(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質およびその前駆体
(51)【国際特許分類】
C01B 17/45 20060101AFI20221122BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221122BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221122BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221122BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221122BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20221122BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20221122BHJP
【FI】
C01B17/45 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
C01B25/14
H01G11/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519496
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2020076658
(87)【国際公開番号】W WO2021058620
(87)【国際公開日】2021-04-01
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522120325
【氏名又は名称】エイ・エム・ジー リシウム ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】AMG Lithium GmbH
【住所又は居所原語表記】Industriepark Hoechst, Geb. B852, 65926 Frankfurt am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラ ニッケル
(72)【発明者】
【氏名】ハネス ヴィッツェ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ ギャビー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー リール
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シェーラー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ヤンセン
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB06
5E078DA11
5E078DA18
5E078DA19
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA22
5G301CA23
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明は、固体電解質、その前駆体、その製造方法、並びに例えば電気化学セルまたはキャパシタ、燃料電池、バッテリーおよびセンサにおけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
Li
(2a
+
b)S
aX
b (I)
[式中、
Xは第17族元素、好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択され、
2≦a≦3、好ましくは2.4≦a≦2.6、且つ
0<b≦2、好ましくは0.8≦b≦1.2である]
によって表される固体電解質前駆体。
【請求項2】
Li
6S
2.5Cl、Li
6S
2.5BrおよびLi
6S
2.5Iから選択される、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
少なくとも1つのドーパント、例えばMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物から選択される少なくとも1つのドーパントをさらに含む、請求項1または2に記載の前駆体。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の固体電解質前駆体の製造方法であって、
(i) リチウム塩を反応容器内に準備する段階、
(ii) 少なくとも1つの第1の反応ガスおよび少なくとも1つの第2の反応ガスを、段階(i)のリチウム塩と、高められた温度、例えば80℃より上、好ましくは90~250℃で接触させる段階、および
(iii) 段階(ii)で得られた生成物を任意に搬出する段階
を含み、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスの1つは硫黄含有ガスであり、且つ他方の反応ガスはX含有ガスである、前記方法。
【請求項5】
段階(i)におけるリチウム塩が、LiOH、Li
2CO
3、Li
2SO
4、Li
2O、Li
2O
2、またはそれらの混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1の反応ガスがハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物であり、且つ好ましくは、前記少なくとも1つの第2の反応ガスがH
2S、S
8、CS
2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源であるか、または
前記少なくとも1つの第1の反応ガスがH
2S、S
8、CS
2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源であり、且つ好ましくは、前記少なくとも1つの第2の反応ガスがハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物である、
請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
S含有反応ガス中のSの、X含有反応ガス中のXに対するモル比は、10:1~1:1、好ましくは3:1~1.5:1、より好ましくは2.6:1~2.4:1である、請求項4から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
固体電解質を製造するための、請求項1から3までのいずれか1項に記載の固体電解質前駆体の使用。
【請求項9】
固体電解質の製造方法であって、
(a) 請求項1から3までのいずれか1項に記載の固体電解質前駆体を反応容器内に準備する段階、
(b) Y含有成分を、段階(a)の固体電解質前駆体と接触させる段階、および
(c) 段階(b)において得られる生成物を任意に搬出する段階
を含み、
段階(b)を高められた温度、例えば285℃より上、好ましくは288~900℃で実施し、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、且つ
段階(b)において前記Y含有成分は少なくとも部分的に気相中に存在する、
前記方法。
【請求項10】
前記Y含有成分が、P
2S
5、As
2S
5、GeS
2、SiS
2、B
2S
3、SnS、Ga
2S
3、Al
2S
3、Sb
2S
5、またはそれらの混合物から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
段階(b)において、Y含有成分中のYの、段階(a)において準備される固体電解質前駆体に対するモル比が0.2:1~2:1、好ましくは0.5:1~1:1である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9から11までのいずれか1項に記載の方法によって得られる固体電解質。
【請求項13】
以下の式(II):
Li
(2c
+
d
-
n)Y
n+S
cX
d (II)
[式中、
Xは第17族元素、好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択され、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、
4≦n≦5,
4≦c≦6、且つ
0<d≦2である]
によって表され、2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2および/または53.1での、CuK
α線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない、固体電解質。
【請求項14】
少なくとも1つのドーパント、例えばMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物をさらに含む、請求項13に記載の固体電解質。
【請求項15】
請求項13または14に記載の固体電解質を含む電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、その前駆体、その製造方法、並びに例えば電気化学セルおよびキャパシタ、燃料電池、バッテリーおよびセンサにおけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質は、高移動度のイオンを、それ以外は硬質な結晶構造中で提供する。それらはバッテリー、燃料電池およびセンサにおける用途のために特に適しており、なぜならそれらの特定の構造は、通常、電極を分離する追加的な液体または膜を代替するからである。この手段によって、有害または可燃性の有機液体電解質に関する健康および安全上のリスクが回避される。さらに、前記固体電解質は優れた電子特性、例えば高いイオン伝導率および電気化学的安定性を有することが示される。
【0003】
電気化学的蓄電装置のために特に関連する群の固体電解質は、可動リチウムイオンを提供するカチオン性の固体電解質、例えばリチウムアルジロダイト型の固体電解質、特に硫化物のリチウムアルジロダイト型の固体電解質であって、一般式Li12-m-x
+Mm+S6-x
2-Xx
- [式中、Mm+=Si4+、Ge4+、Sn4+、P5+、As5+; X-=Cl-、Br-、I-; 0≦x≦2]を有するものである。
【0004】
国際公開第2009/047254号(WO2009/047254 A1)は、式Li6PS5Z [式中、ZはCl、BrおよびIから選択される]を有する硫化物のリチウムアルジロダイトの製造方法であって、Li2S、P2S5を含む固体の反応物質とハロゲン源とを不活性ガス雰囲気下で混合する段階、前記混合物を加圧する段階、および得られた圧縮物を引き続き加熱する段階を含む前記方法を記載している。
【0005】
米国特許出願公開第2018/0358653号明細書(US2018/0358653 A1)は、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法であって、構成元素としてのリチウム、硫黄、リン、ハロゲンを含む原料を混練し、引き続き熱処理することを含む前記方法を開示している。
【0006】
上記の固相合成の欠点は、混練または混合段階が、加熱されるべき原料全体にわたる反応物質の均質な分布を確実にしないことである。従って、生じる固体電解質は、蓄積された未反応の出発材料の不純物を含有し、且つ/または異なる組成の二次相の形成に起因して不均質な構造を有し、電解質の電子特性を損なう。
【0007】
国際公開第2018/054709号(WO2018/054709 A1)は、リチウム、リンおよび硫黄に基づく固体電解質、例えばLi4PS4Iの製造方法であって、有機溶剤中で前記反応物質を混合し且つ不活性ガス雰囲気中で加熱することによる前記方法を開示している。
【0008】
溶剤に基づく方法は固相に基づく方法よりも均質な反応物質の分布をもたらすのだが、反応生成物から有機溶剤を除去するために、費用と時間がかかる分離、乾燥および洗浄段階を要する。さらには、残留する溶剤分子が固体電解質の電子特性を妨げ、例えばそのイオン伝導率を低下させることがある。
【0009】
上記を考慮して、公知の方法の欠点を克服し且つ改善された固体電解質材料の提供を可能にする、固体電解質を製造するための新規の方法が緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2009/047254号
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0358653号明細書
【特許文献3】国際公開第2018/054709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、優れた電気特性、例えば高いイオン伝導率および電気化学的安定性を有する均質な固体電解質を製造するための、迅速、容易且つ費用対効果の高い方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
意外なことに、式Li(2a
+
b)SaXb
[式中、
Xは第17族元素から独立して選択され、
2≦a≦3、且つ
0<b≦2である]
を有する固体電解質前駆体を、少なくとも部分的に気体状のY含有成分と反応させることを含む固相/気相法は、式Li(2c
+
d
-
n)Yn+ScXd
[式中、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、
4≦n≦5、
4≦c≦6、且つ
0<d≦2である]
によって表される、高い純度および均質性を有する改善された固体電解質の提供を可能にすることが判明した。
【0013】
第1の態様において、本発明は、以下の式(I):
Li(2a
+
b)SaXb (I)
[式中、
Xは第17族元素から独立して選択され、
2≦a≦3、且つ
0<b≦2である]
によって表される固体電解質前駆体に関する。
【0014】
Xは第17族元素(つまりハロゲン)から、好ましくはF、Cl、BrおよびIから、より好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択される。1つの実施態様において、XはFまたはClまたはBrまたはI、好ましくはClまたはBrまたはIである。他の実施態様において、Xは第17族元素の少なくとも2つの混合物、例えばClとBrとの混合物、ClとIとの混合物、またはBrとIとの混合物であって、元素X1の元素X2に対する比は0.01:0.99~0.99:0.01、好ましくは0.1:0.9~0.9:0.1、より好ましくは0.3:0.7~0.7:0.3であり、例えばX=(Cl0.5Br0.5)bである。
【0015】
Xの化学量論比は0.8≦b≦1.2であることができ、より好ましくはb=1である。Sの化学量論比は2.4≦a≦2.6の範囲であることができ、より好ましくはa=2.5である。特に、前記固体電解質前駆体はLi6S2.5Cl、Li6S2.5BrまたはLi6S2.5Iである。
【0016】
前記固体電解質前駆体は、少なくとも部分的に秩序的な原子配置を有し、且つ好ましくは半結晶または結晶状態、特に結晶状態である。前記前駆体の原子配置を、当該技術分野において公知の従来の手段、例えばX線回折(XRD)によって特定できる。好ましい実施態様において、固体電解質前駆体は純粋な相の形態である。純粋な相の存在は、当業者に公知のとおり、X線回折(XRD)によって検出され得る。
【0017】
本発明による固体電解質前駆体は、改善された生成物の均質性および純度を有し、例えば未反応の出発材料および/または異なる組成の二次相を実質的に含まず、好ましくは未反応の出発材料および異なる組成の二次相がない。
【0018】
前記前駆体は少なくとも1つのドーパントをさらに含み得る。本発明の意味におけるドーパントは、固体電解質前駆体の(結晶)構造内に導入されて、例えばその電気特性を変える補助的な元素であり、且つ好ましくは前駆体の総質量に対して10質量%未満、より好ましくは0.01~9.0質量%、さらにより好ましくは0.10~5.0質量%の量で存在する。ドーパントの種類並びにその濃度は、生じる材料特性に著しく影響する。適したドーパントは例えば、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、O、Se、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Ga、またはそれらの混合物である。それぞれの酸化状態でのB、As、SeおよびNi、より好ましくはB3+、As5+、Se2-およびNi2+から選択されるドーパントが、イオン伝導率を高めるために特に有益であるか、または電子とイオンとの混合された伝導を可能にする。
【0019】
さらなる態様において本発明は、本発明による固体電解質前駆体の製造方法であって、
(i) リチウム塩を反応容器内に準備する段階、
(ii) 少なくとも1つの第1の反応ガスおよび少なくとも1つの第2の反応ガスを、段階(i)のリチウム塩と、高められた温度で接触させる段階、および
(iii) 段階(ii)で得られた生成物を任意に搬出する段階
を含み、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスの1つは硫黄含有ガスであり、且つ他方の反応ガスはX含有ガスである、
前記方法に関する。
【0020】
段階(i)において、リチウム塩、好ましくはLiOH、Li2CO3、Li2SO4、Li2O、Li2O2またはそれらの混合物、より好ましくはLiOHが準備される。前記リチウム塩はさらに、結晶水、および/またはその結晶構造内に組み込まれていない水、好ましくはLi2SO4・H2OまたはLiOH・H2Oを含有し得る。段階(i)において準備されるリチウム塩の全体的な含水率は、0~50質量%、例えば10~45質量%であってよい。好ましい実施態様において、リチウム塩は実質的に水不含であり、例えば含水率5質量%未満、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.01~0.1質量%を有する。
【0021】
任意に、段階(i)の前に、高められた温度、例えば少なくとも80℃、好ましくは90~250℃で、任意に減圧下、つまり大気圧未満(<1013mbar)、例えば500mbar未満、例えば0.001~100mbarでリチウム塩を予備乾燥させる段階を行う。そのような予備乾燥されたリチウム塩は実質的に水不含であることができ、例えば含水率5質量%未満、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満を有する。
【0022】
段階(i)および任意に予備乾燥の段階を、乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行うことができる。好ましくは、不活性ガスまたは乾燥空気は実質的に水不含であり、つまり相対湿度(RH)10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。
【0023】
段階(ii)において、段階(i)のリチウム塩を少なくとも1つの第1の反応ガスおよび少なくとも1つの第2の反応ガスと、高められた温度、例えば80℃より上、好ましくは90~250℃で接触させる。段階(ii)を乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行うことができ、ここで前記不活性ガスまたは乾燥空気は好ましくは実質的に水不含であり、つまりRH10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。段階(i)と段階(ii)との両方が不活性ガスまたは乾燥空気の雰囲気下で行われる場合、前記ガスが(本質的に)同一であることができる。
【0024】
1つの実施態様において、前記少なくとも1つの第1の反応ガスはハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物であり、好ましくはHClまたはHBrである。少なくとも1つの第2の反応ガスは、H2S、S8、CS2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源であってよく、好ましくはH2Sである。
【0025】
他の実施態様において、少なくとも1つの第1の反応ガスは、H2S、S8、CS2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源であってよく、好ましくはH2Sである。前記少なくとも1つの第2の反応ガスはハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物であってよく、好ましくはHClまたはHBrである。
【0026】
特に、前記少なくとも1つの第1の反応ガスおよび/または前記少なくとも1つの第2の反応ガスは実質的に水不含であり、つまりそれらは独立してRH10体積%未満,好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。
【0027】
前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスを、段階(ii)において連続的または同時に供給できる。好ましい実施態様において、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスを同時に供給し、その際、それらは段階(ii)の前に当該技術分野において公知の従来の技術によって接触、好ましくは混合される。
【0028】
S含有反応ガス中のSの、X含有反応ガス中のXに対するモル比は、例えば10:1~1:1、好ましくは3:1~1.5:1、より好ましくは2.6:1~2.4:1である。反応ガス中のS含有成分中のSおよびX含有成分中のXの、段階(i)において準備されるリチウム塩中のLiに対するモル比は、例えば10:1~1:1、好ましくは10:1~5:1、より好ましくは7:1~5:1である。
【0029】
前記少なくとも1つの第1の反応ガスは、キャリアガスをさらに含み得る。適したキャリアガスは不活性であり、且つ乾燥空気および当該技術分野において公知の不活性ガス、例えばN2、HeまたはArから、好ましくは乾燥空気またはN2から選択でき、且つ特に実施的に水不含であり、つまりRH10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。好ましくは、前記キャリアガスは適宜、段階(i)および/または段階(ii)において適用される不活性ガス、好ましくは乾燥空気または水不含のN2に相応する。
【0030】
前記少なくとも1つの第2の反応ガスもキャリアガスを含み得る。適したキャリアガスは本願内に記載されたとおりであり、且つ好ましくは乾燥空気または水不含のN2であり、且つ特に実質的に水不含であり、つまりRH10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。好ましい実施態様において、第2の反応ガスのキャリアガスは適宜、第1の反応ガスのキャリアガスおよび/または段階(i)および/または段階(ii)において適用される不活性ガス、好ましくは乾燥空気または水不含のN2に相応する。
【0031】
段階(ii)を、合計ガス流量0.1~1000m3/h、好ましくは5~500m3/h、より好ましくは10~50m3/hで実施でき、ここで前記合計ガス流量は、S含有反応ガス、X含有反応ガス、およびキャリアガスを適宜含む。合計ガス流量はとりわけ、段階(i)において準備されるリチウム塩の量、得られるべき前駆体の種類、および反応温度に依存し得る。さらには、合計ガス流量は、段階(ii)において副生成物として形成される水の量にも依存することがあり、なぜなら、段階(ii)においてリチウム塩を完全に変換するために、例えば反応容器を通るガスの流れによって前記の水を除去することが必須であるからである。
【0032】
さらに、副生成物の水の量は、段階(ii)におけるリチウム塩の(本質的に)完全な変換の時点を特定するための反応の制御として役立つこともできる。この手段により、段階(ii)の継続時間を反応条件に個々に適合させることができる。好ましくは、段階(ii)の継続時間は個々の反応条件に依存して24時間まで、例えば15分~15時間である。
【0033】
段階(i)および/または段階(ii)の間に適切な反応雰囲気、例えば不活性ガスまたは乾燥空気を供給するために、反応容器を封止して周囲から隔離する一方で、少なくとも1つのガスの入口および少なくとも1つのガスの出口が、ガス、例えば乾燥空気、不活性ガス、キャリアガスおよび/または水蒸気の容器への導入および容器からの除去の制御をそれぞれ可能にすることができる。適した反応容器は例えば、当該技術分野において公知の加熱可能な流動床反応器である。
【0034】
1つの実施態様において、段階(ii)において得られる生成物を反応容器から搬出する。他の実施態様において、本発明による方法はさらに、段階(ii)において得られる生成物に少なくとも1つのドーピング剤、例えばアニオン性またはカチオン性のドーピング剤を添加する段階を含む。カチオン性ドーピング剤は、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Ga、またはそれらの混合物を含み得る。アニオン性ドーピング剤はO2-、Se2-、またはTe2-を含み得る。ドーピング剤は液体、固体または気体の形態で存在し得る。好ましくは、ドーピング剤は固体の形態、例えば塩の形態で存在する。適したカチオン性ドーピング剤は、例えば水酸化物、炭酸塩または硫化物塩、例えばAs2S5、Ni(OH)2またはMg(CO3)またはそれらの混合物である。適したアニオン性ドーピング剤は、例えばリチウム塩、例えばLi2O、Li2SeまたはLi2Teまたはそれらの混合物である。少なくとも1つのドーピング剤を添加する段階はさらに、段階(ii)で得られた生成物と少なくとも1つのドーピング剤とを、粉砕手段によって、例えばボールミル、または当該技術分野において公知の撹拌によって混合することを含み得る。
【0035】
任意に、そのようなドーピング段階の後に得られる生成物を、反応容器から搬出する。他の実施態様において、段階(ii)において得られる生成物またはドーピング段階の後に得られる生成物を反応容器内に残し、さらに反応させて本願内に記載される固体電解質をもたらす。
【0036】
従って、さらなる態様において本発明は、固体電解質を製造するための本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。特に、前記固体電解質は以下の式(II):
Li(2c
+
d
-
n)Yn+ScXd (II)
[式中、
Xは第17族元素、好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択され、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、且つ好ましくはPであり、
4≦n≦5、
4≦c≦6、好ましくは4.5≦c≦5.5、且つ
0<d≦2、好ましくは0.8≦d≦1.2である]
によって表される。
【0037】
Yn+は好ましくはP5+、As5+、Ge4+、Si4+、B3+、Sn4+、Ga3+、Al3+およびSb5+から独立して選択される。好ましい実施態様において本発明は、Li6PS5Cl、Li6PS5BrまたはLi6PS5Iを製造するための本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。
【0038】
さらには、本発明は固体電解質の製造方法であって、
(a) 反応容器内に上記の固体電解質前駆体を準備する段階、
(b) Y含有成分を、段階(a)の固体電解質前駆体と接触させる段階、および
(c) 段階(b)において得られる生成物を任意に搬出する段階
を含み、段階(b)を高められた温度で実施し、ここでYはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、且つ好ましくはPであり、前記Y含有成分は段階(b)における気相中に少なくとも部分的に存在する、前記方法に関する。
【0039】
段階(a)において、本発明による固体電解質前駆体を反応容器内に準備する。好ましくは、段階(a)の前に本発明による前記の固体電解質前駆体の製造方法を行い、特に段階(a)は段階(ii)に引き続いて実施される。
【0040】
段階(a)を、乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行うことができる。好ましくは、不活性ガスまたは乾燥空気は実質的に水不含であり、つまり相対湿度(RH)10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。
【0041】
段階(b)において、段階(a)の固体電解質前駆体をY含有成分と、高められた温度で接触させる。Y含有成分は、P2S5、As2S5、GeS2、SiS2、B2S3、SnS、Ga2S3、Al2S3、Sb2S5またはそれらの混合物から選択でき、且つ好ましくはP2S5である。好ましくは、Y含有成分は実質的に水不含であり、つまりRH10質量%未満、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは2質量%未満を有する。
【0042】
段階(b)において保持される温度は、少なくとも部分的にY含有成分を気相にもたらすために充分であり、例えば少なくとも285℃、好ましくは288~900℃である。好ましい実施態様において、段階(b)がY含有ガスと段階(a)の固体電解質前駆体とを高められた温度で接触させることを含むように、Y含有成分を反応容器の外側で、例えば少なくとも285℃、好ましくは288~900℃の温度に加熱する。Y含有成分中のYの、段階(a)において準備される固体電解質前駆体に対するモル比は、0.2:1~2:1、好ましくは0.5:1~1:1であってよい。
【0043】
段階(b)を、乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行うことができ、ここで乾燥空気または不活性ガスは好ましくは水不含であり、つまりRH10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。段階(a)と段階(b)との両方が不活性ガスまたは乾燥空気下で行われる場合、前記ガスが(本質的に)同一であることができる。
【0044】
Y含有成分はさらに、キャリアガスを含み得る。適したキャリアガスは不活性であり、且つ乾燥空気および当該技術分野において公知の不活性ガス、例えばN2、HeまたはArから、好ましくは乾燥空気またはN2から選択でき、且つ特に水不含であり、つまりRH10体積%未満、好ましくは0.01~5体積%、より好ましくは2体積%未満を有する。好ましくは、前記キャリアガスは適宜、段階(a)および/または段階(b)において適用される不活性ガスに相応し、且つ好ましくは乾燥空気または水不含のN2である。
【0045】
段階(b)を、合計ガス流量0.1~1000m3/h、好ましくは5~500m3/h、より好ましくは10~50m3/h、例えば20m3/hで実施でき、ここで前記合計ガス流量は、Y含有反応ガス、およびキャリアガスを適宜含む。合計ガス流量はとりわけ、段階(a)において準備される固体電解質前駆体の量、得られるべき固体電解質の種類、および反応温度に依存し得る。段階(b)の継続時間は個々の反応条件に依存して24時間まで、例えば15分~15時間であってよい。
【0046】
段階(a)および/または段階(b)の間に適切な反応雰囲気、例えば不活性ガスまたは乾燥空気を供給するために、反応容器を封止して周囲から隔離する一方で、少なくとも1つのガスの入口および少なくとも1つのガスの出口が、ガス、例えば乾燥空気、不活性ガス、Y含有反応ガス、および/またはキャリアガスの容器への導入および容器からの除去の制御をそれぞれ可能にすることができる。反応容器は例えば、当該技術分野において公知の加熱可能な流動床反応器であってよい。
【0047】
1つの実施態様において、段階(b)において得られる生成物を反応容器から搬出する。上記の固体電解質の製造方法であって、段階(b)において得られる生成物に、少なくとも1つのドーピング剤、例えばアニオン性またはカチオン性のドーピング剤を添加する段階をさらに含む前記方法も本発明に包含される。カチオン性ドーピング剤は、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Ga、またはそれらの混合物を含み得る。アニオン性ドーピング剤はO2-、S2-またはTe2-を含み得る。ドーピング剤は液体、固体または気体の形態で存在し得る。好ましくは、ドーピング剤は固体の形態、例えば塩の形態で存在する。適したカチオン性ドーピング剤は、例えば水酸化物、炭酸塩または硫化物塩、例えばAs2S5、Ni(OH)2またはMg(CO3)またはそれらの混合物である。適したアニオン性ドーピング剤は、例えばリチウム塩、例えばLi2O、Li2SeまたはLi2Teまたはそれらの混合物である。
【0048】
段階(b)において得られる生成物に添加されるドーピング剤の量は、例えばドーピング剤の種類、および段階(b)において得られる生成物の量に依存し、特に固体電解質中のドーパントの量は、前記固体電解質の総質量に対して10質量%未満、好ましくは0.01~9.0質量%、より好ましくは0.10~5.0質量%となる。
【0049】
少なくとも1つのドーピング剤を添加する段階は、段階(b)において得られた生成物と少なくとも1つのドーピング剤とを、粉砕手段によって、例えばボールミル、または当該技術分野において公知の撹拌によって混合することをさらに含み得る。好ましくは、段階(a)において準備された固体電解質前駆体がドーパントを含まない場合に、少なくとも1つのドーピング剤を添加する段階を実施する。
【0050】
さらなる態様において、本発明は本願内に記載される方法によって得られる固体電解質に関する。当該技術分野において公知の方法、例えば固体に基づくかまたは溶剤に基づく方法によって得られる固体電解質とは対照的に、本発明による方法によって得られる固体電解質は、改善された生成物の均質性および純度を有し、未反応の出発材料および異なる組成の二次相がない。この手段によって、改善された電気特性、例えば改善されたイオン伝導率および電気化学的安定性を有する固体電解質が得られる。好ましくは、本願内に記載される方法によって得られる固体電解質は、20℃でイオン伝導率0.01~500mS/cm、好ましくは1~100mS/cmを有する。
【0051】
生成物の均質性および純度を、当該技術分野において公知の従来の手段、例えば粉末X線回折(XRD)によって特定できる。特に、例えばCuKα線を使用して記録される本発明による固体電解質の典型的なXRDパターンは支配的な生成物の反射を有し、不純物、例えば副生成物および未反応の出発材料に起因する反射はあったとしてもわずかである。
【0052】
好ましい実施態様において、固体電解質は純粋な相の形態である。純粋な相の存在は、当業者に公知のとおり、X線回折(XRD)によって検出され得る。
【0053】
特に、本発明による固体電解質は、望ましくない不純物の反射に相応する2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2および/または53.1、より具体的には17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2および53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない。
【0054】
好ましい実施態様において、本発明による固体電解質は、2θ角[°]: 17.5、18.0、34.9、44.8、50.2、および/または53.1、より具体的には17.5、18.0、34.9、44.8、50.2および53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない。
【0055】
他の好ましい実施態様において、本発明による固体電解質は、2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、44.8、46.7、および/または53.1、より具体的には17.5、18.0、32.5、44.8、46.7および53.1での、CuKα線フィルタを使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない。
【0056】
本発明の意味における「反射を実質的に有さない」との文言は、それぞれの2θ角での反射が、特定の固体電解質について記録された最も強い生成物の反射の最大5%、好ましくは最大2%、より好ましくは最大1%の強度を有することを意味する。
【0057】
なおもさらなる態様において、本発明は以下の式(II):
Li(2c
+
d
-
n)Yn+ScXd (II)
[式中、
Xは第17族元素、好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択され、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、
4≦n≦5、
4≦c≦6、且つ
0<d≦2である]
によって表され、2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2および/または53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない、固体電解質に関する。
【0058】
好ましい実施態様において、本発明による固体電解質は、2θ角[°]: 17.5、18.0、34.9、44.8、50.2、および53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない。
【0059】
他の実施態様において、本発明による固体電解質は、2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、44.8、46.7、および53.1での、CuKα線を使用し、CuKαフィルタを用いた粉末X線回折における反射を実質的に有さない。
【0060】
本発明の意味における「反射を実質的に有さない」との文言は、それぞれの2θ角での反射が、特定の固体電解質について記録された最も強い生成物の反射の最大5%、好ましくは最大2%、より好ましくは最大1%の強度を有することを意味する。
【0061】
好ましい実施態様において、式(II)による固体電解質は、25.2、25.5、29.6、30.0、31.0および/または31.4から選択される2θ角での、CuKα線を使用する粉末X線回折における特徴的な反射を有する。好ましい実施態様において、前記固体電解質は、2θ角[°]: 25.5、30.0および31.4での、CuKα線を使用する粉末X線回折における特徴的な反射を含む。他の実施態様において、前記固体電解質は、2θ角[°]: 25.2、29.6および31.0での、CuKα線を使用する粉末X線回折における特徴的な反射を含む。
【0062】
本発明の意味における「特徴的な反射」は、特定の固体電解質について記録された最も強い反射の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%の強度を有する反射である。
【0063】
Xは第17族元素、好ましくはF、Cl、BrおよびIから独立して選択される。1つの実施態様において、XはFまたはClまたはBrまたはI、好ましくはClまたはBrまたはIである。他の実施態様において、Xは第17族元素の少なくとも2つの混合物、例えばClとBrとの混合物、ClとIとの混合物、またはBrとIとの混合物であって、元素X1の元素X2に対する比は0.01:0.99~0.99:0.01、好ましくは0.1:0.9~0.9:0.1、より好ましくは0.3:0.7~0.7:0.3であり、例えばX=(Cl0.5Br0.5)dである。
【0064】
Yn+は好ましくはP5+、As5+、Ge4+、Si4+、B3+、Sn4+、Ga3+、Al3+およびSb5+から独立して選択される。1つの実施態様において、Yn+はP5+またはAs5+またはGe4+またはSi4+またはB3+またはSn4+またはGa3+またはAl3+またはSb5+、好ましくはP5+である。他の実施態様において、Yn+はP5+、As5+、Ge4+、Si4+、B3+、Sn4+、Ga3+、Al3+およびSb5+の少なくとも2つの混合物、例えばP5+とAs5+との混合物、またはP5+とSb5+との混合物であって、元素Y1の元素Y2に対する比は0.01:0.99~0.99:0.01、好ましくは0.1:0.9~0.9:0.1、より好ましくは0.3:0.7~0.7:0.3である。
【0065】
好ましい実施態様において、Xの化学量論比は0.5≦d≦1.5、より好ましくは0.8≦d≦1.2である。好ましい実施態様において、Sの化学量論比は4.5≦c≦5.5、より好ましくは4.8≦c≦5.2である。
【0066】
好ましい実施態様において、Xの化学量論比は0.5≦d≦1.5、好ましくは0.8≦d≦1.2であり、且つSの化学量論比は4.5≦c≦5.5、好ましくは4.8≦c≦5.2である。特に、前記固体電解質はLi6PS5Cl、Li6PS5BrまたはLi6PS5Iである。
【0067】
前記固体電解質は、好ましくは結晶状態であり、例えばアルジロダイト状結晶構造(斜方晶・ピラミッド型、空間群F-43m)を有する。前記固体電解質の原子配置を、当該技術分野において公知の従来の手段、例えばX線回折(XRD)によって検出できる。
【0068】
前記固体電解質はさらに少なくとも1つのドーパントを含み得る。本発明の意味におけるドーパントは、固体電解質(結晶)構造内に導入されて、その電気特性を変える補助的な元素である。ドーパントの種類並びにその濃度は、生じる材料特性に著しく影響する。適したカチオン性ドーパントは例えば、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Ga、またはそれらの混合物である。アニオン性ドーピング剤はO2-、S2-、Te2-を含み得る。それぞれの酸化状態での、B、As、SeおよびNiから選択されるドーパントが、イオン伝導率を高めるために特に有益であるか、または電子とイオンとの混合された伝導を可能にする。ドーパントは固体電解質の総質量に対して10質量%未満、好ましくは0.01~9.0質量%、より好ましくは0.10~5.0質量%の量で存在できる。
【0069】
従来の固体電解質とは対照的に、本発明による固体電解質は改善された生成物の均質性および純度を有し、例えば未反応の出発材料および組成が異なる二次相がない。好ましい実施態様において、固体電解質は純粋な相の形態である。生成物の均質性および純度、並びに純粋な相の存在を特定するための適した手段は本願内に記載されるとおりである。
【0070】
この手段によって、改善された電気特性、例えば高いイオン伝導率および電気化学的安定性を有する固体電解質が得られる。好ましくは、前記固体電解質は、20℃でイオン伝導率0.01~500mS/cm、好ましくは1~100mS/cmを有する。
【0071】
さらなる態様において本発明は、電気化学セルにおける本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。なおもさらなる態様において本発明は、燃料電池における本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。なおもさらなる態様において本発明は、バッテリーにおける本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。なおもさらなる態様において本発明は、センサにおける本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。なおもさらなる態様において本発明は、スーパーキャパシタにおける本発明による固体電解質前駆体の使用に関する。さらには、本発明は、本発明による固体電解質を含む電気化学セルに関する。
【0072】
本発明をより詳細にさらに説明するが、以下の図面および実施例に限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】CuK
α線を用いて2θ範囲5~90°で測定され、相対強度I
relとして示されたLi
6PS
5ClのXRDパターン。#で示されるピークは試料ホルダに起因する。
【実施例】
【0074】
例1
合計の含水率42質量%を有する100.0gのLiOH・H2Oを、150℃で1時間、流動床反応器内で加熱した。引き続き、予備乾燥されたリチウム塩を、HClとH2Sとを1:2.5のモル比で含む反応ガス、並びにガスの総量に対して95体積%の含有率でのキャリアガスとしての窒素と、合計ガス流量18m3/hで1時間、150℃で接触させて、固体電解質前駆体をもたらした。
【0075】
次に、前記固体電解質前駆体を、気体状のP2S5と288℃で、合計ガス流量18m3/h(ガスの総量に対して95体積%の含有率でのキャリアガスとしての窒素を含む)で1時間接触させ、ここでP2S5の前記固体電解質前駆体に対するモル比は0.5:1であった。
【0076】
得られる固体電解質は、化学量論比の組成Li:P:S:Cl=6:1:5:1、および不活性ガス雰囲気下でMetrohm Autolabにて電気化学インピーダンス分光法を用いて周波数範囲1MHz~100Hzで測定される室温でのイオン伝導率4.5mS/cmを有する。試料のペレットは固体電解質粉末を粉砕し、ステンレス鋼電極を備える直径13mmの加圧試料セルに充填することにより作製された。測定の間に印加される圧力はp=3tであった。粉末X線回折解析を、Bruker D2 PHASER回折装置にて、CuKα線を用いて2θ範囲5~90°で、ステップ幅0.020°で実施した。
【0077】
それぞれの粉末パターンは2θ角[°]: 25.53、30.04および31.41での特徴的な反射を示し、2θ角[°]: 17.53、18.05、32.52、34.88、44.81、46.66、50.17および53.10での反射は示さなかった(
図1参照)。
【0078】
本発明は以下の項目を包含する:
1. 以下の式(I):
Li(2a
+
b)SaXb (I)
[式中、
Xは第17族元素から独立して選択され、
2≦a≦3、且つ
0<b≦2である]
によって表される固体電解質前駆体。
【0079】
2. XがCl、BrおよびIからなる群から独立して選択される、項目1に記載の前駆体。
【0080】
3. 0.8≦b≦1.2である、項目1または2に記載の前駆体。
【0081】
4. 2.4≦a≦2.6である、項目1から3までのいずれか1つに記載の前駆体。
【0082】
5. Li6S2.5Cl、Li6S2.5BrおよびLi6S2.5Iから選択される、項目1から4までのいずれか1つに記載の前駆体。
【0083】
6. 少なくとも1つのドーパントをさらに含む、項目1から5までのいずれか1つに記載の前駆体。
【0084】
7. 前記ドーパントが、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物から選択される、項目6に記載の前駆体。
【0085】
8. 前記ドーパントが、前駆体の総質量に対して10質量%未満、好ましくは0.01~9.0質量%、より好ましくは0.10~5.0質量%の量で存在する、項目6または7に記載の前駆体。
【0086】
9. 結晶状態、好ましくは純粋な相の形態での結晶状態である、項目1から8までのいずれか1つに記載の前駆体。
【0087】
10. 項目1から9までのいずれか1つに記載の固体電解質前駆体の製造方法であって、
(i) リチウム塩を反応容器内に準備する段階、
(ii) 少なくとも1つの第1の反応ガスおよび少なくとも1つの第2の反応ガスを、段階(i)のリチウム塩と、高められた温度で接触させる段階、および
(iii) 段階(ii)で得られた生成物を任意に搬出する段階
を含み、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスの1つは硫黄含有ガスであり、且つ他方の反応ガスはX含有ガスである、前記方法。
【0088】
11. 前記リチウム塩が含水率0~50質量%、好ましくは0~10質量%を有する、項目10に記載の方法。
【0089】
12. 段階(i)の前に、リチウム塩を高められた温度、例えば少なくとも80℃、好ましくは90~250℃で、任意に減圧下で予備乾燥させる段階を行う、項目10または11に記載の方法。
【0090】
13. 段階(i)におけるリチウム塩が、LiOH、Li2CO3、Li2SO4、Li2O、Li2O2、またはそれらの混合物である、項目10から12までのいずれか1つに記載の方法。
【0091】
14. 段階(i)および/または段階(ii)を乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行う、項目10から13までのいずれか1つに記載の方法。
【0092】
15. 前記不活性ガスまたは乾燥空気が実質的に水不含である、項目14に記載の方法。
【0093】
16. 段階(ii)を、80℃より上、好ましくは90~250℃の温度で実施する、項目10から15までのいずれか1つに記載の方法。
【0094】
17. 前記少なくとも1つの第1の反応ガスがハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物であり、且つ好ましくは、前記少なくとも1つの第2の反応ガスがH2S、S8、CS2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源である、項目10から16までのいずれか1つに記載の方法。
【0095】
18. 前記少なくとも1つの反応ガスがH2S、S8、CS2、メルカプタンまたはそれらの混合物から選択される硫黄源であり、且つ好ましくは、少なくとも1つの第2の反応ガスがハロゲン化水素、例えばHCl、HBr、HIまたはそれらの混合物である、項目10から17までのいずれか1つに記載の方法。
【0096】
19. 段階(ii)において、前記第1の反応ガスおよび前記第2の反応ガスを連続的または同時に供給する、項目10から18までのいずれか1つに記載の方法。
【0097】
20. 前記少なくとも1つの第1の反応ガスと前記少なくとも1つの第2の反応ガスとを、段階(ii)の前に接触させる、項目10から19までのいずれか1つに記載の方法。
【0098】
21. 前記少なくとも1つの第1の反応ガスおよび前記少なくとも1つの第2の反応ガスが実質的に水不含である、項目10から20までのいずれか1つに記載の方法。
【0099】
22. S含有反応ガス中のSの、X含有反応ガス中のXに対するモル比は、例えば10:1~1:1、好ましくは3:1~1.5:1、より好ましくは2.6:1~2.4:1である、項目10から21までのいずれか1つに記載の方法。
【0100】
23. 前記少なくとも1つの第1の反応ガスが、キャリアガスをさらに含む、項目10から22までのいずれか1つに記載の方法。
【0101】
24. 前記少なくとも1つの第2の反応ガスが、キャリアガスをさらに含む、項目10から23までのいずれか1つに記載の方法。
【0102】
25. 段階(ii)を、合計ガス流量0.1~1000m3/h、好ましくは5~500m3/h、より好ましくは10~50m3/h、さらにより好ましくは約20m3/hで実施する、項目10から24までのいずれか1つに記載の方法。
【0103】
26. 段階(ii)において得られる生成物に、少なくとも1つのドーピング剤、例えばドーパントとしてそれぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、O、Se、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物を含むドーピング剤を添加する段階をさらに含む、項目10から25までのいずれか1つに記載の方法。
【0104】
27. 前記少なくとも1つのドーピング剤が、特に塩の形態で提供される、アニオン性またはカチオン性のドーピング剤である、項目26に記載の方法。
【0105】
28. 固体電解質を製造するための、項目1から9までのいずれか1つに記載の固体電解質前駆体の使用。
【0106】
29. 前記固体電解質が以下の式(II):
Li(2c
+
d
-
n)Yn+ScXd (II)
[式中、
Xは第17族元素、好ましくはCl、BrおよびIから独立して選択され、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、
4≦n≦5、
4≦c≦6、且つ
0<d≦2である]
によって表される、項目28に記載の使用。
【0107】
30. 固体電解質の製造方法であって、
(a) 反応容器内に項目1から9までのいずれか1つに記載の固体電解質前駆体を準備する段階、
(b) Y含有成分を、段階(a)の固体電解質前駆体と接触させる段階、および
(c) 段階(b)において得られる生成物を任意に搬出する段階
を含み、段階(b)を高められた温度で実施し、ここでYはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、且つ前記Y含有成分は段階(b)における気相中に少なくとも部分的に存在する、前記方法。
【0108】
31. 段階(a)および/または段階(b)を乾燥空気または不活性ガス雰囲気、例えばN2、HeまたはAr雰囲気下で行う、項目30に記載の方法。
【0109】
32. 前記不活性ガスまたは乾燥空気が実質的に水不含である、項目31に記載の方法。
【0110】
33. 段階(b)を、285℃よりも高い温度、好ましくは288~900℃で実施する、項目30から32までのいずれか1つに記載の方法。
【0111】
34. 前記Y含有成分が、P2S5、As2S5、GeS2、SiS2、B2S3、SnS、Ga2S3、Al2S3、Sb2S5、またはそれらの混合物から選択される、項目30から33までのいずれか1つに記載の方法。
【0112】
35. 段階(b)において、Y含有成分中のYの、段階(a)において準備される固体電解質前駆体に対するモル比が0.2:1~2:1、好ましくは0.5:1~1:1である、項目30から34までのいずれか1つに記載の方法。
【0113】
36. 前記Y含有成分が実質的に水不含である、項目30から35までのいずれか1つに記載の方法。
【0114】
37. 前記Y含有成分がキャリアガスをさらに含む、項目30から36までのいずれか1つに記載の方法。
【0115】
38. 段階(b)を、合計ガス流量0.1~1000m3/h、好ましくは5~500m3/h、より好ましくは10~50m3/h、さらにより好ましくは約20m3/hで実施する、項目30から37までのいずれか1つに記載の方法。
【0116】
39. 段階(b)において得られる生成物に、少なくとも1つのドーピング剤、例えばカチオン性またはアニオン性のドーピング剤を添加する段階をさらに含む、項目30から38までのいずれか1つに記載の方法。
【0117】
40. 前記少なくとも1つのカチオン性ドーピング剤が、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、O、Se、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物を含み、且つ/または前記アニオン性ドーピング剤がO2-、S2-、Se2-またはTe2-を含む、項目39に記載の方法。
【0118】
41. 項目30から40までのいずれか1つに記載の方法によって得られる固体電解質。
【0119】
42. 以下の式(II):
Li(2c
+
d
-
n)Yn+ScXd (II)
[式中、
Xは第17族元素から独立して選択され、
YはP、As、Ge、Si、B、Sn、Ga、AlおよびSbから独立して選択され、
4≦n≦5、
4≦c≦6、且つ
0<d≦2である]
によって表され、2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2および/または53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない、固体電解質。
【0120】
43. 2θ角[°]: 17.5、18.0、32.5、34.9、44.8、46.7、50.2、および53.1での、CuKα線を使用する粉末X線回折における反射を実質的に有さない、項目42に記載の固体電解質。
【0121】
44. 2θ角[°]: 25.2、25.5、29.6、30.0、31.0および/または31.4での、CuKα線を使用する粉末X線回折における特徴的な反射を有する、項目42または43に記載の固体電解質。
【0122】
45. 少なくとも1つのドーパントをさらに含む、項目42から44までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0123】
46. 前記ドーパントが、それぞれの酸化状態でのMn、Ge、Sn、V、Ni、Cr、Si、Al、As、Se、O、Te、Mg、Na、Ca、Sb、B、Gaまたはそれらの混合物から選択される、項目45に記載の固体電解質。
【0124】
47. 前記ドーパントが、固体電解質の総質量に対して10質量%未満、好ましくは0.01~9.0質量%、より好ましくは0.10~5.0質量%の量で存在する、項目45または46に記載の固体電解質。
【0125】
48. 20℃でイオン伝導率0.01~500mS/cm、好ましくは1~100mS/cmを有する、項目42から47までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0126】
49. XがCl、BrおよびIから独立して選択される、項目42から48までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0127】
50. 0.8≦d≦1.2である、項目42から49までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0128】
51. 4.5≦c≦5.5である、項目42から50までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0129】
52. Yn+がP5+、As5+、Ge4+、Si4+、B3+、Sn4+、Ga3+、Al3+およびSb5+、から独立して選択される、項目42から51までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0130】
53. Yn+がP5+である、項目42から52までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0131】
54. Li6PS5Cl、Li6PS5BrおよびLi6PS5Iから選択される、項目42から53までのいずれか1つに記載の固体電解質。
【0132】
55. 項目42から53までのいずれか1つに記載の固体電解質を含む電気化学セル。
【0133】
56. 電気化学セルまたはキャパシタ、燃料電池、バッテリーまたはセンサにおける、項目42から53までのいずれか1つに記載の固体電解質の使用。
【国際調査報告】