(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(54)【発明の名称】IR伝送窓およびドームをEMIから保護する方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/04 20060101AFI20221121BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20221121BHJP
H01L 31/0264 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
G01J1/04 A
G01J1/02 C
H01L31/08 N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022518968
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 US2020052731
(87)【国際公開番号】W WO2021062162
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503455363
【氏名又は名称】レイセオン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コーレンスタイン,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】トレント,キャサリン
【テーマコード(参考)】
2G065
5F849
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065AB09
2G065BB25
2G065CA12
5F849AA17
5F849BA17
5F849CB05
5F849CB10
5F849HA06
5F849LA01
5F849XB03
(57)【要約】
例えば、長波長IR窓およびドームのEMI保護に使用される透明IR伝導性コーティングが開示される。ある非限定的な実施形態では、TIRCコーティングは、BaCuSFコーティングであってもよい。関連するシステムおよび方法についても開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学または赤外(EO/IR)センサであって、
基板を有する開口と、
前記基板の表面に設置された透明なIR伝導性(TIRC)コーティングと、
を有する、センサ。
【請求項2】
前記TIRCコーティングは、薄膜である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記TIRCコーティングは、約0.5μmから5μmの間の厚さを有する、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記TIRCコーティングは、グレインサイズが約100nm未満である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記TIRCコーティングは、グレインサイズが約10nmから約100nmの間である、請求項4記載のセンサ。
【請求項6】
前記IRCコーティングは、一般式BaCuChFを有し、ここでChは、S、Se、またはTeである、請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
Baは、Li、Na、またはKで部分的に置換される、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
前記TIRCコーティングは、BaCuSFを有する、請求項6に記載のセンサ。
【請求項9】
前記TIRCコーティングは、さらに、注入されたイオンを有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項10】
前記注入されたイオンは、Li
+、Na
+、および/またはH
+を含む、請求項9に記載のセンサ。
【請求項11】
前記TIRCコーティングは、IR透過率が少なくとも約85%である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
さらに、前記TIRCコーティングの上に、保護コーティングまたは反射防止コーティングを有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項13】
前記開口基板は、任意の光学基板を有する、請求項1に記載のセンサ。
【請求項14】
請求項1に記載のEO/IRセンサを有するシステム。
【請求項15】
EMI保護を提供するTIRCコーティングを有する、長波長IR窓またはドーム。
【請求項16】
EO/IRセンサをRF干渉から保護する方法であって、
前記EO/IRセンサの開口にTIRCコーティングを成膜するステップ
を有する、方法。
【請求項17】
前記TIRCコーティングは、一般式:BaCuChFを有し、ここでChは、S、Se、またはTeである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
Baは、Li、NaまたはKで部分的に置換される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記TIRCコーティングは、BaCuSFを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記TIRCコーティングは、約0.5μmから約5μmの厚さで成膜される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記成膜は、ナノ加工技術を介して実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記TIRCコーティングは、単一パスで成膜される、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記TIRCコーティングは、前記開口の任意の光学基板上に成膜される、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
さらに、前記TIRCコーティングにイオンを注入するステップを有する、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
さらに、前記TIRCコーティング上に、保護耐久性コーティングを成膜するステップを有する、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、全般に、電磁干渉(EMI)からの保護を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学および赤外線(EO/IR)センサは、各種軍事的、産業的、および民生的用途において状況認識を提供する。EO/IRセンサは、窓およびドームのようなIR伝送開口(aperture)を有し得る。EO/IR開口は、無線周波数(RF)干渉からセンサを保護する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この保護を提供するため、慣用的に、開口表面にわたって電磁干渉(EMI)グリッドが使用され、好ましくないRFエネルギが反射される。EMIグリッドは、通常、金属またはカーボンナノチューブ(CNT)で構成される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つ以上の態様では、電気光学または赤外(EO/IR)センサが開示される。当該センサは、基板を有する開口と、前記基板の表面に設置された透明IR伝導性(TIRC)コーティングとを有してもよい。
【0005】
1つ以上の態様では、システムは、本願に記載のEO/IRセンサを有してもよい。
【0006】
1つ以上の態様では、長波長IR窓またはドームは、EMI保護を提供するために有効なTIRCコーティングを有してもよい。
【0007】
1つ以上の態様では、EO/IRセンサをRF干渉から保護する方法が開示される。当該方法は、EO/IRセンサの開口部にTIRCコーティングを成膜するステップを有してもよい。
【0008】
本開示では、前述の態様および/または実施形態の任意の1つ以上の組み合わせ、ならびに詳細な説明および任意の例に記載された1つ以上の組み合わせが想定されている。
【0009】
以下、添付図面を参照して、ある一例的な特徴および実施例について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】1つ以上の実施形態によるTIRCコーティングの結晶構造を示した図である。
【
図1B】1つ以上の実施形態によるTIRCコーティングの薄膜断面(上側)およびミクロ組織(下側)を示した図である。
【
図2】1つ以上の実施形態によるTIRCコーティングの伝送速度(transmission rate)を示した図である。
【
図3】下記の実施例2に示したTIRCコーティングに関する伝送データを示した図である。
【
図4】下記の実施例2に示したTIRCコーティングに関する伝送データを示した図である。
【
図5】下記の実施例2に示したTIRCコーティングに関する伝送データを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の利点を考慮する際に、図は、単に説明目的用であることが当業者には理解される。記載の実施形態において、説明の範囲から逸脱することなく、他の特徴が存在してもよい。
【0012】
1または2以上の実施形態では、EMI保護技術が開示される。透明IR伝導性(TIRC)コーティングは、EMI光学特性およびRF特性を改善することができる。TIRCコーティングは、例えば、長波長IR窓およびドームのEMI保護に使用されてもよい。有利なことに、そのようなコーティングは、従来の金属またはCNTグリッドに比べて、高耐久性、非曖昧性、非回折性、RF分離の増加、および光透過性の増加に関連し得る。TIRCコーティングでは、いかなる微細な特徴部も要求されず、製造に関し、大面積にスケール化されてもよい。記載のTIRCコーティングは、EO/IR開口、特にドームに適用することが容易である。また、コスト削減も認識され得る。記載のEMI保護技術では、大きなEO/IRミサイルおよび航空機システムが可能となり得る。なぜなら、薄膜は、センサへのEO/IRエネルギの伝送を高め、EMIグリッドに関する像化問題を低減し、単純化された加工および製造アプローチにより、開口コストが低減可能となるためである。
【0013】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、EO/IR開口基板に設置されてもよい。ある実施形態では、基板は、EO/IR窓またはドームであってもよい。EO/IR窓は、任意の所望の直径および/または深さであってもよい。少なくともある実施態様では、基板は、硫化亜鉛(ZnS)材料であってもよい。
【0014】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、主として、BaCuSF材料系に基づいてもよい。ある好適実施形態では、TIRCコーティングは、BaCuSF膜であってもよい。BaCuSF組成物は、その電気的および/または光学的特性を変更するように調整されてもよい。例えば、Baに対するKの部分置換では、電気伝導度が増加し得る。Sに対するSeおよび/またはTeの置換では、バンドギャップ、キャリア移動度、および光伝送が変化し得る。
【0015】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、導電性のIR透過膜であってもよい。ある非限定的な実施形態では、膜は、一般式がBaCuChFで表される材料で構成されてもよく、ここで、Ch=S、Se、またはTeである。ある実施形態では、バリウムは、通常、電荷的中性を提供し得る。ドーパントは、例えば、所望の電気的特性を提供するため、戦略的に導入されてもよい。ある非限定的な実施形態では、カリウム、リチウム、および/またはナトリウムが、バリウムのドーパントであってもよい。少なくともある実施形態では、バリウムは、カリウム、リチウム、および/またはナトリウムで部分的に置換されてもよい。
【0016】
1または2以上の実施形態では、コーティング厚さは、各種特性パラメータに影響を及ぼし、最適化されてもよい。ある非限定的な実施形態では、TIRCコーティングは、約0.5μm~約5μmの厚さを有してもよい。同様に、コーティングに関するグレインサイズも、各種特性パラメータに影響を及ぼし、最適化されてもよい。ある非限定的な実施形態では、BaCuSF膜は、約100nm未満のグレインサイズを有してもよい。少なくともある特定の非限定的な実施形態では、BaCuSF膜は、約10nmから約100nmのグレインサイズを有してもよい。グレインサイズは、電気伝導度に影響し、代替熱処理技術を介して調整されてもよい。
【0017】
図1Aには、1または2以上の非限定的な実施形態によるTIRCコーティングの結晶構造を示す。
図1Bには、1または2以上の非限定的な実施形態によるTIRCコーティングの薄膜断面(上側)およびミクロ組織(下側)を示す。
【0018】
1または2以上の実施形態では、イオン注入を用いて、コーティングの電気伝導度を高めてもよい。イオン注入技術は、良く知られており、実施可能である。ある非限定的な実施形態では、Li+、Na+、および/またはH+イオンが注入されてもよい。
【0019】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、各種従来のコーティング技術を介して、基板上に成膜されてもよい。ある実施形態では、ナノ加工技術が実施されてもよい。これには、マグネトロンスパッタリング、化学気相成膜、およびイオン成膜が含まれる。少なくともある実施態様では、TIRCコーティングは、各種成膜技術を介して、ZnS窓またはドーム上に成膜されてもよい。ある非限定的な実施形態では、BaCuSF膜は、マグネトロンスパッタリングを介して、ZnS窓またはドーム上に成膜されてもよい。TIRCコーティングは、単一のパスで、または繰り返し層化法により、設置されてもよい。
【0020】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングに、別のコーティングが設置されてもよい。別のコーティングは、これに限られるものではないが、保護、耐久性、および反射防止のような、1つ以上の所望の特性を提供するように形成され、成膜されてもよい。
【0021】
1または2以上の実施形態では、得られた膜は、光透過率、電気伝導度、および/またはRF特性について特徴付けることができる。ある実施形態では、TIRCコーティングは、IRスペクトル(SWIR-LWIR)全般にわたって作動してもよい。TIRCコーティングは、短波長赤外(SWIR;1~3μm)から長波長赤外(vis-LWIR;8~12μm)までのIRスペクトルにわたって透過してもよい。ある実施形態では、TIRCコーティングは、良好な電気伝導度で、約12μmを超える赤外透過率を提供してもよい。少なくともある実施形態では、TIRCコーティングは、入射角とは無関係に、少なくとも約85%のIR透過により特徴付けられてもよい。
図2には、ZnS基板上のBaCuSF TIRCコーティングが、異なる入射光方向において、少なくとも約85%の伝送レベルを示すことが示されている。一方、金属またはCNTグリッドは、ZnS基板上で、約50%から約70%の伝送レベルと関連付けられる。
【0022】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、約10GHz以上のRF周波数において、所定のRF分離レベルにより特徴付けられてもよい。所定のRF分離レベルは、1つ以上のパラメータに基づく所望のRF分離レベルであってもよい。
【0023】
最適な性能を得るため、光学的電気的伝導性およびRF測定を使用して、BaCuSFの組成を調整し最適化してもよい。
【0024】
1または2以上の実施形態では、TIRCコーティングは、マルチスペクトル検知を含むEO/IRシステムにおけるEMIシールドに使用されてもよい。想定される用途には、各種航空機、軍事および宇宙ベースのプログラムが含まれてもよい。例えば、TIRCコーティングは、高エネルギーレーザ(HEL)EMIシールド、IR透過周波数選択表面(FSS)、アンテナ、および静電保護用途を含む、電気光学的および赤外線センサシステムにおいて、有用性が見出されてもよい。
【0025】
これらのおよび他の実施形態の機能および利点は、以下の実施形態からより明確に理解される。実施例は、実質的に例示することを意図するものであり、本願に記載の材料、システム、および方法の範囲を制限するものと解してはならない
(例1)
記載のTIRCコーティングの特性を、他の従来のEMI処理の特性と比較した。これには、実験およびモデリングによる金属グリッドおよび導電性コーティングが含まれる。表1には、選択比較RF分離およびIR伝送損失データをまとめて示す。
【0026】
【表1】
RF分離に関し、約10GHz未満のRF周波数において、全ての技術が比較的同等の特性を発揮した。約10GHzより大きいRF周波数では、TIRCコーティングは、従来のEMI処理より優れている。
【0027】
光伝送に関しては、TIRC膜は、全ての他のEMI技術を上回る特性を示した。TIRC膜は、入射放射線のほぼ100%を透過した。伝送損失は、より高い入射角でのグリッド技術の場合、さらに高くなった。ITOは、1.5μmを超えると伝送しないことが知られている。
【0028】
(例2)
1つ以上の実施形態によるTIRCコーティングを、各種膜抵抗で評価した。
図3~5には、ZnS基板上に成膜されたいくつかのTIRCコーティングの伝送スペクトルを示す。膜抵抗が減少(および導電性が増加)すると、コーティングの透過率も減少した。別の最適化により、高い光透過率と高い電気透過率の両方を維持するTIRCコーティングが得られる。
【0029】
本願で使用される文言および用語は、説明目的のためのものであり、限定的なものとみなしてはならない。本願で使用され「複数の」と言う用語は、2つ以上の事項または部材を表す。「有する」、「含む」、「担持する」、「持つ」、「含有する」、および「含まれる」という用語は、明細書または特許請求の範囲の中での記載であるか否かに関わらず、オープンエンド用語であり、すなわち「有するが、これに限定されない」ことを意味する。従って、そのような用語の使用は、以降に記載の事項、およびそれらの等価物、ならびに追加の事項を網羅することを意味する。「からなる」及び「実質的にからなる」という移行的な文言は、特許請求の範囲に関して、それぞれ、クローズドまたはセミクローズドな移行用語である。特許請求の範囲における「第1」、「第2」、「第3」のような序数の使用は、請求項の要素を修飾するものであり、それ自体、方法の動作が行われる別のもしくは時間的な順番にわたる、あるクレーム要素のいかなる優先順位、先行性、または順序を暗示するものでもなく、単に、ある名称を有するあるクレーム要素を、同じ名称を有する別のクレーム要素と区別する、(順番の用語の使用のための)単なるラベルとして使用されており、両クレーム要素を識別するものにすぎない。
【0030】
従って、少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様について説明したが、当業者には、各種変更、修正、および改良が容易に生じることが理解される。任意の実施形態に記載される任意の特徴は、任意の別の実施形態の任意の特徴に含まれてもよく、またはそれと置換されてもよい。そのような変更、修正、および改良は、本開示の一部となることが意図され、本発明の範囲内にあることが意図される。従って、前述の記載および図面は、単なる一例に過ぎない。
【0031】
当業者には、本願に記載のパラメータおよび構成は、例示的なものであり、実際のパラメータおよび/または構成は、開示された方法および材料が使用される特定の用途に依存することが理解される必要がある。また、当業者には、ルーチンの実験を用いることで、開示された特定の実施形態の等価物が認識され、または理解される必要がある。
【国際調査報告】