(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】患者における医療関連感染の発生リスクを判定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20221122BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221122BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221122BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519273
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 FR2020051673
(87)【国際公開番号】W WO2021058919
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(71)【出願人】
【識別番号】518375786
【氏名又は名称】バイオアスター
(71)【出願人】
【識別番号】508277405
【氏名又は名称】ホスピス・シビル・ドゥ・リヨン
【氏名又は名称原語表記】HOSPICES CIVILS DE LYON
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァショ ロランス
(72)【発明者】
【氏名】マレ フランスワ
(72)【発明者】
【氏名】モナレ ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ムカデル ヴィルジニー
(72)【発明者】
【氏名】パショ アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ペロネ エステル
(72)【発明者】
【氏名】リムレ トマ
(72)【発明者】
【氏名】テクストリス ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴネ ファビエン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
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4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、患者における医療関連感染の発生リスクを判定するためのインビトロまたはエクスビボ方法であって、当該患者の生体サンプルにおけるCX3CR1の発現を測定する工程を包含する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における医療関連感染の発生リスクを判定するためのインビトロまたはエクスビボ方法であって、当該患者からの生体サンプルにおいて、CX3CR1の発現を測定する工程を包含する方法。
【請求項2】
前記患者は、医療施設内の患者であり、かつ、前記方法は、当該患者における院内感染の発生リスクを判定することを可能にする、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者は、病院、好ましくは救急ユニット、蘇生ユニット、集中治療ユニットまたは継続治療ユニット内の患者、より好ましくは敗血症患者、火傷患者、外傷患者、または手術患者である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、免疫炎症攻撃から15日以内に、かつ/または、生体サンプルの採取を行った日の後の7日以内に前記患者において医療関連感染が発生するリスクを判定することを可能する、ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記生体サンプルは、血液サンプルである、ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記生体サンプルは、全血サンプルである、ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記患者の前記生体サンプルにおいて、ADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、IL15、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから選択される別の遺伝子の発現を測定する工程をさらに包含する、ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記発現は、mRNAまたはタンパク質レベルで測定される、ことを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記発現は、mRNAレベルで測定される、ことを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記発現は、RT-PCR、好ましくはRT-qPCRによって測定される、ことを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記発現は、シークエンシングによって測定される、ことを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記発現は、ハイブリダイゼーションによって測定される、ことを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記発現は、1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子の発現に対して正規化される、ことを特徴とする請求項9~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
CX3CR1、およびADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから選択される別の遺伝子の増幅手段および/または発現検出手段を備えるキットであって、当該キットは、当該キットの増幅および/または検出手段のすべてが合計で100個以下のバイオマーカーの検出および/または増幅を可能にすることを特徴とする、キット。
【請求項15】
CX3CR1の増幅手段および/または発現検出手段、または、
そのような増幅手段および/または検出手段を備えるキットの、
患者における医療関連感染の発生リスクを判定するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者における医療関連感染の発生リスクを判定するためのインビトロまたはエクスビボ方法であって、当該患者の生体サンプルにおいて、CX3CR1の発現を測定するための工程を包含する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療関連感染への罹患は、特に病院などの医療構造物において、医療に関係した大問題である(院内感染の詳細は後述)。集中治療ユニットにおける院内感染は、患者の20~40%において発生し、罹患率および死亡率の増大、臓器不全対症療法を必要する期間の長期化、入院の長期化、医療コストの増大、および抗菌薬耐性に寄与する抗生物質の大量使用に関連してきたことが実証されてきた。近年、医療関連感染の出現は、多剤耐性病原菌が増えたことにより特に悪化してきた。世界保健機関(WHO)の推定によると、欧州内の病院における院内感染数は約5百万件であり、これは約50,000人の死亡および130~240億ユーロの追加年間コストを招いている。医療関連感染の発生や罹患には、多くの要因が影響する。そのような要因として、患者の全体的な健康状態、患者管理に関係した要因(例えば、抗生物質の投与および/または侵襲的な医療用デバイスの使用)、病院環境に関係した要因(例えば、看護師数と患者数の比)、および病院スタッフによる感染予防テクニックの異なる使用などが挙げられる。特に米国保健福祉省(US Department of Health and Human Services)、欧州疾病予防管理センター(European Center for Disease Prevention and Control)、WHO、および各国の機関によって、推奨事項が公開され、また感染制御プログラムの確立が奨励されてきた。そこでは、医療関連感染の防止および低減が主要な優先事項となっている。医療関連感染制御プログラムが特に重症感染を低減するのに有効であることが判明されてきた。しかし、カテーテルの設置に関係した血液および尿路感染の件数の最大で65~70%、および、人工呼吸に関連した肺炎および手術を行った場所における感染の件数の最大で55%は、回避できたと推定されてきた。さらに、推奨に従った手順の遵守や適用は、特に低および中間所得国において、一部の病院では複雑となる場合がある。医療関連感染に罹患するリスクのある患者を早期に特定できれば、その感染の防止およびその患者の管理において重要なステップとなるであろう。いくつかのモデルによると、ハイリスク集団において医療関連感染を特定するのにかかる時間を低減し得るバイオマーカーがあれば、良好な費用対効果比でこれらの患者の死亡率が低減されるであろう。しかし、医療関連感染に罹患するリスクの高い患者を特定するための臨床インビトロ診断テストは現在のところ存在しない。
【0003】
一方、非常に驚くべきことに、フラクタルカイン(またはCX3CL1)受容体をコードしているCX3CR1遺伝子の発現を測定することによって、患者における医療関連感染の発生リスクを判定することが可能になることが発見されている。医療関連感染に罹患するリスクの高い患者であれば、免疫賦活免疫治療または個別化管理から有利な効果を受け得るであろう。文献によると、CX3CR1の発現の低下が、特に、敗血症状態、およびより詳細には、敗血症性ショックの患者の死亡率の増加に関連していることが既に証明されている(非特許文献1)。しかし、医療関連感染の発生を予測するためにCX3CR1の発現を測定することの有用性は、これまで実証も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Pachot et al.(2008), J Immunol 180: 6421-6429
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえ、本発明の目的は、患者における医療関連感染の発生リスクを判定するためのインビトロまたはエクスビボ方法であって、当該患者の生体サンプルにおいて、CX3CR1(GRCh38/hg38による当該遺伝子の染色体位置:chr3:39,263,494~39,281,735)の発現を測定するための工程を包含する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に関して、
「患者」という用語は、医師(例えば、総合診療医)などの医療従事者または医療構造物もしくは健康施設(例えば、病院、およびより詳細には、救急ユニット、蘇生ユニット、集中治療ユニットもしくは継続治療ユニット、または介護ホームタイプの高齢者用医療構造物)と接している個人(人間)を指す。患者は、例えば、予防接種プロトコル(特に、介護ホームにおいて、または総合診療医の所で)を受ける高齢者であり得る、
感染は、医療従事者が患者を(診断、治療、緩和、予防、教育または手術)する最中またはその後に発生し、かつ、治療の開始時に存在も潜伏もしていなかった場合に、いわゆる「医療関連」とされる。医療関連感染(HAI)は、医療施設内で罹患した感染(院内感染として知られる)、また、この医療施設の外で提供された医療中に罹患した感染も含む。治療の開始時における感染状態が具体的に既知でない場合、48時間以上の遅延または潜伏期間よりも長い遅延もHAIの定義に一般に受け入れられる。手術を行った場所での感染について、手術後30日以内に発生した感染、または、インプラント、プロテーゼまたはプロテーゼ材が設置された場合は、手術後1年以内に発生した感染は、通常、医療関連であると考えられる。感染は、細菌、真菌、またはウイルスを原因とし得る。また、感染は、TTVまたはヘルペスウイルス(例えば、CMV)などの潜在的に病原性である潜伏ウイルスの再活性化であり得る、
「生体サンプル」という用語は、患者からの任意のサンプルを指し、血液またはその誘導物、痰、尿、大便、皮膚、脳脊髄液、気管支肺胞洗浄液、唾液、胃分泌物、精液(semen)、精液(seminal fluid)、涙、脊髄、三叉神経節、脂肪組織、リンパ組織、胎盤組織、胃腸管組織、生殖菅組織、中央神経系組織などの異なる性質を有するものであり得る。特に、このサンプルは、血液サンプルまたは血液由来のサンプルなどの生体液であり得る。特に、血液サンプルまたは血液由来のサンプルは、全血(静脈ルートから採取された血液、すなわち、白血球、赤血球、血小板および血漿を含有する)、血漿、血清、ならびに末梢血単核細胞(すなわちPBMCであり、リンパ球(B、TおよびNK細胞)、樹状細胞および単球を含む)、B細胞の亜集団、精製された単球、または好中球などの血液から抽出される任意のタイプの細胞から選択され得る。
【0007】
好ましくは、上記の方法において、
患者は、医療施設内の患者であり、好ましくは病院、より好ましくは救急ユニット、蘇生ユニット、集中治療ユニットまたは継続治療ユニット内の患者である。特に好適には、患者は、敗血症状態(より詳細には、敗血症性ショック)の患者、火傷(より詳細には、重篤な火傷)を罹患している患者、外傷(より詳細には、重篤な外傷)を罹患している患者、または手術(より詳細には、大手術)を受けた患者であり、かつ
方法は、当該患者における院内感染の発生リスクを判定することを可能にする。
【0008】
敗血症状態(一次感染を既に罹患している)の患者の場合、本発明にかかる方法は、二次感染の発生リスクを判定することを可能にする。
【0009】
敗血症患者(または、敗血症を有する患者)は、感染に対するホストの不適切な応答が原因で少なくとも1つの生命を脅かす臓器不全を有する患者を意味する。敗血症性ショックは、十分な血管充填にもかかわらず低血圧が持続する敗血症のサブタイプを意味する。
【0010】
好ましくは、本発明にかかる方法は、上記のように、そのすべての実施形態において、
免疫炎症攻撃(すなわち、外傷を有する患者に対する外傷、火傷を有する患者に対する火傷、手術を受けた患者に対する手術、または敗血症患者に対する敗血症の診断)の日から15日以内に、すなわち、免疫炎症攻撃から1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目または15日目(ここで、1日目は、免疫炎症攻撃が発生した日に対応する)に(生体サンプルの採取は、特に免疫炎症攻撃から1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目または15日目、好ましくは免疫炎症攻撃から1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目または7日目、より好ましくは免疫炎症攻撃から3日目、4日目、5日目、6日目または7日目に実行されていてもよい)、かつ/または、
生体サンプルの採取を行った日の後の7日以内、6日以内、5日以内または4日以内に(生体サンプルの採取を行った日に関係なく)、すなわち、生体サンプルの採取を行った日から3日目、4日目、5日目、6日目または7日目に(ここで、1日目は、生体サンプルの採取を行った日の次の日に対応する)、
患者において医療関連感染が発生するリスクを判定することを可能する。
【0011】
好ましくは、上記の方法において、そのすべての実施形態において、生体サンプルは、血液サンプル、好ましくは全血サンプルまたは血液由来のサンプル(例えば、当業者に良く知られたフィコール(Ficoll)方法によって得られ得るPBMC、または精製された単球)である。
【0012】
好ましくは、上記の方法は、そのすべての実施形態において、患者の生体サンプルにおいて、ADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274(PD-L1としても知られる)、CTLA4(CD152としても知られる)、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R(CD127としても知られる)、IL10、IL15、MDC1、PDCD1(PD-1およびCD279としても知られる)、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから選択される別の対象遺伝子の発現を測定する工程をさらに包含する。より好ましくは、当該別の遺伝子は、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、IL15、PDCD1およびS100A9からなるリストから選択される。
【0013】
【表1】
表1.遺伝子の染色体位置。これらの遺伝子の発現は、CX3CR1の発現の測定と組み合わせて測定され得る
【0014】
遺伝子の発現(または、発現レベル)の測定は、当該遺伝子の少なくとも1つの発現産物を定量することからなる。遺伝子の発現産物は、本発明に関して、当該遺伝子の発現から得られる任意の生体分子である。
【0015】
より詳細には、遺伝子の発現産物は、RNA転写産物であり得る。「転写産物」は、遺伝子の転写から得られたRNA、および特に、メッセンジャーRNA(mRNA)を意味する。より具体的には、転写産物は、遺伝子を転写した後に前RNA形態を転写後修飾することによって生成されたRNAである。本発明に関して、同じ遺伝子の1つまたは複数のRNA転写産物の発現レベルの測定が行われ得る。それゆえに、好ましくは、上記の方法において、そのすべての実施形態において、遺伝子の発現(すなわち、CX3CR1の発現、および必要に応じて、上記リストからの別の対象遺伝子の発現)は、RNAまたはmRNA転写産物レベルで測定される。mRNA転写産物の場合、検出は、直接的な方法によって、当該転写産物のサンプル中の存在を判定することを可能にする、当業者に知られた任意の方法によって、または当該転写産物をDNAに変換した後、または当該転写産物を増幅した後、または当該転写産物をDNAに変換した後に得られたDNAを増幅した後に当該転写産物を間接的に検出することによって、実行され得る。核酸を検出するために多くの方法が存在する(例えば、Kricka et al., Clinical Chemistry, 1999, No. 45(4), p.453-458; Relier GH et al., DNA Probes, 2nd Ed., Stockton Press, 1993, sections 5 and 6, p.173-249を参照)。遺伝子の発現は、特に、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応、すなわち、RT-PCRによって、好ましくは定量的RT-PCR、すなわち、RT-qPCR(例えば、FilmArray(登録商標)技術を使用)によって、シークエンシング(好ましくは、高スループットシークエンシング)によって、またはハイブリダイゼーション手法(例えば、ハイブリダイゼーションマイクロチップを用いるか、またはNanoString(登録商標)nCounter(登録商標)タイプの手法によって)によって、測定され得る。
【0016】
遺伝子の発現産物はまた、該遺伝子の転写産物のうちの少なくとも1つの翻訳産物であるタンパク質および/またはポリペプチドであり得る。それゆえに、上記の方法において、遺伝子の発現はまた、タンパク質レベルで測定され得る。遺伝子の発現産物であるタンパク質のアイソフォームのすべては、単独でまたは組み合わせで、患者における医療関連感染の発生リスクを判定するためのマーカーとして測定され得る。生体サンプルにおけるタンパク質レベルでの遺伝子の発現の測定は、生体サンプル中の1つまたは複数の検査対象の量または分量を決定するための、当業者に広く知られた手法にしたがってなされ得る。例として、ELISA(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay)、ELFA(Enzyme Linked Fluorescent Assay)およびRIA(Radio Immuno Assay)などのイムノアッセイによる分析、および質量分析法よる分析を挙げ得る。
【0017】
遺伝子の発現レベルの測定によって、生体サンプル中に存在する1つまたは複数の転写産物(または1つまたは複数のタンパク質)の量を決定するか、または、それから導出される値を与えることが可能になる。当該量から導出される値は、例えば、既知の濃度のアンプリコン(またはタンパク質もしくはポリペプチド)溶液の連続希釈物から得られた検量線によって計算された絶対濃度であり得る。また、当該量から導出される値は、基準サンプル(またはキャリブレータ)および1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(リファレンス遺伝子とも呼ばれる)の値を積算するCNRQ(Calibrated Normalized Relative Quantity、(Hellemans et al. (2007), Genome biology 8(2):R19)などの標準化および較正された量の値に相当する。ハウスキーピング遺伝子の例は、DECR1、HPRT1、PPIB、RPLP0、PPIA、GLYR1、RANBP3、18S、GAPDHおよびACTB遺伝子を含む。
【0018】
それゆえに、好ましくは、上記の方法において、そのすべての実施形態において、対象遺伝子の発現は、当業者に既知の1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(またはリファレンス遺伝子)の発現に対して正規化される。ここで、より好ましくは、以下のハウスキーピング遺伝子のうちの1つ以上を使用する。DECR1(GRCh38/hg38による当該遺伝子の染色体位置:chr8:90,001,352~90,053,633)、HPRT1(GRCh38/hg38による当該遺伝子の染色体位置:chrX:134,452,842~134,520,513)、およびPPIB(GRCh38/hg38による当該遺伝子の染色体位置:chr15:64,155,812~64,163,205)。
【0019】
好ましくは、上記の方法において、そのすべての実施形態において、患者の生体サンプル中の対象遺伝子の発現(好ましくは、正規化された発現)は、基準値、または生体基準サンプル中の同じ対象遺伝子の発現(好ましくは、正規化された発現)と比較される(これらのデータは、上記のようにCNRQの計算のために使用される)。基準サンプルは、例えば、志願者(健常者)からのサンプル、患者からのサンプル、または複数の志願者からのサンプル(一方)または複数の患者からのサンプル(他方)の混合物であり得る。基準サンプルはまた、1人の志願者から採取されたサンプル(または、複数の志願者から採取されたサンプルの混合物)であって、次いで免疫系刺激剤(LPSまたはリポ多糖類など)を用いてエクスビボで処理されたサンプルであり得る。基準サンプルはまた、未処理サンプルおよび免疫系刺激剤を用いてエクスビボ処置されたサンプルの混合物であり得る。
【0020】
好ましくは、上記の医療関連感染の発生リスクを判定するための方法はまた、そのすべての実施形態において、医療関連感染の発生リスクを低減するための医療管理工程を包含する。医療関連感染に罹患するリスクが増大していると特定された患者は、医療関連感染に罹患するリスクを低減することを目的として、および例えば、敗血症、敗血症性ショックに罹患するリスクまたは死亡リスクを低減するために、適切な医療管理を受け得る。医療管理の例は、患者に適合された免疫調節治療、または予防抗生物質治療を含む。この2つの治療は、医療関連感染の発生リスクを低減するために、例えば、バイオマーカーの発現の測定の何日か後に敗血症、敗血症性ショックに罹患するリスクまたは死亡するリスクを低減するために、継続治療ユニットまたは蘇生ユニットに組み合わせおよび/または適応され得る。好ましくは、免疫調節治療は、患者が免疫抑制状態であると判定された場合は免疫賦活治療であり、または、患者が炎症状態であると判定された場合には抗炎症治療である。選択され得る免疫賦活治療に関して、例えば、インターロイキン(特に、IL-7、IL-15またはIL-3)、成長因子(特に、GM-CSF)、インターフェロン(特に、IFNγ)、Toll作動薬、抗体(特に、抗PD1、抗PDL1、抗LAG3、抗TIM3、抗IL-10または抗CTLA4抗体)、トランスフェリンおよびアポトーシスを抑制する分子、FLT3L、チモシンα1、アドレナリン遮断薬の類を挙げ得る。抗炎症治療に関して、特に、グルココルチコイド、細胞増殖抑制剤、イムノフィリンおよびサイトカインに作用する分子、IL-1受容体をブロックする分子、ならびに抗TNF治療の類を挙げ得る。肺炎を予防する適切な予防抗生物質治療の例は、特に、「Annales Francaises d'Anesthesie et de Reanimation」(30;2011;168-190)に記載されている。反対に、医療関連感染の発生リスクを呈さない患者は、必要のない細心の観察を有するサービスを受け続けるのではなく、昼間病院サービス(例えば、感染症科サービス)にすぐに移され得る。
【0021】
本発明の別の目的は、CX3CR1、およびADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、IL15、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから選択される別の遺伝子の増幅手段および/または発現検出手段(好ましくは、プライマーおよび/もしくはプローブ、または抗体)を備えるキットである(好ましくは、当該別の遺伝子は、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、IL15、PDCD1およびS100A9からなるリストから、またはADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから、より好ましくはBTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、PDCD1およびS100A9からなるリストから選択される)。当該キットは、当該キットの増幅および/または検出手段のすべてが、合計で100個以下、好ましくは90個以下、好ましくは80個以下、好ましくは70個以下、好ましくは60個以下、好ましくは50個以下、好ましくは40個以下、好ましくは30個以下、好ましくは20個以下、好ましくは10個以下、好ましくは5個以下のバイオマーカー、好ましくは4個以下、好ましくは3個以下、好ましくは2個以下の検出および/または増幅を可能にすることを特徴とする。「バイオマーカー」(または、「マーカー」)は、正常または病理的な生体プロセスまたは治療的介入に対する薬理的な応答の指標を表す客観的に測定可能な生体特性を意味する。このバイオマーカーは、特に、mRNAまたはタンパク質レベルにおいて検出可能であり得る。より詳細には、バイオマーカーは、内在性バイオマーカーまたは遺伝子座(個人の染色体物質において見出される遺伝子またはHERV/ヒト内在性レトロウイルス(Human Endogenous RetroVirus)など)または外因性バイオマーカー(ウイルスなど)であり得る。
【0022】
それゆえに、当該キットはまた、例えば、1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(好ましくは、DECR1、HPRT1およびPPIBからなるリストから選択される)を増幅および/または検出するための手段を備え得る。キットはまた、RNA抽出の量、任意の増幅および/またはハイブリダイゼーションプロセスの量を評価することを可能にするポジティブ制御手段を備え得る。
【0023】
「プライマー」または「増幅プライマー」は、5~100個のヌクレオチド、好ましくは15~30個のヌクレオチドからなり得、かつ、例えば、標的ヌクレオチド配列の酵素増幅反応において、酵素ポリメライゼーションを開始するように決定された条件下に、標的ヌクレオチド配列とのハイブリダイゼーションの特異性を有するヌクレオチド断片であり得る。一般に、2つのプライマーからなる「プライマー対」を使用する。複数の異なるバイオマーカー(例えば、遺伝子)を増幅したい場合、好ましくは複数の異なるプライマー対を使用する。ここで、各プライマー対は、好ましくは、異なるバイオマーカーに特異的にハイブリダイズする能力を有する。
【0024】
「プローブ」または「ハイブリダイゼーションプローブ」は、典型的には5~100個のヌクレオチド、好ましくは15~90個のヌクレオチド、さらにより好ましくは15~35ヌクレオチドからなり、標的ヌクレオチド配列とハイブリダイゼーション複合体を形成するように決定された条件下においてハイブリダイゼーション特異性を有するヌクレオチド断片を意味する。プローブはまた、標的ヌクレオチド配列の検出を可能にするリポーター(フルオロフォア、酵素または任意の他の検出システムなど)を含む。本発明において、標的ヌクレオチド配列は、メッセンジャーRNA(mRNA)に含まれたヌクレオチド配列、または当該mRNAの逆転写によって得られた相補DNA(cDNA)に含まれたヌクレオチド配列であり得る。複数の異なるバイオマーカー(例えば、遺伝子)を標的にしたい場合、好ましくは、複数の異なるプローブを使用する。ここで、各プローブは、好ましくは、異なるバイオマーカーに特異的にハイブリダイズする能力を有する。
【0025】
「ハイブリダイゼーション」は、適切な条件下において、例えばハイブリダイゼーションプローブと標的ヌクレオチド断片などの、十分な相補配列を有する2つのヌクレオチド断片が安定かつ特異的な水素結合を有する二重鎖を形成できるプロセスを意味する。ポリヌクレオチドと「ハイブリダイズ可能な」ヌクレオチド断片は、各場合に既知のやり方で決定され得るハイブリダイゼーション条件下に当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能な断片である。ハイブリダイゼーション条件は、操作条件の厳密さ(stringency)、すなわち、正確さ(rigor)によって決定される。ハイブリダイゼーションは、より高い厳密さで行われるにつれ、より特異的になる。厳密さは、特に、プローブ/標的二重体の塩基組成にしたがって、かつ、2つの核酸のミスマッチの度合いによって定義される。厳密さはまた、ハイブリダイゼーション溶液中に存在するイオン種の濃度および種類、変性剤の性質および濃度、ならびに/またはハイブリダイゼーション温度などの反応パラメータの関数であり得る。ハイブリダイゼーション反応を行う条件の厳密さは、主に、使用されるハイブリダイゼーションプローブに依存する。これらのデータのすべては、良く知られており、かつ、適切な条件は、当業者によって決定され得る。一般に、使用されるハイブリダイゼーションプローブの長さに依存するが、ハイブリダイゼーション反応のための温度は、生理食塩水溶液中で約0.5~1Mの濃度の場合、約20~70℃、特に35~65℃である。次いで、ハイブリダイゼーション反応を検出する工程を実行する。
【0026】
「酵素増幅反応」は、少なくとも1つの酵素の作用によって、標的ヌクレオチド断片の複数の複製を生成するプロセスを意味する。そのような増幅反応は、当業者に良く知られており、特に以下の手法を挙げ得る。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、LCR(リガーゼ連鎖反応)、RCR(修復連鎖反応)、特許出願WO-A-90/06995を有する3SR(自家持続配列複製)、NASBA(核酸配列に基づく増幅)、特許US-A-5,399,491を有するTMA(転写介在増幅)、および特許US6410278を有するLAMP(ループ介在等温増幅)である。酵素増幅反応がPCRである場合であって、より詳細には、増幅工程に先立ってメッセンジャーRNA(mRNA)を相補DNA(cDNA)に逆転写する工程が行われる場合は、RT-PCR(RTは、「逆転写」の略である)について説明し、また、PCRが定量的である場合は、qPCRまたはRT-qPCRについて説明する。
【0027】
本発明の別の目的は、
CX3CR1、および必要に応じてまた、ADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、IL15、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから選択される別の遺伝子の増幅手段および/または発現検出手段(好ましくは、プライマーおよび/もしくはプローブ、または抗体)(好ましくは、当該別の遺伝子は、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、IL15、PDCD1およびS100A9からなるリストから、またはADGRE3、BTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、IFNG、IL1RN、IL6、IL7R、IL10、MDC1、PDCD1、S100A9、TDRD9およびZAP70からなるリストから、より好ましくはBTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、PDCD1およびS100A9からなるリストから選択される)、または、
そのような増幅および/または検出手段を備えるキットであって、好ましくは、当該キットの増幅および/または検出手段のすべてが、合計で100個以下、好ましくは90個以下、好ましくは80個以下、好ましくは70個以下、好ましくは60個以下、好ましくは50個以下、好ましくは40個以下、好ましくは30個以下、好ましくは20個以下、好ましくは10個以下、好ましくは5個以下のバイオマーカー、好ましくは4個以下、好ましくは3個以下、好ましくは2個以下のバイオマーカーの検出および/または増幅を可能にし、かつ必要に応じて、当該キットは、1つまたは複数のハウスキーピング遺伝子(好ましくは、DECR1、HPRT1およびPPIBからなるリストから選択される)の増幅および/または発現検出するための手段を備える、キット
を使用して、
患者における医療関連感染、好ましくは院内感染、の発生リスクを判定することである。ここで、患者は、好ましくは医療施設内の患者であり、より好ましくは病院、好ましくは救急ユニット、蘇生ユニット、集中治療ユニットまたは継続治療ユニット内の患者である。特に好ましくは、患者は、敗血症状態(より詳細には、敗血症性ショック)の患者、火傷(より詳細には、重篤な火傷)を罹患している患者、外傷(より詳細には、重篤な外傷)を罹患している患者、または手術(より詳細には、大手術)を受けた患者である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の実施例によって本発明を例示するが、本発明はそれらに限定されない。
【0029】
実施例1:CX3CR1の発現の測定によって、患者における医療関連感染の発生リスクを予測することが可能になる
【0030】
材料および方法
有望、縦断的かつ単心的な観察臨床研究がEdouard Herriot病院(リヨン、フランス)で行われた。この臨床研究のデザインは、Rol et al. (2017), BMJ Open 7(6): e015734において公開されている。この臨床研究は、2015年11月にNational Agency for the Safety of Medicines and Health Products (ANSM)によって承認され、そして2015年12月にSouth-East II Personal Protection Committeeによって承認された。プロトコルは、2016年6月、次いで2017年1月に改訂された。簡単に言えば、2015年12月から2018年3月までの間に合計377人の患者が含まれた。これらの患者は、敗血症状態(n=35)または敗血症性ショック(n=72)であるか、重篤な火傷(n=24)、重篤な外傷(n=137)を罹患しているか、または大手術後に蘇生ユニットまたは集中治療ユニット(n=109)に入院している患者、および175人の健常志願者を含んだ。
【0031】
敗血症状態/敗血症性ショックの患者:最初の臨床プロトコルによると、感染部位の疑義に基づいて、敗血症性ショックの患者だけが含まれており、蘇生ユニットへの入院後48時間以内にカテコールアミンを用いた治療、および、2時間以上にわたって>0.25μg/kg/分のカテコールアミン(ノルアドレナリン)の治療を開始。次いで、適格性判断基準は、敗血症性ショックの新たな定義、Sepsis 3(Singer et al.(2016)、JAMA315(8):801-810)が公開された後、2016年8月に修正された。したがって、敗血症性ショックの患者は、感染部位の疑義に基づいて含まれており、蘇生ユニットへの入院後48時間以内にカテコールアミンを用いた治療、および、血液量減少の矯正にもかかわらず、血圧を≧65mmHgにかつ乳酸塩濃度を>2mmol/L(18mg/dL)に維持するために必要な昇圧剤治療の開始。2017年において、敗血症状態の患者(Sepsis 3の定義による)、すなわち、蘇生ユニットに入院後48時間以内における感染部位の疑義および基本SOFAと比較してSOFAスコアの上昇が≧2ポイントを含む可能性が追加された。この集団に対して、1日目は、敗血症または敗血症性ショックを診断した日に相当する。
【0032】
重篤な外傷:最初のプロトコルにおいては、重篤な外傷を有する患者だけが含まれた(外傷重症度スコア(ISS)≧25)。2016年8月に、重症度がより低い外傷を含む可能性が追加された(16<ISS<24)。この集団に対して、1日目(day1)は、蘇生ユニットまたは集中治療ユニットに入院した日(およそ外傷日)に相当する。
【0033】
大手術:最初のプロトコルにおいて、食道胃切除、Brickerタイプ膀胱切除、膵頭十二指腸切除、および開腹術による腹部大動脈手術だけが考慮されていた。2017年1月に、合併症リスクの高い他のタイプの手術が追加された。(全部または尾部)膵切除、神経内分泌腫瘍、肝切除(右側)、拡大結腸切除(開腹術)、腹会陰式直腸切除、腎切除(開腹術、PKD)、腸骨大腿骨バイパス(Scarpa)である。この集団について、1日目は、手術の日に相当する。
【0034】
重篤な火傷:患者は、火傷の全表面積が30%超であることに基づいて選択された。この集団について、1日目は、蘇生ユニットまたは集中治療ユニットに入院した日(およそ火傷の日)に相当する。
【0035】
除外判断基準は、免疫状態に影響を与え、かつ結果にバイアスをかけ得た要因に主に関係した(例えば:重篤な好中球減少症、コルチコステロイド治療、腫瘍血液病理学など)。患者の募集に関与していない3人の医師によって、30日目より前に病院内で発生した疑わしい医療関連感染につながる各出来事が独立に調べられた。患者のうちの26%が30日目より前、または、退院する前に少なくとも1つの医療関連感染に罹患した。
【0036】
血液サンプルをPAXgene(登録商標)チューブ(品番:762165、PreAnalytiX GmbH Hombrechtikon Switzerland)に採取した。健常志願者に対しては1回採取した。患者に対しては複数回、すなわち、最初の週に3~4回(1または2日目:D1/2、3または4日目:D3/4、および5、6または7日目:D5/7)、次いでその後に3回(およそD14、D28およびD60)採取した。
【0037】
これらのサンプルにおけるCX3CR1の発現レベルをRT-qPCRによって測定した。Maxwell HT Simply RNAキット(品番:AX2420、Promega)およびEVO automated platform(TECAN)を使用し、そのキット供給者の取扱説明書にしたがって、RNAを全血サンプルから抽出した。次いで、Fluidigm Reverse transcription master mix(品番:PN100-6472 A1、Fluidigm)を使用し、その供給者の取扱説明書にしたがって、10ngのトータルRNAを相補DNA(cDNA)に逆転写した。次いで、FluidigmのBiomark HD リアルタイムPCRシステムを使用して、CX3CR1の発現をqPCRによって定量した。
【0038】
まず、PreAmp master mix(品番:PN100-5876 B1、Fluidigm)を使用し、その供給者の取扱説明書にしたがって、cDNA前増幅工程を行った。次いで、前増幅cDNAを5倍に希釈し、そして流体集積回路192.24(品番:PN100-6170 C1)上で、その供給者の推奨にしたがって、qPCRを行った。qPCRに使用したプローブおよびプライマーの品番を表2に示す。
【0039】
次いで、閾値サイクル(またはCt)を決定した。CX3CR1の発現をCNRQ(Calibrated Normalized Relative Quantity)において正規化した。これは、Hellemans et al. (2007), Genome biology 8(2):R19に記載されるように、各流体集積回路192.24において、3つのハウスキーピング遺伝子(DECR1、HPRT1、PPIB)のCtの相乗平均、および、較正器(健常志願者/患者からの、LPS(免疫系刺激剤)によって処理されたエクスビボサンプル(50%)および未処理のエクスビボサンプル(50%)の混合物に対応する)を使用して行った。
【0040】
【表2】
表2.qPCRのために使用されたプローブおよびプライマー
【0041】
データ分析に関し、第1週目における異なる時点において測定されたCX3CR1の発現と、研究に組み入れてから30日目より前の医療関連感染の発生との間の関連を評価した。結果は、四分位間距離と、対応づけられた95%信頼区間とで表されるハザード比(HR IQR)の形態で計算した。次いで、単変量ロジスティック回帰を実施して、15日目より前の医療関連感染の発生リスクを予測した。医療関連感染の有無を区別するためのロジスティック回帰によって予測される値の大きさ(power)をROC(受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic))曲線の曲線下面積(AUC)によって定量し、そして95%信頼区間を推定した。
【0042】
次いで、CX3CR1の発現と医療関連感染の発生との間の関連を、感染の発生からの異なる時間間隔(すなわち、サンプル採取と感染の最初の発生との間の期間)に対して評価した。対象の異なる期間は、サンプルがいつ採取されたかにかかわらず、サンプル採取後4日以内および7日以内の医療関連感染であった。医療関連感染に罹患した各患者について、対象のサンプルは、医療関連感染の最初のエピソードの発生の前の最も近いサンプル採取に対応する。
【0043】
医療関連感染に罹患しなかった患者(すなわち、対照患者)について、各場合に、サンプル採取日が同じであり、かつ、SOFAおよびチャールソンスコアが近い対照患者を選択するためにマッチング方法を使用した。最後に、各ユニークな場合に対してユニークな対照(コントロール)を選択した。単変量ロジスティック回帰を実施した。医療関連感染の有無を区別するためのロジスティック回帰によって予測される値の大きさをROC曲線の曲線下面積(AUC)によって定量し、そして95%信頼区間を推定した。
【0044】
結果
患者の全集団において、コーホートに組み入れてからD3/4またはD5/7において測定されたCX3CR1のmRNAレベルでの発現の低下は、D30より前の医療関連感染のより高い発生リスクに関連する(D3/4:HR IQR=0.54[0.39~0.74]、p=0.0001;D5/7:HR IQR=0.57[0.42~0.79]、p=0.0006)。この関連は、CX3CR1の発現の2つの測定時について、SOFAおよびチャールソンスコアを用いた調節後において有意であった(D3/4:HR IQR=0.61[0.44~0.85]、p=0.003;D5/7:HR IQR=0.65[0.46~0.91]、p=0.01)。
【0045】
さらに、予測モデルは、コーホートに組み入れてからD3/4またはD5/7において測定されたCX3CR1のmRNAレベルでの発現がコーホートに組み入れてから15日目より前の医療関連感染の発生の予測を可能にすることを示した(表3)。
【0046】
【表3】
表3.コーホートに組み入れてから15日目より前の医療関連感染の発生を予測するための、コーホートに組み入れてからD3/4またはD5/7において測定されたCX3CR1の発現の測定のパフォーマンス(AUCおよび95%信頼区間、CI)
【0047】
予測モデルはまた、D3/4またはD5/7において測定されたCX3CR1のmRNAレベルでの発現がサンプルの採取後4日または7日以内の医療関連感染の発生を予測することを可能にすることを示した(表4)。
【0048】
【表4】
表4.サンプルの採取後4日または7日以内の医療関連感染の発生を予測するためのCX3CR1の発現の測定のパフォーマンス(AUCおよび95%信頼区間、CI)
【0049】
このように、上記に得られた結果は、CX3CR1単独の発現を測定することによって、免疫炎症攻撃から15日以内、サンプルの採取後4日以内、またはサンプルの採取後7日以内の医療関連感染の発生を予測することが可能にあることを示す。
【0050】
実施例2:CX3CR1および別の遺伝子の発現の測定によって、医療関連感染の発生リスクの予測パフォーマンスを向上させることが可能になる
【0051】
材料および方法
材料および方法は、以下の点を除いて実施例1と同一である。1)所定の遺伝子(BTLAおよびIL15、ならびに2つのリファレンスを用いて測定されたリファレンス遺伝子)に対して、別のPreAmp master mixリファレンス(品番:PN100-5875 C1、Fluidigm)を用いてcDNA前増幅工程を実行し、その後、エクソヌクレアーゼI(品番:PN100-5875 C1、Fluidigm)を用いてさらなる処理工程を行い、かつ、これらの遺伝子に加えて、供給者の推奨のように、別のタイプの流体集積回路192.24(品番:PN100-7222 C1)を用いて増幅工程を実行した。2)ここで、多変量ロジスティック回帰(CX3CR1、およびBTLA、CD3D、CD74、CD274、CTLA4、HP、ICOS、IFNG、IL1RN、IL7R、IL10、IL15、PDCD1およびS100A9からなるリストから選択される別の遺伝子の発現の測定の組み合わせ)を行った。
【0052】
したがって、対象遺伝子(BTLAおよびIL15を除く)の発現をTaqMan Chemistryで測定した。ここで、やはりTaqMan Chemistryで測定したリファレンス遺伝子の発現を使用して正規化した(2つのプライマーおよび1つのプローブを含むThermoFisherリファレンス)。BTLAおよびIL15遺伝子の発現をSYBR Green Chemistryを使用して測定した。ここで、やはりSYBR Green Chemistryを使用して測定したリファレンス遺伝子の発現を使用して正規化した(2つのプライマーを含むIntegrated DNA Technologiesリファレンス)。表2に既に示したプローブおよびプライマー(TaqMan ChemistryにおけるCX3CR1およびリファレンス遺伝子用)に加えて、この実施例において使用したさらなるプローブおよびプライマー(SYBR Green Chemistryにおける別の対象遺伝子およびリファレンス遺伝子用)を表5に示す。
【0053】
【表5】
表5.qPCRのために使用したさらなるプローブおよびプライマー
【0054】
結果
CX3CR1の発現の測定に加えて、これらの他の対象遺伝子のうちの1つの発現を測定することによって、コーホートに組み入れてから15日目より前(表6)またはサンプルの採取後4日もしくは7日以内のいずれについても、医療関連感染の発生リスクの予測パフォーマンスを向上させることが可能なる(表7)。
【0055】
【表6】
表6.コーホートに組み入れてから15日目より前の医療関連感染の発生の予測についての、コーホートに組み入れてからD3/4またはD5/7において測定された、別のバイオマーカー(多変量分析)と組み合わされたCX3CR1の発現の測定のパフォーマンス(AUCおよび95%信頼区間、CI)
【0056】
【表7】
表7.サンプル採取後4日以内または7日以内の医療関連感染の発生の予測についての、別のバイオマーカーと組み合わされたCX3CR1の発現の測定(多変量分析)のパフォーマンス(AUCおよび95%信頼区間、CI)
【国際調査報告】