(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20221122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221122BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20221122BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0566
H01M4/134
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519307
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 US2020047785
(87)【国際公開番号】W WO2021061324
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512188041
【氏名又は名称】エネヴェート・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・パーク
(72)【発明者】
【氏名】イアン・ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウォン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】フレッド・ボヌオム
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK11
5H029AL06
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ16
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ18
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA17
5H050CB07
5H050CB11
5H050GA16
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA18
(57)【要約】
ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのためのシステムおよび方法には、カソードと、電解質と、アノードとが含まれる。アノードは、最小閾値レベルを超えるように構成された放電後のレベルでリチウム化されたケイ素を含み、リチウム化の最小閾値は3%のケイ素のリチウム化である。電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルは、30%から95%のケイ素のリチウム化、30%から75%のケイ素のリチウム化、30%から65%のケイ素のリチウム化、または30%から50%のケイ素のリチウム化の範囲である。電池を放電した後のケイ素のリチウム化レベルは、3%から50%のケイ素のリチウム化、3%から30%のケイ素のリチウム化、または3%から10%のケイ素のリチウム化の範囲である。最小閾値レベルは、それを下回ると電池のサイクル寿命が低下するリチウム化レベルである。電解質は、液体、固体、またはゲルを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、電解質と、アノードとを備えた電池であって、
前記アノードが、放電後に最小閾値レベルを超えるように構成されたレベルでリチウム化されたケイ素を含み、
最小閾値のリチウム化は3%のケイ素のリチウム化である、電池。
【請求項2】
放電後のケイ素のリチウム化レベルが前記アノードの放電電圧によって構成される、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
放電後のケイ素のリチウム化レベルが、ケイ素の事前リチウム化によって最小閾値レベルを超えることが保証される、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
放電後のケイ素のリチウム化レベルが、前記カソードの不可逆放電容量によって構成される、請求項1に記載の電池。
【請求項5】
前記電池の充電後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から95%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項6】
前記電池の充電後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から75%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記電池の充電後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から65%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記電池の充電後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から50%のケイ素リチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記電池の放電後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から50%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項10】
前記電池の放電後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から30%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項11】
前記電池の放電後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から10%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項1に記載の電池。
【請求項12】
最小閾値レベルが、それを下回ると電池のサイクル寿命が低下するリチウム化レベルである、請求項1に記載の電池。
【請求項13】
前記電解質が、液体、固体、またはゲルを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項14】
アノードと、カソードと、電解質とを含む電池を形成するステップであって、前記アノードがケイ素を含む、形成するステップと、
前記アノードをリチウム化するように前記電池を充電するステップと、
前記電池を放電するステップであって、前記アノードのリチウム化レベルが、放電後に最小閾値レベルを超えたままであり、最小閾値のリチウム化が3%のケイ素のリチウム化である、放電するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記アノードの放電電圧によって、放電後のケイ素のリチウム化レベルを構成するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
放電後のケイ素のリチウム化レベルが、ケイ素の事前リチウム化を利用して最小閾値レベルを超えることを確実にするステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記カソードの不可逆放電容量によって、放電後のケイ素のリチウム化レベルを構成するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から95%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から75%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から65%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルが、30%から50%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記電池を放電した後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から50%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記電池を放電した後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から30%のケイ素のリチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記電池を放電した後のケイ素のリチウム化レベルが、3%から10%のケイ素リチウム化の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記最小閾値レベルが、それを下回ると電池のサイクル寿命が低下するリチウム化レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
電池に使用するためのアノードであって、前記アノードが、リチウムイオン電池に組み込まれると、放電時に最小閾値レベルを超えてリチウム化されるケイ素を含み、放電後のケイ素のリチウム化レベルが、前記アノードの放電電圧によって、またはケイ素の事前リチウム化レベルによって構成される、アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照/参照による組み込み
本出願は、2019年9月26日に出願された「ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステム」と題する米国特許出願第16/584,574号の優先権を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、エネルギーの生成および貯蔵に関する。より具体的には、本開示の特定の実施形態は、ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
電池アノードの従来のアプローチは、費用がかかり、面倒であり、かつ/または非効率であり、例えば、それらは、実施するのに複雑および/または時間がかかり、電池の寿命を制限し得る。
【0004】
従来の伝統的なアプローチのさらなる制限および不利な点は、そのようなシステムを、図面を参照して、本出願の以降の部分に記載される本開示のいくつかの態様と比較することによって、当業者に明らかになるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許請求の範囲により完全に記載されているように、実質的に少なくとも1つの図面に示され、かつ/または関連して説明される、ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのためのシステムおよび/または方法。
【0006】
本開示のこれらおよび他の利点、態様および新規の特徴、ならびにその例示された実施形態の詳細は、以下の説明および図面からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えた電池の図である。
【
図2】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードの例示的なリチウム化および脱リチウム化プロセスを示す。
【
図3】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧プロファイル曲線を示す。
【
図4】本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化ケイ素系アノードの例示的なリチウム化および脱リチウム化プロセスを示す。
【
図5】本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化ケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧プロファイル曲線を示す。
【
図6】本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化ケイ素アノードのプロセスを示す。
【
図7】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたセルの高速充電能力を示す。
【
図8】本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードセルの充電レートに対するセルサイクル寿命を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本開示の例示的な実施形態によるケイ素系アノードを備えた電池の図である。
図1を参照すると、集電体107Aおよび107Bを備えたアノード101とカソード105との間に挟持されたセパレータ103を含む電池100が示されている。電池100が放電モードにあるときの例を示す、電池100に結合された負荷109も示されている。本開示において、「電池」という用語は、単一の電気化学セル、モジュールに形成された複数の電気化学セル、および/またはパックに形成された複数のモジュールを示すために使用され得る。
【0009】
携帯型電子デバイスの開発および交通機関の電化は、高性能の電気化学的エネルギー貯蔵の必要性を推進している。小規模(<100Wh)から大規模(>10KWh)のデバイスには、他の充電式電池よりも高性能であるため主にリチウムイオン(Li-ion)電池が使用されている。
【0010】
アノード101およびカソード105は、集電体107Aおよび107Bとともに、電極を含み得、電極は、電解質材料内に、または電解質材料を含むプレートまたはフィルムを含み得、プレートは、電解質を含むための物理的バリアおよび外部構造への導電性接点を提供し得る。他の実施形態では、アノード/カソードプレートは電解質に浸漬され、一方、外側ケーシングは電解質の格納容器を提供する。アノード101およびカソードは、集電体107Aおよび107Bに電気的に結合され、これらは、電極への電気的接触、および電極を形成する際の活物質の物理的支持を提供するための金属または他の導電性材料を含む。
【0011】
図1に示される構成は、放電モードの電池100を示しているが、充電構成では、負荷107を充電器と交換して、プロセスを逆にすることができる。電池の1つの分類では、セパレータ103は、一般に、電気絶縁ポリマーで作られたフィルム材料であり、例えば、イオンが通過するのに十分な多孔性でありながら、電子がアノード101からカソード105に、またはその逆に流れるのを防ぐ。典型的には、セパレータ103、カソード105、およびアノード101の材料は、シート、フィルム、または活物質でコーティングされた箔に個別に形成される。続いて、カソード、セパレータおよびアノードのシートは、カソード105およびアノード101を分離するセパレータ103と共に積層または巻回されて、電池100を形成する。いくつかの実施形態では、セパレータ103はシートであり、通常、その製造において、巻取り方法および積層を利用する。これらの方法では、アノード、カソード、および集電体(例えば、電極)は、フィルムを含み得る。
【0012】
例示的なシナリオでは、電池100は、固体、液体、またはゲル電解質を含み得る。セパレータ103は、好ましくは、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、およびLiClO4などが溶解したエチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などを含み得る組成物などの典型的な電池電解質に溶解しない。セパレータ103は、液体またはゲル電解質で湿らせたり、浸漬したりされ得る。さらに、例示的な実施形態では、セパレータ103は、約100から120℃未満では溶融せず、電池用途に十分な機械的特性を示す。動作中の電池は、アノードおよび/またはカソードの膨張および収縮を経験し得る。例示的な実施形態では、セパレータ103は、故障することなく少なくとも約5から10%膨張および収縮することができ、また可撓性を有し得る。
【0013】
セパレータ103は、例えば、液体またはゲル電解質で濡れるとイオンがセパレータを通過できるように、十分に多孔性であり得る。代替的に(または追加的に)、セパレータは、有意な多孔性がなくても、ゲル化または他のプロセスを通じて電解質を吸収し得る。セパレータ103の多孔性はまた、一般に、アノード101およびカソード105がセパレータ103を通して電子を伝達することを可能にするほど多孔性ではない。
【0014】
アノード101およびカソード105は、電池100の電極を含み、充電および放電状態において電荷を伝達するためのデバイスへの電気接続を提供する。アノード101は、例えば、ケイ素、炭素、またはこれらの材料の組み合わせを含み得る。典型的なアノード電極は、銅シートなどの集電体を含み、炭素材料を含む。炭素は、優れた電気化学的特性を有し、導電性も有するため、しばしば使用される。充電式リチウムイオン電池で現在使用されているアノード電極は、通常、1グラムあたり約200ミリアンペア時間の比容量を有する。多くのリチウムイオン電池のアノードに使用されている活物質である黒鉛の理論エネルギー密度は、1グラムあたり372ミリアンペア時間(mAh/g)である。それと比較して、ケイ素は4200mAh/gという高い理論容量を有する。リチウムイオン電池の体積および重量エネルギー密度を高めるために、ケイ素をカソードまたはアノードの活物質として使用することができる。ケイ素アノードは、例えば、50%を超えるケイ素を含むケイ素複合材料から形成され得る。
【0015】
例示的なシナリオでは、アノード101およびカソード105は、リチウムなどの電荷の分離に使用されるイオンを貯蔵する。この例では、電解質は、例えば
図1に示されるように、放電モードでアノード101からカソード105に正に帯電したリチウムイオンを運び、充電モードでセパレータ105を介してその逆に作用する。リチウムイオンの移動は、アノード101に自由電子を生成し、これは、正の集電体107Bで電荷を生成する。次に、電流が、集電体から負荷109を通って負の集電体107Aに流れる。セパレータ103は、電池100内部の電子の流れを遮断する。
【0016】
電池100が放電して電流を供給している間、アノード101は、セパレータ103を介してリチウムイオンをカソード105に放出し、結合された負荷109を介して一方の側から他方の側に電子の流れを生成する。電池が充電されているときには、リチウムイオンがカソード105によって放出され、アノード101によって受け取られるという反対のことが起こる。
【0017】
アノード101およびカソード105に選択される材料は、電池100の信頼性およびエネルギー密度に重要である。現在のLiイオン電池のエネルギー、電力、コスト、および安全性は、内燃エンジン(ICE)技術と競争し、電気自動車(EV)の普及を可能にするために改善される必要がある。リチウムイオン電池の高エネルギー密度、高出力密度、および安全性の向上は、高電圧安定性および電極との界面適合性を備えた機能的に不燃性の電解質、高容量および高電圧カソード、ならびに高容量アノードの開発によって達成される。さらに、毒性の低い材料は、プロセスコストを削減し、消費者の安全を促進するための電池材料として有益である。
【0018】
最先端のリチウムイオン電池は、通常、リチウムの挿入材料として黒鉛系アノードを採用している。しかしながら、ケイ素系アノードは、黒鉛系リチウムイオン電池と比較して改良を提供する。ケイ素は、より高い重量容量(黒鉛の372mAh/gに対して3579mAh/g)および体積容量(黒鉛の890mAh/Lに対して2194mAh/L)を示す。さらに、ケイ素系アノードは、約0.3~0.4Vvs.Li/Li+の低いリチウム化/脱リチウム化電圧プラトーを有するため、開回路電位を維持して、望ましくないLiめっきやデンドライトの形成を回避できる。ケイ素は優れた電気化学的活性を示すが、ケイ素系アノードの安定したサイクル寿命を達成することは、リチウム化および脱リチウム化の間のケイ素の大きな体積変化のために困難である。ケイ素領域は、その低い電気伝導性に加えて大きな体積変化がアノード内の周囲の材料からケイ素を分離するため、アノードからの電気的接触を失い得る。
【0019】
さらに、大きなケイ素の体積変化は、固体電解質界面(SEI)形成を悪化させ、これは、電気的絶縁、したがって、容量損失にさらにつながり得る。充放電サイクル時のケイ素粒子の膨張と収縮により、ケイ素粒子が粉砕され、比表面積が増加する。サイクル中にケイ素の表面積が変化して増加すると、SEIは繰り返し分解されて再形成される。したがって、サイクル中に、SEIが粉砕ケイ素領域の周囲に継続的に蓄積され、厚い電子およびイオン絶縁層となる。この蓄積されたSEIは、電極のインピーダンスを増加させ、電極の電気化学的反応性を低下させ、サイクル寿命に悪影響を及ぼす。
【0020】
その高い比容量、豊富さおよび低コストのために、ケイ素は、リチウムイオンアノードのための有望な活物質である。しかしながら、リチウム化および脱リチウム化中の大きな体積変化(>300%の体積変化)は、電極の機械的劣化および不安定なSEIを引き起こし、電極の膨張およびセルのサイクル寿命の低下につながる。ケイ素系アノードは、ケイ素アノードのリチウム化が特定の範囲に維持されていると最高の性能を発揮する。そのような性能を達成するために、例えば
図2に示された基準に従ってセルを設計することができる。ケイ素材料には、所望のセル動作のためのリチウム化の上限と下限がある。上限x
Hは、サイクル寿命に大きな影響を与えることなくケイ素が受け入れることができる最大リチウム含有量に対応する。下限x
Lは、最小閾値レベルに対応、つまりサイクル寿命を最大化するためにケイ素構造に残す必要のある最小残留リチウム含有量に対応する。リチウム化レベルがこのレベルを下回ると、サイクル毎にサイクル寿命が低下する。室温で完全にリチウム化されたケイ素の段階はLi
3.75Siであり、これはケイ素の最大理論容量3579mAh/gに相当し、黒鉛の最大理論容量(372mAh/g)よりもはるかに高い。
【0021】
セルは、カソードから来るリチウムの最大量xCがxHを超えないように設計され得る。同様に、放電後にアノードに残留するリチウムの最小量(xD)は、xLよりも高くなければならない。本開示では、ケイ素が部分的に事前リチウム化され、次いで動作中にリチウム化/脱リチウム化されて、目標のセル容量およびエネルギーを達成するセル設計が記載される。事前リチウム化とは、電池の充電および放電中に発生するリチウム化/脱リチウム化とは対照的に、アノードの製造時にリチウムがケイ素に組み込まれることを意味するものであり、放電時にこの事前リチウム化は脱リチウム化されない。
【0022】
図2は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードの例示的なリチウム化および脱リチウム化プロセスを示す。
図2を参照すると、カソードおよびケイ素系アノードのリチウム化レベルが示されている。カソードのリチウム化レベルは、充電プロセスでアノードに移動し得る量Δ
Liを示し、アノードのリチウム化レベルがx
Dからx
Cに上昇する。アノードのリチウム化レベルは、0から3.75のスケールで示され、3.75は、ケイ素の完全にリチウム化された段階Li
3.75Siを示す。量Δ
Liは、カソード内の電荷キャリアの数及びカソード放電カットオフ電圧の関数であり得る。したがって、この例では、アノードのリチウム化はカットオフ電圧によって制御され、最良のサイクル寿命を得るには、x
L以上に保つ必要がある。放電されたリチウム化レベルx
Dは、アノードとカソードの不可逆電荷Q
irr,アノードおよびQ
irr,カソード、ならびにカットオフ電圧の関数であり、充電したリチウム化レベルx
Cは、材料の電荷の数の関数である。
【0023】
図3は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧プロファイル曲線を示す。
図3を参照すると、アノードおよびカソードの電圧プロファイル曲線、フルセル電圧を示す矢印が記載された垂直線、およびこれらの様々なフルセル電圧のx軸上のアンペア時セル容量が示されている。
【0024】
この例では、カソードの総充電容量は、アノードの総容量の半分である。放電中、セル電圧は、
図2に関して説明したように、アノードに残留するリチウムの量が、臨界量x
Lよりも高くなるように制御され得る。この特定のセルの場合、2.7Vでのセル容量は5.963mAh、3.1Vでのセル容量は総容量の76.4%に相当する4.555mAh、3.2Vでのセル容量は総容量の61.0%に相当する3.638mAh、3.3Vでのセル容量は総容量の52.6%に相当する3.136mAhである。
【0025】
図4は、本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化されたケイ素系アノードの例示的なリチウム化および脱リチウム化プロセスを示す。
図4を参照すると、カソード401およびケイ素系アノード403のリチウム化レベル範囲が示されている。この例は、放電中のセル電圧を制限することを必要とせず、放電後にアノードに残留するリチウムの量(x
D)を制御する別の方法を示す。これは、アノードを事前にリチウム化するか、セルの放電電圧に関係なくx
Dがx
Lよりも高い状態となるように、十分に高い不可逆容量のカソードを使用することである。前述と同様に、アノードのリチウム化レベルは0から3.75のスケールで示され、3.75はケイ素の完全にリチウム化された段階Li
3.75Siを示す。
【0026】
図4のカソードのリチウム化レベルは、
図2に記載されるような充電プロセスにおいてアノード403に移動され得る量Δ
Li405を示すが、この例では、ケイ素アノードは、事前リチウム化407として示されるように事前リチウム化され、その結果、事前リチウム化により、利用されるカットオフ電圧に関わらず、リチウム化レベルがx
Lを超えることが保証される。この例では、事前リチウム化により、x
Lとx
Hの制限内にとどまりつつ、カソード容量を最大限に活用することが可能となる。
【0027】
図5は、本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化されたケイ素系アノードを備えたリチウムイオン電池の電圧プロファイル曲線を示す。
図5を参照すると、アノードおよびカソードの電圧プロファイル曲線、フルセル電圧を示す矢印が記載された垂直線、および様々なフルセル電圧でのx軸上のアンペア時セル容量が示されている。さらに、(1)「失われた」リチウム、(2)「活性」リチウムまたはリチウム貯蔵、および(3)事前リチウム化が示されている。
【0028】
図3の事前リチウム化なしのアノードと比較して、アノードの事前リチウム化(3)により、アノードの電圧曲線は、11mAhのピークを有してより高い容量まで延びている。事前リチウム化が20%のこの特定のセルの場合、2.7Vでのセル容量は6.297mAh、3.1Vでは総容量の92%に相当する5.793mAh、3.2Vでは総容量の79.4%に相当する5.000mAh、3.3Vでは総容量の52.5%に相当する3.306mAhであり、事前リチウム化されていないセルよりも大幅に改善されていることを示している。
【0029】
さらに、改善されたセル容量に加えて、事前リチウム化によりさらに、1)リチウムイオンセルの充電および放電サイクル中のケイ素の制御された膨張および収縮が可能となり、これにより、ケイ素粒子の亀裂、粉砕、およびSEI成長を最小化する;2)制御されたケイ素の膨張/収縮およびケイ素アノードの電圧ウィンドウにより、サイクル寿命中のセル容量の低下が減少する;3)良好なサイクル寿命と制限されたセルの膨張を維持しつつ、アノード材料としてケイ素を使用したリチウムイオンセルのカソード容量利用を最大化する;4)ケイ素は過リチウム化できない範囲で使用され、粒子への応力が最小化されるため、高速充電が可能となり、これにより、
図7および
図8に関して説明したように、セルの高レート充電およびサイクルが可能となる。
【0030】
図6は、本開示の例示的な実施形態による、事前リチウム化ケイ素アノードプロセスを示す。
図6に示されるように、プロセスは、例えば、ケイ素系アノードが3%から95%の間のリチウム化レベルに事前リチウム化され得るステップ601から開始される。電池またはセルは、ステップ603において、事前リチウム化ケイ素アノード、カソード、および電解質で形成され得る。
【0031】
ステップ605において、電池のサイクル寿命に悪影響を与えることを回避するために、リチウム化レベルがx
Cに達するまで(x
H未満に保たれる)、アノードがカソードからリチウムによってリチウム化されるように電池が充電され得る。
図4に関して先に説明ように、移動するリチウムの総量は、Δ
Liであり得る。第1の例では、x
Cの範囲は1.125から3.5625であり、これは30%から95%のケイ素リチウム化に相当し、3.75はケイ素の最大リチウム化である。第2の例では、x
Cの範囲は1.125から3.1875であり、これは30%から85%のケイ素リチウム化に相当する。第3の例では、x
Cの範囲は1.125から2.8125であり、これは30%から75%のケイ素リチウム化に相当する。第4の例では、x
Cの範囲は1.125から2.4375であり、これは30%から65%のケイ素リチウム化に相当する。第5の例では、x
Cの範囲は1.125から1.875であり、これは30%から50%のケイ素リチウム化に相当する。
【0032】
ステップ607において、電池は、アノードが、事前リチウム化に起因してxLより大きく維持されるレベルxDまで脱リチウム化され、リチウムがカソードに戻るように放電され得る。第1の例では、xDの範囲は0.12から1.875であり、これはケイ素における3%から50%の残留リチウムに相当する。第2の例では、xDの範囲は0.12から1.5であり、これはケイ素における3%から40%の残留リチウムに相当する。第3の例では、xDの範囲は0.12から1.125であり、これはケイ素における3%から30%の残留リチウムに相当する。第4の例では、xDの範囲は0.12から0.75であり、これはケイ素における3%から20%の残留リチウムに相当する。第1の例では、xDの範囲は0.12から0.375であり、これはケイ素における3%から10%の残留リチウムに相当する。
【0033】
ステップ609において、セル電圧が依然として許容可能である場合、すなわち、セルがそのサイクル寿命の終わりにない場合、プロセスは、ステップ605に戻って、再び充電および放電され得る。
【0034】
図7は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードを備えたセルの高速充電能力を示す。
図1を参照する。
図7を参照すると、従来の黒鉛アノードを備えたセルの充電曲線と、4C、5.6C、および10Cの充電レートでの事前リチウム化ケイ素系アノードを備えたセルの充電曲線が示されている。プロットで示されているように、ケイ素系アノードセルは非常に高いレートで充電することができる。したがって、ケイ素のリチウム化レベルは、セルの設計および/またはケイ素アノードの最良の使用によって制御される。セルの最高の性能を得るためにはリチウム貯蔵が必要であり、貯蔵は、
図2および3に関して説明した方法で、カソードを利用することによって、または
図4および5に関して説明した事前リチウム化を介して形成され得る。
【0035】
図8は、本開示の例示的な実施形態による、ケイ素系アノードセルのセルサイクル寿命対充電レートを示すプロットである。ほぼ同一直線上にあるプロットで示されているように、0.5Cで充電されたセルと比較して、4Cレートで充電されたセルのセル寿命に本質的な違いはない。両方のセルは、500サイクルまで容量の92%を維持する。
【0036】
本開示の例示的な実施形態では、ケイ素のリチウム化が制御されたケイ素系リチウムイオンセルのための方法およびシステムが説明されている。電池は、カソードと、電解質と、アノードとを含み得る。アノードは、最小閾値レベルを超えるように構成された放電後のレベルでリチウム化されたケイ素を含み得、リチウム化の最小閾値は3%のケイ素リチウム化である。放電後のケイ素リチウム化レベルは、アノードの放電電圧によって構成され得る。放電後のケイ素リチウム化レベルは、ケイ素の事前リチウム化レベルによって構成され得る。放電後のケイ素リチウム化レベルは、カソードの不可逆放電容量によって構成され得る。電池を充電した後のケイ素のリチウム化レベルは、30%から95%のケイ素リチウム化、30%から75%のケイ素リチウム化、30%から65%のケイ素リチウム化、または30%から50%のケイ素リチウム化の範囲であり得る。電池を放電した後のケイ素のリチウム化レベルは、3%から50%のケイ素リチウム化、3%から30%のケイ素リチウム化、または3%から10%のケイ素リチウム化の範囲であり得る。最小閾値レベルは、それを下回ると電池のサイクル寿命が低下するリチウム化レベルであり得る。電解質は、液体、固体、またはゲルを含み得る。
【0037】
別の例示的な実施形態では、電池で使用するアノードのための方法およびシステムについて説明され、アノードは、リチウムイオン電池に組み込まれると、放電時に最小閾値レベルを超えてリチウム化されるケイ素を含み、放電後のケイ素のリチウム化レベルは、アノードの放電電圧またはケイ素の事前リチウム化レベルによって構成される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「回路」との用語は、物理的な電子部品(すなわち、ハードウェア)、ならびにハードウェアを構成し、ハードウェアによって実行され、かつ/またはそれ以外の場合は、ハードウェアに関連付けられ得る、ソフトウェアおよび/またはファームウェア(「コード」)を意味する。本明細書で使用される場合、例えば、特定のプロセッサおよびメモリは、第1の1行以上のコードを実行する場合に第1の「回路」を含み得、第2の1行以上のコードを実行する場合に第2の「回路」を含み得る。本明細書で使用される場合、「および/または」とは、「および/または」によって結びつけられたリスト内の任意の1つまたは複数の項目を意味する。例として、「xおよび/またはy」は、3つの要素のセット{(x)、(y)、(x、y)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「xおよび/またはy」は「xとyの一方または両方」を意味する。別の例として、「x、y、および/またはz」は、7つの要素のセット{(x)、(y)、(z)、(x、y)、(x、z)、(y、z)、(x、y、z)}の任意の要素を意味する。言い換えると、「x、yおよび/またはz」は「x、y、およびzの1つまたは複数」を意味する。本明細書で使用される場合、「例示的」との用語は、非限定的な例、実例、または例示として機能することを意味する。本明細書で使用される場合、「例えば」との用語は、1つまたは複数の非限定的な例、実例、または例示のリストを示す。本明細書で使用される場合、回路またはデバイスは、機能の実行が無効であるか有効でないかにかかわらず(例えば、ユーザが設定可能な設定、工場出荷時の調整などによる)、回路またはデバイスが機能を実行するために必要なハードウェアおよびコード(必要な場合)を含む限り、機能を実行するために「動作可能」である。
【0039】
本発明は、特定の実施形態を参照して説明されたが、当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、等価物と置き換えることができることが理解されよう。さらに、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、その範囲から逸脱することなく多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むことが意図されている。
【国際調査報告】