569 L
G01N33/543 501A
G01N33/53 W
C07K16/10
C07K16/18
C07K14/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519299
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2020077014
(87)【国際公開番号】W WO2021058809
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508029653
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】516142137
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール・デュ・カンボージュ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マリー・フラマンド
(72)【発明者】
【氏名】キュ-ホ・ポール・パク
(72)【発明者】
【氏名】ソーヘイラ・ベンフリド
(72)【発明者】
【氏名】キャロル・タミエッティ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ヴォス
(72)【発明者】
【氏名】ファスリ・クリバリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアスナ・ドゥオン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・デュサール
(72)【発明者】
【氏名】アナヴァジ・サクンタバイ
(72)【発明者】
【氏名】クェンティン・ギアイ・ギアネット
(72)【発明者】
【氏名】マリエッテ・マトンド
(72)【発明者】
【氏名】マリアーノ・デリャロレ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ボンタン
(72)【発明者】
【氏名】フェリクス・レイ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明は、感染の臨床期中にフラビウイルス非構造糖タンパク質NS1及び血漿リポタンパク質粒子によって生体試料中に形成される複合体を検出することを含む、フラビウイルス誘発性感染の早期検出、モニタリング及び予後のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から得られる生体試料中のフラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在又はレベルを検出する工程を含む、フラビウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのためのインビトロの方法。
【請求項2】
a.前記生体試料を、前記フラビウイルスNS1に特異的な抗体又は血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させて、免疫反応産物を形成する工程;
b.前記免疫反応産物の存在を検出する工程;並びに
c.NS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される前記複合体を定量する工程
を含む、請求項1に記載のインビトロの方法。
【請求項3】
a.前記生体試料を、前記フラビウイルスNS1に特異的な抗体と接触させて、第1の免疫反応産物を形成する工程;
b.前記第1の免疫反応産物を、血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させて、第2の免疫反応産物を形成する工程;
c.前記第2の免疫反応産物の存在を検出する工程;並びに
d.NS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される前記複合体を定量する工程
を含む、請求項2に記載のインビトロの方法。
【請求項4】
前記複合体の量が、固体支持体上にコーティングされた前記フラビウイルスNS1に特異的な前記抗体、及び検出抗体としての血漿リポタンパク質に特異的な前記抗体を使用する捕捉ELISAによって決定される、請求項2又は3に記載のインビトロの方法。
【請求項5】
血漿リポタンパク質に特異的な抗体に対して産生され、適切な標識にコンジュゲートされる第3の抗体が、第2の免疫反応産物の存在を検出するために使用される、請求項2から4のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項6】
前記血漿リポタンパク質粒子が、高密度リポタンパク質(HDL)粒子、好ましくはアポリポタンパク質A1(ApoA1)陽性リポタンパク質粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項7】
血漿リポタンパク質に特異的な前記抗体が、アポリポタンパク質A1(ApoA1)に特異的な抗体である、請求項2から6のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項8】
前記血漿リポタンパク質粒子が、低密度リポタンパク質(LDL)粒子、好ましくはアポリポタンパク質B陽性リポタンパク質粒子である、請求項1から5のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項9】
血漿リポタンパク質に特異的な前記抗体が、アポリポタンパク質B(ApoB)に特異的な抗体である、請求項2から5及び8のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項10】
血漿リポタンパク質に特異的な前記抗体が、アポリポタンパク質E(ApoE)に特異的な抗体である、請求項2から6及び8のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項11】
フラビウイルスに感染した対象における重症型のフラビウイルス感染の予後のためのものであり、複合体のレベルが高いほど、重症型のフラビウイルス感染を発症するリスクが低い、請求項1から10のいずれか一項に記載のインビトロの予後方法。
【請求項12】
一次感染又は急性感染中に得られる生体試料において行われる、請求項11に記載のインビトロの予後方法。
【請求項13】
前記複合体が、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)及び血漿高密度リポタンパク質(HDL)粒子、好ましくはアポリポタンパク質A1(ApoA1)陽性リポタンパク質粒子によって形成される、請求項11又は12に記載のインビトロの予後方法。
【請求項14】
疾患中の異なる時点で前記対象から得られる生体試料に対して実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載のインビトロのモニタリング方法。
【請求項15】
前記試料中のフラビウイルスNS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在が、フラビウイルス感染を示す、請求項1から10のいずれか一項に記載のインビトロの診断方法。
【請求項16】
フラビウイルスNS1及びHDL粒子によって形成される複合体、好ましくはフラビウイルスNS1及びApoA1陽性リポタンパク質粒子によって構成される複合体が定量される、請求項15に記載のインビトロの診断方法。
【請求項17】
フラビウイルスNS1-HDL粒子の複合体及び/又はフラビウイルスNS1-LDL粒子の複合体及び/又はフラビウイルスNS1-他の血漿リポタンパク質粒子の複合体、好ましくは、フラビウイルスNS1-Apo1陽性リポタンパク質粒子の複合体、フラビウイルスNS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の複合体、及び/又はフラビウイルスNS1-ApoB陽性リポタンパク質粒子の複合体を定量するために、前記対象から得られる生体試料に対して繰り返し実施される、請求項15又は16に記載のインビトロの診断方法。
【請求項18】
請求項1、6及び8のいずれか一項に記載のフラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を含む、フラビウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのためのバイオマーカー。
【請求項19】
フラビウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのための、対象から得られる生体試料中の請求項18に記載のバイオマーカーの存在又はレベルの使用。
【請求項20】
それを必要とする対象におけるフラビウイルス感染又は関連疾患を治療する方法であって、
- 請求項1から10及び15から17のいずれか一項に記載の方法に従って、前記対象から得られる生体試料中の前記フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在又はレベルを検出することによって、個体におけるフラビウイルス感染を診断する工程であって、前記複合体の存在又はレベルが、前記対象におけるフラビウイルス感染を示す、工程;並びに
- 前記個体が、フラビウイルス感染と診断された場合、適切な治療を施す工程
を含む、方法。
【請求項21】
対象から得られる生体試料中のフラビウイルスNS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を検出するキットであって:
a.前記フラビウイルスNS1に特異的な抗体;
b.血漿リポタンパク質に特異的な、好ましくはHDLに特異的な、より好ましくはApoA1に特異的な抗体;並びに好ましくは更に、ApoB及び/又はApoEに特異的な抗体;
c.前記2つの抗体と、前記フラビウイルスNS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される前記複合体との間の免疫反応産物の産生を検出するための手段
を含む、キット。
【請求項22】
対象から得られる生体試料中のフラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量するためのインビトロの方法であって:
a.前記生体試料を、前記フラビウイルスNS1に特異的な抗体又は血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させて、免疫反応産物を形成する工程;
b.前記免疫反応産物の存在を検出する工程;並びに
c.請求項2から10のいずれか一項に記載の方法に従って、NS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される前記複合体を定量する工程
を含む、方法。
【請求項23】
前記フラビウイルスNS1が、デングウイルス由来のNS1であり、及び/又は前記フラビウイルス感染が、デングウイルス感染である、請求項21に記載のキット、請求項1から17及び22のいずれか一項に記載のインビトロの方法、請求項18若しくは19に記載のバイオマーカー若しくはその使用、又は請求項20に記載の治療方法。
【請求項24】
前記生体試料が、血液、血漿又は血清である、請求項21若しくは23に記載のキット、請求項1から17及び22のいずれか一項に記載のインビトロの方法、請求項18若しくは19に記載のバイオマーカー若しくはその使用、又は請求項20に記載の治療方法。
【請求項25】
前記対象が、人間である、請求項21及び23から24のいずれか一項に記載のキット、請求項1から17及び22のいずれか一項に記載のインビトロの方法、請求項18若しくは19に記載のバイオマーカー若しくはその使用、又は請求項20に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビウイルス感染、特にデングウイルス感染の診断、モニタリング及び予後方法に関する。本発明は、フラビウイルス非構造糖タンパク質NS1及び血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の検出及び/又はレベルを測定する工程を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デングは、128ヶ国、39億人を脅かす世界的蚊媒介性ウイルス疾患であり、世界の熱帯及び亜熱帯地域における入院及び死亡の主な原因となっている。デングウイルスは、主に種ネッタイシマカ(Aedes aegypti)及び、比較的程度は低いがヒトスジシマカ(Ae. Albopictus)のメスの蚊によって伝播される。デングは、フラビウイルス科のウイルスによって引き起こされ、デングを引き起こすウイルスの4つの、異なるが密接に関連する血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3及びDEN-4)がある。4つのデングウイルス血清型は、年間3億9,000万人(95%信頼区間2億8,400万~5億2,800万人)を感染させると推定され、そのうち9,600万人(6,700~1億3,600万人)が臨床徴候を示す(いずれかの疾患重症度で)(Bhattら 2013)。
【0003】
デングの臨床的特徴は、中程度状態から生命を脅かすまでの幅広い症状である。より稀に、デングウイルス感染の非定型的発症は、劇症肝炎、心筋症、急性腎不全、及び脳症を伴う場合がある。疾患の経過は3段階に分けることができる:(i)非特異的臨床徴候及び中程度の出血症状(点状及び粘膜出血)の可能性を伴う2~7日間続く急性発熱期、(ii)重度の出血、ショックを伴う血漿漏出、及び臓器障害を含む合併症が一部の患者に現れうる、一般には解熱時に生じるクリティカル期、並びに(iii)回復期。重度の症状を有するデング症例の早期の適切な管理は、死亡率を低下させる上で重要なステップである。
【0004】
WHOは、1974年に臨床分類によるデングに関する最初のガイドラインを提案し、これは1997年に改訂された。3つのカテゴリー-デング熱(DF)、デング出血熱(DHF)、及びデングショック症候群(DSS)-を含むこのWHO 1997年分類体系は、疾患の重症度の程度を正しく分類するのに前提となる臨床徴候及び/又は生物学的徴候に基づいている。更に、デング症例発病率がアジア及びアメリカ大陸で増加し、疾患が広まったとき、全範囲のデングに立ち向かう多くの臨床医は、トリアージ及び臨床管理にWHO 1997年症例定義を適用することの困難に遭遇した。デング症例管理を改善することを目的としたラテンアメリカ及びアジアの国にわたって実施された前向き臨床試験に続いて、WHOは2009年に新たな症例管理ガイドラインを立ち上げ(WHO 2009)、縦断的分類(次のステップに移る前に前のステップが必要とされる)の代わりに、危険な徴候を伴うデング症例又は重症デング(SVD)を同定するための基準を確立するデング症例の横断的分類を提供した。
【0005】
DENVは、3つの構造タンパク質(エンベロープ、膜及びカプシド)及び7つの非構造(NS)タンパク質(NS1、NS2a、NS2b、NS3、NS4a、NS4b及びNS5)をコードする小さなエンベローププラス一本鎖RNAである(Guzmanら 2010)。非構造タンパク質1(NS1)はDENV感染細胞におけるウイルス複製に関与し、様々な臨床グレードのデング病を経験している患者の血流に大量に排出されうる(Alcon-LePoderら 2006)。NS1は、補体及び凝固因子を結合すること、並びに血小板及び内皮細胞の表面抗原と交差反応する抗体産生の引き金を引くことが示されており、故にデング病における血小板減少及び出血の発生に役割を果たすことが提案されている(Rastogiら 2016)。より最近では、NS1の分泌型は、内皮透過性及び血管漏出をインビトロ及びインビボで促進すること、並びに重症デング症例で観察される炎症性サイトカインストームに決定的に寄与することが示された(de Silvaら 2018)。
【0006】
現在、副作用があり特異的療法ではないことを示しているデングウイルスに対するワクチンが市販されている。ワクチン接種の非存在下では、デングウイルスアウトブレイクのモニタリング及び血清マッピングが感染の制御及び封じ込めに極めて重要になる。デングウイルス感染の臨床症状は非常に非特異的であることから、臨床検査なしで診断を確認することは困難である。媒介昆虫及び発熱例を積極的にモニタリングするため、並びにデングウイルスに感染している疑いのある個体の血清学的及びウイルス学的スクリーニングを行うためのプログラムがWHOによって立ち上げられている。故に、デング感染に関する診断アッセイの開発が極めて重要である。
【0007】
早期診断は、患者の適切な適時の治療、致死率を1%未満に低下させる適切な医療へのアクセスに不可欠である。デングの現在利用可能な検査には、ウイルスRNAのRT-PCR、及びデング特異的抗体又はウイルスタンパク質の免疫学的検査が挙げられる。しかし、これらの検査の多くには著しい短所がある。例えば、ウイルスRNAのRT-PCRは高額な実験機器及び熟練の人材を必要とし、大規模に又は地方で使用することを難しくしている。いくつかのデング特異的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)は、感染経過中の後期に出現するIgM又はIgGを検出することができるが、早ければ感染2日目の診断がより好ましい。
【0008】
デング感染のための4つの診断方法、すなわちウイルス単離、ウイルスRNA検出、デング特異的IgM検出、及びNS1抗原検出の比較分析は、他の3つの方法と比べてNS1抗原検出は感度割合が最も高いことを明らかにした(Kumarasamyら 2007)。Alconら(2002)は、NS1検出のためのELISAを記載しており、NS1が一次及び二次感染中の患者の血清に高レベルで存在することを実証した。NS1は疾患の臨床期の間中検出可能であり、感染の最初の数日で検出することができる(早ければ発熱初日)。Falconar及びYoung(1991)は、DEN2ウイルスNS1に対する二量体特異的及びデングウイルス群交差反応性マウスモノクローナル抗体の産生、並びにNS1のためのELISAにおける特定のこれらの抗体の使用を記載している(Youngら 2000)。高レベルのNS1が急性期血清で見出されたが、DEN2ウイルス二次感染が血清学的に確認された患者の一部からの回復期血清では見出されなかった。PCT特許出願第WO 00/75665号は、NS1タンパク質を六量体型で検出するための方法、及びNS1分泌六量体型に対して作られる抗体の選択を、フラビウイルス感染の早期検出におけるそのような抗体の使用とともに記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】PCT特許出願第WO 00/75665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の根底にある問題はそれ故に、一般的に使用されるNS1マーカーと比べて診断及び予後的付加価値を有する新たなマーカーを提供すること、特に、重症デングを発症するリスクがある患者のより良い医療を可能にすること、及び死亡率を低下させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
問題は、特許請求の範囲に規定されている本発明によって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1-1】デングウイルス非構造NS1がヒトHDL及びLDLリポタンパク質粒子に結合することを示す図である。(A)NS1タンパク質単独(青い線)と比べたヒト血清(黒い線)では、インキュベーション後により低い溶出容量へ明らかにシフトしていることを示すNS1プルダウン実験のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイル。NS1タンパク質パートナーは、第1のSEC溶出ピーク中の低密度リポタンパク質(LDL)の足場、アポリポタンパク質B-48、及び第2の溶出ピーク中の高密度リポタンパク質(HDL)の足場、ApoA-lタンパク質として、SDS-PAGE及びN末端配列決定で同定された。(B)それぞれ、HDL(左のパネル)及びLDL(中央のパネル)粒子に対するNS1結合の滴定に関するバイオレイヤー干渉シグナル。HDL(黒い点)及びLDL(白い点)に対するNS1の結合シグナルにフィットさせた結合の定常状態単一分子モデルが、右側のパネルに示されている。
【
図1-2】デングウイルス非構造NS1がヒトHDL及びLDLリポタンパク質粒子に結合することを示す図である。(A)NS1タンパク質単独(青い線)と比べたヒト血清(黒い線)では、インキュベーション後により低い溶出容量へ明らかにシフトしていることを示すNS1プルダウン実験のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)プロファイル。NS1タンパク質パートナーは、第1のSEC溶出ピーク中の低密度リポタンパク質(LDL)の足場、アポリポタンパク質B-48、及び第2の溶出ピーク中の高密度リポタンパク質(HDL)の足場、ApoA-lタンパク質として、SDS-PAGE及びN末端配列決定で同定された。(B)それぞれ、HDL(左のパネル)及びLDL(中央のパネル)粒子に対するNS1結合の滴定に関するバイオレイヤー干渉シグナル。HDL(黒い点)及びLDL(白い点)に対するNS1の結合シグナルにフィットさせた結合の定常状態単一分子モデルが、右側のパネルに示されている。
【
図2-1】電子顕微鏡によるNS1-HDL及びNS1-LDL複合体の可視化を示す図である。NS1-LDL(A)、NS1-HDL(B)、及び精製NS1インプットタンパク質(C)の最も代表的な画分が2%ギ酸ウラニルでネガティブ染色され、Tecnai G2 Bio-Twin電子顕微鏡で解析された。画像はEagleカメラで取得され、Falcon II直接電子検出器に低線量モードで記録された。
【
図2-2】電子顕微鏡によるNS1-HDL及びNS1-LDL複合体の可視化を示す図である。NS1-LDL(A)、NS1-HDL(B)、及び精製NS1インプットタンパク質(C)の最も代表的な画分が2%ギ酸ウラニルでネガティブ染色され、Tecnai G2 Bio-Twin電子顕微鏡で解析された。画像はEagleカメラで取得され、Falcon II直接電子検出器に低線量モードで記録された。
【
図3】電子顕微鏡写真の画像処理が、HDL粒子の表面のNS1二量体の存在を明らかにする図である。(A、B)左から右に電子顕微鏡観察:精製HDL粒子(A)及びNS1-HDL複合体(B)の3つの最も代表的なクラスによる、代表的なe-m画像が示されている。(C)二量体型のNS1 3D構造の、NS1-HDL複合体の最も大量に存在するクラスへのフィット。
【
図4-1】NS1-HDL複合体が、ヒト初代マクロファージにおける炎症性サイトカインの産生の引き金を引くことを示す図である。マクロファージは4名の異なるドナーから回収され、指定されている種々のエフェクターと24時間インキュベートされた。陽性対照としてLPS刺激が使用された。インキュベーション期間の最後に、細胞培養上清が回収され、TNFα、IL-1β、IL-6及びIL-10の濃度がLuminexアッセイを使用して定量された。データは平均値+/- SEMを示す。二元配置分散分析(Anova)を使用して平均サイトカインレベルが比較された。
【
図4-2】NS1-HDL複合体が、ヒト初代マクロファージにおける炎症性サイトカインの産生の引き金を引くことを示す図である。マクロファージは4名の異なるドナーから回収され、指定されている種々のエフェクターと24時間インキュベートされた。陽性対照としてLPS刺激が使用された。インキュベーション期間の最後に、細胞培養上清が回収され、TNFα、IL-1β、IL-6及びIL-10の濃度がLuminexアッセイを使用して定量された。データは平均値+/- SEMを示す。二元配置分散分析(Anova)を使用して平均サイトカインレベルが比較された。
【
図5-1】(A)NS1抗原、(B)NS1-ApoA1/HDL複合体、又は(C)NS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の定量化のための標準的なELISAを示す図である。3つの異なるELISAの原理の略図が図の左側に示されている。(A)インビトロで再構成されたデングNS1の検量線。精製DENV-NS1が、ヒトドナーから得られた正常血漿中、既知濃度で、37℃で1時間30分インキュベートされた。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してDENV-NS1が捕捉され、結合したNS1-mAb17A12複合体がペルオキシダーゼ標識抗デングNS1 MAb (8G6)によって更に検出された。(B)DENV-NS1に関するインビトロで再構成されたデングNS1-HDL複合体の検量線。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してNS1-HDL複合体が捕捉され、結合した複合体が、市販の抗ApoAIポリクローナル抗体とそれに続く種特異的ペルオキシダーゼ標識二次抗体により更に検出された。(C)ApoEと形成されたNS1複合体を検出するための二次抗体として、抗ApoEポリクローナル抗体が代わりに使用された。x軸に報告された濃度値は、全てのNS1分子がこの実験設定では大過剰に存在するHDLに結合するという本発明者らの観察に基づく推定である、NS1当量濃度として示されている。全ての曲線は、少なくとも3セットの実験を代表している。
【
図5-2】(A)NS1抗原、(B)NS1-ApoA1/HDL複合体、又は(C)NS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の定量化のための標準的なELISAを示す図である。3つの異なるELISAの原理の略図が図の左側に示されている。(A)インビトロで再構成されたデングNS1の検量線。精製DENV-NS1が、ヒトドナーから得られた正常血漿中、既知濃度で、37℃で1時間30分インキュベートされた。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してDENV-NS1が捕捉され、結合したNS1-mAb17A12複合体がペルオキシダーゼ標識抗デングNS1 MAb (8G6)によって更に検出された。(B)DENV-NS1に関するインビトロで再構成されたデングNS1-HDL複合体の検量線。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してNS1-HDL複合体が捕捉され、結合した複合体が、市販の抗ApoAIポリクローナル抗体とそれに続く種特異的ペルオキシダーゼ標識二次抗体により更に検出された。(C)ApoEと形成されたNS1複合体を検出するための二次抗体として、抗ApoEポリクローナル抗体が代わりに使用された。x軸に報告された濃度値は、全てのNS1分子がこの実験設定では大過剰に存在するHDLに結合するという本発明者らの観察に基づく推定である、NS1当量濃度として示されている。全ての曲線は、少なくとも3セットの実験を代表している。
【
図5-3】(A)NS1抗原、(B)NS1-ApoA1/HDL複合体、又は(C)NS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の定量化のための標準的なELISAを示す図である。3つの異なるELISAの原理の略図が図の左側に示されている。(A)インビトロで再構成されたデングNS1の検量線。精製DENV-NS1が、ヒトドナーから得られた正常血漿中、既知濃度で、37℃で1時間30分インキュベートされた。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してDENV-NS1が捕捉され、結合したNS1-mAb17A12複合体がペルオキシダーゼ標識抗デングNS1 MAb (8G6)によって更に検出された。(B)DENV-NS1に関するインビトロで再構成されたデングNS1-HDL複合体の検量線。固定化抗NS1モノクローナル抗体(17A12)を使用してNS1-HDL複合体が捕捉され、結合した複合体が、市販の抗ApoAIポリクローナル抗体とそれに続く種特異的ペルオキシダーゼ標識二次抗体により更に検出された。(C)ApoEと形成されたNS1複合体を検出するための二次抗体として、抗ApoEポリクローナル抗体が代わりに使用された。x軸に報告された濃度値は、全てのNS1分子がこの実験設定では大過剰に存在するHDLに結合するという本発明者らの観察に基づく推定である、NS1当量濃度として示されている。全ての曲線は、少なくとも3セットの実験を代表している。
【
図6】入院したデングウイルス感染患者の血漿中NS1-ApoA1複合体の検出を示す図である。アポリポタンパク質A1は、HDLの足場タンパク質である。NS1-ApoA1複合体の濃度は、血漿試料中のウイルスリポタンパク質NS1-HDL粒子の存在量を代表している。NS1-ApoA1複合体は、危険な徴候を伴うデング(DWWS、n=36;パネルA、B)又は重症デング(SVD、n=19;パネルC、D)を示すとして分類された2つの群の入院患者において、
図5と同じようにELISAによって定量された。2つの群は、病院に入院後(ADM)若しくはフォローアップ診察中(F-VIS)(パネルA及びC)、又は入院時、及び病院に滞在中に回復した患者については退院時(パネルB及びD)に検査された。平均して、2つの血液試料が各患者から3~4日空けて回収された。各グラフの点線は陽性閾値を示す。
【
図7】入院したデングウイルス感染患者の血漿中NS1-ApoE複合体の検出を示す図である。
図6に記載された試料がApoE特異的ELISAを使用して検査された。
図5及び
図6に記載されたアッセイが、二次抗ApoA1ポリクローナル抗体を市販の抗ApoEポリクローナル抗体と置き換えることによって若干修正された。4つのパネルA、B、C及びDの説明は
図6と同一である。
【
図8】DWWS又はSVDのどちらかを示すデングウイルス感染患者における、NS1-ApoA1及びNS1-ApoEの濃度と疾患の重症度の間の相関検定を示す図である。DENV感染時にDWWS又はSVDのどちらかを発症した患者の2つの臨床群について、NS1-ApoA1(パネルA)又はNS1-ApoE(パネルB)複合体の濃度が別々にプロットされている。異なるパラメーターについて観察された平均値が平らなバーによって示され、二元配置分散分析(Anova)を使用して比較されている。
【
図9】HDLに結合するNS1タンパク質の能力がフラビウイルス間で共有されることを示す図である。異なるフラビウイルス由来のNS1とのNS1-ApoA1複合体のELISA検出。異なるフラビウイルス(黄熱、YF;ジカ;ウエストナイル、WN;日本脳炎、JE;ダニ媒介脳炎、TBE)由来の精製NS1が正常血漿中37℃で1時間30分スパイクされ、NS1-HDL複合体が捕捉ELISAによって更に検出された。検量線は、インビトロで再構成されたデングNS1-HDL複合体を使用して得られた。異なるフラビウイルスNS1-HDL複合体は、
図5に描かれている固定化抗デングNS1モノクローナル抗体(17A12)を使用して捕捉され、結合した複合体が、市販の抗ApoAIポリクローナル抗体とそれに続く種特異的ペルオキシダーゼ標識二次抗体により更に検出された。x軸に報告された濃度値は、全てのNS1分子がこの実験設定では大過剰に存在するHDLに結合するという本発明者らの観察に基づく推定である、NS1当量濃度として示されている。
【
図10】病院に入院時のデングウイルス感染患者におけるNS1-ApoA1及びNS1-ApoEの濃度と血漿漏出強度の間の相関検定を示す図である。NS1-ApoA1(A)又はNS1-ApoE(B)複合体の濃度は、超音波検査によって観察される胸水の強度に対してプロットされ、危険な徴候のデング患者(DWWS)について0(胸膜液は検出されない)、1(中程度の滲出)、及び2(大量の滲出)として採点される。全ての重症デング患者(SVD)はグレード2であった。NS1-ApoA1複合体に関して、患者のDWWSグレード0群とSVD群の間で統計的差異を観察でき(p=0.005)、NS1-ApoE複合体では観察できなかった(p=0.42; ns、有意でない)。
【
図11】入院したデングウイルス感染患者の血漿中NS1-ApoB複合体の検出を示す図である。アポリポタンパク質Bは、LDLの足場タンパク質である。NS1-ApoB複合体は、デングウイルス感染患者(n=7)又は非デング入院患者(n=3)においてELISA(A)(材料及び方法)によって定量された。2つの群は、病院に入院時(ADM)にNS1-ApoB複合体の存在について検査された。
【
図12】NS1-HDLリポタンパク質複合体の結合はNS1特異的MAbによって阻止されうることを示す図である。いくつかの抗デングNS1 MAbが精製NS1とインキュベートされ、得られた免疫複合体が固定化HDLに曝露された。NS1の残留結合能力は、
図1BのようにBLIによって測定された。精製NS1単独が陽性対照として使用された。注目すべきことに、NS1の非存在下で検査したMAbは、いずれもHDL粒子に結合しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、感染細胞によって非定型リポタンパク質粒子として分泌されるデングウイルスNS1が、血管恒常性、炎症及び血栓症に大きな役割を果たす血清高密度リポタンパク質粒子(HDL)、並びに程度はより低いが低密度リポタンパク質粒子(LDL)に強い親和性で結合することを見出した。NS1-HDL複合体(NS1タンパク質単独ではなく)は、初代ヒトマクロファージにおいてサイトカイン産生を誘導する。これは、この複合体が該ウイルスタンパク質の以前に報告されていない活性型であることを示唆するものである。同時に、本発明者らは、DENV感染患者におけるNS1-ApoA1、NS1-ApoB及びNS1-ApoE検出に基づく3種類のELISAを開発して、NS1とHDL間、NS1とLDL間、又はNS1とリポタンパク質粒子のより大きなパネル(場合によりHDL、IDL、LDL、VLDL及びカイロミクロン)間で形成される複合体の濃度をそれぞれ評価した。NS1-ApoA1複合体は、急性期血液試料の大多数で検出され、発熱の日数と逆相関しているようである。対照的に、NS1-ApoE複合体の濃度は12日間の観察期間中、時間とともに増加する。種々のウイルス学的及び臨床マーカーの生物統計解析は、NS1-HDL複合体の濃度が疾患の重症度の程度、特に血漿漏出強度と逆相関していることを明らかにした。NS1-HDL複合体は故に、NS1タンパク質自体より適切な、及びより大きな臨床試験でより十分にまだ評価されていない予後的付加価値を有する新規の診断マーカーとなる。
【0014】
したがって、本発明は、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と、高密度リポタンパク質粒子(HDL)、低密度リポタンパク質粒子(LDL)、中間密度リポタンパク質粒子(IDL)、超低密度リポタンパク質粒子(VLDL)及びカイロミクロンの中から選択される血漿中に存在する内因性リポタンパク質粒子によって形成される複合体に関する。
【0015】
特定の態様によれば、複合体は、強い親和性(平衡解離定数KD 63.8nM)で結び付くフラビウイルスNS1とHDL粒子によって形成される。より特定の態様によれば複合体は、フラビウイルスNS1とアポリポタンパク質A1(ApoA1)陽性リポタンパク質粒子によって形成される。
【0016】
特定の態様によれば、複合体は、NS1とHDL粒子より低い親和性(平衡解離定数KD 1.4nM)で結び付くフラビウイルスNS1とLDL粒子によって形成される。より特定の態様によれば複合体は、フラビウイルスNS1とアポリポタンパク質B(ApoB)陽性リポタンパク質粒子、又はフラビウイルスNS1とアポリポタンパク質E(ApoE)陽性リポタンパク質粒子によって形成される。
【0017】
本発明はまた、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と内因性リポタンパク質粒子、特に本開示による血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を含む、フラビウイルス感染又は関連疾患、好ましくはデングウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのためのバイオマーカーにも関する。
【0018】
本発明はまた、本開示によるフラビウイルス感染又は関連疾患、好ましくはデングウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのためのバイオマーカーとして上に定義されている、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と内因性リポタンパク質粒子、特に血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在又はレベルの使用にも関する。いくつかの好ましい実施形態では、NS1-HDL粒子複合体、好ましくはNS1-ApoA1陽性リポタンパク質粒子複合体が、フラビウイルス感染又は関連疾患の予後のためのバイオマーカーとして使用される。いくつかの他の好ましい実施形態では、NS1-血漿リポタンパク質粒子複合体、好ましくはNS1-ApoA1、NSI-ApoE及びNS1-ApoB陽性リポタンパク質粒子複合体のうちの1つ又は複数が、フラビウイルス感染又は関連疾患の診断のためのバイオマーカーとして使用される。いくつかの他の好ましい実施形態では、NS1-血漿リポタンパク質粒子複合体、好ましくはNS1-ApoA1及びNSI-ApoE陽性リポタンパク質粒子複合体のうちの1つ又は複数が、フラビウイルス感染又は関連疾患のモニタリングのためのバイオマーカーとして使用される。
【0019】
本発明はまた、対象から得られた生体試料中の、上に定義されているフラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在又はレベルを検出する工程を含む、フラビウイルス感染又は関連疾患の診断、予後又はモニタリングのためのインビトロの方法にも関する。
【0020】
複合体は、標準的な手法、例えば化学的、物理的又は他の手法を使用して、任意の適切な手段によって検出することができる。いくつかの実施形態では、複合体は免疫化学法を使用して検出される。
【0021】
本発明の目的のために、用語「非構造タンパク質1」は、「非構造糖タンパク質1」及び「NS1」と互換的に使用され、フラビウイルスに感染した哺乳動物細胞の培養上清から得られた、又は前記フラビウイルスのNS1タンパク質の遺伝子を含む発現系を使用して形質転換され、精製された天然タンパク質を包含する。NS1は、六量体型、単量体型、又は二量体型である。
【0022】
本発明はまた、対象から得られた生体試料中の、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と内因性リポタンパク質粒子、特に血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量するためのインビトロの方法であって:
a.生体試料を、フラビウイルスNS1に特異的な抗体及び/又は内因性リポタンパク質、特に血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させて、免疫反応産物を形成する工程と;
b.免疫反応産物の存在を検出する工程と、
c.NS1と内因性リポタンパク質粒子、特に血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量する工程と
を含む前記方法にも関する。
【0023】
いくつかの実施形態では、方法は:
a.生体試料をフラビウイルスNS1に特異的な抗体と接触させて、第1の免疫反応産物を形成する工程と;
b.前記第1の免疫反応産物を血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させて、第2の免疫反応産物を形成する工程と;
c.第2の免疫反応産物の存在を検出する工程と、
d.NS1と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量する工程と
を含む。
【0024】
本発明によるフラビウイルスの(flaviviral)及びフラビウイルス(flavivirus)は、特にデングウイルス、ウエストナイルウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス及び黄熱ウイルスを指し、これらを包含する。本発明の有利な実施形態によれば、フラビウイルスはデングウイルスである。
【0025】
用語「リポタンパク質粒子」は、本記載において「リポタンパク質」と互換的に使用され、高密度リポタンパク質(HDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、中間密度リポタンパク質(IDL)、超低密度リポタンパク質(VLDL)及びカイロミクロンを包含する。用語「HDL」、「LDL」、「VLDL」、「IDL」は、それぞれ「HDL粒子」、「LDL粒子」、「VLDL粒子」、「IDL粒子」と互換的に使用される。「NS1-ApoA1複合体」、「NS1-ApoE複合体」、「NS1-ApoB複合体」は、それぞれNS1とApoA1、ApoE、及びApoB陽性アポリタンパク質粒子の複合体を指す。
【0026】
本発明の特定の実施形態では、使用される抗体は、合成、モノクローナル、又はポリクローナル抗体であってもよく、当技術分野で周知の手法によって製造することができる。そのような抗体は、抗体の抗原結合部位を介して特異的に結合する(非特異的結合とは対照的)。モノクローナル抗体には、抗原結合断片、及びキメラ抗体、例えば、マウスモノクローナル抗体のヒト化バージョンが含まれる。
【0027】
前記方法の特定の態様によれば、フラビウイルスNS1に特異的な抗体は捕捉抗体として使用され、血漿リポタンパク質粒子に特異的な抗体は検出抗体として使用される。
【0028】
前記方法の有利な実施形態によれば、フラビウイルスNS1に特異的な抗体は固体支持体上にコーティングされ、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は検出又は顕色抗体(revelation antibody)である。この顕色抗体は、場合により適切な標識にコンジュゲートされる。
【0029】
前記方法の別の有利な実施形態によれば、血漿リポタンパク質に特異的な抗体が標識にコンジュゲートされない場合、この抗体に対して産生され、適切な標識にコンジュゲートされる第3の抗体が、第2の免疫反応産物の存在を検出するために使用される。前記第3の抗体は、従来使用されている抗体、例えば、この抗体に対して作られ、特にヤギ、ブタ又はロバで産生されるIgG等である。使用される標識の中では、蛍光標識、ビオチン/ストレプトアビジン系、非同位体標識又は酵素、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ等に言及することができる。
【0030】
前記方法の別の有利な実施形態によれば、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、ApoEに特異的な抗体である。
【0031】
前記方法の別の有利な実施形態によれば、血漿リポタンパク質粒子は、高密度リポタンパク質(HDL)粒子である。その場合、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、アポリポタンパク質A1(ApoA1)に特異的な抗体であってもよい。
【0032】
前記方法の別の有利な実施形態によれば、血漿リポタンパク質粒子は、低密度リポタンパク質(LDL)粒子である。その場合、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、アポリポタンパク質Bに特異的な抗体であってもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と内因性リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量するためのインビトロの方法は、最初に生体試料を血漿リポタンパク質に特異的な抗体と接触させる工程と、次に生体試料をフラビウイルスNS1に特異的な抗体と接触させる工程とを含む。
【0034】
いくつかの他の実施形態では、フラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と内因性リポタンパク質粒子によって形成される複合体を定量するためのインビトロの方法は、生体試料を、血漿リポタンパク質に特異的な抗体及びフラビウイルスNS1に特異的な抗体と同時に接触させる工程を含む。
【0035】
本発明はまた、フラビウイルスに感染した対象における重症型のフラビウイルス感染のインビトロ予後方法であって、感染後、及び好ましくは一次感染又は急性感染中に対象から得られる生体試料に関して、上に記載される複合体NS1-血漿リポタンパク質粒子を定量するためのインビトロの方法を実施する工程を含み、複合体のレベルが高いほど、重症型のフラビウイルス感染を発症するリスクが低い、方法にも関する。前記方法の好ましい実施形態では、複合体は、フラビウイルスNS1とHDL、好ましくはフラビウイルスNS1とApoA1陽性リポタンパク質粒子によって形成される。
【0036】
本発明はまた、フラビウイルスによって感染した対象におけるフラビウイルス疾患をモニタリングするためのインビトロの方法であって、フラビウイルス疾患中の異なる時点で前記対象から得られた生体試料に関して、上に記載される複合体NS1-血漿リポタンパク質粒子を定量するための方法を実施する工程を含む、方法にも関する。
【0037】
本発明はまた、対象におけるフラビウイルス感染を診断するためのインビトロの方法であって、前記対象から得られた生体試料に関して、上に記載される複合体NS1-血漿リポタンパク質粒子を定量するための方法を実施する工程を含み、前記試料中のフラビウイルスNS1と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在が、フラビウイルス感染を示す、方法にも関する。
【0038】
フラビウイルス感染を診断するためのインビトロの方法の特定の実施形態によれば、フラビウイルスNS1とHDL粒子によって形成される複合体、好ましくはフラビウイルスNS1とApoA1陽性リポタンパク質粒子によって形成される複合体が定量される。
【0039】
フラビウイルス感染を診断するためのインビトロの方法の別の特定の実施形態によれば、上に記載される複合体NS1-血漿リポタンパク質粒子を定量するための方法は、フラビウイルスNS1-HDL粒子の複合体及び/又はフラビウイルスNS1-LDL粒子の複合体及び/又はフラビウイルスNS1-他の血漿リポタンパク質粒子の複合体、好ましくは、フラビウイルスNS1-Apo1陽性リポタンパク質粒子の複合体、フラビウイルスNS1-ApoB陽性リポタンパク質粒子の複合体、及びフラビウイルスNS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の複合体のうちの1つ又は複数;特にフラビウイルスNS1-Apo1陽性リポタンパク質粒子の複合体及びフラビウイルスNS1-ApoE陽性リポタンパク質粒子の複合体を定量するために、前記対象から得られた生体試料に関して繰り返し実施される。
【0040】
本発明はまた、対象から得られた生体試料中のフラビウイルスNS1と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体を検出するキットであって:
a.フラビウイルスNS1に特異的な抗体と;
b.血漿リポタンパク質に特異的な、好ましくはHDLに特異的な、より好ましくはApoA1に特異的な抗体と;
c.前記2つの抗体と、フラビウイルスNS1と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の間の免疫反応産物の産生を検出するための手段と
を含む前記キットにも関する。
【0041】
本発明によるキットで使用される血漿リポタンパク質に特異的な抗体のように、フラビウイルスNS1に特異的な抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、又はその抗原結合部分である。
【0042】
特定の実施形態によれば、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、HDLに特異的、好ましくは、HDLによって保有されるApoA1タンパク質に特異的である。
【0043】
別の特定の実施形態によれば、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、LDLに特異的、好ましくは、LDLによって保有されるApoBタンパク質に特異的である。
【0044】
別の特定の実施形態によれば、血漿リポタンパク質に特異的な抗体は、血漿リポタンパク質のいくつかの集団を認識し、好ましくはApoEタンパク質に特異的である。
【0045】
特定の実施形態によれば、キットは血漿リポタンパク質に特異的ないくつかの抗体を含み、これらの抗体の各々は血漿リポタンパク質の1種類の集団に特異的である。
【0046】
いくつかの実施形態では、キットはApoBに特異的な抗体を含み;好ましくは、キットは、ApoA1及び/又はApoEに特異的な抗体を更に含む。
【0047】
特定の実施形態によれば、前記血漿リポタンパク質に特異的な抗体は検出可能な標識を担持する。
【0048】
特定の実施形態によれば、免疫反応産物の産生を検出するための前記手段は、血漿リポタンパク質に特異的な抗体に対して作られ、適切な標識にコンジュゲートされる第3の抗体を含む。
【0049】
特定の実施形態によれば、キットは前記キットの使用のための説明書を更に含む。
【0050】
特定の実施形態によれば、キットは少なくとも1種類の標準試料を更に含む。この標準試料は、既知量の精製フラビウイルスNS1でスパイクされた、健康なドナー由来、退院時に脂質マーカーが正常に戻っており、疾患から基本的に回復している患者由来の血漿試料、又は発熱後に遅滞なく入院した(すなわち、入院時の発熱が3日以下)患者由来の血漿試料であってもよい。
【0051】
この標準試料は、アッセイに関して考慮されるべき陽性閾値をより確実に定義できるようにする。
【0052】
NS1-ApoA1及びNS1-ApoBアッセイに関して、陽性閾値の算出は、退院時に脂質マーカーが正常に戻っていた患者(すなわち、Tot-Chol>3mmol/mL、LDL-Chol>1.5mmol/mL、HDL-Chol>0.4mmol/mL、中性脂肪<2.7mmol/mL; n=9)は、基本的に疾患から回復しており、NS1-ApoA1陽性複合体について陰性になっていたという原則に基づく(
図5)。陽性閾値は、次いでこの平均値の2倍と見なされた。NS1-ApoE濃度は時間とともに全体的に増加するため、この複合体の形成/蓄積の傾向がNS1-ApoA1複合体とは逆であるという事実により、NS1-ApoEアッセイの陽性閾値を推定するための戦略は異なる。平均値の算出は、発熱後に遅滞なく入院した(すなわち、入院時の発熱が3日以下; n=11)患者群に基づく。
【0053】
本発明によるキットは、本発明によるインビトロの方法において使用される。
【0054】
本発明はまた、それを必要とする対象におけるフラビウイルス感染又は関連疾患を治療する方法であって、
- 対象から得られた生体試料中のフラビウイルス非構造タンパク質1(NS1)と血漿リポタンパク質粒子によって形成される複合体の存在又はレベルを検出して、対象におけるフラビウイルス感染を診断する工程であって、複合体の存在又はレベルが、フラビウイルス感染を示す、工程と;
- 対象がフラビウイルス感染と診断された場合、適切な治療を施す工程と
を含む、方法にも関する。
【0055】
NS1-血漿リポタンパク質粒子複合体は、好ましくは本開示による複合体を定量するための方法を使用して、本明細書に開示されているように検出される。
【0056】
治療は、当技術分野で周知のフラビウイルス感染を治療するための任意の適切な療法、例えば、抗ウイルス療法、免疫療法及びその組合せであってもよい。治療は、NS1と内因性リポタンパク質の間の複合体の形成を阻止する抗体の投与を含んでもよい。治療は、外因性リポタンパク質粒子の投与も含みうる。
【0057】
治療方法のいくつかの実施形態では、フラビウイルス感染の重症度はNS1-HDL複合体のレベルを検出することによって決定され、NS1-HDL複合体のレベルが高いほど、重症型のフラビウイルス感染を発症するリスクが低いことを示す。複合体は、好ましくはNS1-ApoA1陽性リポタンパク質粒子複合体である。検出は好ましくは、上に開示したように一次感染又は急性感染中に行われる。検出は有利には、疾患の重症度に応じて個体の治療を適合できるようにする。
【0058】
いくつかの実施形態では、治療方法は、フラビウイルスによって感染した対象におけるフラビウイルス疾患をモニタリングする工程であって、フラビウイルス疾患中の異なる時点で前記対象から得られた生体試料に関して、上に記載される複合体NS1-血漿リポタンパク質粒子を定量するための方法を実施する、工程を含む。
【0059】
本発明の特定の実施形態では、フラビウイルスNS1はデングウイルス由来のNS1であり、及び/又はフラビウイルス感染はデングウイルス感染である。
【0060】
本発明の特定の実施形態では、生体試料は血液、血漿又は血清である。
【0061】
本発明の特定の実施形態では、NS1-リポタンパク質複合体の検出は、フラビウイルス感染の臨床期中、特に一次又は急性フラビウイルス感染中の早期検出である。
【0062】
本発明の特定の実施形態では、対象は人間である。
【0063】
本明細書において上に記載された特徴、及び本発明の他の特徴は、本記載に示された特徴及び定義を補完する、本発明者らによって実施された実験を例示する例及び図を読むと明らかになるであろう。しかし、例は、記載された発明に関して限定するものではない。
【実施例】
【0064】
材料及び方法
ヒト血漿でのDENV又はフラビウイルスNS1スパイク
DENV2組換えNS1タンパク質(400μg)を、健康なドナーから得られた血清又は血漿(パスツール研究所 IcareB生物学施設により提供された)1mL中37℃で1時間インキュベートした。全てのヒト試料は倫理規則を遵守している。
【0065】
NS1血清プルダウン
混合物を次いで、Strep-tactinカラム(Iba社)を通じて精製し、PBS MgCa(Gibco社)で2回洗浄し、その後14カラム容量のPBS 0.3M NaCl及び更に5カラム容量のPBS MgCaで洗浄した。PBS Mg/Ca中2.5mM D-デスチオビオチン(Iba社)を使用して溶出を行った。
【0066】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
組換えNS1、HDL又はNS1-HDL溶液のゲル濾過を、PBS MgCa++で平衡化したSuperdex 200 10/300カラム、0.4ml/分で行い、0.5ml画分を回収した。溶出プロファイルをBio-Rad社製の標準物質と比較した。
【0067】
NS1及びNS1-HDL SEC画分のSDS-PAGE
全てのタンパク質試料を、β-メルカプトエタノールを含有する5×Laemmli Sample Buffer(Bio-Rad社)で変性させ、95℃で5分間煮沸した。それらを不連続ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGEプレキャストゲル、Bio-Rad社)によって分離した。SDS-PAGEゲルをクーマシーブルー溶液(Bio-Rad社)で染色した。
【0068】
バイオレイヤー干渉
本発明者らは、HDL又はLDLに結合しているDENV2 NS1をOctet Red(ForteBio社)バイオレイヤー干渉アッセイ(BLI)を用いて滴定した。実験は、96ウェルプレートで25℃、振盪速度1000rpmで行った。
【0069】
HDLは9.6nmの均一な直径を有し、市販であった(Merck Millipore社)。ストレプトアビジンA(SA)「dip and read」バイオセンサー(ForteBio社)を活性化し、ビオチン化抗ApoA-I又は抗Apo-B抗体を充填した後、それぞれのリポタンパク質を充填し、その後NS1タンパク質溶液を入れた。リポタンパク質に結合しているNS1のBLIシグナルを経時的にモニターし、遊離チップ及び遊離抗体に結合しているNS1の対照、並びにリポタンパク質又は抗体とのバッファー相互作用からのバックグラウンドノイズを測定した。各NS1濃度の対応するシグナルから対照を差し引いた。データ抽出及び正規化にはScrubberソフトウェアを、データ制御減算にはBIAevaluation(BIACORE社)を、及びデータフィッティングにはProfit(Quantumsoft社)を使用して、結合シグナルを分析した。
【0070】
NS1-ApoA1又はNS1-ApoEリポタンパク質複合体の捕捉ELISA
簡単には、微量滴定プレートを、免疫親和性精製マウス抗NS1ポリクローナル抗体又はデングNS1特異的モノクローナル抗体17A12(ブダベスト条約の条項に従って、番号I-3186のもと2004年3月4日にCollection Nationale de Culture de Microorganismes(CNCM)に寄託された)で一晩コーティングした。ウェルを飽和させ、洗浄した後、精製デングウイルス1型NS1でスパイクしたヒト血清又はデングウイルス感染ヒト血清の段階希釈物を、室温で2時間ウェルに添加した。ウェルを再び洗浄し、抗ApoA-I又は抗ApoEヤギポリクローナル抗体と37℃で1時間インキュベートし、その後ペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体を3,3",5,5"-テトラメチルベンジジン溶液で顕色した。抗原の非存在下で反応を実施して、陰性対照を測定した。吸光度値を、陰性対照の平均値を使用して補正した。健康なドナーをパスツール研究所のIcareB Platformによって募集した。
【0071】
捕捉ELISAによるNS1-ApoBリポタンパク質複合体の検出
使用したプロトコールは
図11(A)に描かれている。微量滴定プレートを、精製マウス抗NS1ポリクローナル抗体又は抗NS1モノクローナル抗体で一晩コーティングした。ウェルを飽和させ、洗浄した後、デングウイルス感染ヒト血清又は他の病原体に感染した対照患者の段階希釈物を、室温で2時間ウェルに添加した。ウェルを再び洗浄し、抗ApoBビオチン化ヤギポリクローナル抗体と37℃で1時間インキュベートし、その後ペルオキシダーゼコンジュゲートストレプトアビジンを3,3",5,5"-テトラメチルベンジジン溶液で顕色した。
図11(B)に報告されたNS1-ApoB複合体の定量化は、既知濃度の精製組換えNS1抗原(A)でスパイクした正常なヒト血漿を用いて得た検量線に基づいた。
【0072】
デングウイルス感染患者血清検体
ヒト血清は、2011~2012年のカンボジアにおける流行期にデングウイルス1型感染患者から採取した。デングウイルス診断は、入院初日に回収した血液試料のRT-PCRによって確認した。各患者を、ペア血清(急性期及び回復期)でのMAC-ELISA及び赤血球凝集抑制(HI)試験によっても検査した。試験に含まれた患者に関する様々な臨床及び生化学情報が利用可能であり、2009年のWHO分類システムに従って疾患重症度の異なる群に患者を分類することができた。2009年分類を用いて分類した入院患者では古典的デング熱は観察されず、患者の約2/3が危険な徴候を伴うデング(DWWS)を有し、1/3が重症デング(SVD)を発症した。
【0073】
電子顕微鏡イメージング
精製HDL又はNS1-HDL複合体をグロー放電炭素グリッド(glow discharged carbon grids)(CF300、EMS社、USA)にスポットし、2%ギ酸ウラニル(UFA) pH7.4でネガティブ染色し、Tecnai G2 Bio-Twin電子顕微鏡(FEI社、USA)で解析し、Eagleカメラ(FEI社、USA)で撮像した。画像フレームをFalcon II直接電子検出器(FEI社、USA)に低線量モードで記録した。
【0074】
画像解析
HDL及びNS1-HDLネガティブ染色画像をCTF補正し(フェーズフリップ)、XMIPソフトウェア(Scheresら 2005)を使用して選別した。補正画像をRelion(Scheres 2012)にインポートした。粒子ピッキングのための推奨されている戦略を次のように適用した:HDL又はNS1-HDLサイズに適合する粒子の手動選択を少数(約15枚)の画像で行った。2D分類(40クラス)を行い、5つの代表的なはっきりしたクラスを自動ピッキングのテンプレートとして選択し、約30000粒子を得た。2D分類(200クラス)を次いで行った。明らかにアーティファクトに相当するクラスを抑制し、2D分類(200クラス)の新たなランを行った。
【0075】
初代単球培養及びマクロファージへの分化
フィコール勾配遠心分離(Eurobio社)を使用して、PBMCを全血から単離した。CD14+ヒト陽性選択キット(StemCell社)を使用してPBMCの磁気ビーズ分離によってCD14+細胞を精製し、1M/mlをテフロンプレート(Sarstedt社)に1プレートあたり7mlで以下の培地に播種した:RPMI-1640(Gibco社)、2mM L-グルタミン(LifeTechnologies社)、濃度: 10,000単位ペニシリン及び10mgストレプトマイシン/mlの1%ペニシリン-ストレプトマイシン(LifeTechnologies社)、10mM Na Pyruvate(LifeTechnologies社)、10mM HEPES(LifeTechnologies社)、ストックからの1%MEMビタミン(LifeTechnologies社)、1%NEAA(LifeTechnologies社)、50uMベータ-メルカプトエタノール(LifeTechnologies社)、15%ヒト血清。単球を分化培地で6~8日間培養し、その後マクロファージをテフロンプレートからこすり落とし、計数した。回転後、マクロファージを同じ培地(ただし、ヒト血清の代わりに10%FBSを含む)に1M/mlで再懸濁した。
【0076】
マクロファージ免疫活性化アッセイ
マクロファージをP24プレート(Corning社)に0.5×106細胞/mLで播種した。2時間の細胞沈降及び接着後、上清の回収前にマクロファージを単純PBS、HDL、NS1又はNS1-HDLミックスと24時間インキュベートした。Luminex 5プレックスアッセイを製造者の推奨に従って全ての上清について行なった(R&Dシステムズヒト5プレックスキット)。標準物質をアッセイごとに各プレートでランして、存在するサイトカインのレベルを滴定した。
【0077】
統計解析
群間の有意差を、GraphPad Prismソフトウェアを用いて行なった一元配置ANOVA分析によって決定した。
【0078】
抗体
抗ApoA1ヤギポリクローナル抗体は、Novus Biologicals社によって提供される(製品番号NB400-147)。
抗ApoEヤギポリクローナル抗体は、Calbiochem社によって提供される(製品番号178479)。
ペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体は、Southern Biotech社によって提供される(製品番号6425-05)。
抗ApoBビオチン化ヤギポリクローナル抗体は、ABCAM社によって提供される(製品番号ab20898)。
ペルオキシダーゼコンジュゲートストレプトアビジンは、Interchim社によって提供される(製品番号396888)。
ApoA1又はApoBに対するビオチン化抗体は、ABCAM社によって提供される(それぞれ、製品番号ab27630及び製品番号ab20898)。
マウス抗NS1ポリクローナル抗体は、Alcon-LePoderら 2006によって記載されているように得る。
以下のデングNS1特異的モノクローナル抗体を分泌するマウスハイブリドーマ細胞培養物を、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(パリ-フランス)に以下の受託番号のもと寄託した:
mAb 17A12 I-3186、2004年3月4日
mAb 8G6 I-5291、2018年3月13日
mAb 1A11 I-5290、2018年3月13日
mAb4F7 I-3185、2004年3月4日
【0079】
(実施例1)
DENV NS1はヒト高密度リポタンパク質に優先的に結合する-新規NS1タンパク質リガンドの同定
本発明者らは、健康なヒトドナーから得た血清中DENV2 NS1のタグ化バージョンの精製調製物を使用してプルダウンアッセイを実施し、得られた産物をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した(
図1A)。NS1タンパク質単独と比べて、プルダウンSECプロファイルは、より低い溶出容量位置にさらなるピーク及び大きな肩を示した(
図1A)。タンパク質含量をSDS-PAGEによって分析し、顕著なタンパク質バンドの正体を質量分析によって決定した。29kDaの分子量(MW)で移動するバンドはアポリポタンパク質A1(ApoA1)に対応し、高MWのものはアポリポタンパク質B-48(250kDa超)に対応した。これらの2つの主要な種は、それぞれ、高密度リポタンパク質(HDL)及び低密度リポタンパク質(LDL)の主な足場タンパクに相当する(
図1A)。
【0080】
(実施例2)
DENV NS1はヒト高密度リポタンパク質に優先的に結合する-バイオレイヤー干渉による結合親和性測定
本発明者らは、バイオレイヤー干渉(BLI)を使用して、HDL及びLDL粒子に対するNS1の相対的親和性を評価した(
図1B)。精製HDL及びLDL粒子を、ストレプトアビジンでコーティングしたバイオセンサーに固定化し、それぞれApoA1又はApoBに対するビオチン化抗体を更に充填した。HDL又はLDL充填バイオセンサーに対するNS1滴定結合実験は、バックグラウンドに関するインターフェロメトリーシグナルの真の振幅を示した(
図1B)。
図1Bの右側に、少なくとも3つの実験で観察された偏差を含むLDL及びHDLに対するNS1滴定の平衡値が報告されている。本発明者らは、それぞれ63.8nM及び1.4 μMのK
Dの、HDL及びLDLに対するNS1の平衡解離定数を比較するために、データを定常状態単一部位結合モデルにフィットさせて滴定値を解釈した。この差は、NS1がHDLを優先的に結合することを示唆するものであった。注目すべきことに、NS1-HDL複合体は6日の期間にわたって安定なままであり(データは示されない)、ひとたび形成されると、該タンパク質はリポタンパク質粒子にしっかり結合したままであることを示唆している。
【0081】
(実施例3)
DENV NS1はヒト高密度リポタンパク質に優先的に結合する-電子顕微鏡によるNS1-HDL複合体の可視化
本発明者らは、ネガティブ染色電子顕微鏡によって複合体を更に解析した(
図2、
図3)。他者によって以前に示されているように、ヒトHDL及びLDL粒子は、それぞれ直径約10nm及び20nmの滑らかな球体のように見える(Zhangら 2015)。
【0082】
NS1-HDL及びNS1-LDL複合体は、これらの値と一致するサイズを有する(
図2)。しかし、NS1-HDL複合体は、HDL単独の滑らかな外観とは対照的であり、むしろその表面に突き出した棒状構造を有する粒状表面を呈した(
図3)。これらの小塊は、NS1二量体の寸法と十分に一致する。二量体型のNS1は、その面の1つで大きな疎水性パッチを露呈することが知られている。NS1二量体は、それ故に、特に高い安定性を複合体に与える特徴となるHDLの脂質相を直接挿入しうる。
【0083】
(実施例4)
DENV NS1はヒト高密度リポタンパク質に優先的に結合する-NS1-HDL複合体と関連する生体活性の特徴付け
HDLは炎症の強力なモジュレーターであり、生理学的状態ではこれらのリポタンパク質は基本的に抗炎症性調節因子である。反対に、NS1は、マクロファージにおける炎症誘発性サイトカインの分泌の引き金を引くことが知られている(Modhiranら 2015)。NS1が機能するようになるためにはHDLへの結合を必要とするかを確立するために、本発明者らは、種々のエフェクターで処理したマクロファージの活性化状態を比較した。本発明者らは、様々なドナーから単離した単球から分化させたヒト初代マクロファージを使用し、NS1単独(10μg/mL)、HDL単独(2.5μg/mL)、NS1-HDL(それぞれ10及び2.5μg/mLのミックス)、及び陽性対照としてのLPSで細胞を刺激した。24時間のインキュベーション期間後に上清を回収し、IL-1ベータ、TNF-アルファ、IL-6及びIL-10のそれぞれのレベルを、Luminexアッセイを使用して測定した(
図4)。
【0084】
NS1及びHDL単独に関して、本発明者らは、陰性対照と比べたサイトカインレベルに差が無いことを観察した(
図4)のに対し、LPSは高いサイトカインレベルを一貫して誘導した(データは示されない)。これらの観察は、NS1及びHDL精製試料のバックグラウンド夾雑物からのいずれの細胞毒性作用も排除し、NS1自体はヒトマクロファージの炎症誘発性活性化を誘導することができないことを示した。対照的に、NS1-HDL複合体は、HDL又はNS1単独と比べた場合、異なるドナー細胞において相当なレベルのサイトカイン分泌を増加させた(
図4)。これは、NS1-HDL複合体が該タンパク質の生理活性型であり、炎症の強力なモジュレーターであることを実証した。
【0085】
(実施例5)
DENV感染患者の血漿中のウイルス因子又は宿主因子の定量化-血漿中のNS1及びNS1-リポタンパク質複合体の定量化
次に、本発明者らは、DENV感染患者におけるNS1-HDL複合体の存在を、NS1の分泌型と比較して評価した。この目的のために、本発明者らは、その古典的ELISAをNS1検出に使用し(Alcon-LePoderら 2006)、ヒト血漿試料中のNS1複合体を特異的に検出する2種類のELISAを開発した。第1のアッセイでは、本発明者らは、NS1-HDL複合体の捕捉には抗NS1モノクローナル抗体、及び結合材料の検出には抗ApoA1ポリクローナル抗体を使用した(
図5)。恐らく他のタイプのリポタンパク質粒子と形成されたNS1複合体も同様に(IDL、VLDL、カイロミクロン、及びある特定の例ではHDL及びLDLも同様に、PathologyでのD. Maraisからの2019年レビュー参照)検出するための二次抗体として、抗ApoEポリクローナル抗体を代わりに使用した。分析フォーマットで検量線を設定するために、ICAReB(パスツール研究所)で入手した健康なドナー由来の血漿中で精製NS1をインキュベートし、NS1-ApoA1、NS1-ApoB又はNS1-ApoE複合体の濃度値を、NS1の当量濃度に基づいて算出した(
図5;
図11)。NS1、NS1-ApoA1又はNS1-ApoEアッセイの検出限界は、正常なヒト血漿で得られたシグナルの平均値の2倍として設定した。これはそれぞれ、1ミリリットルあたりの当量NS1濃度、0.5、0.3及び15ngに相当した(
図5;
図11)。
【0086】
急性デング様疾患を呈する患者-2011年及び2012年の6月~10月までの間-を、Kampong Cham Referral Hospitalで登録した。WHO 1997年分類体系に従った組入れ基準は、診察時、及びその前72時間以内に以下の症状:頭痛、後眼窩痛、筋肉痛、関節痛、発疹、又は何らかの出血徴候の少なくとも2つを発症した時点で発熱又は発熱歴を有した2~15歳までの子どもであった。本発明者らは、重症及び非重症デングを有する入院した子どもの前向き単施設横断的試験を行った。初診は病院入院時に実施した(診察(visit)1、V1)。症状の発症日を疾患0日目として定義した。診察2(V2)は、体温≦38℃の初日として特徴付けられる解熱期に実施した。最後に、診察3(V3)を行い、完全に回復した患者の退院診察として、又はクリティカル期の患者のフォローアップ診察として見なした。腹部/胸部超音波記録を含む臨床及び生物学的フォローアップを各診察時に実施した。入院患者のDENV感染は、本発明者らのNS1捕捉ELISA(Alcon-LePoderら 2006)及び/又はqRT-PCR及び/又は診察1で得られた血漿試料のヒトスジシマカC6/36細胞に関するウイルス単離(Andriesら 2015)を使用して、NS1抗原検出によって確認した。最後に、確認されたデング患者の疾患の重症度を、入院(ADM)、フォローアップ診察(F-VIS)、又は退院(DIS)時に記録された臨床及び生物学的データを使用して、WHO 1997年及び2009年基準に従って評価した。合計56名の患者を、1997年分類に従って漸増グレードの疾患重症度、すなわちデング熱(DF、n=20)、デング出血熱(DHF、n=29)、及びデングショック症候群(DSS、n=7)により3つの群に遡及的に分類した。特に注目すべきは、2009年分類では患者は2つの群:危険な徴候を伴うデング(DWWS、n=19)、及び重症デング(SVD、n=37)にのみ分離されたが、古典的デング熱(DF)を有した患者はいなかった。
【0087】
本発明者らは、カンボジア人コホートにおけるNS1-ApoA1及びNS1-ApoE複合体の濃度を、入院及び病院から退院した翌日に測定した。これは、2回の血液検体採取間の平均4.3日の時間差に相当する(
図6、
図7)。本発明者らは、フォローアップ診察(F_VIS)を最後の検診として受けた患者、並びに入院及び退院時に検査した患者、並びにSVDとのDWWSの識別例を分けた。DWWS患者の圧倒的大部分(およそ90%)が、最初と最後の検体採取間で血中NS1-ApoA1量の急激な減少を示したが、SVD患者の半分は2つの時点間でわずかな増加を示した(
図6)。逆に、NS1-ApoEの濃度は、試料の大部分で経時的に有意に増加し(
図7)、該疾患の急性期中に生じる動的プロセスを示唆した。
【0088】
本発明者らは、NS1-ApoA1複合体に関して入院時に82%を超える陽性試料を観察し、3回目の診察(急性/退院)では残っている36%の陽性試料を観察した(Table 1(表1))。NS1-ApoE複合体については逆の傾向が観察され、その濃度は経時的に明らかに増加し、入院から最後の診察までの間に25%から50%に上昇した(Table 1(表1))。本発明者らは、患者の約70%が発熱後2~6日のウィンドウにわたってNS1抗原陽性であり、本発明者らを含む数多くの報告を裏付けたが、同じ個体の42%のみは最後の検診又は退院の時点で依然としてNS1陽性であることを見出した(Table 1(表1))。したがって、NS1の濃度は、経時的に減少することが見出された(Table 1(表1))。全体として、NS1-ApoA1複合体は、NS1タンパク質自体より良好な診断候補マーカーとなるように思われる。
【0089】
本発明者らは更に、患者7名中5名においてNS1-ApoB複合体の存在を実証したが、対照非デング患者3名は陰性が見出された(
図11)。濃度は162ng当量NS1/mL~1230ng当量NS1/mLにわたった。このパラメーターがデング診断及び予後に関して提供しうる付加価値を決定するために、拡大試験が必要である。
【0090】
Table 1(表1):入院デングウイルス感染患者において診断マーカーとしてテストした種々のウイルス学的パラメーターによる陽性血漿試料の百分率の推定。値は、病院に入院した患者(入院)、又はフォローアップ若しくは退院診察(急性/退院)に相当する3回目の診察時点の患者について報告されている。陽性試料の百分率は太字テキストになっている。最も高い百分率は、最も良い診断読み出しによるアッセイ条件に相当する。
【表1】
【0091】
(実施例6)
DENV感染患者の血漿中のウイルス因子又は宿主因子の定量化-臨床グレードとウイルス学的変数の間の相関レベル
統計解析を行って、2009年分類による重症度の異なる程度の関数でNS1-ApoA1及びNS1-ApoE複合体の有意な濃度変化を浮き彫りにした(
図8)。重症度の程度にわたって濃度中央値の差を評価するために、Anova検定が使用され、p値が
図8に報告されている。p値は、重症度の2つの程度の濃度中央値間の同等性の検定に関連する(すなわち、小さなp値は、2つの程度間の同等性の否定に相当する)(
図8)。血漿試料中のNS1-ApoA1複合体の量は、疾患重症度と有意なレベルの相関を示す(p=0.015)が、NS1-ApoE複合体の値は病院への入院日における予測的価値がない(p=0.71)。更に、NS1-ApoA1複合体の濃度も血漿漏出強度と有意に相関する(p=0.005)(
図11)。血漿液の喪失は、デング病の重症度を評価するのに使用される極めて重要な基準である。
【0092】
(実施例7)
種々のフラビウイルスのNS1-HDL複合体の同定
異なる組換えタンパク質がHDLと相互作用できるかどうかを評価するために、日本脳炎、ウエストナイル、ジカ、黄熱及びダニ媒介脳炎ウイルスを含む、DENV以外のフラビウイルスによって規定されるNS1タンパク質の精製調製物を正常なヒト血漿と混合した。インキュベーション期間の終わりに、ApoA1に結合したDENV NS1タンパク質と同じ捕捉ELISAフォーマットを使用して推定NS1-HDL複合体の存在をテストした。このアプローチは、種々のフラビウイルスのNS1タンパク質を検出し、固定化できるようにするDEN NS1 MAb 17A12の幅広い交差反応性により可能になった。
本発明者らの実験条件では、テストした全ての蚊媒介性NS1について、様々なレベルではあるがNS1-HDL複合体の形成を示すことができたが、ダニ媒介脳炎ウイルス由来のNS1タンパク質はシグナルを全く示さなかった(
図9)。これらの違いは、ELISAプレートに固定化される複合体の割合を変えることになる、種々のNS1タンパク質に対するMAb 17A12の親和性のばらつき、又はHDLに結合する種々のフラビウイルスNS1の内在的能力の差異に起因している可能性がある。これらのデータは、HDLへのNS1の結合がフラビウイルスに共通する特徴であることを示している。
【0093】
(実施例8)
デングNS1特異的モノクローナル抗体(MAb)はHDLへのNS1結合を防ぐことができる
本発明者らは、HDLへのDENV NS1の結合を妨げる抗NS1 MAbの能力をテストした。この目的のために、本発明者らは精製NS1を各MAbと1 Ab:1 NS1プロトマーモル比でインキュベートし、固定化HDLにおけるNS1六量体の残留結合をBLIによって測定した(
図12)。NS1-HDL相互作用を阻害する種々の抗NS1 MAbの能力は、MAb 8G6について観察された阻害の欠如から、NS1の非存在下でテストした種々のMAbによって生成されるバックグラウンドノイズに匹敵するシグナルを示した、MAb 17A12によるほぼ完全な阻害まで異なった。MAb 1A11も強力な阻害因子であったが、MAb 6D2及び4F7は複合体形成を部分的に阻害するのみであった(
図12)。MAb 8G6に結合したNS1タンパク質によって生成されるBLIシグナルは、固定化HDL粒子によって捕捉され、センサーで検出されたNS1-8G6複合体のより高い質量のため、NS1タンパク質単独より高かった。NS1に結合した全ての他のMAbは、NS1単独と比べて、部分的阻害から完全な阻害と一致するシグナル強度の低下を示した。
【0094】
結論
本発明者らは、デング病の急性期の間に、NS1が内因性ApoA1陽性HDL及びApoB陽性LDLリポタンパク質粒子を乗っ取ることを本明細書で実証し、報告した。デングウイルスNS1はHDL粒子に優先的に結合する。HDLへのNS1の結合は、その機能状態を変更し、ヒトマクロファージにおける炎症誘発性応答の活性化を誘導する。後期臨床期では、NS1-ApoA1複合体- NS1-HDL種を代表する-の濃度は低下し、NS1はむしろ、広範囲のApoE陽性リポタンパク質粒子にコロニー形成するように思われる。これは、リポタンパク質粒子の多様な種及びそれらの関連する代謝経路の運命をウイルスがコントロールする手段として、又は中毒性HDL粒子を宿主が排除するある程度の手段として、NS1タンパク質と宿主リポタンパク質との相互作用が、経時的に変化する高度に動的なプロセスでありうることを示唆するものである。
【0095】
DENV NS1と宿主リポタンパク質の間に形成される複合体の検出は、NS1自体の検出より診断的価値が優れており、その血中濃度の定量化は、病院への入院時にどの患者が重度の出血熱及び/又はショックを発症するリスクがあるかを明確にするのに役立つ予後マーカーパネルに含まれるべきである。特異的療法の非存在下、決定木を作成することは、臨床管理を改善し、死亡率を低下させるための大きな影響を当技術分野に与えるであろう。
【0096】
NS1-HDL複合体は、DENV、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ジカウイルス及び黄熱ウイルスを含む種々のフラビウイルスの蚊媒介性NS1タンパク質の全てについて、インビトロの再構成アッセイで形成することができる。この観察は、フラビウイルス属のNS1タンパク質に共通する機能的ルーツを指し示している。NS1-HDL複合体は全て、ウイルス病原性において重要な役割を果たす可能性があり、全てのフラビウイルスに対する有用な診断的及び予後的価値を示しうる。
(参考文献)
【国際調査報告】