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特表2022-549833経口速放出性医薬組成物および減量治療の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(54)【発明の名称】経口速放出性医薬組成物および減量治療の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20221121BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20221121BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K47/04
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/12
A61K9/20
A61P3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518762
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 US2020052588
(87)【国際公開番号】W WO2021062061
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】62/905,943
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522113590
【氏名又は名称】アードバーク・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AARDVARK THERAPEUTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ジェンフアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ティエン-リー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC16
4C076DD28
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD43
4C076DD47
4C076EE16
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE32
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA15
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA06
4C206ZA70
(57)【要約】
本開示は、酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む、複数の疾患の治療用経口医薬組成物である。さらに本開示は、胃腸管製剤の胃領域でAPI(有効医薬成分)を実質的に遊離する経口速放出性医薬組成物であって、前記APIが有効量のデナトニウム塩を含む医薬組成物である。好ましくは、前記経口速放出性医薬製剤は、ヒトの成人へ約20mgから約150mgのデナトニウム塩の1日用量を送達できる、約0.5gから約5gのデナトニウム塩を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む、複数の疾患の治療用経口医薬組成物。
【請求項2】
胃腸管製剤の胃領域でAPI(有効医薬成分)を実質的に遊離する経口速放出性医薬組成物であって、前記APIが有効量のデナトニウム塩を含む医薬組成物。
【請求項3】
ヒトの成人へ約20mgから約150mgのデナトニウム塩の1日用量を送達できる、約0.5gから約5gのデナトニウム塩を含む、請求項1または2記載の経口速放出性医薬製剤。
【請求項4】
酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む顆粒を含有する、経口胃内速放出性医薬製剤(「経口製剤」)。
【請求項5】
前記医薬賦形剤が、タルク、セルロース、およびサッカリドを含む、請求項4に記載の経口製剤。
【請求項6】
前記経口製剤が、酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸をさらに含む、請求項4または5に記載の経口製剤。
【請求項7】
前記経口製剤が、約0.5gから約5gの酢酸をさらに含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の経口製剤。
【請求項8】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約600mgまたは約5mg/kgから約50mg/kgである、請求項4~6のいずれか1項に記載の経口製剤。
【請求項9】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約200mgである、請求項4~6のいずれか1項に記載の経口製剤。
【請求項10】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約100mg、または約10ppbから約10ppmの胃腸管内濃度を達成する用量である、請求項4~6のいずれか1項に記載の経口製剤。
【請求項11】
酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む顆粒を含有する、経口胃内速放出性医薬製剤(「経口製剤」)を投与することを特徴とする、体重減少をもたらす方法。
【請求項12】
前記医薬賦形剤が、タルク、セルロース、およびサッカリドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記経口製剤が、酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸をさらに含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記経口製剤が、約0.5gから約5gの酢酸をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約600mgまたは約5mg/kgから約50mg/kgである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約200mgである、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記成人のDAの1日用量が、約10mgから約100mg、または約10ppbから約10ppmの胃腸管内濃度を達成する用量である、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む、複数の疾患の治療用経口医薬組成物を提供する。本開示はさらに、胃腸管製剤の胃領域でAPI(有効医薬成分)を実質的に遊離する経口速放出性医薬組成物であって、前記APIが有効量のデナトニウム塩を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、前記経口速放出性医薬製剤は、ヒトの成人へ約20mgから約150mgのデナトニウム塩の1日用量を送達できる、約0.5gから約5gのデナトニウム塩を含む。
【背景技術】
【0002】
栄養素による化学感覚シグナルの伝達は食欲、消化および代謝を調節する役割を果たす。特に、Gタンパク質共役受容体 (GPCRs)の様々な苦味受容体(TAS2R)ファミリーは口腔内のみならず、腸管分泌細胞、ヒトの胃平滑筋細胞、脂肪細胞、さらには延髄内の化学受容器引金帯にも存在する。
【0003】
肥満は世界的流行病であり、何百万もの成人および小児に深刻な健康被害と社会経済的影響をもたらしている(Bluher, Nat. Rev. Endocrinol. 15 (2019) 288-298)。世界規模では、少なくとも13%の成人および7%の小児が肥満であるが、幾つかの国では、少なくとも全人口の30%が肥満である(Ng et al. Lancet 384 (2014) 766-781)。
【0004】
肥満治療は食事制限と運動が理想であるが、そのようなプログラムの成功率は低いことが観察されており、約20%である。多くの場合、これは強い食欲の衝動に因るところが大きく、食欲促進経路が冗長であるため克服が困難であり、一つの食欲促進経路を抑制しても代償的に代替経路が亢進され、時間とともに空腹感が呼び起こされることが頻繁にある。市販されてきた様々な薬剤の大抵は、控えめな効果しか得られないか、多数の人に許容不可能とみなされるリスクや副作用が付随しているか、あるいはその両方である。
【0005】
エフェドリン、フェンフルラミンおよびデクスフェンフルラミンといった食欲減退薬は心血管系の安全性にリスクがあるため、市場から姿を消した。腸内で脂質の処理を阻害するリパーゼ阻害剤のオルリスタットといった栄養の吸収を阻害する薬は、油っぽい便や下痢を引き起こす。シブトラミン(モノアミンオキシダーゼ阻害薬)、リモナバン(カンナビノイド受容体アンタゴニスト)などのような中枢神経系に作用する薬は、重大な中枢神経系(CNS)のオフターゲット効果を有し、しばしば意図しない精神症状あるいは神経症状をもたらす。
【0006】
運動療法や食事の改変といった肥満に対する行動的介入はしばしば失敗し、肥満手術は大半の人にとって選択肢とはならない。抗肥満薬は体重減少に効果的であるが、頭痛、悪心および眩暈から重篤な精神疾患や心血管イベントまで多岐にわたる副作用を伴う(M.O. Dietrich et al., Nat. Rev. Drug Discov. 11 (2012) 675-691)。肥満による医学的、社会的および経済的負担は莫大であるため、この致死的となる可能性を有する消耗性疾患に対する、安全で有効な新規治療薬の開発が急務である。
【0007】
苦味受容体(TAS2R)は、舌のほか脳、口腔、肺、膵臓および胃腸粘膜などの臓器にも発現している複数のGタンパク質共役受容体 (GPCRs)のファミリーを含む(Jaggupilli et al., Mol. Cell. Biochem. 426 (2017) 137-147)。
【0008】
安息香酸デナトニウムは8種類のヒトTAS2R(TAS2R 4、8、10、13、39、43、46、および47)を様々な程度で活性化する(Meyerhof et al., Chem. Senses 35 (2010) 157-170)。げっ歯類の肥満モデルにおいて、デナトニウムの安息香酸塩が食糧摂取を抑制し、体重増加を抑えた(Avau et al., PLoS One 10 (2015) e0145538; and Glendinning et al., Physiol. Behav. 93 (2008) 757-765)。さらに、健常な被験者の胃内に安息香酸デナトニウムを投与すると、空腹時の胃運動が減少、栄養量耐性が低下し、空腹感が弱まり、食後の満腹感が高くなった(Avau et al., Sci. Rep. 5 (2015) 15985; and Deloose et al., Am. J. Clin. Nutr. 105 (2017) 580-588)。しかしながら、2つの安息香酸デナトニウムの試験で、その嫌悪性による重大な副作用の問題が浮上した。したがって、より安全性の高い改良型の苦味受容体アゴニストを用いて、肥満とその関連疾患を技術的に対処することが強く求められる。本開示は、この要求に対処する。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、in vivoの比較試験において、唯一入手可能なデナトニウム塩で、先行研究で報告されているデナトニウム塩である安息香酸デナトニウムに対して、酸アニオンを有するデナトニウム塩がよりよい副作用を有しているという知見に基づいている。
【0010】
本開示は、酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む、複数の疾患の治療用経口医薬組成物を提供する。本開示はさらに、胃腸管製剤の胃領域でAPI(有効医薬成分)を実質的に遊離する経口速放出性医薬組成物であって、前記APIが有効量のデナトニウム塩を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、前記経口速放出性医薬製剤は、ヒトの成人へ約20mgから約150mgのデナトニウム塩の1日用量を送達できる、約0.5gから約5gのデナトニウム塩を含む。
【0011】
本開示は、酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む顆粒を含有する、経口胃内速放出性医薬製剤(「経口製剤」)を提供する。好ましくは、前記医薬賦形剤は、タルク、セルロース、およびサッカリドを含む。好ましくは、前記経口製剤は、酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸をさらに含む。好ましくは、前記経口製剤は、約0.5gから約5gの酢酸をさらに含む。好ましくは、前記成人の酢酸の1日用量は、約1.5gから約3gである。好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約600mgまたは約5mg/kgから約50mg/kgである。より好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約200mgである。最も好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約100mg、または約10ppbから約10ppmの胃腸管内濃度を達成する用量である。徐放出性または速放出性の観点から、前記DAの1日用量は、1日1回、1日2回または1日3回である。
【0012】
さらに、本開示は、徐放出性のセルロース系およびマンニトール賦形剤中にDAおよび酢酸粉末を含む、経口徐放出性医薬製剤を提供する。好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約600mgである。より好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約200mgである。最も好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約100mg、または約10ppbから約10ppmの胃腸管内濃度を達成する用量である。好ましくは、前記経口製剤は、約0.01%から約10wt%のDAおよび約10%から約90wt%の乾燥酢酸粉末を含む。好ましくは、前記DAの投与量は、約500nmol/kgから約4μmol/kgである。好ましくは、前記DAの投与量は、成人においては約10mgから約50mgである。放出特性の観点から、前記DAの1日用量は、1日1回、1日2回または1日3回である。
【0013】
本開示はさらに、酢酸塩(DA)、クエン酸塩(DC)、酒石酸塩(CT)、マレイン酸塩(DM)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、デナトニウムカチオンと酸アニオンの塩(総称して「デナトニウム塩」)、並びにデナトニウム塩の胃での放出のための医薬賦形剤を含む顆粒を含有する、経口胃内速放出性医薬製剤(「経口製剤」)を投与することを特徴とする、体重減少をもたらす方法を提供する。好ましくは、前記医薬賦形剤は、タルク、セルロース、およびサッカリドを含む。好ましくは、前記経口製剤は、酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸をさらに含む。好ましくは、前記経口製剤は、約0.5gから約5gの酢酸をさらに含む。より好ましくは、前記成人の酢酸の1日用量は、約1.5gから約3gである。好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約600mgまたは約5mg/kgから約50mg/kgである。より好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約200mgである。最も好ましくは、前記成人のDAの1日用量は、約10mgから約100mg、または約10ppbから約10ppmの胃腸管内濃度を達成する用量である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】指示された日での体重比較による、56日間のDIOマウス体重減少実験(実施例3)を示す。高用量DA群(23.1 mg/kg)が最も低い平均体重を示した。
図2】実施例3における56日間の実験の体重変化の結果を示す。23.1 mg/kg DA投与マウスが高用量DB群を上回る、最も低い体重増加を示した。
図3】実施例3における56日間の実験終了時の血清中インスリンの結果を示す。23.1 mg/kg DA群における血清インスリンは基準値(すなわち投与前)に近く、溶媒投与群と比較して著しく低かった。
図4】実施例3の実験におけるすべての実験群間において、血清中HBA1c濃度の統計学的差異はなかったことを示す。
図5】実施例4に記載されるラットの単日実験における、24時間の累積摂食量を示す。
図6】実施例6のDIOマウスにおける、56日の処置期間中の絶対的な体重変化の平均を示す。
図7A】実施例7におけるDAの用量死亡率曲線を示す。
図7B】実施例7におけるDBの用量死亡率曲線を示す。
図8】薬品の生産および製剤のフローダイヤグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、in vitroおよびin vivoの肥満モデルにおいて、酸味アニオン(酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩およびマレイン酸塩)とのデナトニウム塩の抗肥満効果が、安全性および有効性の両方でより優れたものになるという驚くべき発見に基づいている。我々の研究の目的は、食物および水の消費量、すなわち体重管理における酸アニオンとのデナトニウム塩の効果を割り出すことにあった。
【0016】
短期摂食制限実験におけるSprague DawleyラットのDA投与量は7.5、15、30、および60 μmol/kgである。対応するHED(ヒト等価用量)はそれぞれ、1.2、2.4、4.9、9.7 μmol/kgである。長期摂食制限実験におけるC57BL/6NTacマウスのDA投与量は60 μmol/kgである。対応するHEDは4.9 μmol/kgである。背景として、Avauら(Sci. Rep. (2015) 5:15985)によれば、正常なC57BL/6マウスにDAと関連する塩である安息香酸デナトニウム(DB)のみを60 μmol/kg (26.8 mg/kg)で経口投与すると、胃排出速度が有意に抑制された。別の研究によれば、C57BL/6 DIOマウスに60 μmol/kg(26.8 mg/kg)のDBを1日1回投与すると、28日の期間中、溶媒投与と比較して体重減少が誘導された。Avauらによれば、健常な被験者に1 μmol/kgのDBを投与すると、栄養量耐性が低下し、満腹感が高まった。したがって、ここで開示される製剤は、約500 nmol/kgから約10 μmol/kg、すなわちヒト成人においては約10 mgから約230 mgのDAの用量を提供する。
【表1】
安息香酸デナトニウム(DB)
IUPAC名:ベンジル-[2-(2,6-ジメチルアニリノ)-2-オキソエイル]-ジエチルアザニウムベンゾエート
分子式: C28H34N2O3
分子量: 446.581 g/mol
CAS番号: 3734-33-6
ChemSpider ID: 18392
デナトニウムは通常、安息香酸デナトニウム(商品名:BITTERANT-b、BITTER+PLUS、BitrexまたはAversion)として入手可能である。デナトニウムは誤飲防止の苦味物質として使用される。安息香酸デナトニウムは、変性アルコール、不凍液、爪かみ防止、保護マスキングのフィットテスト、動物忌避剤、液状石鹸、およびシャンプーに使用される。安息香酸デナトニウムは、長期的な健康リスクをもたらさないとされている。
【0017】
腸内、脳内および脂肪細胞などの他の部位にある口腔外の苦味受容体を作動させる、固有の毒性が低い化合物の利用可能な治療は、他の肥満治療薬に特有であるCNSのオフターゲット効果または胃腸障害を起こさずに、選択的に食欲を減らし満腹感を上げる、比較的安全な方法をもたらす。
【0018】
酢酸などの有機酸とDAを含む経口摂取の錠剤または丸剤の併用における肥満以外の臨床用途は、プラダー・ウィリー症候群である。この疾患の中で、遺伝子疾患の重要な特徴は、大量の食事をした後でさえも空腹衝動および満腹感の不足が絶えず続くことである。したがって、本開示は、(a)デナトニウム酢酸塩(DA)、(b)酢酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸、(c)胃腸管を通過する際に徐放を促進する医薬賦形剤を含む、抗肥満経口製剤を投与することを特徴とする、プラダー・ウィリー症候群(PWS)の治療法を提供する。
【実施例
【0019】
実施例1
本実施例は、デナトニウム酢酸塩/酢酸放出錠、44.6mg/500mgの製剤法である。
【表2】
【0020】
結晶セルロース(Avicel PH101)、デナトニウム酢酸塩、PVP 30(半量)、マンニトールを10立方フィートのV型混合機に加え、10分間混合する。混合物を高せん断グラニュレーターに移し、800 g/分の制御速度で酢酸(半量)をスプレーしながら造粒を開始する。造粒後、湿った顆粒を除去し、最終含水率が2% w/w未満になるまで、50℃で制御されたトレー型乾燥機に入れる。次に、18メッシュスクリーンを備えるFitzmillに、乾燥させた顆粒を通過させる。次に、粉砕させた顆粒を前記高せん断グラニュレーターに戻し、残りの半量のPVP 30を加え、再度、残りの半量の酢酸を用いて造粒する。湿った顆粒を除去し、含水率が2% w/w未満になるまで、50℃で乾燥させる。18メッシュスクリーンを備えるFitzmillで乾燥させた顆粒を粉砕し、次に、10立方フィートのV型混合機で5分間、ステアリン酸マグネシウムと混合し、786.6 mgの重量と10 kpの硬度を目標に、打錠機で最終混合物を打錠する(素錠)。
【0021】
アクアコートECD30分散液内に、セバシン酸ジブチルを分散させてコーティング溶液を調製し、1時間優しく混合する。前記素錠をパンコーターに乗せ、80 g/分の制御速度でコーティング溶液をスプレーする。コーティング終了後、30分間乾燥を続ける。
【0022】
実施例2
本実施例は、デナトニウム酢酸塩/酢酸速放出性錠剤、22.3 mg/250 mgの製造法である。
【表3】
【0023】
結晶セルロース(Avicel PH101)、デナトニウム酢酸塩、PVP 30(半量)、マンニトールを10立方フィートのV型混合機に加え、10分間混合する。混合物を高せん断グラニュレーターに移し、800 g/分の制御速度で酢酸(半量)をスプレーしながら造粒を開始する。造粒後、湿った顆粒を除去し、最終含水率が2% w/w未満になるまで、50℃で制御されたトレー型乾燥機に入れる。次に、18メッシュスクリーンを備えるFitzmillに、乾燥させた顆粒を通過させる。次に、粉砕させた顆粒を前記高せん断グラニュレーターに戻し、残りの半量のPVP 30を加え、再度、残りの半量の酢酸を用いて造粒する。湿った顆粒を除去し、含水率が2% w/w未満になるまで、50℃で乾燥させる。18メッシュスクリーンを備えるFitzmillで乾燥させた顆粒を粉砕し、次に、10立方フィートのV型混合機で5分間、ステアリン酸マグネシウムと混合し、500 mgの重量と10 kpの硬度を目標に、打錠機で最終混合物を打錠する。
【0024】
実施例3
本実施例は、同一のカチオンおよび不同のアニオンを有する、DAとDB(安息香酸デナトニウム)という2つの塩の体重減少効果を比較する、invivoの急性および慢性比較実験である。食餌誘発性肥満(DIO)マウスモデルを用いた56日間の実験で、苦味受容体アゴニストであるデナトニウム酢酸塩と安息香酸デナトニウムの行動的効果を比較評価した。マウスは、少なくとも3日間ビバリウムで慣らし、標準的な食餌、12:12の明暗周期を維持し、heapフィルターで浄化したケージ内で、2または3匹の集団で飼育を行った。実験期間は、3~5日の順応期間に28日の実験期間および実験後の2~3日の実験期間を加えたものである。2.9および23.1 mg/kg BID(3.1および60 μmol/kg BID)の2つのDA用量、26.8 mg/kg BIDのDBおよび蒸留水溶媒対照群で実験を行った。マウスは、12週齢以上および1群につき15匹以上のC57BL/6NTadマウスを用いた(低用量DA、高用量DA、高用量DBおよび対照群)。毎日、巨視的観察を行い、0、1、4、7、9、11、14、16、18、21、23、25、28、30、32、 34、36、39、41、43、46、48、50、53および56日目に各マウスの体重を測定した。0、7、14、21、28、35、42、49、および56日目に摂食量を測定した。実験の開始および終了時に代謝バイオマーカー(血中グルコース、血中インスリン、血中HbA1c)を測定した。DA、DB、または対照用蒸留水を5 mL/kgの量で強制経口投与(PO)した。
【0025】
高用量DAが、高用量DBよりも優れた体重減少を示したという結果を図1~4に示す。
【0026】
実施例4
本実施例は、ラット(オス、Sprague Dawley、Charles River)を用いてDAとDBを比較する、24時間の実験である。それぞれ15匹のラットからなる5つの群は、対照用蒸留水溶媒1日4回強制経口投与、26.8 mg/kgのDB用量1日4回強制経口投与、2.9 mg/kgの低用量DA1日1回強制経口投与および23.1 mg/kgの高用量DA1日1回強制経口投与である。投与後2時間、4時間、6時間、8時間および24時間に摂食量を測定した。24時間にわたる累積摂食量の結果を図5に示すが、累積摂食量に対する薬物治療の有意な主作用が見られ、高用量DA群で最大の効果を示した。
【0027】
実施例5
本実施例は、デナトニウム酢酸塩(DA)の合成法である。
工程1:リドカインから水酸化デナトニウムへの合成
70~90℃で攪拌および加熱しながら、25 gのリドカイン、60 mlの水および17.5 gの塩化ベンジルを還流装置に加える。前記温度で24時間、溶液を加熱および攪拌し、30℃に冷却する必要がある。3×10 mLのトルエンを用いて未反応の試薬を取り除く。攪拌しながら65gの水酸化ナトリウムを65 mLの冷水に溶かし、それを先の反応水溶液に3時間にわたって攪拌しながら加える。混合物をろ過し、幾らかの水で洗浄し、風乾させる。温クロロホルムまたは温エタノールで再結晶させる。
【化1】
【化2】
工程2:水酸化デナトニウムからデナトニウム酢酸塩への調製
10 gの水酸化デナトニウム(MW: 342.475 g/mol, 0.029 mol)、20 mLのアセトンおよび15 mLのアセトンに溶かした2 gの氷酢酸を還流装置に加え、混合物を3時間にわたって攪拌および35℃に加熱する。次に、蒸発乾固させ、温アセトンで再結晶させる。
【化3】
【0028】
実施例6
本実施例は、食餌抑制および体重管理におけるDAとDBの有効性の比較である。背景として、Avauら(Sci. Rep. (2015) 5:15985)によれば、正常なC57BL/6マウスにDBを26.8 mg/kgで経口投与すると、胃排出速度が有意に抑制された。我々の最初のin vivo実験では、45匹のオスのSDラット(Envigoから購入、8~10週齢)を3つの群(各群15匹)に分け、3つの群はそれぞれ、溶媒(蒸留水)、26.8 mg/kgのDB、または23.1 mg/kgのDAの1回経口投与をし、24時間の観察期間をもって摂食量の減少におけるDBとDAの有効性を比較した。
【表4】
【0029】
24時間の観察期間中の平均累積摂食量を表4に示す。DBまたはDAを投与すると、指示された全期間で溶媒と比較して累積摂食量が減少した。さらに、DAのモル投与量はDBよりもさらに低い(57.4 μmol/kg vs. 60 μmol/kg)にもかかわらず、26.8 mg/kgのDB投与よりも23.1 mg/kgのDA投与で、より大幅な摂食量の減少が観察された。したがって、これらのデータは、摂食量の減少において、DAはDBと不同のアニオンを持つことで、DBよりも強力な有効性を有することを示す。
【0030】
別の公開記事では、C57BL/6 食餌誘発性肥満(DIO)マウスに26.8 mg/kgのDBを1日1回投与すると、28日の期間中、溶媒と比較して体重減少が誘導された(Avau et al. 2, PLoS One. 2015;10(12):e0145538)。我々の2つ目のin vivo実験では、45匹のオスのC57BL/6N DIOマウス(Envigoから購入、18週齢、高脂肪食給餌)を3つの群(各群15匹)に分け、3つの群はそれぞれ、溶媒(蒸留水)、26.8 mg/kgのDB、または23.1 mg/kgのDAの1日2回経口投与(BID)をし、56日間の処置期間をもって摂食量の減少および体重管理におけるDBとDAの有効性を比較した。簡潔には、週に1回、0時間後および24時間後に各ケージの食糧重量を記録し、その24時間の期間中の食糧消費量を計算した。さらに、0日目から週に3回(2または3日おき)マウスの体重を測定した。
【0031】
処置期間中の指示された測定日における、24時間の期間中のマウス1匹あたりの平均食糧消費量を表5に示す。注目すべきことに、23.1 mg/kgのDAを投与したマウスで、溶媒投与マウスと比較して名目上、食糧消費量の減少が示された;この効果は実験期間を通じて見られた。0、7、28、35、42および49日目に、23.1 mg/kgのDBを投与したマウスにおいても食糧消費量の低下が見られた(溶媒投与マウスと比較して)が、14、21および56日目では見られなかった。そして、42日目を除くすべての指示された測定日において、23.1 mg/kgのDAを投与したマウスにおける食糧消費量は、26.8 mg/kgのDBを投与したマウスにおける食糧消費量よりも少なかった。
【表5】
【0032】
3つの処置群における、56日の処置期間中の絶対的な体重変化(グラム)および正常化された体重変化(基準値の%)の平均を図6および表6に示す。
【表6】
【0033】
すべての3つの実験群において、高脂肪食給餌は体重増加を誘導した。しかしながら、溶媒投与と比較して、26.8 mg/kgのDB投与または23.1 mg/kgのDA投与はより少ない体重増加をもたらした。特に、34日目から56日目にかけて、23.1 mg/kgのDAを投与したマウスにおける体重増加は、26.8 mg/kgのDBを投与したマウスにおける体重増加よりも少なかった。これらのデータに基づくと、摂食量の減少においてだけでなく体重管理においても、DAはDBと不同のアニオンを持つことで、DBよりも強力な有効性を有することを示す。
【0034】
実施例7
本実施例は、市販の安息香酸デナトニウム(DB、分子量:446.58 g/mol)およびAardvark Therapeuticsが供給契約に準じて、GMP条件下で合成したデナトニウム酢酸塩(一水和物)(DA、分子量(MW):402.53 g/mol)という2つのデナトニウム塩の最大耐用量を示す。Sprague Dawleyに薬品を投与し、14日間観察を行った。8~10週齢のオスのSprague Dawley(SD)ラット24匹およびメスのSDラット24匹をEnvigoから購入した。DA群には4つの投与量(120、360、1000、および2000 mg/kg、1回強制経口投与)があり、性別ごとに3匹、投与量ごとに合計6匹のラットを用意し、DB群には4つの投与量(120、360、1000、および2000 mg/kg、1回強制経口投与)があり、性別ごとに3匹、合計6匹のラットを用意した。推定半数致死量(LD50)は、LD50を計算する非線形回帰[モデル:Y=100/(1+10^(LogEC50-X)), Hill slope = 1.0]によって決定した。2つの実験群におけるすべての薬品投与量の死亡率を表7に示す。
【表7】
【0035】
ラットにおいて、MTD(最大耐量)はDAおよびDBの両方で同じ(360 mg/kg)であったが、1000 mg/kgのDA投与における死亡率は、同じ用量のDBと比較してより低かった(50% vs. 66.7%)。したがって、これらのデータは、DAはDBと不同のアニオンを持つことでDBよりも安全な薬品であることを示す。
【0036】
図7Aおよび7Bは、DAおよびDBの用量死亡率曲線を示す。DAおよびDBの推定LD50値および適合パラメータを表8に示す。DAの推定LD50はDBの推定LD50よりも高く、両者の適合度パラメータは近い。
【表8】
【0037】
したがって、DAはDBと不同のアニオンを持つことでDBよりも安全な薬品である
【0038】
実施例8
本実施例は、遊離塩基としてのデナトニウム酢酸塩一水和物(DA)を含む、50mgの速放出性顆粒製剤を経口胃内速放出性医薬製剤として提供する。DA組成物の製剤処方を表9に示す。
【表9】
【0039】
製剤工程図を図8に示す。
【0040】
詳細な製造工程を以下に示す。
【0041】
1.薬剤層化工程 - 薬剤層状ペレット
薬剤層化工程は、ローター用インサートを備える流動層造粒機(ローター型造粒機)で行った。薬液は、エチルアルコール中でポビドンK30(Kollidon 30)およびデナトニウム酢酸塩を可溶化することで調製した。ローター型造粒機内で円運動をする精製白糖(35/45 メッシュ)のベッドに薬液を接線方向にスプレーした。次に、最終薬剤積載ペレットを10分間ローター型造粒機内で乾燥させ、排出し、#20メッシュでふるいにかけた。
【0042】
2.シールコーティング工程 - シールコーティングペレット
透明な溶液が得られるまで、エチルアルコールおよび精製水の混合物(1:1)内でヒプロメロースE5を別々に溶解させることでシールコーティング分散液を調製した。次に、前記溶液にエチルアルコールの残量を追加し、続いてタルクを加えた。タルクの分散液が均一になるまで分散液を20分間混合した。5%重量増加を達成するように、薬剤積載ペレットにシールコーティング分散液を接線方向にスプレーした。次に、シールコーティングペレットを5分間ローター型造粒機内で乾燥させ、排出し、55℃2時間でトレー型乾燥機またはオーブン内でさらに乾燥させた。次に、シールコーティングペレットを#20メッシュでふるいにかけた。
【0043】
3.最終混合 - デナトニウム速放出性(IR)ペレット
V型混合機を用いて10分間、#60メッシュでふるいにかけたタルクとシールコーティングペレットを混合し、排出した。混合したシールコーティング顆粒、デナトニウムIRペレットをカプセル化に用いた。
【0044】
4.カプセル化 - デナトニウムカプセル、50mg
自動カプセル充填機を用いて、デナトニウムIRペレット、50mgをサイズ1、乳白色の硬ゼラチンカプセルに充填した。次に、カプセルを一列カプセル艶出機および金属探知機に通した。カプセル重量および外観の工程内管理をカプセル化工程中に行った。
複合試料についての品質保証(QA)によって、合格品質基準(AQL)抜き取り検査をカプセル化工程中に行った。完成品の複合試料を収集し、放出試験規定により分析した。
【0045】
5.梱包 - カプセル、50mg - 30個
33mmホワイトCRCキャップ付き50/60ccホワイトHDPE丸型Sライン容器の中に50mgカプセルを30個入りで梱包した。容器を回転させ、インダクションシーラーを用いて密封した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
【国際調査報告】