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特表2022-550073平滑筋腫の治療のための抗miRNA
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】平滑筋腫の治療のための抗miRNA
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20221122BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20221122BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221122BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P15/00
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519183
(86)(22)【出願日】2020-09-23
(85)【翻訳文提出日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2020076498
(87)【国際公開番号】W WO2021058524
(87)【国際公開日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】102019000017234
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522117026
【氏名又は名称】インターナショナル・センター・フォー・ジェネティック・エンジニアリング・アンド・バイオテクノロジー-アイシージーイービー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セレーナ・ザッキーニャ
(72)【発明者】
【氏名】ナディヤ・リング
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
本発明は、平滑筋腫の治療に使用するためのmiRNA阻害剤に関する。詳細には、本発明は、子宮平滑筋腫の治療における使用のための、miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pからなる群から選択される1つ又は複数のmiRNAの阻害剤に関する。前記阻害剤は、好ましくはLNAベースの5オリゴヌクレオチドである。子前記阻害剤を含む、宮平滑筋腫の治療に使用するための医薬組成物もまた、本発明の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮平滑筋腫の治療における使用のための、miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pからなる群から選択される1つ又は複数のmiRNAの阻害剤。
【請求項2】
前記miRNAが、miR-148a-3pである、請求項1に記載の使用のための阻害剤。
【請求項3】
少なくとも5個のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドであり、相補的塩基対を形成することによって前記1つ又は複数のmiRNAに結合することができる、請求項1又は2に記載の使用のための阻害剤。
【請求項4】
自身の塩基の少なくとも40%を、前記1つ又は複数のmiRNAの塩基と対形成させることができる、請求項3に記載の使用のための阻害剤。
【請求項5】
ロックド核酸(LNA)ベースのオリゴヌクレオチドである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項6】
前記LNAベースのオリゴヌクレオチドが、前記miRNAに対して少なくとも部分的に相補的である、請求項5に記載の使用のための阻害剤。
【請求項7】
前記LNAベースのオリゴヌクレオチドが、前記miRNAに対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%の相補性である、請求項6に記載の使用のための阻害剤。
【請求項8】
前記LNAベースのオリゴヌクレオチドが、miRNA標的に対して完全な配列相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項5から7のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項9】
前記LNAベースのオリゴヌクレオチドが、5個から27個の間のヌクレオチドを含み、少なくとも1つのロックド核酸を含む、請求項5から8のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項10】
抗miRである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項11】
前記抗miRが、5個から27個の間のヌクレオチドを含み、前記miRNAの塩基と少なくとも40%の塩基相補性を有する、請求項10に記載の使用のための阻害剤。
【請求項12】
トランスフェクション剤を使用せずに投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項13】
ソノポレーションによって子宮細胞に投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項14】
前記阻害剤を放出させるための薬剤含有子宮内避妊器具を使用して投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項15】
miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pからなる群から選択される1つ又は複数のmiRNAの、少なくとも1つの阻害剤と、少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒及び/又は医薬品添加物とを含む、子宮平滑筋腫の治療における使用のための医薬組成物。
【請求項16】
前記阻害剤が、ロックド核酸(LNA)ベースのオリゴヌクレオチドである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記阻害剤が、抗miRである、請求項15に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬及びバイオテクノロジー分野に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、平滑筋腫の治療における使用のための抗miRNAに関する。
【背景技術】
【0003】
子宮平滑筋腫は、一般に子宮筋腫と呼ばれ、生殖年齢の女性の20~50%が罹患しており、最も多く認められる婦人科良性腫瘍の形態である(Purohit P、Vigneswaran K: Fibroids and Infertility、Curr Obstet Gynecol Rep 2016、5:81~88頁)。
【0004】
子宮筋腫が女性の生殖機能及び生殖能力に及ぼす因果関係は、十分に立証明されてないものの、子宮筋腫の存在は妊娠開始を成功させる能力を著しく妨げるということが、一般的に認められている(Pritts EA、Parker WH、Olive DL: Fibroids and infertility: an updated systematic review of the evidence、Fertil Steril 2009、91:1215~1223頁)。子宮筋腫は、良性腫瘍であり、無症候性でさえありえるが、多くの場合、出血、骨盤圧迫、並びに上述のような生殖能力障害等の、重大な機能障害の原因であり、従って、治療的介入が必要である。
【0005】
現在のところ、子宮筋腫の治療法は、子宮筋腫の成長の原因となっているホルモンの刺激作用を妨害し、場合によって症状の制御を管理する薬物の使用と、外科的除去とに基づいている。
【0006】
子宮の外科的除去である子宮摘出術が、この問題に対する唯一の確定した解決法である。しかしながら、この解決法は、多くの場合、例えば、当該女性が妊娠を計画している場合、或いは単に心理学的な理由により、実行可能ではない。これらの場合は、過去100年以上、当初は開腹術による、より最近では腹腔鏡手術又は子宮鏡検査法による侵襲性の低い手法での、新生物塊の局所的除去が、治療の第一選択肢とされてきた(El-Balat A、DeWilde RL、Schmeil I、Tahmasbi-Rad M、Bogdanyova S、Fathi A、Becker S: Modern Myoma Treatment in the Last 20 Years: A Review of the Literature、Biomed Res Int 2018、2018:4593875)。
【0007】
いかなる外科的介入も、出血(次いで、結果として病原菌の感染リスクを伴う輸血を必要とすることが多い)、膀胱、腸、又は尿管の損傷、癒着形成、麻酔及び入院に関連した合併症等の、限定的であるが切実な合併症のリスクを常に伴う。
【0008】
経口避妊薬、医療用子宮内避妊器具、GnRHアゴニスト及び選択的プロゲステロン受容体モジュレーター(SPRM)を含む現行の薬物療法は、主に症状(出血及び月経疼痛)を制御するために使用され、平滑筋腫塊の大きさには干渉するものではない(Senol T、Kahramanoglu I、Dogan Y、Baktiroglu M、Karateke A、Suer N: Levonorgestrel-releasing intrauterine device use as an alternative to surgical therapy for uterine leiomyoma、Clin Exp Obstet Gynecol 2015、42:224~227頁; Singh SS、Belland L: Contemporary management of uterine fibroids: focus on emerging medical treatments、Curr Med Res Opin 2015、31:1~12頁)。
【0009】
ウリプリスタル酢酸エステル等の最新世代の薬物でも、出血は顕著な副作用なく制御することができるが、病変の大きさを小さくすることはできない(Donnez J、Tatarchuk TF、Bouchard P、Puscasiu L、Zakharenko NF、Ivanova T、Ugocsai G、Mara M、Jilla MP、Bestel E、Terrill P、Osterloh I、Loumaye E、Group PIS: Ulipristal acetate versus placebo for fibroid treatment before surgery、N Engl J Med 2012、366:409~420頁; Donnez J、Tomaszewski J、Vazquez F、Bouchard P、Lemieszczuk B、Baro F、Nouri K、Selvaggi L、Sodowski K、Bestel E、Terrill P、Osterloh I、Loumaye E、Group PIS: Ulipristal acetate versus leuprolide acetate for uterine fibroids、N Engl J Med 2012、366:421~432頁)。
【0010】
現在のところ、平滑筋腫の大きさを小さくすることができる薬物療法はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO 99/14226
【特許文献2】WO 00/56746
【特許文献3】WO 00/56748
【特許文献4】WO 01/25248
【特許文献5】WO 02/28875
【特許文献6】WO 03/006475
【特許文献7】WO 03/095467
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Purohit P、Vigneswaran K: Fibroids and Infertility、Curr Obstet Gynecol Rep 2016、5:81~88頁
【非特許文献2】Pritts EA、Parker WH、Olive DL: Fibroids and infertility: an updated systematic review of the evidence、Fertil Steril 2009、91:1215~1223頁
【非特許文献3】El-Balat A、DeWilde RL、Schmeil I、Tahmasbi-Rad M、Bogdanyova S、Fathi A、Becker S: Modern Myoma Treatment in the Last 20 Years: A Review of the Literature、Biomed Res Int 2018、2018:4593875
【非特許文献4】Senol T、Kahramanoglu I、Dogan Y、Baktiroglu M、Karateke A、Suer N: Levonorgestrel-releasing intrauterine device use as an alternative to surgical therapy for uterine leiomyoma、Clin Exp Obstet Gynecol 2015、42:224~227頁
【非特許文献5】Singh SS、Belland L: Contemporary management of uterine fibroids: focus on emerging medical treatments、Curr Med Res Opin 2015、31:1~12頁
【非特許文献6】Donnez J、Tatarchuk TF、Bouchard P、Puscasiu L、Zakharenko NF、Ivanova T、Ugocsai G、Mara M、Jilla MP、Bestel E、Terrill P、Osterloh I、Loumaye E、Group PIS: Ulipristal acetate versus placebo for fibroid treatment before surgery、N Engl J Med 2012、366:409~420頁
【非特許文献7】Donnez J、Tomaszewski J、Vazquez F、Bouchard P、Lemieszczuk B、Baro F、Nouri K、Selvaggi L、Sodowski K、Bestel E、Terrill P、Osterloh I、Loumaye E、Group PIS: Ulipristal acetate versus leuprolide acetate for uterine fibroids、N Engl J Med 2012、366:421~432頁
【非特許文献8】www.mirbase.org、リリース22
【非特許文献9】Mingozzi F、High KA: Therapeutic in vivo gene transfer for genetic disease using AAV: progress and challenges. Nature reviews genetics. 2011年5月;12(5):341
【非特許文献10】Remington's Pharmaceutical Sciences、最新版
【非特許文献11】Acoustic Cavitation-Mediated Delivery of Small Interfering Ribonucleic Acids with Phase-Shift Nano-Emulsions; Ultrasound Med Biol. 2015年8月;41(8):2191~201
【非特許文献12】Chuang TD、Khorram O: Expression Profiling of lncRNAs, miRNAs, and mRNAs and Their Differential Expression in Leiomyoma Using Next-Generation RNA Sequencing、Reprod Sci 2018、25:246~255頁
【非特許文献13】Single-Dose Intracardiac Injection of Pro-Regenerative MicroRNAs Improves Cardiac Function After Myocardial Infarction. Lesizza P、Prosdocimo G、Martinelli V、Sinagra G、Zacchigna S、Giacca M. Circ Res. 2017年4月14日;120(8):1298~1304頁
【非特許文献14】Efficient gene silencing by delivery of locked nucleic acid antisense oligonucleotides, unassisted by transfection reagents. Stein CA、Hansen JB、Lai J、Wu S、Voskresenskiy A、Hog A、Worm J、Hedtjarn M、Souleimanian N、Miller P、Soifer HS、Castanotto D、Benimetskaya L、Orum H、Koch T. Nucleic Acids Res. 2010年1月;38(1):e3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、平滑筋腫の成長を止める又は退行させることができる新規の保存的治療法の開発が必須である。
【0014】
特に、女性の排卵周期及び生殖能力を妨げることなく、平滑筋腫の大きさを小さくすることができる薬物の開発が望ましい。
【0015】
形態学的観点から、平滑筋腫は、子宮の平滑筋細胞の良性過形成病変である。平滑筋腫は頻発するにもかかわらず、平滑筋細胞の異常な増殖の原因は、依然として知られていない。
【0016】
これらの病変の病因を説明しようとする試みにおいて幾つかの説が提唱されており、これらの説は、エストロゲン及びプロゲステロンの関与だけでなく、幾つかのその他の増殖因子、サイトカイン、ケモカイン、遺伝子、及びマイクロRNA(miRNA)の関与も示唆している。
【0017】
特に、miRNAは、対応するmRNAの3'末端の非翻訳領域に結合して、様々な遺伝子の発現を調節する、約21ヌクレオチド長の低分子RNA分子である。
【0018】
miRNAは、特異的なLNA(ロックド核酸)ベースのオリゴヌクレオチド又はアンタゴmiR、すなわち、miRNAの配列に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを使用して阻害することができる。これらのオリゴヌクレオチドは、典型的には、標的mRNA分子に対する自身の親和性を高め、且つ標的mRNA分子を不活性立体配置にするか又は分解を促進する化学的修飾を含んでいる。
【0019】
一般的に、miRNAをベースとした生物学的薬物又はそれらの阻害剤は、幾つかの疾患の原因となるプロセスを妨害する有用なツールである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
今回、以下のmiRNA:miR-148a-3p、miR-199a-5p、miR-33b-3pのうちのいずれか1つを阻害することによって、原発性平滑筋腫細胞の増殖を阻止し得ることが見出された。
【0021】
従って、本発明の対象は、子宮平滑筋腫の治療における使用のための、miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pからなる群から選択される1つ又は複数のmiRNAの阻害剤である。
【0022】
前記阻害剤は、好ましくは、ロックド核酸(LNA)ベースのオリゴヌクレオチド及び抗miRから選択される。好ましくは、前記阻害剤は、LNAベースのオリゴヌクレオチドである。
【0023】
子宮平滑筋腫の治療における使用のための、前記阻害剤並びに少なくとも1つの薬学的に許容される溶媒及び/又は医薬品賦形剤を含む医薬組成物もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0024】
定義
本発明の関連において、「マイクロRNA」又は「miRNA」という用語は、真核細胞に存在する短鎖リボ核酸(RNA)を意味する。
【0025】
本発明の関連において、「阻害剤」という用語は、1つ又は複数の標的miRNAの活性を低下又は遮断することができる薬剤を意味する。特に、「阻害剤」という用語は、1つ又は複数の標的miRNAの活性を十分に低下させることができる薬剤を意味する。特定の一実施形態では、本発明による阻害剤は、相補的塩基対を形成することによって標的miRNAに結合することができ、これによって、前記miRNAの機能を低下させるか又は遮断する、少なくとも5ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドである。「相補的塩基対を形成すること」とは、前記オリゴヌクレオチドの塩基の一部又は全てが、前記miRNA標的の塩基の一部又は全てと対形成することを意図する。特に、前記阻害剤は、自身の塩基の少なくとも40%を、標的miRNAの塩基と対形成させることができ、例えば、前記阻害剤は、自身の塩基の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%を、標的miRNAの塩基と対形成させることができる。「塩基」という用語は、核酸塩基、すなわちヌクレオシドの窒素含有部分を意味し、ひいては、ヌクレオチドの成分となるものである。
【0026】
本発明の関連において、「抗miR」又は「アンタゴmiR」という用語は、1つ又は複数の特異的miRNAへの他の分子の結合を妨げるオリゴヌクレオチド分子を意味する。一般的には、前記オリゴヌクレオチド分子は、標的miRNAに対して少なくとも部分的に相補的である低分子の合成RNAである。特に、前記オリゴヌクレオチド分子は、前記標的miRNAに結合し、前記標的miRNAを遮断するのに十分な相補性がある。
【0027】
本発明の関連において、「ロックド核酸」」又は「LNA」という用語は、2'-O,4'-C架橋によってN型立体配座に固定されたリボース環を有するヌクレオチドを意味する。LNAは、例えば、WO 99/14226、WO 00/56746、WO 00/56748、WO 01/25248、WO 02/28875、WO 03/006475、及びWO 03/095467、並びにその中で言及されている参考文献に記載されている。
【0028】
本発明の関連において、「LNAベースのオリゴヌクレオチド」という用語は、上記で定義したようなロックド核酸(LNA)を少なくとも1つ含むオリゴヌクレオチドを意味する。このオリゴヌクレオチドは、一般的に、標的miRNAに対して少なくとも部分的に相補的であり、特に、標的miRNAに結合し、標的miRNAを遮断するのに十分に相補的である低分子の合成RNAであり、少なくとも1つのロックド核酸を含む。
【0029】
本発明の関連において、「子宮平滑筋腫」という用語は、子宮の良性腫瘍を意味する。「子宮線維腫」は同義語である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】無処理(untreated)の、又は対照miRNA(miRNA control)、若しくはmiR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pを阻害することができるLNAベースのオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした後の、ヒト平滑筋細胞(smooth muscle cells)の増殖(proliferation)を示す図である(*p≦0.05、***p≦0.001)。
図2】無処理の、又は対照miRNA、若しくはmiR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pを阻害することができるLNAベースのオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした後の、ヒト線維芽細胞(fibroblasts)の増殖を示す図である(ns、有意ではない)。
図3】無処理の、又は対照miRNA、若しくはmiR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pを阻害することができるLNAベースのオリゴヌクレオチドをジムノシス条件(トランスフェクション剤、非存在, Gymnosis)下で投与した後の、ヒト平滑筋細胞の増殖を示す図である(*p≦0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
miRNA、すなわちmiR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pの配列は、当技術分野の専門家には既知であり、例えば、これらは、miRbaseデータベース(www.mirbase.org、リリース22)において見出すことができる。
【0032】
本発明によれば、miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pの中から選択される少なくとも1つのmiRNAが、阻害される。
【0033】
これらのmiRNAの阻害は、細胞特異性を示すため、特に好都合であり、実際に、これらのmiRNAの阻害によって、線維芽細胞の増殖に影響を与えることなく、したがって、起こりうる副作用を低減させながら、子宮平滑筋細胞の増殖の低下が誘導される。
【0034】
更により好ましくは、miR-148a-3pが、阻害される。実際に、このmiRNAの阻害が、子宮筋細胞の増殖の低減に特に効果的であることがわかった。
【0035】
本発明によると、前記miRNAのうちの1つ又は複数の阻害剤が、使用される。
【0036】
上記で挙げたmiRNAのうちの1つ又は複数の活性を低下させる又は遮断することができる任意の阻害剤が、子宮平滑筋腫の治療のために、本発明に従って使用されうる。
【0037】
特定の一実施形態では、前記阻害剤は、少なくとも5個のヌクレオチドを含み、相補的塩基対を形成することによって標的miRNAに結合することができるオリゴヌクレオチドである。例えば、前記オリゴヌクレオチドは、5個から27個の間のヌクレオチド、好ましくは10個から21個の間のヌクレオチドを含むことができる。
【0038】
前記オリゴヌクレオチドは、自身の塩基の一部又は全てを前記miRNA標的の塩基の一部又は全てと対形成させることができる。特に、前記阻害剤は、自身の塩基の少なくとも40%を標的miRNAの塩基と対形成させることができ、例えば、前記阻害剤は、自身の塩基の少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%を標的miRNAの塩基と対形成させる。
【0039】
好ましい一実施形態では、阻害剤は、ロックド核酸(LNA)ベースのオリゴヌクレオチド及び抗miRの中から選択される。
【0040】
一実施形態では、阻害剤は、標的miRNAに対して少なくとも部分的に相補的なRNAオリゴヌクレオチドである、抗miRである。特に、前記阻害剤は、前記標的miRNAに結合し、前記標的miRNAを少なくとも部分的に遮断するのに十分に相補的である。好ましくは、前記抗miRは、5個から27個の間のヌクレオチドを含み、標的miRNAの塩基と少なくとも40%の塩基相補性を有する。
【0041】
好ましい一実施形態では、前記阻害剤は、上記で定義したような、LNAベースのオリゴヌクレオチドである。好ましくは、前記阻害剤は、5個から27個の間のヌクレオチドを含み、少なくとも1つのロックド核酸を含む。前記阻害剤はまた、複数のロックド核酸も含むことができる。前記LNAベースのオリゴヌクレオチドは、miRNA標的に対して少なくとも部分的に相補的であり、特に、miRNA標的に対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は100%相補性でありうる。
【0042】
LNAベースのオリゴヌクレオチドは、当技術分野において常用されている阻害剤であり、市販されている。例えば、これらは、QIAgen社、Affymetrix社、Perkin Elmer社から入手可能である。
【0043】
本発明の特定の一実施形態では、前記LNAベースのオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドであり、特に、miRNA標的に対して完全な配列相補性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。前記LNAベースのオリゴヌクレオチドは、miRNA標的に対して100%の相補性がありうる。これは、例えば、QIAgen社から市販されているmiRCURY LNA miRNA Power Inhibitorのタイプの、miRNA標的に対して完全な配列相補性を有するLNAベースのオリゴヌクレオチドでありうる。
【0044】
当技術分野の専門家であれば、当技術分野の一般知識に従って、本発明による使用に好適な阻害剤を見つけることができる。
【0045】
実際に、既知のmiRNAの活性を阻害することができる薬剤を同定する方法は、当技術分野では公知である。特に、抗miR及びLNAベースのオリゴヌクレオチドは、標的miRNAの活性を阻害するために、一般的に使用されている。当業者であれば、miR-148a-3p、miR-199a-5p、及びmiR-33b-3pの中から選択される少なくとも1つのmiRNAの活性を阻害することができる抗miR又はLNAベースのオリゴヌクレオチドを、容易に設計又は購入することができる。
【0046】
本発明に記載したような使用のための阻害剤は、それを必要とする対象に、任意の形態で投与してよい。
【0047】
特に、前記阻害剤は、低分子RNAの従来の投与方法によって投与してもよい。
【0048】
一実施形態では、前記阻害剤は、トランスフェクション剤を使用せずに投与される。
【0049】
別の実施形態では、前記阻害剤は、医薬組成物で投与される。
【0050】
前記医薬組成物は、非経口又は子宮内投与用の製剤の形態であってもよいが、他の形態が本発明を実行するのに等しく好適である。
【0051】
当技術分野の専門家であれば、患者の状態、病理の重症度レベル、患者の反応、及び当技術分野の一般知識に含まれるその他の臨床パラメーターに応じて、効果的な投与のタイミングを決定されよう。
【0052】
医薬組成物は、少なくとも1つの本発明による阻害剤を、薬学的に許容される溶媒及び/又は賦形剤と共に含む。前記賦形剤は、特に有用な製剤補助剤、例えば、可溶化剤、分散剤、懸濁化剤、又は乳化剤であってよい。
【0053】
本発明によれば、阻害剤は、最新技術によって、阻害剤の輸送を容易にすることができるカチオン性脂質等の脂質分子と共に投与されうる。そのような阻害剤の別の投与方法は、RNA又はDNA投与のための既知の好適なベクターによるものである。好ましいベクターは、DNAのインビボ投与のための公知のウイルスベクターである、アデノ随伴ベクター(AAV)である(Mingozzi F、High KA: Therapeutic in vivo gene transfer for genetic disease using AAV: progress and challenges. Nature reviews genetics. 2011年5月;12(5):341)。
【0054】
注射は、好ましい投与経路である。注射は、好ましくは全身的である。子宮内投与もまた、好都合である。当技術分野の専門家であれば、任意の通常の経路によって阻害剤を投与することを決定することができる。
【0055】
当技術分野の一般知識については、Remington's Pharmaceutical Sciences、最新版を参照にすることができる。
【0056】
考えられる別の投与方法は、非ウイルス性の超音波による遺伝子移入技術(ソノポレーション)の使用を含むものであり、これは、本発明による阻害剤を、子宮の細胞に局所的にトランスフェクトするために使用できる。そのような技術は公知であり、例えば、Acoustic Cavitation-Mediated Delivery of Small Interfering Ribonucleic Acids with Phase-Shift Nano-Emulsions; Ultrasound Med Biol. 2015年8月;41(8):2191~201の研究を参照にすることができる。
【0057】
別の投与方法は、阻害剤を放出させるための薬剤含有子宮内避妊器具の使用による方法である。例えば、前記子宮内避妊器具は、前記1つ又は複数のmiRNAを阻害することができる、上記で定義したようなロックド核酸(LNA)ベースのオリゴヌクレオチドの少なくとも1つ又は抗miRの少なくとも1つを含みうる。本明細書において開示された使用のためのそのような薬剤含有子宮内避妊器具は、本発明の範囲に含まれる。
【0058】
これらの方法及び製剤は全て、当技術分野において一般的且つ公知のものであり、更なる説明は必要ではない。
【0059】
遺伝子治療は、それを必要とする対象の細胞中に核酸を送達する、別の送達形態である。本発明によれば、本発明による使用のために、遺伝子治療を使用して、上記で定義したようなオリゴヌクレオチド阻害剤を対象の細胞中に、例えば子宮細胞中に導入することができる。
【0060】
以下の実施例によって、本発明を更に例証する。
【実施例1】
【0061】
miRNA候補の選抜
ある平滑筋細胞株の増殖を調節することができるmiRNAを同定するために、2000個のmiRNAのライブラリーを使用してスクリーニングを実施した。特に、スクリーニングの目標は、平滑筋細胞の増殖を刺激することができるmiRNAを同定することとした。
【0062】
スクリーニングの結果は、下記のTable 1(表1)に示す。
【0063】
スクリーニングにおいて検討したmiRNAのうち、1913個は細胞生存能を妨げず、37個が、増殖を2.5倍超高めた。
【0064】
これらのデータと、平滑筋腫及び正常な子宮筋層試料の遺伝子発現プロファイルのうち公開されているデータベース中の利用可能なデータ(Chuang TD、Khorram O: Expression Profiling of lncRNAs, miRNAs, and mRNAs and Their Differential Expression in Leiomyoma Using Next-Generation RNA Sequencing、Reprod Sci 2018、25:246~255頁)とを相互参照することによって、14個のmiRNAを選抜した(Table 1(表1))。
【0065】
【表1】
【0066】
選抜した14個のmiRNAでは、「シード配列」は7種類のみであり、これは、それらの増殖促進性作用が、共通の分子機序によって媒介されうることを示唆している。更に、miR-20a-5p及びmiR-17-5pの2つのmiRNAは、第13番染色体に位置する同じクラスターに属しており、従って、それらの発現において同時制御されていることが予想される。
【0067】
更なる検証のために、この選抜物から、次のmiRNA:miR-148a-3p、miR-199a-5p、miR-20a-5p、miR-17-5p、及びmiR-33b-3pについて検討した。miR-148a-3p及びmiR-199a-5pが選択したが、これは、スクリーニングでは第2位及び第5位に位置づけられたためであり、これらは、平滑筋腫で最も発現されており、また、平滑筋腫では健康な子宮筋層と比べて過剰に発現されている。次の2つのmiRNA、miR-20a-5p及びmiR-17-5pは、他の細胞型の増殖を刺激することが公知であり、可能な陽性対照として選択した。最後に、miR-33b-3pは、平滑筋腫では発現は比較的乏しいが、健康な子宮筋層では全く存在しないことが見出されため、可能性が興味深い候補として含めた。
【実施例2】
【0068】
インビトロでの検証
実施例1で報告した結果に基づき、5個のLNAベースのオリゴヌクレオチド候補(miRCURY LNA miRNA Power Inhibitor、Qiagen社)について、TriesteにあるBurlo Garofolo母子病院との現行の共同研究を通して入手した、原発性平滑筋腫細胞の増殖を阻止する能力を試験した。
【0069】
LNAベースのオリゴヌクレオチドは、カチオン性脂質を用いる標準的なトランスフェクションプロトコールを使用して、又は起こりうるインビボでの適用をより模倣するようなジムノシス条件(トランスフェクション剤非存在)下で、試験した(使用した手順については、例えば、Single-Dose Intracardiac Injection of Pro-Regenerative MicroRNAs Improves Cardiac Function After Myocardial Infarction. Lesizza P、Prosdocimo G、Martinelli V、Sinagra G、Zacchigna S、Giacca M. Circ Res. 2017年4月14日;120(8):1298~1304頁; Efficient gene silencing by delivery of locked nucleic acid antisense oligonucleotides, unassisted by transfection reagents. Stein CA、Hansen JB、Lai J、Wu S、Voskresenskiy A、Hog A、Worm J、Hedtjarn M、Souleimanian N、Miller P、Soifer HS、Castanotto D、Benimetskaya L、Orum H、Koch T. Nucleic Acids Res. 2010年1月;38(1):e3を参照されたい)。増殖は、EdUの取り込み、及び、続いて、平滑筋に特異的なアクチンのアイソフォームを認識する抗体で標識した平滑筋細胞を可視化する蛍光顕微鏡法(ImageXpress Micro、Molecular Devices社)による定量化を行うことによって解析した。全ての細胞の核を、DAPIによって染色した。
【0070】
陽性対照として17-5p LNA及び20a-5p LNAを使用して、平滑筋腫細胞及び原発性線維芽細胞の両方において、阻害剤(3つの候補プラス2つの陽性対照)を試験して、それらの作用の特異性を検証した。
【0071】
これらの実験によって、平滑筋腫細胞の増殖を極めて強力に阻害し、線維芽細胞では活性ではない3つのLNAベースのオリゴヌクレオチド:LNA 148a-3p、LNA 199a-5p、及びLNA 33b-3pを選抜することができた(図1及び図2)。
【0072】
ジムノシスプロトコールを使用して、miRNA特異的阻害剤:148a-3p LNA、199a-5p LNA、及び33b-3p LNAを使用して、細胞増殖の有意な低減を検証した。3つの阻害剤は全て、平滑筋細胞の増殖を強力に低減させるものである(図3)。
図1
図2
図3
【国際調査報告】