(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】放電加工用電極線
(51)【国際特許分類】
B23H 7/08 20060101AFI20221122BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20221122BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20221122BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
B23H7/08
C25D7/06 U
C25D5/50
C25D5/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022517468
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 KR2020013251
(87)【国際公開番号】W WO2021066471
(87)【国際公開日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】10-2019-0120972
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522106592
【氏名又は名称】イーディーエム ツデー ベータ アールアンドディー センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【氏名又は名称】芦北 智晴
(74)【代理人】
【識別番号】100207022
【氏名又は名称】小島 弘之
(72)【発明者】
【氏名】パク チョルミン
【テーマコード(参考)】
3C059
4K024
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059DA06
3C059DB03
4K024AA01
4K024AA05
4K024AA07
4K024AA14
4K024BA09
4K024BB28
4K024BC03
4K024DB01
4K024GA16
(57)【要約】
本発明は、放電加工用電極線に関するもので、第1の金属からなる芯線と、前記芯線の外面にめっきされる第2の金属と前記芯線との相互拡散により前記芯線の外周に形成される合金層を含み、前記合金層は、α相+β’相からなる部分と、β’相のグレインを含み、前記合金層の表面にはクラックが形成されることを特徴とし、前記合金層の表面にはクラックが形成されることを特徴とし、前記のような構成により、被加工物の加工速度及び面粗度を向上させ、電極線の微細の屑の発生を最少化し、表面が均一な放電加工用電極線を提供できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属からなる芯線と、
前記芯線の外面にめっきされる第2の金属と前記の芯線との相互拡散により、前記芯線の外周に形成される合金層を含み、
前記合金層は、
α相+β’相からなる部分と、
前記α相+β’相からなる部分の外周に形成されるβ’相のグレインを含み、
前記合金層の表面にはクラックが形成されることを特徴としている、放電加工用電極線。
【請求項2】
前記α相+β’相からなる部分の外周には、少なくとも一部分に陥没した部分が形成され、
前記β’相のグレインは、前記α相+β’相からなる部分の外周に形成された陥没した部分に埋め込まれて形成されることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項3】
前記β’相のグレインは、前記α相+β’相からなる部分の外郭に楔の形態で埋め込まれて形成されることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項4】
前記β’相のグレインは、前記α相+β相からなる部分の外郭に不連続的に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項5】
前記合金層は、さらにβ’相+γ相のグレインが含まれることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項6】
前記合金層は、さらに表面にピンホールが形成されることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項7】
前記ピンホールの表面層は、γ相+ε相とε相の少なくとも一方からなることを特徴とする、請求項6に記載の放電加工用電極線。
【請求項8】
前記合金層は、表面から芯線側に前記クラックより深く掘られた洞窟の形の微細空間がさらに形成されることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の放電加工用電極線。
【請求項9】
前記の洞窟の形の微細空間を持つ部分の表面層は、γ相+ε相とε相の少なくとも一方からなることを特徴とする、請求項8に記載の放電加工用電極線。
【請求項10】
前記β’相のグレインには、クラックが形成されることを特徴とする、請求項1乃至請求項7に記載の放電加工用電極線。
【請求項11】
前記芯線の少なくとも一部分は、前記合金層を突き破って電極線の表面に露出されることを特徴とする、請求項1乃至請求項7に記載の放電加工用電極線。
【請求項12】
前記合金層の表面には、酸化層、伝導性高分子、半導体性高分子、及び絶縁性高分子の少なくとも1つが塗布されていることを特徴とする、請求項1に記載の放電加工用電極線。
【請求項13】
前記第1の金属は、銅、真鍮、及び銅を含む金属のいずれか1つであり,前記第2の金属は,亜鉛、アルミニウム、錫、及びその合金のいずれか1つであることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の放電加工用電極線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工用電極線に関するもので、詳しくは電極線の表面にクラックを持つβ’相(phase)のグレイン(grain)を形成し、電極線の微細屑の発生を最少化することにより、放電効率および加工速度を向上させることができ、加工精度と面粗度を向上させることができる放電加工用電極線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤー放電加工は、被加工物とワイヤー放電加工用電極線の間に水などの加工液を媒体として放電を行い、電極線と被加工物を相対的に移動させて、被加工物を望む形状に切断加工することであり、従来から実施されている方法である。
【0003】
この放電加工法において、電極線としては、純銅電極線をはじめとして、モリブデン、タングステンなどが含まれた高強度電極線と、真鍮電極線などの様々な種類の電極線が使用されている。
【0004】
このような電極線として、米国特許第4,686,153号には、直径0.49mmの銅覆鋼線に亜鉛層をコーティングし、その後、亜鉛コーティングされた銅覆鋼線を直径が0.2mmになるように、伸線加工して、非酸化性窒素ガス雰囲気で、1時間、約300℃に加熱し、銅を亜鉛層に拡散させ、亜鉛層を銅亜鉛合金層に転換させる先行技術が知られている。前記の銅亜鉛合金は、約45%の亜鉛濃度を持ち、表面に対して漸進的に減少する濃度を持つ。銅亜鉛合金層の亜鉛の平均濃度は、50%以下で10%以上である。β相の銅亜鉛合金は、40~50%の亜鉛濃度を持ち、表面層は外部表面にβ相の銅亜鉛合金層を含む。しかし、前記の技術は、切断工程で得られた表面の精度を悪化させることなく加工速度を改善することが求められる。
【0005】
本発明の発明者は、韓国登録特許第10-518727号公報の放電加工用の多孔性電極線と、韓国特許登録第10-518731号公報の放電加工用の多孔性電極線の製造方法を提案した。
【0006】
前記の技術は、銅を含む芯線金属と亜鉛めっき層が相互拡散反応により、芯線金属の外周にγ相のグレインの破片で構成される合金めっき層を形成し、電極線の表面にはクラックを形成することにより、電極線の冷却効果をさらに向上させて、加工速度が米国特許第4,686,153号で提案された電極線より画期的に改善されるようになった。
【0007】
ところで、前記の技術について、黄銅の芯線の上に形成されるγ相の合金めっき層について研究した結果、本発明の発明者は、Cu-Znの二元系合金中でZnを50重量%以上含む“HYPER Zn”に対するブリネル硬度(brinell hardness)を銅(Cu)-亜鉛(Zn)の二元系合金相(phase)の変化による状態図と硬度の比較グラフを
図2のように、韓国材料研究所の助言によって確認することができた。
【0008】
前記の
図2によると、γ相の合金めっき層は、
図2に図示したように、ブリネル硬度(brinell hardness)が350HB以上であり、非常に高く、脆性が非常に高いという事実を知るようになり、前記のような性質を持つγ相の合金めっき層は、引抜過程で引抜圧力に耐え切れなく、簡単に割れ、クラックの破片が発生するようになり、また、多量の微細の屑がクラックの内外に付着されるようになって、前記のようなクラックの破片と多量の微細の屑が放電加工する時、クラックの破片と微細屑による2次放電により、加工速度の向上の阻害要因になった。
【0009】
それで、本発明者は、韓国登録特許第10-1284495号公報の放電加工用の多孔性電極線及びその製造方法を再び提案した。
【0010】
前記の技術は、韓国登録特許第10-518727号公報と韓国登録特許第10-518731号公報で提示する電極と比較し、放電加工用電極線の表面に、細線過程で芯線をなす材質が第2合金層に形成されるクラックを突き抜けてくるグレイン(主にα相及びβ相になる)を形成するようにすることにより、クラックをもつ第2合金層(主にγ相からなる)を相対的に軟質であるグレインが取り囲んで、第2合金層が放電過程で、割れたり壊れたりして発生する微細屑を減らすことができ、放電加工速度と被加工物の面粗度をより改善する効果を得た。
【0011】
しかし、前記の技術は、被加工物の加工速度と被加工物の面粗度は、ある程度改善することができるが、クラック部(主に第2合金層)が割れて発生する電極線の微細屑を最少化することには限界がある。
【0012】
また、米国特許第5,945,010号の放電加工用電極線及びその製造方法では、前記の特許と同様に、ワイヤー電極線にクラックの概念を導入した特許で、ワイヤー電極線を製造するために、芯線の上に芯線より気化温度が低い亜鉛を電気メッキで先にコーティングし、電気メッキでコーティングされた亜鉛めっき層が芯線との間に十分な拡散反応が発生するようにするために、亜鉛めっき層がγ相(phase)の合金層になるまで150℃~400℃の範囲で1~4時間の拡散熱処理工程を経て、こうした拡散熱処理の結果によって、
図3に図示したようにγ相の複数のグレイン片(9)が表面に形成された電極線を製造している。未説明符号tfは、γ相真鍮合金コーティングの最大厚さである。
【0013】
しかし、前記の技術も電極線の表面に亜鉛と銅の合金であるγ相の複数のグレイン片(9)で構成された合金めっき層を持つ電極線を形成することにより、加工速度が改善される長所はあるが、真鍮の芯線(8)の上にクラックが形成される合金めっき層は、
図1および
図2に図示したように主にγ相からなるので、引抜過程で引抜圧力に耐え切れなく、簡単に割れ、クラックの破片と微細屑が多く発生し、加工速度と面粗度を向上させるには限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記のような問題点を解決するためのもので、電極線の微細屑の発生を最少化し、放電効率および加工速度を向上させることができながらも、加工精度と面粗度を向上させる放電加工用電極線を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の他の目的は、電極線の最外郭層に主にβ’相のグレインとクラック及びピンホールを形成し、電極線の表面から芯線方向にクラックより深い洞窟の形のε相とγ相+ε相で構成された微細空間を形成し、高圧で提供される冷却水が芯線まで染み込むことができるようにすることで、冷却効果が極大化し、微細屑が発生しない、放電加工用電極線を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、電極線の表面にγ相のグレインが形成される従来の電極線より電極線の表面にβ’相のグレインとクラックを形成し、γ相のクラックよりさらに均一な放電加工用電極線を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、電極線の表面に伝導性高分子を塗布し、電極線表面の電気伝導度を高め、さらに加工速度を向上させることができる放電加工用電極線を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、電極線の表面に半導体または絶縁体の高分子を塗布したり、半導体性または絶縁性を持つ酸化層を形成したりして、不規則な放電電流を均等に提供し、加工物の表面にMicro Crackなどの発生を減少させて、面粗度と精度を向上させる放電加工用電極線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記の目的達成のために、本発明の放電加工用電極線は、第1の金属からなる芯線と、前記芯線の外面にめっきされる第2の金属と前記の芯線との相互拡散により、前記芯線の外周に形成される合金層を含み、前記合金層は、α相+β’相からなる部分と、前記α相+β’相からなる部分の外周に形成されるβ’相のグレインを含み、前記合金層の表面にはクラックが形成されることを特徴としている。
【0020】
前記α相+β’相からなる部分の外周には、少なくとも一部分に陥没した部分が形成され、前記β’相のグレインは、前記α相+β’相からなる部分の外周に形成された陥没した部分に埋め込まれて形成されることが望ましい。
【0021】
前記β’相のグレインは、前記α相+β’相からなる部分の外郭に楔の形で、埋め込まれて形成されることが望ましい。
【0022】
前記β’相のグレインは、前記α相+β’相からなる部分の外郭に不連続的に形成されることが望ましい。
【0023】
前記合金層は、さらにβ’相+γ相のグレインを含むことが望ましい。
【0024】
前記合金層は、さらに表面にピンホールが形成されることが望ましい。
【0025】
前記ピンホールの表面層は、γ相+ε相とε相の少なくとも一方からなることが望ましい。
【0026】
前記合金層は、表面から芯線側に前記クラックよりも深く掘られた洞窟の形の微細空間がさらに形成されることが望ましい。
【0027】
前記の洞窟の形の微細空間を持つ部分の表面層は、γ相+ε相とε相の少なくとも一方からなることが望ましい。
【0028】
前記β’相のグレインには、クラックが形成されることが望ましい。
【0029】
前記芯線の少なくとも一部分は、前記合金層を突き破って電極線の表面に露出されることが望ましい。
【0030】
前記合金層の表面には、酸化層、伝導性高分子、半導体性高分子、及び絶縁性高分子の少なくとも1つが塗布されていることが望ましい。
【0031】
なお、前記第1の金属は、銅、真鍮、及び銅を含む金属のいずれか1つであり、前記第2の金属は、亜鉛、アルミニウム、錫、及びその合金のいずれか1つからなることが望ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、電極線の微細屑の発生を最少化し、放電効率及び加工速度を向上させると同時に、加工精度と面粗度を向上させる放電加工用電極線を提供できる。
【0033】
本発明は、電極線の最外郭層に、主にβ’相のグレイン、クラック、ピンホールを形成し、電極線の表面から芯線方向にクラックより深い洞窟の形のε相とγ相+ε相で構成された微細空間を形成し、高圧で提供される冷却水が芯線まで浸透するようにすることができるので、冷却効果が極大化され、微細屑が発生しない放電加工用電極線を提供できる。
【0034】
本発明は、電極線の表面にγ相のグレインが形成される従来の電極線より電極線の表面にβ’相のグレインとクラックを形成し、γ相クラックよりさらに均一な放電加工用電極線を提供できる。
【0035】
本発明は、電極線の表面に伝導性高分子を塗布し、電極線表面の電気伝導度を高めることによって、加工速度をより向上させることができる。
【0036】
本発明は、電極線の表面に半導体又は絶縁体の高分子を塗布したり、半導体性又は絶縁性の酸化層を形成したりして、不規則な放電電流を均一に提供し、加工物の表面にMicro Crack等の発生を減少させることによって、面粗度と精度を向上させる放電加工用電極線を提供する。
【0037】
本発明は、電極線の表面に伝導性高分子、半導体高分子、又は絶縁体高分子を塗布するので、微細屑の離脱を防止することができるので、微細屑による再放電等を防止する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】Cu-Znの二元系合金の中で、Znを50重量%以上含む“hyper Zn”に対するブリネル硬さ(brinell hardness)を、同(Cu)-亜鉛(Zn)の二元系合金相(phase)の変化に伴う状態図と硬さの比較グラフとして示す。
【
図3】γ相グレインと電極線の表面合金層にクラックを形成している従来の放電加工用電極線の断面を示した図面である。
【
図4】本発明の放電加工用電極線の断面を3000倍に拡大した写真である。
【
図5】本発明の放電加工用電極線の表面拡大写真である。
【
図6】本発明の放電加工用電極線の表面を1000倍に拡大した写真である。
【
図7】本発明の放電加工用電極線の断面を3000倍に拡大した写真である。
【
図8】本発明の放電加工用電極線の洞窟の形の微細空間の成分試験表である。
【
図9】本発明の放電加工用電極線のピンホールの成分試験表である。
【
図10】本発明の放電加工用電極線の中間線材表面の拡大写真である。
【
図11】伝導性高分子の電気伝導度の特性値である。
【
図12】伝導性高分子を塗布した鉄板表面の腐食防止効果の比較写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の望ましい実施例による放電加工用電極線について、添付図面を参照して詳しく説明する。
【0040】
本発明の望ましい実施例による放電加工用電極線は、
図4の断面拡大写真に図示したように、芯線と合金層を含む。
【0041】
芯線は、電極線の中心部分に位置する第1の金属からなる線材であって、線材の素材となる第1の金属は、様々な種類の金属が利用されることができ、その例としては、銅、真鍮、及び銅を含む金属のいずれか1つが利用されうるし、望ましくは、銅65重量%:亜鉛35重量%、銅63重量%:亜鉛37重量%、または銅60重量%:亜鉛40重量%からなる真鍮芯線などが利用できる。ここで、芯線は、その外周に後述する合金層で取り囲まれることになるが、製造工程によっては、芯線の少なくとも一部分が後述する合金層を突き破って電極線の表面に露出されて、電極線の表面に芯線の成分がそのまま検出されることもできる。
【0042】
合金層は、芯線の外面にめっきされる第2の金属と芯線との相互拡散によって、芯線の外周に形成される層であって、第2の金属は、芯線より気化温度が低い亜鉛、アルミニウム、錫、及びその合金のいずれか1つからなり、望ましくは亜鉛が利用できる。
【0043】
合金層は、
図1のCu-Znの二元系状態図で示されている、α相+β’相からなる部分と、α相+β’相からなる部分の外周に形成されるβ’相のグレインを含み、合金層の外郭、つまり電極線の表面になる部分には、
図4の断面拡大写真に図示したように、クラックが形成される。クラックは、電極線の外郭に形成される合金層の表面積を広げて、冷却水の接触面積が増加されるようにするので、冷却効果を極大化し、加工速度を向上させるのに寄与する。
【0044】
α相+β’相からなる部分は、
図1に図示されたCu-Znの二元系状態図でα+β’で示されている部分の組成を持つ部分で、芯線の外郭に芯線を取り囲むように形成され、α相+β’相からなる部分の外郭には後述するβ’相のグレインが位置することになる。ここで、α相+β’相からなる部分は、部分的に後述するβ’相のグレインを突き破って表面層にまで出てくるように形成されることもあるが、このような場合には、たとえ少ない部分ではあるが、α相+β’相からなる部分が部分的に合金層の最外郭の表面層を形成するようになる。
【0045】
β’相のグレインは、
図4の断面拡大写真に図示したように、α相+β’相からなる部分の少なくとも一部分に陥没した部分が発生されるように、α相+β’相からなる部分の外郭に埋め込まれて形成され、位置によってはβ’相のグレインは、α相+β’相からなる部分の外郭に楔の形で埋め込まれて形成されることもあり、β’相のグレインとその周囲には、クラックが形成される。
【0046】
ここで、β’相のグレインは、α相+β’相からなる部分の外郭に、不連続的に、またはα相+β’相からなる部分の外周を完全に覆うことはできないように形成されることもあるが、このようにβ’相のグレインがα相+β’相からなる部分の外郭に不連続的に形成されるようになると、α相+β’相からなる部分が部分的には合金層の表面に直接的に露出されることになる。
【0047】
合金層は、
図1に図示されたCu-Zn二元系状態図で示されているβ’相+γ相のグレインを成す部分がさらに含まれることもあり、その場合には、合金層の表面はβ’相のグレイン、α相+β’相からなる部分、β’相+γ相のグレインが混在して現れることができる。
【0048】
合金層は、表面に
図6の表面拡大写真と
図7の断面拡大写真に図示したように、クラック以外にピンホールや洞窟の形の微細空間がさらに形成されることができる。
【0049】
洞窟の形の微細空間は、
図7の断面拡大写真に図示したように、電極線の表面から芯線方向に、クラックよりもっと深く凹んで形成され、洞窟の形の微細空間を形成する部分の表面層は、拡散熱処理と引抜などの製造工程で、一部気化されて脱亜鉛現象が起きるので、亜鉛の濃度が増加し、
図1および
図2に図示されたγ相+ε相又はε相を持つこともあり、位置によっては、γ相+ε相とε相が混在する部分が現われることもできる。
図8は、洞窟の形の微細空間表面層がCu 23.6%、Zn 76.37%で、γ相+ε相を表していることを示している。
【0050】
前記のような洞窟の形の微細空間は、放電加工の際に、高圧で提供される冷却水が芯線部位(洞窟の形の微細空間が芯線の辺りまで延長された場合)まで染みこむようにすることができるので、冷却効果が大幅に向上されるだけでなく、洞窟の形の微細空間の表面層を構成するε相とγ相+ε相の亜鉛成分は容易に気化されながら熱を奪って行くので、冷却効果がさらに改善され、放電加工速度が大幅に向上される。
【0051】
また、合金層の表面に現れる多くのピンホールは、電極線の表面積を広げて、冷却効果を向上させるだけでなく、ピンホールの表面には拡散熱処理を行うときに発生する脱亜鉛現象により、気化温度が低いγ相+ε相及び/又はε相が形成されて、放電加工の際に冷却効果をさらに向上させることになる。
図9は合金層の表面に現れるピンホールの表面層が、Cu 13.90%、Zn 86.10%としての相を表していることを示している。
【0052】
前記のように、クラックとともに、洞窟の形の微細空間とピンホールは、すべて電極線の表面積を大きく広げて、冷却効果を極大化し、加工速度を向上させる働きをする。
【0053】
前記のように本発明の放電加工用電極線は、芯線の周囲に形成されるα相+β’相からなる部分と、α相+β’相からなる部分の外郭に埋め込まれるβ’相のグレインを含み、β’相のグレインとその周囲にはクラックが形成される。一般的に従来のように、電極線の表面層をγ相で形成する場合は、γ相の合金層は
図2に図示したように、硬度が350HB以上なので、壊れやすい(Brittle)合金層で、引抜加工の際に、引抜圧力に耐え切れず、割れながらクラックを形成することになる時、微細の屑が発生してクラックの表面に多量に付着するようになり、クラックの表面に多量に付着された微細の屑は、放電加工の際に再放電などによって加工速度と面粗度を向上させるのに阻害要因となる。
【0054】
しかし、本発明のβ’相のグレインは、電極線の表面層が従来のγ相の合金層より、
図2に図示したように硬度がはるかに低く、柔軟な性質を持つので、引抜工程で割れないながらも、電極線の表面に微細の屑がほとんど付着されないようにするので、放電加工する際に、微細の屑による2次放電を減少させて、加工速度と面粗度を大きく向上させるだけでなく、電極線が通過するダイヤモンドガイドダイス(Diamond Guide Dies)の詰まり防止ができるようになる。
【0055】
一方、γ相の気化温度とβ’相の気化温度を比較すると、γ相の気化温度がβ’相の気化温度より低いので、一般的に従来の電極線はγ相を有する電極線の加工速度がβ’相を有する電極線の加工速度より速いと知られている。
【0056】
しかし、本発明の電極線は、合金層の表面が従来に最も早いと知られているγ相より銅濃度が高く、亜鉛の濃度が低いβ’相のグレインで、大半が形成されているとしても、本発明の合金層の表面には微細の屑がほとんど付いていないし、また、β’相のグレインと多くのクラックと多くのピンホールが、主にβ’相のグレインの周囲に形成されていながら、γ相+ε相又はε相で形成された洞窟の形の微細空間がクラックやピンホールより深い部分まで延長されて形成されているため、高圧で提供される冷却水が芯線まで浸透して冷却効果を画期的に改善させる要素を多く形成しているので、従来のγ相にクラックが形成された電極線より少なくとも108%以上、加工速度が向上することが分かった。
【0057】
前記のような構造を持つ本発明の望ましい実施のための放電加工用電極線の製造方法を説明する。
【0058】
本発明による放電加工用電極線の製造方法は、前述のような電極線を製造する方法に関するもので、具体的な実施例は、芯線提供段階、メッキ段階、1次拡散熱処理段階、1次引抜段階、2次拡散熱処理段階、2次引抜段階を経て行われる。
【0059】
(1)芯線提供段階では、線径2mm(第1直径)の真鍮(65%:35%)線材を第1の金属の芯線として提供する。
【0060】
(2)メッキ段階では、芯線より気化温度が低い亜鉛を第2の金属として、電気めっきを実施して亜鉛めっき線材を得る段階であって、芯線をローラーで移送させながら、電気亜鉛メッキ槽に浸漬し、所定の速度で通過させて、芯線の外郭に約12um厚さの亜鉛めっき層(第2の金属)を形成する。
【0061】
(3)1次拡散熱処理段階は、亜鉛めっき線材を通電熱処理機の予熱区間を経て、極間の温度を約400℃温度に加熱させながら、約200m/分の速度で通過させて、拡散熱処理を実施して、中間線材の外郭に合金層を形成する。
【0062】
(4)1次引抜段階は、拡散熱処理された中間線材を線径1.2mm(第2直径)で引抜工程を実施して、中間線材の表面にクラックを形成する。
図10は、中間線材の表面にクラックが現れたことを示している。
【0063】
(5)2次拡散熱処理段階では、1次引抜された中間線材を約2時間昇温し、400℃で20時間加熱して、拡散熱処理を実施して、6時間後に開放して、クラックが形成されたグレイン部分に拡散される銅(Cu)含量の割合を高めて、β’相のグレインに変換させる。
【0064】
(6)2次引抜段階は、2次拡散熱処理された中間線材を電極線の規格である線径0.25mmになるように、2回目の引抜工程と安定化熱処理を同時に実施できる自動化設備で、本発明の放電加工用電極線を製造した。
図5は最終的に製造された本発明による電極線の表面の拡大写真で、写真にはβ’相のグレインとクラック部分がよく表れており、
図5で現れるクラック部分のグレインは、
図10で現れる中間線材クラック部分のグレインと比較する時、グレインの面積がさらに広くなったのを見ることができ、グレインが広くなったことによって
図5のクラックの部分には
図10のクラック部分と比較して、微細の屑の発生が著しく減少されることを確認することができる。また、
図4は前記の方法で製造された電極線の断面の拡大写真で、写真にはグレインが合金層の陥没した部分に埋め込まれていることを見ることができる。
図6は電極線の表面の拡大写真で、表面層にはクラックと、ピンホール、および洞窟の形の微細空間が現れているのを確認することができ、また
図7は電極線の断面の拡大写真で、クラックと、洞窟の形の微細空間が現れているのを確認することができる。
【0065】
前記の製造方法は、本発明の基本概念を超えない範囲内で、各会社が保有している設備に合わせて拡散熱処理方法と拡散熱処理温度と時間およびめっき方法などの工程を様々な形で選定、変形して実施することができる。
【0066】
前記のように製造された本発明による線径0.25mm電極線と比較例1および2の電極線を利用して加工物を試験加工した結果は以下の表1のようである。
【0067】
【0068】
*表1に現れた前記試験加工例は、Charmilles Robofil 240SLで、ST25A.Tecに遂行されており、加工物はSKD-11(1.5C-12Cr-1Mo-0.35V)の合金工具鋼であって、Rockwell硬度58~65で、高さ40mm厚さの加工物を横×縦=10mm×10mmの正方形の棒の形で、Cuttingを実施した。
【0069】
*比較例1は、フランスThermocompact社のThermoJP2で、γ相合金層の表面にクラックを形成した線径0.25mm電極線であり、比較例2は、ドイツBerkenhoff社のTopasPLUS Hで、γ相合金層の表面にクラックを形成した線径0.25mm電極線である。
【0070】
前記の試験結果から分かれるように、本発明の電極線と比較例1および2を利用して生産現場で一般的に使用しているStandard Parameter条件で、放電加工をそれぞれ2次加工まで実施した結果、本発明の電極線は比較例1に比べて少なくとも1次加工では108%以上に加工速度が向上されており、2次加工で最大114%まで加工速度が向上されたことを確認することができる。
【0071】
一方、前記の説明の例では、電極線の合金層がα相+β’相からなる部分と、α相+β’相からなる部分の外周に形成されるβ’相のグレインを含むものとして説明しているが、拡散熱処理条件と引抜工程などを一部変更することによって、合金層の表面にはほとんどβ’相のグレインを現せながら、一部にはγ相のグレインとγ相+ε相のグレインがさらに混在されて現れるように製造されることもできる。
【0072】
前記のように製造される電極線は、合金層の表面がほとんどβ’相のグレインからなり、一部分はα相+β’相からなる部分と、γ相のグレインまたはγ相+ε相のグレインが混在されて現れることになる
一方、本発明による電極線は、β’相のグレインとα相+β’相からなる部分で、電極線の表面に露出される部分およびクラック、ピンホール、洞窟の形の微細空間を形成する部分の表面層に酸化層を形成することもでき、電極線の表面と洞窟の形の微細空間に酸化層が形成されれば、酸化層が冷却水の吸収を促進し、導電率を増加させて、放電パワーが向上されるので、加工速度がさらに向上されることができる。
【0073】
また、本発明による電極線は、電極線の表面に伝導性高分子を塗布して、電極線表面の導電率を高め、微細な屑の発生を抑制して、加工速度を向上させることもできる。
【0074】
伝導性高分子は、
図11の電気伝導度特性値で見られるように、電気伝導度が10
0s/cm以上であって非常に優秀で、doped PEDOTまたはdoped polyanilineなどが利用できる。
図12はdoped polyanilineを利用して金属の腐食防止実験をした例であって、
図12の(A)は鉄板の表面状態を示しており、
図12の(B)は
図9の(A)に示された鉄板の表面にポリアニリンを塗布させた後、0.5MNaCl溶液を噴射して腐食を促進させて耐食性を試験する塩素噴霧試験を実施した状態の写真を示している。
図12の(B)の写真では、ポリアニリンがコーティングされた部分は全く腐食されていないことを確認することができ、コーティングされていない部分は腐食が相当進行されたことを確認することができる。
【0075】
また、本発明による電極線は、合金層の表面に半導体性高分子や絶縁性高分子を塗布することもありうるし、半導体性高分子、および絶縁性高分子は、放電電流の振幅を正常状態で安定させるので、放電パルス(Pulse)の高さとパルスの幅及び立ち上がり時間と立ち下がり時間などを安定させて、加工物の面粗度と精度をさらに向上させる。
【0076】
また、合金層の表面には、酸化層、伝導性高分子、半導体性高分子、及び絶縁性高分子の少なくとも1つが塗布されることもできるが、これらの二つ以上が塗布されることもできる。
【0077】
前述した本発明の放電加工用の電極線の技術構成は、発明を実施するための形態の内容に限定されることはなく、本発明の技術思想および目的を外れない範囲内で様々に変形して行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、放電加工の際に、微細の屑の発生が最少化されるので、再放電が発生せず、加工速度が向上されるし、被加工物の面粗度が大きく向上される放電加工用電極線に利用される。
【国際調査報告】