(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】電気化学装置及びそれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20221122BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20221122BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221122BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221122BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20221122BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20221122BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20221122BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20221122BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/62 Z
H01M4/36 A
H01G11/24
H01G11/30
H01G11/64
H01M10/0568
H01M10/0569
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519414
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 CN2019128442
(87)【国際公開番号】W WO2021128092
(87)【国際公開日】2021-07-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】王 可飛
(72)【発明者】
【氏名】張 青文
(72)【発明者】
【氏名】戴 振
(72)【発明者】
【氏名】王 瑩瑩
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AA05
5E078AA09
5E078AA11
5E078AB06
5E078BA04
5E078BA05
5E078BA06
5E078BA12
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA28
5E078BA29
5E078BA30
5E078BA44
5E078BA49
5E078BA52
5E078BA53
5E078BB23
5E078BB33
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA08
5E078CA09
5E078DA04
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5E078FA02
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5E078FA04
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5E078HA02
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5H029AJ05
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5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA09
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は、電気化学装置及びそれを含む電子装置に関するものである。具体的には、本発明は、正極、負極及び電解液を含む電気化学装置であって、前記負極は、負極集電体上にある負極合剤層を備え、前記負極合剤層は、負極活物質として炭素材料を含み、且つ前記負極合剤層の表面又は前記炭素材料の表面の少なくとも一部にSi-C及びSi-O結合を有する高分子化合物を含む、電気化学装置を提供する。本発明の電気化学装置は、改良されたサイクル特性及び保存特性を持つ。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び電解液を含む電気化学装置であって、
前記負極は、負極集電体上にある負極合剤層を備え、前記負極合剤層は、負極活物質として炭素材料を含み、且つ前記負極合剤層の表面又は前記炭素材料の表面の少なくとも一部にSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を含む、電気化学装置。
【請求項2】
前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、
(a)ポリエーテルシロキサンを含むこと、
(b)酸化電位が4.5V以上であり、且つ還元電位が0.5V以下であること、
(c)前記Si-C及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力が30mN/m以下であること、のうちの少なくとも一つの特徴を有する請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、3000ppm以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記炭素材料は、
(a)比表面積が5m
2/g未満であること、
(b)メディアン径が5μm~30μmであること、
(c)表面にアモルファスカーボンを備えること、のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記負極合剤層は、
(a)厚さが200μm以下であること、
(b)10%~60%の孔隙率を備えること、
(c)径15mm、重量12グラムのボールを前記負極合剤層に落下させた場合、前記負極合剤層に亀裂を生じさせるボールの最小高さが50cm以上であること、のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記電解液は、
(a)プロピオン酸エステル、
(b)シアノ基を有する有機化合物、
(c)ジフルオロリン酸リチウム、及び
(d)式1化合物
【化9】
のうちの少なくとも一種の化合物を含み、
Wは、
【化10】
から選択され、
Lは、単結合又はメチレン基から選択され、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ、
pは、0~6の整数である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記電解液は、前記式1化合物を含み、前記式1化合物は、
【化11】
から選択される少なくとも一種であり、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ
pは、0~6の整数である、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記電解液は、前記プロピオン酸エステルを含み、且つ前記プロピオン酸エステルは、式2を有し、
【化12】
R
1は、エチル基又はハロゲン化エチル基から選択され、
R
2は、C
1~C
6アルキル基又はC
1~C
6ハロゲン化アルキル基から選択され、且つ、
前記電解液の重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、10wt%~65wt%であり、
前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、及びプロピオン酸ペンチルのうちの少なくとも一種であることが好ましい、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記シアノ基を有する有機化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンから選択される少なくとも一種であり、且つ前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する有機化合物の含有量は、0.1wt%~15wt%である、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、電気化学装置及びそれを含む電子装置、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の発展及びモバイル機器に対する需要の増加に伴い、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に対する需要が著しく増加する。高いエネルギー密度及び優れた寿命とサイクル特性を同時に有するリチウムイオン電池は、研究課題の一つである。
【0003】
リチウムイオン電池の理論容量は、負極活物質の種類により変化し得る。サイクルの進行に伴い、リチウムイオン電池は、通常、充電/放電容量の低下が生じ、リチウムイオン電池の性能が劣化する。近年では、リチウムイオン電池の製造において、環境への負荷等を低減するために、分散媒として水性媒体を用いる水性スラリー組成物がますます注目されているが、水性スラリーでは、スラリー組成物に存在する気泡により、活物質層に多くのピンホールやピット等の欠陥が生じて、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性に影響を与える。
【0004】
これに鑑みて、改良された、高出力特性及び高安全特性を有する電気化学装置及びそれを含む電子装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施例は、少なくともある程度で、関連分野における少なくとも一つの問題を解決するために、電気化学装置及びそれを含む電子装置を提供する。
【0006】
本発明の一態様において、本発明は、正極、負極及び電解液を含む電気化学装置を提供し、前記負極は、負極集電体上にある負極合剤層を備え、前記負極合剤層は、負極活物質として炭素材料を含み、且つ前記負極合剤層の表面又は前記炭素材料の表面の少なくとも一部にSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を含む、電気化学装置を提供する。
【0007】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、以下の特徴のうちの少なくとも一つを有する。
(a)ポリエーテルシロキサンを含むこと、
(b)酸化電位が4.5V以上であり、且つ還元電位が0.5V以下であること、
(c)前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力が30mN/m以下であること。
【0008】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、3000ppm以下である。
【0009】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料は、以下の特徴のうちの少なくとも一つを有する。
(a)比表面積が5m2/g未満であること、
(b)メディアン径が5μm~30μmであること、
(c)表面にアモルファスカーボンを有すること。
【0010】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は、以下の特徴のうちの少なくとも一つを有する。
(a)厚さが200μm以下であること、
(b)10%~60%の孔隙率を有すること、
(c)径15mm、重量12グラムのホールを前記負極合剤層に落下させた場合、前記負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さが50cm以上であること。
【0011】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、以下の化合物のうちの少なくとも一種を含む。
(a)プロピオン酸エステル、
(b)シアノ基を有する有機化合物、
(c)ジフルオロリン酸リチウム、及び
(d)式1化合物。
【化1】
ここで、
Wは、
【化2】
から選択され、
Lは、単結合又はメチレン基から選択され、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ
pは、0~6の整数である。
【0012】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、前記式1化合物を含み、前記式1化合物は、
【化3】
から選択される少なくとも一種である前記式1化合物を含み、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ
pは、0~6の整数である。
【0013】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、前記プロピオン酸エステルを含み、且つ前記プロピオン酸エステルは、式2を有し、
【化4】
ここで、
R
1は、エチル基又はハロゲン化エチル基から選択され、
R
2は、C
1~C
6アルキル基又はC
1~C
6ハロゲン化アルキル基から選択され、且つ、
前記電解液の重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、10wt%~65wt%である。
【0014】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、及びプロピオン酸ペンチルから選択される少なくとも一種である。
【0015】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記シアノ基を有する有機化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンから選択される少なくとも一種であり、且つ前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する有機化合物の含有量は、0.1wt%~15wt%である。
【0016】
本発明の更なる一態様によれば、本発明は、本発明による電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0017】
本発明の実施例の他の態様及び利点については、一部的に以下で説明され、示され、又は本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
本明細書で使用されている下記した用語は、別に断らない限り、以下に示される意味を有する。
【0020】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、「うちのの少なくとも一つ」という用語又は他の類似な用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項A及びBがリストされている場合、「A及びBのうちの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、又はAとBを意味する。他の実例では、項A、項B、及び項Cがリストされている場合、「A、B、及びCのうちの少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとB(Cを除く)、AとC(Bを除く)、BとC(Aを除く)、又はAとBとCのすべてを意味する。項Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。「うちの少なくとも一種」という用語は、「うちの少なくとも一つ」という用語と同様な意味を有する。
【0021】
本明細書で使用されているように、「アルキル基」という用語は、1~20個の炭素原子を有する直鎖の飽和炭化水素構造と予期される。「アルキル基」は、3~20個の炭素原子を有する分岐鎖又は環状の炭化水素構造とも予期される。具体的な炭素数を有するアルキル基が指定された場合、このような炭素数を有する全ての幾何異性体をカバーすると予期される。従って、例えば、「ブチル基」は、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、及びシクロブチル基を含むことを意味する。「プロピル基」は、n-プロピル基、イソプロピル基、及びシクロプロピル基を含む。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基等を含むが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書で使用されているように、「ハロゲン化」という用語は、周期表の第17族に属する安定な原子(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)で置換されることを意味する。
【0023】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の理論容量は、負極活物質の種類により変化し得る。サイクルの進行に伴い、リチウムイオン電池は、通常、充電/放電容量の低下が生じる。それは、電気化学装置の充電及び/又は放電中に電極界面が変化し、電極活物質が機能しなくなるからである。
【0024】
本発明は、特定の負極材料と特定の電解液との組み合わせを用いることにより、電気化学装置のサイクル中の界面安定性を確保することで、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性を向上させる。
【0025】
一つの実施例において、本発明は、以下の記載された正極、負極、及び電解液を含む電気化学装置を提供する。
【0026】
I、負極
負極は、負極集電体、及び前記負極集電体の一つ又は二つの表面に設けられている負極合剤層を含む。
【0027】
1、負極合剤層
負極合剤層は、負極活物質を含む負極活物質層を含む。負極合剤層は、単層であってもよく、複層であってもよい。複層の負極合剤層における各層は、同一又は異なる負極活物質を含んでもよい。負極活物質は、リチウムイオン等の金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる任意の物質である。いくつかの実施例において、充電中に負極へのリチウム金属の意図しない析出を防止するために、負極活物質の充電可能容量は、正極活物質の放電容量より大きい。
【0028】
(1)Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物
本発明の電気化学装置は、前記負極合剤層が炭素材料として負極活物質を含み、且つ前記負極合剤層の表面又は前記炭素材料の表面の少なくとも一部にSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を含むことを一つの主な特徴とする。
【0029】
負極合剤層の表面又は負極活物質(炭素材料)の表面の少なくとも一部に設けられるSi-C及びSi-O結合を有する高分子化合物は、負極合剤層の界面安定性を効果的に改善することができ、それによって、電気化学装置のサイクル特性及び保存特性を効果的に向上させることができる。
【0030】
負極合剤層における元素の結合状態は、X線光電子分光法(XPS)により検出することができる。XPSにおいて、エネルギー校正されて金原子の4f軌道(Au4f)のピークを84.0eVにした装置において、104.0eV(Si2p1/2Si-O)及び103.4eV(Si2p3/2Si-O)にて、酸素と結合するケイ素の2p軌道(Si2p1/2Si-O及びSi2p3/2Si-O)の各ピークが視認され、同時に、炭素と結合するケイ素の2p軌道(Si2p1/2Si-C及びSi2p3/2Si-C)の各ピークは、それぞれ酸素と結合するケイ素の2p軌道(Si2p1/2Si-O及びSi2p3/2Si-O)より低い領域で視認される。
【0031】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、以下の特徴のうちの少なくとも一つを有する。
(a)ポリエーテルシロキサンを含むこと、
(b)酸化電位が4.5V以上であり、且つ還元電位が0.5V以下であること、
(c)前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力が30mN/m以下であること。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、ポリエーテルシロキサンを含む。
【0032】
ポリエーテルシロキサン
いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、ポリエーテルシロキサンを含む。いくつかの実施例において、前記ポリエーテルシロキサンは、複合シリコーンポリエーテル複合物、ポリエーテル変性トリシロキサン、又はポリエーテル変性シリコーンポリエーテルシロキサンの少なくとも一種を含む。
【0033】
ポリエーテルシロキサンの実例は、トリシロキサン界面活性剤(CAS No.3390-61-2;28855-11-0)、シリコーン界面活性剤(Sylgard 309)、ジヒドロキシポリジメチルシロキサン(PMX-0156)、又はメチルシリコンオイルポリジメチルシロキサン(CAS No.63148-62-9)を含むが、これらに限定されない。
【0034】
上記したポリエーテルシロキサンは、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物が二種又は多種のポリエーテルシロキサンを含む場合、ポリエーテルシロキサンの含有量とは、二種又は多種のポリエーテルシロキサンの全含有量である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記ポリエーテルシロキサンの含有量は、3000ppm以下、2000ppm以下、1000ppm以下、500ppm以下、300ppm以下、又は200ppm以下である。ポリエーテルシロキサンの含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置の出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、及び高温保存特性等の性能の改善に有利である。
【0035】
酸化/還元電位
いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の酸化電位は、4.5V以上であり、且つ還元電位は、0.5V以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の酸化電位は、5V以上であり、且つ還元電位は、0.3V以下である。上記した酸化/還元電位を有するSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、電気化学特性が安定であり、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性の改善に有利である。
【0036】
表面張力
いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力は、30mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力は、25mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力は、20mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力は、15mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力は、10mN/m以下である。上記のような表面張力を有するSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、負極合剤層に良好な界面を持たせ、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性の改善に有利である。
【0037】
前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の表面張力は、以下の方法により測定することができる。JC2000D3E型接触角測定計を用い、固形分含有量1%のSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物水溶液を測定し、各サンプルを少なくとも3回測定し、少なくとも3つのデータを選択し、平均値を算出することで、Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の表面張力が得られる。
【0038】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、3000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、2500ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、2000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、1500ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、1000ppm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の含有量は、500ppm以下である。
【0039】
(2)炭素材料
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料は、人造黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、及びアモルファスカーボンのうちの少なくとも一種を含む。
【0040】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状、及び鱗状を含むが、これらに限定されない。
【0041】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料は、以下の特徴のうちの少なくとも一つを有する。
(a)比表面積(BET)が5m2/g未満であること、
(b)メディアン径(D50)が5μm~30μmであること、
(c)表面にアモルファスカーボンを有すること。
【0042】
比表面積(BET)
いくつかの実施例において、前記炭素材料は、5m2/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、3m2/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、1m2/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、0.1m2/g超の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、0.7m2/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、0.5m2/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料の比表面積は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記炭素材料の比表面積が上記した範囲内にあると、電極へのリチウムの析出を抑制することができ、且つ負極と電解液との反応による気体の発生を抑制することができる。
【0043】
炭素材料の比表面積(BET)は、以下の方法により測定することができる。表面積計(大倉理研製の全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して、窒素ガス流通下、350℃で15分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素ガスの相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定することができる。
【0044】
メディアン径(D50)
前記炭素材料のメディアン径(D50)とは、レーザー回折/散乱法で得られた体積基準の平均粒子径を指す。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、5μm~30μmのメディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、10μm~25μm的メディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、15μm~20μm的メディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は、1μm、3μm、5μm、7μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、或いは上記した任意の二つの値で構成される範囲内にあるメディアン径(D50)を有する。前記炭素材料のメディアン径が上記した範囲内にあると、電気化学装置の不可逆容量が比較的に小さく、且つ負極を均一に塗布しやすい。
【0045】
前記炭素材料のメディアン径(D50)は、以下の方法により測定することができる。ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2%水溶液(約10mL)に炭素材料を分散させて、レーザ回折/散乱式粒度分布計(堀場製造所社製、LA-700)によって測定することができる。
【0046】
X線回折パターンのパラメータ
本発明のいくつかの実施例によれば、学振法によるX線回折パターンに基づいて、前記炭素材料の格子面(002面)の層間距離は、0.335nm~0.360nmの範囲内、0.335nm~0.350nmの範囲内、又は0.335nm~0.345nmの範囲内にある。
【0047】
本発明のいくつかの実施例によれば、学振法によるX線回折パターンに基づいて、前記炭素材料の微結晶サイズ(Lc)は、1.0nm超又は1.5nm超である。
【0048】
ラマンスペクトルのパラメータ
いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は、0.01超、0.03超、又は0.1超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は、1.5未満、1.2未満、1.0未満、又は0.5未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0049】
前記炭素材料の1580cm-1付近におけるラマンピークの半値幅は、特に限定されない。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近におけるラマンピークの半値幅は、10cm-1超又は15cm-1超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近におけるラマンピークの半値幅は、100cm-1未満、80cm-1未満、60cm-1未満、又は40cm-1未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近におけるラマンピークの半値幅は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0050】
ラマンR値及びラマンピークの半値幅は、炭素材料の表面の結晶性を示す指標である。適度な結晶性は、充放電過程に炭素材料のリチウムを収容する層間サイトを消失しないように維持させることができ、それによって、炭素材料の化学的安定性に有利である。ラマンR値及び/又はラマンピークの半値幅が上記のような範囲内にあると、炭素材料が負極の表面に適当な被膜を形成することができ、電気化学装置の保存特性、サイクル特性、及び負荷特性等の改善に有利であると共に、炭素材料と電解液との反応による効率低下及び気体の発生を抑制することができる。
【0051】
ラマンR値又はラマンピークの半値幅は、アルゴンイオンレーザーラマン分光法により測定することができる。ラマン分光計(日本分光社製のラマン分光計)を用いて、試料を自然落下させ、測定セル内に充填し、セル内のサンプルの表面にアルゴンイオンレーザーを照射しながら、セルをレーザーに垂直な面で回転させることによって測定することができる。得られたラマンスペクトルに対して、1580cm-1付近におけるピークPAの強度IA及び1360cm-1付近におけるピークPBの強度IBを測定し、それらの強度比R(R=IB/IA)を算出する。
【0052】
上記したラマン分光法の測定条件は、以下の通りである。
アルゴンイオンレーザーの波長:514.5nm
試料へのレーザー出力:15~25mW
分解能:10~20cm-1
測定範囲:1100cm-1~1730cm-1
ラマンR値、ラマンピークの半値幅の分析:バックグラウンド処理
平滑化処理:単純平均、畳み込み5ポイント
【0053】
円形度
「円形度」の定義は以下の通りである。円形度=(粒子の投影形状と同じ面積を有する等価の円の周長)/(粒子の投影形状の実際の周長)。円形度が1.0であると、理論的な真球となる。
【0054】
いくつかの実施例において、前記炭素材料の粒子径は、3μm~40μmであり、且つ円形度は、0.1超、0.5超、0.8超、0.85超、0.9超、又は1.0である。
【0055】
高電流密度充放電特性にとって、炭素材料の円形度が大きいほど、充填性が高くなり、粒子同士の抵抗の抑制に有利であり、それによって、電気化学装置の高電流密度充放電特性が改善される。
【0056】
炭素材料の円形度は、フロー式粒子画像解析装置(Sysmex社製、FPIA)で測定することができる。ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2%水溶液(50mL)に試料0.2gを分散させて、出力60Wで28kHzの超音波を1分間照射した後、検出範囲を0.6μm~400μmに指定し、粒子径が3μm~40μmの範囲にある粒子を測定する。
【0057】
円形度を向上させる方法は、特に制限されない。電極の調製中に炭素材料粒子同士のすき形状を均一にする球状化処理を使用してもよい。炭素材料粒子をほぼ真球状にするために、剪断力又は圧縮力を加える等の機械的手段によって球状化処理を実施してもよく、粘着剤を加えること又は粒子自体の接着力により複数の微粒子を造粒する等の機械的/物理的手段によって球状化処理を実施してもよい。
【0058】
タップ密度
いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、0.1g/cm3超、0.5g/cm3超、0.7g/cm3超、又は1g/cm3超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、2g/cm3未満、1.8g/cm3未満、又は1.6g/cm3未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。炭素材料のタップ密度が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保すると共に、炭素材料粒子同士の抵抗の増大を抑制することができる。
【0059】
炭素材料のタップ密度は、以下の方法により測定することができる。試料をメッシュが300μmであるふるいに通過させ、20cm3のタップタンクに落下させ、タンクの上端面まで試料が充填された後、粉体密度測定計(例えば、Seishin社製のTap densor)を用い、ストローク長が10mmである振動を1000回行い、この時の体積及び試料の質量により、タップ密度を算出することができる。
【0060】
配向度
いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向度は、0.005超、0.01超又は0.015超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向度は、0.67未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。炭素材料の配向度が上記した範囲内にあると、電気化学装置に優れた高密度の充放電特性を持させる。
【0061】
長さと厚さとの比
いくつかの実施例において、前記炭素材料の長さと厚さとの比は、1超、2超、又は3超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の長さと厚さとの比は、10未満、8未満又は5未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の長さと厚さとの比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0062】
炭素材料の長さと厚さとの比が上記した範囲内にあると、より均一に塗布することができるため、電気化学装置に優れた高電流密度充放電特性を持させることができる。
【0063】
(3)接触角
本発明のいくつかの実施例によれば、接触角測定法により測定される非水溶媒に対する前記負極合剤層の接触角は、60°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される非水溶媒に対する前記負極合剤層の接触角は、50°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される非水溶媒に対する前記負極合剤層の接触角は、30°以下である。負極合剤層が非水溶媒に対して上記のような接触角を有すると、負極合剤層界面の欠陥が比較的に少なく、電気化学装置の充放電サイクルにおける安定性が良好であり、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性を確保することができる。
【0064】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記接触角測定法とは、前記負極合剤層の表面に3マイクロリットルのジエチルカーボネートの液滴を滴下した後、100秒内に前記負極合剤層の表面における前記液滴の接触角を測定することを指す。
【0065】
本発明のいくつかの実施例によれば、接触角測定法により測定される前記負極合剤層上の前記非水溶媒の液滴径は、30mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される前記負極合剤層上の前記非水溶媒の液滴径は、20mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される前記負極合剤層上の前記非水溶媒の液滴径は、15mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法により測定される前記負極合剤層上の前記非水溶媒の液滴径は、10mm以下である。負極合剤層が非水溶媒に対して上記のような接触角を有し、且つ前記非水溶媒が上記の液滴径を有すると、電気化学装置のサイクル及び高温保存特性をさらに向上させる。
【0066】
非水溶媒に対する負極合剤層の接触角及び非水溶媒液滴の径は、以下の方法により測定することができる。負極合剤層の表面に3マイクロリットルのジエチルカーボネートを滴下し、100秒内にJC2000D3E型接触角測定計を用い、液滴径を測定し、5点フィッティング法(即ち、まず、液滴の左右の平面に2点を選択し、液固界面を確定し、そして液滴の円弧で3点を選択する)でフィッティングして、非水溶媒に対する負極合剤層の接触角が得られる。各サンプルを少なくとも3回測定し、少なくとも差が5°未満であるデータを3つ選択して平均値をとして、非水溶媒に対する負極合剤層の接触角が得られる。接触角の測定に用いる非水溶媒は、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、又はメチルイソプロピルカーボネート等の一般的な電解質溶媒を選択することができる。
【0067】
(4)孔隙率
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層の孔隙率は、10%~60%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は、15%~50%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は、20%~40%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は、25%~30%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%であり、又は上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0068】
前記負極合剤層の孔隙率は、以下の方法により測定することができる。真密度測定計AccuPycII1340を用いて測定し、各サンプルを少なくとも3回測定し、少なくとも3つのデータを選択し、平均値を取る。下式により負極合剤層の孔隙率を算出する。孔隙率=(V1-V2)/V1×100%、ここで、V1は見かけ体積であり、V1=サンプルの表面積×サンプルの厚さ×サンプルの数、V2は真体積である。
【0069】
(5)厚さ
負極合剤層の厚さとは、負極集電体の任意の片側にある負極合剤層の厚さを指す。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、200μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、150μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、100μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、50μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、15μm以上である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、20μm以上である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは、30μm以上である。いくつかの実施例において、負極合剤層の厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0070】
(6)負極合剤層のボール落下試験
本発明のいくつかの実施例によれば、径15mm、重量12グラムのホールを前記負極合剤層に落下させた場合、前記負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さは、50cm以上である。いくつかの実施例において、径15mm、重量12グラムのホールを前記負極合剤層に落下させた場合、前記負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さは、150cm以上である。
【0071】
負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さは、合剤層の界面に関連する。前記最小高さが50cm以上である場合、負極合剤層の界面が割れる時、望ましくない方向に亀裂が出ることはない。
【0072】
縦方向(Machine Direction,MD)と横方向(Transverse Direction,TD)とのバランスを取った上で、前記負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さは、負極合剤層の厚さ及び孔隙率に関連する。負極合剤層の厚さが大きいほど、負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さが大きくなるが、厚すぎた負極合剤層は、電気化学装置のエネルギー密度を低下させる。負極合剤層の孔隙率が小さいほど、負極合剤層に亀裂が生じさせるボールの最小高さが大きくなるが、低すぎた孔隙率は、電気化学装置の電気化学特性(例えば、レート特性)を低下させる。
【0073】
(7)その他の成分
微量元素
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、モリブデン、鉄及び銅の少なくとも一種の金属を含む。これらの金属元素は、負極活物質におけるいくつかの導電能力の悪い有機物と反応することができ、それによって、負極活物質の表面の成膜に有利である。
【0074】
本発明のいくつかの実施例によれば、上記した金属元素は、微量で前記負極合剤層に存在し、多すぎた金属元素は、導電しない副産物を形成して負極の表面に付着しやすい。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の全重量に対して、前記少なくとも一種の金属の含有量は、0.05wt%以下である。いくつかの実施例において、前記少なくとも一種の金属の含有量は、0.03wt%以下である。いくつかの実施例において、前記少なくとも一種の金属の含有量は、0.01wt%以下である。
【0075】
シリコン及び/又はスズを含む材料
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、シリコン含有材料、スズ含有材料、合金材料のうちの少なくとも一種を含む。本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、シリコン含有材料及びスズ含有材料のうちの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、シリコン含有材料、シリコン-炭素複合材料、シリコン-酸素材料、合金材料、及びリチウム含有金属複合酸化物材料の一種又は多種を含む。いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、例えば、リチウムと合金を形成し得る金属元素及び半金属元素を含有する一種又は多種のその他の種類の負極活物質を含む。いくつかの実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、Pd及びPtを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Si、Sn、又はそれらの組み合わせを含む。Si及びSnは、優れたリチウムイオンを放出する能力を有し、リチウムイオン電池に高いエネルギー密度を付与することができる。いくつかの実施例において、その他の種類の負極活物質は、金属酸化物及びポリマー化合物のうちの一種又は多種を含んでもよい。いくつかの実施例において、前記金属酸化物は、酸化鉄、酸化ルテニウム、及び酸化モリブデンを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記ポリマー化合物は、ポリアセチレン、ポリアニリン、及びポリピロールを含むが、これらに限定されない。
【0076】
負極導電材
いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、負極導電材を含む。当該導電材は、化学変化を引き起こさない限り、任意の導電材を含んでもよい。導電材の非制限的な例示は、炭素に基づく材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等)、導電性ポリマー(例えば、ポリフェニレン誘導体)、及びそれらの混合物を含む。
【0077】
負極粘着剤
いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、負極粘着剤を含む。負極粘着剤は、負極活物質の粒子同士の結合及び負極活物質と集電体との結合を向上させることができる。負極粘着剤の種類は、特に制限されず、電解液又は電極の製造中に用いられる溶媒に対して安定な材料であればよい。
【0078】
負極粘着剤の実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系ポリマー;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状ポリマー;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物;エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物等の熱可塑性エラストマー状ポリマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状ポリマー;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物等を含むが、これらに限定されない。上記した負極粘着剤は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0079】
いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、0.1wt%超、0.5wt%超、又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満、又は8wt%未満である。いくつかの実施例において、前記負極粘着剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極粘着剤の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量及び負極の強度を十分に確保することができる。
【0080】
負極合剤層がゴム状ポリマー(例えば、SBR)を含有する場合、いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、0.1wt%超、0.5wt%超又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、5wt%未満、3wt%未満又は2wt%未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0081】
負極合剤層がフッ素系ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデン)を含有する場合、いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、1wt%超、2wt%超又は3wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、15wt%未満、10wt%未満、又は8wt%未満である。負極合剤層の全重量に対して、前記負極粘着剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0082】
溶媒
負極スラリーを形成するための溶媒の種類は、特に制限されず、負極活物質、負極粘着剤、並びに、必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散させることができる溶媒であればよい。いくつかの実施例において、負極スラリーを形成するための溶媒は、水系溶媒及び有機系溶媒のうちの何れか一種を用いてもよい。水系溶媒の実例は、水、アルコール等を含むが、これらに限定されない。有機系溶媒の実例は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を含むが、これらに限定されない。上記した溶媒は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0083】
増粘剤
増粘剤は、通常、負極スラリーの粘度を調製するために使用される。増粘剤の種類は、特に制限されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼイン、及びこれらの塩等を含むが、これらに限定されない。上記した増粘剤は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0084】
いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記増粘剤の含有量は、0.1wt%超、0.5wt%超、又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、前記増粘剤の含有量は、5wt%未満、3wt%未満又は2wt%未満である。増粘剤の含有量が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制すると共に、負極スラリーの良好な塗布性を確保することができる。
【0085】
(8)表面被覆
いくつかの実施例において、負極合剤層の表面に、負極合剤層と異なる組成を有するものを付着していてもよい。負極合剤層の表面附着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等を含むが、これらに限定されない。
【0086】
(9)負極活物質の含有量
いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、負極活物質の含有量は、80wt%超、82wt%超、又は84wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、負極活物質の含有量は、99wt%未満、又は98wt%未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層の全重量に対して、負極活物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0087】
(10)負極活物質の密度
いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、1g/cm3超、1.2g/cm3超、又は1.3g/cm3超である。いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、2.2g/cm3未満、2.1g/cm3未満、2.0g/cm3未満、又は1.9g/cm3未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0088】
負極活物質の密度が上記した範囲内にあると、負極活物質粒子の破損を防止することができ、電気化学装置の初期不可逆容量の増加又は負極集電体/負極活物質界面の付近における電解液の浸透性の低下による高電流密度充放電特性の劣化を抑制することができ、さらに電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制することができる。
【0089】
2、負極集電体
負極活物質を維持する集電体として、公知の集電体を任意に使用してもよい。負極集電体の実例は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼等の金属材料を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は、銅である。
【0090】
負極集電体が金属材料である場合、負極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属ストリップコイル、金属板、金属フィルム、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は、金属フィルムである。いくつかの実施例において、負極集電体は、銅箔である。いくつかの実施例において、負極集電体は、圧延法による圧延銅箔又は電解法による電解銅箔である。
【0091】
いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、1μm超、又は5μm超である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、100μm未満、又は50μm未満である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0092】
負極集電体と負極合剤層との厚さ比とは、電解液を注入する前の片面の負極合剤層の厚さと負極集電体の厚さとの比を指し、その値は、特に制限されない。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さ比は、150未満、20未満、又は10未満である。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さ比は、0.1超、0.4超、又は1超である。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さ比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。負極集電体と負極合剤層との厚さ比が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保すると共に、高電流密度充放電時の負極集電体の放熱を抑制することができる。
【0093】
II、電解液
本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、電解質と当該電解質を溶解させる溶媒とを含む。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置に用いられる電解液はさらに、添加剤を含む。
【0094】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、以下の化合物のうちの少なくとも一種を含む。
(a)プロピオン酸エステル、
(b)シアノ基を有する有機化合物、
(c)ジフルオロリン酸リチウム、及び、
(d)式1化合物。
【化5】
ここで、
Wは、
【化6】
から選択され、
Lは、単結合又はメチレン基から選択され、
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ、
pは、0~6の整数である。
【0095】
(a)プロピオン酸エステル
本発明のいくつかの実施例によれば、前記プロピオン酸エステルは、式2を有し、
【化7】
ここで、
R
1は、エチル基又はハロゲン化エチル基から選択され、
R
2は、C
1~C
6アルキル基又はC
1~C
6ハロゲン化アルキル基から選択される。
【0096】
いくつかの実施例において、前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロペン酸ブチル、プロピオン酸ペンチル、ハロゲン化プロピオン酸メチル、ハロゲン化プロピオン酸エチル、ハロゲン化プロピオン酸プロピル、ハロゲン化プロピオン酸ブチル、及びハロゲン化プロピオン酸ペンチルを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記プロピオン酸エステルは、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロペン酸ブチル、及びプロピオン酸ペンチルから選択される少なくとも一種である。いくつかの実施例において、前記ハロゲン化プロピオン酸メチル、ハロゲン化プロピオン酸エチル、ハロゲン化プロピオン酸プロピル、ハロゲン化プロピオン酸ブチル、及びハロゲン化プロピオン酸ペンチルにおけるハロゲン基は、フルオロ基(-F)、クロロ基(-Cl)、ブロモ基(-Br)、及びヨード基(-I)から選択される一種又は多種である。いくつかの実施例において、前記ハロゲン基は、より優れた効果が実現できるフルオロ基(-F)である。
【0097】
いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、10wt%~65wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、15wt%~60wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、30wt%~50wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、30wt%~40wt%である。上記した含有量を有するプロピオン酸エステルを用いることで、より優れた効果を実現することができる。
【0098】
(b)シアノ基を有する化合物
いくつかの実施例において、シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0099】
上記したシアノ基を有する化合物は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。電解液が二種又は多種のシアノ基を有する化合物を含む場合、シアノ基を有する化合物の含有量とは、二種又は多種のシアノ基を有する化合物の全含有量を指す。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.1wt%~15wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.5wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する化合物の含有量は、1wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記シアノ基を有する化合物の含有量は、3wt%~5wt%である。
【0100】
(c)ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2
F
2
)
いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.01wt%~15wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.05wt%~12wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.1wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.5wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、1wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、2wt%~4wt%である。
【0101】
(d)式1化合物
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、前記式1化合物を含み、前記式1化合物は、以下のものから選択される少なくとも一種である。
【化8】
mは、1~4の整数であり、
nは、0~2の整数であり、且つ
pは、0~6の整数である。
【0102】
溶媒
いくつかの実施例において、前記電解液はさらに、先行技術で既知されたいずれの電解液の溶媒として用いられる非水溶媒をさらに含む。
【0103】
いくつかの実施例において、前記非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒、及び芳香族フッ素含有溶媒の一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0104】
いくつかの実施例において、前記環状炭酸エステルの実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネートのうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記環状炭酸エステルは、3~6個の炭素原子を有する。
【0105】
いくつかの実施例において、前記鎖状炭酸エステルの実例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル?n?プロピルカーボネート、エチル?n?プロピルカーボネート、ジ?n?プロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル等の一種又は多種を含むが、これらに限定されない。フッ素で置換された鎖状炭酸エステルの実例は、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート等の一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0106】
いくつかの実施例において、前記環状カルボン酸エステルの実例は、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンのうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、環状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0107】
いくつかの実施例において、前記鎖状カルボン酸エステルの実例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec?ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t?ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバル酸メチル、及びピバル酸エチル等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、鎖状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。いくつかの実施例において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの実例は、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、及びトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチル等を含むが、これらに限定されない。
【0108】
いくつかの実施例において、前記環状エーテルの実例は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、及びジメトキシプロパンのうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0109】
いくつかの実施例において、前記鎖状エーテルの実例は、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン、及び1,2-エトキシメトキシエタン等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0110】
いくつかの実施例において、前記リン含有有機溶媒の実例は、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、及びリン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0111】
いくつかの実施例において、前記硫黄含有有機溶媒の実例は、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、及び硫酸ジブチルのうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、硫黄含有有機溶媒の水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0112】
いくつかの実施例において、前記芳香族フッ素含有溶媒は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、及びトリフルオロメチルベンゼンのうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0113】
いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸n?プロピル、酢酸エチル、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機溶媒を含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ?ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含む。
【0114】
電解液に鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルを加えた後、鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルが電極の表面にパッシベーション膜を形成することにより、電気化学装置の断続的な充電サイクル後の容量維持率を向上させる。いくつかの実施例において、前記電解液には、1wt%~60wt%の鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせを含有する。いくつかの実施例において、前記電解液には、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含有し、電解液の全重量に対して、当該組み合わせの含有量は、1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、10wt%~50wt%、20wt%~50wt%である。いくつかの実施例において、電解液の全重量に対して、前記電解液には、1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、20wt%~50wt%、20wt%~40wt%、又は30wt%のプロピオン酸プロピルが含まれる。
【0115】
添加剤
いくつかの実施例において、前記添加剤の実例は、フッ素化炭酸エステル、炭素-炭素二重結合を含有する炭酸ビニルエステル、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物及び酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0116】
いくつかの実施例において、前記電解液の全重量に対して、前記添加剤の含有量は、0.01wt%~15wt%、0.1wt%~10wt%、又は1wt%~5wt%である。
【0117】
本発明の実施例によれば、前記電解液の全重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記添加剤の1.5~30倍、1.5~20倍、2~20倍、又は5~20倍である。
【0118】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルの一種又は多種を含む。リチウムイオン電池の充電/放電中に、フッ素化炭酸エステルは、プロピオン酸エステルとともに負極の表面上に安定な保護膜を形成することができ、それによって、電解液の分解反応を抑制する。
【0119】
いくつかの実施例において、前記フッ素化炭酸エステルは、C=O(OR1)(OR2)で示される構造を有し、ここで、R1及びR2は、それぞれ1~6個の炭素原子を有するアルキル基又はハロゲン化アルキル基から選択され、ここで、R1及びR2のうちの少なくとも一つは、1~6個の炭素原子を有するフルオロアルキル基から選択され、且つR1及びR2は、任意に、それらと連結する原子とともに5員~7員環を形成する。
【0120】
いくつかの実施例において、前記フッ素化炭酸エステルの実例は、フルオロエチレンカーボネート、シス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トランス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、及びエチルトリフルオロエチルカーボネート等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0121】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、炭素-炭素二重結合を含有する炭酸ビニルエステルの一種又は多種を含む。前記炭素-炭素二重結合を含有する炭酸ビニルエステルの実例は、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、1,2-ジメチルビニレンカーボネート、1,2-ジエチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-n-プロピル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1,1-ジビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチリデンエチレンカーボネート及び1,1-ジエチル-2-メチリデンエチレンカーボネート等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記炭素-炭素二重結合を含有する炭酸ビニルエステルは、獲得しやすさ及びより優れた効果を実現できるビニレンカーボネートを含む。
【0122】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の一種又は多種を含む。前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の実例は、環状硫酸エステル、鎖状硫酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状亜硫酸エステル、及び環状亜硫酸エステル等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0123】
前記環状硫酸エステルの実例は、1,2-エチレンスルファート、1,2-プロピレンスルファート、1,3-プロピレンスルファート、1,2-ブチレンスルファート、1,3-ブチレンスルファート、1,4-ブチレンスルファート、1,2-ペンチレンスルファート、1,3-ペンチレンスルファート、1,4-ペンチレンスルファート、及び1,5-ペンチレンスルファート等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0124】
前記鎖状硫酸エステルの実例は、ジメチルスルファート、エチルメチルスルファート、及びジエチルスルファート等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0125】
前記鎖状スルホン酸エステルの実例は、フルオロスルホン酸メチル、及びフルオロスルホン酸エチル等のフルオロスルホン酸エステル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ジメタンスルホン酸ブチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、及び2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0126】
前記環状スルホン酸エステルの実例は、1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、2-プロペン-1,3-スルトン、1-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、2-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、3-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、1-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、2-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、3-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、1-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、3-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、1-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、3-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン、1,5-ペンタンスルトン、メタンジスルホン酸メチレン、及びメタンジスルホン酸エチレン等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0127】
前記鎖状亜硫酸エステルの実例は、ジメチルスルファイト、エチルメチルスルファイト、及びジエチルスルファイト等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0128】
前記環状亜硫酸エステルの実例は、1,2-エチレンスルフィット、1,2-プロピレンスルフィット、1,3-プロピレンスルフィット、1,2-ブチレンスルフィット、1,3-ブチレンスルフィット、1,4-ブチレンスルフィット、1,2-ペンチレンスルフィット、1,3-ペンチレンスルフィット、1,4-ペンチレンスルフィット、及び1,5-ペンチレンスルフィット等の一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0129】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、酸無水物の一種又は多種を含む。前記酸無水物の実例は、ホスホン酸環状無水物、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物、及びカルボン酸スルホン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。前記ホスホン酸環状無水物の実例は、トリメチルリン酸環状無水物、トリエチルリン酸環状無水物及びトリプロピルリン酸環状無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。前記カルボン酸無水物の実例は、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、及びマレイン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。前記ジスルホン酸無水物の実例は、エタンジスルホン酸無水物、及びプロパンジスルホン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。前記カルボン酸スルホン酸無水物の実例は、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物、及びスルホ酪酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。
【0130】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと炭素-炭素二重結合を含有する炭酸ビニルエステルとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと硫黄-酸素二重結合を含有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと2~4個のシアノ基を有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと環状カルボン酸エステルとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとホスホン酸環状無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとカルボン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとスルホン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとカルボン酸スルホン酸無水物との組み合わせである。
【0131】
電解質
電解質は、特に制限されず、電解質として公知されたものを任意に使用してもよい。リチウム二次電池の場合、通常、リチウム塩が用いられる。電解質の実例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAlF4、LiSbF6、LiTaF6、LiWF7等の無機リチウム塩;LiWOF5等のタングステン酸リチウム類;HCO2Li、CH3CO2Li、CH2FCO2Li、CHF2CO2Li、CF3CO2Li、CF3CH2CO2Li、CF3CF2CO2Li、CF3CF2CF2CO2Li、CF3CF2CF2CF2CO2Li等のカルボン酸リチウム塩類;FSO3Li、CH3SO3Li、CH2FSO3Li、CHF2SO3Li、CF3SO3Li、CF3CF2SO3Li、CF3CF2CF2SO3Li、CF3CF2CF2CF2SO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)2、LiN(FCO)(FSO2)、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンビススルホンイミド、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)等のイミドリチウム塩類;LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等のリチウムメチラート塩類;リチウムビス(マロナート)ボラート、リチウムジフルオロ(マロナート)ボラート等のリチウム(マロナート)ボラート塩類;リチウムトリス(マロナート)ホスファート、リチウムジフルオロビス(マロナート)ホスファート、リチウムテトラフルオロ(マロナート)ホスファート等のリチウム(マロナート)ホスファート塩類;及び、LiPF4(CF3)2、LiPF4(C2F5)2、LiPF4(CF3SO2)2、LiPF4(C2F5SO2)2、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiBF3C3F7、LiBF2(CF3)2、LiBF2(C2F5)2、LiBF2(CF3SO2)2、LiBF2(C2F5SO2)2等のフッ素含有有機リチウム塩類;リチウムジフルオロオキサラートボラート、リチウムビス(オキサラート)ボラート等のリチウムシュウ酸ホウ酸塩類;リチウムテトラフルオロオキサラートホスファート、リチウムジフルオロビス(オキサラート)ホスファート、リチウムトリス(オキサラート)ホスファート等のリチウムオキサラートリン酸塩類等を含むが、これらに限定されない。
【0132】
いくつかの実施例において、電解質は、電気化学装置の出力特性、高いレートでの充放電特性、高温保存特性及びサイクル特性等を改善させることに寄与することから、LiPF6、LiSbF6、LiTaF6、FSO3Li、CF3SO3Li、LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンビススルホンイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3、リチウムジフルオロオキサラートボラート、リチウムビス(オキサラート)ボラート、及びリチウムジフルオロビス(オキサラート)ホスファートから選択される。
【0133】
電解質の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されない。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、0.3mol/L以上超、0.4mol/L超、又は0.5mol/L超である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、3mol/L未満、2.5mol/L未満、又は2.0mol/L以下未満である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解質の濃度が上記した範囲内にあると、荷電粒子であるリチウムが十分となり、また、粘度を適切の範囲内にすることができるため、良好な導電率を確保しやすい。
【0134】
二種以上の電解質を併用する場合、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を含む。いくつかの実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩を含む。いくつかの実施例において、電解質は、リチウム塩を含む。いくつかの実施例において、電解質の全重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、0.01wt%超、又は0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の全重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、20wt%未満、又は10wt%未満である。いくつかの実施例において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0135】
いくつかの実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される一種以上のものと、それ以外の一種以上の塩とを含む。それ以外の塩として、上記で例示されたリチウム塩が挙げられ、いくつかの実施例において、それ以外の塩は、LiPF6、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiBF3CF3、LiBF3C2F5、LiPF3(CF3)3、LiPF3(C2F5)3である。いくつかの実施例において、それ以外の塩は、LiPF6である。
【0136】
いくつかの実施例において、電解質の全重量に対して、それ以外の塩の含有量は、0.01wt%超、又は0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の全重量に対して、それ以外の塩の含有量は、20wt%未満、15wt%未満、又は10wt%未満である。いくつかの実施例において、それ以外の塩の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。上記した含有量を有するそれ以外の塩は、電解液の導電率と粘度とのバランスに寄与する。
【0137】
電解液には、上記した溶媒、添加剤及び電解質塩に加えて、必要に応じて、負極被膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤等の付加的添加剤を含んでもよい。添加剤として、通常、非水電解質二次電池に使用される添加剤を用いることができ、その実例は、ビニレンカーボネート、コハク酸無水物、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、2,4-ジフルオロアニソール、プロパンスルトン、プロペンスルトン等を含むが、これらに限定されない。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。なお、電解液におけるこれらの添加剤の含有量は、特に限定されず、当該添加剤の種類等に応じて、適宜に設定すればよい。いくつかの実施例において、電解液の全重量に対して、添加剤の含有量は、5wt%未満であり、0.01wt%~5wt%の範囲内にあり、又は0.2wt%~5wt%の範囲内にある。
【0138】
III、正極
正極は、正極集電体、及び前記正極集電体の一つ又は二つの表面上に設置された正極合剤層を備える。
【0139】
1、正極合剤層
正極合剤層は、正極活物質を含む正極活物質層を含む。前記正極活物質層は、単層であってもよく、複層であってもよい。複層の正極活物質層における各層は、同様な、又は異なる正極活物質を含んでもよい。正極活物質は、リチウムイオン等の金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる任意のものである。
【0140】
正極活物質の種類は、特に制限されず、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵及び放出することができるものであればよい。いくつかの実施例において、正極活物質は、リチウム及び少なくとも一種の遷移金属を含有するものである。正極活物質の実例は、リチウム遷移金属複合酸化物、及びリチウム含有遷移金属リン酸化合物を含むが、これらに限定されない。
【0141】
いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等を含む。いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物;LiNiO2等のリチウムニッケル複合酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO4等のリチウムマンガン複合酸化物;LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2等のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含み、ここで、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主な部分としての遷移金属原子の一部が、Na、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等のその他の元素で置換される。リチウム遷移金属複合酸化物の実例は、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.45Co0.10Al0.45O2、LiMn1.8Al0.2O4及びLiMn1.5Ni0.5O4等を含むが、これらに限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の組み合わせの実例は、LiCoO2とLiMn2O4との組み合わせを含むが、これらに限定されず、LiMn2O4におけるMnの一部が遷移金属で置換されてもよく(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)、LiCoO2におけるCoの一部が遷移金属で置換されてもよい。
【0142】
いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等を含む。いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物は、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等のリン酸鉄類;LiCoPO4等のリン酸コバルト類を含み、ここで、これらのリチウム含有遷移金属リン酸化合物の主な部分としての遷移金属原子の一部が、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換される。
【0143】
いくつかの実施例において、正極活物質には、電気化学装置の連続充電特性を向上させることができるリン酸リチウムが含まれる。リン酸リチウムの使用は制限されない。いくつかの実施例において、正極活物質とリン酸リチウムとが混合して使用される。いくつかの実施例において、上記した正極活物質とリン酸リチウムとの全重量に対して、リン酸リチウムの含有量は、0.1wt%超、0.3wt%超、又は0.5wt%超である。いくつかの実施例において、上記した正極活物質とリン酸リチウムとの全重量に対して、リン酸リチウムの含有量は、10wt%未満、8wt%未満、又は5wt%未満である。いくつかの実施例において、リン酸リチウムの含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0144】
表面被覆
上記した正極活物質の表面に、正極活物質と組成が異なるものを付着していてもよい。表面附着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等を含むが、これらに限定されない。
【0145】
これらの表面付着物質は、表面付着物質を溶媒に溶解又は懸濁させることにより、正極活物質に含浸、添加し、そして乾燥する方法;表面付着物質の前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させ、正極活物質に含浸、添加した後、加熱等により反応させる方法;及び正極活物質の前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、正極活物質の表面に付着させることができる。炭素を付着させる場合、炭素材料(例えば、活性炭等)を機械的に付着させる方法を用いてもよい。
【0146】
いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、表面付着物質の含有量は、0.1ppm超、1ppm超、又は10ppm超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、表面付着物質の含有量は、20%未満、10%未満又は10%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、表面付着物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0147】
正極活物質の表面に表面付着物質を付着することにより、正極活物質の表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電気化学装置の寿命を向上させることができる。表面付着物質の量が少なすぎると、その効果が十分に発揮することができず、表面付着物質の量が多すぎると、リチウムイオンの出入りが妨害されるため、抵抗が増加することがある。
【0148】
本発明において、正極活物質の表面に正極活物質と組成が異なるものが付着しているものも「正極活物質」と称される。
【0149】
形状
いくつかの実施例において、正極活物質粒子の形状は、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極活物質粒子は、一次粒子、二次粒子、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、一次粒子は凝集して二次粒子を形成してもよい。
【0150】
タップ密度
いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、0.5g/cm3超、0.8g/cm3超、又は1.0g/cm3超である。正極活物質のタップ密度が上記した範囲内にあると、正極合剤層形成時に必要とされる分散媒体の量、並びに、導電材及び正極粘着剤の必要量を抑制することができるため、正極活物質の充填率及び電気化学装置の容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極合剤層を形成することができる。タップ密度は、通常、大きいほど好ましく、上限は特にない。いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、4.0g/cm3未満、3.7g/cm3未満、又は3.5g/cm3未満である。正極活物質のタップ密度が上記の上限を有すると、負荷特性の低下を抑制することができる。
【0151】
正極活物質のタップ密度は、正極活物質粉体5g~10gを10mLのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)として算出される。
【0152】
メディアン径(D50)
正極活物質粒子が一次粒子である場合、正極活物質粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質粒子の一次粒子径を指す。正極活物質粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、正極活物質粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質粒子の二次粒子径を指す。
【0153】
いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、0.3μm超、0.5μm超、0.8μm超、又は1.0μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、30μm未満、27μm未満、25μm未満、又は22μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質粒子のメディアン径(D50)が上記した範囲内にあると、タップ密度の高い正極活物質を得ることができ、電気化学装置の性能の低下を抑制することができる。一方、電気化学装置の正極の調製過程で(即ち、正極活物質、導電材及び粘着剤等を溶媒でスラリー化し、フィルム状に塗布する場合)に、スジが発生する等の問題を防止することができる。ここで、異なるメディアン径を有する二種以上の正極活物質を混合することにより、正極調製時の充填性を更に向上させることができる。
【0154】
正極活物質粒子メディアン径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1wt%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波で分散させた後に、測定屈折率を1.24に設定して測定される。
【0155】
平均一次粒子径
正極活物質粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、0.05μm超、0.1μm超、又は0.5μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、5μm未満、4μm未満、3μm未満又は2μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の平均一次粒子径が上記した範囲内にあると、粉体の充填性及び比表面積を確保し、電池特性の低下を抑制し、且つ適切な結晶性を得ることができるため、電気化学装置の充放電の可逆性を確保することができる。
【0156】
正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像を観察することで得られる。倍率が10000倍であるSEM画像において、任意の50個の一次粒子について、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長値を求め、それらの平均値を求めることにより、平均一次粒子径が得られる。
【0157】
比表面積(BET)
いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、0.1m2/g超、0.2m2/g超、又は0.3m2/g超である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、50m2/g未満、40m2/g未満、又は30m2/g未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の比表面積(BET)が上記した範囲内にあると、電気化学装置の特性を確保することができるとともに、正極活物質に良好な塗布性を持たせることができる。
【0158】
正極活物質の比表面積(BET)は、以下の方法により測定することができる。表面積計(例えば、大倉理研製の全自動表面積測定装置)を用い、窒素ガス流通下で、150℃にて試料に30分間の予備乾燥を行った後、大気圧に対する窒素の相対圧力値が0.3に正確に調整された窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET一点法によって測定する。
【0159】
正極導電材
正極導電材の種類は制限されず、任意の既知の導電材を用いることができる。正極導電材の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等のアモルファスカーボン等の炭素材料;カーボンナノチューブ;グラフェン等を含むが、これらに限定されない。上記した正極導電材は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0160】
いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極導電材の含有量は、0.01wt%超、0.1wt%超、又は1wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極導電材の含有量は、50wt%未満、30wt%以下未満、又は15wt%未満である。正極導電材の含有量が上記した範囲内にあると、十分な導電性及び電気化学装置の容量を確保することができる。
【0161】
正極粘着剤
正極合剤層の製造に用いる正極粘着剤の種類は、特に限定されず、塗布法の場合、電極製造時に用いる液体媒体に溶解又は分散させることができる材料であればよい。正極粘着剤の実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系ポリマー;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状ポリマー;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物等の熱可塑性エラストマー状ポリマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状ポリマー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系ポリマー;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有するポリマー組成物等のうちの一種又は多種を含むが、これらに限定されない。上記した正極粘着剤は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0162】
いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極粘着剤の含有量は、0.1wt%超、1wt%超、又は1.5wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極粘着剤の含有量は、80wt%未満、60wt%未満、40wt%未満、又は10wt%未満である。正極粘着剤の含有量が上記した範囲内にあると、正極に良好な導電性及び十分な機械的強度を持たせ、そして電気化学装置の容量を確保することができる。
【0163】
溶媒
正極スラリーを形成するための溶媒の種類は制限されず、正極活物質、導電材、正極粘着剤、及び必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散させることができる溶媒であればよい。正極スラリーを形成するための溶媒の実例は、水系溶媒及び有機系溶媒のいずれか一種を含んでもよい。水系媒体の実例は、水、及びアルコールと水との混合媒体等を含むが、これらに限定されない。有機系媒体の実例は、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を含むが、これらに限定されない。
【0164】
増粘剤
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用されるものである。水系溶媒を用いる場合、増粘剤及びスチレンブタジエンゴム(SBR)エマルジョンを用いてスラリー化することができる。増粘剤の種類は、特に制限されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼイン、及びこれらの塩等を含むが、これらに限定されない。上記した増粘剤は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0165】
いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、増粘剤の含有量は、0.1wt%超、0.2wt%超、又は0.3wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、増粘剤の含有量は、5wt%未満、3wt%未満、又は2wt%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、増粘剤の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。増粘剤の含有量が上記した範囲内にあると、正極スラリーに良好な塗布性を持たせ、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増加を抑制することができる。
【0166】
正極活物質の含有量
いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極活物質の含有量は、80wt%超、82wt%超、又は84wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極活物質の含有量は、99wt%未満又は98wt%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の全重量に対して、正極活物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の含有量が上記した範囲内にあると、正極合剤層における正極活物質の電気容量を確保するとともに、正極の強度を維持することができる。
【0167】
正極活物質の密度
塗布、乾燥して得られた正極合剤層に対して、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス又はローラープレス等により圧密処理を行ってもよい。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、1.5g/cm3超、2g/cm3超、又は2.2g/cm3超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、5g/cm3未満、4.5g/cm3未満、又は4g/cm3未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極合剤層の密度が上記した範囲内にあると、電気化学装置に良好な充放電特性を持たせるとともに、抵抗の増加を抑制することができる。
【0168】
正極合剤層の厚さ
正極合剤層の厚さとは、正極集電体の任意の片側における正極合剤層の厚さを指す。いくつかの実施例において、正極合剤層の厚さは、10μm超、又は20μm超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の厚さは、500μm未満、又は450μm未満である。
【0169】
正極活物質の製造方法
正極活物質は、無機化合物を製造する一般的な方法によって製造することができる。球状又は楕円体状の正極活物質を製造するために、以下の製造方法を採用することができる。遷移金属の原料物質を水等の溶媒に溶解又は粉砕・分散させ、攪拌しながらpHを調整し、球状の前駆体を製造して回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加え、高温で焼成し、正極活物質が得られる。
【0170】
2、正極集電体
正極集電体の種類は、特に制限されず、いずれの既知の正極集電体として適する材料であってもよい。正極集電体の実例は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は、金属材料である。いくつかの実施例において、正極集電体は、アルミニウムである。
【0171】
正極集電体の形態は、特に制限されない。正極集電体が金属材料である場合、正極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属ストリップコイル、金属板、金属フィルム、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等を含むが、これらに限定されない。正極集電体が炭素材料である場合、正極集電体の形態は、炭素板、炭素フィルム、炭素円柱等を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は、金属フィルムである。いくつかの実施例において、前記金属フィルムは、メッシュ状である。前記金属フィルムの厚さは、特に制限されない。いくつかの実施例において、前記金属フィルムの厚さは、1μm超、3μm超、又は5μm超である。いくつかの実施例において、前記金属フィルムの厚さは、1mm未満、100μm未満、又は50μm未満である。いくつかの実施例において、前記金属フィルムの厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0172】
正極集電体と正極合剤層との電子接触抵抗を低減するために、正極集電体の表面に、導電助剤を含んでもよい。導電助剤の実例は、炭素、及び金、白金、銀等の貴金属類を含むが、これらに限定されない。
【0173】
正極集電体と正極合剤層との厚さ比とは、電解液が注入される前の片面の正極合剤層の厚さと正極集電体の厚さとの比を指し、その値は、特に制限されない。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さ比は、20未満、15未満、又は10未満である。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さ比は、0.5超、0.8超、又は1超である。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さ比は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極集電体と正極合剤層との厚さ比が上記した範囲内にあると、高電流密度充放電時の正極集電体の放熱を抑制することができ、電気化学装置の容量を確保することができる。
【0174】
3、正極の構成及び作製方法
正極は、正極活物質と粘着剤とを含有する正極合剤層を集電体上に形成することで製造することができる。正極活物質を用いる正極の製造は、通常の方法で行うことができる。即ち、正極活物質及び粘着剤、並びに必要に応じた導電材及び増粘剤等を乾式混合し、シート状に形成し、得られたシート状のものを正極集電体に圧接すること;或いは、これらの材料を液体媒体に溶解又は分散させ、スラリーを調製し、当該スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥させることで、正極合剤層が集電体上に形成し、それによって、正極が得られる。
【0175】
IV、セパレータ
短絡を防止するために、正極と負極との間に、通常、セパレータが配設されている。この場合、本発明の電解液は、通常、当該セパレータに含浸して用いられる。
【0176】
セパレータの材料及び形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限されない。前記セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料で形成された樹脂、ガラス繊維、無機物等であってもよい。いくつかの実施例において、前記セパレータは、保液性が優れた多孔質シート又は不織布状形態の物質等を含む。樹脂又はガラス繊維であるセパレータの材料の実例は、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記セパレータの材料はガラスフィルターである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン又はポリプロピレンである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリプロピレンである。上記したセパレータの材料は、単独で用いてもよく、又は任意に組み合わせて用いてもよい。
【0177】
前記セパレータは、上記した材料を積層してなる材料であってもよく、その実例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンをこの順で積層してなる三層セパレータ等を含むが、これらに限定されない。
【0178】
無機物の材料の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等)を含むが、これらに限定されない。無機物の形態は、粒子状又は繊維状を含むが、これらに限定されない。
【0179】
前記セパレータの形態は、フィルム形態であってもよく、その実例は、不織布、織布、微多孔質フィルム等を含むが、これらに限定されない。フィルム形態において、前記セパレータの孔径は、0.01μm~1μmであり、厚さは5μm~50μmである。上記した独立のフィルム状セパレータ以外に、樹脂類の粘着剤を用いて上記した無機物粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表面に形成させてなるセパレータを使用することができ、例えば、粘着剤としてフッ素樹脂を使用し、正極の両面に90%粒子径が1μm未満の酸化アルミニウムを多孔層に形成させてなるセパレータを用いることもできる。
【0180】
前記セパレータの厚さは、任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、1μm超、5μm超、又は8μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、50μm未満、40μm未満、又は30μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの厚さが上記した範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保することができるとともに、電気化学装置のレート特性及びエネルギー密度を確保することができる。
【0181】
セパレータとして多孔質シート又は不織布等の多孔質材料を用いる場合、セパレータの孔隙率は、任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、20%超、35%超、又は45%超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、90%未満、85%未満、又は75%未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの孔隙率が上記した範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保することができるとともに、セパレータの抵抗を抑制することができ、電気化学装置に良好なレート特性を持たせる。
【0182】
前記セパレータの平均孔径も、任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満、又は0.2μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.05μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの平均孔径が上記した範囲を超えると、短絡が発生しやすい。セパレータの平均孔径が上記した範囲内にあると、短絡を防止するとともに、セパレータの抵抗を抑制することができ、電気化学装置に良好なレート特性を持たせる。
【0183】
V、電気化学装置の組立体
電気化学装置の組立体は、電極アセンブリー、集電構造、外装ケース、及び保護素子を含む。
【0184】
電極アセンブリー
電極アセンブリーは、上記した正極と負極とを、上記したセパレータを介して積層してなる積層構造、及び、上記した正極と負極とを、上記したセパレータを介して渦巻き状に巻回してなる構造のうちの何れか一種であってもよい。いくつかの実施例において、電池内容積に電極アセンブリーの質量が占める割合(電極アセンブリー占有率)は、40%超、又は50%超である。いくつかの実施例において、電極アセンブリー占有率は、90%未満又は80%未満である。いくつかの実施例において、電極アセンブリー占有率は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電極アセンブリー占有率が上記した範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保しつつ内部圧力の上昇に伴う繰り返しの充放電特性及び高温保存等の特性の低下を抑制することができ、さらにガス放出弁の作動を防止することができる。
【0185】
集電構造
集電構造は、特に制限されない。いくつかの実施例において、集電構造は、配線部分及び接合部分の抵抗を低減させる構造である。電極アセンブリーが上記した積層構造である場合、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなると、内部抵抗が大きくなるので、電極内に2つ以上の端子を設けて抵抗を低減させることも好適に用いられる。電極アセンブリーが上記した巻回構造である場合、正極及び負極にそれぞれ2つ以上のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0186】
外装ケース
外装ケースの材質は、用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。外装ケースは、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は樹脂とアルミ箔との積層フィルムが用いられるが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、外装ケースは、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の金属、又は積層フィルムである。
【0187】
金属類の外装ケースは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着してなる封止密閉構造;或いは樹脂製ガスケットを介して上記した金属類を用いてなるかしめ構造を含むが、これらに限定されない。上記した積層フィルムを用いる外装ケースは、樹脂層同士を熱融着してなる封止密閉構造等を含むが、これらに限定されない。シール性を上げるために、上記した樹脂層の間に積層フィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属は樹脂と接合するので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂又は極性基を導入した変性樹脂が用いられる。また、外装ケースの形状も、任意であり、例えば、円筒形、角形、ラミネート型、ボタン型、大型等のうちの何れか一種であってもよい。
【0188】
保護素子
保護素子として、異常発熱又は過大電流が流れた時に抵抗が増大する正温度係数(PTC)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力又は内部温度を急激に上昇させるにより回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等が用いられる。上記した保護素子は、高電流での通常使用では作動しない素子を選択してもよく、保護素子がなくても異常発熱又は熱暴走が発生しないように設計してもよい。
【0189】
VI、応用
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が生じる任意の装置を含み、その具体的な実例は、すべての種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシタを含む。特に、この電気化学装置は、リチウム金属二次電池リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池、又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0190】
本発明はさらに、本発明による電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0191】
本発明の電気化学装置の用途は、特に限定されず、先行技術で既知の任意の電子装置に用いることができる。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力型パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯複写機、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオカメラ、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレイヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池、及びリチウムイオンキャパシタ等に使用することができるが、これらに限定されない。
【0192】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、そして具体的な実施例を参照しながらリチウムイオン電池の調製を説明し、当業者は、本発明に記載されている調製方法は例示だけであり、他の任意の適切な調製方法はいずれも本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
【0193】
実施例
以下では、本発明のリチウムイオン電池の実施例及び比較例により、本発明のリチウムイオン電池を説明して性能評価を行う。
【0194】
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
人造黒鉛、スチレン-ブタジェンゴム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比96%:2%:2%で脱イオン水と混合し、さらにSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を加え、均一に撹拌し、負極スラリーを得た。当該負極スラリーを12μmの銅箔に塗布した。乾燥し、冷間圧延し、そして打ち抜き、タブを溶接することで、負極を得た。
【0195】
以下の実施例に用いられるSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物は、以下の通りである。
【0196】
【0197】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電材(Super-P)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比95%:2%:3%でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、均一に撹拌し、正極スラリーを得た。当該正極スラリーを12μmのアルミニウム箔に塗布し、乾燥し、冷間圧延し、そして打ち抜き、タブを溶接することで、正極を得た。
【0198】
3、電解液の調製
乾燥アルゴンガス雰囲気で、EC、PC、及びDEC(重量比1:1:1)を混合し、LiPF6を加えて均一に撹拌し、基礎電解液を形成した。ここで、LiPF6の濃度が1.15mol/Lであった。基礎電解液に含有量の異なる添加剤を加え、異なる実施例及び比較例の電解液を得た。電解液における成分の略語及びその名称を以下の表に示す。
【0199】
【0200】
4、セパレータの調製
ポリエチレン(PE)多孔重合体フィルムをセパレータとした。
【0201】
5、リチウムイオン電池の調製
得られた正極、セパレータ及び負極を順番に巻いて外装箔に入れ、注液口を残した。注液口から電解液を注入し、封止して、フォーメーション、容量測定等のプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
【0202】
二、測定方法
1、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率の測定方法
45℃で、リチウムイオン電池を、1Cにて4.45Vまで定電流充電し、そして4.45Vにて電流が0.05Cになるまで定電流充電し、さらに1Cにて3.0Vまで定電流放電し、上記の操作を初回サイクルとした。上記した条件に従い、リチウムイオン電池に対して200回サイクルを行った。「1C」とは、電池容量を1時間内で完全放電させる電流の値である。
【0203】
以下の式からリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率を算出した。
サイクル後の容量維持率=(サイクル後の放電容量/初回サイクルの放電容量)×100%。
【0204】
2、リチウムイオン電池の直流抵抗(DCR)の測定方法
25℃で、リチウムイオン電池を、1.5Cにて4.45Vまで定電流充電し、さらに4.45Vにて0.05Cまで定電圧充電し、30分間静置した。その後、0.1Cで10秒間放電し(0.1秒ごとに1回測定し、対応する電圧値U1を記録した)、1Cで360秒間放電した(0.1秒ごとに1回測定し、対応する電圧値U2を記録した)。充放電の手順を5回繰り返した。「1C」とは、電池容量を1時間内で完全放電させる電流の値である。
【0205】
以下の公式により、リチウムイオン電池のDCRを算出した。
DCR=(U2-U1)/(1C-0.1C)。
【0206】
本発明に記載されたDCRは、50%充電状態(SOC)での値である。
【0207】
三、測定結果
表1には、Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物がリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)に対する影響が示される。
【0208】
【0209】
結果から分かるように、負極合剤層にSi-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を添加することにより、負極合剤層の界面安定性を改善することができ、それによって、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率を著しく向上させるとともに、リチウムイオン電池の直流抵抗(DCR)を低下させることができる。
【0210】
表2には、Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の表面張力がリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)に対する影響が示される。
【0211】
【0212】
結果から分かるように、Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物の表面張力はこれらの化合物がリチウムイオン電池のサイクル特性及び保存特性に対する影響を反映することができる。Si-C結合及びSi-O結合を有する高分子化合物を0.1wt%含有する水溶液の表面張力が30mN/m以下であると、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率が著しく向上し、且つ直流抵抗(DCR)が著しく低下する。
【0213】
表3には、負極合剤層における炭素材料がリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)に対する影響を示す。表3にリストされているパラメータ以外、実施例のその他の設置は、実施例1と同様である。
【0214】
【0215】
表3に示されたように、負極合剤層における炭素材料は、以下の特徴を有する。比表面積が5m2/g未満であり、メディアン径が5μm~30μmであり、及び/又は、表面にアモルファスカーボンを有する。負極合剤層における炭素材料が以上の特徴を有すると、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)をさらに改善することができる。
【0216】
表4には、負極合剤層の特徴がリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)に対する影響を示す。表4にリストされているパラメータを以外、実施例のその他の設置は、実施例1と同様である。
【0217】
【0218】
表4に示されたように、負極合剤層は、以下の特徴を有する。厚さが200μm以下であり、10%~60%の孔隙率を有し、及び/又はボール落下高さ(即ち、径15mm、重量12グラムのボールを前記負極合剤層に落下させた場合、前記負極合剤層に亀裂が生じるボールの最小高さ)が50cm以上である。負極合剤層が以上の特徴を有すると、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)をさらに改善することができる。
【0219】
表5には、電解液の成分がリチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)に対する影響を示す。表5にリストされているパラメータ以外、実施例のその他の設置は、実施例1と同様である。
【0220】
【0221】
結果から分かるように、本発明の負極合剤層を用いた上で、電解液がプロピオン酸エステル、シアノ基を有する有機化合物、ジフルオロリン酸リチウム、及び/又は、式1化合物を含むと、負極合剤層の界面安定性がさらに向上することで、リチウムイオン電池のサイクル後の容量維持率及び直流抵抗(DCR)が著しく改善される。
【0222】
明細書全体において、「実施例」、「一部の実施例」、「一つの実施例」、「別の例」、「例」、「具体例」又は「一部の例」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載した特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、明細書全体の各箇所に記載された、例えば「ある実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明における同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0223】
例示的な実施例が記載及び説明されているが、当業者は、上記した実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、且つ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。
【国際調査報告】