(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ニッケルチタン合金のワイヤ及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/10 20060101AFI20221122BHJP
A61F 2/24 20060101ALI20221122BHJP
A61F 2/07 20130101ALI20221122BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20221122BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20221122BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20221122BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20221122BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C22F1/10 G
A61F2/24
A61F2/07
A61L27/06
A61L31/14
A61L31/02
A61L27/50
C22F1/00 625
C22F1/00 630L
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 686B
C22F1/00 630A
C22F1/00 613
C22F1/00 627
C22F1/00 675
C22F1/00 691Z
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 626
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022519259
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 US2020052766
(87)【国際公開番号】W WO2021062186
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】デブラ ケー.ボーン
(72)【発明者】
【氏名】パリクシス ケー.クマー
(72)【発明者】
【氏名】ケヒンデ エー.マジョラグベ
(72)【発明者】
【氏名】ジャレッド エス.ネルソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ディー.シルバーマン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AB17
4C081BB07
4C081CG03
4C081DA04
4C081EA04
4C081EA12
4C097AA15
4C097AA27
4C097BB01
4C097CC01
4C097DD09
4C097SB10
(57)【要約】
ワイヤに11%の歪みが加えられたときに5%未満の永久歪みを有するニッケルチタン合金のワイヤが開示されている。このワイヤは、ワイヤに第一の熱処理を課すこと、ここで、第一の熱処理は、第一の時間第一の温度の熱を課すことを含む、第一の熱処理の間にワイヤの形状を固定するためにワイヤに歪み変形を課すこと、及びワイヤに第二の熱処理を課すことによって形成されることができる。第二の熱処理は、第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含み、第二の温度は、210℃~290℃である。200MPaの応力がワイヤに加えられたときに、ワイヤは弾性率が少なくとも53GPaであることができ、ワイヤは二次構成要素に結合されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
11%の歪みがワイヤに加えられたときに、5%未満の永久歪みを有する、ニッケルチタン合金のワイヤ。
【請求項2】
11%の歪みがワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である、請求項1記載のワイヤ。
【請求項3】
200MPaの応力がワイヤに加えられたときに、ワイヤは少なくとも53GPaの弾性率を有する、請求項1又は2記載のワイヤ。
【請求項4】
前記弾性率は少なくとも55GPaである、請求項3記載のワイヤ。
【請求項5】
前記弾性率は53GPa~64GPaである、請求項3記載のワイヤ。
【請求項6】
400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は少なくとも5GPaだけ減少する、請求項3~5のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項7】
400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は少なくとも10GPaだけ減少する、請求項6記載のワイヤ。
【請求項8】
200MPaの応力がワイヤに加えられたときと比較して、400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は5GPa~16GPaの値だけ減少する、請求項6記載のワイヤ。
【請求項9】
少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)をさらに有する、先行の請求項のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項10】
インプラント可能なメディカルデバイスにさらに加工される、先行の請求項のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項11】
前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である、請求項10記載のワイヤ。
【請求項12】
ワイヤに第一の熱処理を課すること、 前記第一の熱処理中に前記ワイヤに歪み変形を課して前記ワイヤの形状を固定すること、及び、
前記ワイヤに第二の熱処理を課すこと、
を含む方法によって形成される、ワイヤであって、
前記第一の熱処理は、第一の温度の熱を第一の時間課すことを含み、
前記第二の熱処理は、前記第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含み、前記第二の温度は210℃~290℃である、ワイヤ。
【請求項13】
前記第一の温度は400℃~550℃である、請求項12記載のワイヤ。
【請求項14】
前記第一の熱処理は、前記ワイヤの形状を固定するように動作可能な1つ以上の追加の熱処理プロセスをさらに含む、請求項12又は13記載のワイヤ。
【請求項15】
前記第二の時間は5分~40分である、請求項12~14のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項16】
前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のエラスティシティは、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のエラスティシティの2%以内である、請求項12~15のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項17】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のヒステリシスは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のヒステリシスよりも少なくとも40MPa低い、請求項12~16のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項18】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の下方プラトー応力(LPS)は、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のLPSよりも少なくとも30MPa高い、請求項12~17のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項19】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは、前記ワイヤの前記第一の熱処理から生じる第一の永久歪みよりも少なくとも85%低く、そして
前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される、請求項12~18のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項20】
11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは5%未満の永久歪みを有する、請求項12~18のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項21】
11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である、請求項20記載のワイヤ。
【請求項22】
前記第一の熱処理の後に、前記ワイヤに200MPaの応力が加えられたときに、前記ワイヤは42GPa未満の第一の弾性率を有し、そして前記第二の熱処理の後に、前記ワイヤに200MPaの応力が加えられたときに、前記ワイヤは、少なくとも55GPaの第二の弾性率を有する、請求項12~21のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項23】
前記第二の弾性率は55GPa~64GPaである、請求項22記載のワイヤ。
【請求項24】
少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)をさらに有する、請求項12~23のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項25】
インプラント可能なメディカルデバイスにさらに加工される、請求項12~24のいずれか1項記載のワイヤ。
【請求項26】
前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である、請求項25記載のワイヤ。
【請求項27】
ニッケルチタン合金のワイヤを形成する方法であって、
ワイヤに歪み変形を加えて前記ワイヤの形状を固定すること、
前記ワイヤに第一の熱処理を課すこと、及び、
前記ワイヤに第二の熱処理を課すこと、
を含み、
前記第一の熱処理は、第一の温度の熱を第一の時間課すことを含み、
前記第二の熱処理を課すことは、前記第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含み、前記第二の温度は210℃~290℃である、方法。
【請求項28】
得られたワイヤは、前記第二の熱処理の後に少なくとも350MPaのLPSを有する、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記第二の時間は5分~40分である、請求項27又は28記載の方法。
【請求項30】
前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一の弾性率は、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の弾性率の2%以内である、請求項27~29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のエラスティシティは、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のエラスティシティの2%以内である、請求項27~30のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のヒステリシスは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のヒステリシスよりも少なくとも40MPa低い、請求項27~31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の下方プラトー応力(LPS)は、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のLPSよりも少なくとも30MPa高い、請求項27~32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一の永久歪みよりも少なくとも85%低く、
前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される、請求項27~33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは1%未満であり、
前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される、請求項27~33のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
得られるワイヤは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、5%未満の永久歪みを有する、請求項27~33のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記第一の熱処理の後に、200MPaの応力が前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは42GPa未満の第一の弾性率を有し、前記第二の熱処理の後に、200MPaの応力が前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは少なくとも55GPaの第二の弾性率を有する、請求項27~37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
前記第二の弾性率は55GPa~64GPaである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
得られたワイヤは、少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)を有する、請求項27~39のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
前記第二の熱処理が課された後に前記ワイヤをインプラント可能なメディカルデバイスに加工することをさらに含む、請求項27~40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である、請求項41記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2019年9月27日に出願された仮出願第62/907,490号の利益を主張し、あらゆる目的のためにその全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
分野
本開示は、一般に、金属合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ニッケルチタンなどの形状記憶及び超弾性合金に大きな関心が寄せられてきた。この合金ファミリーは、ニチノール(ニッケルチタン国防省海軍武器研究所)としても知られている。ニチノール合金の性能を活用するための鍵は、オーステナイト相とマルテンサイト相の間で遷移する結晶構造の相変態である。オーステナイト相は一般に高温相と呼ばれ、マルテンサイト相は一般に低温相と呼ばれている。特定の相特性及びある相から別の相への繰り返し可能な変化は、ニチノールのユニークな超弾性と形状記憶特性を達成するための機構である。
【0004】
ニッケルチタン合金は、診断及び治療のためのメディカルデバイスで頻繁に使用されている。例えば、メディカルデバイスの低侵襲的インプラント処置は、標的治療部位へのデリバリーのために、より小さなサイズに収縮され、次いで、解放され、機能的構成に拡張され、ニチノールの超弾性及び/又は形状記憶特性を利用することができるデバイスを要求する。拡張されたより大きなプロファイルでメディカルデバイスの特性を維持又は改善しながら、より小さな収縮プロファイルが好ましいメディカルデバイスに特に適した特性を有するニッケルチタン合金を製造するためのニチノール材料特性の向上及び製造方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
要旨
開示される様々な概念は、ニッケルチタン合金のワイヤに関する。1つの例(「例1」)によれば、ニッケルチタン合金のワイヤは、11%の歪みがワイヤに加えられたときに、5%未満の永久歪みを有する。
【0006】
例1に加えて別の例(「例2」)によれば、11%の歪みがワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である。
【0007】
例1又は2に加えて別の例(「例3」)によれば、200MPaの応力がワイヤに加えられたときに、ワイヤは少なくとも53GPaの弾性率を有する。
【0008】
例3に加えて別の例(「例4」)によれば、前記弾性率は少なくとも55GPaである。
【0009】
例3に加えて別の例(「例5」)によれば、前記弾性率は53GPa~64GPaである。
【0010】
例3~5のいずれか1つに加えて別の例(「例6」)によれば、400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は少なくとも5GPaだけ減少する。
【0011】
例6に加えて別の例(「例7」)によれば、400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は少なくとも10GPaだけ減少する。
【0012】
例6に加えて別の例(「例8」)によれば、200MPaの応力がワイヤに加えられたときと比較して、400MPaの応力がワイヤに加えられたときに、前記弾性率は5GPa~16GPaの値だけ減少する。
【0013】
先行する任意の例に加えて別の例(「例9」)によれば、前記ワイヤは、さらに、少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)を有する。
【0014】
先行する任意の例に加えて別の例(「例10」)によれば、前記ワイヤは、インプラント可能なメディカルデバイスに加工される。
【0015】
例10に加えて別の例(「例11」)によれば、前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である。
【0016】
別の例(「例12」)によれば、ワイヤは、前記ワイヤに第一の熱処理を課すこと、前記第一の熱処理中に前記ワイヤに歪み変形を課して前記ワイヤの形状を固定すること、及び、前記ワイヤに第二の熱処理を課すことを含む方法によって形成される。第一の熱処理は、第一の温度の熱を第一の時間課すことを含む。第二の熱処理は、第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含む。第二の温度は210℃~290℃である。
【0017】
例12に加えて別の例(「例13」)によれば、前記第一の温度は400℃~550℃である。
【0018】
例12又は13に加えて別の例(「例14」)によれば、前記第一の熱処理は、前記ワイヤの形状を固定するように動作可能な1つ以上の追加の熱処理プロセスを含む。
【0019】
例12~14のいずれか1つに加えて別の例(「例15」)によれば、前記第二の時間は5分~40分である。
【0020】
例12~15のいずれか1つに加えて別の例(「例16」)によれば、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のエラスティシティは、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のエラスティシティの2%以内である。
【0021】
例12~16のいずれか1つに加えて別の例(「例17」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のヒステリシスは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のヒステリシスよりも少なくとも40MPa低い。
【0022】
例12~17のいずれか1つに加えて別の例(「例18」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の下方プラトー応力(LPS)は、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のLPSよりも少なくとも30MPa高い。
【0023】
例12~18のいずれか1つに加えて別の例(「例19」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一の永久歪みよりも少なくとも85%低く、そして前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される。
【0024】
例12~18のいずれか1つに加えて別の例(「例20」)によれば、11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは5%未満の永久歪みを有する。
【0025】
例20に加えて別の例(「例21」)によれば、11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である。
【0026】
例12~21のいずれか1つに加えて別の例(「例22」)によれば、前記第一の熱処理の後に、前記ワイヤに200MPaの応力が加えられたときに、前記ワイヤは42GPa未満の第一の弾性率を有し、そして前記第二の熱処理の後に、前記ワイヤに200MPaの応力が加えられたときに、前記ワイヤは、少なくとも55GPaの第二の弾性率を有する。
【0027】
例22に加えて別の例(「例23」)によれば、前記第二の弾性率は55GPa~64GPaである。
【0028】
例12~23のいずれか1つに加えて別の例(「例24」)によれば、前記ワイヤは、少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)を有する。
【0029】
例12~24のいずれか1つに加えて別の例(「例25」)によれば、前記ワイヤは、インプラント可能なメディカルデバイスに加工される。
【0030】
例25に加えて別の例(「例26」)によれば、前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である。
【0031】
別の例(「例27」)によれば、ニッケルチタン合金のワイヤを形成する方法は、ワイヤに歪み変形を加えて前記ワイヤの形状を固定すること、前記ワイヤに第一の熱処理を課すこと、及び、前記ワイヤに第二の熱処理を課すことを含む。第一の熱処理は、第一の温度の熱を第一の時間課すことを含み、及び、前記第二の熱処理を課すことは、前記第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含む。第二の温度は210℃~290℃である。
【0032】
例27に加えて別の例(「例28」)によれば、得られたワイヤは、前記第二の熱処理の後に少なくとも350MPaのLPSを有する。
【0033】
例27又は28に加えて別の例(「例29」)によれば、前記第二の時間は5分~40分である。
【0034】
例27~29のいずれか1つに加えて別の例(「例30」)によれば、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一の弾性率は、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の弾性率の2%以内である。
【0035】
例27~30のいずれか1つに加えて別の例(「例31」)によれば、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のエラスティシティは、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のエラスティシティの2%以内である。
【0036】
例27~31のいずれか1つに加えて別の例(「例32」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二のヒステリシスは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のヒステリシスよりも少なくとも40MPa低い。
【0037】
例27~32のいずれか1つに加えて別の例(「例33」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の下方プラトー応力(LPS)は、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一のLPSよりも少なくとも30MPa高い。
【0038】
例27~33のいずれか1つに加えて別の例(「例34」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは、前記第一の熱処理から生じる前記ワイヤの第一の永久歪みよりも少なくとも85%低い。前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される。
【0039】
例27~33のいずれか1つに加えて別の例(「例35」)によれば、前記第二の熱処理から生じる前記ワイヤの第二の永久歪みは1%未満である。前記第一の永久歪み及び前記第二の永久歪みのそれぞれは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられた後の前記ワイヤの長さによって規定される。
【0040】
例27~33のいずれか1つに加えて別の例(「例36」)によれば、得られたワイヤは、11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、5%未満の永久歪みを有する。
【0041】
例36に加えて別の例(「例37」)によれば、11%の歪みが前記ワイヤに加えられたときに、前記永久歪みは1%未満である。
【0042】
例27~37のいずれか1つに加えて別の例(「例38」)によれば、前記第一の熱処理の後に、200MPaの応力が前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは42GPa未満の第一の弾性率を有し、前記第二の熱処理の後に、200MPaの応力が前記ワイヤに加えられたときに、前記ワイヤは少なくとも55GPaの第二の弾性率を有する。
【0043】
例38に加えて別の例(「例39」)によれば、前記第二の弾性率は55GPa~64GPaである。
【0044】
例27~39のいずれか1つに加えて別の例(「例40」)によれば、得られたワイヤは、少なくとも350MPaの下方プラトー応力(LPS)を有する。
【0045】
例27~40のいずれか1つに加えて別の例(「例41」)によれば、この方法は、前記第二の熱処理が課された後に前記ワイヤをインプラント可能なメディカルデバイスに加工することをさらに含む。
【0046】
例41に加えて別の例(「例42」)によれば、前記メディカルデバイスは、ステントグラフト、塞栓フィルタ、中隔閉塞器又は心臓弁である。
【0047】
前述の例はまさに実施例であり、本開示によって他の方法で提供される概念のいずれかの範囲を制限又は他の方法で狭めるために読まれるべきではない。複数の例が開示されているが、さらに他の実施形態は、例示的な例を示して記載する以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。したがって、図面及び詳細な説明は、本質的に限定的なものではなく、本質的に例示的なものと考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図面の簡単な説明
添付の図面は、本開示のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、その一部を構成し、実施形態を示し、記載とともに、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【0049】
【
図1】
図1は、本明細書に開示される実施形態によるワイヤを形成するための熱処理を課すための方法の流れ図を示す。
【0050】
【
図2】
図2は、本明細書に開示された方法による実施形態で形成されたワイヤの応力-歪み曲線の例を示す。
【0051】
【
図3】
図3は、本明細書に開示される実施形態による、異なる熱処理方法を使用して形成されたワイヤの適用歪みvs永久歪みのグラフを示す。
【0052】
【
図4】
図4は、本明細書に開示される実施形態による、異なる熱処理方法を使用して形成されたワイヤの適用歪みvs永久歪みのグラフを示す。
【0053】
【
図5】
図5は、当該技術分野で知られているようにそして本明細書に開示されている実施形態による、異なる熱処理方法から得られた異なる歪みvs応力曲線を比較するグラフを示す。
【0054】
【
図6】
図6A~6Dは、様々な実施形態による本明細書に開示されるとおりのワイヤを使用して形成されうるインプラント可能なメディカルデバイスの例を示す。
【0055】
当業者は、本開示の様々な態様が、意図された機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって実現できることを容易に理解するであろう。本明細書で参照される添付の図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、本開示の様々な態様を説明するために誇張されていることがあり、その点で、図面は限定として解釈されるべきではないことにも留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0056】
詳細な説明
定義及び用語
本開示は、限定的な方法で読まれることを意図されていない。例えば、本出願で使用される用語は、その分野の用語がそのような用語に帰する意味の関係で広く読まれるべきである。
【0057】
不正確さの用語に関して、「約」及び「ほぼ」という用語は、交換可能に、記載された測定値を含み、また、記載された測定値に合理的に近い測定値を含む測定値を指すために使用されうる。記載された測定値に合理的に近い測定値は、関連技術の当業者によって理解され、容易に確認されるように、合理的に少量だけ記載された測定値から逸脱している。このような逸脱は、例えば、測定誤差又は性能を最適化するために行われた小さな調整に起因する可能性がある。
【0058】
様々な実施形態の説明
ニッケルチタン合金から作られたワイヤ又はワイヤ構造に対する処理プロセスが本明細書に開示されており、ワイヤは冷間加工プロセスによって得られ、続いて歪みがワイヤに加えられてワイヤを形状固定する間に第一の熱処理を受ける。ワイヤは、第一の熱処理の後に第二の熱処理をさらに受け、ここで、第二の熱処理は、210℃~290℃の温度で行われる。
【0059】
開示された処理プロセスは、ワイヤが1つ以上の有利な物理的特性を有することを可能にする。例えば、第二の熱処理プロセスを受けたワイヤは、本明細書中に以下に詳述するように、他の既知のプロセスを使用して形成されたワイヤと比較して、下方プラトー応力(LPS)を増加させ、ヒステリシスを減少させ、及び/又は、永久歪みを減少させることのうちの1つ以上を有する。さらに、幾つかの例において、開示された処理プロセスを通じて得られたワイヤは、既知のプロセスで形成されたワイヤよりも超弾性回復が可能である。
【0060】
図1は、本明細書に開示される実施形態による、ニッケルチタン合金から作られたワイヤ又はワイヤ構造の処理プロセス200を示している。プロセス200の第一の工程100において、冷間加工されたワイヤは得られる。工程100は、当該技術分野で知られているような任意の冷間加工プロセスを含むことに留意されたい。このようなプロセスは、再結晶温度を下回る温度で金属を成形することが関与するので、「冷間加工」と呼ばれる。幾つかの例において、冷間加工プロセスは室温で実施されうる。
【0061】
工程100に続くプロセス200の第二の工程202において、歪みがワイヤに加えられている間に、第一の熱処理をワイヤに課してワイヤを所望の幾何形状に永久的に形状固定する。第一の熱処理は、第一の温度の熱を第一の時間課すことを含む。幾つかの例において、第一の温度は450℃~550℃であることができる。他の例において、第一の温度は、450℃~470℃、470℃~500℃、500℃~520℃、520℃~550℃又はそれらの間の他の任意の範囲であることができる。幾つかの例において、第一の熱処理は、ワイヤを形状固定するための1つ以上の追加の加熱プロセスを含むことができる。
【0062】
工程204において、第二の熱処理をワイヤに課し、第二の熱処理は、第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含む。幾つかの例において、第二の温度は210℃~290℃である。幾つかの例において、第二の熱処理は、210℃~220℃、220℃~230℃、230℃~240℃、240℃~250℃、250℃~260℃、260℃~270℃、270℃~280℃、280℃~290℃又はそれらの任意の範囲又は組み合わせの温度範囲にある。幾つかの例において、第二の熱処理は、5~15分、15~30分、30~40分又はそれらの任意の範囲又は組み合わせの時間長範囲にあるときに有効である。
【0063】
前述の各工程の間に、ワイヤの物理特性は、弾性率、永久歪み、回復可能な歪み、プラトー応力を含む物理特性、ならびに本明細書でさらに論じられる他の特性などの変化を受ける。これらの特性は、ニッケル-チタン超弾性材料の引張試験のためのASTM F2516標準試験方法として知られている試験方法を使用して測定される。ASTM F2516法において、ニチノールワイヤのサンプルは、ワイヤの両端を測定装置の固定具に固定することによって負荷される。ワイヤが測定器にしっかりと固定された後に、ワイヤが指定された歪みパーセンテージに達するまで、ワイヤの両端が指定された速度で互いに引き離される。幾つかの例において、この指定された歪みパーセンテージは、ワイヤの長さの6%である。次に、ワイヤの両端の移動方向を逆にして、負荷が所定の限界を下回るまで両端を互いに近づける。最終的に、今度はワイヤが断線するまでワイヤの両端を再び引き離す。各工程で行われた測定値は、試験対象のニチノールの物理特性を表す応力-歪み曲線を作成するために使用される。このような応力-歪み曲線の例を
図2に示す。
【0064】
図2は、ASTM F2516法を使用して決定することができるニチノールワイヤの特性の幾つかを含む応力-歪み曲線300の例を示している。第一に、両端を反対方向に引っ張ることによってワイヤに初期ひずみが加えられると、ワイヤは、引張歪み(長さの%変化率)に対する引張応力(パスカル単位)の比を規定するE
A(すなわち、ヤング率又は弾性率)の勾配を有する線形弾性(非永久)変形302を受ける。次に、引張応力は、ワイヤに追加の応力が加えられることなくワイヤが引張ひずみを受ける平坦な領域又はプラトー304を経験する。ASTM F2516法の仕様によれば、上方プラトー応力(UPS)は、このプラトー304で測定された応力として定義され、特に引張応力が初期的に加えられたときの3%の歪みで規定される。次に、ASTM F2516法の仕様によれば、歪みが適用歪み305に達するまで引張応力が加えられ、この適用歪みは、ASTM F2516の仕様により6%であり、ニチノールを試験するための初期荷重ひずみ又は回復可能(すなわち、可逆的)歪みである。その後、負荷解除プロセス306中に方向が逆になり、ワイヤの両端が互いに近づく。ワイヤは、このプロセスで別のプラトー308を経て、ワイヤが初期6%の歪みに達した後に、2.5%歪みでASTM F2516法の仕様に従ってLPSが測定される。UPSとLPSの値の差は、機械的ヒステリシスとして規定される。適用歪み305の異なる値について、異なる量の永久歪み311が観察されることに留意されたい。永久歪み311は、歪み305がワイヤに加えられ、続いて、歪み解除された後のワイヤの長さによって規定される。歪み解除後のワイヤの得られる長さがワイヤの初期長さよりも長いときに、長さの差は、ワイヤが受けた永久歪み311の量を決定する。ワイヤの長さの増加が小さければ小さいほど、その永久歪み311の量は少なくなり、これは、ワイヤがより超弾性回復する能力があることを示している。
【0065】
その後、ASTM F2516法の仕様に従って、ワイヤに5MPaの応力が加えられる。他の応力の不在において、ワイヤは初期長さに戻ることができる。多くのニチノールワイヤにおいて、ワイヤの長さは変化しないか、又は、ほとんど変化せず、例えば、6%の初期歪みに達する前後の長さの変化は0.5%未満であるが、幾つかの場合において、ワイヤの得られる長さは初期長さより長い。これらの場合において、ワイヤは、得られるワイヤの長さを初期長さと比較することによって決定される永久歪み311を備えた永久変形310を受けたと言われる。最後に、ワイヤの両端が再び反対方向に引っ張られ、ワイヤは弾性変形302及び上方プラトー304を経る。しかし、今回、ワイヤは6%のひずみを超えて引っ張られ、塑性(永久)変形312を受ける。その後、ワイヤが極限永久歪みにあるときにワイヤが破損又は破壊し、ワイヤの極限引張強さ(UTS)を測定する。
【0066】
ニッケル-チタン合金のワイヤにその物理特性を持たせる従来のプロセスにおいて、ワイヤは歪み変形を受けて所望の形状に成形され、続いて、一般に形状固定に使用される温度での熱処理によって形状固定アニーリングプロセスを受ける。ニチノールワイヤを処理するために使用される方法の例、及び、方法を使用して調製された各ワイヤの結果として得られる特性を以下に開示する。第一の例(「例示プロセス1」)は、当該技術分野で知られているワイヤ処理の方法に関するものであり、第二の例(「例示プロセス2」)は、本開示に関するものである。以下に示す例示プロセス2の方法は例示的なものであり、限定的なものではなく、さらなる使用は、当業者によって認識されるであろう。
【0067】
例示プロセス1:冷間加工プロセスを介して調製され、0.0206インチのワイヤ直径に縮小された、ニチノールワイヤ(例えば、0.0206インチのワイヤ直径の超弾性ASTM F2063準拠ワイヤ)が得られる。具体的には、ニチノールワイヤは、ワイヤの再結晶温度(例えば、550℃)よりも十分に低い室温(約25℃)で延伸プロセスを受ける。次に、歪み変形が課された後に、ワイヤは、ワイヤが合金の形状固定に典型的に使用される温度(例えば、470℃)、および溶融温度(1310℃)未満に加熱され、ワイヤを一定時間その温度に維持し、次いで、ワイヤを室温まで冷却する形状固定アニーリングプロセスを経る。この例において、ワイヤは470℃で17分間の形状固定アニーリングプロセスを経て、11%の適用歪み305の後に、5.6%の永久歪み311をもたらした。
【0068】
例示プロセス2:ニチノールワイヤは、プロセス200の工程202の下で第一の熱処理を受け、ここで、第一の熱処理は、ワイヤの形状固定温度である470℃で17分間行われる。これは、例示プロセス1の上記の形状固定アニーリングプロセスと同じ温度及び時間である。ワイヤは、第一の熱処理中のアニーリングプロセス(工程202)中に歪みを加え、そして形状を保持することによって直線セクションで形状固定される。その後に、工程204で第二の熱処理をワイヤに課し、第二の熱処理は、第一の熱処理よりも低い温度を伴う。1つの例における第二の熱処理は、ワイヤを250℃で40分間維持することを伴う。この例において、ワイヤは、11%の適用ひずみ305の後に、0.6%の永久歪み311を有した。
【0069】
図3は、例示プロセス1及び2において、同じタイプのニチノールワイヤが異なる量の適用歪み305の後に生じた異なる永久歪み311を比較している。図中で、特に11%の適用歪み305において、例示プロセス1で実施される手順に基づく(すなわち、470℃で第一の熱処理のみを受ける)第一のサンプル400は、永久歪み311が5.6%であり、これは、例示プロセス2で実施される手順に基づく(すなわち、470℃で第一の熱処理を行い、250℃で第二の熱処理を行う)、永久歪みが0.6%である第二のサンプル402よりも高い。この例において、永久歪み311が第一のサンプル400から第二のサンプル402で89%減少している。したがって、第一のサンプル400と比較して第二のサンプル402では永久歪み311が減少しているので、第二のサンプル402は、第一のサンプル400よりも大きな超弾性回復性を有すると言うことができる。幾つかの例において、適用歪み305は10.5%~11.5%である。幾つかの例において、210℃~290℃の温度を使用する第二の熱処理により、ワイヤは第一の熱処理のみを受けたワイヤと比較して少なくとも50%、60%、70%、80%、85%又はそれらの間の任意の範囲の永久歪みの減少を経験する。
【0070】
例示プロセス3:ニチノールワイヤは、プロセス200の工程202の下で第一の熱処理を受け、ここで、第一の熱処理は、ワイヤの形状固定温度である470℃で17分間行われる。これは、例示プロセス1の上記の形状固定アニーリングプロセスと同じ温度及び時間である。工程202の第一の熱処理中に歪み変形をワイヤに課し、その後に、第二の熱処理を工程204でワイヤに課し、ここで、第二の熱処理は、第一の熱処理よりも低い温度を伴う。第二の熱処理は、ワイヤを320℃で40分間維持することを伴う。この例において、ワイヤは、11%の適用歪み305の後に、6.0%の永久歪み311を有した。
【0071】
図4は、同じタイプのニチノールワイヤが、例示プロセス2及び3において異なる量の適用歪み305の後に生じた異なる永久歪み311を比較している。図中で、特に11%の適用歪みにおいて、例示プロセス2で実行された手順に基づく
図3の第二のサンプル402は永久歪み311が0.4%であり、これは、例示プロセス3で実行された手順に基づく、永久歪み311が6.0%である第三のサンプル500よりも低い。第三のサンプル500に対して第二のサンプル402で永久歪み311が減少しているので、第二のサンプル402は、第三のサンプル500よりも大きな超弾性回復性を有すると言うことができる。幾つかの例において、適用歪み305は10.5%~11.5%である。したがって、ワイヤが210℃~290℃の範囲を超える温度で第二の熱処理を受けると、永久歪み311は増加し、210℃~290℃の範囲内の温度で第二の熱処理を受けたワイヤと比較してワイヤの超弾性回復性が低くなる。
【0072】
図3及び4の結果を考慮して、第二の熱処理が、例えば、ワイヤのエラスティシティを11%増加させるのに特に有効であると思われる、第二の熱処理のための温度範囲の特定の領域がある。例示プロセス3は、11%の適用歪み305の後に6.0%の永久歪み311を経験しているワイヤを示し、これは、例示プロセス3が例示プロセス2と同様に第二の熱処理を受けたけれども、同じ適用歪み305の後に5.6%の永久歪み311を経験したワイヤの例示プロセス1と同様である。そのような領域の幾つかの例は、本明細書の他の場所で説明されている。また、幾つかの例において、ワイヤが210℃~290℃の温度で第二の熱処理を受けるときに、第二のサンプル402は、11%の歪み305がワイヤに適用されると、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満又はそれらの間の任意の範囲での永久歪みを達成する。
【0073】
さらに、幾つかの例において、上記で説明した温度及び時間長の範囲で第二の熱処理を受けた後のワイヤはまた、少なくとも630MPaのUPS304及び少なくとも345MPaのLPS308を有する。具体的には、450℃の第一の熱処理と250℃の第二の熱処理を伴う1つの例において、641.31MPaの平均UPS304値と352.54MPaの平均LPS308値が観察され、ヒステリシスが生じ、又は、UPS304とLPS308の差は288.77MPaとなった。
【0074】
異なる(又は存在しない)第二の熱処理温度を有する他の例を以下の表1に示し、第二の熱処理が指定された温度範囲内にあることは、LPS308及びワイヤのヒステリシスを増加させることを示す。また、表1には、LPS308で観察された増加と、第一の熱処理のみが実行された例と比較した第二の熱処理後のヒステリシスの減少が示されている。
【表1】
【0075】
表1によれば、第二の熱処理を受けたワイヤは、第一の熱処理のみを受けたワイヤと比較して、常により高いLPS及びより低いヒステリシスをもたらす。少なくとも、第二の熱処理によりLPSが6MPa増加し、ヒステリシスが17MPa減少する。使用されている3つの温度の中で、250℃の第二の熱処理温度が最大の変化を引き起こし、第一の熱処理のみが行われる条件を含む、すべての条件の中で、最も高いLPS及び最も低いヒステリシスを有するという事実において示されるように、第二の熱処理が行われる温度が値に影響を及ぼす。したがって、幾つかの例において、第二の熱処理に起因するLPSの増加は、少なくとも15MPa又は30MPaであり、それに起因するヒステリシスの減少は、少なくとも30MPa又は40MPaである。幾つかの例において、第二の熱処理の210℃~290℃の温度範囲は、第一の熱処理のみが施されるときと比較して、LPSの少なくとも30MPaの増加及びヒステリシスの少なくとも40MPaの減少を引き起こす。また、この温度範囲により、LPSは少なくとも350MPaまで上昇する。
【0076】
幾つかの例において、二次構成要素は、限定するわけではないが、熱結合及び縫合などを介してワイヤに取り付けられることができる。二次構成要素は、限定するわけではないが、生体吸収性ポリマー(例えば、ポリ乳酸、ポリ(トリメチレンカーボネート)又はPGA/TMCなど)、フルオロポリマー(例えば、フッ素化エチレンプロピレン又はFEP、ポリテトラフルオロエチレン又はPTFE及び膨張(膨張、エキスパンデッド、延伸又は発泡)フルオロポリマー、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン又はePTFE)、フルオロエラストマー及びエラストマー性材料(例えば、TFE/PMVEコポリマー)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート又はPET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン又はシリコーンなどを含むポリマー材料から作ることができる。追加的又は代替的に、第二の熱処理を使用して、ワイヤに結合する二次構成要素(例えば、薬物コーティング、治療用又は他の材料)を硬化又は変性することができる。二次構成要素は、ステントグラフトのグラフト部材又は他の構成要素、心臓弁尖、スカート、カフ又は心臓弁の他の構成要素、フィルタ膜又はフィルタの他の構成要素、又は、所望に応じて他の二次構成要素であることができる。
【0077】
さらに、幾つかの例において、第一の熱処理から生じるワイヤの第一の弾性率は、第二の熱処理から生じるワイヤの第二の弾性率とほぼ同じである。すなわち、第二の熱処理後のワイヤは、第一の熱処理後と同じ引張応力/引張歪みの比率を維持する。他の幾つかの例において、第二の熱処理後に測定された第二の弾性率は、第一の熱処理後に測定された第一の弾性率から2%の範囲内にとどまる(すなわち、2%未満で増加又は減少する)。幾つかの例において、第一の熱処理から生じるワイヤの第一のエラスティシティ(elasticity)は、第二の熱処理から生じるワイヤの第二のエラスティシティとほぼ同じである。他の例において、第二のエラスティシティは、第一のエラスティシティから2%の範囲内にある。
【0078】
図5は、4つの熱処理プロセスのうちの1つを受けるワイヤで観察された異なる応力vs歪み曲線の実験データを比較するグラフ600である。グラフ600に実線として示されている第一のプロセス602において、ワイヤは、第一の熱処理温度470℃で17分間加熱され、次いで、第二の熱処理温度320℃で40分加熱される。グラフ600に長いセグメントで破線として示されている第二のプロセス604において、ワイヤは、第一の熱処理温度470℃で17分間加熱され、次いで、第二の熱処理温度270℃で40分間加熱される。グラフ600により短いセグメントで破線として示されている第三のプロセス606において、ワイヤは、第一の熱処理温度470℃で17分間加熱され、次いで、第二の熱処理温度210℃で40分間加熱される。グラフ600に点線として示されている第四のプロセス608において、ワイヤは、続く熱処理なしに、470℃の第一の熱処理温度でのみ17分間加熱される。
【0079】
得られるデータは、上記の4つのプロセスのそれぞれについて、ワイヤが異なる値の応力負荷(MPa単位)を受けて、各応力負荷によって引き起こされる歪みの量(元のワイヤ長さの%)を測定するように収集される。データは
図5に示すようにプロットされ、次いで、応力を対応する応力で割ることによって計算される弾性率(GPa)を決定するために分析される。以下に示す表において、弾性率は200MPa及び400MPaの適用応力で計算されている。
【0080】
【0081】
【0082】
上記の表2及び3から観察できるように、第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606は、200MPaと400MPaとの間で弾性率のより大きな変化を引き起こす。実際、本明細書に開示されるように指定された温度範囲内での第二の熱処理を含む第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606は、200MPaの適用応力でより大きな弾性率を有する。より具体的には、測定弾性率は、少なくとも53GPa、少なくとも54GPa又は少なくとも55GPaなどの範囲である。幾つかの例において、測定弾性率は、53GPa~64GPa、55GPa~64GPa、57GPa~64GPa、60GPa~64GPa、62GPa~64GPa又はそれらの間の任意の範囲である。比較すると、第一のプロセス602は41.67GPaで最も低い弾性率を有し、第四のプロセスは52.63GPaであり、これらは両方とも第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606の弾性率を下回る。
【0083】
また、第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606の弾性率の変化は、200MPaと400MPaの適用応力の間で、5GPaを超え、7GPaを超え、又は10GPaを超えるなどである。幾つかの例において、第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606の弾性率の変化は、5GPa~16GPa、7GPa~16GPa、10GPa~16GPa、12GPa~16GPa、14GPa~16GPa又はそれらの間の任意の範囲である。比較すると、第一のプロセス602は、弾性率の変化が0.43GPaであるのに対し、第四のプロセス608は、4.44GPaであり、第二のプロセス及び第三のプロセス604及び606のものよりもはるかに低い。
【0084】
図6A~6Dは、本明細書に開示されるとおりのワイヤを使用して作製されうる様々なインプラント可能なメディカルデバイスの例を示している。ワイヤは、当該技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して、これらのメディカルデバイスのいずれか1つ以上に加工されうる。例は単なる例示であり、網羅的であることを意図するものではなく、メディカルデバイスの形状及び構成は、図に示されているものに限定されない。
【0085】
図6Aは、1つ以上のワイヤ又はステント701及び1つ以上の膜状材料又はグラフト702を含むステントグラフト700の例を示す。ワイヤ又はステント701は、グラフト702の周囲にらせん状に形成されうるが、任意の適切な構成が想定されうる。
【0086】
図6Bは、ワイヤ又はストラット711と、中央支持部材713に取り付けられた1つ以上の膜状材料又はフィルタ要素712とを含む塞栓フィルタ710の例を示す。ストラット711は、真っ直ぐであり、湾曲状であり、又は他の任意の適切な形状及び構成を有することができる。
【0087】
図6Cは中隔閉塞器又は心臓シーリングデバイス720の例を示し、前記デバイスは、ワイヤフレーム721を形成する1つ以上のワイヤ、1つ以上の膜状材料又はシーリング部材722、及び、そこを通る流体流を制御するために閉塞されても又は閉塞されなくてもよい1つ以上のアイレット723を含む。ワイヤフレーム721は、アイレット723に取り付けられるか又はそれとともに実装されることができ、シール部材722は、ワイヤフレーム721に取り付けられることができる。ワイヤフレーム721は、当該技術分野で知られているとおりの任意の適切な構成をとることができる。
【0088】
図6Dは、弁フレーム731を形成する1つ以上のワイヤと、1つ以上の膜状材料又はカバー732とを含む心臓弁又は人工器官保持要素730の例を示す。カバー732は、弁フレーム731に取り付けられるか又はそれとともに実装されることができる。弁フレーム731は、当該技術分野で知られているとおりの任意の適切な構成をとることができる。
【0089】
本明細書に開示される実施形態及び方法はまた、様々な形状記憶物品を可能にするように使用されうる。形状記憶物品は、インプラント可能なメディカルデバイスなどのメディカルデバイスを含むことができる。インプラント可能なメディカルデバイスは、通常の体温(約37℃)で超弾性であるものなど、ニチノール形状記憶合金のデバイスであることができる。インプラント可能なメディカルデバイスは、24時間以上の時間、生体内に留まることが意図されるデバイスと定義される。
【0090】
メディカルデバイス又は物品は、円形、楕円形、正方形、矩形などを含む様々な横断面形状のワイヤなどの様々な形状の材料から製造されうる。あるいは、デバイス又は物品は、シート、チューブ又はロッドなどの、前駆体形態を機械加工することによって、又は、放電加工(EDM)、レーザ切断、化学ミリングなどにより製造することができる。
【0091】
本出願の開示は、一般的に及び特定の実施形態に関しての両方で上記に記載されてきた。本開示の範囲から逸脱することなく、実施形態において様々な変更及び変形を行うことができることは当業者に明らかであろう。したがって、実施形態は、それらが添付の特許請求の範囲及びそれらの均等形態の範囲内に入るかぎり、本開示の変更及び変形を網羅することが意図される。
【国際調査報告】