(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(54)【発明の名称】核燃料焼結体の酸化抵抗性を向上させることが可能な被膜を形成させる焼結添加剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G21C 3/62 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
G21C3/62 220
G21C3/62 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518873
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 KR2019014543
(87)【国際公開番号】W WO2021060607
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0118276
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516343608
【氏名又は名称】ケプコ ニュークリア フューエル カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】242,Daedeok-daero 989beon-gil Yuseong-gu Daejeon 34057,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】リム、カン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、テ-シク
(72)【発明者】
【氏名】ナ、ヨン-ス
(72)【発明者】
【氏名】ジョ、ミン-ジェ
(72)【発明者】
【氏名】リ、スン-ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン-ホ
(57)【要約】
本発明は、水蒸気雰囲気中で高い耐酸化性を示す核燃料焼結体及びその製造方法に関するもので、1)UO
2粉末に、Cr
2O
3、MnO、及びSiO
2からなる焼結添加剤粉末を添加混合して、混合粉末を製造するステップと、2)前記混合粉末を圧縮成形して成形体を作るステップと、3)前記成形体を酸素ポテンシャル-581.9~-218.2kJ/molの弱酸化性雰囲気で加熱して焼結するステップと、を含む、二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法、そして、UO
2100重量%に対して、Cr
2O
3、MnO、及びSiO
2からなる焼結添加剤が0.05~0.16重量%で含有されることを特徴とする二酸化ウラン核燃料焼結体を含む。上述した本発明によれば、ウラン酸化物粉末にクロム、マンガン酸化物を含み、核燃料焼結体の製造のために焼結時に生成される液相が結晶粒成長を加速化させるだけでなく、結晶粒界面に被膜を形成させて水蒸気との反応を抑制させて酸化反応を制限することにより、冷却材喪失事故条件で被覆管脆化最大温度(peak cladding temperature、PCT)である1204℃(≒華氏2200度)付近で高温水蒸気酸化抵抗性を向上させて燃料棒の損傷による核分裂物質漏れ量を減らすことができるという効果がある。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ウラン核燃料焼結体であって、
二酸化ウラン(UO
2)と、焼結添加剤とを含み、
前記焼結添加剤はCr
2O
3、MnO、及びSiO
2を含むことを特徴とする、二酸化ウラン核原料焼結体。
【請求項2】
前記焼結添加剤は、前記UO
2100重量部に対して0.05~0.16重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体。
【請求項3】
前記焼結添加剤は、Cr
2O
320~40重量%、MnO30~50重量%、SiO
220~40重量%で混合されたことを特徴とする、請求項2に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体。
【請求項4】
1)二酸化ウラン(UO
2)粉末に対して、Cr
2O
3、MnO、及びSiO
2を含む焼結添加剤粉末を添加混合して、混合粉末を製造するステップと、
2)前記混合粉末を圧縮成形して成形体を作るステップと、
3)前記成形体を酸素ポテンシャル-581.9kJ/mol~-218.2kJ/molの雰囲気中で焼結するステップと、を含む、二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記1)ステップの前記焼結添加剤粉末は、UO
2100重量部に対して0.05~0.16重量部で混合されることを特徴とする、請求項4に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記1)ステップの前記焼結添加剤粉末は、Cr
2O
320~40重量%、MnO30~50重量%、及びSiO
220~40重量%で混合されたことを特徴とする、請求項4に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記2)ステップの圧縮成形圧力は3ton/cm
2であることを特徴とする、請求項4に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記3)ステップは1730~1760℃で行われることを特徴とする、請求項4に記載の二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気雰囲気中で酸化による重量増加現象を抑制させることが可能な核燃料焼結体及びその製造方法に係り、より具体的には、ウラン酸化物粉末にクロム、マンガン、シリコン酸化物を添加剤として含み、核燃料焼結体の製造のために焼結時に液相を生成させ、この液相がウラン原子の移動を促進させて結晶粒を大きくし、最終的に結晶粒界に被膜を形成させて酸化を抑制させるので、それによる重量増加率を下げる焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電会社は、電力生産単価を下げるために経済的な運転に要求される核燃料性能改善の必要性を強調し、1980年代から2000年代初めまで核燃料開発会社を中心に長周期/高燃焼度焼結体の開発が行われた。しかし、最近、原子力発電の安全への関心が増幅して新たに開発される核燃料には、向上した安全性能を持つ特徴まで求められている。
【0003】
炉心の安全性を高めることができる運転余裕度が増加した核燃料を開発するために、核燃料製造会社は、数百~数千重量ppm単位で酸化物を添加してUO2焼結体の性能を向上させた。開発添加剤が含有された焼結体の商用生産及び供給のために、従来の核燃料製造会社(GNF、AREVA)が作成した認許可トピカルレポート(Licensing Topical Report、GNF NEDC-33106P、Rev.2/AREVA ANP-10340NP)によれば、単純に経済性のある燃焼に関する実験だけでなく、安全性評価関連実験も重点的に行われたことが分かる。特に、燃料棒の損傷による冷却水又は水蒸気の流入によるUO2焼結体の酸化反応による重量増加量を評価した。
一般に、炉内燃焼中の燃料棒の損傷は、360~1200℃の水又は水蒸気雰囲気中でUO2焼結体の腐食を引き起こすが、下記反応式1のように段階別にUO2のO/U=2.0比率が次第に増加しながら焼結体が酸化される。
[反応式1]
UO2→U3O7/U4O9→U3O8
合計2回の相変態後に生じたU3O8は、UO2から破片化(Fragmentation)されて分離されるが、その理由は、相変態による結晶構造の変化のためである。つまり、UO2からU4O9までは立方晶構造が維持されるが、U3O8から四方晶構造に変化し、8.35g/cm3に20%ほど密度が減少するので(体積が増加し)、内部応力が発生する。結局、該当応力が破壊応力を超えて破片化が発生するためである。UO2酸化によるU3O8への相変態による破片化は、燃料棒の損傷が発生した場合、燃料棒の外へ放射性核分裂物質が漏れるのと直接的な連関関係があるので、UO2の酸化抵抗性は原子炉の安全余裕度に大きな影響を及ぼす。
【0004】
破片化が進む過程は、次のとおりである。最初の酸化反応は表面から発生するが、酸素原子がUO2の格子空隙を埋め、このとき、格子内の電子中性度を満たすために既存のUの原子価が+4から+6へと変わる。よって、原子間結合力がさらに強くなって原子間間隔がさらに狭くなる。結局、密度が約10%増加して、初期酸化が始まったUO2の表面が全体的に収縮することになる。その結果、微細クラックが原子間結合の弱い結晶粒界に発生するが、酸素は、このように発生した結晶粒界隙間に沿って速やかに移動する。結晶粒界は、酸素原子の迅速な拡散通路になるだけでなく、原子間結合の切れたエネルギー状態が高い位置なので、酸化も速やかに進む。
K.Une Journal of Nuclear Materials,232(1996)240-247では、340℃で50時間、水中でUO2を酸化試験したところ、結晶粒サイズが増加するにつれて腐食層浸透深さが減少する結果を発表した。韓国特許第10-0446587号が提示する方法では、(Mn+Cr+Al)/U重量比率で0.005~0.15重量%添加し、弱酸化性(ガス比:CO2/H2=0.3~1.6%)雰囲気中で焼結して得た結晶粒サイズが一般UO2焼結体の結晶粒サイズ8μmよりも4~6倍大きい結果を示した。一般に、結晶粒サイズが成長するほど、クリープ速度は増加する。
【0005】
しかし、炉内燃焼による焼結体状態変化の観点からは、単に結晶粒界のサイズだけでは酸化速度を低下させることができない。その理由は、燃焼度が増加するにつれて、核分裂生成物が燃料の内部に蓄積され、膨潤(swelling)が発生し、同時に熱勾配により内部応力が加わって焼結体のあちこちの亀裂が結晶粒界を介して進むためである。また、平均燃焼度40GWd/tM以上のUO2焼結体の外郭では、UO2基地内に気泡が散在する多孔性リム(Rim)構造が結晶粒界面に形成される。結局、このような亀裂とリム構造は、酸化に弱い結合が切れた結晶粒界の表面であるので、外部からの酸化剤の流入は酸化反応性を爆発的に増加させる。よって、単に結晶粒界を大きくして酸化反応速度を減らすとしても、炉内燃焼により結果的に得られる材料の劣化の観点からみると、結晶粒サイズの成長が完全な解決策になることはできない。
【0006】
また、当該発明で言及した結晶粒界に存在することもできるという液相は、K.T.Jacob,Can.Metall.Q.,2089-92(1981)の状態図のように、MnO-Al2O3が1540℃で形成する液相として見えるが、これにより一般的なUO2焼結雰囲気中でCr2O3がCrOに還元されてから揮発する結果をもたらす。それだけでなく、様々な実験によって、MnO-Al2O3も酸化雰囲気中で速やかな揮発が発生することが分かる。結局、結晶粒界に沿って行われる水蒸気酸化現象を抑制するには、Cr2O3とMnO-Al2O3の揮発によって当該特許の添加剤効果が微々たるものと判断される。
【0007】
韓国特許第10-0521638号に開示されている方法では、SiO2、CaO、Cr2O3(重量比率、35~55:45~65:1~7)添加剤を含有したUO2を1700℃で4時間H2+5%CO2雰囲気中で焼結させて、結晶粒界に形成された液相を形成させ、外部応力を加えてクリープひずみが速やかに現れる結果を提示しており、これにより、UO2焼結体を包んでいる被覆管に伝達される応力を相殺させる結果を得ることができた。しかし、3000ppm(0.3重量%)以上過量を添加する場合にのみ、このようなクリープ変形率速度増加が得られる結果を提示した。また、結晶粒サイズも6~8μm程度と小さいため、高温水蒸気による迅速な酸化進行が触発される結晶粒界面の面積が広いため、高温酸化抵抗性の観点からは良好な解決策になれない。さらに、アルカリ酸化物であるCaO及びCaCO3は、石灰の主成分であって、水蒸気又は水との反応性が非常に活発なので、酸化抑制用結晶粒系塗布物質として適切ではない。
【0008】
そこで、本発明者らは、核燃料焼結体の酸化抵抗性を向上させるために結晶粒成長速度を促進させて酸化反応に脆弱な部位の面積を減らすだけでなく、結晶粒界面を、酸化抵抗性に優れる低揮発性の酸化物で塗布して酸化剤との接触を抑制させることにより、酸化反応速度を下げる方法を考案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許第10-0446587号(登録日:2004年8月23日)
【0010】
【特許文献2】韓国登録特許第10-0521638号(登録日:2005年10月6日)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】GNF、Aditive Fuel Pellets for GNF Designs、NEDO-33406(2009)
【0012】
【非特許文献2】AREVA、Incorporation of Chromia-Doped Fuel Properties in AREVA Apporved Methdos、ANP-10340NP(2016)
【0013】
【非特許文献3】K.Une、Journal of Nuclear Materials、232(1996)p.240~247.
【0014】
【非特許文献4】K.T.Jacob、Cam.Metall.Q.,(1981)p.89~92.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、原子力発電所で使用する核燃料棒の損傷時に形成される水蒸気雰囲気による核燃料焼結体の酸化速度を下げることにより、UO2の腐食生成物と共に冷却水に流出する核分裂物質の放出を抑制して原子力発電所の安全性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、二酸化ウラン核燃料焼結体において、二酸化ウラン(UO2)と、Cr2O3、MnO、及びSiO2からなる焼結添加剤と、を含む、二酸化ウラン核原料焼結体を提供する。
前記焼結添加剤は、UO2100重量%に対して0.05~0.16重量%であり、前記焼結添加剤は、Cr2O3が20~40重量%、MnOが30~50重量%、SiO2が20~40重量%で混合できる。
【0017】
また、本発明の他の観点によれば、1)二酸化ウラン(UO2)粉末に、Cr2O3、MnO、及びSiO2からなる焼結添加剤粉末を添加混合して、混合粉末を製造するステップと、2)前記混合粉末を圧縮成形して成形体を作るステップと、3)前記成形体を還元性雰囲気中で加熱して焼結するステップと、を含む、二酸化ウラン核燃料焼結体の製造方法を提供する。前記1)ステップの前記焼結添加剤粉末は、UO2100重量%に対して0.05~0.16重量%で添加でき、前記1)ステップの前記焼結添加剤粉末は、Cr2O3が20~40重量%、MnOが30~50重量%、SiO2が20~40重量%で混合できる。
前記2)ステップの圧縮成形圧力は3ton /cm2であり得る。
前記3)ステップの加熱する焼結温度は1730~1760℃であり、還元性雰囲気は酸素ポテンシャルを基準に-581.9kJ/mol~-218.2kJ/molであり得る。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明によれば、Cr2O3、MnO、及びSiO2が添加されたUO2焼結体は、大きな結晶粒を有するとともに、結晶粒界に形成された被膜により高温水蒸気雰囲気中で高い酸化抵抗性を示すことにより、UO2の酸化によりU3O8化され、微細破片化されて分離される酸化UO2量を減らして燃料棒の破損時に冷却水への核分裂物質の遺失を防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施例によるUO
2焼結体の製造方法を示す概略工程順序図である。
【
図2】本発明の一実施例による焼結温度でUO
2焼結体のO/U比が2.0を維持することができる酸素ポテンシャル計算値を示す熱力学データである。
【
図3】本発明の一実施例によるCr
2O
3、MnO、及びSiO
2の状態及び組成比率を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施例によるCr
2O
3、MnO、及びSiO
2を10重量%添加したUO
2焼結体の微細組織を示す走査電子顕微鏡写真とX線分光分析(energy dispersive spectrometer、EDS)結果である。
【
図5】本発明の一実施例によるCr
2O
3、MnO、及びSiO
2を0.1重量%添加したUO
2焼結体と比較例4~6による焼結体の微細組織を示す光学顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の比較例5によって製造された、Cr
2O
3、MnO、及びAl
2O
3を10重量%添加したUO
2焼結体の微細組織を示す光学顕微鏡写真である。
【
図7】本発明の実施例によって製造された焼結体と比較例1~6によって製造された焼結体を対象に高温水蒸気酸化実験を行った場合、時間によって変化する単位表面積当たりの重量増加量を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例によって製造された焼結体と比較例1~6によって製造された焼結体の結晶粒サイズと高温水蒸気酸化実験測定値を一度に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
本発明は、Cr2O3、MnO、及びSiO2からなる焼結添加剤として還元性雰囲気中で焼結して液相を形成させて結晶粒成長を促進させ、結果的に結晶粒界に被膜を形成させることにより、高温でUO2焼結体の酸化速度を下げることができる酸化抵抗性に優れた核燃料焼結体及びその製造方法を提供する。
【0021】
図1は本発明に係る核燃料焼結体の製造方法を示す工程フローチャートである。
図1を参照すると、本発明の核燃料焼結体の製造方法は、1)二酸化ウラン(UO
2)粉末に対して、Cr
2O
3、MnO、及びSiO
2からなる添加剤粉末を添加混合して、混合粉末を製造するステップ(S11)、2)前記混合粉末を圧縮成形して成形体を作るステップ(S12)、及び3)前記成形体を還元性雰囲気中で加熱して焼結するステップ(S13)を含む。
【0022】
1)ステップ(S11)で添加される焼結添加剤の総量は、UO2100重量%に対して0.05~0.16重量%であり得る。前記焼結添加剤の含有量が0.05重量%未満である場合、十分な結晶粒成長を促進させることができないだけでなく、結晶粒界面を塗布することができる液相分率が生成されない。0.16重量%以上である場合、熱中性子吸収断面積の大きい添加元素によって核分裂連鎖反応に必要な熱中性子が遮蔽されるので、核分裂することができるU-235濃縮も経済性に劣る。よって、高温水蒸気による酸化抵抗性を効果的に示し、熱中性子経済性を維持することができる範囲は0.05~0.16重量%であることが好ましい。
1)ステップ(S11)で、焼結添加剤は、焼結添加剤100重量%に対してCr2O320~40重量%、MnO30~50重量%、SiO220~40重量%で混合されたものであり得る。
【0023】
(1)Cr2O3
UO2基地内にCr2O3が添加された場合、基地内の電子中性度(charge neutrality)を満たすために、格子内U4+イオンの空き点欠陥が生じる。よって、U4+イオンの拡散速度の増加によるUO2焼結体の結晶粒成長が図られる。AREVA社のUO2100重量%に対してCr2O3が0.16重量%ドープされた焼結体の場合、UO2基地内に固溶できるCr2O3の0.05重量%の範囲を過度に超えたが、これは、UO2焼結温度領域で固溶されていないCr2O3を液状タイプのCrO形態に還元して結晶粒成長をさらに図るためである。
したがって、本発明に係る核燃料焼結添加剤では、Cr2O3をUO2固溶度の範囲以下であるUO2100重量%に対して0.05重量%未満で添加して単独で液相が形成されることを防止しなければならないが、その理由は、Cr2O3のみで形成された液相の場合、緻密な酸化膜を形成することができないからである。よって、MnO、SiO2と反応して緻密な化合物を形成させなければならない。このとき、酸化抵抗性能を発揮することができる最小限の化合物分率を作るために、UO2100重量%に対して0.015重量%以上のCr2O3が添加されなければならない。このため、Cr2O3は、UO2100重量%に対して0.015~0.05重量%添加することが好ましい。
【0024】
(2)MnO
MnOは、UO
2基地内で固溶度が低いだけでなく、単一組成で添加された場合、焼結温度ですら液相への相変態が起こらないため、むしろ固相として存在し、それにより結晶粒成長を妨害する。しかし、焼結温度(1730~1780℃)前からCr
2O
3、SiO
2と反応し、液状化合物を低温から形成する。
図3の1500℃でのCr
2O
3-MnO-SiO
2三成分系状態図でのようにMnOの含有量を増加させた場合、液相分率が増えることが分かる。結局、液相分率の増加は、UO
2結晶粒成長を促進させるので、MnOの比率は高いほど良い。しかし、核燃料用焼結体不純物の濃度を基準に、SiO
2とMnOとを合わせた量がUO
2100重量%に対して0.12重量%を超えることができないという観点によって、MnOは0.06重量%以下で添加することが好ましい。また、酸化抵抗性能を少なくとも維持させることができるだけのCr
2O
3-MnO-SiO
2化合物を、酸化反応が最初に始まる結晶粒界に塗布させてUO
2と酸化剤との反応を抑制するために、少なくとも0.02重量%添加することが好ましい。
【0025】
(3)SiO
2
SiO
2は、核分裂によって生成される核分裂生成物質と反応して化合物を形成させることができる優れた核分裂ガス捕集性能を有する。また、
図3の状態図でのように、Cr
2O
3、MnOと共に液状化合物を焼結温度付近で形成させて結晶粒成長を図る。しかし、核燃料用焼結体不純物の濃度基準を満たすために、UO
2100重量%に対して0.05重量%以下で添加することが好ましく、酸化抵抗性能を発揮するためのCr
2O
3-MnO-SiO
2液相の結晶粒界塗布のための最小液相体積分率を満たすために、UO
2100重量%に対して0.015重量%以上添加することが好ましい。
これは、1200℃の水蒸気雰囲気中で純粋なUO
2に対して5倍程度高い酸化抵抗性を発揮するためである。
2)ステップ(S12)では、UO
2粉末と共に添加剤を混合及び成形するステップであって、Nauta混合器を用いて混合した後、成形モールドに混合された粉末を入れて3ton/cm
2の圧力で成形体を製造する方法を示す。
3)ステップ(S13)では、成形体を焼結するステップであって、1730~1760℃の温度範囲で4~6時間焼結を行うことができる。焼結雰囲気は、酸素ポテンシャル-581.9kJ/mol~-218.2kJ/mol(還元性雰囲気)であり、このとき、
図2を参照すると、当該酸素ポテンシャル雰囲気中でO/U比が2.0とさらに安定したことが分かる。ちなみに、-581.9kJ/mol以下又は-218.2kJ/mol以上に焼結雰囲気が形成される場合、UO
2のO/U比が2.0以上に増加するので、結晶構造の変形が生じて焼結体の外/内部にクラックが発生する。
図3を参照すると、目標焼結温度である1730~1760℃以下の温度である1500℃から添加酸化物の液相が形成され得ることを確認することができ、
図4に示すように、Cr、Mn、Siが含有された酸化物の存在を確認することができる。Cr、Mn、及びSiからなる当該酸化物は、UO
2結晶粒界を包んでいることからみて、焼結温度で液相として存在したものと判断される。上述した工程を介して、酸化抵抗性に優れた被膜が結晶粒界に形成されたので、酸化による重量増加量が純粋なUO
2に比べて1/5程度低い結果を示すことができる。
【0026】
本発明の二酸化ウラン核燃料焼結体は、二酸化ウラン(UO2)と、Cr2O3、MnO及びSiO2からなる焼結添加剤と、を含む。
前記焼結添加剤は、前記UO2100重量%に対して0.05~0.16重量%であり、前記焼結添加剤は、焼結添加剤100重量%対してCr2O320~40重量%、MnO30~50重量%、SiO220~40重量%で混合されたものであり得る。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものと解釈されないことは、当業分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0027】
実施例
UO2粉末に、総量Cr2O3、MnO、及びSiO2からなる添加剤を0.1重量%となるように添加した。このとき、0.1重量%を構成するCr2O3、MnO、及びSiO2の比率をそれぞれ3:4:3となるようにし(表1参照)、3軸回転混合器に4時間混合した後、33ton/cm2の圧力で圧縮して成形体を製造した。前記成形体は、1750℃まで5℃/minの速度で昇温させた後、4時間焼結した。焼結雰囲気は、酸素ポテンシャルを-380kJ/molに維持させた。
比較例1~3
酸化抵抗性の向上及び結晶粒サイズの成長のために必要な最小の液相分率を確認するために比較例1~2(表1参照)を、そして、適正Cr2O3超過の比率による酸化抵抗性抵抗性能の低下を確認するために比較例3(表1参照)を実施例の製造方法と同様にして、UO2焼結体を製造した。
比較例4
実施例との比較のために、添加剤が入っていない純粋なUO2焼結体を実施例と同一の製造工程で製造した。
比較例5
添加剤による結晶粒成長が促進されるが、酸化条件での液相揮発が酸化抵抗性の低下に及ぼす影響を確認するために、Cr2O3、MnO、及びAl2O3からなる添加剤を0.1重量%となるように添加した。このとき、0.1重量%を構成するCr2O3、MnO及びAl2O3の比率をそれぞれ7:2:1とし、実施例の製造方法と同一の方法でUO2焼結体を製造した。
比較例6
添加剤による液相形成が図られるが、結晶粒成長が微々たるものである場合の低い酸化抵抗性を調べるためにCr2O3、CaO及びSiO2からなる添加剤を0.1重量%となるように添加した。このとき、0.1重量%を構成するCr2O3、CaO及びSiO2の比率をそれぞれ4:5:1とした。実施例の製造方法と同一の方法でUO2焼結体を製造した。
【0028】
測定例1.結晶粒サイズの測定
前記実施例と比較例1~6によって製造したUO
2焼結体の結晶粒サイズは、直線交差法を用いて測定した。その結果を表2及び
図8に示した。
【表1】
測定例2.微細組織の観察
前記実施例と比較例によって製造した焼結体の断面を機械的に切断した後、研磨と熱エッチングを介して焼結体微細組織の表面を光学顕微鏡で観察した。その結果を
図5に示す。
測定例3.高温水蒸気酸化試験
前記実施例と比較例1~6で製造された焼結体で高温水蒸気酸化実験を行った。前記実施例と比較例1~6で製造された焼結体を1200℃の水蒸気に露出させて酸化させ、重量増加量をリアルタイムで測定するために熱重量分析器(thermogravimetric analyzer)を用いた。このとき、結果となる重量増加量は、表面積が大きいほど酸化反応面積が増えるので、単位表面積当たりで計算して表記した。焼結体をそれぞれ熱重量分析器に装填し、アルゴンガスを流し、1200℃まで30℃/分の速度で昇温した。目標温度である1200℃に達した後、40ml/minで水蒸気を注入させ、20時間酸化を進行させた。時間経過に伴って増加する重量を観察した。実施例と比較例1~6で製造されたUO
2焼結体の高温水蒸気酸化結果を
図7に時間-重量増加量/表面積グラフで示した。
【表2】
図7及び
図8に示すように、実施例で製作された焼結体は0.184mg/mm
2であり、比較例4の場合は0.980mg/mm
2(実施例の5.3倍)、比較例5の場合は0.592mg/mm
2(実施例の3.2倍)、比較例6の場合は0.941mg/mm
2(実施例の5.1倍)であって比表面積に対する重量が増加した。
比較例1のCr
2O
3-MnO-SiO
2がUO
2100重量%に対して0.05重量%添加された場合、実施例と同様の結晶粒サイズだけでなく、高温酸化抵抗性を示す。しかし、比較例2の0.04重量%添加された場合、添加剤によって形成される液相分率の減少による結晶粒成長及び高温酸化抵抗性が低下した。
【0029】
比較例3のCr
2O
3添加剤がUO
2100重量%に対して0.07重量%添加されるが、MnO(0.02重量%)とSiO
2(0.01重量%)に比べて過比率で添加され、Cr
2O
3-MnO-SiO
2成分からなる液相が十分に生成されなかった。しかし、MnO、SiO
2と反応して液相を形成しなかったCr
2O
3が還元され、単独で生成させた液相により結晶粒サイズは増加したが、酸化雰囲気中で添加剤自体の酸化及び不十分なCr
2O
3-MnO-SiO
2液相分率による酸化抵抗性能は悪化したものと確認される。
比較例4の一般UO
2結晶粒サイズが10μm未満であるため、結晶粒界の面積が広くて高温水蒸気の浸透による酸化反応が盛んに起こったからである。
比較例5のCr
2O
3-MnO-Al
2O
3添加UO
2は、40μm以上の大きな結晶粒から構成されているが、
図6に示すように、Cr
2O
3又はMnO-Al
2O
3の揮発によって結晶粒界面に形成された気孔を介して高温水蒸気と結晶粒とが速やかに反応したため、実施例と比較して3倍ほど高い酸化速度が発生したことが分かる。
比較例6のCr
2O
3、CaO及びSiO
2添加UO
2は、結晶粒界面に形成された液相が存在するが、10μm未満の平均結晶粒を有するため、酸化反応速度が速く発生する結晶粒界面積が大きいので、実施例と比較して4倍程度速い酸化が発生したことが分かる。
【0030】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳細に説明したので、当業分野における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術は好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されるものではないことは明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、添付された請求の範囲とそれらの等価物によって定義されるというべきである。
【国際調査報告】