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特表2022-549804無線周波数トランスポンダを備えたタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(54)【発明の名称】無線周波数トランスポンダを備えたタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20221121BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20221121BHJP
   H01Q 9/16 20060101ALI20221121BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
B60C19/00 G
B60C19/00 J
G06K19/077 232
G06K19/077 280
G06K19/077 156
G06K19/077 296
H01Q9/16
H01Q1/22 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517903
(86)(22)【出願日】2020-09-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 FR2020051649
(87)【国際公開番号】W WO2021058903
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】1910570
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】デストレイヴス ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】フレドン セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ギノー ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ジュラン エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】クチュリエ ローラン
【テーマコード(参考)】
3D131
5J047
【Fターム(参考)】
3D131LA05
3D131LA20
3D131LA24
5J047AA05
5J047AB07
5J047EA01
(57)【要約】
トランスポンダを装着したタイヤであって、各縁部にて軸方向端部を有するクラウン補強体を含むクラウンであって、その軸方向の端部の各々において内側端部を有するビードにサイドウォールによって接続されているクラウンと、平行な金属補強体で形成され、ビードワイヤの周りで各ビードに係止されて主部及び折り返し部を形成するカーカス補強層と、を備え、トランスポンダが、ピッチPと直径Dによって定められてその長さが長手方向軸を定めるばねからなるダイポールアンテナを含む、タイヤにおいて、ばねの第1の領域のループのピッチ(P1)と直径(D1)の比が0.8より大きく、トランスポンダは、ビードの内側端部の軸方向外側で且つビードワイヤの上側端部とクラウン補強材の前記軸方向端との間の半径方向に位置している、ことを特徴とする、タイヤ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準軸を中心としたトロイダル形状であり、受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua、1qua’)を備えるタイヤケーシング(100)であって、
各縁部にて軸方向端部(861)を有するクラウン補強体(86)と、トレッド(89)とを含むクラウンブロック(82)であって、各軸方向端部(821)にて前記基準軸に対して、その軸方向及び半径方向内側に位置する内側端部(841)を有するビード(84)にサイドウォール(83)により接続されたクラウンブロック(82)と、
エラストマー化合物の2つのスキム層の間に挿入された、補強方向を定める互いに平行な金属補強要素から形成された少なくとも1つのカーカス補強層を含むカーカス補強体と、
を備え、
前記少なくとも1つのカーカス補強層が、環状ビードワイヤ(85)の周りに上方に折り返されて、一方の前記ビードワイヤ(85)から他方の前記ビードワイヤに延びて前記クラウンブロック(82)に対して半径方向内側に位置する、前記少なくとも1つのカーカス補強層(87)の主部と、前記ビード(84)の各々における前記少なくとも1つのカーカス補強層(88)の折り返し部とを形成することにより前記各ビード(84)に係止されており、
前記少なくとも1つのカーカス補強層(88)の前記折り返し部は、前記ビードワイヤ(85)から半径方向外側に延びるエラストマー化合物の第1の層(91)によって前記少なくとも1つのカーカス補強層(87)の前記主部から分離されており、
前記タイヤケーシング(100)が更に、
前記ビード(84)の領域において前記タイヤケーシング(100)の外面を形成するエラストマー化合物の第2の層(93)であって、前記エラストマー化合物の前記第2の層(93)は、リムと接触することが意図されている、エラストマー化合物の第2の層(93)と、
前記サイドウォール(83)の前記外面を形成する、前記エラストマー化合物の第2の層(93)と接触して半径方向外側に位置する前記エラストマー化合物の第3の層(94)と、
を備え、
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua、 1qua’)は、電子部分(20)と放射状ダイポールアンテナ(10)とを含み、前記放射アンテナ(10)が、螺旋ピッチP、巻径D、中間面(19)、前記放射アンテナ(10)の内径(13)及び外径(15)を定める線径とからなり、そのうちの長さ(L0)が、第1の長手方向軸(11)、中央領域、及び第1の長手方向軸(11)に沿った2つの横方向領域を定める外部無線周波数リーダーとの周波数帯で通信するように設計されており、
前記電子部分(20)が、電子チップと、少なくとも1つのターンを含むコイルタイプの一次アンテナとを含み、従って第2の長手方向軸と該第2の長手方向軸に垂直な中間面(21)とを定め、前記一次アンテナが、前記電子チップに電気的に接続され、前記放射状ダイポールアンテナ(10)に電磁的に結合されており、前記一次アンテナは、回転軸が前記第2の長手方向軸に平行で、前記直径が前記一次アンテナと垂直に位置する前記放射アンテナ(10)の内径(13)の3分の1以上である円筒部内に囲まれており、
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua.1qua’)は、前記第1の長手方向軸(11)及び前記第2の長手方向軸が平行になり、前記一次アンテナ(21)の前記中間面が螺旋ばねの中央領域に位置付けられるように配置されている、
タイヤケーシング(100)において、
前記放射状ダイポールアンテナ(10)は、該放射状ダイポールアンテナ(10)が前記電子部分(20)と垂直に位置する第2の領域(102)と、前記放射状ダイポールアンテナ(10)が前記電子部分(20)と垂直に位置していない第1の領域(101、101a、101b)とを備え、前記第1の領域(101、101a、101b)における前記螺旋ばねの少なくとも1つのループの前記螺旋ピッチ(P1)と前記巻径(D1)の比が、0.8より大きく、
前記放射状ダイポールアンテナ(10)の前記第1の領域(101、101a、101b)における前記螺旋ばねの各ループの前記螺旋ピッチ(P1)と前記巻径(D1)の比が3未満であり、
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua、1qua’)は、前記少なくとも1つのカーカス補強層と垂直に位置しており、前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua、1qua’)の放射アンテナ(10)の第1の長手方向軸(11)が、前記少なくとも1つのカーカス補強層の補強方向と少なくとも45度の角度を形成しており、
受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、1ter、1ter’、1qua、 1qua’)が、前記ビード(84)の内側端部(841)の軸方向外側に位置し且つビードワイヤ(85)の半径方向最外端部(851)と前記クラウン補強体(86)の軸方向端部(861)との間の半径方向で、好ましくは前記タイヤケーシング(100)の内側に位置している、
ことを特徴とする、タイヤケーシング(100)。
【請求項2】
前記タイヤケーシング(100)が、前記基準軸に対して前記少なくとも1つのカーカス補強層層(87)の前記主部の軸方向外側に位置し且つ前記基準軸に対してエラストマー化合物の前記第2の層(93)及び/又は第3の層(94)の軸方向内側に位置するエラストマー化合物の少なくとも第4の層の(92)を備える、
請求項1に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項3】
前記タイヤケーシング(100)が、前記基準軸に対して前記タイヤケーシング(100)の内側に向かって軸方向に最も遠くに位置するエラストマー化合物の少なくとも1つの気密層(90)を備えた状態で、前記タイヤケーシング(100)は、前記基準軸に対して前記少なくとも1つのカーカス補強層(87)の前記主部の軸方向内側にエラストマー化合物の少なくとも第5の層(96)を備える、
請求項1~2の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)
【請求項4】
前記タイヤケーシング(100)が、エラストマー化合物の2つのスキム層の間に挿入された補強要素から形成された少なくとも1つの補強層を備える、請求項1~3の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項5】
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1bis、1bis’、 1ter、1ter’、1qua、1qua’)は、電気絶縁性エラストマー化合物(3a、3b)の質量体に部分的に封入されている、
請求項1~4の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項6】
前記封入質量体(3a、3b)の引張弾性率は、前記封入質量体(3a、3b)に隣接する少なくとも1つのエラストマー化合物の引張弾性率よりも低い、請求項5に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項7】
前記封入質量体(3a、3b)の相対誘電率が10よりも低い、請求項5~6の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項8】
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1ter.1ter’)は、前記タイヤケーシング(100)のエラストマー化合物の層(91、92、93、94、96)の少なくとも表面によって定められる界面に位置する、
請求項1~7の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)
【請求項9】
前記界面が、エラストマー化合物の別の層(91、92、93、94、96)又は補強層によって定められている状態で、前記受動型無線周波数トランスポンダ(1、1’、1ter、1ter’)は、界面を構成する前記層の端部から少なくとも5ミリメートル、好ましくは前記金属補強層の端部から少なくとも10ミリメートルの距離に位置している、
請求項8に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項10】
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1bis、1bis’、1qua、1qua’)が、前記タイヤケーシング(100)のエラストマー化合物の層(91、92、93、94、96)の内側に位置している、
請求項1~7の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項11】
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1bis.1bis’、1qua、1qua’)の放射アンテナ(10)の第1の長手方向軸(11)が、エラストマー化合物の層(91、92、93、94、96)の厚みに対して垂直である、
請求項10に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項12】
前記受動型無線周波数トランスポンダ(1bis、1bis’、1qua、 1qua’)が、エラストマー化合物の層(91、92、93、94、96)の表面から少なくとも0.3ミリメートルの距離に位置する、
請求項10及び11の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項13】
前記第2の領域(102)の各ループの前記螺旋ピッチ(P2)と前記巻径(D2)の間の比が0.8以下である、
請求項1~12の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項14】
前記放射状ダイポールアンテナ(10)の第1のピッチ(P1)が、第1の領域(101、101a.101b)における前記放射状ダイポールアンテナ(10)の螺旋ピッチに対応して、前記第2の領域(102)における前記放射状ダイポールアンテナ(10)の前記螺旋ピッチに対応する前記放射状ダイポールアンテナ(10)の第2ピッチ(P2)よりも大きい、
請求項1~13の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【請求項15】
前記電子部分(20)が前記放射状ダイポールアンテナ(10)の内部に配置されている状態で、前記第1の領域(101、101a.101b)における前記放射状ダイポールアンテナ(10)の第1の内径D1’が、前記第2の領域(102)における前記放射状ダイポールアンテナ(10)の第2の内径D2’よりも小さく、前記電子部分(20)は、前記回転軸が前記第1の長手方向軸(11)に平行で且つ前記直径が前記放射状ダイポールアンテナ(10)の第1の内径D1’以上である円筒部によって囲まれる、
請求項1~14の何れか1項に記載のタイヤケーシング(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子無線識別装置又は無線周波数トランスポンダを装着したタイヤケーシングに関し、これは、詳細には陸上車両に装着されて使用する場合、厳しい熱機械応力に晒される。
【背景技術】
【0002】
RFID装置(RFIDは、RadioFrequency IDentificationの頭文字である)の分野では、従来、物体の識別、追跡及び管理のために受動型無線周波数トランスポンダが使用されている。これらの装置は、より信頼性があり迅速な自動管理を可能にする。
【0003】
これらの受動型無線周波数識別トランスポンダは、一般に、少なくとも1つの電子チップと、識別されるべき物体に締結された磁気ループ又は放射アンテナによって形成された1つのアンテナとからなる。
【0004】
無線周波数トランスポンダの通信性能は、無線周波数リーダーに又は無線周波数リーダーによって通信される所与の信号について、無線周波数トランスポンダと無線周波数リーダーとの通信の最大距離の観点で表される。
【0005】
例えば、タイヤのような高伸縮性の製品の場合、製造から市場からの撤廃までにわたって、特に使用中に製品を識別する必要性がある。このため、この課題を容易にするために、特に車両での使用条件下では、高い通信性能が要求され、これは、製品から大きく離れたところ(数メートル)でも、無線周波数リーダーを介して無線トランスポンダに問い合わせる能力で表される。最後に、このようなデバイスの製造コストはできる限り競争力のあるものであることが望ましい。
【0006】
タイヤの要求を満たすことができる受動型無線周波数識別トランスポンダは、従来技術において、特に文献WO2016/193457A1から知られている。このトランスポンダは、プリント回路基板に接続された電子チップからなり、このプリント回路基板には、第1の一次アンテナが電気的に接続されている。この一次アンテナは、放射状ダイポールアンテナを形成する単一ストランドの螺旋ばねに電磁気的に結合される。外部の無線周波数リーダーとの通信は、例えば電波を使用し、詳細にはUHF帯(UHFは、Ultra-High Frequencyの頭文字)を使用する。そのため、螺旋ばねの特性は、選択された通信周波数に合わせて調整される。従って、プリント回路基板と放射アンテナとの間の機械的接合部がなくなることにより、無線周波数トランスポンダの機械的抵抗が改善される。
【0007】
しかしながら、このような受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングに組み込まれたときに、特にタイヤケーシングのカーカス補強体が金属で作られている場合には、その使用において脆弱性を示す。この無線周波数トランスポンダは、外部無線周波数リーダーの通信周波数で動作するのに適しているが、放射アンテナを介した無線周波数通信は、特に長距離の問い合わせにおいて、特に金属製の補強体が無線電波を妨害することに起因して最適ではない。加えて、機械的応力の大きい環境では、放射アンテナが機械的にどのような挙動を示すかについても考慮する必要がある。このように、かかる受動型無線周波数トランスポンダの潜在的性能を最適化するためには、アンテナの機械的強度と無線通信の有効性、すなわち無線電気性能及び二次的に電磁的性能の性能上の妥協点を最適化する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2016/193457A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、性能に関する妥協点、特に車両での使用時にタイヤ設計に使用される受動型無線周波数トランスポンダの無線通信性能の改善を目的とした、受動型無線周波数トランスポンダを装着した、金属カーカス補強体を有するタイヤケーシングに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基準軸を中心としたトロイダル形状であり、受動型無線周波数トランスポンダを備えたタイヤケーシングに関する。
タイヤケーシングは、
各縁部にて軸方向端部を有するクラウン補強体と、トレッドとを含むクラウンブロックであって、各軸方向端部にて基準軸に対して軸方向及び半径方向内側に位置する内側端部を有するビードにサイドウォールにより接続されたクラウンブロックと、
エラストマー化合物の2つのスキム層の間に挿入され、補強方向を定める互いに平行な金属補強要素から形成された少なくとも1つのカーカス補強層を含むカーカス補強体と、
を備え、
少なくとも1つのカーカス補強層が、環状ビードワイヤの周りに上方に折り返されて、一方のビードワイヤから他方に延びてクラウンブロックに対して半径方向内側に位置する、少なくとも1つのカーカス補強層の主部と、各ビードにおいて少なくとも1つのカーカス補強層の折り返し部とを形成することによりビードに係止されており、
少なくとも1つのカーカス補強層の折り返し部が、ビードワイヤから半径方向外側に延びるエラストマー化合物の第1の層によって、少なくとも1つのカーカス補強層の主部から分離されており、
タイヤケーシングが更に、
ビードの領域においてタイヤケーシングの外面を形成するエラストマー化合物の第2の層であって、エラストマー化合物の第2の層は、リムと接触することが意図されている、エラストマー化合物の第2の層と、
サイドウォールの外面を形成する、エラストマー化合物の第2の層と接触して半径方向外側に位置するエラストマー化合物の第3の層と、
を備え、
受動型無線周波数トランスポンダは、電子部分と放射状ダイポールアンテナとを含み、
放射状ダイポールアンテナが、螺旋ピッチP、巻径D、中間面、及び放射状アンテナの内径及び外径を定める線径とからなり、そのうちの長さが、第1の長手方向軸、中央領域及び第1の長手方向軸に沿った2つの横方向領域を定める無線周波数リーダーとの周波数帯で通信するために設計されており、
電子部分が、電子チップと、少なくとも1つのターンを含むコイルタイプの一次アンテナとを含み、これによって第2の長手方向軸と該第2の長手方向軸に垂直な中間面とを定め、
一次アンテナが、電子チップに電気的に接続され、放射状ダイポールアンテナに電磁的に結合されており、回転軸が第2の長手方向軸に平行で、直径が一次アンテナと垂直に位置する放射型アンテナの内径の1/3以上である円筒部によって囲まれており、
受動型無線周波数トランスポンダは、第1及び第2の長手方向軸が平行であり、第1のアンテナの中間面が螺旋ばねの中央領域に位置付けられるように配置されている。
前記タイヤケーシングは、放射ダイポールアンテナが電子部分と垂直に位置していない第1の領域とを備え、第1の領域における螺旋ばねの少なくとも1つのループの螺旋ピッチP1と巻径D1との間の比は、0.8より大きく、受動型無線周波数トランスポンダが少なくとも1つのカーカス補強層と垂直に位置している状態で、受動型無線周波数トランスポンダの放射アンテナの第1の長手方向軸は、少なくとも1つのカーカス補強層の補強方向と少なくとも45度、好ましくは少なくとも60度の角度を形成し、受動型無線周波数トランスポンダが、ビードの内側端部の軸方向外側で且つビードワイヤの半径方向最外側端部とクラウンブロックの軸方向端部との間に、好ましくはタイヤケーシングの内側に位置する。
【0011】
ここで、用語「エラストマー」は、例えばジエンポリマー、すなわちジエン単位を含むポリマー、シリコーン、ポリウレタン及びポリオレフィンなどのTPE(ThermoPlastic Elastomersの頭文字)を含む全てのエラストマーを意味すると理解される。
【0012】
ここで、用語「電磁結合」は、電磁放射による結合、すなわち、一方では誘導結合、他方では容量結合を含む、2つのシステム間の物理的接触なしのエネルギー伝達を介した結合を意味すると理解される。一次アンテナは、コイル、ループ、ワイヤセグメント、又はこれら導電性要素の組み合わせを含むグループで構成されることが好ましい。
【0013】
ここで、用語「平行」は、各アンテナの軸方向によって生じる角度が30度以下であることを意味すると理解される。この場合、2つのアンテナ間の電磁結合が最適であり、受動型無線周波数トランスポンダの通信性能を顕著に向上させる。
【0014】
ここで、最初に、コイルと螺旋ばねの中央面を定める必要がある。定義上は、これは物体を2つの等しい部分に分離する架空平面である。この場合、この中央面は各アンテナの軸に垂直である。最後に、ここで用語「中央部」は、中央面間の相対距離が、放射アンテナの長さの10分の1よりも小さいことを意味すると理解される。
【0015】
このように、電流強度は放射アンテナの中心で最大の大きさとなるので、この電流によって誘導される磁界もまた、放射アンテナの中心で最大となり、従って、2つのアンテナ間の誘導結合が最適となることが確保され、これにより受動型無線周波数トランスポンダの通信性能を向上させる。
【0016】
放射アンテナの螺旋ばねの特性に対して一次アンテナの相対寸法を定めることにより、一次アンテナが放射アンテナの内部に位置する場合には、2つのアンテナ間の距離が一次アンテナの直径よりも小さくなることが確保される。このように、2つのアンテナ間の電磁結合、従って無線周波数トランスポンダの通信性能が、送信時及び受信時に最適化される。
【0017】
同様に、放射アンテナのうち電子部分と垂直な位置、つまり一次アンテナと垂直な位置の領域以外では、放射アンテナのループの巻径に対する螺旋ピッチの比が0.8より大きいと、螺旋ばねが伸張される効果がある。このため、放射アンテナの公称距離をカバーするのに必要なワイヤの長さが減少する。従って、放射アンテナの抵抗が減少する。従って、所与の電界に対して、放射アンテナを流れる電流の強さは、アンテナの固有周波数においてより大きくなり、無線周波数トランスポンダの通信性能を向上させることができる。また、螺旋ばねを伸張させることにより、放射抵抗と損失抵抗の比が向上して放射アンテナの効率が向上することができ、これはまた、放射アンテナに流れる電流の所与の流れに対して放射アンテナにより放射される電界を最大にすることができるようになる。最後に、所与のピッチの放射アンテナに対して、放射アンテナを伸張させることにより、螺旋ばねによって占有される体積を最小化することができる。従って、タイヤケーシングの厚みのような寸法的制約のある環境では、この第1の領域において放射アンテナを囲む絶縁ゴムの厚みを増やすことが可能である。この電気的絶縁により損失が最小限に抑えられ、従って、無線周波数トランスポンダの通信性能を送信時及び受信時の両方で向上させることができる。勿論、放射アンテナの第1の領域の各ループが細長いことが理想的であり、これに応じて、受動型無線周波数トランスポンダの通信性能は、特にRFIDタグの場合に向上することになる。
【0018】
用語「2つの補強要素と垂直」とは、放射ダイポールアンテナの場合では、タイヤケーシングがグリーンタイヤ状態にあるときに、少なくとも1つのカーカス補強層の主部の2つの平行な補強要素によって定められる平面への要素の直交投影が、これら2つの補強要素と交差していることを意味すると理解される。
【0019】
最後に、放射ダイポールアンテナの特性寸法(この寸法は、第1の長手方向軸によって定められる)が、カーカス補強層の複数の補強要素と垂直に位置するという事実により、受動型無線周波数トランスポンダが、とりわけグリーンタイヤ状態にあるときに、タイヤケーシングの厚さの制御位置にあることが確保される。具体的には、この構成は、タイヤケーシングがグリーン状態で構築されているときに、特にカーカス補強層に対して様々な非架橋層内で放射ダイポールアンテナのシフトの可能性を低減する。タイヤケーシングの主カーカス補強層は、1つのビードワイヤから他のビードワイヤまで延在するので、タイヤケーシング内に受動型無線周波数トランスポンダを設置して動作させることができる広範な領域を提供する。具体的には、受動型無線周波数トランスポンダを囲むエラストマー材料の量が制御されて、放射ダイポールアンテナの長さをタイヤ内の放射ダイポールアンテナの電気的環境に確実に堅牢に適合させることができるようにする。しかしながら、タイヤケーシングのカーカス補強体が、補強方向を定める金属補強要素の層を備える場合、この補強方向に対して少なくとも45度の角度で放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸を傾斜させることが適切である。優先的に、この角度は、少なくとも60度であり、特に好ましくは、放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸は、補強方向に対して垂直である。この傾斜は、金属カーカス補強体によって定められる遮蔽材によって発生する放射状ダイポールアンテナの電波擾乱を制限するために必要である。放射状ダイポールアンテナがカーカス補強体に対して垂直であることにより、これらの擾乱が最小限になる。45°の角度では、リムに取り付けられたタイヤケーシングから1メートルを超えた距離にある受動型無線周波数トランスポンダを読み取るのに十分な放射ダイポールアンテナの動作が可能であり、30°では、放射ダイポールアンテナの電波擾乱が2倍に増加する。
【0020】
最後に、無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングのビード及びサイドウォール領域に、特にビードワイヤとクラウンブロックのクラウン補強体との間に位置し、特に車両上での動作において、トランスポンダと外部の無線周波数リーダーとの間の通信を容易にする。具体的には、ホイール又はウィングなどの一般的に金属製の車両の車体要素が、タイヤケーシングと共に位置する受動型無線周波数トランスポンダ(特に、UHF周波数レンジにおける)との間の無線波の伝搬を妨げるので、タイヤケーシングのビードワイヤの外側で放射状に受動型無線周波数トランスポンダをサイドウォール及びビード領域に設置することで、タイヤケーシングが車両で供用されているときに、受動型無線周波数トランスポンダが外部無線周波数リーダーの多数の位置で遠距離から問い合わされ且つ読み取ることを容易にする。従って、受動型無線周波数トランスポンダとの通信は、堅牢で信頼性がある。無線周波数通信は不可欠ではないが、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングの内側に位置する。次いで、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングの製造中にこのケーシングに組み込まれ、これによって、例えばタイヤケーシング識別子のような受動型無線周波数トランスポンダの電子チップのメモリ内に含まれる読み取り専用データが保護される。代替手段は、受動型無線周波数トランスポンダを含むエラストマー化合物から作られたパッチを、例えばインナーライナーの層又はサイドウォールなど、タイヤケーシングの外面に取り付けるための従来技術で知られた技術を使用することである。この工程は、タイヤケーシングの寿命の間にいつでも行うことができ、受動型無線周波数トランスポンダの電子チップのメモリに含まれるタイヤケーシングデータの信頼性が低下する。
【0021】
任意選択的に、放射状ダイポールアンテナが、電子部分と垂直に位置する第2の領域を含む場合、第2の領域の各ループの螺旋ピッチP2と巻径D2との間の比は、0.8以下である。
【0022】
具体的には、放射状ダイポールアンテナの第2の領域、より詳細には一次アンテナと垂直に位置する領域において、放射状ダイポールアンテナに期待される効果は、電子部分の一次アンテナとの電磁結合、特に誘導結合である。従って、この結合を改善するための第1の方策は、この第2の領域における放射アンテナのインダクタンスを増加させることであり、これは螺旋ばねを縮小させることを意味する。また、この第2の領域で放射状ダイポールアンテナを縮小させることにより、放射状ダイポールアンテナに面する一次アンテナの所与の長さで、放射状ダイポールアンテナによって提供される交換面積を増大させることにより、一次アンテナと放射状ダイポールアンテナ間のエネルギー伝達が促進される。このエネルギー伝達の改善により、受動型無線周波数トランスポンダからより良好な通信性能がもたらされる。
【0023】
好ましくは、放射アンテナの第1の領域における螺旋ばねの各ループの螺旋ピッチと巻径との比は、3よりも小さく、好ましくは2よりも小さい。
【0024】
放射アンテナの電波性能を向上させることが有利であるが、放射アンテナが果たすべき他の機能も無視しないことが必要である。詳細には、螺旋ばねは、タイヤケーシング内の無線周波数トランスポンダが、タイヤケーシングの構築から車両上の移動体としてタイヤケーシングを使用することまで直面しなければならない三次元応力に耐えるように設計された伸縮可能な構造である。従って、放射アンテナが全体として十分なしなやかさを保持し、従って受動型無線周波数トランスポンダの物理的完全性を保証するために、この第1の領域において放射アンテナが伸張される量を制限することが推奨される。
【0025】
好ましくは、一次アンテナは、電子チップを含む回路基板の端子に接続されており、一次アンテナの電気インピーダンスは、無線周波数トランスポンダの回路基板の電気インピーダンスに整合される。
【0026】
用語「回路基板の電気インピーダンス」は、一次アンテナの端子間の電気インピーダンスを意味すると理解され、これは、少なくとも1つの電子チップと、電子チップが接続されるプリント回路基板とを含む回路基板の電気インピーダンスを表す。
【0027】
一次アンテナのインピーダンスを回路基板のインピーダンスに整合させることで、無線周波数トランスポンダは、利得を向上させて、より選択的なフォームファクタ及び狭通過帯域の回路基板を実現することにより通信周波数にて最適化される。このように、無線周波数トランスポンダに伝送される所与のエネルギー量に対して、無線周波数トランスポンダの通信性能が向上する。この結果、特に、所与の放射電力に対する無線周波数トランスポンダの読み取り距離が増大する。一次アンテナのインピーダンス整合は、例えばワイヤの直径、このワイヤの材料及びワイヤの長さのような、一次アンテナの幾何学的特徴の少なくとも1つを調整することにより得られる。
【0028】
また、一次アンテナのインピーダンス整合はまた、一次アンテナと電子回路との間に、例えば、インダクタに基づくフィルタ、コンデンサ、伝送線路などの追加の電子構成要素から構成されるインピーダンス整合回路を追加することによっても得ることができる。
【0029】
また、一次アンテナのインピーダンス整合は、一次アンテナの特徴とインピーダンス整合回路の特徴を組み合わせることによっても得ることができる。
【0030】
1つの特定の実施形態によれば、電子チップ及び一次アンテナの少なくとも一部分は、例えば高温エポキシ樹脂などの剛性及び電気絶縁質量体に埋め込まれる。この組立体は、無線周波数トランスポンダの電子部分を形成する。
【0031】
このように、一次アンテナとプリント回路基板に接続された電子チップの少なくとも一部分を含む電子部分が剛性化されて、タイヤケーシングが接続中と使用中の両方で受ける熱機械的応力に関してその構成要素間の機械的接続をより信頼性の高いものにする。
【0032】
これはまた、無線周波数トランスポンダの電子部分を、放射アンテナやタイヤケーシングから独立して製造することを可能にする。特に、例えば、一次アンテナとして多くのターンのマイクロコイルを用いると、一次アンテナ及び電子チップを含む電子部分品の小型化を想定することができる。
【0033】
別の実施形態によれば、一次アンテナの剛性質量体に埋め込まれていない部分は、電気絶縁材料で被覆される。
【0034】
従って、一次アンテナが電子部分の剛性及び電気絶縁質量体に完全には含まれていない場合、電気ケーブルの絶縁シースに採用されているような電気絶縁材料製のコーティングを介して絶縁することが有用である。
【0035】
1つの具体的な実施形態によれば、タイヤケーシングは、基準軸に対して少なくとも1つのカーカス補強層の主部の軸方向外側に位置し、基準軸に対してエラストマー化合物の第2の層及び/又は第3の層の軸方向内側に位置するエラストマー化合物の第4の層を含む。
【0036】
従って、タイヤケーシングのこの構成は、相違するビードとサイドウォールの性能の妥協点を提供し、受動型無線周波数トランスポンダは、この第4の層のエラストマー化合物に挿入して接触させることができる。
【0037】
別の具体的な実施形態によれば、タイヤケーシングが、空気に対して高度に不透過性の層であると言えるエラストマー材料の気密層を含み、この層が基準軸に対してタイヤケーシングの内側に向かって最も遠くに位置している場合、タイヤケーシングは、基準軸に対して少なくとも1つのカーカス補強層の主部の内側に位置するエラストマー化合物の第5の層を含む。
【0038】
このような構成のタイヤケーシングは、例えば、タイヤケーシングのカーカスの耐用年数を向上させることが可能となる。具体的には、第5の層のエラストマー化合物は、特に空気中の酸素を固定することを可能にする成分を含み、これによって、この第5の層のエラストマー化合物の軸方向外側に位置するタイヤケーシングの他の製品の酸化を制限する。
【0039】
従って、受動型無線周波数トランスポンダは、この第5の層のエラストマー化合物に接触することができる。
【0040】
1つの特定の実施形態によれば、タイヤケーシングは、ゴムの2つの層の間に挿入された補強要素で形成される補強層を備える。
【0041】
これらは専用ケーシングであり、使用形態又は供用中の応力負荷に応じて、例えばホイールとタイヤケーシングの間の摩擦を防ぐためにビード部に局所的な補強体を必要とする。この補強層はまた、特定の領域、特にクラウンブロックの軸方向端部に配置され、厳しい熱機械的応力負荷の下でクラウンブロック及びタイヤケーシングの幾何学的形状を制約することができる。この補強層は一般に、少なくとも1つの自由縁を有する。受動型無線周波数トランスポンダは、エラストマー化合物製の補強層の自由縁と接触又は近接することができる。
【0042】
1つの特定の実施形態によれば、受動型無線周波数トランスポンダは、電気絶縁性エラストマー化合物の質量体に部分的に封入される。
【0043】
用語「電気絶縁性」は、ここでは、エラストマー化合物の導電度が、化合物の導電性電荷パーコレーション閾値を少なくとも下回ることを意味すると理解される。
【0044】
最後の特定の実施形態によれば、封入質量体の相対誘電率は、10未満である。
【0045】
封入質量体を構成するエラストマー化合物の相対誘電率のこの値は、受動型無線周波数トランスポンダが位置する環境の安定性を保証し、従って、本発明の主題を堅牢にする。このように、封入質量体は、一定に保たれた環境の電波を確保し、従って、目標通信周波数での動作のための放射ダイポールアンテナの寸法を堅牢に固定することができる。
【0046】
別の具体的な実施形態によれば、封入質量体の引張弾性率は、当該封入質量体に隣接する少なくとも1つのエラストマー化合物の引張弾性率よりも低い。
【0047】
これにより、受動型無線周波数トランスポンダがタイヤケーシング内で構成する機械的特異点を抑制しながら、受動型無線周波数トランスポンダをグリーンタイヤケーシングに容易に適合させる組立品が形成される。必要であれば、この組立体をタイヤケーシングに固定するために、場合によっては従来の接着ゴム層が採用されることになる。
【0048】
更に、エラストマー化合物の剛性及び導電特性は、タイヤケーシング内の受動型無線周波数トランスポンダの高品質の機械的挿入及び電気絶縁を確保する。従って、無線周波数トランスポンダの動作は、タイヤケーシングによって妨害されない。
【0049】
第1の好ましい実施形態によれば、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングのエラストマー化合物の層の表面によって定められる界面に位置している。
【0050】
これは、受動型無線周波数トランスポンダをタイヤケーシングの機構に適合させることを容易にする実施形態である。受動型無線周波数トランスポンダの装着は、エラストマー化合物の層の外面に上記受動型無線周波数トランスポンダを配置することによって、グリーンタイヤを構築するための手段において直接行われる。このエラストマー化合物の層は、スキム層であってもよい。受動型無線周波数トランスポンダは、第2の層のエラストマー化合物で覆われることになる。このように、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングの構成要素によって完全に封入される。従って、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシング内に埋め込まれ、電子チップのメモリが書き込み保護されているときに改ざんできないことを保証する。
【0051】
好ましくは、界面がエラストマー化合物の別の層又は補強層によって定められている場合、受動型無線周波数トランスポンダは、界面を構成する層の端部から少なくとも5ミリメートル、好ましくは金属補強層の端部から少なくとも10ミリメートルの距離に位置している。
【0052】
受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤの構造上、異物として存在し、機械的特異点を構成する。界面における各層の端部もまた、機械的特異点を構成している。タイヤケーシングの耐久性を確保するために、2つの特異点は、ある距離で互いに離れていることが好ましい。この距離が大きければ大きいほどよく、特異点の影響の最小距離は、当然ながら特異点の大きさに比例する。層の端により形成される特異点は、例えば補強層又はカーカス補強層のように、隣接する層の剛性と比較してその層の剛性が高いほど敏感になる。補強体が本質的に金属である場合、又は、例えばアラミドの場合のように、高い剛性を有する織物で作られている場合には、2つの特異点を少なくとも10ミリメートル離しておくことが適切である。
【0053】
第2の好ましい実施形態によれば、受動型無線周波数トランスポンダは、タイヤケーシングのエラストマー化合物の層の内側に位置する。
【0054】
この第2の実施形態は、エラストマー化合物の層間の界面によって位置を強制する第1の好ましい実施形態とは異なり、タイヤケーシングの厚さに応じて受動型無線周波数トランスポンダの正確な位置に関する選択の余地を残すという利点を有している。従って、電気的絶縁及び剛性の観点から均一なエラストマー化合物の質量体に受動型無線周波数トランスポンダを封入することも可能であり、受動型無線周波数トランスポンダの良好な無線周波数及び機械的動作を促進する。また、これによりエラストマー化合物の層に組み込むための無線周波数トランスポンダを、タイヤケーシングを構築するのに使用される手段から離れて備えることができ、これはより生産的であることが証明される。このように、この第2の好ましい実施形態は、タイヤケーシング内の受動型無線周波数トランスポンダの設置のためのより広い選択肢を提供する。
【0055】
有利には、受動型無線周波数トランスポンダの放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸は、エラストマー化合物の層の厚さに対して垂直である。
【0056】
エラストマー化合物の層は、一般に、タイヤケーシングを構築するために互いに部分的に重ね合わせられた厚い層である。タイヤケーシング内の受動型無線周波数トランスポンダの位置を最もよく制御するために、受動型無線周波数トランスポンダの主要寸法、すなわち第1の長手方向軸が、エラストマー化合物の層の厚さに垂直に配向されることが好ましい。これにより、エラストマー化合物の表面に対して傾斜した無線周波数トランスポンダが、タイヤの製造中にエラストマー化合物の層の外面を通過して別の層に入るリスクが回避される。このような例は、タイヤケーシングの耐久性に有害となる可能性がある。
【0057】
極めて有利なことに、受動型無線周波数トランスポンダは、エラストマー化合物の層の表面から少なくとも0.3ミリメートルの距離に位置する。
【0058】
少なくとも0.3ミリメートルの距離」とは、第1の物体の何れかの外部材料点、この例では、潜在的にその封入質量体を備えた受動型無線周波数トランスポンダが、第2の物体の何れかの材料点、この例では、エラストマー化合物の層の表面から、0.3ミリメートル以上の距離に位置することを意味する。詳細には、この0.3ミリメートルの距離は、硬化状態で測定される。
【0059】
これにより、タイヤケーシングの製造段階において、熱機械的応力下でエラストマー化合物の層内の受動型無線周波数トランスポンダの何れかの可能性のあるシフト、又はエラストマー化合物の層内の受動型無線周波数トランスポンダの位置の何れかの広がりのリスクが阻止される。この位置決めにより、受動型無線周波数トランスポンダがエラストマー化合物の層から離れることはない。この位置決めにより、エラストマー化合物の層内の受動型無線周波数トランスポンダの制御された機械的及び電気的絶縁が確保され、その結果、タイヤケーシングと無線周波数トランスポンダの耐久性が保証されると同時に、良好な無線周波数動作が保証される。
【0060】
具体的な一実施形態によれば、無線周波数リーダーとの無線電気通信は、UHF帯、及び最も具体的には860~960MHzで構成される範囲において行われる。
【0061】
具体的には、この周波数帯では、放射アンテナの長さが通信周波数に反比例している。更に、この周波数帯の以外では、標準的なエラストマー材料を通しての無線通信は極めて不安定であり、不可能でさえある。このように、これは、無線周波数トランスポンダのサイズと、その無線電気通信、特に遠距離場での通信との間の最良の妥協点であり、タイヤの分野では満足できる通信距離を有することが可能となる。
【0062】
別の特定の実施形態によれば、放射アンテナの長さL0は、30~50ミリメートルの間で構成される。
【0063】
具体的には、860~960MHzの周波数レンジにおいて、無線周波数トランスポンダを囲むエラストマー化合物の相対誘電率に応じて、無線周波数トランスポンダによって送受信される電波の半波長に合わせた螺旋ばねの全長は、30~50ミリメートル、好ましくは35~45ミリメートルの間に位置する。このような波長での放射アンテナの動作を最適化するために、放射アンテナの長さを波長に完全に合わせることが推奨される。
【0064】
有利には、放射アンテナの第1の領域における螺旋ばねの巻径は、0.6~2.0ミリメートル、好ましくは0.6~1.6ミリメートルの間に構成される。
【0065】
これにより、放射アンテナによって占められる体積を制限することができ、このため、無線周波数トランスポンダの周囲の電気絶縁エラストマー化合物の厚みを大きくすることができる。勿論、放射アンテナの第1の領域における螺旋ばねのこの直径は、一定、可変、連続的に可変、又は区分的に可変とすることができる。直径が一定又は連続的に可変であることが、放射アンテナの機械的完全性の観点から好ましい。
【0066】
好ましい一実施形態によれば、放射アンテナの第1の領域における放射アンテナの少なくとも1つのループの螺旋ピッチは、1~4ミリメートルの間、好ましくは1.3~2ミリメートルの間で構成される。
【0067】
これにより、放射アンテナの第1の領域におけるばね、又は少なくとも1つのループの巻径に対する螺旋ピッチの比が3を下回ることが確保され、螺旋ばねの最小伸長を保証することが可能となる。また、このピッチは、放射アンテナの第1の領域全体にわたり一定又は可変とすることができる。勿論、放射アンテナの機械的脆弱性を形成することになる放射アンテナの特異点を避けるために、ピッチが連続的に可変であるか、変化の遷移が小さい可変であることが好ましい。
【0068】
有利な一実施形態によれば、放射アンテナのワイヤの直径は、0.05~0.25ミリメートル、理想的には0.12~0.23ミリメートルの間で構成される。
【0069】
このワイヤ範囲では、損失抵抗が確実に低くなり、従って、放射アンテナの電波性能を向上させる。加えて、線径を制限することで、電気絶縁性エラストマー化合物の厚みを増すことにより、放射アンテナと導電体との間の距離を長くすることができる。しかしながら、一般的に軟鋼であるこれらのワイヤの材料の破断応力を最適化することなく、タイヤケーシングのような高応力環境下で受ける熱機械的応力に耐え得るようにするために、一定の機械的強度を確保する必要がある。これにより、放射アンテナは、技術的/経済的に満足のいく妥協点を示すことが可能となる。
【0070】
有利には、第1の領域における放射状ダイポールアンテナの螺旋ピッチに対応する放射状ダイポールアンテナの第1のピッチP1は、放射状ダイポールアンテナが電子部分と垂直に位置する第2の領域における放射状ダイポールアンテナの螺旋ピッチに対応する放射状ダイポールアンテナの第2のピッチP2より大きい。
【0071】
放射状ダイポールアンテナが電子部分と垂直に位置する第2の領域における放射状ダイポールアンテナの螺旋ピッチP2が、この領域外の放射状ダイポールアンテナのピッチP1よりも小さいことを必要とすることにより、 この領域における放射型ダイポールアンテナの電磁気的適性は、放射型ダイポールアンテナの第1の領域で促進される放射効果を損なうことなく、有利に働く。このように、放射状ダイポールアンテナの螺旋ピッチの圧縮は、この領域におけるアンテナのインダクタンスを向上させる。放射状ダイポールアンテナに流れる電流の所与の流れに対して、これは、アンテナにより発生される磁界を増大させるために不可欠なレバーアームである。更に、この放射状ダイポールアンテナのインダクタンスの向上は、必ずしも放射型アンテナの巻径を変更することなく得られる。また、所与の長さの一次アンテナに対して、電子部分の一次アンテナと垂直な放射状ダイポールアンテナのピッチの圧縮により、2つのアンテナ間の大きな交換面積が確保され、2つのアンテナ間の電磁結合も向上させる。従って、無線周波数トランスポンダの通信性能は、これにより向上する。最後に、放射状ダイポールアンテナのピッチの圧縮は、この第2の領域において、特に放射状ダイポールアンテナの巻径の定義に関して、放射状ダイポールアンテナの製造公差を最小化しより良好に制御することを可能にする。このように、放射状ダイポールアンテナに対する電子部分の位置決めを定めるこの直径に対する制御であるので、放射状ダイポールアンテナのスクラップ率が低下する。
【0072】
極めて有利には、電子部分が放射アンテナ内に配置されている場合、第1の領域における放射ダイポールアンテナの第1の内径D1’は、第2の領域における放射ダイポールアンテナの第2の内径D2’よりも小さく、電子部分は、その回転軸が第1の長手方向軸に平行で且つその直径が放射ダイポールアンテナの第1の内径D1’と同じかより大きい円筒部によって周回されている。
【0073】
電子部分を取り囲む円筒部が、第1の長手方向軸に平行な回転軸と、放射状ダイポールアンテナの第1の内径以上の直径とを有するのを確保することにより、従って、放射状アンテナの第1の領域は、電子部分の軸方向移動に対する停止部を形成する。この第1の領域は、放射ダイポールアンテナに対する電子部分の中心的位置決めのために電子部分と垂直に位置する放射ダイポールアンテナの当該領域の両側に位置するという事実は、従って、電子部分の軸方向外側に位置し無線周波数トランスポンダの電子部分の何れの軸方向移動も制限する2つの機械的エンドストップがあることが確保される。更に、電子部分を囲む円筒部の直径は、第2の領域において放射アンテナの内側に位置するので、この直径は、放射アンテナの第2の内径よりも小さくなければならない。このため、電子部分の何らかの半径方向シフトは、放射状ダイポールアンテナの第2の内径によって制限される。このように、電子部分の移動が制限されることで、受動型無線周波数トランスポンダの電子部分と放射状ダイポールアンテナの物理的な完全性を確保しながら、無線周波数トランスポンダの通信性能を確保することができる。最後に、この無線周波数トランスポンダを収容するタイヤケーシングの耐久性は、この設計の選択によって影響を受けない。更に、無線周波数トランスポンダは、追加の予防措置を講じる必要なく、タイヤケーシングの構造への装着のために取り扱いが容易になる。
【0074】
本発明は、以下の詳細な説明によってよく良好に理解されるであろう。これらの応用例は、例証として及び全体として同じ参照数字が同一の部品を示す添付図を参照して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】従来技術の無線周波数トランスポンダの斜視図である。
図2】本発明による無線周波数トランスポンダの斜視図である。
図3a】放射状ダイポールアンテナの所与の基本長に対する螺旋ばねの螺旋ピッチと巻径との比に応じた放射状アンテナのワイヤの長さを示す図である。
図3b】一定ピッチ又は一定巻径が採用されるかどうかに応じた放射状アンテナのワイヤの長さを示す図である。
図4】特定の特殊性を有する、本発明による無線周波数トランスポンダの一例である。
図5】本発明による識別タグの分解図である。
図6】本発明によるタイヤケーシングに組み込まれた2つの受動型無線周波数トランスポンダに伝送される電力を観測周波数帯の関数として示すグラフである。
図7】従来技術のタイヤケーシングの子午線方向断面図である。
図8】受動型無線周波数トランスポンダがタイヤケーシングの外側領域に位置する場合の、本発明によるタイヤケーシングのビード及びサイドウォールの子午線方向断面図である。
図9】受動型無線周波数トランスポンダがタイヤケーシングの内側領域に位置する場合の、本発明によるタイヤケーシングのビード及びサイドウォールの子午線方向断面図である。
図10】2つのカーカス補強層を含むタイヤケーシングの子午線方向断面図である。
図11】延長して延びるためのサイドウォールインサートを含み、受動型無線周波数トランスポンダを備えたタイヤケーシングの子午線方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下では、用語「タイヤ」及び「空気圧タイヤ」は、等価的に用いられ、あらゆるタイプの空気圧又は非空気圧タイヤを指す。
【0077】
図1は、電子部分20が放射アンテナ10の内部に位置する構成の従来技術の無線周波数トランスポンダ1を示している。放射アンテナ10は、回転軸11を有する螺旋ばねを形成するために塑性変形されたスチールワイヤ12からなる。この螺旋ばねは、主として被覆ワイヤの巻径と螺旋ピッチによって定められる。螺旋ばねのこれら2つの幾何学的パラメータは、ここでは一定である。従って、螺旋ばねの内径13と外径15は、ワイヤの直径を考慮して正確に決定される。ばねの長さL0は、ここでは、エラストマー化合物の質量体におけるトランスポンダ1の無線周波数伝送信号の1/2波長に相当する。従って、放射アンテナ10を2つの等しい部分に分離する、回転軸11に垂直な螺旋ばねの中央面19を定めることが可能である。電子部分20の幾何学的形状は円筒部に外接し、その直径は、螺旋ばねの内径13よりも小さいか等しい。これにより、電子部分20を放射アンテナ10に挿入するのが容易になる。一次アンテナの中央面21は、放射アンテナ10の中央面19と実質的に重なる位置にある。最後に、一次アンテナの軸は、放射アンテナ10の回転軸11と実質的に平行である。放射アンテナは、2つの異なる領域:螺旋ばねが電子部分20と垂直に位置していない放射アンテナ10の第1の領域101と、電子部分20と垂直に位置する第2の領域102と、に分割することができる。放射アンテナ10の第1の領域101は、実質的に等しい長さの2つの部分101a及び101bを含み、これらの部分は、放射アンテナ10の第2の領域102の軸方向で側面に位置する。
【0078】
図2は、本発明による無線周波数トランスポンダ1であり、ここでは、従来技術の無線周波数トランスポンダに対して、第1の領域の放射アンテナの少なくとも1つのループの巻径に対する螺旋ピッチの比が0・8より大きいという顕著な特徴を有する。この場合、各領域101a、101bの全てのループの比率が等価に変更されている。これは、各サブ領域101a、101bのループの総数を減少させることにより実現される。この特定のケースでは、放射アンテナ10のワイヤの巻線の巻径は同じに保たれる。しかしながら、このアンテナの第1の領域101における放射アンテナ10のスチールワイヤの巻線の巻径を大きくすることによって、第1の領域101の各ループの巻径に対する螺旋ピッチの比を変更することが可能となる。この場合、放射アンテナ10の第2の領域102における放射アンテナ10の螺旋ピッチは変更されていない。従って、放射アンテナ10の第2の領域102における螺旋ピッチと巻径との比は、0.8よりも小さい。
【0079】
図3a及び図3bは、放射アンテナの電波特性及び電磁特性に関して、螺旋ばねの1つのループについての巻径に対する螺旋ピッチの比の重要性を示す図である。
【0080】
図3aは、ループの螺旋ピッチとループが形成されるワイヤの直径が一定である場合の、ループの螺旋ピッチと巻径の比の変動を示す図である。1に等しい比で完全なループによって占められる領域に等しい長さの放射アンテナの基本長の場合、このループの曲線距離は、2*PI*PI基本単位に等しい。実線で描かれた曲線500が、このループに相当する。具体的には、このループの半径は、必然的にPI基本単位に等しくなる。ここで、2に等しい比に対応する点線で描かれた曲線501を考えると、螺旋のピッチが一定であるので、このループの巻径は、前のループの巻径の2分の1、すなわちPI基本単位でなければならない。よって、点線501で示されたこのループの曲線距離は、PI*PI基本単位に等しい。従って、第2のループよりも巻径に対する螺旋ピッチの比が大きい第1のループの曲線長は、この第2のループの曲線長よりも小さくなる。破線で描かれた曲線502は0.8の比、点線で描かれた曲線503は0.5の比をそれぞれ示している。この2つのループの曲線長は、それぞれ、2.5*PI*PI基本単位及び4*PI*PI基本単位に等しい。
【0081】
図3bは、ループの直径とループを形成する電線の直径が一定である場合の、ループの巻径に対する螺旋ピッチの比の変化の説明図である。1に等しい比の完全なループによって占められる領域に等しい長さの放射アンテナの基本長に対して、このループの曲線距離は2*PI*PI基本単位長に等しい。実線で描かれた曲線505は、このループに相当する。具体的には、このループの半径は、必然的にPI単位に等しい。ここで、2に等しい比に対応する曲線506を考えると、巻径は一定なので、このループの螺旋ピッチは、前のループの螺旋ピッチの2倍、すなわち4*PI基本単位でなければならない。しかしながら、基本長が2*PI基本単位に限定された場合、点線で示したこのループの曲線距離は、PI*PI基本単位に等しくなる。同様に、それぞれ0.5及び0.2の比に対応する、すなわちループの数がそれぞれ2倍及び5倍になった曲線507及び508の場合、点線で示した曲線50の曲線距離は、4*PI*PI基本単位に等しくなる。更に、2点破線で描かれた曲線508の曲線距離は、10*PI*PI基本単位に等しい。
【0082】
勿論、各ループの螺旋ピッチ又は巻径だけを変更するのではなく、両方のパラメータを同時に変更することも可能である。この2つの変更によって得られる比のみが、放射アンテナの通信性能に影響を与えることになる。
【0083】
具体的には、導電性ワイヤの抵抗値は、ワイヤの曲線長に比例する。ループの巻径に対する螺旋ピッチの比が高いほど、ワイヤの曲線長が短くなる。すなわち、ループの電気抵抗が小さくなる。結論として、電気抵抗を最小にすることで、放射アンテナのループの電波特性が改善される。放射アンテナの第1の領域の電気抵抗を最小にすることにより、アンテナの放射効率は、送信及び受信の両方において改善され、アンテナは主にこの第1の領域からなる。また、アンテナの電気抵抗を最小にすることで、所与の電位差に対して最大電流の発生が確保される。従って、無線周波数トランスポンダの無線電気性能、及びひいては通信性能がこれによって改善される。
【0084】
放射アンテナの第2の領域に関しては、第1の領域よりも小さいこの第2の領域の放射効率は必須ではない。具体的には、この第2の領域の主な機能は、電子部分の一次アンテナとの電磁結合を確保することである。この電磁結合は、一次アンテナが複数のターン数のコイルである場合、主に誘導結合に起因するものである。この結合が起こるためには、放射アンテナが最初に磁界を発生させる必要がある。この磁界は、特に放射アンテナのインダクタンスに依存する。コイルのインダクタンスを最大にするには、コイルの巻径に対する螺旋ピッチの比を小さくすること、又はコイルのループ数を多くすることが推奨される。放射アンテナの第2の領域のループの巻径に対する螺旋ピッチの比を小さくすることで、アンテナのインダクタンスを大きくして、誘導結合が最大になる。また、アンテナの螺旋ピッチのみを変更することでこの比が小さくなる場合、アンテナの第2の領域を構成する巻数が増加し、これにより2つのアンテナ間のエネルギー伝達領域が大きくなる。このエネルギー伝達領域の増大は、勿論、無線周波数トランスポンダの通信性能に有利に働く。
【0085】
図4は、タイヤケーシングに組み込むことを意図した、860~960MHzの周波数帯で動作する無線周波数トランスポンダ1の例証図である。タイヤケーシングの耐久性を損なうことなく、ビードワイヤを有するタイヤケーシング内の無線周波数トランスポンダ1の無線通信性能及び物理的完全性を改善するために、放射アンテナ10の回転軸を軸Uと平行に配置して、タイヤケーシングのカーカス補強層の少なくとも2つの補強要素に載るようにすることが好ましいことになる。特に、タイヤケーシングが単一のカーカス補強層、例えばラジアルタイヤ用の従来のタイヤケーシングを有する場合、放射アンテナ10の回転軸は、カーカス補強層の半径方向の補強要素によって定められる補強方向に対して垂直になり、このトランスポンダがタイヤケーシングの製造過程で組み込まれる場合には、受動型無線周波数トランスポンダのための機械的アンカポイントを増やすことが可能である。その結果、受動型無線周波数トランスポンダ1は、タイヤケーシングの基準軸に対して円周方向に位置決めされることになる。
【0086】
また、無線周波数トランスポンダは、ビードの軸方向内側端部に対して、軸方向外側に位置付けられることになる。これは、熱機械的変形の予期せぬ大きな変動を生じないので、機械的に安定した領域である。最後に、受動型無線周波数トランスポンダ1は、ビードワイヤの半径方向上端とタイヤケーシングのクラウンブロックの軸方向端部との間に半径方向に配置されることになる。このように半径方向に位置付けることにより、陸上車両のタイヤケーシングに組み込まれた受動型無線周波数トランスポンダは、無線周波数リーダーと受動型無線周波数トランスポンダ1との間に介在する導電要素が少ないので、陸上車両の外部に位置する無線周波数リーダーとの通信が容易になる。
【0087】
ここで、無線周波数トランスポンダ1は、放射アンテナ10と、放射アンテナ10の内側に位置する電子部分とを備える。電子部分は、プリント回路基板に接続された電子チップと、プリント回路基板に接続された17個の矩形ターンを含む導電ワイヤからなる一次アンテナと、を備える。プリント回路基板の一次アンテナと反対側の面は、長さ10ミリメートルで幅1ミリメートルのラインを形成する蛇行形状のガルバニック回路を含む。最後に、1次アンテナを囲む円筒部の直径は0.8ミリメートルである。
【0088】
このようにして形成された回路基板は、エポキシ樹脂の質量体30に埋め込まれ、電子構成要素の機械的信頼性と回路基板の電気絶縁性が確保される。剛性の質量体30を囲む円筒部は、直径が1.15ミリメートルで長さが6ミリメートルである。
【0089】
放射アンテナ10の長さL0は、ここでは45ミリメートルであり、相対誘電率yが約5に等しい媒体における周波数915MHzの電波の1半波長に相当する。放射アンテナ10は、直径0.225ミリメートルのスチールワイヤ12を用いて製造され、その表面は、真鍮の層でコーティングされる。
【0090】
放射アンテナ10は、2つの主要領域に分割することができる。第1の領域101は、放射アンテナのうち、電子部分と垂直に位置していない部分に相当する。第1の領域101は、剛性及び絶縁性質量体30の両側に位置する2つのサブ領域101a、101bを含む。
【0091】
各サブ領域101a,101bは、19ミリメートルの長さL1を有し、1.275ミリメートルの一定の巻径D1の12個の円形巻回を含む。これは、内径1.05mm及び外径1.5mmを定める。円形ターンの螺旋ピッチP1は1.55mmである。従って、巻径D1に対する螺旋ピッチP1の比は、1.21である。各サブ領域101a、101bの軸方向外側端部は、2つの隣接する巻回で終わる。このように、比が高いことで、この領域101において放射アンテナ10の電波特性の有効性が最大になるのが確保される。また、放射アンテナ10の最外側に位置するターン同士の接触により、無線周波数トランスポンダの取り扱い時に螺旋ばねが互いに交差するのが防止される。放射アンテナ10の第1の領域101のターンのほとんどは、0.8よりも高い比を有するので、無線周波数トランスポンダ1の無線電気性能が明らかに向上する。
【0092】
電子部分と垂直に位置する放射アンテナ10の部分に相当する、放射アンテナ10の第2の領域102において、放射アンテナは、7ミリメートルの長さを有する。螺旋ばねは、1ミリメートルの一定の螺旋ピッチP2と、1.75ミリメートルの巻径D2とを有する。従って、放射アンテナの第2の領域の螺旋ばねの内径は、1.35ミリメートルである。このため、およそ0.63の定数である、巻径に対する螺旋ピッチの比を有することができる。この比により、放射アンテナ10の第2の領域102のインダクタンスを第1の領域101に対して最大にすることができ、これにより、電子部分への電磁結合の効果を向上させることができる。
【0093】
この特定のケースでは、第1の領域101において、1.05ミリメートルに等しい放射アンテナ10の内径は、電子部分を囲む円筒部で表される質量体30の直径(1.15mmに等しい)よりも小さい。このように、放射アンテナ10の第1の領域101のサブ領域101a及び101bは、放射アンテナ10の内部の質量体30の軸方向移動を制限する機械的ストップを形成する。電子部分は、剛性がある絶縁性の質量体30を放射アンテナ10に挿入することによって設置される。
【0094】
また、一次アンテナを囲む円筒部の直径は、放射アンテナの第2の領域102の螺旋ばねの内径の1/3よりも遙かに大きい。一次アンテナを囲む円筒部は、放射アンテナ10の回転軸Uと同軸ではないが、実質的に平行である。更に、放射アンテナ10の第2の領域102と一次アンテナとの間の最小距離は、0.3ミリメートルよりも小さく、すなわち、放射アンテナ10の内径の1/4より遙かに小さい。アンテナのこの近接性は、放射アンテナ10の第2の領域102に適用される圧縮ピッチP2によって可能とされ、これにより、ばねの寸法、特に巻径D2についてより小さい公差を得ることができる。更に、この近接性により、2つのアンテナ間のより高品質の電磁結合が保証される。勿論、この電磁結合は、一次アンテナと放射アンテナにおいて、例えば円形ターンなどの同じ形状のターンを使用することによって改善された可能性がある。この結合は、2つのアンテナの軸を同軸にすることによっても最適化することができ、これは、電子部分の軸方向寸法を最小にするように、回路基板を一次アンテナの内側に配置することになる。従って、2つのアンテナ間の電磁エネルギーの伝達領域の品質が最適であった。
【0095】
他の特定の実施形態は、詳細には放射アンテナの第1の領域と第2の領域との間で螺旋ばねの巻径が変化する場合、特に放射アンテナの第1の領域の内径が電子部分を囲む円筒部の直径よりも小さい場合に、採用することが可能である。
【0096】
図5は、電気絶縁性エラストマー材料で作られた柔軟な質量体3に埋め込まれた、本発明による無線周波数トランスポンダ1を含む識別タグ2を示し、この質量体はブロック3a及び3bから構成される。無線周波数トランスポンダ1は、一般に、放射アンテナ10の第1の領域101と識別タグ2の外面との間の最小距離を最大にするために、タグ2の中央部に配置される。
【0097】
スチールワイヤの巻径を小さくして、放射アンテナ10の第1の領域101のループの螺旋ピッチと巻径との比を大きくした場合、エラストマー材料の質量体3内で無線周波数トランスポンダ1によって占められる体積が減少する。
【0098】
これにより、第1の応用例では、識別タグ2の外表面と放射アンテナ10の第1の領域101との間の距離を同じに維持しながら、識別タグ2の各ブロック3a、3bの厚さを減少させることができる。このように識別タグ2の厚さを減少させることにより、同じ電気絶縁電位を維持したまま、識別対象物への導入が容易になる。第2の応用例では、これにより、放射アンテナ10の第1の領域101と識別タグ2の外面との間の距離を大きくすることができる。この第2の応用例では、無線電気能を向上させることができ、従って、識別タグ2に配置された無線周波数トランスポンダ1の通信性能を向上させることができる。具体的には、タグ2の電気絶縁性は、放射アンテナ10の第1の領域101とタグ2の外面との間の距離に比例する。識別タグ2の電気的絶縁性が向上することにより、無線周波数トランスポンダ1の無線電気動作が改善され、或いは、この距離が有効漸近線に達していた場合には同じままである。
【0099】
図6は、受動型無線周波数トランスポンダにより外部無線周波数リーダーに伝送される電力のグラフであり、各受動型無線周波数トランスポンダは、金属(この場合はスチール)製のカーカス補強層を含む275/70R22.5寸法のXINCITY Michelinラジアルタイヤのタイヤケーシング内にある。受動型無線周波数トランスポンダは、40ミリメートルの距離でビードワイヤの半径方向上端部の半径方向外側のビード領域に位置し、エラストマー化合物の第1の層に半径方向に接して、放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸がカーカス補強層に垂直であるようになる。無線周波数トランスポンダの通信周波数は、915MHzを中心とする。使用される測定プロトコルは、ISO/IEC 18046-3規格「識別電磁界閾値と周波数ピーク」に準拠している。測定は、従来のような単一周波数ではなく、広範囲のスキャン周波数で行った。X軸は通信信号の周波数を表す。Y軸は、現行の無線周波数トランスポンダによって送信される最大電力に対する、無線周波数リーダーによって受信される電力をデシベル単位で表したものである。破線の曲線1000は、引用文献による無線周波数トランスポンダの応答を表している。連続曲線2000は、無線周波数リーダーによって送信された同じ信号に対する本発明によるトランスポンダの応答を表している。無線周波数リーダーの通信周波数において、本発明による無線周波数トランスポンダに有利になる約2デシベルの改善があることに留意されたい。この改善は、通信周波数付近で広い周波数帯域にわたってほぼ少なくとも1デシベル程度のままである。
【0100】
タイヤの周方向、すなわち長手方向は、タイヤの外周に相当する方向であり、タイヤケーシングの走行方向によって定められる。
【0101】
タイヤの横方向又は軸方向は、タイヤケーシングの回転軸又は基準軸に平行である。
【0102】
半径方向は、タイヤケーシングの基準軸を横切ってこれに直交する方向である。
【0103】
タイヤケーシングの回転軸は、通常の使用時に転回する軸である。
【0104】
半径方向又は子午線方向の平面は、タイヤの回転軸を含む平面である。
【0105】
周方向中央面は、タイヤケーシングの基準軸に直交してタイヤケーシングを2つの半部分に分ける平面である。
【0106】
図7は、クラウン補強体又はベルト86により補強されたクラウン82、2つのサイドウォール83、及び2つのビード84を含む、タイヤケーシング100の子午線断面を示している。クラウン82は、タイヤケーシング100の各サイドウォール83との接続を提供する2つの軸方向端部821によって軸方向に境界付けられる。一般に金属製である複数の補強層から構成されるクラウン補強体86は、その各縁部において軸方向端部861まで軸方向に延在している。クラウン補強体86は、エラストマー材料製のトレッド89によって半径方向で外側上に置かれている。各ビード84は、ビードワイヤ85で補強されている。カーカス補強体は、この場合は単一のカーカス補強層から構成され、ビード84に係止され、各ビード84の2本のビードワイヤ85に巻かれた主部87と、カーカス補強層87の主部の折り返し部88とを備え、ここでは折り返し部88が、タイヤケーシング100の外側に向かって配置されて、タイヤケーシングを2つの領域に分離し、この2つの領域は、それぞれ、流体キャビティの方向で内側領域と、ホイール-タイヤ組立体の外側に向かって外側領域と呼ばれる。カーカス補強体は、それ自体が既知の方法で、金属コード、例えばこの例ではスチールコードで補強された少なくとも1つの層から構成され、このコードは、互いに実質的に平行に延在していると言える。主部87は、周方向中央面EPと80°~90°の間の角度を形成するように、一方のビード84から他方のビードまで延びている。気密内側ライナー層90は、カーカス補強体の主部87に対して半径方向内側に一方のビード84から他方のビード84まで延びている。
【0107】
図8は、ビード84及びサイドウォール83の領域におけるタイヤケーシング100の詳細図を示す。この図は、図示の例では、単一のカーカス層から構成されたカーカス補強層の主部87に対する、タイヤケーシング100の外部領域における受動型無線周波数トランスポンダ1の位置決めを示している。
【0108】
ビード84は、カーカス補強層87の主部が巻回されたビードワイヤ85からなり、折り返し部88がタイヤケーシング100の外周領域に位置する。カーカス層の折り返し部88は、自由縁881で終了している。ビードワイヤフィラーと呼ばれるゴム化合物の第1の層91は、半径方向外側に位置し、ビードワイヤ85に隣接している。第1の層91は、カーカス補強層87の主部の面上(より正確には、カーカス層のコードと電子ユニットとが直接接触しない、カーカス補強層87の外側スキム上)に対接する半径方向外側自由縁911を有する。これに、「補強フィラー」と呼ばれるゴム化合物の第4の層92が隣接している。第4の層92は、2つの自由縁を有する。第1の自由縁921は、半径方向内側に位置し、カーカス補強層の折り返し部88に対接する。他方の自由縁922は、半径方向外側に位置し、カーカス補強層87の主部の面上で終わっている。最後に、サイドウォール83は、エラストマー化合物の第4の層92とカーカス補強層87の主部の両方を覆うエラストマー化合物の第3の層94によって定められる。サイドウォールは、カーカス補強層の折り返し部88における内側端部上に半径方向に位置する自由縁941を有するエラストマー化合物の第3の層94の外面によって定められる。
【0109】
この構成においてカーカス補強層87の主部に隣接する気密インナーライナー90は、タイヤケーシング100の内側領域に位置する。気密インナーライナー90は、カーカス層87の主部に隣接する自由縁901で終わっている。最後に、ビードプロテクターと呼ばれるエラストマー化合物の第2の層93が、カーカス層と、エラストマー化合物の第4の層92及びエラストマー化合物の第3の層94それぞれの気密インナーライナー90の半径方向内側端部901、921及び941を保護する。このエラストマー化合物の第2の層93の外面は、ホイールへのタイヤケーシング100の装着時に、リムフランジに直接接触することができる。このエラストマー化合物の第2の層93は、3つの半径方向外側の自由縁部を有する。第1の自由縁931は、タイヤケーシング100の内側領域に位置する。第2の自由縁932は、タイヤケーシング100の外側領域に位置する。最後に、第3の自由縁933は、ビード84の内側端部841を構成している。
【0110】
このタイヤケーシング100のビード84及びその接続されたサイドウォール83は、タイヤケーシング100の外部領域に位置する受動型無線周波数トランスポンダ(場合によっては接尾辞付きの番号1が付けられている)を備える。予め電気絶縁性の封入ゴムに封入されている第1の受動型無線周波数トランスポンダ1は、ビードワイヤフィラー91の第1の層の外面に位置付けられる。第1の受動型無線周波数トランスポンダ1は、機械的特異点を構成するカーカス層の折り返し部88の自由縁881から20ミリメートルの距離、すなわち10ミリメートルを超えて離れた位置に位置付けられる。この位置は、無線周波数トランスポンダ1に対して、その機械的耐久性に有利な機械的安定性の領域を確保する。更に、タイヤケーシング100の構造内にこれを埋め込むことにより、タイヤケーシング100の外側からの機械的攻撃に対して良好な保護が与えられる。最後に、受動型無線周波数トランスポンダの第1の長手方向軸は、この場合は周方向に位置付けられ、これにより、カーカス補強層の主部87の金属補強体に対して垂直な傾斜を保証し、タイヤケーシングの製造(タイヤの構築及び硬化ステップ)中に放射ダイポールアンテナの無線電気性能及びタイヤの構造内の受動型無線周波数トランスポンダの位置決めに有利となる。勿論、このタイヤ100は、例えば、エラストマー化合物の第4の層92とエラストマー化合物の第2の層93及び/又は第3の層94(s)との間に位置する補強層(図示されていない)によって補強することができる。この補強層は、一般に、半径方向に配向され、例えば2つのスキム層の間に挟まれた補強要素から構成される。この補強層は、カーカス補強層の折り返し部88の端部881の半径方向外側に位置する半径方向外側端部を有する。無線周波数トランスポンダ1は、補強層の半径方向外側端部から少なくとも5ミリメートル、補強要素が本質的に金属である場合には10ミリメートルさえも離間して配置されている。
【0111】
一般に、受動型無線周波数トランスポンダは、動作中に機械的に安定したタイヤケーシング100の領域にあるようにするために、ビードワイヤ85の半径方向外側端部から20~40ミリメートルの半径方向距離に位置付けられることが好ましく、これにより、無線周波数トランスポンダの物理的な完全性が保証されるようになる。更に、この位置決めは、リムフランジの半径方向外側にあることが保証され、ホイールの性質、多くの場合は金属の性質に関連する障害を制限することによって、良好な無線通信性能を可能にする。
【0112】
任意選択的にエラストマー化合物の第3の層94の材料に適合するか又は類似する電気絶縁性封入ゴムに封入された第2の無線周波数トランスポンダ1bisは、エラストマー化合物の第3の層94の内側に位置付けられる。エラストマー化合物の第3の層94と封入ゴムとの間で材料が類似していることにより、タイヤケーシングの製造プロセスの間で無線周波数トランスポンダ1bisがサイドウォール83の内部へ容易に設置されることが保証される。無線周波数トランスポンダ1bisは、エラストマー化合物の第3の層94の未加工の外面にあるスリットを介して、タイヤケーシングの製造時に材料内に簡単に配置され、放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸がタイヤケーシングの半径方向に対して少なくとも45度の角度を形成するようにし、これが、カーカス補強の補強方向に相当する。グリーンタイヤ本体を構築し、これを硬化金型において加圧することにより、無線周波数トランスポンダ1bisが、硬化状態で図示のように位置決めされるのが保証される。この無線周波数トランスポンダ1bisは、タイヤケーシング100の他の何れの構成要素の何れかの自由縁から離れており、実際にはサイドウォール83の赤道上に位置し、最大の無線周波数通信距離を提供する。詳細には、ビードプロテクターの自由縁932から、カーカス補強層折り返し部88の自由縁881から、及びフィラーゴムの自由縁911及び922から離間して配置されている。この位置決めにより、外部無線周波数リーダーとの通信性能の向上が保証される。走行中の周期的な応力負荷は、放射アンテナと受動型無線周波数トランスポンダ1bisの電子部分との間の機械的な結合解除に起因して破損にはならない。必然的に、これら2つのトランスポンダは、ゴム化合物の第2の層93の端部933、従ってビード84の内側端部の軸方向外側に位置する。これらは、タイヤケーシング100の基準軸に対してビードワイヤ85の半径方向外側端部851と、クラウン補強体86の軸方向端部861との間に半径方向に位置付けられる。
【0113】
図9は、ビード84の領域及びサイドウォール83の領域におけるタイヤケーシング100の詳細な子午線方向断面を示している。この図9は、金属、この場合はスチール製のカーカス補強層87の主部に対する、タイヤケーシング100の内側領域における受動型無線周波数トランスポンダの位置を示す。
【0114】
タイヤケーシング100は、特に内側領域において、気密インナーライナー90と、カーカス層87の主部と気密インナーライナー90との間に介在するエラストマー化合物の層96を備える。この構成要素96は、ビードワイヤ85の半径方向内側に位置する半径方向内側自由縁961を有する。このエラストマー化合物の層96は、タイヤケーシング100の一方のビード84から他方のビード84まで延びる。
【0115】
気密性インナーライナー90とエラストマー化合物の層96との界面にある無線周波数トランスポンダを位置により、受動型無線周波数トランスポンダ1を機械的に安定化させることができる。この位置は、ビードプロテクター93の自由縁931の半径方向外側に約40ミリメートルにあり、これは、タイヤケーシングがホイールに装着されて作動しているときに、リムフランジの半径方向外側に位置することができることを意味する。これに対して、改善された無線通信性能を確保するために、無線周波数トランスポンダ1を封入するために電気的に絶縁性の封入ゴムを使用すること、及び傾斜がカーカス補強層の金属補強体の方向に対して少なくとも45度、好ましくは少なくとも60度となるように、無線周波数トランスポンダの放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸を配向することが好ましい。機械的耐久性の観点から、この位置は、受動型無線周波数トランスポンダ1にとって理想的であり、外部の機械的攻撃及び内部の熱機械的攻撃から保護される。受動型無線周波数トランスポンダ1は、カーカス補強層87の少なくとも2つの補強要素上に載っていることを考えると、理想的には円周方向の配向を有する。これは、無線周波数トランスポンダ1が、タイヤケーシング100の厚さに関して、このトランスポンダがタイヤケーシング100に組み込まれるときに、受動型無線周波数トランスポンダ1の放射ダイポールアンテナの共振の堅牢な同調を可能にする軸方向の位置を有することを保証する。
【0116】
本発明による無線周波数トランスポンダ1terの第2の位置は、タイヤケーシング100において半径方向に更に外側にあることにより、無線通信性能の向上を可能にする。しかしながら、無線周波数トランスポンダが電気的に絶縁性のゴムに封入され、また、放射アンテナの第1の長手方向軸は、45度の傾斜が所望の通信機能を達成することを可能にするが、無線周波数トランスポンダ1terが周回するようにして位置付けられることが望ましい。ここで、本実施例では、第1の長手方向軸は、周方向に配置される。受動型無線周波数トランスポンダ1terは、その製造中にタイヤケーシング100の少なくとも2つの構成要素によって定められる界面に位置付けられるのが好ましい。つまり、受動型無線周波数トランスポンダの電子チップに含まれるデータは、電子チップに関連するメモリへの最初の書き込みの後、このチップがライトプロテクトされている場合には、改ざんできないことになる。
【0117】
図10は、その公称リムJに取り付けられたタイヤケーシングのビード84及びサイドウォール83の領域の軸方向断面の拡大概略図であり、カーカス補強層の主部の軸方向最外点Eは、例えばトモグラフィーによってタイヤがその公称圧力まで膨張した状態で決定される。
【0118】
この場合も同様に、金属製カーカス補強層の一部がビードワイヤ85の周りに巻き付けられて、主部87と、端部881を有する折り返し部88とを形成されている。
【0119】
カーカス補強層の折り返し部88は、半径方向外側端部911を有する、エラストマー化合物の第1の層91によってカーカス補強層の主部87から分離されている。
【0120】
エラストマー化合物の第1の層91は、ビードワイヤ85に対して静止し、カーカス補強層の折り返し部88とカーカス補強層の主部87との間に結合及び結合解除を提供するように輪郭形成される。
【0121】
各構成要素の補強要素が、カーカス補強層の折り返し部88の端部881と、ビードワイヤ85を囲む円Tの半径方向最外点Bとの間の距離の15%より大きい長さにわたって実質的に一定で最大5ミリメートルであるエラストマー化合物の厚みによって分離されている場合、カーカス補強層の折り返し部88と主部87は結合されていると言える。また、結合領域の半径方向外側において、カーカス補強層の主部87と折り返し部88のそれぞれの補強要素を分離するエラストマー化合物の厚さが、結合領域の厚さよりも大きい場合、カーカス補強層の折り返し部88と主部87は、結合が解除されていると言われる。
【0122】
カーカス補強層の折り返し部88の軸方向外側に描かれているのは、半径方向外側端部922がカーカス補強層の折り返し部88の端部881の半径方向内側にあるエラストマー化合物の第4の層92である。図示されていない別の実施形態によれば、エラストマー化合物の第4の層92の半径方向外側端部921は、カーカス補強層の折り返し部88の端部881の半径方向外側にある。
【0123】
エラストマー化合物の第4の層92の半径方向内側端部921は、ビードワイヤ85を囲む円Tの半径方向最内点及び径方向最外点である、点A及びBの間で半径方向に構成される。
【0124】
エラストマー化合物の第4の層92に接し、ビードワイヤ85の半径方向下方では、軸方向最外端部932がエラストマー化合物の第4の層92の端部922の半径方向内側にあるエラストマー化合物の第2の層93がある。最後に、エラストマー化合物の第2の層93の半径方向及び軸方向内側端部933は、ビード84の内側端部841を構成している。
【0125】
エラストマー化合物の第1の層91と、エラストマー化合物の第4の層92と、及びエラストマー化合物の第2の層93とに接して軸方向には、エラストマー化合物の第3の層94がある。エラストマー化合物の第3の層94の半径方向内側端部941は、エラストマー化合物の第4の層92の端部922の半径方向内側にある。
【0126】
ビード84はまた、カーカス補強体の折り返し部88とエラストマー化合物の第4の層92との間の界面に対して軸方向外側に位置付けられた受動型無線周波数トランスポンダ1bisを備える。この受動型無線周波数トランスポンダ1bisは、カーカス補強層の主部87と、このカーカス補強層の折り返し部88との間の結合領域、すなわち図10の2つの点C及びDの間に半径方向に配置されている。受動型無線周波数トランスポンダ1bisは、好ましくは、CとDの間でこの結合領域の実質的に中央に配置される。無線周波数トランスポンダ1bisは、エラストマー化合物の第4の層92の外面から2mmより大きく、好ましくは3mmより大きい距離でエラストマー化合物の第4の層92の内部に埋め込まれている。
【0127】
この位置は、受動型無線周波数トランスポンダ1bisに良好な機械的保護を与え、読み取り距離が、折り返し部88とエラストマー化合物の第4の層92との間の界面に位置付けられた受動型無線周波数トランスポンダと比較して実質的に同一又は極めて類似している場合でも、カーカス補強層の折り返し部88の金属補強要素から2mmより大きい距離は、外部リーダーとの通信の良好な堅牢性を提供することを本出願人は実験的に発見した。このように、読み取り距離は、受動型無線周波数トランスポンダがエラストマー化合物の第4の層92と折り返し部88の金属補強体の層のスキムコーティングとの間の界面に直接配置される場合よりも、工業規模の製造の予測不可能性の影響を受けにくい。
【0128】
図10はまた、代替的の位置に配置された、受動型無線周波数トランスポンダ1bis’、1qua、1qua’を描いている。受動型無線周波数トランスポンダ1bis’は、点Bに対して半径方向外側のエラストマー化合物の第4の層92の内部に埋め込まれ、受動型トランスポンダ1qua及び1qua’は共に、エラストマー化合物の第3の層94に埋め込まれ、この層は、タイヤケーシングのサイドウォール83の表面を構成する。これら最後の2つの位置は、無線周波数トランスポンダと外部リーダーとの間の通信の観点から極めて有利である。更に、無線周波数トランスポンダの極めて良好な機械的強度により、特にサイドウォール83の点Eの近傍における特に過酷な供用中の機械的応力に耐えることができる。
【0129】
図11は、図10で説明したタイヤケーシングを通る軸方向部分断面を示す図である。
【0130】
タイヤケーシングは、ビード84の領域において、カーカス補強層の折り返し部88とエラストマー化合物の第4の層92との間の界面に位置付けられた第1の受動型無線周波数トランスポンダ1を備える。好ましくは、受動型無線周波数トランスポンダ1は、10未満の相対誘電率を有し、その拡張係数がエラストマー化合物の第4の層92の拡張係数よりも低い電気絶縁性の封入質量体に埋め込まれる。受動型無線周波数トランスポンダ1は、放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸がこの第1の長手方向軸と、主部87及びカーカス補強層の折り返し部88の補強方向との間に少なくとも45度の角度を形成するように並置される。
【0131】
無線周波数トランスポンダは、カーカス補強層の主部87と折り返し部88との間の結合領域、すなわち点CとDとの間、好ましくは中央領域に配置される。この位置は、カーカス補強層の折り返し部88が載っているエラストマー化合物の第1の層91のプロファイル形状によって容易に境界付けられる。
【0132】
第2の受動型無線周波数トランスポンダ1’は、エラストマー化合物の第2の層93とエラストマー化合物の第4の層92との間の界面におけるビード84の領域に配置される。任意選択的に、この無線周波数トランスポンダ1’は、封入質量体の内部に配置されることになる。しかしながら、この受動型無線周波数トランスポンダ1’は、エラストマー化合物の第2の層93及び第4の層92の端部932及び921から離されて、タイヤケーシングの耐久性と無線周波数トランスポンダ1’の物理的完全性を維持するようにする。カーカス補強層の金属補強体から離しておくことにより、受動型無線周波数トランスポンダ1’の通信性能が向上する。
【0133】
また、タイヤケーシングは、タイヤケーシングのサイドウォール83の領域に2つの受動型無線周波数トランスポンダ1ter、1ter’を備えている。第1の無線周波数トランスポンダ1terは、カーカス補強層の折り返し部88とエラストマー化合物の第3の層94とによって形成される界面に位置付けられる。最初の2つの受動型無線周波数トランスポンダ1及び1’との比較したこのトランスポンダのより半径方向外側の位置決めは、特に車両で供用する場合に、タイヤケーシングの外部のリーダーとの通信に長距離を提供する。この第1の受動型無線周波数トランスポンダ1terは、折り返し部88の端部881から少なくとも10ミリメートル及びエラストマー化合物の第4の層92の端部922から少なくとも5mmに位置付けられて、タイヤケーシングの耐久性と受動型無線周波数トランスポンダ1terの物理的完全性を維持するようにする。
【0134】
最後に、タイヤケーシングのサイドウォール83内の第2の受動型無線周波数トランスポンダ1ter’は、カーカス補強層の主部87と第3のエラストマー化合物の層94との間の界面に位置付けられる。この位置は、無線周波数トランスポンダと外部リーダーとの間の通信の距離に最適な位置である。第1の層のエラストマー化合物の端部911からの無線周波数トランスポンダ1ter’の距離は20ミリメートルであり、この構成では、タイヤケーシングの耐久性と受動型無線周波数トランスポンダ1ter’の物理的完全性を確保するのに十分容易である。
【0135】
10未満の相対誘電率を有し、その伸び率がエラストマー化合物の第3の層94の伸び率よりも小さい電気絶縁性の封入質量体にて受動型無線周波数トランスポンダ1ter、1ter’を封入することが好ましい。
【0136】
これらの実施例では、放射ダイポールアンテナの第1の長手方向軸が周方向に位置付けられ、これはラジアルタイヤのケーシングにおいて、第1の長手方向軸とカーカス補強層の主部87及び折り返し部88の補強方向との間の角度が少なくとも60度であることが確保される。
【符号の説明】
【0137】
1 無線周波数トランスポンダ
10 放射アンテナ
20 電子部分
101a 第1の領域の部分
101b 第1の領域の部分
102 第2の領域
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】