(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】細菌の発酵によるL-アミノ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 13/04 20060101AFI20221122BHJP
C12P 13/22 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/12 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/06 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/10 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/20 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/14 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/24 20060101ALI20221122BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20221122BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20221122BHJP
C12N 15/90 20060101ALN20221122BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C12P13/04
C12P13/22 C
C12P13/22 A
C12P13/22 B
C12P13/12 A
C12P13/12 B
C12P13/12 C
C12P13/06 A
C12P13/10 B
C12P13/20
C12P13/10 A
C12P13/14 A
C12P13/06 C
C12P13/24 C
C12P13/08 A
C12P13/06 B
C12P13/24 A
C12P13/08 C
C12P13/08 D
C12P13/06 D
C12N15/60
C12N15/90 100Z
C12N1/20 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519239
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036193
(87)【国際公開番号】W WO2021060438
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジヤディノフ ミハイル ハリソヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロバノフ アンドレイ オレゴビッチ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064AE04
4B064AE05
4B064AE06
4B064AE07
4B064AE08
4B064AE09
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4B064CC24
4B065AA01X
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4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA17
(57)【要約】
本発明は、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(ipdC)および/またはスレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(ilvA)の発現が弱化するように改変された腸内細菌目に属する細菌を使用した発酵によりL-アミノ酸を製造する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-アミノ酸を製造する方法であって、
(i)腸内細菌目(Enterobacterales)に属するL-アミノ酸生産細菌を培地で培養して
培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させること、および
(ii)前記培地もしくは前記細菌の菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収すること
を含み、
前記細菌が、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、方法。
【請求項2】
前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、ipdC遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法:
(A)配列番号2または55に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号2または55に示すアミノ酸配列において、1~250アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する、タンパク質;および
(C)配列番号2または55に示すアミノ酸配列全体に対して50%以上の同一性を有するアミ
ノ酸配列を含むタンパク質であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する、タンパク質。
【請求項4】
前記遺伝子が、下記からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法:
(a)配列番号1または54に示す塩基配列を含む遺伝子;
(b)配列番号1または54に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を含む遺伝子であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、遺伝子;
(c)配列番号2または55に示すアミノ酸配列において、1~250アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該タンパク質がインドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するものである、遺伝子;および
(d)配列番号1または54の変異体塩基配列を含む遺伝子であって、該変異体塩基配列が遺伝暗号の縮重によるものである、遺伝子。
【請求項5】
前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が、該遺伝子の不活化により弱化している、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、欠失している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌が、さらに、スレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記スレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、ilvA遺伝
子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)またはエルビニア科(Erwiniaceae)
に属する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパントエア(Pantoea)属に属する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記L-アミノ酸が、芳香族L-アミノ酸、非芳香族L-アミノ酸、および含硫L-アミノ酸からなる群より選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記芳香族L-アミノ酸が、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、およびL-チロシンからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記非芳香族L-アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、およびL-バリンからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記含硫L-アミノ酸が、L-システイン、L-メチオニン、L-ホモシステイン、およびL-シスチンからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物工業に関し、特に、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(indolepyruvate decarboxylase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化し、L-アミノ酸の生産が増強されるように改変された腸内細菌目(Enterobacterales)に属する細菌の発酵によりL-アミノ酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、L-アミノ酸は自然源から得られた微生物株あるいはそれらの変異体を利用した発酵法によって工業的に製造されてきた。典型的には、そのような微生物はL-アミノ酸の生産収率が高まるように改変されている。
【0003】
L-アミノ酸の生産収率を高めるための多くの技術が報告されており、組み換えDNAに
よる微生物の形質転換(例えば、US4278765 Aを参照のこと)、プロモーター、リーダー
配列及び/又はアテニュエーター、あるいはその他の当業者に知られた発現制御領域の改変(例えば、US20060216796 A1やWO9615246 A1を参照のこと)等がある。生産収率を高めるその他の技術としては、アミノ酸生合成に関与する酵素の活性を増加させること、及び/又は生成したL-アミノ酸による目的とする酵素のフィードバック阻害を解除すること(例えば、WO9516042 A1, EP0685555 A1, またはUS4346170 A, US5661012 A, およびUS6040160 Aを参照のこと)が挙げられる。
【0004】
L-アミノ酸の生産収率を高める別の方法としては、1種または数種の、目的とするL-アミノ酸の分解に関与する遺伝子、目的とするL-アミノ酸の生合成経路から該L-アミノ酸の前駆体を別の経路に逸らせる遺伝子、炭素、窒素、硫黄、及びリン酸の流れの再分配に関与する遺伝子、および毒素をコードする遺伝子等の発現を減少させることが挙げられる。
【0005】
ipdC遺伝子は、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(indolepyruvate decarboxylase)(Enzyme Commission (EC) number: 4.1.1.74)として特徴付けられるIpdCタンパ
ク質をコードする。indolepyruvate decarboxylase(IpdC)は、Pantoea株を含む様々な
細菌において、トリプトファンからのインドール-3-ピルビン酸およびインドール-3-アセトアルデヒドを経たインドール-3-酢酸の生合成に関与することが明らかにされている(Brandl M.T. and Lindow S.E. Cloning and characterization of a locus encoding an indolepyruvate decarboxylase involved in indole-3-acetic acid synthesis in Erwinia herbicola, Appl. Environ. Microbiol., 1996, 62(11):4121-4128; Estenson K. et al., Characterization of indole-3-acetic acid biosynthesis and the effects of this phytohormone on the proteome of the plant-associated microbe Pantoea sp. YR343, J. Proteome Res., 2018, 17(4):1361-1374)。
【0006】
しかし、腸内細菌目に属するL-アミノ酸生産細菌の発酵によるL-アミノ酸の生産におけるipdC遺伝子の発現弱化の影響を記載したデータは、これまでに報告されていない。
【発明の概要】
【0007】
本明細書は、腸内細菌目に属する細菌の発酵によってL-アミノ酸を製造する、改善された方法を記載するものである。本発明によれば、腸内細菌目に属する細菌の発酵によるL-アミノ酸の製造を増加させることができる。具体的には、腸内細菌目に属する細菌の発酵によるL-アミノ酸の生産は、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(indolepyruvate decarboxylase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現を弱化させ、
以て改変された該細菌によるL-アミノ酸の生産を増強することにより、改善できる。改変された細菌によるL-アミノ酸の生産は、スレオニンデアミナーゼ(threonine deaminase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように細菌をさらに
改変することにより、さらに改善できる。
【0008】
本発明は、下記のものを提供する。
【0009】
本発明のひとつの態様は、L-アミノ酸を製造する方法であって、
(i)腸内細菌目(Enterobacterales)に属するL-アミノ酸生産細菌を培地で培養して
培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させること、および
(ii)前記培地もしくは前記細菌の菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収すること
を含み、
前記細菌が、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子および/またはスレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の態様は、L-アミノ酸を製造する方法であって、
(i)腸内細菌目(Enterobacterales)に属するL-アミノ酸生産細菌を培地で培養して
培地もしくは該細菌の菌体、またはその両者中にL-アミノ酸を生産および蓄積させること、および
(ii)前記培地もしくは前記細菌の菌体、またはその両者からL-アミノ酸を回収すること
を含み、
前記細菌が、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の態様は、前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、ipdC遺伝子である、前記方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の態様は、前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質が、下記からなる群より選択される、前記方法を提供することである:
(A)配列番号2または55に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(B)配列番号2または55に示すアミノ酸配列において、1~250アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する、タンパク質;および
(C)配列番号2または55に示すアミノ酸配列全体に対して50%以上の同一性を有するアミ
ノ酸配列を含むタンパク質であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する、タンパク質。
【0013】
本発明の別の態様は、前記遺伝子が、下記からなる群より選択される、前記方法を提供することである:
(a)配列番号1または54に示す塩基配列を含む遺伝子;
(b)配列番号1または54に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を含む遺伝子であって、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、遺伝子;
(c)配列番号2または55に示すアミノ酸配列において、1~250アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子であって、該タンパク質がインドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するものであ
る、遺伝子;および
(d)配列番号1または54の変異体塩基配列を含む遺伝子であって、該変異体塩基配列が遺伝暗号の縮重によるものである、遺伝子。
【0014】
本発明の別の態様は、前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が、該遺伝子の不活化により弱化している、前記方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の態様は、前記インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、欠失している、前記方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の態様は、前記細菌が、さらに、スレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されている、前記方法を提供することである。
【0017】
本発明の別の態様は、前記スレオニンデアミナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、ilvA遺伝子である、前記方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の態様は、前記細菌が、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)またはエルビニア科(Erwiniaceae)に属する、前記方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の態様は、前記細菌が、エシェリヒア(Escherichia)属またはパントエア
(Pantoea)属に属する、前記方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の態様は、前記細菌が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)またはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)である、前記方法を提供することである。
【0021】
本発明の別の態様は、前記L-アミノ酸が、芳香族L-アミノ酸、非芳香族L-アミノ酸、および含硫L-アミノ酸からなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の態様は、前記芳香族L-アミノ酸が、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、およびL-チロシンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の態様は、前記非芳香族L-アミノ酸が、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、およびL-バリンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の態様は、前記含硫L-アミノ酸が、L-システイン、L-メチオニン、L-ホモシステイン、およびL-シスチンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらに他の目的、特徴、および付随する利点は、それに従って構築された実施形態の以下の詳細な説明を読めば当業者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.細菌
本明細書に記載の細菌は、インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(indolepyruvate
decarboxylase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変された腸内細菌目(Enterobacterales)に属するL-アミノ酸生産菌であり得る。本明細書に記載の細菌は、本明細書に記載の方法で使用できる。よって、同細菌に関する以下の説明は、本明細書に記載の方法で代替可能または等価に使用されるいずれの細菌にも準用できる。
【0027】
本明細書に記載の方法で使用できる細菌は、その方法を用いて生産される目的のL-アミノ酸の種類に応じて適切に選択された細菌であり得る。
【0028】
indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されたものであれば、腸内細菌目に属する任意のL-アミノ酸生産菌を本明細書に記載の方法で使用できる。indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変され、以てL-アミノ酸の生産が非改変細菌と比較して増強され得るものであれば、腸内細菌目に属する任意のL-アミノ酸生産菌を本明細書に記載の方法で使用できることも許容される。
【0029】
「L-アミノ酸生産菌」の用語は、「L-アミノ酸を生産できる細菌」の用語、「L-アミノ酸を生産する能力を有する細菌」の用語、または「L-アミノ酸生産能を有する細菌」の用語と代替可能または等価に使用されてよい。
【0030】
「L-アミノ酸生産菌」の用語は、当該細菌を培地で培養したときに、培地及び/又は該細菌の菌体(すなわち細菌菌体)中にL-アミノ酸を生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積する能力を有する腸内細菌目に属する細菌を意味し得る。
【0031】
また、「L-アミノ酸生産菌」の用語は、例えば、非改変細菌と比較して、より多い量でL-アミノ酸を培地中に生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積する能力を有する細菌も意味し得る。「非改変細菌」の用語は、「非改変株」の用語と代替可能または等価に使用されてよい。「非改変株」の用語は、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されていない対照株を意味し得る。非改変細菌としては、例えばPantoea ananatis (P. ananatis) AJ13355およびEscherichia coli (E. coli) K-12株(例えば、W3110 (ATCC 27325) やMG1655 (ATCC 47076))等の、野生株または親株が挙げられる。また、「L-アミノ酸生産菌」の用語は、例
えば、0.1 g/L以上、0.5 g/L以上、あるいは1.0 g/L以上の量で目的のL-アミノ酸を培
地中に蓄積することができる細菌も意味し得る。
【0032】
また、腸内細菌目に属し、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変された、L-アミノ酸生産能を有する細菌も使用できる。細菌は、本来的にL-アミノ酸生産能を有していてもよく、L-アミノ酸生産能を有するように改変されてもよい。そのような改変は、例えば、突然変異法またはDNA組み換え技術により達成できる。前記細菌は、本来的にL-アミノ酸生産能を有する細
菌においてindolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現を弱化させることにより取得できる。あるいは、前記細菌は、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように既に改変された細菌にL-アミノ酸生産能を付与することにより取得できる。あるいは、前記細菌は、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されたことによりL-アミノ酸生産能を獲得したものであってもよい。本明細書に記載の細菌は、具体的には、例えば、後述する細菌株を改変することにより取得できる。
【0033】
「L-アミノ酸生産能」の用語は、培地及び/又は細菌菌体中にL-アミノ酸を生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積する、腸内細菌目に属する細菌の能力を意味し得る。「L-アミノ酸生産能」の用語は、具体的には、細菌を培地で培養したときに、L-アミノ酸を培地及び/又は細菌菌体から回収できる程度に、培地及び/又は細菌菌体中にL-アミノ酸を生成し、排出もしくは分泌し、且つ/又は蓄積する、腸内細菌目に属する細菌の能力を意味し得る。
【0034】
本明細書に記載の方法に従って生育する細菌について言及される「培養される(cultured)」という用語は、当業者に周知である「培養される(cultivated)」や「生育する(grown)」等の用語と代替可能または等価に使用されてよい。
【0035】
細菌は、L-アミノ酸を、単独で、あるいはL-アミノ酸とL-アミノ酸とは異なる1種またはそれ以上の物質の混合物として、生産し得る。例えば、細菌は、目的のL-アミノ酸を、単独で、あるいは目的のL-アミノ酸と目的のL-アミノ酸とは異なる1種またはそれ以上のアミノ酸(例えばL体のアミノ酸(L-アミノ酸ともいう)等)の混合物として、生産し得る。言い換えると、細菌が2種またはそれ以上のL-アミノ酸を混合物として生産し得ることが許容される。さらに、例えば、細菌は、目的のL-アミノ酸を、単独で、あるいは目的のL-アミノ酸と他の1種またはそれ以上の有機酸(例えばカルボン酸等)の混合物として、生産し得る。
【0036】
L-アミノ酸としては、特に制限されないが、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、及びL-バリン、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0037】
カルボン酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、クエン酸、酪酸、乳酸、プロピオン酸、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0038】
「L-アミノ酸」および「カルボン酸」の用語は、遊離形態のアミノ酸およびカルボン酸に限られず、それらの派生形態(塩、水和物、付加物、またはそれらの組み合わせ、等)も意味し得る。付加物は、アミノ酸またはカルボン酸と別の有機もしくは無機の化合物とで形成された化合物であり得る。すなわち、「L-アミノ酸」および「カルボン酸」の用語は、例えば、遊離形態、派生形態、またはそれらの混合物であるL-アミノ酸およびカルボン酸を意味し得る。「L-アミノ酸」および「カルボン酸」の用語は、例えば、特に、遊離形態のL-アミノ酸およびカルボン酸、それらの塩、またはそれらの混合物を意味し得る。「L-アミノ酸」および「カルボン酸」の用語は、例えば、それらの、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、一水和物、二水和物、三水和物、一塩酸塩、二塩酸塩等の塩のいずれも意味し得る。特記しない限り、水和状態について言及しない「L-アミノ酸」および「カルボン酸」の用語(例えば、「遊離形態のL-アミノ酸」、「遊離形態のカルボン酸」、「L-アミノ酸の塩」、および「カルボン酸の塩」の用語)は、L-アミノ酸およびカルボン酸の非水和物、L-アミノ酸およびカルボン酸の水和物、またはそれらの混合物を意味し得る。
【0039】
L-アミノ酸は、1つまたはそれ以上のL-アミノ酸ファミリーに属し得る。一例として、L-アミノ酸は、L-アルギニン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、およびL-プロリンを含むグルタミン酸ファミリー;L-システイン、グリシン、およびL-セリンを含むセリンファミリー;L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-イソロイシン、L-リジン、L-メチオニン、およびL-スレオニンを含むアスパラギン酸ファミリー;
L-アラニン、L-イソロイシン、L-バリン、およびL-ロイシンを含むピルビン酸ファミリー;ならびにL-フェニルアラニン、L-トリプトファン、およびL-チロシンを含む芳香族ファミリーに属し得る。L-ヒスチジンは、イミダゾール環等の芳香族部位を有しているので、「芳香族L-アミノ酸」という用語は、上記芳香族L-アミノ酸に加えて、L-ヒスチジンを意味し得る。
【0040】
L-アミノ酸は、非芳香族ファミリーにも属し得るものであり、その例としては、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シトルリン、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-バリンが挙げられる。L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-チロシン等の芳香族アミノ酸の生合成経路はL-ヒスチジンの生合成経路とは異なるため、「非芳香族L-アミノ酸」という用語は、上記非芳香族L-アミノ酸に加えて、L-ヒスチジンを意味し得る。
【0041】
さらに、L-アミノ酸は、含硫L-アミノ酸ファミリーにも属し得るものであり、その例としては、L-システイン、L-メチオニン、L-ホモシステイン、L-シスチンが挙げられる。細菌において含硫L-アミノ酸の生合成経路は相互に密接に関連していることが知られている(例えば、Ferla M.P. and Patrick W.M., Bacterial methionine biosynthesis, Microbiology, 2014, 160(Pt 8):1571-1584を参照のこと)。特に、E. coliでは、L-システインはL-セリンから生化学的に誘導される。具体的には、L-セリンは、セリンアセチルトランスフェラーゼ(serine acetyltransferase;CysE)により活性化されてO-アセチルセリンが得られ、それは次いで、例えば硫化水素等の還元型硫黄源を用いてO-アセチルセリン(チオール)-リアーゼ(O-acetylserine(thiol)-lyase;CysM
)により還元されてL-システインが生成する。次いで、L-システインは、O-スクシニルホモセリン(チオール)-リアーゼ/O-スクシニルホモセリンリアーゼ(O-succinylhomoserine(thiol)-lyase/O-succinylhomoserine lyase;MetB)とシスタチオニンβ-リアーゼ/システインデスルフハイドラーゼ(cystathionine β-lyase/L-cysteine desulfhydrase;MetC)が順次触媒する硫酸転移経路においてL-シスタチオニンを介してL
-ホモシステインに変換され得る。L-メチオニンは、ホモシステイントランスメチラーゼ(homocysteine transmethylase;MetE)および/またはメチオニン合成酵素(methionine synthase;MetH)によりL-ホモシステインから合成される。L-シスチンは、通常、L-システインの酸化の結果、L-システインとともに培地中に生産される(Nakamori
S. et al., Overproduction of L-cysteine and L-cystine by Escherichia coli strains with a genetically altered serine acetyltransferase, Appl. Environ. Microbiol., 1998, 64(5):1607-1611)。
【0042】
いくつかのL-アミノ酸は、特定のL-アミノ酸の生合成経路における中間アミノ酸であり得るので、上記アミノ酸ファミリーには、他のL-アミノ酸(例えば、非タンパク質生成L-アミノ酸)も含まれてよい。例えば、L-シトルリンおよびL-オルニチンは、アルギニン生合成経路のアミノ酸である。したがって、グルタミン酸ファミリーには、L-アルギニン、L-シトルリン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-オルニチン、およびL-プロリンが含まれてよい。
【0043】
なお、腸内細菌科に属する細菌は、近年、1548個のコアタンパク質、53個のリボソームタンパク質、および4個の多遺伝子座配列解析タンパク質に基づく系統樹再構成を含む包
括的な比較ゲノム解析に基づき再分類されている(Adelou M. et al., Genome-based phylogeny and taxonomy of the ‘Enterobacteriales’: proposal for Enterobacterales ord. nov. divided into the families Enterobacteriaceae, Erwiniaceae fam. nov., Pectobacteriaceae fam. nov., Yersiniaceae fam. nov., Hafniaceae fam. nov., Morgan
ellaceae fam. nov., and Budviciaceae fam. nov., Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 2016, 66:5575-5599)。
【0044】
再分類に基づき、従来腸内細菌科に分類されていた細菌は、腸内細菌目内の異なる科、例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)やエルビニア科(Erwiniaceae)等、に入っ
ている。上記解析に基づき、本明細書に記載の方法で使用される腸内細菌目に属する細菌は、腸内細菌科やエルビニア科等のもの、エンテロバクター(Enterobacter)、エシェリヒア(Escherichia)、クレブシエラ(Klebsiella)、サルモネラ(Salmonella)、エル
ビニア(Erwinia)、パントエア(Pantoea)、モルガネラ(Morganella)、フォトルハブドゥス(Photorhabdus)、プロビデンシア(Providencia)、イェルシニア(Yersinia)
等の属のものであってよく、L-アミノ酸を生産する能力を有し得る。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類により腸内細菌目に分類されている細菌を使用することができる。腸内細菌目に属する改変され得る株としては、腸内細菌科またはエルビニア科の細菌が挙げられ、具体的には、Escherichia属、Enterobacter属、またはPantoea属の細菌が挙げられる。
【0045】
エシェリヒア属細菌の種は特に制限されず、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている種が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Bachmann, B.J., Derivations and genotypes of some mutant derivatives of E. coli K-12, p. 2460-2488. In F.C. Neidhardt et al. (ed.), E. coli and Salmonella: cellular and molecular biology, 2nd ed. ASM Press, Washington, D.C., 1996)に記載のものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、特に、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli (E. coli))が挙げられる。E. coliとして、具体的に
は、プロトタイプ野生株であるE. coli K-12株(E. coli W3110(ATCC 27325)やE. coli
MG1655(ATCC 47076)等)が挙げられる。
【0046】
エンテロバクター属細菌は特に制限されず、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている種が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランス株として、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC 12287が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネス株として、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC 13048、NBRC 12010(Sakai S. and Yaqishita
T., Microbial production of hydrogen and ethanol from glycerol-containing wastes discharged from a biodiesel fuel production plant in a bioelectrochemical reactor with thionine, Biotechnol. Bioeng., 2007, 98(2):340-348)、AJ110637(FERM BP-10955)が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌株としては、例えば、欧州特許出願公開0952221号明細書に記載されたものが挙げられる。なお、エンテロバクター・アグ
ロメランスには、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)と分類されてい
るいくつかの株も含まれる。
【0047】
パントエア属細菌は特に制限されず、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている種が挙げられる。パントエア属細菌種としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis(P. ananatis))、パントエア・スチューア
ルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティス株として、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスLMG20103、AJ13355(FERM BP-6614)、AJ13356(FERM BP-6615)、AJ13601(FERM BP-7207)、SC17(FERM BP-11091)、SC17(0)(VKPM B-9246)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスのある種のもの
は、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Mergaert J. et al., Transfer of Erwinia ananas (synonym, Erwinia uredovora) and Erwinia stewartii to the Genus Pantoea emend. as Pantoea ananas (Serrano 1928) comb. nov. and Pantoea stewartii (Smith 1898) comb. nov., respectively, and description of Pantoea stewartii subsp. indologenes subsp. nov., Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 1993, 43:162-173)。パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も含まれる。
【0048】
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エル
ビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
【0049】
これらの株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Address: P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)から入手することができる。すなわち各菌株には対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して発注することができる(atcc.org/を参照)。各菌株の登録番号は、アメリカン・タイプ
・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
【0050】
細菌は、本来的にL-アミノ酸生産能を有するものであってもよく、L-アミノ酸生産能を有するように改変されたものであってもよい。L-アミノ酸生産能を有する細菌は、例えば、上述したような細菌にL-アミノ酸生産能を付与することにより、または上述したような細菌のL-アミノ酸生産能を増強することにより、取得できる。
【0051】
L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、従来、エシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77~100頁参照)。そのような方法としては、
例えば、栄養要求性変異株の取得、L-アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、L-アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。L-アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、L-アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強されるL-アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。
【0052】
L-アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を典型的な変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つL-アミノ酸生産能を有するものを選択することによって取得できる。典型的な変異処理としては、X線や紫外線の照射、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0053】
また、L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL-アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増強することによっても行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように細菌を改変することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、WO00/18935やEP 1010755 A等に記載されている。
【0054】
また、L-アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL-アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL-アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させ
ることによっても行うことができる。なお、「目的のL-アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL-アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も包含される。酵素活性は、例えば、酵素をコードする遺伝子が不活化されるように細菌を改変することにより低下させことができる。酵素活性を低下させる方法は後述する。
【0055】
以下、L-アミノ酸生産菌、およびL-アミノ酸生産能を付与又は増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL-アミノ酸生産菌が有する性質およびL-アミノ酸生産能を付与又は増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0056】
L-アルギニン生産菌
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli 237株(VKPM B-7925, US2002058315 A1)および変異
型N-アセチルグルタミン酸シンターゼを有するその派生株(RU2215783 C2)、N-アセチルグルタミン酸シンターゼをコードするargA遺伝子が導入されたアルギニン生産株(EP1170361 A1)であるE. coli 382株(VKPM B-7926, EP1170358 A1)、382株にE. coliK-12株由来のilvA遺伝子の野生型アレルを導入して得られた株であるE. coli 382 ilvA+株等
のEscherichia属に属する株が挙げられる。変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼ
としては、例えば、野生型酵素の15位~19位に相当するアミノ酸残基が置換されたことによりL-アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼが挙げられる(EP1170361 A1)。
【0057】
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株も挙げられる。そのような遺伝子としては、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamate synthase;argA)をコードする遺伝子に加えて、N-アセチル-γ-グルタミルリン酸レダクターゼ(N-acetyl-γ-glutamylphosphate reductase;argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(ornithine acetyltransferase;argJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(N-acetylglutamate kinase;argB)、N-アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(N-acetylornithine aminotransferase;argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ornithine carbamoyltransferase;argF)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argininosuccinate synthase;argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argininosuccinate lyase;argH)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carbamoyl phosphate synthetase;carAB)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0058】
L-アルギニン生産菌およびL-アルギニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アミノ酸アナログ等への耐性を有する株も挙げられる。そのような株としては、例えば、α-メチルメチオニン、p-フルオロフェニルアラニン、D-アルギニン、アルギニンヒドロキサム酸、S-(2-アミノエチル)-システイン、α-メチルセリン、β-2-チエニルアラニン、またはスルファグアニジンに耐性を有するE. coli変異株(特
開昭56-106598を参照)が挙げられる。
【0059】
L-アスパラギン酸生産菌
L-アスパラギン酸生産菌およびL-アスパラギン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coliのフマル酸生産株CGMCCNO: 2301(CN101240259 A)やその誘導株であるグリオキシル酸回路レギュレーターをコードする遺伝子iclRを
欠損したアスパラギン酸生産株ΔiclR(CCTCC NO: M 2018521)(CN109370971 A)、リンゴ酸合成酵素(malate synthetase)およびイソクエン酸リアーゼ(isocitrate lyase)
をコードするaceBA遺伝子を欠損し、その代わりにアスパラギン酸アンモニアリアーゼ(a
spartate ammonia-lyase)をコードするaspA遺伝子が挿入されたAS12(CN105296411 B)
等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0060】
E. coli CM-AS-115(CCTCC NO: M 2016457)(CN106434510 A)は、発酵により直接L
-アスパラギン酸を生産できる遺伝子操作株である。元の株は、野生型Escherichia coli
W1485(ATCC12435)であり、複数の遺伝子(icdA(EG10489)、mdh(EG10576)、sfcA(EG10948)、maeB(EG14193)、fumAC(EG10356およびEG10358))のノックアウトにより
組み換え株CM-AS-100を得る。CM-AS-100株を代謝進化と順化に供することにより変異株CM-AS-105を得た。変異株CM-AS-105の2つの遺伝子(ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)をコードするppcおよびアスパルターゼ(aspartase)をコードするaspA)の過剰発現によりE. coli CM-AS-115株を得た。
【0061】
L-アスパラギン酸生産菌およびL-アスパラギン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アスパラギン酸アナログへの耐性を有する株も挙げられる。これらの株は、例えば、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-ketoglutarate dehydrogenase)活性を欠損していてもよい。アスパラギン酸アナログに耐性を有し、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損した株として、具体的には、例えば、E. coli AJ13199(FERM BP-5807, US5908768)やE. coli AJ13138(FERM BP-5565, US6110714)が挙げられる。
【0062】
L-アスパラギン酸生産菌およびL-アスパラギン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、α-ケトグルタルデヒドロゲナーゼ(α-ketoglutarate dehydrogenase;sucA、sucB、lpdAがコードする)活性が低下するように改変された細菌、クエン酸合成酵素(citrate synthase;gltA)の活性が低下するように改変された細菌、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase;ppc)の活性が増大するように改変された細菌、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(glutamate dehydrogenase
;gdhA)またはグルタミン酸合成酵素(glutamate synthase;gltBD)の活性が増大する
ように改変された細菌が挙げられる。細菌は、さらに、アスパラギン酸アンモニアリアーゼ(aspartate ammonia-lyase)をコードする遺伝子(アスパルターゼ(aspartase);aspA)の発現が弱化するように改変されていてもよい。
【0063】
L-アスパラギン酸生産菌およびL-アスパラギン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、P. ananatis SC17株(FERM BP-11091)、P. ananatis SC17(0)株(VKPM B-9246)も挙げられる。P. ananatisのL-
アスパラギン酸生産株5ΔP2RM(WO2010038905 A1)は、SC17(0)株の誘導株であり、ΔaspA、ΔsucA、ΔgltA、ΔpykA、ΔpykF、Δppc、ppcK620S(フィードバック耐性型のE. coliのホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)をコードする)、ΔmdhA等の改変が一貫して導入された株である。
【0064】
L-シトルリン生産菌
L-シトルリン生産菌およびL-シトルリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、変異型N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamate synthase)を保持するE. coli 237/pMADS11株、237/pMADS12株、及び237/pMADS13株
(RU2215783 C2, EP1170361 B1, US6790647 B2)、フィードバック阻害に耐性のカルバモイルリン酸シンセターゼ(carbamoyl phosphate synthetase)を保持するE. coli 333株
(VKPM B-8084)及び374株(VKPM B-8086)(R2264459 C2)、α-ケトグルタル酸シンターゼ(α-ketoglutarate synthase)の活性が増大し、且つフェレドキシンNADP+レダクターゼ(ferredoxin NADP+reductase)、ピルビン酸シンターゼ(pyruvate synthase)、及び/又はα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(α-ketoglutarate dehydrogenase)の活性がさらに改変されたE. coli株(EP2133417 A1)等のEscherichia属に属する株や、コハク酸デヒドロゲナーゼ(succinate dehydrogenase)およびα-ケトグルタル酸デヒドロ
ゲナーゼ(α-ketoglutarate dehydrogenase)の活性が低下したPantoea ananantis NA1sucAsdhA株(US2009286290 A1)等が挙げられる。
【0065】
L-シトルリンは、L-アルギニン生合成経路における中間体であるため、L-シトルリン生産菌およびL-シトルリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、制限されないが、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamate synthase;argA)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(N-acetylglutamate kinase;argB)、N-アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(N-acetylglutamyl phosphate reductase;argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(acetylornithine transaminase;argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(acetylornithine deacetylase;argE)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ornithine
carbamoyltransferase;argFI)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carbamoyl phosphate synthetase;carAB)、およびそれらの組み合わせをコードする遺伝子が挙げられる。
【0066】
また、L-シトルリン生産菌は、任意のL-アルギニン生産菌(例えばE. coli 382株
(VKPM B-7926))から、argG遺伝子にコードされるアルギニノコハク酸シンターゼ(argininosuccinate synthase)を不活化することにより容易に得ることができる。遺伝子を
不活化する方法は本明細書に記載されている。
【0067】
L-システイン生産菌
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、例えば、1種またはそれ以上のL-システイン生合成系酵素の活性が増大した株が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、セリンアセチルトランスフェラーゼ(cysE)や3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)が挙げられる。セリンアセチルトランスフェラーゼ活性は、例えば、システインによるフィードバック阻害に耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型セリンアセチルトランスフェラーゼは、例えば、特開平11-155571やUS2005-0112731Aに開示されている。そのような変異型セリンアセチルトランスフェラーゼとして、具体的には、cysE5遺伝子にコードされる、野生型セリ
ンアセチルトランスフェラーゼの95位と96位のVal残基とAsp残基がそれぞれArg残基
とPro残基に置換された変異型セリンアセチルトランスフェラーゼが挙げられる(US2005-0112731A)。また、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、セリンによるフィードバック阻害に耐性の変異型3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を細菌に導入することにより増強できる。変異型3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼは、例えば、米国特許第6,180,373号に開示されている。
【0068】
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、例えば、L-システインの生合成経路から分岐してL-システイン以外の化合物を生成する反応を触媒する1種またはそれ以上の酵素の活性が低下した株も挙げられる。そのような酵素としては、例えば、L-システインの分解に関与する酵素が挙げられる。L-システインの分解に関与する酵素としては、特に制限されないが、シスタチオニン-β-リアーゼ(metC, 特開平11-155571号;Chandra et al., Biochemistry, 1982, 21:3064-3069)、トリプトファナーゼ(tnaA, 特開2003-169668;Austin Newton et al., J. Biol. Chem., 240 (1965) 1211-1218)、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB(cysM, 特開2005-245311)、malY遺伝子産物(特開2005-245311)、Pantoea ananatisのd0191
遺伝子産物(特開2009-232844)、システインデスルフヒドラーゼ(aecD, 特開2002-233384)が挙げられる。
【0069】
また、L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる
親株としては、例えば、L-システイン排出系および/または硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系の活性が増大した株も挙げられる。L-システイン排出系のタンパク質としては、ydeD遺伝子にコードされるタンパク質(特開2002-233384)、yfiK遺伝子にコードされるタンパ
ク質(特開2004-49237)、emrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcr、およびcusAの各遺伝子に
コードされる各タンパク質(特開2005-287333)、yeaS遺伝子にコードされるタンパク質
(特開2010-187552)が挙げられる。硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系のタンパク質としては、cysPTWA遺伝子クラスターにコードされるタンパク質が挙げられる。
【0070】
L-システイン生産菌およびL-システイン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、フィードバック阻害耐性の変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする種々のcysEアレルで形質転換されたE. coli JM15(US6218168 B1, RU2279477 C2)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする遺伝子を過剰発現するE. coli W3110(US5972663 A)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下した E. coli株(JP11155571 A2)、cysB遺伝子によりコードされる正のシステインレギ
ュロンの転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110(WO0127307 A1)等のEscherichia属に属する株、Pantoea ananatis EYPSG8やその誘導株である硫黄同化に関与する遺伝子
を過剰発現する株(EP2486123 B1)、等も挙げられる。
【0071】
L-グルタミン酸生産菌
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli VL334thrC+(EP1172433 A1)等のEscherichia属
に属する株が挙げられる。E. coli VL334(VKPM B-1641)は、thrCおよびilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシンおよびL-スレオニンの要求性株である(US4278765)。E. coli K-12株(VKPM B-7)の細胞で生育させたバクテリオファージP1を用いた一般的なト
ランスダクション法によりthrC遺伝子の野生型アレルを導入した。その結果、L-グルタミン酸を生産できるL-イソロイシン要求性株VL334thrC+(VKPM B-8961)が得られた。
【0072】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、L-グルタミン酸生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタミン酸シンターゼ(gltBD)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA, acnB)、クエン酸シンターゼ(gltA)、メチルクエン酸シンターゼ(prpC)、ピル
ビン酸カルボキシラーゼ(pyc)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(aceEF, lpdA)、ピルビン酸キナーゼ(pykA, pykF)、ホ
スホエノールピルビン酸シンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、ホスホグリセロムタ
ーゼ(pgmA, pgmI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド-3-
リン酸デヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ(fbp)、ホスホフルクトキナーゼ(pfkA, pfkB)、グルコー
スリン酸イソメラーゼ(pgi)、6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(edd)、2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ(eda)、トランスヒドロゲナーゼ
(pntAB)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0073】
クエン酸シンターゼ遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、および/またはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増大するように改変された株としては、EP1078989 A2、EP955368 A2、およびEP952221 A2に開示されたものが挙げられる。また、エントナー・ドゥドロフ経路の遺伝子(edd, eda)の発現が増大するように改変された株としては、EP1352966Bに開示されたものが挙げられる。
【0074】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親
株としては、L-グルタミン酸の生合成経路から分岐してL-グルタミン酸以外の化合物の生合成を触媒する酵素の活性が低下または消失した株も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、イソクエン酸リアーゼ(aceA)、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA)、ホスホトランスアセチラーゼ(pta)、酢酸キナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(ilvG)、アセト乳酸シンターゼ(ilvI)、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ(pfl)、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(gadAB)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(sdhABCD)、1-ピロリン-5-カルボン酸デヒドロゲナーゼ(putA)が挙げられる。
【0075】
α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損または低下したEscherichia属細菌、
及びそれらの取得方法は、US5378616やUS5573945に記載されている。これらの株として、具体的には、下記のものが挙げられる。
E. coli W3110sucA::KmR
E. coli AJ12624(FERM BP-3853)
E. coli AJ12628(FERM BP-3854)
E. coli AJ12949(FERM BP-4881)
【0076】
E. coli W3110sucA::KmRは、E. coli W3110のα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺
伝子(sucA)を破壊することにより得られた株である。この株は、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを完全に欠損している。
【0077】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)、P. ananatis SC17株(FERM BP-11091)、P. ananatis SC17(0)株(VKPM B-9246)等のPantoea属細菌も挙げられる。AJ13355株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL-グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株である。SC17株は、AJ13355株から、粘液質低生産変異株と
して選択された株である(US6596517)。SC17株は、2009年2月4日に、独立行政法人産業
技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE IPOD)、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市か
ずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託され、受託番号FERM BP-11091が付与されている。AJ13355株は、1998年2月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託
に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。SC17(0)株は、2005年9月21日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; FGUP GosNII Genetika, Russian Federation, 117545 Moscow, 1stDorozhny proezd, 1)に受託番号VKPM B-9246のもとに寄託されている。
【0078】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損または低下したPantoea属
に属する変異株も挙げられ、上記のようにして取得できる。そのような株としては、AJ13355株のα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼのE1サブユニット遺伝子(sucA)欠損株で
あるP. ananatis AJ13356(US6331419 B1)、及びSC17株のsucA遺伝子欠損株であるPantoea ananatis SC17sucA(米国特許第6,596,517号)が挙げられる。P. ananatis AJ13356は、1998年2月19日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-16645として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6615が付与されている。尚、AJ13356株は、分離された当時はEnterobacter agglomeransと同定され、Enterobacter agglomerans AJ13356として寄託された
。しかし、同株は、近年、16S rRNAの塩基配列解析などにより、P. ananatisに再分類さ
れている。AJ13356は、上記寄託機関にEnterobacter agglomeransとして寄託されている
が、本明細書の目的ではP. ananatisとして記載する。
【0079】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、P. ananatis SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株、P. ananatis AJ13601株、P. ananatis NP106株、及びP. ananatis NA1株等のパントエア属に属する株も挙げられる。SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株は、SC17sucA株に、エシェリヒア・コリ(E. coli)由来のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)
、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gdhA)を含むプラスミドRSFCPG、並びに、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)由来
のクエン酸シンターゼ遺伝子(gltA)を含むプラスミドpSTVCBを導入して得られた。AJ13601株は、このSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株から低pH下で高濃度のL-グルタミン酸に耐性
を示す株として選択された株である。NP106株は、AJ13601株からプラスミドRSFCPGおよびpSTVCBを脱落させて得られた。NA1株は、NP106株にプラスミドRSFPPGを導入して得られた(EP2336347 A1)。AJ13601株は、1999年8月18日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ
鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-17516として寄託され、2000年7月6日にブダペス
ト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-7207が付与されている。
【0080】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、栄養要求性変異株も挙げられる。栄養要求性変異株として、具体的には、例えば、E. coli VL334thrC+(VKPM B-8961;EP1172433)が挙げられる。E. coli VL334(VKPM B-1641)は、thrC遺伝子及びilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシン及びL-スレオニン要求性株である(米国特許第4,278,765号)。E. coli VL334thrC+は、thrC遺伝
子の野生型アレルをVL334に導入することにより得られた、L-イソロイシン要求性のL
-グルタミン酸生産菌である。thrC遺伝子の野生型アレルは、野生型E. coli K-12株(VKPM B-7)の細胞で増殖したバクテリオファージP1を用いる一般的形質導入法により導入された。
【0081】
L-グルタミン酸生産菌およびL-グルタミン酸生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アスパラギン酸アナログに耐性を有する株も挙げられる。これらの株は、例えば、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損していてもよい。アスパラギン酸アナログに耐性を有し、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損した株として、具体的には、例えば、E. coli AJ13199(FERM BP-5807;US5908768)、さらにL-グルタミン酸分解能が低下したE. coli FERM P-12379(US5393671)、E. coli AJ13138(FERM BP-5565;US6110714)が挙げられる。
【0082】
L-ヒスチジン生産菌
L-ヒスチジン生産菌およびL-ヒスチジン生産菌を誘導するために使用できる親株として、具体的には、制限されないが、E. coli 24株(VKPM B-5945;RU2003677 C1)、E. coli 80株(VKPM B-7270, RU2119536 C1)、E. coli NRRL B-12116~B-12121(US4388405)、E. coli H-9342(FERM BP-6675)及びH-9343(FERM BP-6676)(US6344347 B1)、E.
coli H-9341(FERM BP-6674;EP1085087 A2)、E. coli AI80/pFM201(US6258554 B1)
等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0083】
L-ヒスチジン生産菌およびL-ヒスチジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株も挙げられる。そのような遺伝子としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシル-ATPピロホスファターゼ(hisE)、ホスホリボシル-AMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、二機能性ホスホリボシル-AMPサイクロヒ
ドロラーゼ/ホスホリボシル-ATPピロホスファターゼ(hisIE)、ホスホリボシルフ
ォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ(hisH)、ヒスチジノールフォスフェイトアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールフォスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0084】
hisG及びhisBHAFIにコードされるL-ヒスチジン生合成系酵素は、L-ヒスチジンにより阻害されることが知られている。従って、L-ヒスチジン生産能は、例えば、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼにフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより、効率的に増強することができる(RU2003677 C1およびRU2119536 C1)。
【0085】
L-ヒスチジン生産菌およびL-ヒスチジン生産菌を誘導するために使用できる親株として、具体的には、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターで
形質転換したE. coli FERM P-5038及びFERM P-5048(JP56-005099 A)、アミノ酸排出用
の遺伝子であるrhtで形質転換したE. coli株(EP1016710 A2)、スルファグアニジン、DL-1,2,4-トリアゾール-3-アラニン、及びストレプトマイシンに対する耐性を付与したE. coli 80株(VKPM B-7270;RU2119536 C1)、E. coli MG1655+hisGr hisL'_Δ
ΔpurR(RU2119536およびDoroshenko V.G. et al., The directed modification of Escherichia coli MG1655 to obtain histidine-producing mutants, Prikl. Biochim. Mikrobiol. (Russian), 2013, 49(2):149-154)等が挙げられる。
【0086】
L-イソロイシン生産菌
L-イソロイシン生産菌およびL-イソロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、6-ジメチルアミノプリンに耐性を有する変異株(JP 5-304969 A)、チアイソロイシン、イソロイシンヒドロキサメート等のイソロイシンアナロ
グに耐性を有する変異株、さらにDL-エチオニン及び/またはアルギニンヒドロキサメートに耐性を有する変異株(JP5-130882 A)が挙げられる。また、スレオニオンデアミナーゼやアセトヒドロキシ酸シンターゼ等のL-イソロイシン生合成系に関与するタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された組み換え株もL-イソロイシン生産菌または親株として使用できる(JP2-458 A, EP0356739 A1, およびUS5998178)。
【0087】
L-ロイシン生産菌
L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ロイシン耐性のE. coli株(例えば、57株(VKPM B-7386;US6124121))、β-2-チエニルアラニン、3-ヒドロキシロイシン、4-アザロイシン、5,
5,5-トリフルオロロイシン等のロイシンアナログに耐性のE. coli株(JP62-34397 B
およびJP8-70879 A)、WO9606926に記載された遺伝子工学的方法で得られたE. coli株、E. coli H-9068(JP8-70879 A)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0088】
L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-ロイシン生合成に関与する1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、leuABCDオペロンの遺伝子が挙げられ、それは、
L-ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたα-イソプロピルマレートシンターゼをコードする変異型leuA遺伝子(US6403342 B1)に代表され得る。また、L-ロイシン生産菌およびL-ロイシン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、細菌菌体からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株も挙げられる。そのような遺伝子としては、b2682およびb2683遺伝子(ygaZH
遺伝子)が挙げられる(EP1239041 A2)。
【0089】
L-リジン生産菌
L-リジン生産菌およびL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、Escherichia属に属し、且つL-リジンアナログに耐性を有する変異株が挙げられる。L
-リジンアナログはEscherichia属に属する細菌の生育を阻害するが、この阻害は、L-
リジンが培地に共存するときには完全にまたは部分的に脱感作される。L-リジンアナログとしては、制限されないが、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S-(2-アミノエチル)-L-システイン(AEC)、γ-メチルリジン、α-クロロカプロラクタム等
が挙げられる。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、Escherichia属
に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L-リジン生産に有用な細菌株として、具体的には、例えば、E. coli AJ11442(FERM BP-1543, NRRL B-12185;US4346170を参照のこと)及びE. coli VL611が挙げられる。これらの株では、
アスパルトキナーゼにおけるL-リジンによるフィードバック阻害が解除されている。
【0090】
L-リジン生産菌およびL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-リジン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大した株が挙げられる。そのような遺伝子としては、制限されないが、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ(dihydrodipicolinate synthase)(dapA)、アスパルトキナーゼIII(aspartokinase III)(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ(dihydrodipicolinate reductase)(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ(diaminopimelate decarboxylase)(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ(diaminopimelate dehydrogenase)
(ddh)(US6040160)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase)(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenase)(asd)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase)(アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspartate transaminase))(aspC)、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ(diaminopimelate epimerase)(dapF)、テトラヒドロジピコリン酸スクシニラーゼ(tetrahydrodipicolinate succinylase)(dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸デアシラーゼ(succinyl diaminopimelate
deacylase)(dapE)、及びアスパルターゼ(aspartase)(aspA)(EP1253195 A1)を
コードする遺伝子が挙げられる。また、親株では、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo)(EP1170376 A1)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ(nicotinamide nucleotide transhydrogenase)をコードする遺伝子(pntAB)(US5830716 A)、ybjE遺伝子(WO2005073390)、またはこれらの組み合わせの発現レベルが増大していてもよ
い。アスパルトキナーゼIII(lysC)はL-リジンによるフィードバック阻害を受けるの
で、同酵素の活性を増強するには、L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子を利用してもよい(US5932453)。L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたアスパルトキナーゼIIIとしては、318位のメチオニン残基をイソロイシン残基へ置換する変異、323位のグリシン残基をアスパラ
ギン酸残基へ置換する変異、および352位のスレオニン残基をイソロイシン残基へ置換す
る変異から選択される1つまたはそれ以上の変異を有するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のアスパルトキナーゼIIIが挙げられる(米国特許第5,661,012号、米国特許第6,040,160号)。また、ジヒドロジピコリン酸合成酵素(dapA)はL-リジンによる
フィードバック阻害を受けるので、同酵素の活性を増強するには、L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapA遺伝子を利用してもよい。L-リジンによるフィードバック阻害が解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素としては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換される変異を有
するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素が挙げられる(米国特許第6,040,160号)。
【0091】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株では、L-アミノ酸の生合成経路から分岐して他の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または消失していてよい。また、L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導する
ために使用できる親株では、L-リジンの合成または蓄積に対して負に作用する酵素の活性が低下または消失していてよい。そのような酵素としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、リジンデカルボキシラーゼ(lysine decarboxylase;cadA, ldcC)、リンゴ酸酵素(malic enzyme)等が挙げられ、これらの酵素の活性が低下または欠損した株は、WO9523864, WO9617930, WO2005010175等に開示されている。
【0092】
lysine decarboxylase活性を低下または欠損させるためにlysine decarboxylaseをコードするcadAおよびldcC遺伝子の両方の発現を低下させることができる。両遺伝子の発現は、例えば、WO2006078039に記載の方法により、低下させることができる。
【0093】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli WC196株(FERM BP-5252;US5827698)、E. coli WC196ΔcadAΔldcC株(FERM BP-11027;「WC196LC」とも呼ばれる)、E. coli WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株(WO2006078039)も挙げられる。
【0094】
WC196株は、E. coli K-12に由来するW3110株にAEC耐性を付与することにより育種され
た(US5827698)。WC196株は、E. coli AJ13069と命名され、1994年12月6日に、工業技術院生命工学工業技術研究所(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県
木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(US5827698)。
【0095】
WC196ΔcadAΔldcC株は、WC196株より、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子を破壊することにより構築された。WC196ΔcadAΔldcC株は、AJ110692と命
名され、2008年10月7日に、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(現、NITE IPOD、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11027として国際寄託された。
【0096】
WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株は、WC196ΔcadAΔldcC株に、リジン生合成系遺伝子を含
むプラスミドpCABD2(US6040160)を導入することにより構築された。pCABD2は、L-リ
ジンによるフィードバック阻害が解除される変異(H118Y)を有するエシェリヒア・コリ
(E. coli)由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異型dapA遺伝
子と、L-リジンによるフィードバック阻害が解除される変異(T352I)を有するエシェ
リヒア・コリ(E. coli)由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、エシェリヒア・コリ(E. coli)由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードす
るdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)由来ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含んでいる。
【0097】
L-リジン生産菌またはL-リジン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli AJIK01株(NITE BP-01520)も挙げられる。AJIK01株は、E. coli AJ111046と命
名され、2013年1月29日に、NITE IPOD(郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に寄託され、2014年5月15日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号NITE BP-01520が付与されている。
【0098】
L-メチオニン生産菌
L-メチオニン生産菌およびL-メチオニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、特に制限されないが、E. coli AJ11539株(NRRL B-12399)、AJ11540株(NRRL B-12400)、AJ11541株(NRRL B-12401)、AJ 11542株(NRRL B-12402)(特許GB2075055);L-メチオニンアナログであるノルロイシンに耐性のE. coli218株(VKPM B-8125;RU2
209248 C2)および73株(VKPM B-8126;RU2215782 C2);等のEscherichia属に属する株
が挙げられる。E. coli 218株は、2001年5月14日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM; Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)にVKPM B-8125の受託番号で寄託され、2002年2月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。E. coli73株は、2001年5月14日にルシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM; Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)にVKPM B-8126の受託番号で寄託され、2002年2月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。また、メチオニンリプレッサー欠損株やL-メチオニン生合成に関与するタンパク質(ホモセリントランススクシニラーゼやシスタチオニンγ-シンターゼ等)をコードする遺伝子で形質転換した組み換え株(JP2000-139471 A)も、L-メチオニン生産菌または親株
として用いることができる。
【0099】
Escherichia属のL-メチオニン生産菌およびL-メチオニン生産菌を誘導するために
使用できる親株の他の例は、L-メチオニン生合成系のリプレッサー(MetJ)を欠損し、細胞内のホモセリントランスクシニラーゼ(homoserine transsuccinylase)(MetA)活
性が増大したE. coli株(US7611873 B1)、コバラミン非依存性メチオニン合成酵素(cobalamin-independent methionine synthase)(MetE)活性が抑制され、コバラミン依存性メチオニン合成酵素(cobalamin-dependent methionine synthase)(MetH)活性が増大
したE. coli株(EP2861726 B1)、L-スレオニンを生産する能力を有し、スレオニンデ
ヒドラターゼ(threonine dehydratase)(tdcB, ilvA)と、少なくとも、O-スクシニ
ルホモセリンリアーゼ(O-succinylhomoserine lyase)(metB)、シスタチオニンβ-リアーゼ(cystathionine beta-lyase)(metC)、5,10-メチレンテトラヒドロフォレートレダクターゼ(5,10-methylenetetrahydrofolate reductase)(metF)、およびセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(serine hydroxymethyltransferase)(glyA)
を発現するベクターで形質転換されたE. coli株(US7790424 B2)、トランスヒドロゲナ
ーゼ(transhydrogenase)(pntAB)の活性が増強されたE. coli株(EP2633037 B1)等であり得る。
【0100】
L-メチオニン生産菌は、システインシンターゼ(cysteine synthase)コード遺伝子
を過剰発現するように改変されていてよい。
【0101】
「システインシンターゼ(cysteine synthase)コード遺伝子」の用語は、cysteine synthaseをコードする遺伝子を意味し得る。「システインシンターゼ(cysteine synthase
)」の用語は、cysteine synthase活性(EC 2.5.1.47)を有するタンパク質を意味し得る。cysteine synthaseコード遺伝子としては、cysM遺伝子やcysK遺伝子が挙げられる。cysM遺伝子は、チオ硫酸を基質とするcysteine synthase Bをコードしてよい。cysK遺伝子は、硫化物を基質とするcysteine synthase Aをコードしてよい。cysteine synthaseコード遺伝子として、具体的には、P. ananatis固有のcysM遺伝子が挙げられる。P. ananatis固有のcysM遺伝子の塩基配列を配列番号13に示す。
【0102】
L-メチオニン生産菌は、変異型metA遺伝子を有するように改変されていてもよい。
【0103】
metA遺伝子は、ホモセリントランスクシニラーゼ(homoserine transsuccinylase)MetAをコードする(EC 2.3.1.46)。「変異型metA遺伝子」の用語は、変異型MetAタンパク質をコードする遺伝子を意味し得る。「変異型MetAタンパク質」の用語は、R34C変異(これは、野生型MetAタンパク質のアミノ酸配列における34位のアルギニン(Arg)残基がシス
テイン(Cys)残基で置換される変異である)を有するMetAタンパク質を意味し得る。「
野生型metA遺伝子」の用語は、野生型MetAタンパク質をコードする遺伝子を意味し得る。「野生型MetAタンパク質」の用語は、R34C変異を有しないMetAタンパク質を意味し得る。
野生型metA遺伝子としては、P. ananatis固有のmetA遺伝子や、その変異体であってコー
ドされるタンパク質のR34C変異をもたらす変異を有しないものが挙げられる。野生型MetAタンパク質としては、P. ananatis固有のMetAタンパク質や、その変異体であってR34C変
異を有しないものが挙げられる。言い換えると、変異型metA遺伝子は、コードされるタンパク質のR34C変異をもたらす変異を有すること以外は、任意の野生型metA遺伝子と同一であってもよい。また、変異型MetAタンパク質は、R34C変異を有すること以外は、任意の野生型MetAタンパク質と同一であってもよい。P. ananatis固有のMetAタンパク質のアミノ
酸配列を配列番号35に示す。具体的には、変異型MetAタンパク質のアミノ酸配列の一例は配列番号37に示すアミノ酸配列であり得るものであり、それは配列番号36に示す塩基配列を有する変異型metA遺伝子にコードされ得る。すなわち、変異型metA遺伝子は配列番号36に示す塩基配列を有する遺伝子(例えばDNA)であってもよく、変異型MetAタンパク質は
配列番号37に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。変異型metA遺伝子は、配列番号36の変異体塩基配列であってコードされるタンパク質のR34C変異をもたらす変異を有する塩基配列を有する遺伝子(例えばDNA)であってもよい。変異型MetAタンパク
質は、配列番号37の変異体アミノ酸配列であってR34C変異を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。変異型MetAタンパク質は、L-メチオニンによるフィードバック阻害に耐性のhomoserine transsuccinylaseであってもよい。言い換えると、変異型MetAタンパク質は、homoserine transsuccinylase活性を有し、L-メチオニンによるフィードバック阻害に耐性のタンパク質であってもよい。後述するindolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびそれにコードされるindolepyruvate decarboxylaseの変異体に関する記載は、metA遺伝子の変異体およびMetAタンパク質の変異体にも準用できる。「34位」との用語は、必ずしも野生型MetAタンパク質のアミノ酸配列における絶対的な位置を示すものはなく、野生型MetAタンパク質における配列番号35に示すアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。
【0104】
L-メチオニン生産菌は、metJ遺伝子の発現が弱化するように改変されていてよい。
【0105】
metJ遺伝子は、Metリプレッサーをコードし、それはメチオニンレギュロンの発現とS
-アデノシルメチオニン(SAM)合成に関与する酵素の発現を抑制し得る。metJ遺伝子と
しては、P. ananatis等の宿主細菌に固有のものが挙げられる。P. ananatis固有のmetJ遺伝子の塩基配列を配列番号24に示す。
【0106】
L-メチオニン生産菌は、スレオニンによるフィードバック阻害に耐性の変異型アスパルトキナーゼ-ホモセリンデヒドロゲナーゼI(aspartokinase homoserine dehydrogenase I)をコードする変異型thrA遺伝子を有するように改変されていてよい。変異型thrA遺
伝子としては、thrA442遺伝子が挙げられる。
【0107】
L-メチオニン生産菌は、アミノメチルトランスフェラーゼ(aminomethyltransferase)遺伝子を過剰発現するように改変されていてよい。
【0108】
「アミノメチルトランスフェラーゼ(aminomethyltransferase)遺伝子」の用語は、aminomethyltransferaseをコードする遺伝子を意味し得る。「アミノメチルトランスフェラーゼ(aminomethyltransferase)」の用語は、aminomethyltransferase活性(EC 2.1.2.10)を有するタンパク質を意味し得る。aminomethyltransferase遺伝子としては、gcvT遺
伝子が挙げられる。
【0109】
Pantoea属のL-メチオニン生産菌およびL-メチオニン生産菌を誘導するために利用
できる親株としては、特に制限されないが、P. ananatis AJ13355株(FERM BP-6614)が
挙げられる。同株は、P. ananatis SC17株(FERM BP-11091)としても知られている。
【0110】
L-オルニチン生産菌
L-オルニチンは、L-アルギニン生合成経路における中間体であるため、L-オルニチン生産菌およびL-オルニチン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種またはそれ以上の遺伝子(上記のもの等)の発現が増大した株が挙げられる。
【0111】
L-オルニチン生産菌は、任意のL-アルギニン生産菌(例えばE. coli 382株(VKPM B-7926)等)から、argF及びargI両遺伝子によりコードされるオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼを不活化することにより容易に得ることができる。遺伝子を不活化する方法は、本明細書に記載されている。
【0112】
L-フェニルアラニン生産菌
L-フェニルアラニン生産菌およびL-フェニルアラニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli AJ12739(tyrA::Tn10, tyrR)(VKPM B-8197)、変異型pheA34遺伝子を保持するE. coli HW1089(ATCC 55371;US5354672)、E. coli MWEC101-b(KR8903681)、E. coli NRRL B-12141、NRRL B-12145、NRRL B-12146、
及びNRRL B-12147(US4407952)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAB](FERM BP-3566)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHAD](FERM BP-12659)、E. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pPHATerm](FERM BP-12662)、並びにAJ12604と命名されたE. coli K-12 [W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB](FERM BP-3579、EP488424 B1)等のEscherichia属に属する株が挙
げられる。さらに、L-フェニルアラニン生産菌およびL-フェニルアラニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が増強されたEscherichia属に属するL-フェニルアラニン生産菌も挙
げられる(US7259003およびUS7666655)。
【0113】
L-プロリン生産菌
L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ilvA遺伝子を欠損し、L-プロリンを生産できるE. coli 702ilvA
(VKPM B-8012、EP1172433 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、L-プロリン生合成に関与する1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増強された株も挙げられる。
L-プロリン生産菌において使用することができるそのような遺伝子の例としては、L-プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子が挙げられる(DE3127361 A1)。さらに、L-プロリン生産菌およびL-プロリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、細菌の細胞からのL-アミノ酸の排出を担うタンパク質をコードする遺伝子の1種またはそれ以上遺伝子の発現が増強された株
も挙げられる。このような遺伝子の例としては、b2682遺伝子及びb2683遺伝子(ygaZH遺
伝子)(EP1239041 A2)が挙げられる。
【0114】
L-プロリン生産能を有するEscherichia属に属する細菌としては、NRRL B-12403及びNRRL B-12404(GB2075056)、VKPM B-8012(RU2207371 C2)、DE3127361 A1に記載のプラ
スミド変異株、Bloom F.R. et al. in <<The 15th Miami winter symposium>>, 1983, p.34に記載のプラスミド変異株等のE. coli株が挙げられる。
【0115】
L-スレオニン生産菌
L-スレオニン生産菌およびL-スレオニン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、E. coli TDH-6/pVIC40(VKPM B-3996;US5175107およびUS5705371)、E. coli 472T23/pYN7(ATCC 98081;US5631157)、E. coli NRRL-21593(US 5939307)、E. coli FERM BP-3756(US5474918)、E. coli FERM BP-3519及びFERM BP-3520(US5376538)、E. coli MG442(Gusyatiner M.M. et al., Study of relA gene function
in the expression of amino acid operons. II. Effect of the relA gene allelic state on threonine over-production by Escherichia coli K-12 mutants resistant to β-hydroxynorvaline acid, Genetika (Russian), 1978, 14(6):957-968)、E. coli VL643及びVL2055(EP1149911 A2)、E. coli VKPM B-5318(EP0593792 A1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。
【0116】
TDH-6株は、thrC遺伝子を欠損し、スクロース資化性であり、そのilvA遺伝子がリーキ
ー(leaky)変異を有する。この株は、また、rhtA遺伝子に、高濃度のスレオニンまたは
ホモセリンに対する耐性を付与する変異を有する。VKPM B-3996株は、プラスミドpVIC40
を保持する株であり、TDH-6株にプラスミドpVIC40を導入することにより得られたもので
ある。プラスミドpVIC40は、変異型thrA遺伝子を含むthrA*BCオペロンをRSF1010由来ベクターに挿入することにより得たものである。この変異型thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に解除されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする。VKPM B-3996株は、1987年11月19日にAll-Union Scientific Center of Antibiotics(Russian Federation, 117105 Moscow, Nagatinskaya Street 3-A)に受
託番号RIA 1867で寄託されている。VKPM B-3996株は、1987年4月7日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; Russian Federation, 117545 Moscow, 1stDorozhny proezd, 1)にも受託番号B-3996で寄託されている。
【0117】
B-5318株は、イソロイシン非要求性であり、プラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの制御領域が温度感受性ラムダファージC1リプレッサー及びPRプロモーターにより置換されている。VKPM B-5318株は、1990年5月3日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM)に受託番号VKPM B-5318で寄託されている。
【0118】
L-スレオニン生産菌またはL-スレオニン生産菌を誘導するために使用できる親株は、下記の遺伝子の1種またはそれ以上の発現が増強されるようにさらに改変されていても
よい:
- スレオニンによるフィードバック阻害に対して耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子、
- ホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子、
- スレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子;
- スレオニン及びホモセリン排出系の推定膜貫通型タンパク質をコードするrhtA遺伝子、
- アスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子、
- アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(アスパルテートトランスアミナーゼ)をコードするaspC遺伝子。
【0119】
E. coliのアスパルトキナーゼIおよびホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA
遺伝子は明らかにされている(KEGG、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes、エン
トリーNo. b0002、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置337~2,799、Gene ID 945803)。thrA遺伝子は、E. coli K-12の染色体においてthrL遺伝子とthrB遺伝子との間に位置する。
【0120】
E. coliのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(KEGG、
エントリーNo. b0003、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置2,801~3,733、Gene ID 947498)。thrB遺伝子は、E. coli K-12の染色体においてthrA遺伝子とthrC遺伝子との間に位置する。
【0121】
E. coliのスレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子は明らかにされている(KEGG
、エントリーNo. b0004、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置3,734
~5,020、Gene ID 945198)。thrC遺伝子は、E. coli K-12株の染色体においてthrB遺伝
子とyaaX遺伝子との間に位置する。これらの3つの遺伝子全部が、単一のスレオニンオペロンthrABCとして機能する。スレオニンオペロンの発現を増強するためには、転写に影響するアテニュエーター領域をオペロンから除去することが望ましい(WO2005049808 A1、WO2003097839 A1)。
【0122】
スレオニンによるフィードバック阻害に対して耐性のアスパルトキナーゼIおよびホモ
セリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子、ならびにthrB遺伝子及びthrC
遺伝子は、E. coliスレオニン生産株VKPM B-3996に存在する周知のプラスミドpVIC40から単一のオペロンとして取得できる。プラスミドpVIC40の詳細は、US5705371に記載されて
いる。
【0123】
E. coliのスレオニン及びホモセリン排出系(内膜輸送体)のタンパク質をコードするrhtA遺伝子は明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b0813、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置849,210~850,097、相補鎖、Gene ID 947939)。rhtA遺
伝子は、E. coli K-12株の染色体上、グルタミン輸送系の要素をコードするglnHPQオペロン近くのdps及びompX遺伝子の間に位置する。rhtA遺伝子はybiF遺伝子(KEGG、エントリ
ーNo. B0813)と同一である。
【0124】
E. coliのアスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子は明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b3433、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置3,573,775~3,574,878、相補鎖、Gene ID947939)。asd遺伝子は、E. coli K-12株の染色体上、同じ鎖上に位置するglgB及びgntU遺伝子の間に位置する(yhgN遺伝子は反対鎖上)。
【0125】
また、E. coliのアスパルテートアミノトランスフェラーゼをコードするaspC遺伝子は
明らかにされている(KEGG、エントリーNo. b0928、GenBank accession No. NC_000913.3、ヌクレオチド位置984,519~985,709、相補鎖、Gene ID 945553)。aspC遺伝子は、E. coli K-12の染色体上、反対鎖上のgloC遺伝子と同一鎖上のompF遺伝子との間に位置している。
【0126】
L-トリプトファン生産菌
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、変異型trpS遺伝子にコードされるトリプトファニル-tRNAシンテターゼを欠損したE. coli JP4735/pMU3028(DSM10122)及びJP6015/pMU91(DSM10123)(US5756345)、セリンによるフィードバック阻害を受けないホスホグリセリレートデヒドロゲナーゼをコードするserAアレル及びトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニレートシンターゼをコードするtrpEアレルを有するE. coli SV164(pGH5)(US6180373 B1)、酵素トリプトファナーゼを欠損するE. coli AGX17(pGX44)(NRRL B-12263)及びAGX6(pGX50)aroP(NRRL B-12264)(US4371614)、ホスホエノールピ
ルビン酸生産能が増強されたE. coli AGX17/pGX50,pACKG4-pps(WO9708333, US6319696 B1)等のEscherichia属に属する株が挙げられる。L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、yedA遺伝子またはyddG遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が増強されたEscherichia属に属するL-トリ
プトファン生産菌も挙げられる(US2003148473 A1およびUS2003157667 A1)。
【0127】
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アントラニレートシンターゼ、ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ、およびトリプトファンシンターゼから選択される酵素の1種またはそれ以上の活性が増強された株も挙げられる。アントラニレートシンターゼ及びホスホグリセレートデヒドロゲ
ナーゼは共にL-トリプトファン及びL-セリンによるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を解除する変異をこれらの酵素に導入してもよい。そのような変異を有する株の具体例としては、フィードバック阻害が解除されたアントラニレートシンターゼを保持するE. coli SV164、及びフィードバック阻害が解除されたホスホグリセレー
トデヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を含むプラスミドpGH5(WO9408031 A1)をE. coli SV164に導入することにより得られた形質転換株が挙げられる。
【0128】
L-トリプトファン生産菌およびL-トリプトファン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、阻害解除型アントラニレートシンターゼをコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入された株(JP57-71397 A, JP62-244382 A, US4371614)も挙げられる。さらに、トリプトファンオペロン(trpBA)中のトリプトファンシンターゼをコ
ードする遺伝子の発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を付与してもよい。トリプトファンシンターゼは、それぞれtrpA及びtrpB遺伝子によりコードされるα及びβサブユニットからなる。さらに、イソシトレートリアーゼ-マレートシンターゼオペロ
ンの発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を改良してもよい(WO2005103275)。
【0129】
L-バリン生産菌
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、制限されないが、ilvGMEDAオペロンを過剰発現するように改変された株(US5998178)が
挙げられる。ilvGMEDAオペロン中のアテニュエーションに必要な領域を除去し、生産されるL-バリンによりオペロンの発現が減衰しないようにすることが望ましい。さらに、オペロン中のilvA遺伝子が破壊され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少していることが望ましい。
【0130】
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、アミノアシルt-RNAシンテターゼに変異を有する変異株(US5658766)も挙げられる。そのような株の例としては、イソロイシンtRNAシンテターゼをコードするileS遺伝子に変異を有するE. coli VL1970が挙げられる。E. coli VL1970は、1988年6月24日に、Russian National Collection of Industrial Microorganisms(VKPM; Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)に、受託番号VKPM B-4411で寄託されている。
【0131】
さらに、増殖にリポ酸を要求し、且つ/又は、H+-ATPアーゼを欠損している変異株もL-バリン生産菌またはその親株として用いることができる(WO9606926 A1)。
【0132】
L-バリン生産菌およびL-バリン生産菌を誘導するために使用できる親株としては、E. coli H81株(VKPM B-8066、例えばEP1942183 B1参照)、E. coli NRRL B-12287及びNRRL B-12288(US4391907)、E. coli VKPM B-4411(US5658766)、E. coli VKPM B-7707(EP1016710 A2)なども挙げられる。
【0133】
L-アミノ酸生産菌の育種に用いられる遺伝子およびタンパク質は、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質の公知の塩基配列およびアミノ酸配列をそれぞれ有していてよい。また、L-アミノ酸生産菌の育種に用いられる遺伝子およびタンパク質は、元の機能(例えば、タンパク質の場合はそれぞれの酵素活性)が維持されている限り、上記例示した遺伝子およびタンパク質の変異体(variant)(例えば、そのような公知の塩基配列
およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質の変異体)であってもよい。遺伝子およびタンパク質の変異体については、本明細書に記載のindolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびそれにコードされるindolepyruvate decarboxylaseの変異体についての記載を準用できる。
【0134】
本明細書に記載の腸内細菌目に属する細菌は、少なくとも、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が弱化するように改変されてよい。
【0135】
「インドールピルビン酸デカルボキシラーゼ(indolepyruvate decarboxylase)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子」の用語は、以下の反応:indol-3-pyruvate + H+ → indole-3-acetaldehyde + CO2(EC: 4.1.1.74)を触媒する酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を意味し得る。タンパク質のindolepyruvate decarboxylase活性を測定する方法としては、例えば、Koga J. et al.(Purification and characterization of indolepyruvate decarboxylase, J. Biol. Chem., 1992, 267(22):15823-15828)に記載されたものが挙げられる。タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミン(BSA)を標準とし
てクマシー色素を用いたBradfordタンパク質アッセイまたはLowry法(Bradford M.M., A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein-dye binding, Anal. Biochem., 1976, 72:248-254; Lowry O.H. et al., Protein measurement with the Folin phenol reagent, J. Biol. Chem., 1951, 193:265-275)またはウエスタンブロット解析(Hirano S., Western blot analysis, Methods Mol. Biol., 2012, 926:87-97)により決定することができる。
【0136】
indolepyruvate decarboxylase活性を有する酵素をコードする遺伝子として、具体的には、indolepyruvate decarboxylaseをコードするipdC遺伝子が挙げられる。indolepyruvate decarboxylase活性を有する酵素をコードする遺伝子は、ipdC遺伝子およびそのホモログまたは変異体塩基配列であり得る。ipdC遺伝子およびそのホモログならびに変異体塩基配列については、より具体的に後述する。
【0137】
P. ananatis固有のipdC遺伝子は、indolepyruvate decarboxylaseタンパク質IpdC(別
名:indole-3-pyruvate decarboxylase, 3-(indol-3-yl)pyruvate carboxy-lyase)をコ
ードする(BioCyc database, biocyc.org, accession ID: PAJ_RS11190; UniProtKB/Swiss-Prot, accession No. A0A0H3L5I5; UniParc, accession No. UPI0002040446; KEGG entry No. PAJ_2029)。
【0138】
ipdC遺伝子(GenBank, accession No. NC_017531.2/AP012032.2; nucleotide positions: 2461340 to 2462992, complement; Gene ID: BAK12109.1)は、P. ananatis AJ13355
株の染色体において、同一鎖上のglk遺伝子(BAK12108.1)と反対鎖上のyjhZ遺伝子(BAK12110.1)の間に位置する。P. ananatis AJ13355株固有のipdC遺伝子は配列番号1に示す
塩基配列を有し、同遺伝子にコードされるP. ananatis AJ13355株固有のIpdCタンパク質
のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0139】
すなわち、ipdC遺伝子は配列番号1に示す塩基配列を有する遺伝子(例えば、DNA)であり得、IpdCタンパク質は配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。
「遺伝子またはタンパク質が塩基配列またはアミノ酸配列を有する」という表現は、特記しない限り、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列または当該アミノ酸配列をより長い配列中に含むことを意味し得るものであり、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列または当該アミノ酸配列のみを有することも意味し得る。
【0140】
上述の通り、腸内細菌目に属する種々の細菌に固有のindolepyruvate decarboxylase活性を有するIpdCのタンパク質ホモログは公知である。そのような腸内細菌目に属する細菌に固有のホモログタンパク質の例を、NCBIデータベース(National Center for Biotechnology Information, ncbi.nlm.nih.gov/protein)におけるアミノ酸配列のaccession番号、系統分類データ、相同性の値(アミノ酸の同一性である「同一性」として)の表示と共に表1に示す。特に、配列番号54に示す塩基配列を有するE. coli固有のipdC遺伝子は、
配列番号55に示すアミノ酸配列を有するIpdCタンパク質をコードすることが知られている
(表1;accession No.: WP_069192931.1)。
【0141】
【0142】
本明細書に記載の細菌は、スレオニンデアミナーゼ(threonine deaminase)活性を有
するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変された、腸内細菌目に属するL-アミノ酸生産菌でもあり得る。すなわち、本明細書に記載の方法で使用できる腸内細菌目に属する細菌は、threonine deaminase活性を有するタンパク質をコードする遺
伝子の発現が弱化するように改変されてもよい。細菌は、indolepyruvate decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびthreonine deaminase活性を有するタ
ンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変されてもよい。indolepyruvate
decarboxylase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変された、腸内細菌目に属するL-アミノ酸生産菌についての記載は、threonine deaminase活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現が弱化するように改変された、腸内
細菌目に属するL-アミノ酸生産菌にも準用できる。
【0143】
「スレオニンデアミナーゼ(threonine deaminase)活性を有するタンパク質をコード
する遺伝子」(別名:threonine dehydratase, threonine ammonia-lyase)の用語は、以下の反応:L-threonine → 2-oxobutanoate + ammonium(EC: 4.3.1.19)を触媒する酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を意味し得る。タンパク質のthreonine deaminase活性は、例えば、フェニルヒドラゾン誘導体として生成するα-ケト酪酸を測定す
ることにより、または他の公知の手法により、決定できる(Calhoun D.H. et al., Threonine deaminase from Escherichia coli. I. Purification and properties, J. Biol. Chem., 1973, 248(10):3511-3516; Eisenstein E., Cloning, expression, purification,
and characterization of biosynthetic threonine deaminase from Escherichia coli,
J. Biol. Chem., 1991, 266(9):5801-5807)。
【0144】
threonine deaminase活性を有する酵素をコードする遺伝子として、具体的には、threonine deaminaseをコードするilvA遺伝子が挙げられる。threonine deaminase活性を有す
る酵素をコードする遺伝子は、ilvA遺伝子およびそのホモログまたは変異体塩基配列であり得る。ilvAおよびそのホモログならびに変異体塩基配列については、より具体的に後述する。
【0145】
P. ananatis固有のilvA遺伝子は、ピリドキサールリン酸依存性スレオニンデヒドラタ
ーゼ(pyridoxal-phosphate dependent threonine dehydratase)タンパク質IlvAをコー
ドする(BioCyc database, biocyc.org, accession ID: PAJ_RS16870; UniParc, accession No. UPI0002323460; KEGG entry No. PAJ_3043)。
【0146】
ilvA遺伝子(GenBank, accession No. NC_017531.2/AP012032.2; nucleotide positions: 3640258 to 3641871, complement; Gene ID: BAK13123.1)は、P. ananatis AJ13355
株の染色体において、反対鎖上のilvY遺伝子(BAK13122.1)と同一鎖上のilvD遺伝子(BAK13124.1)の間に位置する。P. ananatis AJ13355株固有のilvA遺伝子は配列番号3に示す塩基配列を有し、同遺伝子にコードされるP. ananatis AJ13355株固有のIlvAタンパク質
のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0147】
すなわち、ilvA遺伝子は配列番号3に示す塩基配列を有する遺伝子(例えば、DNA)であってよく、IlvAタンパク質は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であって
よい。
【0148】
上述の通り、腸内細菌目に属する種々の細菌に固有のthreonine deaminase活性を有す
るIlvAのタンパク質ホモログは公知である。そのような腸内細菌目に属する細菌に固有のホモログタンパク質の例を、NCBIデータベース(National Center for Biotechnology Information, ncbi.nlm.nih.gov/protein)におけるアミノ酸配列のaccession番号、系統分類データ、相同性の値(アミノ酸の同一性である「同一性」として)の表示と共に表2に
示す。
【0149】
【0150】
例えば、遺伝子発現の弱化、タンパク質(変異体タンパク質を含む)、および遺伝子(変異体塩基配列を含む)についての以下の説明は、本明細書に記載の任意のタンパク質および遺伝子(制限されないが、IpdCおよびIlvAタンパク質、およびipdCおよびilvA遺伝子等のそれらをコードする遺伝子、ならびにそれらのホモログを含む)に準用できる。
【0151】
腸内細菌目に属する科、属、種、または株間でDNA配列に相違があり得る。従って、ipdCおよびilvA遺伝子は、配列番号1および3に示す塩基配列を有する遺伝子に限定されず、
配列番号1および3に対する変異体塩基配列である、またはそれと相同な遺伝子であって、IpdCおよびIlvAタンパク質の変異体をコードするものを包含してもよい。同様に、IpdCおよびIlvAタンパク質は、配列番号2および4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質に限定されず、配列番号2および4の変異体アミノ酸配列を有する、またはそれと相同なタンパク質を包含してもよい。
【0152】
「変異体塩基配列」の用語は、標準遺伝子暗号表(例えば、Lewin B., “Genes VIII”, 2004, Pearson Education, Inc., Upper Saddle River, NJ 07458を参照)による任意
の同義のアミノ酸コドンを使用して野生型アミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列を意味し得る。従って、野生型アミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子は、遺伝暗号の縮重による変異体塩基配列を有する遺伝子であり得る。
【0153】
「変異体塩基配列」の用語は、制限されないが、例えば、上述のindolepyruvate decarboxylase活性またはthreonine deaminase活性等の所望の活性を有するタンパク質をコー
ドする限り、野生型塩基配列に相補的な塩基配列または該塩基配列から調製し得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な塩基配列も意味し得る。「ストリンジェントな条件」の用語は、特異的なハイブリッド、例えばコンピュータプログラムblastnを使用する場合のパラメーター「同一性」として定義される相同性が50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%
以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上のハイ
ブリッド、が形成され、非特異的なハイブリッド、例えば上記より相同性が低いハイブリッド、が形成されない条件を包含し得る。ストリンジェントな条件としては、例えば、1
×SSC(標準クエン酸ナトリウムまたは標準塩化ナトリウム)、0.1% SDS(ドデシル硫酸
ナトリウム)の塩濃度で60℃において、別の例では0.1×SSC、0.1% SDSの塩濃度で60℃または65℃において、1回以上、別の例では2または3回洗浄する条件が挙げられる。洗浄時間は、ブロッティングに使用されたメンブレンの種類に依存するが、一般的には製造者により推奨されるものとすべきである。例えば、Amersham HybondTM-N+正荷電ナイロンメンブレン(GE Healthcare)のストリンジェントな条件下での推奨洗浄時間は15分である
。洗浄工程は2または3回行うことができる。プローブとしては、野生型塩基配列に相補的な配列の一部を使用してもよい。そのようなプローブは、野生型塩基配列に基づいて調製されたオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用し、塩基配列を含むDNA断片を鋳型
として使用するPCR(polymerase chain reaction;White T.J. et al., The polymerase chain reaction, Trends Genet., 1989, 5:185-189を参照のこと)によって調製することができる。プローブの長さは、50 bpを超えることが推奨されるが、ハイブリゼーション
条件により適切に選択することができ、通常100 bp ~1 kbpである。例えば、約300 bpの長さを有するDNA断片をプローブとして使用する場合、ハイブリダイゼーション後の洗浄
条件としては、50℃、60℃、または65℃における2×SSC、0.1%SDSの条件が例示され得る
。
【0154】
「変異体塩基配列」の用語は、変異体タンパク質をコードする塩基配列も意味し得る。
【0155】
「変異体タンパク質」の用語は、変異体アミノ酸配列を有するタンパク質を意味し得る。
【0156】
「変異体タンパク質」の用語は、タンパク質の野生型アミノ酸配列と比較して、1また
は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加のいずれであるにせよ、1つ
またはそれ以上の変異をアミノ酸配列中に有するタンパク質であって、野生型タンパク質と同様の活性または機能が維持されているか、その三次元構造が非改変型タンパク質に対して顕著には変更されていないタンパク質を意味し得る。変異体タンパク質中の変異の数は、タンパク質の三次元構造中のアミノ酸残基の位置またはアミノ酸残基の種類による。変異体タンパク質中の変更の数は、厳密に限定されるものではないが、タンパク質の野生型アミノ酸配列において1~300、別の例では1~250、別の例では1~200、別の例では1~150、別の例では1~100、別の例では1~90、別の例では1~80、別の例では1~70、別の例
では1~60、別の例では1~50、別の例では1~40、別の例では1~30、別の例では1~20、
別の例では1~15、別の例では1~10、あるいは別の例では1~5であってよい。これは、アミノ酸には互いに高い相同性を有するものがあり、そのような変化では活性または機能が影響を受けないか、タンパク質の三次元構造が野生型または非改変型タンパク質に対して顕著には変化しないためである。従って、変異体タンパク質は、活性または機能が維持されているか、タンパク質の三次元構造が野生型または非改変型タンパク質に対して顕著には変更されていない限り、タンパク質の野生型アミノ酸配列全体に対して50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%
以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、あるいは99%以上の、
コンピュータプログラムblastpを使用する際のパラメーター「同一性」として定義される相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。本明細書において、「相同性」の用語は、「同一性」(これは、アミノ酸残基間の同一性である)を意味してよい。2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列した際の2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
【0157】
1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例としては、変異体タンパク質の活性または機能が維持されるか、タンパク質の三次元構造が非改変型タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変化しないように、保存的変異が挙げられる。保存的変異の代表的なものは保存的置換である。保存的置換は、制限されないが、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が
疎水性アミノ酸である場合には、Ala、Leu、Ile、Val間で、置換部位が親水性アミノ酸である場合にはGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、His、Thr間で、置換部位が極性アミノ酸である
場合には、Gln、Asn間で、置換部位が塩基性アミノ酸である場合にはLys、Arg、His間で
、置換部位が酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、置換部位がヒドロキシル基を有するアミノ酸である場合には、Ser、Thr間で、互いに置換する置換である。保存的置換の例としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからAsn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Argま
たはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、Val
またはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、及びValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、又は付加等は、アミノ酸配列が由来する生物の個体差によって天然に生じる変異を包含する。
【0158】
1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例としては、非保存的変異も挙げられるが、ただし、その変異は、アミノ酸配列の異なる位置の1つまた
はそれ以上の第2の変異により、変異体タンパク質の活性または機能が維持されるか、タ
ンパク質の三次元構造が非改変型タンパク質(例えば、野生型タンパク質等)に対して顕著には変化しないように、補償されるものである。
【0159】
アミノ酸配列の同一性のパーセンテージは、blastpアルゴリズムにより算出できる。より具体的には、アミノ酸配列の同一性のパーセンテージは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)より提供されるblastpアルゴリズムによりデフォルト設定
のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出できる。塩基配列の同一性のパーセンテージは、blastnアルゴリズムにより算出できる。より具体的には、塩基配列の同一性のパーセンテージは、NCBIより提供されるblastnアルゴリズムによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出できる。
【0160】
「細菌が遺伝子の発現が弱化するように改変された」の用語は、改変された細菌において遺伝子の発現が弱化するように、細菌が改変されていることを意味し得る。遺伝子の発現は、例えば、同遺伝子の不活化により弱化し得る。
【0161】
「遺伝子が不活化される」の用語は、改変された遺伝子が、野生型または非改変型遺伝子と比較して、完全に不活性または機能しないタンパク質をコードすることを意味し得る。改変されたDNA領域は、遺伝子の一部の欠損もしくは遺伝子全体の欠損、遺伝子がコー
ドするタンパク質のアミノ酸置換をもたらす1塩基以上の置換(ミスセンス変異)、終止
コドンの導入(ナンセンス変異)、遺伝子のリーディングフレームシフトをもたらす1塩
基または2塩基の欠失、薬剤耐性遺伝子および/もしくは転写終結シグナルの挿入、また
は遺伝子の隣接領域(これは、プロモーター、エンハンサー、アテニュエーター、リボソーム結合部位、等の遺伝子の発現を制御する配列を含む)の改変により、自然には遺伝子を発現できなくてよい。遺伝子の不活化は、例えば、紫外線照射またはニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン)を用いた変異処理、部位特異的変異導
入、相同組み換えを用いた遺伝子破壊、および/または「Red/ET-driven integration」
または「λRed/ET-mediated integration」に基づく挿入-欠失変異導入(Yu D. et al.,
An efficient recombination system for chromosome engineering in Escherichia coli, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(11):5978-5983; Datsenko K.A. and Wanner B.L., One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645; Zhang Y. et al., A new logic for DNA engineering using recombination in Escherichia coli, Nature Genet., 1998, 20:123-128)等の常法により実施できる。
【0162】
「細菌が遺伝子の発現が弱化するように改変された」の用語は、改変された細菌が作動可能に遺伝子に連結された領域(これは、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、アテニュエーターと終結シグナル、リボソーム結合部位、およびその他の発現制御エレメント、等の遺伝子の発現を制御する配列を含む)であって、遺伝子の発現レベルが弱化するように改変されるものを有すること;およびその他の例(例えば、WO9534672 A1; Carrier T.A. and Keasling J.D., Library of synthetic 5’ secondary structures to manipulate mRNA stability in Escherichia coli, Biotechnol. Prog., 1999, 15:58-64を
参照のこと)を意味し得る。
【0163】
「作動可能に遺伝子に連結された(operably linked to the gene)」の用語は、制御
領域が、塩基配列の発現(例えば、増強された、増加した、構成的な、基底の、抗終結された、弱化した、制御解除された、低下した、または抑制された発現)、具体的には塩基配列にコードされる遺伝子産物の発現を達成できるように、核酸分子または遺伝子の塩基配列に連結されていることを意味し得る。
【0164】
「細菌が遺伝子の発現が弱化するように改変された」の用語は、改変された細菌において、遺伝子の発現レベル(すなわち発現量)が非改変株(例えば、野生株または親株)と比較して弱化するように、細菌が改変されていることも意味し得る。遺伝子の発現レベルの低下は、例えば、細胞当たりの遺伝子の発現レベル(これは細胞当たりの遺伝子の平均発現レベルであってよい)の低下として測定され得る。「遺伝子の発現レベル」または「遺伝子の発現量」の用語は、例えば、遺伝子の発現産物の量(例えば、同遺伝子のmRNAの量または同遺伝子にコードされるタンパク質の量)を意味し得る。細菌は、細胞あたりの遺伝子の発現レベルが、例えば、非改変細菌の50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、ま
たは0%に低下するように改変されてよい。
【0165】
「細菌がmetJ遺伝子の発現が弱化するように改変された」の用語は、改変された細菌において、非改変細菌と比較して、対応する遺伝子産物(すなわちコードされるタンパク質)の総量および/または総活性低下するように、細菌が改変されていることを意味し得る。タンパク質の総量または総活性の低下は、例えば、細胞当たりのタンパク質の量または活性(これは細胞当たりのタンパク質の平均量または平均活性であってよい)の低下として測定され得る。細菌は、細胞あたりのタンパク質の活性が、例えば、非改変細菌の50%
以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下するように改変され得る。
【0166】
上記比較に供される非改変細菌としては、E. coli MG1655株(ATCC 47076)やE. coli W3110株(ATCC 27325)等のEscherichia属に属する細菌の野生株またはP. ananatis AJ13355 株(FERM BP-6614)等のPantoea属に属する細菌の野生株等が挙げられる。上記比較
に供される非改変細菌としては、遺伝子の発現が弱化するように改変されていない親株または遺伝子の発現が弱化していない細菌も挙げられる。
【0167】
遺伝子の発現は、染色体DNA上のプロモーター等の遺伝子の発現制御配列をより弱いも
のに置換することによって弱化させることができる。プロモーターの強度は、RNA合成の
開始作用の頻度により定義される。プロモーターの強度の評価法の例は、Goldstein M.A.
et al.(Goldstein M.A. and Doi R.H., Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。また、WO0018935 A1
に開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に1つまたはそれ以上の塩基置換を導入することによりプロモーターを弱くなるように改変することもできる。さらに、シャイン・ダルガルノ(SD)配列、及び/又はSD配列と開始コドンの間のスペーサー、及び/又はリボソーム結合部位(RBS)中の開始コドンの直ぐ上流または下流の配列における数
個のヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳効率に大きく影響することが知られている。
【0168】
遺伝子の発現は、具体的には、例えば、遺伝子のコード領域(US5175107)もしくは遺
伝子発現を制御する領域にトランスポゾンまたは挿入配列(IS)を挿入することによって、または紫外線照射またはニトロソグアニジン(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニ
ジン;NTG)による変異導入等の常法によって、弱化させることもできる。さらに、部位
特異的な変異の組み込みは、例えば、λRed/ETを介した組み換え(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645)に基づく公知の染
色体編集法により実施できる。
【0169】
遺伝子のコピー数または遺伝子の存在あるいは不在は、例えば、染色体DNAを制限処理
した後、遺伝子配列に基づいたプローブを使用するサザンブロッテイング、または蛍光in
situハイブリダイゼーション(FISH)等を行うことにより、測定することができる。遺
伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティングや定量的RT-PCR等の様々な周知の方法を使用して遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。遺伝子によってコードされるタンパク質の量は、SDS-PAGEと、その後の免疫ブロッティング(
ウェスタンブロッティング)やタンパク質試料の質量分析等の公知の方法により測定することができる。
【0170】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断、DNAの結合、DNAの形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択、変異の導入等の、DNAの組み換え分子の操作及び分子クローニ
ングのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。そのような方法は、例えば、Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., “Molecular Cloning: A Laboratory
Manual”, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)またはGreen M.R. and Sambrook J.R., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012); Bernard R. Glick, Jack J. Pasternak and Cheryl L. Patten, “Molecular Biotechnology: principles and applications of recombinant DNA”, 4th ed., Washington, DC, ASM Press (2009)に記載されている。
【0171】
組み換えDNAを用いた操作法としては、例えば、形質転換、トランスフェクション、感染、接合、可動等の従来の方法を含め、任意の方法を用いることができる。タンパク質をコードするDNAを用いた細菌の形質転換、トランスフェクション、感染、接合、または可動により、当該細菌に当該DNAによりコードされるタンパク質を合成する能力を付与することができる。形質転換、トランスフェクション、感染、接合、および可動の方法としては、任意の方法が挙げられる。例えば、効率的なDNAの形質転換およびトランスフェクションのために、E. coliK-12の細胞のDNAに対する透過性が高まるように受容
細胞を塩化カルシウムで処理する方法が報告されている(Mandel M. and Higa A., Calcium-dependent bacteriophage DNA infection, J. Mol. Biol., 1970, 53:159-162)。特
殊化および/または一般化された形質転換の方法が記載されている(Morse M.L. et al.,
Transduction in Escherichia coli K-12, Genetics, 1956, 41(1):142-156; Miller J.H., Experiments in Molecular Genetics. Cold Spring Harbor, N.Y.: Cold Spring Harbor La. Press, 1972)。宿主微生物へのDNAのランダムおよび/または標的化された
組み込みのための他の方法、例えば、「Mu-driven integration/amplification」(Akhverdyan et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, 91:857-871)、「Red/ET-driven integration」または「λRed/ET-mediated integration」(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97(12):6640-45; Zhang Y., et al., Nature Genet., 1998, 20:123-128)を適用できる。さらに、所望の遺伝子の多重挿入のためには
、Mu駆動の複製的転移(Akhverdyan et al., Application of the bacteriophage Mu-driven system for the integration/amplification of target genes in the chromosomes of engineered Gram-negative bacteria-mini review, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, 91:857-871)や所望の遺伝子の増幅をもたらすrecA依存性相同組み換えに基づく化学的に誘導可能な染色体進化(Tyo K.E.J. et al., Stabilized gene duplication enables long-term selection-free heterologous pathway expression, Nature Biotechnol.,
2009, 27:760-765)に加えて、転移、部位特異的および/または相同的なRed/ETを介し
た組み換え、および/またはP1を介した一般化形質導入の種々の組み合わせを利用する他の方法(例えば、Minaeva N. et al., Dual-In/Out strategy for genes integration into bacterial chromosome: a novel approach to step-by-step construction of plasmid-less marker-less recombinant E. coli strains with predesigned genome structure, BMC Biotechnology, 2008, 8:63; Koma D. et al., A convenient method for multiple insertions of desired genes into target loci on the Escherichia coli chromosome, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, 93(2):815-829を参照のこと)を利用できる。
【0172】
E. coli種およびP. ananatis種に固有の野生型タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は既に解明されている(上記参照)ので、野生型タンパク質の変異体タンパク質をコードする変異体塩基配列は、同細菌種のDNAと、野生型遺伝子の塩基配列に基づいて調製し
たプライマーを用いたPCR(polymerase chain reaction; refer to White T.J. et al.,
The polymerase chain reaction, Trends Genet., 1989, 5(6):185-189)により、または野生型遺伝子を含むDNAを例えばヒドロキシルアミンでin vitro処理する部位特異的突然
変異法または野生型遺伝子を有する微生物、例えばE. coli種またはP. ananatis種、を紫外線(UV)照射もしくはそのような処理に通常用いられるN-メチル-N'-ニトロ-ニトロソ
グアニジン(NTG)や亜硝酸等の変異剤で処理する方法により、取得でき、または全長遺
伝子構造物として化学合成できる。腸内細菌目に属する他の細菌からのタンパク質またはその変異体タンパク質をコードする遺伝子も同様に取得できる。
【0173】
タンパク質(例えば、「野生型タンパク質」)および遺伝子(例えば、「野生型遺伝子」)について言及する際の「野生型(wild-type)」の用語(これは、「生来(native)
」および「天然(natural)」の用語と同等であり得る)は、それぞれ、野生型細菌(例
えば、E. coli MG1655株(ATCC 47076)、E. coli W3110株(ATCC 27325)、P. ananatis
AJ13355株(FERM BP-6614)等の腸内細菌科またはエルビニア科等の腸内細菌目に属する細菌の野生株)に、天然に存在し且つ/又は発現する、且つ/又は天然に製造される、生来のタンパク質および遺伝子を意味し得る。タンパク質は遺伝子にコードされるため、「野生型タンパク質」は、野生型細菌のゲノムに天然に生じる「野生型遺伝子」にコードされ得る。
【0174】
特定の生物(例えば、細菌種等)に固有のタンパク質または核酸に言及する際の「固有の(native to)」の用語は、当該生物に固有のタンパク質または核酸を意味し得る。す
なわち、特定の生物に固有のタンパク質または核酸は、それぞれ、当該生物に天然に存在するタンパク質または核酸を意味し得るものであり、当業者に知られた方法により当該生物から単離して配列解析できる。さらに、タンパク質または核酸が存在する生物からそれぞれ単離されたタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列は容易に決定することができるので、タンパク質または核酸に言及する際の「固有の」の用語は、得られるタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列が結果として当該生物に天然に存在するタンパク質または核酸のアミノ酸配列または塩基配列と同一である限り、例えば、組み換えDNA技術を含む遺伝子工学的手法または化学合成法等により得られるタンパク質または核酸も意味し得る。特定の生物に固有のアミノ酸配列としては、限定されるものではないが、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド(これは、タンパク質、具体的には酵素を含む)等が挙げられる。特定の生物に固有の塩基配列としては、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)が挙げられ、これらは、発現調節配列(これは、プロモーター、アテニュエーター、ターミネーター等を含む)、遺伝子、遺伝子間配列、ならびにシグナルペプチド、タンパク質のプロ部位、および人工アミノ酸配列等をコードする塩基配列には限定されない。アミノ酸配列および塩基配列ならびに各種生物に固有のそれらのホモログの具体例は本明細書に記載されており、これらの例としては、それぞれ配列番号2および4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質IpdCおよびIlvA(これらは、P. ananatis種の細菌に固有であり得るものであり、それぞれ配列番号1および3に示す塩基配列を有
する対応する遺伝子ipdCおよびilvAにコードされ得る)。
【0175】
細菌は、本発明の範囲から逸脱することなく、上記のような性質に加えて、様々な栄養要求性、薬物耐性、薬物感受性、薬物依存性等の特定の性質を有することができる。
【0176】
2.方法
本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の細菌を用いてL-アミノ酸を製造する方法を含む。本明細書に記載の細菌を用いてL-アミノ酸を製造する方法は、前記細菌を培地で培養(cultivating(culturingともいう))してL-アミノ酸を培地もしくは細菌菌体、またはその両者中に生成させ、排出もしくは分泌させ、且つ/又は蓄積させる工程と、培地及び/又は細菌菌体からL-アミノ酸を回収する工程を含み得る。同方法は、さらに、任意で(optionally)、培地及び/又は細菌菌体からL-アミノ酸を精製する工程を含
み得る。L-アミノ酸は、上記のような形態で製造され得る。L-アミノ酸は、遊離形態、もしくはその塩、またはそれらの混合物として製造され得る。例えば、L-アミノ酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩または両性イオン等の分子内塩が、前記方法により製造され得る。これは、アミノ酸が発酵条件下で、互いに、あるいは無機または有機の酸またはアルカリ性物質等の中和剤と、典型的な酸塩基中和反応により反応して塩を生成し得ることから可能であり、これは当業者に明らかなアミノ酸の化学的特徴である。具体的には、L-システインの一塩酸塩(L-システイン×HCl)またはL-シス
テイン一水和物の一塩酸塩(L-システイン×H2O×HCl)が、前記方法により製造され得る。
【0177】
細菌の培養、ならびに培地等からのL-アミノ酸の回収および任意で精製は、微生物を使用してL-アミノ酸を製造する従来の発酵法と同様に実施することができる。すなわち、細菌の培養、ならびに培地等からのL-アミノ酸の回収および精製は、当業者に周知の、細菌の培養に適した条件ならびにL-アミノ酸の回収および精製に適した条件を適用することにより実施してよい。
【0178】
使用される培地は、少なくとも炭素源を含有し、且つ本明細書に記載の細菌が増殖してL-アミノ酸を生産できる限り、特に制限されない。培地は、炭素源、窒素源、硫黄源、リン源、無機イオン、並びにその他の有機及び無機成分を必要に応じて含む典型的な培地等の、合成培地あるいは天然培地でよい。炭素源としては、グルコース、シュクロース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、澱粉加水分解物等の糖類、エタノール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール等のアルコール、グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸、および脂肪酸等を使用することができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物等の有機窒素、アンモニアガス、およびアンモニア水等を使用することができる。さらに、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、およびコーンスティープリカー等も使用することができる。培地は、これらの窒素源の1種またはそれ以上を含むことができ
る。硫黄源としては、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム等が挙げられる。培地は、炭素源、窒素源、及び硫黄源に加えて、リン源を含んでもよい。リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、ピロ燐酸等のリン酸ポリマー等を使用することができる。ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチンアミド、ビタミンB12等のビタミンや、その他の必要物質、例えばアデニン、RNA等の核酸、アミノ酸、ペプトン、カザミノ酸、酵母エキス等の有機栄養素等を、適当量(痕跡量であってもよい)存在させることができる。これら以外に、必要であれば、少量のリン酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等を加えてもよい。その他の有機及び無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。また、生育にアミノ酸等を要求する栄養要求性株を用いる場合、要求される栄養素を培地に補填するのが好ましい。
【0179】
培養は、L-アミノ酸を製造する方法で使用される細菌の培養に適した条件で実施することができる。例えば、培養は、好気的条件下で16~72時間、または16~24時間実施することができる。培養中の培養温度は、30~45℃、または30~37℃の範囲内に制御することができる。pHは、5~8の間、または6.0~7.5の間に調節することができる。pHは、無機もしくは有機の酸性またはアルカリ性物質、例えば、尿素、炭酸カルシウム、無機酸、無機アルカリ、またはアンモニアガス、を使用することにより調節することができる。
【0180】
培養後、培地からL-アミノ酸を回収することができる。具体的には、菌体外に存在するL-アミノ酸を培地から回収することができる。また、培養後、細菌の菌体からL-ア
ミノ酸を回収することができる。具体的には、菌体を破砕し、菌体や菌体破砕懸濁物(細胞デブリともいう)等の固形分を除去して上清を取得し、上清からL-アミノ酸を回収することができる。菌体の破砕は、例えば、高周波音波を用いた超音波破砕等の周知の方法により実施することができる。固形分の除去は、例えば、遠心分離または膜ろ過により実施することができる。培地や上清等からのL-アミノ酸の回収は、例えば、濃縮、晶析、膜処理、イオン交換クロマトグラフィー、フラッシュクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、中圧または高圧の液体クロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせ等の慣用の技術により実施することができる。これらの方法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて使用してよい。
【実施例】
【0181】
下記の非限定的な実施例を参照して本発明をより正確に説明する。
【0182】
実施例1 ipdC遺伝子を欠失したP. ananatis株の構築
ipdC遺伝子(配列番号1)を欠失したP. ananatis SC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株をλRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、RSF-Red-TER plasmid(US8383372 B2)を有するP. ananatis SC17(0)株(US8383372 B2, VKPM B-9246)をLB液体培地(Sambrook J. and Russell D.W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を含むLB
液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。pMW118-attL-kanR-attRプラスミド(US7919284 B2)を鋳型として、プライマーP1(配列番号5)およびP2(配列番号6)を用いてPCRを行い、ipdC遺伝子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR DNA増幅断片を得た。得られたDNA断片をWizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテント
セルに導入した。菌体をSOC培地(Sambrook J. and Russell D.W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)で2時
間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養
した。出現したコロニーを同一の培地で純化した。次いで、プライマーP3(配列番号7)
およびP4(配列番号8)を用いたPCR解析(TaKaRa Speed Star(R); 97℃で20秒、54℃で20秒、および72℃で100秒を40サイクル)を実施し、染色体上のipdC遺伝子がλattL-kanR-
λattRカセットに置換されていることを確認した。その結果、P. ananatis SC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株が得られた。
【0183】
実施例2 ipdC遺伝子を欠失したP. ananatis株を用いたL-メチオニンの生産
L-メチオニン生産におけるipdC遺伝子の欠失の効果を試験するために、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示に従って使用してSC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株(実施例1)から染色体DNAを単離し、10 μgのDNAをエレクトロポレーショ
ンによるP. ananatis C2691の形質転換に用いた。P. ananatisのL-メチオニン生産株C2691は、予備実施例1に記載されたようにして構築した。得られた形質転換体を20 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で一晩、各コロニーが可視化されるまで培養した。プライマーP3(配列番号7)およびP4(配列番号8)を用いたPCR解析でipdC遺
伝子の置換を確認することにより、所望の形質転換体を同定した。その結果、P. ananatis C2691ΔipdC::λattL-kanR-λattR株(略称:C3793)が得られた。
【0184】
P. ananatis C2691株およびC2691ΔipdC::λattL-kanR-λattR株をそれぞれLB液体培地を用いて32℃で18時間培養した。次に、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、グルコースが消費されるまで250 rpmの回転式振盪機上で32
℃で48時間培養した。
【0185】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとした。
グルコース 40.0
(NH4)2SO4 15.0
KH2PO4 1.5
MgSO4-7H2O 1.0
チアミン-HCl 0.1
CaCO3 25.0
LB培地 4% (v/v)
【0186】
発酵培地は、116℃で30分滅菌した。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌した:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整した。
【0187】
培養後、培地に蓄積したL-メチオニンの量をAgilent 1260 amino-acid analyzerで測定した。3つの独立した試験管発酵の結果(平均値±標準偏差として)を表3に示す。表3から分かるように、改変株P. ananatis C2691ΔipdC::λattL-kanR-λattRは、親株P. ananatis C2691と比較して、より多い量のL-メチオニンを蓄積することができた。
【0188】
【0189】
実施例3 ipdC遺伝子を欠失したP. ananatis株を用いたL-システインの生産
L-システイン生産におけるipdC遺伝子の欠失の効果を試験するために、エレクトロポレーションによりSC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株(実施例1)の染色体DNAでP. ananatisのL-システイン生産株EYP197(s)(RU2458981 C2またはWO2012/137689)を形質
転換し、P. ananatis EYP ΔipdC::λattL-kanR-λattR株を得る。P. ananatis EYP197(s)株は、P. ananatis SC17(FERM BP-11091)から、cysE5およびyeaS遺伝子を導入し、cysPTWA遺伝子クラスターの生来のプロモーターをPnlp8プロモーターに置換することにより
構築した。
【0190】
P. ananatis EYP197(s)株およびEYP ΔipdC::λattL-kanR-λattR株をそれぞれ3 mLのLB液体培地を用いて32℃で18時間培養し、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に
入れた発酵培地2 mLに接種し、回転式振盪機上で32℃で24時間培養する。
【0191】
培養後、培地中に蓄積したL-システインの量を、Gaitonde M.K.(A spectrophotometric method for the direct determination of cysteine in the presence of other naturally occurring amino acids, Biochem. J., 1967, 104(2):627-633)に記載の方法を
以下のように一部変更して用いて測定する:各試料150 μLを1 M H2SO4150 μLと混合し
、20℃で5分間インキュベートした後、700 μLのH2Oを混合液に加え、得られた混合液150
μLを新しいバイアルに移し、800 μLのA液(1 M Tris-HCl pH 8.0, 5 mM ジチオスレイトール(DTT))を添加する。得られた混合液を20℃で5分間インキュベートし、13000 rp
mで10分間回転させた後、100 μLの混合液を20×200 mmの試験管に移す。次に、400 μL
のH2O、500 μLの氷酢酸、および500 μLのB液(0.63 gのニンヒドリン, 10 mLの氷酢酸,
10 mLの36% HCl)を添加し、混合液を沸騰水浴中で10分間インキュベートする。その後
、4.5 mLのエタノールを添加し、OD560を測定する。システインの濃度は、式:C (Cys, g/L) = 11.3 × OD560を用いて算出する。
【0192】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとする。
グルコース 40.0
(NH4)2S2O3 12.0
KH2PO4 1.5
MgSO4-6H2O 0.825
チアミン-HCl 0.1
CaCO3 25.0
LB培地 4% (v/v)
【0193】
発酵培地は、116℃で30分滅菌する。ただし、グルコース、(NH4)2S2O3、およびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌する:グルコースは110℃で30分;(NH4)2S2O3は0.2 μmメンブレンで濾過;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整する。
【0194】
実施例4 ipdC遺伝子を欠失したP. ananatis株を用いたL-グルタミン酸の生産
L-グルタミン酸生産におけるipdC遺伝子の欠失の効果を試験するために、エレクトロポレーションによりSC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株(実施例1)の染色体DNAでP.
ananatisのL-グルタミン酸生産株NA1(EP2336347 A1)を形質転換し、P. ananatis NA1ΔipdC::λattL-kanR-λattR株を得る。
【0195】
P. ananatis NA1株およびNA1ΔipdC::λattL-kanR-λattR株をそれぞれ3 mLのLB液体培地を用いて32℃で18時間培養し、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、回転式振盪機上で32℃で24時間培養する。
【0196】
培養後、培地に蓄積するL-グルタミン酸の量を、ブタン-1-オール:酢酸:水=4
:1:1(v/v)からなる移動相を使用するペーパークロマトグラフィーで測定し、ニンヒ
ドリン(アセトン中の1%溶液)で染色し、0.5% CdCl2を含む50%エタノールでL-グルタ
ミン酸を溶出させ、L-グルタミン酸の量を540 nmで測定する。
【0197】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとする。
グルコース 30.0
MgSO4-6H2O 0.5
(NH4)2SO4 20.0
KH2PO4 2.0
酵母エキス 2.0
FeSO4-7H2O 0.02
MnSO4-4H2O 0.02
チアミン-HCl 0.01
L-リジン塩酸塩 0.2
L-メチオニン 0.2
DL-α,ε-ジアミノピメリン酸 0.2
CaCO3 20.0
【0198】
発酵培地は、116℃で30分滅菌する。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌する:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを
7.0に調整する。
【0199】
実施例5 ipdC遺伝子を欠失したP. ananatis株を用いたL-アスパラギン酸の生産
L-アスパラギン酸生産におけるipdC遺伝子の欠失の効果を試験するために、エレクトロポレーションによりSC17(0)ΔipdC::λattL-kanR-λattR株(実施例1)の染色体DNAでP. ananatisのL-アスパラギン酸生産株5ΔP2RM(WO2010038905 A1)を形質転換し、P. ananatis 5ΔP2RMΔipdC::λattL-kanR-λattR株を得る。
【0200】
P. ananatis 5ΔP2RM株および5ΔP2RMΔipdC::λattL-kanR-λattR株をそれぞれ3 mLのLB液体培地を用いて32℃で18時間培養し、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、回転式振盪機上で32℃で72時間培養する。培養後、培地に蓄積するL-アスパラギン酸の量をペーパークロマトグラフィーで測定する。
【0201】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとする。
グルコース 40.0
MgSO4-7H2O 1.0
(NH4)2SO4 16.0
KH2PO4 0.3
KCl 1.0
MES 10.0
パントテン酸カルシウム 0.01
ベタイン 1.0
FeSO4-7H2O 0.01
MnSO4-5H2O 0.01
チアミン-HCl 0.01
L-リジン塩酸塩 0.1
L-メチオニン 0.1
DL-α,ε-ジアミノピメリン酸 0.1
L-グルタミン酸 3.0
CaCO3 30.0
【0202】
発酵培地は、116℃で30分滅菌する。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌する:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。NaOH溶液でpH
を6.5に調整する。
【0203】
実施例6 ipdC遺伝子を欠失したE. coliのL-メチオニン生産株の構築
温度感受性複製型のpKD46プラスミド(Datsenko K.A. and Wanner B.L., One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645)を有するE. coliのL-メチオニン
生産株(その例は上述の通りである)をLB液体培地で一晩培養する。その後、培養液1 mLを、終濃度50 mMのアラビノースと50 mg/Lのアンピシリンを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を37℃で2時間、振盪(250 rpm)培養する。菌体を回収し、氷冷した10%(v/v)
グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得る。pMW118-attL-kanR-attRプラスミド(US7919284 B2)を鋳型としてPCRを行い、ipdC遺伝子の上流および下流と相同な配列を
両末端に有するλattL-kanR-λattR DNA増幅断片を得る。得られたDNA断片をWizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法
でコンピテントセルに導入する。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイ
シンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養する。出現したコロニーを同一の培地で純化する。染色体上のipdC遺伝子がλattL-kanR-λattRカセットに置換されていることをPCRにより確認する。その結果、E. coliのL-メチオニン生産株ΔipdC::λattL-kan
R-λattRが得られる。
【0204】
実施例7 ipdC遺伝子を欠失したE. coli株を用いたL-メチオニンの生産
E. coliのL-メチオニン生産株ΔipdC::λattL-kanR-λattRおよびその親株をそれぞ
れLB液体培地を用いて37℃で18時間振盪培養する。次に、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、250 rpmの回転式振盪機上で32℃で48時間
培養する。培養後、培地に蓄積したL-メチオニンの量をAgilent 1260 amino-acid analyzerで測定する。
【0205】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとする。
グルコース 40.0
(NH4)2SO4 15.0
KH2PO4 1.5
MgSO4-7H2O 1.0
チアミン-HCl 0.1
スレオニン 0.5
CaCO3 20.0
LB培地 4% (v/v)
【0206】
発酵培地は、116℃で30分滅菌する。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌する:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整する。
【0207】
実施例8 ilvA遺伝子を欠失したP. ananatis株の構築
ilvA遺伝子(配列番号3)を欠失したP. ananatis SC17(0)ΔilvA::λattL-kanR-λattR株をλRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株(US8383372 B2)をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。pMW118-attL-kanR-attRプラスミド(US7919284 B2)を鋳型として、プライマーP5(配列
番号9)およびP6(配列番号10)を用いてPCRを行い、ilvA遺伝子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR DNA増幅断片を得た。得られたDNA断片をWizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレー
ション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lの
カナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同一の培地で純化した。次いで、プライマーP7(配列番号11)およびP8(配列番号12)を用いたPCR解析(TaKaRa Speed Star(R); 97℃で20秒、55℃で20秒、および72℃で100秒を25サイクル)を実施し、染色体上のilvA遺伝子がλattL-kanR-λattRカセットに置換されていることを確認した。その結果、P. ananatis SC17(0)ΔilvA::λattL-kanR-λattR株
が得られた。
【0208】
実施例9 ilvA遺伝子を欠失したP. ananatis株を用いたL-メチオニンの生産
L-メチオニン生産におけるilvAの欠失の効果を試験するために、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示に従って使用してSC17(0)ΔilvA::λattL-kanR-λattR株(実施例8)から染色体DNAを単離し、10 μgのDNAをエレクトロポレーションによ
るP. ananatis C2792の形質転換に用いた。P. ananatisのL-メチオニン生産株C2792は
、予備実施例2に記載されたようにして構築した。得られた形質転換体を20 mg/Lのカナ
マイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で一晩、各コロニーが可視化されるまで培養した。実施例8に記載したようにしてPCR解析でilvA遺伝子の置換を確認することにより
、所望の形質転換体を同定した。その結果、P. ananatis C2792ΔilvA::λattL-kanR-λa
ttR株(略称:C3653)が得られた。
【0209】
P. ananatis C2792株およびC2792ΔilvA::λattL-kanR-λattR株をそれぞれLB液体培地を用いて32℃で18時間培養した。次に、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、グルコースが消費されるまで250 rpmの回転式振盪機上で32
℃で48時間培養した。
【0210】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとした。
グルコース 40.0
(NH4)2SO4 15.0
KH2PO4 1.5
MgSO4-7H2O 1.0
チアミン-HCl 0.1
CaCO3 25.0
LB培地 4% (v/v)
【0211】
発酵培地は、116℃で30分滅菌した。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌した:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整した。
【0212】
培養後、培地に蓄積したL-メチオニンの量をAgilent 1260 amino-acid analyzerで測定した。3つの独立した試験管発酵の結果(平均値±標準偏差として)を表4に示す。表4から分かるように、改変株P. ananatis C2792ΔilvA::λattL-kanR-λattRは、親株P. ananatis C2792と比較して、より多い量のL-メチオニンを蓄積することができた。
【0213】
【0214】
実施例10 ilvA遺伝子を欠失したE. coli MG1655株の構築
温度感受性複製型のプラスミドpKD46を有するE. coli MG1655株(ATCC 700926)をLB液体培地で一晩培養する。その後、培養液1 mLを、終濃度50 mMのアラビノースと50 mg/Lのアンピシリンを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を37℃で2時間、振盪(250 rpm)培養する。菌体を回収し、氷冷した10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得る。pMW118-attL-kanR-attRプラスミド(US7919284 B2)を鋳型としてPCRを行い、ilvA遺伝子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR DNA増幅断片を得る。得られたDNA断片をWizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を
用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入する。菌体をSOC培
地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養する。出現したコロニーを同一の培地で純化する。染色体上のilvA遺伝子がλattL-kanR-λattRカセットに置換されていることをPCRにより確認する。その結果、E. coli MG1655ΔilvA::λattL-kanR-λattR株が得られる。
【0215】
実施例11 ilvA遺伝子を欠失したE. coli株を用いたL-メチオニンの生産
L-メチオニン生産におけるilvAの欠失の効果を試験するために、MG1655ΔilvA::λattL-kanR-λattR株(実施例10)の染色体DNAをP1トランスダクションによりE. coliのL-メチオニン生産株218(VKPM B-8125, RU2209248 C2)に導入する。その結果、E. coli 218ΔilvA::λattL-kanR-λattR株が得られる。
【0216】
E. coli 218株および218ΔilvA::λattL-kanR-λattR株をそれぞれLB液体培地を用いて37℃で18時間振盪培養する。次に、得られた培養液0.2 mLを20×200 mmの試験管に入れた発酵培地2 mLに接種し、250 rpmの回転式振盪機上で32℃で48時間培養する。
【0217】
培養後、培地に蓄積したL-メチオニンの量をAgilent 1260 amino-acid analyzerで測定する。
【0218】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りとする。
グルコース 40.0
(NH4)2SO4 15.0
KH2PO4 1.5
MgSO4-7H2O 1.0
チアミン-HCl 0.1
スレオニン 0.5
CaCO3 20.0
LB培地 4% (v/v)
【0219】
発酵培地は、116℃で30分滅菌する。ただし、グルコースおよびCaCO3は、以下の通りそれぞれ別々に滅菌する:グルコースは110℃で30分;CaCO3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整する。
【0220】
予備実施例1 P. ananatisのL-メチオニン生産株C2691の構築
1.1. P. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM株の構築
cysM遺伝子(配列番号13)のプロモーター領域がカセットλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22で置換されたP. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM株を、λRed依
存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株
をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP9(配列番号14)およびP10(配列番号15)を用い、pMW118-attL-kan-attR-pnlp8sd22プラスミド(配列番
号16)を鋳型としてPCRを行い、cysM遺伝子のプロモーター領域の上流および下流と相同
な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22の増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地(Sambrook J. and
Russell D.W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のcysM遺伝子のプロモーター領域がλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22カセットで置換されていることを確認するために、プライマーP11(配列番号17)およびP12(配列番号18)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);92℃10秒、56℃10秒、72℃60秒を40サ
イクル)を実施した。その結果、P. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM株(略称:C2338)が得られた。
【0221】
1.2. P. ananatis C2597株(SC17(0)ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM
)の構築
サイレント遺伝子mdeA(配列番号19)をカセットλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM
で置換したP. ananatis SC17(0)ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM株を、λRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP13(配列番号20)およびP14(配列番号21)を用い、C2338株(予備実施例1.1)から単離した染色体
を鋳型としてPCRを行い、mdeA遺伝子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysMの増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR
Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイ
シンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmdeA遺伝子がλattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysMカセッ
トで置換されていることを確認するために、プライマーP15(配列番号22)およびP16(配列番号23)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);92℃10秒、56℃10秒、72℃60秒を40サイクル)を実施した。その結果、P. ananatis SC17(0)ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM株(略称:C2597)が得られた。
【0222】
1.3. P. ananatis C2603株(SC17ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM)の構築
C2597株(SC17(0) ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。得ら
れた染色体DNAを、P. ananatis SC17株(FERM BP-11091)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis SC17株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。C2597株(予備実施例1
.2)から単離した染色体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入し
た。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗
布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmdeA遺伝子の置換を確認するために、予備実施例1.2に記載したようにしてPCR解析
を実施した。その結果、P. ananatis SC17ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM
株(略称:C2603)が得られた。
【0223】
1.4. C2603株(SC17ΔmdeA::λattL-kanR-λattR-Pnlp8sd22-cysM)からのkan遺伝
子の欠失
RSF(TcR)-int-xisプラスミド(US20100297716 A1)を用いてC2603株からカナマイシン
耐性遺伝子(kan)を欠失させた。RSF(TcR)-int-xisはエレクトロポレーション法によりC2603株に導入し、テトラサイクリン(15 mg/L)を含むLB培地に菌体を塗布して30℃で培
養し、C2603/RSF(TcR)-int-xis株を得た。
【0224】
得られたプラスミド保有株を、テトラサイクリン(15 mg/L)および1 mM IPTGを含むLB培地で純化し、シングルコロニーを得た。次に、50 mg/Lのカナマイシンを含む培地上に
シングルコロニーを塗布し、37℃で一晩、振盪(250 rpm)培養した。カナマイシン感受
性株を、RSF(TcR)-int-xisプラスミドを同株から除去するために、10%スクロース(重量比)と1 mM IPTGを含むLB培地上に塗布し、37℃で一晩培養した。テトラサイクリン感受
性のコロニーを選択し、対応する株をC2614とした。
【0225】
1.5. P. ananatis C2607株(SC17(0)ΔmetJ::λattL-catR-λattR)の構築
metJ遺伝子(配列番号24)を欠損したP. ananatis SC17(0)ΔmetJ::λattL-catR-λatt
R株を、λRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTG
を含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP17(配列番号25)およびP18(配列番号26)を用い、pMW118-attL-cat-attRプラスミド(Minaeva N.I. et al., BMC Biotechnol., 2008, 8:63)を鋳型としてPCRを行い、metJ遺伝
子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-catR-λattRの増幅DNA断片を
得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用
いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地
で2時間培養した後、35 mg/Lのクロラムフェニコールを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetJ遺伝子がλattL-catR-λattRカセットで置換されていることを確認するために、プライマーP19(配列番号27)およびP20(配列番号28)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);92
℃10秒、56℃10秒、72℃60秒を40サイクル)を実施した。その結果、P. ananatis SC17(0)ΔmetJ::λattL-catR-λattR株(略称:C2607)が得られた。
【0226】
1.6. P. ananatis C2634株(C2614ΔmetJ::λattL-catR-λattR)の構築
C2607株(SC17(0)ΔmetJ::λattL-catR-λattR)(予備実施例1.5)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。
得られた染色体DNAを、C2614株(予備実施例1.4)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis C2614株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体
培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。C2607株から単離した染色
体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時
間培養した後、35 mg/Lのクロラムフェニコールを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16
時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetJ遺伝子の置換を確認するために、予備実施例1.5に記載したようにしてPCR解析を実施した。そ
の結果、P. ananatis C2614ΔmetJ::λattL-catR-λattR株(略称:C2634)が得られた。
【0227】
1.7. P. ananatis C2605株(SC17(0) λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA)の構
築
metA遺伝子(配列番号29)のプロモーター領域がカセットλattL-kanR-λattR-Ptac71
φ10で置換されたP. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA株を、λRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER
株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP21(配列番号30)およびP22(配列番号31)を用い、pMW118-attL-kan-attR-Ptac71φ10プラスミド(配
列番号32)を鋳型としてPCRを行い、metA遺伝子のプロモーター領域の上流および下流と
相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10の増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し
、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。
出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、SC17(0)株の染色体上のmetA遺伝子のプ
ロモーター領域がλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10カセットで置換されていることを確認
するために、プライマーP23(配列番号33)およびP24(配列番号34)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);92℃10秒、56℃10秒、72℃60秒を40サイクル)を実施した。その
結果、P. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA株(略称:C2605)が得られた。
【0228】
1.8. P. ananatis C2611株(SC17λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA)の構築
C2605株(SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA)(予備実施例1.7)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単
離した。得られた染色体DNAを、SC17株の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis SC17株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培地100 mLに接
種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセ
ロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。C2605株から単離した染色体DNAをエレク
トロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現した
コロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetA遺伝子のプロモーター領域の置換を確認するために、予備実施例1.7に記載したようにしてPCR解析を実施した。その結
果、P. ananatis SC17λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA株(略称:C2611)が得られ
た。
【0229】
1.9. P. ananatis C2619株(C2611ΔmetJ::λattL-catR-λattR)の構築
C2607株(SC17(0)ΔmetJ::λattL-catR-λattR)(予備実施例1.5)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。
得られた染色体DNAを、C2611株(予備実施例1.8)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis C2611株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体
培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。C2607株から単離した染色
体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時
間培養した後、35 mg/Lのクロラムフェニコールを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16
時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetJ遺伝子の置換を確認するために、予備実施例1.5に記載したようにしてPCR解析を実施した。そ
の結果、P. ananatis C2611ΔmetJ::λattL-catR-λattR株(略称:C2619)が得られた。
【0230】
1.10. フィードバック耐性型MetAをコードするmetA遺伝子の変異型アレルを有するP. ananatis株の選抜
C2619株(SC17λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA ΔmetJ::λattL-catR-λattR)の菌体を、LB液体培地を入れた50 mLフラスコにOD600が0.05になるように接種し、34℃で2
時間、通気(250 rpm)培養した。OD600が0.25となった同株の対数増殖期の細胞培養物をN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)(終濃度25 mg/L)で20分間処理した
。得られた培養物を遠心分離し、新鮮なLB液体培地で2回洗浄した後、グルコース(0.2%)とノルロイシン(600 g/L)を含有するM9寒天プレートに播種した。得られた変異株に
ついて、L-メチオニンの生産能を調べた。L-メチオニン産生能の最も高い株を選択し、その株のmetA遺伝子の塩基配列を決定した。配列解析により、metA遺伝子において、野生型MetAのアミノ酸配列(配列番号35)における34位のアルギニン(Arg)残基のシステ
イン残基への置換(R34C変異)をもたらす変異が見出された。R34C変異を有する変異型MetAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号37に、変異型MetAタンパク質をコードする変異型metA遺伝子の塩基配列を配列番号36に示す。このようにして、P. ananatis SC17λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA(R34C)ΔmetJ::λattL-catR-λattR株(略称:C2664)を構
築した。
【0231】
1.11. P. ananatis C2669株(C2634λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA(R34C))の構築
C2664株(SC17λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA(R34C)ΔmetJ::λattL-catR-λattR)(予備実施例1.10)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の
指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。得られた染色体DNAを、C2634株(予備実施例
1.6)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis C2634株をLB液体培地で
一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、
振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピ
テントセルを得た。C2664株から単離した染色体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含
むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetA遺伝子のプロモーター領域の置換を確認するために、予備実施例1.7に記載したようにしてPCR解析を実施した。その結果、P. ananatis C2634λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA(R34C)株(略称:C2669)が得られた。
【0232】
1.12. C2669株(C2614ΔmetJ::λattL-catR-λattR λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metA(R34C))からのkanおよびcat遺伝子の欠失
RSF(TcR)-int-xisプラスミドを用いてC2669株(予備実施例1.11)からカナマイシ
ンおよびクロラムフェニコール耐性遺伝子(kanおよびcatに相当)を欠失させた。RSF(TcR)-int-xisはエレクトロポレーション法によりC2669株に導入し、テトラサイクリン(15 mg/L)を含むLB培地に菌体を塗布して30℃で培養し、C2669/RSF(TcR)-int-xis株を得た。
【0233】
得られたプラスミド保有株を、テトラサイクリン(15 mg/L)および1 mM IPTGを含むLB培地で純化し、シングルコロニーを得た。次に、50 mg/Lのカナマイシンと35 mg/Lのクロラムフェニコールを含む培地上にシングルコロニーを塗布し、37℃で一晩、振盪(250 rpm)培養した。カナマイシンとクロラムフェニコールの両方に感受性の株を、RSF(TcR)-int-xisプラスミドを同株から除去するために、10%スクロース(重量比)と1 mM IPTGを含むLB培地上に塗布し、37℃で一晩培養した。テトラサイクリン感受性のコロニーを選択し、対応する株をC2691とした。
【0234】
予備実施例2 P. ananatisのL-メチオニン生産株C2792の構築
2.1. P. ananatis SC17(0)ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442の構
築
metE1遺伝子(c0742)(配列番号38)をカセットλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442(配列番号39)で置換したP. ananatis SC17(0)ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442株を、λRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP25(配列番号40)およびP26(配列番号41)を用いてPCRを行い、metE1遺伝子の上流および下流と相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442
の増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System
(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した
。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布
し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetE1遺伝子がλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442カセットで置換されていることを確認するために、プライマーP27(配列番号42)およびP28(配列番号43)を用いてPCR解
析を実施した。その結果、P. ananatis SC17(0)ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442株が得られた。
【0235】
2.2. P. ananatis C2707株(C2691ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442)の構築
SC17(0)ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442株から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。得られた染色体DNAを、P. ananatis C2691株(予備実施例1)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis C2691株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培
地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。SC17(0)ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442株(予備実施例2.1)から単離した染色体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35
mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコ
ロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetE1遺伝子の置換を確認するために、
予備実施例2.1に記載したようにしてPCR解析を実施した。その結果、P. ananatis C2691ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442株(略称:C2707)が得られた。
【0236】
2.3. C2707株(C2691ΔmetE1::λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-thrA442)からのkan遺伝子の欠失
RSF(TcR)-int-xisプラスミドを用いてC2707株からカナマイシン耐性遺伝子(kan)を欠失させた。RSF(TcR)-int-xisはエレクトロポレーション法によりC2707株に導入し、テト
ラサイクリン(15 mg/L)を含むLB培地に菌体を塗布して30℃で培養し、C2707/RSF(TcR)-int-xis株を得た。
【0237】
得られたプラスミド保有株を、テトラサイクリン(15 mg/L)および1 mM IPTGを含むLB培地で純化し、シングルコロニーを得た。次に、50 mg/Lのカナマイシンを含む培地上に
シングルコロニーを塗布し、37℃で一晩、振盪(250 rpm)培養した。カナマイシン感受
性株を、RSF(TcR)-int-xisプラスミドを同株から除去するために、10%スクロース(重量比)と1 mM IPTGを含むLB培地上に塗布し、37℃で一晩培養した。テトラサイクリン感受
性のコロニーを選択し、対応する株をС2743とした。
【0238】
2.4. P. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH株の構築
metH遺伝子(配列番号44)のプロモーター領域がカセットλattL-kanR-λattR-Ptac71
φ10で置換されたP. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH株を、λRed依存的組み込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER
株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP29(配列番号45)およびP30(配列番号46)を用い、pMW118-attL-kanR-attR-Ptac71φ10プラスミド(配列番号32)を鋳型としてPCRを行い、metH遺伝子のプロモーター領域の上流および下流と
相同な配列を両末端に有するλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10の増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し
、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。
出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetH遺伝子のプロモーター領域がλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10カセットで置換されていることを確認するために、
プライマーP31(配列番号47)およびP32(配列番号48)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);97℃20秒、54℃20秒、72℃100秒を25サイクル)を実施した。その結果、P. ananatis SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH株が得られた。
【0239】
2.5. P. ananatis C2761株(С2743 λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH)の構築
SC17(0)λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH株(予備実施例2.4)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。得られた染色体DNAを、P. ananatis С2743株(予備実施例2.3)の形質転換に用いた。
この目的のために、P. ananatis С2743株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。SC17(0) λattL-kanR-attR-Ptac71φ10-metH株から単離した染色体DNAをエレクトロポレーション法で
コンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシ
ンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のmetH遺伝子のプロモーター領域がλattL-kanR-λattR-Ptac71φ10カセットで置換されていることを確認するために、予備実施例2.4に記載したよ
うにしてPCR解析を実施した。その結果、P. ananatis С2743λattL-kanR-λattR-Ptac71φ10-metH株(略称:C2761)が得られた。
【0240】
2.6. P. ananatis SC17(0)λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株の構築
gcvT遺伝子(配列番号49)のプロモーター領域がカセットλattL-catR-λattR-Pnlp8で置換されたP. ananatis SC17(0)λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株を、λRed依存的組み
込みにより構築した。この目的のために、P. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株をLB液体
培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLを、終濃度1 mMのIPTGを含むLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で3時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収し、10%(v/v)グ
リセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。プライマーP33(配列番号50)およびP34(配列番号51)を用い、pMW118-attL-catR-attR-Pnlp8プラスミド(WO2011043485)を鋳型としてPCRを行い、gcvT遺伝子のプロモーター領域の上流および下流と相同な配列を
両末端に有するλattL-catR-λattR-Pnlp8の増幅DNA断片を得た。得られたDNA断片を、Wizard PCR Prep DNA Purification System(Promega)を用いて精製し、エレクトロポレーション法でコンピテントセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lの
カナマイシンを含むLBプレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のgcvT遺伝子のプロモーター領域がλattL-catR-λattR-Pnlp8カセットで置換されていることを確認するために、プライマーP35(配列番号52)およびP36(配列番号53)を用いてPCR解析(TaKaRa Speed Star(R);97℃20秒、54℃20秒、72℃120秒を40サイクル)を実施した。その結果、SC17(0)λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株が得られた。
【0241】
2.7. P. ananatis C2777株(C2761 λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT)の構築
SC17(0)λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株(予備実施例2.6)から、EdgeBio PurElute Bacterial Genomic kitを製造元の指示の通りに用いて染色体DNAを単離した。得られ
た染色体DNAを、P. ananatis C2761株(予備実施例2.5)の形質転換に用いた。この目的のために、P. ananatis C2761株をLB液体培地で一晩培養した。その後、培養液1 mLをLB液体培地100 mLに接種し、菌体を32℃で2時間、振盪(250 rpm)培養した。菌体を回収
し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄してコンピテントセルを得た。SC17(0)λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株から単離した染色体DNAをエレクトロポレーション法でコンピテン
トセルに導入した。菌体をSOC培地で2時間培養した後、35 mg/Lのカナマイシンを含むLB
プレート上に塗布し、34℃で16時間培養した。出現したコロニーを同じ培地で純化した。次に、染色体上のgcvT遺伝子のプロモーター領域がλattL-catR-λattR-Pnlp8カセットで置換されていることを確認するために、予備実施例2.7に記載したようにしてPCR解析
を実施した。その結果、P. ananatis C2761λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT株(略称:C2777)が得られた。
【0242】
2.8. C2777株(C2761λattL-catR-λattR-Pnlp8-gcvT)からのkanおよびcat遺伝子
の欠失
RSF(TcR)-int-xisプラスミドを用いてC2777株(予備実施例2.7)からカナマイシン
およびクロラムフェニコール耐性遺伝子(kanおよびcatに相当)を欠失させた。RSF(TcR)-int-xisはエレクトロポレーション法によりC2777株に導入し、テトラサイクリン(15 mg/L)を含むLB培地に菌体を塗布して30℃で培養し、C2777/RSF(TcR)-int-xis株を得た。
【0243】
得られたプラスミド保有株を、テトラサイクリン(15 mg/L)および1 mM IPTGを含むLB培地で純化し、シングルコロニーを得た。次に、50 mg/Lのカナマイシンと35 mg/Lのクロ
ラムフェニコールを含む培地上にシングルコロニーを塗布し、37℃で一晩、振盪(250 rpm)培養した。カナマイシンとクロラムフェニコールの両方に感受性の株を、RSF(TcR)-int-xisプラスミドを同株から除去するために、10%スクロース(重量比)と1 mM IPTGを含むLB培地上に塗布し、37℃で一晩培養した。テトラサイクリン感受性のコロニーを選択し、対応する株をC2792とした。
【0244】
本発明を好ましい態様を参照して詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変更や等価物の採用が可能であることは当業者に明らかであろう。
【産業上の利用可能性】
【0245】
本発明の方法は、細菌の発酵によりL-アミノ酸を製造するのに有用である。
【国際調査報告】