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特表2022-549958分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-29
(54)【発明の名称】分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20221121BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALI20221121BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20221121BHJP
【FI】
A61B5/1455
G01N21/3586
G01N21/3577
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520011
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(85)【翻訳文提出日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2020076022
(87)【国際公開番号】W WO2021063695
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】19200618.7
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522126006
【氏名又は名称】インスピリティー アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INSPIRITY AG
【住所又は居所原語表記】Sumpfstrasse 15, 6312 Steinhausen, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ディーター エーバート
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ-ディーター クライン
【テーマコード(参考)】
2G059
4C038
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB08
2G059BB12
2G059BB13
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH01
2G059HH05
2G059HH06
2G059JJ11
2G059KK01
2G059KK09
2G059MM01
4C038KK00
4C038KK10
4C038KL05
4C038KL07
4C038KM01
4C038KX02
4C038KY10
(57)【要約】
本発明は、血液中の分析対象物を非侵襲的に測定するための、特に毛細血管中の分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の血液中の分析対象物を非侵襲的に測定するための装置であって、前記装置は、
(a)前記被験者に由来する検査すべき身体部位を収容するユニット、
(b)前記検査すべき身体部位に照射するためのテラヘルツ放射線、特に約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの波長領域のテラヘルツ放射線を発生させる放射線源、
(c)以下のものを備えた、前記検査すべき身体部位から生じる放射線を検出するユニット:
(i)前記検査すべき身体部位から反射されたテラヘルツ放射線を検出するユニットであって、前記反射されたテラヘルツ放射線の強度が、前記測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する波長範囲のテラヘルツ放射線を検出するために設置されているユニット、
(ii)前記検査すべき身体部位から生じる身体固有の赤外線を検出するユニットであって、前記ユニットは、約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも2つの異なる波長または波長範囲の赤外線を別個に検出するために設置されており、ここで、第1の波長または第1の波長範囲において、前記身体固有の赤外線の強度は、前記測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存せず、第2の波長または第2の波長範囲において、前記身体固有の赤外線の強度は、前記測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化し、前記ユニットは、必要に応じてさらに、身体固有の赤外線を非特異的に検出するために設置されている、ユニット、
(d)
(i)前記検査すべき身体部位の温度を測定する素子、
(ii)任意に、前記検査すべき身体部位の温度を調整する素子、
(e)
(i)前記検出ユニット(c)の温度を測定する素子、
(ii)前記検出ユニット(c)の温度を調整する素子であって、前記検出ユニット(c)の温度が、前記検査すべき身体部位の温度よりも低くなるように設計されている、素子、
(f)前記検出ユニット(c)から生じる信号を温度補正して評価し、評価された信号に基づいて前記分析対象物の濃度を求めるために設置されているユニットであって、前記ユニットは、必要に応じて、前記身体部位の真皮の毛細血管から生じる身体固有の赤外線を選択的に評価するために設置されている、ユニット
を備える、装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ放射線を発生させる放射線源(b)は、アンテナ、特にパッチアンテナまたはダイポールアンテナを備える、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記テラヘルツ放射線を発生させる放射線源(b)は、周波数変調またはパルス変調されたテラヘルツ放射線を放射するために設置されている、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記テラヘルツ放射線を発生させる放射線源(b)と前記検査すべき身体部位との間の放射経路に、例えば、球面レンズ、非球面レンズ、またはフレネルレンズなどの集束レンズが配置されており、前記集束レンズは、テラヘルツ放射線を実質的に透過させる材料からなる、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記集束レンズは、前記テラヘルツ放射線(b)によって生成された放射線を、前記検査すべき身体部位の所定のゾーン、特に毛細血管を含むゾーンに集束させるために設置されている、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記ユニット(c)(i)は、テラヘルツ範囲、特に約0.12mm~約5mmの周波数範囲内(60GHz~約2.5THzに相当)の広帯域スペクトルを検出するために設置されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記ユニット(c)(i)は、前記検査すべき身体部位から反射されたテラヘルツ放射線の単段または多段増幅、特に二段増幅を生じさせるために設置されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記ユニット(c)(i)は、前記検査すべき身体部位から反射されたテラヘルツ放射線と、前記検査すべき身体部位に照射されたテラヘルツ放射線とを複合的に検出するために設置されており、その際、前記ユニット(c)(i)は特に、周波数変調またはパルス変調された信号を検出するために設置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記装置は、外部赤外線発生源を備えていない、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記検査すべき身体部位を収容するユニット(a)は、前記放射線検出ユニット(c)に対して少なくとも部分的に熱絶縁性である、前記検査すべき身体部位を支持する素子を備え、前記素子は、テラヘルツ放射線、特に約0.12mm~約5mm(約60GHz~約2.5THzに相当)またはその部分範囲のテラヘルツ放射線を透過する、および特に約8μm~12μmまたはその部分範囲の波長領域の赤外線を透過する範囲を含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記検査すべき身体面範囲を収容するユニット(a)は、前記検査すべき身体部位の支持位置および/または支持圧力を検出および/または制御する手段、例えばセンサを備え、その際、特に、約0.5~100Nの範囲、好ましくは約1~50Nの範囲、特に好ましくは約20Nの支持圧力を検出および/または制御する手段が設けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)は、少なくとも1つの第1のセンサと、少なくとも1つの第2のセンサと、任意に少なくとも1つの第3のセンサとを備え、前記第1のセンサは、前記身体固有の赤外線の強度がグルコース濃度に実質的に依存しない約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの領域の第1の波長または波長範囲を有する赤外線を検出するために設置されており、前記第2のセンサは、前記身体固有の赤外線の強度がグルコース濃度に応じて変化する約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの領域の第2の波長または第2の波長範囲を有する赤外線を検出するために設置されており、前記第3のセンサは、前記身体固有の赤外線を参照するために設置されている、請求項1から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
前記身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)は、前記身体固有の赤外線の強度がグルコース濃度に応じて変化する異なる波長または波長範囲の赤外線を検出するために設置された2つ以上の第2のセンサを備える、請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記放射線検出ユニット(c)は、熱伝導性支持体に接触しており、その際、特に、前記テラヘルツ放射線検出ユニット(c)(i)および前記赤外線検出ユニット(c)(ii)は、同じ熱伝導性支持体に接触している、請求項1から13までのいずれか1項記載の装置。
【請求項15】
前記検査すべき身体部位の温度より少なくとも5℃、少なくとも6℃、または少なくとも7℃でかつ最大15℃低い前記検出ユニット(c)内の温度が提供されている、請求項1から14までのいずれか1項記載の装置。
【請求項16】
前記装置は、テラヘルツ放射線および赤外線を順次検出するように提供されており、その際、特にまず、前記検査すべき身体部位への照射をせずに身体固有の赤外線を検出し、次いで、前記検査すべき身体部位にテラヘルツ放射線を照射し、反射されたテラヘルツ放射線を検出する、請求項1から15までのいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
前記ユニット(f)は、前記素子(d)および/または(e)により測定され、必要に応じて調整された温度値に基づいて信号を温度補正評価するために設けられている、請求項1から16までのいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
前記ユニット(f)は、前記テラヘルツ検出ユニット(c)(i)および前記赤外線検出ユニット(c)(ii)から生じる信号を複合的に評価するために設けられている、請求項1から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
被験者の血液中の分析対象物を非侵襲的に定量測定するための、請求項1から18までのいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
被験者の血液中の分析対象物を非侵襲的に定量測定する方法であって、
(i)被験者に由来する身体部位に、テラヘルツ放射線、特に、約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの波長領域のテラヘルツ放射線を照射し、反射されたテラヘルツ放射線の強度がグルコース濃度に応じて変化する波長範囲の、照射された身体部位から生じるテラヘルツ放射線を検出するユニットにより、反射されたテラヘルツ放射線を検出するステップと、
(ii)身体固有の赤外線の強度がグルコース濃度に実質的に依存しない約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、または約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも1つの第1の波長または第1の波長範囲と、身体固有の赤外線の強度がグルコース濃度に応じて変化する約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、または約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも1つの第2の波長または第2の波長範囲とにおいて赤外線を検出するユニットにより、前記被験者に由来する身体部位から生じる身体固有の赤外線を別個に検出し、任意に、参照用に照射された身体表面範囲から身体固有の赤外線を非特異的に検出するステップであって、赤外線検出ユニットの範囲の温度は、検査すべき身体部位の温度よりも低いものとする、ステップと、
(iii)前記検査すべき身体部位の温度と、テラヘルツ放射線ユニットおよび赤外線検出ユニットの範囲の温度とを考慮して、(i)および(ii)に従って検出された信号を複合的に評価するステップであって、必要に応じて、身体部位の真皮の毛細血管から生じる身体固有の赤外線の選択的評価を行う、ステップと、
(iv)評価された信号に基づいて、グルコース濃度を求めるステップと
を含む、方法。
【請求項21】
前記分析対象物の測定を、外部赤外線源による励起なしに、被験者の指先から生じる身体固有の赤外線を検出することによって行う、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記分析対象物は、アルコール、ラクテート、タンパク質および尿素から選択される、請求項20または21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ範囲および赤外範囲からの放射線を検出および評価することによる、血液中の分析対象物を非侵襲的に測定するための、特に毛細血管中の分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2016年には、約4億1500万人が糖尿病を患っている。2040年には6億4000万人以上に増加すると予想されている。糖尿病の患者では、適切な薬物療法を可能にするために、血中グルコース濃度を細かく監視する必要がある。そのため、信頼性が高く、患者向けに容易に使用できる血液中のグルコース測定法が求められている。
【0003】
現在、血液中のグルコースの測定は、主に侵襲的な方法に基づいている。この場合、当該患者から血液サンプルを採取してからイン・ビトロ試験に供するか、またはセンサを埋め込んでこれをイン・ビボでのグルコース測定に利用する。このような侵襲的な方法の欠点は、患者にとって痛みや不快感を伴うことである。
【0004】
この欠点を回避するため、血中グルコース濃度を非侵襲的に測定するためのアプローチがすでに数多く開発されている。しかし、いずれのアプローチも商業的な重要性はまだ得られていない。
【0005】
国際公開第2014/0206549号には、血液パラメータ、例えばグルコース濃度を非侵襲的に測定するための生データ測定装置が記載されており、外部放射線源から生じる赤外線(IR)が複数の測定点で検査すべき患者の身体表面に2次元的に結合され、身体表面で発せられた赤外線がセンサデバイスによって複数の測定点で検出される。しかし、この方法は高い設備コストを必要とするのが欠点である。
【0006】
国際公開第2018/122号には、血液中の分析対象物を非侵襲的に定量測定するための装置および方法、特に毛細血管血液中のグルコースを非侵襲的に定量測定するための装置および方法に関する。この目的のために、選択された身体部位に、好ましくは8~12μmの領域の赤外線を照射する。その後、照射された身体部位の表面付近の血管から反射された赤外線の選択的評価を行う。
【0007】
国際公開第2019/034722号も同様に、血液中の分析対象物を非侵襲的に定量測定するための装置および方法、特に毛細血管血液中のグルコースを非侵襲的に定量測定するための装置および方法に関する。この場合、身体から放射される赤外線の評価は、外部放射線源を用いず、8~12μmの波長範囲で行うことが好ましい。
【0008】
テラヘルツ範囲でのグルコースおよび他の臨床関連分析対象物の吸収極大値、ならびにイン・ビトロでの分光測定については、例えば、Laman et al., Biophys. J. 94 (2008), 1010-1020、Upadhya et al., J. Biol. Phys. 29 (2003), 117-121、またはSong et al., Scientic Report 8 (2018), Article Number 8964に記載されている。
【0009】
しかし、分析対象物の既知の非侵襲的な測定方法は、誤差が生じ易いことが欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、先行技術の欠点を少なくとも部分的に回避することができる、体液中の分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非侵襲的な方法により、被験者の血液中の分析対象物を簡便、迅速かつ十分に正確に定量測定することが可能であるとの知見に基づいている。本発明は、被験者の検査すべき身体部位から2つの異なる波長領域の放射線を検出し、得られた測定信号を複合的に評価することに基づいている。このため、被験者の所定の身体部位、例えば指先にテラヘルツ放射線を照射して、反射されたテラヘルツ波長範囲のテラヘルツ放射線を検出し、その際、この波長範囲では、反射されたテラヘルツ放射線の強度は、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する。さらに、被験者の所定の身体部位、例えば指先から発せられる身体固有の赤外線が、約0.7μm~約20μm、特に約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも2つの異なる波長または波長範囲で別個に検出される。この検出は、反射された赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存しない第1の波長または第1の波長範囲と、それとは別に、反射された赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する第2の波長または第2の波長範囲とにおいて行われる。2つの赤外波長あるいは赤外波長範囲の測定信号の差分評価とテラヘルツ範囲の測定信号の評価とを組み合わせることで、分析対象物の濃度を求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
驚くべきことに、2つの異なるスペクトル領域の放射線を複合的に検出および評価することによる血液中の分析対象物の非侵襲的な測定によって、分析対象物の測定精度が向上し、誤差が生じにくくなることが判明した。特に、このようにして妨害物質の影響を低減することができる。なぜならば、妨害物質は通常、2つのスペクトル領域のうち一方でしか、グルコースと干渉する吸収挙動を示さないためである。これにより、適切なアルゴリズムを用いて、測定信号に対する当該の妨害物質の寄与を定量的に求めることができ、正確な補正が可能となる。
【0013】
本発明の一実施形態では、テラヘルツ範囲および赤外範囲における複合的な測定によって、赤外線測定信号における妨害物質の寄与が、テラヘルツ信号の評価により定量的に求められ、それにより、妨害物質の寄与が少なくとも大部分または完全に排除された補正赤外線測定信号が得られる。
【0014】
本発明のさらなる実施形態では、テラヘルツ範囲および赤外範囲における複合的な測定によって、テラヘルツ測定信号における妨害物質の寄与が、赤外線信号の評価により定量的に求められ、それにより、妨害物質の寄与が少なくとも大部分または完全に排除された補正テラヘルツ測定信号が得られる。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、テラヘルツ範囲および赤外範囲における複合的な測定によって、テラヘルツ測定信号における第1の妨害物質の寄与が、赤外線信号の評価により定量的に求められ、赤外線測定信号における第2の妨害物質の寄与が、テラヘルツ信号の評価により定量的に求められ、それにより、第1の妨害物質および第2の妨害物質の寄与が少なくとも大部分または完全に排除された補正テラヘルツおよび赤外線測定信号が得られる。
【0016】
本発明における「テラヘルツ範囲」という用語は、特に断らない限り、約5mm~約0.1mmの波長範囲あるいは波長領域に相当する約60ギガヘルツ(GHz)~約3テラヘルツ(THz)の周波数範囲、またはその部分範囲を意味する。例えば、約0.3THz~約3THz(約1mm~約0.1mmの波長範囲あるいは波長領域に相当)、または約60GHz~約2.5THz(約5mm~約0.12mmの波長範囲あるいは波長領域に相当)の周波数範囲に及び得る。
【0017】
本発明における「赤外範囲」という用語は、特に断らない限り、約0.7μm~約20μmの波長範囲あるいは波長領域、またはその部分範囲を意味する。例えば、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの波長範囲あるいは波長領域に達し得る。
【0018】
この場合、検査すべき身体部位にテラヘルツ放射線を照射し、反射されたテラヘルツ放射線をこれに適したセンサで検出する。さらに、身体から発せられる赤外線をこれに適したセンサで検出する。この場合、通常は、外部赤外線源の使用は想定されていない。測定信号の評価には、外部の電気および/または熱放射線から遮蔽された装置が有利に使用される。これにより、測定精度の大幅な向上が達成される。
【0019】
評価の過程でさらに、検査すべき身体部位、例えば指先の温度と、テラヘルツ放射線および赤外線の検出に使用されるセンサの温度とが測定され、その際、センサの温度は、検査すべき身体部位の温度よりも低い値に保たれる。有利には、センサの温度は、所定の値、例えば10℃~25℃の範囲の値に調整され、これは、例えば金属ブロックへの埋め込みによって行われ、その温度は、温度調整素子、例えばペルチェ素子によって調整され、温度測定素子によって正確に、例えば最大±0.1℃、または最大±0.01℃の精度で測定される。検査すべき身体部位、例えば指先の温度は、被験者および外部条件によって変動する値を取り得る。この値は、本発明によれば、温度測定素子によって正確に、例えば最大±0.1℃、または最大±0.01℃の精度で測定される。
【0020】
測定信号の評価は、検査すべき身体部位の温度の値、およびセンサユニットの温度の値、特に、結果として生じる温度差を考慮して、得られた測定信号の温度補正を行うことを含む。したがって、本発明は、温度補正しながらテラヘルツ放射線と身体固有の赤外線とを一緒に評価することによる、分析対象物を非侵襲的に測定するための装置および方法に関する。
【0021】
さらに、本発明によれば、検査される身体部位の表面付近の血管から約0.7μm~約20μm、または約8μm~約12μmの領域における身体固有の赤外線の選択的な評価、特に真皮の毛細血管から生じる身体固有の赤外線の選択的な評価を行うことができる。本発明者らは、身体固有の赤外線が複数の成分から構成され、これらの成分を別個に分析できることを見出した。表面付近の血管から生じる身体固有の赤外線の成分は、被験者の動脈拍動数に応じた時間変化を示す。この変化に基づき、パルス周波数に伴って変化する信号と、パルス周波数に依存しない信号との識別が評価の過程で可能になる。
【0022】
驚くべきことに、本発明により、血液中の分析対象物を正確かつ再現性よく測定することができ、例えば、X線回折装置を用いた参照測定に対して±2.5%の精度で測定することができる。
【0023】
したがって、本発明の第1の態様は、被験者の血液中の分析対象物を非侵襲的に測定するための装置であって、該装置は、
(a)被験者に由来する検査すべき身体部位を収容するユニット、
(b)検査すべき身体部位に照射するためのテラヘルツ放射線、特に約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの波長領域のテラヘルツ放射線を発生させる放射線源、
(c)以下のものを備えた、検査すべき身体部位から生じる放射線を検出するユニット:
(i)検査すべき身体部位から反射されたテラヘルツ放射線を検出するユニットであって、反射されたテラヘルツ放射線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する波長範囲のテラヘルツ放射線を検出するために設置されているユニット、
(ii)検査すべき身体部位から生じる身体固有の赤外線を検出するユニットであって、該ユニットは、約0.7μm~約20μm、約5μm~約15μm、または約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも2つの異なる波長または波長範囲の赤外線を別個に検出するために設置されており、ここで、第1の波長または第1の波長範囲において、身体固有の赤外線の強度は、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存せず、第2の波長または第2の波長範囲において、身体固有の赤外線の強度は、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化し、該ユニットは、必要に応じてさらに、身体固有の赤外線を非特異的に検出するために設置されている、ユニット、
(d)
(i)検査すべき身体部位の温度を測定する素子、
(ii)任意に、検査すべき身体部位の温度を調整する素子、
(e)
(i)検出ユニット(c)の温度を測定する素子、
(ii)検出ユニット(c)の温度を調整する素子であって、検出ユニット(c)の温度が、検査すべき身体部位の温度よりも低くなるように設計されている、素子、
(f)検出ユニット(c)から生じる信号を温度補正して評価し、評価された信号に基づいて分析対象物の濃度を求めるために設置されているユニットであって、該ユニットは、必要に応じて、身体部位の真皮の毛細血管から生じる身体固有の赤外線を選択的に評価するために設置されている、ユニット
を備える、装置に関する。
【0024】
本発明による装置は、検査すべき身体部位に照射するためのテラヘルツ放射線、特に、約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの波長領域のテラヘルツ放射線を発生させる放射線源(b)を備える。テラヘルツ放射線は、収容ユニット(a)に導入された検査すべき身体部位に照射された後、反射される。本発明による装置は、テラヘルツ放射線を検出するユニット(c)(ii)をさらに備える。
【0025】
本発明による装置は、必ずしも外部赤外線源を備えるわけではなく、それというのも、外部赤外線源は、身体固有の赤外線を検出および評価するために設置されているためである。好ましくは、外部赤外線源は存在しない。収容ユニット(a)に導入された検査すべき身体部位から、身体固有の赤外線が発せられる。本発明による装置は、身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)を備える。
【0026】
収容ユニットに導入された検査すべき身体部位の温度、特に中心温度は、温度測定素子(d)(i)、例えば温度センサによって正確に測定される。必要に応じて、検査すべき身体部位の体温を調整する素子(d)(ii)、すなわち加熱および/または冷却素子、例えばペルチェ素子が収容ユニット(a)に設けられていてもよい。
【0027】
さらに、装置は、反射されたテラヘルツ放射線を検出するユニット(c)(i)および/または身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)の温度を測定する手段(e)(i)、例えば温度センサと、反射されたテラヘルツ放射線を検出するユニット(c)(i)および/または身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)の温度を、実質的に等しい、好ましくは一定の温度レベルに保持する手段(e)(ii)とをさらに備える。この場合、放射線検出ユニット(c)(i)および/または(c)(ii)の温度を体温の値よりも低い値に正確に調整する素子(e)(ii)が提供される。有利には、素子(e)(ii)は、熱伝導性材料製の物体、例えば金属ブロックと、熱を供給および/または排出する手段、例えばペルチェ素子などの加熱および/または冷却素子とを備える。
【0028】
本発明による装置は、被験者の身体部位、特に人間の被験者の身体部位、例えば指先、耳たぶ、もしくはかかと、またはその一部を収容し、そこから発せられる身体固有の赤外線を測定するために提供されるものである。好ましくは、検査すべき身体部位は、指先である。
【0029】
この目的のために、装置は、照射すべき身体部位を収容するユニット(a)を備え、これは、例えば、当該身体部位、例えば指先のための支持素子を備えることができる。支持素子の形状は、測定が行われる身体部位に適合している。例えば、実質的に平面的な支持素子が設けられていてよい。
【0030】
有利には、支持素子(a)は、放射線検出ユニット(c)(i)および/または(c)(ii)に対して部分的に熱的に絶縁されており、例えば、少なくとも一部が、熱絶縁性材料、例えばポリウレタンフォームなどのプラスチックから形成されていることによって、熱的に絶縁されている。さらに、支持素子は、検査すべき身体部位から発せられるテラヘルツ放射線および赤外線が支障なく通過できるようにするために、好ましくは約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの領域のテラヘルツ放射線、および約0.7μm~約20μm、約5μm~約15μm、好ましくは約8μm~約12μmの領域の赤外線を透過する1つ以上の範囲を含む。支持素子の透過性範囲は、例えば約0.5cm~約1.5cmの面積を有することができ、例えば円形に形成されていてよい。支持素子の透過性範囲に適した材料の例は、ケイ素、ゲルマニウム、またはテラヘルツおよび赤外線透過性の有機ポリマーである。支持素子は、任意の適切な形状に形成されていてよく、例えばプレートとして形成されていてよい。
【0031】
収容ユニット(a)には、検査すべき身体部位の温度を測定する素子(d)(i)が接続されている。この素子は、例えばボロメータやサーモパイルなどの温度センサを備える。さらに、温度調整素子(d)(ii)、例えば加熱および/または冷却素子、特にペルチェ素子を設けて、必要に応じて、検査すべき身体部位の温度を、例えば最大±0.1℃、または最大±0.01℃の精度で正確に調整することができるようにしてもよい。例えば、温度調整素子は、身体部位の温度を25℃以上、例えば約28~38℃に調整できるように設置されていてよい。さらに、検査すべき身体部位の色素を測定する素子(d)(iii)、例えば、測色センサが設けられていてもよい。
【0032】
好ましくは、支持素子は、検査すべき身体部位の支持位置および/または支持圧力を検出および/または制御する手段、例えばセンサを備える。この場合、支持位置および/または支持圧力を身体部位ごとに別個に検出し、必要に応じて適応することができる。個々の適応は、例えば、本発明による非侵襲的な装置から発信される測定信号と、例えば従来のテストストリップまたは体内に挿入されるセンサを用いた侵襲的な測定によって従来から得られている参照信号との1回または複数回の照合を含むことができる。この照合は、本発明による装置の初期使用の一部として実施し、必要に応じて、例えば、毎日、隔日、毎週などの時間間隔で繰り返し実施することができる。好ましくは、照合は、参照信号にできるだけ十分に一致した安定的な再現性のある測定信号を得るために、検査すべき身体部位の支持位置および/または支持圧力の調整を含む。この目的のために、装置は、例えば支持素子に対するx、yおよびz座標に関する照射すべき身体部位の支持位置を検出および/もしくは制御するための、ならびに/または例えば約0.5~100Nの範囲、好ましくは約10~50Nの範囲、特に好ましくは約20Nの支持圧力を検出および/もしくは制御するためのセンサを備えることができる。支持圧力を検出および/または制御するセンサは、例えば、ロードセルを備えることができる。支持位置を検出および/または制御するセンサは、カメラ、例えばCCDカメラおよび/またはパルスセンサを備えることができる。
【0033】
適応によって決定された支持位置および/または支持圧力の調整は、好ましくは、装置によって登録され、記憶される。その後、機器を使用する際に、正しい支持位置あるいは正しい支持圧力を、信号によって、例えば光学信号および/または音響信号によって表示することができる。所定の正しい調整が確認された場合にのみ、測定すべき分析対象物の測定が開始される。
【0034】
本発明による装置は、テラヘルツ放射線を発生させる放射線源(b)を備える。この放射線源は、コヒーレントなテラヘルツ放射線を発生させるように設計されていてよい。例えば、テラヘルツ放射線は、複数のレーザ信号、例えば、量子カスケードレーザ、分子ガスレーザ、自由電子レーザ、光パラメトリック発振器および後方波発振器による分布帰還型レーザの周波数増倍または差周波形成によって発生させることができる。さらに、2つのレーザの差周波を交流に変換して適切な光伝導アンテナによりテラヘルツ放射線の形態で放射させるフォトダイオードを使用することもできる。本発明の特定の実施形態では、テラヘルツ放射線を、例えば500~2000mmの範囲の波長、例えば800mmの波長を有するパルスレーザによって、適切なテラヘルツアンテナによりテラヘルツ放射線に変換することができる。このようなレーザの出力は、通常、約1mW~約1Wである。
【0035】
さらなる実施形態では、テラヘルツ送受信チップを使用することもできる。このような送受信チップは、ケイ素および/またはゲルマニウムベースの材料から作製されていてよい。特定の実施形態では、チップは、1つ以上の増幅器、例えば低雑音増幅器(LNA)、1つ以上の直交ミキサ、1つ以上の多相フィルタ、1つ以上の周波数分波器および/またはテラヘルツ放射線を発生させる少なくとも1つの同調入力部を有する発振器を備える。有利には、テラヘルツ放射線の帯域幅を必要に応じて変化させるために、複数、例えば2、3または4つの同調入力部が存在する。さらに、テラヘルツ放射線を放射および/または受信するための送信および/または受信アンテナがチップ上に集積されていてよい。このようなチップの出力は、約0.01mW~約100mWの範囲、特に約0.1mW~約1mWの範囲であってよい。例えば、チップは、約1mWの出力を有することができる。このようなチップのサイズは、約100mmまでの範囲、有利には約10mm~約50mmの範囲、例えば約25mmであってよい。このようなテラヘルツチップは、例えば、Silicon Radar GmbHから入手可能である。
【0036】
本発明のさらなる実施形態では、テラヘルツアンテナ、例えばパッチアンテナまたはダイポールアンテナが存在する。
【0037】
テラヘルツ放射線源の有効出力、すなわち検査すべき身体部位に照射される出力は、好ましくは約1mW~約100mWであり、その際、放射線を、連続的またはパルス状に放出することができる。
【0038】
さらに、装置は、放射線検出ユニット(c)、すなわち、テラヘルツ放射線検出ユニット(c)(i)、および赤外線検出ユニット(c)(ii)を備える。
【0039】
テラヘルツ放射線検出ユニット(c)(i)は、テラヘルツ放射線、特に、約0.1mm~約5mmの波長範囲あるいは波長領域に相当する約60ギガヘルツ(GHz)~約3テラヘルツ(THz)の周波数範囲、またはその部分範囲のテラヘルツ放射線、例えば、約0.12mm~約5mmの範囲、約0.1mm~約1mmの範囲、またはその部分範囲のテラヘルツ放射線を検出するために設けられた1つ以上のセンサあるいは検出器を備える。
【0040】
さらに特に好ましい実施形態では、テラヘルツ放射線源と検査すべき身体部位との間の放射経路および/または検査すべき身体部位とテラヘルツ検出ユニット(c)(i)との間の放射経路には、テラヘルツ放射線を実質的に透過させる材料、例えばポリプロピレンまたはHDポリエチレンからなる、例えば球面レンズ、非球面レンズ、またはフレネルレンズなどの少なくとも1つの集束レンズが存在する。レンズは、テラヘルツ放射線源によって検査すべき身体部位に照射されたテラヘルツ放射線を、身体部位への所定の浸透深さ、例えば約3~4mmに集束させるため、および/または検査すべき身体部位から反射されたテラヘルツ放射線をテラヘルツ検出ユニットに集束させるために使用される。
【0041】
身体から反射されたテラヘルツ放射線を、検出ユニット(c)(i)に導く前に、1つ以上のステップで増幅させることができる。通常は、第1のステップでLNAによる増幅が行われる。その後、反射されたテラヘルツ放射線をミキサに通し、送信信号と混合(乗算)することができる。次いで、ミキシング結果をさらに増幅することができる。例えば、10倍以上、10倍以上でかつ10倍または10倍まで増幅することができる。一実施形態では、信号を、複数のステップ、例えば2つのステップで増幅することができ、各ステップで、10倍~10倍の信号増幅を行うことができる。
【0042】
反射されたテラヘルツ放射線の強度がグルコース濃度に応じて変化する波長範囲のテラヘルツ放射線を検出するために、テラヘルツ放射線検出ユニットが設置されている。特に、ユニット(c)(i)は、テラヘルツ範囲の広帯域スペクトル、特に、約0.1mm~約5mmの波長範囲あるいは波長領域に相当する約60ギガヘルツ(GHz)~約3テラヘルツ(THz)の周波数範囲、例えば約0.1mm~約0.25mmの波長範囲(約100cm-1~約40cm-1の波数範囲に相当)を含むテラヘルツ範囲、またはその部分範囲の広帯域スペクトルを検出するために設置されている。
【0043】
テラヘルツの測定結果は、単独で、または赤外線の測定結果と組み合わせてディスプレイで表示することができる。
【0044】
さらに、装置は、検査された身体部位から生じる身体固有の赤外線を検出するユニット(c)(ii)を備え、これは、約0.7μm~約20μm、約5μm~約15μm、または約8μm~約12μmの領域における少なくとも2つの異なる波長または波長範囲の赤外線を別個に検出するために設置されている。特に好ましい実施形態では、このユニットは、8~10μmの領域における少なくとも2つの異なる波長または波長範囲の赤外線を別個に検出するために設置されている。
【0045】
赤外線を検出するための検出ユニット(c)(ii)は、赤外線を検出するために設けられた1つ以上のセンサを備える。
【0046】
一実施形態では、検出ユニット(c)(ii)は、少なくとも2つの異なる波長または波長範囲を有する赤外線を別個に検出するために設けられた複数のセンサを備える。別の実施形態では、装置は、さらに、少なくとも2つの異なる波長または波長範囲を有する赤外線を時間依存的に別個に検出するために設けられたセンサを備えることができる。
【0047】
この場合、検出ユニット(c)(ii)は、少なくとも1つの第1の波長あるいは第1の波長範囲における赤外線と、少なくとも1つの第2の波長あるいは少なくとも1つの第2の波長範囲における赤外線とを別個に検出するために設置されている。第1の波長あるいは第1の波長範囲は、好ましくは、測定すべき分析対象物の吸収極小の領域に存在する。第2の波長あるいは第2の波長範囲は、好ましくは、測定すべき分析対象物の吸収帯の領域、すなわち、分析対象物が強い吸収、好ましくは吸収極大を示す領域に存在する。
【0048】
一実施形態では、装置は、それぞれ約0.7μm~約20μmまたはその部分範囲、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの領域における異なる波長あるいは波長範囲を有する赤外線を別個に検出するために設置された、少なくとも1つの第1のセンサと、少なくとも1つの第2のセンサとを備える。第1のセンサは、身体固有の赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存しない第1の波長あるいは第1の波長範囲を有する赤外線を検出するために該センサが設置されるように選択される。第2のセンサは、身体固有の赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する第2の波長あるいは第2の波長範囲を有する赤外線を検出するために該センサが設置されるように選択される。
【0049】
本発明による装置はそれぞれ、第1および第2の赤外線センサを1つ以上備えることができる。特定の実施形態では、装置は、強度が測定すべき分析対象物の濃度に依存しない赤外線を検出するために設置された第1のセンサと、強度が測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する赤外線を検出するために設置された2つ以上の第2のセンサとを備え、その際、2つ以上の第2のセンサは、それぞれ異なる波長範囲を有する赤外線を検出するために設置されている。
【0050】
第1および/または第2の赤外線センサは、赤外線の波長(範囲)特異的な検出を可能にするために、それぞれ検出すべき波長あるいは検出すべき波長範囲に対して透過性の光学フィルタ素子を備えた、例えばボロメータやサーモパイルといった波長非特異的放射線センサとして設計されていてよい。この目的のために、適切なフィルタ素子、例えばバンドパスフィルタ素子、ハイパスフィルタ素子、もしくはローパスフィルタ素子、またはそのようなフィルタ素子を複数組み合わせたものを使用することができる。好ましくは、光学フィルタ素子は、センサ上に直接、すなわち間隔を空けずに載置されるように配置されている。好ましい実施形態では、第1および/または第2のセンサとして、高精度のボロメータまたはサーモパイルが使用される。
【0051】
一実施形態では、赤外線の波長特異的検出のために、第1および/または第2の赤外線センサは、第1または第2の測定波長の周囲に、それぞれ例えば最大0.8μm、最大0.6μm、最大0.4μm、最大0.3μm、または最大0.2μmの透過幅を有する狭バンドパスフィルタ素子を備えていてよい。
【0052】
さらに別の実施形態では、第1および/または第2の赤外線センサのフィルタ素子は、例えば2~12μm、好ましくは3~8μmの透過幅を有するワイドバンドパスフィルタ素子と、ハイパスフィルタ素子および/またはローパスフィルタ素子との組み合わせを含むことができる。例えば、測定波長範囲全体をカバーする領域、例えば8~10.5μmまたは7~14μmの領域における赤外線を透過するワイドバンドパスフィルタ素子が提供されていてよい。このバンドパスフィルタ素子をローパスフィルタ素子および/またはハイパスフィルタ素子と併用することで、第1および第2のセンサについてそれぞれ、異なる波長または波長範囲の赤外線を別個に検出することができる。この場合、2つのセンサのうちの一方は、第1の波長あるいは第1の波長範囲と第2の波長あるいは第2の波長範囲との間にあるカットオフ波長まで赤外線を透過するローパスフィルタ素子を備えることができる。代替的または追加的に、2つのセンサのうちの他方は、同様に第1の測定波長あるいは第1の測定波長範囲と第2の測定波長あるいは第2の測定波長範囲との間にある第2のカットオフ波長まで赤外線を透過するハイパスフィルタ素子を備えることができる。
【0053】
ワイドバンドパスフィルタをローパスフィルタおよび/またはハイパスフィルタと併用することで、より広い波長範囲を検出できるという利点がある。このようにして、測定効率を大幅に向上させることができる。
【0054】
本実施形態の1つの具体的な実施形態では、2つの赤外線センサのうちの一方は、ワイドバンドパスフィルタをローパスフィルタと組み合わせて備え、第1または第2のセンサのうちの他方は、ワイドバンドパスフィルタをハイパスフィルタと組み合わせて備えることができる。第2の実施形態では、第1または第2の赤外線センサのうちの一方は、任意にワイドバンドパスフィルタのみを備え、第1または第2のセンサのうちの他方は、バンドパスフィルタとローパスフィルタとの組み合わせ、または代替的にバンドパスフィルタとハイパスフィルタとの組み合わせを備えることができる。後者の2つの実施形態では、第1または第2のセンサが検出する波長範囲が重なるため、評価時にこの重なり合った範囲を差し引く必要がある。
【0055】
さらに別の実施形態では、第1の赤外線センサおよび/または第2の赤外線センサは、例えば量子カスケードセンサのような波長(範囲)特異的センサとして設計されていてもよい。
【0056】
別の実施形態では、検出ユニット(c)(ii)は、約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの領域において少なくとも2つの異なる波長あるいは波長範囲を有する赤外線を時間依存的に別個に検出するために設置された少なくとも1つの赤外線センサを備え、ここで、第1の波長あるいは第1の波長範囲において、身体固有の赤外線の強度は、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存せず、第2の波長あるいは第2の波長範囲において、身体固有の赤外線の強度は、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する。
【0057】
ここで、異なる波長または波長範囲を有する放射線を時間依存的に別個に検出するために設けられたセンサは、ファブリペロ干渉計として、例えば、約3~12μmのMIR/TIR領域用のMEMS分光器として設計されていてよい(例えば、Tuohinieni et al., J. Micromech. Microeng. 22 (2012), 115004; Tuohinieni et al., J. Micromech. Microeng. 23 (2013), 075011参照)。
【0058】
さらに、検出ユニット(c)(ii)は、任意にさらに、少なくとも1つのさらなるセンサ、例えばボロメータまたはサーモパイルを備えることができ、これは、被験者の照射された身体部位から生じる身体固有の赤外線を非特異的に検出するために設置されており、参照用、例えば体温参照用の役割を果たすことができる。このさらなるセンサは、温度測定素子(d)(i)の機能を果たすこともできる。
【0059】
本発明による装置の検出ユニット(c)(i)および/または(c)(ii)のセンサのサイズは、必要に応じて選択することができる。例えば、センサは、0.5~10mmの範囲の断面積を有することができる。
【0060】
1つ以上のセンサは、任意に、ボロメータやサーモパイルなどの複数の個々のセンサ素子のアレイの形態であってもよく、例えば、2×2、3×3、4×4または8×8の個々の素子の配列で4~100個の個々の素子を備え、その際、アレイ内の個々のセンサ素子は、直に隣接して配置されていてもよいし、間隙によって互いに分離されていてもよい。
【0061】
本発明による装置の各センサ、特に検出ユニット(c)(i)および(c)(ii)のセンサは、有利には熱平衡状態にあり、すなわち、実質的に等しい温度レベルを有する。例えば、各センサは、例えば銅や真鍮などの金属製の物体、ブロック、プレート、または箔などの共通の熱伝導性支持体に接触していてよく、これは、例えば、各センサがその中に埋め込まれていることによって行われる。例えば、各センサは、物体またはブロックの凹部に配置されていてよく、その際、それぞれ、1つの凹部に1つのセンサが配置されていてもよいし、1つの凹部に複数のセンサが配置されていてもよい。支持体あるいはブロックは、熱を供給および/または排出する素子、例えばペルチェ素子などの加熱および/または冷却素子と接続されていてよい。
【0062】
好ましい実施形態では、センサ、特に検出ユニット(c)(i)および(c)(ii)のセンサは、金属ブロックに埋め込まれており、例えば金でコーティングされていてもよい銅ブロックに埋め込まれている。
【0063】
特に好ましい実施形態は、例えば金属ブロックの1つの凹部に一緒に配置された3または4つ以上のセンサを備えることができ、その際、これらのセンサの各々は、複数の個々のセンサ素子、例えば8×8の個々の素子のアレイとして設計されていてよい。これらのセンサのうち1つは、測定すべき分析対象物の吸収極小の範囲の赤外線を検出するために設けられており、これらのセンサのうち1つまたは2つは、測定すべき分析対象物の吸収帯の範囲の赤外線を検出するために設けられている。必要であれば、参照用のさらなるセンサが設けられていてよい。
【0064】
さらに別の実施形態では、検出ユニット(c)(ii)のセンサ、すなわち赤外線センサのみが熱平衡状態にあるのに対して、検出ユニット(c)(i)のセンサ、すなわちテラヘルツセンサは非冷却状態である。
【0065】
放射線検出ユニット(b)には、その温度を測定する素子(d)(i)、およびその温度、特にセンサの範囲の温度を調整する素子(d)(ii)が接続されている。温度測定素子(d)(i)は、例えば、温度センサとして設計されていてよい。例えば、温度測定素子として、赤外線校正器あるいは黒体放射器を使用することができる。温度調整素子(d)(ii)は、例えば、加熱および/または冷却素子、特にペルチェ素子として設計されていてよい。
【0066】
好ましくは、温度調整素子、例えばペルチェ素子は、その冷却側が放射線検出ユニット(c)に面し、放射線検出ユニット(c)とは反対側の加熱側に放熱部、例えばヒートパイプやサーモサイフォンなどの1つ以上のヒートパイプを有する。温度調整素子は、検出ユニット(c)、特にテラヘルツ放射線および赤外線センサの範囲において、温度について、特に検査すべき身体部位、例えば指先の中心温度の値より低い値が提供されるように設置されている。好ましくは、検出ユニットの温度は、10℃~25℃の範囲内の値に調整され、温度測定素子を用いて測定される。検出ユニットにおける温度調整および温度測定は、有利には最大±0.1℃、または最大±0.01℃の精度で行われる。検査すべき身体部位の温度の測定も、有利には最大±0.1℃、または最大±0.01℃の精度で行われる。したがって、検出ユニットのテラヘルツ放射線および赤外線センサと検査すべき身体部位との間の温度差を、高い精度、例えば最大±0.2℃、または最大±0.02℃で求めることができ、この温度差は、有利には1℃以上、例えば2℃以上、3℃以上、4℃以上、6℃以上、7℃以上、または8℃以上である。好ましくは、温度差の範囲は、約4℃~約40℃であり、特に好ましくは約6℃~約35℃である。
【0067】
一実施形態では、照射されたテラヘルツ放射線、反射されたテラヘルツ放射線および/または身体固有の赤外線が、検出ユニット(c)の1つ以上のセンサ上に可能な限り点状に集束できるようにするために、検査すべき身体部位と検出ユニット(c)との間の放射経路には、光学集束素子、例えばレンズ素子が配置されている。
【0068】
したがって、検出ユニットのセンサ、すなわち赤外線センサおよび/またはテラヘルツセンサ、例えば第1のセンサおよび/または第2のセンサは、例えばゲルマニウムやセレン化亜鉛などの赤外線透過性材料製の光学集束素子、例えば平凸レンズまたは両凸レンズ、特に球面レンズを備えることができ、その際、レンズ径は、有利にセンサ径に適合されていてよい。放射経路を絞った光学配置にすることで、放射線の収率、ひいては測定の感度および精度を高めることができる。特に好ましいのは、両凸レンズ、特に球面レンズを備えたセンサ、例えばボロメータまたはサーモパイルを使用することである。
【0069】
本発明による装置は、テラヘルツ範囲、特に上記の波長領域、例えば約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの領域、および赤外範囲、特に上記の波長領域、例えば約0.7μm~約20μm、特に8~12μmの領域において特徴的な吸収帯を有する分析対象物の測定に使用することができる。そのような分析対象物の例としては、グルコースや、アルコール、ラクテート、タンパク質および尿素など、臨床的に関連する他の分析対象物が挙げられる。
【0070】
特に好ましい実施形態では、本発明による装置は、血液中、特に真皮の毛細血管中の分析対象物、特にグルコース以外の分析対象物を非侵襲的に測定するために設置されている。
【0071】
したがって、本発明のさらなる態様は、分析対象物、特にグルコース以外の分析対象物の非侵襲的な測定、特に被験者の血液中の分析対象物、特にグルコース以外の分析対象物の定量測定のための、該装置の使用に関する。
【0072】
グルコースを測定する場合、テラヘルツ波長領域は、特に約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、もしくは約0.5mm~約1mmの範囲、またはその部分範囲を含む。この範囲では、グルコースは複数の吸収帯を示し、その際、約0.2mm(波数50cm-1に相当)、約0.14~0.17mm(波数60~70cm-1に相当)、および約0.13mm(波数80cm-1に相当)の3つの吸収帯が存在する。好ましくは、グルコースの測定は、上記の吸収帯の少なくとも2つ、有利には3つすべてを含む広帯域スペクトルの検出を対象とする。
【0073】
赤外波長領域において、グルコースの測定は、グルコースの吸収極小を有する第1の赤外波長あるいは第1の波長範囲と、グルコースの吸収帯またはその一部を有する第2の波長あるいは第2の波長範囲とを含む。例えば、第1の波長は、8.1±0.3μmおよび/または8.5±0.3μm、8.1±0.2μmおよび/または8.5±0.2μm、あるいは8.1±0.1μmおよび/または8.5±0.1μmの領域にあってもよいし、これらの領域の少なくとも1つを含むこともできる。これらの波長領域において、グルコースは吸収極小を有する。第2の波長は、9.1±0.3μm、9.3±0.3μmおよび/または9.6±0.3μm、あるいは9.1±0.2μm、9.3±0.2μmおよび/または9.6±0.2μm、あるいは9.1±0.1μm、9.3±0.1μmおよび/または9.6±0.1μmの領域にあってもよいし、これらの領域の少なくとも1つを含むこともできる。これらの波長領域において、グルコースは、複数の吸収極大を有する吸収帯を有する。
【0074】
好ましい実施形態では、グルコースの吸収は、グルコースの吸収帯またはその一部を含む2つの異なる波長あるいは波長範囲、例えば9.3μmの領域および9.6μmの領域で測定される。
【0075】
本発明による装置のさらなる構成要素は、検出ユニット(c)(i)および(c)(ii)から発せられた信号を温度補正して評価し、評価された信号に基づいて分析対象物の濃度を求めるユニット(f)である。有利には、テラヘルツ検出ユニット(c)(i)および赤外線検出ユニット(c)(ii)から生じる信号の複合的な評価が行われる。テラヘルツ範囲および赤外範囲からの信号を複合的に評価することで、複数の有利な効果を得ることができる。一方では、弱い信号を増幅することで、測定中の干渉を低減し、生じ得る測定誤差を特定して修正することができる。他方では、2つの測定範囲のいずれかにおいて分析対象物の吸収帯と重なる吸収帯を有する妨害物質による信号を特定して排除することができる。
【0076】
好ましい実施形態では、検出ユニット(c)は、テラヘルツ放射線および赤外線を順次検出するように設置されており、その際、特にまず、検査すべき身体部位への照射をせずに身体固有の赤外線を検出し、次いで、検査すべき身体部位にテラヘルツ放射線を照射し、反射されたテラヘルツ放射線を検出する。
【0077】
テラヘルツ信号の評価は、分析対象物の広帯域スペクトルが、分析対象物の少なくとも1つの吸収帯、有利には少なくとも2または3つの吸収帯が存在するテラヘルツ領域の所定の波長範囲にわたって記録されることに基づく。この吸収帯の強度は、被験者の血液中の当該分析対象物の濃度に依存する。波長範囲の幅は、好ましくは少なくとも0.05mm程度、または少なくとも0.1mm程度で、最大で0.2mm以上である。
【0078】
赤外線信号の評価は、分析対象物、例えばグルコースの吸収極小の波長または波長範囲における身体固有の赤外線が、被験者の血液中に存在する分析対象物の濃度に依存しないことに基づく。一方で、分析対象物の吸収帯の波長または波長範囲を有する身体固有の赤外線は、被験者の血液中の当該分析対象物の濃度に依存する。
【0079】
信号の評価が、温度補正下に、特に素子(d)(i)、(d)(ii)、(e)(i)および/または(e)(ii)により測定され、必要に応じて調整された、検査すべき身体部位および放射線検出ユニット(c)のセンサの温度値を考慮して行われた場合には、第1および第2の赤外線センサから生じる差分信号に基づいて、テラヘルツセンサの信号と組み合わせて、分析対象物の濃度の十分に正確な測定を行うことが可能である。さらに、血管、例えば真皮および/または皮下の血管、好ましくは真皮の毛細血管から生じる赤外線の選択的評価をなおも行うことができる。
【0080】
さらに、本発明による装置のさらなる構成要素として、環境からの熱絶縁作用を示すケーシングあるいはハウジングがある。この目的に適した材料は、熱をまったくあるいはわずかにしか伝導しないプラスチックである。この場合、ケーシングあるいはハウジングは、例えば電気および/または熱をまったくあるいはわずかにしか伝導しない材料で作製された伸縮性のカバーまたは膜を設けることによって、収容ユニット(a)に導入された検査すべき身体部位および/または検出ユニット(c)が少なくとも実質的に環境から電気的および/または熱的に絶縁されるように設計されていてよい。
【0081】
また、測定装置の内面は、テラヘルツ放射線および/もしくは赤外線を反射せず、かつ/またはテラヘルツ放射線および/もしくは赤外線を吸収する材料で完全にまたは部分的に被覆されているか、またはそうした材料を備えていてよい。
【0082】
本発明のさらなる態様は、被験者の血液中の分析対象物を非侵襲的に定量測定する方法であって、
(i)被験者に由来する身体部位に、テラヘルツ放射線、特に、約0.1mm~約5mm、約0.12mm~約5mm、または約0.1mm~約1mmの波長領域のテラヘルツ放射線を照射し、反射されたテラヘルツ放射線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する波長範囲の、照射された身体部位から生じるテラヘルツ放射線を検出するユニットにより、反射されたテラヘルツ放射線を検出するステップと、
(ii)身体固有の赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存しない約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも1つの第1の波長または第1の波長範囲と、身体固有の赤外線の強度が、測定すべき分析対象物の濃度に応じて変化する約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に約8μm~約12μmの波長領域における少なくとも1つの第2の波長または第2の波長範囲とにおいて赤外線を検出するユニットにより、被験者に由来する身体部位から生じる身体固有の赤外線を別個に検出し、任意に、参照用に照射された身体表面範囲から身体固有の赤外線を非特異的に検出するステップであって、赤外線検出ユニットの範囲の温度は、検査すべき身体部位の温度よりも低いものとする、ステップと、
(iii)検査すべき身体部位の温度と、テラヘルツ放射線ユニットおよび赤外線検出ユニットの範囲の温度とを考慮して、(i)および(ii)に従って検出された信号を複合的に評価するステップであって、必要に応じて、身体部位の真皮の毛細血管から生じる身体固有の赤外線の選択的評価を行う、ステップと、
(iv)評価された信号に基づいて、分析対象物の濃度を求めるステップと
を含む、方法である。
【0083】
この方法は、好ましくは、被験者の指先から身体固有の赤外線を検出することにより、外部赤外線源を用いずに、例えば、先に述べた装置を用いて行われる。装置の文脈で具体的に開示された特徴が、本方法にも同様に該当する。
【0084】
本装置および方法は、特に血液中のグルコース以外の分析対象物の測定に適している。
【0085】
以下、改めて本発明を詳細に説明する。人間の皮膚は、外側から内側に向かって、角質層、角化層および胚芽層を有する表皮、乳頭層および網状層を有する真皮、ならびに皮下という複数の層で構成されている。表皮には血管が存在しない。真皮には細かい毛細血管があり、皮下で太い血管とつながっている。真皮のうち毛細血管が通っている範囲には動脈拍動が存在するが、その上にある例えば表皮などの皮膚層には動脈拍動は存在しない。
【0086】
皮膚表面にテラヘルツ放射線を照射した後、照射された身体部位からテラヘルツ放射線が反射されるが、その少なくとも一部は、真皮のうち毛細血管が通っている範囲から生じる。皮膚表面から放射される、約0.7μm~約20μm、約1μm~約20μm、約5μm~約15μm、特に8~12μmの波長領域の赤外線も、少なくとも一部は、真皮のうち毛細血管が通っている範囲から生じる。この範囲に存在するテラヘルツ領域および赤外領域の吸収帯を有する物質は、この吸収帯の範囲の放射線を吸収することができ、その際、吸収の程度は、当該物質の濃度と相関関係にある。反射されたテラヘルツ放射線および身体固有の赤外線は、検査される身体部位の異なる領域から生じ、その際、表皮から生じる放射線は、被験者の動脈拍動に依存しない。それに対して、真皮のうち毛細血管が通っている範囲から生じる放射線は、被験者の動脈拍動に依存した信号を有する。
【0087】
検査すべき身体部位から放射される放射線は、検査される身体部位の温度、特に中心温度に依存する。したがって、センサで測定される放射線の信号も同様に、検査される身体部位の温度に依存するが、センサ自体の温度にも依存し、したがって、検査される身体部位の温度、特に中心温度と、放射線の検出に使用されるセンサの温度との差にも依存する。
【0088】
したがって、本発明によれば、測定信号が温度補正して評価され、その際、検査される身体部位の温度、テラヘルツ放射線および赤外線の検出に使用されるセンサの温度、ならびに2つの温度の差が考慮される。測定は、検査される身体部位の温度が、身体固有のテラヘルツ放射線および赤外線の検出に使用されるセンサの温度の温度より、例えば少なくとも1℃、好ましくは少なくとも6℃高い条件下で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】テラヘルツ範囲および赤外範囲からの測定信号を複合的に評価することで、特定の分析対象物への測定信号の割り当てを改善し、測定の精度を向上させることができる利点を概略的に示す図。
図2】本発明による装置の一実施形態を示す概略図。
図3】本発明による装置のさらなる実施形態を示す図。
図4】本発明による赤外線検出ユニットの一実施形態の詳細図。
図5】異なる波長の身体固有の赤外線を別個に検出するための代替的な実施形態を示す図。
図6】本発明による装置の赤外線検出ユニットのさらなる実施形態の断面の概略図。
図7】赤外線検出ユニットにおけるセンサの特に好ましい配置を示す図。
図8】集束レンズを備えたテラヘルツ送受信素子の特に好ましい実施形態を示す図。
図9】テラヘルツ測定信号の評価の特に好ましい実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0090】
図1は、テラヘルツ範囲および赤外範囲からの測定信号を複合的に評価することで、特定の分析対象物への測定信号の割り当てを改善し、測定の精度を向上させることができる利点を概略的に示したものである。
【0091】
図1aに、アルコール(赤)、グルコース(緑)、フルクトース(青)、および未知物質(黄)の赤外波長範囲(約8μm~約10μm)の吸収スペクトルを示す。波長8.5μm(参照波長)および9.6μm(分析対象物固有の波長)の赤外線センサ(例えば、サーモパイル)を使用した場合、グルコースと未知物質とを確実に識別することが可能である。これに対して、グルコースとフルクトースとの識別は問題となる。図1bに、グルコース(黒)、フルクトース(赤、点線)、および未知物質(黄)の400μm~100μmのテラヘルツ波長範囲(0.5~4.0THzに相当)における吸収スペクトルを示す。テラヘルツ範囲では、グルコースとフルクトースとの確実な識別が可能であるが、これに対して、グルコースおよび未知物質の吸収スペクトルが重なっている。赤外範囲およびテラヘルツ範囲の吸収スペクトルを組み合わせることで、個々の物質の識別性を向上させることができ、測定精度が高まる。
【0092】
図2は、本発明による装置の一実施形態を示す概略図である。装置は、テラヘルツ放射線源(100)、例えば波長800nmのフェムト秒レーザを備え、その放射線は、まず半透過ビームスプリッタ(102)を通過し、そこで部分ビーム(104a)および(104b)に分割される。部分ビーム(104a)は、ミキサ(106)、例えばヒ化ガリウム結晶でテラヘルツ放射線(108)に変換され、これが、光学装置(110)、例えばプリズムを通って、例えば指先などの検査すべき身体部位(112)へ導かれる。身体部位から反射された放射線は、光学素子(110)、さらなるミキサ(114)、例えばヒ化ガリウム結晶、および場合によってはさらなる半透過ビームスプリッタ(116)を経て、テラヘルツ範囲のスペクトルを検出するために設置された例えばフォトダイオードのようなテラヘルツセンサ(118)へと導かれる。ビームスプリッタ(102)から生じる部分ビーム(104b)は、参照のために、必要に応じて遅延素子(120)を経てミキサ(114)に導かれ、そこからフォトダイオード(118)に導くことができる。さらに、装置は、検査すべき身体部位(112)から生じる身体固有の赤外線を検出するために設置された1つ以上の赤外線センサを有する赤外線検出ユニット(120)を備える。赤外線センサ(120)から生じる測定信号は、評価ユニット(124)、例えばCPUに送られる。このユニット(124)において、テラヘルツセンサ(118)から生じる測定信号と組み合わせて評価が行われ、この評価は、必要であればユニット(128)で高速フーリエ変換された後に行われる。評価ユニット(124)において、テラヘルツ測定信号と赤外線測定信号との組み合わせから、分析対象物、例えばグルコースの濃度の値(126)が求められ、これを次いで、例えばディスプレイ(図示せず)によって適切に表示することができる。
【0093】
さらに、装置は、少なくとも赤外線検出ユニット(120)および場合によっては光学装置(110)および/またはテラヘルツセンサ(118)などのさらなる素子を収容するために設けられた、例えば銅などの金属支持体などの支持体素子(130)を備える。赤外線信号および場合によってはテラヘルツ信号の温度補正測定を可能にするために、支持体素子(130)の温度を適切な手段で安定化させることができる。
【0094】
図3は、本発明による装置のさらなる実施形態を示す。装置は、テラヘルツ送受信チップ(200)を備え、これは、テラヘルツ放射線(202)を検査すべき身体部位(204)、例えば指先に放射し、そこから反射されたテラヘルツ放射線(206)を検出するために設置されている。チップ(200)から生じる測定信号は、高速フーリエ変換ユニット(210)を経由して評価ユニット(212)、例えばCPUに送られる。さらに装置は、検査すべき身体部位(204)から生じる身体固有の赤外線(216)を検出するための少なくとも1つの赤外線センサ(214)を備える。少なくとも1つの赤外線センサ(214)によって検出された測定信号は、評価ユニット(212)に送られ、そこでテラヘルツ測定信号と組み合わせて評価される。
【0095】
図4に、本発明による赤外線検出ユニットの一実施形態の詳細図を示す。被験者の検査すべき身体部位(14)が装置に導入される。
【0096】
ここで、好ましくは、例えば指先のような血行の良い身体部位が選択される。身体部位(14)は、支持素子(16)上にあり、この支持素子(16)は、熱的に絶縁されており、身体部位(14)から発せられる赤外線(20)に対して少なくとも部分的に、すなわち少なくとも測定波長の範囲において光学的に透過性である範囲(16a)を備える。支持素子(16)は、例えば指先のような検査すべき身体部位(14)の温度を測定する手段(16b)、例えば温度センサを備える。さらに、照射すべき身体部位の支持位置および/または支持圧力を検出および/または制御する手段、例えばセンサが存在してもよい(図示せず)。さらに、支持素子は、温度調整素子(図示せず)を備えることができる。
【0097】
検査すべき身体部位(14)から生じる赤外線(20)は、少なくとも部分的には、身体表面から約2.5~3mmの距離にある真皮(18)の範囲における表面付近の毛細血管から生じるものである。毛細血管、または場合によっては隣接する組織に存在する分析対象物は、その特定の吸収帯の範囲の放射線を吸収し、その際、吸収の程度は、分析対象物の濃度と相関関係にある。
【0098】
装置は、0.7~20μm、好ましくは8~12μmの領域の異なる波長あるいは波長範囲の身体固有の赤外線(20)を別個に検出するための第1のセンサ(22a)および第2のセンサ(22b)をさらに備える。第1および第2のセンサは、ボロメータまたはサーモパイルとして設計されていてよい。適切な場合には、第1および第2のセンサは、例えば8×8個の個々のセンサ素子のアレイからなることも可能である。
【0099】
第1のセンサ(22a)は、分析対象物の吸収極小の第1の波長または第1の波長範囲を有する身体固有の放射線を選択的に検出するために設置されており、その際、第1の波長または第1の波長範囲を有する放射線を選択的に透過する第1のフィルタ素子(24a)が設けられている。すなわち、第1のセンサによって測定される信号は、測定すべき分析対象物の濃度とは実質的に無関係である。第2のセンサ(22b)も、好ましくは測定すべき分析対象物の吸収極大の範囲の吸収帯の第2の波長または第2の波長範囲を有する身体固有の放射線(20)を選択的に検出するために設置されており、その際、第2の波長または第2の波長範囲を有する放射線を選択的に透過する第2のフィルタ素子(24b)が設けられている。つまり、第2のセンサで検出される信号は、分析対象物の濃度に依存する。必要に応じて、異なる波長または波長範囲を有する放射線を検出できる第2のセンサが2つ以上存在してもよい。グルコースの測定には、例えば、9.1μmおよび9.6μmの範囲の赤外線をそれぞれ別個に検出する2つの第2のセンサを使用することができる。
【0100】
フィルタ素子(24a,24b)は、有利には、それぞれのセンサ(22a,22b)上に直接載置されるように配置されている。
【0101】
必要に応じて、本発明による装置は、第3のセンサ(22c)をさらに備える。この第3のセンサ(22c)は、身体固有の赤外線(20)を非特異的に検出するために設置されており、参照のために、例えば、検査すべき身体部位(14)の体温を参照するために使用される。
【0102】
生じる身体固有の赤外線の集束を可能にするために、センサ(22a,22b,および必要に応じて22c)は、光学レンズ素子、例えば両凸レンズ、特に球面レンズを任意に備えていてよい。
【0103】
センサ(22a,22b,および必要に応じて22c)は、熱平衡状態にあり、その際、センサは、伝導性材料製、例えば金属製のブロック(32)と接触するか、あるいは例えばブロックの凹部に配置されることによってその中に埋め込まれている。あるいは熱伝導性材料は、プレートまたは箔として形成されていてもよい。
【0104】
さらに、センサ(22a,22b,および必要に応じて22c)を含むブロック(24)の温度を測定する手段(26)、例えば温度センサと、センサ(22a,22b,および必要に応じて22c)を含むブロック(24)の温度を調整する手段(28)、例えば冷却および/または加熱素子が存在する。
【0105】
センサ(22a,22b,および必要に応じて22c)から生じる信号と、素子(16b)および(26)によって測定された温度とは、CPUユニット(30)に送られ、その際、必要に応じてセンサ(22a,22b,および22c)の温度は、検査すべき身体部位の温度よりも低い値に調整され、信号の温度補正評価が行われる。この評価に基づいて、分析対象物の濃度が求められる。次いで、結果をディスプレイ(32)に表示することができる。
【0106】
測定システムの内面(34)は、身体部位(14)から生じる赤外線(20)を反射せず、かつ/または身体部位(14)から生じる赤外線(20)を吸収する材料で作製された表面で完全にまたは部分的に被覆されているか、またはそうした表面を備えていてよい。
【0107】
測定システムは、環境から電気的および/または熱的に絶縁するケーシングまたはハウジングをさらに有することができる。
【0108】
異なる波長の身体固有の赤外線を別個に検出するための代替的な実施形態を図5に示す。8~14μmの領域におけるグルコースの吸収曲線を、太線(G)で示す。この領域からの2つの異なる波長を有する赤外線を別個に検出するために、バンドパス、ハイパスおよび/またはローパスのフィルタ素子の異なる組み合わせを含む2つのセンサが使用される。一実施形態では、両センサは、8~14μmの領域で透過性を示すワイドバンドパスフィルタ(C)を備える。第1のセンサでは、フィルタ(C)に、波長約8.5μm以下の赤外線を透過するハイパスフィルタ(A)が組み合わされている。したがって、フィルタ(A)および(C)を備えたセンサは、グルコース濃度に実質的に依存しない8~8.5μm領域からの信号を検出する。第2のセンサは、バンドパスフィルタ(C)と、波長8.5μm以上の赤外線を透過するローパスフィルタ(B)との組み合わせを備える。このセンサで検出される信号は、約9~10μmの領域に局在するグルコースの吸収帯を含み、したがってグルコース濃度に依存する。両センサが検出した信号を差分評価することで、グルコース濃度を求めることができる。
【0109】
別の実施形態では、第1のセンサには、バンドパスフィルタ(C)およびハイパスフィルタ(A)も備えられていてよく、一方で第2のセンサには、バンドパスフィルタ(C)のみが備えられている。第1のセンサが検出する信号は、グルコース濃度に依存せず、一方で、第2のセンサが検出する信号は、グルコース濃度とともに変化する。
【0110】
図6は、本発明による装置の赤外線検出ユニットのさらなる実施形態の断面の概略図を示す。ここで、被験者の検査すべき身体部位(図示せず)は、赤外線を少なくとも部分的に光学的に透過する範囲(66a)を含む熱絶縁性支持素子(66)上に配置されている。例えば、光学的透過性範囲(66a)は、SiまたはGeのプレートである。支持素子(66)は、温度センサ(66b)を備え、任意に、好ましくはペルチェ素子を備えた温度調整素子(図示せず)を備える。その場合、例えば、身体部位の温度を、約28~38℃の範囲に調整することができる。好ましくは、支持素子(66)は、支持圧力を検出および/または制御する手段、例えばロードセルのようなセンサ(68)を備え、任意に、例えばカメラおよび/またはパルスセンサのような支持位置を検出および/または制御するセンサを備える。有利には、支持圧力は、約1~50N、例えば約20Nに調整される。
【0111】
装置は、検査される身体部位から生じる0.7~20μm、好ましくは3~20μmの領域の異なる波長を有する身体固有の赤外線(72)を検出するための、第1の赤外線センサ(70a)と第2の赤外線センサ(70b)とをさらに備える。第1および第2のセンサは、それぞれボロメータまたはサーモパイルとして設計されていてよい。適切な場合には、第1および第2のセンサは、個々のセンサ素子のアレイからなっていてもよい。
【0112】
第1のセンサ(70a)は、例えば、分析対象物の吸収極小の第1の波長を有する身体固有の赤外線を選択的に検出するために設置されていてよく、その際、第1のフィルタ素子(74a)、例えば狭い透過性を有するバンドパスフィルタが設けられており、これは、信号が、測定すべき分析対象物の濃度に実質的に依存しない第1の波長を有する放射線を選択的に透過する。グルコースの測定の場合、第1の波長は、例えば、8.1±0.3μmおよび/または8.5±0.3μm、好ましくは8.1±0.2μmおよび/または8.5±0.2μm、特に好ましくは8.1±0.2μmおよび/または8.5±0.1μmにある。第2のセンサ(74b)も、好ましくは測定すべき分析対象物の吸収極大の範囲の吸収帯の第2の波長を有する身体固有の赤外線(72)を選択的に検出するために設置されており、その際、第2のフィルタ素子(74b)、例えば狭い透過性を有するバンドパスフィルタが設けられており、これは、第2の波長を有する放射線を選択的に透過する。グルコースの測定の場合、第2の波長は、例えば、9.1±0.3μm、9.3±0.3μmおよび/または9.6±0.3μm、好ましくは9.1±0.2μm、9.3±0.2μmおよび/または9.6±0.2μm、特に好ましくは9.1±0.1μm、9.3±0.1μmおよび/または9.6±0.1μmの範囲にある。必要に応じて、異なる波長または波長範囲を有する放射線を検出できる第2のセンサが2つ以上存在してもよい。グルコースの測定には、例えば9.1μmまたは9.3μmおよび9.6μmの範囲の赤外線をそれぞれ別個に検出する2つの第2のセンサを使用することができる。
【0113】
フィルタ素子(74a,74b)は、有利には、センサ(70a,70b)に直接接触している。
【0114】
また、狭い透過性を有するバンドパスフィルタに代えて、図5に示す、広い透過性を有するバンドパスフィルタとハイパスフィルタおよび/またはローパスフィルタとの組み合わせを使用することも可能である。
【0115】
検査すべき身体部分とセンサ(70a,70b,および必要に応じて70c)との間の身体固有の赤外線(72)の放射経路に、光学集束素子、例えばレンズ素子が配置されていてよい。例えば、生じる身体固有の赤外線の集束を可能にするために、センサ(70a,70b)は、必要に応じて、光学レンズ素子、例えば両凸レンズ、特に球面レンズを備えていてよい。
【0116】
必要に応じて、本発明による装置は、第3のセンサ(70c)をさらに備える。この第3のセンサ(70c)は、身体固有の赤外線(72)を非特異的に検出するために設置されており、参照のために、例えば検査すべき身体部位の体温を参照するために使用される。第3のセンサ(70c)は、ボロメータまたはサーモパイルとして設計されていてよい。
【0117】
第1のセンサ(70a)と第2のセンサ(70b)との間には、必要に応じて中間壁(78)が配置されていてよい。
【0118】
センサ(70a,70b,および必要に応じて70c)は、熱伝導性材料、例えば、金属製のブロック(76)、プレートまたは箔と接触することによって、熱平衡状態にある。
【0119】
さらに、センサ(70a,70b,および70c)を含むブロック(76)の温度を測定する素子(80)、例えば温度センサが存在する。さらに、センサ(70a,70b,および70c)を含むブロック(76)の温度を調整する素子(82)、例えば冷却および/または加熱素子が設けられている。
【0120】
センサ(70a,70b,および必要に応じて70c)から生じる信号、ならびに素子(66b)および(80)によって測定された温度は、信号の温度補正評価のためにCPUユニット(84)に送られる。この評価に基づいて、分析対象物の濃度が求められ、次いで結果をディスプレイ(86)に表示することができる。さらに、CPUユニットは、素子(68,82)の制御にも使用可能である。
【0121】
適切な場合には、測定システムの内面は、赤外線を反射せず、かつ/または赤外線を吸収する材料で被覆されていてよい。さらに、測定システムは、環境からの熱絶縁作用を示すことができる。
【0122】
赤外線検出ユニットにおけるセンサの特に好ましい配置を図7に示す。ここでは、4つの赤外線センサ(90a,90b,90c,90d)が存在し、これらは金属ブロック(図示せず)の凹部に一緒に配置され、したがって、熱平衡状態にある。好ましくは、各センサは、複数の、例えば、8×8の個々のセンサ素子のアレイからなる。センサ(90a,90b)は、測定すべき分析対象物の吸収帯の波長を有する赤外線を選択的に検出するために設けられており、したがって、対応するフィルタ素子を備えている。グルコースの測定のために、約9.6μm、例えば9.6±0.1μmの波長を有する赤外線を選択的に検出するセンサ(90a)と、約9.1μm、例えば9.1±0.1μmまたは約9.3μm、例えば9.3±0.1μmの波長を有する赤外線を選択的に検出するセンサ(90b)とが設けられていてよい。センサ(90c)は、測定すべき分析対象物の吸収極小の波長を有する赤外線を選択的に検出するために設けられており、したがって、対応するフィルタ素子を備えている。グルコースの測定のために、約8.5μm、例えば8.5±0.1μmの波長を有する赤外線を選択的に検出するセンサ(90c)が設けられていてよい。センサ(90d)にはフィルタ素子がなく、参照用に使用される。
【0123】
集束レンズを備えたテラヘルツ送受信素子の特に好ましい実施形態を図8に示す。テラヘルツ送受信素子(100)は、テラヘルツ放射線源(102)、例えばアンテナ、およびテラヘルツ検出ユニット(104)を備える。
【0124】
放射線源(102)から放射されたテラヘルツ放射線(106)は、集束レンズ(108)、例えば球面レンズを通じて導かれる。レンズは、テラヘルツ放射線を透過する材料、例えばポリプロピレンからなる。
【0125】
放射線(106)は、レンズ(108)によって、検査すべき身体部位(110)、例えば指の所定のゾーン(112)(毛細血管の範囲または飽和組織)に集束される。好ましくは、集束は、所定の浸透深さ、例えば3~4mmの浸透深さまで行われる。集束ゾーン(112)から反射された放射線(114)も、レンズ(108)を通じて導かれ、テラヘルツ検出ユニット(104)への集束が行われる。
【0126】
図9に、テラヘルツ測定信号の評価の特に好ましい実施形態を示す。テラヘルツ信号は、その周波数において、測定すべき分析対象物としてのグルコースの吸収帯を含む範囲(f0...f1)で変調される。変調は、電圧制御発振器(VCO)による電圧変化などにより連続的に行われてもよいし、不連続的に行われてもよい。
【0127】
周波数が変調されたテラヘルツ信号は、例えばパッチアンテナ(PA)などのアンテナに到達し、そこで例えば指などの検査すべき身体部位(K)に向けて放射される。これは、レンズ(例えば図8参照)や導波管を通じて行うことができる。そこでテラヘルツ放射線が反射され、例えばパッチアンテナやダイポールなどのセンサ(S)に到達し、そこから例えばLNAなどの前置増幅器に到達する。
【0128】
その後、信号はミキサ(X)に送られ、受信信号と送信信号が乗算される。受信信号は、身体部位までの経路および往復の経路に基づき、送信信号とは異なる経路長を有する。周波数変調に加え、受信信号と送信信号とでは経路長および所要時間が異なるため、ミキサでは、所要時間の差に比例した周波数差(例えば、経路長差約50mm、所要時間差166psecに相当)が生じる。この結果、混合信号(sin(fa)*(fb)=sin(fa+fb)およびsin(fa-fb))が生じ、その差が有効な信号となり、これが増幅器(AMP)によってさらに増幅される。信号の1つ以上の位相がA/Dコンバータに送られ、CPUで評価される。
【0129】
評価には、不要な干渉信号を排除するために、連続的に実行される高速フーリエ変換(FFT)が含まれることが望ましい。このように、周波数が高くなるにつれて(f0...f1)、THz送信機で制御される入力電圧によってそれぞれ異なるスペクトルが生成される。毛細管層までの往復の放射経路に対応する信号を、その特徴的な所要時間差により特定し、測定することができる。このようにして、毛細血管中のグルコースの反射・吸収スペクトルに対応する特性曲線が得られる。グルコースの吸収極大および吸収極小を比較測定することで、毛細血管中のグルコース含有量が得られる。
【0130】
周波数変調に代えて、テラヘルツ信号をパルス変調信号として検査すべき身体部位に照射することも可能であり、その際、信号パルス、特にそれぞれ異なる周波数を有する個別の信号パルスが所定の時間間隔で照射される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】